JP2017160513A - 銅合金板材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、板材から所定形状のサンプル(例えば端子材料)を採取する方向に依らず、バネ特性等の要求特性を安定して得ることができる銅合金板材等を提供する。
【解決手段】本発明の銅合金板材は、Niを3.5〜25mass%およびSnを0.1〜9.5mass%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、圧延集合組織を有する電気電子機器用銅合金板材であって、前記圧延集合組織は、EBSDによる集合組織解析から得られた、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲、β−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲であることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、銅合金板材およびその製造方法に関し、特に、電気・電子機器用部品や自動車用部品、例えば、コネクタ、リードフレーム、アクチュエータ、放熱部材、リレー、スイッチ、ソケットなどの部品に使用するのに適した銅合金板材及びその製造方法に関する。
電気・電子機器用部品や自動車用部品、例えば、コネクタ、リードフレーム、アクチュエータ、放熱部材、リレー、スイッチ、ソケットなどの部品に使用される銅合金板材に要求される特性としては、耐力(降伏応力)、引張強度、ヤング率(縦弾性係数)、曲げ加工性、耐疲労特性、耐応力緩和特性、導電率などが挙げられる。近年、電子機器用部品や自動車用部品は、小型化、軽量化、高密度実装化や、使用環境の高温化などに伴って、上記したような要求特性を向上させる必要性が高まっており、それらの中でも、特にヤング率をより一層高めた板材を開発することが求められている。
例えば、電子機器用コネクタの構成部品(例えば端子)に使用される銅合金板材は、板材の薄肉化や幅狭化によって、軽量化や材料使用量の低減が検討されている。このとき、端子の板バネ部の接圧を確保するために、端子の変位量を大きく取ろうとすると、部品の小型化との両立ができない。そこで、少ない変位量で高い接圧(大きな応力)を得るためには、ヤング率の高い材料が必要になる。
また、電子機器のバッテリー部分や、自動車用の大電流コネクタなどでは、導通部の断面積を大きくとる必要があるため、通常は0.5mm以上の板厚を有する厚肉材が用いられる。しかしながら、厚肉材は、成形加工を施して所定形状に曲げ変形させたとしても、その後にスプリングバックが発生しやすく、設計通りの形状が得られないという問題がある。そこで、曲げ変形させた後のスプリングバック量を低減するために、ヤング率の高い材料を用いることが好ましいとされる。特に、板材から、コネクタを構成する端子(コンタクト)を、打ち抜き加工等によって採取する方向は、通常は圧延方向に対して90°の板幅方向TDであるが、複雑な変形(曲げ加工)が加わるコネクタだと、90°以外の方向(例えば0°の方向など)にコンタクトを採取せざるをえない場合がある。このため、採取された端子には、圧延方向に対して90°の方向だけではなく、90°以外の方向にも応力が付与され、曲げ変形が加わることが想定されることから、採取された端子のヤング率は、圧延時の圧延方向に対して0°および90°のいずれの方向とも高く、かつ、それらのヤング率の差(ヤング率の異方性)が小さいことが好ましい。
ここで、ヤング率の異方性が高い場合、端子の設計において、板材から異なる方向に採取した種々のバネ材を、同じ変位量が必要となるバネとして使用した場合、接圧が、採取したバネ材ごとに異なって不均一となりやすい。複雑な曲げ加工とは、一つのコネクタに0°、90°などの方向に複数の曲げ加工が入り、またそのいずれもバネ特性を付与する設計である。また、曲げ加工部は、180°のU字加工や、板厚を薄く加工した成形なども含み、材料への高い負荷がかかる設計もある。本明細書では、これらを含めた包括的な概念として、複雑な曲げ加工と呼んでいる。
従来、電子機器用部品の材料としては、鉄系材の他、黄銅などの銅合金材が広く用いられている。銅合金材は、SnやZn等の固溶成分の添加による固溶強化と、圧延や線引きなどの冷間加工による加工硬化の組み合わせによって強度を向上させる方法を用いるのが一般的である。しかしながら、この方法だけで強化した銅合金材は、一般に導電率が低く、電気・電子機器用部品や自動車用部品の電気導体(例えば端子)としての使用には適さない。
