A.第1実施形態:
A−1.スパークプラグの構成:
以下、本発明の実施の態様を実施形態に基づいて説明する。図1は本実施形態のスパークプラグ100の断面図である。図1の一点破線は、スパークプラグ100の軸線CO(軸線COとも呼ぶ)を示している。軸線COと平行な方向(図1の上下方向)を軸線方向とも呼ぶ。軸線COを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、軸線COを中心とする円の周方向を、単に「周方向」とも呼ぶ。図1における下方向を先端方向FDと呼び、上方向を後端方向BDとも呼ぶ。図1における下側をスパークプラグ100の先端側と呼び、図1における上側をスパークプラグ100の後端側と呼ぶ。スパークプラグ100は、絶縁体としての絶縁碍子10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、を備える。
絶縁碍子10はアルミナ等を焼成して形成されている。絶縁碍子10は、軸線方向に沿って延び、絶縁碍子10を貫通する貫通孔12(軸孔)を有する略円筒形状の部材である。絶縁碍子10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、段部15と、脚長部13とを備えている。後端側胴部18は、鍔部19より後端側に位置し、鍔部19の外径より小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19より先端側に位置し、後端側胴部18の外径より小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17より先端側に位置し、先端側胴部17の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13は先端側ほど縮径され、スパークプラグ100が内燃機関(図示せず)に取り付けられた際には、その燃焼室に曝される。段部15は、脚長部13と先端側胴部17との間に形成されている。
主体金具50は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成され、内燃機関のエンジンヘッド(図示省略)にスパークプラグ100を固定するための円筒状の金具である。主体金具50は、軸線COに沿って貫通する挿入孔59が形成されている。主体金具50は、絶縁碍子10の外周に配置される。すなわち、主体金具50の挿入孔59内に、絶縁碍子10が挿入・保持されている。絶縁碍子10の先端は、主体金具50の先端から露出し、絶縁碍子10の後端は、主体金具50の後端から露出している。
主体金具50は、スパークプラグレンチが係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関に取り付けるための取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状のシール部54と、を備えている。ここで、取付ネジ部52の呼び径は、例えば、M8(8mm(ミリメートル))、M10、M12、M14、M18のいずれかとされている。
主体金具50の取付ネジ部52とシール部54との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、スパークプラグ100が内燃機関に取り付けられた際に、スパークプラグ100と内燃機関(エンジンヘッド)との隙間を封止する。
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、シール部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間に形成される環状の領域には、環状のリング部材6,7が配置されている。当該領域における2つのリング部材6,7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁碍子10の外周面に固定されている。主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、絶縁碍子10の外周面に固定された加締部53が先端側に押圧されることにより、圧縮変形部58は圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、リング部材6、7およびタルク9を介し、絶縁碍子10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。環状の板パッキン8を介して、主体金具50の内周で取付ネジ部52の位置に形成された段部56(金具側段部)によって、絶縁碍子10の段部15(絶縁碍子側段部)が押圧される。この結果、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁碍子10との隙間から外部に漏れることが、板パッキン8によって防止される。
中心電極20は、軸線COに沿って延びる棒状の部材であり、絶縁碍子10の貫通孔12に挿設されている。中心電極20は、電極本体21と、電極本体21の内部に埋設された芯材22と、電極チップ29と、を含む構造を有する。電極本体21は、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金(インコネル600(アルファベットのINCONELは登録商標)等)で形成されている。芯材22は、電極本体21を形成する合金よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金で形成されている。中心電極20の先端は、絶縁碍子10の先端から先端方向FDに露出している。
また、中心電極20は、軸線方向の所定の位置に設けられた鍔部24(電極鍔部、フランジ部とも呼ぶ。)、鍔部24よりも後端側の部分である頭部23(電極頭部)と、鍔部24よりも先端側の部分である脚部25(電極脚部)と、を備えている。鍔部24は、絶縁碍子10の段部16に支持されている。中心電極20の脚部25の先端部分には、電極チップ29が、例えば、レーザ溶接によって接合されている。この中心電極20の脚部25の先端部分の構成については、図2、図3を参照して後述する。
