JP6135046B2 - 糖ペプチドの質量分析法 - Google Patents
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この効果は、グアニジノ基を持たない糖ペプチドにグアニジノ基を付加した場合に、グアニジノ基を持たない糖ペプチドでは生じていた糖鎖開裂由来のフラグメントイオンやペプチド鎖開裂由来のフラグメントイオンが、グアニジノ基を付加することで生じにくくなることからも確認される。また、糖ペプチドにラベル化剤で修飾を施すことで正電荷を固定した場合に、修飾前(正電荷固定化前)の糖ペプチドでは生じていた糖鎖開裂由来のフラグメントイオンやペプチド鎖開裂由来のフラグメントイオンが、修飾により正電荷を固定することで生じにくくなることも確認された。これらのことは、開裂効率低下の原因が、分子の切断に必要なプロトンの供給ができなくなっていることにあることを示唆する。
(1)
グアニジノ基を有する糖ペプチドを、前記グアニジノ基の改変又は前記グアニジノ基の除去に供し、前記グアニジノ基を有しない糖ペプチドを得る前処理工程と、
前記グアニジノ基を有しない糖ペプチドを質量分析に供する質量分析工程とを含み、
前記質量分析工程は、糖鎖開裂由来のフラグメントイオンを得る工程を含む、糖ペプチドの質量分析法。
前記グアニジノ基の改変が、一般式R1COCR2R3COR4(R1、R2、R3及びR4は、それぞれ、同一又は異なっていてよいH又は炭素数1〜8のアルキル基である)で表されるジケトンを用いたピリミジン環への変換又はペプチジルアルギニンデイミナーゼを用いた脱イミン化によって行われる、(1)に記載の方法。
前記グアニジノ基の除去が、アルギニン残基の除去によって行われる、(1)に記載の方法。
前記アルギニン残基が糖鎖結合部位よりC末端側に存在し、前記アルギニン残基の除去がカルボキシペプチダーゼを用いて行われる、(3)に記載の方法。
前記アルギニン残基が糖鎖結合部位よりN末端側に存在し、前記アルギニン残基の除去が、トリプシン、ArgCからなる群から選ばれる酵素を用いて行われる、(3)に記載の方法。
前記質量分析を、ポストソース分解、衝突誘起解離、赤外多光子解離又は光誘起解離によって行う、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)
前記質量分析工程において、ペプチド鎖開裂由来のフラグメントイオンを得ることをさらに含む、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
上記(7)におけるペプチド鎖開裂由来のフラグメントイオンは、前記グアニジノ基を有しない糖ペプチドの分子量関連イオンから、及び/又は当該分子量関連イオンから生じたプリカーサイオンから生じるプロダクトイオンであり、より具体的には、前記グアニジノ基を有しない糖ペプチドのペプチド鎖の一部と糖鎖の一部とから構成されるプロダクトイオンである。
前記糖鎖開裂由来のフラグメントイオンに基づいて糖鎖配列決定を行う工程をさらに含む、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)
前記ペプチド鎖開裂由来のフラグメントイオンに基づいてアミノ酸配列決定を行う工程をさらに含む、(7)又は(8)に記載の方法。
より具体的には、糖ペプチドをグアニジノ基非存在の糖ペプチドに変換することでプロトンの局在状態が解消されるため、プロトンが遊離し、さらにMS/MS解析時に糖鎖部分やペプチド鎖部分に移動することで、開裂に必要なプロトンが供給される。その結果、糖ペプチド解析に必要なフラグメントイオンを生じさせることができる。
本発明の解析対象となる糖ペプチドは、ペプチド部にグアニジノ基を有する。グアニジノ基は、一般的にアルギニン残基の側鎖中に存在するものであるが、アルギニン残基の存在以外の態様、例えばアミノ酸残基において変異や人為的修飾により生じているものであってもよい。