例えば、特許文献1には、第2相粒子の析出を抑制することで、高強度で、良好な曲げ加工性を有し、電子部品用バネ材に適したNi−Sn系銅合金が記載されている。特許文献2には、時効前に75%を超える加工率で冷間圧延を施すことで、結晶粒の長径aと短径bの比a/b(アスペクト比)を17以上にすることで、粒界反応型析出を抑制し、時効によってスピノーダル分解を促進させて、強度を向上させた銅合金板材が記載されている。特許文献3には、結晶粒の微細化と(220)面のX線回折強度を高めることなどによって、高い強度と優れた曲げ加工性を同時に得ることができる銅合金が記載されている。
特開2009−242895号公報 特開2015−52160号公報 国際公開第2014/016934号
しかしながら、特許文献1に記載のNi−Sn系銅合金は、ヤング率および圧延集合組織の制御を行っていないため、少ない変位量で高い接圧を有するバネ材を得ることが難しいという問題がある。また、特許文献2に記載の銅合金板材は、10質量%超えのSnを含有するため、高い導電率(例えば8%IACS以上)が得られない場合や、粒界反応型析出相が生成してスピノーダル分解が不十分となって強度が劣る場合があった。さらに、特許文献3に記載の銅合金は、特定面からのX線回折による結晶方位の解析が、ある広がりを持った結晶方位の分布の中のごく一部の特定面に関するものであり、結晶方位の連続的な規定はなく、端子のバネ性に影響を及ぼすファクタであると考えられるヤング率の制御は行なわれていないという問題がある。
そこで、本発明の目的は、板材の圧延面内にある2軸直交方向(すなわち圧延方向と平行な方向RDと、板幅方向TD)の結晶配向を制御し、RDとTDのヤング率の双方を、ともに異方性を極力小さくしつつ高めることによって、板材から所定形状のサンプル(例えば端子材料)を採取する方向に依らず、バネ特性等の要求特性を安定して得ることができる銅合金板材、およびその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、電気・電子機器用部品や自動車用部品に適した銅合金について研究を行い、Cu−Ni−Sn系の銅合金板材において、圧延集合組織にて、α−fiberとβ−fiberの方位密度を適正に制御することで、RDとTDのヤング率の双方とも、従来の合金板材に比べて、差(異方性)を極力小さくしつつ、高いレベルにまで高めることができること、および、上記圧延集合組織の適正化を図った銅合金板材から材料(例えば端子材料)を採取する場合、採取する方向に依らず、所定のバネ特性を安定して得ることができ、その結果、RDおよびTDにバネを採取する複雑な形状を有するようなコネクタ(例えば端子)およびリードフレームの材料として使用に適していることを見出した。また、上記のような圧延集合組織を実現するための製造方法も見出した。そして、これらの知見に基づき鋭意検討の結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)Niを3.5〜25mass%およびSnを0.1〜9.5mass%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、圧延集合組織を有する電気電子機器用銅合金板材であって、前記圧延集合組織は、EBSDによる集合組織解析から得られた、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲、β−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲であることを特徴とする銅合金板材。
(2)Niを3.5〜25mass%およびSnを0.1〜9.5mass%含有し、さらにSi、Mn、P、Zn、Fe、Pb、MgおよびCrから選択される少なくとも1成分を含有し、前記少なくとも1成分のうち、Siを含有する場合のSi含有量が0.01〜1.0mass%であり、Si以外の残りの成分を含有する場合の前記残りの成分の含有量が、合計で0.05〜1.5mass%であり、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、圧延集合組織を有する電気電子機器用銅合金板材であって、前記圧延集合組織は、EBSDによる集合組織解析から得られた、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度の平均値が、3.0以上30.0以下の範囲、β−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値が、3.0以上30.0以下の範囲であることを特徴とする銅合金板材。
(3)圧延時における、圧延方向と平行な方向をRD、板幅方向をTDとし、前記RDのヤング率をERD、前記TDのヤング率をETDとするとき、前記ERDおよび前記ETDがいずれも120GPa以上であり、かつ前記ERDの前記ETDに対する比(ERD/ETD)が0.85以上であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の銅合金板材。