接地電極30は、主体金具50の先端に接合されている。接地電極30の電極本体は耐腐食性の高い金属、例えば、インコネル600などのニッケル合金で形成されている。この接地電極30の母材基端部32は、主体金具50の先端面に溶接にて接合されている。この結果、接地電極30は、主体金具50と電気的に導通している。接地電極30の母材先端部31は、屈曲されており、母材先端部31の一側面は、中心電極20の電極チップ29と、軸線CO上で軸線方向に対向している。母材先端部31の当該一側面には、中心電極20の電極チップ29と対抗する位置に電極チップ33が溶接されている。電極チップ33は、例えば、Pt(白金)または、Ptを主成分とする合金、具体的には、Pt−20Ir合金(20質量%のイリジウムを含有した白金合金)など用いられる。中心電極20の電極チップ29と、接地電極30の電極チップ33の間には火花ギャップが形成される。
端子金具40は、軸線COに沿って延びる棒状の部材である。端子金具40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、その表面は、防食のための金属層(例えば、Ni層)がめっきなどによって形成されている。端子金具40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42(端子顎部)と、鍔部42より後端側に位置するキャップ装着部41と、鍔部42より先端側の脚部43(端子脚部)と、を備えている。端子金具40の後端を含むキャップ装着部41は、絶縁碍子10の後端側に露出している。端子金具40の先端を含む脚部43は、絶縁碍子10の貫通孔12に挿入(圧入)されている。キャップ装着部41には、高圧ケーブル(図示外)が接続されたプラグキャップが装着され、火花を発生するための高電圧が印加される。
絶縁碍子10の貫通孔12内において、端子金具40の先端と中心電極20の後端との間の領域には、火花発生時の電波ノイズを低減するための抵抗体70が配置されている。抵抗体は、例えば、主成分であるガラス粒子と、ガラス以外のセラミック粒子と、導電性材料と、を含む組成物で形成されている。貫通孔12内における、抵抗体70と中心電極20との隙間は、導電性シール60によって埋められ、抵抗体70と端子金具40との隙間は、ガラスと金属との導電性シール80によって埋められている。
A−2. 中心電極の先端部分の構成:
図2は、中心電極20の先端部分の拡大斜視図である。図2においては、図1とは反対に、図の上方が先端方向FDであり、図の下方が後端方向BDである。後述する図3、図4についても同様である。
中心電極20の脚部25(電極本体21)の先端部分には、後端側から先端方向FDに向かって外径が小さくなる縮径部26と、縮径部26の先端側に位置する円柱状の台座部27と、が形成されている。台座部27の先端側には、円柱状の電極チップ29がレーザ溶接によって接合されている。電極チップ29の材料には、例えば、イリジウム(Ir)や、Irを主成分とする合金が用いられ、具体的には、Ir−5Pt合金(5質量%の白金を含有したイリジウム合金)などが用いられる。レーザ溶接によって、電極チップ29と台座部27との間には、台座部27の成分と電極チップ29の成分とが溶融した溶融部28が形成されている。なお、本実施形態では、スパークプラグ100の軸線COと、電極チップ29の軸線と、は一致している。したがって、軸線COは、電極チップ29の軸線COとも言うことができる。なお、電極チップ29の直径は、これに限られるものではないが、例えば、0.3mm以上3.5mm以下であることが好ましく、0.4mm以上2.6mm以下であることがより好ましい。
台座部27の径は、電極チップ29の径より大きい。このため、溶融部28の外周面(外表面とも呼ぶ)は、後端側から先端方向FDに向かって縮径した円錐台形状を有している。そして、溶融部28の外周面は、その先端側に、ハッチングで示すように電極チップ29の外周面(側面とも呼ぶ)29C上に露出している露出部位28Cを含んでいる。この露出部位28Cは、電極チップ29の外周面29Cの後端より先端方向FD側に位置する、いわゆる溶接だれ(だれのぼり)を含んでいる。電極チップ39の外周面を周方向に一周見た場合に、露出部位28Cのうち、最も後端方向BD側に位置する点をA1とする(図2)。この点A1は、溶融部28の外周面のうち、溶接だれが発生している部位を除いて、最も先端方向FD側の部位とも言うことができる。また、この点A1は、電極チップ29の外周面29C上に位置する、溶融部28の外周面の先端を示す線OL1上の点のうち、最も後端方向BDに位置する点とも言うことができる。
図3は、点A1と、電極チップ29の軸線COと、を含む断面CS1を示す図である。断面CS1は、電極チップ29の先端面(ギャップ形成面)29Aの中心点OC1を通る。図3から解るように、本実施形態では、電極チップ29の後端面が全体に亘って溶融部28と接触している。換言すれば、レーザ溶接によって十分に深い溶融部28が形成されているので、電極チップ29と台座部27とが直接接触している部位はない。図3の断面CS1において、電極チップ29の軸線COと、電極チップ29と溶融部28との境界線BL1と、の交点を、点X1とする。点X1は、軸線COと、電極チップ29の後端面と、の交点とも言うことができる。
図3の断面CS1において、溶融部28と台座部27(電極本体21)との境界線BJ1のうち最も後端方向BD側に位置する点をB1とする。なお、台座部27の径は、電極チップ29の径より大きいので、台座部27の外周面上に溶接だれは発生しない。そして、図3の断面CS1において、電極チップ29の軸線COと、溶融部28と台座部27との境界線BJ1と、の交点を、点Y1とする。点Y1は、軸線COと、台座部27の先端面と、の交点とも言うことができる。
レーザ溶接を外周面側から行うために、点A1は、点X1より先端方向FD側に位置している。また、点B1は、点Y1より後端方向BD側に位置している。すなわち、溶融部28において、外周面の軸線方向の長さ(単に厚さとも呼ぶ)E1は、軸線CO上における厚さF1より長い。
