JP2019005894A - 被覆切削工具 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐摩耗性および耐欠損性を向上させた工具寿命の長い被覆切削工具を提供する。【解決手段】基材と、基材の上に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、被覆層は、少なくとも1層の(Ti1-xMox)N(式中、xはTi元素とMo元素との合計に対するMo元素の原子比を表し、0.01≦x≦0.30を満足する。)で表される組成を有する化合物を含有する複合化合物層を含み、X線回折分析における複合化合物層の立方晶の(111)面のピーク強度I(111)と、上記立方晶の(200)面のピーク強度I(200)との比I(200)/I(111)が、1<I(200)/I(111)≦20であり、複合化合物層を構成する粒子において、アスペクト比が2以上である粒子の面積割合が50%以上である、被覆切削工具。【選択図】図1

Description

本発明は、被覆切削工具に関するものである。
近年、切削加工の高能率化の需要の高まりに伴い、従来よりも工具寿命の長い切削工具が求められている。このため、工具材料の要求特性として、切削工具の寿命に関係する耐摩耗性の向上および耐欠損性の向上が一段と重要になっている。そこで、これらの特性を向上させるため、超硬合金、サーメット、cBNなどからなる基材の表面にTiN層、TiAlN層などの被覆層を1層または2層以上含む被覆切削工具が広く用いられている。
このような被覆層の特性を改善するための様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、化学式Ti1-xxy(X、Yはそれぞれ原子比で、0<X≦0.3であり、Yは0.1≦Y≦1である。また、Zは硼素、酸素、炭素、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を示す。Mは、Cr、Nb、Mo、Hf、TaまたはWであり、Al、SiおよびZrを含まない。)で示される第1化合物を含むチタン化合物層であり、第1化合物は、X線回折における(111)面のピーク強度Aと(200)面のピーク強度Bとの比B/Aが0≦B/A≦1となる結晶構造を有し、その結晶粒径が0.1nm以上200nm以下である表面被覆切削工具が提案されている。
特許第5662680号公報
近年の切削加工では、高速化、高送り化および深切り込み化がより顕著となり、従来よりも工具の耐摩耗性を向上させることが求められている。特に、鋼の高速切削等、被覆切削工具に負荷が作用するような切削加工が増えている。かかる過酷な切削条件下において、従来の工具では被覆層の粒子の脱落を起因とした摩耗が進行しやすくなる。また、被覆層の粒子の脱落が顕著であると、欠損しやすくなる。これらが引き金となって、工具寿命を長くできないという問題がある。
このような背景により、上記特許文献1に記載の発明は、耐摩耗性および耐欠損性が不十分であるため、工具寿命が短いという問題がある。
本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、耐摩耗性および耐欠損性を向上させた工具寿命の長い被覆切削工具を提供することを目的とする。
本発明者は被覆切削工具の工具寿命の延長について研究を重ねたところ、被覆切削工具を特定の構成にすると、その耐欠損性および耐摩耗性を向上させることが可能となり、その結果、被覆切削工具の工具寿命を延長することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]基材と、該基材の上に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、前記被覆層は、少なくとも1層の下記式(1):
(Ti1-xMox)N (1)
(式中、xはTi元素とMo元素との合計に対するMo元素の原子比を表し、0.01≦x≦0.30を満足する。)
で表される組成を有する化合物を含有する複合化合物層を含み、前記複合化合物層は、立方晶を含み、X線回折分析における前記立方晶の(111)面のピーク強度I(111)と、前記立方晶の(200)面のピーク強度I(200)との比I(200)/I(111)が、下記式(A):
1.0<I(200)/I(111)≦20.0 (A)
で表される条件を満足し、前記複合化合物層を構成する粒子において、アスペクト比が2以上である粒子の面積割合が50%以上である、被覆切削工具。
[2]前記複合化合物層を構成する粒子の平均粒径が、0.1μm以上1.0μm以下である、上記被覆切削工具。
[3]前記複合化合物層を構成する粒子の平均粒径が、0.3μm以上1.0μm以下である、上記被覆切削工具。
[4]前記複合化合物層の残留応力が、圧縮の残留応力である、上記被覆切削工具。
[5]前記複合化合物層の残留応力の値が、−8.0GPa以上−1.0GPa以下である、上記被覆切削工具。
[6]前記複合化合物層の平均厚さは、1.0μm以上8.0μm以下である、上記被覆切削工具。
[7]前記被覆層は、前記基材と前記複合化合物層との間に、下部層を有し、前記下部層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物の単層または積層であり、前記下部層の平均厚さは、0.1μm以上3.5μm以下である、上記被覆切削工具。
[8]前記複合化合物層は、前記被覆層における最外層である、上記被覆切削工具。
