(第1実施形態)
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は,本発明に係る画像形成装置の構成例を示す図である。図1に示す画像形成装置1は,電子写真方式のタンデム型デジタルカラープリンター(以下単に「プリンター」と記載する)である。もちろん,プリンターのほか,さらにスキャナを有する複写機又はそれらの機能を複合的に備えた複合機等にも本発明を適用することができる。
画像形成装置1は,その内部のほぼ中央部に中間転写ベルト(中間転写体)40を備えている。中間転写ベルト40は,無端状(エンドレス状)のベルトであり,駆動ローラー12,テンションローラー13,及び従動ローラー14,15の外周部に掛け渡されている。中間転写ベルト40は,駆動ローラー12の回転駆動に伴って反時計回りに回転する。テンションローラー13は,バネ10によって中間転写ベルト40の内側から外側に向かって付勢されている。そのため中間転写ベルト40には,常に張力がかかっている。
中間転写ベルト40の下方には,イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),ブラック(K)の各色にそれぞれ対応する4つのイメージングユニット(画像形成ユニットに相当する)2Y,2M,2C,2Kが,中間転写ベルト40に沿ってこの順に並んで配置されている。各イメージングユニット2Y,2M,2C,2Kは,感光体21Y,21M,21C,21Kをそれぞれ有している。各感光体21Y,21M,21C,21Kの周囲には,画像形成時の回転方向(正回転方向ともいう,図中時計回り方向)に沿って順に,帯電装置22Y,22M,22C,22Kと,露光装置23Y,23M,23C,23Kと,現像装置24Y,24M,24C,24Kと,クリーニング装置25Y,25M,25C,25Kと,イレーサー(除電装置)26Y,26M,26C,26Kとが配置されている。なお,以下において,イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C)またはブラック(K)の区別が必要である場合を除いて,各色を表す添え字を省略して説明する。
帯電装置22は,例えばスコロトロンであり,感光体21の表面を一様に帯電させるものである。露光装置23は,帯電した感光体21を,作像する画像のデータに基づいて露光するものである。これにより,感光体21には,画像データに基づく静電潜像が形成される。現像装置24は,感光体21に形成された静電潜像をトナーにより可視像化するものである。すなわち,感光体21にトナー像を形成するものである。
クリーニング装置25は,短冊状のクリーニングブレード38を備える。クリーニングブレード38は,後述する1次転写後に感光体21上に残留する残留トナーを掻き落とすものである。イレーサー26は,イレーサーランプを備えており,イレーサーランプの照射により,1次転写後の感光体21の表面の静電潜像の残像を除去するものである。
また図1に示すように,中間転写ベルト40を挟んで,各感光体21Y,21M,21C,21Kと対向する位置には,後述する1次転写のための1次転写ローラー30Y,30M,30C,30Kが設けられている。また,中間転写ベルト40の駆動ローラー12で支持された部分には,後述する2次転写のための2次転写ローラー16が圧接されている。2次転写ローラー16と中間転写ベルト40とのニップ部が2次転写領域17となる。この2次転写領域17において,中間転写ベルト40上に転写されたトナー像は用紙(最終媒体)Pに転写される。
画像形成装置1の下部には,給紙カセット91が着脱可能に配置されている。給紙カセット91内に積載された状態で収容された用紙Pは,給紙ローラー92の回転によって最上部のものから1枚ずつ引き出されて搬送路93に送り出される。搬送路93は,給紙カセット91から,タイミングローラー対94のニップ部,2次転写領域17,および定着ユニット95を通って排紙トレイ98まで続いている。給紙カセット91から送り出された用紙Pは,タイミングローラー対94に搬送され,ここで所定のタイミングで2次転写領域17に送り出される。
定着ユニット95は,中空円筒状で,ヒーター99を内部に備えた加熱ローラー96と,この加熱ローラー96に圧接されて従動回転する加圧ローラー97とを備えている。加熱ローラー96と加圧ローラー97とにより形成されるニップ部を,2次転写によりトナー像が転写された用紙Pが通過することにより,用紙Pにトナー像が定着される。