ここで、点A1と点X1を結ぶ線分AX1と、点X1を通り電極チップ29の軸線COと直交する直線HL1とがなす鋭角の角度を、θ11(単位は、度)とする。θ11が大きいほど、溶融部28の外周面は、電極チップ29側に拡がっている。また、点B1と点Y1を結ぶ線分BY1と、点Y1を通り電極チップ29の軸線COと直交する直線HJ1とがなす鋭角の角度を、θ12(単位は、度)とする。θ12が大きいほど、溶融部28の外周面が台座部27側に拡がっている。上述したように、点A1は、点X1より先端方向FD側に位置しているので、θ11が0度になることはない(0<θ11)。同様に、点B1は、点Y1より後端方向BD側に位置しているので、θ12が0度になることはない(0<θ12)。
図3の断面CS1において、溶融部28と電極チップ29との境界線BL1は、電極チップ29と直交する直交方向との間の鋭角、すなわち、直線HL1との間の鋭角が±2度未満である直交部PL1を含んでいる。図3における点C1から点C1'までの部位が、境界線BL1の直交部PL1である。
また、溶融部28と台座部27(電極本体21)との境界線BJ1は、電極チップ29と直交する直交方向との間の鋭角、すなわち、直線HJ1との間の鋭角が±2度未満である直交部PJ1を含んでいる。図3における点D1から点D1'までの部位が、境界線BJ1の直交部PJ1である。
境界線BL1の直交部PL1を第1の直交部PL1とも呼び、境界線BJ1の直交部PJ1を第2の直交部PJ1とも呼ぶ。図3の断面における第1の直交部PL1の長さ(点C1から点C1'までの長さ)をL1とする。また、図3の断面における第2の直交部PJ1の長さ(点D1から点D1'までの長さ)をJ1とする。
さらに、図3の断面CS1において、点A1が接する側の電極チップ29の外周面(図3の左側の側面)とは反対側の外周面(図3の右側の側面)と接する溶融部28の部位のうち、最も後端方向BD側に位置する点を点A1'とする。図3の例では、反対側の外周面には溶接だれ28C(側面への露出部位28C)が発生しているので、点A1'は、溶接だれ28Cの後端の位置となっている。点A1と点A1'との間の、軸線COと直交する方向の長さをM1とする。長さM1は、電極チップ29の径とほぼ等しい。点A1と点A1'との間の長さM1に対する第1の直交部PL1の長さL1の比率(L1/M1)を第1の直交比率(L1/M1)とも呼ぶ。
また、溶融部28のうち、点B1が位置する外周面とは反対側の外周面に露出する部位の最も後端方向BD側に位置する点を点B1'とする。そして、点B1と点B1'との間の、軸線COと直交する方向の長さをK1とする。長さK1は、台座部27の先端の径とほぼ等しい。点B1と点B1'との間の長さK1に対する第2の直交部PJ1の長さJ1の比率(J1/K1)を第2の直交比率(J1/K1)とも呼ぶ。
なお、溶融部28の軸線CO上における厚さF1は、点X1と点Y1との間の軸線方向の長さと、言うことができる。また、溶融部28の外周面における厚さE1は、点A1と点B1との間の軸線方向の長さと、言うことができる。
A−2. 台座部27(電極本体21)と、電極チップ29との溶接方法:
図4は、台座部27と電極チップ29との溶接方法について説明する図である。本実施形態では、YAGレーザより、細く、かつ、深い溶融部を形成可能であるファイバーレーザを用いて、台座部27と電極チップ29とを溶接している。
図4には、溶接前の電極チップ290を、溶接前の台座部270に対して固定されて様子を示している。所定の治具(図示省略)を用いて、台座部270の軸線と電極チップ290の軸線と、が一致するように、固定される。溶接前の電極チップ29の軸方向の長さ(厚さ)H1'は、これに限られるものではないが、例えば、0.2mm以上3.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以上2.2mm以下であることがより好ましい。
この状態で、電極チップ290と、台座部270と、の接触面の照射位置LPに対して、ファイバーレーザ照射装置300からレーザLZが照射される。レーザLZは、軸線COと垂直な方向に沿って照射される。図4の例では、照射位置LPは、電極チップ290の後端面290Bと、台座部270の先端面270Uと、の接触面上に位置している。そして、ファイバーレーザ照射装置300に対して、電極チップ290と台座部270(ワークとも呼ぶ)とが軸線COを中心に、相対的に回転されることによって、電極チップ290と、台座部270と、の接触面の外縁に対して、全周に亘って、レーザLZが照射される。なお、本実施形態では、間欠的にレーザLZを照射するのではなく、連続的にレーザLZが照射される。この結果、図3に示す溶融部28が電極チップ29と台座部27との間に形成される。
ここで、また、溶融部28の軸線CO上の厚さF1を大きくすることができる。レーザLZの照射位置LPを先端側(電極チップ29側)にずらすほど、溶融部28における電極チップ29の成分の含有率を増加させ、台座部27の成分の含有率を低減させることができる。また、溶融部28の軸線CO上の厚さF1を小さくすることができる。
レーザLZの照射条件を変更することによって、様々な形状の溶融部28を形成することができる。例えば、ファイバーレーザ照射装置300に対するワークの回転速度が、早いほど溶融部28の軸線CO上の厚さF1を小さくすることができる。レーザLZのエネルギーが、大きいほど溶融部28の軸線CO上の厚さF1を大きくすることができる。また、レーザLZの集光位置GPを、図4の照射位置LPから径方向外側に遠ざけるほど、溶融部28の軸線CO上の厚さF1を大きくすることができる。
また、ワークの回転速度を速く、かつ、レーザLZのエネルギーを強くすることによって、溶融部28の軸線CO上の厚さF1に対して、溶融部28の外周面の厚さE1が大きくなることを抑制できる。溶融部28の軸線CO上の厚さF1に対して、溶融部28の外周面の厚さE1が大きくなることを抑制することによって、上述した角度θ11、θ12が大きくなることを抑制することができる。また、例えば、レーザLZの集光位置GPをワークに近づけることによって、第1の直交部PL1や第2の直交部PJ1の長さを長くすることができ、第1の直交比率(L1/M1)や、第2の直交比率(J1/K1)を高くすることができる。なお、ワークの回転速度を速くすることが、溶融部28の外周面の厚さE1の抑制、および、角度θ11、θ12の抑制に、最も効果的である。また、照射位置LPを電極本体21(台座部27)側にずらすほど、θ12に対してθ11が大きくなり、照射位置LPを電極チップ29側にずらすほど、θ12に対してθ11が小さくなる。
