JP6162629B2 - 多段変速機構 - Google Patents
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かかる無段変速機では、大きな動力を伝達する際に、推力を増大させて摩擦力を確保することが必要である。この際、推力発生用のオイルポンプを駆動する駆動源(エンジン又は電動モータ)の負担が増大し、これにかかる燃料消費量又は電力消費量の増加を招いてしまうおそれがあり、また、各プーリや駆動ベルトなどの耐久性を損ねるおそれがある。
このような無段変速機構としては、回転軸に対して等距離を維持しながら径方向に可動に且つ一体回転するように支持されて回転軸に対して公転する複数のピニオンスプロケットがそれぞれ多角形の頂点をなすようにして形成された見かけ上の大スプロケット(ここでは、「複合スプロケット」と呼ぶことにする)が、入力側及び出力側のそれぞれに設けられ、これらの複合スプロケットに巻き掛けられたチェーンによって動力伝達するものが挙げられる。かかる構成のもとでは、各ピニオンスプロケットが回転軸に対して等距離を維持しながら同期して径方向に移動することで、多角形の大きさが相似的に変化して複合スプロケットが拡縮径することにより、変速比が変化する。
そこで、変速比を一定に維持するときには、複合スプロケットの歯数が整数となる状態を保持し、また、変速比を変更するときには、複合スプロケットの歯数を整数から他の整数へと順次遷移させることが考えられる。すなわち、複合スプロケットの歯数がとりうる整数の数だけ多段に変速する多段変速機構が考えられる。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本発明の他の目的として位置づけることができる。
(3)前記係脱部は、前記突起部を前記凹部に向けて付勢する付勢部材を更に有することが好ましい。
(6)前記凹部は、皿モミ穴であることが好ましい。
(7)前記係脱部は、ボールプランジャであることが好ましい。
(8)前記凹部及び前記係脱部は、周方向に等間隔で複数設けられることが好ましい。
(9)前記固定ディスク及び前記可動ディスクの何れか一方と一体に回転するプレートを備え、前記プレートに前記凹部が設けられることが好ましい。
(10)また、もう一つの本発明の多段変速機構は、動力が入力又は出力される回転軸と、前記回転軸に対して径方向に可動に支持された複数のピニオンスプロケットと、前記複数のピニオンスプロケットを前記回転軸の軸心から等距離を維持させながら前記径方向に同期させて移動させるスプロケット移動機構とを有する複合スプロケットを二組と、前記二組の複合スプロケットに巻き掛けられたチェーンとを備え、前記複数のピニオンスプロケットの何れをも囲み且つ前記複数のピニオンスプロケットの何れにも接する円の半径である接円半径の変更によって変速比を変更する多段変速機構であって、前記複数のピニオンスプロケットの各支持軸が内挿されるスプロケット用固定放射状溝が形成され、前記回転軸と一体回転する固定ディスクと、前記スプロケット用固定放射状溝と交差する第一交差箇所に前記支持軸が位置するスプロケット用可動放射状溝が形成され、前記固定ディスクに対して同心に配置され且つ相対回転可能な可動ディスクと、前記複数のピニオンスプロケットによって形成される見かけ上の前記複合スプロケットの歯数が整数となるときの前記固定ディスクに対する前記可動ディスクの位相を保持する位相保持機構と、を備え、前記位相保持機構は、前記固定ディスク及び前記可動ディスクの何れか一方と一体に回転し、前記複合スプロケットの歯数が整数となるときの前記固定ディスクに対する前記可動ディスクの位相のそれぞれに対応して設けられた凹部と、前記固定ディスク及び前記可動ディスクの何れか他方と一体に回転し、前記凹部に突起部が係脱可能に設けられた係脱部と、を有する。さらに、前記複合スプロケットの歯数がとりうる整数のうちの一つの整数である基準整数に対応する前記凹部と、前記基準整数を1だけ変化させた整数である隣接整数に対応する前記凹部とは、前記回転軸の軸心を基準とした径方向位置が異なって設けられている。
具体的には、複合スプロケットの歯数が整数となるときの固定ディスクに対する可動ディスクの位相のそれぞれに対応して設けられた凹部が、固定ディスク及び可動ディスクの何れか一方に設けられ、これらの凹部に係脱可能な突起部を有する係脱部が固定ディスク及び可動ディスクの何れか他方に設けられているため、固定ディスクに対する可動ディスクの位相が、歯数が整数をなすのに対応する位相となると、係脱部の突起部を凹部に係合させることができる。これにより、固定ディスクに対する可動ディスクの位相が機械的(メカニカル)に保持され、複合スプロケットの歯数が整数となる状態を精確に保持することができる。
