JP6086753B2 - 被覆マグネタイト粒子及びその製造方法 - Google Patents

被覆マグネタイト粒子及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、表面がシラン化合物によって被覆されてなる被覆マグネタイト粒子及びその製造方法に関する。
二次粒子の粒径が小さく、かつ一次粒子の分散性を高めた酸化鉄粒子に関する従来技術として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。同文献には、一次粒子の平均粒子径が0.05〜0.3μmであり、二次粒子の平均粒子径が0.055〜0.9μmであり、かつ二次粒子の平均粒子径と一次粒子の平均粒子径との比が1.1〜3.0である磁性酸化鉄粒子が記載されている。同文献において、この磁性酸化鉄粒子は粉砕トナーの原料として用いられている。しかし、この磁性酸化鉄粒子は、その表面が疎水化処理されていないので、重合トナーの原料として用いるには適していない。
重合トナーの原料として用いられる酸化鉄粒子に関する従来技術としては、例えば特許文献2及び3に記載のものが知られている。これらの文献においては、有機溶媒中での粒子の分散性についての検討がなされている。しかし、一次粒子及び二次粒子の粒径に関しては詳細な検討はなされていない。
特開2005−320231号公報 特開2005−263619号公報 特開2008−282002号公報
本発明の課題は、重合トナーの原料として特に適した被覆マグネタイト粒子を提供することにある。
本発明は、マグネタイトのコア粒子の表面が、シラン化合物によって被覆されてなるシラン化合物層を有し、
画像解析から求められた平均円相当径が0.08μm以上1.0μm以下であり、
画像解析から求められた円形度が0.8以下であり、かつ画像解析から求められた円相当径が1.0μmを超える粒子の個数が全体の15%以下である、
ことを特徴とする被覆マグネタイト粒子を提供するものである。
また本発明は、前記被覆マグネタイト粒子の好適な製造方法として、
乾式法によって、マグネタイトのコア粒子と、アルコキシシランとを混合し、次いで大気雰囲気下に熱処理して該コア粒子の表面をシラン化合物で被覆する工程を有する被覆マグネタイト粒子の製造方法において、
前記アルコキシシランを前記コア粒子の全体に行きわたらせてから、流動型乾燥機を用いて該コア粒子を流動させた状態下に前記熱処理を行うことを特徴とする被覆マグネタイト粒子の製造方法を提供するものである。
本発明によれば、鎖状に連なった二次粒子の割合が少なく、かつ二次粒子の粒径が小さい被覆マグネタイト粒子が提供される。この被覆マグネタイト粒子は、弱い分散力を加えた場合であっても有機溶媒中へ容易に分散しやすい。そのことに起因して、粒子の表面において重合性単量体の重合が均一に進行しやすくなる。
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の被覆マグネタイト粒子は、マグネタイトのコア粒子と、該コア粒子の表面を直接被覆するシラン化合物からなるシラン化合物層とを有する。シラン化合物層は一般に本発明の被覆マグネタイト粒子の最外層をなす。本発明の被覆マグネタイト粒子の各種の性能を更に向上させることを目的として、場合によっては、シラン化合物層の外面に1又は2以上の他の層が配置されていても良い。
本発明の被覆マグネタイト粒子は、一次粒子の凝集状態によって特徴付けられる。コア粒子の表面がシラン化合物層で被覆されている本発明の被覆マグネタイト粒子は、該シラン化合物層に起因して一次粒子どうしの凝集が起こりやすい。凝集の発生は、本発明の被覆マグネタイト粒子の各種の性能を低下させる原因となる場合があるので、これを極力生じさせないようにすることが望ましい。しかし現実には一次粒子どうしの凝集を完全に防ぐことは極めて困難であり、一次粒子どうしの凝集体である二次粒子が少なからず存在する。つまり本発明の被覆マグネタイト粒子は、一次粒子と、複数の一次粒子の凝集体である二次粒子との混合物になっている。この二次粒子の形状や状態について本発明者が検討したところ、二次粒子が存在していたとしても、該二次粒子の形状や大きさによっては、有機溶媒に良好に分散する場合があることが判明した。そして本発明者が更に検討を推し進めたところ、複数の一次粒子が鎖状に連なった形状をしている二次粒子は有機溶媒に対する分散性が低く、逆に複数の一次粒子が略球状に結合した二次粒子は有機溶媒に対する分散性が高いことが判明した。本発明は、これらの知見に基づきなされたものである。