上記構成のスパークプラグ100では、溶融部28は、電極チップ29の軸線COの位置において、電極チップ29と接触している(図3の点X1)。すなわち、溶融部形成前(レーザ溶接を行う前)における台座部27(電極本体21)と、電極チップ29との接触領域とのうち、比較的広い範囲に亘って、溶融部28が形成されている。この結果、溶接強度が向上し、電極チップ29の剥離の抑制、すなわち、耐剥離性の向上を実現できる。
なお、図3から解るように、電極チップ29の軸線COに沿った2つの方向のうち、溶融部28から見て電極チップ29側の方向は、第1実施形態では、先端方向FDである。また、溶融部28から見て台座部27(電極本体21)側の方向は、第1実施形態では、後端方向BDである。したがって、第1実施形態の中心電極20では、先端方向FDが、特許請求の範囲における第1方向に対応し、後端方向BDが、特許請求の範囲における第2方向に対応する。
A−4:第1評価試験:
第1実施形態におけるスパークプラグ100の溶融部28の形状が互いに異なる15種類のサンプル1−1〜1−15を作成して評価を行った(表1)。各サンプルは、上述したレーザ溶接のレーザの照射条件を変更することによって、上述したθ11と、θ12との角度を互いに異ならせている。なお、各サンプルの電極チップ29の材料には、上述したIr−5Pt合金(5質量%の白金を含有したイリジウム合金)が用いられ、電極本体21(台座部27)の材料には、上述したインコネル600が用いられた。
各サンプルに共通のスパークプラグ100に共通な寸法は、以下のとおりである。
電極チップ29の直径:0.6mm
電極チップ29の溶接前の厚さH1':0.5mm
台座部27の溶接前の先端の直径:0.9mm
表1には、各サンプルの上述したθ11と、θ12との角度が示されている。表1に示すように、各サンプルでは、θ11は、6度、8度、10度、12度、14度のいずれかとされている。各サンプルでは、θ12は、3度、5度、7度のいずれかとされている。
各サンプルについて、耐消耗性の評価試験としての火花試験と、耐剥離性の評価試験としての冷熱試験とを行った。火花試験では、各サンプルに対し、0.4MPaに加圧した窒素が充填されたチャンバー内で、1秒間に100回の火花放電を発生させる火花試験を250時間行った。放電時には、所定の電源装置(例えば、フルトランジスタ点火装置)が用いられた。
そして、火花試験後に、各サンプルの電極チップ29の外形を投影機を用いて拡大投影して、電極チップ29の軸線方向の消耗量(元のサイズからの減少した長さ)の最大値を測定した。通常は、電極チップ29の外周面近傍の部分の消耗量が最大となる。そして、消耗量が0.25mmを超えるサンプルの評価結果を「×」とし、消耗量が0.25mm以下であるサンプルの評価結果を「○」とした。消耗量が小さいほど耐消耗性が良好であることを意味している。
冷熱試験では、スパークプラグ100の各サンプルの先端部近傍(火花ギャップの近傍)の加熱と冷却とのサイクルを1000回繰り返した。具体的には、1回のサイクルは、各サンプルの先端部近傍を、バーナーで2分間に亘って加熱し、続けて、1分間に亘って空気中で冷却する、というものである。2分間の加熱によって、主体金具50の先端部の温度が所定の目標温度に到達するように、バーナーの強度を調節した。第1評価試験では、目標温度は、摂氏900度である。
そして冷熱試験後に、各サンプルの中心電極20を電極チップ29の軸線COを含む断面で切断して、酸化スケールの発生割合SA(単位は%)を測定した。以下では、酸化スケールの発生割合SAの測定方法について説明する。
図5は、酸化スケールの発生割合SAの測定方法を示す説明図である。この図5は、図3に示した断面と同じ断面である。図5の断面では、太い実線で示す酸化スケールOS1〜OS3が発生しているものとして説明する。酸化スケールOS1は、電極チップ29の後端面と、溶融部28の先端面と、の境界線BL1上に発生している。酸化スケールOS2、OS3は、溶融部28の後端面と、台座部27の先端面との境界線BL2上に発生している。酸化スケールの発生割合SAが小さいほど、耐剥離性が良いことを意味している。
図5の断面における電極チップ29の軸線方向と垂直な方向の長さをLGとする。酸化スケール発生割合SAは、図5に示す軸線方向と垂直な長さLGの範囲のうち、境界線BL1、BL2のいずれかに酸化スケールが発生している範囲の長さの割合である。図5には、酸化スケールが発生している長さLNaの範囲と、長さLNbの範囲と、が図示されている。この場合には、酸化スケールの発生割合SAは、SA={(LNa+LNb)/LG}×100、の式によって算出することができる。
そして、酸化スケールの発生割合SAが、50%を超えるサンプルの評価結果を「×」とし、酸化スケールの発生割合SAが、50%以下であるサンプルの評価結果を「○」とした。
θ11が10度を超えているサンプル1−1〜1−6では、火花試験の評価結果がいずれも「×」であり、θ11が10度以下であるサンプル1−7〜1−15では、火花試験の評価結果がいずれも「○」であった。この理由は、以下のように推定される。すなわち、θ11が、十分に小さいことは、溶融部28は、電極チップ29の外周面近傍、すなわち、溶融部の外周面近傍において、溶融部28が電極チップ29側に過度に拡がっていないことを意味する。この場合には、電極チップ29の外周面近傍における厚さH1(図3)が、過度に小さくなることを抑制できると考えられる。電極チップ29の外周面近傍における厚さH1(図3)が、過度に小さくなると、電極チップ29の外周面近傍で、電極チップ29が消耗して溶融部28が先端側に露出して、耐消耗性が低下する。溶融部28は、電極チップ29と比較して、大幅に耐消耗性が劣るからである。したがって、θ11が10度以下である場合には、電極チップ29の外周面近傍における厚さH1を確保して、耐消耗性を向上することができる。
