JP6181392B2 - Cu−Ni−Si系銅合金 - Google Patents

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本発明は、例えばコネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の導電性ばね材に好適なCu-Ni-Si系銅合金に関する。
従来から、端子やコネクタの材料として、固溶強化型合金である黄銅やりん青銅が用いられてきた。ところで、電子機器の軽量化及び小型化に伴い、端子やコネクタは薄肉化、小型化し、これらに使用される材料には高強度及び高曲げ性が望まれている。さらに、自動車のエンジンルーム付近等の高温環境で使用されるコネクタでは、応力緩和現象によりコネクタ接圧が低下するため、耐応力緩和性の良好な材料が求められる。このようなことから、析出強化によって高強度、高導電性を有するCu-Ni-Si系銅合金(コルソン銅合金)が開発されている(特許文献1)。
国際公開第WO 2011/068134号(段落0004、0051、表2)
ところで、コネクタに使用される材料には、バネ性によって小さい変位で大きな荷重(接圧)を発生させるため、高い曲げたわみ係数が望まれている。一方、特許文献1記載のCu-Ni-Si系銅合金は、コネクタの製造コストを低減するため、あえてヤング率(曲げたわみ係数に相当)を110GPa以下に低減しており、曲げたわみ係数の向上を図ることができない。又、特許文献1には比較例2−2として曲げたわみ係数(ヤング率)が130GPaを超える例が記載されているものの(特許文献1の表2)、これは強度(0.2%耐力)が低い。この理由は、溶体化処理以降の冷間圧延の総加工度が50%以下と低いためと考えられる(特許文献1の段落0051)。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、強度,導電率及び曲げたわみ係数に共に優れるCu-Ni-Si系銅合金の提供を目的とする。
本発明者は、製造条件を検討し、曲げたわみ係数を向上させる方位である(122)面と(133)面の集積度を高くすることで、強度,導電率及び曲げたわみ係数を共に高めることに成功した。
上記の目的を達成するために、本発明のCu-Ni-Si系銅合金は、質量%で、Ni: 1.2〜4.5%、Si:0.25〜1.0%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、EBSD法で測定される、圧延直角方向に向く(122)面の面積率と、(133)面の面積率との合計が15%以上、圧延直角方向の曲げたわみ係数が125GPa以上、圧延直角方向の降伏強度YSが次式、YS≧ -22×(Ni質量%)2+215×(Ni質量%)+422を満たし、圧延直角方向の導電率が30%IACS以上である。
結晶粒径が10〜100μmであることが好ましい。
更にMg、Mn、Sn、Zn、Co及びCrの群から選ばれる少なくとも1種以上を総量で0.005〜2.5質量%含有するか、又は更にP、B、Ti、Zr、Al、Fe及びAgの群から選ばれる少なくとも1種以上を総量で0.005〜1.0質量%含有することが好ましい。
本発明によれば、強度,導電率及び曲げたわみ係数に共に優れるCu-Ni-Si系銅合金が得られる。
EBSDの測定方向を示す図である。 曲げたわみ係数に対する、それぞれ(111)面の面積率、(122)面及び (133)面の面積率の合計値との相関を示す図である。
以下、本発明の実施形態に係るCu-Ni-Si系銅合金について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
(組成)
[Ni及びSi]
銅合金中のNi濃度を1.2〜4.5%とし、Si濃度を0.25〜1.0%とする。Ni及びSiは、適当な熱処理を施すことにより金属間化合物を形成し,導電率を劣化させずに強度を向上させる。
Ni及びSiの含有量が上記範囲未満であると、強度の向上効果が得られず、上記範囲を超えると導電性が低下すると共に熱間加工性が低下する。
