JP6122377B2 - 表面が強化された熱防御複合材およびその製造方法 - Google Patents

表面が強化された熱防御複合材およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、アブレータ型の熱防御複合材およびその製造方法に関し、特に、表面の強化を図るとともに、内部から表面へ分解ガスを良好に排出させることが可能な、熱防御複合材およびその製造方法に関する。
宇宙開発における特に重要な技術の一つに、宇宙から地球等の惑星の大気圏に回収カプセルまたは宇宙機を突入させて地上に到達させる回収システムが挙げられる。この回収システムに用いられる回収カプセルまたは惑星突入機等の宇宙機には、大気圏への突入時における空力加熱環境に耐え得ることが求められる。そのため、これらの外表面は熱防御材で覆われている。
代表的な熱防御材の一つとしてはアブレータが知られている。アブレータは、繊維強化樹脂製であって、回収カプセルの熱防御材として採用されることが多い。
回収カプセルが大気圏に突入すると、空力加熱によりアブレータの表面側から熱を吸収しながら熱分解が生じる。この熱分解が表面から内側に徐々に進行すると、最表面は完全に熱分解して炭化するが、内側の熱分解部分で分解ガスが発生する。この分解ガスは内側からアブレータ自身から熱を奪いつつ表面に向かって噴出し、アブレータと高温の空気との間に位置して熱を遮るように機能する。しかもアブレータとして、熱伝導率が低く抑えられる材料構成を採用することにより、アブレータそのものの熱伝導率を低くできれば、分解ガスだけでなくアブレータ自身によっても断熱効果が得られる。
このようなアブレータ型の熱防御複合材に関しては、従来からさまざまな技術が知られている。特に、回収カプセルのペイロードを増加させる等の観点から、アブレータのさらなる軽量化について検討がなされている。ここで、アブレータの軽量化にともなって、大気圏に突入した際にアブレータの表面損耗(recession)の程度が大きくなる。表面損耗が増大すると、断熱効果を持続できる時間が短くなるとともに、空力特性に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、近年では、アブレータの軽量化を図るとともに表面損耗を抑制する技術が提案されている。
例えば、非特許文献1には、フェノール樹脂充填カーボンアブレータ(PICA)が開示されている。このPICAは、炭素繊維を水スラリー中で短繊維化してから水溶性フェノール樹脂と混合し、その後、真空キャストしてから、熱硬化および炭化を行うことによって製造される。特に、表面を緻密化したPICAであれば、標準的なPICAよりも表面損耗を改善し得ることが示唆されている。
また、非特許文献2には、超耐熱セラミックス表面層を有するアブレータが開示されている。非特許文献2によれば、アブレータの基材として、PICAと同様の低密度炭素繊維フォームを用いるとともに、超耐熱セラミックスの原料となる粉末を硬化前のフェノール樹脂および溶媒に分散させたスラリーを準備し、基材にスラリーを真空含浸させてフェノール樹脂を硬化させ、さらにその後に、反応溶融含浸(RMI)法を行うことにより、多孔質の超耐熱セラミックス表面層が形成されたアブレータを製造している。このアブレータは、超耐熱セラミックス表面層が無いアブレータと比較して表面損耗の速度を1/10以下に低減できるとともに、セラミックスの材料を選択することにより表面温度をより低減することができる。
Huy K. Tran, Chistine E. Johnson, Daniel J. Rasky, Frank C. L. Hui, Ming-Ta Hsu, Timothy Chen, Y.K. Chen, Daniel Paragas, and Loreen Kobayashi, "Phenolic Impregnated Carbon Ablators (PICA) as Thermal Protection Systems for Discovery Missions", NASA Technical Memorandum 110440, April 1997 青木卓哉、水野雅仁、鈴木俊之、小笠原俊夫、石田雄一、藤田和央、山田哲哉、「1J12 超耐熱セラミックス表面層を有する軽量ゼロリセッションアブレータ」、第55回宇宙科学技術連合講演会講演集、JSASS−2011−4166、2011年11月30日〜12月2日
非特許文献1および2に開示される技術によれば、いずれもアブレータの軽量化と表面損耗の抑制との両立を図ることができる。ただし、これらの技術では、比較的小さな面積のアブレータを製造することができるものの、より大きな面積を有するアブレータを製造することが困難となっている。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、軽量化および表面の耐損耗性を実現することができるとともに、より大きな面積への適用が可能な、アブレータ型の熱防御複合材およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係る熱防御複合材は、前記の課題を解決するために、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて加熱硬化することにより得られるアブレータ本体と、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて加熱硬化することにより得られ、前記アブレータ本体よりも高密度であり、前記アブレータ本体の一方の面に一体的に設けられる表面強化層と、を備え、前記表面強化層には、マイクロクラックが含まれている構成である。
前記構成によれば、表面強化層は、アブレータ本体に一体化されているので、熱防御複合材の軽量化を損なうことなく、表面の耐摩耗性の向上を図ることができる。その結果、軽量化および表面の耐損耗性を両立することができる。さらに、前記構成によれば、一体化された表面強化層がマイクロクラックを含んでおり、このマイクロクラックは、熱分解時に表面強化層の内部で発生する分解ガスを外部に逃がす役割を担う。それゆえ、熱分解時に表面強化層に剥離が生じるおそれを有効に抑制することも可能になる。しかも、成形済のアブレータ本体に対して表面強化層を一体的に形成するので、アブレータ本体の面積に応じた表面強化層を形成することができる。それゆえ、より大きな面積を有する熱防御複合材に適用することが可能となる。