[9]前記被覆層は、前記複合化合物層の上に、上部層を有し、前記上部層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物の単層または積層であり、前記上部層の平均厚さは、0.1μm以上3.5μm以下である、上記被覆切削工具。
[10]前記被覆層の全体の平均厚さは、1.5μm以上15.0μm以下である、上記被覆切削工具。
[11]前記基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス及び立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである、上記被覆切削工具。
本発明によると、耐摩耗性および耐欠損性を向上させた工具寿命の長い被覆切削工具を提供することができる。
本発明の被覆切削工具の一例を示す模式図である。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
本実施形態の被覆切削工具は、基材と、該基材の上に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、被覆層は、少なくとも1層の下記式(1):
(Ti1-xMox)N (1)
(式中、xはTi元素とMo元素との合計に対するMo元素の原子比を表し、0.01≦x≦0.30を満足する。)
で表される組成を有する化合物を含有する複合化合物層を含み、複合化合物層は、立方晶を含み、X線回折分析における上記立方晶の(111)面のピーク強度I(111)と、上記立方晶の(200)面のピーク強度I(200)との比I(200)/I(111)が、下記式(A):
1.0<I(200)/I(111)≦20.0 (A)
で表される条件を満足し、複合化合物層を構成する粒子において、アスペクト比が2以上である粒子の面積割合が50%以上である。
このような被覆切削工具が、耐摩耗性および耐欠損性を向上させた工具寿命の長いものとなる要因は、詳細には明らかではない。ただし、本発明者はその要因を下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。すなわち、本実施形態の被覆切削工具は、上記式(1)で表される組成を有する化合物を含有する複合化合物層を含む被覆層を備えることにより、被覆層の靱性に優れ、耐欠損性が向上する。また、複合化合物層が立方晶を含み、その立方晶の(111)面のピーク強度I(111)と、(200)面のピーク強度I(200)との比I(200)/I(111)が1.0を超えると、(111)面が(200)面よりもより支配的に存在することに起因して、被覆層の表面が最密面となることにより硬くなる結果、被覆切削工具は耐摩耗性に優れたものとなる。なお、被覆層において、複合化合物層よりも上方に別の層が存在していても、切削加工において複合化合物層が最表面に露出した後、被覆切削工具は耐摩耗性に優れることになる。なお、比I(200)/I(111)が20.0以下であると、本実施形態の作用効果をより確実に奏する被覆切削工具となる。さらに、複合化合物層を構成する粒子において、アスペクト比が2以上である粒子の面積割合が50%以上であることは、複合化合物層がいわゆる細長い粒子を主として含むことを意味する。この作用効果は、被覆層の特性に以下の有利な点をもたらす。まず、粒子の長手方向と短方向との異方性に起因して、せん断特性に影響を及ぼす。その結果、切削工具に負荷される抵抗力の分力の関係から、耐欠損性および密着性をより高めるという効果を奏する。また、粒子の堆積構造に起因して、圧密特性に影響を及ぼし、粒子脱落を抑制する効果を奏する。その結果、切削加工においては、被覆層の摩滅を抑制することができる。さらに、アスペクト比が高い粒子は、連続的に結晶が成長し、緻密な被覆層が形成されていることを示すので、耐摩耗性が向上する。これらにより、切削加工時に複合化合物層の一部の粒子が脱落しやすい方向に力が加えられても、その力の方向は別の一部の粒子が脱落しにくい方向となるため、その脱落しにくい粒子が脱落しやすい粒子の移動や脱落を防ぐ。その結果、被覆切削工具は耐摩耗性に優れたものとなる。これらの効果が相俟って、本実施形態の被覆切削工具は、耐摩耗性および耐欠損性を向上させた工具寿命の長いものとなる。
本実施形態の被覆切削工具は、基材とその基材の表面に形成された被覆層とを含む。本実施形態における基材は、被覆切削工具の基材として用いられ得るものであれば、特に限定はされない。基材の例として、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、および高速度鋼を挙げることができる。それらの中でも、基材が、超硬合金、サーメット、セラミックスおよび立方晶窒化硼素焼結体のいずれかであると、耐摩耗性および耐欠損性に一層優れるので、さらに好ましい。
本実施形態の被覆切削工具において、被覆層の全体の平均厚さが1.5μm以上であると、耐摩耗性が更に向上する傾向にある。一方、被覆層の全体の平均厚さが15.0μm以下であると、耐欠損性が更に向上する傾向にある。そのため、被覆層の全体の平均厚さは、1.5μm以上15.0μm以下であることが好ましい。その中でも、上記と同様の観点から、被覆層の全体の平均厚さは2.0μm以上10.0μm以下であるとより好ましい。
本実施形態の被覆層は1層であってもよく、2層以上の多層であってもよいが、被覆層の少なくとも1層は以下に説明する特定の層(以下、「複合化合物層」という。)を含む。本実施形態に係る複合化合物層は、下記式(1):
(Ti1-xMox)N (1)
