JP6168046B2 - トナーの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、複写機、ファクシミリ、及びプリンター等の、電子写真法を利用した画像形成装置の現像に用いることが出来る重合トナーに関するものである。
トナーの製造方法には、大別して、粉砕法及び重合法があるが、近年、エネルギーコストが低いこと及び優れた品質のトナーが得られることから重合法が注目されている。重合法には、懸濁重合法や乳化重合凝集法等がある。
例えば、懸濁重合法では、まず、重合性単量体、着色剤、並びに、必要に応じ帯電制御剤及び分子量調整剤等の添加物を混合して、重合性単量体組成物を調製する。次に、当該重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に分散させる。続いて、重合性単量体組成物が分散した水系分散液に、高速攪拌機等を用い、高いせん断力(shear force)をかけ、重合性単量体組成物の液滴を形成する。その後、重合開始剤の存在下にて重合性単量体組成物を重合し、濾過、洗浄、及び乾燥を経て、乾燥した着色樹脂粒子を得る。さらに、この着色樹脂粒子に、好適には無機微粒子等の外添剤及びキャリアのうち少なくともいずれか1つを混合し、トナーとする。
しかし、重合性単量体組成物中の添加物の中には、重合を阻害するものがある。重合が阻害されると、着色樹脂粒子中に未反応の重合性単量体が残留しやすい。また、着色樹脂粒子中には、重合開始剤により副生する化合物や、分子量調整剤が残留することもある。
未反応の重合性単量体、重合開始剤により副生する化合物、及び分子量調整剤等(これらの残留成分を、以下、残留低分子量成分と称する場合がある。)を含む重合トナーは、保存性が悪くなりやすい。当該重合トナーを印刷に用いた場合、定着時の加熱により残留低分子量成分が揮発することにより、毒性を含む成分が揮発したり、臭気が発生したりする結果、周囲の環境を悪化させる。また、特に高温高湿条件下で当該重合トナーについて耐久印字を行った場合、印字耐久性が低下し易いという問題がある。
上記の問題に対して、重合後のトナーに残留する重合性単量体を除去する方法として、特許文献1には、懸濁重合後の着色重合体粒子を含む分散液を減圧ストリッピング法により処理した後に乾燥させる電子写真用トナーの製造方法が提案されており、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートを用いた電子写真用トナーが開示されている(請求項3、並びに、明細書の段落[0023]及び[0052])。しかし、当該電子写真用トナーについて本発明者が検討したところ、減圧ストリッピング法によりトナー中に残留する重合性単量体が若干は減るものの、未反応の重合性単量体は未だトナー中に多く残留することが分かった。また、当該電子写真用トナーにおいては、重合開始剤により副生する化合物等も多く残留する結果、印字耐久性、特に高温高湿下における印字耐久性が不十分であった。
特許文献2には、重合後のトナーに残留する重合性単量体を除去する方法として、特定の攪拌条件下、減圧ストリッピング法により処理する製造方法が提案され、t−ブチルパーオキシイソブチレートを重合開始剤として用いた重合法トナーが開示されている(請求項1、並びに、明細書の段落[0020]及び[0056])。しかし、本発明者が検討したところ、特許文献2に開示された製造方法では、着色樹脂粒子より小粒径の微粒子が副生して、生産性が低下するという問題があることが分かった。
特許文献3には、重合後のトナーに残留する重合開始剤の分解物や未反応の重合性単量体の量を減らす方法として、重合開始剤として、t−ブチルパーオキシジエチルアセテートを用いる重合トナーの製造方法が提案されている(請求項1、及び明細書の段落[0074][表1][実施例1])。しかし、当該方法により得られたトナーでも、残留低分子量成分が揮発する場合があり、臭気の発生を抑制することが十分ではなかった。
特開2000−321809号公報 特開2001−117272号公報 特開2007−52039号公報
本発明の目的は、トナーの生産性に優れ、且つ、印字を行った際に臭気等の原因となる残留低分子量成分の少ないトナーを製造する方法を提供することである。
本発明者は、トナーの製造に用いる重合開始剤について鋭意検討を重ねた結果、重合開始剤として、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを用いてトナーを製造することにより、上記問題が解決できることを見出した。また、本発明者は、重合開始剤の安定性や危険性の問題から、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを特定の希釈剤で希釈することが好ましいことも見出した。
すなわち、本発明によれば、重合性単量体及び着色剤を含有する重合性単量体組成物を、水系分散媒体中且つ重合開始剤の存在下で重合することにより着色樹脂粒子を作製する工程を有する、トナーの製造方法であって、前記重合開始剤は、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートであることを特徴とするトナーの製造方法が提供される。
本発明においては、沸点が90〜160℃の希釈剤によって、濃度が75〜95質量%となるように前記t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを予め希釈して重合に用いることが好ましい。
本発明においては、前記重合後に、前記着色樹脂粒子を含む水系分散液の温度を70〜90℃、不活性ガス流量0.1〜1.0m/(hr・kg)の条件下で、2〜8時間ストリッピング処理を行うことが好ましい。
上記の如き本発明のトナーの製造方法によれば、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを重合開始剤として用いることにより、比較的短い時間のストリッピングによって、未反応の重合性単量体や重合開始剤由来の副生成物を除去できるため、印字の際に発生する臭気が非常に少ないトナーが得られ、且つ生産性に優れるトナーの製造方法が提供される。
ストリッピング処理に用いるシステムの一例を示す図である。
本発明のトナーの製造方法は、重合性単量体及び着色剤を含有する重合性単量体組成物を、水系分散媒体中且つ重合開始剤の存在下で重合することにより着色樹脂粒子を作製する工程を有する、トナーの製造方法であって、前記重合開始剤は、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートであることを特徴とする。
