以下、本発明の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、図中FRは車両前方を、図中UPは車両上方をそれぞれ示している。また、以下の説明における前後方向は、車両の前後方向を意味し、左右方向は、車両前方を向いた状態での左右方向を意味する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の連結車両1は、トラクタ2と、トラクタ2に牽引されるトレーラ3とを備える。トレーラ3の前部下面の車幅方向中央部にはキングピン30が下方へ突設され、トラクタ2の後部上面の車幅方向中央部には2軸式のカプラ(トレーラ連結装置)4が設けられている。キングピン30がカプラ4に解除可能に結合することによって、トレーラ3がトラクタ2に連結される。トラクタ2は、シャシフレーム(車体フレーム)5と、キャブ8と、キャブサスペンション(キャブ支持手段)10と、シャシサスペンション16と、ECU(Electronic Central Unit)20とを有している。
シャシフレーム5は、車両前後方向に沿って略平行に延びる左右1対のサイドフレーム6(6L,6R)と、車両前後方向に所定間隔をおいて配置されて車幅方向に延びる複数の直線状のクロスフレーム7とを有する。各クロスフレーム7は、サイドフレーム6に対して略直交し、クロスフレーム7の両端は、サイドフレーム6に結合される。
キャブ8は、その底部を形成するキャブ底枠9を有し、シャシフレーム5の前部上方に配置される。
キャブサスペンション10は、図3に示すように、前側の左右1対のキャブサスペンション10FL,10FRと、後側の左右1対のキャブサスペンション10BL,10BRとから構成され、シャシフレーム5に対するキャブ8のロール方向の傾きが変更可能となるようにシャシフレーム5に対してキャブ8を支持する。前側のキャブサスペンション10FL,10FRは、キャブ底枠9の前部左右の角隅部とサイドフレーム6との間に設けられ、後側のキャブサスペンション10BL,10BRは、キャブ底枠9の後部左右の角隅部とサイドフレーム6との間に設けられる。
キャブサスペンション10は、エアスプリングによって構成され、各キャブサスペンション10FL,10FR,10BL,10BRには、それぞれ給気用電磁弁12(12FL,12FR,12BL,12BR)を経由してエアタンク14から圧縮空気が供給される。また、各キャブサスペンション10FL,10FR,10BL,10BRの圧縮空気は、それぞれ排気用電磁弁13(13FL,13FR,13BL,13BR)を経由して排気される。
給気用電磁弁12の入力ポートは空気配管15を介してエアタンク14に連通し、給気用電磁弁12の出力ポートは、空気配管15を介してキャブサスペンション10に連通している。また、排気用電磁弁13の入力ポートは空気配管15を介してキャブサスペンション10と連通し、排気用電磁弁13の出力ポートは大気に開放されている。給気用電磁弁12及び排気用電磁弁13は、いずれも2方向ノーマルクローズ型電磁弁であり、電磁弁が非励磁状態では、給気用電磁弁12及び排気用電磁弁13のいずれの電磁弁においても入力ポートと出力ポートとは非連通状態にある。すなわち、キャブサスペンション10に対する圧縮空気の供給及び排気はともに遮断された状態となる。給気用電磁弁12が励磁されると給気用電磁弁12の入力ポートと出力ポートとが連通状態となり、それぞれの電磁弁が励磁されている時間だけエアタンク14から圧縮空気がキャブサスペンション10に供給され、励磁時間に応じてキャブサスペンション10の空気圧力が上昇し、シャシフレーム5に対するキャブ8の上下方向の距離が増大する。排気用電磁弁13が励磁されると排気用電磁弁13の入力ポートと出力ポートとが連通状態となり、それぞれの電磁弁が励磁されている時間だけキャブサスペンション10の圧縮空気が大気中に排気され、励磁時間に応じてキャブサスペンション10の空気圧力が低下し、シャシフレーム5に対するキャブ8の上下方向の距離が減少する。このため、例えば左右いずれか一側のキャブサスペンション10に圧縮空気を供給し、他側のキャブサスペンション10から圧縮空気を排出するように給気用電磁弁12及び排気用電磁弁13を制御することによって、シャシフレーム5に対するキャブ8のロール方向の傾きを変更することが可能となる。