本発明の多段変速機構は、変速比を一定に維持するときには複合スプロケットの歯数が整数となる状態を保持し、また、変速比を変更するときには複合スプロケットの歯数を整数から他の整数へと順次遷移させるものである。このため、本多段変速機構は、複合スプロケットの歯数がとりうる整数の数だけ多段に変速することが可能となる。
なお、複合スプロケットの歯数とは、複合スプロケットのピッチ円の円周をチェーンの単位リンク長(ピニオンスプロケットの単位ピッチ長)で除算して導出することができ、複合スプロケットの見かけ上の(複数のピニオンスプロケットによって形成される見かけ上の大スプロケットの全周に亘って歯が存在すると見なした場合の)歯数を意味する。以下、複合スプロケットの歯数というときは、同様の意味で用いる。
以下、一実施形態にかかる多段変速機構について説明する。
〔1−1.多段変速機構の構成〕
多段変速機構は、図1に示すように、二組の複合スプロケット5,5と、これらの複合スプロケット5,5に巻き掛けられたチェーン6とを備えている。なお、複合スプロケット5とは、詳細を後述する複数のピニオンスプロケット20及び複数のガイドロッド29が多角形(ここでは十八角形)の頂点をなすようにして形成された見かけ上の大スプロケットを意味する。
複合スプロケット5の外径とは、複数のピニオンスプロケット20の何れをも囲み、且つ、複数のピニオンスプロケット20の何れにも接する円(接円)の半径(以下、「接円半径」という)に対応するものである。また、複合スプロケット5にはチェーン6が巻き掛けられるため、複合スプロケット5の外径は、複数のピニオンスプロケット20とチェーン6との接触半径、即ち、複合スプロケット5のピッチ円の半径に対応するものともいえる。
なお、図1には、入力側の接円半径が最小径であり、出力側の接円半径が最大径のものを示している。
このように、多段変速機構は、接円半径の変更によって変速比を変更するものである。
以下、多段変速機構の構成を、複合スプロケット5及びこれに巻き掛けられるチェーン6の順に説明する。
以下の複合スプロケット5にかかる構成の説明では、ピニオンスプロケット20,ガイドロッド29,スプロケット移動機構40A,ロッド移動機構40B,機械式自転駆動機構50,位相保持機構60の順に説明する。
三個のピニオンスプロケット20は、それぞれチェーン6と噛合って動力伝達する歯車として構成され、回転軸1の軸心C1周りに公転する。ここでいう「公転」とは、各ピニオンスプロケット20が、回転軸1の軸心C1を中心に回転することを意味する。回転軸1が回転すると、この回転に連動して各ピニオンスプロケット20が公転する。つまり、回転軸1の回転数とピニオンスプロケット20が公転する回転数とは等しい。なお、図1には、白抜きの矢印で反時計回りの公転方向を示している。
当然ながら、各ピニオンスプロケット21,22,23に形成される歯の形状寸法及びピッチは同一規格のものとなっている。
なお、第一自転ピニオンスプロケット22と第二ピニオンスプロケット23とは、配設箇所と自転方向が異なるのを除いて同様に構成されるため、ここでは、第一自転ピニオンスプロケット22に着目して説明する。
なお、図示省略するが、各ピニオンスプロケット21,22,23において、各支持軸21a,22a,23aに対して自転を規制しつつ微小回転(一定範囲内での回転)を許容して動力伝達を実現する位相ズレ許容動力伝達機構が装備されていてもよい。かかる位相ズレ許容動力伝達機構としては、ピニオンスプロケット21,22,23の内周側に一体回転するように装備されたキー部材と、ピニオンスプロケット21,22,23の支持軸21a,22a,23aの外周側に形成されてキー部材が回転方向に遊びをもって係合するキー溝と、キー部材がキー溝の回転方向の中立位置に位置するように、キー部材を回転方向の正転と逆転方向との双方から付勢する付勢部材とを備え、回転方向の中立位置に付勢し回転を弾性的に規制するものを用いることができる。この場合、ピニオンスプロケット21,22,23の本体部21b,22b,23bは、支持軸21a,22a,23aに対して回転自在に設けられる。
図1に示すように、複数のガイドロッド29は、チェーン6と回転軸1の軸心C1との距離の変動を小さくするように、つまり、回転軸1周りのチェーン6の軌道を可能な限り円軌道に近づけるように、チェーン6をガイドするものである。このガイドロッド29は、その径方向外側の周面に当接するチェーン6の軌道をガイドする。ピニオンスプロケット21,22,23及び各ガイドロッド29は多角形(略正多角形)の形状をなすので、チェーン6は、その径方向内側のピニオンスプロケット21,22,23及び各ガイドロッド29に当接しガイドされながら多角形の形状に沿って転動する。
