[第1実施形態]
以下、図1〜図17を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る保管容器について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
図1は、本実施形態の保管容器1を示す説明図であり、図1(a)は概略斜視図、図1(b)は概略断面図である。保管容器1は、定常運転時に外気温(生活温度)と異なる温度で貯蔵物を保管するために用いられるものであり、例えば冷蔵庫、冷凍庫、温蔵庫などを例示することができる。本実施形態では、保管容器1が冷蔵庫であることとして説明する。
図に示すように、本実施形態の保管容器1は、開口部101を介して外部と接続される貯蔵室100を有する容器本体10と、開口部101に取り付けられた扉部材(蓋材)20と、を有している。貯蔵室100は、容器本体10を構成する壁材11と、扉部材20を構成する壁材21に囲まれた空間である。容器本体10には断熱部12と蓄熱部14とが設けられ、扉部材20にも断熱部22と蓄熱部24とが設けられている。蓄熱部14と蓄熱部24は、パッキンPと隣り合う位置において他の位置よりも厚く(体積が大きく)なるように設けられている。
このような本実施形態の保管容器1では、定常運転時には貯蔵室100内を所定の設定温度に保つことができるが、例えば停電により電力供給が止まり運転を停止した場合であっても、一定時間は貯蔵室100内の温度に温度分布が生じないように保冷することが可能となっている。以下、詳細に説明する。
容器本体10は、壁材11と、貯蔵室100内を冷却するための冷却装置19と、を有している。壁材11は、貯蔵室100を囲んで設けられた断熱部12と、貯蔵室100と断熱部12との間において貯蔵室100を囲んで設けられた蓄熱部14と、を有している。これらは、ABS樹脂などの樹脂材料を形成材料とする筐体(不図示)で囲まれた空間に収容されている。
断熱部12は、定常運転時に冷却されている貯蔵室100および蓄熱部14に、筐体を介して外部からの熱が伝わらないように断熱している。このような断熱部12は、ガラスウールのような繊維系断熱材、ポリウレタンフォームのような発泡樹脂系断熱材、セルロースファイバーのような天然繊維系断熱材など、通常知られた形成材料を用いて形成することができる。
蓄熱部14は、貯蔵室100の設定温度と、外気温との間の温度で、液相と固相との間の相転移が生じる材料を蓄熱材として用いて形成される。ここで、「貯蔵室100の設定温度」とは、保管容器1の定常運転における貯蔵室100内の設定温度である。また、「外気温」とは、例えば、保管容器1が用いられる環境の外気温として想定される温度である。例えば、保管容器1が、設定温度4℃の冷蔵庫であり、想定される外気温を25℃とすると、固−液相転移温度が4℃より高く25℃より低い蓄熱材を用いて形成される。
図2は、図1に示す蓄熱部14の形成材料である蓄熱材が相転移を起こすときの熱的な挙動を模式的に示すグラフである。グラフの横軸は温度、縦軸は比熱を示す。
すなわち、蓄熱材は、固体状態(固相)の場合には、比熱C(s)に対応する熱量を吸収することで昇温し、液体状態(液相)の場合には、比熱C(l)に対応する熱量を吸収することで昇温する。これに対し、蓄熱材が相転移を生じる温度では、潜熱に対応する熱量を吸収することで昇温する。
ここで「比熱」とは、単位質量の物質の温度を単位温度だけ上昇させるのに要する熱量であるため、相転移する温度領域では、単位温度だけ上昇させるために吸収する熱量が潜熱に対応する。したがって図2に示すように、相転移温度領域Tfでは、蓄熱材は、比熱C(f)に対応する熱量を吸収することで単位温度だけ昇温すると考えることができ、蓄熱材の比熱が大きくなっていると考えることができる。そのため、蓄熱材の相転移温度が、貯蔵室100の設定温度と外気温との間の温度であれば、貯蔵室100の運転が停止したときに庫内温度の昇温過程で相転移温度領域Tfに達するため、当該温度領域で長時間温度変化を抑制することが可能となる。
このような蓄熱材には、貯蔵室100の設定温度により、すなわち保管容器1の仕様により、適切な温度の相転移温度領域Tfの材料を用いる。
例えば、本実施形態に示す保管容器1のように冷蔵庫である場合、貯蔵室(冷蔵室)の設定温度は10℃以下であることが望ましく、蓄熱材の相転移温度のピーク温度は0℃〜10℃であるとよい。
また、保管容器が冷蔵庫よりも低い温度で貯蔵物を保存する場合、蓄熱材の相転移温度域は2℃以下であるとよい。例えば、貯蔵室がチルド室である場合、設定温度は0℃程度であるため、蓄熱材の相転移温度のピーク温度は0℃〜2℃であるとよい。貯蔵室が冷凍庫である場合、貯蔵室(冷凍室)の設定温度は−10℃以下であることが望ましく、蓄熱材の相転移温度のピーク温度は−20℃〜−10℃であるとよい。
なお、蓄熱材の相転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。上述のピーク温度は、例えば示差走査熱量計を用い、降温レートを1℃/minとして測定したときに、液相から固相への相転移が生じる際のピーク温度として測定することができる。
また、相転移温度域は、定常運転における貯蔵室100内の設定温度と外気温との間の温度で、液相から固相への相転移が生じる際の温度域である。
このような相転移温度を有する蓄熱材は、定常運転時に貯蔵室100を冷やすことにより、貯蔵室100から伝わる冷気によって相転移温度以下にまで冷却されることとなるため、定常運転時には固相となる。一方で、保管容器1が運転を停止したとしても、一定時間は貯蔵室100内に冷気を供給することで、貯蔵室100内の温度変化を抑制することができる。
蓄熱材としては、例えば、水、パラフィン、1−デカノール、SO2・6H2O、C4H3O・17H2O、(CH2)3N・10 1/4H2Oなど、通常知られた材料を用いることができる。また、液状の蓄熱材に溶質を溶解させることにより生じる凝固点降下を利用して、所望の相転移温度を有する蓄熱材を適宜調整することも可能である。また、これらの材料を1種のみ用いることとしてもよく、2種以上を同時に用いることとしてもよい。
図3(a)(b)は、壁材11の構造を示す説明図である。図3(a)に示すように、蓄熱部14は、蓄熱材141と蓄熱材141を包む保護膜142とを有し、容器本体10の筐体18と、筐体18内に設けられた断熱部12との間の空間に充填されている構成を採用することができる。また、図3(b)に示すように、筐体18と断熱部12との間の空間に蓄熱材141と保護膜142とで形成された複数の小ブロック(符号14a、14bで示す)を充填することで、蓄熱部14を形成することとしてもよい。
また、蓄熱材141は、ゲル化処理等により、固体−液体の相変化時に形状保持が出来る構成でもよい。これにより、固相の蓄熱材141の一部が放熱により融解し液相になった場合でも液相の対流が抑制されるため、対流による急速な融解が生じず、ゆっくりとした放熱が可能になる。この場合、蓄熱材141のみで形状保持、漏洩防止が可能となるため、保護膜142は必ずしも必要ではない。
さらに、蓄熱材141は、マイクロカプセル化等により、スラリー状にした構成でもよい。この場合、固体−液体の相変化時の体積変化を防ぐことができるため、蓄熱材141と他部材との接触面での熱抵抗を一定に保つことができる。
図1に戻って、冷却装置19は、ガス圧縮式の冷却装置であり、容器本体10の底部に設けられ、冷媒を圧縮するコンプレッサー191と、貯蔵室100内に露出して設けられ、内部で圧縮された冷媒が蒸発する際の気化熱により周囲を冷却する冷却器192と、コンプレッサー191と冷却器192とを接続する配管193と、を有している。その他、圧縮された冷媒から放熱するためのコンデンサーや、冷媒中の水分を除去するためのドライヤーなど、通常知られた構成を備えていてもよい。
また、ここではガス圧縮式の冷却装置を示したが、これに限らず、ガス吸収式の冷却装置や、ペルチェ素子を用いた電子式の冷却装置とすることも可能である。また、ここでは保管容器1が、冷却器192が貯蔵室100に露出する直冷式(冷気自然対流方式)であることとして図示した。しかしこれに限らず、冷却器192で冷やされた冷気を、ファンによって循環させることで貯蔵室100を冷却する間冷式(冷気強制循環方式)を採用することも可能である。
一方、扉部材20は、不図示の蝶番などの接続部材を介して容器本体10に回動自在に取り付けられ、開口部101を開閉する構成となっている。また扉部材20は、閉じたときに容器本体10と接する側に、パッキンPが設けられている。
扉部材20も、容器本体10と同様に、貯蔵室100を囲んで設けられた断熱部22と、貯蔵室100と断熱部22との間において貯蔵室100を囲んで設けられた蓄熱部24と、を備えた壁材21を有している。断熱部22および蓄熱部24は、上述の断熱部12および蓄熱部14と同様の材料を用いて形成することができる。
このような保管容器1では、蓄熱部14および蓄熱部24は、容器本体10および扉部材20の筐体を介してパッキンPと隣接する位置(図1において符号αで示す)で蓄熱材が厚さ方向に厚くなるように設けられている。
本実施形態の保管容器1の概略構成は、以上のようになっている。
図4は、本実施形態の保管容器の変形例を示す説明図であり、図1(b)に対応する図である。
貯蔵室内の温度は、保管容器の運転停止後の経時変化により昇温し、次第に温度分布が形成される。そうすると、空気の密度変化によって、貯蔵室の上部には相対的に暖かい空気が滞留し、貯蔵室の下部には相対的に冷たい空気が滞留する。すなわち、貯蔵室の上部は貯蔵室の下部よりも相対的に外気温に近づきやすくなっている。このような温度分布の形成を抑制するために、本実施形態の保管容器の変形例では、以下のような構成を採用することができる。
図4(a)に示す保管容器2では、貯蔵室100の上部(天井部)の壁材11は、貯蔵室100の下部(底部)の壁材11よりも、内部に設けられた蓄熱部14の体積が大きくなっている。図では、符号βで示された領域の蓄熱部14の方が符号γで示された領域の蓄熱部14よりも大きいことを示している。
また、図4(b)に示す保管容器3では、壁材11内に設けられた蓄熱部14が、貯蔵室100の上部側に設けられた上部蓄熱部15と、貯蔵室100の下部側に設けられた下部蓄熱部16と、によって構成されている。同様に、扉部材20の壁材21内に設けられた蓄熱部24も、貯蔵室100の上部側に設けられた上部蓄熱部25と、貯蔵室100の下部側に設けられた下部蓄熱部26と、によって構成されている。上部蓄熱部15は、下部蓄熱部16と比べ、潜熱量が多い形成材料を用いて形成される。同様に、上部蓄熱部25は、下部蓄熱部26と比べ、潜熱量が多い形成材料を用いて形成される。
