[本願発明の実施形態の説明]
最初に、本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1) この発明に従った炭化珪素半導体装置は、主表面を有する基板と、基板の主表面上に形成され、主表面に対して傾斜した端面を含む炭化珪素層とを備える。炭化珪素層には、基板と対向する面と反対側に位置する主表面において、端面が側面を構成する溝が形成される。側面は、基板の主表面に対して第1の角度で傾斜する第1の端面と、第1の端面の上方端から炭化珪素層の上部表面に連なり、基板の主表面に対して第1の角度よりも小さい第2の角度で傾斜する第2の端面と、第1の端面の下方端から溝の底面に連なり、基板の主表面に対して第1の角度よりも小さい第3の角度で傾斜する第3の端面とを含む。第2の端面および第3の端面の少なくとも一方は、{000−1}面に対して50度以上80度以下傾斜している。
この構成によれば、溝(トレンチ)を有する炭化珪素半導体装置は、溝の角部が丸められた形状となっているため、溝の角部に熱歪みが発生するのを防止することができる。また、溝の側壁の端部には、所定の結晶面(以下「特殊面」とも称する)を有する端面が熱エッチングが用いられることで自己形成されるため、溝の形状の制御を安定して行なうことができる。これにより、信頼性の高い炭化珪素半導体装置を実現できる。
(2) 上記炭化珪素半導体装置において、好ましくは、第2の端面および第3の端面の少なくとも一方は、{0−33−8}面を含む。この構成によれば、溝の側壁の端部に特殊面を有する端面が熱エッチングが用いられることで自己形成されるため、溝の角部が丸められた形状を再現性良く製造することができる。これにより、信頼性の高い炭化珪素半導体装置を実現できる。
(3) 上記炭化珪素半導体装置において、好ましくは、第2の端面および第3の端面の少なくとも一方は、微視的に{0−33−8}面および{0−11−1}面を含み、かつ、{0−11−2}面からなる複合面を構成している。この構成によれば、溝の側壁の端部に特殊面を有する端面が熱エッチングが用いられることで自己形成されるため、溝の角部が丸められた形状を再現性良く製造することができる。
(4) 上記炭化珪素半導体装置は、好ましくは、端面上に形成された絶縁膜と、絶縁膜上に形成されたゲート電極とをさらに備える。この構成によれば、特殊面を有する端面が縦型MOSFETのチャネルとしての機能を有するため、高いチャネル移動度が得られる。
(5) 上記炭化珪素半導体装置において、好ましくは、炭化珪素層は、基板と対向する面と反対側に位置する主表面において、端面が側面を構成する複数のメサ構造を含む。炭化珪素半導体装置は、メサ構造の上部表面上に形成されたソース電極をさらに備える。この構成によれば、溝により囲まれた複数のメサ構造を有する縦型MOSFETにおいて、高い信頼性が得られる。
(6) 上記炭化珪素半導体装置において、好ましくは、炭化珪素層は、基板と対向する面と反対側に位置する主表面において、端面が側面を構成する複数の凹部を含む。炭化珪素半導体装置は、複数の凹部の間における炭化珪素層の主表面に形成されたソース電極をさらに備える。この構成によれば、溝により形成された複数の凹部を有する縦型MOSFETにおいて、高い信頼性が得られる。
(7) この発明に従った炭化珪素半導体装置は、主表面を有する基板と、基板の主表面上に形成され、主表面に対して傾斜した端面を含む炭化珪素層とを備える。炭化珪素層には、基板と対向する面と反対側に位置する主表面において、端面が側面を構成する溝が形成される。側面は、基板の主表面に対して第1の角度で傾斜する第1の端面と、第1の端面の上方端から炭化珪素層の上部表面に連なり、基板の主表面に対して第1の角度よりも小さい第2の角度で傾斜する第2の端面とを含む。第2の端面は、{000−1}面に対して50度以上80度以下傾斜している。
この構成によれば、溝を有する炭化珪素半導体装置は、溝の上端角部が丸められた形状となっているため、当該角部に熱歪みが発生するのを防止することができる。そして、特殊面を有する第2の端面は熱エッチングが用いられることで自己形成されるため、溝の形状の制御を安定して行なうことができる。これにより、炭化珪素半導体装置の信頼性を向上させることができる。
(8) この発明に従った炭化珪素半導体装置の製造方法は、主表面上に炭化珪素層が形成された基板を準備する工程と、炭化珪素層において、基板の主表面に対して傾斜した端面を形成する工程とを備える。端面を形成する工程は、炭化珪素層の主表面上に、開口パターンを有するマスク層を形成する工程と、マスク層をマスクとして用いて、マスク層の開口パターンにて露出する炭化珪素層を部分的に除去することにより、炭化珪素層の主表面に溝を形成する工程と、熱エッチングによって、溝の角部に位置する炭化珪素層を部分的に除去する工程とを含む。
この構成によれば、溝の角部を丸めるために熱エッチングが用いられることで、溝の側壁の端部に特殊面を有する端面が自己形成される。これにより溝の形状の制御を安定して行なうことができるため、信頼性の高いトレンチ型MOSFETを再現性良く製造することができる。
(9) 上記製造方法において、好ましくは、溝を形成する工程では、マスク層をマスクとして用いて、マスク層の開口パターンにて露出する炭化珪素層をドライエッチングによって部分的に除去する。溝の角部に位置する炭化珪素層を部分的に除去する工程では、マスク層をマスクとして、溝の角部に位置する炭化珪素層を熱エッチングによって部分的に除去する。この構成によれば、ドライエッチングによって基板に対してほぼ垂直に形成された溝の側壁の端部に、特殊面を有する端面が自己形成される。これにより溝の形状の制御を安定して行なうことができる。
