JP6107563B2 - 化学蓄熱装置 - Google Patents

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本発明は、気体の反応媒体と反応材との化学反応によって発生する熱により加熱対象を加熱する化学蓄熱装置に関する。
車両等の排気系には、エンジンから排出される排気ガスに含まれる環境汚染物質(HC、CO、NOx等)を浄化するために、触媒等が設けられている。触媒には、浄化能力を活性化するための最適温度(活性温度)が存在する。エンジン始動時は、排気ガスの温度が低く、触媒の活性温度に達するまでに時間を要する。そこで、エンジン始動時等の排気ガスの温度が低いときに触媒の活性温度まで短時間で温度上昇させるために、触媒を暖機するための加熱装置を設ける場合がある。この加熱装置としては、エネルギロス(燃費ロス)を低減して暖機を行うために、化学反応の反応熱を利用した化学蓄熱装置がある。例えば、特許文献1には、触媒の外周部に蓄熱物質を配置させ、蓄熱物質と水との化学反応の反応熱を利用して触媒を暖機する触媒暖機装置が開示されている。特許文献1に記載の装置では反応媒体が液体(水)であるが、反応媒体が気体の場合もある。例えば、特許文献2には、アンモニアの固定化及び脱離が可能に構成されたアンモニアバッファと化学蓄熱材が設けられた化学蓄熱反応器を備えており、アンモニアバッファから化学蓄熱反応器にアンモニアが供給されると化学蓄熱材とアンモニアとの化学反応の反応熱を利用して加熱対象部品を暖機する熱回収式加熱装置が開示されている。
特開昭59−208118号公報 特開2013−72558号公報
気体の反応媒体の場合、蓄熱物質(反応材)を収納する反応器内と気体の反応媒体を吸着する吸着器内との圧力差によって気体の反応媒体を移動させることが可能となる。この場合、反応器内と吸着器内との温度によって平衡吸着圧(反応器内の圧力と吸着器内の圧力とが釣り合う圧力)が決まり、平衡吸着圧と吸着器内の圧力差によって吸着器から反応器への反応媒体の送り速度が決まる。そのため、エンジン始動時のように排気ガスの温度が低く、触媒が活性温度に達していない場合であっても、反応媒体の送り速度を早めることができず、触媒を迅速に昇温できない。
そこで、本発明は、加熱対象を迅速に昇温できる化学蓄熱装置を提供することを課題とする。
本発明に係る化学蓄熱装置は、気体の反応媒体と反応材との化学反応によって発生する熱により加熱対象を加熱する化学蓄熱装置であって、加熱対象を加熱可能な箇所に配置され、反応材を収納する反応器と、反応媒体を吸着材で吸着して貯蔵する吸着器と、反応器と吸着器とを接続する第1接続管と、第1接続管に配設され、反応器に反応媒体を圧送するポンプと、ポンプをバイパスする第2接続管と、ポンプが配設される第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態と非連通状態とに切り換える第1連通手段とを備え、第1連通手段が第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にしている場合、ポンプを作動させることを特徴とする。
この化学蓄熱装置は、吸着器と加熱対象を加熱可能な箇所に配置される反応器を備え、吸着器と反応器とが第1接続管によって接続されている。第1接続管には、反応器に反応媒体を圧送するポンプが配設されている。化学蓄熱装置は、このポンプをバイパスする第2接続管も備えており、吸着器と反応器とが第2接続管のみあるいは第2接続管及び他の接続管(例えば、第1接続管の一部)によって接続されている。吸着器から反応器に反応媒体(気体)を供給する場合には、第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にする。反応器では、吸着器から反応媒体が供給されると、反応材と反応媒体とが化学反応して熱を発生させ、加熱対象を加熱する。反応器から吸着器に反応媒体を回収する場合には、少なくとも第2接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にする。吸着器では、反応器から反応媒体が回収されると、吸着材で反応媒体を吸着して貯蔵する。反応器内の圧力と吸着器内の圧力との圧力差だけで吸着器から反応器に反応媒体を供給する場合、反応器内及び吸着器内の温度に応じて平衡吸着圧が決まり、平衡吸着器と吸着器内の圧力差によって吸着器から反応器への反応媒体の送り速度が決まる。そこで、この化学蓄熱装置は、上記したポンプと第1連通手段を備えている。この第1連通手段は、ポンプが配設される第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態と非連通状態とに切り換えることができる。