で表される組成を有する化合物を含有する。これにより、被覆層は靱性に優れ、被覆切削工具の耐欠損性が向上する。なお、上記式において、xはTi元素とMo元素との合計に対するMo元素の原子比を表し、0.01≦x≦0.30を満足する。Mo元素の原子比xが0.01以上であると、被覆層が靱性に優れるため、被覆切削工具の耐欠損性が向上する。原子比xが0.30以下であると、Moの窒化物が形成されるのを抑制することができるため、耐摩耗性に優れる。その中でも、xが0.05以上0.30以下であると、更に好ましい。
なお、本実施形態において、複合化合物層の組成を(Ti0.90Mo0.10)Nと表記する場合、Ti元素とMo元素との合計に対するTi元素の原子比が0.90、Ti元素とMo元素との合計に対するMo元素の原子比が0.10であることを表す。すなわち、Ti元素とMo元素との合計に対するTi元素の量が90原子%、Ti元素とMo元素との合計に対するMo元素の量が10原子%であることを意味する。
本実施形態において、複合化合物層の平均厚さが1.0μm以上であると耐摩耗性の低下をより抑制でき、8.0μm以下であると耐欠損性の低下をさらに抑制できる。このため、複合化合物層の平均厚さは1.0μm以上8.0μm以下であると好ましい。その中でも、上記と同様の観点から、複合化合物層の平均厚さは、1.5μm以上7.5μm以下であるとより好ましい。
本実施形態において、複合化合物層は潤滑性に優れる傾向がある。このため、複合化合物層が最外層であると、被覆切削工具は耐欠損性に更に優れるため好ましい。
本実施形態において、複合化合物層を構成する粒子の平均粒径が0.1μm以上であると、耐欠損性の低下をより抑制できる。また、その平均粒径が1.0μm以下であると、切削加工中に基材に向かって発生した亀裂が、基材に向かって進展するのを抑制できるため、耐欠損性の低下をさらに抑制できる。その中でも、上記と同様の観点から、複合化合物層を構成する粒子の平均粒径は、0.3μm以上1.0μm以下であると好ましく、0.3μm以上0.8μm以下であるとより好ましい。ここで、粒径とは、複合化合物層を構成する粒子の最も短い軸の値とする。複合化合物層を構成する各粒子の粒径を求め、その相加平均値を平均粒径とするが、より詳細には実施例に記載の方法に準拠して粒子の平均粒径を決定する。
本実施形態において、複合化合物層を構成する粒子のアスペクト比が2以上であると、粒子の脱落を抑制することができるため、耐摩耗性が向上する。アスペクト比とは、複合化合物層を構成する粒子の最も長い軸を最も短い軸で除した値であり、アスペクト比が1に近いほど等軸粒であることを表す。複合化合物層を構成する粒子のアスペクト比が2以上である粒子の面積割合が50%以上であると、粒子の脱落を抑制する効果が十分に発揮されるため、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、その面積割合が、55%以上であるとより好ましく、70%以上であるとさらに好ましい。なお、その面積割合の上限は特になく、面積割合が100%以下であってもよく、95%以下であってもよく、90%以下であってもよい。
本実施形態の複合化合物層を構成する粒子の平均粒径およびアスペクト比が2以上である粒子の面積割合については、被覆切削工具の断面組織を、走査電子顕微鏡(SEM)や電解放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)などに付属した電子後方散乱回折像装置(EBSD)を用いて観察することにより、測定することができる。被覆切削工具を基材の表面と直交または略直交する方向に鏡面研磨し、断面組織を得る。被覆切削工具の断面組織を得る方法としては、例えば、ダイヤモンドペーストまたはコロイダルシリカを用いて研磨する方法やイオンミリングが挙げられる。被覆切削工具の断面組織を有する試料をFE−SEMにセットし、試料の断面組織に70度の入射角度で15kVの加速電圧および0.5nA照射電流で電子線を照射する。EBSDにより、被覆切削工具の逃げ面における断面組織を、300μm2の測定範囲、0.1μmのステップサイズで測定するのが望ましい。このとき、方位差が5°以上の境界を結晶粒界とみなし、この結晶粒界によって囲まれる領域を粒子とする。複合化合物層について、上記のようにして特定した各粒子の粒径およびアスペクト比を求めることにより、平均粒径およびアスペクト比が2以上である粒子の面積割合も求めることができる。したがって、本実施形態において、複合化合物層を構成する粒子の平均粒径およびアスペクト比が2以上である粒子の面積割合は、EBSDにより求めた値を採用する。
本実施形態の被覆層は、複合化合物層だけで構成されてもよいが、基材と複合化合物層との間(すなわち、複合化合物層の下層)に下部層を有すると好ましい。これにより、基材と複合化合物層との密着性が更に向上する。その中でも、下部層は、上記と同様の観点から、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むと好ましく、Ti、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むとより好ましく、Ti、Nb、Ta、Cr、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、CおよびNからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むとさらに好ましく、Ti、Ta、Cr、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、CおよびNからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むと特に好ましい。また、下部層は単層であってもよく2層以上の多層(積層)であってもよい。
