以下、図1から図33を参照し、本発明の一実施形態に係る建物の解体方法について説明する。
はじめに、本実施形態の解体対象の建物は、例えば、オフィスビルなどの高層の建物であり、建物の柱や梁、壁や床の建物構成部材(床版部材、梁部材、柱部材、壁部材など)がRC造及び/又はSRC造で構築されている。なお、本発明は、高層の建物への適用に限定する必要はなく、中低層の建物に対しても勿論適用可能である。
本実施形態の建物の解体方法では、建物を養生材で適宜覆い、建物の高層階(上階)から順次解体を行ってゆく。また、図1に示すように、例えば、建物1の高層階(上階)から順次ブロック状に解体した部材を吊り下すためのタワークレーン(揚重機)2が建物1のエレベータホールなどを利用して立設されている。さらに、本実施形態では、タワークレーン2で吊り下したブロック状の部材に対してさらなる解体・破砕処理(小割り処理)を施すための解体作業場が建物1の隣地に設けられている。
本実施形態の建物の解体方法では、建物1の床版部材3や梁部材4、壁部材5、柱部材6の建物構成部材の切断・解体手段としてワイヤーソー装置、ブレードカッター装置を使用する。
本実施形態のワイヤーソー装置10は、図2及び図3に示すように、チルト機構付アダプター11から直線状に突設するガイドレール12と、ガイドレール12の先端に取り付けられ、切断対象の部材(柱部材6、梁部材4)を把持する把持機構13と、複数のプーリー14、15に無端状に巻き掛けられたワイヤーソー16を駆動プーリー15の回転駆動によって一方向に回動させるとともに、ガイドレール12に案内されてワイヤーソー16の一部を前後方向に進退させる切削機構17とを備えて構成されている。
そして、本実施形態では、図4に示すように、ワイヤーソー装置10を油圧ショベルのアーム18cの先端に着脱可能に取り付けられたアタッチメントのバケットと付け替えて、ワイヤーソー装置10を備える解体作業機18が構成されている。また、この解体作業機18は、運転席から作業者が1人でワイヤーソー装置10の駆動操作、解体作業機18の上部旋回体18aの旋回操作、上部旋回体18aに設けられたビーム18b、アーム18cの仰伏操作、下部走行体18dの駆動操作(走行操作)が行えるようになっている。
これにより、作業者が適宜操作を行って、解体作業機18を自在に走行、旋回、アーム・ビームの仰伏操作することで、RC造及び/又はSRC造の梁部材4や柱部材6などの建物構成部材の任意の位置をワイヤーソー16で効率的に切断できる。
そして、本実施形態の建物の解体方法では、建物1の建物構成部材を切断、解体する際に、極力、ワイヤーソー装置10を多用するものとする。さらに、ワイヤーソー装置10を使用して部材を切断する際に、ワイヤーソー16を部材に巻き掛け、回動するワイヤーソー16を手前に引き付け、奥側から部材に切り込ませる引き切り方式ではなく、回動するワイヤーソー16を部材に手前から押し付けて切り込ませ、順次奥側に切削してゆく押し切り方式を極力多用するようにする。
このようにして本実施形態の建物の解体方法では、建物1の内部の梁部材(大梁)4と、柱部材6の切断分離には、ワイヤーソー装置10を押し切り方式で使用し、建物1の外周部の梁部材(壁付大梁)4及び壁部材(全面壁)5、階段などの切断分離には、引き切り方式のワイヤーソー装置を使用する。また、床版部材3の切断分離には、回転するブレードを切り込ませて切断するブレードカッター装置(道路カッター、ウォールカッター、プランジカッター等)を使用し、袖壁や下り壁など、押し切り方式のワイヤーソー装置10の適用寸法外の部材は、ブレードカッター装置を使用する。
すなわち、本実施形態の建物の解体方法では、高層の建物1の解体工事において、最もその解体に時間と労力を要し、また、注意を要する建物の1の梁部材4と柱部材6の切断分離に押し切り方式のワイヤーソー装置10を適用するようにしている。
このように建物の1の梁部材4と柱部材6の切断分離に押し切り方式のワイヤーソー装置10を適用するため、本実施形態の建物の解体方法では、図1、図5から図9に示すように、上層階(一階層)20の建物構成部材である一部の床版部材3を先行して解体し、これら床版部材3の解体によって下層階(一階層20の直下の他階層)21の建物構成部材である一部の柱部材6と梁部材4を露出させる。
そして、下層階21にワイヤーソー装置10を装着した解体作業機18を配置し、床版部材3を先行して解体撤去することによって露出した梁部材4と柱部材6をそれぞれ押し切り方式で切断して分離する。また、梁部材4と柱部材6をそれぞれ押し切り方式で切断分離してタワークレーン(揚重機)2で外部に搬送撤去する。
さらに、壁部材(壁付大梁及び全面壁)5、階段などを引き切り方式のワイヤーソー装置で切断分離し、順次タワークレーン2で外部に搬送撤去する。また、袖壁や下り壁などの押し切り方式のワイヤーソー装置10の適用寸法外の部材をブレードカッター装置で切断分離して搬送撤去する。
このように、露出した梁部材4を解体した後に柱部材6を解体し、床版部材3、梁部材4、柱部材6などを順次解体し外部に搬送撤去しながら、建物1の各階層を上層階から順に解体してゆく。
ここで、より具体的に建物構成部材ごとの解体方法について説明する。
[床版部材の解体]
はじめに、床版部材3を解体する方法について説明する。
従来、S造の床版部材を解体する際には、床版部材をタワークレーン2などで吊り下げ支持しておき、小梁鉄骨を最後にガスバーナで切断分離し、搬送撤去する。そして、このS造の床版部材の小梁鉄骨は、ガスバーナを用いることにより短時間で切断できるため、クレーン2で床版部材を吊り下げ支持して待っている待機時間も少なくて済み、作業効率上の問題は少ない。
一方、本実施形態のようなRC造、SRC造の床版部材3の場合、小梁を切断する時間がかかるため、クレーン2で吊り下げ支持した状態で切断作業を行うとクレーン2の待機時間が非常に長くなってしまう。また、小梁がない場合の保持方法も問題になる。このため、下層階の床版部材3上に仮設のサポート架台(支保工)を設置して上層階の切断対象の床版部材3を支持しておくことが必要になり、これにより、仮設の盛替や設置など、多大な労力と時間、コストを要する。さらに、床版部材3を吊り上げるための玉掛け方法として、従来、床版部材3にコア抜きの孔を設け、ボルトとワイヤーを通す方法が多用されているが、コア抜き等によってこの玉掛け作業にも多大な手間を要する。