アルギニン残基がC末端以外の配列中に存在する場合、糖鎖結合部位よりC末端側の内部配列中、糖鎖結合部位よりN末端側の内部配列中、及びN末端のいずれであってもよい。C末端以外の配列中にアルギニン残基が存在する場合の糖ペプチドの例としては、アルギニン残基のC末端側で切断を行う酵素以外の酵素を用いた糖タンパク質の消化物が挙げられる。
なお、ペプチド部は、例えば糖タンパク質を消化して得られる程度の鎖長を有するものであることが好ましい。例えば、4〜30残基程度の鎖長でありうる。
糖ペプチドは、グアニジノ基を改変するか、又はグアニジノ基を除去することによって、オリジナルのグアニジノ基を有しない糖ペプチドへ変換される。
グアニジノ基を改変する場合、グアニジノ基よりもプロトンアフィニティが低い基へ変換すればよい。グアニジノ基は極めて塩基性が高いため、改変を行えば大抵、塩基性が下がり、プロトンアフィニティが低くなる。
グアニジノ基の改変の一例としては、グアニジノ基をピリミジン環へ変換する態様が挙げられる。
この態様においては、R1COCR2R3COR4で表されるジケトンを改変のための試薬として用いることができる。上記一般式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ、同一又は異なっていてよいH又は炭素数1〜8のアルキル基である。R1及びR4が同一であることが好ましく、R2及びR3が同一であることが好ましい。
以下に、ジケトンとしてアセチルアセトンを用いたグアニジノ基改変の一例を示す。以下において、ペプチド鎖部分は模式的に示し、アスパラギン残基、アルギニン残基及びグアニジノ基改変後のアミノ酸残基のみ、それぞれイタリック体のN、R及びR’で示す。アスパラギン結合糖鎖も模式的に示す。一方、アルギニン残基R及びグアニジノ基改変後のアミノ酸残基R’においては側鎖構造を具体的に表示している(以後においても同様)。
より具体的なプロトコルの例を以下に挙げる。
糖ペプチドを、100mM Tris-HCl(pH 7.6)、10mM CaCl2及び2mM DTTを含む溶液20μLに溶解する。1μLのPeptidyl Arginine Deiminase 4 (PAD4) (human recombinant)溶液(Cayman Chemical Company)を添加し37℃で5時間反応させる。反応後、Zip-Tipを用いて精製を行う。(この後、10mg/mLのMDPNA (Methanediphosphonic acid)を含む5mg/mL DHB溶液と混合し、MALDI-MS解析を行うことができる。)
グアニジノ基の除去は、アルギニン残基の除去によって行われることができる。
アルギニン残基が糖鎖結合部位よりC末端側にある場合は、カルボキシペプチダーゼを用いてアルギニン残基を除去することができる。
より具体的には、アルギニン残基がC末端にある場合は、当該C末端のアルギニン残基1残基を除去することができるカルボキシペプチダーゼBを用いることが好ましい。以下に、カルボキシペプチダーゼBを用いたグアニジノ基除去の一例を示す。
より具体的なプロトコルの例を以下に挙げる。
糖ペプチド1nmolを、25μLの100mM NaHCO3溶液に溶解する。10pmolのTrypsin溶液を添加し、37℃で1時間反応させる。反応後、サイズ排除クロマトグラフィを用いて精製を行う。(この後、10mg/mLのMDPNA (Methanediphosphonic acid)を含む5mg/mL DHB溶液と混合し、MALDI-MS解析を行うことができる。)
上記の方法によって得られたグアニジノ基を有さない糖ペプチドは、質量分析工程に供される。質量分析工程においては、糖鎖開裂由来のフラグメントイオンと、ペプチド鎖開裂由来のフラグメントイオンとを得る。
[3−1.イオン化法]
質量分析におけるイオン化法としては、具体的には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization; MALDI)法及びエレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization; ESI)法が挙げられる。