キャブサスペンション10FL,10FR,10BL,10BRの近傍のキャブ底枠9底部には変位センサ11FL,11FR,11BL,11BRが設けられ、キャブ底枠9とサイドフレーム6との間の上下方向の距離を検出する。
シャシサスペンション16は、図2に示すように左右1対のシャシサスペンション16L,16Rによって構成される。シャシサスペンション16L,16Rは、トラクタ2の後車輪19の車軸18と左右のサイドフレーム6L,6Rとの間にそれぞれ設けられ、車軸18に対してシャシフレーム5を支持する。
シャシサスペンション16は、エアスプリングによって構成され、サイドフレーム6からシャシサスペンション16に対して作用する荷重が増大すると、シャシサスペンション16が圧縮されてシャシサスペンション16内の空気圧が上昇し、荷重の大きさに応じて車軸18に対するサイドフレーム6の上下方向の高さが減少する。サイドフレーム6からシャシサスペンション16に対して作用する荷重が減少すると、シャシサスペンション16内の空気圧によってシャシサスペンション16が上下方向に伸長し、荷重の大きさに応じて車軸18に対するサイドフレーム6の上下方向の高さが増大する。なお、車軸18に対してシャシフレーム5を支持するシャシサスペンションは、本実施形態のエアスプリングにより構成されるものに限定されず、例えば板バネ等によって構成されてもよい。
図4〜図6に示すように、カプラ4は、サイドフレーム6に支持される下側のマウント部材31と、トレーラ3(図1参照)が着脱可能に連結される上側の可動部材32とを備える。
マウント部材31は、マウンティングプレート33と左右一対のブラケット34とビームシャフト35とを有する。左右のサイドフレーム6L,6Rには、それぞれカプラ架台36L,36Rが固定され、マウンティングプレート33は、左右のサイドフレーム6L,6Rの上方を跨った状態でカプラ架台36L,36Rに載置され固定される。左右のブラケット34は、左右のサイドフレーム6L,6Rの上方に相対向して配置され、マウンティングプレート33に載置されて固定される。ビームシャフト35の左右両端部は、軸受(図示省略)を介して左右のブラケット34に回転自在に支持され、ビームシャフト35の回転軸は、車幅方向に延びる。
可動部材32は、カプラベース37とローリングシャフト38と連結機構39とを有する。連結機構39は、左右1対のジョー40やヨーク(図示省略)やロックガード41やカムプレート(図示省略)などを含み、カプラベース37の下面側に配置される。
ローリングシャフト38は、ビームシャフト35の車幅方向の略中央を前後方向に貫通した状態で、軸受(図示省略)を介してビームシャフト35に回転自在に支持され、ローリングシャフト38の回転軸は、前後方向に延びる。カプラベース37は、ローリングシャフト38から前後に突出するビームシャフト35の前端部及び後端部に固定され、ローリングシャフト38と一体的に傾動する。これにより、可動部材32は、ローリングシャフト38の回転軸を中心として傾動自在にマウント部材31に支持される。カプラベース37の左右の下面とビームシャフト35の上面との間には、ローリングシャフト38の回転軸を中心としたカプラベース37の傾動位置を安定させるためのコイルスプリング41(図5に左側のみ示す)が圧縮状態で介装されている。