これに対し、本実施形態の建物の解体方法では、図10及び図11に示すように、床版部材3を切断作業時に保持するとともに、クレーン2による吊り上げ(吊り下し)時にワイヤーロープ等の索体22を接続するための床版保持/吊下用部材23を切断(解体)対象の床版部材3に取り付けるようにする。
本実施形態の床版保持/吊下用部材23は、例えば、断面コ字状の溝形鋼24と、溝形鋼24の一対の側壁部24aと底板部24bに端部を接続して設けられ、玉掛け用の吊り孔25aが貫通形成された吊り板25とを備えて構成されている。また、溝形鋼24の底板部24bにはボルト挿通孔24cが貫通形成されている。なお、この床版保持/吊下用部材23は、所望の強度を備え、吊り孔25aとボルト挿通孔24cを(それぞれ所定の位置に)備えていれば特にその形状を限定する必要はない。
このように形成された床版保持/吊下用部材23は、切断対象の床版部材3にケミカルアンカーやホールインアンカーなどで取付ボルト(アンカーボルト)26を取り付け、この取付ボルト26をボルト挿通孔24cに挿通しナットを締結することによって、床版部材3上に固設される。また、このとき、取付ボルト26を取り付けるための孔を床版部材3に穿設する際に、床版部材3を貫通して取付孔を形成してもよく、この場合には、取付孔に取付ボルト26を挿通するとともに床版部材3の下面側に設けた定着板とナットを用いて取付ボルト26の下端側を固定することにより、床版部材3に床版保持/吊下用部材23を着脱可能に取り付けることができる。
そして、床版部材3に対し、ウォールソーや道路カッター、プランジカッター等の回転するブレードを切り込ませて部材を切断するブレードカッター装置で切断を開始し、切断された箇所から順次床版保持/吊下用部材23を取り付けてゆく。このとき、図11に示すように、床版保持/吊下用部材23は、切断線27を跨ぐように設置される。これにより、床版部材3が切断によって分離された状態では、適宜所定の箇所に配設された複数の床版保持/吊下用部材23が切断線27を挟んで反対側の非分離側の部材に引っかかるように係止される。このため、床版部材3は、複数の床版保持/吊下用部材23によって支持され、分離した状態で保持される。
よって、従来のように仮設のサポート架台を下層階の床版部材3上に設けて支持することを不要にし、安価な床版保持/吊下用部材23を容易に床版部材3に取り付けて、切断分離した床版部材3を確実に保持することが可能になる。
また、切断分離した床版部材3に複数取り付けられた床版保持/吊下用部材23の吊り孔25aに玉掛けすることで、ワイヤーロープ等の索体22を容易に取り付けることができ、クレーン2によって床版部材3を吊り上げて容易に搬送撤去することができる。
さらに、クレーン2で床版部材3を解体作業場に吊り下した段階で、ナットを外すという簡易な操作で床版部材3から床版保持/吊下用部材23を取り外すことができる。よって、この床版保持/吊下用部材23を転用しながら床版部材3の切断分離、搬送撤去を行うことが可能になる。
一方、複数の床版保持/吊下用部材23を予め床版部材3の所定位置に取り付けておくようにしてもよい。この場合には、例えば、図10、図11に示すように、床版保持/吊下用部材23を取付ボルト26の軸線O1周りに回動可能に構成しておき、切断作業開始時には、全ての床版保持/吊下用部材23を回動してその向きを調整し、切断対象の床版部材3上に配されるようにしておく。そして、ブレードカッター装置で切断を開始し、切断が完了した箇所から順次床版保持/吊下用部材23を回動させて、切断線27を跨ぐようにその向きを変える。
これにより、上記と同様に、床版部材3が切断によって分離された状態では、適宜所定の箇所に配設された複数の床版保持/吊下用部材23が切断線27を挟んで反対側の非分離側の部材に引っかかるように係止され、これら床版保持/吊下用部材23によって、切断分離した床版部材3が保持される。よって、このように構成した場合においても、上記と同様、従来のように仮設のサポート架台を下層階の床版部材3上に設けて支持することを不要にして、床版部材3を切断分離することができる。また、切断分離した床版部材3に複数取り付けられた床版保持/吊下用部材23の吊り孔25aに玉掛けすることで、ワイヤーロープ等の索体22を容易に取り付けることができ、クレーン2によって床版部材3を吊り上げて容易に搬送撤去することができる。
なお、床版保持/吊下用部材23を切断線27を跨ぐように配置した状態で、ボルトなどを用いて床版保持/吊下用部材23と非分離側の部材とを着脱可能に固定するようにしてもよい。この場合には、切断分離した床版部材3をクレーン2で搬送撤去する際に、床版保持/吊下用部材23と非分離側の部材の接合状態を解除するようにし、それまでの間、床版保持/吊下用部材23と非分離側の部材とが固定されていることで、より安定した状態で切断分離した床版部材3を保持することができる。
[梁部材の解体]
次に、梁部材(大梁)4を解体する方法について説明する。
ここで、従来、S造の梁部材(大梁)を解体する際には、ガスバーナを用いて一部を残す形で梁部材に切り込みを入れ、このように一部を残した段階でクレーン2によって吊り下げ支持し、最後に残りの部分をガスバーナで完全に切断して梁部材を分離し、クレーン2で搬送撤去するようにしている。これにより、クレーン2で常時吊り下げ支持する必要がなく、また、ガスバーナにより鉄骨を短時間で切断することができるため、クレーン2の待機時間を短くすることができ、効率的にS造の梁部材の解体作業を行うことができる。
一方、RC造、SRC造の梁部材4を解体する際には、その切断がS造の場合ほど容易に行えないため、すなわち、切削時間が多くかかるため、S造の解体のように残りの部分を残した段階で、クレーン2で吊り下げ支持して、最後に残りの部分を切削するようにしても、クレーン2の待ち時間が長くなってしまう。また、RC造、SRC造の梁部材4はS造の梁部材と比較し、大重量であるため、切断作業時に確実に保持することが必要であり、さらに、切断途中に地震が発生することも考慮する必要がある。