このような構成の画像形成装置1の画像形成動作について簡単に説明する。カラー画像を出力するフルカラーモードの場合,例えばパソコンなどの外部装置から画像形成装置1の制御部70に画像信号が入力されると,制御部70は,この画像信号をイエロー,シアン,マゼンタ,ブラックに色変換したデジタル画像信号を作成し,このデジタル画像信号に基づいて,各イメージングユニット2の露光装置23を発光させて,感光体21を露光する。これにより,各感光体21Y,21M,21C,21Kの表面に各色用の静電潜像がそれぞれ形成される。なお,露光前に,各感光体21の表面は,帯電装置22により一様に帯電される。
各感光体21Y,21M,21C,21K上に形成された静電潜像は,各現像装置24Y,24M,24C,24Kによってそれぞれ現像されて各色のトナー像となる。そして,各色のトナー像は,各1次転写ローラー30Y,30M,30C,30Kへのバイアス電位の印加(トナーの帯電極性と逆極性のバイアス電位の印加)により,図1中反時計回りに回転する中間転写ベルト40上に順次転写されて重ね合わせられる。これにより中間転写ベルト40上には,各色のトナー像が重ね合わせられたカラー画像としてのトナー像が形成される。これを1次転写という。
中間転写ベルト40上に転写されたトナー像は,中間転写ベルト40の移動にしたがって2次転写領域17に達する。一方,給紙カセット91から搬送路93に送り出された用紙Pは,タイミングローラー対94によって,トナー像が2次転写領域17に達するタイミングに合わせて2次転写領域17へ搬送される。そして,2次転写ローラー16には,1次転写ローラー30への印加電位に比較してトナーの帯電極性と逆極性側に大きなバイアス電位が印加される。これにより,2次転写領域17において,トナー像は中間転写ベルト40から用紙Pに転写される。これを2次転写という。
トナー像が転写された用紙Pは,搬送路93を通って定着ユニット95に送られる。そこで,加熱ローラー96と加圧ローラー97とにより形成されるニップ部を通過することにより,用紙Pにトナー像が定着される。トナー像が定着された用紙Pは,排紙トレイ98に排出される。
なお,用紙Pに転写されることなく中間転写ベルト40上に残った残留トナーは,ベルトクリーニング装置9で掻き取られ,中間転写ベルト40の外周面から除去される。その後,感光体21及び中間転写ベルト40の回転駆動が停止される。
次に,画像形成装置1が備える中間転写ベルト40について詳述する。中間転写ベルト40は,図2に示すように,基層41,弾性層42,応力緩和層44,及び表面層43を内側から外側へかけてこの順に有した4層構造となっている。表面層43は,中間転写ベルト40における最外層である。なお中間転写ベルト40は,この4層以外の層を備えていてもよい。
基層41は,中間転写ベルト40の剛性を確保するための芯材であり,4層の中で最も硬い。基層41は,合成樹脂製である。具体的には,ポリイミド,ポリアミド,PC(ポリカーボネート),PVDF(ポリフッ化ビニリデン),PAT(ポリアルキレンテレフタレート),PCとPATのブレンド材料,ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体)とPCのブレンド材料,及び,ETFEとPATのブレンド材料等の熱可塑性樹脂などから形成される。基層41が薄過ぎては中間転写ベルト40の剛性を確保できないため,基層41の厚みは50〜150μm程度が望ましい。本形態では,基層41の厚みは80μm程度である。
弾性層42は,2次転写ローラー16に対する中間転写ベルト40のニップ幅を十分に確保するためのものである。弾性層42の硬度(JIS K6253 デュロメータ・タイプA硬度,以下「硬度」という場合にはこの硬度を意味する)は,40度以上80度未満が好ましい。硬度が高すぎると,十分なニップ幅が確保されずに転写効率が低下したり,画像の中抜けが発生したり,中間転写ベルト40が回転し難くなったりと,種々の不具合が発生し得るからである。また硬度が低すぎると,2次転写領域17において中間転写ベルト40の表面にしわができ,画像ノイズを引き起こすおそれがあるからである。