これにより、貯蔵室100の上部では下部よりも長時間に亘って冷気が供給されることとなるため、貯蔵室の上部に滞留しやすい暖かい空気を冷やし、下部の冷たい空気との温度差を小さくすることができる。したがって、このような構成の保管容器2、3では、温度分布の形成を抑制することができる。
次に、蓄熱部の熱的特性を考慮しながら、図5〜13を参照して、より詳細に本実施形態の保管容器1について説明する。なお、以下の説明においては、図1で用いた符号を適宜使用することがある。
まず、蓄熱部の蓄熱材について検討する。
蓄熱部の熱的特性は、図5に示す2次元モデルを用いたシミュレーションにより求めた。図5は、保管容器1の水平方向の断面における温度分布を求めるための計算モデルである。ここでは、保管容器1を略直方体として捉えることで、断面における対称性を考慮して半分の領域で計算を行った。
図中、符号W1,W2は、貯蔵室100の内部寸法、符号W3は、壁材21を構成する断熱部22の厚さ、符号W4,W5は、壁材11を構成する断熱部12の厚さ、符号W6は、容器本体10と扉部材20との接合部に設けられたパッキンPの厚さ、W7は、壁材を構成する蓄熱部14、24の厚さである。各値は、W1:400mm、W2:500mm、W3:45mm、W4:45mm、W5:35mm、W6:1mmであり、W7は変数である。
図6、7は、図5に示した計算モデルを用いた非定常熱伝導解析の結果を示す図である。図6は、蓄熱部14、24が無い場合(W7=0mm)の貯蔵室100の温度を示し、図7は、蓄熱材としてパラフィンを用いた蓄熱部14、24(W7=5mm)がある場合の貯蔵室100の温度を示す。それぞれ(a)は1時間経過後の温度、(b)は12時間経過後の温度を示す。
計算条件は、パラフィンの融点(相転移温度):5.9℃、潜熱:229kJ/kg、開始温度:3℃、外気温:25℃、パッキンPの材質:鉄、蓄熱部における蓄熱材の充填率:100%、である。
図6に示すように、蓄熱部14、24が無い場合には、1時間後ですでに貯蔵室100内の温度が10数℃にまで上昇し(図6(a))、12時間後には完全に外気温と等しくなっている(図6(b))。対して、図7に示すように、蓄熱部14、24がある場合には、1時間後では貯蔵室内の温度が5℃程度に維持され(図7(a))、12時間後であっても概ね7℃〜8℃程度に保持することができることが分かった(図7(b))。
また、図7から明らかなように、運転停止後の保管容器1の貯蔵室100に対する熱の流入は、パッキンPの位置で主として生じ、パッキンP部分から貯蔵室100の内部へ熱が移動している。そこで次に、蓄熱部の性能を、熱の移動を考慮したシミュレーションを行うことにより検討した。
図8は、蓄熱部を構成する蓄熱材の物性のみを異ならせたモデルについての計算結果であり、図6,7に対応する図である。ここでは、同一の相転移温度を有し、且つ、潜熱値と熱伝導率とが異なる2種の蓄熱材を想定して計算を行った。蓄熱材以外の計算条件は、相転移温度:−18℃、開始温度:−18℃とした他は、図6,7と同様である。
図8(a)の蓄熱材は、潜熱:334kJ/kg、熱伝導率:2.2W/(m・K)、図8(b)の蓄熱材は、潜熱:229kJ/kg、熱伝導率:0.34W/(m・K)である。図8(a)の計算で用いた蓄熱材の潜熱および熱伝導率の値は、氷と同程度であり、図8(b)の計算で用いた蓄熱材の潜熱および熱伝導率の値は、パラフィンと同程度である。
図8(a)(b)は、いずれも12時間後の温度分布を示しているが、図から明らかなように、図8(b)の方が図8(a)よりも温度上昇が抑えられていることが分かる。
さらに、図9にはパッキンPが無い、すなわち貯蔵室100を壁材(断熱部および蓄熱部)で密閉した以外は図8(a)と同条件としたモデルの計算結果を示すが、このような構造のモデルでは、12時間後であっても、貯蔵室の温度上昇を抑制できていることがわかる。
これらの計算結果から、パッキンPを有する保管容器の構成では、パッキンP部分からの熱の流入が貯蔵室内の温度変化の主要因であり、パッキンPの近傍に設けられた蓄熱部が有する蓄熱材は、潜熱の大きさのみに着目して選択しただけでは観点が不十分であることが分かる。すなわち、蓄熱部の形成材料として好適な蓄熱材を選択するためには、潜熱値とともに熱伝導率にも着目すべきであることが分かった。
すなわち、従来、潜熱蓄熱材料を選定する際には、潜熱量が大きいことが最も重要とされてきたが、発明者らは、潜熱値と熱伝導率を合わせた指標により選定される潜熱蓄熱材料を用いて、従来よりも高い保冷効果を有する保冷庫を発明した。潜熱値と熱伝導率を考慮した指標を温度伝導率として下記の式(1)を定義した。以下、定義について説明する。
…(1)
(α:温度伝導率(m
2/s)、k:熱伝導率(W/(m・K))、ρ:蓄熱部の形成材料の密度(kg/m
3)、C:蓄熱部の形成材料の比熱(J/(kg・K))
ここで、式中の比熱は、相転移温度域における潜熱として仮定して用いる。比熱は、蓄熱材を1℃昇温させるために必要な熱量であるため、相転移温度域が例えば2℃に渡る場合には、総潜熱量を相転移温度域の温度幅で割ることにより、上記式1で用いる比熱を求めることができる。
上記温度伝導率を、氷とパラフィンとについて求めると、以下の表1のようになる。
すなわち、パラフィンは氷よりも潜熱量は小さいものの温度伝導率が小さい、すなわち温度が上がりにくいため、相転移が完了するまでの時間が氷よりも長くなり、結果、長時間に渡って相転移温度を維持することが可能となる。したがって、氷とパラフィンとを比べると、温度伝導率が低いパラフィンの方が熱の流入があった場合における保温効果が高いことが分かる。すなわち、氷とパラフィンとを比べると、熱の流入がある位置、本実施形態ではパッキンP部分の蓄熱部の形成材料としてパラフィンを用いることにより、高い保冷効果を示すことが可能となる。温度伝導率については、液体、固体物質の場合、図34に示すようにほぼ1×10−7(m2/s)を下限にし、熱伝導率と温度伝導率との関係ではほぼ直線(図34中の破線)に乗る分布を示す。一方、潜熱値を用いる蓄熱材(図34中のパラフィン(潜熱)、氷(潜熱))の温度伝導率は、この線上に乗らず、1×10−8(m2/s)より小さい範囲になる。このように、温度伝導率の値が、通常の液体・固体に対して、1桁小さくなることで、保冷が可能になることが分かる。そこで、潜熱値を用いる蓄熱材の温度伝導率の範囲として、1×10−8(m2/s)より小さいことが必要になる。この範囲であれば、図9の計算結果にあるように貯蔵室を壁材(断熱部および蓄熱部)で密閉した場合、10時間以上の保冷が可能になる。更に、パッキンPを有する構成のように断熱材が薄い等で一部の断熱性能が劣る場合は、図8(a)と図8(b)の計算結果が示しているように、更に小さい値である5×10−9(m2/s)より小さい範囲の温度伝導率を有する蓄熱材を用いることが望ましい。
次に、蓄熱部14の厚さについて検討する。
上述のように、図1に示す保管容器1では、蓄熱部14および蓄熱部24は、容器本体10および扉部材20の筐体を介してパッキンPと隣接する位置(図1において符号αで示す)で蓄熱材が厚さ方向に厚くなるように設けられている。これは、別の表現によれば、符号αで示す位置の蓄熱部14および蓄熱部24は、他の位置の蓄熱部と比べて、材料の温度伝導率を貯蔵室100の内壁から見た単位面積当たりの材料の使用量で割った値である指標値が小さくなるように設けられている。これは、次のような理由による。
保管容器1が運転を停止すると、主としてパッキンPを介して外部の熱が貯蔵室100内に流入し内部を昇温させる。これは、パッキンPを介して容器本体10と扉部材20とが接しているため、パッキン部分では保管容器1の断熱部12,22および蓄熱部14,24が不連続となっているためである。すなわち、貯蔵室100において、パッキンPの近傍は、パッキンPから遠い領域(第2の領域AR2)よりも相対的に外気温に近づきやすい領域(第1の領域AR1)になっていると言うことができる。
そこで、本実施形態の保管容器1では、蓄熱部14を一様に配置するのではなく、運転停止後に相対的に外気温に近づきやすい部分であるパッキンPの近傍の壁材11では、相対的に外気温に近づきにくい部分の壁材11よりも、蓄熱部14が厚くなるように(上述の指標値が小さくなるように)設けることとしている。これにより、パッキンPの近傍ではパッキンPから遠い位置と比べて温度が上がりにくく、長時間冷気が供給されることとなる。そのため、運転を停止したとしても一定時間は貯蔵室内の温度に温度分布が生じないように維持しやすくなる。
第1の領域AR1の近傍に設けられた蓄熱部14,24の材料として、第2の領域AR2の近傍に設けられた蓄熱部14,24の材料よりも、相転移温度における材料の温度伝導率が小さいものを用いることとして、指標値を制御することとしてもよい。
また、第1の領域AR1の近傍に設けられた蓄熱部14,24は、第2の領域AR2の近傍に設けられた蓄熱部14,24よりも、総潜熱量が多くなるように設けられていることとして指標値を制御することとしてもよい。式(1)より温度伝導率の分母には比熱、すなわち相転移温度域における潜熱の項がある。また、上述の指標値には、分母で比熱と使用量との積、すなわち総潜熱量の項がある。したがって、総潜熱量が多くなると指標値が小さくなるため、上記考えに合致するものとなる。
このように外気温に近づきやすい領域を第1の領域、外気温に近づきにくい領域を第2の領域と表記しているが、これは相対的な関係を示しており、必ずしも庫内全体を2つだけの領域に分けるということではない。例えば、前記断熱材の厚さが薄い領域が存在した場合、その領域は断熱性能が低くなり、他の部分よりも外気温に近づきやすくなるが、パッキン部と比較した場合には外気温に近づきにくいことになる。この例のように異なる領域が3つ以上ある場合でも、その中での2つの領域の相対的な比較を第1の領域、第2の領域と示している。
ここで、蓄熱部14が厚くなるほど、すなわち蓄熱部14が蓄える潜熱量が多くなるほど、上述の指標値が小さくなり、長時間に渡って冷気を放出することができる。そのため、運転停止後の貯蔵室100の温度上昇を抑制することができる。一方で、蓄熱部14が過剰に厚いと、製造コストや製品の形状・大きさに悪影響があることが予想される。
したがって、蓄熱部14の厚さは、例えば、運転停止後に予め設定した時間(保温可能時間)を経過した後であっても、貯蔵室100の温度として許容される最高温度(許容温度)に到達しない、という要求を満たすために必要な厚さとするとよい。