[他の添加元素]
合金中に、更にMg、Mn、Sn、Zn、Co及びCrの群から選ばれる少なくとも1種以上を総量で0.005〜2.5質量%含有してもよい。
Mgは強度と耐応力緩和特性を向上させる。Mnは強度と熱間加工性を向上させる。Snは強度を向上させる。Znは半田接合部の耐熱性を向上させる。Co及びCrは、Niと同様にSiと化合物を形成するため、析出硬化により導電率を劣化させずに強度を向上させる。
又、合金中に、更にP、B、Ti、Zr、Al、Fe及びAgの群から選ばれる少なくとも1種以上を総量で0.005〜1.0質量%含有してもよい。これら元素を含有すると、導電率、強度、応力緩和特性、めっき性等の製品特性が改善される。
なお、上記した各元素の総量が上記範囲未満であると上記した効果が得られず、上記範囲を超えると導電率の低下を招く場合がある。
[(122)面及び (133)面の面積率]
EBSD法で測定され、圧延直角方向と(122)面の法線とのなす角度が10度以下の方位を持つ結晶粒からなる(122)面の面積率と、圧延直角方向と(133)面の法線とのなす角度が10度以下の方位を持つ結晶粒からなる(133)面の面積率との合計が15%以上である。
ここで、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction:電子後方散乱回折)とは、SEM内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折(菊池パターン)を利用し、結晶方位を解析する技術である。
(122)面の面積率と、(133)面の面積率との合計が15%以上とすることで、(122)面と(133)面の集積度が高くなり、曲げたわみ係数が向上する。
なお、本発明においては、図1に示すように、試料の圧延直角方向に垂直な面に電子線を照射し、上述の反射電子を得てEBSD測定を行う。又、圧延直角方向と(122)面の法線とのなす角の角度が10度以下の方位を持つ結晶粒を (122)面とする。同様に、圧延直角方向と(133)面の法線とのなす角の角度が10度以下の方位を持つ結晶粒を (133)面とする。
[曲げたわみ係数、強度及び導電率]
圧延直角方向の曲げたわみ係数が125GPa以上、圧延直角方向の降伏強度YSが次式、YS≧ -22×(Ni質量%)2+215×(Ni質量%)+422を満たし、圧延直角方向の導電率が30%IACS以上である。
曲げたわみ係数は日本伸銅協会技術標準(JCBAT312:2002)に準拠して測定し、降伏強度YSはJIS-Z2241に準拠して測定し、導電率(%IACS)をJIS−H0505に準拠して4端子法により測定する。なお、曲げたわみ係数に類似する指標としてヤング率があるが、ヤング率は引張試験で得られた値を使うのに対し、曲げたわみ係数は片持ち梁に弾性限界を超えない範囲で荷重を掛け、そのたわみ量から算出する値である。従って、曲げたわみ係数は、コネクタ用ばね接触部の接圧をより反映していると考えられるので、本発明では曲げたわみ係数を用いている。
[結晶粒径]
合金の結晶粒径を10〜100μmとすると好ましい。結晶粒径が10μm未満の場合、(122)面と(133)面の集積度が高くならないため、曲げたわみ係数が向上しないことがある。結晶粒径が100μmを超えると、粒径の粗大化により強度が低下する場合がある。
なお、結晶粒径は、JIS-H0501の切断法に準じ測定する。
本発明のCu-Ni-Si系銅合金は、通常、インゴットを熱間圧延及び面削後、第1の冷間圧延、再結晶焼鈍、第2の冷間圧延、溶体化処理、第3の冷間圧延、時効処理、最終冷間圧延して製造することができる。最終冷間圧延の後に歪取り焼鈍をしてもよい。
再結晶焼鈍は650℃以上で行う。再結晶焼鈍温度が650℃未満であると(122)面と(133)面の集積度が高くならず、曲げたわみ係数が向上しない。再結晶焼鈍温度は高いほど良いが、800℃を超えても(122)面と(133)面の集積度が高くなる効果は飽和し、コストアップに繋がるため、800℃以下が好ましい。
