上記特許文献2の分割ドアは、上扉部分と下扉部分とに分割されており、上扉部分を開いて下扉部分のみを閉じることで、ベビーゲートと同じ機能を得ることができ、上扉部及び下扉部分を一体にして同時に開閉することで、通常のドアと同様に扱うことができる。
しかし、上扉部分を閉じて下扉部分のみを開いた場合、その閉じた上扉部分が背の低い子供にとって邪魔になってぶつかる虞れがある。
また、上扉部分及び下扉部分をそれぞれ個別にドア枠に支持する蝶番が必要であるばかりか、その蝶番の僅かな取り付けの狂い等により上扉部分及び下扉部分が接触して閉じることができなくなったり、或いは閉じても上扉部分及び下扉部分間に隙間が生じたりするという問題が生じることがある。
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、引戸の構造に工夫を凝らすことで、通常の引戸と同様に開口部全体を開閉できるだけでなく、開口部の下部をも独立して開閉できるようにすることにある。
上記の目的を達成するために、この発明では、建具枠の上枠のレールに吊られた吊戸からなり、引戸の下部の内部又は側部に空所を設けて、その空所内に引戸と同じ方向に相対的にスライドする補助扉を収納するようにした。
具体的には、第1の発明の補助扉内蔵引戸は、下部の内部又は側部に、戸先側及び下側に開放された空所からなる補助扉収納部が設けられた引戸本体と、この引戸本体の補助扉収納部内に収納され、その補助扉収納部内に位置する収納位置、及び補助扉収納部内から退出した退出位置の間を引戸本体の移動方向と同じ方向に相対的にスライド移動可能な補助扉とを備え、上記補助扉には、補助扉収納部内外の範囲に亘り床面上で転動するキャスターが設けられており、上記補助扉が収納位置及び退出位置にあるときにそれぞれ該補助扉と引戸本体とを一体的に連結する連結装置が設けられ、この連結装置は、引戸本体の戸先側木口面に設けられた1つのフランス落としと、補助扉の上面の戸先側及び戸尻側の両方に設けられ、補助扉が収納位置及び退出位置に位置するときに上記フランス落としに係合する2つのフランス落とし受けとからなることを特徴とする。
この第1の発明では、補助扉は引戸本体の補助扉収納部内に収納された収納位置と、この補助扉収納部内から退出した退出位置との間を、キャスターが補助扉収納部内外の範囲に亘り床面上で転動することによってスライド移動可能であり、補助扉が収納位置に保持された状態で引戸本体をスライド移動させて開口部を開閉すると、その引戸本体の移動に追従して補助扉も引戸本体の移動方向と同じ方向にスライド移動する。このことで、引戸本体及び補助扉は通常の1枚の引戸にしか見えず、それと同様にスライドして開口部を開閉する。
引戸本体を開いた状態のまま、補助扉を引戸本体に対し相対的に収納位置から退出位置にスライド移動させると、この補助扉は引戸によって開閉される開口部の下部のみを閉じることとなり、ベビーゲート(チャイルドガード)と同じ機能を得ることができる。このとき、補助扉のみが開口部を覆い、引戸本体は開き位置に保持されるため、閉じた状態の最小限の補助扉のみしか露見せず、意匠性が良くなる。
このように補助扉内蔵引戸は、引戸本体及び補助扉の全体がスライドして開口部を開閉する態様と、補助扉のみがスライドして開口部の下部を開閉する態様との2つの態様しか取り得ず、引戸本体のみが閉じて補助扉が開く態様がないので、分割ドアの場合のように、不要な上扉部分が邪魔になるような態様は生じない。しかも、分割ドアのように蝶番によってドア枠に支持する必要がないので、開閉の不具合や隙間の発生等の生じる余地もない。
また、補助扉は引戸本体に形成した補助扉収納部内に収納されるので、その補助扉を引戸本体と同様に開口部の横壁内に収納する必要がなく、その横壁には引戸本体を収納する元々の戸袋さえあればよく、既存の壁構造を利用して施工することができる。
また、引戸本体は建具枠の上枠のレールに吊られた吊戸であり、補助扉にはキャスターが設けられているので、引戸本体は建具枠の上枠のレールに吊られてスライド移動し、補助扉はキャスタによって床面上をスライド移動する。このことで、引戸本体及び補助扉の各下部を案内するためのレールを床面に設ける必要がなくなり、意匠性を向上させることができる。