以下、本発明の製造方法により製造されるトナーについて説明する。
本発明により得られるトナーは、少なくとも、結着樹脂、及び着色剤を含有する。
以下、本発明に用いられる着色樹脂粒子の製造方法、当該製造方法により得られる着色樹脂粒子、当該着色樹脂粒子を用いた本発明のトナーの製造方法及び当該製造方法により得られるトナーについて、順に説明する。
1.着色樹脂粒子の製造方法
本発明に用いられる着色樹脂粒子は、重合法、好適には懸濁重合法を採用して、以下のようなプロセスにより製造される。
1−1.重合性単量体組成物の調製工程
まず、重合性単量体、及び着色剤、さらに必要に応じて添加される帯電制御剤等のその他の添加物を混合し、重合性単量体組成物の調製を行う。重合性単量体組成物を調製する際の混合には、例えば、メディア式分散機を用いる。
本発明において重合性単量体とは、重合可能な官能基を有するモノマーのことをいい、重合性単量体が重合して結着樹脂となる。重合性単量体の主成分として、モノビニル単量体を使用することが好ましい。モノビニル単量体としては、例えば、スチレン;ビニルトルエン、及びα−メチルスチレン等のスチレン誘導体;アクリル酸、及びメタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、及びアクリル酸ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、及びメタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル;アクリロニトリル、及びメタクリロニトリル等のニトリル化合物;アクリルアミド、及びメタクリルアミド等のアミド化合物;エチレン、プロピレン、及びブチレン等のオレフィン;が挙げられる。これらのモノビニル単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。これらのうち、モノビニル単量体として、スチレン、スチレン誘導体、及びアクリル酸エステル若しくはメタクリル酸エステルが、好適に用いられる。
ホットオフセット改善及び保存性改善のために、モノビニル単量体とともに、任意の架橋性の重合性単量体を用いることが好ましい。架橋性の重合性単量体とは、2つ以上の重合可能な官能基を持つモノマーのことをいう。架橋性の重合性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、及びこれらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、及びジエチレングリコールジメタクリレート等の2個以上の水酸基を持つアルコールに炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸が2つ以上エステル結合したエステル化合物;N,N−ジビニルアニリン、及びジビニルエーテル等の、その他のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物;等を挙げることができる。これらの架橋性の重合性単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
本発明では、架橋性の重合性単量体を、モノビニル単量体100質量部に対して、通常、0.1〜5質量部、好ましくは0.3〜2質量部の割合で用いることが望ましい。
また、さらに、重合性単量体の一部として、マクロモノマーを用いると、得られるトナーの保存性と低温での定着性とのバランスが良好になるので好ましい。マクロモノマーは、分子鎖の末端に重合可能な炭素−炭素不飽和二重結合を有するもので、数平均分子量が、通常、1,000〜30,000の反応性の、オリゴマー又はポリマーである。マクロモノマーは、モノビニル単量体を重合して得られる重合体のガラス転移温度(以下、「Tg」と称することがある。)よりも、高いTgを有する重合体を与えるものが好ましい。マクロモノマーは、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.03〜5質量部、さらに好ましくは0.05〜1質量部用いることが望ましい。
本発明においては着色剤を用いるが、カラートナーを作製する場合、ブラック、シアン、イエロー、マゼンタの着色剤を用いることができる。
ブラック着色剤としては、カーボンブラック、チタンブラック、並びに酸化鉄亜鉛、及び酸化鉄ニッケル等の磁性粉等を用いることができる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、その誘導体、及びアントラキノン化合物等が利用できる。具体的には、C.I.ピグメントブルー2、3、6、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17:1、及び60等が挙げられる。
イエロー着色剤としては、例えば、モノアゾ顔料、及びジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、縮合多環系顔料等の化合物が用いられ、C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、15、17、62、65、73、74、83、93、97、120、138、155、180、181、185、186、及び213等が挙げられる。
マゼンタ着色剤としては、モノアゾ顔料、及びジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、縮合多環系顔料等の化合物が用いられ、C.I.ピグメントレッド31、48、57:1、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、144、146、149、150、163、170、184、185、187、202、206、207、209、237、238、251、254、255、269及びC.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
本発明においては、各着色剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用できる。着色剤の量は、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部である。
定着時におけるトナーの定着ロールからの離型性を改善する観点から、重合性単量体組成物には、離型剤を添加することが好ましい。離型剤としては、一般にトナーの離型剤として用いられるものであれば、特に制限無く用いることができる。