なお、ガイドロッド29の本数は、十五本に限らず、これよりも多くてもよいし少なくてもよい。この場合、ガイドロッド29の本数は、ピニオンスプロケット20の相互間の数(ここでは三つ)の倍数であることが好ましい。また、ガイドロッド29を多く設けるほど複合スプロケット5を真円に近づけ、チェーン6と回転軸1の軸心C1との距離の変動を小さくすることができるが、パーツの増加による製造コストや重量の増加を招くため、これらを考慮してガイドロッド29の本数を設定することが好ましい。更に言えば、簡素な構成とするために、ガイドロッド29を省略してもよい。
次に、スプロケット移動機構40A,ロッド移動機構40B,機械式自転駆動機構50,位相保持機構60をそれぞれ説明する。
スプロケット移動機構40Aは、複数のピニオンスプロケット20を移動対象とし、また、ロッド移動機構40Bは、複数のガイドロッド29を移動対象としている。
位相保持機構60は、固定ディスク10に対する可動ディスク19の位相を複合スプロケット5の歯数が整数となるように保持するものである。
まず、図2を参照して、上記の機構40A,40B,50,60の前提構成を説明する。ここでは、かかる前提構成として、回転軸1と一体に回転する固定ディスク10(径方向移動用固定ディスク,自転用固定ディスク)と、この固定ディスク10に対して同心に配置され且つ相対回転可能な可動ディスク19と、固定ディスク10と一体に回転する第一回転部15と、可動ディスク19と一体に回転する第二回転部16と、可動ディスク19を固定ディスク10に対して相対回転駆動する相対回転駆動機構30との順にそれぞれを説明する。
固定ディスク10は、回転軸1と一体に形成されるか、或いは、何れも回転軸1と一体回転するように結合されている。なお、図2では、複数のピニオンスプロケット20側から軸方向外側に向けて可動ディスク19,固定ディスク10の順に配置されたもの例示する。
スプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cは、ピニオンスプロケット20のそれぞれに対応して設けられ、また、ロッド用固定放射状溝12は、ガイドロッド29のそれぞれに対応して設けられている。
また、ロッド用固定放射状溝12には、各ガイドロッド29のロッド支持軸29a(一箇所のみに符号を付す)が内挿されている。
可動ディスク19(破線で示す)には、スプロケット用可動放射状溝19aとロッド用可動放射状溝19b(何れも一箇所のみに符号を付して破線で示す)との二種の可動放射状溝が形成されている。なお、可動ディスク19の外形は円形であり、円形である固定ディスク10の外形と一致して重合するが、図3では便宜上の可動ディスク19の外形円を縮小して示している。
第一回転部15は、固定ディスク10と一体回転する部分、即ち、回転軸1と一体回転する部分である。ここでは、図2に示すように、第一回転部15が回転軸1の一部に設けられている。この第一回転部15は、固定ディスク10及び可動ディスク19よりも軸方向外側に配設されている。
図2,図4及び図5に示すように、第二回転部16は、可動ディスク19と接続部17を介して接続されている。なお、図4及び図5には、白抜きの矢印で反時計回りの公転方向を示している。
まず、接続部17について説明する。
接続部17においては、可動ディスク19と第二回転部16との接続のうち、軸方向成分の離隔分を接続しているのが軸方向接続部17aであり、径方向の離隔分を接続しているのが径方向接続部17bである。
図4及び図5に示すように、径方向接続部17bには、肉抜き部17cが設けられている。この肉抜き部17cは、詳細を後述する機械式自転駆動機構50のラック53,54及びピニオン51,52に対応する箇所に形成されている。図4には、三箇所に設けられた扇形の肉抜き部17cが、相互間に径方向接続部17bを挟んで等間隔に設けられたものを例示している。ただし、肉抜き部17cの形状や形成個数は、周囲の構成や要求仕様等に応じて設定すればよく、種々の形状や個数のものを採用することができる。
図2,図4及び図5に示すように、第二回転部16は、第一回転部15の外周(径方向外側)を覆うように設けられ、回転軸1の軸心C1と同心の円筒形状に形成されている。ここでは、図2に示すように、第二回転部16が、可動ディスク19の外周端部19tから内周側にシフトされて軸方向に沿って設けられている。
なお、図5には、第二カム溝16a(一箇所にのみ符号を付す)が周方向に間隔をおいて三箇所に設けられたものを例示するが、第二カム溝15aの形成箇所や形成個数は、第一カム溝15aの形成箇所や形成個数に応じて設定される。