保温可能時間は、貯蔵室100内に構成部材以外に熱負荷が無いこととして、すなわち、貯蔵室100内には、運転停止後の庫内の温度を上昇させる特別な熱源が無いこととして、計算・設定される。
このような蓄熱部14の厚さは、上述の熱の流入・伝達を考慮した上で、次のようにして求めることができる。
まず、計算を簡略化するため、断熱部12と蓄熱部14とを透過する熱流束を表す式から、壁材の厚さが蓄熱部14の厚さと等しいとした場合の合成熱伝導率を求める。
すなわち、図10(a)に示すような、壁材11が、厚さL1、熱伝導率k1の断熱部12と、厚さL2、熱伝導率k2の蓄熱部14と、で構成されているという計算モデルから、図10(b)に示すような、厚さL2、熱伝導率k12の仮想的な材料で形成された壁材17を有する計算モデルに置き換えることにより計算を簡略化し、壁材17の熱伝導率を求める。
外部から貯蔵室100内へ所定の熱量が流入する場合、熱量は、図10(a)の計算モデルについては下記式(2)で表され、図10(b)の計算モデルについては下記式(3)で表される。そのため、式(2)(3)より、図10(b)の壁材17の熱伝導率、すなわち断熱部12と蓄熱部14との合成熱伝導率は下記式(4)として求められる。
…(4)
(q:熱量(W)、T
1:外気温(K)、T
2:貯蔵室内の設定温度(K)、L
1:断熱部の厚さ(m)、L
2:蓄熱部の厚さ(m)、k
1:断熱部の熱伝導率(W/(m・K))、k
2:蓄熱部の熱伝導率(W/(m・K))、k
12:断熱部と蓄熱部との合成熱伝導率(W/(m・K))
次に、保管容器1の構造の簡略化を行い、簡略化した構造に対する熱の流入を検討する。図11は、保管容器の外部表面から内部方向への距離に対する温度の関係を示すグラフである。
図11(a)に示すように、保管容器の外部の熱は、壁材を介して貯蔵室内に伝わるため、壁材の温度は、外部表面では外気温と等しく、内部表面では貯蔵室温度と等しく、さらに厚さ方向に温度が変化するという関係にある。また、貯蔵室内の空気は、熱容量が小さいことから、貯蔵室の内壁と同じ温度であると仮定することができる。このような関係は、運転停止直後であっても、所定時間経過後に貯蔵室の温度が許容温度に到達したときであっても同様である。
そのため、貯蔵室の温度変化については貯蔵室の内壁についての温度変化を計算することで知り得ると考え、図11(b)に示すように貯蔵室の空間を捨象した計算モデルを用いて計算することで、貯蔵室内の温度を間接的に算出することとする。図では、壁材の厚さをL2としているため、図11(b)に示すモデルでは、厚さ2L2の中実の立体についての温度分布を計算し、該立体の中心(表面からL2の位置)の温度を算出することで、貯蔵室内の温度を計算することができる。
このような立体(貯蔵室を捨象した保管容器)の表面から立体内部への伝熱計算は、立体の初期温度と外部温度とを用い、一般の伝熱計算で非定常熱伝導の基礎式を解くことにより算出可能である。また、立体の中心部に対する伝熱による温度変化については、図12に示すような、無次元温度と無次元時間(フーリエ数)との関係によって示されるハイスラー線図が知られており、ハイスラー線図を用いて、立体内部の温度変化を求めることもできる。
図12のハイスラー線図の横軸が示す無次元時間(フーリエ数)は、立体の温度伝導率、運転停止からの経過時間、立体の中心までの厚さ(すなわち壁材の厚さ)、を用いて下記式(5)のように示すことができる。
…(5)
(F
o:無次元時間(フーリエ数)、α:温度伝導率(m
2/s)、t:経過時間(s)、L
2:壁材の厚さ(m))
また、図12のハイスラー線図の縦軸が示す無次元温度は、外気温、貯蔵室の設定温度、運転停止により変化する貯蔵室の温度、を用いて下記式(6)のように示すことができる。
…(6)
(θ
c:無次元温度、T
1:外気温(K)、T
2:貯蔵室内の設定温度(K)、T
3:貯蔵室内の温度(K))
無次元温度を示す変数のうち、外気温T1、設定温度T2、については設定値があるため、貯蔵室100の許容温度を設定することにより、対応するフーリエ数を求めることができる。図12に示すハイスラー線図からフーリエ数を求めるときには、図から直接読み取ることとしてもよく、また、下記の近似式(7)を用いて算出することとしてもよい。近似式(7)は、図12において平板について表すグラフについての近似式である。
また、上式(5)で示されるフーリエ数のうち、温度伝導率については、上述の式(1)(4)を用いて算出することができるため、ハイスラー線図から求めたフーリエ数と、式(5)とを用いて、壁材の厚さ(すなわち蓄熱部の厚さ)と、運転停止からの経過時間と、の関数を求めることができる。
図13は、上記考え方に従って求めた、蓄熱部の厚さと保温可能時間(運転停止からの経過時間)との関係を示すグラフである。図では、複数の蓄熱材について算出している。
なお、保温可能時間は、蓄熱部の蓄熱材料の相変化開始から相変化完了までの時間が大半を占める。そのため、図では、パラフィンの相変化温度域を5℃〜7℃、外気温を25℃とした場合の、5℃から7℃まで貯蔵室内の温度が変化するときについて、蓄熱部の厚さに対する保温可能時間について算出している。
図13の関係を用いると、例えば、運転停止後に許容温度に達するまでの時間を設定すると、必要な蓄熱部の厚さを求めることができるため、所望の仕様の保管容器とすることができる。また、図13の関係を用いると、ある保管容器の運転が停止してから許容温度まで昇温するまでの時間、すなわち保温可能時間を見積もることができる。
保温可能時間は、停電対応として最低限必要な時間として2時間確保できると良い。また、蓄熱部を厚くすると保温可能時間は増加するが、貯蔵室100内の容積が減少するため、容積を確保するため、24時間を上限とすると良い。
以上のようにして、蓄熱部の配置、材料、厚さ、を設定し、所望の仕様の保管容器とする。
ここで、本発明者達は、上述の考えに従って設けた蓄熱部の効果を実証するために、蓄熱部の熱的特性についてシミュレーションを行った。計算モデルとしては、図5および図14に示す計算モデルを用いた。
図14は、図5の計算モデルに対応し、さらにパラメータW8,W9を追加したものである。W8,W9は、パッキンPと当接する部分における蓄熱部の端部からの長さである。下記の表2は、計算に用いたパラメータをまとめた表である。
また、図15(a)(b)は、図5の計算モデルを用いた非定常熱伝導解析の計算結果である。符号W1〜W7の値は、図7と同じ(W7=5mm)である。
さらに、図16(a)(b)は、図14の計算モデルを用いた非定常熱伝導解析の計算結果である。符号W1〜W6については図14と同じである。蓄熱部14,24の厚さについては、端部からW8=40mm,W9=20mmの間においては、W7=20mmとし、それ以外の部分については、W7=2mmとした。
なお、図15(a)図16(a)は、それぞれ6時間経過後の温度、図15(b)図17(b)は8時間経過後の温度を示す。
計算条件は、パラフィンの融点(相転移温度):5.9℃、潜熱:229kJ/kg、開始温度:3℃、外気温:25℃、パッキンPの材質:鉄、蓄熱部における蓄熱材の充填率:100%、である。
計算の結果、図15に示すように、蓄熱部14が一様な厚さで形成されている場合には、6時間後ですでに貯蔵室100内に温度分布が形成され(図15(a))、8時間後には貯蔵室100内の温度が概ね20℃近くにまで上昇している(図15(b))。対して、図16に示すように、蓄熱部14がパッキンPの周囲には多く、他の部分には少なく分布を持たせてある場合には、6時間後では貯蔵室内の温度が数℃程度に維持され(図16(a))、8時間後であっても概ね10℃程度に保持することができることが分かった(図16(b))。
蓄熱部14における蓄熱材の使用量について、貯蔵室100の容量が170Lの市販品(型番:SJ−V200T)をモデルとして概算すると、図15(a)(b)に示したモデルの場合には、使用量は7kgとなる。対して図16(a)(b)に示したモデルの場合には、使用量は3.3kgとなる。したがって、図16に示したモデルの方が、長時間に亘り貯蔵室100内を保温することができる上に、蓄熱材の使用量を削減することが可能であることが分かった。
すなわち、蓄熱部の配置、材料、厚さ、を適切に設定することで、効果的な保温が可能な保管容器とすることが可能であることが分かった。
以上のような構成の保管容器1によれば、運転を停止したとしても一定時間は貯蔵室内の温度に温度分布が生じないように維持することが可能となる。
なお、本実施形態では、外気温よりも低い温度で貯蔵物を保管する保管容器について示したが、本発明の一実施形態として、外気温よりも高い温度で貯蔵物を保管する保管容器、いわゆる温蔵庫を採用することもできる。
その場合、運転停止後の貯蔵室内では、貯蔵室の下部が貯蔵室の上部よりも相対的に外気温に近づきやすくなっているため、図4に示したような構成とは異なり、貯蔵室の下部の蓄熱部を上部の蓄熱部よりも多くする。
保管容器が温蔵庫である場合、貯蔵室の設定温度は通常80℃〜100℃程度であるため、蓄熱材の相転移温度域が80℃〜100℃であるとよい。蓄熱材としては、例えば相変化温度90℃、潜熱値225kJ/kgであるD−Threitolを用いることができる。
また、本実施形態では、計算を簡略化するために、構造を簡略化した2次元モデルを用いてシミュレーションを行ったが、簡略化することなく、実際の保管容器の構成を再現した2次元モデルを用いてシミュレーションを行うこととしても構わない。
また、本実施形態では、貯蔵室100を1つのみ有する保管容器について説明したが、例えば、設定温度が異なる2種以上の貯蔵室を有する保管容器としてもよい。このような場合には、各貯蔵室に応じて蓄熱部を設定する。
また、本実施形態では、扉部材20が容器本体10に回動自在に設けられていることとしたが、扉部材(蓋材)が貯蔵室100を開閉可能に設けられているならば、上述の構成に限らない。
例えば、蓋材が所定のレール上をスライドすることで貯蔵室100を開閉する構成であってもよく、または、蓋材が着脱可能に設けられ、貯蔵室100を開閉する構成であってもよい。このような構成であっても、蓋材近傍の空間は、運転停止後に相対的に外気温に近づきやすい部分であることには変わりがない。そのため、蓋材近傍の壁材内部に設けられた蓄熱部を厚くすることで、運転停止後であっても長時間に渡って保冷をすることが可能な保管容器とすることができる。
[第2実施形態]