上記離型剤は、エステルワックス及び炭化水素系ワックスの少なくともいずれか1つを含有することが好ましい。これらのワックスを離型剤として使用することにより、低温定着性と保存性とのバランスを好適にすることができる。
本発明において離型剤として好適に用いられるエステルワックスは、多官能エステルワックスがより好適であり、例えば、ペンタエリスリトールテトラパルミネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等のペンタエリスリトールエステル化合物;ヘキサグリセリンテトラベヘネートテトラパルミネート、ヘキサグリセリンオクタベヘネート、ペンタグリセリンヘプタベヘネート、テトラグリセリンヘキサベヘネート、トリグリセリンペンタベヘネート、ジグリセリンテトラベヘネート、グリセリントリベヘネート等のグリセリンエステル化合物;ジペンタエリスリトールヘキサミリステート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミネート等のジペンタエリスリトールエステル化合物;等が挙げられ、中でもグリセリンエステル化合物が好ましく、また、ヘキサグリセリンテトラベヘネートテトラパルミネート、ヘキサグリセリンオクタベヘネート、テトラグリセリンヘキサベヘネート、トリグリセリンペンタベヘネートがより好ましく、ヘキサグリセリンオクタベヘネートが特に好ましい。
本発明において離型剤として好適に用いられる炭化水素系ワックスは、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、石油系ワックス等が挙げられ、中でも、フィッシャートロプシュワックス、石油系ワックスが好ましく、石油系ワックスがより好ましい。
炭化水素系ワックスの数平均分子量は、300〜800であることが好ましく、400〜600であることがより好ましい。また、JIS K2235 5.4で測定される炭化水素系ワックスの針入度は、1〜10であることが好ましく、2〜7であることがより好ましい。
上記離型剤の他にも、例えば、ホホバ等の天然ワックス;オゾケライト等の鉱物系ワックス;等を用いることができる。
離型剤は、上述した1種又は2種以上のワックスを組み合わせて用いてもよい。
上記離型剤は、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.1〜30質量部用いられ、更に好ましくは1〜20質量部用いられる。
その他の添加物として、トナーの帯電性を向上させるために、正帯電性又は負帯電性の帯電制御剤を用いることができる。
帯電制御剤としては、一般にトナー用の帯電制御剤として用いられているものであれば、特に限定されないが、帯電制御剤の中でも、重合性単量体との相溶性が高く、安定した帯電性(帯電安定性)をトナー粒子に付与させることができることから、正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂が好ましく、さらに、正帯電性トナーを得る観点からは、正帯電性の帯電制御樹脂がより好ましく用いられる。
正帯電性の帯電制御剤としては、ニグロシン染料、4級アンモニウム塩、トリアミノトリフェニルメタン化合物及びイミダゾール化合物、並びに、好ましく用いられる帯電制御樹脂としてのポリアミン樹脂、並びに4級アンモニウム基含有共重合体、及び4級アンモニウム塩基含有共重合体等が挙げられる。
負帯電性の帯電制御剤としては、Cr、Co、Al、及びFe等の金属を含有するアゾ染料、サリチル酸金属化合物及びアルキルサリチル酸金属化合物、並びに、好ましく用いられる帯電制御樹脂としてのスルホン酸基含有共重合体、スルホン酸塩基含有共重合体、カルボン酸基含有共重合体及びカルボン酸塩基含有共重合体等が挙げられる。
本発明では、帯電制御剤を、モノビニル単量体100質量部に対して、通常、0.01〜10質量部、好ましくは0.03〜8質量部の割合で用いることが望ましい。帯電制御剤の添加量が、0.01質量部未満の場合にはカブリが発生することがある。一方、帯電制御剤の添加量が10質量部を超える場合には印字汚れが発生することがある。
また、その他の添加物として、重合して結着樹脂となる重合性単量体を重合する際に、分子量調整剤を用いることが好ましい。
分子量調整剤としては、一般にトナー用の分子量調整剤として用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、及び2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオール等のメルカプタン類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、N,N’−ジメチル−N,N’−ジフェニルチウラムジスルフィド、N,N’−ジオクタデシル−N,N’−ジイソプロピルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;等が挙げられる。これらの分子量調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明では、分子量調整剤を、モノビニル単量体100質量部に対して、通常0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部の割合で用いることが望ましい。
1−2.懸濁液を得る懸濁工程(液滴形成工程)
本発明では、少なくとも重合性単量体、及び着色剤を含む重合性単量体組成物を、好ましくは分散安定化剤を含む水系媒体中に分散させ、重合開始剤を添加した後、重合性単量体組成物の液滴形成を行うことが好ましい。液滴形成の方法は特に限定されないが、例えば、(インライン型)乳化分散機(株式会社荏原製作所製、商品名「マイルダー」;太平洋機工社製、商品名「キャビトロン」)、高速乳化分散機(プライミクス株式会社製、商品名「T.K.ホモミクサー MARK II型」)等の強攪拌が可能な装置を用いて行う。
重合開始剤として、下記式(1)に示すt−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを用いることが、本発明の主な特徴の1つである。
Figure 0006168046
後述する実施例に示すように、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを用いた実施例1のトナーは、t−ブチルパーオキシ−ジエチルアセテートを用いた比較例1のトナーと比較して、重合開始剤由来の副生成物である残留エーテル化合物量及び未反応の重合性単量体である残留スチレン量がいずれも極めて少ない。比較例1においては、t−ブチルパーオキシジエチルアセテートに由来して、ブチルペンチルエーテル(炭素数9)等が副生する。比較例1の結果は、ストリッピング処理により当該ブチルペンチルエーテルを完全に除去するのが困難であることを示唆する。一方、実施例1においては、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートに由来して、ジブチルエーテル(炭素数8)等が副生する。実施例1の結果は、ストリッピング処理により当該ジブチルエーテルは比較的容易に除去できることを示唆する。