吸着器から反応器に反応媒体を供給する場合、第1連通手段がポンプが配設される第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にしている場合に、ポンプを作動させる。ポンプを作動させるのは、第1連通手段が反応器と吸着器とを連通状態にしている間は常に作動させてもよいし、あるいは、第1連通手段が反応器と吸着器とを連通状態にしている間の任意の期間だけ作動させてもよい。また、平衡吸着圧になるまでは第2接続管を連通状態にすると第2接続管を介しても反応媒体が流れるので、ポンプの作動中は第2接続管を連通状態にしていてもよいし、あるいは、非連通状態にしていてもよい。ポンプを作動させて、反応媒体を反応器に圧送することにより、反応媒体の送り速度を上げることができるとともに、反応器内の圧力を通常の圧力(平衡吸着圧)よりも上げることができる。反応媒体の送り速度が上がることにより、反応器内に迅速に反応媒体が送り込まれて、反応器での化学反応の反応速度が上がり、化学反応が促進される。また、反応器内の圧力が上ることにより、反応器内の温度が上昇する。さらに、反応器内に供給される反応媒体の量が平衡吸着圧に応じて供給できる反応媒体の量よりも多くなるので、多くの量の反応媒体による化学反応によって、発熱量が増加する。その結果、加熱対象を迅速に昇温できる。このように、化学蓄熱装置は、ポンプによって反応器に気体の反応媒体を圧送することにより、反応器への反応媒体の送り速度を上げるとともに反応器内の圧力を加圧でき、加熱対象を迅速に昇温できる。
本発明の上記化学蓄熱装置では、第2接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態と非連通状態とに切り換える第2連通手段を備え、第1連通手段が第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にしている場合、第2連通手段は反応器と吸着器とを非連通状態にする構成としてもよい。このように、第1連通手段がポンプが配設される第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にしている場合に第2連通手段で第2接続管において反応器と吸着器とを非連通状態とすることにより、反応媒体の供給中にポンプで反応媒体を反応器に圧送しているときに第2接続管を介して反応媒体が反応器に流れることがない。また、反応器内の圧力と吸着器内の圧力とが平衡状態になった後に、反応媒体が吸着器に逆流することも防止できる。
本発明の上記化学蓄熱装置では、ポンプを作動させない場合に反応器での化学反応による最大発熱量によって加熱対象を目標温度まで昇温するために必要となる第1下限温度と、第1下限温度より低い所定温度である第2下限温度とが決まっており、第1連通手段は、ポンプを作動させる場合には、第2下限温度のときに第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にすると好適である。
加熱対象には、目標温度があり、例えば、加熱対象が触媒の場合には触媒の活性温度が目標温度となる。また、反応器内の圧力と吸着器内の圧力の圧力差だけで反応器に反応媒体を供給する場合、反応器での化学反応による最大発熱量は平衡吸着圧に応じて供給できる反応媒体の量と反応材の量によって決まり、その最大発熱量に応じて加熱対象を昇温できる最大温度上昇分が決まる。この場合、加熱対象の目標温度からその昇温できる最大温度上昇分を引いた温度が、加熱対象を目標温度まで昇温するために必要な第1下限温度になる。したがって、ポンプを作動させない場合、この第1下限温度よりも低い温度で第1連通手段が第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にすると、平衡吸着圧になるまで反応媒体が反応器に供給され、その供給された反応媒体の量に応じて化学反応して発熱しても、加熱対象の温度は目標温度まで上がらない。しかし、第1接続管にはポンプが配設されており、そのポンプによって反応媒体を反応器に圧送できる。そのため、上記したように、反応器内の圧力を平衡吸着圧よりも高くすることができ、反応器内の温度を上昇できるとともに、反応器内に供給される反応媒体の量が平衡吸着圧に応じて供給できる反応媒体の量よりも多くでき、発熱量が増加する。この反応器内の加圧による温度上昇分と反応器内の反応媒体の量の増加による温度上昇分によって、上記した通常の加熱対象を昇温できる最大温度上昇分よりも、加熱対象を更に昇温できる。そこで、この化学蓄熱装置では、第1下限温度より低い第2下限温度のときに第1連通手段で第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にし、その第1接続管を介して反応器と吸着器とが連通状態のときにポンプを作動させる。このように、化学蓄熱装置は、加熱対象を目標温度まで昇温するために必要となる第1下限温度よりも低い第2下限温度で第1連通手段が第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にしてもポンプを作動させることによって、加熱対象を目標温度まで昇温できるので、より速いタイミングで反応器への反応媒体の供給を開始でき、加熱対象を目標温度までより迅速に昇温できる。