相対回転駆動機構30は、上述した第一回転部15に設けられた第一カム溝15aと第二回転部16に設けられた第二カム溝16aとに加えて、第一カム溝15aと第二カム溝16aとが交差する第二交差箇所CP2に配設されたカムローラ90と、このカムローラ90に対して軸方向の力を伝達するメガネフォーク(軸方向力伝達部材)35と、このメガネフォーク35を軸方向に移動させる軸方向移動機構31とを備えている。
以下、カムローラ90,メガネフォーク35,軸方向移動機構31の順に説明する。
なお、図示省略するが、カムローラ90は、カム溝15a,16aから脱落しないように、適宜の抜け止め加工が施されている。かかる抜け止め加工としては、例えばカムローラ90の他端部に頭部を設けることや抜け止めピンを追加し、カムローラ90が軸方向に移動可能であって径方向に移動しないようにすることが挙げられる。
なお、メガネフォーク35は、ディスク10,19に対して平行であって、チェーン6を基準としたときのディスク10,19に対して軸方向外側にプレート状に並設されている。
溝部35cは、カムローラ90の突出長さに対応する深さを有し、カムローラ90の一端部90aを収容している。すなわち、溝部35cは、径方向長さがカムローラ90の突出長さの円環状空間を有するものといえる。
この溝部35cには、カムローラ90と転がり接触しうる転動体35d(一箇所にのみ符号を付す)が設けられている。この転動体35dは、回転軸1の軸心C1を中心に回転するカムローラ90が溝部35cの側壁に接触したときにカムローラ90が軸心周りに回転することを抑制するために設けられている。すなわち、溝部35cの側壁を形成するカムローラ支持部35aに、転動体35dが配設されている。ここでは、複数の転動体35dが溝部35cの全周にわたって配設されている。なお、図2及び図5には、転動体35dとしてニードルベアリングを例示するが、これに替えて、ボールベアリングを用いてもよい。
フォーク支持部34は、モータ32の出力軸32aと同心の筒軸を有する円筒状に形成されている。このフォーク支持部34には、モータ32の出力軸32aが内挿されている。
フォーク溝34bは、メガネフォーク35のブリッジ部35bの厚み(軸方向長さ)に対応する幅(軸方向長さ)に形成されている。このフォーク溝34bには、ブリッジ部35bの中間部(二つの複合スプロケット5,5の間)が係合される。
上記のメガネフォーク35,軸方向移動機構31を含む相対回転駆動機構30は、ピニオンスプロケット21,22,23から軸方向にシフトして設けられている。
軸方向移動機構31によってフォーク支持部34が軸方向に直線運動されると、フォーク支持部34に係合するメガネフォーク35を介して軸方向の力がカムローラ90に伝達され、カムローラ90も軸方向に移動される。
このように、相対回転駆動機構30は、軸方向移動機構31によって可動ディスク19を固定ディスク10に対して相対回転駆動して、第一交差箇所CP1を径方向に移動させる。
次に、図2及び図3を参照して、スプロケット移動機構40A及びロッド移動機構40Bを説明する。
スプロケット移動機構40Aは、ピニオンスプロケット21,22,23のそれぞれに設けられた支持軸21a,22a,23aが内挿されるスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cが形成された固定ディスク10と、スプロケット用可動放射状溝19aが形成された可動ディスク19と、相対回転駆動機構30(図2及び図5参照)とから構成されている。
このように、それぞれの移動機構40A,40Bの構成は、各移動対象の支持軸が異なるだけで、その他の構成は同様である。
図3(a)は、放射状溝11a,11b,11c,19aにおけるピニオンスプロケット21,22,23(図2等参照)の支持軸21a,22a,23aと放射状溝12,19bにおけるロッド支持軸29aとが回転軸1の軸心C1から最も近い位置に位置するものを示す。この場合、相対回転駆動機構30(図2参照)により可動ディスク19の回転位相を固定ディスク10に対して変更すると、図3(b),(c)の順に、スプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cとスプロケット用可動放射状溝19aとが交差する第一交差箇所CP1と、ロッド用固定放射状溝12とロッド用可動放射状溝19bとの交差箇所とが、回転軸1の軸心C1から遠ざかる。すなわち、これらの交差箇所に支持軸21a,22a,23a,29aを支持されたピニオンスプロケット20及びガイドロッド29は、回転軸1の軸心C1から等距離を維持しながら径方向に同期して移動される。