t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートよりも更に炭素数が1少ないt−ブチルパーオキシイソブチレートを用いた比較例3のトナーは、実施例1のトナーよりも、トナー中に含まれる小粒径微粒子の数が極めて多い。また、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートの構造異性体であるt−ブチルパーオキシピバレートを用いた比較例4のトナーは重合転化率が低く、当該t−ブチルパーオキシピバレートがそもそも重合開始剤としての性能に乏しいことが分かる。
このように、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートは、重合開始剤として用いた場合に、重合転化率を高く維持しつつ、トナー中に残留する原料、副生成物、及び小粒径微粒子の量を極めて少なくでき、さらに、後述するストリッピングも極めて短時間で終了することから、比較的似た構造を有する他の過酸化物(パーオキシド)と比較して、重合開始剤として極めて優れた性能を有することが分かる。
沸点が90〜160℃の希釈剤によって、濃度が75〜95質量%となるようにt−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを予め希釈して重合に用いることが好ましい。濃度をこの範囲にすることによって、安全に、且つ生産性を落とすことなく重合を行うことができる。
t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートの濃度は78〜90質量%であることがより好ましく、78〜85質量%であることが更に好ましい。
希釈剤の沸点を90〜160℃の範囲にすることにより、安全に保管することができ、且つ希釈剤をストリッピング等により容易に除去することができる。
希釈剤の沸点は、95〜150℃であることがより好ましく、100〜130℃であることが更に好ましい。
希釈剤としては、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートと混合しても反応を起こすことのない不活性な有機溶媒が使用され、例えば、オクタン、ノナン、パラフィン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素;トルエン、エチルベンゼン、キシレン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素;ジ(n−プロピル)エーテル、ジ(n−ブチル)エーテル等のエーテル化合物等;が挙げられる。t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートをより安定的に保存することができる点から、希釈剤としては、芳香族炭化水素が好ましく、その中でもトルエン、エチルベンゼン及びキシレンがより好ましく、トルエンが更に好ましい。
t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートの添加量は、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.3〜15質量部であり、更に好ましくは1〜10質量部である。なお、希釈剤によりt−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを希釈して用いる場合には、上記「t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートの添加量」とは、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートの実質的な添加量を指す。したがって、上記実質的な添加量を希釈物の濃度で除した値が、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートの希釈物の添加量となる。
t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートは、上述したように、重合性単量体組成物が水系媒体中へ分散された後、液滴形成前に添加されても良いが、水系媒体中へ分散される前の重合性単量体組成物へ添加されても良い。
本発明において、水系媒体とは、水を主成分とする媒体のことを言う。
本発明において、水系媒体には、分散安定化剤を含有させることが好ましい。分散安定化剤としては、例えば、硫酸バリウム、及び硫酸カルシウム等の硫酸塩;炭酸バリウム、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウム等の炭酸塩;リン酸カルシウム等のリン酸塩;酸化アルミニウム、及び酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化第二鉄等の金属水酸化物;等の無機化合物や、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、及びゼラチン等の水溶性高分子;アニオン性界面活性剤;ノニオン性界面活性剤;両性界面活性剤;等の有機化合物が挙げられる。上記分散安定化剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記分散安定化剤の中でも、無機化合物、特に難水溶性の金属水酸化物のコロイドが好ましい。無機化合物、特に難水溶性の金属水酸化物のコロイドを用いることにより、着色樹脂粒子の粒径分布を狭くすることができ、また、洗浄後の分散安定化剤残存量を少なくできるため、得られるトナーが画像を鮮明に再現することができ、且つ環境安定性が優れたものとなる。
1−3.重合工程
上記1−2のようにして、液滴形成を行い、得られた水系分散液を加熱し、重合を開始し、着色樹脂粒子の水系分散液を調製する。
重合性単量体組成物の重合温度は、好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは60〜95℃である。また、重合の反応時間は好ましくは1〜20時間であり、更に好ましくは2〜15時間である。
