JP6107220B2 - セルロースエステル系繊維および繊維構造物 - Google Patents

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Description

本発明は、繊維表層部に特定の被膜を有するセルロースエステル系繊維に関するものである。より詳しくは、アミノ変性シリコーンからなる厚みの平均値が10〜200nmの被膜を有することによって、持続可能な耐摩耗性を有するセルロースエステル系繊維に関する。
セルロースジアセテートやセルローストリアセテートなどのセルロースエステル繊維は、吸湿性、発色性などに優れることから衣料用素材として好適に用いられてきた。また、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどからなるセルロース混合エステル繊維は、熱可塑性が高いため溶融紡糸によって製造が可能であり、衣料用繊維素材としての使用が開始されている。しかし、これらのセルロースエステル系繊維は、染色処理などの湿熱処理において繊維の機械物性が低下しやすい傾向にあり、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維と比較して、耐摩耗性に劣るという問題があった。
一方で、繊維の摩擦堅牢度改善手法については様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1においては、非イオン性のシリコーン系柔軟仕上げ油剤とエポキシ化合物の混合液でセルロース系織物を処理することにより、ウォッシュアンドウエア性と引き裂き強力を向上させる方法が提案されている。
特許文献2においては、有機溶媒中で繊維製品にシリコーンオイルとフェノール性水酸基含有化合物とを付与することにより、繊維の染色摩擦堅牢度を向上させる方法が提案されている。
特開平8−92871号公報 特開昭62−078288号公報
しかし、特許文献1の非イオン性のシリコーン化合物をセルロースエステル系繊維に適用した場合、セルロースエステル系繊維と非イオン性シリコーン化合物の間の相互作用が弱く、洗濯後にシリコーン化合物が脱落して十分な効果を得られない問題があった。また、特許文献2の方法をセルロースエステル系繊維に適用する場合、環境負荷の高い有機溶媒を大量に用いる問題がある他、摩擦堅牢度が低いなどの問題があった。
そのため、洗濯耐久性に優れる持続可能な摩擦堅牢度を有しつつ、衣料用途などにおいて好適に用いることができるセルロースエステル系繊維および繊維構造物はこれまでに得られていなかった。
本発明が解決しようとする課題は、従来の問題点を解決し、洗濯耐久性に優れる持続可能な耐摩耗性を有する、衣料用途などにおいて好適に用いることができるセルロースエステル系繊維および繊維構造物を提供することである。
上記の課題は、繊維表層部にアミノ変性シリコーンの被膜を有し、膜の厚みの平均値が10〜200nmの範囲であり、セルロースエステルの残存水酸基数が、グルコース単位あたり0.1〜1.0であることを特徴とするセルロースエステル系繊維によって解決できる。またセルロースエステルがセルロースアセテートプロピオネートおよび/またはセルローアセテートブチレートからなることが好適に採用できる。また、アミノ変性シリコーンのアミノ基当量が1000〜8000g/molであることが好適に採用できる。
また、本発明の課題は、上記のセルロースエステル系繊維を主体に構成されてなる繊維構造物によっても解決が可能である。
本発明によれば、洗濯耐久性に優れる良好な摩擦堅牢度を有するセルロースエステル系繊維を提供することができるため、着用時の磨耗による変色や風合いの劣化などが生じず、特に衣料用途において好適に用いることができる。
図1(a)は、実施例1で製造したセルロースエステル繊維の単糸断面を示す図面代用写真である。 図1(b)は、図1(a)に記載された矢印上でエネルギー分散型X線分析(EDX)を行った結果のグラフである。 図2は、セルロース混合エステル繊維の製造に用いうる装置の模式図である。
本発明は、洗濯耐久性に優れた耐摩耗性を有するセルロースエステル系繊維に関するものであり、具体的には繊維表層部にアミノ変性シリコーンの被膜を有し、該被膜の厚みの平均値が10〜200nmの範囲であることを特徴とするセルロースエステル系繊維に関するものである。ここでセルロースエステルとは、セルロースの繰り返し単位であるグルコースユニットに存在する3つの水酸基の一部が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、フタロイル基、ベンゾイル基などのアシル基によって置換されたものである。
アミノ変性シリコーンとの相互作用を強固に行わせる観点から、上記セルロースエステルの残存水酸基数はグルコース単位あたり0.1以上である0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることがさらに好ましい。一方、セルロースエステル系繊維の特徴を発現するためには残存水酸基の数は1.0以下であることが好ましい。
本発明で用いるセルロースエステルの具体例としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、アセルローアセテートフタレートなどが挙げられる。セルロースアセテートの場合は、置換度が2.0〜2.7程度のセルロースジアセテート、置換度が2.9〜2.95程度のセルローストリアセテートのいずれも採用することが可能である。
セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなど、アセチル基とともに、より長鎖のアシル基も有するものはセルロース混合エステルと呼ばれることがあるが、本発明においてセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース混合エステルはプロピオニル基、ブチリル基などの長鎖アシル基の効果によって、繊維の可撓性が向上し、耐摩耗性が良好となる観点から好ましく採用できる。