弾性層42は,例えば,ニトリルブタジエンゴム(NBR),クロロプレンゴム,ポリブタジエンゴム,イソプレンゴム,ウレタンゴム,EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム),アクリルゴム,及びシリコンゴム等のゴム材から形成される。弾性層42の厚みは,100〜300μm程度が望ましい。100μm未満では,転写時に十分なニップ幅を確保することが困難となるからである。また300μmを超えると転写時に中間転写ベルト40の表面にしわができやすくなるからである。本形態では,弾性層42の厚みは200μm程度である。
応力緩和層44は,4層の中で最も軟らかい層である。応力緩和層44は,後で詳細に述べるが表面層43に形成されたクラック55(図3参照)の拡大を抑制するための層である。応力緩和層44の硬度は,40度未満が好ましく,特に20度以上40度未満程度が好ましい。硬度が40度以上であると,クラック55の拡大を止める効果が弱いからである。また硬度が低すぎると,応力緩和層44の変形後の復元に時間がかかり,画像ノイズが発生する懸念があるところ,応力緩和層44の硬度が20度以上であれば問題ないからである。
応力緩和層44を形成するのに適した材料は,上記した弾性層42の形成に適した材料と同じである。但し応力緩和層44を構成する材料と,弾性層42を構成する材料とが一致している必要はない。応力緩和層44の厚みは,10〜30μm程度が望ましい。10μm未満とすると,クラック55(図3参照)の拡大を抑制する効果が弱いからである。また30μmを超えると,弾性変形した後の復元に時間がかかりすぎて画像ノイズの原因となるからである。すなわち,応力緩和層44を構成する低硬度のゴム材は低反発なものであるため,変形後の復元に時間がかかる。そのため,転写を受けるまでに変形が戻りきらず,画像ノイズの原因となってしまうのである。本形態では,応力緩和層44の厚みは15μm程度である。
表面層43は,弾性層42よりも硬い層である。表面層43は,中間転写ベルト40におけるトナーの離型性を向上させるためのものである。表面層43の硬度は,80度以上が望ましく,特に85〜100度程度が望ましい。表面層43は硬ければ硬いほどトナーの離型性が向上するが,硬すぎると弾性層42の変形が抑えられて転写時に十分なニップ幅を確保することが難しくなってしまうからである。
表面層43は,応力緩和層44とは別体で設けてもよいし,応力緩和層44に表面処理を施すことにより形成してもよい。応力緩和層44に表面処理を施すことにより形成すると,表面層43を構成する材料を別途用意する必要がないというメリットや,表面層43が応力緩和層44から剥がれてしまうおそれを抑制できるというメリットがある。
表面層43を応力緩和層44と別体で設ける場合には,表面層43は,例えばフッ素樹脂やセラミックスなどから形成することができる。表面層43を形成するフッ素樹脂としては,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE),エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリフッ化ビニル(PVF)等を挙げることができる。また表面層43を形成するセラミックスとしては,二酸化ケイ素(SiO2)等のケイ素酸化物,アルミニウム酸化物,チタン酸化物,及び亜鉛酸化物などを挙げることができる。セラミックスにより表面層43を形成する場合には,例えば大気圧下でのプラズマCVD法が好適に利用できる。
なお表面層43は,上記したフッ素樹脂単体で形成してもよいが,フッ素樹脂を次に例示するバインダー中に分散させたものを用いて形成してもよい。フッ素樹脂単体では成膜性に劣るところ,フッ素樹脂をバインダー中に分散させたものを用いれば,所望の表面層43を容易に形成することができるからである。バインダーとしては,ポリウレタン,ポリオレフィン,ポリエステル,ポリアミド,ポリスチレン,アクリル系樹脂,スチレンーアクリル共重合体,ポリカーボネート,塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂を用いることができる。なおフッ素樹脂の含有量は特に限定されるものではないが,表面層43の摩擦係数をある程度低くしたり,トナーの離型性を確保したりするためには,10wt%以上とすることが望ましい。バインダー中にフッ素樹脂を分散させたものを用いて表面層43を形成するには,例えばバインダーとフッ素樹脂とを適当な溶剤中に溶解させたものを,弾性層42上に塗布し,その後乾燥させればよい。