本発明では、重合性単量体組成物の重合時に、水溶性オキソ酸塩をさらに添加することが好ましい。水溶性オキソ酸塩としては、ホウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、硝酸塩等が挙げられ、好ましくはホウ酸塩又はリン酸塩が、特に好ましくはホウ酸塩が挙げられる。ホウ酸塩としては、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウム、四ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、ペルオキソホウ酸ナトリウム、メタホウ酸カリウム、及びこれらホウ酸塩の水和物等が挙げられる。リン酸塩としては、ホスフィン酸ナトリウム、ホスホン酸ナトリウム、ホスホン酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、次リン酸ナトリウム、二リン酸ナトリウム、二リン酸二水素二ナトリウム、三リン酸ナトリウム、cyclo−四リン酸ナトリウム、ホスフィン酸カリウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸水素カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、二リン酸カリウム、メタリン酸カリウム、及びこれらリン酸塩の水和物等が挙げられる。ホウ酸塩の中でも、四ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、及びこれらホウ酸塩の水和物が好ましく、四ホウ酸ナトリウム十水和物が特に好ましい。水溶性オキソ酸塩の量は、難水溶性無機化合物コロイド100質量部に対して、通常0.1〜1,000質量部、好ましくは1〜100質量部である。
重合時に水溶性オキソ酸塩を添加することにより、粗大粒子及び微粉の発生を抑制し、粒子径分布を特にシャープにすることができる。
着色樹脂粒子は、そのまま外添剤を添加して重合トナーとして用いてもよいが、この着色樹脂粒子をコア層とし、その外側にコア層と異なるシェル層を作ることで得られる、所謂コアシェル型(又は、「カプセル型」ともいう)の着色樹脂粒子とすることが好ましい。コアシェル型の着色樹脂粒子は、低軟化点を有する物質よりなるコア層を、それより高い軟化点を有する物質で被覆することにより、定着温度の低温化と保存時の凝集防止とのバランスを取ることができる。
上述した、上記着色樹脂粒子を用いて、コアシェル型の着色樹脂粒子を製造する方法としては特に制限はなく、従来公知の方法によって製造することができる。in situ重合法や相分離法が、製造効率の点から好ましい。
in situ重合法によるコアシェル型の着色樹脂粒子の製造法を以下に説明する。
着色樹脂粒子が分散している水系分散液中に、シェル層を形成するための重合性単量体(シェル用重合性単量体)と重合開始剤を添加し、重合することでコアシェル型の着色樹脂粒子を得ることができる。
シェル用重合性単量体としては、前述の重合性単量体と同様なものが使用できる。その中でも、スチレン、アクリロニトリル、及びメチルメタクリレート等の、Tgが80℃を超える重合体が得られる単量体を、単独であるいは2種以上組み合わせて使用することが好ましい。
シェル用重合性単量体の重合に用いる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウム等の、過硫酸金属塩;2,2’−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)、及び2,2’−アゾビス−(2−メチル−N−(1,1−ビス(ヒドロキシメチル)2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)等の、アゾ系開始剤;等の水溶性重合開始剤を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。重合開始剤の量は、シェル用重合性単量体100質量部に対して、好ましくは、0.1〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部である。
シェル層の重合温度は、好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは60〜95℃である。また、重合の反応時間は好ましくは1〜20時間であり、更に好ましくは2〜15時間である。
1−4.洗浄、ろ過、脱水、及び乾燥工程
重合により得られた着色樹脂粒子の水系分散液は、重合終了後に、公知の方法に従い、ろ過、分散安定化剤の除去を行う洗浄、脱水、及び乾燥の操作が、必要に応じて数回繰り返されることが好ましい。
なお、洗浄、濾過、脱水、及び乾燥の一連の操作の前に、着色樹脂粒子の水系分散液について、着色樹脂粒子から揮発性物質(主にエーテル成分、及びスチレン)を除去する目的で、ストリッピング処理工程を設けてもよい。
ストリッピング処理の一例について説明する。上記により得られた着色樹脂粒子の水系分散液は、気体を吹き込む方法により、図1に示すストリッピング処理システムにおいて、以下のようにストリッピング処理できる。
先ず、着色樹脂粒子の水系分散液4をイオン交換水で所定の固形分濃度まで希釈した後、蒸発器1に供給し、必要であれば消泡剤を所定量蒸発器1に加える。蒸発器1内に不活性ガス(例えば、窒素ガス等)又は飽和水蒸気を吹き込み、蒸発器内の気相部を不活性ガスで置換する。
次いで、着色樹脂粒子の水系分散液4を、攪拌翼を備えた攪拌機3を用いて、所定の回転数で攪拌しながら、蒸発器1の外部に接して設けられたジャケット2に温水を通じることにより、蒸発器1を加温する。着色樹脂粒子の水系分散液4の温度が所定の温度まで上がった後、ブロワー6を起動して、不活性ガスの流量を調整し、ガス吹き込み口が直管形状の気体吹き込み管5から、着色樹脂粒子を含む水系分散液中に不活性ガスを吹き込んで、着色樹脂粒子から揮発性物質の除去(ストリッピング処理)を行う。
上記ストリッピング処理条件としては、着色樹脂粒子を含む水系分散液の温度を70〜90℃とし、且つ、不活性ガス流量を0.1〜1.0m/(hr・kg)とすることが好ましい。上述したように、重合開始剤として用いられるt−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートは、重合後、炭素数8のジブチルエーテルを副生するが、上記条件下におけるストリッピング処理により、トナー内に残留した当該ジブチルエーテルを十分除去するため、処理時間は、通常2〜8時間、好ましくは3〜7時間とする。