セルロース混合エステルを採用する場合、アセチル基とその他のアシル基のそれぞれのエステル置換度は、セルロースエステル系繊維の吸湿性、発色性、耐熱性などの観点から、適宜決定することができるが、アセチル基の置換度とアセチル基以外のアシル基の置換度の総和、すなわちトータル置換度が2.0より高いことが好ましい。
セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は5万〜25万であることが好ましい。Mwが5万未満の場合には繊維の引張強度などの機械特性が低くなるため、耐摩耗性が本質的に悪化する傾向にある。Mwが25万を越えると、紡糸時の粘度が非常に高くなるため、製糸性が悪化して均一性に乏しい繊維となることがあり、結果的に繊維の耐摩耗性が悪化することがある。繊維の機械特性、紡糸時の製糸安定性の観点から、Mwは6万〜22万であることがより好ましく、8万〜20万であることがさらに好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されたポリスチレン換算の値である。
本発明の繊維は、繊維表面に厚みの平均値が10〜200nmのアミノ変性シリコーンの被膜を有することが重要である。繊維の横断面が円形の場合には、アミノ変性シリコーン被膜が繊維表面に同心円状に存在することが好ましく、繊維の横断面が異型断面である場合には、その形状と相似形を形成するように繊維の表面に均一な被膜が存在することが好ましい。
本発明においては上記厚みの平均値が10〜200nmのアミノ変性シリコーンの被膜を繊維の表面に有することで、摩擦堅牢度が良好であるだけでなく、その洗濯堅牢度にも優れたセルロースエステル系繊維が得られる。膜厚の平均値が10nmより小さい場合、洗濯耐久性と摩擦堅牢度が低下することがあり、膜厚の平均値が200nmより大きい場合は、衣服として着用使用に際しての洗濯履歴および着用時の擦れや負荷によって、アミノ変性シリコーンの膜が逆に脱落しやすくなり、好ましくない。また、アミノ変性シリコーン以外の架橋剤などの成分があっても逆に膜が硬くなることによって脱落しやすくなり、好ましくない。
摩擦堅牢度とその洗濯耐久性が両立される観点から、繊維の表面に被膜として存在するアミノ変性シリコーンの厚みの平均値は、15〜150nmの範囲であることがより好ましく、20〜100nmの範囲であることがさらに好ましい。
アミノ変性シリコーンの膜の厚みを算出するには、繊維の横断面切片を作成して必要に応じてルテニウム染色を行い、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて本発明のセルロースエステル系繊維の繊維断面を倍率100,000倍で観察することで可能である。被膜の存在および形状を確認する場合は、同様の方法で倍率10,000倍で観察することで可能である。アミノ変性シリコーン被膜の厚みの平均値はSTEM写真より膜厚を測定して直接算出することができる。この際、STEM写真は膜厚を測定しやすいサイズに拡大してもよい。なお、平均値とは無作為に選んだ単繊維1本のそれぞれ別の部分を写した2つの繊維断面の像(倍率100,000倍)から、1つの繊維断面の像につき無作為に2ヶ所あるいは3ヶ所、2つの繊維断面の像の合計で5ヶ所についてアミノ変性シリコーン被膜の膜厚を求め、その算術平均の値をいう。
アミノ変性シリコーンとは、アミノ末端基をその分子構造の一部に有するシリコーンのことである。アミノ官能基を含む環状あるいは直鎖状のシロキサンオリゴマーと、環状あるいは直鎖状のジメチルシロキサンオリゴマーを、酸またはアルカリの存在下で反応させることにより製造され、繊維製品においても柔軟性付与の目的で活用されている。アミノ変性シリコーンは、ジメチルシリコーンやエポキシ変性シリコーンなどの非イオン性のシリコーン化合物と比較して、セルロースエステル系繊維に付与した際に高い洗濯耐久性と摩擦堅牢度を得ることができる。その理由としてはアミノ変性シリコーンのイオン性を有するアミノ基が、セルロースエステル系繊維の残存水酸基やエステル基と強固に相互作用していることが考えられる。
このようなアミノ変性シリコーンの例としては、信越化学工業社のKF858、KF859、KF860(アミノ基当量=7600g/mol)、KF865(アミノ基当量=5000g/mol)、KF868(アミノ基当量=8800g/mol)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社(以下、モメンティブ社)のTSF4702(アミノ基当量=1600g/mol)、TSF4706(アミノ基当量=2100g/mol)、東レ・ダウコーニング社のBY16−849(アミノ基当量=600g/mol)、BY16−850、BY16−853U(アミノ基当量=450g/mol)、BY16−872(アミノ基当量=1800g/mol)、BY16−879B、BY−16−890(アミノ基当量=1900g/mol)、BY16−892(アミノ基当量=2000g/mol)、SF8417(アミノ基当量=1800g/mol)、FZ−3760(アミノ基当量=1500g/mol)、FZ−3785(アミノ基当量=6000g/mol)などが例示される。
アミノ変性シリコーンは、主鎖であるシリコーン分子鎖の側鎖にアミノ官能基を含む側鎖型アミノ変性シリコーンや、主鎖であるシリコーン分子鎖の両末端にアミノ官能基を含む両末端型アミノ変性シリコーン、主鎖であるシリコーン分子鎖の側鎖および両末端にアミノ官能基を含む側鎖両末端型アミノ変性シリコーンなどに分類される。
本発明においては側鎖型アミノ変性シリコーン、側鎖両末端型アミノ変性シリコーンが好ましく、より好ましくは側鎖型アミノ変性シリコーンである。このような側鎖型アミノ変性シリコーンの例としては、信越化学工業社のKF859、KF860、KF865、KF868、東レ・ダウコーニング社のBY16−205、BY−16−849、BY−16−890、BY16−892、SF8417、FZ−3760、FZ−3785などが挙げられる。