粒子の球形度の度合いは、本発明の被覆マグネタイト粒子の画像解析から求められる円形度を尺度として評価できる。円形度は、画像解析から求められる粒子の面積をSとし、該粒子の周囲長をLとすると、4πS/L2から算出される。円形度はその値が1のとき真円を表す。本発明においては円形度が1から大きくかけ離れた値を有する粒子を極力少ないものとすることが、有機溶媒への分散性を高める点から望ましい。なお、画像解析による円形度の測定対象となる粒子は、一次粒子及び二次粒子の双方である。
円形度の平均値が1に近い値を有する二次粒子であっても、その平均粒径が大きい場合には有機溶媒へ分散しづらくなることが、本発明者らの検討の結果判明した。粒子の粒径は様々な方法で測定されるところ、本発明においては、上述した円形度の測定方法との関連で、粒子の粒径を円相当径で表している。本発明において円相当径とは、粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径のことである。そして本発明においては、円相当径が過度に大きい粒子が極力少ないことが、有機溶媒への分散性を高める点から望ましい。なお、画像解析による円相当径の測定対象となる粒子は、一次粒子及び二次粒子の双方である。
これらのことを勘案すると、本発明の被覆マグネタイト粒子においては、画像解析から求められた円形度が0.8以下であり、かつ画像解析から求められた円相当径が1.0μmを超える粒子の個数を、粒子全体の個数の15%以下に設定している(以下、この割合のことを「粗粒率」と言う)。これによって、本発明の被覆マグネタイト粒子は、有機溶媒への分散性が良好なものとなる。この分散性を一層高める観点から、粗粒率は15%以下であることが好ましく、8%以下であることが一層好ましい。粗粒率の値は小さければ小さいほど、有機溶媒への分散性が良好になる点から望ましいが、3%程度にまで粗粒率が低ければ、本発明の効果は特に顕著に奏される。
本発明の被覆マグネタイト粒子は、上述した粗粒率が低いことに加えて、二次粒子自体の粒径も小さいことが、有機溶媒への分散性を高める観点から有利である。この観点から、本発明の被覆マグネタイト粒子は、画像解析から求められた平均円相当径を0.08μm以上1.0μm以下に設定している。平均円相当径を0.08μm未満にすると、可視光のうち赤色光が散乱する割合が増えて、色味が赤味がかってくるため、トナー用として好適でない。また、平均円相当径が0.08μm未満と小さくなると、凝集が強くなるので、分散させるのが困難となる。一方、平均円相当径が0.08μm以上であれば、本発明の被覆マグネタイト粒子の分散性を十分に高めることができる。平均円相当径が1.0μmを超えると、粒子一個の質量が増加するため、本発明の被覆マグネタイト粒子の分散性を高めることが困難になる。有機溶媒への分散性を一層高める観点からは、本発明の被覆マグネタイト粒子の平均円相当径は、0.08μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.08μm以上0.90μm以下であることが更に好ましい。平均円相当径は、対象となる各粒子の円相当径を測定し、その個数平均を算出することで求められる。測定対象となる粒子の個数は200個以上とする。
画像解析によって測定される円相当径は、上述のとおり一次粒子及び二次粒子の双方を対象としたものであったところ、本発明においては被覆マグネタイト粒子の一次粒子の大きさそのものにも着目している。この理由は、一次粒子の凝集体である二次粒子の粒径を小さくするには、一次粒子自体の粒径を小さくすることが有利だからである。一次粒子自体の粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)によって個々の一次粒子を観察することで測定することができる。本発明においては、SEM観察から求められた一次粒子の平均粒径が0.08〜0.5μmという微粒であることが好ましく、0.11〜0.40μmであることが更に好ましく、0.15〜0.30μmであることが一層好ましい。