前記構成の熱防御複合材においては、前記アブレータ本体および前記表面強化層は、加熱硬化されることで一体化されているとともに、前記マイクロクラックは、加熱硬化後の冷却に伴って前記表面強化層に発生する構成であってもよい。
また、前記構成の熱防御複合材においては、前記アブレータ本体の密度は、0.2〜1.0g/cm3 の範囲内である構成であってもよい。
また、前記構成の熱防御複合材においては、前記アブレータ本体は、前記強化繊維に前記熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる複合材料シートを複数枚積層して積層体を形成してから、加熱硬化することにより得られるものである構成であってもよい。
また、前記構成の熱防御複合材においては、さらに、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて加熱硬化することにより得られ、前記アブレータ本体よりも高密度であるとともに、前記マイクロクラックを含まない裏面構造層が、前記アブレータ本体の他方の面に対して一体的に設けられている構成であってもよい。
また、前記構成の熱防御複合材においては、前記表面強化層および前記裏面構造層の少なくとも一方は、前記強化繊維に前記熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる複合材料シートを複数枚積層して積層体を形成してから、加熱硬化することにより得られるものである構成であってもよい。
本発明に係る熱防御複合材の製造方法は、前記の課題を解決するために、アブレータ本体と、当該アブレータ本体の一方の面に一体的に設けられる表面強化層と、を備える熱防御複合材の製造方法であって、アブレータ本体の一方の面に対して、強化繊維に前記アブレータ本体よりも高密度となるように熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる表面強化層前駆体を積層して、積層構造体を形成し、当該積層構造体を加熱することで、前記表面強化層前駆体から前記熱硬化性樹脂組成物の一部を前記アブレータ本体に浸み込ませながら、前記表面強化層前駆体を硬化させ、加熱硬化後に冷却することによって、前記表面強化層に対してマイクロクラックを形成する構成である。
前記構成の熱防御複合材の製造方法においては、前記アブレータ本体の他方の面に対して、当該面における前記熱硬化性樹脂組成物の含浸量を増加させた後に、強化繊維に前記アブレータ本体よりも高密度となるように熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる裏面構造層前駆体を積層して、積層構造体を形成し、当該積層構造体を加熱する構成であってもよい。
また、前記構成の熱防御複合材の製造方法においては、前記アブレータ本体の他方の面に対して、当該アブレータ本体よりも高密度であるとともに、前記マイクロクラックを含まない裏面構造層を予め形成した後に、前記アブレータ本体の一方の面に表面強化層前駆体を積層して、積層構造体を形成し、当該積層構造体を加熱する構成であってもよい。
本発明では、以上の構成により、軽量化および表面の耐損耗性を実現することができるとともに、より大きな面積への適用が可能な、アブレータ型の熱防御複合材およびその製造方法を提供することができる、という効果を奏する。
本発明の実施の形態1に係るアブレータ型の熱防御複合材の構成の一例を示す模式的断面図である。 (a)および(b)は、図1に示す熱防御複合材および比較の熱防御複合材が備える表面強化層において、熱分解時に生じる分解ガスの挙動を説明する模式図である。 図1に示す熱防御複合材の製造過程の一例を示す模式図である。 本発明の実施の形態2に係るアブレータ型の熱防御複合材の構成の一例を示す模式的断面図である。 図4に示す熱防御複合材の製造過程の一例を示す模式図である。 図5に示す製造過程において、加熱硬化時とその前後の状況を説明する模式図である。 (a)および(b)は、本発明の具体的な実施例に係る熱防御複合材が備える表面強化層の断面の顕微鏡写真を示す図である。
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
(実施の形態1)
[熱防御複合材]
本実施の形態1に係る熱防御複合材の構成の一例について、図1および図2(a)、(b)を参照して具体的に説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る熱防御複合材10Aは、アブレータ本体11および表面強化層12を備えている。アブレータ本体11は、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて加熱硬化することにより得られるものである。また、表面強化層12も、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて加熱硬化することにより得られるものであるが、アブレータ本体11の一方の面(外面)に一体的に設けられる。特に本発明においては、表面強化層12は、アブレータ本体11とともに同時に加熱硬化されて一体化されている。
表面強化層12は、それ自体がアブレータ本体11と同様に「アブレータ」として機能するため、アブレータ本体11から見て外側に位置する「外層アブレータ」として位置付けられる。表面強化層12は、アブレータ本体11よりも高密度である。具体的には、アブレータ本体11の密度は、一般的には、0.2〜1.0g/cm3 の範囲内であればよいが、この場合、表面強化層12の密度は、1.0g/cm3 超であればよい。一方、表面強化層12の密度の上限は特に限定されないが、一般的には、1.6g/cm3 以下であればよい。