アミノ官能基の構造としては、−RNHで示されるモノアミンタイプ(Rは炭素数1〜18の炭化水素鎖を示す。)、−RNHR’NH(RおよびR’は炭素数1〜18の炭化水素鎖を示し、RとR’は同一でも異なっていても良い。)で示されるジアミンタイプ、−R(NH)NHR’NH(RおよびR’は炭素数1〜18の炭化水素鎖を示す。)で示されるトリアミンタイプが好ましく、より好ましくはジアミンタイプ、トリアミンタイプである。
モノアミンタイプのシリコーンとしては、信越化学工業社のKF865、KF868などが挙げられる。ジアミンタイプのシリコーンとしては、信越化学工業社のKF859、KF860、東レ・ダウコーニング社のBY16−205、BY16−849、BY16−872、BY16−892、SF8417、FZ−3760、FZ−3785などが挙げられる。トリアミンタイプのシリコーンとしては、モメンティブ社のTSF4702、TSF4706などが挙げられる。
アミノ基当量とは、アミノ変性シリコーンの質量(g)をアミノ変性シリコーン中に含まれるアミノ官能基のモル数(mol)で除した値であり、その単位はg/molで表される。
アミノ基当量が低い場合、アミノ基が多く存在するためセルロースエステル系繊維に付与した際に高い洗濯耐久性と摩擦堅牢度を得ることができるが、低すぎるとアミノ変性シリコーンが黄変しやすくなり、セルロースエステル系繊維の色調を損なう場合がある。
アミノ基当量が高い場合、アミノ基の存在が少ないためアミノ変性シリコーンが黄変しにくくなり、セルロースエステル系繊維の色調を損なわないが、高すぎるとセルロースエステル系繊維に付与した際の洗濯耐久性と摩擦堅牢度が低下する場合がある。
本発明では、アミノ変性シリコーンのアミノ基当量は1000〜8000g/molの範囲であることが好ましい。より好ましくは1500〜7000g/molの範囲であり、さらに好ましくは2000〜6000g/molの範囲である。
アミノ変性シリコーンを含有する繊維加工薬剤の例としては、一方社油脂工業社の“シリコーラン”ANF20、“シリコーラン”ANS30、“シリコーラン”ANF40、“シリコーラン”ANX50、“シリコーラン”AN2800、モメンティブ社のUM−120などが例示される。アミノ変性シリコーンの重合度は50〜2000であることが得られる被膜の均一性の点から好ましい。
本発明では、アミノ基当量は次のように算出する。まず、アミノ変性シリコーン1gを秤量し、トルエン/エタノール=4/1(重量比)の混合溶媒25mlを加えて溶解させる。その後、規定液濃度の2−プロパノール性塩酸で滴定を行う。指示薬にはチモールブルーを用いる。アミノ基当量は下記の式で算出される。
アミノ基当量=(1000×試料重量(g))/(滴定量(mL)×規定液濃度(mol/L))
繊維加工薬剤等アミノ変性シリコーンを含む試料の場合は、試料からアミノ変性シリコーンを抽出し、アミノ基当量を測定する。その場合は、次のように操作する。
まず試料10gをエバポレーターにて脱水あるいは脱溶媒し、残った残渣にメタノール100mlとヘキサン100mlを加え、よく攪拌する。混合液を分液ロートに移し、メタノール層、メタノール/ヘキサンの混合層を分液ロートから分離し、ヘキサン層のみを取り出す。メタノール層、メタノール/ヘキサンの混合層の混合液にヘキサン100mlを追加で加えてよく攪拌し、再度分液操作を行ってヘキサン層のみを抽出する。この分液操作を3回行った後、分離されたすべてのヘキサン層に対し、エバポレーターを用いて脱ヘキサン操作を行い、アミノ変性シリコーンを得る。
本発明のセルロースエステル系繊維の引張強度は0.6cN/dtex以上であることが好ましい。引張強度が0.6cN/dtex以上であれば、最終製品の強度も不足することがないため耐磨耗性を維持する観点から好ましい。引張強度は高ければ高いほど実用範囲が広がり各種用途に展開できるため好ましいが、現状では2.2cN/dtexが上限である。引張強度は0.7cN/dtex以上であることがより好ましく、0.8cN/dtex以上であることがさらに好ましい。
本発明のセルロースエステル系繊維の伸度は5〜50%であることが好ましい。伸度が5%以上である場合には、使用時に毛羽発生などのトラブルが少なく耐摩耗性の観点からは好ましい。伸度は7%以上であることがより好ましく、さらには10%以上であることが好ましい。伸度が50%以下であれば、繊維そのものの変形によるアミノ変性シリコーンの剥離などの問題を回避することができるので好ましい。剥離を抑制する観点からは伸度が40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがより好ましく、さらには20%以下であることが好ましい。
本発明のセルロースエステル繊維の製造方法は従来公知の方法を用いることができる。すなわちセルロースジアセテートの場合には、アセトンなどの有機溶媒にセルロースジアセテートを一旦溶解させて、これを加熱空気中へ押し出しアセトンなどの有機溶媒の蒸発によって固化させる乾式紡糸法で製造することができる。セルローストリアセテートの場合には、塩化メチレンとメタノールの混合溶媒などを用いて、セルロースジアセテートと同様に乾式紡糸法によって製造することができる。これらの乾式紡糸において紡糸油剤を付与した場合には、アミノ変性シリコーンを用いた処理を行う前に除去しておくことが好ましい。
セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース混合エステルの場合には、溶融紡糸法を採用することもできる。溶融紡糸法を用いる場合には、セルロース混合エステルを主体とした熱可塑性組成物を用いて溶融紡糸を行うことができる。熱可塑性組成物の熱流動性を良好なものとするために、組成物全体に対して5〜30重量%の可塑剤を含有したものを用いることができる。可塑剤の含有量は溶融紡糸における製糸性の観点から10〜20重量%とすることも好ましく採用できる。具体的な可塑剤としては、ポリアルキレングリコール、グリセリンエステルなど公知のものを使用できるが、なかでもポリアルキレングリコールが好適に用いられる。ポリアルキレングリコールの具体例としては、重量平均分子量が200〜4000であるポリエチレングリコールが好適である。可塑剤は単独もしくは併用して使用することができる。
