JP6102613B2 - 刃先強度を向上させたダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1や特許文献2に開示されているような工具基体表面近傍の結合相量、すなわちCo量を少なくすることによってダイヤモンド膜と工具基体との密着性を向上させる処理を行った場合であっても、CFRPなどの切削加工においては、刃先近傍の強度が十分でなく、クラック発生により早期に切削工具としての寿命に至ることが多かった。また、特許文献3に示すような処理を行った場合、ドリル加工のような鋭利な刃先が要求される切削では刃先基体の強度が低いためにチッピングなどを生じやすく、早期に寿命に至る場合があった。
さらに、CFRPなどの被削材を高速切削する場合には、高い刃先強度が要求されるが、従来知られているダイヤモンド被覆工具においては、いずれも、早期にチッピングを生じ、工具寿命に至ることが多かった。
(1)超硬合金基体の表面近傍のCoを化学的なエッチング(硫酸+過酸化水素)によって除去するが、その前に所定温度で高温保持した焼結後に所定の冷却速度、例えば100℃/minで急冷を行うと、高温保持時に高くなったCo中のW溶解量が急冷後にも維持されるため、焼結体の耐食性、強度を向上させることができる。
(2)前記工程で得られた焼結体は、結合相中のW固溶量を高くすることによりWC粒子同士の接着強度を向上させることができる。
(3)前記急冷工程においては、焼結体の内部は表面近傍に比べて冷却速度が遅くなるため、焼結体内部と表面近傍都でCo中のW固溶量に差が生じる。その結果、焼結体表面近傍が内部よりW固溶量が高くなるが、この差により工具基体の表面近傍の強度を選択的に向上させることができ、工具寿命を向上させることができる。
(4)前述のような方法で処理を行った工具基体表面は、ダイヤモンドの核生成密度が高く、工具基体表面における結晶粒が微粒となりダイヤモンド膜の付着強度にもすぐれ、結果として刃先強度の高いダイヤモンド被覆工具を得ることが出来る。
「(1) 炭化タングステンとコバルトを主成分とし、少なくとも3〜15質量%のコバルトを含有する炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体にダイヤモンド膜を被覆形成したダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具において、前記ダイヤモンド膜が、3〜30μmの平均膜厚を有し、前記工具基体とダイヤモンド膜の界面から工具基体の内部方向へ大きくとも5μmの深さ領域に、コバルトを主成分とする金属結合相の一部が化学処理によって除去された金属結合相一部除去領域を有し、当該工具の刃先近傍の逃げ面に対して垂直断面における観察で、前記界面から工具基体の内部方向に8〜12μmの領域の金属結合相におけるタングステンのコバルトに対する質量比が0.05以上0.15以下の範囲であるとともに前記工具基体の1mm以上内部における金属結合相における前記質量比に対して、1.05〜1.5倍であることを特徴とするダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。
(2) 前記工具基体とダイヤモンド膜の界面におけるダイヤモンド膜の結晶の前記界面と平行方向の平均幅が20〜100nmであり、かつ、界面長50μmあたりに存在する結晶幅1μm以上の粗大な結晶粒が1個以下であることを特徴とする(1)に記載のダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。」
を特徴とするものである。
工具基体表面近傍の金属結合相(主としてコバルト/コバルト合金)を除去する目的は、工具基体とダイヤモンド膜との密着性を高めるためである。金属結合相一部除去領域の深さについては、特に限定しないが、1μm未満であると残留しているコバルト/コバルト合金の影響が依然として大きく、耐剥離性が十分でないため好ましくない。一方、5μmを超えると、工具基体の表面から多量の金属結合相が除去されることによって工具基体の靭性の低下が大きくなり、その結果、耐チッピング性が低下する。そのため、金属結合相一部除去領域の深さは、工具基体の内部方向へ大きくとも5μmと定めた。
工具基体の表面近傍、具体的には、工具基体の表面から内部方向に8〜12μmの領域の金属結合相において、タングステンのコバルトに対する質量比が、0.05未満では刃先の靱性確保の点およびダイヤモンドの核生成密度の点で不十分であり、一方、0.15を超えると、WCと金属結合相界面の強度が不十分となり、また、コバルトタングステン炭化物が析出し強度低下が起こる。そのため、工具基体の表面近傍の金属結合相におけるタングステンのコバルトに対する質量比は、0.05以上0.15以下とした。
工具基体とダイヤモンド膜との界面において観察されるダイヤモンド膜の結晶粒の界面と平行方向の最大幅の平均値、すなわち平均幅は、20nmより小さい場合、結晶形態が不安定であるため強度が低くなる。一方、100nmより大きくなると付着強度が低下する傾向が現れる。したがって、工具基体とダイヤモンド膜との界面におけるダイヤモンド膜の結晶の界面と平行方向の平均幅は、20〜100nmとすることが好ましい。
さらに界面長50μmあたりに存在する結晶幅1μm以上の粗大な結晶粒が2つ以上存在すると付着強度が低下する傾向があるため、前記粗大な結晶粒は1つ以下とした。
