JP3601294B2 - 産業車両の車体揺動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リーチ式フォークリフトなど、駆動輪と補助輪とが車体に対してロール方向に揺動可能にリンク機構により連結されているサスペンションを備えた産業車両において、リンク機構をロックして車体のロール方向の揺動を規制する制御を行なう産業車両の車体揺動制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えばリーチ式のフォークリフトには、前二輪・後一輪の3輪車タイプのものがある。この3輪車タイプでは、通常、車体後部に後一輪の駆動輪と対をなすように補助輪が備えられている。駆動輪と補助輪は、車体のロール方向の揺動を許容すべく車体フレームに対してリンク機構を介して懸架されており、車体とリンク機構との間にバネやダンパが介装されてリアのサスペンションが構成されている。例えば凹凸のある路面を走行するときには、駆動輪と補助輪がリンク機構の動きによって車体に対して揺動することで、路面の凹凸を吸収し、車体姿勢の左右方向の安定化が図られている。しかし、フォークリフトが旋回する時は、遠心力による横向きの力によって車体に横方向に働くが、このサスペンション機能によって車体を返って大きく傾けさせることになり、旋回時の車体の安定性を低下させることになっていた。
【0003】
そこで、特開平6−191250号公報や特開平6−191251号公報には、リーチ式のフォークリフトに加速度センサを設け、加速度センサにより検出された傾転加速度(横加速度)Gが所定値以上になると開閉バルブを閉じ、車体フレームとリンク機構との間に介装されたシリンダ装置がロックされるサスペンション装置が開示されている。このフォークリフトによれば、旋回時に傾転加速度が所定値以上になると、リンク機構が車体フレームに固定されて車体のロール方向の揺動が規制されるので、車体の横方向の傾きが小さく抑えられ、旋回時に安定な車体姿勢を保ち易くなる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、リーチ式フォークリフトでは、通常、補助輪(キャスタ輪)は、リンク機構を構成するリンクに対してキャスタスプリングを介して取付けられている。このため、フォークリフトが補助輪を外輪とする方向に旋回するときに、傾転加速度Gが所定値以上となってシリンダ装置がロックされても、そのロックされた時の車体姿勢からキャスタスプリングが横加速度Gによって圧縮変形する余裕がまだあると、キャスタスプリングが圧縮変形して車体がさらに横方向に傾く。車体がさらに多少傾くことそれ自体は、その傾きが安全な範囲内にあればさほど問題ではない。しかし、シリンダ装置がロックされて駆動輪が車体フレームに固定された状態で車体が横方向に傾くことで、駆動輪が路面から浮き上がり気味となる。その結果、駆動輪の接地圧が低下したり、場合によっては駆動輪が路面から浮き上がる事態を招く恐れがあった。
【0005】
駆動輪の接地圧の低下やその路面からの浮き上がりは、駆動輪のスリップや空回りを招き、その駆動力が路面に伝わり難く走行速度が鈍ったり、ブレーキをかけたときの制動力が弱くなるなどの恐れがあった。また、通常、駆動輪は操舵輪を兼ねているので、補助輪が外輪となる旋回時に操舵性能が低下する恐れがあった。そのため、補助輪が外輪となる旋回時にシリンダ装置をロックすることによって駆動輪の接地圧が弱くなることを防ぐ対策が必要であった。なお、キャスタスプリングは路面の凹凸を吸収するために設けられているもので、リンク機構の弾性力に比べてバネ定数は小さいし、キャスタスプリングが圧縮されてリンク機構が動き始めるときの車体の傾きは、十分安全範囲内の傾きである。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その第1の目的は、左右一対の駆動輪と従動輪を車体のロール方向の揺動を許容するように懸架するリンク機構が車両の旋回時にロック制御される産業車両において、従動輪が外輪となる車両の旋回時における駆動輪の接地圧の低下をなるべく小さく抑えることができる産業車両の車体揺動制御装置を提供することにある。第2の目的は、従動輪がリンク機構に弾性部材を介して取付けられた補助輪である構成において、補助輪が外輪となる車両の旋回時に、駆動輪の接地圧の低下を効果的に小さく抑えることにある。第3の目的は、少なくとも駆動輪が外輪となる車両の旋回開始時に素早くリンク機構をロックすることにある。第4の目的は、横加速度が車両の旋回に起因するときにだけリンク機構をロックさせることにある。第5の目的は、リンク機構のロックが解除される際の車体のショックを緩和することにある。第6の目的は、旋回時に車速変化を伴なう場合でも、リンク機構を適切な時期に正確にロックさせることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記第1の目的を達成するために請求項1に記載の発明では、左右一対の駆動輪と従動輪が、車体のロール方向の揺動を許容するように、車体に対してリンク機構を介して懸架されている産業車両において、前記リンク機構をロックするための揺動規制機構と、車両の横加速度を測定する横加速度測定手段と、前記横加速度の測定値が設定値以上になると前記揺動規制機構を作動させて前記リンク機構をロックさせるロック制御を行なうとともに、前記従動輪が外輪となる車両の旋回方向のときにロックをしないか、そのロックのタイミングが、前記駆動輪が外輪となる車両の旋回方向のときのロックのタイミングより相対的に遅れるように設定されている制御手段とを備えている。
【0008】
第2の目的を達成するために請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記従動輪は前記リンク機構に弾性部材を介して取付けられた補助輪であって、前記補助輪が外輪となる車両の旋回方向のときは、前記弾性部材が所定量縮むまで待ったタイミングで前記リンク機構がロックされるように設定されている。
【0009】
第3の目的を達成するために請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、車両のヨーレート変化率または横加速度変化率を測定する旋回変化測定手段を備え、前記制御手段は、少なくとも前記駆動輪が外輪となる旋回方向のときに前記ヨーレート変化率または前記横加速度変化率がその設定値以上になると、前記揺動規制機構を作動させることをその要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の発明において、前記補助輪が外輪となる旋回方向のときは、前記旋回変化測定手段の前記測定値であるヨーレート変化率または横加速度変化率を前記ロック制御の判定のパラメータとして考慮しないように設定されている。
【0011】
第4の目的を達成するために請求項5に記載の発明では、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記横加速度測定手段は、車両が旋回中にあるときの横加速度のみを選択的に測定することをその要旨とする。
【0012】
請求項6に記載の発明では、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記横加速度測定手段は、操舵輪の操舵角を検出する操舵角検出器と、車両の車速を検出する車速検出器と、前記操舵角と車速の両検出データを用いた演算により前記横加速度を推定する横加速度推定手段とを備えている。
【0013】
請求項7に記載の発明では、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記横加速度測定手段は、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出器と、車両の車速を検出する車速検出器と、前記ヨーレートと車速の両検出データを用いた演算により横加速度を推定する横加速度推定手段とを備えている。
【0014】
請求項8に記載の発明では、請求項5に記載の発明において、前記横加速度測定手段は加速度センサであって、前記加速度センサにより検出された横加速度が車両の旋回時のものか否かを判定する旋回判定手段とを備えている。
【0015】
請求項9に記載の発明では、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の発明において、前記旋回変化測定手段は、車両の車速を検出する車速検出器と、前記横加速度を測定するために設けられた検出器のうち前記車速検出器以外の検出器と、両検出器により検出された車速の検出データを含む二つの検出データを用いて演算により前記ヨーレート変化率または前記横加速度変化率を推定する旋回変化率推定手段とを備えている。
【0016】
請求項10に記載の発明では、請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の発明において、前記制御手段は、前記揺動規制機構を作動させるためのロック条件が不成立となった時点から所定時間経過後に前記揺動規制機構の作動を停止させるように設定されている。
【0017】
請求項11に記載の発明では、請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の発明において、前記制御手段が前記揺動規制機構を作動するときの設定値より、前記揺動規制機構の作動を停止するときの設定値が小さく設定されている。
【0018】
第5の目的を達成するために請求項12に記載の発明では、請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載の発明において、前記揺動規制機構は、前記リンク機構にロックのために付与する規制力を調節可能な規制力調節手段を備え、前記制御手段は、前記規制力調節手段を制御することにより前記ロック制御を行うととも、前記揺動規制機構の作動を停止するときは、前記リンク機構のロックが徐々に解除されるように前記規制力調整手段を制御することをその要旨とする。
【0019】
第6の目的を達成するために請求項13に記載の発明では、請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の発明において、前記旋回変化測定手段は、車速検出器を含む複数の検出器の検出データを用いた演算によって前記ヨーレート変化率または横加速度変化率の測定値を推定するものであって、該測定値を演算するために使用される計算式には、車速の時間微分項が含まれている。
【0020】
(作用)
