しかしながら、特許文献1記載の発明のように柔らかい張地の縁の部分を縁端材の補強なしに張地の縁だけを張地取付用溝に押し込む構造は、張地に押し込む力がかけ難く、張地の縁を張地取付用溝に押し込む作業が難しい。このため、張地の縁を治具や工具を使って押し込む作業工程が必要となる。しかも、治具や工具を使って張地の縁を押し込んでも、コーナー部の形態によっては、椅子を使っているうちに張地が引っ張られて溝から引き出される問題がある。例えば、フレームのコーナ部分が鋭角ではなく、丸く湾曲している場合には、湾曲したコーナ部分に差し掛かる位置まで直線的な縁端材を縫い付け、湾曲したコーナ部分には縁端材を設けずに張地の縁のみを張地取付用溝に押し込むこととなるが、このコーナ部分の張地にはテンションが掛かり難く、張地に弛みがでて張り不足となると共に、張地の縁が単に押し込まれているだけなので抜け出してしまう虞がある。
そこで、フレームの丸く湾曲しているコーナ部分を含めて張地のほぼ全周縁(少なくともフレームの縦辺部分と上の横辺部分並びに下の横辺部分の両端部分)に沿って、直線状の1本の縁端材を強引に曲げながら張地の縁に沿って連続的に縫い付けることで、湾曲したコーナ部分にも縁端材を設けることも考えられるが、1本の縁端材を用いると、途中にアイマーク(合いマークとも呼ばれる)が付けられないので、どこまでどれくらい縫えば良いのかわからずに、張地を伸ばし過ぎたり、コードが足りなくなったりして品質にばらつきがでる可能性がある。また、縁端材を折り返して張地取付用溝に押し込む際に、コーナ部分で縁端材が撓まずに嵌め込み難いという問題がある。
金型を使ってフレーム形状に合わせた1本の環状の合成樹脂製縁材を予め成形する場合(特許文献2)には、上述の問題は解消するが、金型費が必要となるなど、コストが嵩む別の問題が生ずる。
他方、特許文献3に開示されているように、湾曲したコーナ部の入り口部分と出口部分とでコーナ部の前後の直線部分とは長さ方向に分割された樹脂製の係止プレートを使うことによって押し込み易くすることも考えられるが、係止プレートの幅方向に湾曲させる場合については、係止プレートを分割するだけでは張地の縁と係止プレートとを張地取付用溝に綺麗に押し込むことは難しい。即ち、小さく分割した係止プレートをその幅方向に強引に曲げて湾曲させることとなるので、係止プレートの反発が強く係止プレートの角張った端部が溝から飛び出て張地を膨らませ角を立てるため、見栄えの悪いものとなる。
尚、上述の問題は張地を固定するフレームの縦片と横片との境界部分となる湾曲したコーナ部に限られず、張地を嵌め込み難い箇所でも生ずるものである。
そこで、本発明は、一般に市販されているような直線的な樹脂コードなどを係止部材として用いても、湾曲したコーナ部などの係止部材と共に張地の縁を折り返して嵌め込み難い箇所へ綺麗に押し込み可能な張地の係止構造を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するために請求項1記載の発明は、張地の縁部に細長い板状の係止部材を取り付けると共に当該係止部材と一緒に前記縁部を折り返してフレームに形成された張地取付用溝に嵌め込んで前記張地を係止する構造において、前記係止部材は機械的物性の異なる複数の係止部材を組み合わせて用い、張地のテンションが掛かりやすい箇所の縁には曲げ剛性の大きな係止部材を備え、前記係止部材が前記張地取付用溝に嵌め込み難い箇所の縁には前記張地のテンションが掛かりやすい箇所の係止部材よりも曲げ剛性の小さな係止部材を備えるようにしている。