溶融紡糸法によって繊維を製造する場合には紡糸に供する熱可塑性組成物は、リン系酸化防止剤を含有していることが好ましく、特にペンタエリスリトール系化合物が好ましい。リン系酸化防止剤を含有している場合、紡糸温度が高い範囲および低吐出領域においても熱分解防止効果が良好であり、セルロースエステル系繊維の機械特性や色調の悪化が抑制される。リン系酸化防止剤の配合量は、組成物全体に対して0.005〜0.5重量%であることが好ましい。
本発明のセルロースエステル系繊維は、艶消剤、難燃剤、滑剤、顔料、染料、その他繊維用途において一般的に用いられる添加剤などを含有していてもよい。
セルロース混合エステルを主体とする熱可塑性組成物を用いた溶融紡糸の方法については図2に示す溶融紡糸装置を用いて、公知の溶融紡糸方法を採用することができる。
図2は、セルロース混合エステル繊維の製造に用いうる装置の模式図である。溶融状態のセルロースエステルを主体とする熱可塑性組成物は、スピンブロック3に装着された溶融紡糸パック4の下部に取り付けられた紡糸口金5の吐出孔より押し出される。押し出された紡出糸条8は、冷却開始点6より冷却装置7により室温まで冷却され、給油装置9により紡糸油剤が付与され、所定の速度で回転する第1ゴデットローラー10、第2ゴデットローラー11を介して、巻取機によって、パッケージ12として巻き取られる。紡糸口金より吐出した糸条の冷却風速度は0.01m/秒〜1m/秒であることが好ましい。冷却風の温度は15〜30℃とすることができる。紡糸速度は750m/分〜3500m/分であることが好ましい。紡糸速度を750m/分〜3500m/分とすることで、得られる繊維の分子配向が十分に促進される紡糸応力がかかり、繊維特性に優れた繊維を得ることができる。紡糸速度は1000m/分〜3000m/分であることがより好ましく、1250m/分〜2500m/分であることがさらに好ましい。
溶融紡糸において紡糸油剤を付与する場合には、アミノ変性シリコーンを用いた処理を行う前に紡糸油剤を除去することが好ましい。この除去において水溶性の可塑剤は同時に除去しておくことが好ましい。
本発明の繊維構造物は、繊維表層部にアミノ変性シリコーンの被膜を有し、該被膜の平均値が10〜200nmの範囲であるセルロースエステル系繊維を主として構成されてなるものである。優れた耐摩耗性を発現するためには、被膜の厚みの最も薄い部分でも5nm以上であることが好ましく、最も厚い部分でも800nm以下であることが好ましい。本発明ではアミノ変性シリコーンの被膜が均一に繊維を被覆した構造となっているため、洗濯や物理的磨耗によって失われることのない耐久性のすぐれた耐摩耗性を有する繊維構造物となる。
本発明の繊維構造物は本発明のセルロースエステル系を主体に構成されてなるものであるが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル繊維やその共重合体繊維、ナイロン6,ナイロン6・6などのポリアミド繊維やその共重合体繊維、あるいはそれらのバイメタル複合、芯鞘複合などの複合繊維とあわせて用いることができる。また、綿、麻、絹などの天然繊維、ビスコースレーヨンなどの再生繊維などとあわせて用いることができる。本発明の繊維構造物におけるセルロースエステル系繊維の混率としては重量で50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが最も好ましい。
本発明のセルロースエステル系繊維とその他の繊維との混用形態については、特に制限はなく、交撚、交絡、複合仮撚などによって糸条として複合されたものであってもよいし、それぞれ経糸、緯糸に用いるなどによって布帛の段階で混合するようにしたものであってもよい。
繊維構造物の形態に特に制限はなく、タフタ、ツイル、サテンなどの基本組織の他、デシン、ジョーゼット、アムンゼンなどの各種の織物、または天竺、スムース、トリコットなどの編物の形態であることができる。
本発明の繊維構造物は、セルロースエステル系繊維の表面に特定のアミノ変性シリコーン被膜が存在しているため、耐摩耗性が良好なものであるが、この耐摩耗性は洗濯などの水洗によっても効果が失われない。洗濯10回処理後であっても、耐摩耗性は良好な特性を有する特徴がある。
本発明の繊維構造物は、繊維表層部にアミノ変性シリコーンの被膜を有するセルロースエステル系繊維を主体に構成されてなるものであるが、該セルロースエステル系繊維は、被膜の厚みの平均値が10〜200nmの範囲となるようにセルロースエステル系繊維の表層に存在するよう、アミノ変性シリコーンを付与することによって製造が可能である。具体的には、セルロースエステル系繊維にアミノ変性シリコーンを付着させるにあたって、アミノ変性シリコーンを含む水溶液あるいは水懸濁液である処理液にセルロースエステル系繊維を浸漬した後、40〜90℃の範囲で湿熱処理するか、80〜160℃の範囲で乾熱処理することによって製造が可能である。
好ましい付着方法の例としては、セルロースエステル系繊維を主体に構成されてなる繊維構造物を作成した後、精練によって紡糸時の油剤を除去し、アミノ変性シリコーンを含む水溶液あるいは水懸濁液である処理液に繊維構造物を浸漬し、絞り工程によって余分な処理液を取り除いた後、80〜160℃の範囲で乾熱処理する方法(いわゆるPad−Dry法)が挙げられる。他の方法としては、セルロースエステル系繊維を主体に構成されてなる繊維構造物を作成した後、精練によって紡糸油剤を除去し、アミノ変性シリコーンを含む水溶液あるいは水懸濁液である処理液中で繊維構造物の湿熱処理を40〜90℃で行う方法(いわゆる浴中処理法)が挙げられる。後者の場合にも、その後80〜160℃で乾熱処理を追加することもできる。精の方法としては、0〜60℃の水に繊維構造物を10分間漬けた後、水に水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリと洗浄用の界面活性剤を添加した溶液を20〜100℃に加熱し、その溶液中に繊維構造物を10〜60分間浸漬するなどの方法が挙げられる。