一次粒子の平均粒径は具体的には以下の方法で測定される。被覆マグネタイト粒子をSEMで観察して撮影する。SEM写真(倍率40,000倍)を用い、写真上の粒径を同軸方向に200個以上計測する。そして、その個数平均を一次粒子の平均粒径とする。
以上に述べた粒径や形状を有する本発明の被覆マグネタイト粒子は、例えば後述する製造方法によって好適に製造される。
本発明の被覆マグネタイト粒子においては、シラン化合物はマグネタイトのコア粒子の表面を薄く被覆していることが好ましい。また均一に被覆していることも好ましい。このことによって、本発明の被覆マグネタイト粒子の表面を十分に疎水化することができる。シラン化合物による疎水化は、本発明の被覆マグネタイト粒子が有機溶媒へ分散することを促進させる。シラン化合物は、例えばSiの原子に直接結合したアルキル基を1個又は2個以上有する有機シランから生成する化合物である。「有機シランから生成する化合物」には、例えば有機シランの加水分解生成物や脱水縮合生成物等が包含される。シラン化合物は好ましくは炭素数2〜10のアルキル基を有している。このようなシラン化合物を生成させるための有機シランとしては、例えばアルコキシシランや、シランカップリング剤として知られる化合物が挙げられる。例えば有機シランとしてR1 xSi(OR24-xで表されるものを用いることができる。式中R1は、同一の又は異なる炭素数2〜10のアルキル基を表し、R2は、R1と同じ鎖長であるか又はそれよりも短鎖のアルキル基を表す。xは好ましくは1〜3の整数、更に好ましくは1又は2、一層好ましくは1を表す。xが2又は3である場合、R1は、その炭素数が上述の範囲であることを条件として、同種のアルキル基でも良く、あるいは異種のアルキル基でも良い。
マグネタイトのコア粒子の表面を被覆する前記のシラン化合物において、アルキル基の炭素数を好ましくは2〜10に設定すると、長鎖アルキル基による疎水性相互作用に起因する粒子どうしの凝集が防止されるとともに、マグネタイトのコア粒子の表面がシラン化合物によって薄くかつ均一に被覆され、かつ被覆マグネタイト粒子の有機溶媒中での分散安定性が高まる。これらの効果を一層顕著なものとする観点から、前記のシラン化合物におけるアルキル基の炭素数は更に好ましくは3〜8であり、一層好ましくは3〜6である。
前記のシラン化合物を生成する有機シランの具体例としては、n−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、iso−ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、iso−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、iso−オクチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、iso−デシルトリメトキシシラン、tert−デシルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、iso−ブチルトリエトキシシラン、tert−ブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、iso−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、iso−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、iso−デシルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシランが挙げられる。