本実施形態において、下部層の平均厚さが0.1μm以上3.5μm以下であると、基材と被覆層との密着性が更に向上する傾向を示すため、好ましい。同様の観点から、下部層の平均厚さは、0.3μm以上3.0μm以下であるとより好ましく、0.5μm以上3.0μm以下であるとさらに好ましい。
本実施形態の被覆層は、複合化合物層の基材とは反対側(すなわち、複合化合物層の上層)、好ましくは複合化合物層の表面、に上部層を有してもよい。上部層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むと、耐摩耗性に一層優れるので好ましい。また、上記と同様の観点から、上部層は、Ti、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むとより好ましく、Ti、Nb、Ta、Cr、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、CおよびNからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むとさらに好ましく、Ti、Nb、Cr、W、AlおよびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、CおよびNからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むと特に好ましい。また、上部層は単層であってもよく2層以上の多層(積層)であってもよい。
本実施形態において、上部層の平均厚さが0.1μm以上3.5μm以下であると、耐摩耗性に優れる傾向を示すため好ましい。同様の観点から、上部層の平均厚さは、0.2μm以上2.0μm以下であるとより好ましく、0.3μm以上1.0μm以下であるとさらに好ましい。
本実施形態の被覆切削工具の複合化合物層は、立方晶の(Ti,Mo)Nの結晶を含む。X線回折分析による立方晶の(111)面の回折ピーク強度I(111)と、(200)面の回折ピーク強度I(200)との比[以下、単にI(200)/I(111)と表記する。]が1を超えると、硬さが大きくなるため、被覆切削工具は耐摩耗性に優れるものとなる。一方、比I(200)/I(111)が20.0以下であると、本発明の作用効果を奏する複合化合物層をより安定して製造することができる。このような観点から、I(200)/I(111)は、上記式(A)を満足し、下記式(A1)を満足すると好ましく、下記式(A2)を満足するとより好ましい。
1.0<I(200)/I(111)≦17.5 (A1)
1.0<I(200)/I(111)≦15.0 (A2)
なお、ICDDカード00−038−1420番によると、立方晶のTiNの(111)面は、2θが36.66°であり、ICDDカード00−025−1360番によると、立方晶のMoNの(111)面は、2θが37.38°である。したがって、立方晶の(Ti,Mo)Nの(111)面の回折ピークは、2θが36.66°以上37.38°以下の範囲に存在する。また、立方晶のTiNの(200)面は、2θが42.60°であり、立方晶のMoNの(200)面は、2θが43.45°である。したがって、立方晶の(Ti,Mo)Nの(200)面の回折ピークは、2θが42.60°以上43.45°以下の範囲に存在する。
本実施形態の複合化合物層における各面指数のピーク強度については、市販のX線回折装置を用いることにより、求めることができる。例えば、株式会社リガク製のX線回折装置RINT TTRIII(製品名)を用いて、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中法光学系のX線回折を、下記条件で測定すると、上記の各面指数のピーク強度を測定することができる。ここで測定条件は、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:2/3°、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.3mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:4°/min、2θ測定範囲:25°〜70°である。X線回折図形から上記の各面指数のピーク強度を求めるときに、X線回折装置に付属の解析ソフトウェアを用いてもよい。解析ソフトウェアでは、三次式近似を用いてバックグラウンド処理およびKα2ピーク除去を行い、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行い、各ピーク強度を求めることができる。
なお、複合化合物層よりも基材側に下部層が形成されている場合には、下部層の影響を受けないように、薄膜X線回折法により、各ピーク強度を測定することができる。また、複合化合物層よりも表面側に上部層が形成されている場合には、上部層の影響を受けないように、バフ研磨により、上部層を除去するとよい。
本実施形態の複合化合物層の残留応力が圧縮の残留応力であると、耐欠損性が向上する傾向にあるので好ましい。本実施形態の複合化合物層において、残留応力の値が−8.0GPa以上であると、複合化合物を形成した後に亀裂が生じるのを抑制できるので好ましい。一方、残留応力の値が−1.0GPa以下であると、被覆切削工具の欠損を抑制する効果が一層高まるので好ましい。このため、複合化合物層の残留応力は、−8.0GPa以上−1.0GPa以下であると好ましく、−7.0GPa以上−1.5GPa以下であるとより好ましく、−6.0GPa以上−1.5GPa以下であるとさらに好ましい。