(4)上記(1)、(2)または(3)に記載の電気電子機器用銅合金板材の製造方法であって、前記合金組成を有する銅合金を鋳造して得られた被圧延材に対して均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、該均質化熱処理工程後に、前記被圧延材に対して熱間圧延を行う熱間圧延工程と、該熱間圧延工程後に冷却を行う冷却工程と、該冷却工程後に、前記被圧延材の両面の面削を行う面削工程と、該面削工程後に、合計加工率が75%以上の冷間圧延を行う第1冷間圧延工程と、該第1冷間圧延工程後に、昇温速度が0.1〜100.0℃/秒、到達温度が100〜350℃、保持時間が10秒〜5時間および冷却速度が0.1〜100.0℃/秒の条件で熱処理を施す中間焼鈍工程と、該中間焼鈍工程後に、到達温度が50〜250℃および保持時間が1分〜2時間の条件で熱処理を行なう低温焼鈍工程と、さらなる冷間圧延を行う第2冷間圧延工程と、その後、昇温速度が1〜150℃/秒、到達温度が600〜1000℃、保持時間が1〜120秒および冷却速度が10〜200℃/秒の条件で熱処理を行なう溶体化熱処理工程と、仕上げ圧延工程と、最終焼鈍工程と、酸洗および研磨を行なう表面酸化膜除去工程とを順次行なうことを特徴とする銅合金板材の製造方法。
本発明によれば、Niを3.5〜25mass%およびSnを0.1〜9.5mass%含有し、さらに必要に応じて、Si、Mn、P、Zn、Fe、Pb、MgおよびCrから選択される少なくとも1成分を含有し、前記少なくとも1成分のうち、Siを含有する場合のSi含有量が0.01〜1.0mass%であり、Si以外の残りの成分を含有する場合の前記残りの成分の含有量が、合計で0.05〜1.5mass%であり、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、圧延集合組織を有する電気電子機器用銅合金板材であって、前記圧延集合組織は、EBSDによる集合組織解析から得られた、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲、β−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲であることによって、板材から所定形状のサンプル(例えば端子材料)を採取する方向に依らず、バネ特性等の要求特性を安定して得ることができる銅合金板材を提供することが可能になった。特に、この銅合金板材は、電気・電子機器用部品や自動車用部品、例えば、コネクタ、リードフレーム、アクチュエータ、放熱部材、リレー、スイッチ、ソケットなどの部品に使用するのに適している。また、本発明に従う銅合金板材の製造方法によれば、上記銅合金板材を好適に製造することができる。
図1は、EBSDにより測定し、ODF(方位分布関数)解析から得られた、銅合金板材の代表的な結晶方位分布図であって、圧延面内の2軸直交方向である、圧延方向と平行な方向RDおよび板幅方向TDと、圧延面の法線方向NDの3方向のオイラー角で示し、すなわち、RD軸の方位回転をΦ、ND軸の方位回転をΦ、TD軸の方位回転をΦとして示す。 図2は、純銅型β−fiberの圧延集合組織の結晶方位分布図であって、ODFのTD軸の方位回転Φを5°間隔で分割して示した図である。 図3は、合金型α−fiberの圧延集合組織の結晶方位分布図であって、ODFのTD軸の方位回転Φを5°間隔で分割して示した図である。 図4は、本発明に従う銅合金板材(実施例1)および比較例1の銅合金板材の圧延集合組織のODF解析によって得られた、α−fiberにおける、Φと方位密度との関係を示す図である。 図5は、本発明に従う銅合金板材(実施例1)および比較例1の銅合金板材の圧延集合組織のODF解析によって得られた、β−fiberにおける、Φと方位密度との関係を示す図である。
以下、本発明の銅合金板材の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
本発明に従う銅合金板材は、Niを3.5〜25mass%およびSnを0.1〜9.5mass%含有し、さらに必要に応じて、Si、Mn、P、Zn、Fe、Pb、MgおよびCrから選択される少なくとも1成分を含有し、前記少なくとも1成分のうち、Siを含有する場合のSi含有量が0.01〜1.0mass%であり、Si以外の残りの成分を含有する場合の前記残りの成分の含有量が、合計で0.05〜1.5mass%であり、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、圧延集合組織を有する電気電子機器用銅合金板材であって、前記圧延集合組織は、EBSDによる集合組織解析から得られた、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲、β−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲である。