図17、18は、本発明の第2実施形態に係る保管容器4の説明図である。本実施形態の保管容器4は、第1実施形態の保管容器1と一部共通している。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図17に示すように、保管容器4は、貯蔵室100の内壁に赤外線を反射する反射層(赤外線反射層)30を有する。
冷蔵庫である保管容器4の運転停止中に、使用者が貯蔵室100内の貯蔵物を取り出したい場合、扉部材20を開け貯蔵室100に手を入れる必要がある。このとき通常は、使用者の手の表面温度が貯蔵室100の内部温度よりも高いため、使用者の手からの輻射熱により貯蔵室100に熱が流入することとなる。
このような、扉部材20の解放時における、使用者と貯蔵室100内との間の輻射により熱移動は、下記式(8)を用いて見積もることができる。
…(8)
(Q:輻射による熱の流入量(J)、A:表面積(m
2)、ε:放射率、σ:ステファン・ボルツマン定数(5.67×10
−8(W/(m
2・K
4))、s:ドアの開放時間(s)、T
4:体表温度(K)、T
5:貯蔵室内温度(K))
衣類を着た使用者の表面温度を30℃、貯蔵室内温度を6℃とし、人体の表面積(1.8m2)の半分からの輻射を考えると、上式(8)から伝熱量は109J/sとなり、庫内に流入する熱量は、ドアの開放時間30秒であれば33kJ、60秒であれば66kJとなる。
対して、貯蔵室内の空気が外気と完全に入れ替わった場合に流入する熱量は、庫内容積を140Lとした場合、空気の密度ρ(=1.1763kg/m3)、空気の比熱Cp(=1007J/(kg・K))、外気温25℃、貯蔵室内温度6℃とすると、32kJとなり、(熱量=140/1000×ρ×Cp×(25−6))となる。
したがって、扉部材20を開けたときの熱流入については、使用者の体表からの輻射による影響が大きいことが分かる。
本実施形態の保管容器4では、貯蔵室100の内壁に赤外線を反射する反射層30を有している。そのため、停電時に貯蔵室100から貯蔵物を取り出す際の使用者の体表から輻射される赤外線を反射することで輻射熱の流入を防ぎ、貯蔵室内の温度上昇の抑制を図ることができる。また、通常運転時は、貯蔵室内の温度が上昇し難いため、消費電力低減を行うことができる。
反射層30としては、人体から輻射される赤外線の吸収率が低い材料を用いる。このような赤外線の波長は、ウィーンの変位則からピーク波長が9.6μm付近である。また、キルヒホッフの法則より、吸収率と反射率とは逆相関であるため、このような赤外線の反射率が高い材料を用いてもよい。例えば、人体の体表温度に対応する波長をピーク波長とする赤外線を60%以上反射する材料を用いるとよい。このような材料としては、アルミニウムのような光反射性を有する金属材料が挙げられる。
反射層30は、図18(a)に示すように、筐体18の表面に設けることとしてもよく、図18(b)に示すように、反射層30が筐体18の一部を構成し、反射層30と蓄熱部14とが接することとしてもよい。図18(b)のような構成とした上で、反射層30を金属材料で形成することとすると、定常運転時の貯蔵室100内の冷気が金属材料である反射層30を介して蓄熱部14に伝わりやすく、蓄熱部14が蓄冷して固相に相転移しやすいため好ましい。
以上のような構成の保管容器4によれば、運転停止時に貯蔵室から貯蔵物を取り出すとしても、貯蔵室内の温度上昇の抑制を図ることができ、貯蔵室内の温度に温度分布が生じないように維持することが可能となる。
[第3実施形態]
図19は、本発明の第3実施形態に係る保管容器5の説明図である。本実施形態の保管容器5は、第1実施形態の保管容器1と一部共通している。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図に示すように、保管容器5の蓄熱部14は、貯蔵室100を囲んで設けられた第1蓄熱部14Bと、断熱部12と第1蓄熱部14Bとの間において貯蔵室100を囲んで設けられた第2蓄熱部14Aと、を有している。また、蓄熱部24は、貯蔵室100を囲んで設けられた第1蓄熱部24Bと、断熱部22と第1蓄熱部24Bとの間において貯蔵室100を囲んで設けられた第2蓄熱部24Aと、を有している。これら第2蓄熱部14A,24Aの形成材料は、第1蓄熱部14B,24Bの形成材料と比べ、相転移温度が外気温に近いものを用いる。
このような構成の保管容器5においては、運転が停止した後に、まず、相対的に相転移温度が低い第1蓄熱部14B,24Bから、第1蓄熱部14B,24Bの相転移が完了するまで貯蔵室100内に冷気が供給される。次いで、相対的に相転移温度が高い第2蓄熱部14A,24Aから、第2蓄熱部14A,24Aの相転移が完了するまで貯蔵室100内に冷気が供給される。したがって、蓄熱部14,24の相転移温度が多段階に設定されることとなり、貯蔵室100内の温度を維持しやすくなる。
以上のような構成の保管容器5によれば、貯蔵室内の温度に温度分布が生じないように維持することが可能となる。
[第4実施形態]
図20は、本発明の第4実施形態に係る保管容器の説明図である。本実施形態の保管容器は、第1実施形態の保管容器1と一部共通している。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図20(a)、(b)は、壁材11の構造を示す説明図である。図20(a)、(b)に示すように、容器本体10および扉部材20の筐体を介してパッキンPと隣接する位置(図1において符号αで示す)で蓄熱部14が貯蔵室100の壁面から厚さ方向に厚くなるように設けられている。このため、パッキンPに隣接した蓄熱部14上の断熱部13の厚さは、パッキンPに隣接しない蓄熱部14上の断熱部12の厚さより薄くなっている。
このような断熱材の厚さが相対的に薄い断熱部13では、他領域に比して入熱量が増えてしまい、蓄熱部14の厚い領域の方が保冷能力が低下してしまう事態が生じ得る。そこで、断熱部12と断熱部13とで断熱能力に差がつかないようにしておくことが必要となる。本例では、断熱部13には断熱部12で用いている発泡ウレタンより断熱性能の高い真空断熱材を用いている。これにより、断熱部13の断熱能力を断熱部12と同等にすることができ、パッキンPに隣接した蓄熱部14の保冷能力の低下を防止することができる。
[第5実施形態]
図21は、本発明の第5実施形態であって、保管容器で使用する蓄熱材の相転移温度を求める方法を示す図である。図21(a)は、DSCを用いた蓄熱材の相転移温度の測定例を示している。図において横軸は温度tを表している。温度tは右方向が高温側である。横軸は2本示している。上側が降温時の測定結果を示し、下側が昇温時の測定結果を示している。縦方向は熱量を表している。横軸を基準に上方は蓄熱材からの放熱量を表し、下方は蓄熱材の吸熱量を表している。
また、図21(a)には、DSCの炉を所定の降温レート(降温速度)で冷却した場合の測定結果を実線の波形D1で示し、当該所定の降温レートより高い降温レートで冷却した場合の測定結果を破線の波形D2で示している。同様に、DSCの炉を所定の昇温レートで加熱した場合の測定結果を実線の波形U1で示し、当該所定の昇温レートより高い昇温レートで加熱した場合の測定結果を破線の波形U2で示している。
図21(a)に示すように、DSCによる測定では、降温レートや昇温レートの相違によりピーク温度が変化してしまう。また、降温測定では過冷却Hにより相転移温度が低下するので、昇温時と降温時とでヒステリシスが生じる。上記の第1実施形態では、降温レートを1℃/minとして液相から固相への相転移が生じる際のピーク温度を測定することを述べた。しかしながら、非定常状態では、図21(a)のように、温度降下あるいは上昇の速度の相違により、あるいは降温時と昇温時のヒステリシスにより、DSCで測定したピーク温度は変化する。ピーク温度は、蓄熱材を実際の保管容器内で保冷したり、保温したりしている場合に、蓄熱材が固相状態を保持できる温度である必要がある。このため、DSCを用いた蓄熱材の相転移温度の測定は、固相から液相への相転移が生じる際のピーク温度を測定する方が望ましい。そこで、DSCを用いた蓄熱材の相転移温度のピーク温度の測定は、比較的低い昇温レートによる昇温測定が望ましい。
図21(b)は、DSCによる昇温測定に基づいてピーク温度を決定する方法を示している。横軸は温度tを表し、縦方向は熱量を表しており、図21(a)と同様である。図21(b)では、DSCの炉を所定の昇温レートで加熱した場合の測定結果を実線の波形Uで示している。蓄熱材が固相から液相への相転移を開始する以前の波形Uの直線部分を高温側に延長して破線で示す仮想直線X1とする。また、蓄熱材が相転移を開始した後で最大吸熱量となる前の波形Uの直線部分を延長して破線で示す仮想直線X2とする。ピーク温度は、仮想直線X1と仮想直線X2との交点Cの温度として求める。このようにして求めたピーク温度は、殆どの場合で実際の保管容器内で蓄熱材が固相状態を保持できる温度範囲内にある。
[第6実施形態]
図22及び図23(a)、(b)は本発明の第6実施形態に係る保管容器6、7、8の説明図である。本実施形態の保管容器6、7、8は、第1実施形態の保管容器1と一部共通している。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図22は断面図であって、保管容器6の開口部101から貯蔵室100を見た状態を示している。保管容器6では、冷却器192に代えて、貯蔵室100の背面側内壁上部に冷風吹出口60が設けられている。冷風吹出口60は水平方向に延びる細長開口を有している。冷風吹出口60の細長開口からは図示の矢印Wの方向に例えば風速10cm/sで貯蔵室100内に冷風が吹き出すようになっている。
また、貯蔵室100の背面側内壁に5つの温度データ取得箇所P1〜P5を規定している。温度データ取得箇所P1は、冷風吹出口60の上方中央に配置されている。温度データ取得箇所P2〜P5は、冷風吹出口60の下方の中央部に鉛直下方に一列に均等間隔で配置されている。
保管容器6の外形は50(cm)×50(cm)の正方形底面を有する高さ100cmの立方体形状を有している。蓄熱部14の潜熱蓄熱材は、潜熱が50kJ/kg、比熱が1kJ/(kg・K)、相転移温度が6℃である。断熱部12は、熱伝導率が0.025W/(m・k)、壁厚が5cmのウレタンボードである。