膜厚の調整は、ベースとなる繊維の形状、組成、処理条件によっても異なるが、アミノ変性シリコーンの濃度を調整することによっても可能である。好ましいアミノ変性シリコーンの濃度は、処理液に対して10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく3重量%以下であることがさらに好ましい。十分な厚みの被膜を形成する観点からは、アミノ変性シリコーンの濃度は、処理液に対して0.05重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることが好ましく、0.2重量%以上であることがさらに好ましい。
本発明のセルロースエステル系繊維および繊維構造物は、耐久性に優れた耐摩耗性を有するため、衣料用途、寝具用途、インテリア用途などに好適に使用可能である。優れた発色性と適度な吸湿性を有するため、衣料用途には特に好適に用いることができる。
各物性の評価方法は以下に示す通りである。
(1)エステル置換度、残存水酸基数
80℃で8時間乾燥したセルロースエステル繊維0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間反応させた。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果からエステル置換度を計算した。
下記式は、セルロース混合エステルのアセチル基の置換度とアセチル基以外のアシル基の置換度を算出する場合の例を示している。
TA=(B−A)×f/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[{1−(Mwace−16.00−1.01×2)×TA}+{1−(Mwacy−16.00−1.01×2)×TA}×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA :セルロース系試料1g当たりの全有機酸量(mol/g)
A :セルロース系試料滴定量(ml)
B :空試験滴定量(ml)
f :硫酸の力価
W :セルロース系試料重量(g)
DSace :アセチル基のエステル置換度の平均値
DSacy :アシル基のエステル置換度の平均値
Mwace :酢酸の分子量
Mwacy :他の有機酸の分子量
Acy/Ace :酢酸(Ace)と酢酸以外の有機酸(Acy)とのモル比
162.14 :グルコースユニットの分子量
16.00 :酸素の原子量
1.01 :水素の原子量
残存水酸基数は、トータル置換度を3から減ずることによって算出され、上記の場合には、3−DSace−DSacyにて算出される数である。
(2)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(Mw)測定
セルロースエステルの濃度が0.15重量%となるようにテトラヒドロフランに完全に溶解させ、GPC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件のもと、Waters2690(Waters製)でGPC測定を行い、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
カラム :東ソー製TSK gel GMHHR−Hを2本連結
検出器 :Waters2410(Waters製) 示差屈折計RI
移動層溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1.0ml/分
注入量 :200μl
(3)繊度
繊維の繊度は、紡出糸の場合には検尺機で100m分の繊維をカセ取りし、その重量を測定して100倍することによって繊度(dtex)を算出した。織物を構成している繊維の場合には、織物分解糸を採取し0.1cN/dtexの荷重を付与してクリンプを伸ばし、1m分となる繊維を採取し、その重量を測定して10,000倍することによって繊度(dtex)を算出した。
(4)引張強度および伸度
下記の条件で引張試験を行い、最大荷重の示す点の応力(cN)を繊度(dtex)で除した値を引張強度(cN/dtex)とした。またそのときの伸度を伸度(%)とした。なお、実施例で示している数値は平均値である。
雰囲気 :温度20℃、湿度65%
測定装置 :オートグラフ(AG−50NISMS 島津製作所)
試料長(つかみ間隔):20cm
引張速度 :20cm/min
測定回数 :1試料につき5回
(5)繊維断面の観察(透過型電子顕微鏡)
繊維をエポキシ樹脂で包埋し、切片作成装置を用いてエポキシ樹脂ごと繊維を切断し、厚さ1μmの超薄切片を得た。得られた超薄切片を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察し、繊維断面の像を撮影した。
手法 :RuO電子染色−超薄切片法
切断方向 :横断(繊維軸に対して垂直方向に切断)
切片作製装置 :ウルトラミクロトーム(MT6000型 Sorvall社製)
観察装置 :電界放出型電子顕微鏡(JEM2011F 日本電子製)
観察倍率 :10,000倍、100,000倍
(6)被膜の観察
上記(5)に記載の方法で、観察倍率10,000倍で断面の観察を行ない撮影した繊維断面の像から、繊維表層部におけるアミノ変性シリコーンの被膜の被覆状態を観察した。
(7)被膜の厚み