ここで、「銅合金材料」とは、(加工前であって所定の合金組成を有する)銅合金素材が所定の形状(例えば、板、条、箔、棒、線など)に加工されたものを意味する。また、「板材」とは、特定の厚みを有し形状的に安定しており面方向に広がりをもつものを指し、広義には条材を含む意味である。本発明において、板材の厚さは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.05〜1.0mm、さらに好ましくは0.1〜0.8mmである。なお、本発明の銅合金板材は、その特性を圧延板の所定の方向における原子面の集積率で規定するものであるが、これは銅合金板材としてそのような特性を有していればよいのであって、銅合金板材の形状は板材や条材に限定されるものではない。なお、本発明では管材も板材に含まれる形状であると解釈して取り扱うことができるものとする。
[成分組成]
本発明の銅合金板材の成分組成とその作用について示す。
(必須添加成分)
本発明の銅合金板材は、Niを3.5〜25mass%およびSnを0.1〜9.5mass%含有している。NiおよびSnの含有量を上記の範囲内とすることにより、NiおよびSnの母相への固溶と析出の状態、および圧延加工による加工組織の形成により、圧延集合組織が変化し、α−fiberとβ−fiberが混合した集合組織が得られ、高いヤング率が得られる。また、NiとSnの含有量を上記範囲内にするとともに、中間焼鈍、低温焼鈍、溶体化熱処理および最終焼鈍(時効熱処理)の熱処理条件および冷間圧延条件を適正に制御することによって、時効後に強固なスピノーダル変調構造を発達させ、強度、伸びおよび導電率のいずれの特性とも高いレベルでバランスよく満足させることができる。Niを3.5〜25.0mass%およびSnを0.1〜9.5mass%含有し、好ましくはNiを3.7〜22.0mass%およびSnを0.2〜9.0mass%を含有する。NiおよびSnのうち、少なくとも1成分の含有量が上記範囲よりも多すぎると、導電率が低くなり、少なすぎると上記の効果が十分に得られないからである。
(任意添加成分)
本発明の銅合金板材は、NiおよびSnの必須の添加成分に加えて、さらに、任意添加元素として、Si、Mn、P、Zn、Fe、Pb、MgおよびCrから選択される少なくとも1成分を含有し、前記少なくとも1成分のうち、Siを含有する場合のSi含有量が0.01〜1.0mass%、好ましくは0.01〜0.95mass%であり、Si以外の残りの成分を含有する場合の前記残りの成分の含有量が、合計で0.05〜1.5mass%、好ましくは0.1〜1.0mass%である。Siを上記範囲内で含有させることによって、NiとSiの化合物を析出させて、銅合金板材の強度と耐応力緩和特性を向上させることができる。また、Si以外の残りの成分から選択される少なくとも1成分を合計含有量にして上記範囲内で含有させることにより、導電率を低下させることなく、RDとTDのヤング率の双方を、ともに異方性を極力小さくしつつ、より一層高めることができる。
[圧延集合組織]
本発明の銅合金板材は、圧延集合組織を有し、この圧延集合組織は、EBSDによる集合組織解析から得られた、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下、好ましくは3.0以上30.0以下であり、β−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下、好ましくは3.0以上30.0以下である。ここで、「方位密度」とは、結晶粒方位分布関数(ODF:crystal orientation distribution function)とも表され、集合組織の結晶方位の存在比率および分散状態を定量的に解析する際に用いる。方位密度は、EBSDおよびX線回折測定結果により、(100)正極点図、(110)正極点図、(111)正極点図などの3種類以上の正極点図の測定データを基にして、級数展開法による結晶方位分布解析法により算出される。
本発明者らは、銅合金板材のRDおよびTDの双方のヤング率を高めるために、圧延集合組織との関係について鋭意検討した。その結果、合金組成を上記範囲に限定した上で、α−fiber(φ1=0°〜45°の範囲)の方位密度の平均値と、β−fiber(φ2=45°〜90°の範囲)の方位密度の平均値とを、それぞれ適正範囲に制御することで、RDとTDの双方のヤング率が高まることを見出した。すなわち、EBSDによる集合組織解析から得られた、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下、β−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下であるとき、RDとTDの双方のヤング率が、ともに高められるとともに、それらのヤング率の差(異方性)も小さくなるため、本発明では、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度とβ−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度を、それぞれ上記範囲に限定した。