本発明の偏光板の製造方法は、二色性物質で染色された親水性高分子層を有する偏光膜(A)と、該偏光膜(A)の少なくとも一方の面に接着剤を介し、セルロースエステルフィルム(B)の親水処理化された面とを積層する偏光板の製造方法であって、該セルロースエステルフィルム(B)が、プラズマ処理又はコロナ処理のいずれかで親水化処理されており、該セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理前の表面自由エネルギーが前記式(SI)を満たし、かつ該セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理後の表面自由エネルギーが前記式(SII)を満たし、前記偏光膜(A)において、前記親水性高分子層の、前記セルロースエステルフィルム(B)の面側での二色性物質の濃度が、前記親水性高分子層の前記セルロースエステルフィルム(B)の面側とは、反対面側での二色性物質の濃度より、相対的に低いことを特徴とし、かかる構成により偏光板製造時の皺やカールの発生、パネル貼合時のカールや変形による気泡の発生がなく、ヘイズ上昇、それに伴う液晶表示装置における正面コントラストの低下のない薄膜化された偏光板を提供する。
この特徴は、各請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記セルロースエステルフィルム(B)が、総アシル基置換度が2.0〜2.5の範囲内のジアセチルセルロースを含有することが、特に前記式(I)を満たすことから好ましい。また、前記偏光膜(A)の膜厚が、0.5〜10μmの範囲内であり、かつ前記セルロースエステルフィルム(B)の膜厚が、5〜40μmの範囲内であることが、カールし難い偏光板を得る観点から好ましい。特に好ましくは、前記セルロースエステルフィルム(B)の膜厚が、5〜20μmの範囲内であることである。
本発明の偏光板の製造方法としては、前記偏光膜(A)の親水性高分子層の染色された面とは反対側の面と、前記セルロースエステルフィルム(B)の前記式(SI)及び(SII)の式を満たす親水化処理を施された面とを貼合することが、染色処理に用いたホウ素イオンがより拡散しやすくなり接着性を高める観点から、好ましい。
その際、前記偏光膜(A)の染色面にセパレーターを貼合し、セパレーターを貼合したまま、熱可塑性樹脂層を剥離し、該剥離した面にセルロースエステルフィルム(B)の親水化処理された面を貼合する製造方法は、偏光板製造時の皺やカールの発生を抑制することができ、好ましい。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。また、本発明の偏光板の製造方法によって製造された偏光板も、本明細書中では「本発明の偏光板」と呼称する。
最初に本発明に係る偏光膜(A)について説明する。
<偏光膜(A)>
本発明に係る偏光膜(A)は、熱可塑性樹脂層上に親水性高分子層を塗布方式で積層した後、好ましくは延伸処理を施して延伸積層体を形成し、次いで二色性物質で該親水性高分子層を染色処理して偏光機能を付与した後、該熱可塑性樹脂層を剥離して偏光膜(A)とするものである。従って、本発明に係る偏光膜(A)とは最終的に前記親水性高分子層のことを指し、前記熱可塑性樹脂層を剥離するため、その膜厚は10μm以下という薄膜化が可能である。好ましい膜厚は0.5〜10μmの範囲である。
〔熱可塑性樹脂層〕
本発明に用いられる熱可塑性樹脂層は、親水性高分子層を形成するための基材として機能する。本発明に用いられる熱可塑性樹脂層は、偏光板を構成する保護フィルムと同様のフィルムを適用することができる。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、高分子が規則正しく配列する結晶性熱可塑性樹脂と、高分子が規則正しい配列を持たない、あるいは、ごく一部しか持たない無定形又は非晶状態にある非晶性熱可塑性樹脂に大別でき、どちらでも使用することができる。
また、結晶性樹脂であるか非晶性樹脂であるかを問わず、結晶状態にない樹脂又は結晶状態に至らない樹脂をアモルファス又は非晶質の樹脂という。ここでは、アモルファス又は非晶質の樹脂は、結晶状態を作らない性質の非晶性樹脂と区別して用いられる。
結晶性熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)を含むオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を含むエステル系樹脂がある。結晶性熱可塑性樹脂の特徴の一つは、一般的に加熱や延伸配向によって高分子が配列して結晶化が進む性質を有することである。樹脂の物性は、結晶化の程度に応じて様々に変化する。一方で、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のような結晶性熱可塑性樹脂でも、加熱処理や延伸配向によって起こる高分子の配列を阻害することによって、結晶化の抑制が可能である。結晶化が抑制されたこれらのポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を非晶性ポリプロピレン、非晶性ポリエチレンテレフタレートといい、これらをそれぞれ総称して非晶性オレフィン系樹脂、非晶性エステル系樹脂という。例えばポリプロピレン(PP)の場合、立体規則性のないアタクチック構造にすることによって、結晶化を抑制した非晶性ポリプロピレン(PP)を作製できる。また例えばポリエチレンテレフタレート(PET)の場合、重合モノマーとして、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールのような変性基を共重合すること、すなわち、ポリエチレンテレフタレート(PET)の結晶化を阻害する分子を共重合させることによって、結晶化を抑制した非晶性ポリエチレンテレフタレート(PET)を作製することができる。
また多価カルボン酸(ジカルボン酸)と多価アルコール(ジオール)との重縮合体であるエステル系樹脂のうち、本発明で用いられる結晶性エステル系樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などを挙げることができる。これらの結晶性エステル系樹脂はフィルム状に製膜するときに結晶化しやすい性質があるが、アモルファス状態を維持する温度で作製する際には、急速に結晶化することはなく、延伸性があるので、熱可塑性樹脂として使用することができる。製膜時に結晶化しているとフィルムの延伸性は当然低下する。フィルムの延伸性を確保するためには、製膜時の結晶化を抑制し、そのことにより、アモルファス(非晶質)の状態で製膜されたものを用いることが好ましい。
本発明で用いる結晶性エステル系樹脂は、フィルムの加工性・延伸性を高めるために可塑剤やエラストマーを配合してもよい。可塑剤としては、例えばフタル酸エステル類及びその重縮合体、アジピン酸などの脂肪酸エステル及びその重縮合体、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ターフェニル化合物及びその置換誘導体などが挙げられる。また、エラストマーとしては、スチレン系、オレフィン系、アクリル系、塩ビ系、ウレタン系、エステル系、及びナイロン系などが挙げられる。
熱可塑性樹脂層(延伸前)の厚さは、適宜に決定できるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄層性などの点より1〜500μm程度である。特に1〜300μmが好ましく、5〜200μmがより好ましい。熱可塑性樹脂層の厚さは、5〜150μmの場合に特に好適である。一方、延伸積層体における熱可塑性樹脂層(延伸後)の厚さは、強度や取扱性等の作業性の点より、1〜400μm程度であり、1〜200μmであるのが好ましく、5〜100μmであるのがより好ましい。延伸積層体における熱可塑性樹脂層の厚さは、熱可塑性樹脂層(延伸前)の厚さと延伸倍率により決定される。
〔親水性高分子層〕
前記延伸積層体は、親水性高分子層を備える。親水性高分子層は、親水性高分子を主成分として含有する層であり、該親水性高分子層は後述する染色処理によって二色性物質を吸着したものである。これにより、親水性高分子層が、本発明の偏光板において、偏光膜(A)として機能することになる。