図23(a)は保管容器7の開口部101から貯蔵室100を見た断面を示している。保管容器7は保管容器6に対し、蓄熱部14の配置が異なっている点を除き同一構成である。図23(a)に示す保管容器7では冷風吹出口60と温度データ取得箇所P1〜P5の図示は省略している。保管容器7の蓄熱部14は、貯蔵室100の内壁底面部に厚さv1の蓄熱部14aが配置されている。貯蔵室100の側壁部は、底面部から1/3程度の高さまで蓄熱部14aより厚い厚さv2(>v1)の蓄熱部14bが配置されている。また、貯蔵室100の側壁部の下側1/3から内壁上面部までは蓄熱部14aと同じ厚さv1の蓄熱部14cが配置されている。貯蔵室100の内壁上面部には蓄熱材は配置されていない。
図23(b)は保管容器8の開口部101から貯蔵室100を見た断面を示している。保管容器8は保管容器6、7に対し、蓄熱部14の配置と異なっている点を除き同一構成である。図23(b)に示す保管容器8では冷風吹出口60と温度データ取得箇所P1〜P5の図示は省略している。保管容器8の蓄熱部14は、貯蔵室100の内壁底面部及び側壁部全体に厚さv3の蓄熱部14が配置されている。厚さv3は、厚さv1より厚いが厚さv2よりは薄い。貯蔵室100の内壁上面部には蓄熱材は配置されていない。保管容器8で使用する蓄熱材の総重量は保管容器7の蓄熱材の総重量に等しくしている。
このように、保管容器7と保管容器8とは、蓄熱材の総重量が等しい点と貯蔵室100内壁の上部に蓄熱材を配置しない点で同じである。そして、保管容器8の蓄熱材はほぼ一様の厚さで配置されているのに対し、保管容器7の蓄熱材は底部に近い側壁の蓄熱材がそれより上部の蓄熱材より厚くなる配置の分布を有する点で異なっている。
このような、貯蔵室100内壁に蓄熱材を部分配置し、配置の分布を異ならせた2つの保管容器7及び8について、貯蔵室100内の温度を10℃に保持できる時間を熱流体解析により求めた。解析は、保管容器7、8が設置された外気の温度が30℃、40℃の2つの場合について行った。貯蔵室100の庫内の初期温度は0℃に設定した。これは、冷風吹出口60から0℃の冷風で10時間冷却して得られる。貯蔵室100は密閉されており、熱源はなく自然対流のみとした。
図24は解析結果を示すグラフである。図24(a)は、貯蔵室100内の温度を10℃に保持できる平均保持時間を示す棒グラフである。図24(b)は、貯蔵室100内の温度を10℃に保持できる保持時間の位置的分布を示す棒グラフである。両グラフとも縦軸は時間を表している。A1グループは、保管容器7について外気温が30℃のときの結果を示す。A2グループは、保管容器7について外気温が40℃のときの結果を示す。B1グループは、保管容器8について外気温が30℃のときの結果を示す。B2グループは、保管容器8について外気温が40℃のときの結果を示す。図24(b)において、各グループ内の5つの保持時間は、左から右に向かって温度データ取得箇所P1〜P5が順に対応している。図24(a)の各グループの平均保持時間は、図24(b)の各グループ内の温度データ取得箇所P1〜P5の保持時間の平均値である。
図24(a)に示すグラフから次のことが分かる。まず、グループA1、A2の保管容器7の方がグループB1、b2の保管容器8より、貯蔵室100内の温度を10℃に保持できる平均保持時間が若干長い。保管容器7、8の双方とも外気温が30℃のときの平均保持時間は9時間程度が得られている。保管容器7、8の双方とも外気温が30℃のときの平均保持時間は外気温が40℃のときの平均保持時間より2倍程度長い。
図24(b)に示すグラフから次のことが分かる。まず、貯蔵室100内の温度を10℃に保持できる保持時間は、保管容器7、8の双方とも温度データ取得箇所P5が最も長く、温度データ取得箇所P1が最も短い。また、温度データ取得箇所P4、P3、P2の順に保持時間が短くなる。外気温が30℃のときは、保管容器7、8の双方とも4時間を経過すると庫内上部の温度が10℃を超えてしまい、庫内上部とそれ以下の部分とで温度むらが生じる。外気温が40℃のときは、保管容器7、8の双方とも1時間を経過すると庫内上部の温度が10℃を超えてしまい、庫内上部とそれ以下の部分とで温度むらが生じる。
以上の解析により、蓄熱材の材料の削減による製造コストの低減を図ったり、保管容器の構造的制約に依存して部分的に蓄熱材が配置できない場合においては蓄熱材の最適配置を行うことができる。
[第7実施形態]
図25、26は、本発明の第7実施形態に係る保管容器9の説明図である。本実施形態の保管容器9は、第6実施形態の保管容器6と一部共通している。したがって、本実施形態において第6実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図25は断面図であって、保管容器9の開口部101から貯蔵室100を見た状態を示している。図26は、保管容器9の壁材11の一部断面を詳細に示している。図25及び図26に示すように、壁材11は、外気側から貯蔵室100に向かって、断熱部12、内壁部92、空間部91、蓄熱部14、熱反射パネル93の順に配置されている。この構成により、貯蔵室100内の熱反射パネル93で囲まれた空間が貯蔵物の実際の保管領域となる。
図25に示すように、保管容器9では内壁部92の背面側内壁上部に冷風吹出口60が設けられている。冷風吹出口60は水平方向に延びる細長開口を有している。冷風吹出口60の細長開口からは図26に示すように空間部91内に例えば矢印Wの方向に風速10cm/sで冷風が循環するようになっている。このため、保管容器9は、保管容器6と異なり、冷風吹出口60からの冷風を直接貯蔵物に吹き付けることがない。このため、貯蔵物を過剰に乾燥させてしまうことを低減できる。
また、蓄熱部14が空間部91に露出しているので、空間部91内を循環する冷風が蓄熱部14を直接冷却できる。これにより、短時間且つ低消費電力で蓄熱部14を冷却することができる。また、蓄熱部14が熱反射パネル93のほぼ全面に直接取付けられているので、蓄熱部14で熱反射パネル93を一様に冷却することができる。このため、熱反射パネル93で庫内全体をむらなく均一な温度で冷やすことができる。
[第8実施形態]
図27は、本発明の第8実施形態に係る保管容器の説明図である。本実施形態では保管容器として自動販売機200について説明する。自動販売機200はキャビネット201と内扉205と外扉203とを有している。内扉205は、不図示の蝶番機構により開閉可能にキャビネット201に取付けられている。外扉203は、不図示の蝶番機構により内扉205を収容して開閉可能にキャビネット201に取付けられている。外扉203の表側には、商品見本や、商品選択ボタン、金額表示器、金銭投入口、つり銭出口、商品取出口等が配置されている。内扉205は断熱材を有している。図27では、キャビネット201から内扉205と外扉203とを解放した状態を示している。
キャビネット201は、金属製の筐体の内壁部に断熱材が配置されている。断熱材の内側には、複数の縦仕切壁207と2枚の横仕切壁209、209とで囲まれた領域に商品を収納する複数の商品ラック211が配置されている。最上段の商品ラック211の上方には商品投入口215が設けられている。最下段の商品ラック211の下方には商品排出口217が配置されている。
商品ラック211の周囲壁部に蓄熱部213が張り付けられている。蓄熱部213は所望の冷却温度での温度保持を所定時間維持できる蓄熱性能を有する蓄熱材料が用いられている。例えば、第1乃至第7の実施形態で説明した蓄熱材を蓄熱部213に用いることができる。商品排出口217の下方には商品ラック211及び蓄熱部213を冷却する冷却機構219が配置されている。
電力負荷平準化対策として省エネ型自動販売機が知られている。省エネ型自動販売機は、1日の運転モードを通常運転モード、ピークシフトモード、ピークカットモードの3つに分けて冷却機構219を稼働している。ピークシフトモードは、例えば時刻10:00〜13:00に実行され、通常運転時の温度設定より低い温度で冷却運転を行う。また、ピークカットモードは、例えば時刻13:00〜16:00に実行され、この時間帯は冷却機構219の稼働を停止する。
これに対し、本実施形態による自動販売機200によれば、商品ラック211周囲に設けられた蓄熱部213の蓄熱材を通常運転モードで固相状態にしておけば、ピークシフトモードを省略してピークカットモードだけにすることが可能である。これにより、従来の省エネ型自動販売機よりさらに省電力化を達成することができる。また、商品ラック211周囲に設けられた蓄熱部213の蓄熱材をピークシフトモードで固相状態にした場合には、ピークカットモードの持続期間を延ばすことが可能である。これによっても、従来の省エネ型自動販売機よりさらに省電力化を達成することができる。
なお、自動販売機200に加熱機構を備え、蓄熱部213の構成材料を選択して相転移温度を温蔵庫用の温度範囲で使用できるものに代えれば、商品ラック211内を昇温させて温かい商品を販売することもできる。
[第9実施形態]
本発明の第9実施形態の前提となる従来の保管容器の問題点について、シミュレーション結果を用いて説明する。図28は、シミュレーションモデルとしての従来の保管容器300の構成を示している。図28(a)は保管容器300を正面側から見た断面図であり、図28(b)は保管容器300を右側方から見た断面図である。
保管容器300の外寸は、幅が600mmであり、奥行きが600mmであり、高さが650mmである。断熱部12、22の厚さは、側面部では40mmであり、天井部では30mmであり、底面部では100mmである。蓄熱部(潜熱蓄熱材)14、24は、貯蔵室100を画定する庫内内壁に接するように配置されている。蓄熱部14、24の厚さは10mmであり、潜熱量は86kJ/kgであり、密度は0.78g/ccであり、相変化温度は6℃である。貯蔵室100内の冷却時には、温度0℃の冷風が、冷風吹出口60から扉部材20側に向かって流速10cm/s、流量8000cc/sで20時間吹き出される。吹き出された冷風は、排気口62から外部に排気される。貯蔵室100外部の外気温は30℃である。
以上のような条件で貯蔵室100を冷却した後における、貯蔵室100の天井部のほぼ中央の位置P11、扉部材20の内壁面のうち上部の位置P12、扉部材20の内壁面のうち下部の位置P13、貯蔵室100の底面部のほぼ中央の位置P14の4箇所での潜熱蓄熱材のエンタルピーを算出した。図29は、潜熱蓄熱材のエンタルピーの時間変化を示すグラフである。グラフの横軸は貯蔵室100内の冷却が終了した時刻を0としたときの経過時間(h)を表しており、縦軸はエンタルピー(J/kg)を表している。グラフ中の直線L11は、潜熱蓄熱材が完全に融解した状態(液相のみが存在し固相の存在しない状態)のエンタルピーの値を示し、直線L12は、潜熱蓄熱材が完全に凝固した状態(固相のみが存在し液相の存在しない状態)のエンタルピーの値を示している。直線L11、L12で挟まれた領域は、潜熱蓄熱材の相変化領域(潜熱領域)である。曲線C1は位置P11でのエンタルピーを示し、曲線C2は位置P12でのエンタルピーを示し、曲線C3は位置P13でのエンタルピーを示し、曲線C4は位置P14でのエンタルピーを示している。