ストリッピング処理条件としては、着色樹脂粒子を含む水系分散液の温度を75〜85℃とし、且つ、不活性ガス流量を0.3〜0.9m/(hr・kg)とすることが好ましい。
着色樹脂粒子を含む水系分散液4の泡レベルを90〜95%に維持しながらストリッピング処理を行ってもよい。
所定時間のストリッピング処理後、蒸発器1の外部に接して設けられたジャケット2に冷却水を通じることにより、着色樹脂粒子を含む水系分散液4の液温が25℃になるまで冷却を行い、ストリッピングを終了する。
着色樹脂粒子の洗浄の方法としては、分散安定化剤として無機化合物を使用した場合、着色樹脂粒子の水系分散液への酸、又はアルカリの添加により、分散安定化剤を水に溶解し除去することが好ましい。分散安定化剤として、難水溶性の無機水酸化物のコロイドを使用した場合、酸を添加して、着色樹脂粒子水系分散液のpHを6.5以下に調整することが好ましい。添加する酸としては、硫酸、塩酸、及び硝酸等の無機酸、並びに蟻酸、及び酢酸等の有機酸を用いることができるが、除去効率の大きいことや製造設備への負担が小さいことから、特に硫酸が好適である。
脱水、ろ過の方法は、種々の公知の方法等を用いることができ、特に限定されない。例えば、遠心ろ過法、真空ろ過法、加圧ろ過法等を挙げることができる。また、乾燥の方法も、特に限定されず、種々の方法が使用できる。
2.着色樹脂粒子
上述した重合法により、着色樹脂粒子が得られる。
以下、トナーを構成する着色樹脂粒子について述べる。なお、以下で述べる着色樹脂粒子は、コアシェル型のものとそうでないもの両方を含む。
着色樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)は、好ましくは4〜12μmであり、更に好ましくは5〜10μmである。Dvが4μm未満である場合には、重合トナーの流動性が低下し、転写性が悪化したり、画像濃度が低下したりする場合がある。Dvが12μmを超える場合には、画像の解像度が低下する場合がある。
また、着色樹脂粒子は、その体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)が、好ましくは1.0〜1.3であり、更に好ましくは1.0〜1.2である。Dv/Dnが1.3を超える場合には、転写性、画像濃度及び解像度の低下が起こる場合がある。着色樹脂粒子の体積平均粒径、及び個数平均粒径は、例えば、粒度分析計(ベックマン・コールター製、商品名「マルチサイザー」)等を用いて測定することができる。
本発明の着色樹脂粒子の平均円形度は、画像再現性の観点から、0.96〜1.00であることが好ましく、0.97〜1.00であることがより好ましく、0.98〜1.00であることがさらに好ましい。
上記着色樹脂粒子の平均円形度が0.96未満の場合、印字の細線再現性が悪くなるおそれがある。
本発明において、円形度は、粒子像と同じ投影面積を有する円の周囲長を、粒子の投影像の周囲長で除した値として定義される。また、本発明における平均円形度は、粒子の形状を定量的に表現する簡便な方法として用いたものであり、着色樹脂粒子の凹凸の度合いを示す指標であり、平均円形度は着色樹脂粒子が完全な球形の場合に1を示し、着色樹脂粒子の表面形状が複雑になるほど小さな値となる。
3.本発明のトナーの製造方法
上述した着色樹脂粒子は、外添剤と共に混合攪拌することにより、着色樹脂粒子の表面に、外添剤を均一かつ好適に付着添加(外添)させることができる。なお、1成分トナーは、さらにキャリア粒子と共に混合攪拌して2成分トナーとしてもよい。
外添処理を行う攪拌機は、着色樹脂粒子の表面に外添剤を付着させることができる攪拌装置であれば特に限定されず、例えば、ヘンシェルミキサー(:商品名、三井鉱山社製)、FMミキサー(:商品名、日本コークス工業社製)、スーパーミキサー(:商品名、川田製作所社製)、Qミキサー(:商品名、日本コークス工業社製)、メカノフュージョンシステム(:商品名、ホソカワミクロン社製)、及びメカノミル(:商品名、岡田精工社製)等の混合攪拌が可能な攪拌機を用いて外添処理を行うことができる。
外添剤としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、及び酸化セリウム等からなる無機微粒子;ポリメタクリル酸メチル樹脂、シリコーン樹脂、及びメラミン樹脂等からなる有機微粒子;等が挙げられる。これらの中でも、無機微粒子が好ましく、無機微粒子の中でも、シリカ及び酸化チタンが好ましく、特にシリカからなる微粒子が好適である。
なお、これらの外添剤は、それぞれ単独で用いることもできるが、2種以上を併用して用いることができる。中でも粒径の異なる2種以上のシリカを併用することが好ましい。
本発明では、外添剤を、着色樹脂粒子100質量部に対して、通常、0.05〜6質量部、好ましくは0.2〜5質量部の割合で用いることが望ましい。外添剤の添加量が0.05質量部未満の場合には転写残が発生することがある。外添剤の添加量が6質量部を超える場合にはカブリが発生することがある。
本発明の製造方法により得られるトナーは、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを重合開始剤として用いることにより、比較的短い時間のストリッピングによって、未反応の重合性単量体や重合開始剤由来の副生成物を除去できるため、印字の際に発生する臭気が非常に少ないトナーであり、且つ生産性に優れる。
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。
本実施例及び比較例において行った試験方法は以下のとおりである。
1.トナーの製造
[実施例1]
コア用重合性単量体としてスチレン75部及びn−ブチルアクリレート25部、ブラック着色剤としてカーボンブラック(三菱化学製、商品名「#25B」)7部、帯電制御剤としてスチレン/アクリル樹脂(藤倉化成株式会社製、商品名「FCA−161P」)1部、及びマクロモノマーとしてポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成化学工業社製、商品名「AA6」、Tg=94℃)0.25部を、通常の攪拌装置で攪拌及び混合した後、メディア型分散機により、均一分散した。ここに、ジペンタエリスリトールヘキサミリステート(吸熱ピーク:65℃、分子量:1,514)5部を添加、混合、及び溶解して、コア用重合性単量体組成物を得た。コア用重合性単量体組成物の調製はすべて室温下で行った。
他方、室温下で、イオン交換水250部に塩化マグネシウム11.3部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム4.8部を溶解した水溶液を攪拌しながら徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド(難水溶性の金属水酸化物コロイド)分散液を調製した。