なお、入力側の移動機構40A,40Bが接円半径を拡径させるときには、チェーン6の弛緩や緊張が生じないように出力側の移動機構40A,40Bが接円半径を縮径させる。
次に、図2及び図4を参照して、機械式自転駆動機構50を説明する。ここでは、機械式自転駆動機構50がピニオンスプロケット20を挟んで対称に構成されるため、一側(図2の紙面上方側)の構成に着目して説明する。
ただし、機械式自転駆動機構50は、径方向移動時の固定ピニオンスプロケット21を自転させない構成も有している。
図4に示すように、固定ピニオンスプロケット21の支持軸21aは、固定ディスク10のスプロケット用固定放射状溝11aに挿通されている。この支持軸21aには、案内部材59が一体的に結合されている。
また、スプロケット用固定放射状溝11aの内壁に接する案内部材59の側壁、特に案内部材59の四隅に、ベアリングを装着すれば、案内部材59のよりスムーズな摺動を確保することができる。
機械式自転駆動機構50は、自転ピニオンスプロケット22,23の支持軸22a,23aのそれぞれと一体回転するように固設されたピニオン51,52と、ピニオン51,52のそれぞれに対応して噛合するように設けられたラック53,54と、を有する。
なお、以下の説明では、第一自転ピニオンスプロケット22のピニオン(進角側ピニオン)51を第一ピニオン51と呼び、この第一ピニオン51と噛合するラック(進角側ラック)53を第一ラック53と呼んで区別する。同様に、第二ピニオンスプロケット23のピニオン(遅角側ピニオン)52を第二ピニオン52と呼び、この第二ピニオン52と噛合するラック(遅角側ラック)54を第二ラック54と呼ぶ。
このように、機械式自転駆動機構50は、固定ピニオンスプロケット21が自転しないように案内し、自転ピニオンスプロケット22,23が自転するように案内する。
三個のピニオンスプロケット20が周方向に等間隔に配置されているため、第一ピニオンスプロケット22と固定ピニオンスプロケット20との間のチェーン長は、第一自転ピニオンスプロケット22が径方向に距離xだけ移動したときには「2πx/3」だけ変化する。
よって、第一自転ピニオンスプロケット22の外径は、第一ピニオン51の外径の「2π/3」倍(略二倍)に形成されている。
次に、図2,図7〜図9を参照して、位相保持機構60について説明する。
ここでは、位相保持機構60がピニオンスプロケット20を挟んで対称に構成されるため、位相保持機構60の一側(図2の紙面上方側)の構成に着目して説明する。
位相保持機構60は、上記したように、複合スプロケット5の歯数が整数となるときの固定ディスク10に対する可動ディスク19の位相(以下、「整数対応位相」という)を保持するものである。
凹部70は、整数対応位相のそれぞれに対応して設けられている。すなわち、複合スプロケット5の歯数がとりうる整数(Zmin〜Zmax)の数(Zmax−Zmin +1)だけ複数の凹部70が設けられている。
これらの凹部70は、固定ディスク10に接合されたプレート10pに設けられている。
なお、ガイドロッド29の支持軸29aは、固定ディスク10においてプレート10pと干渉しないように、固定ディスク10においてプレート10pの厚み領域に侵入しないようにロッド用固定放射状溝12に配設されている。同様に、支持軸29aの軸受けもプレート10pに干渉しないように設けられている。
第一凹部71,第二凹部72,第三凹部73の相対回転方向側の端部に設けられる第一最小凹部71a,第二最小凹部72a,第三最小凹部73のそれぞれには、同列内において相対回転方向側に第四最小凹部71b,第五最小凹部72b,第六最小凹部73bが隣接して設けられている。
敷衍していえば、複合スプロケット5の歯数がとりうる整数Zのうちの一つの整数である基準整数ZSに対応する凹部と、基準整数ZSを1だけ変化させた整数である隣接整数ZA(=基準整数ZS±1)に対応する凹部とは、回転軸1の軸心C1を基準として径方向位置が異なって設けられている。このため、凹部70はいわゆる千鳥状に設けられたものといえる。
この構成により、隣接整数への移動に要する相対回転角度θが小さくなっても、各凹部を互いに干渉することなく形成することができる。
図7に示すように、ボールプランジャ80は、凹部70に係脱可能に設けられたボール80aと、ボール80aを凹部70に向けて付勢するスプリング(付勢部材)80bと、ボール80a及びスプリング80bを支持する支持体80cとを有する。
ボール80aは、球状のものを用いることができる。ただし、ボール80aに替えて、円柱状(ニードル状)などの他の形状のものを用いてもよい。