また、本発明の張地の係止構造において、フレームは係止部材が嵌め込み難い箇所として湾曲したコーナ部分を有する背フレームであり、背フレームの周縁に外周方向を向く張地取付用溝を背もたれ面に沿って形成すると共に、張地の周縁に厚み寸法よりも幅寸法が長い係止部材を縫い付け、該係止部材と張地の周縁とを折り返して張地取付用の溝に係止部材の幅方向に押し込むことにより、張地をフレームの表面側に張り詰めて固定するようにしたものである。
また、本発明の張地の係止構造は、張地のテンションが掛かりやすい箇所と張地取付用溝に嵌め込み難い箇所との境界にアイマークを設け、アイマークで区切られる区間毎に1本の直線状の係止部材を縫い付けると共に、アイマークを隔てて隣る区間毎に機械的物性の異なる種類の係止部材が取り付けられるようにしている。
また、本発明の張地の係止構造は、嵌め込み難い箇所が同じフレーム上に複数離間して存在し、それら複数の嵌め込み難い箇所の間のテンションが掛かりやすい箇所が、他のテンションが掛かりやすい箇所に比べて比較的弱いテンションしかかからない場合には嵌め込み難い箇所に備えられる係止部材が連続して縫い付けられるようにしている。
ここで、機械的物性の異なる複数の係止部材は互いに幅を異ならせたものであり、テンションが掛かりやすい箇所には幅の広い係止部材を用い、係止部材が嵌め込み難い箇所へはテンションが掛かりやすい箇所の係止部材よりも幅の狭い係止部材を用いることが好ましい。
また、機械的物性の異なる複数の係止部材は互いに厚みを異ならせたものであり、テンションが掛かりやすい箇所には厚みの厚い係止部材を用い、係止部材が嵌め込み難い箇所へはテンションが掛かりやすい箇所の係止部材よりも厚みの薄い係止部材を用いるものであることが好ましい。
さらに、機械的物性の異なる複数の係止部材は互いに材質を異ならせたものであり、テンションが掛かりやすい箇所には曲げ弾性率の大きな材質の係止部材を用い、係止部材が嵌め込み難い箇所へはテンションが掛かりやすい箇所の係止部材よりも曲げ弾性率の小さな材質の係止部材を用いるものであることが好ましい。
請求項1記載の張地の係止構造では、テンションが掛かりやすい箇所に曲げ剛性の大きな係止部材を用い、係止部材が嵌め込み難い箇所へは曲げ剛性の小さな係止部材を用いるので、係止部材が嵌め込み難い箇所例えば湾曲したコーナ部ではその丸みに係止部材が馴染んで折り込まれると共にそれ以外の力のかかる場所では係止部材の変形が小さく溝から抜け難くなる。
したがって、本発明の張地の係止構造の場合、張地全体として十分な支持強度・フレームへの固定強度を確保しつつ、係止部材が嵌め込み難い箇所では係止部材の曲げ剛性が小さいため、係止部材が柔らかく馴染み易くなるので、その幅方向に曲げて押し込んでも、係止部材の反発が弱く係止部材の角張った端部が溝から飛び出ることがなく、見栄えの良いものとなる。
しかも、湾曲したコーナ部のような嵌め込み難い箇所においても係止部材の補強で張地の縁を張地取付用溝に押し込む構造となるので、張地に押し込む力をかけ易く、治具や工具を使わずに張地の縁を張地取付用溝に押し込むことができる。しかも、湾曲したコーナ部分であっても、張地にはテンションをかけることができ、張地に弛みがでて張り不足となることがないし、張地に力がかかっても張地の縁が簡単に抜け出してしまうことがない。
特に、テンションが掛かりやすい箇所に幅の広い係止部材を用い、比較的テンションが掛かり難く係止部材が嵌め込み難い箇所へはテンションが掛かりやすい箇所の係止部材よりも幅の狭い係止部材を用いる場合には、張地に強い力がかかっても係止部材幅が広いと溝内で回転し難く、張地が抜け難くなる。他方、係止部材幅が狭いと、柔く馴染み易くなるので、溝の形に沿って容易に変形し、 反発も起こり難いので、溝からの飛び出しを招かずに、綺麗に溝に押し込むことが可能となる。係止部材の厚みを変えたり、材質を変えたりする場合においても同様である。