上記により得られた水酸化マグネシウムコロイド分散液に、室温下で、上記重合性単量体組成物を投入し、液滴が安定するまで攪拌し、そこに重合開始剤として、上記式(1)により表されるt−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエート(濃度80質量%、日油製、10時間半減期温度:76℃、希釈剤:トルエン(沸点111℃))を5.0部、テトラエチルチウラムジスルフィド(TET)0.75部、ジビニルベンゼン0.5部を添加後、乳化分散機により高剪断攪拌して、重合性単量体組成物の液滴を造粒した。
上記重合性単量体組成物の液滴が分散した水酸化マグネシウムコロイド分散液に、四ホウ酸ナトリウム十水和物1部を添加した後、攪拌翼を装着した反応器に入れ、89℃まで昇温して温度が一定となるように制御し、重合反応を行った。次いで、重合添加率がほぼ100%に達したときに、系内温度を89℃に維持しながら、シェル用重合性単量体としてメチルメタクリレート3部、及びイオン交換水10部に溶解した2,2’−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド)0.1部を添加した。更に3時間重合を継続した後、反応を停止し、pH9.5の着色樹脂粒子の水分散液を得た。
この後、着色樹脂粒子の水分散液を80℃とし、窒素ガス流量0.6m/(hr・kg)で5時間ストリッピング処理を行った後、水分散液を25℃まで冷却した。次いで、得られた水分散液を、25℃にて攪拌しながら、硫酸により系のpHを6.5以下にして酸洗浄を行い、濾過により水を分離した後、新たにイオン交換水500部を加えて再スラリー化し水洗浄を行った。その後、再度、脱水と水洗浄を、数回繰り返し行って、固形分を濾過分離した後、乾燥機に入れ、温度40℃で12時間乾燥した。
上記により得られた着色樹脂粒子100部に、シリカ微粒子2.2部を添加し、高速攪拌機(三井鉱山社製、商品名「ヘンシェルミキサー」)を用いて混合して、実施例1のトナーを製造した。試験結果を表1に示す。
[実施例2]
実施例1において、重合開始剤の希釈剤をトルエン(沸点111℃)からエチルベンゼン(136℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のトナーを製造した。試験結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1において、重合開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエート(濃度80質量%、日油製、10時間半減期温度:76℃、希釈剤:トルエン(沸点111℃))5.0部を、下記式(2)により表されるt−ブチルパーオキシジエチルアセテート4.4部(純度98%、化薬アクゾ社製、10時間半減期温度:74℃、商品名「trigonox27」、希釈剤:なし)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のトナーを製造した。試験結果を表1に示す。
Figure 0006168046
[比較例2]
ストリッピング時間を5時間から10時間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2のトナーを製造した。試験結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例1において、重合開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエート(濃度80質量%、日油製、10時間半減期温度:76℃、希釈剤:トルエン(沸点111℃))5.0部を、下記式(3)により表されるt−ブチルパーオキシイソブチレート(濃度70質量%、日油社製、10時間半減期温度:77℃、商品名「パーブチルIB」、希釈剤:トルエン(沸点111℃))5.3部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3のトナーを製造した。試験結果を表1に示す。
Figure 0006168046
[比較例4]
実施例1において、重合開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエート(濃度80質量%、日油製、10時間半減期温度:76℃、希釈剤:トルエン(沸点111℃))5.0部を、下記式(4)により表されるt−ブチルパーオキシピバレート(濃度70質量%、日油社製、10時間半減期温度:55℃、商品名「パーブチルPV」、希釈剤:イソパラフィン(沸点166℃))5.8部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のトナーを製造した。試験結果を表1に示す。
Figure 0006168046
2.静電荷像現像用トナーの評価
上記実施例1〜実施例2、及び比較例1〜比較例4のトナーについて物性を調べた。詳細は以下の通りである。
2−1.小粒径微粒子の平均個数
重合工程後の着色樹脂粒子を含む水分散液3mLに、10%HSO 1mLを添加し、分散安定化剤を完全に溶解させた。この溶液を濾紙(アドバンテック東洋社製、商品名「No.2」)に2mL滴下して濾過し、風乾して走査電子顕微鏡(SEM)用のサンプルを調製した。
風乾させた着色樹脂粒子に白金蒸着を行って、電界放射型走査電子顕微鏡(日立製作所社製、商品名「S−4700」)を用い、加速電圧を5kVにし、5,000倍に拡大して走査電子顕微鏡(SEM)観察した。
各サンプルについて、ランダムに5視野の画像撮影を行い、各画像において無作為に5個の着色樹脂粒子を選択し、これら25個の着色樹脂粒子表面に観察される小粒径微粒子の個数を数えた。これより、着色樹脂粒子1個あたりの小粒径微粒子の平均個数を算出した。
2−2.残留エーテル化合物及び残留スチレンの除去容易性評価
トナー3gを1mg単位まで精秤した。精秤したトナー3gに酢酸エチル27gを加えて30分間攪拌した後、メタノール13gを加えて更に10分間攪拌した。得られた溶液を静置して、不溶分を沈殿させた。当該溶液の上澄み液を測定用試料として採取し、2μLをガスクロマトグラフに注入して残留エーテル化合物量及び残留スチレン量を定量した。結果を表1に示す。なお、ガスクロマトグラフによる測定条件は以下の通りである。
カラム:TC−WAX(0.25mm×30m)
カラム温度:80℃
インジェクション温度:200℃
FID検出側温度:200℃