なお、ボールプランジャ80の取付手法の一例としては、ボールプランジャ80の外周に螺刻された雄ネジを径方向接続部17bの取付穴に設けられた雌ネジに螺合させ、更にボールプランジャ80の基端側(ボール80aとは反対側)からナットを螺合する手法を採用することができる。もちろん、溶接や嵌合といった他の公知手法を用いてもよい。
次に、チェーン6について説明する。
図10に示すように、ガイドロッド29にガイドされるチェーン6は、各ピニオンスプロケット21,22,23の歯車の列数(ここでは三列)に対応する本数が設けられている。ここでは、第一チェーン6A,第二チェーン6B及び第三チェーン6Cの三本が設けられている。
なお、チェーン6A,6B,6Cは、配設ピッチ以外は同様に構成される。
ここで、サイレントチェーンを用いた各チェーン6A,6B,6Cについてさらに説明する。
なお、補助リンクプレート63には、樹脂製のものを用いることができる。この場合、ポリアミドやポリエステルといった所謂エンジニアリングプラスチックなどのガイドロッド29との当接に耐えうる強度や剛性を有する樹脂を用いることが好ましい。
なお、補助リンクプレート63は、図11(a)に示すような一対のピン孔63b,63bのそれぞれに上記の連結ピン62が貫通されて、リンクプレート61と連結されている。
それぞれの補助リンクプレート63の内周側には、動力伝達方向に隣接する補助リンクプレート63の内周側と厚み方向に重合してガイド面63aを動力伝達方向に連続させる重合部64A,64Bが形成されている。これらの重合部64A,64Bは、補助リンクプレート63において隣接する他の補助リンクプレート63側(即ち、動力伝達方向の上流側及び下流側のそれぞれ)に形成される。
第一重合部64Aは、隣接する他の補助リンクプレート63の第二重合部64Bと隣接している。これらの第一重合部64Aと第二重合部64Bとが重合する。
なお、重合部64A,64Bの形状としては、種々の形状を採用することができる。例えば、図11(b)に二点鎖線で示すように、各重合部64A,64Bが動力伝達方向端部に向かうに連れて切欠部65bの厚み方向長さが大きくなるような形状を採用してもよい。
一方、重合部64A,64bは、最大の巻き掛け半径をなすときであっても重合し、ガイド面63aが動力伝達方向に連続するように重合領域が設定されている。なお、重合領域とは、動力伝達方向に直交する方向(ピン軸方向)から視たときの重合面積に対応する。
本発明の一実施形態にかかる多段変速機構は、上述のように構成されるため、以下のような作用及び効果を得ることができる。
〔1−2−1.作用〕
まず、固定ディスク10に対する可動ディスクの相対回転駆動に着目して作用を説明する。ここでは、最小整数Zminの複合スプロケット5の歯数が変更(増加)されるときの作用を例示して説明する。
また、変速比が変更されるときには、相対回転駆動機構30により可動ディスク19が固定ディスク10に対して段階的に相対回転され、複合スプロケット5の歯数を最小整数Zminから他の整数Zへと順次遷移される。このとき、複合スプロケット5とチェーン6との位相ズレは、上述の位相ズレ許容動力伝達機構や皿ばねによって積極的に吸収することが可能であるが、これらの機構を装備せずとも、ピニオンスプロケット20の周辺構造に生じるガタ、あそびや、チェーン6のリンクプレート61の連結部に生じるガタ等によっても吸収可能である。
したがって、本実施形態の多段変速機構によれば、位相保持機構60により整数対応位相を保持することができる。複合スプロケット5の歯数が整数Zとなるときの可動ディスク19の相対回転角度(位相)θを保持することができる。
具体的には、複合スプロケット5の歯数が整数Zとなるときの固定ディスク10に対する可動ディスク19の相対回転角度(位相)θのそれぞれに対応して設けられた凹部70が、固定ディスク10と一体に回転するプレート10pに設けられ、これらの凹部70に係脱可能なボール80aが設けられたボールプランジャ80が可動ディスク19と一体に回転する径方向接続部17bに設けられているため、固定ディスク10に対する可動ディスク19の位相が整数対応位相となると、ボールプランジャ80のボール80aを凹部70に係合させることができる。これにより、整数対応位相を機械的(メカニカル)に保持して、複合スプロケット5の歯数が整数Zとなる状態を保持することができる。延いては、複合スプロケット5にチェーン6を良好に掛着させることができ、円滑に動力伝達することができる。
このように、変速比を変更することができるとともに、複合スプロケット5の歯数を整数に保持することができる。
このように、凹部70が周方向及び径方向に行列をなすように秩序だって形成されるため、効率よく凹部70を形成することができ、製造コストの低減に寄与しうる。