さらに、補助扉が収納位置及び退出位置にあるときにそれぞれ補助扉と引戸本体とを一体的に連結する連結装置が設けられ、この連結装置は、引戸本体の戸先側木口面に設けられた1つのフランス落としと、補助扉の上面の戸先側及び戸尻側に設けられた2つのフランス落とし受けとからなるので、引戸本体の同じ1つのフランス落としを補助扉上面の2つのフランス落とし受けにそれぞれ係合させることにより、補助扉を引戸本体に一体的に固定することができる。すなわち、補助扉が引戸本体の補助扉収納部内に収納された収納位置にあって、その補助扉上面の戸先側にあるフランス落とし受けにフランス落としを係合させたときには、その係合によって補助扉が収納位置のままで引戸本体に一体的に固定され、引戸本体を補助扉と共に一体的に開閉することができる。
補助扉が引戸本体の補助扉収納部内から退出した退出位置にあって、その補助扉上面の戸尻側にあるフランス落とし受けにフランス落としを係合させたときには、その係合によって補助扉が退出位置つまり開口部の下部を閉じたままで引戸本体に一体的に固定され、よって補助扉がベビーゲート(チャイルドガード)として機能する状態を保持することができる。
第2の発明は、第1の発明において、補助扉の戸先側木口面には出し入れ可能な引手が設けられていることを特徴とする。
この第2の発明では、補助扉の戸先側木口面に設けられている引手は出し入れ可能であるので、補助扉が収納位置にあるときには、引手が木口面に没入して目立たず、補助扉のみを閉じるという必要なときのみに、その木口面の引手を突出させて引き操作することで、補助扉を収納位置から引き出して移動させることができ、補助扉の引戸本体との一体感が得られる。
第3の発明は、第1又は第2の発明において、補助扉が退出位置にあるときに該補助扉を移動不能に建具枠の竪枠に係合する係合装置が設けられていることを特徴とする。
この第3の発明では、係合装置によって退出位置にある補助扉の戸先部を建具枠の竪枠に固定することができ、補助扉がベビーゲート(チャイルドガード)として機能する状態を保持することができる。
以上説明したように、第1の発明の補助扉内蔵引戸によると、吊戸からなる引戸本体の下部の内部又は側部に、戸先側及び下側に開放された空所からなる収納部を設け、その収納部内に、補助扉収納部内外の範囲に亘り床面上で転動するキャスターによって収納位置と退出位置との間を引戸本体の移動方向と同じ方向に相対的にスライド移動可能な補助扉を収納し、引戸本体の戸先側木口面に設けられた1つのフランス落としと、補助扉の上面の戸先側及び戸尻側の両方に設けられた2つのフランス落とし受けとからなり、補助扉が収納位置及び退出位置にあるときにそれぞれ引戸本体と一体的に連結する連結装置を設けたことにより、補助扉を収納位置に保持した状態で、引戸本体及び補助扉を通常の1枚の引戸と同様にスライドして開口部を開閉する一方、引戸本体を開いた状態で、補助扉を退出位置にスライド移動させて、この補助扉により開口部の下部のみを閉じることができ、ベビーゲート(チャイルドガード)と同じ機能を得ることができる。また、蝶番によってドア枠に支持される分割ドアの場合のように、不要な引戸本体が邪魔になることや、開閉の不具合、隙間の発生等が生じないとともに、既存の戸袋を利用して施工することができる。
また、引戸本体が吊戸で、補助扉にキャスターがを設けられているので、引戸本体及び補助扉の各下部を案内するためのレールを床面に設ける必要がなく、意匠性の向上を図ることができる。
さらに、引戸本体の戸先側木口面に位置する1つのフランス落としと、補助扉の上面の戸先側及び戸尻側の両方に位置する2つのフランス落とし受けとからなる連結装置が設けられているので、補助扉が収納位置にあるときには、フランス落としが戸先側のフランス落とし受けに係合して引戸本体を補助扉と共に一体的に開閉することができる一方、補助扉が退出位置にあるときには、フランス落としが戸尻側のフランス落とし受けに係合して補助扉を、開口部の下部を閉じたままで引戸本体に一体的に固定して補助扉がベビーゲート(チャイルドガード)として機能する状態を保持することができる。
第2の発明によると、補助扉の戸先側木口面に出し入れ可能な引手を設けたことにより、補助扉が収納位置にあるときには、木口面に没入している引手を、補助扉のみを閉じるという必要なときのみに、木口面から突出させて引き操作すればよく、補助扉の引戸本体との一体感が得られる。
第3の発明によると、退出位置にある補助扉を移動不能に建具枠の竪枠に係合する係合装置を設けたことにより、補助扉がベビーゲート(チャイルドガード)として機能する状態を保持することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