(10) 上記製造方法において、好ましくは、溝を形成する工程では、マスク層をマスクとして用いて、マスク層の開口パターンにて露出する炭化珪素層をドライエッチングによって部分的に除去する。溝の角部に位置する炭化珪素層を部分的に除去する工程では、マスク層をマスクとして用いて、マスク層の開口パターンにて露出する炭化珪素層を熱エッチングによって部分的に除去し、その後マスク層を除去し、さらに溝の角部に位置する炭化珪素層を熱エッチングによって部分的に除去する。この構成によれば、ドライエッチングによって基板に対してほぼ垂直に形成された溝の側壁の端部には、2回の熱エッチングによって特殊面を有する端面が自己形成される。マスク層の有無によってマスク層の直下に位置する炭化珪素層のエッチング速度が異なってくる。それぞれの熱エッチング条件を調整することで、理想的な溝の形状を安定して得ることができる。
(11) 上記製造方法において、好ましくは、溝を形成する工程では、マスク層をマスクとして用いて、マスク層の開口パターンにて露出する炭化珪素層を熱エッチングによって部分的に除去する。溝の角部に位置する炭化珪素層を部分的に除去する工程では、マスク層を除去した後、溝の角部に位置する炭化珪素層を熱エッチングによって部分的に除去する。この構成によれば、最初の熱エッチングによって基板の主表面に対して傾斜した側壁を有する溝が形成され、次の熱エッチングによってこの溝の端部に、側壁よりさらに傾斜した端面が形成される。それぞれの熱エッチング条件を調整することで、理想的な溝の形状を安定して得ることができる。
(12) 上記製造方法において、好ましくは、溝の角部に位置する炭化珪素層を部分的に除去する工程では、溝の側壁の端部に位置する端面は{000−1}面に対して50度以上80度以下傾斜している。この構成によれば、溝の側壁の端部に特殊面を有する端面が自己形成される。この端面を半導体装置のチャネル領域として利用することにより、高い信頼性を有し、かつ高いチャネル移動度を示す炭化珪素半導体装置を実現できる。
(13) 上記製造方法において、好ましくは、溝の角部に位置する炭化珪素層を部分的に除去する工程では、熱エッチングは、ハロゲン原子を有する反応ガスを含む雰囲気中で炭化珪素層を加熱することにより行なう。この構成によれば、溝の側壁の端部に特殊面を有する端面が自己形成される。
(14) 上記製造方法において、好ましくは、溝の角部の位置する炭化珪素層を部分的に除去する工程では、熱エッチングは、熱処理温度を700℃以上1000℃以下として行なう。この構成によれば、溝の側壁の端部に特殊面を有する端面が自己形成される。
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰返さない。本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。
(炭化珪素半導体装置の構成)
図1および図2を参照して、この発明の実施の形態による炭化珪素半導体装置を説明する。
図1は、この発明の実施の形態による炭化珪素半導体装置の平面模式図である。図2は、図1の線分II−IIにおける断面模式図である。図1および図2を参照して、本実施の形態による炭化珪素半導体装置は、複数のメサ構造と、当該メサ構造の間に形成された側面が傾斜した溝とを利用した縦型のデバイスである縦型MOSFETである。
図1および図2に示した炭化珪素半導体装置は、炭化珪素からなる基板1と、炭化珪素からなり、導電型がn型であるエピタキシャル層であるn型ドリフト層2と、炭化珪素からなり、導電型がp型であるp型ボディ層3と、炭化珪素からなり、導電型がn型であるn型ソースコンタクト層4と、炭化珪素からなり、導電型がp型であるコンタクト領域5と、ゲート絶縁膜8と、ゲート電極9と、層間絶縁膜10と、ソース電極12と、ソース配線電極13と、ドレイン電極14と、裏面保護電極15とを備える。
図1に示すように、基板1の主表面上に、炭化珪素層を部分的に除去することで複数の(図1では5つ)メサ構造が形成されている。具体的には、メサ構造は上部表面および底面が六角形状となっており、その側壁は基板1の主表面に対して傾斜している。隣接するメサ構造の間には、当該メサ構造の側壁が傾斜側面となっている溝6が形成されている。
また、図2に示した半導体装置において、基板1は、結晶型が六方晶の炭化珪素からなる。n型ドリフト層2は、基板1の一方の主表面上に形成されている。n型ドリフト層2上にはp型ボディ層3が形成されている。p型ボディ層3上には、n型ソースコンタクト層4が形成されている。このn型ソースコンタクト層4に取り囲まれるように、p型のコンタクト領域5が形成されている。n型ソースコンタクト層4、p型ボディ層3およびn型ドリフト層2を部分的に除去することにより、溝6により囲まれたメサ構造が形成されている。溝6の側壁(メサ構造の側壁)は基板1の主表面に対して傾斜した端面になっている。傾斜した端面により囲まれた凸部(上部表面上にソース電極12が形成されたメサ構造である凸形状部)の平面形状は図1に示すように六角形状になっている。