本発明の上記化学蓄熱装置では、第1連通手段が第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にすると同時にポンプを作動させる構成としてもよい。このように、化学蓄熱装置は、第1下限温度より低い第2下限温度のときに第1連通手段が第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にすると同時にポンプも作動させることにより、反応媒体の供給開始時からポンプによって反応媒体の送り速度を上げることができるので、加熱対象を目標温度まで昇温する時間をより短縮できる。
本発明の上記化学蓄熱装置では、第1連通手段が第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にしたあとにポンプを作動させる構成としてもよい。このように、化学蓄熱装置は、第1連通手段が第1接続管を介して反応器と吸着器とを連通状態にしたあとにポンプを作動させることにより、ポンプを作動させる期間を短くできるので、ポンプによるエネルギ消費量を低減できる。
本発明によれば、ポンプによって反応器に気体の反応媒体を圧送することにより、反応器への反応媒体の送り速度を上げるとともに反応器内の圧力を加圧でき、加熱対象を迅速に昇温できる。
本実施の形態に係る化学蓄熱装置を備える排気ガス浄化システムの概略構成図である。 図1の反応器での圧力―温度特性を示すグラフである。 他の実施の形態に係る化学蓄熱装置を備える排気ガス浄化システムの概略構成図である。
以下、図面を参照して、本発明に係る化学蓄熱装置の実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本実施の形態では、本発明に係る化学蓄熱装置を、車両のエンジンの排気系に設けられる排気ガス浄化システムに備えられる化学蓄熱装置に適用する。本実施の形態に係る排気ガス浄化システムは、エンジン(特に、ディーゼルエンジン)から排出される排気ガス中に含まれる有害物質(環境汚染物質)を浄化するシステムである。本実施の形態に係る排気ガス浄化システムは、触媒のDOC[Diesel Oxidation Catalyst]、SCR[SelectiveCatalytic Reduction]とASC[Ammonia Slip Catalyst]及びフィルタのDPF[Diesel Particulate Filter]を備えている。また、本実施の形態に係る排気ガス浄化システムは、DOCを暖機するための化学蓄熱装置も備えている。
図1を参照して、本実施の形態に係る排気ガス浄化システム1の全体構成について説明する。図1は、本実施の形態に係る排気ガス浄化システムの概略構成図である。
排気ガス浄化システム1は、エンジン2の排気側に接続された排気管3の上流側から下流側に向けて、ディーゼル酸化触媒(DOC)4、ディーゼル排気微粒子除去フィルタ(DPF)5、選択還元触媒(SCR)6、アンモニアスリップ触媒(ASC)7を有している。
DOC4は、排気ガス中に含まれるHCやCO等を酸化する触媒である。DPF5は、排気ガス中に含まれるPMを捕集して取り除くフィルタである。SCR6は、インジェクタ6aによって排気管3内の上流側にアンモニア(NH)あるいは尿素水(加水分解してアンモニアになる)が供給されると、アンモニアと排気ガス中に含まれるNOxとを化学反応させることによって、NOxを還元して浄化する触媒である。ASC7は、SCR6をすり抜けて下流側に流れたアンモニアを酸化する触媒である。
各触媒4,6,7には、環境汚染物質に対する浄化能力を発揮できる温度領域(すなわち、活性温度)が存在する。しかし、エンジン2の始動直後などは、エンジン2から排出された直後の排気ガスの温度は比較的低温であり、その活性温度より低い場合がある。そこで、エンジン2の始動直後などでも、各触媒4,6,7で浄化能力を発揮させるために、各触媒4,6,7での温度を迅速に活性温度にする必要がある。そのために、排気ガス浄化システム1は、触媒の暖機を行う化学蓄熱装置8も有している。化学蓄熱装置8は、最も上流に位置する触媒であるDOC4を外周側から暖機(加熱)する。DOC4の内部には排気ガスが流れているので、排気ガスの流れる最も上流のDOC4で暖機することによって、暖機で昇温した排気ガスが下流の触媒(SCR6、ASC7)の内部にも流れる。なお、本実施の形態では、DOC4が特許請求の範囲に記載する加熱対象に相当する。