質量分析における開裂法としては、具体的にはポストソース型である。イオン化法に応じて当業者によって適宜選択されるが、より具体的には、ポストソース分解(Post Source Decay; PSD)、衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation; CID)、赤外多光子解離(infraredmultiphoton dissociation;IRMPD)、及び光誘起解離(photo‐induced
dissociation;PID)によるものが挙げられる。本発明においては、糖ペプチド分子のグアニジノ基を改変又は除去することにより、PSD、CID、IRMPD、及びPIDなどによる開裂において生じる開裂部位の優先傾向を減少させることが可能であるため、これらの開裂法が有用である。
PSDを実施可能な質量分析装置としては、具体的には飛行時間型質量分析計が挙げられる。グアニジノ基が改変又は除去された糖ペプチドのイオン化の際に弱い塩基性残基にプロトンを供給することでモバイルプロトンの生成率を促進するPSD測定は、特にMALDI-TOF-MSにおいて好ましい。
本発明の質量分析は、とりわけ糖ペプチドの構造解析に適用されることが好ましい。糖ペプチド構造解析においては、アミノ酸配列決定及び/又は糖鎖配列決定が行われる。
一方、本発明の質量分析は、糖ペプチドの構造解析を行わない分析にも適用されることができる。そのような分析としては、Multiple Reaction Monitoring (MRM)による定量等、種々の定量分析が挙げられる。
[3−4−1.糖鎖開裂由来フラグメントイオンの具体例]
糖鎖開裂由来フラグメントイオンは、分子量関連イオンから生じる。糖鎖開裂由来のフラグメントイオンは、分子量関連イオンのペプチド鎖全体を少なくとも含む。ペプチド鎖全体を少なくとも含むプロダクトイオンは、分子量関連イオンのペプチド鎖部分で切断が生じていないプロダクトイオンであり、分子量関連イオンにおけるアミノ酸残基数と同じ数のアミノ酸残基を有する。
好ましい態様においては、糖鎖部分から構成糖が1個ずつ脱落し構成糖間のすべての結合が切断されることにより、糖鎖構造決定に必要なすべてのプロダクトイオンを得ることができる。
ペプチド鎖に糖が1個結合した構造を有する糖ペプチドプロダクトイオンと、その低質量側の2種のプロダクトイオンとを含む合計3種のプロダクトイオンが、トリプレットピークとして、特定の質量差で生じる特徴的なパターンで検出されうる。この特徴的なパターンで検出されたトリプレットピークを指標として、ペプチド鎖に糖が1個結合した構造を有する糖ペプチドプロダクトイオンを識別し、識別された当該プロダクトイオンの相対的な検出強度を考慮して、後述のアミノ酸配列決定のためのプリカーサイオンとして選択されるべきプロダクトイオンを決定することができる。
ここで、質量分析に供される糖ペプチド分子が、本発明と異なりグアニジノ基を有する場合(グアニジノ基改変非処理の場合)は、分子量関連イオンの糖鎖全体と、酸性アミノ酸残基をC末端に有する構造と、を有する糖ペプチドプロダクトイオンが特異的に生じる。
例えば質量分析に供されるペプチド分子が、グアニジノ基を有するアミノ酸残基をC末端に有するものである場合、分子量関連イオンの開裂においては、糖鎖の開裂が起こりにくくなる。このため、糖鎖構造解析に有用な糖鎖開裂由来フラグメントイオンを十分に生じさせることができない。
また例えば、質量分析に供されるペプチド分子が、グアニジノ基を有するアミノ酸残基をペプチド鎖内部に有するものである場合、分子量関連イオンの開裂においては、酸性アミノ酸残基のC末端でのペプチド鎖開裂が特異的に起こることにより、分子量関連イオンの糖鎖全体と、ペプチド鎖の一部であって酸性アミノ酸残基をC末端に有する構造と、を含む糖ペプチドプロダクトイオンが特異的に生じる。このイオンは、糖鎖構造解析のための糖鎖開裂由来フラグメントイオンの質量範囲内に検出されるため、糖鎖開裂由来フラグメントイオンとの区別が困難であり、糖鎖構造解析の障害となる。