カプラベース37の車幅方向の略中央には、後方に開口する切り込み状のピン進入溝42が形成され、ピン進入溝42の前端部の左右に、左右のジョー40が配置される。左右のジョー40は、後方が左右に開閉するように、その前端部がカプラベース37に回転自在に支持される。ヨークは、左右のジョー40の左右及び前方を外側から囲むU形状を有し、スプリング(図示省略)によって後方へ付勢された状態で、前後方向にスライド移動自在にカプラベース37に支持される。左右のジョー40の外側面は、前後に移動するヨークの左右の内側面と摺接する。左右のジョー40とヨークとが摺接することにより、ヨークの前進に伴って左右のジョー40が開方向へ回転し、また、左右のジョー40が閉方向へ回転に伴ってヨークが後退する。ヨークには、カムプレートを介して操作ハンドル43が連結され、作業者がスプリングの付勢力に抗して操作ハンドル43を引くと、カムプレートが回転してヨークが前進し、左右のジョー40の後方が開口する。ロックガード41は、ジョー40の後方に配置され、上下方向に傾動するように、その後端部がカプラベース37に回転自在に支持される。ロックガード41は、スプリング(図示省略)によって上方に付勢され、左右のジョー40の後方が開口した状態で左右のジョー40の後端部の間に進入し、ジョー40の閉方向への回転を阻止する。
トラクタ2にトレーラ3を連結する場合、操作ハンドル43を引いてジョー40の後方を開口させ、停車するトレーラ3の前方からトラクタ2を後退させて、ピン進入溝42及び左右のジョー40の間にキングピン30を後方から進入させる。進入するキングピン30の下端によってロックガード41がジョー40の下方へ押し下げられ、さらにトラクタ2を後退させると、キングピン30による押圧を受けて左右のジョー40が閉方向へ回転されるとともに、ジョー40との摺接及びスプリングの付勢力によってヨークが後退し、ジョー40がヨークによって左右から閉鎖位置に挟み込まれ、キングピン30が左右のジョー40によって回転自在に挟持される。後退したヨークは、カムプレートによって前進が阻止され、これによりキングピン30と連結機構39(ジョー40)との連結状態が保持される。
キングピン30が連結機構39に連結された状態において、キングピン30が回転することによって、トラクタ2に対するトレーラ3のヨー方向の相対回転が許容され、ビームシャフト35がマウンティングプレート33に対して回転することによって、トラクタ2に対するトレーラ3のピッチ方向の相対回転が許容される。また、ローリングシャフト38(カプラベース37)がビームシャフト35に対して回転することによって、トラクタ2に対するトレーラ3のロール方向の回転が許容される。すなわち、ビームシャフト35(マウント部材31)に対してカプラベース37(可動部材32)が左右に傾斜していない中立姿勢から左右に傾動することによって、トラクタ2に対するトレーラ3のロール方向の相対回転が許容される。
ビームシャフト35とローリングシャフト38との間には、ビームシャフト35に対するローリングシャフト38の回転角度(マウント部材31に対する可動部材32の傾き角度)を検出する回転角センサ17(図7参照)が設けられている。回転角センサ17は、中立姿勢からのローリングシャフト38の回転角度を、右回転をプラスとし、左回転をマイナスとして所定時間毎に検出し、検出した回転角度を検出回転角φとしてECU20(図7参照)へ送信する。すなわち、回転角センサ17は、可動部材32の中立姿勢からの傾き方向を検知するとともに、ローリングシャフト38の回転軸を中心とした可動部材32の中立姿勢からの傾き角度を連続的に検出する傾き検知手段として機能する。
トラクタ2には、図7に示すように、操舵角センサ25と操舵角速度センサ26と車速センサ27とが設けられている。操舵角センサ25は、運転者によって操舵操作されるステアリングホール(図示省略)の基準位置(トラクタ1が直進走行する中立位置)からの回転角(操舵角θ)を逐次検出し、検出した操舵角θをECU20へ送信する。操舵角速度センサ26は、ステアリングホイールの回転速度(操舵角速度ω)を逐次検出し、検出した操舵角速度ωをECU20へ送信する。車速センサ27は、トラクタ2の車速Vを逐次検出し、検出した車速VをECU20へ送信する。操舵角センサ25と操舵角速度センサ26と車速センサ27とは、何れもトラクタ2の走行状態を検出する走行状態検出手段として機能する。なお、操舵角速度センサ26を省略し、操舵角センサ25が連続的に検出する操舵角θから操舵角速度ωを算出してもよい。