また、Si、Mn、P、Zn、Fe、Pb、MgおよびCrから選択される少なくとも1成分を添加する場合には、合金中の変形集合組織における積層欠陥エネルギーが低くなり、α−fiber、β−fiberの適正な範囲の下限値がいずれも3.0に変化する。よって、かかる任意添加成分を添加する場合には、α−fiberおよびβ−fiberの方位密度の平均値の適正範囲の下限値を、ともに3.0とした。また、β−fiberとα-fiberの平均値の上限が30.0よりも高い値になると、結晶方位の集積が顕著になってヤング率が大幅に高くなるとともに、ヤング率の異方性を示す、ERD/ETDが0.85を下回ることから、α−fiberおよびβ−fiberの方位密度の平均値の適正な範囲の上限値はいずれも30.0とした。
図1は、EBSDにより測定し、ODF(方位分布関数)解析から得られた、銅合金板材の代表的な結晶方位分布図であって、圧延面内の2軸直交方向である、圧延方向と平行な方向RDおよび板幅方向TDと、圧延面の法線方向NDの3方向のオイラー角で示し、すなわち、RD軸の方位回転をΦ、ND軸の方位回転をΦ、TD軸の方位回転をΦとして示す。ここで、α−fiberはφ1 =0°〜45°の範囲に集積し、β−fiberはφ2の45°〜90°の範囲に集積している。図2と図3は、ODFのTD軸の方位回転Φを5°間隔で分割した図で、図2は純銅型β−fiber、図3は合金型α−fiberの圧延集合組織を示している。
[EBSD法]
本発明における上記圧延集合組織の解析にはEBSD法を用いた。EBSD法とは、Electron BackScatter Diffractionの略で、走査電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことである。本発明におけるEBSD測定では、結晶粒を200個以上含む、800μm×1600μmの試料面積に対し、0.1μmステップでスキャンし、測定した。前記測定面積およびスキャンステップは、試料の結晶粒の大きさに応じて決定すればよい。測定後の結晶粒の解析には、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いた。EBSDによる結晶粒の解析において得られる情報は、電子線が試料に侵入する数10nmの深さまでの情報を含んでいる。また、板厚方向の測定箇所は、試料表面から板厚tの1/8倍〜1/2倍の位置付近とすることが好ましい。
本明細書における結晶方位の表示方法は、Z軸に垂直な(圧延面(XY面)に平行な)結晶面の指数(h k l)と、X軸に垂直な(YZ面に平行な)結晶方向の指数[u v w]とを用いて、(h k l)[u v w]の形で表す。また、(1 3 2)[6 −4 3]や(2 3 1)[3 −4 6]などのように、銅合金の立方晶の対称性のもとで等価な方位については、ファミリー(総称)を表すカッコ記号を使用し、{h k l}<u v w>と表す。代表的な結晶方位として、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、Copper方位{112}<111>、Goss方位{110}<001>、RDW方位{012}<100>、BR方位{236}<385>などが挙げられる。ここで、α−fiberはφ1=0°〜45°の範囲であり、Goss方位〜Brass方位、β−fiberはφ2=45°〜90°の範囲であり、Brass方位〜S方位〜Copper方位でそれぞれ連続的に変化するファイバー集合組織として存在している。α−fiberは、合金型の集合組織、β−fiberは、純銅型の集合組織であり、これら2種類の集合組織群は、通常単独で発達するが、本発明の銅合金板材の合金成分は、純銅型と合金型の混合組織であり、これは、添加元素であるNiおよびSn含有量を適正範囲内に制御することで得られる組織である。α−fiberとβ−fiberがともに規定の範囲内で存在することによって、RDとTDのヤング率が高く、さらにRDとTDのヤング率の差(異方性)が小さくなる。
[RDおよびTDのヤング率]
本発明の銅合金板材は、圧延時における、圧延方向と平行な方向をRD、板幅方向をTDとし、前記RDのヤング率をERD、前記TDのヤング率をETDとするとき、前記ERDおよび前記ETDがいずれも120GPa以上であり、かつ前記ERDの前記ETDに対する比(ERD/ETD)が0.85以上であることが好ましい。RDのヤング率ERDおよびTDのヤング率ETDが少なくとも1方が120GPa未満であるか、あるいは、前記ERDの前記ETDに対する比ERD/ETDが0.85未満であると、銅合金板材から所定形状のサンプル(例えば端子材料)を採取する方向によっては、バネ特性等の要求特性を満足することができなくなるおそれがあるからである。