例えば質量分析に供されるペプチド分子が、グアニジノ基を有するアミノ酸残基をC末端に有するものである場合、分子量関連イオンの開裂においては、糖鎖開裂由来イオンが生じやすくなる。つまり、本発明の方法は、グアニジノ基改変非処理の場合に観察されるような、分子量関連イオンの糖鎖全体と酸性アミノ酸残基をC末端に有する構造と、を有する糖ペプチドプロダクトイオンの発生の特異性を失わせるため、糖鎖構造解析に有用な多くのフラグメントイオンを生じさせることができる。
また例えば、質量分析に供されるペプチド分子が、グアニジノ基を有するアミノ酸残基をペプチド鎖内部に有するものである場合、糖鎖構造解析の障害となるイオン(グアニジノ基改変非処理の場合に糖鎖構造解析の障害となる上述のイオンに相当するイオンであり、具体的には、分子量関連イオンの糖鎖全体と、ペプチド鎖の一部であって酸性アミノ酸残基をC末端に有する構造と、を含む糖ペプチドプロダクトイオン)は実質的に検出されない。仮に検出されたとしても、その検出強度は、糖鎖構造解析のための糖鎖開裂由来フラグメントイオン(より具体的には、糖鎖構造解析に使用される糖鎖解析由来フラグメントイオンのうち最も検出強度が低いもの)の検出強度の20%以下、好ましくは10%以下である。このように、糖鎖構造解析に有用な糖鎖開裂由来フラグメントイオンと糖鎖構造解析の障害となるフラグメントイオンとの好ましくない混在状態を招来しないため、糖鎖開裂由来フラグメントイオンの識別が当業者にとって容易となり、糖鎖構造解析の障害が回避される。以上のように、本発明においては、糖鎖構造解析の障害となるイオンの検出抑制が、糖鎖構造解析のための糖鎖開裂由来フラグメントイオンの検出を特異的なものにしている。
ペプチド鎖開裂由来フラグメントイオンは、分子量関連イオンの開裂により、上記の糖鎖開裂由来フラグメントイオンと同時に生じることができる。この場合におけるペプチド鎖開裂由来フラグメントイオンは、分子量関連イオンのペプチド鎖の一部と、1個又は2個の糖と、を有する。ペプチド鎖開裂由来フラグメントイオンにおいては、糖の環構造が開裂していてもよい。
上記の場合におけるペプチド鎖開裂由来フラグメントイオンは、糖の数が1個又は2個と少ないため、同時に検出されている糖鎖開裂由来フラグメントイオンの質量域より低質量側に検出される。このため、上記のペプチド鎖開裂由来フラグメントイオンは、糖鎖開裂由来フラグメントイオンとはマススペクトル上で明確に区別されることができる。
以上のペプチド鎖開裂由来フラグメントイオンに基づいて、ペプチド鎖のアミノ酸配列決定を行うことができる。
図1に、グアニジノ基をピリミジン環に改変した例を挙げ、質量分析において検出されるイオン等と、スペクトルとを模式的に示す。より具体的には、MS測定において検出される糖ペプチドイオンすなわち分子量関連イオン(A)、MS測定によって得られたスペクトル(a)、分子量関連イオン(A)をプリカーサとして実施したMS/MS測定における糖ペプチドイオンの開裂(B)、MS/MS測定によって得られたスペクトル(b)、MS/MS測定において得られた、ペプチド鎖に糖が1個結合した構造を有する糖ペプチドプロダクトイオンをプリカーサとして実施したMS3測定における糖ペプチドイオンの開裂(C)、及びMS3測定によって得られたスペクトル(c)を示す。図1においては、ペプチド鎖部分は模式的に示し、アスパラギン残基、グアニジノ基改変後のアミノ酸ン残基及びアスパラギン酸残基のみ、それぞれイタリック体のN、R’及びDで示す。アスパラギン結合糖鎖も模式的に示す。一方、グアニジノ基改変後のアミノ酸残基R’においては側鎖の構造を具体的に表示している。さらに、改変後の糖ペプチドにおいては、最もプロトンアフィニティが高くなる部分としてN末端アミノ基を具体的に表示している(以後においても同様)。
さらに(C)に示すように、プロトンはMS3測定においても遊離可能であるため、ペプチド部分に移動することができる。すなわち、開裂に必要なプロトンがペプチド鎖部分に供給される。その結果、(c)に示すように、MS3解析ではペプチド鎖開裂由来のフラグメントイオンを得て、アミノ酸配列の解析が可能になる。