従って、請求項1に記載の発明によれば、横加速度測定手段により測定された横加速度が設定値以上になると、揺動規制機構を作動させてリンク機構をロックさせるロック制御が制御手段により行われる。左右の旋回方向でロックのタイミングが同じであると、駆動輪が外輪となる旋回時に早期にロックさせようとした場合、従動輪が外輪となる旋回時のロックのタイミングも早まり、リンク機構がロックされたまま車体が従動輪側に傾くことになるため、駆動輪が路面から浮き上がり易くなる。これに対し、従動輪が外輪となる車両の旋回時には、リンク機構をロックしないか、駆動輪が外輪となる旋回方向のときよりもロックのタイミングが相対的に遅れるように設定されているので、駆動輪が外輪となる旋回時に早期にロックさせるように設定されていても、従動輪が外輪となる旋回時における駆動輪の接地圧の低下が相対的に小さく抑えられる。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、補助輪が外輪となる車両の旋回時は、弾性部材が所定量縮んだタイミングでリンク機構がロックされるようにロックのタイミングが遅れるので、ロック後の弾性部材の縮み量が無くなるか、相対的に少なくなるので、駆動輪の接地圧の低下がなるべく小さく抑えられる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、旋回時の横加速度は値の立ち上がりが相対的に遅いが、少なくとも駆動輪が外輪となる旋回方向のときは、旋回変化測定手段により測定された、旋回時の値の立ち上がりの早いヨーレート変化率または横加速度変化率がその設定値以上になった時点で、揺動規制機構が作動される。従って、旋回開始時にタイミングの遅れなく素早くリンク機構がロックされる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、補助輪が外輪となる旋回方向のときには、旋回変化測定手段に測定されたヨーレート変化率または横加速度変化率が、ロック制御の判定のパラメータとして考慮されないので、車体が従動輪(補助輪)側に所定の角度に傾いてからリンク機構をロックさせることを妨げない。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、車両が旋回中にあるときの横加速度のみが横加速度測定手段により選択的に測定される。そのため、旋回中でないときに路面の凹凸によって車体が左右に傾いて発生した横加速度はロック制御の対象とされないので、路面の凹凸による車体の揺れはリンク機構によって吸収される。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、操舵角検出器により検出された操舵輪の操舵角データと、車速検出器により検出された車両の車速データとを用いた演算により、横加速度が横加速度推定手段により推定される。操舵角データを使用することにより、旋回時の横加速度のみを選択的に検出することが可能になる。また、車速検出器は車両に元々用意されているものを利用することが可能である。
【0026】
請求項7に記載の発明によれば、ヨーレート検出器により検出された車両のヨーレートデータと、車速検出器により検出された車両の車速データとを用いた演算により横加速度が横加速度推定手段により推定される。ヨーレートデータを使用することにより、旋回時の横加速度のみを選択的に検出することが可能になる。また、車速検出器は車両に元々用意されているものを利用することが可能である。
【0027】
請求項8に記載の発明によれば、加速度センサにより検出された横加速度が車両の旋回時のものであるか否かが旋回判定手段により判定される。よって、加速度センサを使用して横加速度を直接検出する構成においても、旋回時の横加速度のみを選択的に検出することが可能になる。
【0028】
請求項9に記載の発明によれば、車速を検出する車速検出器と、横加速度を測定するために設けられた検出器のうち車速検出器以外の検出器とにより検出された二つの検出データを用いた演算により、ヨーレート変化率または横加速度変化率が旋回変化率推定手段により推定される。従って、横加速度を測定するために設けられた検出器をヨーレート変化率または横加速度変化率を推定するために利用することが可能であり、しかも車両に元々用意されている車速検出器を利用することが可能である。
【0029】
請求項10に記載の発明によれば、揺動規制機構を作動させるロック条件が不成立となった時点から所定時間経過後に、揺動規制機構の作動が停止される。このため、横加速度やヨーレート変化率の測定値が設定値付近の値をたまたまとったときや、横加速度とヨーレート変化率の測定値を共にロック制御のパラメータとして使用する際、横加速度とヨーレート変化率が各々の設定値以上の値になるときのちょっとしたタイミングのずれが発生したときにも、制御の不要な頻繁な切換わりが回避される。
【0030】
請求項11に記載の発明によれば、揺動規制機構が作動されても、その作動時の設定値より小さな作動停止時の設定値を下回らない限り、揺動規制機構の作動が停止されない。このため、横加速度やヨーレート変化率の測定値が設定値付近の値をたまたまとったときや、横加速度とヨーレート変化率の測定値を共にロック制御のパラメータとして使用する際、横加速度とヨーレート変化率が各々の設定値以上の値になるときのちょっとしたタイミングのずれが発生したときにも、制御の不要な頻繁な切換わりが回避される。
【0031】
請求項12に記載の発明によれば、揺動規制機構の作動を停止するときは、制御手段により規制力調整手段が制御されることにより、リンク機構をロックさせている規制力が徐々に緩和され、リンク機構のロックが徐々に解除される。このため、リンク機構のロックが解除される際、車体にショックが発生し難くなる。
【0032】
請求項13に記載の発明によれば、旋回変化測定手段により、ヨーレート変化率または横加速度変化率が、車速検出器を含む複数の検出器の検出データを用いた演算によって推定される際、車速の時間微分項が含まれた計算式が使用される。このため、旋回時に車速変化が伴なったときでも、精度の高い測定値が得られる。
【0033】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図14に基づいて説明する。
【0034】
図2,図3に示すように、産業車両としてのリーチ式フォークリフト1(以下、フォークリフトという)は、前二輪・後一輪の3輪車タイプである。左右の前輪2が従動輪で、後側一輪が操舵輪を兼ねた駆動輪3となっている。駆動輪3は車幅方向左寄りにオフセットされて位置し、その右隣には駆動輪3と左右で対をなす従動輪としての補助輪(キャスタ輪)4が設けられている。
【0035】
フォークリフト1は車体(機台)1a前側にマスト5を備える。マスト5は、リーチシリンダ(図示せず)の駆動によって、車体1aの前方に延出する左右一対のリーチレグ6に沿って前後方向に移動可能になっている。マスト5はアウタマスト7とインナマスト8とからなり、アウタマスト7に配設されたリフトシリンダ9の駆動によってインナマスト8がアウタマスト7に対して昇降することにより、その約2倍のストロークでリフトブラケット10が昇降する。リフトブラケット10には、アタッチメントとして使用されるフォーク11が傾動可能に取付けられている。
【0036】
車体1aの後部右側には立席型の運転室12が設けられている。運転室12の左隣に立設された収容ボックス13の上面にはステアリングホイール14が設けられている。運転室12の前側にあるインストルメントパネル15には荷役操作やアクセル操作のための操作レバー16が設けられている。
【0037】
図4は、フォークリフト1のリアサスペンション構造を示す。車体1aの後部には、駆動輪3を有するドライブユニット17と、補助輪4を有するキャスタユニット18とが、車体フレーム19に対してリンク機構20を介して上下に揺動可能に懸架されている。
【0038】
リンク機構20は、アッパリンク21、リンク22、ロアリンク23およびキャスタリンク24の四つを備える。各リンク21〜24は四辺形の頂点に位置する四つの軸25,26,27,28により連結されている。
【0039】
アッパリンク21は、駆動輪3のやや上方にほぼ水平に延びて配置され、その右端部が固定軸25によって車体フレーム19に対して回動可能に連結されている。ロアリンク23は、アッパリンク21の斜め下方においてほぼ水平に延びて配置され、その中央寄りに位置する固定軸26によって車体フレーム19に対して回動可能に連結されている。アッパリンク21の左端部とロアリンク23の左端部は、ほぼ鉛直に延びる略L字状のリンク22の両端部とそれぞれ軸27,28によって相対回動可能に連結されている。
【0040】
キャスタリンク24は、ロアリンク23の下面側右寄りにほぼ水平に配置され、その右端部がロアリンク23の右端部に取付けられたガイド軸29に挿通されて鉛直方向に相対変位可能に連結されている。キャスタリンク24の左端部は固定軸26に回動可能に連結されている。ロアリンク23とキャスタリンク24との間には、弾性部材としての前後一対のキャスタスプリング30が介装されている。そして、2個一組の補助輪4は、キャスタリンク24に対して回動機構(図示せず)を介して水平面内を回動可能な状態で支持されている。こうしてキャスタユニット18が構成される。なお、各リンク22〜24は、図5に示すように前後方向に所定距離を隔して対向する2本の腕を有する平面視で略コ字形状に形成されており、またリンク22は前後に一対設けられている。
【0041】
また、ドライブユニット17は次のように構成される。リンク22の上面と車体フレーム19に固定された支持部材31との間には、サスペンションスプリング32が介装され、リンク22はサスペンションスプリング32によって車体フレーム19に対して下方へ付勢されている。アッパリンク21とリンク22とを連結している軸27は、ドライブモータ33が組付けられている支持台34に連結されている。
【0042】
支持台34の下部にはギヤボックス35が水平面内を相対回動可能に取付けられており、ギヤボックス35の下部に駆動輪3が回転可能に支持されている。ギヤボックス35の上部に固定されたギヤホイール36は、図6に示すようにステアリングホイール14の操作に連動して回転するステアリングシャフト37の下端部のギヤ部38と噛合しており、ステアリングホイール14の回転操作に応じて駆動輪3が操舵される。ステアリングシャフト37の近傍にはパワーステアリング用のモータ39を有するギヤボックス40が配設され、ステアリングホイール14の操作に応じてモータ39が駆動されることによりその操作力が軽減される。なお、ステアリングホイール14とステアリングシャフト37は、その間を連結するシャフト41の両端部とユニバーサルジョイントにより連結されている。
【0043】
サスペンションスプリング32は、駆動輪3を路面に押えつけてその接地圧を確保する目的を備え、その弾性力は比較的強い。これに対し、路面からの振動を吸収する目的で設けられているキャスタスプリング30は、サスペンションスプリング32に比べて弾性力が相対的に弱い。そのため、補助輪4からの入力はキャスタスプリング30が所定長さに縮み切った後にロアリンク23へ伝えられる。但し、キャスタスプリング30が縮む過程でロアリンク23は厳密には僅かながら変位はする。
【0044】
図4に示すように、支持台34から水平に延びる支持板42と、車体フレーム19から水平に延出する支持部材43との間には、1個の油圧式のダンパ44が介装されている。ダンパ44は複動式の油圧シリンダからなる。ダンパ44のシリンダ44aがその基端部で支持部材43に連結されるとともに、そのピストンロッド44bが支持板に連結されている。
【0045】
シリンダ44aには、そのピストン44cにて区画された二室とそれぞれ連通する2本の管路45,46が接続されており、両管路45,46は、電磁切換弁47の2つのポートにそれぞれ接続されている。電磁切換弁47は、消磁時に閉弁するノーマルクローズタイプの2ポート2位置切換弁である。管路46に接続された管路48には、作動油を貯溜するアキュムレータ49が接続されており、管路48上にはアキュムレータ49の下流側にチェック弁50が設けられている。また、管路46上には絞り弁51が設けられている。