親水性高分子層を構成する親水性高分子については、特に制限はないが、ポリビニルアルコール系材料が好ましく例示される。ポリビニルアルコール系材料としては、例えば、ポリビニルアルコール及びその誘導体が挙げられる。ポリビニルアルコールの誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール等が挙げられるほか、エチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸そのアルキルエステル、アクリルアミド等で変性したものが挙げられる。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜10000程度が好ましく、1000〜10000がより好ましい。ケン化度は80〜100モル%程度のものが一般に用いられる。上記のほか、親水性高分子としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化物、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等が挙げられる。前記親水性高分子としては、ポリビニルアルコール系材料の中でも、ポリビニルアルコールを用いるのが好ましい。
親水性高分子層は、上述した親水性高分子に加えて、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。可塑剤としては、ポリオール及びその縮合物等が挙げられ、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。可塑剤等の使用量は特に制限されないが、親水性高分子層の固形分全量(100質量%)に対して20質量%以下とするのが好ましい。
〔偏光膜(A)の製造方法〕
本発明に係る偏光膜(A)の好ましい製造方法を以下に挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明に係る偏光膜(A)は、熱可塑性樹脂層上に親水性高分子層を積層して積層体を形成し、更に延伸処理して延伸積層体を形成する。該延伸処理は、染色処理する後や同時に行ってもよいが、染色処理する前に行うことが、配向する親水性高分子の分子に沿って染色を可能にするため、均一な偏光特性を付与する観点からも好ましい。
従って本発明に係る偏光膜(A)の製造方法は、熱可塑性樹脂層上に親水性高分子層を塗布方式により積層したのち、TD方向(幅手方向)あるいはMD方向(長手方向)に延伸する工程を経て、偏光膜を有する延伸積層体を形成することが好ましい。
前記延伸積層体の製造方法については、特に制限はなく、従来公知の知見、及び後述する実施例の欄の記載を参照しつつ、適宜製造が可能である。
延伸積層体の製造方法の一例を挙げると、例えば、熱可塑性樹脂層に、親水性高分子を含有する水溶液を塗布した後、乾燥、延伸することにより得ることができる。延伸積層体の形成方法としては、熱可塑性樹脂層と親水性高分子層とが、直接又は光硬化性接着剤層を介して積層することにより、熱可塑性樹脂層と親水性高分子層が一体化した状態の積層体が得られる。
延伸積層体の作製に用いる熱可塑性樹脂層は、親水性高分子を含有する水溶液を塗布する前に、あらかじめ延伸処理を施されたものであってもよい。
延伸積層体を形成する延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸、斜め延伸などが施される。一軸延伸は、前記積層体のMD方向に対して行う縦延伸、積層体のTD方向に対して行う横延伸のいずれであってもよい。横延伸では、幅方向に延伸を行いながら、長手方向に収縮させることもできる。横延伸方式としては、例えば、テンターを介して一端を固定した固定端一軸延伸法や、一端を固定しない自由端一軸延伸法等が挙げられる。縦延伸方式としては、ローラー間延伸方法、圧縮延伸方法、テンターを用いた延伸法等が挙げられる。延伸処理は多段で行うこともできる。なお、積層体に対する延伸処理が一軸延伸である場合には、縦延伸であることが好ましい。
また、積層体の延伸処理時の温度については、特に制限はないが、好ましくは130〜200℃の範囲内であり、より好ましくは150〜180℃の範囲内である。また、積層体の延伸処理では、積層体の元長に対して、全ての方向の合計延伸倍率で1.1〜10倍の範囲になるように行うとよい。好ましくは2〜6倍、更に好ましくは3〜5倍の範囲内である。
親水性高分子を含有する水溶液(親水性高分子形成用塗布液)は、親水性高分子(例えば、ポリビニルアルコール)の粉末又は親水性高分子フィルムの粉砕物、切断物等を、適宜、加熱した水(熱水)に溶解することにより調製することができる。該親水性高分子を含有する水溶液を熱可塑性樹脂層上へ塗布する方法としては、例えば、ワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のローラーコーティング法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、インクジェット法などを適宜選択して適用することができる。
熱可塑性樹脂層上へ親水性高分子形成用塗布液を塗布した後に乾燥を行うが、乾燥温度としては、通常、50〜200℃の範囲であり、好ましくは80〜150℃の範囲である。乾燥時間は、通常、5〜30分間程度である。
また、前記積層体の他の積層方法としては、熱可塑性樹脂層の形成材料と水性高分子層の形成材料との共押出法により、ダイ等から供給して積層体を一工程で形成することができる。共押出に際しては、熱可塑性樹脂層の形成材料と親水性高分子層の形成材料を、それぞれ共押出機に仕込み、熱可塑性樹脂層及び親水性高分子層の厚さが所望の範囲になるように共押出量を制御することが好ましい。
続いて、上記で得られた延伸積層体に対し、二色性物質による染色処理することにより、親水性高分子層に二色性物質が吸着されて偏光膜(A)として機能するようになる。
染色処理は、積層体の親水性高分子層に、二色性物質を吸着させることにより行う。染色処理は、例えば、二色性物質を含有する溶液(染色溶液)に積層体を浸漬することにより行う。染色溶液としては、二色性物質を溶媒に溶解した溶液が使用できる。溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。
親水性高分子層に吸着される二色性物質の具体的な構成については、特に制限はないが、例えば、ヨウ素や有機染料等が挙げられる。有機染料としては、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、エロー3G、エローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラック、等が用いられる。中でも、水溶性、工程適性という観点からは、二色性物質としてヨウ素を使用することが、染色効率をより一層向上できることから、更にヨウ化物を添加することが好ましい。このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらヨウ化物の添加割合は、前記染色溶液において、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましく、ヨウ素とヨウ化カリウムの割合(質量比)は、1:5〜1:100の範囲にあることが好ましく、1:6〜1:80の範囲にあることがより好ましく、1:7〜1:70の範囲にあることが特に好ましい。
染色溶液への延伸積層体の浸漬時間は、特に限定されないが、通常は、15秒〜5分間の範囲であることが好ましく、1〜3分間であることがより好ましい。また、染色溶液の温度は、10〜60℃の範囲にあることが好ましく、20〜40℃の範囲にあることがより好ましい。
染色処理後、ヨウ化カリウムを含む脱色液、及びホウ酸又はホウ素化合物とヨウ化カリウムを含む架橋液に上記積層体を順次浸漬して、二色性物質を固定化する。その後、乾燥機により乾燥すると、塗布型の偏光膜(A)が得られる。
<セルロースエステルフィルム(B)>
次に本発明の偏光板の保護フィルムとして機能するセルロースエステルフィルム(B)について詳細に説明する。セルロースエステルフィルム(B)はその機能を表すのに、「保護フィルム」又は「偏光板保護フィルム」という場合がある。また簡単に「セルロースエステルフィルム」という場合がある。
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)は、プラズマ処理又はコロナ処理のいずれかで親水化処理されており、該セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理前後の表面自由エネルギーが下記特定の範囲内であることを特徴とする。
〔セルロースエステルフィルム(B)の表面自由エネルギー〕