なお、上述したアブレータ本体11の密度(および表面強化層12の密度)は、宇宙開発用の回収カプセルで代表的に用いられる範囲であるが、本発明はもちろんこれに限定されず、表面強化層12の密度がアブレータ本体11よりも高ければ、諸条件に応じてさまざまな密度を選択することができる。
また、表面強化層12には、図1、並びに、図2(a)および(b)の左図において模式的に示すように、表面強化層12およびアブレータ本体11を加熱硬化させて一体化した後の冷却に伴って発生するマイクロクラック121が含まれている。マイクロクラック121の具体的な形状または長さ等については特に限定されないが、代表的には、その長さが1mm未満であればよい。また、表面強化層12が、「外層アブレータ」として有効に機能し、かつ、アブレータ本体11の表面を保護して、その損耗を有効に抑制できるのであれば、マイクロクラック121は、1mm以上の長さを有してもよい。
また、表面強化層12は、硬化前の理想的な状態に比べて、その繊維含有率が高くなっている。具体的には、繊維含有率Vf(fiber volume content)が65%以上であることが好ましい。後述するように、表面強化層12とアブレータ本体11とを一体的に加熱硬化すると、表面強化層12に含まれる熱硬化性樹脂組成物の比率が小さくなる。そのため、後述する製造過程において表面強化層12にマイクロクラック121が形成されやすくなる。なお、一般的な強化繊維複合材料の繊維含有率は、通常50%前後である。
アブレータ本体11および表面強化層12の具体的な構成は特に限定されない。例えば、アブレータ本体11の厚さについては、熱防御複合材10Aの使用条件に応じて適宜設定することができる。また、表面強化層12の厚さについては、アブレータ本体11の表面の損耗を抑制できる程度の厚みとして適宜設定することができる。また、本実施の形態では、アブレータ本体11および表面強化層12は、いずれも後述するように積層構造を有しているが、これに限定されず、アブレータの分野で公知の様々な構成を採用することができる。
アブレータ本体11および表面強化層12が積層構造を有している理由は、本実施の形態における製造過程に基づく。本実施の形態では、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる複合材料シートを準備し、この複合材料シートを複数枚積層することにより積層体を形成してから、加熱硬化する。なお、強化繊維熱硬化性樹脂組成物、複合材料シート等に関しては、後述する製造方法とともに詳細に説明する。
アブレータ本体11に一体化された表面強化層12が、図1、図2(a)および(b)に示すようなマイクロクラック121を含んでいれば、熱防御複合材10Aの熱分解時に表面強化層12に剥離が生じるおそれを有効に抑制することができる。具体的には、熱防御複合材10Aが熱分解する際には、アブレータ本体11および表面強化層12の内には分解ガスが発生する。ここで、表面強化層12が、アブレータ本体11よりも単に高密度であって、アブレータ本体11の表面を強化するだけであれば、図2(a)の右図に示すように、表面強化層12の内部で生じた分解ガスが十分に排出できない。そのため、分解ガスは、図中破線のブロック矢印に示すように、積層構造である表面強化層12の各層の間を流動し、表面強化層12の端部から外部に排出される。これにより、表面強化層12は、アブレータ本体11から剥離しやすくなる。
これに対して、本発明においては、表面強化層12がマイクロクラック121を含んでいる。これにより、図2(a)の左図に示すように、表面強化層12の内部で発生した分解ガスは、マイクロクラック121を通って熱防御複合材10Aの外面(表面)に排出することができる。図2(a)の左図では、表面強化層12を3層の積層構造として模式的に図示しているが、マイクロクラック121は、表面強化層12の第一層(外面となる層)だけでなく、内部の第二層にも形成されている。それゆえ、表面強化層12の内部層(例えば、第二層または第三層)で発生した分解ガスは、図中破線のブロック矢印に示すように、より上の層(例えば、第一層または第二層)のマイクロクラック121を通って外面まで到達することができる。つまり、マイクロクラック121は、分解ガスの通気経路となる。
ここで、アブレータ本体11は、その密度が低く隙間が多い。そのため、アブレータ本体11の内部で発生した分解ガスは、図2(b)の右図に示すように当該アブレータ本体11の表面または側面に容易に流出することができる。ただし、図2(b)の右図に示すように、表面強化層12が高密度でマイクロクラック121を含まないと、アブレータ本体11からの分解ガスの一部が逃げ場を失う。これは、分解ガスの流出が側面のみで生じる場合、アブレータ本体11の内部で発生した分解ガスの全てが流出できないためである。
そこで、表面強化層12とアブレータ本体11との間には、表面強化層12由来の分解ガスとアブレータ本体11由来の分解ガスとが滞留するため、この位置で分解ガスが流動しやすくなり、結果的に表面強化層12の剥離を促進してしまう。これに対して、図2(b)の左図に示すように、表面強化層12の全ての層にマイクロクラック121を有していれば、表面強化層12内部の分解ガスだけでなく、アブレータ本体11からの分解ガスも外側に逃がすことができる。それゆえ、表面強化層12の剥離を有効に抑制しつつ、アブレータ本体11の表面の損耗を良好に抑制することができる。
前記構成の熱防御複合材10Aを回収カプセル等の機体構造に取り付ける手法は特に限定されず、公知の手法を好適に用いることができる。代表的な一例としては、回収カプセルの機体構造(シェル等)の外面に、SIP(Strain Insulation Pad)および接着剤層を介して貼り付ける手法を挙げることができる。
[熱防御複合材の製造方法]
次に、本実施の形態に係る熱防御複合材10Aの製造方法の一例について、図3を参照して具体的に説明する。図3は、熱防御複合材10Aの製造過程を、その原料素材に基づいて模式的に示している。