この溝6の側壁および底面上にはゲート絶縁膜8が形成されている。このゲート絶縁膜8はn型ソースコンタクト層4の上部表面上にまで延在している。このゲート絶縁膜8上であって、溝6の内部を充填するように(つまり隣接するメサ構造の間の空間を充填するように)ゲート電極9が形成されている。ゲート電極9の上部表面は、ゲート絶縁膜8においてn型ソースコンタクト層4の上部表面上に位置する部分の上面とほぼ同じ高さになっている。
ゲート絶縁膜8のうちn型ソースコンタクト層4の上部表面上にまで延在する部分とゲート電極9とを覆うように層間絶縁膜10が形成されている。層間絶縁膜10およびゲート絶縁膜8の一部を除去することにより、n型ソースコンタクト層4の一部とp型のコンタクト領域5とを露出するように開口部11が形成されている。この開口部11の内部を充填するとともに、p型のコンタクト領域5およびn型ソースコンタクト層4の一部と接触するようにソース電極12が形成されている。ソース電極12の上部表面と接触するとともに、層間絶縁膜10の上部表面上に延在するようにソース配線電極13が形成されている。また、基板1においてn型ドリフト層2が形成された主表面とは反対側の裏面には、ドレイン電極14が形成されている。このドレイン電極14はオーミック電極である。このドレイン電極14において、基板1と対向する面とは反対側の面上に裏面保護電極15が形成されている。
図2に示した半導体装置において、溝6の側壁(メサ構造の側壁)は、基板1の主表面に対して傾斜した端面になっている。図3は、図2の炭化珪素半導体装置における溝6の側壁を模式的に示す部分断面図である。図3を参照して、溝6の側壁は、基板1の主表面に対して角度θ1で傾斜する端面S1と、端面S1の上方端からn型ソースコンタクト層4の上部表面に連なり、基板1の主表面に対して上記角度θ1よりも小さい角度θ2で傾斜する端面S2と、端面S1の下方端から溝6の底面に連なり、基板1の主表面に対して上記角度θ1よりも小さい角度θ3で傾斜する端面S3とを含んでいる。すなわち、端面S2は端面S1の仮想延長線よりも基板1側に位置しており、端面S3は当該仮想延長線よりも溝6側に位置している。
これにより、溝6の側壁の上端はなだらかにn型ソースコンタクト層4の上部表面に繋がっている。また、溝6の側壁の下端はなだらかに溝6の底面に繋がっている。このように溝6の開口端の角部と溝6の底面の角部とをそれぞれ丸めることにより、溝の角部近傍に応力が残留するのを抑制できるため、熱歪みが発生するのを防止することができる。
ここで、溝6の側壁の端面S2および端面S3の少なくとも一方は所定の結晶面(特殊面とも称する)を有する。特殊面とは{000−1}面に対して50度以上80度以下傾斜している面である。端面S2および端面S3は、{0−33−8}面を含む。好ましくは、端面S2および端面S3は、面方位(0−33−8)を有する。
より好ましくは、端面S2および端面S3は、{0−33−8}面を微視的に含むとともに、{0−11−1}面を微視的に含む。ここで「微視的」とは、原子間隔の2倍程度の寸法を少なくとも考慮する程度に詳細に、ということを意味する。このような微視的な構造の観察方法としては、たとえばTEM(Transmission Electron Microscopy)により観察し得る。
好ましくは、端面S2および端面S3は、{0−11−2}面からなる複合面を構成している。すなわち複合面は、{0−33−88}面と{0−11−1}面とが周期的に繰り返されることによって構成されている。このような周期的構造は、たとえば、TEMまたはAFM(Automatic Force Microscopy)により観察し得る。この場合、複合面は{000−1}面に対して巨視的に62°のオフ角を有する。ここで「巨視的」とは、原子間隔程度の寸法を有する微細構造を無視することを意味する。このように巨視的なオフ角の測定としては、たとえば、一般的なX線回折を用いた方法を用い得る。好ましくは、チャネル面上においてキャリアが流れる方向であるチャネル方向は、上述した周期的繰り返しが行なわれる方向に沿っている。
後述するように、端面2および端面3は、炭化珪素の所定の結晶面(特殊面)を表出させる熱エッチング工程を行なうことによって形成することができる。すなわち、熱エッチング工程において、エッチング速度の最も遅い結晶面である{0−33−8}面が端面S2および端面S3として自己形成される。この結果、図3に示すような構造を得る。これによれば、{0−33−8}面を含む端面S2および端面S3を再現性良く形成することができる。これにより、アニールや熱酸化によってトレンチの角部を丸める従来の手法と比較して、トレンチの形状の制御を安定して行なうことができるため、炭化珪素半導体装置の信頼性が向上する。
なお、特殊面を有する端面S3を炭化珪素半導体装置のチャネル領域(能動領域)として利用することも可能となる。端面S3は安定な結晶面であって高いチャネル移動度が得られるため、この端面S3をチャネル領域に利用した場合、他の結晶面をチャネル領域に利用した場合より、高いチャネル移動度を示す高品質の半導体装置を実現できる。
(炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、図4から図13を参照して、図1および図2に示した本発明の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明する。
図4は、本発明の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示すフロー図である。まず、炭化珪素単結晶基板準備工程(図4のS10)が実施される。具体的には、単結晶炭化珪素からなるインゴットをスライスすることにより、導電型がn型の炭化珪素単結晶基板が準備される。