図1及び図2を参照して、化学蓄熱装置8について詳細に説明する。図2は、図1の反応器での圧力―温度特性を示すグラフである。
化学蓄熱装置8は、外部エネルギレスで触媒を暖機する化学蓄熱装置である。つまり、化学蓄熱装置8は、通常は排気ガスの熱(排熱)を蓄えておき、必要なときにその熱を使用して触媒(DOC4)を暖機する。化学蓄熱装置8は、反応器9、吸着器(蓄熱器)10、第1接続管11、第2接続管12、第1バルブ13、第2バルブ14、ポンプ15、コントローラ16、温度センサ17を備えている。なお、化学蓄熱装置8では熱を発生させるために化学反応を利用するので、DOC4を暖機する上で基本的には外部エネルギレスであるが、第1バルブ13,第2バルブ14を開閉及びポンプ15を作動させるための外部エネルギは必要となる。
なお、本実施の形態では、第1接続管11が特許請求の範囲に記載する第1接続管に相当し、第2接続管12が特許請求の範囲に記載する第2接続管に相当し、第1バルブ13が特許請求の範囲に記載する第1連通手段に相当し、第2バルブ14が特許請求の範囲に記載する第2連通手段に相当し、ポンプ15が特許請求の範囲に記載するポンプに相当する。
反応器9は、DOC4の外周部(例えば、外筒)の全周に設けられ、断面形状がDOC4を囲むドーナツ形状である。この断面ドーナツ形状の断面は、反応器9を排気ガスの流れる方向に対して垂直に切った流路断面である。反応器9は、アンモニアと化学反応する反応材(蓄熱材)を有しており、この反応材がケーシングに収納されている。反応材とケーシングとの間に、断熱材等を設けてもよい。反応器9では、アンモニアと反応材とが化学反応して化学吸着(配位結合)し、熱を発生させる。また、反応器9では、反応材とアンモニアとが結合した状態で、所定温度以上になると反応材とアンモニアとが分離して、アンモニアを放出し始め、それより高い所定温度になるとアンモニアを殆ど放出する。これらの各温度は、反応材とアンモニアとの組み合わせによって変わる。なお、本実施の形態では、アンモニアが特許請求の範囲に記載する気体の反応媒体に相当する。
反応材は、DOC4の外周部の外周面における全周に接するように配設される。反応材としては、アンモニアと化学反応して発熱し、触媒の活性温度以上に昇温できる材料を用いる。この材料としては、ハロゲン化合物のMXの組成を持つ材料であり、M=Mg、Ca、Srなどのアルカリ土類金属、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどの遷移金属であり、XがCl、Br、Iなどであり、a=2、3である。なお、反応材には、熱伝導性を向上させる添加物を混合してもよい。添加物としては、例えば、カーボンファイバ、カーボンビーズ、SiCビーズ、Cu、Ag、Ni、Ci−Cr、Al、Fe、ステンレスなどのビーズ、高分子ビーズ、高分子ファイバである。
吸着器10は、アンモニアと物理吸着する吸着材としての活性炭が内蔵されている。吸着器10では、アンモニアを活性炭と物理吸着させた状態で貯蔵して、排気ガスの排熱(温まったアンモニア)を蓄えるとともに、アンモニアを活性炭から分離させてアンモニアを放出して、アンモニアを反応器9に供給する。なお、吸着材としては、活性炭以外でもよく、例えば、メソ孔を有するメソポーラスシリカ、メソポーラスカーボンやメソポーラスアルミナ等のメソポーラス材やゼオライト、シリカゲル等がある。
第1接続管11及び第2接続管12は、反応器9と吸着器10とを接続し、反応器9と吸着器10との間でアンモニアを移動させる管路である。特に、第1接続管11は、吸着器10から反応器9にアンモニアを供給するための管路である。一方、第2接続管12は、反応器9から吸着器10にアンモニアを回収するための管路である。
第1バルブ13は、第1接続管11の途中に配設される開閉バルブである。第1バルブ13が開かれると、第1接続管11を介して反応器9と吸着器10とが連通状態となり、反応器9と吸着器10との間でアンモニアの移動が可能となる。第1バルブ13が閉じられると、反応器9と吸着器10とが非連通状態となる。第2バルブ14は、第2接続管12の途中に配設される開閉バルブである。第2バルブ14が開かれると、第2接続管12を介して反応器9と吸着器10とが連通状態となり、反応器9と吸着器10との間でアンモニアの移動が可能となる。第2バルブ14が閉じられると、反応器9と吸着器10とが非連通状態となる。第1バルブ13及び第2バルブ14は、コントローラ16によって開閉制御される。第1バルブ13、第2バルブ14は、電磁式のバルブであり、電流を流したときにバルブが開くタイプとする。なお、第1バルブ13、第2バルブ14は、電磁式以外のバルブでもよい。