一方,応力緩和層44に表面処理を施すことにより表面層43を形成する場合には,上記したゴム材からなる応力緩和層44に対して,例えば酸化処理やイソシアネート処理などの公知の表面硬化改質処理を施す。イソシアネート処理とは,イソシアネート化合物を応力緩和層44の表面に含侵させ,その後加熱して反応させるものである。イソシアネート処理では,イソシアネート化合物の含浸量,加熱温度,及び加熱時間を調整することにより,弾性層42の表面を所望の硬さに硬化させることができる。イソシアネート処理に用いるイソシアネート化合物としては,芳香族イソシアネート,脂肪族イソシアネート等が挙げられる。具体的には,トルエンジイソシアネート(TDI),ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI),クルードMDI等が挙げられる。応力緩和層44がNBRである場合には,次亜塩素酸塩を用いることも可能である。なお,応力緩和層44とは別体で表面層43を構成するためのゴム材を応力緩和層44に重ねて設け,その別体で設けたゴム材に対して表面処理を施すことにより,所望の硬さの表面層43を形成してもよい。また,別体で設けたゴム材(NBR等)に対して樹脂架橋剤(例えばフェノール樹脂)を適当量充填することにより,所望の硬さの表面層43を形成してもよい。
表面層43の厚みは,10〜30μm程度が望ましい。表面層43は薄ければ薄いほどよいが,あまりに薄いと安定した製造が困難となるからである。本形態では,表面層43の厚みは15μm程度である。
これらの基層41,弾性層42,応力緩和層44,及び表面層43の体積抵抗率は,良好な転写を行うために以下に示す値に調整されている。体積抵抗率の調整にあたっては,カーボンブラック,グラファイト,及び,ニッケル等の金属粉末などの導電剤(抵抗値調節用導電剤)が適宜添加される。
基層41の体積抵抗率 :107〜1011Ω・cm
弾性層42の体積抵抗率 :108.5〜1011.5Ω・cm
応力緩和層44の体積抵抗率:1010〜1013Ω・cm
表面層43の体積抵抗率 :1010〜1013Ω・cm
ところでこのように構成された中間転写ベルト40は,画像形成時に回転駆動されるのに伴って,ローラー12,13,14,15(図1参照)に捲回されている位置において曲げられて伸ばされる(引張力を受ける)。そのため,表面層43の表面43aには微細なクラックが生じる。この微細なクラックは,画像形成装置1が使用されるにつれて深さ方向及びベルト幅方向に拡大していく。
図6は,応力緩和層44を有しない従来の中間転写ベルト200を示す図である。図6に示す従来の中間転写ベルト200は,基層201,弾性層202,及び表面層203の3層構造である。この中間転写ベルト200では,表面層203にクラック255が生じると,中間転写ベルト200の回転駆動に伴って,クラック255の深さ方向の先端255aに応力集中が生じ,クラック255が深さ方向に拡大していく(図6中の破線参照)。クラック255が深くなれば,中間転写ベルト200が引張力(図6中の符号e,f参照)を受けた際に,クラック255におけるベルト幅方向(図6中紙面に直交する方向)の両端部にも応力集中が生じるため,クラック255はベルト幅方向にも拡大する。このようなクラック255の拡大は,中間転写ベルト200が使用される限り起こるため,やがてはクラック255が弾性層202を突き抜けて基層201に至るほどに拡大してしまう。ここまでクラック255が大きく拡大してしまうと,印刷画像に画像ノイズが生じてしまう。
そこで本形態では,このような画像ノイズの発生を防ぐため,図2に示すように表面層43と弾性層42との間に,上記した応力緩和層44を設けている。このような応力緩和層44があれば,中間転写ベルト40の回転駆動に伴って表面層43にクラックが形成されても,そのクラックが際限なく拡大(成長)するのを抑えることができる。