これに対し、本実施形態の建物の解体方法においては、先行して床版部材3を切断し搬送撤去していることで、梁部材4が露出している。このため、切断対象の梁部材4を上方から支持して保持することが可能になる。これにより、本実施形態では、図12及び図13、図14に示すように、部材保持装置30を用い、切断作業時に切断対象の梁部材4を上方から保持する。
本実施形態の部材保持装置30は、図12及び図13に示すように、H形鋼などを用いて形成され、横方向(水平の一方向)T1に延設される保持ビーム部31と、保持ビーム部31に接続して一体に設けられ、下方に開口し、柱部材6や梁部材4などの建物構成部材の上端部にそれぞれ係合して、保持ビーム部31を横方向T1に配設した状態で保持するための複数の係合保持部32とを備えて形成されている。
また、係合保持部32は、例えば、コ字状に形成され、下方開口部を形成する一対の側壁部32aの間の間隔を、柱部材6や梁部材4などの係合する建物構成部材の厚さ寸法よりも僅かに大きな寸法にして形成されている。
ここで、図12に示すように、部材保持装置30は、保持ビーム部31に接続した状態で保持ビーム部31の延設方向(横方向T1)に進退自在に係合保持部32を設けて構成してもよい。この場合には、係合保持部32の位置を自在に調整することができ、任意の位置で係合保持部32を建物構成部材に係合させることができる。
また、図13に示すように、部材保持装置30は、例えば一方の側壁部32aを他方の側壁部32bに対して相対移動可能に係合保持部32を構成してもよい。この場合には、建物構成部材に係合させる係合保持部32の幅t1を自在に調整することができ、柱部材6や梁部材4など、厚さが異なる建物構成部材に対しても幅t1を調整して確実に係合保持部32を係合させることができる。すなわち、保持ビーム部31を横方向T1に配した状態で安定して保持することができる。
さらに、柱部材用の係合保持部32、梁部材用の係合保持部32、壁部材用の係合保持部32など、一対の側壁部32a、32bの間の間隔が異なる複数の係合保持部32を予め用意しておき、適宜保持ビーム部31に付け替えて柱部材6や梁部材4などに確実に係合させることができるように構成してもよい。
また、図14に示すように、本実施形態の部材保持装置30には、端部を着脱可能に保持ビーム部31に接続し、梁部材4に巻き掛けて梁部材4を保持ビーム部31に対して一体に保持させるためのチェーンなどの巻き掛け保持部材33が設けられている。さらに、この巻き掛け保持部材33は、所定位置に配置して複数設けられるとともに、巻き掛け保持部材33の長さが調整可能とされている。この巻き掛け保持部材33は、例えばチェーンブロックなどを適用して構成することができる。
さらに、図12に示すように、本実施形態の部材保持装置30は、クレーン2で吊り下げ支持するための吊り孔を備えた2つ以上の吊り部34が保持ビーム部31に設けられ、これら吊り部34に端部を接続して、クレーン2のフックを玉掛けするためのワイヤーロープ等の索体22が接続されている。この場合には、吊り部34や索体22にクレーン2のフックを接続することで部材保持装置30、また、部材保持装置30とともに切断した梁部材4を吊り上げて、搬送することができる。
さらに、このとき、本実施形態では、図12に示すように、地上で索体22にクレーン2のフックを玉掛けできるように、索体22の長さが調整されている。これにより、高所作業を行うことなく、容易にワイヤーロープ等の索体22にクレーン2のフックを取り付け、部材保持装置30とともに梁部材4を搬送撤去することができる。
また、本実施形態の部材保持装置30は、図14に示すように、保持ビーム部31の長さがスパン長に対応している場合、床版部材3が先行して解体撤去され、柱部材6の上端、梁部材4の上面が露出しているため、保持ビーム部31の両端側の係合保持部32を一対の柱部材6のそれぞれの上端に係合させて設置される。また、チェーンなどの巻き掛け保持部材33を梁部材4に巻き掛けて保持する。
このように切断対象の梁部材4を部材保持装置30で保持した段階で、梁部材4の側面側から、あるいは梁部材4の下面側から、図2から図4に示したワイヤーソー16を押し付けるように作業者が1人で解体作業機18を操作し、押し切り方式でワイヤーソー16を梁部材4に切り込ませ、梁部材4を切断する。
そして、本実施形態の建物の解体方法においては、図14に示すように、梁部材4の両端側をそれぞれ押し切り方式で切断した段階で、分離した梁部材4を部材保持装置30で保持することができる。これにより、押し切り方式のワイヤーソー装置10を用いることで、引き切り方式のように切断対象の部材にワイヤーソー16を巻き掛けたり、ワイヤーソー装置10の本体部をアンカーで部材に固定するなどの段取り作業が不要になり、効率的に梁部材4の切断作業を行うことが可能になる。
また、このように押し切り方式のワイヤーソー装置10で、建物1の主要構成部材であるRC造及び/又はSRC造の梁部材4を切断分離できることにより、騒音や振動、粉塵の飛散量を大幅に低減させることが可能になる。これにより、従来のように作業の中断や、作業時間の短縮を求められることのない近隣や作業現場内の好適な環境を保持することが可能になり、解体工事を効率よく円滑に進めることが可能になる。
さらに、押し切り方式のワイヤーソー装置10を用いることで、1人の作業者で梁部材4の切断作業を行うことが可能になり、さらなる作業効率の向上、コストの低減を図ることが可能になる。
また、引き切り方式のワイヤーソー装置のように、切断作業時にオープンな環境で長いワイヤーソー16が回動している状態にならないため、ワイヤーソー16の安定性を確保したり、切断作業周辺への他者の出入りを規制する措置、すなわち、作業の安全性を確保するための対策を軽減することも可能になる。
そして、ワイヤーロープ等の索体22の長さが調整されているため、高所作業を行うことなく、ワイヤーソー装置10を用いて押し切り方式で切断分離した段階で、容易に、索体22にクレーン2のフックを取り付けることができ、部材保持装置30とともに梁部材4を搬送撤去することができる。