図29に示すように、経過時間0hの時点で曲線C1が直線L11よりも上にあることから、位置P11の潜熱蓄熱材は、冷却直後でも完全に融解した状態にあることが分かる。すなわち、貯蔵室100内を冷却しても、貯蔵室100の天井部に設けられた潜熱蓄熱材は固化せず、当該潜熱蓄熱材の潜熱を活用できていないことが分かる。このように、従来の保管容器では、貯蔵室100内の上部に設けられた潜熱蓄熱材が十分に固化しないため、保管容器の稼動停止時における潜熱蓄熱材による貯蔵室100内の保冷時間が短くなってしまうという問題がある。仮に、貯蔵室100の上部においても潜熱蓄熱材が十分に固化するように、相変化温度が比較的高い潜熱蓄熱材を用いた場合には、潜熱蓄熱材による貯蔵室100内の保冷温度が高くなってしまう。
図30及び図31は、上記の問題を解決する本実施形態の保管容器の構成の例を示している。本実施形態の保管容器は、第1実施形態の保管容器1と一部共通している。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図30(a)は、本実施形態の実施例1による保管容器401の構成を示す断面図であって、保管容器401の正面開口部側から貯蔵室100を見た状態を示している。図30(a)に示すように、保管容器401の貯蔵室100内壁(庫内壁)のうち底面部及び側面部(図30(a)では示していないが、容器本体10の奥側の側面部、及び扉部材20側の側面部を含む)には、蓄熱部14、24として蓄熱材(潜熱蓄熱材)Aが配置されている。蓄熱材Aとしては、例えばテトラデカン(相変化温度6℃)が用いられる。一方、貯蔵室100内壁の天井部には、蓄熱部14として、蓄熱材Aよりも相変化温度の高い蓄熱材(潜熱蓄熱材)Bが配置されている。蓄熱材Bとしては、例えばテトラデカン及びヘキサデカンの混合物(相変化温度8℃)が用いられる。蓄熱材A、Bは、それぞれ貯蔵室100内壁に接触して設けられている。貯蔵室100内壁のほぼ全域は、蓄熱材A又はBによって覆われている。ここで、本例の保管容器401における貯蔵室100の設定温度範囲(制御温度範囲)は3℃〜7℃である。すなわち、貯蔵室100の制御温度範囲下限は3℃であり、制御温度範囲上限は7℃である。制御温度範囲と蓄熱材A、Bの相変化温度との間には、制御温度範囲下限(3℃)<蓄熱材Aの相変化温度(6℃)<制御温度範囲上限(7℃)<蓄熱材Bの相変化温度(8℃)、の関係がある。なお、本例では蓄熱材Bの相変化温度が制御温度範囲上限よりも高く設定されているが、蓄熱材Bの相変化温度は制御温度範囲上限以下であってもよい。
本実施例では、貯蔵室100内壁のうち天井部以外の部位には相転移温度が比較的低い蓄熱材Aが配置されており、天井部には蓄熱材Aよりも相転移温度が高い蓄熱材Bが配置されている。これにより、稼働中の保管容器401において、上部ほど高温となる温度分布が貯蔵室100内に生じても、天井部以外に設けられた蓄熱材Aだけでなく天井部に設けられた蓄熱材Bも固化させることができる。したがって、貯蔵室100内に設けられた蓄熱材A、Bの潜熱を十分に利用できるため、蓄熱材A、Bによる貯蔵室100内の保冷時間を長くすることができる。また、天井部以外の部位には蓄熱材Bよりも相転移温度が低い蓄熱材Aが配置されているため、貯蔵室100内壁の全てに蓄熱材Bが配置された構成よりも、蓄熱材A、Bによる貯蔵室100内の保冷温度を低くすることができる。したがって本実施例の保管容器401によれば、蓄熱材A、Bによる高い保冷効果を得ることができる。
また、本実施例では、蓄熱材Aの相変化温度が貯蔵室100の制御温度範囲内にあるため、停電等により保管容器401の稼動が停止しても、貯蔵室100内の温度を所定時間制御温度範囲に維持することができる。
図30(b)は、本実施形態の実施例2による保管容器402の構成を示す断面図であって、保管容器402の正面開口部側から貯蔵室100を見た状態を示している。図30(b)に示すように、保管容器402の貯蔵室100内壁の底面部と、側面部(図30(b)では示していないが、容器本体10の奥側の側面部、及び扉部材20側の側面部を含む)のうちの下部とには、蓄熱部14、24として潜熱蓄熱材Aが配置されている。一方、貯蔵室100内壁の天井部と、側面部のうちの上部とには、蓄熱部14、24として、蓄熱材Aよりも相変化温度の高い潜熱蓄熱材Bが配置されている。貯蔵室100内壁のほぼ全域は、蓄熱材A又はBによって覆われている。
本実施例では、実施例1と比較すると、蓄熱材Aよりも相転移温度が高い蓄熱材Bが貯蔵室100内壁の側面部のうちの上部にも配置されている。これにより、稼働中の保管容器401において、上部ほど高温となる温度分布が貯蔵室100内に生じても、貯蔵室100内壁の側面部のうちの上部に設けられた蓄熱材をより確実に固化させることができる。したがって、貯蔵室100内に設けられた蓄熱材A、Bの潜熱を実施例1よりも確実に利用できるため、蓄熱材A、Bによる貯蔵室100内の保冷時間をより長くすることができる。ただし、蓄熱材全体に占める蓄熱材Bの割合が実施例1よりも大きくなるため、保冷温度はやや高くなる。
図31(a)は、本実施形態の実施例3による保管容器403の構成を示す断面図であって、保管容器403の正面開口部側から貯蔵室100を見た状態を示している。図31(a)に示すように、保管容器403の貯蔵室100内壁のうち底面部及び側面部には、蓄熱部14、24として蓄熱材Aが配置されている。一方、貯蔵室100内壁のうち天井部及び側面部には、蓄熱部14、24として、蓄熱材Aよりも相変化温度の高い蓄熱材Bが配置されている。貯蔵室100内壁の側面部では、貯蔵室100内壁に接触して設けられた蓄熱材Bと、蓄熱材Bよりも庫内側に設けられた蓄熱材Aとが積層されている。すなわち、貯蔵室100内壁の側面部には、蓄熱材Aの一部と、蓄熱材Aとは相変化温度の異なる蓄熱材Bの一部とが重畳する重畳部が形成されている。重畳部では、相変化温度の低い蓄熱材Aが庫内側となるように配置されている。重畳部における蓄熱材Bは、蓄熱材Aと断熱部12との間に挟まれるように配置されている。
本実施例では、実施例1と同様の効果が得られるとともに、蓄熱材A、Bの重畳部が形成される貯蔵室100内壁の側面部において、外側に位置する蓄熱材Bによって外部からの入熱を防ぐことができるため、庫内側に位置する相変化温度の低い蓄熱材Aをより確実に固化させることができる。これにより、蓄熱材の潜熱を有効に利用することができるため、保管容器403の蓄熱材による保冷効果を高めることができる。
図31(b)は、本実施形態の実施例4による保管容器404の構成を示す断面図であって、保管容器404の正面開口部側から貯蔵室100を見た状態を示している。図31(b)に示すように、保管容器404は、実施例3の保管容器403において側面部に形成された重畳部と同様の層構成を有する重畳部が、側面部だけでなく天井部及び底面部にも形成されている点に特徴を有している。すなわち、保管容器404における貯蔵室100内壁のほぼ全域には、当該内壁に接触して設けられた蓄熱材Bと、蓄熱材Bよりも庫内側に設けられた蓄熱材Aとが積層されて設けられている。
本実施例によれば、蓄熱材A、Bの重畳部が形成される貯蔵室100内壁のほぼ全域において、外側に位置する蓄熱材Bによって外部からの入熱を防ぐことができるため、庫内側に位置する相変化温度の低い蓄熱材Aをより確実に固化させることができる。これにより、蓄熱材の潜熱を有効に利用することができるため、保管容器404の蓄熱材による保冷効果を高めることができる。
図32は、本実施形態の実施例5による保管容器405の構成を示す断面図である。図32に示すように、保管容器405は、制御温度範囲の異なる2つの貯蔵室102、104を有している。本例では、下方の貯蔵室(冷蔵室)102の制御温度範囲は3℃〜7℃であり、上方の貯蔵室(冷凍室)104の制御温度範囲は−22℃〜−18℃である。
下方の貯蔵室102の内壁のうち底面部及び側面部には、蓄熱部14、24として蓄熱材Aが配置されている。蓄熱材Aの相変化温度は、例えば6℃である。一方、貯蔵室102内壁の天井部には、蓄熱部14として、蓄熱材Aよりも相変化温度の高い蓄熱材Bが配置されている。蓄熱材Bの相変化温度は例えば8℃である。貯蔵室102の制御温度範囲と蓄熱材Aの相変化温度との間には、制御温度範囲下限(3℃)<蓄熱材Aの相変化温度(6℃)<制御温度範囲上限(7℃)、の関係がある。蓄熱材Bの相変化温度は、蓄熱材Aの相変化温度よりも高ければ、制御温度範囲上限以下であってもよいし、制御温度範囲上限以上であってもよい。
上方の貯蔵室104の内壁のうち底面部及び側面部には、蓄熱部14、24として蓄熱材Cが配置されている。蓄熱材Cの相変化温度は、例えば−20℃である。一方、貯蔵室104内壁の天井部には、蓄熱部14として、蓄熱材Cよりも相変化温度の高い蓄熱材Dが配置されている。蓄熱材Dの相変化温度は例えば−18℃である。貯蔵室104の制御温度範囲と蓄熱材Cの相変化温度との間には、制御温度範囲下限(−22℃)<蓄熱材Cの相変化温度(−20℃)<制御温度範囲上限(−18℃)、の関係がある。蓄熱材Dの相変化温度は、蓄熱材Cの相変化温度よりも高ければ、制御温度範囲上限以下であってもよいし、制御温度範囲上限以上であってもよい。
本実施例では、貯蔵室102内壁のうち天井部以外の部位には相転移温度が比較的低い蓄熱材Aが配置されており、天井部には蓄熱材Aよりも相転移温度が高い蓄熱材Bが配置されている。これにより、稼働中の保管容器405において、上部ほど高温となる温度分布が貯蔵室102内に生じても、天井部以外に設けられた蓄熱材Aだけでなく天井部に設けられた蓄熱材Bも固化させることができる。したがって、貯蔵室102内に設けられた蓄熱材A、Bの潜熱を十分に利用できるため、蓄熱材A、Bによる貯蔵室102内の保冷時間を長くすることができる。また、天井部以外の部位には蓄熱材Bよりも相転移温度が低い蓄熱材Aが配置されているため、貯蔵室102内壁の全てに蓄熱材Bが配置された構成よりも、蓄熱材A、Bによる貯蔵室102内の保冷温度を低くすることができる。したがって本実施例によれば、蓄熱材A、Bによる貯蔵室102内の高い保冷効果を得ることができる。