すなわち図3に示すように,表面層43にクラック55が生じてそのクラック55が応力緩和層44に至っても,応力緩和層44は弾性層42に比して良く伸びる。そのため,クラック55の深さ方向の先端55aの応力集中が緩和される。従ってクラック55は,ローラー12,13,14,15に巻き掛けられている中間転写ベルト40が引張力(図3中の矢印a,b参照)を受けることで(曲がって伸びることで),応力緩和層44の面方向に沿って多少拡大するものの(図3中の矢印c,d参照),クラック55の深さ方向の拡大は抑制される。従って,クラック55が深くならないため,クラック55がベルト幅方向(図3中の紙面に直交する方向)に拡大するのも抑制される。よって実施形態の中間転写ベルト40によれば,クラック55が弾性層42に至るほど成長するのを防ぐことができる。そのため,拡大したクラックを原因とする画像ノイズの発生を防ぐことができる。
次に,本発明の効果を確認するために行った実験について,下記表1に基づいて説明する。この実験の実施例1〜8及び比較例1〜6では,試料として,以下の条件の各層を内側から順に塗布していく方法で作製した中間転写ベルトを使用している。
基層 …ポリイミド製,厚さ80μm,体積抵抗率1010Ω・cm
弾性層 …ニトリルブタジエンゴム製,厚さ200μm,体積抵抗率109Ω・cm
応力緩和層…ニトリルブタジエンゴム製,厚さ15μm,体積抵抗率1011Ω・cm
表面層 …ニトリルブタジエンゴム製,厚さ15μm,体積抵抗率1011Ω・cm
実施例1〜8及び比較例1〜6の各試料(中間転写ベルト)は,弾性層,応力緩和層,表面層の硬度が下記表1のように調整されている。弾性層,応力緩和層及び表面層の硬度調整は,ゴム材料(ニトリルブタジエンゴム)に対する樹脂架橋剤(具体的にはフェノール樹脂)の充填量を調整することにより行った。また,各試料における表面摩擦係数をそろえるために,表面層には表面処理を施している。表面処理は,表面層を処理液に接触させる処理である。処理液は,次亜塩素酸t−ブチルと酢酸エチルとターシャリーブチルアルコールを2:10:88の重量比率で混合したものである。室温下にて30秒接触させた後,水で洗浄した。このような表面処理を行うことにより,表面層の柔軟性を損なうことなく,表面層の摩擦係数を低減させている。
このように製造した実施例1〜8及び比較例1〜6の各中間転写ベルトを,画像形成装置であるコニカミノルタ製bizhubC650に搭載し,各色の印字率が5%の画像を10000枚プリントした後,シアン色のベタ画像を平滑紙とラフ紙(エンボス紙)にプリントした。その後,ラフ紙にプリントしたベタ画像について画像濃度(2次転写効率)を測定するとともに,平滑紙にプリントしたベタ画像について目視による画像ノイズの確認を行った。画像ノイズには,中間転写ベルトの表面にできたしわに起因するものと,クラックに起因するものとが含まれる。画像濃度の測定に用いた透過濃度測定機は,マクベス製TD904である。評価結果は,上記表1に示す通りである。なお表1における「評価結果」の欄の「○」,「△」,「×」の意味は下記の通りである。
・画像濃度(2次転写効率)の評価結果
○:透過濃度が0.9以上である。良好な転写である。
△:透過濃度が0.8以上0.9未満である。わずかに薄いが実用上問題のない転写である。
×:透過濃度が0.8未満である。実用上問題のある転写である。
・画像ノイズ(しわによるノイズ,及びクラックによるノイズ)の評価結果
○:画像ノイズは全く生じていない。
△:画像ノイズがわずかに生じたが実用上問題のない範囲である。
×:実用上問題となる画像ノイズが生じている。
上記表1に示す実験結果から,良好な2次転写効率を確保しつつ画像ノイズの発生を防止するためには,表面層の硬度H1,応力緩和層の硬度H2,及び弾性層の硬度H3の関係を,以下の範囲に保てばよいことがわかった(実施例1〜8)。
表面層の硬度H1 :80度以上(H1≧80)
応力緩和層の硬度H2:40度未満(40>H2)
弾性層の硬度H3 :40度以上80度未満(80>H3≧40)
また,H2は20度以上であれば画像ノイズの問題が生じないことがわかった(実施例1,2,5,及び6)。また,H1>H3>H2の関係にはあるがH2が上記範囲を外れて大きいと,クラックの拡大を十分に抑制することができず,実用上問題のないレベルであるがクラックに起因する画像ノイズが発生することがわかった(比較例1)。また,H1>H3>H2の関係にはあるがH3が上記範囲を外れて小さいと,実用上問題のないレベルであるが中間転写ベルトの表面にしわができ,そのしわに起因して画像ノイズが発生することがわかった(比較例2)。また,H1>H3>H2の関係にはあるがH1が上記範囲を外れてしまうと,実用上問題のないレベルであるが,2次転写効率やベルトのクリーニング性が低下することがわかった(比較例4)。