次に、図15、図16及び図17に示すように、保持ビーム部31の長さがスパン長に対して短い場合には、一対の係合保持部32をそれぞれ、柱部材6と梁部材4、あるいは梁部材4と梁部材4に係合させて部材保持装置30を設置し、この部材保持装置30を設置した一部の梁部材4を、上記と同様にワイヤーソー装置10を用いた押し切り方式で切断撤去する。また、引き続き、係合保持部32を梁部材4と柱部材6に係合させて、他の部分の梁部材4に部材保持装置30を設置し、この他の部分の梁部材4を同様に切断撤去する。すなわち、部材保持装置30を適宜箇所に設置し、梁部材4を複数回に分けて切断撤去すれば、部材保持装置30を用い、押し切り方式のワイヤーソー装置10で梁部材4を切断撤去することができる。
また、このとき、本実施形態の部材保持装置30は、係合保持部32が保持ビーム部31の延設方向T1に進退自在に設けられているため、図17に示すように、切断対象の梁部材4の長さに応じてその位置を容易に調整して係合させることができる。これにより、確実且つ安定的に、切断した梁部材4を部材保持装置30で保持し、クレーン2で搬送撤去することができる。
また、係合保持部32が一方の側壁部32aを他方の側壁部32bに対して相対移動可能に構成されている場合には、建物構成部材に係合させる幅t1を自在に調整することができ、係合させる対象が柱部材6や梁部材4、壁部材5など、厚さが異なる建物構成部材に対しても幅t1を調整して確実に係合保持部32を係合させることができる。
これにより、保持ビーム部31を水平の横方向T1に延設した状態で安定的に保持することができる。さらに、柱部材用の係合保持部32、梁部材用の係合保持部32、壁部材用の係合保持部32などを予め用意しておき、適宜保持ビーム部31に付け替えて柱部材6や梁部材4、壁部材5などに係合させるようにしてもよく、この場合においても、係合保持部32を選択的に取り付けて、柱部材6や梁部材4、壁部材5に係合させることができ、やはり、保持ビーム部31を水平の横方向T1に延設した状態で安定的に保持することができる。
また、図15(図13)に示すように、本実施形態の部材保持装置30は、梁部材4(や壁部材5)に係合させる係合保持部32に、梁部材4に係合させた状態で、下方に延びて例えば床版部材3まで達する支持柱部35を備えて構成してもよい。この場合には、切断対象の梁部材4を切断して分離した際に、確実に安定した状態で保持することができる。
また、このとき、支持柱部35を着脱可能に係合保持部32に一体化して構成してもよい。この場合には、切断作業時に、切断対象の梁部材4の荷重が部材保持装置30に負荷される段階で支持柱部35を取り付けるようにすることができる。これにより、支持柱部35を取り付けるまでの間、支持柱部35が作業の邪魔になることを防止できる。さらに、切断分離した梁部材4を部材保持装置30とともにクレーン2で搬送撤去する際に、支持柱部35を取り外し、搬送作業の邪魔になることを防止することもできる。
さらに、この支持柱部35は、伸縮自在且つ固定自在に形成されていてもよい。この場合には、支持柱部35を伸縮させてその長さを自在に調整することができるため、確実に、例えば床版部材3に下端を当接させることができ、切断作業時に切断対象の梁部材4の荷重を支持することができる。
また、支持柱部35は、複数に分割、連結可能に形成されていてもよい。この場合においても、支持柱部35の長さを自在に調整することができるため、やはり、確実に、例えば床版部材3に下端を当接させることができ、切断作業時に切断対象の梁部材4の荷重を支持することができる。
そして、上記のように、切断対象の梁部材4を保持する手段として部材保持装置30を用いた場合には、地震時に梁部材4が転倒落下する危険性を排除することができる。また、移設が比較的容易であり、アンカーを設置する必要もなく、鉄骨生材を使用するなどして安価に形成、構成することができる。これにより、作業効率の向上、経済性の向上を図ることが可能になる。さらに、切断対象の梁部材4の上方に配設されるため、他の機材の通行の障害になることもない。
ここで、本実施形態の建物の解体方法においては、梁部材4を解体する際に、必ずしも部材保持装置30を用いなくてもよい。例えば、図18から図20に示すように、切断対象の梁部材4を、この梁部材4と床版部材3の間に支持部材36を介設して支持する。そして、支持部材36で支持しつつ、押し切り方式のワイヤーソー装置10で梁部材4を切断した段階で、クレーン2で吊り下げ支持し、搬送撤去するようにしてもよい。
また、支持部材36としては、例えば、図18、図19に示すように、柱状、棒状の部材36a、さらに、水平力を支えるステー36bを備えた部材を適用することができる。また、図20に示すように、例えば、フライングショアのようなものを支持部材36として用いてもよく、さらに、パネル、根太、大引、パイプサポートなどをまとめ、床パネルと枠組足場を一体化し、そのまま水平、並びに垂直移動可能にシステム化して構成したフライングショアのようなものを支持部材36として用いてもよい。
また、このように梁部材4と床版部材3の間に支持部材36を介設して支持する場合には、切断作業時に地震が発生すると、地震力によって建物構成部材の損傷、倒壊を招くおそれがあるため、切断開始から搬送撤去までの間、切断線27を跨ぐように、一端側を切断対象の梁部材4側に、他端側の非分離側に着脱可能に固着して保持部材37を設置することが好ましい。これにより、保持部材37によって切断後の梁部材4も連結状態にすることができ、地震力を伝達し、架構全体で負担することができる。また、クレーン2で搬送する段階で保持部材37を取り除くことで、容易に且つ好適に梁部材4を搬送撤去することができる。
[梁部材(壁付大梁)の解体]
次に、建物1の外周部に設けられた梁部材4及び壁部材5を壁付大梁として解体する場合について説明する。
騒音や粉塵の飛散を抑止するため、主にワイヤーソー装置を使用して梁部材4及び壁部材5を切断分離する場合には、やはり、クレーン2で吊り下げ保持した状態で切断作業を行うと、クレーン2の停止時間が長くなり、非効率となってしまう。また、地震発生時の対策も考慮する必要があり、切断途中であっても、梁部材4及び壁部材5を保持することが必要になる。そして、例えば、鋼板などの固定プレートを、アンカーボルトなどを用いて切断対象の梁部材4及び壁部材5に取り付けて完全に固定した状態で切断作業を行うことも考えられるが、アンカーボルトや固定プレートの設置や製作に手間がかかり、作業効率、経済性が悪化する。