これらの有機シランは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の被覆マグネタイト粒子中に含まれる前記のシラン化合物の量は、該シラン化合物に含まれるアルキル基のカーボン換算で、被覆マグネタイト粒子の質量に対して0.1〜2.0質量%、特に0.2〜1.5質量%であることが好ましい。シラン化合物の含有量がこの範囲内であることによって、水蒸気吸着量が少なく、一次粒子の凝集が抑制されるという有利な効果が奏される。被覆マグネタイト粒子中に含まれる前記のシラン化合物の量(カーボン換算)は、例えば炭素分析装置(堀場製作所、EMIA−110)によって測定される。
シラン化合物によって被覆されるコア粒子としては、X線回折測定をしたときにマグネタイトに固有のピークを示すものが用いられる。この場合、マグネタイトのピークのみが観察されても良く、あるいはマグネタイトのピークの他に、一部マグヘマイト等のピークが観察されても良い。コア粒子には、必要に応じ、Si、Ti、Al、Zr、Mn、Zn、Mg等の1種又は2種以上の元素を含有させても良い。
コア粒子はその形状が球状、多面体状(例えば六面体状、八面体状)等であり得る。コア粒子が球状であると、上述のシラン化合物による被覆が極めて良好に行われるので好ましい。したがってコア粒子として、多面体状のものよりも、球状のものを用いることが好ましい。コア粒子の形状は、後述する被覆マグネタイト粒子の製造方法において、酸化性ガスを吹き込みながらの水酸化第一鉄の湿式酸化における液のpHを制御することで、コントロールすることができる。
本発明の被覆マグネタイト粒子においては、コア粒子の表面を被覆するシラン化合物層は例えば10nm未満と薄いものなので、被覆マグネタイト粒子の粒径とコア粒子の粒径とはほぼ同一とみなせる。したがってSEM観察から求められたコア粒子の平均粒径は、上述のとおり0.08〜0.5μmであることが好ましい。
本発明の被覆マグネタイト粒子においては、上述のシラン化合物は、コア粒子の表面を薄く被覆している。したがって、被覆マグネタイト粒子の形状はコア粒子の形状を引き継いだものとなる。上述したとおり、コア粒子は球状であることが好ましいので、被覆マグネタイト粒子も球状であることが好ましい。
次に、本発明の被覆マグネタイト粒子の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、(1)マグネタイトのコア粒子の製造工程、(2)シラン化合物によるコア粒子の表面の被覆工程の2つに大別される。以下、それぞれの工程について説明する。
(1)のマグネタイトのコア粒子の製造工程において、マグネタイトのコア粒子は、当該技術分野で公知の方法に従い製造することができる。例えば、アルカリ(塩基性物質)を用いた第一鉄塩の中和反応によって生じた水酸化第一鉄コロイド溶液に、空気や酸素を始めとする酸化性ガスを吹き込む湿式酸化法によってマグネタイトのコア粒子を製造できる。この場合、必要に応じ、Si、Ti、Al、Zr、Mn、Zn、Mg等の1種又は2種以上を含む水溶性化合物を、反応用溶液に投入しても良く(反応前、反応開始時、又は反応途中のいずれでも可)、あるいはコア粒子の生成完了後に投入しても良い。第一鉄塩の中和反応には、例えば水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物や炭酸ナトリウム等の炭酸塩を始めとするアルカリ(塩基性物質)が用いられる。
(1)の工程においては、湿式酸化法を行うときの液のpHを適切に調節することが有利である。具体的には液のpHを7以下、好ましくは5.5〜7.0、更に好ましくは5.5〜6.0に保ちつつ、該液に空気等の酸化性ガスを吹き込み、湿式酸化を行う。このpHの調節によって、得られるコア粒子を球状のものとすることができる。液のpHがアルカリ側、例えばpHを9以上にして湿式酸化を行うと、球状ではなく、多面体状のコア粒子が生成する。
なお、湿式酸化における空気等の酸化性ガスの吹き込み条件は、本製造方法において特に臨界的でなく、公知の条件を適宜採用することができる。