また,H1>H3>H2の関係から外れるほどH3が大きいと,ラフ紙に対する2次転写効率の低下が,実用上問題となるレベルで起こることがわかった(比較例3)。また,H1>H3>H2の関係から外れるほどH2が大きいと,クラックの拡大を抑制することができず,クラックに起因する画像ノイズが実用上問題となるレベルで起こることがわかった(比較例5及び6)。
以上詳細に説明したように第1実施形態に係る画像形成装置1における中間転写ベルト40では,弾性層42と,弾性層42よりも軟らかい応力緩和層44と,弾性層42よりも硬い表面層43とが,内側から最終媒体(用紙)と対面する面(表面43a)のある外側へ向かってこの順に積層されている。そのため,中間転写ベルト40の回転駆動に伴って形成されたクラック55(図3参照)の拡大(成長)を,応力緩和層44によって止めることができる。すなわち,中間転写ベルト40の回転駆動に伴って表面層43にクラック55が形成されて,そのクラック55が拡大していくと,そのクラック55の深さは応力緩和層44に至る程度になる。ここで応力緩和層44は,弾性層42よりも軟らかい層であるため,中間転写ベルト40がベルト進行方向に沿う引張力を受けたときに,厚み方向に直交する面方向に沿って弾性層42よりもよく伸びる。従って,応力緩和層44まで至ったクラック55の深さ方向の先端55aにおける応力集中は緩和される。よって,クラック55が応力緩和層44を突き抜けて弾性層42に至るほど深く成長するのを防ぐことができる。
そしてこのようにクラック55の深さ方向への成長を防ぐことができるため,クラック55における中間転写ベルト40の幅方向に沿う両端部への応力集中も防ぐことができる。そのため,クラック55が中間転写ベルト40の幅方向に沿って成長するのも防ぐことができる。従って本形態によれば,拡大したクラック55が原因で最終媒体への印刷画像に画像ノイズが生じるのを防ぐことができる。
なお応力緩和層44に形成されたクラック55の先端55aは,中間転写ベルト40の回転駆動に伴って,応力緩和層44の面方向に沿う引張力を受けるため,その面方向に沿って多少広がる。その結果,表面層43の表面43aに現れているクラック55もベルト進行方向に沿って多少大きくなる。しかしながらその程度は,応力緩和層44がなく表面層43の下層が弾性層42である場合に比して10分の1程度である。従って,この程度のクラック55の拡大では,印刷画像に画像ノイズは生じない。
ここで本形態の中間転写ベルト40では,弾性層42における硬度が40度以上80度未満であり,応力緩和層44の硬度が40度未満であり,表面層43の硬度が80度以上である。そのため,表面層43にクラック55が形成されても,その成長を好適に抑制することができる。よって,画像ノイズを全く生じさせず,且つ,2次転写効率の高い印刷を行うことができる。
また本形態の中間転写ベルト40では,弾性層42の内側に,表面層43よりも硬い基層41をさらに備えている。このように他のいずれの層(弾性層42,応力緩和層44,及び表面層43)よりも硬い基層41があることによって,他の各層42,43,44が際限なく伸びるのを防ぐことができる。そのため,良好な印刷を行うことができる。
また本形態の中間転写ベルト40では,弾性層42は,ニトリルブタジエンゴムからなることが特に望ましい。ニトリルブタジエンゴムは中間転写ベルト40の弾性層42として特に適しており,2次転写効率を特に向上させ得るからである。なお,ニトリルブタジエンゴムは他のゴム材に比してオゾン劣化しやすいが,本形態によれば,ニトリルブタジエンゴムにより弾性層42を設けてもクラックの拡大を抑えることができるため,画像ノイズが生じるおそれがない。
(第2実施形態)
次に第2実施形態について説明する。第2実施形態では,中間転写ベルト40における各層(基層41,弾性層42,応力緩和層44,及び表面層43)の軟らかさを,硬度ではなく,引張破断伸びによって規定している。引張破断伸びとは,試料(各層)が破断せずにどこまで伸びることができるかを表すものである。ここでいう引張破断伸びは,株式会社島津製作所製の精密万能試験機オートグラフAG−10kNを用いて測定した値である。引張破断伸びの具体的な計算式は下記式の通りである。
引張破断伸び(%)=(L−L0)/L0×100
L :破断時の試料の長さ
L0:試験前の試料の長さ