これに対し、本実施形態の建物の解体方法では、ワイヤーソー装置と部材保持装置30を用い、壁付大梁として梁部材4及び壁部材5を解体する。
まず、図21は、連窓やポツ窓等の開口部38を備えた壁部材5とともに梁部材4を解体する方法を示す図である。
この図に示す通り、一対の柱部材6にそれぞれ係合保持部32を係合させ、保持ビーム部31を柱部材6間に架け渡して部材保持装置30を設置する。次に、連窓等の開口部38を通じ、梁部材4と壁部材5の下がり壁5aと梁部材4の上部に繋がる上階層の腰壁5bとにチェーンなどの巻き掛け保持部材33を巻き掛ける。これにより、梁部材4と壁部材5の下がり壁5aと腰壁5bが保持ビーム部31に巻き掛け保持部材33によって繋がる。
次に、連窓等の開口部38から、開口部38を通じて梁部材4と壁部材5の下がり壁5aと腰壁5bに巻き掛けるようにワイヤーソーを配設し、開口部38の周端部から上方に向けて引き切り方式でワイヤーソーを切り込ませ、壁部材5の下がり壁5a、梁部材4、壁部材5の腰壁5bを連続的に切断する。また、梁部材4の両端部側が切断されるようにして、引き切り方式で下がり壁5a、梁部材4、腰壁5bを切断し分離する。このように切断分離した梁部材4及び壁部材5(壁付大梁)を部材保持装置30とともにクレーン2で吊り上げ、搬送撤去する。
そして、上記のように、部材保持装置30を設置し、順次各階層の壁部材5に形成された開口部38を通じてワイヤーソーを配設して梁部材4と壁部材5の下がり壁5aと腰壁5bを一体にした状態で切断分離し、切断分離した梁部材4及び壁部材5を部材保持装置30とともにクレーン2で搬送撤去してゆくことにより、各階層の梁部材4及び壁部材5を解体することができる。
次に、図22は、開口部38を備えていない壁部材5(全面壁)とともに梁部材4を解体する方法を示す図である。
この図に示す通り、上記と同様、一対の柱部材6にそれぞれ係合保持部32を係合させ、保持ビーム部31を柱部材6間に架け渡して部材保持装置30を設置する。また、梁部材4の下方、且つ両側端側の壁部材5の所定位置にそれぞれ、コアドリルやコンクリートドリルなどで第1挿通孔39を貫通形成し、これら一対の第1挿通孔39にチェーンなどの巻き掛け保持部材33を挿通し、梁部材4及び壁部材5と部材保持装置30を繋げる。
また、これとともに、第1挿通孔39よりも下方で、梁部材4の両端側の各切断位置の直下且つ両側端側で、壁部材5の中間高さの所定位置にそれぞれ、コアドリルやコンクリートドリルなどにより一対の第2挿通孔40を形成する。さらに、これら一対の第2挿通孔40の下方の壁部材5の下端側で、且つ両側端側に、一対の第1貫通孔41を形成しておく。
そして、ウォールソーや道路カッター、プランジカッター等の回転するブレードを切り込ませて部材を切断するブレードカッター装置を用い、壁部材5の中間高さ位置に第1切り込み42を入れる(壁部材5の中間高さ位置を切断する)。
次に、第1貫通孔41から、この第1貫通孔41を通じて壁部材5及び梁部材4に巻き掛けるようにワイヤーソーを配設し、壁部材5の下端側の第1貫通孔41から上方に向けて引き切り方式でワイヤーソーを切り込ませ、壁部材5、梁部材4を連続的に切断する。また、梁部材4の両端部側が切断されるようにして、引き切り方式で壁部材5、梁部材4を切断する。このようにワイヤーソーによって切断すると、第1切り込み42が壁部材5に形成されているため、梁部材4と壁部材5の上側を切断分離することができる。これにより、壁付大梁として梁部材4及び壁部材5の上側を部材保持装置30とともにクレーン2で吊り上げ、搬送撤去することができる。
次に、再度、一対の柱部材6にそれぞれ係合保持部32を係合させ、保持ビーム部31を柱部材6間に架け渡して部材保持装置30を設置する。また、下方に残った壁部材5の両側端側の所定位置にそれぞれ貫通形成された一対の第2挿通孔40にそれぞれ、チェーンなどの巻き掛け保持部材33を挿通して、下方に残った壁部材5と部材保持装置30を繋げる。
そして、ブレードカッター装置を用い、壁部材5の下端側に、一対の第1貫通孔41を結ぶように横方向に直線状に第2切り込み43を入れる(壁部材5の下端側位置を切断する)。これにより、下端側に残った壁部材5が切断分離され、この壁部材5の下端側を部材保持装置30とともにクレーン2で吊り上げ、搬送撤去することができる。
上記のように、部材保持装置30を設置し、順次各階層の梁部材4及び壁部材5を部材保持装置30で保持するとともに切断分離してクレーン2で搬送撤去することにより、各階層の梁部材4及び壁部材5を解体することができる。
なお、本実施形態では、壁部材5の中間高さ位置に第1切り込み42を入れ、壁部材5を上下に二分割して解体するように説明を行ったが、第1切り込み42を上下方向に間隔をあけて複数形成し(壁部材5を複数の高さ位置で切断し)、本実施形態と同様の手順を用い、壁部材5を三分割以上に分割解体して搬送撤去するようにしてもよい。
また、部材保持装置30を用いることで、上記の梁部材4の解体時と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、保持ビーム部31の延設方向(横方向T1)に進退自在に係合保持部32を設けることで、係合保持部32の位置を自在に調整することができ、任意の位置で係合保持部32を建物構成部材に係合させることができる。
また、例えば一方の側壁部32aを他方の側壁部32bに対して相対移動可能に係合保持部32を構成することにより、建物構成部材に係合させる係合保持部32の幅t1を自在に調整することができ、柱部材6や梁部材4など、厚さが異なる建物構成部材に対しても幅t1を調整して確実に係合保持部32を係合させることができる。すなわち、保持ビーム部31を横方向T1に配した状態で安定して保持することができる。
さらに、地上で索体22にクレーン2のフックを玉掛けできるように、索体22の長さが調整されていることにより、高所作業を行うことなく、容易にワイヤーロープ等の索体22にクレーン2のフックを取り付け、部材保持装置30とともに梁部材4及び壁部材5を搬送撤去することができる。