また、θ12が5度を超えているサンプル1−1、1−4、1−7、1−10、1−13では、冷熱試験の評価結果がいずれも「×」であり、θ12が5度以下であるサンプル1−2、1−3、1−5,1−6、1−8、1−9、1−11、1−12、1−14、1−15では、冷熱試験の評価結果がいずれも「○」であった。この理由は、以下のように推定される。溶融部28の厚さが不均一である場合、例えば、溶融部28が過度に薄い部分が生じ得る。ある場合に、その部分において、電極本体21(台座部27)と電極チップ29との熱膨張率の差により生じる応力を十分に緩和できず、電極チップ29の剥離が生じやすくなる。θ12が、十分に小さいことは、溶融部28は、電極チップ29の外周面近傍、すなわち、溶融部の外周面近傍において、溶融部28が電極本体21(台座部27)側に過度に拡がっていないことを意味する。したがって、溶融部28の厚さの均一性が向上すると考えられる。したがって、θ12が5度以下である場合には、溶融部28の厚さの均一性が向上させて、電極本体21と電極チップ29との間の応力を効果的に緩和して、耐剥離性をより向上することができる。
さらに、第1評価試験の追加試験として、θ11が10度であり、θ12が5度である4種類のサンプル1−16〜1−19を用意して、火花試験と冷熱試験とを行った。表2に示すように、この4種類のサンプル1−16〜1−19では、図3を参照して説明した第1の直交比率(L1/M1)と、第2の直行比率(J1/K1)と、がそれぞれ異なっている。例えば、4種類のサンプル1−16〜1−19は、それぞれ、第1の直交比率(L1/M1)が27%、59%、65%、81%であり、第2の直行比率(J1/K1)が41%、64%、73%、87%である。
このように、表2に示すように、この4種類のサンプル1−16〜1−19では、火花試験の評価結果と、冷熱試験の評価結果と、がいずれも「○」であった。この試験結果から、第1の直交比率(L1/M1)と、第2の直行比率(J1/K1)と、の値に拘わらずに、θ11が10度以下であり、θ12が5度以下であれば、耐消耗性と耐剥離性とを両立できることが解った。
以上の第1評価試験の結果から、耐消耗性と耐剥離性とを両立する観点から、θ11が10度以下であり、かつ、θ12が5度以下であることが好ましいことが解った。上述したように、0<θ11、0<θ12であるので、換言すれば、角度θ11、θ12は、0<θ11≦10(単位は、度)、かつ、0<θ12≦5(単位は、度)を満たすことが好ましい。こうすれば、電極チップ29の耐消耗性と耐剥離性とを両立することができる。また、電極チップ29の耐消耗性が向上できることで、電極チップ29の耐消耗性を確保するために、電極チップ29の軸方向の長さを長くする必要がない。この結果、電極チップ29の軸方向の長さを低減して、貴金属などの材料の使用量を低減することができる。
A−5:第2評価試験:
次に、第1評価試験で明らかにされたθ11とθ12の好ましい範囲を満たす49個のサンプル2−1〜2−49を準備して、第1評価試験より厳しい条件で、冷熱試験を実行した。具体的には、第2評価試験の冷熱試験では、上述した目標温度が、摂氏950度に設定されている。なお、冷熱試験の他の条件、および、各サンプルに共通な他の寸法は、第1評価試験と同じである。
表3に示すように、本評価試験では、0<θ11≦10(単位は、度)、かつ、0<θ12≦5(単位は、度)を満たしつつ、第1の直交比率(L1/M1)と、第2の直交比率(J1/K1)を、それぞれ、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%の7段階に変更することによって、49種類(7×7種類)のサンプルを作成した。表3には、49種類のサンプルの評価結果として、酸化スケールの発生割合SA(単位は%)が記載されている。
第1の直交比率(L1/M1)と、第2の直交比率(J1/K1)と、の少なくとも一方が70%未満である第1のサンプル群(太線の枠外)では、酸化スケールの発生割合SAは、いずれも50%以上であった。第1のサンプル群は、具体的には、サンプル2−1〜2〜24、2−29〜2−31、2−36〜2−38、2−43〜2−45である。
第1の直交比率(L1/M1)が、70%以上であり、かつ、第2の直交比率(J1/K1)が、70%以上である第2のサンプル群(太線の枠内)では、酸化スケールの発生割合SAは、いずれも50%未満であった。すなわち、第2のサンプル群では、第1のサンプル群と比較して、耐剥離性が良好であった。第2のサンプル群は、具体的には、サンプル2−25〜2〜28、2−32〜2−35、2−39〜2−42、2−46〜2−49である。
さらに、詳細には、第2のサンプル群の中でも、第1の直交比率(L1/M1)が大きいほど、酸化スケールの発生割合SAが小さく、耐剥離性が良好であった。同様に、第2のサンプル群の中でも、第2の直交比率(J1/K1)が大きいほど、酸化スケールの発生割合SAが小さく、耐剥離性が良好であった。具体的には、第1の直交比率(L1/M1)や、第2の直交比率(J1/K1)は、70%より80%がより好ましく、80%より90%がより好ましく、95%以上が最も好ましい。
この理由は、以下のように推定される。第1の直交比率(L1/M1)が、70%以上であり、かつ、第2の直交比率(J1/K1)が、70%以上である場合には、第1の直交部PL1と、第2の直交部PJ1とが、比較的広い範囲に亘って設けることができる。この結果、電極チップ29の成分と電極本体21(台座部27)の成分とのうち、一方の成分が溶融部28に多く取り込まれることを抑制できる。したがって、溶融部28における各成分の含有率の均一性を向上することができる。ここで、溶融部28において、電極チップ29の成分と電極本体21の成分との含有率にばらつきがあると、溶融部28において、熱膨張率が電極チップ29に比較的近い部位と、熱膨張率が電極本体21に比較的近い部位と、が生じ、スパークプラグ100の使用時に生じる応力を十分に緩和できない可能性がある。以上の説明から解るように、第1の直交比率(L1/M1)が、70%以上であり、かつ、第2の直交比率(J1/K1)が、70%以上とすることで、スパークプラグ100使用時に生じる応力をさらに効果的に緩和して、耐剥離性をさらに向上することができる。