第2の冷間圧延は50%を超える加工度で行う。加工度が50%未満であると(122)面と(133)面の集積度が高くならないため、曲げたわみ係数が向上しない。
溶体化処理を800〜1000℃で行う。溶体化処理温度が800℃未満であると、Ni及びSiが十分に固溶せずに強度が低下すると共に、結晶粒径が20μm未満となる。溶体化処理温度が1000℃を超えると、結晶粒径が100μmを超える。
第3の冷間圧延は行わないか(0%)、50%以下の加工度で行う。加工度が50%を超えると曲げたわみ係数と強度の向上効果が飽和する。
時効処理は400〜550℃で行う。
最終冷間圧延は30〜80%の加工度で行う。加工度が30%未満であると強度が低下し、加工度が80%を超えると曲げたわみ係数と強度の向上効果が飽和する。
溶体化処理以降の冷間圧延(第3の冷間圧延と最終冷間圧延)の総加工度を50%を超えて行う。総加工度が50%以下の場合、(122)面と(133)面の集積度は高くならず曲げたわみ係数が向上しないと共に、強度も向上しない。
なお、再結晶焼鈍は曲げたわみ係数を向上させる効果があり、第3の冷間圧延と最終冷間圧延の総加工度を50%を超える強加工とすることで、強度と曲げたわみ係数を共に向上させる。
大気溶解炉中にて電気銅を溶解し、表1に示す添加元素を所定量投入し、溶湯を攪拌した。その後、鋳込み温度1100℃にて鋳型に出湯し、表1に示す組成の銅合金インゴットを得た。インゴットを、熱間圧延、面削後、第1の冷間圧延、再結晶焼鈍、第2の冷間圧延、溶体化処理、第3の冷間圧延、時効処理、最終冷間圧延の順に行い、板厚0.2mmの試料を得た。最終冷間圧延の後に歪取り焼鈍(400℃×30秒)を行った。
なお、熱間圧延は1000℃で3時間行い、時効処理は400℃〜550℃で1〜15時間時間行った。再結晶焼鈍、第2の冷間圧延、溶体化処理、並びに溶体化処理以降の冷間圧延(第3の冷間圧延と最終冷間圧延)の条件を表1に示す。
<評価>
得られた試料について以下の項目を評価した。
[平均結晶粒径]
溶体化処理後の試料について、圧延方向に平行とした観察面を機械研磨、エッチング後、金属組織を現出させ、倍率100倍の光学顕微鏡で5視野の画像についてJISH0501に規定される切断法にて結晶粒径を求め、平均値を算出した。
[EBSDによる結晶方位粒の面積率]
図1に示すように、試料の圧延直角方向に垂直な面に電子線を照射し、反射電子を得てEBSD測定を行った。EBSD測定では、0.1mm2の試料面積に対し、2μmのステップでスキャンし、方位を解析した。又、圧延直角方向と(122)面の法線とのなす角の角度が10度以下の方位を持つ結晶粒を (122)面とし、同様に、圧延直角方向と(133)面の法線とのなす角の角度が10度以下の方位を持つ結晶粒を (133)面とし、それぞれの面の面積を求めた。 (122)面、(133)面の面積をそれぞれ全測定面積で除し、各面の面積率とした。
また、 (111)面の面積率についても、圧延直角方向と(111)面の法線とのなす角の角度が10度以下の方位を持つ結晶粒を (111)面とし、同様にその面積率を求めた。
[曲げたわみ係数及び降伏強度]
各試料について、圧延直角方向に引張試験を行い、JISZ2241に準拠して降伏強度YSを求めた。曲げたわみ係数は日本伸銅協会技術標準(JCBAT312:2002)に準拠して測定した。
[導電率]
各試料について、JISH0505に準拠し、ダブルブリッジ装置を用いた四端子法により求めた体積抵抗率から導電率(%IACS)を算出した。
得られた結果を表1、表2に示す。表1の「0.5Zn」は、Znを0.5質量%含むことを意味する。
Figure 0006181392
Figure 0006181392
表1、表2から明らかなように、(122)面と(133)面の面積率の合計が15%以上である各実施例の場合、圧延直角方向の曲げたわみ係数が125GPa以上、圧延直角方向の降伏強度YSが次式、YS≧ -22×(Ni質量%)2+215×(Ni質量%)+422を満たし、圧延直角方向の導電率が30%IACS以上となった。