(実施形態1)
図1〜図6は本発明の実施形態1に係る補助扉内蔵引戸Aを示し、この引戸Aは、例えば子供部屋等の第1部屋R1と、この第1部屋R1に隣接する第2部屋R2(リビングやキッチン等)との境界の開口部A1に該開口部A1を開閉するために施工される。すなわち、図3〜図6において、1,1は第1及び第2部屋R1,R2の境界部分の左右両側に立設された、建具枠の竪枠をなす柱で、これら両柱1,1の上端部間には上枠(図示せず)が掛け渡されている。柱1,1間の左半部には第1部屋R1側である裏側に壁2が、また第2部屋R2側である表側に壁3がそれぞれ互いに対向するように施工され、この両壁2,3と右側の柱1との間に上記開口部A1が形成されており、壁2,3は開口部A1の横壁となっている。そして、壁2,3間には戸袋4が形成され、この戸袋4に上記開口部A1を開閉する補助扉内蔵引戸Aが収容されている。
補助扉内蔵引戸Aは引戸本体10と補助扉18とを備えている。引戸本体10は、基本的に通常一般の引戸と同様のものであり、下部の構造のみが異なっている。
具体的には、引戸本体10は建具枠の上枠に吊られた吊戸であり、一般の吊戸と同様に、上枠下面にはハンガーレール(図示せず)が埋め込まれて取付固定されている一方、引戸本体10の上部にはハンガーレール内を転動する吊り車としてのローラ(図示せず)が取り付けられており、引戸本体10は上枠のハンガーレールにローラの転動によってスライド移動可能に吊り下げ支持されている。また、引戸本体10の略上半部には、窓ガラス11が嵌め込まれた窓部12が形成されている。引戸本体10の戸先側表裏面には引手13,13(表側のみ図示する)が取り付けられている。
そして、上記引戸本体10において窓部12を除いた部分である下部の内部には空所からなる補助扉収納部15が設けられている。この補助扉収納部15は、引戸本体10の厚さ方向(表裏方向)の中間部を引戸本体10の右側下部の隅角部から内奥側(左上側)に向かって表裏壁部を残して矩形状に切り欠くことで、その表裏壁部間に形成されかつ戸先側(右側の柱1側)及び下側に開放された断面矩形状の空間からなる。そして、この補助扉収納部15内に上記補助扉18が収納されている。
上記補助扉18は、左右方向の長さが補助扉収納部15の左右長さよりも少し小さくて、上下方向の高さも補助扉収納部15の上下高さよりも小さく、厚さが補助扉収納部15の前後幅よりも薄い矩形板状のもので、その下面の戸先部及び戸尻部の2箇所にはそれぞれキャスター19,19が取り付けられており、このキャスター19,19を床面上で転動させることにより、補助扉18が補助扉収納部15内に位置する図3及び図4に示す収納位置と、この補助扉収納部15内から退出した図5及び図6に示す退出位置との間を引戸本体10の移動方向と同じ左右方向に相対的にスライド移動可能となっている。尚、例えば補助扉収納部15内の上面と補助扉18の上面との間にガイドレール等の案内装置を設けてもよく、補助扉18のスライド移動がさらにスムーズに行われる。
図7に示すように、上記補助扉18の戸先側木口面において、その上端部寄りの高さ位置には、出し入れ可能な引手24を有する引手装置21が設けられている。この引手装置21は、補助扉18が収納位置にあるときに補助扉18を収納位置から引き出して退出位置に移動させるためのもので、補助扉18の木口面に埋め込まれて固定された矩形板状の引手本体22を備え、この引手本体22の表面には上下方向に延びる凹溝23が形成され、この凹溝23の内部には凹溝23と同じ形状の引手24が収容されている。この引手24は引手本体22に対し、凹溝23内の上部寄りに配置した水平方向(補助扉18の表裏方向)に延びる軸部(図示せず)を介して回動可能に支持されており、この引手24を回動させたときに、その下端部が木口面から離隔しながら上方向に、また上端部が木口面内に没入しながら下方向にそれぞれ移動する。引手24の下端部(回動端部)には補助扉18の内奥部側に延びる指フック部24aが一体に形成されている。また、凹溝23の上端部には溝幅が他の部分よりも大きくなるように円形状に拡大した溝幅拡大部23aが形成され、この溝幅拡大部23a内において引手24の上端部が凹溝23内で突出しており、通常時には引手24は自重により凹溝23内に収容されて木口面から突出せず、下端部の指フック部24aが露出していないが、上端部を押して軸部回りに回動させたときに、下端部が木口面から突出して指フック部24aが露出し、図示の如く、この露出した指フック部24aに指を掛けて引き操作することで、補助扉18を引戸本体10に対し相対的に移動させて補助扉収納部15から引き出すようになっている。