(1)の工程によって得られたマグネタイトのコア粒子は、次いで(2)の工程に付される。(2)の工程においては、コア粒子の表面を、好ましくは炭素数2〜10のアルキル鎖を有するシラン化合物で被覆してシラン化合物層を形成する。この被覆のために、本工程においては、例えば疎水基として炭素数2〜10のアルキル鎖を有するアルコキシシランを用い、このアルコキシシランから前記のシラン化合物を生成させることが好ましい。
具体的には、上述したアルコキシシランとコア粒子とを混合し、次いで大気雰囲気下に熱処理して、アルコキシシランをコア粒子の表面で加水分解させて、その加水分解物や脱水縮合物等からなる前記のシラン化合物を生成させ、これによってコア粒子の表面を被覆する。アルコキシシランを加水分解させて生成したシラン化合物をコア粒子の表面に被覆する方法には、湿式法と乾式法がある。湿式法では、水を媒体とし、コア粒子を含み、pHが所定の範囲に設定されたスラリーにアルコキシシランを添加してコア粒子の表面を被覆する。乾式法では、コア粒子とアルコキシシランとを、液媒体の実質的な非存在下に混合して該コア粒子の表面を被覆する。本製造方法においては、これら2つの方法のうち、乾式法を用いることが、二次粒子の形状や粒径が所望のものとなる被覆マグネタイト粒子を首尾良く得られる点から好ましい。
コア粒子とアルコキシシランの配合の割合は、コア粒子100質量部に対して、アルコキシシランを0.1〜10質量部、特に0.3〜3質量部とすることが、得られる被覆マグネタイト粒子に含まれるシラン化合物の量が適切になり、被覆マグネタイト粒子の凝集を効果的に防止し得る点から好ましい。
上述した乾式法において、コア粒子とアルコキシシランとの混合には、公知の撹拌混合装置を用いることができる。両者を撹拌混合することで、アルコキシシランをコア粒子の全体に十分にかつ均一に行きわたらせて、コア粒子の表面でのアルコキシシランの反応が均一に起こるようにする。その後に、つまりアルコキシシランがコア粒子の全体に行きわたった後に、熱処理を行う。
混合撹拌工程においては、例えばヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、エッジランナー、リボンブレンダー等を用いることができる。これらの装置の運転条件としては、混合撹拌時の温度を10〜50℃、特に10〜40℃に設定することが好ましい。これによって、両者が十分に混合される前にアルコキシシランが意図せず自己縮合してしまうことや、アルコキシシランがコア粒子と十分に混合される前に揮発してしまうことを効果的に防止できる。
上述の混合撹拌工程によってアルコキシシランがコア粒子の全体に行きわたったら、熱処理を行う。具体的には、流動型乾燥機を用いて熱処理を行うことが好ましい。流動型乾燥機とは、装置内の被処理物が流動した状態下に該被処理物に熱を付与することが可能な装置を言う。
流動型乾燥機には、例えば気体の吹込式の流動型乾燥機を用いることができる。この流動型乾燥機を用いる場合には、風速が好ましくは1.5m/s以下、更に好ましくは1.1m/s以下、一層好ましくは0.8m/s以下で気体を吹き込むことが、アルコキシシランの加水分解や縮合を進行させない点から好ましい。気体の吹き込み速度の下限値は0.3m/sとすることが好ましく、0.5m/sとすることが更に好ましい。流動型乾燥機としては、例えば三菱マテリアルテクノ株式会社の「ナノ流動層」を用いることができる。吹き込む気体としては、空気を用いることが簡便であるが、コア粒子及びアルコキシシランに悪影響を与えない気体であれば空気以外の気体を用いても良い。
また、気体の吹込式の流動型乾燥機に代えて、例えば回転式の流動型乾燥機を用いることができる。この攪拌機を用いる場合には、周速が好ましくは7.5m/s以下、更に好ましくは5.5m/s以下、一層好ましくは3.0m/s以下で回転させることが、アルコキシシランの意図しない加水分解や自己縮合を進行させない点から好ましい。回転速度の下限値はコア粒子の全体にアルコキシシランを十分に行きわたらせる観点から0.5m/sとすることが好ましく、0.3m/sとすることが更に好ましい。回転式攪拌機としては、例えば株式会社大川原製作所の「リボコーン」を用いることができる。