以上の第2評価試験の結果から、耐剥離性を向上する観点から、第1の直交比率(L1/M1)が、70%以上であり、かつ、第2の直交比率(J1/K1)が、70%以上であることが、より好ましいことが解った。こうすれば、電極チップ29の耐剥離性をさらに向上することができる。
A−6.第3評価試験:
次に、第2評価試験で明らかにされた好ましい範囲を満たす6種類のサンプルを準備して、第1評価試験より厳しい条件で、火花試験を実行した。具体的には、第3評価試験の火花試験では、0.8MPaに加圧した窒素が充填されたチャンバ−内で、1秒間に100回の火花放電を発生させる火花試験を200時間行った。そして、25時間ごとに、サンプルを取り出し、電極チップ29の消耗量を測定した。複数個のサンプルでは、θ11が10度、θ12が5度に固定され、かつ、第1の直交比率(L1/M1)と第2の直交比率(J1/K1)とは、それぞれ70%に固定された。なお、各サンプルに共通な他の寸法は、第1評価試験と同じである。
図6は、第3評価試験の評価結果を示すグラフである。図6に示すように、本評価試験では、電極チップ29の外周面の軸線方向の長さE1(点A1から点B1までの軸線方向の長さE1(図3))を、0.3mm、0.35mm、0.4mm、0.45mm、0.5mm、0.55mmの6段階に変更した6種類のサンプル3−1〜3−6が準備された。
図6のグラフでは、各サンプルについて、25〜200時間経過後のサンプルの消耗量が25時間ごとにプロットされている。
図6に示すように、200時間経過の時点で、長さE1が0.4mm以下であるサンプル3−1〜3―3は、消耗量が0.25mm未満に抑制された。これに対して、長さE1が0.4mmを超えるサンプル3−4〜3−6では、消耗量が0.25mmを大きく越え、0.3mm以上に達した。すなわち、長さE1が0.4mm以下であるサンプル3−1〜3―3は、長さE1が0.4mm以下であるサンプル3−4〜3−6と比較して、耐消耗性が良好であった。
耐消耗性が良好であったサンプル3―1〜3−3を比較すると、長さE1が0.35mmであるサンプル3−2と、長さE1が0.3mmであるサンプル3−1は、消耗量の差がなく、同程度の耐消耗性を示した。これらのサンプル3−1、3−2と比較すると、長さE1が0.4mmであるサンプル3−3は、消耗量が若干大きく、耐消耗性が若干劣った。
この理由は、以下のように推定される。長さE1が過度に大きくなると、電極チップ29が外周面近傍における電極チップ29の厚さH1が短くなる可能性がある。このように、電極チップ29の厚さが過度に薄い部分が生じると、中心電極20の耐消耗性が低下する。ことを抑制できる。長さE1が0.4mm以下であると(E≦0.4mm)、電極チップ29の外周面近傍の厚さが過度に薄くなることを抑制できる。この結果、中心電極20の耐消耗性をさらに向上することができる。
以上の第3評価試験の結果から、溶融部28の点A1から点B1までの軸線方向の長さE1は、0.4mm以下であることがより好ましいことが解った。こうすれば、電極チップ29の耐消耗性をより向上することができる。
A−7.第4評価試験:
次に、第2評価試験で明らかにされた好ましい範囲を満たす複数個のサンプルを準備して、第2評価試験より厳しい条件で、冷熱試験を実行した。具体的には、第4評価試験の冷熱試験では、上述した目標温度が、摂氏1000度に設定されている。なお、冷熱試験の他の条件は、第2評価試験と同じである。また、各サンプルに共通な寸法は、第1評価試験にて説明したとおりである。また、複数個のサンプルでは、θ11が10度、θ12が5度に固定され、かつ、第1の直交比率(L1/M1)と第2の直交比率(J1/K1)とは、それぞれ70%に固定された。
図7は、第4評価試験の評価結果を示すグラフである。図7に示すように、本評価試験では、上述した点X1から点Y1までの軸線方向の長さF1(図3)を、0.05mm、0.1mm、0.15mm、0.2mm、0.25mm、0.3mm、0.35mmの7段階に変更した7種類のサンプル4−1〜4−7が準備された。
図7には、各サンプルの酸化スケールの発生割合SAがプロットされている。
図7に示すように、長さF1が0.15mm未満であるサンプル4−1、4―2は、酸化スケールの発生割合SAが、50%を大きく越えて、80%に達した。これに対して、長さF1が0.15mm以上であるサンプル4−3〜4−7では、酸化スケールの発生割合SAが50%を大きく下回り、30%以下になった。すなわち、長さF1が0.15mm以上であるサンプル4−3〜4−7は、長さF1が0.15mm未満であるサンプル4−1、4−2と比較して、耐剥離性が良好であった。
耐剥離性が良好であったサンプル4−3〜4−7を比較すると、長さF1が大きいほど、酸化スケールの発生割合SAが小さくなり、耐剥離性が良好であった。すなわち、長さF1は、0.15mmより0.2mmが好ましく、0.2mmより0.25mmが好ましく、0.25mmより0.3mmが好ましく、0.35mm以上が最も好ましい。
この理由は、以下のように推定される。溶融部28の厚さを電極チップ29の軸線COと交わる部位においても十分に確保することができれば、スパークプラグ100の使用時に生じる応力をさらに効果的に緩和して、耐剥離性をさらに向上することができる。したがって、長さF1が0.15mm以上である場合には、中心電極20の耐剥離性をさらに向上することができる。
以上の第4評価試験の結果から、点X1から点Y1までの軸線方向の長さF1、すなわち、溶融部28の軸線COと交わる部位の軸線方向の長さF1は、0.15mm以上であることがより好ましいことが解った。こうすれば、電極チップ29の耐剥離性をより向上することができる。
A−8.第5評価試験:
次に、第4評価試験で明らかにされた好ましい範囲を満たす7種類のサンプルを準備して、第4評価試験より厳しい条件で、冷熱試験を実行した。具体的には、第5評価試験の冷熱試験では、上述した目標温度が、摂氏1020度に設定されている。なお、冷熱試験の他の条件は、第4評価試験と同じである。また、7種類のサンプルでは、θ11が10度、θ12が5度に固定され、かつ、第1の直交比率(L1/M1)と第2の直交比率(J1/K1)とは、それぞれ70%に固定された。また、溶融部28の軸線CO上の長さF1が、0.3mmに固定された。