ここで、反応器9内の圧力と吸着器10内の圧力との圧力差だけで反応器9にアンモニアを供給する場合について説明しておく。圧力差だけでアンモニアを供給する場合、反応器9及び吸着器10内の温度に応じて平衡吸着圧が決まり、平衡吸着圧と吸着器10内の圧力差によって吸着器10から反応器9へのアンモニアの送り速度が決まる。そのため、エンジン2の始動時などのように排気ガスの温度が低く、触媒が活性温度に達していない場合であっても、アンモニアの送り速度を早めることができない。
また、圧力差だけでアンモニアを供給する場合(ポンプ15を作動させない場合)、反応器9での化学反応による最大発熱量は平衡吸着圧に応じて供給できるアンモニアの量と反応材の量によって決まり、その最大発熱量に応じてDOC4を昇温できる最大温度上昇分が決まる。この場合、DOC4の活性温度(例えば、230℃)からその昇温できる最大温度上昇分を引いた温度が、DOC4の温度を活性温度まで昇温するために必要な第1下限温度(例えば、150℃)になる。したがって、この第1下限温度よりも低い温度で吸着器10から反応器9へのアンモニアの供給を開始すると、平衡吸着圧になるまでアンモニアが反応器9に供給され、その供給されたアンモニアの量に応じて化学反応して発熱しても、DOC4の温度は活性温度まで上がらない。したがって、排気ガスの温度がこの第1下限温度になるまで反応器9へのアンモニアの供給を開始できないので、DOC4を迅速に昇温できない。この第1下限温度については、DOC4の活性温度、化学蓄熱装置8における平衡吸着圧に応じて移動できるアンモニアの量及び反応材の量などから算出することができ、予め設定することができる。なお、本実施の形態では、DOC4の活性温度が特許請求の範囲に記載する加熱対象の目標温度に相当する。
そこで、化学蓄熱装置8は、アンモニア供給用の第1接続管11にポンプ15を備えている。したがって、アンモニア回収用の第2接続管12は、ポンプ15をバイパスする接続管となっている。ポンプ15は、アンモニアを吸着器10側から反応器9側に圧送するポンプである。ポンプ15を作動させることにより、圧力差だけでアンモニアを移動させる場合よりも、反応器9へのアンモニアの送り速度を上げることができる。また、ポンプ15で反応器9内にアンモニアを強制的に送り込むことができるので、圧力差だけでアンモニアを反応器9内に供給する場合よりも、反応器9内に多くの量のアンモニアを供給でき、反応器9内の圧力を平衡吸着圧よりも上げることができる。ポンプ15は、コントローラ16によって作動/停止制御される。
図2には、反応器9の圧力−温度特性を示している。反応器9内の温度T0、圧力P0のときに、第1バルブ13を開くが、ポンプ15を作動させない場合、吸着器10と反応器9間の圧力差だけでアンモニアが反応器9に供給される。この場合、反応器9内の圧力は、最終的に、反応器9内の温度T1に応じた平衡吸着圧P1となる。しかし、反応器9内の温度T0、圧力P0のときに、第1バルブ13を開き、ポンプ15を作動させた場合、吸着器10と反応器9間の圧力差及びポンプ15による圧送によってアンモニアが反応器9に供給される。この場合、反応器9内の圧力は、最終的に、平衡吸着圧P1より高いP2となり、温度もT1より高いT2となる。
このようにポンプ15の作動により、反応器9内の圧力を平衡吸着圧よりも加圧できるので、その加圧分で反応器9内の温度を上昇できる。また、反応器9内に供給されるアンモニアの量が平衡吸着圧に応じて供給できるアンモニアの量よりも多くなるので、その多くの量のアンモニアに応じて化学反応による発熱量が増加する。但し、その多くの量のアンモニアと化学反応できるだけの量の反応材を反応器9内に収納しておく必要がある。この反応器9内の加圧による温度上昇分と反応器9内のアンモニアの量の増加による温度上昇分によって、上記した通常のDOC4を昇温できる最大温度上昇分よりも、DOC4を更に昇温できる。この更なる昇温分は、図2においては温度T1から温度T2への昇温分に相当する。したがって、ポンプ15を作動させた場合には、上記した第1下限温度よりも低い第2下限温度(この第2下限温度を、以下で「アンモニア供給開始温度」と呼ぶ)のときに第1バルブ13を開いて、吸着器10から反応器9へのアンモニアの供給を開始しても、DOC4の温度を活性温度まで上げることができる。アンモニア供給開始温度については、下限温度、化学蓄熱装置8でのアンモニアの量と反応材の量及びポンプ15の能力等によって算出することができ、予め設定できる。