さらに、機械的物性の異なる複数の係止部材を組み合わせて使用するので、係止部材を取り付ける箇所の境にアイマークを付けることができる。依って、どこまでどれくらい縫えば良いのか容易に判断できるので、張地を伸ばし過ぎたり、係止部材が足りなくなったりして品質にばらつきをだすことがなくなる。即ち、アイマークによって区切られた区間に機械的物性の異なる係止部材をそれぞれ縫い付けたりして備えることにより、品質を一定にできる。
また、一般に市販されている直線状の係止部材例えば樹脂コードなどを使用できるので、金型を使ってフレーム形状に合わせた1本の環状の縁材を予め成形する場合に比べて、コストを大幅に低減することができる。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1から図4に、本発明の張地の係止構造の実施形態の一例を示す。なお、本発明にかかる張地の係止構造は、身体支持面を構成する適度な弾力性と張力とを発揮し得る張地をフレームに取り付けるためのものであり、椅子の座や背等の身体支持構造物の全般に適用できるものであるが、本実施形態では特に椅子の背フレームへの張地の取り付けに適用した場合を例に挙げて説明するものとする。また、本明細書においては座に座った着座者を基準にして上下、前後(あるいは背フレームに関しては奥行き方向)、左右を定義する。そして、表面側とは、着座者と接する面、即ち背フレームの場合には前面を意味し、座フレームの場合には上面を意味するものである。
一般的な椅子は、図5に示すように、キャスターを有する脚1と、脚1の支柱の上端に取り付けられ支持されるメインフレーム(図示省略)と、このメインフレームに支持された座2及び背3とを具備してなる。
ここで、本発明にかかる張地の係止構造を適用した背3は、メインフレームに片持ち支持される背フレーム4と、該背フレーム4を覆うように張り渡される張地5とで構成され、厚み寸法よりも幅寸法が長く尚且つある程度の可撓性と剛性を備える係止部材6,7を張地5の縁部5eに取り付け、張地5の周縁部5eを係止部材6,7と共に折り返して、背フレーム4の外側部に背もたれ面・身体支持面に沿って形成された張地取付用の溝(以下、張地取付用溝10あるいは単に溝10と呼ぶ)に係止部材6,7の幅方向に押し込むことにより、張地5をフレームの表面側に張り詰めて固定し、背凭れ面・身体支持面を構成するように設けられている。尚、係止部材6,7は、張地5の縁部5eに取り付けられ、張力が付与されて張地5が背フレーム4に被せられた状態で外側面の張地取付用溝10に嵌め込まれたときに張地5の張力によって張地取付用溝10に引っかかって抜け止めとして機能することによって張地5を背フレーム4に固定させるものである。即ち、張地取付用溝10に係止部材6,7が嵌め込まれた状態では、張地5にかかる張力で引っ張られる係止部材6,7の先端が溝の壁に引っかかって抜け止め機能を発揮させる。このため、係止部材6,7は、張地取付用溝10に嵌め込まれた状態から抜け出ないように簡単には折り曲がらない程度の硬さを有する素材で形成される。したがって、係止部材6,7としては、ある程度の硬さがあって尚且つ曲がる可塑性を有する素材、例えば熱可塑性樹脂や、鉄、アルミニウム合金、銅などの展性を有する金属薄板などの使用が好ましく、なかでも一般に市販されており比較的安価に入手し易く使いやすい樹脂コードの使用が好ましい。本実施形態では、係止部材6,7としては、所定の硬さを有する合成樹脂、例えばポリプロピレンなどによって形成された樹脂製コード(以下、係止部材を単に樹脂コードと呼ぶ)を用いるようにしている。