次に、炭化珪素エピタキシャル層形成工程(図4のS20)が実施される。具体的には、図5を参照して、単結晶炭化珪素からなる基板1の主表面上に、導電型がn型である炭化珪素のエピタキシャル層を形成する。当該エピタキシャル層はn型ドリフト層2となる。n型ドリフト層2を形成するためのエピタキシャル成長は、たとえば原料ガスとしてシラン(SiH4)およびプロパン(C3H8)の混合ガスを用い、キャリアガスとしてたとえば水素ガス(H2)を用いたCVD法により実施することができる。また、このとき導電型がn型の不純物としてたとえば窒素(N)やリン(P)を導入することが好ましい。このn型ドリフト層2のn型不純物の濃度は、たとえば5×1015cm−3以上5×1016cm−3以下とすることができる。
次に、イオン注入工程(図4のS30)が実施される。具体的には、図6を参照して、n型ドリフト層2の上部表面層にイオン注入を行なうことにより、p型ボディ層3およびn型ソースコンタクト層4を形成する。p型ボディ層3を形成するためのイオン注入においては、たとえばアルミニウム(Al)などの導電型がp型の不純物をイオン注入する。このとき、注入するイオンの加速エネルギーを調整することによりp型ボディ層3が形成される領域の深さを調整することができる。
次に、導電型がn型の不純物を、p型ボディ層3が形成されたn型ドリフト層2へイオン注入することにより、n型ソースコンタクト層4を形成する。n型の不純物としてはたとえばリンを用いることができる。
次に、溝形成工程(図4のS40)が実施される。具体的には、図7を参照して、n型ソースコンタクト層4の上部表面上にマスク層17を形成する。マスク層17としては、たとえば酸化珪素膜(SiO2膜)などの絶縁膜を用いることができる。マスク層17の形成方法としては、たとえば以下のような工程を用いることができる。すなわち、n型ソースコンタクト層4の上部表面上に、CVD法などを用いて酸化珪素膜を形成する。そして、この酸化珪素膜上にフォトリソグラフィ法を用いて所定の開口パターンを有するレジスト膜(図示せず)を形成する。このレジスト膜をマスクとして用いて、酸化珪素膜をエッチングにより除去する。その後レジスト膜を除去する。この結果、溝16が形成されるべき領域に開口パターンを有するマスク層17が形成される。
そして、このマスク層17をマスクとして用いて、マスク層17の開口パターンにて露出するn型ソースコンタクト層4およびp型ボディ層3をエッチングにより部分的に除去する。エッチングの方法としては、たとえば反応性イオンエッチング(RIE)、特に誘導結合プラズマ(ICP)RIEを用いることができる。具体的には、たとえば反応ガスとしてSF6またはSF6とO2との混合ガスを用いたICP−RIEを用いることができる。このようなエッチングにより、図2の溝6が形成されるべき領域に、側壁が基板1の主表面に対してほぼ垂直な溝16を形成することができる。
次に、p型ボディ層3およびn型ソースコンタクト層4において所定の結晶面(特殊面)を表出させる熱エッチング工程(図4のS50)が実施される。具体的には、図8を参照して、溝16(図7)の内面において熱エッチングを行なうことにより、溝6の角部に位置する炭化珪素層を部分的に除去する。
熱エッチングは、たとえば、少なくとも1種類以上のハロゲン原子を有する反応性ガスを含む雰囲気中で、基板1を加熱することによって行ない得る。少なくとも1種類以上のハロゲン原子は、塩素(Cl)原子およびフッ素(F)原子の少なくともいずれかを含む。この雰囲気は、たとえば、Cl2、BCL3、SF6またはCH4である。たとえば、塩素ガスと酸素ガスとの混合ガスを反応ガスとして用い、熱処理温度をたとえば700℃以上1000℃以下として、熱エッチングが行なわれる。なお、反応ガスはキャリアガスを含んでいてもよい。キャリアガスとしては、たとえば窒素(N2)ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどを用いることができる。そして、上述のように熱処理温度を700℃以上1000℃以下とした場合、炭化珪素のエッチング速度は、たとえば約70μm/時になる。この場合、酸化珪素から形成されたマスク層17は、炭化珪素に対する選択比が極めて大きいので、炭化珪素のエッチング中に実質的にエッチングされない。
熱エッチングにおいては、溝16(図7)の上端角部および下端角部から除去され始める。このため、図8に示すように、溝6の側壁の上端および下端に、エッチング速度が最も遅い結晶面である{0−33−8}面が最初に表出される。熱エッチングは、溝6の側壁の端部に{0−33−8}面が表出されるまで行なわれる。この側壁の下端に表出される傾斜面(好ましくは{0−33−8}面を有する)が図3に示す端面S3を形成する。また、溝6の側壁の上端に表出される傾斜面(好ましくは{0−33−8}面を有する)が図3に示す端面2を形成する。このようにして、図3に示すように基板1の主表面に対して傾斜した側面を有する溝6を形成することができる。