この態様においては、グアニジノ基の改変により、最もプロトンアフィニティの高い部分がN末端アミノ基となる。その結果、イオントラップ中では、グアニジノ基であれば当該基に局在して外れにくいプロトンが、N末端アミノ基から遊離可能な状態のもの(モバイルプロトン)となる。これにより、(B)に示すように、モバイルプロトンはMS/MS測定において糖鎖部分に移動することができる。すなわち、開裂に必要なプロトンが糖鎖部分に供給される。その結果、図1における場合と同様、(b)に示すようにMS/MS測定で糖鎖構造の解析が可能になり、(c)に示すようにMS3測定でペプチド鎖のアミノ酸配列の解析が可能になる。
この態様においては、ペプチド鎖中にグアニジノ基が含まれなくなったため、最もプロトンアフィニティの高い部分がN末端アミノ基となる。その結果、イオントラップ中では、グアニジノ基であれば当該基に局在して外れにくいプロトンが、N末端アミノ基から遊離可能な状態のもの(モバイルプロトン)となる。これにより、(B)に示すように、モバイルプロトンはMS/MS測定において糖鎖部分に移動することができる。すなわち、開裂に必要なプロトンが糖鎖部分に供給される。その結果、図1における場合と同様、(b)に示すようにMS/MS測定で糖鎖構造の解析が可能になり、(c)に示すようにMS3測定でペプチド鎖のアミノ酸配列の解析が可能になる。
糖ペプチドAsialofetuin glycopeptides (127-141)(GP4)(配列番号1)1nmolを25μLの0.1mM NaHCO3水溶液に溶解し、そこに57mMのTandem Mass Tag(TMT;サーモサイエンティフィック社)のアセトニトリル溶液を1.5μL添加した。得られた混合溶液に対して超音波洗浄器を用いて5分間超音波処理した後、50℃で30分間反応をさせた(TMT- Asialofetuin glycopeptides(127-141)の生成)。さらに、100mMのNa2CO3溶液を2μL、アセチルアセトンを3μL添加して、70℃で一晩反応させた(改変TMT- Asialofetuin glycopeptides(127-141)の生成)。サイズ排除クロマトグラフィを用いて改変TMT- Asialofetuin glycopeptides(127-141)の精製を行い、遠心エバポレーターを用いて溶媒を除去した後、適宜希釈し、MALDI-QIT TOF MS (AXIMA-Resonance)を用いたMS解析及びMS/MS解析を行った。
得られたMS/MSスペクトルを図4に示す。図4においては、改変前のTMT- Asialofetuin glycopeptides(127-141)(TMT-GP4)のスペクトル(図4(a))と比較して改変TMT- Asialofetuin glycopeptides(127-141)(altered TMT- GP4)のスペクトル(図4(b))を示している。
Asialofetuin glycopeptides (127-141)(GP4)(配列番号2)1nmolを50μLの1M HCl溶液に溶解させた。この溶液に1.2μLのtetraethoxypropaneを添加して、1時間室温で反応させた(改変PG4の生成)。反応後MilliQで100倍に希釈してZip-Tipで脱塩精製を行った後、10mg/mLのMDPNA (Methanediphosphonic acid)を含む5mg/mL DHB溶液と混合し、MALDI-QIT TOF MS (AXIMA-Resonance)を用いてMS解析、MS/MS解析及びMS3解析を行った。
得られたMS/MSスペクトルを図5に、MS3スペクトルを図6に示す。各図においては、改変前のAsialofetuin glycopeptides (127-141)(GP4)のスペクトル(図5(a)、6(a))と比較して改変Asialofetuin glycopeptides(127-141)(altered GP4)のスペクトル(図5(b)、6(b))を示している。