また、補助扉18の戸先部には上記引手装置21よりも下側の位置に、補助扉18が退出位置(閉じ位置)にあるときに該補助扉18を移動不能に柱1(建具枠の竪枠)に係合するための係合装置としての鎌錠27が設けられている。この鎌錠27は一般に用いられる公知構造のものであり、鎌錠本体28と受座36(ストライカ)とからなる。例えば鎌錠本体28は、図9(a)に示すように、補助扉18の表面から木口面に亘って矩形状に切り欠いた切欠部分にその切欠部分を覆うように配置されて固定された断面L字状のケース29を備えている。このケース29において、補助扉18の木口側に位置する部分にはボルト出没口30が形成され、補助扉18の表面側に位置する部分には略半円形状の凹部31が形成されている。この凹部31の内部には凹部31の半円形状の中心に相当する位置に基部を有する操作レバー部32(サムターン)が収容され、この操作レバー部32は、その基部において補助扉18の表裏方向に延びる軸部(図示せず)により回動可能に支持されている。この操作レバー部32の軸部は凹部31の底部を貫通して裏面側に延び、その先端部には先端に係止部33aを有する円弧状のボルト33が直接に又は連動機構(図示せず)を介して駆動連結されている。このボルト33は、先端の係止部33aが上記ボルト出没口30を通してケース29外に突出する位置と、ケース29内に没入する位置との間で移動可能に鎌錠本体28に支持されており、操作レバー部32を図9(a)で反時計回り方向(上方向)に回動操作したときには、ボルト33先端の係止部33aがボルト出没口30を通してケース29内に没入する一方、操作レバー部32を図9(a)で時計回り方向(下方向)に回動操作したときには、同図に示すように、係止部33aがボルト出没口30を通してケース29外に突出するようにしている。
一方、上記受座36は、右側の柱1に鎌錠本体28と対向するように取付固定されている。図9(b)に示すように、この受座36は上下方向に延びる細長い板状のもので、その上下略中央部には上下方向に細長い矩形状のボルト挿入口37が貫通形成されている。そして、補助扉18が退出位置(閉じ位置)にあって、その木口面が右側の柱1に当接ないし近接しているときに、鎌錠本体28の操作レバー部32を操作してボルト33の先端係止部33aをボルト出没口30を通してケース29外に突出させ、同係止部33aを受座36のボルト挿入口37から内部に下側に向けて挿入してボルト挿入口37の下側周縁部に係止させることで、鎌錠本体28つまり該鎌錠本体28が固定されている補助扉18を、受座36つまり該受座36が固定されている柱1に固定し、補助扉18を退出位置(閉じ位置)にロック保持するようにしている。
さらに、上記補助扉18と引戸本体10とを一体的に連結する連結装置40が設けられている。この連結装置40はフランス落とし41と、このフランス落とし41に係合するフランス落とし受け50(受座)とからなる。フランス落とし41は、上記引戸本体10の戸先側木口面において補助扉収納部15の開口上縁部に取付固定されている。このフランス落とし41も一般に用いられる公知構造のもので、例えば図8(a)及び図8(b)に示すように、垂直部42aと、該垂直部42aの下端に連続する水平部42bとからなっていてL字状に折り曲げられたケース42を有し、このケース42は、垂直部42aを引戸本体10の木口面に、また水平部42bを補助扉収納部15内の上面にそれぞれ位置付けた状態で、その引戸本体10の木口面から補助扉収納部15内の上面まで矩形溝状に切り欠いた切欠部分に該切欠部分を覆うように配置されて固定されている。このケース42において、補助扉収納部15内に位置する下端の水平部42bにはピン挿通孔43が貫通形成されている。ケース42の垂直部42aには上下方向に延びる凹溝部44が形成され、その凹溝部44の底部には上下方向に延びるスリット46がケース42の表裏面を貫通するように形成されている。凹溝部44の内部には操作スライド部材45が収容され、この操作スライド部材45は端部をケース42裏側に突出させた状態でスリット46に摺動可能に支持され、この操作スライド部材45の突出端部にはピン部材47の上端が移動一体に取付固定されている。ピン部材47はケース42の裏側を上下方向に延びるもので、その下端に上記ピン挿通孔43を貫通する係止ピン部47aを有しており、操作スライド部材45を凹溝部44内で上下方向にスライド移動させることで、その操作スライド部材45と一体的なピン部材47を上下方向に移動させて、その下端の係止ピン部47aをピン挿通孔43を介してケース42の水平部42bに対し出没させるようにしている。