上記残留応力とは、被覆層中に残留する内部応力(固有ひずみ)であって、一般に「−」(マイナス)の数値で表される応力を圧縮応力といい、「+」(プラス)の数値で表される応力を引張応力という。本発明においては、残留応力の大小を表現する場合、「+」(プラス)の数値が大きくなる程、残留応力が大きいと表現し、また「−」(マイナス)の数値が大きくなる程、残留応力が小さいと表現するものとする。
なお、上記残留応力は、X線回折装置を用いたsin2ψ法により測定することができる。そして、このような残留応力は、切削に関与する部位に含まれる任意の点3点(これらの各点は、当該部位の応力を代表できるように、互いに0.5mm以上の距離を離して選択することが好ましい。)の応力を上記sin2ψ法により測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
図1は、本実施形態の被覆切削工具の一例を示す模式断面図である。被覆切削工具6は、基材1と、その基材1の表面上に形成された被覆層5とを備え、更に被覆層5は、基材1の表面上に形成された下部層2と、下部層2の基材1とは反対側の表面上に形成された複合化合物層3と、複合化合物層3の下部層2とは反対側の表面上に形成された上部層4とを備える。
本実施形態の被覆切削工具における被覆層の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法、おおびイオンミキシング法などの物理蒸着法が挙げられる。物理蒸着法を使用して、被覆層を形成すると、シャープエッジを形成することができるので好ましい。その中でも、アークイオンプレーティング法は、被覆層と基材との密着性に一層優れるので、より好ましい。
本実施形態の被覆切削工具の製造方法について、具体例を用いて説明する。なお、本実施形態の被覆切削工具の製造方法は、当該被覆切削工具の構成を達成し得る限り、特に制限されるものではない。
まず、工具形状に加工した基材を物理蒸着装置の反応容器内に収容し、金属蒸発源を反応容器内に設置する。その後、反応容器内をその圧力が1.0×10-2Pa以下の真空になるまで真空引きし、反応容器内のヒーターにより基材をその温度が200℃〜800℃になるまで加熱する。加熱後、反応容器内にアルゴンガス(Ar)を導入して、反応容器内の圧力を0.5Pa〜5.0Paとする。圧力0.5Pa〜5.0PaのAr雰囲気にて、基材に−500V〜−350Vのバイアス電圧を印加し、反応容器内のタングステンフィラメントに40A〜50Aの電流を流して、基材の表面にArによるイオンボンバードメント処理を施す。基材の表面にイオンボンバードメント処理を施した後、反応容器内をその圧力が1.0×10-2Pa以下の真空になるまで真空引きする。
次いで、基材をその温度が250℃〜500℃になるように制御し、窒素ガス(N2)または、N2およびArを反応容器内に導入し、反応容器内の圧力を2.0〜5.0Paにする。その後、基材に−120V〜−30Vのバイアス電圧を印加し、各層の金属成分に応じた金属蒸発源を100A〜200Aとする電流のアーク放電により蒸発させて、基材の表面または下部層の表面への複合化合物層の形成を開始する。
本実施形態の複合化合物層における比I(200)/I(111)を1より大きくするには、上述の複合化合物層を形成する過程において、複合化合物層を形成するときの基材の温度を低くするとよい。基材の温度を低くするほど、比I(200)/I(111)が大きくなる傾向がある。また、複合化合物層におけるTi元素とMo元素との合計に対するMo元素の原子比が大きい金属蒸発源を使用すると、比I(200)/I(111)が大きくなる傾向がある。よって、基材の温度と、金属蒸発源の組成とを調整することにより、比I(200)/I(111)を制御することができる。
本実施形態の複合化合物層を構成する粒子の平均粒径を所望の値にするには、上述の複合化合物層を形成する過程において、基材の温度を制御するとよい。基材の温度を低くするほど、複合化合物層の平均粒径が大きくなる傾向がある。よって、基材の温度を調整することにより、平均粒径を制御することができる。
本実施形態の複合化合物層を構成する粒子のアスペクト比が2以上である粒子の面積割合を所望の値にするには、上述の複合化合物層を形成する過程において、電流を制御するとよい。電流を低くするほど、アスペクト比が大きくなる傾向がある。また、反応容器内に導入するN2とArとの合計量に対して体積比でN2の割合を小さくするほど、アスペクト比が大きくなる傾向がある。より具体的には、体積比でAr:N2が0:100の場合と60:40の場合とを比較すると、60:40の方がN2の割合が小さいため、アスペクト比が大きくなる。さらに、反応容器内の圧力を高くするほど、アスペクト比が大きくなる傾向がある。よって、電流、反応容器内に導入するN2の割合および圧力を調整することにより、アスペクト比を制御することができる。
本実施形態の複合化合物層に所定の圧縮応力を付与するには、上述の複合化合物層を形成する過程において、基材に印加するバイアス電圧の絶対値を大きくするとよい。より具体的には、バイアス電圧が−50Vの場合と−100Vの場合とを比較すると、−100Vの方がバイアス電圧の絶対値が大きいため、複合化合物層に付与される圧縮応力が大きくなる。よって、バイアス電圧を調整することにより、圧縮応力を制御することができる。