また本実施例では、貯蔵室104内壁のうち天井部以外の部位には相転移温度が比較的低い蓄熱材Cが配置されており、天井部には蓄熱材Cよりも相転移温度が高い蓄熱材Dが配置されている。これにより、稼働中の保管容器405において、上部ほど高温となる温度分布が貯蔵室104内に生じても、天井部以外に設けられた蓄熱材Cだけでなく天井部に設けられた蓄熱材Dも固化させることができる。したがって、貯蔵室104内に設けられた蓄熱材C、Dの潜熱を十分に利用できるため、蓄熱材C、Dによる貯蔵室104内の保冷時間を長くすることができる。また、天井部以外の部位には蓄熱材Dよりも相転移温度が低い蓄熱材Cが配置されているため、貯蔵室104内壁の全てに蓄熱材Dが配置された構成よりも、蓄熱材C、Dによる貯蔵室104内の保冷温度を低くすることができる。したがって本実施例によれば、蓄熱材C、Dによる貯蔵室104内の高い保冷効果を得ることができる。
さらに本実施例では、蓄熱材Aの相変化温度が貯蔵室102の制御温度範囲内にあり、蓄熱材Cの相変化温度が貯蔵室104の制御温度範囲内にあるため、停電等により保管容器405の稼動が停止しても、貯蔵室102、104内の温度をそれぞれ所定時間制御温度範囲に維持することができる。
図33は、保管容器403、404の重畳部等に用いられる蓄熱材A、Bの構成の例を示している。図33(a)に示す例では、蓄熱材A、Bは互いに直接接触するように積層されている。積層された蓄熱材A、Bは、薄いフィルム500等で外側から一体的に覆われることによってパック化されている。図33(b)に示す例では、蓄熱材A、Bは直接接触せず、蓄熱材A、B間には薄いフィルム502等が介在している。蓄熱材A、Bを薄いフィルム等でそれぞれパック化した後にそれらを積層するようにしてもよい。
また、本実施形態において、蓄熱材が貯蔵室内壁に配置されている例を示したが、内壁と断熱材の間に挿入されていてもよい。この場合、蓄熱材を固化させやすくするため、蓄熱材は貯蔵室内壁に接していることが望ましい。
また、本実施形態では、相変化温度が相対的に高い蓄熱材B、Dを貯蔵室の上部に配置する例を挙げたが、相変化温度が相対的に高い蓄熱材B、Dは、貯蔵室内において高温になりやすい他の部分(例えば、角部、圧縮機に近い部分、断熱性能の低い部分など)に配置してもよい。
[第10実施形態]
図35〜図37は、本発明の第10実施形態に係る保管容器の説明図である。本実施形態の保管容器は、上記実施形態の保管容器と一部共通している。したがって、本実施形態において上記実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図35(a)は、本実施形態の実施例1による保管容器501の構成を示す断面図であって、保管容器501の正面開口部側から貯蔵室100を見た状態を示している。図35(a)に示すように、保管容器501の貯蔵室100内には、棚部材510、511、512が上からこの順に、貯蔵室100を鉛直方向にほぼ四等分にするように配置されている。棚部材510、511、512は、保管容器501の設置状態で表面が鉛直方向に対して水平になるように配置されている。棚部材510、511、512は、貯蔵物を載置するために貯蔵室100内に配置されている。
本実施例による保管容器501の壁材11は、蓄熱部を有していない。本実施例では、棚部材510が蓄熱部として蓄熱材(潜熱蓄熱材)550を有し、棚部材511が蓄熱部として蓄熱材(潜熱蓄熱材)551を有し、棚部材512が蓄熱部として蓄熱材(潜熱蓄熱材)552を有している。蓄熱材550は、蓄熱材551よりも上方に配置されている。蓄熱材551は、蓄熱材552よりも上方に配置されている。本実施例では、蓄熱材550の相変化温度は、蓄熱材551の相変化温度よりも高くなっている。また、蓄熱材551の相変化温度は、蓄熱材552の相変化温度よりも高くなっている。このため、保管容器501の稼働中に貯蔵室100内には、上方ほど温度が高く下方ほど温度が低くなる温度分布が生じているが、蓄熱材550、551、552はいずれも相変化温度以下に冷却されて固相に維持される。本実施例による保管容器501は、停電時等に蓄熱材550、551、552の潜熱を活用して貯蔵室100内を保冷し、貯蔵室100内を制御温度範囲に所定時間維持することができる。
図35(b)は、本実施形態の実施例2による保管容器502を右側方から見た断面図である。図35(b)に示すように、本実施例の保管容器502は、壁材11、21に蓄熱部が配置されておらず、棚部材510、511、512に蓄熱部として蓄熱材550、551、552が配置されている。蓄熱材550は、蓄熱材551よりも扉部材20の近くに配置されている。蓄熱材551は、蓄熱材552よりも扉部材20の近くに配置されている。本実施例では、蓄熱材550の相変化温度は、蓄熱材551の相変化温度よりも高くなっている。また、蓄熱材551の相変化温度は、蓄熱材552の相変化温度よりも高くなっている。このため、貯蔵室100内には、パッキンP部分から外気の熱が流入し、扉部材20に近いほど温度が高くなり、扉部材20から遠いほど温度が低くなる温度分布が生じるが、蓄熱材550、551、552はいずれも相変化温度以下に冷却されて固相に維持される。本実施例による保管容器501は、停電時等に蓄熱材550、551、552の潜熱を活用して貯蔵室100内を保冷し、貯蔵室100内を制御温度範囲に所定時間維持することができる。
図36は、本実施形態の実施例3による保管容器503の構成を示す断面図であって、保管容器503の正面開口部側から貯蔵室100を見た状態を示している。保管容器503では、貯蔵室100の背面側内壁上部に冷風吹出口60が設けられている。冷風吹出口60は、棚部材510よりも上方に設けられている。
本実施例では、棚部材510が蓄熱部として蓄熱材552を有し、棚部材511が蓄熱部として蓄熱材551を有し、棚部材512が蓄熱部として蓄熱材550を有している。蓄熱材550を備えた棚部材512は、蓄熱材551を備えた棚部材511よりも冷風吹出口60から遠い位置に配置されている。また、蓄熱材551を備えた棚部材511は、蓄熱材552を備えた棚部材510よりも冷風吹出口60から遠い位置に配置されている。また、本実施例では、蓄熱材550の相変化温度は、蓄熱材551の相変化温度よりも高くなっている。また、蓄熱材551の相変化温度は、蓄熱材552の相変化温度よりも高くなっている。
保管容器503の貯蔵室100内には、冷風吹出口60に近いほど温度が低くなり、冷風吹出口60から遠いほど温度が高くなる温度分布が生じている。棚部材の中で最も温度が低い領域に配置される棚部材510には、相変化温度が相対的に低い蓄熱材552が配置されている。また、棚部材の中で最も温度が高い領域に配置される棚部材512には、相変化温度が相対的に高い蓄熱材550が配置されている。このため、蓄熱材550、551、552はいずれも相変化温度以下に冷却されて固相に維持される。本実施例による保管容器503は、停電時等に蓄熱材550、551、552の潜熱を活用して貯蔵室100内を保冷し、貯蔵室100内を制御温度範囲に所定時間維持することができる。
図37は、本実施形態の実施例4による保管容器504の構成を示す断面図であって、保管容器504の正面開口部側から貯蔵室100を見た状態を示している。貯蔵室100の内壁は、壁材11に備えられた蓄熱材550によって覆われている。また、図37に示すように、棚部材510には蓄熱材551が配置され、棚部材511、512には、蓄熱材552が配置されている。蓄熱材550の相変化温度は蓄熱材551の相変化温度よりも高く、蓄熱材551の相変化温度は蓄熱材552の相変化温度よりも高い。
貯蔵室100の内壁近傍は相対的に温度が高くなっている。このため、壁材11には、相対的に相変化温度の高い蓄熱材550を配置している。また、貯蔵室100内の上方に配置された棚部材510は、中程度の相変化温度の蓄熱材551を備えている。貯蔵室100内の中央から下方に配置された棚部材511、512は、相対的に相変化温度の低い蓄熱材552を備えている。蓄熱材550、551、552はいずれも相変化温度以下に冷却されて固相に維持される。本実施例による保管容器504は、停電時等に蓄熱材550、551、552の潜熱を活用して貯蔵室100内を保冷し、所定時間、貯蔵室100内を制御温度範囲に維持することができる。
本実施形態では、相対的に温度が高くなる領域に相変化温度の高い蓄熱材が配置されている。本実施形態による保管容器は、停電時等に蓄熱材の潜熱を活用して貯蔵室100を保冷することができる。
次に、図38〜図40を用いて、棚部材についてより詳細に説明する。以下では、棚部材520を例に挙げて説明するが、棚部材520の構成は、棚部材510、511、512に適用可能である。
図38(a)は、本例による棚部材520を正面から見た状態を示している。棚部材520は、棚板600を有している。棚板600は、長方形平板形状を有している。棚板600の表面600aには、例えば食品等の貯蔵物が載置されるようになっている。また、棚板600は、貯蔵室の内壁に設けられている一対の棚支持部602上に載置されている。一対の棚支持部602は、貯蔵室の左右の内壁に水平対向するように設けられている。保管容器の設置状態で表面600aが鉛直方向に対して水平になるように棚板600の端部が棚支持部602上に載置される。
図38(b)は、棚部材520を棚板600の裏面600b側から見た状態を示している。図38(a)および図38(b)に示すように、棚板600の裏面600bには、蓄熱材(潜熱蓄熱材)604が配置されている。蓄熱材604は、パック材606で薄板状なるようにパックされている。蓄熱材604をパックしているパック材606は、裏面600bに接着剤で張り付けられている。このように、蓄熱材604は、棚部材600に備えられている。
図38(c)は、棚部材520の作成方法を示す図である。裏面600bと対抗するパック材606の表面に接着剤を塗布し、図中白抜き矢印で示す方向にパック材606を移動させ、裏面600bにパック材606を接着する。これにより、棚板600と蓄熱材604とが一体化された棚部材520が作成される。
次に、棚部材520の別の構成について説明する。図39(a)は、本例による棚部材520を正面から見た断面図である。図39(b)は、本例による棚部材520を棚板600の裏面600b側から見た状態を示している。本例の棚部材520は、棚板600とトレイ608とを備えている。トレイ608は、一対の棚支持部602上に設置可能な細長状で平行に延びる一対の縁部608aを有している。一対の縁部608aの間には、パック材606でパックされた蓄熱材604を収容可能な深さの凹部が形成されている。棚板600は、一方の縁部608aから他方の縁部608aに亘って凹部に蓋をするように配置されている。一対の棚支持部602の上方の棚板600の裏面600bと一対の縁部608a上面とは熱圧着等で接着されている。また、棚板600に突起を設け、一対の縁部608aに穴を設けて、当該突起を当該穴に差し込むことにより、棚板600を棚支持部602に固定してもよい。