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)は、プラズマ処理又はコロナ処理のいずれかで親水化処理された保護フィルムであり、該セルロースエステルフィルムの親水化処理前の表面自由エネルギーが下記式(SI)を満たし、かつ該セルロースエステルフィルムの親水化処理後の表面自由エネルギーが下記式(SII)を満たすことを特徴とする。
式(SI):0.25≦γsh/γsp<1.5
式(SII):1.5≦γsh/γsp≦4.0
ただし、γshは表面自由エネルギーの水素結合成分、及びγspは双極子成分を表す。
本発明においては、親水化処理前の表面自由エネルギーの水素結合成分と双極子成分の比(γsh/γsp)は、好ましくは0.28〜1.0の範囲内であり、さらに好ましくは0.30〜0.50の範囲内である。
親水化処理前の表面自由エネルギーの水素結合成分と双極子成分の比(γsh/γsp)が0.25より小さい場合は、偏光膜との十分な接着性を得るためには、プラズマ処理やコロナ処理等の親水化処理を強度な条件で実施する必要があり、その場合フィルム表面に熱ダメージ等が加わり、フィルムの物理特性、透明性が著しく損なわれ、フィルム強度の低下、ヘイズ上昇、それに伴う液晶表示装置における正面コントラストの低下が発生する。
また、親水化処理後の表面自由エネルギーの水素結合成分と双極子成分の比(γsh/γsp)は、偏光膜との十分な接着性を得るために、好ましくは1.8〜3.5の範囲内であり、さらに好ましくは2.0〜3.0の範囲内である。
表面自由エネルギーの水素結合成分と双極子成分の比(γsh/γsp)を変化させる手段としては、セルロースアセテートの置換度の変化、置換基の炭素数の変化、添加剤の構造や添加量の変化を行うことが挙げられる。これらの要因を組み合わせて使用することにより、表面自由エネルギーの水素結合成分と双極子成分の比を種々変化させることができる。
親水化処理後の表面自由エネルギーの水素結合成分と双極子成分の比(γsh/γsp)が、1.5より小さい場合は、親水性の偏光膜への接着性が不十分で、本発明の効果の発現が実際上不十分となる。
親水化処理前若しくは後の表面自由エネルギーの水素結合成分と双極子成分の比(γsh/γsp)が、式(SI)、(SII)の上限値より大きい場合は、フィルムの吸湿性が大きくなり、フィルム強度(コシ)の低下が見られ、皺やカールの発生が問題となる。また、温度や湿度による水分の出入りが大きくなり、リターデーション値や寸法の環境変動が大きくなるといった問題を生じる。液晶表示装置に組み込んだ場合は、視野角やパネルの色変動が大きくなるといった問題を生じる。
従って、上記の問題の発生を防止するために、当該セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理前の表面自由エネルギーが前記式(SI)を満たし、かつ当該セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理後の表面自由エネルギーが前記式(SII)を満たすように、セルロースエステルフィルム(B)の素材種の選択及び親水化表面処理条件等により制御することが必要である。
〔表面自由エネルギーの測定〕
表面自由エネルギーは、表面自由エネルギーの双極子成分、分散成分及び水素結合成分が既知である試薬を使用し、その試薬との付着性を測定することによって求められる。
本発明においては、セルロースエステルフィルム(B)の表面自由エネルギーを、次のように測定した。
測定装置:固液界面解析装置(DropMaster500、協和界面科学株式会社製)
測定方法:液滴法
環境 :温度23℃、55%RH
3種の標準液体:純水、ニトロメタン、ヨウ化メチレンと、被測定固体(セルロースエステルフィルム(B))との接触角を、前記標準液体をフィルム上に約3μl滴下して、固液界面解析装置(DropMaster500、協和界面科学株式会社製)により5回測定し、測定値の平均から平均接触角を得る。接触角測定までの時間は試薬を滴下してから60秒後に測定する。
次に、Young−Dupreの式及び拡張Fowkesの式に基づき、固体の表面自由エネルギーの3成分を算出した。
この場合、表面自由エネルギー解析ソフトEG−11(協和界面科学株式会社製)を用いて計算することができる。
Young−Dupreの式:WSL=γL(1+cosθ)
WSL:液体/固体間の付着エネルギー
γL:液体の表面自由エネルギー
θ:液体/固体の接触角拡張
Fowkesの式:
WSL=2{(γsdγLd)1/2+(γspγLp)1/2+(γshγLh)1/2}
γL=γLd+γLp+γLh:液体の表面自由エネルギー
γLd、γLp、γLh:表面自由エネルギーの分散、双極子、及び水素結合の各成分
γs=γsd+γsp+γsh:固体の表面自由エネルギー
γsd、γsp、γsh:表面自由エネルギーの分散、双極子、及び水素結合の各成分
標準液体の表面自由エネルギー各成分値(mN/m)は、表5のように既知であるので、接触角の値から3元連立方程式を解くことにより、固体表面の表面自由エネルギー各成分値(γsd、γsp、γsh)を求めることができる。
〔セルロースエステル〕
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)は、セルロースの低級脂肪酸エステルを含有することが好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味し、例えば、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等や、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルを用いることができる。
上記の中でも、特に好ましく用いられるセルロースの低級脂肪酸エステルは、アセチル基置換度が2.1〜2.5の範囲内であるジアセチルセルロースであり、該ジアセチルセルロースを用いることが、フィルムの親水化処理前の表面自由エネルギーが前記式(SI)を満たし、かつ親水化処理後の表面自由エネルギーが前記式(SII)を満たすように調整しやすいという点で好ましい。
本発明に係るセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することができる。
本発明に用いられるセルロースエステルは、公知の方法により製造することができる。具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
市販品としては、ダイセル社LM80、L20、L30、L40、L50、イーストマンケミカル社のCa398−3、Ca398−6、Ca398−10、Ca398−30、Ca394−60S等のアセチルセルロースが挙げられる。
セルロースエステルとしては、数平均分子量(Mn)が125000以上、180000未満、重量平均分子量(Mw)は、225000以上、360000未満、Mw/Mnは、1.8〜2.0の範囲であるセルロースエステルを含有することが好ましい。
セルロースエステルの数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw)は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定できる。測定条件は以下のとおりである。
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G
(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500までの13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
〔セルロースエステルフィルムの添加剤〕
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)には、親水化処理前の表面自由エネルギーが前記式(SI)を満たし、かつ親水化処理後の表面自親水化処理後の表面自由エネルギーが前記式(SII)を満たす限りにおいて、用途に応じた種々の添加剤(可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、微粒子等)を加えることができる。
本発明に係るセルロースアセテートフィルム(B)は、親水化処理前後の表面自由エネルギーを制御したり、環境変化での物理特性や寸法安定性を向上する観点から、下記一般式(X)で表されるエステル又は糖エステルを含有することが好ましい。特にセルロースエステルフィルム(B)を薄膜化した時に懸念される物理強度の低下や、透湿度の増大による寸法安定性の劣化などを改善することができ好ましい。