次に、マスク層17を、たとえばウェットエッチングにより除去する。ウェットエッチングは、たとえばフッ化水素酸を用いて行ない得る。その後、溝6の内部からn型ソースコンタクト層4の上部表面上にまで延在するように、所定のパターンを有するレジスト膜(図示せず)を、フォトリソグラフィ法を用いて形成する。レジスト膜としては、n型ソースコンタクト層4の上部表面の一部に開口パターンが形成されているものを用いる。そして、このレジスト膜をマスクとして用いて、導電型がソースコンタクト層4の一部領域に導電型がp型のコンタクト領域5を形成する。その後、レジスト膜を除去する。これにより、図9および図10に示すような構造を得る。図10から分かるように、溝6の平面形状は、単位胞(1つのメサ構造を取り囲む環状の溝6)の平面形状が六角形状である網目形状となっている。また、p型のコンタクト領域5は、図10に示すようにメサ構造の上部表面におけるほぼ中央部に配置されている。また、p型のコンタクト領域5の平面形状は、メサ構造の上部表面の外周形状と同じであって、六角形状となっている。
上述したイオン注入により注入された不純物を活性化するための活性化アニール処理を実施する。この活性化アニール処理においては、炭化珪素からなるエピタキシャル層の表面上(たとえばメサ構造の側壁上)に特にキャップを形成することなくアニール処理を実施する。これは、上述した{0−33−8}面については、キャップ層などの保護膜を表面に形成することなく活性化アニール処理を行なっても表面形状が劣化することがなく、十分な表面平滑性を維持できることに基づいている。なお、上述したキャップ層を形成したうえで活性化アニール処理を実施してもよい。また、たとえばn型ソースコンタクト層4およびp型のコンタクト領域5の上部表面上のみにキャップ層を設けた構成として、活性化アニール処理を実施してもよい。
次に、ゲート絶縁膜形成工程(図4のS60)が実施される。具体的には、図11を参照して、溝6の内部からn型ソースコンタクト層4およびp型のコンタクト領域5の上部表面上にまで延在するようにゲート絶縁膜8を形成する。ゲート絶縁膜8としては、たとえば炭化珪素からなるエピタキシャル層を熱酸化することにより得られる酸化膜(酸化珪素膜)を用いることができる。
次に、ゲート電極形成工程(図4のS70)が実施される。具体的には、図12を参照して、溝6の内部を充填するように、ゲート絶縁膜8上にゲート電極9を形成する。ゲート電極9の形成方法としては、たとえば以下のような方法を用いることができる。まず、ゲート絶縁膜8上において、溝6の内部およびp型のコンタクト領域5上の領域にまで延在するゲート電極となるべき導電体膜を、スパッタリング法などを用いて形成する。導電体膜の材料としては、導電性を有する材料であれば金属など任意の材料を用いることができる。その後、エッチバックあるいはCMP法など任意の方法を用いて、溝6の内部以外の領域に形成された導電体膜の部分を除去する。この結果、溝6の内部を充填するような導電体膜が残存し、当該導電体膜によりゲート電極9が構成される。
次に、ソース電極形成工程(図4のS80)が実施される。具体的には、図13を参照して、ゲート電極9の上部表面、およびp型のコンタクト領域5上において露出しているゲート絶縁膜8の上部表面上を覆うように層間絶縁膜10を形成する。層間絶縁膜としては、絶縁性を有する材料であれば任意の材料を用いることができる。そして、層間絶縁膜10上に、パターンを有するレジスト膜(図示せず)を、フォトリソグラフィ法を用いて形成する。当該レジスト膜にはp型のコンタクト領域5上に位置する領域に開口パターンが形成されている。
そして、このレジスト膜をマスクとして用いて、エッチングにより層間絶縁膜10およびゲート絶縁膜8を部分的にエッチングにより除去する。この結果、層間絶縁膜10およびゲート絶縁膜8には開口部11が形成される。この開口部11の底部においては、p型のコンタクト領域5およびn型ソースコンタクト層4の一部が露出した状態となる。その後、開口部11の内部を充填するとともに、上述したレジスト膜の上部表面上を覆うようにソース電極12となるべき導電体膜を形成する。その後、薬液などを用いてレジスト膜を除去することにより、レジスト膜上に形成されていた導電体膜の部分を同時に除去する(リフトオフ)。この結果、開口部11の内部に充填された導電体膜によりソース電極12を形成できる。このソース電極12は、p型のコンタクト領域5およびn型ソースコンタクト層4とオーミック接触したオーミック電極である。
また、基板1の裏面側(n型ドリフト層2が形成された主表面と反対側の主表面)に、ドレイン電極14を形成する。ドレイン電極14としては、基板1とオーミック接触が可能な材料であれば任意の材料を用いることができる。
その後、ソース電極12の上部表面に接触するとともに、層間絶縁膜10の上部表面上に延在するソース配線電極13、およびドレイン電極14の表面に形成された裏面保護電極15をそれぞれスパッタリング法などの任意の方法を用いて形成する。この結果、図1および図2に示す炭化珪素半導体装置を得ることができる。
なお、本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置は、図2および図3に示した構成以外に、図14および図15に示すように、特殊面を有する端面S3を炭化珪素半導体装置のチャネル領域として利用する構成をも含み得る。図14には、端面S3と端面S1の一部とをチャネル領域とする構成例が示されている。図15には、端面S3をチャネル領域とする構成例が示されている。これらによれば、溝の角部の熱歪みの発生を防止するとともに、高いチャネル移動度が得られる。
(熱エッチング工程)