本実施形態の背フレーム4は、図3及び図6に示すように、左右両側の縦辺部4aと上下に配置される横辺部4b,4cとで構成される概略矩形状の環状を成し、縦辺部4aと上下の横辺部4b,4cとを繋ぐコーナー部11が湾曲した丸みを帯びたカーブを成すように構成されている。そして、背フレーム4の外側面には、背フレーム4の周縁に外周方向を向く張地5の縁部5eを嵌め込み固定するための張地取付用溝10がほぼ全長に亘って、例えば背フレーム4の下部(下横辺部4bにさしかかる位置)に両端を有し、縦辺部4aと上横辺部4cとにかけて連続した1本の張地取付用溝10を構成するように設けられている。この張地取付用溝10は、椅子の座や背などの身体支持構造物としての支持剛性を主として担うものとして機能し、張地5に張力が付与された状態で樹脂コード6,7と共に張地5の縁5eが嵌め込まれる(図4参照)。張地取付用溝10は、背もたれ支持面に沿って、背フレーム4の裏面よりも表面に近い位置に形成されることでフレーム4の形状に沿って張地5を張設することができる。これによって、背フレームの前面側の曲線形状に沿って張地を張設することができ、前後左右に湾曲する三次元の背もたれ面が構築される。
尚、張地取付用溝10は、例えば切削によって背フレーム4そのものに彫り込んだり、金型成形時に一体成形したりすることが可能であるが、場合によっては互いに別々に成形された2つの部材を一定の隙間を空けて向かい合わせに連結することで形成するようにしても良い。例えば、背フレーム4の下横辺部4bにかかる位置では、型抜きの関係で、縦辺部4aと上横辺部4cとにかけて形成された張地取付用溝10と連続させて溝を形成することができないので、図3に示すように下横辺部4bの前面にカバープレート15を被せてビス止めすることによって、カバープレート15と下横辺部4bとの間に図示していないが張地取付用溝として機能する隙間が形成されている。そこで、張地取付用溝10の両端では、張地取付用溝10を区画する背フレームの前面側の縁(堤)部分を一部切り欠いて、下横辺部4b側のカバープレート15の裏面側に形成されている張地取付用溝として機能する隙間に樹脂コード6と張地縁部5eが案内されるように設けられている。これによって、張地5の下辺側の縁5eと樹脂コード6とは、背フレーム4の両側の張地取付用溝10からカバープレート15の裏面側の図示しない張地取付用溝にかけて連続的に嵌め込まれる。因みに、この背フレーム4の下端側のコーナー部14では、カバープレート15で覆われ尚且つ座2によって隠されるため、樹脂コード6を強引に曲げながらカバープレート15の裏面の張地取付用溝に押し込む際に、樹脂コード6の端が反発して縁部を膨らませ角を立てたとしても、外観に顕れないため、見栄えを悪くするものではない。
本発明にかかる張地の係止構造において、樹脂コードは機械的物性の異なる複数の樹脂コード6,7を組み合わせて用い、張地5にテンションがかかり易い箇所12,13に対応する縁部には曲げ剛性の大きな樹脂コード即ち張地5の縁の捲れ(溝10からの抜け出し)を防ぐに十分な樹脂コードの剛性を確保する樹脂コード6を備え、樹脂コード並びに張地の縁部が張地取付用溝10に嵌め込み難い箇所例えば本実施形態では背フレーム4のコーナ部11に対応する縁部にはテンションがかかり易い箇所12,13の樹脂コード6よりも曲げ剛性の小さな樹脂コード即ちコード幅方向に曲がり易く溝10に対して馴染み易い樹脂コード7を備えるようにしている。ここで、本明細書において「テンションがかかり易い箇所」とは、強いテンションがかかる箇所を中心にした領域を指し、テンションが比較的かからずに樹脂コードが嵌め込み難い箇所を含まないという程度の意味で、また、樹脂コード並びに張地の縁部が「溝に嵌め込み難い箇所」とは、比較的テンションがかからず樹脂コードが嵌め込み難い箇所を中心にした領域を指し、明らかに強いテンションがかかる箇所を含まないという程度の意味で使用されている。尚、本実施形態では2種類の樹脂コード6,7を用いた例を挙げているが、場合によっては3種類あるいはそれ以上の機械的物性の異なる樹脂コードを用いても良い。