本実施形態の被覆切削工具における被覆層を構成する各層の厚さは、被覆切削工具の断面組織から、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、TEMなどを用いて測定することができる。なお、本実施形態の被覆切削工具における各層の平均厚さは、金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から、当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍における3箇所以上の断面から各層の厚さを測定して、その平均値(相加平均値)を計算することで求めることができる。
また、本実施形態の被覆切削工具における被覆層を構成する各層の組成は、本実施形態の被覆切削工具の断面組織から、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)や波長分散型X線分析装置(WDS)などを用いて測定することができる。
本実施形態の被覆切削工具は、少なくとも耐摩耗性および耐欠損性に優れていることに起因して、従来よりも工具寿命を延長できるという効果を奏する。本実施形態の被覆切削工具の種類として具体的には、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型切削インサート、ドリル、およびエンドミルなどを挙げることができる。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
基材として、ISO規格CNGA120408形状のインサートに加工し、75.0%cBN−20.0%TiN−3.0%Al23−2.0%AlN(以上体積%)の組成を有する立方晶窒化硼素焼結体を用意した。また、ISO規格SEET13T3AGSN形状のインサートに加工し、76.0%WC−20.0%Co−2.0%NbC−2.0%Cr32(以上体積%)の組成を有する超硬合金を用意した。アークイオンプレーティング装置の反応容器内に、表1および表2に示す各層の組成になるよう金属蒸発源を配置した。用意した基材を、反応容器内の回転テーブルの固定金具に固定した。
その後、反応容器内をその圧力が5.0×10-3Pa以下の真空になるまで真空引きした。真空引き後、反応容器内のヒーターにより、基材をその温度が450℃になるまで加熱した。加熱後、反応容器内にその圧力が2.7PaになるようにArを導入した。
圧力2.7PaのAr雰囲気にて、基材に−400Vのバイアス電圧を印加して、反応容器内のタングステンフィラメントに40Aの電流を流して、基材の表面にArによるイオンボンバードメント処理を30分間施した。イオンボンバードメント処理終了後、反応容器内をその圧力が5.0×10-3Pa以下の真空になるまで真空引きした。
真空引き後、基材をその温度が表3に示す温度(成膜開始時の温度)になるように調整し、表3に示すガスを反応容器内に導入し、反応容器内を表3に示す圧力とするガス条件に調整した。
その後、基材に表3に示す電圧(バイアス電圧)を印加して、表3に示す電流のアーク放電により、表1および表2に組成を示す金属蒸発源を蒸発させて、基材の表面に複合化合物層(発明品)または第1層(比較品)を形成した。
基材の表面に表1および表2に示す所定の平均厚さまで各層を形成した後に、ヒーターの電源を切り、試料温度が100℃以下になった後で、反応容器内から試料を取り出した。
得られた試料の各層の平均厚さは、被覆切削工具の金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、3箇所の断面をSEM観察し、各層の厚さを測定し、その平均値(相加平均値)を計算することで求めた。得られた試料の各層の組成は、被覆切削工具の金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から中心部に向かって50μmまでの位置の近傍の断面において、EDSを用いて測定した。それらの結果も、表1および表2にあわせて示す。なお、表1および表2の各層の金属元素の組成比は、各層を構成する金属化合物における金属元素全体に対する各金属元素の原子比を示す。
得られた試料のアスペクト比が2以上である粒子の面積割合および平均粒径は、FE−SEMに付属したEBSDを用いて測定した。具体的には、ダイヤモンドペーストを用いて被覆切削工具を研磨した後、コロイダルシリカを用いて仕上げ研磨を行い、被覆切削工具の断面組織を得た。被覆切削工具の断面組織を有する試料をFE−SEMにセットし、試料の断面組織に70度の入射角度で15kVの加速電圧および0.5nA照射電流で電子線を照射した。EBSDにより被覆切削工具の逃げ面における断面組織を、測定範囲が300μm2の範囲、0.1μmのステップサイズで測定した。このとき、方位差が5°以上の境界を結晶粒界とみなし、この結晶粒界によって囲まれる領域を粒子とした。複合化合物層について、特定した各粒子の平均粒径およびアスペクト比が2以上である粒子の面積割合をそれぞれ求めた。それらの結果を、表4および表5に示す。比較品4については、TiN層の平均粒径およびアスペクト比が2以上である粒子の面積割合をそれぞれ求めた。