まず、一般式(X)で表されるエステルについて説明する。
一般式(X) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bは、脂肪族又は芳香族モノカルボン酸残基を表す。Gは、炭素数2〜12のアルキレングリコール残基、炭素数6〜12のアリールグリコール残基又は炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基を表す。Aは、炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基又は炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表す。nは1以上の整数を表す。)
上記エステルは、ジカルボン酸とジオールを反応させて得られる繰り返し単位を含むポリエステルであり、Aはエステル中のカルボン酸残基を表し、Gはアルコール残基を表す。
ポリエステルを構成するジカルボン酸は、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又は脂環式ジカルボン酸であり、好ましくは芳香族ジカルボン酸である。ジカルボン酸は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよい。
ポリエステルを構成するジオールは、芳香族ジオール、脂肪族ジオール又は脂環式ジオールであり、好ましくは脂肪族ジオールであり、より好ましくは炭素数1〜4のジオールである。ジオールは、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよい。
中でも、少なくとも芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と、炭素数1〜8のジオールとを反応させて得られる繰り返し単位を含むことが好ましく、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含むジカルボン酸と、炭素数1〜8のジオールとを反応させて得られる繰り返し単位を含むことがより好ましい。
ポリエステルの分子の両末端は、封止されていても、封止されていなくてもよいが、温湿度変動に対するセルロースエステルフィルムのリターデーション値変動を低減する観点からは、封止されていることが好ましい。
一般式(X)のAを構成するアルキレンジカルボン酸の具体例としては、1,2−エタンジカルボン酸(コハク酸)、1,3−プロパンジカルボン酸(グルタル酸)、1,4−ブタンジカルボン酸(アジピン酸)、1,5−ペンタンジカルボン酸(ピメリン酸)、1,8−オクタンジカルボン酸(セバシン酸)などから誘導される2価の基が含まれる。Aを構成するアルケニレンジカルボン酸の具体例としては、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。Aを構成するアリールジカルボン酸の具体例としては、1,2−ベンゼンジカルボン酸(フタル酸)、1,3−ベンゼンジカルボン酸、1,4−ベンゼンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。
Aは、一種類であっても、二種類以上が組み合わされてもよい。中でも、Aは、炭素原子数4〜12のアルキレンジカルボン酸と炭素原子数8〜12のアリールジカルボン酸との組み合わせが好ましい。
一般式(X)中のGは、炭素原子数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基、炭素原子数6〜12のアリールグリコールから誘導される2価の基、又は炭素原子数4〜12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基を表す。
Gにおける炭素原子数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、及び1,12−オクタデカンジオール等から誘導される2価の基が含まれる。
Gにおける炭素原子数6〜12のアリールグリコールから誘導される2価の基の例には、1,2−ジヒドロキシベンゼン(カテコール)、1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン(ヒドロキノン)などから誘導される2価の基が含まれる。Gにおける炭素原子数が4〜12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどから誘導される2価の基が含まれる。
Gは、一種類であっても、二種類以上が組み合わされてもよい。中でも、Gは、炭素原子数2〜12のアルキレングリコールであることが好ましい。
一般式(X)のBは、芳香環含有モノカルボン酸又は脂肪族モノカルボン酸から誘導される1価の基である。
芳香環含有モノカルボン酸から誘導される1価の基における芳香環含有モノカルボン酸は、分子内に芳香環を含有するカルボン酸であり、芳香環がカルボキシ基と直接結合したものだけでなく、芳香環がアルキレン基などを介してカルボキシ基と結合したものも含む。芳香環含有モノカルボン酸から誘導される1価の基の例には、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、フェニル酢酸、3−フェニルプロピオン酸などから誘導される1価の基が含まれる。
脂肪族モノカルボン酸から誘導される1価の基の例には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸などから誘導される1価の基が含まれる。中でも、アルキル部分の炭素原子数が1〜3であるアルキルモノカルボン酸から誘導される1価の基が好ましく、アセチル基(酢酸から誘導される1価の基)がより好ましい。
上記ポリエステルの重量平均分子量は、500〜3000の範囲であることが好ましく、600〜2000の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
一般式(X)で表されるエステルの具体例としては、特開2009−192681号公報段落〔0123〕〜〔0124〕記載の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
また、セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理前後の表面自由エネルギーを制御するのに、糖エステルを含有させることが好ましい。
糖エステルは、セルロースエステル以外の糖エステルであって、下記単糖、二糖、三糖又はオリゴ糖などの糖のOH基の全て若しくは一部をエステル化した化合物である。糖としては例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、アラビノース、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノース及びケストースを挙げることができる。このほか、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。これらの化合物の中で、特にフラノース構造及び/又はピラノース構造を有する化合物が好ましい。これらの中でも、スクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、さらに好ましくは、スクロースである。また、オリゴ糖として、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖も好ましく使用することができる。
糖をエステル化するのに用いられるモノカルボン酸は、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。使用するカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができ、より具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−、m、p−アニス酸、クレオソート酸、o−、m、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。上記エステル化の中では、アセチル基を導入したアセチル化合物が好ましい。