【0046】
ダンパ44は、電磁切換弁47のスプールが図4に示す遮断位置に切換えられた状態では、シリンダ44aの二室の作動油が移動するための流路が遮断され、ピストロッド44bが伸縮不能な状態にロックされる。また、電磁切換弁14のスプールが連通位置(図4の位置と反対側に切換えられた位置)に切換えられた状態では、シリンダ44aの二室が作動油の移動が可能な状態に連通され、ダンパ44はそのピストンロッド44bの伸縮が許容されるフリー(アンロック)状態となる。なお、ダンパ44と電磁切換弁47等により、揺動規制機構が構成される。
【0047】
ダンパ44がロックされていない状態では、駆動輪3と補助輪4との接地圧(輪重)が設定比に分配されるようにリンク機構20が動くようになっている。例えばマスト5が前進して重心位置が前輪2側に移動した状態では、駆動輪3を車体フレーム19に対して相対的に下降させるようにリンク機構20が動き、駆動輪3に所定圧以上の接地圧が確保される。一方、マスト5が後退して重心位置が後輪側に移動した状態では、駆動輪3を車体フレーム19に対して相対的に上昇させるようにリンク機構20が動き、駆動輪3に過剰な接地圧がかからないように荷重の一部を補助輪4に分配する。
【0048】
図1,図4に示すように、ギヤホイール36の近傍には、その回転を検出して駆動輪3の操舵角(タイヤ角)θを求めるのに必要な検出信号を出力する操舵角検出器としての操舵角センサ52が設けられている。操舵角センサ52は、例えばギヤホイール36の回転を検出してその回転量に比例する振幅数の検出信号を出力可能な一組の磁気センサからなり、ギヤホイール36の回転量を操舵方向ごとに検出できるように位相差の異なる2種類の検出信号を出力する。操舵角センサとしては、駆動輪3の操舵角θを検出可能なその他の検出方法を採用するものでもよく、例えばパワーステアリング用のモータ39の回転を検出するセンサと、モータ39の駆動制御のために必要なステアリングホイール14の回転方向を検出する公知のセンサとの組合せにより構成することもできる。また、ドライブモータ33の上部には、その駆動軸と一体回転するブレーキディスク53の回転を検出して車速Vを間接的に検出する車速検出器としての車速センサ54が設けられている。
【0049】
次に、フォークリフト1に備えられた車体揺動制御装置の電気的構成を図7に基づいて説明する。
フォークリフト1は、収容ボックス13の内部に制御手段としてのコントローラ55を備えている。コントローラ55は、マイクロコンピュータ56、A/D変換回路57,58および励消磁駆動回路59等を内蔵する。マイクロコンピュータ56は、中央処理装置(以下、CPUという)60、読取専用メモリ(ROM)61、読取書込可能メモリ(RAM)62、カウンタ63、入力インタフェイス64及び出力インタフェイス65を備える。なお。操舵角センサ52、車速センサ54およびCPU60により、横加速度測定手段及び旋回変化測定手段が構成される。また、CPU60により横加速度推定手段及び旋回変化率推定手段が構成される。
【0050】
CPU60は、操舵角センサ52および車速センサ54からAD変換回路57,58を介して入力する各検出信号に基づいて操舵角θおよび車速Vのデータを取得する。また、CPU60から出力される制御信号に基づき励消磁駆動回路59から出力される励磁用の電流がオン・オフされることにより、電磁切換弁47のソレノイド47aが励磁・消磁される。すなわち、CPU60からロック信号が指令され、励消磁駆動回路59から電流が出力されなくなってソレノイド47aが消磁されると、電磁切換弁47が遮断位置に切換えられる。そして、CPU60からロック信号の指令が停止され、励消磁駆動回路59から電流が出力されてソレノイド47aが励磁されると、電磁切換弁47が連通位置に切換えられる。
【0051】
ROM61には、図11,図12にフローチャートで示すスウィング制御処理のプログラムデータをはじめとする各種プログラムデータが記憶されている。ここで、スウィング制御とは、車体1aの旋回時の遠心力が大きくなる所定時期にダンパ44をロックし、車体1aの左右方向の安定性を高めるための制御である。この実施形態では、車体1aに働く横加速度(車体横方向に働く遠心加速度)Gと、車両が旋回するときのヨーレート(旋回角速度)Yの時間に対する変化率(ヨーレート変化率)ΔY/ΔTとを経時的に検出し、横加速度とヨーレート変化率の各測定値のいずれか一方でも各々の設定値以上になる時期に、ダンパ44をロックするように設定されている。
【0052】
図9(a)に示すように、車両の旋回方向が左右どちらであるかによって、横加速度の設定値G1,G2に差をもたせている。左方向の横加速度が発生する右旋回時の設定値G1に対し、右方向の横加速度が発生する左旋回時の設定値G2を大きな値に設定している。設定値G2は、左旋回時に発生する右方向の横加速度によって車体1aがキャスタスプリング30の縮みを伴ないながら右傾し、キャスタスプリング30が所定長さにほぼ縮み切った時点でダンパ44がロックされるように、キャスタスプリング30の弾性力に合わせて設定された値である。つまり、設定値G2は、キャスタッスプリング30が所定長さにほぼ縮み切るに必要な横加速度に等しい値に設定されている。
【0053】
また、図9(b)に示すように、車両の旋回方向が左右どちらであるかによって、ヨーレート変化率ΔY/ΔTの設定値を異ならせている。この例では、左方向の横加速度が発生する右旋回時に設定値yo を設定し、右方向の横加速度が発生する左旋回時に設定値を無限大、つまりヨーレート変化率ΔY/ΔTを考慮しないようにしている。左旋回時にΔY/ΔT値を考慮しないのは、キャスタスプリング30が所定長さに縮み切るまではダンパ44がロックされないようにするためである。
【0054】
ROM61には、各設定値G1,G2,yo のデータが記憶されている。各設定値G1,G2,yo は、ダンパ44が必要時期にロックされるように走行実験から得られた値である。また、CPU60は3つのフラグFg ,Fy ,FL を備えている。フラグFg は、横加速度Gs が旋回方向に応じた設定値G1,G2以上のときにセットされ、それ以外のときにリセットされる。また、フラグFy は、右旋回時にヨーレート変化率ΔY/ΔTが設定値yo 以上のときにセットされ、それ以外のときにリセットされる。さらにロックフラグFL は、ダンパ44のロック中にセットされ、ダンパ44のアンロック中にリセットされる。
【0055】
この実施形態では、操舵角センサ52と車速センサ54の各検出信号に基づいて得られる操舵角θと車速Vのデータを用いた演算により、横加速度Gとヨーレート変化率ΔY/ΔTを推定している。横加速度の推定値Gs は、操舵角θから決まる旋回半径rを用い、次の(1)式で表わされる。
【0056】
Gs =V2 /r … (1)
また、ヨーレート変化率ΔY/ΔTは、2つの検出値θ,Vを用いて次の(2)式で表わされる。
【0057】
ΔY/ΔT=V・{Δ(1/r)/ΔT}… (2)
ここで、rは旋回半径、Δ(1/r)は、旋回半径の逆数値1/rの所定時間ΔT(例えば数10ミリ秒)当たりの変化量(偏差)である。偏差Δ(1/r)は、RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)の操舵角データθから、所定時間ΔT前の操舵角データθ1を読出し、このデータθ1から決まる旋回半径r1 を用い、Δ(1/r)=|1/r−1/r1 |により計算している。
【0058】
ところで、ヨーレート変化率ΔY/ΔTは、ヨーレートYを表わす式 Y=V/r を時間微分して次式で表される。
ΔY/ΔT=V・{Δ(1/r) /ΔT}+ (1/r)・{ΔV/ΔT} … (3)
フォークリフト1の旋回中においては、時間ΔTにおける車速Vをほぼ一定と見なせるので、本実施形態では(3)式中の後項を無視して近似した(2)式をΔY/ΔT値を推定する演算式として採用している。
【0059】
また、ROM61には、操舵角θから車両の旋回半径rを求めるための図8に示すマップMRが記憶されている。本実施形態では、操舵輪である駆動輪3が車幅方向にオフセットされていることを考慮し、操舵角θから旋回半径rを求めるために右旋回用と左旋回用の2種類のマップ線R,Lを用意している。例えば操舵角θ=θ1のとき、駆動輪3が外輪になる右旋回時に旋回半径rR が決まり、補助輪4が外輪になる左旋回時には右旋回時のrR 値より小さい旋回半径rL が決まる。このため、操舵角データθを用いて測定値を演算する方法を採用しても、横加速度Gs とヨーレート変化率ΔY/ΔTの推定値を正しく算出できるようになっている。
【0060】
また、ダンパ44のロックの解除は、ロック条件解除(ロック条件不成立)の状態が所定時間Tだけ継続したときにのみ行われる。ロック条件解除の状態の継続時間は、カウンタ63により計数される。
【0061】
次に、スウィング制御処理について図11,図12のフローチャートに従って説明する。イグニションキーのオン中、CPU60は各センサ52,54から検出信号を入力する。CPU60は各センサ52,54からの検出信号に基づいて得られる操舵角θと車速Vのデータに基づいて所定時間(例えば数10ミリ秒)間隔でスイング制御処理を実行する。
【0062】
まず、CPU60は、ステップ10において、検出データである操舵角θと車速Vを読み込む。ステップ20では、横加速度の推定値Gs を演算する。すなわち、ROM61に記憶されたマップMRを用いて操舵角θから旋回半径rを求め、車速Vと旋回半径rから(1)式を用いて、横加速度の推定値Gs を計算する。
【0063】
ステップ30では、ヨーレート変化率ΔY/ΔTを演算する。すなわち、RAM62の所定記憶領域から所定時間ΔT前の操舵角データθ1を読出し、このデータθ1から決まる旋回半径r1と、現在の操舵角データθから決まる旋回半径rとを用いてΔ(1/r)=|1/r−1/r1|とみなし、(2)式よりΔY/ΔTを演算する。
【0064】
ステップ40では、現在の旋回方向を判定する。旋回方向は操舵角θから判定される。予め設定された直進の操舵角範囲内に切れ角があるときは直進、その直進範囲より左切れ角のときに右旋回、右切れ角のときに左旋回と判定される。右旋回のときはステップ50に進み、左旋回のときはステップ90に進み、さらに直進時は当該ルーチンを終了する。
【0065】
右旋回時は、まずステップ50において、ΔY/ΔTが設定値yo 以上であるか否かを判断する。ΔY/ΔT≧yo が成立すれば、ステップ60に進んでフラグFy をセットし、ΔY/ΔT≧yo が不成立であれば、ステップ70に進んでフラグFy をリセットする。
【0066】
次のステップ80では、横加速度Gs が設定値G1以上であるか否を判断する。Gs ≧G1が成立すれば、ステップ100に進んでフラグFg をセットし、Gs ≧G1が不成立であれば、ステップ110に進んでフラグFg をリセットする。 また、左旋回時は、ステップ90において、横加速度Gs が設定値G2以上であるか否を判断する。Gs ≧G2が成立すれば、ステップ100に進んでフラグFg をセットし、Gs ≧G2が不成立であれば、ステップ110に進んでフラグFg をリセットする。このように右旋回時と左旋回時でロック条件が異なっている。なお、左旋回時のときはフラグFy はリセットされる。
【0067】