また、フランス落とし受け50は、補助扉18の上面においてその戸先側(右側)及び戸尻側(左側)の2箇所に取付固定されている(図7参照)。この両フランス落とし受け50,50はいずれも同じ構造のもので、図8(c)に示すように、中央部にピン係合孔51が貫通形成された矩形板材からなる。
そして、フランス落とし41のピン部材47の係止ピン部47aの位置が各フランス落とし受け50のピン挿通孔51の真上に一致したときに、操作スライド部材45を下方向にスライド操作してピン部材47を下方向に移動させ、その下端の係止ピン部47aを各フランス落とし受け50のピン挿通孔51に挿入して係合させることにより、補助扉18を引戸本体10と一体的に連結するようにしている。また、フランス落とし受け50を補助扉18の上面においてその戸先側及び戸尻側の2箇所に設けることにより、補助扉18が収納位置及び退出位置のいずれにあっても、フランス落とし41とフランス落とし受け50,50との係合によって補助扉18と引戸本体10との一体的な連結を行うようになっている。
したがって、上記実施形態においては、補助扉内蔵引戸Aの補助扉18は引戸本体10の補助扉収納部15内に収納された収納位置と、この補助扉収納部15内から退出した退出位置との間をスライド移動可能であり、図3及び図4に示すように、連結装置40のフランス落とし41と補助扉18の戸先側のフランス落とし受け50との係合により補助扉18が収納位置に保持された状態で引戸本体10をスライド移動させて、第1及び第2部屋R1,R2の境界の開口部A1を開閉すると、その引戸本体10の移動に追従して補助扉18も引戸本体10の移動方向と同じ方向にスライド移動する。このことで、引戸本体10及び補助扉18は通常の1枚の引戸にしか見えず、それと同様にスライド移動して開口部A1を開閉する。
一方、引戸本体10を開いた状態のまま、上記連結装置40のフランス落とし41と補助扉18の戸先側のフランス落とし受け50との係合を解除して、補助扉18を引戸本体10に対し相対的に収納位置から退出位置にスライド移動させると、図5及び図6に示すように、この補助扉18は開口部A1の下部のみを閉じることとなる。その状態でフランス落とし41を補助扉18の戸尻側のフランス落とし受け50に係合させるか、或いは鎌錠27を作動させるかすれば、ベビーゲート(チャイルドガード)と同じ機能を得ることができる。このとき、補助扉18のみが開口部A1の下部を覆い、引戸本体10は開き位置に保持されるため、閉じた状態の最小限の補助扉18のみしか露見せず、意匠性が良くなる。
また、上記引戸本体10は上枠のレールに吊られてスライド移動する一方、補助扉18はキャスター19,19によって床面上をスライド移動するので、引戸本体10及び補助扉18の各下部を案内するためのレールを床面に設ける必要がなくなり、意匠性を向上させることができる。
このように補助扉内蔵引戸Aは、引戸本体10及び補助扉18の全体がスライドして開口部A1を開閉する使用態様と、補助扉18のみがスライドして開口部A1の下部を開閉する使用態様との2つの態様しか取り得ず、引戸本体10のみが閉じて補助扉18が開く使用態様がない。そのため、分割ドアの場合のように、不要な上扉部分が邪魔になるような使用態様は生じないとともに、分割ドアのように蝶番によってドア枠に支持する必要がないので、開閉の不具合や隙間の発生等の生じる余地もない。
また、補助扉18は引戸本体10下部の補助扉収納部15内に収納されるので、その補助扉18を引戸本体10とは別に壁2,3の間に収納する必要がなく、その壁2,3間には引戸本体10を収納するための元々の戸袋4さえあればよく、既存の壁構造を利用して施工することができる。
さらに、上記補助扉18の戸先側木口面に出し入れ可能な引手24を有する引手装置21が設けられており、この引手24は、補助扉18が収納位置にあるときに補助扉18の木口面に没入して目立たない。そして、その格納位置にある補助扉18を引戸本体10の補助扉収納部15内から引き出すとき、図7に示すように、木口面の引手24の上端部を凹溝23内に押し込んで軸部回りに回動させ、下端部の指フック部24aを引手本体22つまり補助扉18の木口面から突出させて引き操作することで、補助扉18を収納位置から引き出して移動させることができる。このように、補助扉18の戸先側木口面に設けられている出し入れ可能な引手24を、補助扉18のみを閉じるという必要なときのみに突出させて引き操作すればよく、補助扉18の引戸本体10との一体感が得られる。