上記(5)に記載の方法で、観察倍率100,000倍で断面の観察を行ない、無作為に選んだ単繊維1本のそれぞれ別の部分を写した2つの繊維断面の像から、1つの繊維断面の像につき無作為に2ヶ所あるいは3ヶ所、2つの繊維断面の像の合計で5ヶ所についてアミノ変性シリコーン被膜の膜厚を求め、その算術平均の値を被膜の厚みとした。
(8)元素分析(Si原子)
繊維をエポキシ樹脂で包埋し、エポキシ樹脂ごと繊維を切断した。走査型透過電子顕微鏡により繊維断面の反射電子像を観察し、アミノ変性シリコーンの被膜に対し、元素分析を行った。
観察装置:走査型電子顕微鏡(S−4000 日立ハイテクノロジーズ製)
EDX検出器:JEOL JED−2300T:Si<Li>半導体検出器、UTW型
切断方向:横断(繊維断面方向)
観察倍率:100,000倍
(9)耐摩耗性試験
耐摩耗性試験は学振型摩擦試験機を用いてJIS−L0849(2004)に基づき、乾燥試験を行った。摩擦方向は織物の場合は経糸と水平の方向とし、編物の場合にはウェールと水平の方向とした。白綿布の着色の程度を汚染用のグレースケールと比較して、5級を全く問題無し(◎)、4級を問題なし(○)とし合格の判定を行った。3級以下は磨耗あり(×)とし、不合格の判定とした。
その際、洗濯試験としては、自動反転渦巻き電気洗濯機に水温40℃の水を給水し、花王(株)製“アタック高活性バイオEX”を0.1%濃度となるよう溶解させ、5分間洗濯した後に排水し、常温の水で3分間すすいで排水する操作を2回行った後、5分間脱水を行った。これら一連の工程を洗濯1回とし、洗濯を10回行った。洗濯後の耐摩耗性試験は上記と同じくJIS L0849(2004)にて行い、5級および4級を合格、3級以下を不合格とした。
(10)アミノ基当量
アミノ変性シリコーン1gを秤量した後、トルエン/エタノール=4/1(重量比)の混合溶媒25mlを加えて溶解させた。その後、0.01mol/Lおよび0.1mol/Lの濃度2−プロパノール性塩酸で滴定を行った。指示薬にはチモールブルーを用いた。アミノ基当量を下記の式で算出し、0.01mol/Lの液濃度の2−プロパノール性塩酸での滴定より算出された値と、0.1mol/Lの液濃度の2−プロパノール性塩酸での滴定より算出された値の平均値をアミノ基当量とした。
アミノ基当量=(1000×試料重量(g))/(滴定量(mL)×規定液濃度(mol/L))
(11)アミノ変性シリコーンの抽出
アミノ変性シリコーンを含む試料10gをエバポレーターにて脱水あるいは脱溶媒した。残った残渣にメタノール100ml、ヘキサン100mlを加え、よく攪拌した後に分液ロートに移した。メタノール層、メタノール/ヘキサンの混合層を分液ロートから分離し、ヘキサン層を三角フラスコに移した。メタノール層、メタノール/ヘキサンの混合層の混合液にヘキサン100mlを加えてよく攪拌し、さきほどと同様に分液操作を行った。分液操作を3回行った後、分離されたヘキサン層(合計300ml)をエバポレーターにかけて脱ヘキサン操作を行い、アミノ変性シリコーンを得た。
[合成例1]
コットンリンター100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。
反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。
反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、続いて水で洗浄した後、熱風乾燥機を用いて60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基の置換度は1.9、プロピオニル基の置換度は0.7であり、トータル置換度は2.6であった。残存水酸基数は0.4であった。重量平均分子量(Mw)は17.7万であった。得られたセルロースエステルをCAP−1とする。
[実施例1]
合成例1で得られたCAP―1を82重量%、可塑剤としてポリエチレングリコール(三洋化成(株)製PEG600)を17.9重量%、酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(アデカ(株)製PEP36)を0.1重量%となるように二軸エクストルーダーにて混練温度240℃で混練し、熱可塑性組成物のペレットを得た。得られたペレットを95℃で12時間真空乾燥を行った。
乾燥した熱可塑性組成物ペレットをエクストルーダー型紡糸機で紡糸温度260℃、口金孔0.25mm(D)、0.50mm(L)、ホール数72個の口金を通じて紡出し、風温20℃、風速0.4m/秒の冷却風で冷却し、給油装置で油剤を付与して収束し、2000m/分で回転する第1ゴデットローラーで引き取って2000m/分で回転する第2ゴデットローラーを介してワインダーにて巻き取って102dtex−72フィラメントの繊維を得た。
得られた繊維を経糸および緯糸として用いて経糸密度112本/2.54cm、緯糸密度88本/2.54cmの平織物(タフタ)を製織した。得られた織物を(株)日本触媒製界面活性剤“ソフタノール”EPを0.5g/L、炭酸ナトリウム1g/Lを含む精練溶液で60℃×20分間精練を行った。可塑剤が溶出したことにより繊維は84dtex−72フィラメントとなった。精練後のタフタを用いて、下記条件で分散染色を行った。分散染色後の布帛は十分水洗した後、乾燥させ、“ソフタノール”EPを0.5g/L、炭酸ナトリウム1g/L、亜−二−チオン酸ナトリウム2g/Lを含んだ洗浄液(pH10.5、浴比1:100)で、80℃×20分還元洗浄を行い、水洗、乾燥を行って染色された織物を得た。
染料:Miketon Fast Black Z(三井BASF染料(株)製)
染料濃度:8%owf
浴比:1:100
染液pH:5.0
染色時間:60分
染色温度:110℃
その後、アミノ変性シリコーンを30重量%含有する仕上げ剤である“シリコーラン”ANF40(一方社油脂工業(株)製)を水で30倍に希釈し、アミノ変性シリコーン(アミノ基当量=3000g/mol)を1重量%含有する処理液を調製し、浴比1:20で織物を浸漬し、この処理液を50℃に加熱しながら15分間攪拌した。その後、この織物について80℃に設定された熱風乾燥機で1時間熱処理を行った。