得られた試料について、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中法光学系のX線回折を、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:2/3°、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.3mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:4°/min、2θ測定範囲:25°〜70°とする条件で測定した。装置は、株式会社リガク製X線回折装置RINT TTRIII(製品名)を用いた。X線回折図形から複合化合物層および第1層の各面指数のピーク強度を求めた。得られた各面指数のピーク強度から、I(200)/I(111)を求めた。その結果を、表6および表7に示した。
得られた試料について、X線回折装置を用いたsin2ψ法により、複合化合物層および第1層の残留応力を測定した。残留応力は切削に関与する部位に含まれる任意の点3点の応力を測定し、その平均値(相加平均値)を複合化合物層または第1層の残留応力とした。比較品4については、TiN層の残留応力を求めた。その結果を、表8および表9に示した。
得られた試料を用いて、以下の切削試験を行った。
[切削試験1]
インサート形状:CNGA120408、
被削材:SCM415H、
被削材形状:φ150mm×300mmの円柱、
切削速度:130m/min、
送り:0.15mm/rev、
切り込み:0.15mm、
クーラント:使用、
評価項目:試料が欠損(試料の切れ刃部に欠けが生じる)したとき、またはコーナー切れ刃における摩耗幅が0.15mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命に至るまでの加工長さを測定した。
[切削試験2]
インサート形状:SEET13T3AGSN、
被削材:SUS304、
被削材形状:300mm×120mm×60mmの直方体、
切削速度:110m/min、
送り:0.15mm/tooth、
切り込み:2.0mm、
クーラント:無し、
切削幅:60mm、
評価項目:試料が欠損(試料の切れ刃部に欠けが生じる)したとき、または逃げ面摩耗幅が0.20mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命に至るまでの加工時間を測定した。
切削試験1については、発明品の加工長さは4.5m以上であり、全ての比較品の加工長さよりも長かった。また、発明品の損傷形態が正常摩耗であるのに対し、比較品の損傷形態は全て欠損であった。
また、切削試験2については、発明品の加工時間は39分以上であり、全ての比較品の加工時間よりも長かった。また、発明品の損傷形態が正常摩耗であるのに対し、比較品の損傷形態は全て欠損であった。
以上の結果より、耐摩耗性および耐欠損性を向上させたことにより、発明品の工具寿命が長くなっていることが分かった。
(実施例2)
基材として、ISO規格CNGA120408形状のインサートに加工し、75.0%cBN−20.0%TiN−3.0%Al23−2.0%AlN(以上体積%)の組成を有する立方晶窒化硼素焼結体を用意した。また、ISO規格SEET13T3AGSN形状のインサートに加工し、76.0%WC−20.0%Co−2.0%NbC−2.0%Cr32(以上体積%)の組成を有する超硬合金を用意した。被覆層が実施例1の発明品2、6、11、16および18の複合化合物層と、それを挟むように形成された下部層と上部層とを有する試料を以下のようにして作製した。まず、アークイオンプレーティング装置の反応容器内に、表12に示す各層の組成になるよう金属蒸発源を配置した。用意した基材を、反応容器内の回転テーブルの固定金具に固定した。
その後、反応容器内をその圧力が5.0×10-3Pa以下の真空になるまで真空引きした。真空引き後、反応容器内のヒーターにより、基材をその温度が450℃になるまで加熱した。加熱後、反応容器内にその圧力が2.7PaになるようにArを導入した。
圧力2.7PaのAr雰囲気にて、基材に−400Vのバイアス電圧を印加して、反応容器内のタングステンフィラメントに40Aの電流を流して、基材の表面にArによるイオンボンバードメント処理を30分間施した。イオンボンバードメント処理終了後、反応容器内をその圧力が5.0×10-3Pa以下の真空になるまで真空引きした。
発明品21、22、24〜29、31〜34については、真空引き後、反応容器内の圧力が3.0PaになるようにN2を導入した。その後、基材に−50Vのバイアス電圧を印加して、アーク電流120Aのアーク放電により表12に組成を示す金属蒸発源を蒸発させて、下部層を形成した。
発明品30については、真空引き後、反応容器内の圧力が3.0PaになるようにArとN2とアセチレンガス(C22)とを導入した。このとき、ArとN2とC22とを体積比で、Ar:N2:C22=45:45:10の比率で導入した。その後、基材に−50Vのバイアス電圧を印加して、アーク電流120Aのアーク放電により表12に組成を示す金属蒸発源を蒸発させて、下部層を形成した。
下部層を形成した後、実施例1の発明品と同じ条件で、表12に示す複合化合物層を下部層の表面に形成した。発明品23については、下部層を形成せずに、実施例1の発明品2と同じ条件で、表12に示す複合化合物層を基材の表面に形成した。
発明品22〜24、26、27、29〜32、34については、複合化合物層を形成した後、反応容器内の圧力が3.0PaになるようにN2を導入した。基材に−50Vのバイアス電圧を印加して、アーク電流120Aのアーク放電により表12に組成を示す金属蒸発源を蒸発させて、上部層を形成した。
発明品28については、複合化合物層を形成した後、反応容器内の圧力が3.0PaになるようにArとN2とC22とを導入した。このとき、ArとN2とC22とを体積比で、Ar:N2:C22=45:45:10の比率で導入した。基材に−50Vのバイアス電圧を印加して、アーク電流120Aのアーク放電により表12に組成を示す金属蒸発源を蒸発させて、上部層を形成した。