ステップ120では、フラグFy ,Fg のうち少なくとも一方がセットされているか否かを判断する。つまり、ロック条件が成立したか否かを判断する。ロック条件が成立すればステップ130に進み、ロック信号を指令する。その結果、電磁切換弁47のスプールが遮断位置に切換えられ、ダンパ44がロックされる。一方、ロック条件不成立であればステップ140に進む。
ステップ140では、ロックからアンロックへの切換わりであるか否かを判断する。CPU60は現在ロック状態にあってロックフラグFL がセットされていれば、ロックからアンロックへの切換わりであると判断する。ロックからアンロックへの切換わりであるときはステップ150に進んで、カウンタ63の計数値kをインクリメントする(k=k+1)。カウンタ63は、例えばダンパ44がアンロックからロックに切換えられた時にリセットされている。一方、ロックからアンロックへの切換わりでないときはステップ170に進む。
【0068】
ステップ160では、カウンタ63の計時が所定時間Tを経過したか否かを判断する。つまり、ロック条件解除の状態(フラグFg ,Fy が共にリセット状態)が所定時間T継続したか否かを判断する。カウンタ63の計数値kから所定時間Tが経過したと判断されたときは、ステップ170に進む。ステップ170では、ロック信号の指令を停止する。その結果、電磁切換弁47のスプールが連通位置に切換えられ、ダンパ44のロックが解除される。このようにロックからアンロックに切換わるときはロック条件の解除と同時に直ちにロック解除される訳ではなく、ロック条件解除の状態が所定時間Tだけ継続した後、ダンパ44のロック解除が実行される。
【0069】
図13は、旋回時における横加速度(横加速度)Gs とヨーレート変化率ΔY/ΔTの変化を示すグラフである。例えば図13(a)に示すように、走行中に直進から右旋回したときは、横加速度が設定値G1に達する前にヨーレート変化率ΔY/ΔTがその設定値yo を超えることで早めにダンパ44がロックされる。つまり、旋回開始とほぼ同時に素早くダンパ44がロックされる。そのため、右旋回時には、図14(a)に示すように、車体1aが右旋回し始めてまだほぼ水平姿勢にある時点でダンパ44がロックされ、リンク機構20が車体フレーム19に対して固定される。その後、図13(a)に示すように操舵角θが一定切角に落ちついてきてヨーレート変化率ΔY/ΔTが設定値yo 未満となるまでには、横加速度(Gs )が設定値G1以上となるので、ダンパ44のロックが継続される。そのため、右旋回中は、車体フレーム19に対してリンク機構20が図14(a)に示すほぼ水平姿勢時の状態で固定されたままとなる。リンク機構20が車体フレーム19に対して固定されたままの状態で車体1aが右旋回時の遠心力によって左傾することになるが、補助輪4が路面からやや浮き上がり気味になるものの、駆動輪3の接地圧は確保される。
【0070】
その後、図13(a)に示すように右旋回から左旋回へハンドル(ステアリングホイール)14を切返すと、横加速度がその向きの切り換わりの区間で一瞬だけ設定値G1未満となる。しかし、旋回方向の切返し中であるためにこの区間で、ヨーレート変化率ΔY/ΔTが設定値yo 以上の値をとるため、ダンパ44のロックが直進姿勢に到達するるまで継続される。そして、直進姿勢を過ぎて左旋回に切換わると、ヨーレート変化率ΔY/ΔTがロック制御の判定のパラメータとして使われなくなるので、ダンパ44のロックが解除される。
【0071】
そして、左旋回となって右方向の横加速度によって車体1aが右傾し、図14(b)に示すようにキャスタスプリング30が所定長さまでほぼ縮み切った時点で横加速度の推定値Gs が設定値G2に達し、ダンパ44がロックされる。キャスタスプリング30が所定長さまでほぼ縮み切るまでに車体1aがやや右傾するが、この過程ではリンク機構20がまだロックされていないので、車体1aがやや右傾しても、駆動輪3と補助輪4との接地圧(輪重)を設定比に分配するようにリンク機構20が動くことによって駆動輪3の接地圧が確保される。つまり、駆動輪3が車体フレーム19に対して下降変位してその接地圧が確保される。
【0072】
そして、ダンパ44がロックされたときの車体姿勢からさらに右傾するときだけ、リンク機構20が車体フレーム19に固定される。このため、車体1aがダンパ44のロック後にさらに右傾したとしても、その時の車体1aの右傾角度の割りには、従来装置に比べて駆動輪3の接地圧が高く確保される。従って、駆動輪3の接地圧が多少低くはなるものの、スリップを招いて加速が鈍ったり、制動の効きに悪影響を与えたり、さらに操舵性能が問題になるほど落ちることはない。
【0073】
この実施形態では、リンク機構20をロックするタイミングが従来装置に比べて遅れることになる。しかし、従来装置ではリンク機構が早めにロックされても、キャスタスプリングが所定長さに縮み切るまでは、車体1aの補助輪4側への沈み込みは依然起こるので、リンク機構をロックすることそれ自体は、車体の安定性にとってさほど効果がなかった。そのため、キャスタスプリング30が所定長さに縮み切るまでダンパ44のロックのタイミングを遅らせても、車体1aの安定性はさほど犠牲にされない。
【0074】
また、キャスタスプリング30はバネ定数が小さいため変位し易く、それが所定長さに縮み切るまで車体1aは比較的小さな横力で傾く。そして、キャスタスプリング30が所定長さにほぼ縮み切った後にダンパ44がロックされるので、横力の割りに車体1aの傾き量が小さくて済む。つまり、キャスタスプリング30がほとんど縮み切って車体1aがそれ以上は補助輪4側に沈み込み難い状態にあるので、ダンパ44のロック後は、車体1aのさらなる傾きは起き難く、駆動輪3の接地圧が低下し難い。その結果、駆動輪3の接地圧の低下を抑えつつ車体の左右の安定性が確保される。
【0075】
一方、図13(b)に示すように、走行中に直進から左旋回したときは、図14(b)に示すようにキャスタスプリング30が所定長さまでほぼ縮み切った時点で横加速度の推定値Gs が設定値G2に達し、ダンパ44がロックされる。キャスタスプリング30が所定長さにほぼ縮み切るまでに車体1aがやや右傾する過程では、駆動輪3と補助輪4との接地圧(輪重)を設定比に分配するようにリンク機構20が動くことによって駆動輪3の接地圧が確保される。キャスタスプリング30がほぼ縮み切ってからダンパ44がロックされるので、その後、さらに車体1aが右傾しても、駆動輪3の接地圧の低下が相対的に小さく抑えられる。その結果、駆動輪3の接地圧の低下を抑えつつ車体1aの左右の安定性が確保される。
【0076】
その後、左旋回から右旋回へハンドル14を切返すときは、横加速度の推定値Gs が設定値G2未満になった時点でダンパ44のロックが解除される。ダンパ44はロック条件解除時から所定時間Tだけ遅れてロック解除されることになるが、極く短時間なのでタイミング的な遅れはさほど生じない。ダンパ44のロックが解除された後は、駆動輪3と補助輪4との接地圧(輪重)を設定比に分配するようにリンク機構20が動きながら、キャスタスプリング30の縮みが次第に復元し、車体1aが水平姿勢に立ち直る。
【0077】
左旋回中は、ヨーレート変化率ΔY/ΔTが考慮されないので、旋回方向の切返し過程でその値ΔY/ΔTが設定値yo 以上になっても、直進姿勢になるまでは、ダンパ44のアンロック状態が継続される。そして、直進姿勢を過ぎて右旋回に移行し始めると、既にヨーレート変化率ΔY/ΔTが設定値yo 以上の値になっているので、右旋回へ移行し始めると車体1aがまだほほ水平姿勢の時に素早くダンパ44がロックされる。操舵角θが一定切角に落ちついてきてヨーレート変化率ΔY/ΔTが設定値yo 未満となるまでに、横加速度Gs が設定値G1以上となり、ダンパ44のロックが継続される。
【0078】
ダンパ44のロック解除は、ロック条件が不成立となった時点から所定時間Tの遅れて実行される。そのため、右旋回中にΔY/ΔT値とGs 値の変化のちょっとしたタイミングのずれから両フラグFy ,Fg が共にリセットされることがあっても、ダンパ44のロックは継続される。また、旋回中に横加速度の推定値Gs が設定値G1,G2を境に上下に変動するような値をたまたまとっても、ダンパ44のロックが継続される。そのため、横加速度の推定値Gs がその設定値G1,G2付近の値をたまたまとったことに起因する不要なロック・アンロックの頻繁な切り換わりの発生も防止される。
【0079】
以上詳述したように本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)右旋回時と左旋回時でダンパ44をロックするロック条件に差をもたせ、左旋回時にキャスタスプリング30が所定長さにほぼ縮み切った後にダンパ44をロックするようにしたので、左旋回時に駆動輪3の接地圧が低下することをなるべく小さく抑えることができる。従って、左旋回中において、駆動輪3の接地圧が低下して加速が鈍ったり、制動が効き難くなる恐れを回避できる。また、操舵輪を兼ねた駆動輪3の接地圧の低下から引き起こる操舵性能の低下も回避できる。さらに旋回時における車体1aの傾きをなるべく小さく抑え、車体1aの左右の安定性を確保できる。
【0080】
(2)ヨーレート変化率ΔY/ΔTを、ダンパ44をロックすべきか否かの判定のパラメータの一つに加えたので、右旋回開始時に素早くダンパ44をロックでき、右旋回時の遠心力による車体1aの傾きをなるべく小さく抑えることができる。またヨーレート変化率ΔY/ΔTを左旋回時にはロック制御の判定のパラメータとして考慮しないようにしたので、左旋回時にはキャスタスプリング30が所定長さに縮み切るまでダンパ44をアンロック状態に保持することができる。
【0081】
(3)ダンパ44のロック解除は、ロック条件解除の状態が所定時間Tだけ継続した後に実行されるので、ロック・アンロックの不要な切り換わりを防止することができる。例えば右旋回時にヨーレート変化率ΔY/ΔTが設定値yo 以上になってしたロックを、横加速度Gs が設定値G1以上に立ち上がる前にちょっとしたタイミングのずれからヨーレート変化率ΔY/ΔTが設定値yo 未満になって両フラグFy ,Fg が共にリセットされた状態が一瞬発生しても継続できる。また、旋回中に横加速度の推定値Gs が設定値G1,G2を境に上下変動するような場合でも、ダンパ44をロック状態に保持でき、横加速度の推定値Gs がその設定値G1,G2付近の値をたまたまとったことに起因するロック・アンロックの頻繁な切り換わりを回避できる。
【0082】
(4)横加速度Gs およびヨーレート変化率ΔY/ΔTを、操舵角θと車速Vの各検出データを用いて演算するようにしたので、横加速度を直接検出する加速度センサ等の比較的高価な検出器を設けなくて済む。特にフォークリフト1に元々取付けられている車速センサ54を利用でき、また他の制御等のために設けた操舵角センサ52を利用する構成であれば、センサ類の共用により装置コストを相対的に安価に抑えることができる。
【0083】
(5)操舵角θと車速Vの各検出データを用いた演算によるので、旋回時の横加速度Gs のみを推定できる。よって、直進走行しているときの凹凸路面による車体1aの左右の揺れは、このとき推定値Gs が検出されずダンパ44がロックされないことから、確実に吸収される。
【0084】