ECU20は、CPU(Central Processing Unit)とROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを備える。CPUは、ROMに格納されたキャブ支持制御処理プログラムを読み出して、キャブ支持制御処理を実行することによって、図7に示すように、キャブ支持制御部(判定手段、キャブ傾き制御手段)23として機能する。RAMは、変位センサ11や回転角センサ17がそれぞれ検出した検出値やCPU演算結果の一時記憶領域、各種マップの設定領域等として機能する。
キャブ支持制御部23は、給気用電磁弁12及び排気用電磁弁13を制御し、回転角センサ17が検出した検出回転角φがゼロであり、トラクタ2に対するトレーラ3の相対ロール角が発生していない通常の走行状態では、シャシフレーム5に対するキャブ8の傾きをゼロとする通常のキャブ支持制御を実行する。また、回転角センサ17が検出した検出回転角φがゼロではなく、トラクタ2に対するトレーラ3の相対ロール角が発生している場合には、後述する報知条件成立状態であることを条件として、シャシフレーム5に対してキャブ8を検出回転角φの発生方向(回転角センサ17が検知した傾き方向と同方向)に傾けるキャブ傾動制御(キャブ8を擬似的に傾かせる制御)を実行する。
次に、ECU20のキャブ支持制御部23が実行するキャブ支持制御処理を図10に示すフローチャートに基づいて説明する。本処理は、連結車両1の始動時(例えばエンジン・オン時)に開始され、所定時間毎に繰り返して実行される。
本処理が開始されると、ECU20は、操舵角センサ25が検出した操舵角θと、操舵角速度センサ26が検出した操舵角速度ωと、車速センサ27が検出した車速Vとを取得し(ステップS1)、取得した操舵角θと操舵角速度ωと車速Vとに基づいて、連結車両1の横転に対する注意喚起をトラクタ2の運転者に促す必要性が高い報知条件成立状態であるか否かを判定する(ステップS2)。報知条件成立状態とは、連結車両1が横転する可能性がある状態であり、運転者の運転操作によって横転を回避可能な状態から連結車両1が横転限界(横転しない限界)に達するまでの状態を含む。
本実施形態では、報知条件成立状態であるか否かの判定を、予め設定された判定用マップを参照して行う。判定用マップは、操舵角θと操舵角速度ωと車速Vとの関係を表現する3次元マップであり、全領域が報知条件成立領域(横転する危険性がある領域)と報知条件不成立領域(横転する危険性がない領域)とに区分される。ECU20は、取得した操舵角θと操舵角速度ωと車速Vとによって特定されるマップ上の点が報知条件成立領域に属する場合に報知条件成立状態であると判定し、報知条件不成立領域に属する場合に報知条件不成立状態であると判定する。
報知条件成立状態であると判定した場合(ステップS2:Yes)、回転角センサ17が検出した検出回転角φを取得し(ステップS3)、取得した検出回転角φに対応するキャブ傾き角度φcを算出する(ステップS4)。
本実施形態では、検出回転角φとキャブ傾き角φcとの関係を示すマップ(第1マップ)を参照して、検出回転角φに対応するキャブ傾き角φcを算出する。キャブ傾き角φcとは、トラクタ2のシャシフレーム5に対するキャブ8のロール方向の傾きである。第1マップでは、図8に示すように、検出回転角φの増減に応じてキャブ傾き角φcが増減するように設定されている。例えばトレーラ3がトラクタ2よりも右側に傾いた場合、検出回転角φはプラス方向に増大し、キャブ傾き角φcもトラクタ2のシャシフレーム5に対して右方向に増大する(図8第1象限)。また、トレーラ3がトラクタ2よりも左側に傾いた場合、検出回転角φはマイナス方向に増大し、キャブ傾き角φcもトラクタ2のシャシフレーム5に対して左方向に増大する(図8第3象限)。