本形態の中間転写ベルトの構成は,第1実施形態の中間転写ベルト40と同じである(図2参照)。すなわち,基層41,弾性層42,応力緩和層44,及び表面層43を内側から外側に向かってこの順に積層したものである。本形態の説明において,第1実施形態と同様の構成については同様の符号を付して説明を省略する。本形態の中間転写ベルト40を構成する各層(基層41,弾性層42,応力緩和層44,及び表面層43)の構成材料,層厚,及び体積抵抗率は,第1実施形態と同様である。
本形態の基層41は,引張破断伸びが10%以下(例えば5%程度)である。
本形態の弾性層42は,引張破断伸びが200%より大きく600%より小さい(望ましくは250%以上500%以下である)。引張破断伸びが大きすぎると,軟らかすぎて,2次転写領域17において中間転写ベルト40の表面にしわができ,画像ノイズを引き起こすおそれがある。一方,引張破断伸びが小さすぎると,十分なニップ幅が確保されずに転写効率が低下する。そのため,弾性層42の引張破断伸びは上記範囲とするのがよいのである。
本形態の応力緩和層44は,引張破断伸びが600%以上である。この理由は次の通りである。すなわち,応力緩和層44の引張破断伸びが600%以上であれば,ローラー12,13,14,15に巻き掛けられて回転駆動されている中間転写ベルト40に引張力が作用しても,応力緩和層44が十分に伸びることができる。そのため,クラック55の深さ方向の先端55a(図3参照)に生じる応力集中が緩和され,クラック55の拡大を抑えることができる。よって応力緩和層44の引張破断伸びは,600%以上が良いのである。ゴム材の引張破断伸びを上げる(硬度を低くする)には,その架橋密度を低くすればよい。なお,応力緩和層44を有さず,引張破断伸びが250%〜500%程度の弾性層42のみでは,表面層43に生じたクラック55(図3参照)の拡大を抑えることはできない。
本形態の表面層43は,引張破断伸びが200%以下である。表面層43の引張破断伸びが大きいほどクラック55(図3参照)は発生し難くなる。しかし表面層43の引張破断伸びが大きいと,トナーの離型性が悪くなってしまう。トナーの離型性を考慮すると,引張破断伸びは小さい方が好ましい。具体的には,50%以上200%以下が好ましい。200%以下であれば,トナーの離型性を良好に保つことができるからである。また50%以上であれば,表面層43が硬すぎることによって弾性層42の変形が抑えられてしまい,十分なニップ幅が確保できないという不具合を防ぐことができるからである。
次に,本発明の効果を確認するために行った実験について,下記表2に基づいて説明する。この実験の実施例1〜4及び比較例1〜6では,試料として,以下の条件の各層を内側から順に塗布していく方法で作製した中間転写ベルトを使用している。
基層 …ポリイミド製,厚さ80μm,体積抵抗率1010Ω・cm
弾性層 …ニトリルブタジエンゴム製,厚さ200μm,体積抵抗率109Ω・cm
応力緩和層…ニトリルブタジエンゴム製,厚さ15μm,体積抵抗率1011Ω・cm
表面層 …ニトリルブタジエンゴム製,厚さ15μm,体積抵抗率1011Ω・cm
実施例1〜4及び比較例1〜6の各試料(中間転写ベルト)は,応力緩和層及び表面層の引張破断伸びが下記表2のように調整されており,弾性層の引張破断伸びが400%に調整されている。弾性層,応力緩和層及び表面層の引張破断伸びの調整は,ゴム材料(ニトリルブタジエンゴム)に対する樹脂架橋剤(具体的にはフェノール樹脂)の充填量を調整することにより行った。また,各試料における表面摩擦係数をそろえるために,表面層には表面処理を施している。表面処理は,表面層を処理液に接触させる処理である。処理液は,次亜塩素酸t−ブチルと酢酸エチルとターシャリーブチルアルコールを2:10:88の重量比率で混合したものである。室温下にて30秒接触させた後,水で洗浄した。このような表面処理を行うことにより,表面層の柔軟性を損なうことなく,表面層の摩擦係数を低減させている。
このように製造した実施例1〜4及び比較例1〜6の各中間転写ベルトを,上記した表1に結果を示す実験と同様,画像形成装置であるコニカミノルタ製bizhubC650に搭載し,各色の印字率が5%の画像を10000枚プリントした後,シアン色のベタ画像を平滑紙とラフ紙(エンボス紙)にプリントした。その後,ラフ紙にプリントしたベタ画像について画像濃度(2次転写効率)を測定するとともに,平滑紙にプリントしたベタ画像について目視による画像ノイズの確認を行った。画像ノイズには,中間転写ベルトの表面にできたしわに起因するものと,クラックに起因するものとが含まれる。画像濃度の測定に用いた透過濃度測定機は,マクベス製TD904である。評価結果は,上記表2に示す通りである。なお表2における「評価結果」の欄の「○」,「△」,「×」の意味は,上記表1に示す「○」,「△」,「×」の意味と同じである。