温度センサ17は、DOC4の温度を検出するセンサである。温度センサ17では、一定時間毎に、DOC4の温度を検出し、その検出値を温度信号としてコントローラ16に送信する。なお、温度センサ17では、DOC4自体の温度を直接検出してもよいし、あるいは、DOC4を流れる排気ガスの温度をDOC4の温度として検出してもよい。
コントローラ16は、CPU[CentralProcessing Unit]、ROM[ReadOnly Memory]、RAM[Random Access Memory]などからなり、化学蓄熱装置8を制御する電子制御ユニットである。コントローラ16には、温度センサ17が接続されており、温度センサ17から温度信号を受信し、DOC4の温度を取得する。また、コントローラ16には予め第1下限温度と、アンモニア供給開始温度(第2下限温度)とが記憶されている。コントローラ16では、以下で説明する処理を行い、必要に応じて、第1バルブ13、第2バルブ14、ポンプ15に通電する。
コントローラ16での処理について説明する。コントローラ16では、温度センサ17からの温度信号に基づいてDOC4の温度(排気ガスの温度)がDOC4の活性温度未満の場合にその温度がアンモニア供給開始温度になると、第1バルブ13を開くための電流の供給を開始し、それと同時にポンプ15を作動させるための電流の供給を開始する。
第1バルブ13及びポンプ15への通電中に、コントローラ16では、温度センサ17からの温度信号に基づいてDOC4の温度(排気ガスの温度)がDOC4の活性温度より高くなると、第1バルブ13への電流の供給を停止するとともに第2バルブ14を開くための電流の供給を開始し、それと同時にポンプ15への電流の供給を停止する。第2バルブ14への通電中に、コントローラ16では、吸着器10内の圧力がアンモニアの満貯蔵状態を示す圧力値になると、第2バルブ14への電流の供給を停止する。なお、吸着器10には、吸着器10内の圧力を検出する圧力センサ(図示せず)が設けられている。
以上のように構成した排気ガス浄化システム1における化学蓄熱装置8の動作を説明する。車両停止中(エンジン2が停止中)は、第1バルブ13、第2バルブ14は閉じられ、ポンプ15は停止している。したがって、吸着器10において活性炭からアンモニアが分離していても、第1接続管11を介してアンモニアが反応器9に供給されない。
エンジン2が始動後に、エンジン2から排出された排気ガスの温度がより低いときには(エンジンの始動直後など)、DOC4では排気ガスを浄化できない。この際、コントローラ16では、温度センサ17で検出されたDOC4の温度がDOC4の活性温度より低い場合にその温度がアンモニア供給開始温度になったと判断すると、第1バルブ13への電流の供給を開始するとともに、ポンプ15への電流の供給を開始する。第1バルブ13では、供給された電流が流れると、バルブを開く。これによって、第1接続管11でのアンモニアの移動が可能となる。このとき、吸着器10内の圧力が反応器9内の圧力よりも高く、アンモニアが反応器9側に移動する。さらに、ポンプ15では、供給される電流に応じて作動する。これによって、第1接続管11内を流れるアンモニアが、高い送り速度で反応器9に送り込まれる。反応器9では、急速に送り込まれるアンモニアにより、高い反応速度でアンモニアと反応材とが化学反応して化学吸着し、急速に多くの熱を発生する。この熱は、DOC4の外周部を介してDOC4に伝わり、伝熱効果によってDOC4の内部にまで伝わる。これによって、DOC4全体が急速に加熱され、DOC4が迅速に昇温する。そして、DOC4の温度が活性温度以上になると、DOC4で排気ガスを浄化できる。そして、コントローラ16では、温度センサ17で検出されたDOC4の温度がDOC4の活性温度より高くなったと判断すると、第1バルブ13への電流の供給を停止するとともに、ポンプ15への電流の供給を停止する。第1バルブ13では、電流が供給されなくなると、バルブを閉じる。これによって、第1接続管11でのアンモニアの移動が不可となる。さらに、ポンプ15も、電流が供給されなくなると、停止する。
その後、エンジン2から排出された排気ガスの温度が高くなると、排気ガスの排熱によって、反応器9では、アンモニアと反応材とが分離し、アンモニアが発生する。この際、コントローラ16では、温度センサ17で検出されたDOC4の温度が反応材からアンモニアが分離する温度より高くなったと判断すると、第2バルブ14への電流の供給を開始する。第2バルブ14では、供給された電流が流れると、バルブを開く。これによって、第2接続管12でのアンモニアの移動が可能となる。このとき、反応器9内の圧力が吸着器10内の圧力よりも高く、アンモニアが吸着器10側に移動する。吸着器10では、吸着材がアンモニアを物理吸着して貯蔵する。コントローラ16では、圧力センサで検出された吸着器10内の圧力がアンモニアの満貯蔵状態を示す圧力になると、第2バルブ14への電流の供給を停止する。第2バルブ14では、電流が供給されなくなると、バルブを閉じる。これによって、第2接続管12でのアンモニアの移動が不可となる。