評価結果は表1に示す通りであり、洗濯前の耐摩耗性は5級と良好な数値であった。STEM観察(10,000倍)の結果、繊維表面には同心円状のシリコーン化合物の被膜が存在していた。さらに100,000倍で観察した結果、その膜厚は平均で48nmであった。また、洗濯後の膜厚は平均で41nmであった。
洗濯を行った後の繊維の表面をSTEM観察(100,000倍)した結果を図1(a)に示した。図1(a)は製造したセルロースエステル繊維の単糸断面を示す図面代用写真である。図1(a)中、セルロースエステル繊維本体1の表面がアミノ変性シリコーンからなる被膜2により被覆されている。繊維の表層に均一にアミノ変性シリコーンが存在していることが分かる。また、図1(b)は、図1(a)に記載された矢印上でエネルギー分散型X線分析(EDX)を行った結果のグラフである。繊維の表層部のみでケイ素(Si)が検出されており、アミノ変性シリコーンが表層部のみに存在し、単糸を被覆していることが分かる。耐摩耗性は洗濯後も5級を維持しており、実用上洗濯を繰り返しても耐久性のある耐摩耗性を有していることがわかった。なお、繊維の特性は表1に記載の通りである。
[実施例2]
実施例2では経糸としてポリエチレンテレフタレート繊維(33dtex−6フィラメント)を用いる他は実施例1と同様にアミノ変性シリコーンで処理を行ったタフタを得た。
評価結果は表1に示す通りであり、洗濯前の膜厚は平均で42nm、耐摩耗性は5級と良好な数値であった。洗濯を行った後の繊維の表面には同心円状のシリコーン化合物の被膜が存在し、その膜厚は平均で36nmであった。耐摩耗性は洗濯後も5級を維持しており、実用上洗濯を繰り返しても耐久性のある耐摩耗性を有していることがわかった。なお、繊維の特性は表1に記載の通りである。
[実施例3〜5]
実施例3では熱可塑性組成物として、重量平均分子量18.3万、アセチル基の置換度0.1、プロピオニル基の置換度2.5、トータル置換度2.6、残存水酸基数0.4のセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル製CAP482−20(CAP−2とする)が88重量%、可塑剤のポリエチレングリコール(PEG600)が11.9%、酸化防止剤のPEPが0.1重量%からなる組成物を用いて実施例1と同様にして得た95dtex−72フィラメントのマルチフィラメントを緯糸として用い、経糸としては実施例2と同様にポリエチレンテレフタレート繊維(33dtex−6フィラメント)を用いてアミノ変性シリコーンで処理を行ったタフタを得た。
実施例4では熱可塑性組成物として重量平均分子量17.3万、アセチル基の置換度が1.0、ブチリル基のエステル置換度1.7、トータル置換度が2.7、残存水酸基数0.3のセルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル製CAB171−15(CAB−1とする)が90重量%、可塑剤のポリエチレングリコールが9.9重量%、熱安定剤のPEPが0.1重量%からなる組成物を用いて実施例1と同様にして93dtex−72フィラメントのマルチフィラメントを緯糸として用い、経糸としては実施例2と同様にポリエチレンテレフタレート繊維(33dtex−6フィラメント)を用いてアミノ変性シリコーンで処理を行ったタフタを得た。
実施例5では置換度が2.5、残存水酸基数0.5のセルロースジアセテート(84dtex−20フィラメント)を緯糸として用い、経糸としては実施例2と同様にポリエチレンテレフタレート繊維(33dtex−6フィラメント)を用いてアミノ変性シリコーンで処理を行ったタフタを得た。
評価結果は表1に示す通りであり、それぞれ適切なアミノ変性シリコーンの被膜が形成されていた。耐摩耗性については洗濯後も合格レベルであった。なお、繊維の特性は表1に記載の通りである。
[比較例1〜4]
実施例2と同様にポリエチレンテレフタレートを経糸、CAP−1を緯糸としたタフタ織物を製織、精練、染色の後、比較例1では何の処理剤も用いずに、比較例2ではアミノ変性シリコーンに変えてジメチルシリコーンエマルジョン(信越化学製KM−740T)を用い、比較例3ではアミノ変性シリコーンに変えてエポキシ変性シリコーン(一方社油脂(株)製ES−608)を用いる他は、比較例4ではアミノ変性シリコーンの濃度が28重量%となるように調整した溶液を用いるほかは、実施例2と同様に浴中処理を行った。
シリコーン系処理を行わない比較例1では洗濯前後でいずれも耐摩耗性が3級と不合格であった。ジメチルシリコーンを用いた比較例2、エポキシ変性シリコーンを用いた比較例3ではそれぞれ洗濯前には良好なシリコーン化合物の付着があり、耐摩耗性も良好であったが、洗濯処理によってほぼすべてのシリコーン化合物が除去されてしまい、洗濯処理後の耐摩耗性は3級と不合格であった。比較例4では繊維間隙にシリコーン化合物が多量に付着して被膜の厚みとしては洗濯後にも1200nmと厚すぎるものであり、磨耗試験の際に激しく脱落して繊維表面におけるアミノ変性シリコーンの付着状態が不均一となり、耐磨耗性は3級と不合格であった。なお繊維の特性は表2に記載の通りである。
[実施例6〜7]
実施例6,7では熱可塑性組成物として、合成例1で得られたセルロースアセテートプロピオネート(CAP―1) を76重量%、セルロースジアセテート(アセチル置換度2.5、ダイセル化学工業(株)L−40)を4重量%、可塑剤のポリエチレングリコール(PEG600)が19.9重量%、酸化防止剤のPEPが0.1重量%からなる組成物を用いて実施例1と同様にして106dtex−72フィラメントのマルチフィラメントを得た。セルロースエステルは2種類のブレンドとなっており、トータル置換度の平均値は2.6、残存水酸基数の平均値は0.4であった。
得られたマルチフィラメントとポリエチレンテレフタレート繊維(33dtex−6フィラメント)を合糸し1500T/mの条件で撚糸を行った。得られた撚糸を用いて28Gシングル丸編機を用いて天竺編地を製編した。