[本発明の銅合金板材の製造方法]
次に、本発明の銅合金板材の製造方法の一例を以下で説明する。
本発明の銅合金板材の製造方法は、上記合金組成を有する銅合金素材を溶解・鋳造(工程1)して得た鋳塊(被圧延材)に対して均質化熱処理を行う均質化熱処理工程(工程2)と、均質化熱処理工程後に前記被圧延材に対して熱間圧延を行う熱間圧延工程(工程3)と、熱間圧延工程後に冷却を行う冷却工程(工程4)と、冷却工程後に、前記被圧延材の両面の面削を行う面削工程(工程5)と、面削工程後に、合計加工率が75%以上の冷間圧延を行う第1冷間圧延工程(工程6)と、第1冷間圧延工程後に、昇温速度が0.1〜100.0℃/秒、到達温度が100〜350℃、保持時間が10秒〜5時間および冷却速度が0.1〜100.0℃/秒の条件で熱処理を施す中間焼鈍工程(工程7)と、中間焼鈍工程後に、到達温度が50〜250℃および保持時間が1分〜2時間の条件で熱処理を行なう低温焼鈍工程(工程8)と、さらなる冷間圧延を行う第2冷間圧延工程(工程9)と、その後、昇温速度が1〜150℃/秒、到達温度が600〜1000℃、保持時間が1〜120秒および冷却速度が10〜200℃/秒の条件で熱処理を行なう溶体化熱処理工程(工程10)と、仕上げ圧延工程(工程11)と、最終焼鈍工程(工程12)と、酸洗および研磨を行なう表面酸化膜除去工程(工程13)とを順次行なう。このようにして、本発明の銅合金板材を作製する。
銅合金素材は、Niを3.5〜25mass%およびSnを0.1〜9.5mass%含有し、さらに必要に応じて、Si、Mn、P、Zn、Fe、Pb、MgおよびCrから選択される少なくとも1成分を含有し、前記少なくとも1成分のうち、Siを含有する場合のSi含有量が0.01〜1.0mass%であり、Si以外の残りの成分を含有する場合の前記残りの成分の含有量が、合計で0.05〜1.5mass%であり、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有するものである。
ここでいう「圧延加工率」とは、圧延前の断面積から圧延後の断面積を引いた値を圧延前の断面積で除して100を乗じ、パーセントで表した値である。すなわち、下記式で表される。
[圧延加工率]={([圧延前の断面積]−[圧延後の断面積])/[圧延前の断面積]}×100(%)
本発明では、上記製造方法の中で、特に第1冷間圧延工程(工程6)、中間焼鈍工程(工程7)、低温焼鈍工程(工程8)、溶体化熱処理工程(工程10)、仕上げ圧延工程(工程11)および最終焼鈍工程(工程12)を制御することが重要である。すなわち、第1冷間圧延工程(工程6)における合計加工率を75%以上と大きくすることにより、その後の熱処理により圧延集合組織を発達させるのに有利な圧延組織にすることができ、また、中間焼鈍工程(工程7)を、昇温速度が0.1〜100.0℃/秒、到達温度が100〜350℃、保持時間が10秒〜5時間および冷却速度が0.1〜100.0℃/秒の条件で行なうことによって、圧延集合組織を十分に発達させて、α−fiberとβ−fiberの方位密度を適正範囲に制御することができ、さらに、低温焼鈍工程(工程8)を、到達温度が50〜250℃および保持時間が1分〜10時間の条件で行なうことによって、中間焼鈍工程(工程7)で制御した、α−fiberとβ−fiberの方位密度を適正範囲への制御の精度が高くなる。さらにまた、第2冷間圧延工程の後に、溶体化熱処理工程(工程10)を、昇温速度が1〜150℃/秒、到達温度が600〜1000℃、保持時間が1〜120秒および冷却速度が10〜200℃/秒の条件で行なうことによって、加工組織を再結晶させることで、β−fiberとα−fiberはわずかに減少するが、その比率を制御することができる。次いで、仕上げ圧延工程(工程11)を行うことによって、加工集合組織を発達させることができ、その後、最終焼鈍工程(工程12)を行なうことによって、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲、β−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲である、目標とする組織および特性を得ることができる。
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
(実施例1〜実施例9および比較例1〜比較例8)