ここで、工具基体とダイヤモンド膜との界面におけるダイヤモンド膜の結晶粒の大きさの測定は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)(倍率は200000倍から1000000倍の範囲から適切な値に設定する)により界面近傍の断面観察を行い、得られた画像内に結晶粒内を横切る50μmの長さの界面に平行な試験線上に結晶粒の交点が幾つあるかを数える。そして、試験線の長さ、すなわち50μmを交点の数で割ることにより得られた長さを1結晶粒の平均線分長とした。この測定を4〜6本の試験線に対して行い、得られた平均線分長の平均値を算出し、平均幅と定義した。
また、前述の結晶粒の平均幅の測定において、界面における試験線と結晶粒との交点を計測し隣接する交点間の距離を結晶の幅とした。これが1μm以上となる場合をカウントし、このカウントを4〜6本の試験線に対して行い、得られた総カウント数の平均値を算出し、これを界面長50μmあたりに存在する結晶幅1μm以上の粗大な結晶粒の個数と定義した。
本発明のダイヤモンド被覆工具の工具基体は、硬質相成分としての炭化タングステン(WCで示す)と金属結合相成分としてのコバルト(Coで示す)を主成分とし、かつ、Co含有量は3〜15質量%とする。
Co成分には、金属結合相を形成して基体の強度および靭性を向上させる作用があるが、WC基超硬合金中のCo含有量が3質量%未満では、特に靭性の確保が望めず、一方、Co含有量が15質量%を越えると、エッチングでCoを除去した層の強度が著しく低下し、切削時に欠損などが生じやすくなることから、WC基超硬合金中のCo含有量は3〜15質量%と定めた。
工具基体表面に被覆するダイヤモンド膜は、その厚さが3μm未満では、長期の使用に亘って十分な耐摩耗性と耐剥離性を発揮することができず、一方、ダイヤモンド膜厚が30μmを超えると、チッピング、欠損、剥離が発生しやすくなることから、ダイヤモンド膜の平均膜厚は、3〜30μmと定めた。
なお、ここでは、ダイヤモンド被覆工具の具体例としてダイヤモンド被覆超硬合金製ドリルについて述べるが、本発明はこれに限られるものではなく、ダイヤモンド被覆超硬合金製インサート、ダイヤモンド被覆超硬合金製エンドミル等、各種のダイヤモンド被覆工具に適用できるものである。
ついで、前記WC基超硬合金焼結体1〜6を、溝形成部の外径寸法が8mmとなるように研削加工することにより、WC基超硬合金製ドリル基体(以下、単に「ドリル基体」という)1〜6を製造した。ここで、ドリル基体6は、後述する比較例ドリルにのみ使用した。
前記製造工程により、表2に示す本発明のダイヤモンド被覆WC基超硬合金製ドリル(以下、単に、「本発明ドリル」という)1〜5を製造した。
また、同様にドリル基体の表面から1mm以上内部の領域内で3箇所の金属結合相部分を無作為に選定し、オージェ電子分光による元素マッピングおよび定量分析により、タングステンとコバルトの質量比Bを測定した。そして、A/Bを計算した。なお、測定値はいずれも3箇所の平均とした。
また、金属結合相一部除去領域の平均厚み(μm)については、前記ドリル基体の表面に対して垂直な断面で基体表面の10μm以上が略直線とみなされる部位において、結合相の一部が除去された領域の幅を3点測定し、これを平均厚み(μm)とした。
本発明ドリル1〜5および比較例ドリル1〜6のダイヤモンド膜の膜厚を、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均膜厚を測った。
表2、3にこれらの値を示す。
切削速度:240m/min,
送り:0.23mm/rev,
穴深さ:15mm(貫通穴),
前記切削試験において、正常摩耗の場合は被削材の穴の入り口側もしくは出口側に発生するバリが0.5mmを超えた時点で使用寿命とし、それまでの穴あけ加工数を測定した。
また、ドリル折損等が原因で使用寿命に至った場合には、それまでの穴あけ加工数を測定した。
表4にこれらの測定結果を示す。
Claims (2)
- 炭化タングステンとコバルトを主成分とし、少なくとも3〜15質量%のコバルトを含有する炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体にダイヤモンド膜を被覆形成したダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具において、
前記ダイヤモンド膜が、3〜30μmの平均膜厚を有し、
前記工具基体とダイヤモンド膜の界面から工具基体の内部方向へ大きくとも5μmの深さ領域が、コバルトを主成分とする金属結合相の一部が化学処理によって除去された金属結合相一部除去領域を有し、
当該工具の刃先近傍の逃げ面に対して垂直断面における観察で、前記界面から工具基体の内部方向に8〜12μmの領域の金属結合相におけるタングステンのコバルトに対する質量比が0.05以上0.15以下の範囲であるとともに前記工具基体の1mm以上内部における金属結合相における前記質量比に対して、1.05〜1.5倍であること
を特徴とするダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。 - 前記工具基体とダイヤモンド膜の界面におけるダイヤモンド膜の結晶粒の前記界面と平行方向の平均幅が20〜100nmであり、かつ、界面長50μmあたりに存在する結晶幅1μm以上の粗大な結晶粒が1個以下であること
を特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。
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