本発明に用いられ得る糖エステルの具体例は、特開2012−230154号公報段落〔0130〕〜〔0138〕記載の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
さらに、糖エステルは、下記一般式(Y)で表される化合物が好ましい。
式中、R1〜R8は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数2〜22のアルキルカルボニル基、あるいは、置換又は無置換の炭素数2〜22のアリールカルボニル基を表し、R1〜R8は、同じであっても、異なっていてもよい。
一般式(Y)で表される糖エステルの具体例は、特開2012−230282号公報段落〔0077〕〜〔0078〕記載の例示化合物(1−1)〜(1−23)が挙げられるが、これらに限定されない。
R1〜R8の平均置換度は、エステル化反応時間の調節、又は置換度違いの化合物を混合することにより目的の置換度に調整できる。
一般式(X)で表されるエステル又は糖エステルは、セルロースエステルに対して、1〜30質量%の範囲含有させることが好ましく、5〜25質量%の範囲含有させることがより好ましく、5〜20質量%含有させることが特に好ましい。
(可塑剤)
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)は、寸法安定性を向上する等、必要に応じて可塑剤を含有することができる。
可塑剤は、特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。
そのうち、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環又はシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
本発明に好ましく用いられる多価アルコールは次の一般式(a)で表される。
一般式(a) R1−(OH)n
ただし、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/又はフェノール性ヒドロキシ基を表す。
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができる。
アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。
特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
多価アルコールエステルの具体的化合物は、特開2009−192681号公報段落〔0087〕〜〔0090〕記載の化合物を挙げることができるが、これらに限定されない。
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
脂肪酸エステル系可塑剤として、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
多価カルボン酸エステルとしては、2価以上、好ましくは2〜20価の多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3〜20価であることが好ましい。
多価カルボン酸は次の一般式(b)で表される。
一般式(b) R2(COOH)m(OH)n(ただし、R2は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOH基はカルボキシ基、OH基はアルコール性又はフェノール性ヒドロキシ基を表す。)
多価カルボン酸エステルの分子量は特に制限はないが、分子量300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
多価カルボン酸エステルの酸価は1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることが更に好ましい。酸価を上記範囲にすることによって、リターデーション値の環境変動も抑制されるため好ましい。
なお、酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシ基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
特に好ましい多価カルボン酸エステルとしては、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。
上述した可塑剤を含有させる場合、その使用量は例えばセルロースエステルに対し、1〜50質量%の範囲含有させることが好ましく、5〜35質量%の範囲含有させることがより好ましく、5〜25質量%の範囲含有させることが特に好ましい。
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328、チヌビン928等のチヌビン類があり、これらはいずれもBASFジャパン社製の市販品であり好ましく使用できる。
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
このほか、1,3,5−トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
本発明の偏光板保護フィルムは紫外線吸収剤を2種以上を含有することもできる。
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。
無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、偏光板保護フィルムの乾燥膜厚が30〜200μmの場合は、セルロースエステルに対して0.5〜10質量%が好ましく、0.6〜4質量%が更に好ましい。
(酸化防止剤)
酸化防止剤は、劣化防止剤ともいわれる。高湿高温の状態に液晶画像表示装置などが置かれた場合には、セルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。
酸化防止剤は、例えば、セルロースエステルフィルム中の残留溶媒量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等によりセルロースエステルフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、前記セルロースエステルフィルム(B)中に含有させるのが好ましい。
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。
特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%の範囲が好ましく、10〜1000ppmの範囲が更に好ましい。
(酸捕捉剤)
セルロースエステルは高温下では酸によっても分解が促進されるため、本発明のセルロースエステルフィルム(B)に用いる場合においては酸捕捉剤を含有することが好ましい。
有用な酸捕捉剤としては、酸と反応して酸を不活性化する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも米国特許第4137201号明細書に記載されているエポキシ基を有する化合物が好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシドなどの縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテルなど、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、及び塩化ビニルポリマー組成物とともに、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4′−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22この炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)など)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリドなど(例えば、エポキシ化大豆油など)の組成物によって代表され例示され得るエポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらは時としてエポキシ化天然グリセリド又は不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している)が含まれる。また、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物として、EPON 815Cも好ましく用いることができる。