図39(c)は、本例の棚部材520の作成方法を示している。トレイ608の凹部内に蓄熱材604を収容した後に、凹部に蓋をするように棚板600をトレイ608上に設置する。これにより、本例の棚部材520は作成される。
さらに、棚部材520の別の構成について説明する。図40(a)は、本例による棚部材520を正面から見た断面図である。図40(b)は、本例による棚部材520を棚板600の裏面600b側から見た状態を示している。本例の棚部材520は、蓄熱材604がパックされていないことに特徴を有している。本例の棚部材520は、棚板600とトレイ608とで蓄熱材604を密封している。このため、蓄熱材604は、パック材でパックされていなくてもよい。
次に、図40(c)および図40(d)を用いて、本例の棚部材520の作成方法について説明する。図40(c)および図40(d)に示すように、蓄熱材604をトレイ608内に収納する前に、棚板600とトレイ608とを一体化する。棚板600には注入口600cが設けられている。棚板600と、トレイ608とを一体化した後、注入口600cからトレイ608の凹部に蓄熱材604を注入する。注入口600cは、棚板600を貫通する円形状の穴である。蓄熱材604を注入した後に、注入口600cを塞いで、棚部材520が作成される。
[第11実施形態]
図41は、本発明の第11実施形態に係る保管容器の説明図である。本実施形態の保管容器は、上記実施形態の保管容器と一部共通している。したがって、本実施形態において上記実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図41は、本実施形態による保管容器505の構成を示す断面図であって、保管容器505の正面開口部側から貯蔵室100を見た状態を示している。図41に示すように、貯蔵室100の天井部には、蓄熱材550を備えたトレイ608が配置されている。一対の縁部608aと貯蔵室608の天井部とはネジ等で固定されている。また、天井部に鉤状の突起を設け、一対の縁部608aに所定形状の穴を設けて、当該突起を当該穴に咬ませて、トレイ608を貯蔵室100の天井部に固定してもよい。
[第12実施形態]
図42〜図45は、本発明の第12実施形態による保管容器が備える棚部材の説明図である。本実施形態の保管容器は、上記実施形態の保管容器と一部共通している。したがって、本実施形態において上記実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図42は、本実施形態の実施例1による保管容器が備える棚部材522の説明図である。図42(a)は、棚部材522を正面から見た図である。図42(b)は、棚部材522を棚板600の裏面600b側から見た図である。図42(c)は、棚部材522を側面から見た図である。
棚部材522は、硬性の容器607に封入された蓄熱材604を有している。容器607は、棚板600の裏面600b側に配置されている。容器607は、薄板形状を有している。また、容器607には鉤状の引っかけ部610が四つ設けられている。引っかけ部610は、棚板600に引っかかっている。これにより、容器607は、棚板600に取り付けられる。
図43は、本実施形態の実施例2による保管容器が備える棚部材524の説明図である。図43(a)は、棚部材524を正面から見た断面図である。図43(b)は、棚部材524を棚板600の裏面600b側から見た図である。
棚部材524は、硬性の容器609を有している。容器609には、蓄熱材604が封入されている。棚板600と容器609とには、互いに対抗する穴が4つずつそれぞれに設けられており、これらの穴にリベット612が差し込まれている。これにより、容器609は、棚板600に固定される。また、容器609は、裏面600bを法線方向に見て、コの字型形状を有している。当該形状を有する容器609は、棚部材524の下方のスペースを広くすることができる。
図44は、本実施形態の実施例3による保管容器が備える棚部材526の説明図である。図44(a)は、棚部材526を正面から見た断面図である。図44(b)は、棚部材526を棚板600の裏面600b側から見た図である。
棚板600は、裏面600bの一部と、裏面600bと直行する一側面の一部を開口した溝614を備えている。溝614は、表面600a側が相対的に幅広に形成され、裏面600b側が相対的に狭くなるように形成されている。溝614は、裏面600b側を下にしてみると、断面がT字状になるように形成されている。
容器609の裏面600bとの対向面には、溝614に沿うようなT字状の凸部616が設けられている。凸部616は、溝614とほぼ同じ長さに形成されている。凸部616は、溝614に嵌るようになっている。溝614に凸部616を嵌め込むことにより、容器609は、棚板600に固定される。
図45は、本実施形態の実施例4による保管容器が備える棚部材528の説明図である。図45(a)は、棚部材528を正面から見た断面図である。図45(b)は、棚部材528を棚板600の裏面600b側から見た図である。
棚部材528は、硬性の容器611を2つ有している。容器611には、蓄熱材604が封入されている。棚板600と容器611とには、互いに対抗する穴が2つずつそれぞれに設けられており、これらの穴にリベット612が差し込まれている。これにより、容器611は、棚板600に固定される。また、容器611は、裏面600bを法線方向に見て、L字型形状を有している。当該形状を有する容器611は、棚板600の幅に関係なく、棚板600に取り付けることができる。
上記実施形態および本実施形態では、棚板600の裏面600b側に蓄熱材を配置する棚部材の構成を示したが、棚部材の構成はこれに限られない。例えば、棚部材は、棚板600の表面600a側に蓄熱材を配置するように構成されていてもよい。
また、上記実施形態および本実施形態では、棚板600に蓄熱材604を取り付ける方法として、リベットによる固定方法や、T字状の雌型(溝614)にT字状の雄型(凸部616)をはめ込む方法を示したが、取り付け方法はこれに限らない。例えば、棚板600と蓄熱材604とに同形状のねじ穴を設けて、ねじで棚板600に蓄熱材604を固定してもよい。また、接着剤や粘着テープ等を用いて、棚板600に蓄熱材604を張り付けてもよい。超音波熱圧着により棚板600と蓄熱材604とを完全に固定してもよい。また、蓄熱材604は棚板600に完全に固定されていてもよい。また、蓄熱材604は、棚板600に着脱可能であってもよい。また、これらを組み合わせて、棚板600に蓄熱材604を取り付けてもよい。
[第13実施形態]
次に、保管容器に用いられる蓄熱材の相変化温度(融点)の測定方法について説明する。まず、図21(b)を参照して、DSCによる蓄熱材の相変化温度の測定方法について説明する。相変化温度は、仮想直線X1と仮想直線X2との交点Cの温度として求める。
また、蓄熱材を加熱し、蓄熱材が融解したか否かを目視で判断し、融解した温度を蓄熱材の相変化温度とする方法がある。この場合には、目視ではなく、蓄熱材の光の透過率を計測して、蓄熱材の透過率が変化した時点の温度を相変化温度としてもよい。
また、一定熱量で加熱又は冷却している蓄熱材の試料に熱電対を差し込み、温度変化がほぼ見られなくなった温度を相変化温度としてもよい。
[第14実施形態]
次に、保管容器に用いられる蓄熱材の種類について説明する。まず、図46(a)を用いて、蓄熱材A1と蓄熱材A2とを用いる例について説明する。図46(a)は、DSCによる昇温測定に基づいて蓄熱材A1、A2の相変化温度(吸熱ピーク温度)を測定した結果を示している。図46(a)〜図46(c)では、横軸は温度tを表し、縦方向は熱量を表している。また、図46(a)〜図46(c)では、DSCの炉を所定の昇温レートで加熱した場合の測定結果を実線の波形で示している。図46(a)では、蓄熱材A1の測定結果を波形a1で示し、蓄熱材A2の測定結果を波形a2で示している。また、蓄熱材A1、A2が固相から液相への相転移を開始する以前の波形の直線部分を高温側に延長して破線で示す仮想直線Xとする。また、蓄熱材A1が相転移を開始した後で最大吸熱量となる前の波形a1の直線部分を延長して破線で示す仮想直線Y1とする。また、蓄熱材A2が相転移を開始した後で最大吸熱量となる前の波形a2の直線部分を延長して破線で示す仮想直線Y2とする。蓄熱材A1の相変化温度は、仮想直線Xと仮想直線Y1との交点b1の温度になる。蓄熱材B1の相変化温度は、仮想直線Xと仮想直線Y2との交点b2の温度になる。
蓄熱材A1、A2は、配置場所の温度に応じて、別々に配置される。本例では、蓄熱材A1の相変化温度は蓄熱材A2の相変化温度よりも高い。このため、蓄熱材A1は、相対的に温度の高い場所に配置される。また、蓄熱材A2は、相対的に温度の低い場所に配置される。このように、配置場所の温度に応じて材料の異なる蓄熱材を配置するとよい。配置場所に合った蓄熱材を選択すると、蓄熱材の潜熱を貯蔵室の保冷に有効に活用することができる。
次に、図46(b)を用いて、複数の吸熱ピーク温度が得られる蓄熱材について説明する。図46(b)は、複数(2つ)の吸熱ピーク温度が得られたDSCによる昇温測定結果を波形a3で示している。このように、吸熱ピーク温度が2つ得られる材料には、ペンタデカンがある。また、例えば、蓄熱材A1と蓄熱材A2とをそれぞれマイクロカプセル化し、当該マイクロカプセルを同一のパック材や棚部材に封入して、一つの蓄熱部で吸熱ピーク温度が2つ得られるようにしてもよい。このような、複数(2つ)の吸熱ピーク温度が得られる蓄熱部は、配置場所の選択余地が広げられる。このため、保管容器の材料や部材の簡略化ができる。
次に、図46(c)を用いて、温度幅の広い吸熱ピーク温度が得られる蓄熱材(ブロードピーク型)について説明する。図46(c)は、温度幅の広い吸熱ピーク温度が得られたDSCによる昇温測定結果を波形a4で示している。このように、温度幅の広い吸熱ピーク温度が得られる材料には、天然油がある。温度幅の広い吸熱ピーク温度が得られる材料では、融点開始点と融点終了点との間に温度幅がある。
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。