具体的には、本実施形態においては、機械的物性の異なる2種類の樹脂コード6,7はコード幅を異ならせたものであり、図1及び図2に示すように、テンションが掛かりやすい箇所12,13には広いコード幅W1の樹脂コード6を用い、樹脂コードが嵌め込み難い箇所11へは樹脂コード6よりも狭い幅W2の樹脂コード7を用いるようにしている。より具体的には、ランバー部のようなテンションが大きくかかる箇所12には、テンションがかかった時の張地5の縁の捲れ(溝10からの抜け出し)を防ぐに十分な樹脂コードの剛性を確保するため厚み2mm、幅11mmのポリプロピレン製樹脂コード6を縫い付け、比較的テンションがかかり難くかつ溝に嵌め込み難い箇所例えば湾曲したコーナ部11ではコード幅方向に曲がり易い(溝10に対して馴染み易い)厚み2mm、幅9mmのポリプロピレン製樹脂コード7を縫い付けるようにししている。コード幅が極端に短くなると、張地5にテンションがかかったときに溝10内で縁部が捲れ上がって溝10の外に抜け外れる虞があるが、9mm程度のコード幅W2のポリプロピレン製樹脂コードであれば、溝形状に馴染むようなコード幅方向の可撓性と容易には捲れ上がらない程度の剛性とを両立できる。もっとも、ほぼ直角のコーナ部のような張地が嵌め込み難い箇所11では、殆どテンションもかからないので、溝10の形状に対して馴染み易い数mmのコード幅の樹脂コードを採用しても良い。この場合においても、樹脂コードの補強で張地に押し込む力をかけ易くして張地の縁を張地取付用溝10に治具や工具を使わずに押し込むことを可能にできる。尚、本実施形態では樹脂コード6,7は張地の周縁部5eに縫い付けるようにしているが、これに特に限られるものではなく、場合によっては接着や溶着などで取り付けるようにしても良い。また、本実施形態では、背フレーム4の両肩の湾曲したコーナー部11の間の上横辺部4cの一部には、テンションが掛かりやすい箇所13として比較的広いコード幅W1の樹脂コード6が張地5に縫い付けられているが、当該上横辺部4cはランバー部のようなテンションが大きくかかる箇所12に比べて比較的小さなテンションしかかからない張り構造とされることもあるので、その場合には両肩のコーナー部11から上横辺部4cの全域において張地取付用溝10へ嵌め込み易い狭い幅W2の樹脂コード7を連続的に縫い付けて用いるようにしても良い。つまり、張地の係止構造は、嵌め込み難い箇所11が同じフレーム上に離間して存在し、それら複数の嵌め込み難い箇所11の間の区間にテンションが大きく掛かるところよりも比較的弱いテンションしかかからない箇所が存在する場合には、嵌め込み難い箇所に備えられる樹脂コードがそのまま連続して縫い付けられるようにしても良い。勿論、張地にかかるテンションの強さの分布に合わせて機械的物性の異なる2種類の樹脂コード6,7あるいは3種類以上の樹脂コードを使い分けることが、より最適な張地の縁の外観形状と張地の固定強度を得ることができることは言うまでもない。
本発明において、樹脂コード6,7は特定の材質や形態に限られるものではないが、ある程度剛性を有しかつ可撓性を備える直線の樹脂コードを使用することが好ましい。このような樹脂コード6,7は、直線の樹脂コードとして汎用的に市販されており容易に入手可能であり、例えばサンアロマー株式会社のポリプロピレン樹脂コード(商品名:ポリプロピレン サンアロマー PB170)などを用いても実施可能である。