更に上記以外に用いることが可能な酸捕捉剤としては、オキセタン化合物やオキサゾリン化合物、あるいはアルカリ土類金属の有機酸塩やアセチルアセトナート錯体、特開平5−194788号公報の段落68〜105に記載されているものが含まれる。
なお酸捕捉剤は酸掃去剤、酸捕獲剤、酸キャッチャー等と称されることもあるが、本発明においてはこれらの呼称による差異なく用いることができる。
(微粒子)
滑り性を付与するため、本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)には、微粒子を添加することが好ましい。
微粒子の1次平均粒子径としては、20nm以下が好ましく、更に好ましくは、5〜16nmの範囲であり、特に好ましくは、5〜12nmの範囲である。
これらの微粒子は0.1〜5μmの範囲の粒径の二次粒子を形成してセルロースエステルフィルムに含まれることが好ましく、好ましい平均粒径は0.1〜2μmの範囲であり、更に好ましくは0.2〜0.6μmの範囲である。これにより、フィルム表面に高さ0.1〜1.0μm程度の凹凸を形成し、これによってフィルム表面に適切な滑り性を与えることができる。
微粒子の1次平均粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡(倍率50万〜200万倍)で粒子の観察を行い、粒子100個を観察し、粒子径を測定しその平均値をもって、1次平均粒子径とした。
微粒子の見掛比重としては、70g/リットル以上が好ましく、更に好ましくは、90〜200g/リットルの範囲であり、特に好ましくは、100〜200g/リットルの範囲である。見掛比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましく、また、本発明のように固形分濃度の高いドープを調製する際には、特に好ましく用いられる。
セルロースエステルに対する微粒子の添加量はセルロースエステル100質量部に対して、0.01〜5.0質量部の範囲が好ましく、0.05〜1.0質量部の範囲が更に好ましく、0.1〜0.5質量部の範囲が最も好ましい。添加量は多い方が、動摩擦係数に優れ、添加量が少ない方が、凝集物が少なくなる。
〔セルロースエステルフィルム(B)の製造方法〕
次に、本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)の製造方法について説明する。
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)は溶液流延法で製造されたフィルムであっても溶融流延法で製造されたフィルムであっても好ましく用いることができる。
溶液流延法において、本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)の製造は、セルロースエステル及び添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸又は幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースエステルの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%の範囲が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%の範囲である。
ドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースエステルの溶解性の点で好ましい。
良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%の範囲であり、貧溶剤が2〜30質量%の範囲である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するか又は溶解しないものを貧溶剤と定義している。
本発明に用いられる良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライド又は酢酸メチルが挙げられる。
また、本発明に用いられる貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%の範囲含有していることが好ましい。
また、セルロースエステルの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。
回収溶剤中に、セルロースエステルに添加されている添加剤、例えば可塑剤、紫外線吸収剤、ポリマー、モノマー成分などが微量含有されていることもあるが、これらが含まれていても好ましく再利用することができるし、必要であれば精製して再利用することもできる。
上記のドープを調製するときの、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できる。
溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら撹拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。
また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤あるいは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。
好ましい加熱温度は45〜120℃の範囲であり、60〜110℃の範囲がより好ましく、70〜105℃の範囲が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
若しくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることができる。
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。
このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの範囲の濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの範囲の濾材が更に好ましい。
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に光学フィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察したときに反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm2以下であることが好ましい。
より好ましくは100個/cm2以下であり、更に好ましくは50個/m2以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm2以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。
好ましい温度は45〜120℃の範囲であり、45〜70℃の範囲がより好ましく、45〜55℃の範囲であることが更に好ましい。
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
ここで、ドープの流延について説明する。
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
キャストの幅は1〜4mの範囲とすることができる。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
好ましい支持体温度は0〜55℃の範囲であり、25〜50℃の範囲が更に好ましい。あるいは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風又は冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
セルロースエステルフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%の範囲が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%の範囲又は60〜130質量%の範囲であり、特に好ましくは、20〜30質量の範囲%又は70〜120質量%の範囲である。
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