本実施の形態に係る熱防御複合材10Aの製造方法では、図3に示すように、まず、アブレータ本体11が形成される。アブレータ本体11の製造方法は特に限定されず、公知の手法を好適に用いることができる。代表的には、まず、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて複合材料シートを形成する。次に、得られた複合材料シートを用いて、アブレータ本体前駆体(熱硬化性樹脂組成物が硬化する前の状態)を形成する。形成されたアブレータ本体前駆体を、オートクレーブ等を用いて成形する。これによりアブレータ本体11を得ることができる。
ここで、アブレータ本体前駆体となる複合材料シートの積層枚数は特に限定されず、アブレータ本体11に要求される厚さに合わせて適宜決定することができる。一般的には、複合材料シートの積層枚数は、1〜数十枚の範囲内であればよく、3〜20枚程度の範囲内とすることが好ましい。つまり、アブレータ本体11は、単層構成であってもよいし、2枚以上の積層構成であってもよい。
ここで、アブレータ本体前駆体が複数の複合材料シートにより形成されている場合には当該アブレータ本体前駆体は、全て同一種類の複合材料シートを積層して形成されてもよいし、アブレータ本体11の形状等に応じて、異なる種類のものを積層することで形成されてもよい。すなわち、アブレータ本体11の製造に用いられる複数の複合材料シートは、全て同一種類であってもよいし、異なる厚さ、異なる面積、異なる形状、あるいは異なる含浸量を有する複数種類の組合せであってもよい。なお、複合材料シートに用いられる熱硬化性樹脂組成物および強化繊維については後述する。
次に、図3に示すように、アブレータ本体11の一方の面(表面)に、表面強化層前駆体22を積層して積層構造体20Aを形成する。表面強化層前駆体22は、前述したアブレータ本体前駆体と同様に、複合材料シートを用いて形成されるものであって、複合材料シートの熱硬化性樹脂組成物が硬化する前の状態にある。表面強化層前駆体22も、前述したアブレータ本体前駆体と同様に、表面強化層12に要求される厚さに合わせて複合材料シートを積層することにより形成される。その積層枚数も特に限定されず、アブレータ本体11の表面を強化できる程度の枚数であればよい。また、表面強化層前駆体22の形成に用いられる複数の複合材料シートも、前述したアブレータ本体前駆体と同様に、全て同一種類であってもよいし、異なる厚さ、異なる面積、異なる形状、あるいは異なる含浸量を有する複数種類の組合せであってもよい。
その後、図3に示すように、積層構造体20Aを加熱硬化し、その後に冷却する。本実施の形態では、加熱硬化には、オートクレーブ成形が用いられる。このオートクレーブ成形の過程では、表面強化層前駆体22から熱硬化性樹脂組成物の一部がアブレータ本体11に浸み込みながら(流出しながら)、熱硬化性樹脂組成物が全体的に硬化していく。これにより、表面強化層12がアブレータ本体11に対して一体的に設けられることになる。さらに、このオートクレーブ成形による加熱硬化の後、冷却に伴って表面強化層12には、マイクロクラック121が発生する。これにより、本実施の形態に係る熱防御複合材10Aが製造される。
なお、オートクレーブを行う際の条件は特に限定されない。代表的な条件である圧力および温度は経時的に変化するが、圧力の経時的変化は熱防御複合材10Aの所望の密度に合わせて調整すればよく、温度の経時的変化は、使用する熱硬化性樹脂組成物の性質を考慮して調整すればよい。また、これら以外の条件(例えばオートクレーブ時間等)も種々の条件に応じて適宜設定または調整すればよく、オートクレーブ装置としても公知のものを好適に用いることができる。
また、本実施の形態では、加熱硬化はオートクレーブにより行われるが、本発明はこれに限定されず、ホットプレスまたは電気炉等のように、アブレータの分野で公知の加熱方法を用いることができる。ただし、表面強化層12を一体的に形成できる観点からオートクレーブが好ましい。さらに、加熱硬化後の冷却は、本実施の形態では、常温になるまで静置(放置)することにより行われるが、本発明はこれに限定されず、公知の冷却装置等を用いてもよい。この場合、マイクロクラック121を良好に発生させるために、冷却条件を適宜設定することもできる。
[熱硬化性樹脂組成物および強化繊維]
次に、複合材料シートに用いられる材料、すなわち熱硬化性樹脂組成物および強化繊維について、具体的に説明する。
熱硬化性樹脂組成物には、少なくとも熱硬化性樹脂が含まれていればよい。具体的な熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。これら熱硬化性樹脂は単独で用いられてもよいし、複数種類が適宜組み合わせられて用いられてもよい。好ましい一例として、フェノール樹脂を挙げることができる。また、これら熱硬化性樹脂の具体的な化学構造等も特に限定されず、公知の種々のモノマーが重合されたポリマーであってもよいし、複数のモノマーが重合されたコポリマーであってもよい。また、平均分子量、主鎖および側鎖の構造等についても特に限定されない。
さらに、熱硬化性樹脂組成物には、前記の熱硬化性樹脂以外の種々の成分が含まれてもよい。熱硬化性樹脂組成物は、強化繊維に含浸して硬化させた後に、「アブレータ」として有効な機能を実現する観点から、硬化剤、硬化促進剤、強化繊維以外の補強材、充填材、含浸効率を向上させるための希釈剤、その他公知の添加剤、あるいは熱硬化性樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂等を含んでもよい。
本実施の形態では、強化繊維としてフェルト(不織布)を用いているが、強化繊維の具体的な種類はフェルトにのみ限定されず、織物、編物、組物等の布状体(クロス)として構成されてもよいし、これら布状体ではなく、長繊維または短繊維のままで用いられてもよい。また、強化繊維が布状体であるとき、その厚さについても特に限定されず、複合材料シートの厚さ、もしくは、アブレータ本体11または表面強化層12の厚さの調整を考慮して適宜好ましい厚さに設定すればよい。