いずれの流動型乾燥機を採用する場合であっても、コア粒子の全体にアルコキシシランが十分に行きわたってから熱処理を行い、該アルコキシシランとコア粒子との結合を生じさせる。アルコキシシランの種類にもよるが、加熱温度は100〜160℃、特に105〜150℃という比較的低温とすることが好ましい。加熱をこの温度範囲で行うことで、コア粒子の過度の凝集を防止しつつ、アルコキシシランとコア粒子との脱水縮合を行うことができる。加熱時の雰囲気に特に制限はない。一般的には大気下で加熱を行えば良い。
以上の方法によって、アルコキシシランの自己縮合が過度に進行することを抑制しつつ、該アルコキシシランとコア粒子とを十分にかつ均一に混合することができる。その結果、複数の一次粒子が鎖状に連結した二次粒子の生成が抑制され、かつ二次粒子の粒径が小さな被覆マグネタイト粒子を首尾良く製造することができる。また、二次粒子は小さな外力で容易に解砕可能なものとなる。
以上の方法によって製造された本発明の被覆マグネタイト粒子は、有機溶媒への分散性が良好である。また、一次粒子どうしの結合力が弱いので、小さな外力を加えるだけで二次粒子を一次粒子に解砕することができる。したがって本発明の被覆マグネタイト粒子は重合法トナーの原料として特に有用である。例えば懸濁重合法を行う場合、本発明の被覆マグネタイト粒子を、バインダのモノマー成分や電荷制御剤とともに混合し、次いで水を添加し、更に懸濁安定化剤を加えて懸濁させ、懸濁液をモノマーの重合工程に付して重合することでトナーが得られる。この方法によれば粒径のそろったトナーを一つの工程で得ることができる。また、本発明の被覆マグネタイト粒子を、粉砕法トナーの原料として用いても何ら差し支えない。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
〔コア粒子1の製造例〕
Fe2+を1.8mol/L含有する硫酸第一鉄水溶液70リットルと、水酸化ナトリウム10.6kgを溶解したアルカリ水溶液70リットルとを混合した。混合して得られた全量約140リットルのスラリーを90℃に維持した状態で、空気を20リットル/分の量で吹き込んだ。この間、水酸化ナトリウム水溶液を添加することで、液のpHを6.5に維持した。液中に存在する鉄(II)イオンが75%消費された時点で、空気の吹き込み量を10リットル/分に下げた。そして、そのまま空気の吹き込みを継続した。この湿式酸化は、液中に鉄(II)イオンが実質的に存在しなくなるまで行った。その後、コア粒子を、ハレルホモジナイザを用いて水洗し、次いで乾燥及び粉砕を行った。このようにして、球状のコア粒子を得た。得られたコア粒子の一次粒子の平均粒径(SEM観察径)は0.23μmであった。
〔コア粒子2の製造例〕
スラリーを78℃に維持した状態で、空気を40リットル/分で吹き込んだ以外はコア粒子製造例1と同様に行った。得られたコア粒子の一次粒子の平均粒径(SEM観察径)は0.06μmであった。
〔コア粒子3の製造例〕
スラリーを93℃に維持した状態で、空気を5リットル/分で吹き込んだ以外はコア粒子製造例1と同様に行った。得られたコア粒子の一次粒子の平均粒径(SEM観察径)は0.58μmであった。
〔実施例1〕
(1)マグネタイトコア粒子とアルコキシシランとの混合
深江パウテック製のハイスピードミキサーLFS−2型を用い、これにコア粒子1を1kg投入して30℃、2000rpmで撹拌を行った。次いで、表1に示すアルキルアルコキシシランを含む液を5分間にわたり滴下した。添加量はコア粒子100質量部に対して1.7質量部とした。滴下完了後、撹拌を5分間継続し、マグネタイトコア粒子とアルコキシシランとの混合物を得た。
(2)マグネタイト−アルコキシシラン混合物の熱処理
次いで、マグネタイトコア粒子とアルコキシシランとの混合物に対して流動型乾燥機を用いて熱処理を行った。流動型乾燥機として、回転式のものである株式会社大川原製作所の「リボコーン」を用いた。この乾燥機にマグネタイトコア粒子とアルコキシシランとの混合物8kgを投入して110℃にて、表1に示す周速でコア粒子を回転撹拌させながら1時間熱処理を行った。このようにして、コア粒子の表面にシラン化合物層を形成し、目的とする被覆マグネタイト粒子を得た。