実施例1〜実施例2、及び比較例1〜比較例4のトナーの評価結果を、重合開始剤の種類及び希釈剤の種類等と併せて表1に示す。
Figure 0006168046
3.トナーの評価
以下、表1を参照しながら、トナーの評価結果について検討する。
表1より、比較例1及び比較例2のトナーは、t−ブチルパーオキシジエチルアセテートを重合開始剤として用いて製造したトナーである。表1より、比較例1のトナーは、小粒径微粒子の数が3.6個、重合転化率が99.2%であり、重合反応自体に問題は見られない。
しかし、表1より、比較例1のトナーは、残留エーテル化合物量が32ppmと高く、また、残留スチレン量が50ppmと高い。特に、比較例1のトナーの残留エーテル化合物量の値は、実施例1〜実施例2、及び比較例1〜比較例4のトナー中、最も高い値である。したがって、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシジエチルアセテートを用いた比較例1のトナーは、残留低分子量成分が多く、特に重合開始剤由来の残留エーテル化合物が多いことが分かる。これは、t−ブチルパーオキシジエチルアセテートに由来して副生するブチルペンチルエーテルが、ストリッピング処理により完全に除去するのが困難であるためと推測される。
なお、比較例2においては、比較例1の2倍の時間をストリッピングに費やすことにより、残留エーテル化合物量及び残留スチレン量をいずれも10ppm未満に抑えている。この結果は、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシジエチルアセテートを用いた場合には、残留低分子量成分を完全に除去するためにストリッピングに長い時間が費やされ、その結果生産性が低くなることを示す。
表1より、比較例3のトナーは、t−ブチルパーオキシイソブチレートを重合開始剤として用いて製造したトナーである。表1より、比較例3のトナーにおいては、重合転化率は99.4%、残留エーテル化合物量が2ppm、残留スチレン量が10ppmである。したがって、ストリッピング自体に特に問題は見られない。
しかし、表1より、比較例3のトナーは、小粒径微粒子の数が61.5個である。比較例3のトナー中の小粒径微粒子の数は、実施例1〜実施例2、及び比較例1〜比較例4のトナー中、最も高い値である。したがって、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソブチレートを用いた比較例3のトナーは、トナー中の小粒径微粒子の数が極めて多いため、酸洗浄後の濾過において小粒径微粒子が濾紙に詰まり、濾紙を交換し続ける必要があり、生産性が悪い。このような生産性の悪さは、t−ブチルパーオキシイソブチレートの水溶性が比較的高いために、小粒径微粒子が副生し易いことに由来すると推測される。
表1より、比較例4のトナーは、t−ブチルパーオキシピバレートを重合開始剤として用いて製造したトナーである。
表1より、比較例4のトナーにおいては、小粒径微粒子数は11.4個と多く、重合転化率は90.4%と極めて低く、残留エーテル化合物量が15ppmと高く、残留スチレン量が780ppmと極めて高い。特に、比較例4のトナーの重合転化率は、実施例1〜実施例2、及び比較例1〜比較例4のトナー中、最も低い。また、比較例4の残留スチレン量の値は、実施例1〜実施例2、及び比較例1〜比較例4のトナー中、最も高い。
したがって、t−ブチルパーオキシピバレートは重合開始剤としての性能に劣り、そのため、当該重合開始剤を用いた比較例4は重合転化率が低く、比較例4のトナー中には原料由来のスチレンが極めて多く残留することが分かる。
一方、表1より、実施例1及び実施例2のトナーは、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを重合開始剤として用いて製造したトナーである。
表1より、実施例1及び実施例2のトナーは、小粒径微粒子数が10.4個以下と少なく、重合転化率が99.3%以上と高く、残留エーテル化合物量が12ppm以下と低く、残留スチレン量が8ppm以下と低い。
したがって、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを重合開始剤として用いて製造した実施例1及び実施例2のトナーは、印字を行った際に臭気等の原因となる残留低分子量成分の少ない重合トナーであることが分かる。また、実施例1及び実施例2においては、5時間という短いストリッピング時間で残留低分子量成分をほぼ完全に除去できており、生産性に優れることも分かる。
1 蒸発器
2 ジャケット
3 攪拌翼を備えた攪拌機
4 着色樹脂粒子を含む水系分散液
5 気体吹き込み管
6 ブロワー
7 ガス循環ライン
8 凝縮器
9 凝縮タンク
10 ガス循環ライン
11 揮発性物質除去装置
12 ガス循環ライン
13 ガス循環ライン
14 非接触型泡レベル計

Claims (4)

  1. 重合性単量体及び着色剤を含有する重合性単量体組成物を、水系分散媒体中且つ重合開始剤の存在下で重合することにより着色樹脂粒子を作製する工程を有する、トナーの製造方法であって、
    前記重合性単量体は、モノビニル単量体を主成分とし、
    前記重合開始剤は、t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートであり、
    前記重合性単量体組成物の重合温度は50〜95℃であり、当該重合性単量体組成物の重合の反応時間は1〜20時間であり、
    前記重合後に、前記着色樹脂粒子を含む水系分散液の温度を70〜90℃とし、不活性ガス流量を0.1〜1.0m /(hr・kg)とする条件下で、2〜8時間ストリッピング処理を行うことを特徴とするトナーの製造方法。
  2. 沸点が90〜160℃の希釈剤によって、濃度が75〜95質量%となるように前記t−ブチルパーオキシ−2−メチルブタノエートを予め希釈して重合に用いることを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法。
  3. 前記重合時の重合転化率が99.3%以上であり、かつ前記トナー中の小粒径微粒子数が10.4個以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトナーの製造方法。
  4. 前記トナー中の残留エーテル化合物量が12ppm以下であり、かつ残留スチレン量が8ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトナーの製造方法。
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