また、検出回転角φとキャブ傾き角φcとの関係を示すマップとして、上記第1マップに代えて、図9に示す第2マップを用いてもよい。第2マップでは、図9に示すように、連結車両1の横転危険性が高い相対ロール角(中立姿勢からのローリングシャフト38の回転角度)に対応する横転危険判定閾値±φs(所定の判定角度)が設定され、検出回転角φの絶対値が横転危険判定閾値φsの絶対値を超えた場合に、検出回転角φの増減に応じてキャブ傾き角φcが増減する。なお、第1マップ又は第2マップは、ECU20の一時記憶領域に予め設定される。
一方、報知条件成立状態ではない(方丈賢夫成立状態である)と判定した場合(ステップS2:No)、検出回転角φの取得(ステップS3)及びキャブ傾き角φcの算出(ステップS4)を実行せずに、ステップS5へ移行する。
次に、ECU20は、キャブ傾動制御を含むキャブ支持制御を実行した後(ステップS5)、本処理を終了する。
ここで、キャブ8の前部及び後部の傾き角φcf,φcbは、それぞれ近似的に式(1)、及び式(2)によって表される。
φcf≒(Hcfl−Hcfr)/Lcf ・・・(1)
φcb≒(Hcbl−Hcbr)/Lcb ・・・(2)
但し、
Hcfl:キャブ底枠9の前部左側と左サイドフレーム6Lとの間の上下方向の距離
Hcfr:キャブ底枠9の前部右側と右サイドフレーム6Rとの間の上下方向の距離
Lcf:変位センサ11FLと変位センサ11FRとの間の車幅方向の距離
Hcbl:キャブ底枠9の後部左側と左サイドフレーム6Lとの間の上下方向の距離
Hcbr:キャブ底枠9の後部右側と右サイドフレーム6Rとの間の上下方向の距離
Lcb:変位センサ11BLと変位センサ11BRとの間の車幅方向の距離
であり、キャブ8が右方向に傾いたときは、キャブ8の前部及び後部の傾き角φcf,φcbの符号はともにプラスとなり、キャブ8が左方向に傾いたときは、傾き角φcf,φcbの符号はともにマイナスとなる。
連結車両1が通常走行状態の場合、ECU20は、通常のキャブ支持制御を実行する。通常走行状態とは、報知条件が成立していない状態(ステップS2において報知条件不成立状態と判定された状態)、及び第1マップ又は第2マップを参照して算出されたキャブ傾き角φcがゼロとなる状態である。通常のキャブ支持制御では、シャシフレーム5に対するキャブ8のロール方向の傾きがゼロとなるように(Hcfl,Hcfrがそれぞれ所定の距離hcf0となり、Hcbl,Hcbrがそれぞれ所定の距離hcb0となるように)、変位センサ11の検出値に応じてフィードバック制御を実行する。
具体的には、例えばHcflがhcf0よりも増大した場合は、排気用電磁弁13FLを所定時間励磁してキャブサスペンション10FLの空気圧を低下させてHcflを減少させ、Hcflがhcf0よりも減少した場合は、給気用電磁弁12FLを所定時間励磁してキャブサスペンション10FLの空気圧を上昇させてHcflを増大させて、Hcflを所定の距離hcf0となるように制御する。Hcfr,Hcbl,Hcbrについても同様に、それぞれ所定の距離hcf0及び所定の距離hcb0となるように制御する。
一方、検出回転角φがゼロではなく、第1マップ又は第2マップを参照してキャブ傾き角φcが算出されたときは、ECU20は通常のキャブ支持制御に代えて、シャシフレーム5に対するキャブ8のロール方向の傾きをキャブ傾き角φcとするキャブ傾動制御を実行し、シャシフレーム5に対してキャブ8がロール方向に傾くように、変位センサ11の検出値に応じてフィードバック制御を実行する。