この化学蓄熱装置8によれば、ポンプ15によって反応器9にアンモニアを圧送することにより、反応器9へのアンモニアの送り速度を上げるとともに反応器9内の圧力を加圧でき、DOC4を迅速に昇温できる。その結果、早期に、DOC4の活性温度に達し、DOC4で排気ガスを浄化できる。
また、化学蓄熱装置8によれば、DOC4を活性温度まで昇温するために必要となる通常の下限温度より低い温度のときに第1バルブ13を開いても、DOC4を活性温度までの昇温できるので、より速いタイミングで反応器9へのアンモニアの供給を開始でき、DOC4を活性温度までより迅速に昇温できる。さらに、化学蓄熱装置8によれば、その下限温度より低い温度のときに第1バルブ13を開くと同時にポンプ15も作動させることにより、アンモニアの供給開始時から送り速度を上げることができるので、DOC4を活性温度まで昇温する時間をより短縮できる。
また、化学蓄熱装置8によれば、第1バルブ13を開いているとき(特に、ポンプ15を作動させて反応器9にアンモニアを圧送しているとき)には、第2バルブ14を閉じることにより、アンモニアの供給中にアンモニアが第2接続管12を介して反応器9に流れることがなく、また、反応器9内の圧力と吸着器10内の圧力とが平衡状態になった後にアンモニアが吸着器10に逆流することも防止できる。
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
例えば、本実施の形態では触媒としてDOC、SCR及びASC、フィルタとしてDPFを備える排気ガス浄化システムに適用したが、他の様々な構成の排気ガス浄化システムに適用できる。例えば、SCRの上流に分散装置(分散板+ミキサ、スワラタイプ、ミキサタイプ、ハニカムタイプ等)を備えるシステムでもよい。また、車両はディーゼルエンジン車としたが、ガソリンエンジン車等にも適用できる。また、車両以外の排気ガス浄化システムにも適用できる。また、排気ガス浄化システム以外にも適用できる。
また、本実施の形態では化学蓄熱装置に対する制御を専用のコントローラで行う構成としたが、エンジンのECUなどの他の制御ユニットの1つの機能として化学蓄熱装置に対する制御を行ってもよい。
また、本実施の形態では化学蓄熱装置の加熱対象として触媒のDOCとしたが、加熱対象としては他のものでよく、例えば、SCR等の他の触媒、分散装置がある。また、本実施の形態では気体の反応媒体をアンモニアとしたが、二酸化炭素等の他の気体の媒体でもよい。また、本実施の形態では反応器(反応材)をDOCの外周部の全周に設ける構成としたが、全周に設けない構成でもよいし、また、加熱対象を加熱可能な箇所としては、加熱対象の外周部以外の箇所(加熱対象の上流部、加熱対象の内部等)に設ける構成でもよい。
また、本実施の形態では触媒を活性温度まで昇温するために必要となる第1下限温度より低い第2下限温度(アンモニア供給開始温度)のときに第1バルブを開き、それと同時にポンプを作動させる構成としたが、触媒を活性温度(加熱対象の目標温度)まで昇温するために必要となる第1下限温度のときに第1バルブを開き、ポンプを作動させる構成としてもよいし、あるいは、第2下限温度のときに第1バルブを開くが、第1バルブを開いたあとの所定のタイミングでポンプを作動させる構成としてもよい。このポンプを作動させるタイミングとしては、例えば、反応器内の温度が第2下限温度(アンモニア供給開始温度)から通常の最大温度上昇分(圧力差だけによる最大発熱量による温度上昇分)上昇したタイミングとする。このタイミングでポンプを作動させることにより、ポンプの作動を最も遅らせることでき、エネルギ消費量を最も低減できる。また、本実施の形態では触媒の活性温度より高くなったときに第1バルブを閉じ、それと同時にポンプを停止させ、第1バルブが開いている間は常にポンプを作動させる構成としたが、第1バルブを閉じる前の所定のタイミングでポンプを停止させてもよい。このように、ポンプの作動させる期間を短縮することにより、エネルギ消費量を低減できる。