この樹脂コード6,7の好適な態様としては、張地5の厚みを含めて張地取付用溝10に挿入可能な厚みT1を有するとともに、張地取付用溝10の溝幅Wよりも大きな幅寸法(樹脂コード6,7の長手方向と直交する短手方向)W1,W2を少なくとも有したものを挙げることができる。換言すれば、張地取付用溝10の溝幅Wと溝深さとは、樹脂コード6,7の厚みT1並びにコード幅W1,W2との関係において定められ、折り返された縁部5eと樹脂コード6あるいは7を僅かな隙間の下で挿入可能とする溝幅Wと、樹脂コード6,7と共に折り返された張地5の縁5eを収容可能な十分な深さとを有するものとされる。この樹脂コード6,7によれば、図4に示すように、張地5の縁部5eを折り返して樹脂コード6,7を張地の縁部5eで包み込むようにした状態で張地取付用溝10の溝幅方向において内面との間に僅かに隙間が生じるため、樹脂コード6,7を張地取付用溝10に押し込んでいく作業を容易に行うことができる。
ここで、張地5に張力が付与されると樹脂コード6,7には張地取付用溝10内で回転しようとする力が発生する。しかしながら、樹脂コード6,7はその幅寸法W1,W2が張地取付用溝10の溝幅Wよりも大きく設定されているので、張地取付用溝10内である程度回転すると張地取付用溝10の溝面に当接してそれ以上回転することが抑止される。したがって、樹脂コード6,7が張地5の縁部5eで包み込まれた状態が維持され、尚且つ樹脂コード6,7が張地取付用溝10の外部に抜け出ることを防止することが可能となる。すなわち、張地取付用溝10及び樹脂コード6,7を比較的簡単な構造にしつつ、張地5が背フレーム4から外れない構造を実現することができる。また、張地取付用溝10から樹脂コード6,7が抜け難くするための抜け止め手段例えば凹凸や爪、突起などを溝側及び/または樹脂コード6,7側に備えれば、張地の係止強度を確保する上でより好ましい。
この樹脂コード6,7は、張地5の裏側となる面と表側となる面のいずれに縫い付けても背フレーム4の張地取付用溝10への固定機能には変わりないが、好ましくは張地5の裏側となる面の縁に沿って縫い付けることである。この場合には、樹脂コード6,7と共に張地の縁を1回折り返すだけで背フレーム4の張地取付用溝10に嵌め込んだときに、樹脂コード6,7が張地の縁に包み込まれた状態で張地取付用溝10に収まる。これにより、張り詰められる張地の縁しか露出しないので、外観がすっきりしたものとなる。勿論、必要あれば張地の表面側に樹脂コード6,7を縫い付けても良い。この場合、1回折り返しただけでは張地取付用溝10の中で樹脂コード6,7が露出することとなるが、2回折り返せば張地の縁で包み込まれて隠れることとなる。
また、張地5の周縁5eのテンションが掛かりやすい箇所12,13と係止部材が嵌め込み難い箇所換言すれば比較的テンションが掛かりにくい箇所11との境界にはアイマーク8が設けられている。具体的には、本実施例では、張地5のテンションが掛かりやすい箇所と比較的テンションが掛かりにくい箇所との境界にアイマーク8を設け、アイマーク8で区切られる区間毎に1本の直線状の樹脂コード6あるいは7を縫い付けると共に、アイマーク8を隔てて隣る区間毎に機械的物性の異なる種類の樹脂コードが取り付けられるようにしている。アイマーク8は張地側にある三角の切り欠きで、樹脂コード6,7の縫い始め箇所と、縫い終わり箇所とを規定することから、それを目安に該当区間に対応する樹脂コード6あるいは7の縫い付けを行えば、縫製時の張地5の伸び縮みを起こさせずに、樹脂コード6,7の縫い付け位置を一定させることができる。