なお、Mはウェブ又はフィルムを製造中又は製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
また、セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%の範囲である。
フィルム乾燥工程では一般にローラー乾燥方式(上下に配置した多数のローラーにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)を作製するためには、ウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式で幅方向(横方向)に延伸を行うことが特に好ましい。剥離張力は300N/m以下で剥離することが好ましい。
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ローラー、マイクロ波等で行うことができるが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は40〜200℃の範囲で段階的に高くしていくことが好ましい。
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)の膜厚は、薄膜軽量の偏光板を得るという観点から5〜40μmの範囲内であることが好ましく、5〜20μmの範囲内であることがより好ましい。更に好ましくは10〜20μmの範囲である。この範囲の膜厚であると、本発明に係る親水化処理であるプラズマ処理又はコロナ処理を行ってもフィルム物性を維持することができる。更に本発明の課題である、10μm以下の膜厚の偏光膜(A)との組み合わせで、カールの発生も抑えられ、偏光板製造時の皺の発生や、パネル貼合時のカールや変形による気泡の発生も防止できる。
本発明においてセルロースエステルフィルムは、幅1〜4mの範囲のものが用いられる。特に幅1.4〜4mの範囲のものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.6〜3mの範囲である。4mを超えると搬送が困難となる。
セルロースエステルフィルムに下記所望のリターデーション値Ro、Rtを付与するには、搬送張力の制御、延伸操作により屈折率制御を行うことが好ましい。
例えば、長手方向の張力を低く又は高くすることでリターデーション値を変動させることが可能となる。
また、フィルムの長手方向(製膜方向)及びそれとフィルム面内で直交する方向、即ち幅手方向に対して、逐次又は同時に二軸延伸若しくは一軸延伸することが好ましい。
互いに直交する二軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に0.8〜1.5倍の範囲、幅方向に1.1〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に0.8〜1.0倍の範囲、幅方向に1.2〜2.0倍の範囲で行うことが好ましい。
延伸温度は120〜200℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは150〜200℃の範囲であり、さらに好ましくは150℃を超えて190℃以下で延伸するのが好ましい。
フィルム中の残留溶媒は20〜0%の範囲が好ましく、さらに好ましくは15〜0%の範囲で延伸するのが好ましい。
具体的には155℃で残留溶媒が11%で延伸する、あるいは155℃で残留溶媒が2%で延伸するのが好ましい。若しくは160℃で残留溶媒が11%で延伸するのが好ましく、あるいは160℃で残留溶媒が1%未満で延伸するのが好ましい。
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のローラーに周速差をつけ、その間でローラー周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。
また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
製膜工程のこれらの幅保持あるいは横方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
本発明に用いられるセルロースエステルフィルム(B)の遅相軸又は進相軸がフィルム面内に存在し、製膜方向とのなす角をθ1とするとθ1は−1°以上+1°以下であることが好ましく、−0.5°以上+0.5°以下であることがより好ましく、−0.1°以上+0.1°以下であることがさらに好ましい。
このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−WPR(王子計測機器)を用いて行うことができる。θ1が各々上記関係を満たすことは、表示画像において高い輝度を得ること、光漏れを抑制又は防止することに寄与でき、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現を得ることに寄与できる。
<セルロースエステルフィルム(B)の物性>
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)の透湿度は、温度40℃、湿度90%RHの測定で、膜厚80μmに換算して、算300〜1800g/m2・24hが好ましく、更に400〜1500g/m2・24hが好ましく、40〜1300g/m2・24hが特に好ましい。透湿度はJIS Z 0208に記載の方法に従い測定することができる。
破断伸度は5〜80%であることが好ましく10〜50%の範囲であることが更に好ましい。JIS−C−2151、ASTM−D−882に準じた測定法で測定する。具体的には、引っ張り試験機を用いて、速度200mm/minで引張り、試料が切断(破断)したときの強度(引張り荷重値を試験片の断面積で除した値)、及び伸び率を求める。引っ張り伸び率は次の式によって算出する。
伸び率(%)=(L−Lo)/Lo
Lo:試験前の試料長さ
L:破断時の試料長さ
可視光透過率は90%以上であることが好ましく、93%以上であることが更に好ましい。透過率は、例えば、試料13mm×40mmを25℃、60%RHで分光光度計(U−3210、(株)日立製作所)にて、可視光(615nm)の透過率を測定する。
〔リターデーション値〕
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)の面内リターデーション値(Ro)及び厚さ方向のリターデーション値(Rt)は、偏光膜保護フィルムとして用いる場合には0≦Ro、Rt≦70nmであることが好ましい。より好ましくは0≦Ro≦30nmの範囲かつ0≦Rt≦50nmの範囲であり、より好ましくは0≦Ro≦10nmの範囲かつ0≦Rt≦30nmの範囲である。
本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)は位相差フィルムとして用いることもでき、その場合には、30≦Ro≦100nmの範囲かつ70≦Rt≦400nmの範囲であり、より好ましくは35≦Ro≦65nmの範囲かつ90≦Rt≦180nmの範囲である。
これらのリターデーション値を付与するには、セルロースエステルの種類、添加剤、可塑剤の種類と量、及び延伸処理条件等で制御することができる。
なおリターデーション値Ro及びRtは以下の式によって求めることができる。
Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
ここにおいて、dはフィルムの厚さ(nm)、屈折率nx(フィルムの面内の最大の屈折率、遅相軸方向の屈折率ともいう)、ny(フィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率)、nz(厚さ方向におけるフィルムの屈折率)である。
リターデーション値Ro及びRtは自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、KOBRA−WPR(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長590nmで求めることができる。
〔内部ヘイズ〕
本発明に係る親水化処理後のセルロースエステルフィルム(B)は、内部ヘイズ値が0.1以下であることが好ましく、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.03以下である。内部ヘイズとは、フィルムの内部の散乱因子により発生するヘイズであり、内部とは、フィルム表面から5μm以上の部分である。