また、上記引戸本体10の戸先側木口面にフランス落とし41が設けられ、補助扉18の上面の戸先側及び戸尻側にそれぞれフランス落とし受け50,50が設けられているので、補助扉18が収納位置又は退出位置に位置するときにフランス落とし41を各フランス落とし受け50に係合させることで、補助扉18を引戸本体10に一体的に固定することができる。
すなわち、上述したように、補助扉18が引戸本体10の補助扉収納部15に収納された収納位置にあるとき、その補助扉18上面の戸先側にあるフランス落とし受け50にフランス落とし41を係合させると、その係合によって補助扉18が収納位置のままで引戸本体10に一体的に固定され、引戸本体10を補助扉18と共に一体的に開閉することができる。
補助扉18が引戸本体10の補助扉収納部15から退出した退出位置にあるときに、その補助扉18上面の戸尻側にあるフランス落とし受け50にフランス落とし41を係合させると、その係合によって補助扉18が退出位置つまり開口部A1の下部を閉じたままで引戸本体10に一体的に固定される。このことによって補助扉18が閉じ状態のままスライド移動不能となり、ベビーゲート(チャイルドガード)として機能する状態を保持することができる。
しかも、上記補助扉18の戸先部に柱1(建具枠の竪枠)と係合する鎌錠27が設けられているので、この鎌錠27によって退出位置にある補助扉18の戸先部を柱1に固定することができ、その場合には、上記フランス落とし41とフランス落とし受け50との係合に加えて、補助扉18がベビーゲート(チャイルドガード)として機能する状態を確実に保持することができる。
そして、補助扉18が退出位置にあって、その補助扉18上面の戸尻側にあるフランス落とし受け50にフランス落とし41を係合させたときには、上記のように、補助扉18が退出位置つまり開口部A1の下部を閉じたままで引戸本体10に一体的に固定されるが、その際、フランス落とし41が引戸本体10の戸先側木口面に設けられているので、第1部屋R1にいる例えば子供がフランス落とし41の操作スライド部材45を触って押し上げることがあると、そのフランス落とし41のピン部材47の係止ピン部がフランス落とし受け50のピン挿通孔51から抜け出て係合が解除される虞れがある。しかし、鎌錠27によって補助扉18を退出位置にある補助扉18の戸先部を柱1(建具枠の竪枠)に固定しておけば、上記の如く、仮にフランス落とし41とフランス落とし受け50との係合が解除されたとしても、補助扉18が退出位置から移動して開くことはなく、開口部A1を安定して閉じたままに保つことができる。
そのとき、鎌錠27(その鎌錠本体28)と引手装置21とは補助扉18の戸先側に集中して設ける必要があるが、鎌錠27は引手装置21よりも下側に取り付けられているので、たとえ第1部屋R1にいる子供が補助扉18の上側から手を伸ばしても鎌錠27の操作レバー部32に届き難くなり、不用意に鎌錠27が解錠されて補助扉18が開くことはない。
(実施形態2)
図10は実施形態2示し(尚、図1〜図9と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する)、引戸本体10における補助扉収納部15の構造を変えたものである。
すなわち、上記実施形態1では、引戸本体10の下部の内部に補助扉収納部15を形成しているのに対し、この実施形態では、引戸本体10の下部の例えば表側の側部に、その表側側部を段差状に切り欠くことによって空所からなる補助扉収納部15が設けられ、この補助扉収納部15に補助扉18が収納されている。
その他の構造は実施形態1と同様である。よって、この実施形態でも実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
特に、この実施形態の場合、補助扉18のキャスターを補助扉内蔵引戸A全体のキャスターとして利用できる利点がある。
(その他の実施形態)
尚、上記実施形態では、退出位置にあるときに補助扉18を移動不能に柱1に係合する係合装置として鎌錠27を用いているが、鎌錠27以外の装置を用いてもよい。