また、化学蓄熱装置としては図3に示す他の実施の形態に係る化学蓄熱装置20としてもよい。化学蓄熱装置20は、反応器9、吸着器10、接続管21、バイパス管22、開閉バルブ23、方向切換バルブ24、ポンプ25、コントローラ26、温度センサ17を備えている。この実施の形態では、接続管21が特許請求の範囲に記載する第1接続管に相当し、バイパス管22が特許請求の範囲に記載する第2接続管に相当し、開閉バルブ23及び方向切換バルブ24が特許請求の範囲に記載する第1連通手段及び第2連通手段に相当し、ポンプ25が特許請求の範囲に記載するポンプに相当する。接続管21は、反応器9と吸着器10とを接続し、反応器9と吸着器10との間でアンモニアを移動させる管路である。バイパス管22は、一端が方向切換バルブ24に接続され、他端が接続管21における吸着器10とポンプ25との間に配設され、ポンプ25をバイパスしてアンモニアを移動させる管路である。開閉バルブ23は接続管21における反応器9と方向切換バルブ24との間に配設され、開閉バルブ23によって接続管21における反応器9と方向切換バルブ24との間を連通状態と非連通状態を切り換える。方向切換バルブ24は、接続管21の途中に配設されるとともにバイパス管22の一端が接続され、方向切換バルブ24によって吸着器10側を接続管21とバイパス管22とに切り換える。したがって、開閉バルブ23が開いて接続管21における反応器9と方向切換バルブ24とを間を連通状態としかつ方向切換バルブ24が吸着器10側を接続管21に切り換えている場合には接続管21だけを介して反応器9と吸着器10とが連通状態となり、開閉バルブ23が開いて接続管21における反応器9と方向切換バルブ24との間を連通状態としかつ方向切換バルブ24が吸着器10側をバイパス管22に切り換えている場合には接続管21の一部とバイパス管22を介して反応器9と吸着器10とが連通状態となる。ポンプ25は、接続管21における方向切換バルブ24とバイパス管22の接続箇所との間に配設される。コントローラ26では、アンモニアを吸着器10から反応器9に供給する場合には開閉バルブ23を開きかつ方向切換バルブ24で吸着器10側を接続管21に切り換えるための制御を行うとともにこの制御で接続管21だけを介して反応器9と吸着器10とが連通状態になっている間にポンプを作動させる制御を行い、アンモニアを反応器9から吸着器10に回収する場合には開閉バルブ23を開きかつ方向切換バルブ24で吸着器10側をバイパス管22に切り換えるための制御及びポンプを停止させる制御を行う。なお、上記の構成以外にも、開閉バルブ23を無くして、バイパス管22の途中及び接続管21における方向切換バルブ24とポンプ25との間にそれぞれ開閉バルブを配設する構成等もある。
1…排気ガス浄化システム、2…エンジン、3…排気管、4…ディーゼル酸化触媒(DOC)、5…ディーゼル排気微粒子除去フィルタ(DPF)、6…選択還元触媒(SCR)、6a…インジェクタ、7…アンモニアスリップ触媒(ASC)、8,20…化学蓄熱装置、9…反応器、10…吸着器、11…第1接続管、12…第2接続管、13…第1バルブ、14…第2バルブ、15,25…ポンプ、16,26…コントローラ、17…温度センサ、21…接続管、22…バイパス管、23…開閉バルブ、24…方向切換バルブ。

Claims (3)

  1. 気体の反応媒体と反応材との化学反応によって発生する熱により加熱対象を加熱する化学蓄熱装置であって、
    前記加熱対象を加熱可能な箇所に配置され、反応材を収納する反応器と、
    反応媒体を吸着材で吸着して貯蔵する吸着器と、
    前記反応器と前記吸着器とを接続する第1接続管と、
    前記第1接続管に配設され、前記反応器に反応媒体を圧送するポンプと、
    前記ポンプをバイパスする第2接続管と、
    前記ポンプが配設される前記第1接続管を介して前記反応器と前記吸着器とを連通状態と非連通状態とに切り換える第1連通手段と、
    を備え、
    前記第1連通手段が前記第1接続管を介して前記反応器と前記吸着器とを連通状態にしている場合、前記ポンプを作動させ
    前記ポンプを作動させない場合に前記反応器での化学反応による最大発熱量によって前記加熱対象を目標温度まで昇温するために必要となる第1下限温度と、前記第1下限温度より低い所定温度である第2下限温度とが決まっており、
    前記第1連通手段は、前記ポンプを作動させる場合には、前記第2下限温度のときに前記第1接続管を介して前記反応器と前記吸着器とを連通状態にすることを特徴とする化学蓄熱装置。
  2. 前記第1連通手段が前記第1接続管を介して前記反応器と前記吸着器とを連通状態にすると同時に前記ポンプを作動させることを特徴とする請求項に記載の化学蓄熱装置。
  3. 前記第1連通手段が前記第1接続管を介して前記反応器と前記吸着器とを連通状態にしたあとに前記ポンプを作動させることを特徴とする請求項に記載の化学蓄熱装置。
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