(6)駆動輪3が車幅方向にオフセットされていて、操舵角θの検出データが同じでも旋回方向によって旋回半径rが異なることを考慮したマップMRを用意したので、横加速度の推定値Gs およびヨーレート変化率ΔY/ΔTを正確に求めることができ、精度の高いスイング制御を実現できる。
【0085】
(7)加速度センサにより検出された検出値(横加速度値)には車体1aの振動等のノイズを含み、これを差分(微分)処理した値を用いてヨーレート変化率ΔY/ΔTを求めようとすると、差分処理によってノイズが増幅されて推定値ΔY/ΔTが信頼性が乏しくなる。これに対して本実施形態によれば、操舵角センサ52により検出された車体1aの振動等の影響を受け難い操舵角データθから得られた値1/rを差分(微分)するので、信頼性の高い推定値ΔY/ΔTを得ることができる。
【0086】
(第2の実施形態)
次に本発明を具体化した第2の実施形態を図15,図16に従って説明する。この実施形態では、加速度センサと車速センサとを使用し、横加速度を直接検出するとともに、横加速度と車速の検出データからヨーレート変化率ΔY/ΔTを推定するようにしている。なお、スウィング制御に使用するセンサの組合せを変更した以外は、前記第1の実施形態と同じ構成であるので、同じ部材には同じ符号を付して説明を省略する。
【0087】
図15に示すように、旋回変化測定手段としての加速度センサ70は、車体後部の収容ボックス13内に車幅中心近くに取付けられ、車体1aの横加速度を検出可能な姿勢で配置されている。図16に示すように、車速センサ54は、前記第1実施形態と同様にブレーキディスク53の回転を検出するものである。加速度センサ70と車速センサ54は、コントローラ55と電気的に接続されている。コントローラ55内のCPU60は、加速度センサ70の検出値から横加速度Gr を得るとともに、車速センサ54の検出信号から得られた車速データVと横加速度データGr とを用いた演算によりヨーレート変化率ΔY/ΔTを推定する。なお、CPU60、加速度センサ70および車速センサ54により旋回方向判定手段が構成される。
【0088】
ヨーレート変化率ΔY/ΔTは次の(4)式により算出される。
ΔY/ΔT=(ΔG/ΔT)・(1/V) … (4)
ここで、ΔG/ΔTは、RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)の横加速度データから、所定時間ΔT前の横加速度データGr 1を読出し、現在の横加速度データGr とを用いて、ΔG/ΔT=|Gr −Gr 1|により算出される。
【0089】
CPU60が実行するスウィング制御処理においては、図11に示すステップ10において、横加速度Gr と車速Vの検出データを読込む。ステップ20のGs の演算が省略され、ステップ30において、上記(4)式を用いてヨーレート変化率ΔY/ΔTが演算される。ステップ40では、加速度センサ70の検出値の正負によって旋回方向を判定する。
【0090】
よって、この実施形態によれば、前記第1実施形態で述べた(1)〜(3)の効果が同様に得られる。また、直進走行時の横加速度が検出されるため、路面の凹凸によって車体1aが左右に揺れたときにダンパ44がロックされて左右の揺れが吸収され難くはなるものの、直進走行時でも例えば左右に傾斜した路面を走行するときには、横加速度Gr が設定値G1,G2以上になったときにダンパ44がロックされるため、車体1aの左右の安定性を確保することができる。さらに車速センサ54はフォークリフト1に元々取付けられているのもを利用できる。
【0091】
(第3の実施形態)
次に本発明を具体化した第3の実施形態を図17,図18に従って説明する。この実施形態では、ヨーレートセンサと車速センサを使用し、これらの検出値を用いて横加速度およびヨーレート変化率ΔY/ΔTの各推定値を得ている。なお、スウィング制御に使用するセンサの組合せを変更した以外は、前記第1の実施形態と同じ構成であるので、同じ部材には同じ符号を付して説明を省略する。
【0092】
図17に示すように、ヨーレート検出器としてのヨーレートセンサ(ジャイロスコープ)71は、車体後部の収容ボックス13内に車幅中心近くに取付けられている。本実施形態では、ヨーレートセンサ71として圧電素子からなる圧電式ジャイロスコープを使用している。例えばガスレート式ジャイロスコープまたは光学式ジャイロスコープ等のその他の方式のものを使用することもできる。また、図18に示すように、前記第1実施形態と同様にブレーキディスク53の回転を検出する車速検出器としての車速センサ54を備える。
【0093】
図18に示すように、ヨーレートセンサ71と車速センサ54は、制御手段としてのコントローラ55と電気的に接続されている。コントローラ55内のCPU60は、ヨーレートセンサ71と車速センサ54の各検出値から得られたヨーレートYと車速Vのデータを用いて、横加速度Gs とヨーレート変化率ΔY/ΔTとを推定する。なお、CPU60、ヨーレートセンサ71および車速センサ54により、横加速度測定手段および旋回変化測定手段が構成され、さらにCPU60により横加速度推定手段および旋回変化率推定手段が構成される。
【0094】
横加速度の推定値Gs は次の(5)式により算出される。
Gs =Y・V … (5)
また、ヨーレート変化率ΔY/ΔTは、RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)のヨーレートデータから、所定時間ΔT前のヨーレートデータY1を読出し、現在のヨーレートデータYとを用いて、ΔY/ΔT=|Y−Y1|により算出される。
【0095】
CPU60が実行するスウィング制御処理においては、図11に示すステップ10において、ヨーレートYと車速Vの検出データを読込む。ステップ20では、上記(5)式を用いて横加速度の推定値Gs が演算される。ステップ30において、式 ΔY/ΔT=|Y−Y1|によりヨーレート変化率ΔY/ΔTが演算される。ステップ40では、ヨーレートセンサ71の検出値の正負によって旋回方向を判定する。
【0096】
よって、この実施形態によれば、前記第1実施形態で述べた(1)〜(3),(5),(6)の効果が同様に得られる。また、車速センサ54はフォークリフト1に元々取付けられているのもを使用できる。なお、ヨーレートセンサ71の検出値は車体1aの振動によるノイズを含み難く、差分処理してもノイズの増幅の心配がないため、信頼性の高い推定値ΔY/ΔTを得ることができる。
【0097】
(第4の実施形態)
次に本発明を具体化した第4の実施形態を図19,図20に従って説明する。この実施形態は、前記第2実施形態と同様に加速度センサと車速センサを使用する構成であるが、旋回時の横加速度だけを選択的に得るようにした点が前記第2実施形態と異なる。なお、スウィング制御に使用するセンサを変更した以外は、前記第1の実施形態と同じ構成であるので、同じ部材には同じ符号を付して説明を省略する。
【0098】
図19に示すように、車体後部の収容ボックス13内における車幅中心近くに横加速度測定手段としての加速度センサ70が1個取付けられ、さらに片側(本例では例えば左側)のリーチレグ6のやや前寄りに加速度センサ72が1個取付けられている。2つの加速度センサ70,72は車体1aに対して横方向の加速度を検出可能な姿勢でそれぞれ配置されている。また、図20に示すように、前記第2実施形態と同様にブレーキディスク53の回転を検出する車速検出器としての車速センサ54を備える。
【0099】
図20に示すように、2つの加速度センサ70,72と、1つの車速センサ54は、コントローラ55と電気的に接続されている。コントローラ55内のCPU60は、2つの加速度センサ70,72の検出値から横加速度GAr,GBrを得るとともに、車速センサ54の検出信号から得られた車速Vと、例えば後側の加速度センサ70に検出された横加速度GArとを用いた演算によりヨーレート変化率ΔY/ΔTを推定する。なお、CPU60、加速度センサ70および車速センサ54により、旋回変化測定手段が構成される。また、CPU60および2つの加速度センサ70,72により旋回判定手段が構成される。
【0100】
ヨーレート変化率ΔY/ΔTは、前記(4)式を用いて、ΔY/ΔT=(ΔG/ΔT)・(1/V) により演算される。ここで、ΔG/ΔTは、RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)の横加速度データから、所定時間ΔT前の横加速度データGAr1を読出し、現在の横加速度データGArとを用いて、ΔG/ΔT=|GAr−GAr1|により算出される。
【0101】
CPU60が実行するスウィング制御処理においては、図11に示すステップ10において、横加速度GAr,GBrと車速Vの検出データを読込む。ステップ20のGs の演算が省略され、ステップ30において、上記(4)式を用いてヨーレート変化率ΔY/ΔTが演算される。ステップ40では、横加速度GAr,GBrの差δ=|GAr−GBr|を求め、その差δが予め設定した設定値δo 以上のとき(δ≧δo )、旋回中であると判断し、δ≧δo のときに加速度センサの検出値GA rの正負によって旋回方向を判定する。つまり、旋回時の旋回半径が異なることになる車体上の二箇所に各加速度センサ70,72が配置され、各加速度センサ70,72のそれぞれの検出値にある値以上の差ができたときを、車両の旋回中であると判定するようにしている。例えば加速度センサ70,72の検出値GA rが右旋回時に正の値をとり、左旋回時に負の値をとるように設定されていれば、δ≧δo かつGA r>0のときに右旋回、δ≧δo かつGA r>0のときに左旋回と判断し、δ<δo のときを直進時であると判断する。
【0102】
スウィング制御処理としては図11のフローチャートに示すように、直進時にはダンパ44をロックさせないようにする。これに対し、前記第2実施形態と同様に直進時でも横加速度が検出されたときにはその検出値GArが設定値G1,G2以上であればダンパ44をロックするようにし、横加速度GArの向きに応じて、その向きが左側のときは右旋回時の設定値G1を使用し、その向きが右側のときは左旋回時の設定値G2を使用するようにしてもよい。前者の場合、路面の凹凸によって車体1aが左右に揺れたために横加速度GArが設定値G1,G2以上になってもダンパ44がロックされず、その揺れを確実に吸収できる。また、後者の場合、直進走行時でも横加速度GArが設定値G1,G2以上になれば、ダンパ44がロックされるので、例えば左右に傾斜した路面を直進走行しているときに車体1aの左右の安定性を確保できる。その他、この実施形態によれば、前記第1実施形態で述べた(1)〜(3)の効果が同様に得られる。
【0103】
(第5の実施形態)
次に本発明を具体化した第5の実施形態を図21,図22に従って説明する。この実施形態は、電磁切換弁47に代えて電磁比例弁を使用してその開度調節をするようにした点が前記各実施形態と異なる。なお、スウィング制御に使用する電磁切換弁を電磁比例弁に変更した以外は、前記第1の実施形態と同じ構成であるので、同じ部材には同じ符号を付して説明を省略する。
【0104】
図21に示すようにダンパ44のシリンダ44aに接続された2本の管路45,46は、規制力調節手段としての電磁比例弁75の2つのポートに接続されている。コントローラ55内のCPU60は、例えばデューティ値制御により電磁比例弁75のソレノイド75aに流す電流を制御し、電磁比例弁75の開度を調節するようになっている。なお、ダンパ44および電磁比例弁75等により揺動規制機構が構成される。