図8は、第5評価試験の評価結果を示すグラフである。図8に示すように、溶融部28における電極チップ29の成分(イリジウム合金)の含有率が、30重量%から90重量%まで、10%刻みで変更された7種類のサンプル5−1〜3−7が準備された。なお、レーザLZの照射位置を、図4の照射位置LPより後端側(台座部27側)にずらすことで、溶融部28における電極チップ29の成分の含有率を減少させている。レーザLZの照射位置を、図4の照射位置LPより先端側(電極チップ29側)にずらすことで、溶融部28における電極チップ29の成分の含有率を増加させている。
図8に示すように、電極チップ29の成分の含有率が30重量%であるサンプル5−1と、電極チップ29の成分の含有率が90重量%であるサンプル5−7では、酸化スケールの発生割合SAが、50%を大きく越えて、60%以上に達した。これに対して、電極チップ29の成分の含有率が40重量%以上80重量%以下であるサンプル5−2〜5−6では、酸化スケールの発生割合が、50%を大きく下回った。すなわち、電極チップ29の成分の含有率が40重量%以上80重量%以下であるサンプル5−2〜5−6は、電極チップ29の成分の含有率が30重量%、90重量%であるサンプル5−1、5−7と比較して、耐剥離性が良好であった。
耐剥離性が良好であったサンプル5―2〜5−6を比較すると、電極チップ29の成分の含有率が60重量%であるサンプル5−4が、最も酸化スケールの発生割合SAが小さかった。そして、電極チップ29の成分の含有率が60重量%以上の範囲では、当該含有率が大きいほど、酸化スケールの発生割合SAが大きくなった。また、電極チップ29の成分の含有率が60重量%以下の範囲では、当該含有率が小さいほど、酸化スケールの発生割合SAが大きくなった。したがって、耐剥離性の観点からは、電極チップ29の成分の含有率は、40重量%より50重量%が好ましく、50重量%より60重量%が好ましい。また、電極チップ29の成分の含有率は、80重量%より70重量%が好ましく、70重量%より60重量%が好ましい。
この理由は、以下のように推定される。溶融部28における電極チップ29の成分の含有率が過度に大きいと、溶融部28の熱膨張率が電極チップ29の熱膨張率に近づきすぎる。また、溶融部28における電極チップ29の成分の含有率が過度に小さいと、溶融部28の熱膨張率が電極本体21の熱膨張率に近づきすぎる。いずれの場合であっても、電極チップ29と電極本体21との熱膨張率の差によって生じる応力を適切に緩和できない可能性がある。電極チップ29の成分の含有率が40重量%以上80重量%以下である場合には、溶融部28における電極チップ29の成分の含有率を適正化することによって、溶融部28の熱膨張率を適正化することができる。この結果、スパークプラグ100の使用時に生じる応力をより効果的に緩和して、耐剥離性をより向上することができる。
以上の第5評価試験の結果から、溶融部28における電極チップ29の成分の含有率は、40重量%以上80重量%以下であることがより好ましいことが解った。こうすれば、電極チップ29の耐剥離性をより向上することができる。
B.第2実施形態:
図9は、第2実施形態のスパークプラグの接地電極30Bの先端部分の拡大斜視図である。図9においては、図1と同様に、そして、図2、図3と反対に、図の下方が先端方向FDであり、図の上方が後端方向BDである。第2実施形態のスパークプラグの全体構成は、図1の第1実施形態のスパークプラグ100の全体構成と、同一である。
接地電極30Bの母材基端部(図示省略)は、図1に示す母材基端部32と同様に主体金具50の先端に接合されている。接地電極30Bの母材先端部31の後端側の面には、柱状の台座部37が形成されている。台座部37の後端側には、柱状の電極チップ39がレーザ溶接によって接合されている。このために、柱状の電極チップ39と台座部37との間には、第1実施形態のスパークプラグ100の中心電極20(図3)と同様に、台座部37の成分と電極チップ39の成分とが溶融した溶融部38が形成されている。なお、第2実施形態では、スパークプラグ100の軸線COと、電極チップ39の軸線とは、一致している。したがって、軸線COは、電極チップ39の軸線COとも言うことができる。
台座部37の径は、電極チップ39の径より大きい。このため、溶融部38の外周面は、先端側から後端方向BDに向かって縮径した円錐台形状を有している。そして、溶融部38の外周面は、ハッチングで示すように、その後端側に、電極チップ39の外周面29C上に露出している露出部位38Cを含んでいる(図9)。この露出部位38Cは、電極チップ39の外周面39Cの先端より後端方向BDに位置する、いわゆる溶接だれを含んでいる。電極チップ39の外周面を周方向に一周見た場合に、露出部位38Cのうち、最も先端方向FD側に位置する点をA2とする。換言すれば、この点A2は、溶融部28の外周面のうち、溶接だれが発生している部位を除いて、最も後端方向BD側の部位とも言うことができる。また、この点A2は、電極チップ39の外周面39C上に位置する、溶融部38の外周面の後端を示す線OL2上の点のうち、最も先端方向FDに位置する点とも言うことができる。
図10は、点A2と、電極チップ39の軸線COと、を含む断面CS2を示す図である。断面CS2は、電極チップ39の後端面(ギャップ形成面)39Aの中心点OC2を通る。図10から解るように、本実施形態では、電極チップ39の先端面が全体に亘って溶融部38と接触している。図10の断面CS2において、電極チップ39の軸線COと、電極チップ39と溶融部38との境界線BL2と、の交点を、点X2とする。図10の断面CS2において、溶融部38と台座部37(電極本体)との境界線BJ2のうち最も先端方向FDに位置する点をB2とする。そして、図3の断面CS2において、電極チップ39の軸線COと、溶融部38と、台座部37と、の境界線BJ2と、の交点を、点Y2とする。
レーザ溶接を外周面側から行うために、点A2は、点X2より後端方向BD側に位置している。また、点B2は、点Y2より先端方向FD側に位置している。溶融部38の外周面における厚さE2は、軸線CO上における厚さF2より長い。