Transferrin glycopeptides(603-623)(Transferrin GP2)(配列番号3)1nmolを25μLの100mM NaHCO3溶液に溶解した。この溶液に10pmolのCarboxypeptidase Bを添加し、37℃で1時間反応させた(Transferrin glycopeptides(603-622)(Arg除去 Transferrin GP2)(配列番号4)の生成)。サイズ排除クロマトグラフィを用いて精製を行った後、10mg/mLのMDPNA (Methanediphosphonic acid)を含む5mg/mL DHB溶液と混合し、MALDI-TOF MS(AXIMA-Performance)のLinearモードを用いたMS解析と、MALDI-QIT TOF MS (AXIMA-Resonance)を用いたMS/MS及びMS3解析を行った。
得られたMSスペクトルを図7に、MS/MSスペクトルを図8に、MS3スペクトルを図9に示す。各図においては、Transferrin glycopeptides(603-623)(Arg除去前のTransferrin GP2)のスペクトル(図7(a)、図8(a)、図9(a))と比較してArg除去後で得られたTransferrin glycopeptides(603-622)(Arg除去Transferrin GP2)のスペクトル(図7(b)、図8(b)、図9(b))を示している。
アルギニン残基を含む(including Arg)Transferrin glycopeptides(603-623)(GP2)と、アルギニン残基を含まない(not including Arg)Transferrin glycopeptides(402-414)(GP1)(配列番号6)とについてのMS/MSスペクトル及びMS3スペクトルを、それぞれ図10(a)と図10(b)、及び図11(a)と図11(b)に示す。なお、図10(b)及び図11(b)においては、リジン残基Kの側鎖の構造を具体的に表示している(以後において同様)。
アルギニン残基を含まないTransferrin glycopeptides(402-414)では、糖鎖開裂由来のフラグメントイオン及びペプチド鎖開裂由来のフラグメントイオンが出現するのに対し、アルギニン残基を含むTransferrin glycopeptides(603-623)ではフラグメントイオンがあまり得られなかった。
リジン残基の側鎖アミノ基がグアニジノ基によってラベル化された(guanidino group labeled)Transferrin glycopeptides(402-414)(Transferrin GP1)と、ラベル化されていない(not labeled)Transferrin glycopeptides(402-414)(Transferrin GP1)とについてのMS/MSスペクトルをそれぞれ図12(a)及び図12(b)に示す。なお、図12(a)においては、ラベル化されたリジン残基をK’で表し、ラベル化リジン残基K’におけるラベル化側鎖の構造を具体的に表示している。
図が示すように、ラベル化によってペプチド鎖にグアニジノ基を含ませると、糖鎖開裂由来のフラグメントイオンの生成が抑制された。従って、グアニジノ基の除去や改変と、MS/MSにおけるフラグメントイオン生成効率の改善との関係性が示された。
TMPP(tris(2,4,6-trimethoxyphenyl)phosphoniumacetyl)基で修飾されたシアリルグルコペプチド(配列番号7)のMS/MSスペクトル及びMS3スペクトルを、それぞれ図13(a)及び図13(b)に示す。
TMPP基は電荷を固定する性質を有する。図が示すように、TMPPで電荷を固定すると、糖鎖(GluNAc以外)の開裂及びペプチド鎖の開裂が生じなくなった。従って、糖鎖及びペプチド鎖の開裂にはプロトンが必要であることが示された。