上記表2に示す実験結果から,良好な2次転写効率を確保しつつ画像ノイズの発生を防止するためには,表面層の引張破断伸びS1および応力緩和層の引張破断伸びS2の関係を,以下の範囲に保てばよいことがわかった(実施例1〜4)。
表面層の引張破断伸びS1 :200%以下(200%≧S1)
応力緩和層の引張破断伸びS2:600%以上(S2≧600%)
特に,S2が上記範囲を外れると(比較例1〜4),クラックの拡大を抑制する効果が得られず,画像ノイズが発生することがわかった。発生した画像ノイズの程度は,S2の値が小さいほど大きい。応力緩和層の引張破断伸びが小さいほど,クラックが拡大してしまうからである。
また,S1が上記範囲を外れると(比較例5,6),トナーの離型性が十分に確保されず,2次転写効率が低下することがわかった。2次転写効率は,S1の値が大きいほど低下する。表面層の引張破断伸びが大きいほど,表面層が柔らかいということであり,トナーの離型性が悪くなるからである。なお,表面層の引張破断伸びが600%である場合には(比較例6),中間転写ベルトの表面にしわができ,このしわに起因した画像ノイズも発生していた。
以上詳細に説明したように第2実施形態に係る画像形成装置における中間転写ベルト40では,弾性層42と,弾性層42よりも軟らかい応力緩和層44と,弾性層42よりも硬い表面層43とが,内側から最終媒体(用紙)と対面する面(表面43a)のある外側へ向かってこの順に積層されている。表面層43における引張破断伸びは200%以下である。応力緩和層44の引張破断伸びは600%以上である。そのため,中間転写ベルト40の回転駆動に伴って形成されたクラック55(図3参照)の拡大(成長)を,第1実施形態と同様の原理により,応力緩和層44によって止めることができる。従って本形態によれば,拡大したクラック55が原因で最終媒体への印刷画像に画像ノイズが生じるのを防ぐことができる(表2参照)。なお第2実施形態では,各層(基層41,弾性層42,応力緩和層44,及び表面層43)の軟らかさの程度を引張破断伸びにより規定したが,各層の硬度が第1実施形態で示した硬度となることを妨げるものはない。
なお,上述した実施形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,上記形態では,中間転写ベルト40として基層41を備えるものを用いたが,基層41を備えていないものを用いてもよい。すなわち,例えば図4に示す中間転写ベルト140のように,弾性層142と応力緩和層144と表面層143のみからなるものを用いてもよい。このような中間転写ベルト140とする場合には,弾性層142,応力緩和層144及び表面層143は,実施形態の弾性層42,応力緩和層44及び表面層43と同様の構成とすればよい。
また実施形態では,2次転写ローラー16を用いて2次転写を行ったが,図5に示すように2次転写ベルト80を用いて2次転写を行う構成としてもよい。2次転写ベルト80は,複数のローラー81,82,83に架け渡されて,ローラー81,82,83の回転駆動に伴って回転するものである。2次転写ベルト80は,中間転写ベルト40との間に2次転写領域となるニップ部85を形成する。すなわちこの構成では,2次転写ベルト80と中間転写ベルト40で用紙(最終媒体)を挟み込んで2次転写を行う。このような構成とした場合,2次転写ベルト80として,実施形態の中間転写ベルト40と同様の構成のものを用いるのがよい。すなわち,図2に示すような弾性層42,応力緩和層44及び表面層43を備えているものを用いるのがよい。2次転写ベルト80においても,表面層に形成されたクラックが拡大(成長)すると最終媒体に画像ノイズが生じることがわかっている。これは,トナー像の転写に必要な十分なバイアスが2次転写ベルト80にかからなくなるからである。しかし上記のように構成すれば,画像ノイズの発生を防ぐことができる。なお,この2次転写ベルト80に対しても,上記した中間転写ベルト40に関する種々の変更例を適用することができる。