そこで、このアイマーク8を目印にテンションが掛かりやすい箇所12,13の区間には広い幅W1の樹脂コード6を縫合糸9で縫い付け、湾曲したコーナ部のような嵌め込み難い箇所11の区間には狭い幅W2の樹脂コード7を縫合糸9で縫い付けるようにしている。この場合、アイマーク8を目印に、どこまでどれくらい縫えば良いのか明瞭に判断可能となる上に、全周に1本の樹脂コードを縫い付ける場合に比べて比較的短い区間を縫えば良いことから、張地5を伸ばし過ぎたり、樹脂コードが足りなくなったりするなどの品質のばらつきがでることが殆ど無くなる。ここで、樹脂コード6,7同士は、アイマーク8の部分で隙間なく当接するように縫い付けても良いし、張地5が張地取付用溝10から外れない程度に例えば1〜5mm程度の隙間を空けて縫い付けるようにしても良い。尚、アイマーク8は三角の切り欠きに限られるものではなく、他の形状の切り欠きでも良いし、丸や多角形の孔や、場合によっては着色などによる表示例えば単なる線模様などの目印でも良い。
尚、張地5は、特定の形状に限定されるものではなく、本実施形態では、背フレーム4よりもやや広めの幅、やや長めの高さを有する、4隅が円弧状とされたほぼ矩形に形成されている。この張地5の材質は、背フレーム4の間に張り渡された状態で背3あるいは座2として適度な弾力性と張力とを発揮し得る材質(言い換えると、伸縮自在の素材)であれば特定のものに限定されるものではなく、例えばポリエステル製メッシュシート,各種の樹脂フィルム,布地,不織布などが用いられる。
以上のように構成された張地係止構造によれば、張地5に設けられた樹脂コード6,7を背フレーム4に設けられた張地取付用溝10に押し込んでいくという簡易な張設作業により、張地5に所望の張力を与えながらフレーム4に係止させて固定することができる。つまり、図4に示すように、この張地5の各縁部5eを樹脂コード6,7とともに背フレーム4の外面側に設けられた張地取付用溝10に反転させて挿入するという簡易な張設作業により、当該張地5に所望の張力を与えて張地5を背フレーム4に固定することができる。特に、従前の張地の係止構造においては張地の嵌め込みが困難であった箇所、例えば、背3の湾曲したコーナ部11に対して張り渡す際には、張地の縁部5eとともに折り返した樹脂コード7を強引に背フレーム4の張地取付用溝10に馴染ませながら押し込めば、コーナ部11の張地取付用溝10の形状に沿って樹脂コード7が変形しながら張地5の縁部5eともども嵌合させられる。そして、張地取付用溝10に押し込まれた樹脂コード7は、曲げ剛性が小さく張地取付用溝10にフィットして反発しないため、樹脂コードの端を溝10の外に飛び出させて張地5を角を立てて膨らませることがない。しかして、張地5は環状を成す背フレーム4に一定の張力が付与しながら固定される。
尚、背フレーム4の下横辺部4bにおける張地5の固定は、背フレーム4がメインフレームに固定されている箇所の付近では、樹脂コード6が一部備えられておらず、張地5だけを背フレーム4とカバープレート15との間で構成される隙間・張地取付用溝に押し込むように設けられている。しかしながら、この付近では、背3の背支点の下の領域であるため、強い張力がかからない上に座2の後縁部に隠れるため、仮に樹脂コード6の端が反発して張地を持ち上げたとしても、外観上も張地の固定力の点においても何ら支障がない。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、本発明の張地の係止構造を椅子の背フレーム4への張地5の取り付けに適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明が適用され得る椅子は本実施形態のような事務椅子に限られるものではなく、例えばソファなどの長椅子におけるフレームと張地との固定にも適用可能であり、背もたれ面や座面を構成する適度な弾力性と張力とを発揮し得る張地をフレームに取り付ける構造の椅子の類全般に対して適用可能である。