さらに、ボールプランジャ80を第一凹部71,第二凹部72,第三凹部73の各列に対応する数だけ設ければよいため、径方向位置がばらついて形成された凹部に比較して、ボールプランジャ80の数を抑制することができる。これにより、材料コスト及び製造コストの抑制に寄与しうる。
凹部70及びボールプランジャ80が周方向に等間隔で複数設けられているため、凹部70に対するボールプランジャ80の付勢力を周方向に分散させることができ、バランスよく付勢力を作用させることができる。延いては、耐久性の向上に寄与しうる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した一実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせてもよい。
上述の一実施形態では、凹部70が固定ディスク10に接合されたプレート10pに設けられたものを説明したが、凹部70が固定ディスク10の盤面10aに直接形成されていてもよい。この場合、構成部品や生産工程を低減させることができ、加工コストや製造コストを抑制することができる。
また、凹部70は、径方向位置が同一の列をなしていなくてもよい。この場合、各凹部の径方向位置に対応したボールプランジャ80を設ける必要がある。
5 複合スプロケット
6 チェーン
10 固定ディスク(径方向移動用固定ディスク,自転用固定ディスク)
10p プレート
11a,11b,11c スプロケット用固定放射状溝(固定ピニオンスプロケット案内溝)
12 ロッド用固定放射状溝
15 第一回転部
15a 第一カム溝
16 第二回転部
16a 第二カム溝
17 接続部
17a 軸方向接続部
17b 径方向接続部
17c 肉抜き部
19 可動ディスク(径方向移動用可動ディスク)
19a スプロケット用可動放射状溝
19b ロッド用可動放射状溝
19A 連結シャフト
20 ピニオンスプロケット
21 固定ピニオンスプロケット
21a スプロケット支持軸
22 第一自転ピニオンスプロケット(進角側自転ピニオンスプロケット)
22a 支持軸
23 第二自転ピニオンスプロケット(遅角側自転ピニオンスプロケット)
23a 支持軸
29 ガイドロッド
29a ロッド支持軸
29b ガイド部材
30 相対回転駆動機構
31 軸方向移動機構
32 モータ
32a 出力軸
32b 雄ネジ部
33 運動変換機構
34 フォーク支持部
34a 雌ネジ部
34b フォーク溝
35 メガネフォーク(軸方向力伝達部材)
35a カムローラ支持部
35b ブリッジ部
35c 溝部
35d 転動体
40A スプロケット移動機構
40B ロッド移動機構
50 機械式自転駆動機構
51 第一ピニオン(進角側ピニオン)
52 第二ピニオン(遅角側ピニオン)
53 第一ラック(進角側ラック)
54 第二ラック(遅角側ラック)
59 案内部材
60 位相保持機構
70 凹部
71 第一凹部
71a 第一最小凹部
71b 第四最小凹部
72 第二凹部
72a 第二最小凹部
72b 第五最小凹部
73 第三凹部
73a 第三最小凹部
73b 第六最小凹部
80 ボールプランジャ(係脱部)
80a ボール(突起部)
80b スプリング(付勢部材)
80c 支持体
90 カムローラ
90a 一端部
C1,C2,C3,C4 軸心
CP1 第一交差箇所
CP2 第二交差箇所
r1,r2,r3 回転軸1の軸心C1からの距離
θ1,θ2,θ3,θ4,θ5,θ6 相対回転角度
Z 整数
Zmin 最小整数
Zmax 最大整数
Claims (10)
- 動力が入力又は出力される回転軸と、前記回転軸に対して径方向に可動に支持された複数のピニオンスプロケットと、前記複数のピニオンスプロケットを前記回転軸の軸心から等距離を維持させながら前記径方向に同期させて移動させるスプロケット移動機構とを有する複合スプロケットを二組と、前記二組の複合スプロケットに巻き掛けられたチェーンとを備え、前記複数のピニオンスプロケットの何れをも囲み且つ前記複数のピニオンスプロケットの何れにも接する円の半径である接円半径の変更によって変速比を変更する多段変速機構であって、
前記複数のピニオンスプロケットの各支持軸が内挿されるスプロケット用固定放射状溝が形成され、前記回転軸と一体回転する固定ディスクと、
前記スプロケット用固定放射状溝と交差する第一交差箇所に前記支持軸が位置するスプロケット用可動放射状溝が形成され、前記固定ディスクに対して同心に配置され且つ相対回転可能な可動ディスクと、
前記複数のピニオンスプロケットによって形成される見かけ上の前記複合スプロケットの歯数が整数となるときの前記固定ディスクに対する前記可動ディスクの位相を保持する位相保持機構と、を備え、