【0105】
図22に示すように、CPU60は、ロック条件成立時はロック信号を出力してソレノイド75aへの電流を直ちに弱め、電磁比例弁75を速やかに全閉させる。また、CPU60は、ロック条件解除時はロック信号の出力を停止してソレノイド75aへの電流を徐々に上昇させて、電磁比例弁75の開度をほぼ一定の割合で徐々に全閉から全開させるように設定されている。
【0106】
よって、この実施形態によれば、ダンパ44のロックを解除する際、電磁切換弁75が全開から全閉まで徐々に閉じられるので、リンク機構20のロックが解除されるときに車体1aにショックが発生し難い。従って、例えば旋回中にロック解除されても車体1aがロック解除時のショックによって不安定になることを回避できる。
【0107】
(第6の実施形態)
次に本発明を具体化した第6の実施形態を図23,図24に従って説明する。この実施形態は、ダンパ44をロックするときとロックを解除するときでスウィング制御に使用する設定値を異ならせた点が前記各実施形態と異なる。なお、スウィング制御の内容を一部変更した以外は、前記第1の実施形態と同じ構成である。
【0108】
図23に示すように、ΔY/ΔT用の設定値として、ダンパ44をロックするとき(フラグFy がセットのとき)に「yo 」が使用され、ダンパ44のロックを解除するとき(フラグFy がリセットのとき)に「yo 」より少し小さな設定値「α・yo 」(例えば、0.5<α<1)が使用される。
【0109】
また、図24に示すように、Gs 用の設定値として、ダンパ44をロックするとき(フラグFg がセットのとき)に「G1」,「G2」が使用され、ダンパ44のロックを解除するとき(フラグFg がリセットのとき)に「G1」,「G2」より少し小さな設定値「α・G1」,「α・G2」(例えば、0.5<α<1)がそれぞれ使用される。
【0110】
よって、ダンパ44が一旦ロックされると、その際の設定値よりも少し小さめのα(例えば0<α<1)倍の設定値を下回るまで、そのロックが解除されない。そのため、例えばヨーレート変化率ΔY/ΔTがその設定値yo 付近の値をたまたまとったり、横加速度Gs がその設定値G1,G2付近の値をたまたまとったことに起因するロック・アンロックの頻繁な切り換わりの発生が防止される。従って、ダンパ44のロック制御を安定に行なうことができる。
【0111】
(第7の実施形態)
以下、本発明を具体化した第7の実施形態を説明する。ヨーレート変化率ΔY/ΔTを演算する前記第1実施形態と第2および第4実施形態等においては、車速Vを一定とみなして車速Vの時間差分項(時間微分項)を無視した計算式を使用した。これに対し、この実施形態では、車速Vの時間差分項(時間微分項)を考慮した計算式を使用するようにしている。ヨーレート変化率ΔY/ΔTの計算式が異なる以外は、前記第1および第3実施形態等と同様の構成である。
【0112】
まず、操舵角センサ52と車速センサ54を使用する第1実施形態等の構成において、第1実施形態で使用した前記(2)式に代え、車速Vの時間差分項が考慮された例えば先に記した(3)式を計算式として使用する。つまり、以下の式である。
【0113】
ΔY/ΔT=V・{Δ(1/r) /ΔT}+ (1/r)・{ΔV/ΔT} … (3)
ここで、ΔV/ΔTは、車速Vの所定時間ΔT(例えば数10ミリ秒)当たりの変化量(偏差)である。ΔV/ΔTは、RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)の車速データVから、所定時間ΔT前の車速データV1を読出し、ΔV/ΔT=|V−V1|により計算する。
【0114】
また、次式を採用することもできる。
ΔY/ΔT=Δ(V/r)/ΔT … (6)
ここで、Δ(V/r)/ΔTは、ヨーレートの演算値V/rの所定時間ΔT(例えば数10ミリ秒)当たりの変化量(偏差)である。Δ(V/r)/ΔTは、RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)のヨーレートデータV/rから、所定時間ΔT前のヨーレートデータV1/r1を読出し、Δ(V/r)/ΔT=|V/r−V1/r1|により計算する。
【0115】
また、加速度センサ70と車速センサ54を使用する第2および第4実施形態等の構成において、次式を使用する。
ΔY/ΔT= (ΔG/ΔT) ・( 1/V) +G・{Δ( 1/V) /ΔT} … (7)
ここで、Δ( 1/V) /ΔTは、車速の逆数値1/Vの所定時間ΔT(例えば数10ミリ秒)当たりの変化量(偏差)である。RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)の車速データVから、所定時間ΔT前の車速データV1を読出し、現在の車速データVとを用いて、Δ( 1/V) /ΔT=|1/V−1/V1|により計算する。
【0116】
また、次式を採用することもできる。
ΔY/ΔT=Δ( G/V) /ΔT … (8)
ここで、Δ( G/V) /ΔTは、ヨーレートの演算値G/Vの所定時間ΔT(例えば数10ミリ秒)当たりの変化量(偏差)である。Δ( G/V) /ΔTは、RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)のヨーレートデータG/Vから、所定時間ΔT前のヨーレートデータG1/V1を読出し、Δ( G/V) /ΔT=|G/V−G1/V1|により計算する。
【0117】
これらの車速Vの時間差分項を考慮した計算式を採用した構成によれば、車速変化時でも精度の高いヨーレート変化率ΔY/ΔTを得ることができるので、車速変化を伴ないながら旋回したときでも、適切な時期にダンパ44をロックさせることができる。
(第8の実施形態)
この実施形態では、前記各実施形態で使用したヨーレート変化率ΔY/ΔTに代えて、横加速度変化率ΔG/ΔTを採用している。
【0118】
まず、操舵角センサ52と車速センサ54を使用する第1実施形態等の構成において、横加速度変化率ΔG/ΔTの計算式として次式を使用する。
ΔG/ΔT=V2 ・Δ(1/r) /ΔT … (9)
ここで、Δ(1/r) /ΔTは、操舵角データθから決まる旋回半径の逆数値1/rの所定時間ΔT(例えば数10ミリ秒)当たりの変化量(偏差)である。Δ(1/r) /ΔTは、RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)のデータのうちの所定時間ΔT前のデータ1/r1を読出し、現在のデータ1/rとを用い、Δ(1/r) /ΔT=|1/r−1/r1|により計算する。 CPU60が実行するスウィング制御処理においては、図11に示すステップ30において、上記(9)式を用いて横加速度変化率ΔG/ΔTが演算される。そして、ステップ50において、横加速度変化率ΔG/ΔTがその設定値go 以上である(ΔG/ΔT≧go )か否かが判断される。
【0119】
また、車速Vの時間差分項(時間微分項)を無視した前記(9)式に代え、車速Vの時間差分項を考慮した計算式を採用することもできる。例えば以下の二式のうちいずれかを採用できる。
【0120】
ΔG/ΔT=V2 ・Δ(1/r) /ΔT+ (1/r)・2V・ΔV/ΔT … (10)
ΔG/ΔT=Δ(V2 /r)/ΔT … (11)
ここで、(11)式中のΔ(V2 /r)/ΔTは、横加速度データGs (=V2 /r)の所定時間ΔT(例えば数10ミリ秒)当たりの変化量(偏差)である。Δ(V2 /r)/ΔTは、RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)の横加速度データから所定時間ΔT前の横加速度データGs 1を読出し、現在の横加速度データGs とを用い、Δ(V2 /r)/ΔT=|Gs −Gs 1|により計算する。
【0121】
また、加速度センサ70と車速センサ54を使用する第2および第4実施形態等の構成において、横加速度変化率ΔG/ΔTを採用する場合は、横加速度データGr の所定時間ΔT(例えば数10ミリ秒)当たりの変化量(偏差)からΔG/ΔT値を計算する。ΔG/ΔTは、RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)の横加速度データから所定時間ΔT前の横加速度データGr 1を読出し、現在の横加速度データGr とを用い、ΔG/ΔT=|Gr −Gr 1|により計算する。
【0122】
また、ヨーレートセンサ72と車速センサ54を使用する第2実施形態等の構成において、横加速度変化率ΔG/ΔTの計算式として次式を使用する。
ΔG/ΔT=V・ΔY/ΔT … (12)
さらに車速Vの時間差分項(時間微分項)を無視した前記(12)式に代え、車速Vの時間差分項を考慮した計算式を採用することもできる。例えば以下の二式のうちいずれかを採用できる。
【0123】
ΔG/ΔT=V・ΔY/ΔT+Y・ΔV/ΔT … (13)
ΔG/ΔT=Δ(V・Y)/ΔT … (14)
ここで、(14)式中のΔ(V・Y)/ΔTは、横加速度データGs (=V・Y)の所定時間ΔT(例えば数10ミリ秒)当たりの変化量(偏差)である。Δ(V・Y)/ΔTは、RAM62に保存した過去複数回分(所定時間ΔT分を一回とする)の横加速度データから所定時間ΔT前の横加速度データGs 1を読出し、現在の横加速度データGs とを用い、Δ(V・Y)/ΔT=|Gs −Gs 1|により計算する。
【0124】
以上のようにヨーレート変化率ΔY/ΔTに代え、横加速度変化率ΔG/ΔTをロック制御の判定のパラメータの一つとして使用する構成においても、ΔG/ΔT≧go を満たしたときにダンパ44をロックすることにより、右旋回開始時に素早くリンク機構20をロックし、車体1aの右旋回時の遠心力による左傾角度をなるべく小さく抑えることができる。さらに横加速度変化率ΔG/ΔTを演算するための計算式として、車速Vの時間差分項(時間微分項)を考慮した計算式を使用すれば、旋回時に車速変化を伴なう場合でも、精度の高い横加速度変化率ΔG/ΔTを得て、適切な時期にダンパ44をロックすることができる。その他、それぞれ対応する各実施形態において得られた前記効果が同様に得られる。なお、加速度センサ70の検出値を差分処理(微分処理)する場合には、検出値を予めフィルタ処理してノイズを除去することが望ましい。フィルタ処理としては、例えば過去複数回分の検出データの平均をとる方法がある。横加速度以外の検出データについても同様のフィルタ処理を施せばより精度の高い検出データが得られ、より好ましい。
【0125】
なお、実施形態は、上記のものに限定されず次のように変更できる。
○ 補助輪4がリンク(キャスタリンク)に固定されていてもよい。つまりキャスタスプリング30などの弾性部材を介さずに補助輪4がリンク機構20に取付けられた構成でもよい。この構成によっても、補助輪4が外輪となる左旋回方向のときの設定値を相対的に大きく設定(ロック制御をしない場合も含む)することにより、左旋回時の駆動輪3の接地圧の低下をなるべく小さく抑えることができる。つまり、駆動輪3の接地圧の低下をなるべく抑えつつ、車体1aの傾斜防止対策をすることができ、旋回時の車体1aの走行安定性をより一層確実に確保することができる。
【0126】