強化繊維に用いられる繊維材料としては特に限定されず、アブレータとして使用可能な繊維であればよい。具体的には、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維(石英繊維)、炭化ケイ素(SiC)繊維、ボロン繊維等の無機系繊維材料、あるいは、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維等の有機系繊維材料が挙げられる。これら繊維材料は、単一種類のみが用いられてもよいし、無機系および有機系に関わらず2種類以上が適宜組み合わせられ用いられてもよい。好ましい一例として、炭素繊維を挙げることができる。
フェルト状強化繊維(あるいは他の構成の強化繊維)に熱硬化性樹脂組成物を含浸させる方法は特に限定されず、溶液含浸法、加圧含浸法、真空含浸法等の公知の方法を好適に用いることができる。また、含浸時の種々の条件も特に限定されず、複合材料シートの大きさ、フェルト状強化繊維の厚み、熱硬化性樹脂組成物の流動性、含浸効率等を考慮して様々な条件に設定することができる。また、強化繊維に対する熱硬化性樹脂組成物の含浸量も特に限定されず、例えば、アブレータ本体11または表面強化層12の密度等を考慮して好適な量に適宜設定すればよい。
なお、得られた複合材料シートは、そのまま用いることもできるが、ハンドリング性を向上させる観点から、熱硬化性樹脂組成物の種類に応じて公知の方法で半硬化状態(Bステージ化)したプリプレグとして用いることもできる。
ここで、アブレータ本体11および表面強化層12に用いられる材料(熱硬化性樹脂組成物および強化繊維)の種類は、同じであることが好ましい。材料が同じであれば、表面強化層12の密度を高める以外は、基本的に同じ工程を採用することができるので、製造コストの増大を回避することができる。また、アブレータ本体11および表面強化層12が同じ材料であれば、材料が異なる場合に比べてアブレータ本体11に対する表面強化層12の一体性を向上することができる。もちろん、熱防御複合材10Aの使用条件等に応じて、アブレータ本体11および表面強化層12に用いられる材料の種類は異なってもよい。
このように、本実施の形態に係る熱防御複合材10Aの製造方法では、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなるアブレータ本体11と、強化繊維にアブレータ本体11よりも高密度となるように熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる表面強化層前駆体22と、を準備し、アブレータ本体11の一方の面に表面強化層前駆体22を積層して積層構造体20Aを構成し、この積層構造体20Aを加熱する。
これにより、表面強化層前駆体22から熱硬化性樹脂組成物の一部がアブレータ本体11の一方の面に浸み込むため、表面強化層12の繊維含有率が高くなる(樹脂含有率が低下する)。それゆえ、加熱硬化後の冷却に伴って、表面強化層12に対してマイクロクラック121が生じる。このマイクロクラック121は、前記の通り、熱分解時に表面強化層12の内部で発生する分解ガスを外部に逃がす役割を担うことになる。その結果、アブレータ本体11から表面強化層12が剥離するおそれを有効に抑制することも可能になる。
また、表面強化層12は、前記の熱硬化性樹脂組成物の流出によってアブレータ本体11に強固に一体化されているので、熱防御複合材10Aの軽量化を損なうことなく、表面の耐摩耗性の向上を図ることができる。その結果、軽量化および表面の耐損耗性を両立することができる。しかも、成形済のアブレータ本体11に対して表面強化層12を一体的に形成するので、アブレータ本体11の面積に応じた表面強化層12を形成することができる。それゆえ、従来の技術に比較して、より大きな面積を有する熱防御複合材10Aに適用することが可能となる。
なお、本実施の形態では、マイクロクラック121は、積層構造体20Aを加熱硬化した後に冷却することによって、表面強化層12に発生させているが、本発明はこれに限定されず、表面強化層12にマイクロクラック121を良好に発生させることができれば、加熱硬化後に冷却する手法以外の手法であっても好適に用いることができる。
(実施の形態2)
前記実施の形態1では、熱防御複合材10Aは、アブレータ本体11の一方の面に表面強化層12を備えている構成となっていたが、本実施の形態2では、アブレータ本体11の他方の面に、裏面構造層が設けられている構成となっている。裏面構造層を備える熱防御複合材およびその取り付け構造の一例について、図4を参照して具体的に説明する。
[熱防御複合材]
図4に示すように、本実施の形態に係る熱防御複合材10Bは、アブレータ本体11の一方の面すなわち表面に表面強化層12が一体的に設けられており、表面強化層12がマイクロクラック121を含む構成となっているが、さらに、アブレータ本体11の他方の面すなわち裏面には、マイクロクラック121を含まない裏面構造層13が一体的に設けられている。
裏面構造層13は、基本的には表面強化層12と同様であって、前記実施の形態1で説明したように、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて加熱硬化することにより得られ、アブレータ本体11よりも高密度である層となっている。裏面構造層13は、アブレータ本体11を回収カプセルの機体構造に固定支持するための機能を有しているため、「アブレータ支持層」と表現することもできる。裏面構造層13は、アブレータ本体11および表面強化層12と同様に、複合材料シートを複数枚積層して前駆体(熱硬化性樹脂組成物が硬化前の状態)を形成してから、加熱硬化することにより得られる積層構造(または単層構造)であればよい。
裏面構造層13に用いられる材料(熱硬化性樹脂組成物および強化繊維)の具体的な種類は特に限定されないが、前記実施の形態1で説明した各種材料を好適に用いることができる。また、前記実施の形態1で説明したように、アブレータ本体11および表面強化層12に用いられる材料の種類は同じであることが好ましいが、本実施の形態における裏面構造層13に用いられる材料の種類も、アブレータ本体11および表面強化層12と同じであることが好ましい。