前記位相保持機構は、
前記固定ディスク及び前記可動ディスクの何れか一方と一体に回転し、前記複合スプロケットの歯数が整数となるときの前記固定ディスクに対する前記可動ディスクの位相のそれぞれに対応して設けられた凹部と、
前記固定ディスク及び前記可動ディスクの何れか他方と一体に回転し、前記凹部に突起部が係脱可能に設けられた係脱部と、を有し、
前記凹部は、前記回転軸の軸心を基準として周方向に列をなして設けられ、
前記列は、前記回転軸の軸心を基準として径方向に並んで複数設けられた
ことを特徴とする、多段変速機構。 - 前記スプロケット移動機構は、
前記可動ディスクを前記固定ディスクに対して相対回転駆動して、前記第一交差箇所を前記径方向に移動させる相対回転駆動機構を備えた
ことを特徴とする、請求項1に記載の多段変速機構。 - 前記係脱部は、
前記突起部を前記凹部に向けて付勢する付勢部材を更に有する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の多段変速機構。 - 前記係脱部は、
前記凹部の設けられた前記列がなす径方向位置のそれぞれに対応して、前記回転軸の軸心を基準とした複数の径方向位置のそれぞれに設けられた
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の多段変速機構。 - 前記複合スプロケットの歯数がとりうる整数のうちの一つの整数である基準整数に対応する前記凹部と、前記基準整数を1だけ変化させた整数である隣接整数に対応する前記凹部とは、前記回転軸の軸心を基準とした径方向位置が異なって設けられている
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の多段変速機構。 - 前記凹部は、皿モミ穴である
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の多段変速機構。 - 前記係脱部は、ボールプランジャである
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の多段変速機構。 - 前記凹部及び前記係脱部は、周方向に等間隔で複数設けられた
ことを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の多段変速機構。 - 前記固定ディスク及び前記可動ディスクの何れか一方と一体に回転するプレートを備え、
前記プレートに前記凹部が設けられた
ことを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載の多段変速機構。 - 動力が入力又は出力される回転軸と、前記回転軸に対して径方向に可動に支持された複数のピニオンスプロケットと、前記複数のピニオンスプロケットを前記回転軸の軸心から等距離を維持させながら前記径方向に同期させて移動させるスプロケット移動機構とを有する複合スプロケットを二組と、前記二組の複合スプロケットに巻き掛けられたチェーンとを備え、前記複数のピニオンスプロケットの何れをも囲み且つ前記複数のピニオンスプロケットの何れにも接する円の半径である接円半径の変更によって変速比を変更する多段変速機構であって、
前記複数のピニオンスプロケットの各支持軸が内挿されるスプロケット用固定放射状溝が形成され、前記回転軸と一体回転する固定ディスクと、
前記スプロケット用固定放射状溝と交差する第一交差箇所に前記支持軸が位置するスプロケット用可動放射状溝が形成され、前記固定ディスクに対して同心に配置され且つ相対回転可能な可動ディスクと、
前記複数のピニオンスプロケットによって形成される見かけ上の前記複合スプロケットの歯数が整数となるときの前記固定ディスクに対する前記可動ディスクの位相を保持する位相保持機構と、を備え、
前記位相保持機構は、
前記固定ディスク及び前記可動ディスクの何れか一方と一体に回転し、前記複合スプロケットの歯数が整数となるときの前記固定ディスクに対する前記可動ディスクの位相のそれぞれに対応して設けられた凹部と、
前記固定ディスク及び前記可動ディスクの何れか他方と一体に回転し、前記凹部に突起部が係脱可能に設けられた係脱部と、を有し、
前記複合スプロケットの歯数がとりうる整数のうちの一つの整数である基準整数に対応する前記凹部と、前記基準整数を1だけ変化させた整数である隣接整数に対応する前記凹部とは、前記回転軸の軸心を基準とした径方向位置が異なって設けられている
ことを特徴とする、多段変速機構。
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