また、上述の実施形態では、本発明の張地の係止構造を背フレームそのものに張地取付用溝10を設けて張地5を固定する構造に適用した場合を例に挙げて説明したが、これに特に限られるものではなく、特開2007−130341号に記載の椅子のようにフレームとは別の部材に張地取付用溝10を設けて張地5を固定する構造としても良く、張地取付用溝10に張地の縁を該縁に縫い付けられた樹脂コードともども折り返すように嵌め込むことにより張地を固定する構造であれば特定のフレーム構造に限られるものではない。
また、本実施形態では、張地の係止構造を、椅子の背に適用した例を挙げて説明したが、本発明が適用され得る部材や箇所はこれに限られるものではなく、その他の身体支持構造物例えば座や、肘掛け、ヘッドレスト、ランバーサポート等に適用しても良い。
また、本実施形態では、背フレーム4の上横辺部4cの両端のコーナー部11の間の領域に、11mmのコード幅W1の樹脂コード6を取り付けて、張地5に加わるテンションを強い力で受け支えるように設けているが、これに特に限られず、上述の両端のコーナー部11の間のテンションが掛かりやすい箇所が、ランバー部のようなテンションが大きくかかる箇所12に比べれば比較的弱いテンションしかかからない場合はコーナー部11を含む上横辺部4cの全域を9mm幅の樹脂コード7で係止させるようにしても良い。即ち、図1の実施形態では、背フレーム4のコーナー部11の付近に嵌合される曲げ剛性の小さな樹脂コード7と、それ以外の箇所に嵌合される曲げ剛性の大きな樹脂コード6との5ピースの組み合わせで構成されているが、これに特に限られず両端のコーナー部11を含む上横辺部全域に嵌合される9mm幅の樹脂コード7と、左右のフレーム縦辺部4aのランバーサポート部を中心として背フレーム4の下横辺部4bに至る箇所に嵌合される曲げ剛性の大きな樹脂コード6との3ピースの組み合わせとすることも可能である。要は、張地5のテンションがかかり易い箇所の縁に取り付けられる曲げ剛性の大きな樹脂コード6と、嵌め込み難い箇所の縁に取り付けられる曲げ剛性の小さな樹脂コード7とを組み合せて用いれば、本発明としての効果を発揮し得る。
また、本実施形態では、コード幅の広さの異なる樹脂コード6,7を用いることで樹脂コードの機械的物性値を変更する例を挙げて主に説明したが、これに限られるものではなく、例えば同じ幅、同じ素材の樹脂コード6,7でも、厚みを変えることで曲げ剛性を異ならせ、一方を溝10から抜け難く、他方を溝10に沿って変形し易く溝形状に馴染むものとすることも可能である。さらには、樹脂コード6,7の材質そのものを異ならせて曲げ弾性率を異ならせることで、テンションがかかる箇所の樹脂コード6を比較的曲げ強度が大きく硬いものとして抜け難くすると共に嵌め込み難い箇所の樹脂コード7を比較的曲げ強度が小さいものとして背フレーム4の溝10の形状に沿って変形し易く馴染みやすいものとすることも可能である。また、図示していないが、場合によっては、樹脂コード6の幅方向に切り欠きあるいは切り込みを入れて部分的にコード幅を狭くすることによって、幅方向に撓み易くした樹脂コードとして用いることも可能である。さらには、コード幅を異ならせること、厚みを変えること、材質そのものを異ならせること、幅方向に切り欠きあるいは切り込みを入れて部分的にコード幅を異ならせることなどを適宜組み合わせることであるいは全てを実施することで機械的物性値を変更することも可能である。