具体的には、例えばトレーラ3がトラクタ2よりも右側に傾き、算出されたキャブ傾き角φcがプラス方向(図8の第1象限)に発生した場合、ECU20は、給気用電磁弁12FLを所定時間励磁してキャブサスペンション10FLの空気圧を上昇させてHcflをhcf0よりも増大させ、排気用電磁弁13FRを所定時間励磁してキャブサスペンション10FRの空気圧を低下させてHcfrをhcf0よりも減少させることによって、キャブ8の前部の傾き角φcfがキャブ傾き角φcとなるように制御する。同時に、給気用電磁弁12BLを所定時間励磁してキャブサスペンション10BLの空気圧を上昇させてHcblをhcb0よりも増大させ、排気用電磁弁13BRを所定時間励磁してキャブサスペンション10BRの空気圧を低下させてHcbrをhcb0よりも減少させることによって、キャブ8の後部の傾き角φcbもキャブ傾き角φcとなるように制御する。
反対に、トレーラ3がトラクタ2よりも左側に傾き、算出されたキャブ傾き角φcがマイナス方向(図8の第3象限)に発生した場合、ECU20は、排気用電磁弁13FLを所定時間励磁してキャブサスペンション10FLの空気圧を低下させてHcflをhcf0よりも減少させ、給気用電磁弁12FRを所定時間励磁してキャブサスペンション10FRの空気圧を上昇させてHcfrをhcf0よりも増大させることによって、キャブ8の前部の傾き角φcfがキャブ傾き角φcとなるように制御する。同時に、排気用電磁弁13BLを所定時間励磁してキャブサスペンション10BLの空気圧を低下させてHcblをhcb0よりも減少させ、給気用電磁弁12BRを所定時間励磁してキャブサスペンション10BRの空気圧を上昇させてHcbrをhcb0よりも増大させることによって、キャブ8の後部の傾き角φcbもキャブ傾き角φcとなるように制御する。
なお、本実施形態のキャブ傾動制御では、キャブ8の左右の何れか一側のキャブ底枠9とサイドフレーム6との上下方向の距離を増大させ、他側のキャブ底枠9とサイドフレーム6との上下方向の距離を減少させているが、キャブ傾動制御はこれに限定されず、例えば左右の何れか一側のキャブ底枠9とサイドフレーム6との間を所定の距離に保持し、他側の前部及び後部のキャブサスペンション10の空気圧を制御してキャブ底枠9とサイドフレーム6との間の距離を変更してキャブ8の傾きを制御してもよい。この場合、一側のキャブ8の支持はエアスプリングに限定されず、例えばコイルスプリング等によって支持されてもよい。
本実施形態によれば、連結車両1の旋回走行時等にトラクタ2がロール方向に傾くと、トラクタ2に連結されて走行するトレーラ3も同方向に傾く。また、トラクタ2とトレーラ3とはロール方向の相対回転が許容された状態で連結されているので、旋回走行時等において、トラクタ2に対するトレーラ3の相対ロール角が発生し、トレーラ3がトラクタ2よりもロール方向に大きく傾く可能性があり、トラクタ2に対するトレーラ3の相対ロール角が増大すると、連結車両1の横転の危険性も増大する。
ここで、トラクタ2に対するトレーラ3のロール方向の相対回転は、ローリングシャフトの38の回転軸を中心としたマウント部材31に対する中立姿勢からの可動部材32の傾動によって許容されるため、トラクタ2に対するトレーラ3の相対ロール角の発生方向(トラクタ2に対するトレーラ3のロール方向)は、回転角センサ17によって検知される可動部材32の傾き方向と一致する。また、可動部材32がマウント部材31に対してローリングシャフト38の回転軸を中心として中立姿勢から傾いているとき、キャブ支持制御部23は、回転角センサ17が検知した傾き方向と同方向にキャブ8を傾けるようにキャブ傾動制御を実行する。従って、旋回走行時等にトレーラ3がトラクタ2よりもロール方向に大きく傾くと、キャブ8は、トレーラ3のロール方向に傾けられる。このため、運転者は、キャブ8の傾きを体感することによって、横転限界に達する前にトレーラ3のロール状態を確実に認識して連結車両1の横転危険性を判断することができ、連結車両1の横転回避のための的確な運転操作(連結車両1が横転限界に達しないような運転操作)を実行することができる。