以下、図16から図18を参照して、熱エッチングにより溝6の角部に位置する炭化珪素層を部分的に除去する工程(図4のS50)についてさらに詳細に説明する。
図16は、溝形成工程(図4のS40)によって炭化珪素層に形成された溝の角部の断面模式図である。図16において、L1はドライエッチングにより溝が形成された後の炭化珪素層の上部表面および溝の側壁を表わしている。炭化珪素層の上部表面と溝の側壁とをなす溝の角部はほぼ直角となっている。ゲート絶縁膜形成工程(図4のS60)によってこの炭化珪素層を熱酸化すると、溝の内部から炭化珪素層の上部表面上にまで延在するように酸化珪素膜が形成される。図16では、溝の側壁の表面からの深さがx以内の炭化珪素層、および炭化珪素層の上部表面からの深さがy以内の炭化珪素層が酸化されて酸化珪素膜に変化する。なお、酸化珪素膜全体の厚さは、図16に示した酸化珪素膜の厚さのほぼ2倍となる。
ここで、炭化珪素層の上部表面からの深さがyとなる位置において炭化珪素層の上部表面と平行な線L2を引くとともに、溝の側壁からの深さがxとなる位置において当該側壁と平行な線L3を引く。そして、平行線L2と上述したL1とが交差する点を点Qとし、平行線L3とL1とが交差する点を点Pとする。さらにこの点Pと点Qとを結ぶように仮想線L4を引く。
本実施の形態では、仮想線L4よりも炭化珪素層側に酸化珪素膜の表面が形成されるように、ゲート絶縁膜形成工程(図4のS60)の前に熱エッチング工程(図4のS50)を行なって炭化珪素層を部分的に除去する。図17は、溝に対して熱エッチングを行なった後の溝の角部の断面模式図である。図17において、L5は熱エッチングを行なった後の炭化珪素層の上部表面および溝の側壁を表わしている。溝の角部が除去されることによって溝の側壁と炭化珪素層の上部表面との間に端面が形成される。図17では、この端面が仮想線L4上にのっているが、端面は仮想線L4よりも炭化珪素層側にあればよい。
本実施の形態では、熱エッチングによって、このような端面を自己形成することができる。上述したように、この端面は{0−33−8}面を含む。あるいは、図18に示すように、端面は複数の結晶面からなる複合面により構成されている。端面は好ましくは{0−11−2}面からなる複合面を有する。
図19は、平面形状が六角形のメサ構造を模式的に示す部分斜視図である。図20は、平面形状が四角形のメサ構造を模式的に示す部分斜視図である。図19および図20は、図17に示した熱エッチングが施された後のメサ構造の一部分を模式的に示したものである。図19および図20において、L1は溝形成工程(図4のS40)によって形成されるメサ構造の外郭を表わしている。L5は熱エッチング工程(図4のS50)を行なった後のメサ構造の外郭を表わしている。メサ構造の側面と側面とがなす角部および上部表面と側面とがなす角部が除去され、側面と側面とを繋ぐ端面および上部表面と側面とを繋ぐ端面がそれぞれ形成されている。
(熱エッチング工程の変形例)
本発明における熱エッチング工程は、上記の実施形態に限定されるものではなく、たとえば以下のような変形例も含まれる。
図21は、熱エッチング工程(図4のS50)の変形例を説明するための図である。
図21では、溝形成工程(図4のS40)において、マスク層17をマスクとして用いて、n型ソースコンタクト層4およびp型ボディ層3の一部をドライエッチングにより除去することにより溝16を形成する(図21(a)参照)。熱エッチング工程(図4のS50)では、溝16の内面に対して熱エッチングを2回に分けて行なう(図21(b),(c)参照)。
具体的には、図21(b)を参照して、最初に、マスク層17をマスクとして用いて、溝16の内面において熱エッチングを行なう。熱エッチングでは溝16の側壁の上端角部および下端角部から除去され始めるため、溝16の側壁の上端および下端に特殊面が表出し始める。
次に、図21(c)を参照して、マスク層17をたとえばウェットエッチングにより除去した後、再び熱エッチングを行なう。これにより、溝16の角部に位置する炭化珪素層がさらにエッチングされる。ドライエッチングによって基板1に対してほぼ垂直に形成された溝16の側壁の上端および下端には、2回の熱エッチングによって特殊面を有する端面が自己形成される。マスク層17の有無によってマスク層の直下に位置する炭化珪素層(n型ソースコンタクト層4)のエッチング速度が異なってくる。それぞれの熱エッチング条件を調整することで、理想的な溝の形状を安定して得ることができる。
また、熱エッチング工程の別の変形例としては、溝形成工程(図4のS40)において、マスク層17をマスクとして用いて、n型ソースコンタクト層4およびp型ボディ層3の一部を熱エッチングによって除去し、その後、熱エッチング工程(図4のS50)において、マスク層17を除去した後、再び熱エッチングを行なう構成としてもよい。この構成では、溝形成工程(図4のS40)によって基板1の主表面に対して傾斜した側壁を有する溝16が形成される。そして、熱エッチング工程(図4のS50)によって、この溝16の側壁の上端角部および下端角部からエッチングされ始めることにより、溝16の上端および下端に特殊面が表出される。それぞれの熱エッチング条件を調整することで、理想的な溝の形状を安定して得ることができる。
(本発明に係る炭化珪素半導体装置の変形例)