〔実施例2及び3〕
表1に示す周速で撹拌を行い、かつ同表に示すアルコキシシランを用いた以外は実施例1と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
〔実施例4〕
本実施例は流動型乾燥機として気体の吹込式のものを用いた例である。マグネタイトコア粒子とアルコキシシランとの混合物の製造は実施例1と同様とした。熱処理は次の方法で実施した。
流動型乾燥機として、気体の吹込式のものである三菱マテリアルテクノ株式会社の「ナノ流動層」を用いた。この乾燥機にコア粒子6kgを投入して110℃にて、表1に示す風量の空気を吹き込んで撹拌を行いながら1時間熱処理を行った。このようにして、コア粒子の表面にシラン化合物層を形成し、目的とする被覆マグネタイト粒子を得た。
〔実施例5及び6〕
表1に示す風量で空気を吹き込んで撹拌を行い、かつ同表に示すアルコキシシランを用いた以外は実施例4と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
〔実施例7及び8〕
表1に示す周速で撹拌を行い、かつ同表に示すアルコキシシランを用いた以外は実施例1と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
〔実施例9及び10〕
表1に示す風量で空気を吹き込んで撹拌を行い、かつ同表に示すアルコキシシランを用いた以外は実施例4と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
〔比較例1〕
本比較例では、熱処理工程を静置状態で実施した。マグネタイトコア粒子とアルコキシシランとの混合物の製造は実施例1と同様とした。熱処理はエスペック社製熱処理機PV(H)−212型を用い、120℃にて1時間熱処理を行った。このようにして、コア粒子の表面にシラン化合物層を形成し、被覆マグネタイト粒子を得た。
〔比較例2〕
本比較例では、マグネタイトコア粒子とアルコキシシランとの混合物の製造を湿式法で行い、熱処理を回転式の流動型乾燥機を用いた。湿式法によるマグネタイトコア粒子とアルコキシシランとの混合物を得る方法は次のとおりとした。マグネタイトコア粒子1kgを含み、pHを5.0に調整した水スラリー10Lに、表1に示すアルコキシシランをコア粒子に対して1.7質量部添加後、IKA社製分散機ウルトラタラックスT50にて1時間撹拌した。その後、洗浄、ろ過を行った後、実施例1と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
〔比較例3〕
本比較例では、マグネタイトコア粒子とアルコキシシランとの混合物の製造を湿式法で行い、熱処理を流動型乾燥機として気体の吹込式のものを用いた。湿式法によるマグネタイトコア粒子とアルコキシシランとの混合物は比較例2と同様にした。
〔比較例4〕
本比較例では、マグネタイトコア粒子とアルコキシシランとの混合物の製造を実施例1と同様にして行い、熱処理工程を比較例1と同様に静置状態で実施した。熱処理はエスペック社製熱処理機PV(H)−212型を用い、85℃にて1時間熱処理を行った。このようにして、コア粒子の表面にシラン化合物層を形成し、被覆マグネタイト粒子を得た。
〔比較例5〕
本比較例では、熱処理を170℃にて1時間とした以外は、比較例4と同様にして、被覆マグネタイト粒子を得た。
〔比較例6〕
本比較例ではコア粒子2を用いた以外は実施例1と同様にして、被覆マグネタイト粒子を得た。
〔比較例7〕
本比較例ではコア粒子3を用いた以外は実施例1と同様にして、被覆マグネタイト粒子を得た。
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた被覆マグネタイト粒子について、上述の方法で一次粒子の平均粒径及び円形度を測定した。また以下の方法で平均円相当径、粗粒率及びスチレン中での被覆マグネタイト粒子の沈降速度を評価した。それらの結果を表1に示す。
〔平均円相当径〕