また、連結車両1の横転に対する注意喚起を運転者に促す必要性が高い報知条件成立状態であると判定された場合に限り、可動部材32がローリングシャフト38の回転軸を中心として中立姿勢から傾いているときにキャブ傾動制御が実行される。従って、運転者への注意喚起の必要性が低いにも拘わらずキャブ傾動制御が実行されることがなく、キャブ傾動制御(擬似的なキャブの傾き)によって運転者に違和感を与えてしまうことを未然に防止することができる。
また、シャシフレーム5に対するキャブ8のロール方向の傾きを変更可能なキャブサスペンション10と、マウント部材31に対する可動部材32の傾動によってトラクタ2とトレーラ3とのロール方向の相対回転を許容するカプラ4とを備えたトラクタ2に対しては、可動部材32の中立姿勢からの傾き方向を検知するセンサ(本実施形態では回転角センサ17)を設け、キャブサスペンション10を制御するキャブ支持制御部23を、上記センサが検知した傾き方向に応じてキャブ傾動制御を実行するように構成すればよいので、簡易な構成及び簡易な制御によって、運転者にトレーラ3のロール状態を確実に認識させることができる。
また、トラクタ2側の構成のみによって、トラクタ2が牽引するトレーラ3のロール状態を運転者に認識させることができるので、トレーラ3を特別な構成とする必要がなく、既存のトレーラ3をそのまま用いることができる。
また、中立姿勢からの可動部材32の傾き角度の増減に応じてトラクタ2に対するトレーラ3の相対ロール角が増減し、且つ可動部材32の傾き角度(回転角センサ17の検出回転角φの絶対値)の増減に応じてキャブ8の傾きが増減する。このため、運転者は、トレーラ3の相対ロール角を発生段階から認識するとともに、発生している相対ロール角3の大きさをキャブ8の傾きの増減によって体感することができ、キャブ8の傾きの増減に応じて的確な運転操作を実行してより確実に連結車両1の横転を回避することができる。
また、第2マップを用いた場合、相対ロール角の増減に応じて増減する可動部材32の傾き角度(検出回転角φの絶対値)が横転危険判定閾値φsの絶対値を超えているときに、キャブ8の傾動制御が実行される。このため、運転者に対して、可動部材32の傾き角度が横転危険判定閾値の絶対値を超えたことを確実に認識させて、横転回避のための運転操作を促すことができる。
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、回転角センサ17が検知した可動部材32の傾き方向と同方向のロール力がトラクタ2に発生していることをキャブ傾動制御の実行条件としている点で第1実施形態と相違する。なお、第1実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施形態では、トラクタ2に横加速度センサ21(図7参照)が設けられている。横加速度センサ21は、トラクタ2の車幅方向の加速度(横加速度)を所定時間毎に検出してECU20へ送信する。トラクタ2が左旋回すると、横加速度センサ21は右方向の横加速度を検出し、トラクタ2には左方向のロール力が発生する。反対に、トラクタ2が右旋回すると、横加速度センサ21は左方向の横加速度を検出し、トラクタ2には右方向のロール力が発生する。すなわち、横角度センサ21が横加速度を検出した場合、横加速度とは逆方向のロール力がトラクタ2に発生する。
なお、ロール力の発生方向の判定方法は、横加速度センサ21を用いた上記方法に限定されるものではなく、例えばキャブ8からシャシフレーム5に作用する左右の荷重を逐次検出し、例えば左側の荷重が増加傾向を示し、右側の荷重が減少傾向を示したときに、左方向へのロール力が発生していると判定するなど、他の様々な方法を用いることができる。
キャブ支持制御部23は、キャブ支持制御処理において、横加速度センサ21が検出した横加速度とは逆方向(トラクタ2に発生しているロール力の方向)への可動部材32の傾動を回転角センサ17が検出していることを条件として、キャブ傾動制御を実行する。