○ 前記各実施形態では、駆動輪3と補助輪4が共通のリンク機構20に懸架された構成であったが、駆動輪3と補助輪4を別々のリンク機構によって懸架する独立懸架方式において実施することもできる。この場合、補助輪4がそれ専用のリンク機構に対して弾性部材を介して取付けられていても、リンク機構に直接固定されていてもよい。要するに補助輪4が外輪となる旋回時に、駆動輪3の接地圧の低下を防ぐことができる構成であれば足りる。
【0127】
○ ヨーレート変化率ΔY/ΔTや横加速度変化率ΔG/ΔTをスウィング制御(ロック制御)の判定のパラメータとして必ずしも使用する必要はない。つまり、ロック制御の判定のパラメータとして横加速度だけを使用する構成でもよい。この構成によっても、補助輪4が外輪となる車両の旋回方向のとき、駆動輪3の接地圧の低下をなるべく小さく抑えることができる。
【0128】
○ 前記第4実施形態において、2個の加速度センサ70,72を使用する代わりに、1個の加速度センサと、旋回判定手段として操舵角センサまたはヨーレートセンサを使用し、操舵角θまたはヨーレートYのデータから旋回中であるか否かの判定をするようにしてもよい。
【0129】
○ 前記各実施形態において、キャスタスプリング30が所定長さにほほ縮み切ったことを検出するセンサを設け、センサの検出値によってキャスタスプリング30が所定長さにほほ縮み切ったことが確認されたときに限り、ダンパ44をロックするようにしてもよい。この構成によれば、旋回時に検出された横加速度値にばらつきがあっても常にキャスタスプリング30が所定の長さにほぼ縮み切ったときにダンパ44をロックすることができる。
【0130】
○ 揺動規制機構は、リンク機構20と車体フレーム19との間に介装したダンパ44と、ダンパ44のロック制御をするための電磁切換弁47(または電磁比例弁75)等とにより構成されることに限定されない。例えばリンク機構と車体フレームとの隙間を進退可能に設けられたストッパと、ストッパを進退させるためのアクチュエータとから揺動規制機構を構成し、ストッパを前記隙間に進入させることによりリンク機構をロックさせる方法を採用することもできる。ストッパはリンク機構に二箇所で当接させ、リンク機構のどちらの方向の動きも規制できるようにする。また、ストッパがリンク機構に当たる当接面をその進入方向に傾斜するテーパに形成し、ストッパをゆっくり退避させることによってリンク機構のロックが徐々に解除されるようにしてもよい。
【0131】
○ 前記各実施形態では、補助輪4が外輪となる左旋回時に横加速度が右旋回時の設定値G1より大きな設定値G2以上になればリンク機構20をロックさせるようにしたが、補助輪4が外輪となる左旋回時にはリンク機構20をロックさせないようにしてもよい。この場合、フォークリフト1を旋回させたときに絶対に起こり得ない横加速度値が左旋回時の設定値として設定されているとみなすことができる。
【0132】
○ 駆動輪3と車幅(左右)方向に対をなす従動輪は補助輪4に限定されない。例えば駆動輪と左右で対をなして共に操舵される操舵輪であってもよい。従動輪が操舵輪であっても、従動輪が外輪となる旋回方向のときの設定値をその反対の旋回方向のときの設定値より大きく設定することにより、操舵輪が外輪となる旋回時における駆動輪の接地圧の低下をなるべく小さく抑えることができる。
【0133】
○ 前記各実施形態において、フォーク11の揚高を検出する揚高センサと、フォーク11上の荷の重量を検出する荷重センサを設け、これらのセンサにより荷を積載して高い揚高にある車両の重心位置が相対的に高くなったときを検出し、重心位置が所定値以上高い状態ではリンク機構20をロックさせる構成を採用することができる。また、上記各センサの検出値から決まる重心位置に応じて、横加速度あるいはヨーレート変化率の設定値を重心位置が高くなるほど小さくなるように断続的もしくは連続的に変化させて設定し、車両の重心位置も考慮して車体の左右の安定性をより一層確保できるように構成することもできる。
○ 横加速度と、ヨーレート変化率や横加速度変化率の測定方法は、前記各実施形態の方法に限定されることなく、適宜の方法を採用することができる。例えば傾斜角センサにより検出した車体の横方向の傾斜角から、間接的に横加速度を導き出す方法を採ってもよい。また、ステアリングホイール14の回転角を検出するハンドル角センサを操舵角検出器として使用することができる。
【0134】
○ リンク機構のロックは、リンク機構を車体フレームに完全に固定することに限定されず、車体に対するリンク機構の動く範囲を狭く制限する規制であっても構わない。駆動輪と従動輪との揺動範囲が小さく抑えられれば一様の効果は得られる。
【0135】
○ 左右で対をなす駆動輪と従動輪が車体のロール方向の揺動を許容するように車体に対してリンク機構を介して懸架された構造であれば、リーチ式フォークリフト以外のフォークリフトに適用してもよい。さらにフォークリフト以外の産業車両に広く適用することができる。なお、駆動輪が操舵輪を兼ねていなくても構わない。
次に、前記各実施形態及び別例から把握できる請求項に記載した発明以外の技術的思想について、それらの効果と共に以下に記載する。
【0136】
(1)請求項1〜13のいずれかにおいて、前記制御手段では前記リンク機構のロックのタイミングを決めるために、前記従動輪が外輪となる車両の旋回方向のときの横加速度の設定値が、前記駆動輪が外輪となる車両の旋回方向のときの横加速度の設定値よりも大きく設定されている。この構成によれば、請求項1〜13のいずれかの発明と同様の効果を得ることができる。
【0137】
(2)請求項1〜13のいずれかにおいて、少なくとも前記駆動輪が変位したときに前記リンク機構が動くようになっている。この構成によれば、請求項1〜13のいずれかの発明と同様の効果が得られる。
【0138】
(3)請求項1〜13のいずれかにおいて、前記制御手段は、前記駆動輪が外輪となる車両の旋回方向のときに前記ロック制御を少なくとも行なうとともに、前記従動輪が外輪となる車両の旋回方向のときは、前記リンク機構をロックさせないか、あるいは前記駆動輪が外輪となる旋回方向のときの設定値よりも大きな設定値を設定することにより、車両の旋回方向によって前記リンク機構をロックするロック条件に差をもたせている。この構成によれば、請求項1〜13のいずれかの発明と同様の効果が得られる。
【0139】
(4)請求項1〜13のいずれかにおいて、前記駆動輪と前記従動輪は、車体に対してリンク機構を介して連動して揺動するように懸架され、少なくとも前記駆動輪が前記リンク機構と一体に動くようになっている。この構成によれば、請求項1〜13のいずれかの発明と同様の効果が得られる。
【0140】
(5)請求項1〜13のいずれかにおいて、前記駆動輪は操舵輪である。この構成によれば、請求項1〜13のいずれかの発明の効果に加え、従動輪が外輪となる旋回方向のときの操舵安定性を確保できる。
【0141】
(6)請求項2〜13のいずれかにおいて、前記補助輪が外輪となる車両の旋回方向のときの前記設定値は、前記弾性部材がほぼ縮み切ったタイミングで前記リンク機構がロックされるように設定されている。この構成によれば、駆動輪の接地圧の低下を一層効果的に小さく抑えることができる。
【0142】
(7)請求項1〜5のいずれかにおいて、前記車両には検出対象の異なる二つ以上の検出器が備えられ、前記横加速度測定手段と旋回変化測定手段のうち少なくとも一つは、該各検出器により検出された検出データのうち二つを用いた演算により、各々の測定値を推定する。この構成によれば、請求項1〜5のいずれかの発明の効果に加え、加速度センサやヨーレートセンサ等の比較的高価なセンサをなるべく使用せずに必要な測定値を測定することができる。
【0143】
(8)請求項6において、前記操舵輪は、車幅方向にオフセットされて位置する前記駆動輪であり、前記横加速度推定手段は、前記操舵角と車両の旋回半径の関係が車両の旋回方向によって異なることを考慮した補正をして前記横加速度を演算する。この構成によれば、車幅方向にオフセットされて位置する操舵輪を兼ねた駆動輪の操舵角の検出データを用いて、旋回方向によらず正確な横加速度を測定できる。
【0144】
(9)請求項8において、前記旋回判定手段は、車両が旋回しているときの旋回半径が異なることになる車体上の複数位置に取付けられた複数の加速度センサと、前記複数の加速度センサにより検出された各検出値の差が所定値以上のときに、前記横加速度測定手段としての加速度センサにより検出された横加速度が車両の旋回時のものと判定する。この構成によれば、各加速度センサにより検出された各検出値の差が所定値以上であるときの検出値を旋回時の横加速度とするので、加速度センサを使用する構成においても、旋回時の横加速度のみを選択的に検出することができる。
【0145】
(10)請求項9において、前記横加速度を測定するために設けられた検出器のうち前記車速検出器以外の検出器は、車幅方向にオフセットされて位置する操舵輪を兼ねた前記駆動輪の操舵角を検出する操舵角検出器であり、前記旋回変化率推定手段は、前記操舵角と車両の旋回半径の関係が車両の旋回方向によって異なることを考慮した補正をして前記ヨーレート変化率または横加速度変化率を演算する。この構成によれば、車幅方向にオフセットされて位置する操舵輪を兼ねた駆動輪の操舵角の検出データを用いて、旋回方向によらず正確なヨーレート変化率または横加速度変化率を測定できる。
【0146】
(11)請求項1〜5及び請求項9〜13のいずれかにおいて、前記横加速度測定手段は、加速度センサである。この構成によれば、請求項1〜5及び請求項9〜13のいずれかと同様の効果が得られる。
【0147】
(12)請求項12において、前記規制力調節手段は、車体と前記リンク機構との間に介装されたシリンダ装置が伸縮動するための作動流体の流路を開閉するための電磁比例弁であり、前記制御手段は前記電磁比例弁を電流値制御することにより前記リンク機構のロックを徐々に解除する。この構成によれば、請求項12の発明と同様の効果が得られる。
【0148】
(13)請求項3、9及び13のいずれかにおいて、前記旋回変化測定手段は、複数の検出器の検出データを用いた演算によって前記ヨーレート変化率または横加速度変化率の測定値を推定するものであって、該測定値を演算する際に、前記各検出器のうち車両の振動を拾い難い検出器の検出値を差分する。この構成によれば、請求項3、9及び13のいずれかの発明の効果に加え、ヨーレート変化率または横加速度変化率を精度高く推定できる。
【0149】
(14)請求項1〜13及び前記(1)〜(13)のいずれかにおいて、前記揺動規制機構は、車体と前記リンク機構との間に介装されたシリンダ装置と、前記シリンダ装置が伸縮動するための作動流体の流路を開閉するための開閉弁とを備え、前記制御手段により前記開閉弁が開閉制御されることにより前記ロック制御が行われる。なお、シリンダ装置はダンパ44により構成され、開閉弁は電磁切換弁47,75により構成される。この構成によれば、請求項1〜13及び前記(1)〜(13)のいずれかと同様の効果が得られる。
【0150】
【発明の効果】
以上詳述したように請求項1に記載の発明によれば、従動輪が外輪となる旋回方向のときにリンク機構のロックをしないか、そのロックのタイミングが相対的に遅れるように設定したので、ロック制御を採用しても従動輪が外輪となる旋回方向のときに駆動輪の接地圧の低下をなるべく小さく抑えることができる。
【0151】
請求項2に記載の発明によれば、補助輪が外輪となる車両の旋回方向のときは、弾性部材が所定量縮んでからリンク機構がロックされるように設定し、ロック後に弾性部材が縮む縮み量を相対的に少なくなるようにしたので、補助輪が外輪となる旋回方向のときの駆動輪の接地圧の低下をなるべく小さく抑えることができる。