また、裏面構造層13も、表面強化層12と同様に、それ自体がアブレータ本体11と同様に「アブレータ」として機能する。それゆえ、裏面構造層13は、アブレータ本体11から見て内側に位置する「内層アブレータ」として位置付けられる。言い換えれば、前記実施の形態1に係る熱防御複合材10Aは、外層アブレータ(表面強化層12)およびアブレータ本体11からなる2層構造となっているが、本実施の形態に係る熱防御複合材10Bは、外層アブレータ(表面強化層12)、アブレータ本体11、および内層アブレータ(裏面構造層13)の3層構造となっている。
裏面構造層13の具体的な構成は特に限定されない。例えば、裏面構造層13の密度は、アブレータ本体11の荷重を支持する構造部材として機能し得る密度であればよく、特に限定されない。本実施の形態では、例えば、表面強化層12とほぼ同じ範囲内(1.0〜1.6g/cm3 の範囲内)であればよい。また、裏面構造層13の厚さも特に限定されず、アブレータ本体11の荷重を支持する強度または剛性を実現できる程度の厚さであればよい。
ここで、裏面構造層13には、図4に模式的に示す肉厚部131が設けられていることが好ましい。この肉厚部131は、図示しないが、熱防御複合材10Bをシェル等の機体構造に取り付ける際に、結合ピンまたはボルト等の公知の締結具が嵌入される部分となる。なお、肉厚部131の厚さは特に限定されず、シェルに熱防御複合材10Bを取り付けるための具体的な構造、締結具の種類または長さ等の諸条件に応じて適宜設定することができる。
[熱防御複合材の製造方法]
次に、本実施の形態に係る熱防御複合材10Bの製造方法の一例について、図5を参照して具体的に説明する。なお、図5も、前記実施の形態1の図3と同様に、熱防御複合材10Aの製造過程を、その原料素材に基づいて模式的に示している。
図5に示す製造過程は、基本的には、前記実施の形態1で説明した熱防御複合材10Aの製造方法(図3参照)と同様であって、加熱硬化によって裏面構造層13となる層状体、すなわち裏面構造層前駆体23を積層する過程が含まれる点が異なっている。
具体的には、図5に示すように、まず、アブレータ本体11が準備される。このアブレータ本体11の一方の面(表面)に、表面強化層前駆体22が積層され、アブレータ本体11の他方の面(裏面)に裏面構造層前駆体23が形成される。これにより、表面強化層前駆体22、アブレータ本体11、および裏面構造層前駆体23が積層された積層構造体20Bが形成される。この積層構造体20Bをオートクレーブ成形等により加熱硬化し、その後に冷却する。
オートクレーブ成形の過程では、前記実施の形態1で説明したように、表面強化層前駆体22から熱硬化性樹脂組成物の一部がアブレータ本体11に浸み込みながら(流出しながら)、熱硬化性樹脂組成物が全体的に硬化していく。一方、裏面構造層前駆体23に対しては、当該裏面構造層前駆体23からアブレータ本体前駆体21に対して熱硬化性樹脂組成物の流出が少なくなるように予め処置しておく。その後、冷却に伴って表面強化層12には、マイクロクラック121が発生する。これにより、本実施の形態に係る熱防御複合材10Bが製造される。
ここで、アブレータ本体11に対して表面強化層12および裏面構造層13をそれぞれ形成する順序は特に限定されない。つまり、アブレータ本体11に対して、表面強化層12および裏面構造層13を同時に形成してもよいし、先に表面強化層12を形成してから、裏面構造層13を形成(言い換えれば、前記実施の形態1に係る熱防御複合材10Aを清掃してから裏面構造層13を形成)してもよいし、先に裏面構造層13を形成してから表面強化層12を形成してもよい。
したがって、積層構造体20Bは、表面強化層前駆体22、アブレータ本体11、および裏面構造層前駆体23を積層したものであってもよいし、表面強化層12、アブレータ本体11、および裏面構造層前駆体23を積層したものであってもよいし、表面強化層前駆体22、アブレータ本体11、および裏面構造層13を積層したものであってもよい。このように、本実施の形態に係る熱防御複合材10Bの製造方法は、図5に示す製造過程に限定されず、結果的に、アブレータ本体11の一方の面に表面強化層12が形成され、他方の面に裏面構造層13が形成されれば、さまざまな手順を採用することができる。
ここで、裏面構造層前駆体23からアブレータ本体前駆体21に対して、熱硬化性樹脂組成物を流出させない方法は特に限定されない。代表的には、アブレータ本体11の他方の面(裏面)に対して、当該面における熱硬化性樹脂組成物の含浸量を増加させる「前処理」を行う方法が挙げられる。この前処理のより具体的な方法は特に限定されず、例えば、(1)アブレータ本体11の他方の面に熱硬化性樹脂組成物を塗布する方法、あるいは、(2)アブレータ本体11の他方の面に、アブレータ本体11と同じ材料で形成され、かつ、熱硬化性樹脂組成物の含浸量が多い(密度が高い)複合材料シートを積層する方法等が挙げられる。
アブレータ本体11に対して、前記のような前処理を行うことで、例えば、図6に模式的に示すように、アブレータ本体11の他方の面には緻密化部211が設けられることになる。この緻密化部211は、アブレータ本体11よりも熱硬化性樹脂組成物の濃度が高くなっている平板状の部位であり、加熱硬化によって裏面構造層13と同程度に熱硬化性樹脂組成物が緻密化(高密度化)された部位となる。
図6上に示すように、緻密化部211を備えるアブレータ本体11の一方の面に、表面強化層前駆体22を積層し、他方の面(緻密化部211が存在する面)に裏面構造層前駆体23を積層する。これにより、図6中に示すように、積層構造体20Bを形成し、オートクレーブ成形する。この積層構造体20Bにおいては、表面強化層前駆体22および裏面構造層前駆体23は、熱硬化性樹脂組成物が高密度の領域となり、アブレータ本体11は、熱硬化性樹脂組成物が低密度の領域となる。それゆえ、オートクレーブ成形時には、図6中のブロック矢印に示すように、一方の高密度の領域である表面強化層前駆体22から低密度の領域であるアブレータ本体11に向かって熱硬化性樹脂組成物の一部が浸み込む(流出する)が、他方の高密度の領域である裏面構造層前駆体23では、緻密化部211の存在により、熱硬化性樹脂組成物はアブレータ本体11に流出しない。