測定装置としてフロー式粒子像分析装置「FPIA-3000S」(シスメックス社製)を用いた。この装置を用いて撮像した粒子画像から粒子面積を算出し、その粒子面積と同一の面積を持つ円の直径を円相当径とした。測定された円相当径の個数平均を算出して平均円相当径を求めた。測定対象となる粒子の個数は50,000個以上とした。具体的には、以下の手順で円相当径を測定した。
まず、バイアル(50mL)にスパーテルを用いてサンプル10mgを投入し、トルエンで40gまでメスアップした。更に超音波ホモジナイザー(BRANSON社製SONIFIER Model450,出力30W)を用いて3分間分散処理を行い、測定用の分散液とした。
測定には、対物レンズとして高倍率レンズ(×20倍)を設置した前記フロー式粒子像分析装置を用いた。シース液にはトルエンを用いた。前記手順に従い調製した分散液を前記フロー式粒子像分析装置に投入し、HPF測定モードで、定量カウント式にて計測した。試料のチャンバ内での撹拌は300rpmとした。解析粒子径は円相当径0.250μm〜100μmとした。
〔粗粒率〕
上述のフロー式粒子像分析装置によって撮像した粒子画像から粒子面積を算出し、その粒子面積と同一の円の円周長を算出した。撮像された粒子と同一の円の円周長を、撮像された粒子の周囲長で割ったものを円形度とした。そして、撮像された粒子全体のうち、円形度が0.8以下でかつ円相当径が1μm以上の粒子の割合を粗粒率とした。
〔スチレン中での被覆マグネタイト粒子の沈降速度〕
被覆マグネタイト粒子0.2gとスチレン(関東化学社製)10mLを試験管に入れ、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製SONIFIER Model450,出力80W)を用いて60秒間超音波を照射した。次いで溶液安定性評価装置(フォーマルアクション社製タービスキャンMA2000)を用いて沈降速度を測定した。
Figure 0006086753
表1に示す結果から明らかなとおり、実施例で得られた被覆マグネタイト粒子(本発明品)は、比較例の被覆マグネタイト粒子に比べて、スチレン中での沈降速度が低い。すなわち、本発明品の被覆マグネタイト粒子は有機溶媒への分散性が良好であることが判る。更に、被覆マグネタイト粒子をSEM観察したところ、複数の一次粒子が鎖状に結合した二次粒子の数は、実施例よりも比較例の方が多く、本発明品が溶媒へ分散をする際により有利なものであることが観察できた。

Claims (4)

  1. マグネタイトのコア粒子の表面が、シラン化合物によって被覆されてなる最外層としてのシラン化合物層を有する被覆マグネタイト粒子であって、
    前記被覆マグネタイト粒子は、一次粒子と、複数の一次粒子の凝集体である二次粒子との混合物になっており、
    一次粒子及び二次粒子の双方を対象として画像解析から求められた平均円相当径が0.08μm以上1.0μm以下であり、
    一次粒子及び二次粒子の双方を対象として画像解析から求められた円形度が0.8以下であり、かつ一次粒子及び二次粒子の双方を対象として画像解析から求められた円相当径が1.0μmを超える粒子の個数が全体の15%以下である、
    ことを特徴とする被覆マグネタイト粒子。
  2. 走査型電子顕微鏡観察から求められた一次粒子の平均粒径が0.08〜0.5μmである請求項1に記載の被覆マグネタイト粒子。
  3. 乾式法によって、マグネタイトのコア粒子と、アルコキシシランとを混合し、次いで大気雰囲気下に熱処理して該コア粒子の表面をシラン化合物で被覆する工程を有する被覆マグネタイト粒子の製造方法において、
    撹拌混合装置を用いて前記アルコキシシランを前記コア粒子の全体に行きわたらせてから、気体の吹込み式の流動型乾燥機を用いて該コア粒子を流動させた状態下に前記熱処理を行うことを特徴とする被覆マグネタイト粒子の製造方法。
  4. 速1.5m/s以下で前記流動型乾燥機に気体を吹き込む請求項3に記載の製造方法。
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