ここで、点A2と点X2を結ぶ線分AX2と、点X2を通り電極チップ39の軸線COと直交する直線HL2とがなす鋭角の角度を、θ21(単位は、度)とする。また、点B2と点Y2を結ぶ線分BY2と、点Y2を通り電極チップ39の軸線COと直交する直線HJ2とがなす鋭角の角度を、θ22(単位は、度)とする。
図10の断面CS2において、溶融部38と電極チップ39との境界線BL2は、電極チップ39と直交する直交方向との間の鋭角、すなわち、直線HL2との間の鋭角が±2度未満である直交部PL2を含んでいる。図10における点C2から点C2'までの部位が、境界線BL2の直交部PL2である。
また、溶融部38と台座部37(電極本体)との境界線BJ2は、電極チップ39と直交する直交方向との間の鋭角、すなわち、直線HJ2との間の鋭角が±2度未満である直交部PJ2を含んでいる。図10における点D2から点D2'までの部位が、境界線BJ2の直交部PJ2である。
図10の断面CS2における直交部PL2の長さをL2とし、直交部PJ2の長さをJ2とする。図10の断面CS2において、点A2が接する側の電極チップ39の外周面(図10の左側の側面)とは反対側の外周面(図10の右側の側面)と、溶融部28と、が接する部位のうち、最も先端方向FD側に位置する点を点A2'とする。点A2と点A2'との間の、軸線COと直交する方向の長さをM2とする。
また、溶融部38のうち、点B2が位置する外周面とは反対側の外周面に露出する部位の最も先端方向FD側に位置する点を点B2'とし、点B2と点B2'との間の、軸線COと直交する方向の長さをK2とする。
なお、溶融部38の軸線CO上における厚さF2は、点X2と点Y2との間の軸線方向の長さと、言うことができる。また、溶融部38の外周面における厚さE3は、点A2と点B2との間の軸線方向の長さと、言うことができる。
以上説明した第2実施形態のスパークプラグの接地電極30Bにおいて、溶融部38は、第1実施形態の中心電極20と同様に、図4を参照して説明したファイバーレーザを用いた溶接方法によって形成されている。
第2実施形態のスパークプラグでは、溶融部38は、電極チップ39の軸線COの位置において、電極チップ39と接触している(図10の点X2)。すなわち、溶融部形成前(レーザ溶接を行う前)における台座部37(電極本体)と、電極チップ39との接触領域とのうち、比較的広い範囲に亘って、溶融部38が形成されている。この結果、溶接強度が向上し、電極チップ39の剥離の抑制、すなわち、耐剥離性の向上を実現できる。
また、第2実施形態のスパークプラグの接地電極30Bにおける耐剥離性や耐消耗性の特性は、第1実施形態のスパークプラグ100の中心電極20における耐剥離性や耐消耗性の特性と同様に考えることができる。したがって、第1実施形態のスパークプラグ100の中心電極20のについて行われた上述した第1評価試験〜第5評価試験の結果に基づいて、第2実施形態のスパークプラグの接地電極30Bは、第1実施形態のスパークプラグ100の中心電極20と同様に、以下のような関係を満たすことが好ましい。
具体的には、角度θ21、θ22は、0度<θ21≦10度、かつ、0度<θ22≦5度を満たすことが好ましい。こうすれば、電極チップ39の耐消耗性と耐剥離性とを両立することができる。
さらには、長さM2に対する直交部PL2の長さL2の比率(L2/M1)が、70%以上であり、かつ、長さK2に対する直交部PJ2の長さJ2の比率(J2/K2)が、70%以上であることが、より好ましい。こうすれば、電極チップ39の耐剥離性をさらに向上することができる。
さらには、溶融部38の点A2から点B2までの軸線方向の長さE2は、0.4mm以下であることがより好ましい(E2≦0.4mm)。こうすれば、電極チップ39の耐消耗性をより向上することができる。
さらに、点X2から点Y2までの軸線方向の長さF2、すなわち、溶融部38の軸線COと交わる部位の軸線方向の長さF2は、0.15mm以上であることがより好ましい(F2≧0.15mm)。こうすれば、電極チップ39の耐剥離性をより向上することができる。
また、溶融部38における電極チップ39の成分の含有率は、40重量%以上80重量%以下であることがより好ましい。こうすれば、電極チップ39の耐剥離性をより向上することができる。
なお、図10から解るように、電極チップ39の軸線COに沿った2つの方向のうち、溶融部38から見て電極チップ39側の方向は、第2実施形態では、後端方向BDである。また、溶融部38から見て台座部37(電極本体)側の方向は、第2実施形態では、先端方向FDである。したがって、第2実施形態の接地電極30Bでは、先端方向FDが、特許請求の範囲における第2方向に対応し、後端方向BDが、特許請求の範囲における第1方向に対応する。
C.変形例:
(1)上記第1実施形態および第2実施形態では、図1に示すように、スパークプラグ100の軸線COと、電極チップ29や接地電極30の軸線とが、同一であるタイプのスパークプラグを例に挙げた。これに代えて、スパークプラグ100の軸線COと、電極チップ29や接地電極30の軸線と、が交差するタイプ、例えば、直交するタイプのスパークプラグを採用しても良い。
(2)上記第1実施形態では、ファイバーレーザが連続的に照射されることによって、29の後端面の全体に接触する溶融部28が形成されている。これに代えて、例えば、ファイバーレーザが間欠的に照射されることによって、溶融部28が形成されてもよい。この場合であっても、電極チップ29の軸線CO上において、電極チップ29と溶融部28とが接触する(図3の点X1)ように、十分な深さでレーザ溶接が行われることが好ましい。
(3)なお、スパークプラグは、上記第1実施形態として説明した構成の中心電極20(図3)と、上記第2実施形態として説明した構成の接地電極30B(図10)と、の両方を備えても良い。また、スパークプラグは、上記第1実施形態として説明した構成の中心電極20(図3)と、公知の構成の接地電極と、を備えても良い。また、スパークプラグは、上記第2実施形態として説明した構成の接地電極30B(図10)と、公知の構成の中心電極と、を備えても良い。
以上、本発明の実施形態および変形例について説明したが、本発明はこれらの実施形態
および変形例になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種
々の態様での実施が可能である。