その結果、図6下に示すように、熱硬化性樹脂組成物が流出した表面強化層12では、繊維含有率が高くなるため冷却に伴いマイクロクラック121が発生するが、熱硬化性樹脂組成物が流出しない裏面構造層13では、繊維含有率は変化しないため、高密度な(緻密な)内層アブレータとなる。なお、図6では、説明の便宜上、裏面構造層13およびその前駆体23において、肉厚部131の図示を省略している。
なお、アブレータ本体11の他方の面に「前処理」を行うさらに他の方法としては、前記(1)または(2)の方法以外に、(3)他方の面に裏面構造層13を予め備えるアブレータ本体11を準備し、これに表面強化層前駆体22を積層する方法も挙げられる。この方法では、図6に示すように、表面強化層12と裏面構造層13とを同時に形成したり、先に表面強化層12を形成してからに裏面強化層13を形成したりするのではなく、裏面構造層13を先に形成し、後から表面強化層12を形成することになる。
ここで、(3)の方法の具体例は特に限定されないが、例えば、次のような工程が挙げられる。まず、複合材料シートを積層する等して裏面構造層前駆体23を形成し、これを加熱硬化することで先に裏面構造層13のみを成形する。次に、この裏面構造層13の一方の面に複合材料シートを積層してアブレータ本体前駆体を形成し、これを加熱硬化する。これによって、裏面構造層13を備えるアブレータ本体11を製造することができる。
このように、本実施の形態に係る熱防御複合材10Bでは、アブレータ本体11の一方の面に表面強化層12が設けられ、他方の面に裏面構造層13が設けられている。この裏面構造層13は、アブレータ本体11の荷重を受け持つ構造部材(アブレータ支持層)として機能し、表面強化層12は、前記実施の形態1で説明したように、アブレータ本体11の表面を保護する部材として機能する。これにより、軽量化を損なうことなく、アブレータ本体11の表面の耐損耗性を良好なものにできるとともに、熱防御複合材10Bを機体構造に取り付ける際に、従来用いられているSIPおよび接着剤層が不要となる(実施の形態1参照)。それゆえ、本実施の形態に係る熱防御複合材10Bでは、回収カプセル等の機体構造への取り付け作業効率を改善することができる。
さらに、熱防御複合材10Bの取り付けに接着剤層を使用しなくてもよいため、熱防御複合材10Bの使用条件は、用いられる接着剤の耐熱温度に制約されない。それゆえ、アブレータ本体11の厚さは、接着剤層を熱保護できる厚さに設定する必要がないため、アブレータ本体11の厚さを小さくすることが可能となる。その結果、熱防御複合材10Bのさらなる軽量化を図ることができる。
しかも、本実施の形態に係る熱防御複合材10Bでは、前記実施の形態1で説明したように、表面強化層12がマイクロクラック121を含んでいる。それゆえ、アブレータ本体11の熱分解等に伴って発生する分解ガスは、マイクロクラック121を介して外面に流出することができる。これにより、熱防御複合材10Bは、耐損耗性を損なうことなく、良好な断熱性能を実現することができる。また、前記実施の形態1と同様に、成形済のアブレータ本体11に対して表面強化層12を一体的に形成することから、より大面積の熱防御複合材10Bに適用することが可能となる。
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例および比較例におけるアーク加熱試験は次に示すようにして行った。
(アーク加熱試験)
実施例または比較例で得られたサンプルについて、最大加熱率2MW/m2 、加熱時間60秒の条件でアーク加熱試験を行った。
(実施例1)
バットの中に満たされたフェノール樹脂の中に炭素繊維クロスを浸漬させ、真空条件下で炭素繊維クロスに適量のフェノール樹脂を含浸させることにより、第一の複合材料シートを得た。この複合材料シートを積層して、表面強化層前駆体を得た。
また、縦500mm横500mmの炭素繊維フェルトに対して適量のフェノール樹脂を含浸させることにより、第二の複合材料シートを得た。この複合材料シートを積層して所定の密度となるように加圧して厚さを調整することにより、アブレータ本体前駆体を得た。このアブレータ本体前駆体を所定の昇温条件および所定の加圧条件でオートクレーブ成形を行うことにより、アブレータ本体を得た。
得られたアブレータ本体の一方の面に表面強化層前駆体を積層し、所定の昇温条件および加圧条件でオートクレーブ成形を行うことにより、実施例1に係る熱防御複合材のサンプルを得た。
得られたサンプルの表面強化層の繊維含有率は67.9%であった。また、このサンプルの断面を光学顕微鏡で観察したところ、図7(a)に示すように、炭素繊維の繊維束内に多数のマイクロクラックが確認された。さらに、このサンプルの表面強化層について前記条件でアーク加熱試験を行ったが、表面強化層の剥離は見られなかった。また、表面の損耗量は0.29mmであり、損耗も非常に少なく抑えることができた。
(実施例2)
真空条件下で、炭素繊維クロスと適量のフェノール樹脂を、炭素繊維クロスの面内方向にローラを用いて含浸させることにより第一の複合材料シートを得た。これ以外は前記実施例1と同様にして、実施例2に係る熱防御複合材のサンプルを得た。
得られたサンプルの表面強化層の繊維含有率は69.7%であった。また、このサンプルの表面強化層の断面を光学顕微鏡で観察したところ、図7(b)に示すように、炭素繊維の繊維束内に多数のマイクロクラックが確認された。
(比較例1)
実施例1において、表面強化層を形成しないアブレータ本体を作成し、比較例1に係る熱防御複合材のサンプルとした。このサンプルの一方の面に対して前記条件でアーク加熱試験を行ったところ、表面の損耗量は1.12mmであり、実施例のサンプルに比べて非常に大きな損耗量となった。
(比較例2)
実施例1で得られた複合材料シートを積層して得られる積層体のみを、実施例1と同様の条件でオートクレーブ成形を行うことにより、比較例2に係るサンプルを得た。このサンプルの繊維含有率は58.5%であった。また、このサンプル断面を光学顕微鏡で観察したところマイクロクラックは確認されなかった。