基材の表面に表12に示す所定の平均厚さまで各層を形成した後に、ヒーターの電源を切り、試料温度が100℃以下になった後で、反応容器内から試料を取り出した。
得られた試料の各層の平均厚さは、被覆切削工具の金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、3箇所の断面をSEM観察し、各層の厚さを測定し、その平均値(相加平均値)を計算することで求めた。得られた試料の各層の組成は、被覆切削工具の金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から中心部に向かって50μmまでの位置の近傍の断面において、EDSを用いて測定した。それらの結果も、表12にあわせて示す。なお、表12の各層の金属元素の組成比は、各層を構成する金属化合物における金属元素全体に対する各金属元素の原子比を示す。
*「組成」または「平均厚さ」の欄における、「−」とは、下部層および上部層が形成されていないことを意味する。
得られた試料を用いて、実施例1と同様にして切削試験を行った。その結果を表13に示す。

表13に示す結果より、発明品21〜34の加工長さおよび加工時間は、それらの発明品の被覆層に含まれる複合化合物層のみを有する被覆層を備えた発明品と比較して、加工長さおよび加工時間がわずかに長くなった。したがって、発明品は、下部層および上部層を有していても、本発明の効果を奏することが分かった。
本発明の被覆切削工具は、従来よりも工具寿命を延長できるので、そのような用途で産業上の利用可能性がある。
1…基材、2…下部層、3…複合化合物層、4…上部層、5…被覆層、6…被覆切削工具。

Claims (11)

  1. 基材と、該基材の上に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、
    前記被覆層は、少なくとも1層の下記式(1):
    (Ti1-xMox)N (1)
    (式中、xはTi元素とMo元素との合計に対するMo元素の原子比を表し、0.01≦x≦0.30を満足する。)
    で表される組成を有する化合物を含有する複合化合物層を含み、
    前記複合化合物層は、立方晶を含み、X線回折分析における前記立方晶の(111)面のピーク強度I(111)と、前記立方晶の(200)面のピーク強度I(200)との比I(200)/I(111)が、下記式(A):
    1.0<I(200)/I(111)≦20.0 (A)
    で表される条件を満足し、
    前記複合化合物層を構成する粒子において、アスペクト比が2以上である粒子の面積割合が50%以上である、被覆切削工具。
  2. 前記複合化合物層を構成する粒子の平均粒径が、0.1μm以上1.0μm以下である、請求項1に記載の被覆切削工具。
  3. 前記複合化合物層を構成する粒子の平均粒径が、0.3μm以上1.0μm以下である、請求項1に記載の被覆切削工具。
  4. 前記複合化合物層の残留応力が、圧縮の残留応力である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
  5. 前記複合化合物層の残留応力の値が、−8.0GPa以上−1.0GPa以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
  6. 前記複合化合物層の平均厚さは、1.0μm以上8.0μm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
  7. 前記被覆層は、前記基材と前記複合化合物層との間に、下部層を有し、
    前記下部層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物の単層または積層であり、
    前記下部層の平均厚さは、0.1μm以上3.5μm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
  8. 前記複合化合物層は、前記被覆層における最外層である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
  9. 前記被覆層は、前記複合化合物層の上に、上部層を有し、
    前記上部層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、SiおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、OおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物の単層または積層であり、
    前記上部層の平均厚さは、0.1μm以上3.5μm以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
  10. 前記被覆層の全体の平均厚さは、1.5μm以上15.0μm以下である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
  11. 前記基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス及び立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
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