染色温度を120℃とする以外は、実施例1と同様にして精練、染色、還元洗浄を行った後、アミノ変性シリコーン(一方社油脂(株)製“シリコーラン”ANF40)を実施例6では0.3重量%の濃度で含有する処理液に、実施例7では1.5重量%の濃度で含有する処理液に、天竺編地をそれぞれ浸漬して絞り率100%の条件でマングルを用いて余剰の処理液を除去する工程を2回実施した。その後、設定温度130℃のテンターを用いて2分間熱処理して天竺編地を乾燥し、設定温度160℃のテンターで2分間熱処理し、熱セットを行った。天竺編地中のセルロースエステル繊維の混率は72%である。
評価結果は表3に示す通りであり、それぞれ適切なアミノ変性シリコーンの被膜が形成されていた。耐摩耗性については洗濯後も合格レベルであった。なお、繊維の特性は表3に記載の通りである。
[実施例8〜9]
実施例6と同じセルロースエステル繊維とポリエチレンテレフタレートの撚糸を経糸および緯糸の双方に用いて、経糸密度200本/2.54cm、緯糸密度88本/2.54cmの朱子織物(サテン)を製織した。得られた朱子織物(サテン)を用いる他は、実施例8では実施例6と同様の条件で、実施例9では実施例7と同様の条件でアミノ変性シリコーン処理を行った。朱子織物(サテン)中のセルロースエステル繊維の混率は72%である。
評価結果は表3に示す通りであり、それぞれ適切なアミノ変性シリコーンの被膜が形成されていた。耐摩耗性については洗濯後も合格レベルであった。なお、繊維の特性は表3に記載の通りである。
[実施例10〜13]
アミノ変性シリコーンを含有する仕上げ剤を変更した他は、実施例2と同様に処理を行った。結果は表4に示す通りであり、それぞれ適切なアミノ変性シリコーンの被膜が形成されていた。耐摩耗性についても、洗濯後も合格レベルであった。
[比較例5〜6]
非シリコーン系の仕上げ剤を用いた他は、実施例2と同様に処理を行った。結果は表4に示す通りである。アミノ変性シリコーンの被膜は形成されず、耐摩耗性については洗濯後に不合格レベルとなった。
[実施例14]
“シリコーラン”ANF40 30gにヘキサン100mlを添加してよく混合した後、分液ロートを用いてヘキサン層とその他の混合液とに分離した。残った混合液にさらにヘキサン100mlを添加して同様の分離操作を繰り返し、合計3回の分離操作を行った。残った混合液に信越化学工業社製のアミノ変性シリコーンであるKF860(アミノ基当量=7600g/mol、ジアミンタイプ)を添加し、アミノ変性シリコーンを含有する仕上げ剤を得た。混合液:アミノ変性シリコーンの比率は7:3(重量比)である。この仕上げ剤を用いて実施例2と同様に処理を行った。結果は表5に示す通りであり、適切なアミノ変性シリコーンの被膜が形成されていた。耐摩耗性についても合格レベルであった。アミノ基当量が7600g/molとやや高いことから、洗濯後の耐摩耗性については4級であった。
[実施例15]
信越化学工業社製のアミノ変性シリコーンであるKF860の代わりに信越化学工業社製のアミノ変性シリコーンであるKF865(アミノ基当量=5000g/mol、モノアミンタイプ)を添加した他は、実施例14と同様に処理を行った。結果は表5に示す通りであり、適切なアミノ変性シリコーンの被膜が形成されていた。耐摩耗性についても合格レベルであった。アミノ基当量は適切であるものの、モノアミンタイプのアミノ変性シリコーンを用いたことから洗濯後の耐摩耗性については4−5級であった。
[実施例16]
信越化学工業社製のアミノ変性シリコーンであるKF860の代わりにモメンティブ社のTSF4702(アミノ基当量=1600g/mol、ジアミンタイプ)、を添加した他は、実施例14と同様に処理を行った。結果は表5に示す通りであり、適切なアミノ変性シリコーンの被膜が形成されていた。耐摩耗性についても、洗濯後も合格レベルであった。しかし、アミノ基当量がやや低いことから、実施例2(アミノ基当量3000g/mol)と比較してタフタがわずかに黄色味を帯びていた。
[実施例17〜18]
信越化学工業社製のアミノ変性シリコーンであるKF860の代わりに東レ・ダウコーニング社のFZ3785(アミノ基当量=6000g/mol、ジアミンタイプ)およびBY−16−892(アミノ基当量=2000g/mol、ジアミンタイプ)を用いた他は、実施例14と同様に処理を行った。結果は表5に示す通りであり、適切なアミノ変性シリコーンの被膜が形成されていた。耐摩耗性についても、洗濯後も合格レベルであった。
1:セルロースエステル繊維本体
2:アミノ変性シリコーンからなる被膜
3:スピンブロック
4:溶融紡糸パック
5:紡糸口金
6:冷却開始点
7:冷却装置
8:紡出糸条
9:給油装置
10:第1ゴデットローラー
11:第2ゴデットローラー
12:パッケージ
本発明のセルロースエステル繊維は、従来のセルロースエステル繊維よりも摩擦堅牢度に優れることから、衣料用途、インテリア用途などにおいて好適に用いることができる。

Claims (4)

  1. 表層部にアミノ変性シリコーンの被膜を有し、該被膜の厚みの平均値が10〜200nmの範囲であり、セルロースエステルの残存水酸基数がグルコース単位あたり0.1〜1.0であることを特徴とするセルロースエステル系繊維。
  2. セルロースエステルが、セルロースアセテートプロピオネートおよび/またはセルロースアセテートブチレートからなることを特徴とする請求項1載のセルロースエステル系繊維。
  3. アミノ変性シリコーンのアミノ基当量が1000〜8000g/molであることを特徴とする請求項1または2記載のセルロースエステル系繊維。
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載のセルロースエステル系繊維を主体に構成されてなる繊維構造物。
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