そして、上記のように、切断対象の梁部材4及び壁部材5を保持する手段として部材保持装置30を用いた場合には、地震時に梁部材4及び壁部材5が転倒落下する危険性を排除することができる。また、従来の破砕して建物の外壁を解体する場合と比較し、ガラが外部に落下するおそれがなく、信頼性の高い解体工事を実現することが可能になる。さらに、移設が比較的容易であり、アンカーを設置する必要もなく、鉄骨生材を使用するなどして安価に形成、構成することができる。これにより、作業効率の向上、経済性の向上を図ることが可能になる。さらに、切断対象の梁部材4及び壁部材5の上方に配設されるため、他の機材の通行の障害になることもない。
[柱部材の解体]
次に、上記のように梁部材4、壁部材5を解体した後に残る柱部材6を解体する方法について説明する。
ここで、S造の柱部材を解体する際には、ガスバーナを用いて一部を残す形で柱部材に切り込みを入れ、この段階でクレーン2によって吊り下げ支持し、残りの部分をガスバーナで完全に切断分離することができるが、RC造、SRC造の柱部材6を解体する際には、切断に時間がかかるため、一部を残すように切削するための時間も多くかかる。また、地震などが発生することを考慮すると、特に柱部材6は重量が大きいため、切断途中であっても保持する必要がある。
これに対し、本実施形態の建物の解体方法では、ワイヤーソー装置10と部材保持装置30を用いて柱部材6を解体する。
まず、図23に示すように、本実施形態の部材保持装置30は、梁部材4(や壁部材5)に係合させる係合保持部32に上端部を着脱可能に接続し、あるいは、例えば係合保持部32を取り外すなどした後、保持ビーム部31に直接的に上端部を着脱可能に接続し、下方に延びて例えば床版部材3まで達する支持柱部35を保持ビーム部31の両端側にそれぞれ備えて構成されている。
また、これら一対の支持柱部35は、上下方向T2に延びる支持柱本体部35aの下端に部材保持装置30を自立させるための脚部35bを備えている。また、本実施形態では、この脚部35bが支持柱本体部35aに直交する方向に延設して構成され、さらに、脚部35bの延設方向先端側に一端を接続し、他端を支持柱本体部35aに接続して、補強部材35cが斜設されている。これにより、本実施形態の部材保持装置30は、保持ビーム部31と一対の支持柱部35によって門型に形成され、各支持柱部35に設けられた脚部35bによって安定して自立できるように形成されている。
このように構成した部材保持装置30を、一対の支持柱部35の間に柱部材6が配され、且つ柱部材6の上方に保持ビーム部31が配されるようにして設置するとともに、柱部材6の側面に切り残された梁部材4の残部にチェーンなどの巻き掛け保持部材33を巻き掛ける。これにより、安定して立設された部材保持装置30に柱部材6が繋がって、柱部材6を安定した状態で保持することができる。
そして、このように部材保持装置30で柱部材6を保持した段階で、柱部材6の下端側の側面側にワイヤーソー16を押し付けるように作業者が1人で解体作業機18を操作し、押し切り方式でワイヤーソー16を柱部材6に切り込ませ、柱部材6を切断する。これにより、分離した柱部材6が部材保持装置30で保持される。そして、高所作業を行うことなく、部材保持装置30に取り付けられたワイヤーロープ等の索体22にクレーン2のフックを取り付け、部材保持装置30とともに柱部材6をクレーン2で吊り上げ、搬送撤去することができる。
よって、この柱部材6の切断時においても、梁部材4の切断時などと同様、柱部材6の下端側を押し切り方式のワイヤーソー装置10で切断した段階で、分離した柱部材6を部材保持装置30で保持することができる。これにより、押し切り方式のワイヤーソー装置10を用いることで、引き切り方式のように切断対象の部材にワイヤーソー16を巻き掛けたり、ワイヤーソー装置10の本体部をアンカーで部材に固定するなどの段取り作業が不要になり、効率的に柱部材6の切断作業を行うことが可能になる。
また、このように押し切り方式のワイヤーソー装置10で、建物1の主要構成部材であるRC造及び/又はSRC造の柱部材6を切断分離できることにより、騒音や振動、粉塵の飛散量を大幅に低減させることが可能になる。これにより、従来のように作業の中断や、作業時間の短縮を求められることのない近隣や作業現場内の好適な環境を保持することが可能になり、解体工事を効率よく円滑に進めることが可能になる。
さらに、押し切り方式のワイヤーソー装置10を用いることで、1人の作業者で柱部材6の切断作業を行うことが可能になり、さらなる作業効率の向上、コストの低減を図ることが可能になる。
また、引き切り方式のワイヤーソー装置のように、切断作業時にオープンな環境で長いワイヤーソー16が回動している状態にならないため、ワイヤーソー16の安定性を確保したり、切断作業周辺への他者の出入りを規制する措置、すなわち、作業の安全性を確保するための対策を軽減することも可能になる。
また、ワイヤーロープ等の索体22の長さが調整されているため、高所作業を行うことなく、ワイヤーソー装置10を用いて押し切り方式で切断分離した段階で、容易に、索体22にクレーン2のフックを取り付けることができ、柱部材6を部材保持装置30とともに搬送撤去することができる。
そして、上記のように、切断対象の柱部材6を保持する手段として部材保持装置30を用いた場合には、地震時に柱部材6が転倒落下する危険性を排除することができる。また、柱部材6の側面にケミカルアンカーを用いる固定方法などと比較し、アンカー加工の手間や配筋によるアンカーとの干渉などの問題がなく、容易に且つ確実に柱部材6を保持することができるとともに、玉掛けするなどの簡易な操作で柱部材6を搬送撤去することが可能になる。これにより、作業効率の向上、経済性の向上を図ることが可能になる。
なお、このような一対の支持柱部35を保持ビーム部31に取り付けた部材保持装置30で保持しながら柱部材6を押し切り方式のワイヤーソー装置10で切断解体する方法は、建物1の内部に配設された柱部材6は勿論、騒音や振動の発生、粉塵の飛散を抑えることができるため、建物の外周部に配設された柱部材6の解体時に用いると特に好適である。