(比較例3)
実施例2で得られた複合材料シートを積層して得られる積層体のみを、実施例2と同様の条件でオートクレーブ成形を行うことにより、比較例3に係るサンプルを得た。このサンプルの繊維含有率は57.9%であった。また、このサンプル断面を光学顕微鏡で観察したところマイクロクラックは確認されなかった。
(実施例および比較例の結果について)
実施例1および2のいずれのサンプルも、表面強化層の繊維含有率が高く、かつ、マイクロクラックが含まれていた。それゆえ、アーク加熱試験によっても表面強化層の剥離が見られず、実施例1および比較例1の比較から明らかなように、表面の良好な耐損耗性が実現できた。一方、比較例2および3のサンプルは、実質的に表面強化層のみをオートクレーブ成形したものであって、一般的な繊維強化複合材料に比べて少し高めではあるものの、実施例1および2のサンプルよりも繊維含有率は低くなっており、マイクロクラックは発生していなかった。
それゆえ、実施例および比較例の対比から、アブレータ本体および表面強化層前駆体を同時に加熱硬化することで、表面強化層前駆体からフェノール樹脂(熱硬化性樹脂組成物)の一部がアブレータ本体に浸み込み、表面強化層の繊維含有率が高くなること、並びに、加熱硬化後に冷却することによって、表面強化層に対してマイクロクラックが形成されることが明らかとなった。
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明によれば、軽量で良好な耐熱特性を有する熱防御複合材を得ることができるだけでなく、より大きな面積を有する熱防御複合材への適用も可能となるため、大気圏突入を伴う宇宙開発の分野に広く好適に用いることができる。
10A 積層型アブレータ
10B 積層型アブレータ
11 アブレータ本体
12 表面強化層(外層アブレータ)
13 裏面構造層(内層アブレータ)
20A 積層構造体
20B 積層構造体
22 表面強化層前駆体
23 裏面構造層前駆体
121 マイクロクラック
211 緻密化部

Claims (9)

  1. 強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて加熱硬化することにより得られるアブレータ本体と、
    強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて加熱硬化することにより得られ、前記アブレータ本体よりも高密度であり、前記アブレータ本体の一方の面に一体的に設けられる表面強化層と、を備え、
    前記表面強化層は、マイクロクラックを含むとともに、加熱硬化前よりも繊維含有率が高いものであることを特徴とする、
    熱防御複合材。
  2. 前記アブレータ本体および前記表面強化層は、加熱硬化されることで一体化されているとともに、前記マイクロクラックは、加熱硬化後の冷却に伴って前記表面強化層に発生することを特徴とする、
    請求項1に熱防御複合材。
  3. 前記アブレータ本体の密度は、0.2〜1.0g/cm3 の範囲内であることを特徴とする、
    請求項1または2に記載の熱防御複合材。
  4. 前記アブレータ本体は、前記強化繊維に前記熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる複合材料シートを複数枚積層して積層体を形成してから、加熱硬化することにより得られるものであることを特徴とする、
    請求項1から3のいずれか1項に記載の熱防御複合材。
  5. さらに、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて加熱硬化することにより得られ、前記アブレータ本体よりも高密度であるとともに、前記マイクロクラックを含まない裏面構造層が、前記アブレータ本体の他方の面に対して一体的に設けられていることを特徴とする、
    請求項1から4のいずれか1項に記載の熱防御複合材。
  6. 前記表面強化層および前記裏面構造層の少なくとも一方は、前記強化繊維に前記熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる複合材料シートを複数枚積層して積層体を形成してから、加熱硬化することにより得られるものであることを特徴とする、
    請求項5に記載の熱防御複合材。
  7. アブレータ本体と、当該アブレータ本体の一方の面に一体的に設けられる表面強化層と、を備える熱防御複合材の製造方法であって、
    アブレータ本体の一方の面に対して、強化繊維に前記アブレータ本体よりも高密度となるように熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる表面強化層前駆体を積層して、積層構造体を形成し、
    当該積層構造体を加熱することで、前記表面強化層前駆体から前記熱硬化性樹脂組成物の一部を前記アブレータ本体に浸み込ませながら、前記表面強化層前駆体を硬化させ、
    加熱硬化後に冷却することによって、前記表面強化層に対してマイクロクラックを形成することを特徴とする、
    熱防御複合材の製造方法。
  8. 前記アブレータ本体の他方の面に対して、当該面における前記熱硬化性樹脂組成物の含浸量を増加させた後に、
    強化繊維に前記アブレータ本体よりも高密度となるように熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる裏面構造層前駆体を積層して、積層構造体を形成し、当該積層構造体を加熱することを特徴とする、
    請求項7に記載の熱防御複合材の製造方法。
  9. 前記アブレータ本体の他方の面に対して、当該アブレータ本体よりも高密度であるとともに、前記マイクロクラックを含まない裏面構造層を予め形成した後に、
    前記アブレータ本体の一方の面に表面強化層前駆体を積層して、積層構造体を形成し、当該積層構造体を加熱することを特徴とする、
    請求項7に記載の熱防御複合材の製造方法。

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