一方、Niが1.2%未満である比較例3、及びSiが0.25%未満である比較例1の場合、いずれも圧延直角方向の降伏強度YSが次式、YS≧ -22×(Ni質量%)2+215×(Ni質量%)+422を満たさず、降伏強度YSが低下した。
Siが1.0%を超えた比較例2の場合、導電率が30%IACS未満に劣化した。
Niが4.5%を超えた比較例4の場合、熱間圧延で割れが発生し、合金を製造できなかった。
Mg、Mn、Sn、Zn、Co及びCrを総量で2.5%を超えて含有した比較例5,6の場合、及びP、B、Ti、Zr、Al、Fe及びAgを総量で1.0%を超えて含有した比較例7の場合、いずれも導電率が30%IACS未満に劣化した。
再結晶焼鈍温度が650℃未満である比較例8の場合、及び第2の冷間圧延の加工度が50%未満である比較例9の場合、いずれも(122)面と(133)面の面積率の合計が15%未満に低下し、圧延直角方向の曲げたわみ係数が125GPa未満に劣化した。
溶体化処理温度が800℃未満である比較例10の場合、Ni及びSiが十分に固溶せずに圧延直角方向の降伏強度YSが次式、YS≧ -22×(Ni質量%)2+215×(Ni質量%)+422を満たさず、降伏強度YSが低下した。さらに、結晶粒径が10μm未満となり、(122)面と(133)面の面積率の合計が15%未満に低下し、圧延直角方向の曲げたわみ係数が125GPa未満に劣化した。
溶体化処理温度が1000℃を超えた比較例11の場合、圧延直角方向の降伏強度YSが次式、YS≧ -22×(Ni質量%)2+215×(Ni質量%)+422を満たさず、降伏強度YSが低下した。
溶体化処理以降の冷間圧延の総加工度が50%以下である比較例12,13の場合、(122)面と(133)面の面積率の合計が15%未満に低下し、圧延直角方向の曲げたわみ係数が125GPa未満に劣化した。さらに、圧延直角方向の降伏強度YSが次式、YS≧ -22×(Ni質量%)2+215×(Ni質量%)+422を満たさず、降伏強度YSが低下した。
再結晶焼鈍及び第2の冷間圧延を行わなかった比較例14の場合、(122)面と(133)面の面積率の合計が15%未満に低下し圧延直角方向の曲げたわみ係数が125GPa未満に劣化した。
図2に、曲げたわみ係数に対する、それぞれ(111)面の面積率(図2の白抜きの□)と、(122)面及び (133)面の面積率の合計値(図2の◆)との相関を示す。(111)面の面積率は曲げたわみ係数に対して相関が低いのに対し、(122)面及び (133)面の面積率の合計値は、曲げたわみ係数に対して高い相関を示し、曲げたわみ係数を評価する指標として優れることがわかる。

Claims (4)

  1. 質量%で、Ni: 1.2〜4.5%、Si:0.25〜1.0%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、
    EBSD法で測定され、圧延直角方向と(122)面の法線とのなす角度が10度以下の方位を持つ結晶粒からなる(122)面の面積率と、圧延直角方向と(133)面の法線とのなす角度が10度以下の方位を持つ結晶粒からなる(133)面の面積率との合計が15%以上、
    圧延直角方向の曲げたわみ係数が125GPa以上、
    圧延直角方向の降伏強度YSが次式、YS≧ -22×(Ni質量%)2+215×(Ni質量%)+422を満たし、
    圧延直角方向の導電率が30%IACS以上であるCu-Ni-Si系銅合金。
  2. 結晶粒径が10〜100μmである請求項1に記載のCu-Ni-Si系銅合金。
  3. 更にMg、Mn、Sn、Zn、Co及びCrの群から選ばれる少なくとも1種以上を総量で0.005〜2.5質量%含有する請求項1又は2に記載のCu-Ni-Si系銅合金。
  4. 更にP、B、Ti、Zr、Al、Fe及びAgの群から選ばれる少なくとも1種以上を総量で0.005〜1.0質量%含有する請求項1〜3のいずれかに記載のCu-Ni-Si系銅合金。
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