本発明の実施例1〜実施例9および比較例1〜比較例8は、表1に示す成分組成となるように、それぞれNiおよびSn、ならびに必要に応じて添加する任意添加成分を含有し、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金素材を高周波溶解炉により溶解し、これを鋳造(工程1)して鋳塊を得た。鋳塊に対して、保持温度800〜1100℃、保持時間10分から20時間の均質化熱処理(工程2)を行い、その後、合計加工率10〜90%の熱間圧延(工程3)を行った後、水冷による急冷(工程4)を行う。この後、表面の酸化膜の除去のため、圧延材の表裏の両面をそれぞれ1.0mm程度の面削(工程5)を行う。その後、表2に示す合計加工率で第1冷間圧延(工程6)を行った後、表2に示す昇温速度、到達温度、保持時間および冷却速度で中間焼鈍(工程7)を行い、その後、表2に示す到達温度および保持時間で低温焼鈍(工程8)を行い、さらに、合計圧延加工率が5〜45%の第2冷間圧延(工程9)を行う。次に、表2に示す昇温速度、到達温度、保持時間および冷却速度で溶体化熱処理(工程10)を行ない、さらに、仕上げ圧延(工程11)および最終焼鈍(工程12)を行った後に、板材表面の酸化膜除去を目的に、酸洗・研磨(工程13)を行なう。なお、比較例5は中間焼鈍工程(工程7)を行っていない。このようにして、本発明の銅合金板材(供試材)を作製した。各実施例および各比較例での製造条件と、得られた供試材の特性を表2に示す。
これらの供試材について下記の特性調査を行った。
[EBSD測定によるα−fiberおよびβ−fiberの方位密度]
EBSD法により、測定面積が128×10μm(800μm×1600μm)、スキャンステップは0.1μmの条件で測定を行った。スキャンステップは微細な結晶粒を測定するため、0.1μmステップで行った。解析では、128×10μmのEBSD測定結果から、解析にてODF(方位分布関数)およびα−fiber、β−fiberを確認した。電子線は走査電子顕微鏡のWフィラメントからの熱電子を発生源とした。なお、測定時のプローブ径は、約0.015μmである。EBSD法の測定装置には、(株)TSLソリューションズ製 OIM5.0(商品名)を用いた。なお、測定箇所は、板材の平面を機械研磨、電解研磨にて処理し、平面部を上記の測定範囲で測定した。また、α−fiberおよびβ−fiberのそれぞれの方位密度の平均値は、板材の板厚方向で5箇所以上測定し、それらの測定値を平均して算出した。
[ヤング率の測定]
試験片は、各供試材から、圧延方向と平行な方向RDと、板幅方向TD(圧延方向RDに対して直交する方向)に、それぞれ、幅20mm、長さ200mmの短冊状試験片を採取し、試験片の長さ方向に引張試験機により応力を付与し、歪と応力の比例定数を求めた。降伏するときの歪量の80%の歪量を最大変位量とし、その変位量までを10分割した変位を与え、その10点での測定値から歪と応力の比例定数をヤング率として求めた。
[導電率(EC)]
各供試材の導電率は、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により計測した比抵抗の数値から算出した。なお、端子間距離は100mmとした。板材の導電率が8%IACS以上である場合を良好、8%IACS未満の場合を不良と判断する。
EBSD、引張り試験およびECの測定は、いずれも板材の幅方向で均等に5箇所以上(例えば250mm幅の場合は50mmおきに測定する。)、長手方向で均等に10箇所以上測定し、各性能評価は、それらの測定値を平均した数値(平均値)を算出して行なった。表3にそれらの評価結果を示す。
Figure 2017160513
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表3に示す結果から、実施例1〜実施例9はいずれも、合金組成、α−fiber(φ1=0°〜45°)およびβ−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値の範囲のすべてが本発明の範囲内であるため、RDのヤング率ERDが122〜151GPa、TDのヤング率ETDが129〜158GPaといずれも120GPa以上と高く、しかも、ERD/ETD比が、0.87〜0.99と高く、ヤング率ERD、TDの異方性が小さかった。一方、比較例1〜比較例8はいずれも、合金組成が本発明の適正範囲外であるか、あるいは、α−fiber(φ1=0°〜45°)およびβ−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値のうちの少なくとも1つの範囲が、本発明の適正範囲から、一部または全範囲が外れており、特に、比較例1、2、5、7および8はいずれも、RDのヤング率ERDが120GPaよりも小さく、比較例3、5、6、7および8はいずれも、ERD/ETD比が0.85よりも小さく、そして、比較例2、4はいずれも、導電率が低かった。