ここで、支持柱部35を取り付けず、保持ビーム部31を主な構成要素とした部材保持装置30を用いて柱部材6を切断解体するようにしてもよい。すなわち、例えば図24に示すように、柱部材6を挟んで両側に枠組み足場などのユニット架台45を設置し、これら一対のユニット架台45に両端側を支持させて保持ビーム部31を架け渡し、部材保持装置30を設置するようにしてもよい。この場合においても、柱部材6の側面に切り残された梁部材4の残部にチェーンなどの巻き掛け保持部材33を巻き掛けることにより、部材保持装置30の保持ビーム部31に柱部材6を繋げ、安定した状態で保持することができる。
このため、このように部材保持装置30の保持ビーム部31で柱部材6を保持した段階で、柱部材6の下端側の側面側にワイヤーソー16を押し付けるように作業者が一人で解体作業機18を操作し、押し切り方式でワイヤーソー16を柱部材6に切り込ませることによって、柱部材6を切断することができる。これにより、やはり、分離した柱部材6を部材保持装置30で保持することができ、部材保持装置30とともに柱部材6をクレーン2で吊り上げ、搬送撤去することができる。
なお、このような一対のユニット架台45に架設した部材保持装置30の保持ビーム部31で保持しながら柱部材6を押し切り方式のワイヤーソー装置10で切断解体する方法は、建物1の内部に配設された柱部材6の解体時に用いると特に好適である。
一方、上記のように保持ビーム部31を備えた部材保持装置30を用いず、柱部材6を押し切り方式のワイヤーソー装置10で切断解体するようにしてもよい。
例えば、図25及び図26に示すように、柱部材6を囲繞するように柱部材6の外面(側面)に取り付けられる保持リング部材46と、この保持リング部材46に一端を接続し、他端を床版部材3(下方の建物構成部材)に打設したアンカー等に接続して配設される複数の支持サポート部材47とを備えて部材保持装置44を構成するようにしてもよい。また、図25に示すように、複数の支持サポート部材47を柱部材6を支持できる相対角度位置の複数箇所に配設するとともに、各箇所に複数の支持サポート部材47を設けるようにしてもよい。この場合には、複数本の支持サポート部材47で確実に各箇所で必要な支持力を賄うことができ、比較的容易に柱部材6を安定した状態で保持することが可能になる。
また、保持リング部材46は、図26に示すように、例えば柱部材6が断面方形状に形成されている場合、4つの側面にそれぞれ沿って配設される4つの棒状の保持部材片46aを着脱可能に組み付けて構成されている。また、各保持部材片46aは、隣り合う保持部材片46aとの接続位置を自在に調整するための締め具46bを介して接続されており、これら締め具46bを操作することによって、保持リング部材46は、その内面積を大小調整することができる。これにより、断面積(大きさ)が異なる柱部材6に対しても確実に柱部材6の外面に各保持部材片46aを押圧し、柱部材6を締め付けるようにして、保持リング部材46を柱部材6に固定して取り付けることができる。
また、この保持リング部材46には、支持サポート部材47の一端を接続するための取付ブラケット46cが設けられている。
なお、柱部材6が断面円形状に形成されている場合には、例えば、弾性変形可能な帯状の部材を、その一端を締め具46bを介して内面側に着脱可能に接続してなる略円環状の保持リング部材46を用いればよい。この保持リング部材46は、断面円形状の柱部材6を囲繞するように巻き回し、締め具46bを内面積が小さくなるように操作することで、帯状の部材の内面が柱部材6の外面(外周面)に当接し、柱部材6を締付けるようにして取り付けることができる。
そして、上記のような保持リング部材46を柱部材6の所定位置に取り付け、複数の支持サポート部材47を取付ブラケット46cに接続し、これら支持サポート部材47の長さを調整して緊張させることで、柱部材6を安定した状態で保持することができる。
これにより、作業員により容易に取り付け、取り外し、及び運搬が可能な保持リング部材46を柱部材6に取り付け、支持サポート部材47を緊張させるという簡易な操作で、柱部材6が倒れる危険性をなくすことができる。また、大きなスペースを必要としないため、設置されていても、他の機材の通行等の障害になることがない。さらに、安価な金物を活用したり、汎用リース仮設材を活用することもでき、安価に製作することができる。さらに、柱部材6との固定にアンカーを用いる必要がないため、手間やコストを省くこともできる。また、転用可能であり、最低の準備数で対応することが可能である。
そして、このような部材保持装置44で柱部材6を保持することにより、作業者が一人で解体作業機18を操作し、柱部材6の下端側の側面側に押し付けるように押し切り方式でワイヤーソー16を柱部材6に切り込ませ、柱部材6を切断することができる。また、分離した柱部材6を部材保持装置44で確実に保持することができる。
また、柱部材6の側面に切り残された梁部材4の残部にチェーンやワイヤーロープなどの巻き掛け保持部材33を巻き掛け、クレーン2のフックに接続した段階で、保持リング部材46を柱部材6から取り外したり、複数の支持サポート部材47の一端をそれぞれ保持リング部材46から取り外したり、複数の支持サポート部材47の他端を床版部材3のアンカーから取り外すなどして、クレーン2に柱部材6を吊り下げ支持させる。これにより、柱部材6をクレーン2で吊り上げ、搬送撤去することができる。
一方、上記のように柱部材6を押し切り方式のワイヤーソー装置10で切断分離する際、切断の進行に伴い、柱部材6の自重により、柱部材6が傾いてワイヤーソー16を挟んでしまうことも考えられる。また、切断途中で発生した地震に対する柱部材6のさらなる安定化を図る手段が必要になることも考えられる。
これに対し、本実施形態の建物の解体方法では、柱部材6を切断する際に、ワイヤーソー16の進行に伴い、柱部材6の外面(側面)に形成された切断溝27にクサビ部材48を打ち込んで、切断溝27の幅を確保する。