連結車両1の旋回走行時等において、トラクタ2とトレーラ3とが同じロール方向に傾き、且つトレーラ3がトラクタ2よりも大きく傾いているときは、係る状態を運転者に対して積極的に報知することが有効である。これに対し、トラクタ2とトレーラ3とが同じロール方向に傾いているが、トレーラ3がトラクタ2よりも大きく傾いていないときは、係る状態を運転者に対して積極的に報知する必要性は乏しい。
この点に関し、本実施形態では、連結車両1の旋回走行時等のようにトラクタ2にロール力が発生し、トラクタ2とトレーラ3とが同じロール方向に傾き、且つトレーラ3がトラクタ2よりも大きく傾いているときは、回転角センサ17が検知した可動部材32の傾き方向とトラクタ2に発生するロール力とが同方向となるため、キャブ傾動制御が実行される。一方、可動部材32がロールシャフト38の回転軸を中心として中立姿勢から傾いているときであっても、トラクタ2にロール力が作用していないときや、回転角センサ17が検知した可動部材32の傾き方向と異なる方向(反対方向)のロール力がトラクタ2に発生しているときは、キャブ傾動制御は実行されない。例えば、トラクタ2とトレーラ3とが共に左方向に傾いているが、トレーラ3の傾きがトラクタ2の傾きよりも小さい(トラクタ2がトレーラ3よりも大きく傾いている)ときは、可動部材32の中立姿勢からの傾き方向は右方向となり、回転角センサ17が検知する傾き方向(右方向)とトラクタ2に発生するロール力の方向(左方向)とが反対方向となるため、キャブ傾動制御は実行されない。
このように、本実施形態では、運転者に対する報知が有効である状態(トラクタ2とトレーラ3とが同じロール方向に傾き、且つトレーラ3がトラクタ2よりも大きく傾いている状態)に限定してキャブ傾動制御を実行するので、トレーラ3のロール状態に関する情報を運転者に対して的確に提供することができる。
なお、上記実施形態では、回転角度センサ17を用いて可動部材32の傾き方向や傾き角度を検出したが、回転角度センサ17に代えて他のセンサやスイッチなどを設けてもよい。
例えば、ローリングシャフト38の左右両側又は一側に、カプラベース37の下面とビームシャフト35の上面との距離を検出する距離センサを設けてもよい。距離センサが検出する距離の増減に基づいて、可動部材32の傾き方向や傾き角度を検出してもよい。
また、ローリングシャフト38の左右両側に、カプラベース37の下面とビームシャフト35の上面との距離が所定距離以下に近接したときにオンとなるリミットスイッチをそれぞれ設けてもよい。この場合、左側のリミットスイッチのオンによって、可動部材32が左方向へ所定角度以上傾いていることを検知し、左側のリミットスイッチのオンに応じてキャブ8を左方向へ所定角度だけ傾けるキャブ傾動制御を実行する。また、右側のリミットスイッチのオンによって、可動部材32が右方向へ所定角度以上傾いていることを検知し、右側のリミットスイッチのオンに応じてキャブ8を右方向に所定角度だけ傾けるキャブ傾動制御を実行する。
また、ローリングシャフト35の左右両側に、作動距離が相違する複数のリミットスイッチをそれぞれ設けることによって、可動部材32の傾斜角度を段階的に検出可能とし、各リミットスイッチのオンに応じてキャブ8を段階的に傾けるキャブ傾動制御を実行してもよい。
また、上記実施形態では、連結車両1の走行状態として操舵角θ(操舵角センサ25の検出値)と操舵角速度ω(操舵角速度センサ26の検出値)と車速V(車速センサ27の検出値)とを用いたが、これらを全て用いなくてもよく、これらのセンサ26,27,28の検出値に代えて又は加えて、操舵角加速度センサなどの他のセンサの検出値等を用いてもよい、また、報知条件成立状態であるか否かの判定は、マップを参照した判定に限定されず、センサの検出値を所定の演算式に代入することよって判定値を算出し、算出した判定値を所定の判定閾値と比較して判定するなど、他の方法であってもよい。
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。