糖ペプチドFetuin glycopeptides (127-141)(GP4)(配列番号1)0.1nmolを10μLの50mM NaHCO3水溶液に溶解し、そこに57mMのTandem Mass Tag(TMT;サーモサイエンティフィック社)のアセトニトリル溶液を1μL添加した。得られた混合溶液に対して超音波洗浄器を用いて5分間超音波処理した後、50℃で30分間反応をさせた(TMT- Fetuin glycopeptides(127-141)の生成)。得られた反応液をSpeedVac(サーモサイエンティフィック社)を用いて溶液除去し、その後、20μLのPAD反応用溶液(100mM Tris-HCl pH7.6, 50mM NaCl, 10mM CaCl2, 2mM DTT in water)に溶解した。さらに1μLのPAD4溶液(ケイマンケミカルカンパニー)を添加し、37℃で5時間反応させることにより、アルギニン残基Rをシトルリン残基R’(Cit)に変換した(改変TMT- Fetuin glycopeptides(127-141)の生成)。反応終了後、Zip-Tipを用いて脱塩処理を行い、10mg/mLのMDPNA (Methanediphosphonic acid)を含む5mg/mL DHB溶液(50% Acetonitrile/water 0.1% TFA)と混合し、MALDI-QIT TOF MS (AXIMA-Resonance)を用いたMS/MS解析及びMS3解析を行った。
得られたMS/MSスペクトルを図14に示す。図14においては、改変前のTMT- Fetuin glycopeptides(127-141)のMS/MSスペクトル(図14(a))と比較して改変(Altered) TMT- Fetuin glycopeptides(127-141)のMS/MSスペクトル(図14(b))を示している。同様に、図15に、改変前のTMT- Fetuin glycopeptides(127-141)のMS3スペクトル(図15(a))と比較した改変(Altered) TMT- Fetuin glycopeptides(127-141)のMS3スペクトル(図15(b))を示す。
Claims (9)
- グアニジノ基を有する糖ペプチドを、前記グアニジノ基の改変又は前記グアニジノ基の除去に供し、前記グアニジノ基を有しない糖ペプチドを得る前処理工程と、
前記グアニジノ基を有しない糖ペプチドを質量分析に供する質量分析工程とを含み、
前記質量分析工程は、糖鎖開裂由来のフラグメントイオンを得る工程を含む、糖ペプチドの質量分析法。 - 前記グアニジノ基の改変が、一般式R1COCR2R3COR4(R1、R2、R3及びR4は、それぞれ、同一又は異なっていてよいH又は炭素数1〜8のアルキル基である)で表されるジケトンを用いたピリミジン環への変換又はペプチジルアルギニンデイミナーゼを用いた脱イミン化によって行われる、請求項1に記載の方法。
- 前記グアニジノ基の除去が、アルギニン残基の除去によって行われる、請求項1に記載の方法。
- 前記アルギニン残基が糖鎖結合部位よりC末端側に存在し、前記アルギニン残基の除去がエキソペプチダーゼを用いて行われる、請求項3に記載の方法。
- 前記アルギニン残基が糖鎖結合部位よりN末端側に存在し、前記アルギニン残基の除去が、トリプシン、ArgCからなる群から選ばれる酵素を用いて行われる、請求項3に記載の方法。
- 前記質量分析を、ポストソース分解、衝突誘起解離、赤外多光子解離又は光誘起解離によって行う、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
- 前記糖鎖開裂由来のフラグメントイオンに基づいて糖鎖配列決定を行う工程をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
- 前記質量分析工程において、ペプチド鎖開裂由来のフラグメントイオンを得ることをさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- 前記ペプチド鎖開裂由来のフラグメントイオンに基づいてアミノ酸配列決定を行う工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
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