また、図4は、実施例1と比較例1に関し、α−fiberにおける、Φ(0〜50°)に対する方位密度の平均値の変化を示した図、図5は、実施例1と比較例1に関し、β−fiberにおける、Φ(45〜90°)に対する方位密度の平均値の変化を示した図である。これらの図から、実施例1は、α−fiber(φ1=0°〜45°)およびβ−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値が、いずれも本発明の範囲内にあるのに対し、比較例1では、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度が、φ1=5°〜45°の範囲にて本発明の範囲外になっており、また、β−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度が、φ2=45°〜90°の全範囲にて本発明の範囲外であるのがわかる。
本発明によれば、板材から所定形状のサンプル(例えば端子材料)を採取する方向に依らず、バネ特性等の要求特性を安定して得ることができる銅合金板材を提供することが可能になった。特に、この銅合金板材は、電気・電子機器用部品や自動車用部品、例えば、コネクタ、リードフレーム、アクチュエータ、放熱部材、リレー、スイッチ、ソケットなどの部品に適用される。

Claims (4)

  1. Niを3.5〜25mass%およびSnを0.1〜9.5mass%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、圧延集合組織を有する電気電子機器用銅合金板材であって、
    前記圧延集合組織は、EBSDによる集合組織解析から得られた、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲、β−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値が、2.5以上30.0以下の範囲であることを特徴とする銅合金板材。
  2. Niを3.5〜25mass%およびSnを0.1〜9.5mass%含有し、さらにSi、Mn、P、Zn、Fe、Pb、MgおよびCrから選択される少なくとも1成分を含有し、前記少なくとも1成分のうち、Siを含有する場合のSi含有量が0.01〜1.0mass%であり、Si以外の残りの成分を含有する場合の前記残りの成分の含有量が、合計で0.05〜1.5mass%であり、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、圧延集合組織を有する電気電子機器用銅合金板材であって、
    前記圧延集合組織は、EBSDによる集合組織解析から得られた、α−fiber(φ1=0°〜45°)の方位密度の平均値が、3.0以上30.0以下の範囲、β−fiber(φ2=45°〜90°)の方位密度の平均値が、3.0以上30.0以下の範囲であることを特徴とする銅合金板材。
  3. 圧延時における、圧延方向と平行な方向をRD、板幅方向をTDとし、前記RDのヤング率をERD、前記TDのヤング率をETDとするとき、
    前記ERDおよび前記ETDがいずれも120GPa以上であり、かつ前記ERDの前記ETDに対する比(ERD/ETD)が0.85以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銅合金板材。
  4. 請求項1、2または3に記載の電気電子機器用銅合金板材の製造方法であって、
    前記合金組成を有する銅合金を鋳造して得られた被圧延材に対して均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
    該均質化熱処理工程後に、前記被圧延材に対して熱間圧延を行う熱間圧延工程と、
    該熱間圧延工程後に冷却を行う冷却工程と、
    該冷却工程後に、前記被圧延材の両面の面削を行う面削工程と、
    該面削工程後に、合計加工率が75%以上の冷間圧延を行う第1冷間圧延工程と、
    該第1冷間圧延工程後に、昇温速度が0.1〜100.0℃/秒、到達温度が100〜350℃、保持時間が10秒〜5時間および冷却速度が0.1〜100.0℃/秒の条件で熱処理を施す中間焼鈍工程と、
    該中間焼鈍工程後に、到達温度が50〜250℃および保持時間が1分〜2時間の条件で熱処理を行なう低温焼鈍工程と、
    さらなる冷間圧延を行う第2冷間圧延工程と、
    その後、昇温速度が1〜150℃/秒、到達温度が600〜1000℃、保持時間が1〜120秒および冷却速度が10〜200℃/秒の条件で熱処理を行なう溶体化熱処理工程と、
    仕上げ圧延工程と、
    最終焼鈍工程と、
    酸洗および研磨を行なう表面酸化膜除去工程と
    を順次行なうことを特徴とする銅合金板材の製造方法。
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