より具体的に、図27(a)に示すように、柱部材6の手前側からワイヤーソー16を切り込ませ、柱部材6を押し切り方式で切削してゆく。また、図27(b)、図27(c)に示すように、切削の進行とともに形成される切断溝27に順次クサビ部材48を打ち込んでゆく。そして、図27(d)に示すように、ワイヤーソー16が柱部材6の奥側を突き抜け、柱部材6が切断された際に、奥側の切断溝27にもクサビ部材48を打ち込む。これにより、柱部材6の自重によって、切断溝27(切断面)の間隔に応じて倒れが生じ、ワイヤーソー16を挟み込んで、切断作業時にワイヤーソー16に破断等が生じるおそれをなくすことができる。
また、本実施形態の建物の解体方法では、図27(a)から図27(d)、図28から図に示すように、切削の進行に伴い、順次クサビ部材48を打ち込むとともに、柱部材6の外面に形成された切断溝(切断線)27を挟んで分離した柱部材6側と、残った柱部材6側とにそれぞれケミカルアンカーなどのアンカーボルト49を、上下方向T2に沿って、且つ上下方向T2に所定の間隔をあけて複数打ち込んでゆく。そして、切断作業中に、複数のアンカーボルト49の間隔に応じたボルト挿通孔50を備えた固定プレート51を、ボルト挿通孔50にアンカーボルト49を挿通し、切断溝27を跨ぐようにセットし、ナットで締結する。これにより、固定プレート51によって固定されているため、地震が発生しても、切断中の柱部材6や、切断分離され、クレーン2で搬送撤去される前の柱部材6が倒れることを防止できる。なお、固定プレートとしては、例えば、厚さ9mm程度の鋼板などを用いることができる。
また、切断中の柱部材6が単独で自立している場合等、すなわち、地震時に倒れる可能性が高い場合には、予め、分離される柱部材6側と、残る柱部材6側とにそれぞれケミカルアンカーなどのアンカーボルト49を、上下方向T2に沿って、且つ上下方向T2に所定の間隔をあけて複数打ち込む。そして、切断途中で、切断の進行によって柱部材6の外面に切断溝27が形成されるとともに、この切断溝27を挟んで固定プレート51を取り付ける。このとき、切断途中のため、押し切りワイヤーソー16を停止し、ワイヤーソー装置10と柱部材6の外面の間に固定プレート51を挿入し、ボルト挿通孔50にアンカーボルト49を挿通し、ナットで締結することが必要になる。
しかしながら、ワイヤーソー装置10と柱部材6の外面との間には十分な隙間がないため、図28に示すような円形のボルト挿通孔50が貫通形成された固定プレート51では、ボルト挿通孔50にアンカーボルト49を挿通させることができず、設置できなくなってしまう。
これに対し、図32、図33に示すように、この場合の固定プレート52には、複数のボルト挿通孔50がそれぞれ、固定プレート52の一側端に開口する長孔状に形成されている。これにより、ワイヤーソー装置10と柱部材6の外面との間の小さな隙間に固定プレート52を差し込み、この固定プレート52を横方向の一方向にスライドさせることで、各ボルト挿通孔50にアンカーボルト49を挿通させることができ、ナットを締結することで固定プレート52を設置することができる。
よって、この場合においても、固定プレート52によって固定されていることで、切断作業中に地震が発生しても、柱部材6が倒れることを防止できる。また、勿論、切断分離され、クレーン2で搬送撤去される前の柱部材6も固定プレート52で固定されているため、倒れることを防止できる。
また、図33に示すように、ボルト挿通孔53を備えた補強プレート54を固定プレート52とともに設置することが好ましい。この補強プレート54は、ボルト挿通孔53にアンカーボルト49を挿通させ、固定プレート52に重ね、ナットを締結することにより、設置される。これにより、ボルト挿通孔50を長孔状に形成しても、補強プレート54を設けることで、分離される柱部材6側と、残る柱部材6側とを強固に固定することが可能になり、より確実に柱部材6が倒れることを防止できる。
なお、上記の固定プレート51、52は、柱部材6に設置するだけでなく、梁部材4の切断作業時に、梁部材4を安定的に保持するために使用してもよい。
したがって、本実施形態の建物の解体方法においては、上層階(一階層)の一部の床版部材3を先行して解体することで、下層階(一階層の直下の他階層)の一部の柱部材6と梁部材4を露出させることができる。これにより、これら露出した柱部材6や梁部材4を、ワイヤーソー装置10を用いて押し切り方式で切断することが可能になる。
そして、このように押し切り方式のワイヤーソー装置10で、建物1の主要構成部材であるRC造及び/又はSRC造の柱部材6や梁部材4を切断分離できることにより、騒音や振動、粉塵の飛散量を大幅に低減させることが可能になる。これにより、従来のように作業の中断や、作業時間の短縮を求められることのない近隣や作業現場内の好適な環境を保持することが可能になり、解体工事を効率よく円滑に進めることが可能になる。
例えば、本実施形態の建物の解体方法を採用すると、従来と比較し、工期を30%以上削減でき、粉塵発生量を20%以上削減でき、騒音を20%以上低減(85dbから65dbに低減)でき、振動をほぼ発生しない状態にでき、CO2の発生量を30%以上削減することができることが確認されている。
また、このように押し切り方式のワイヤーソー装置10で柱部材6や梁部材4を切断分離できることで、引き切り方式と比較し、切断作業時に柱部材6や梁部材4にワイヤーソー16を巻き掛けたり、ワイヤーソー装置10の本体部をアンカーで部材に固定するなどの段取り作業が不要になり、効率的に部材の切断作業を行うことが可能になる。
また、押し切り方式のワイヤーソー装置10を用いることで、1人の作業者で部材の切断作業を行うことが可能になり、さらなる作業効率の向上、コストの低減を図ることが可能になる。
さらに、引き切り方式のワイヤーソー装置のように、切断作業時にオープンな環境で長いワイヤーソー16が回動している状態にならないため、ワイヤーソー16の安定性を確保したり、切断作業周辺への他者の出入りを規制する措置、すなわち、作業の安全性を確保するための対策を軽減することも可能になる。
よって、本実施形態の建物の解体方法によれば、RC造及び/又はSRC造の建物1を、確実に騒音や振動の発生、粉塵の飛散を抑えつつ効率的に解体することができ、特に、病院や学校の周辺、市街地などにおける解体工事に好適に用いることが可能になる。
以上、本発明に係る建物の解体方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。