【0152】
請求項3に記載の発明によれば、少なくとも駆動輪が外輪となる旋回方向のときのロック制御のパラメータの一つとして車両のヨーレート変化率または横加速度変化率を採用したので、その旋回開始時にタイミングの遅れなく素早くリンク機構をロックさせることができる。
【0153】
請求項4に記載の発明によれば、補助輪が外輪となる旋回方向のときは、旋回変化測定手段の測定値がロック制御の判定のパラメータとして考慮されないので、車体が従動輪(補助輪)側に所定の角度に傾いてからリンク機構がロックされ、駆動輪の接地圧の低下を小さく抑えることを妨げない。
【0154】
請求項5に記載の発明によれば、車両が旋回中にあるときの横加速度のみがロック制御の対象とされるので、路面の凹凸による車体の揺れをリンク機構の動きによって確実に吸収できる。
【0155】
請求項6に記載の発明によれば、操舵角検出器と車速検出器との各検出データを用いた演算により横加速度を推定する方法を採用しているので、旋回時の横加速度のみを選択的に検出できるとともに、車両に元々用意されている車速検出器を利用することができる。
【0156】
請求項7に記載の発明によれば、ヨーレート検出器と車速検出器との各検出データを用いた演算により横加速度を推定する方法を採用しているので、旋回時の横加速度のみを選択的に検出できるとともに、車両に元々用意されている車速検出器を利用することができる。
【0157】
請求項8に記載の発明によれば、横加速度測定手段として加速度センサにより検出された横加速度が、旋回時の横加速度か否かを判定する旋回判定手段を設けたので、加速度センサを使用する構成においても、旋回時の横加速度のみを選択的に検出することができる。
【0158】
請求項9に記載の発明によれば、車速を検出する車速検出器と、横加速度を測定するために設けられた検出器のうち車速検出器以外の検出器とにより検出された二つの検出データを用いた演算によりヨーレート変化率または横加速度変化率を推定するので、ヨーレート変化率または横加速度変化率の推定のために、横加速度を測定するための検出器と、車両に元々用意されている車速検出器を共に利用することができる。
【0159】
請求項10に記載の発明によれば、ロック条件が不成立となった時点から所定時間経過後に揺動規制機構の作動が停止されるので、徒に制御が頻繁に切換わることを回避することができる。
【0160】
請求項11に記載の発明によれば、揺動規制機構の作動時の設定値よりも、揺動規制機構の作動停止時の設定値が小さく設定されているので、徒に制御が頻繁に切換わることを回避することができる。
【0161】
請求項12に記載の発明によれば、揺動規制機構の作動を停止するときにリンク機構にロックのために付与される規制力が徐々に緩和されるように規制力調節手段を制御し、リンク機構のロックが徐々に解除されるようにしたので、リンク機構のロックが解除される際の車体のショックを緩和することができる。
【0162】
請求項13に記載の発明によれば、ヨーレート変化率または横加速度変化率を、車速検出器を含む複数の検出器の検出データを用いた演算によって推定する際、車速の時間微分項が含まれた計算式が使用されるので、旋回時に車速変化を伴なう場合でも、精度の高い測定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態における車体揺動制御装置の模式図。
【図2】リーチ式フォークリフトの側面図。
【図3】リーチ式フォークリフトの平面図。
【図4】車体揺動制御装置を示す摸式背面図。
【図5】リアサスペンション構造を示す平面図。
【図6】リアサスペンション構造の一部を示す背面図。
【図7】車体揺動制御装置の電気的構成を示すブロック図。
【図8】操舵角と旋回半径の関係を示すマップ図。
【図9】(a)は横加速度、(b)はヨーレート変化率のそれぞれロック条件を示すグラフ。
【図10】ロック信号の指令を停止するときのタイミグチャート。
【図11】スウィング制御処理のフローチャート。
【図12】同じくフローチャート。
【図13】車両旋回時におけるスウィング制御を説明するグラフ。
【図14】(a)は右旋回時にロックしたリンク機構を示し、(b)は左旋回時にロックしたリンク機構を示すそれぞれ摸式背面図。
【図15】第2実施形態におけるリーチ式フォークリフトを示す平面図。
【図16】同じく車体揺動制御装置の模式図。
【図17】第3実施形態におけるリーチ式フォークリフトを示す平面図。
【図18】同じく車体揺動制御装置の模式図。
【図19】第4実施形態におけるリーチ式フォークリフトを示す平面図。
【図20】同じく車体揺動制御装置の模式図。
【図21】第5実施形態における車体揺動制御装置の部分模式図。
【図22】同じくロック信号の指令を停止するときのタイミグチャート。
【図23】第6実施形態におけるヨーレート変化率のロック・ロック解除の条件を示すグラフ。
【図24】同じく横加速度のロック・ロック解除の条件を示すグラフ。
【符号の説明】
1…産業車両としてのリーチ式フォークリフト、1a…車体、3…駆動輪、4…従動輪としての補助輪、19…車体フレーム、20…リンク機構、30…弾性部材としてのキャスタスプリング、44…揺動規制機構を構成するダンパ、47…揺動規制機構を構成する電磁切換弁、52…横加速度測定手段及び旋回変化測定手段を構成するとともに操舵角検出器としての操舵角センサ、54…横加速度測定手段及び旋回変化測定手段を構成するとともに車速検出器としての車速センサ、55…制御手段としてのコントローラ、60…横加速度測定手段、旋回変化測定手段及び旋回方向判定手段を構成するとともに、横加速度推定手段及び旋回変化率推定手段としてのCPU、70…旋回変化測定手段及び旋回方向判定手段を構成するとともに、横加速度測定手段としての加速度センサ、71…横加速度測定手段及び旋回変化測定手段を構成するとともにヨーレート検出器としてのヨーレートセンサ、72…旋回判定手段を構成する加速度センサ、75…揺動規制機構を構成するとともに規制力調節手段としての電磁比例弁、Gs ,Gr …横加速度、ΔY/ΔT…ヨーレート変化率、ΔG/ΔT…横加速度変化率、G1,G2…設定値、yo …設定値、go …設定値。
Claims (13)
- 左右一対の駆動輪と従動輪が、車体のロール方向の揺動を許容するように、車体に対してリンク機構を介して懸架されている産業車両において、
前記リンク機構をロックするための揺動規制機構と、
車両の横加速度を測定する横加速度測定手段と、
前記横加速度の測定値が設定値以上になると前記揺動規制機構を作動させて前記リンク機構をロックさせるロック制御を行なうとともに、前記従動輪が外輪となる車両の旋回方向のときにロックをしないか、そのロックのタイミングが、前記駆動輪が外輪となる車両の旋回方向のときのロックのタイミングより相対的に遅れるように設定されている制御手段と
を備える産業車両の車体揺動制御装置。 - 前記従動輪は前記リンク機構に弾性部材を介して取付けられた補助輪であって、
前記補助輪が外輪となる車両の旋回方向のときは、前記弾性部材が所定量縮むまで待ったタイミングで前記リンク機構がロックされるように設定されている請求項1に記載の産業車両の車体揺動制御装置。 - 車両のヨーレート変化率または横加速度変化率を測定する旋回変化測定手段を備え、
前記制御手段は、少なくとも前記駆動輪が外輪となる旋回方向のときに前記ヨーレート変化率または前記横加速度変化率がその設定値以上になると、前記揺動規制機構を作動させる請求項1又は請求項2に記載の産業車両の車体揺動制御装置。 - 前記補助輪が外輪となる旋回方向のときは、前記旋回変化測定手段の前記測定値であるヨーレート変化率または横加速度変化率を前記ロック制御の判定のパラメータとして考慮しないように設定されている請求項3に記載の産業車両の車体揺動制御装置。
- 前記横加速度測定手段は、車両が旋回中にあるときの横加速度のみを選択的に測定する請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の産業車両の車体揺動制御装置。
- 前記横加速度測定手段は、操舵輪の操舵角を検出する操舵角検出器と、車両の車速を検出する車速検出器と、前記操舵角と車速の両検出データを用いた演算により前記横加速度を推定する横加速度推定手段とを備える請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の産業車両の車体揺動制御装置。
- 前記横加速度測定手段は、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出器と、車両の車速を検出する車速検出器と、前記ヨーレートと車速の両検出データを用いた演算により横加速度を推定する横加速度推定手段とを備える請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の産業車両の車体揺動制御装置。
- 前記横加速度測定手段は加速度センサであって、前記加速度センサにより検出された横加速度が車両の旋回時のものか否かを判定する旋回判定手段とを備えている請求項5に記載の産業車両の車体揺動制御装置。
- 前記旋回変化測定手段は、車両の車速を検出する車速検出器と、前記横加速度を測定するために設けられた検出器のうち前記車速検出器以外の検出器と、両検出器により検出された車速の検出データを含む二つの検出データを用いて演算により前記ヨーレート変化率または前記横加速度変化率を推定する旋回変化率推定手段とを備える請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の産業車両の車体揺動制御装置。
- 前記制御手段は、前記揺動規制機構を作動させるためのロック条件が不成立となった時点から所定時間経過後に前記揺動規制機構の作動を停止させるように設定されている請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の産業車両の車体揺動制御装置。
- 前記制御手段が前記揺動規制機構を作動するときの設定値より、前記揺動規制機構の作動を停止するときの設定値が小さく設定されている請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の産業車両の車体揺動制御装置。
- 前記揺動規制機構は、前記リンク機構にロックのために付与する規制力を調節可能な規制力調節手段を備え、前記制御手段は、前記規制力調節手段を制御することにより前記ロック制御を行うととも、前記揺動規制機構の作動を停止するときは、前記リンク機構のロックが徐々に解除されるように前記規制力調整手段を制御する請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載の産業車両の車体揺動制御装置。
- 前記旋回変化測定手段は、車速検出器を含む複数の検出器の検出データを用いた演算によって前記ヨーレート変化率または横加速度変化率の測定値を推定するものであって、該測定値を演算するために使用される計算式には、車速の時間微分項が含まれている請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の産業車両の車体揺動制御装置。
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