上述の実施の形態では、複数のメサ構造を有する縦型MOSFETの構成について説明したが、本発明に係る炭化珪素半導体装置は、図21に示すような、複数の凹部(溝6に相当)を有する縦型MOSFETにも適用することが可能である。複数の凹部は、炭化珪素基板の主表面側に開口し、側壁と底面とを有する。図2は、図22の線分II―IIにおける断面模式図にあたる。凹部(溝6)の側壁にはp型ボディ層3およびn型ソースコンタクト層4が露出している。本変形例においても、溝形成工程(図4のS40)および熱エッチング工程(図4のS50)を行なうことによって、凹部(溝6)の側壁は、図3に示したような、基板1の主表面に対して傾斜した端面になっている。
また、上述の実施の形態では、炭化珪素基板の主表面上に、平面形状が六角形のメサ構造(または凹部)を複数形成する構成について説明したが、メサ構造(または凹部)は他の任意の形状としてもよい。たとえば、本発明に係る炭化珪素半導体装置およびその製造方法は、非特許文献1に記載される、平面形状が四角形のメサ構造からなる単位セルを複数形成する構成にも適用することも可能である。
以下、本発明に係る炭化珪素半導体装置の変形例として、図23から図27を参照して、複数の四角形の単位セルから構成される縦型MOSFETを説明する。
図23は、本発明に係る炭化珪素半導体装置の変形例である縦型MOSFETの単位セルの配置形態を示す平面模式図である。図24は、図23の線分XXIV−XXIVにおける断面模式図である。
図23を参照して、変形例に係る縦型MOSFET41は、千鳥状に配置された四角形の単位セル42を複数備える。各単位セル42は、コンタクトトレンチ43によって区画されている。なお、複数の単位セル42の配置形態は行列状であってもよい。各単位セル42には、平面形状が四角形のゲートトレンチ44が1つずつ形成されている。
図24を参照して、縦型MOSFET41は、n+型の炭化珪素からなる基板105を備える。基板105は、MOSFET41のドレインとして機能する。基板105の上部表面には、基板105よりも低濃度のn−型の炭化珪素エピタキシャル層108が積層されている。炭化珪素エピタキシャル層108には、その上部表面から基板105へ向かって掘り下がった、側面および底面を有するゲートトレンチ44が形成されている。
ゲートトレンチ44の周囲には、n+型のソース領域113およびp−型のチャネル領域114が、炭化珪素エピタキシャル層108の上部表面に近い側からこの順に形成されている。
ソース領域113は、炭化珪素エピタキシャル層108の表面に露出するとともに、ゲートトレンチ44の103の側面の上部を形成するように、各単位セル42の表層部に形成されている。
チャネル領域114は、ソース領域113に対して基板105側にソース領域113に接するように、かつ、ゲートトレンチ44の側面の下部を形成するように形成されている。炭化珪素エピタキシャル層108における、チャネル領域114に対して基板105側の領域は、エピタキシャル成長後のままの状態が維持された、n−型のドレイン領域115となっている。ドレイン領域115は、ゲートトレンチ44の底面を形成している。
ゲートトレンチ44の内面には、その全域を覆うようにゲート絶縁膜116が形成されている。n型不純物が高濃度にドーピングされたポリシリコンをゲート絶縁膜116の内側に埋め込むことにより、ゲートトレンチ44内にゲート電極117が埋設される。このようにして、ソース領域113とドレイン領域115とが炭化珪素エピタキシャル層108の表面に垂直な方向にチャネル領域114を介して離間して配置された、縦型MOSFETが形成される。
各単位セル42には、炭化珪素エピタキシャル層108の表面からソース領域113を貫通し、最深部がチャネル領域114に達するコンタクトトレンチ43が形成されている。コンタクトトレンチ43の側面にはソース領域113が露出し、コンタクトトレンチ43の底面にはチャネル領域114が露出している。
コンタクトトレンチ43の底面に露出したチャネル領域114には、p+型のチャネルコンタクト領域120が形成されている。炭化珪素エピタキシャル層108上には層間絶縁膜121が形成される。層間絶縁膜121には、コンタクトトレンチ43を露出させるコンタクトホール122が形成されている。
なお、図示は省略するが、層間絶縁膜121上には、ソース電極が形成されている。ソース電極は、各コンタクトトレンチ43を介して、全ての単位セル42に一括に接している。すなわち、ソース電極は、全ての単位セル42に対して共通の配線となっている。基板105の裏面には、その全域を覆うようにドレイン電極が形成されている。ドレイン電極は、全ての単位セル42に対して共通の配線となっている。
次に、図24に示した縦型MOSFET41における、コンタクトトレンチ443およびゲートトレンチ44の形成工程を説明する。この工程は、上述した本発明の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法における、溝形成工程(図4のS40)に相当するものである。
ゲートトレンチ44およびコンタクトトレンチ43を形成する工程では、炭化珪素エピタキシャル層108の表面にたとえばCVD法により、マスク層を形成する。マスク層としては、たとえば酸化珪素膜などの絶縁膜を用いることができる。そして、このマスク層をマスクとして用いて、炭化珪素エピタキシャル層108の一部をエッチングにより除去する。エッチングの方法としては、たとえばRIEを用いることができる。ドライエッチングにより、ゲートトレンチ44およびコンタクトトレンチ43が形成されるべき領域に、側壁が基板105の主表面に対してほぼ垂直な溝を形成することができる。なお、ゲートトレンチ44およびコンタクトトレンチ43を、1回のドライエッチングで同時に形成するようにしてもよいし、別々のドライエッチングで形成するようにしてもよい。たとえば、ゲートトレンチ44をドライエッチングにより形成する工程を実施した後、ゲート絶縁膜116、ゲート電極117および層間絶縁膜121を形成し、その後、層間絶縁膜121をマスク層として用いて、露出した炭化珪素エピタキシャル層108をエッチングするようにしてもよい。
図25は、図24に示した単位セル42における、コンタクトトレンチ43およびゲートトレンチ44の平面模式図および断面模式図である。図25を参照して、RIEを用いてエッチングを行なうことにより、ゲートトレンチ44およびコンタクトトレンチ43の各々は、基板105の主表面に対してほぼ垂直な側壁を有している。
次に、炭化珪素エピタキシャル層108において、熱エッチング工程(図4のS50)が実施される。具体的には、ゲートトレンチ44およびコンタクトトレンチ43の内面において熱エッチングを行なうことにより、各トレンチの角部に位置する炭化珪素エピタキシャル層108を部分的に除去する。この熱エッチングは、上述したように、たとえば、少なくとも1種類以上のハロゲン原子を有する反応性ガスを含む雰囲気中で、基板105を加熱することによって行ない得る。なお、反応ガスはキャリアガスを含んでいてもよい。
図26は、熱エッチング工程が実施された後の、単位セル42におけるゲートトレンチ44およびコンタクトトレンチ43の平面模式図および断面模式図である。図26において、各トレンチの側壁の一部は、炭化珪素の{1−100}面に対する回転角が0°となっている。また、同図では、平面模式図の線分abにおける断面模式図、線分cdにおける断面模式図および線分efにおける断面模式図を示している。
各トレンチの形成の際、炭化珪素エピタキシャル層108は、マスク層の開口部からサイドエッチングされるようにエッチングされる。またこの熱エッチングの際、各トレンチの側壁の上端には特殊面が自己形成される。
具体的には、線分abにおける断面模式図を参照して、ゲートトレンチ44およびコンタクトトレンチ43において、面方位{1−100}を有する側壁は{1−100}面が表出する。さらに当該側壁の上端角部が部分的に除去されることにより、当該側壁の上端には{0−33−8}面を含む端面が形成される。
線分cdにおける断面模式図においても同様に、各トレンチの側壁に{1−100}面が表出するとともに、当該側壁の上端に{0−33−8}面を含む端面が形成される。
一方、線分efにおける断面模式図では、側壁は面方位{1−100}を有しないため、熱エッチングによって側壁に{1−100}面が表出せず、その上端にも{0−33−8}面を有する端面が形成されない。この場合、側壁の上端には熱エッチングの条件に応じて、{0−33−8}面とは異なる任意の結晶面が表出する。
このように、ゲートトレンチ44およびコンタクトトレンチ43は、トレンチの側壁と炭化珪素の面方位との関係に応じて、側壁の一部に{1−100}面が表出する。さらに側壁の上端角部に位置する炭化珪素層が除去されて、{0−33−8}面を含む端面が部分的に形成される。なお、本変形例では、側壁の上端に{0−33−8}面を含む端面が形成される構成について説明したが、熱エッチングの条件を調整することで、上述した六角形のメサ構造を形成する場合と同様に、側壁の下端にも{0−33−8}面を含む端面を形成することが可能である。この側壁の下端の端面をチャネル領域114として利用できるため、高いチャネル移動度を実現できる。
さらに、ゲートトレンチ44およびコンタクトトレンチ43において、炭化珪素の{1−100}面に対する側壁の回転角を0°から変更した場合、図26に示すように、結晶面が表出する側壁が異なってくる。
図27に、炭化珪素の{1−100}面に対する側壁の回転角が0°であるときのゲートトレンチ44およびコンタクトトレンチ43の平面模式図(図27(1)参照)、側壁の回転角が15°であるときの平面模式図(図27(2)参照)、および側壁の回転角が30°であるときの平面模式図(図27(3)参照)を示す。
図27(1)の平面模式図は、図25に示した平面模式図と同じものである。すなわち、ゲートトレンチ44において、側壁の一部に{1−100}面が表出し、かつ、側壁の上端角部の炭化珪素層が除去されて一部に{0−33−8}面を含む端面が形成される。コンタクトトレンチ43においても同様に、側壁の一部に{1−100}面が表出するとともに、側壁の上端に{0−33−8}面を含む端面が形成される。
これに対して、図27(2)を参照して、{1−100}面に対する側壁の回転角を0°から15°に変化させた場合には、各トレンチは面方位{1−100}を有する側壁を有しないため、熱エッチングによって{1−100}面が表出しない。ただし、側壁の上端には部分的に{0−33−8}面を含む端面が形成される。
また、図27(3)を参照して、{1−100}面に対する側壁の回転角を0°から30°に変化させたときの平面模式図は、実質的に図26に示した平面模式図を90°回転させたものと等しくなる。すなわち、ゲートトレンチ44およびコンタクトトレンチ43の側壁の一部に{1−100}面が表出し、かつ、側壁の上端角部の炭化珪素層が除去されて一部に{0−33−8}面を含む端面が形成される。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。