液晶表示装置の正面コントラストを改善するには、セルロースエステルフィルムのヘイズを低下することが必要であるが、ヘイズをフィルム内部のヘイズと表面のヘイズに分離した場合、その改善効果は内部のヘイズの方が影響が大きい。
プラズマ処理又はコロナ処理条件を、本発明に係る親水化処理後の表面自由エネルギーが式(SII)を満足するように調整することで、内部ヘイズ値を上記範囲に調整することができる。
この内部ヘイズは、フィルム屈折率±0.05の屈折率を有する溶剤をフィルム界面に滴下して、フィルム表面のヘイズをできるだけ無視できる状態にして、ヘイズメーターにより測定される。
〈内部ヘイズ測定装置〉
ヘイズメーター(濁度計)(型式:NDH 2000、日本電色工業(株)製)
光源は、5V9Wハロゲン球、受光部は、シリコンフォトセル(比視感度フィルター付き)を用いる。
本発明においては、この装置にてフィルム屈折率±0.05の屈折率の溶剤をフィルム界面とした場合のフィルムのヘイズ測定において、その値が0.05以下であることを特徴とする。測定はJIS K−7136に準ずる。
内部ヘイズ測定は以下のように行う。図1A〜図1Dを参照して説明する。
まず、フィルム以外の測定器具のブランクヘイズ1を測定する。
1.きれいにしたスライドガラスの上にグリセリンを一滴(0.05ml)たらす。このとき液滴に気泡が入らないように注意する。ガラスは見た目がきれいでも汚れていることがあるので必ず洗剤で洗浄したものを使用する(図1A参照)。
2.その上にカバーガラスを乗せる。カバーガラスは押さえなくてもグリセリンは広がる。
3.ヘイズメーターにセットしブランクヘイズ1を測定する。
次いで以下の手順で、試料を含めたヘイズ2を測定する。
4.スライドガラス上にグリセリン(0.05ml)を滴下する(図1A参照)。
5.その上に測定する試料フィルムを気泡が入らないように乗せる(図1B参照)。
6.試料フィルム上にグリセリン(0.05ml)を滴下する(図1C参照)。
7.その上にカバーガラスを載せる(図1D参照)。
8.上記のように作製した積層体(上から、カバーガラス/グリセリン/試料フィルム/グリセリン/スライドガラス)をヘイズメーターにセットしヘイズ2を測定する。
9.(ヘイズ2)−(ヘイズ1)=(本発明に係るセルロースエステルフィルム(B)の内部ヘイズ)を算出する。
なお、セルロースエステルフィルム(B)は23℃55%RHにて5時間以上調湿後の試料を用い、また上記ヘイズの測定は全て23℃・55%RHにて行う。
また、上記測定に使用するガラス、グリセリンは以下のとおりである。
ガラス:MICRO SLIDE GLASS S9213 MATSUNAMI
グリセリン: 関東化学製 鹿特級(純度>99.0%) 屈折率1.47
<表面親水化処理>
本発明のセルロースエステルフィルム(B)は、プラズマ処理又はコロナ処理のいずれかで親水化処理されていることを特徴とする。
プラズマ処理又はコロナ処理の方法は、従来公知の種々の方法を採用することができる。本発明においては、特にプラズマ処理を採用することが好ましい。
〔プラズマ処理〕
以下、本発明に係る偏光板保護フィルムの表面親水化処理に適用できるプラズマ処理、特に大気圧プラズマ処理について説明する。
本発明に適用できるプラズマ処理としては、特開平11−133205号公報、特開2000−185362号公報、特開平11−61406号公報、特開2000−147209号公報、及び同2000−121804号公報等に開示されている技術を挙げることができる。
本発明に用いられる大気圧プラズマ処理は、大気圧若しくはその近傍の圧力下で、放電空間(対向電極間)にガスを供給し、該放電空間に高周波電圧を印加し、ガスを励起してプラズマ状態とし、この励起したプラズマ状態のガスにセルロースエステルフィルム(B)を晒すことにより、表面処理を行うものである。セルロースエステルフィルム(B)表面を直接プラズマ状態のガスに晒すものや、プラズマ放電により形成された励起活性種をセルロースエステルフィルム(B)表面に吹き付ける場合も含まれる。対向電極間で形成する放電空間に印加する高周波電圧は、一つの周波数の高周波であってもよいし、二つあるいはそれ以上の周波数の高周波であってもよい。本発明でいう高周波とは、少なくとも0.5kHz以上の周波数を有するものをいう。本発明では高周波電源の周波数が、50kHz以上、27MHz以下であることが好ましい。
大気圧若しくはその近傍の圧力とは20〜110kPa程度であり、本発明に記載の良好な効果を得るためには、93〜104kPaの範囲が好ましい。
プラズマ照射時間を長くして、投入プラズマエネルギーを増大させることで親水化処理を十分に行うことは可能であるが、プラズマエネルギーを単に増大させていくとセルロースエステルフィルムへの熱ダメージ等が発生する場合があるので、適宜実験等で条件は決定されることが好ましい。
逆に、プラズマ照射時間が短いと、セルロースエステルフィルムへのダメージは抑えられるが、偏光膜との接着性が不十分で、プラズマ処理後にアルカリケン化処理工程が必須になる(例えば特許文献:特開2009−25603号公報参照。)。
一つの周波数の高周波電圧で処理する場合(1周波数高周波電圧印加方式という場合がある。)、又は二つの周波数の高周波電圧で処理する場合(2周波数高周波電圧印加方式という場合がある。)の電極は全く同じものが使用でき、装置自体は大きな違いはない。
異なる点は、高周波電源が二つ、それに付随するフィルターがあること、さらに対向電極の両方の電極から高周波電圧を印加することである。
本発明に有用な1周波数高周波電圧印加方式の場合には、対向電極の一方はアース電極、もう片方は印加電極であり、印加電極に高周波電源が接続されており、アース電極にはアースが接地されている。
図を使用して、1周波数高周波電圧印加方式及び2周波数高周波電圧印加方式のそれぞれの方式のプラズマ処理装置(大気圧プラズマ処理装置)を説明する。
図2は、本発明に有用な1周波数高周波電圧印加方式のプラズマ処理装置の一例を示す概略図である。
プラズマ放電容器130の内部にある高周波電圧を印加する印加電極(角筒型電極)136とその下側にあるセルロースエステルフィルムFを巻き回すローラー型アース電極135とで対向電極を形成している。印加電極136は何個並べてもよい。ガスGは、プラズマ放電容器10のガス供給口152から供給され、ガスGを均一化するメッシュを通り、印加電極136の間及び印加電極とプラズマ放電容器131の内壁に沿って通り、対向電極の間の放電空間13をガスGで満たす。高周波電源21により印加電極136に高周波電圧を印加し、放電空間132で励起したガスGにセルロースエステルフィルムFが晒され、該セルロースエステルフィルムF上に薄膜が形成される。印加する高周波電圧の周波数は50kHz〜150MHzの範囲である。本発明では高周波電源の周波数が、50kHz以上、27MHz以下であることが好ましい。
50kHz未満では本発明の効果が得られ難い。また、150MHzを越える周波数は、放電形成が難しくなり複雑な設備が必要になること、また電位分布発生で不均一処理となり大面積化処理に不向きとなること等から本発明には適さない。
親水化処理中、電極温度調節手段160から配管を経て電極を加熱又は冷却する。温度調節の媒体としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が好ましく用いられる。プラズマ処理の際、幅手方向あるいは長手方向での基材の温度ムラができるだけ生じないように電極の内部の温度を均等に調節することが望まれる。
図3は、本発明に有用な2周波数高周波電圧印加方式のプラズマ処理装置の一例を示す概略図である。これは図1と同様にローラー電極(第1電極)135と角筒型電極群(第2電極)136との対向電極間(放電空間)132で、セルロースエステルフィルムFをプラズマ処理するものである。
ローラー電極135と角筒型電極群136との間の放電空間132に、ローラー電極135には第1電源141から周波数ω1であって高周波電圧V1を、また角筒型電極群(第2電極)136には第2電源142から周波数ω2であって高周波電圧V2をかけるようになっている。
ローラー電極135と第1電源141との間には、第1電源141からの電流がローラー電極135に向かって流れるように第1フィルター143が設置されており、該第1フィルターは第1電源141からの電流を通過しにくくし、第2電源142からの電流を通過しやすくするように設計されている。また、角筒型電極群136と第2電源142との間には、第2電源からの電流が第2電極に向かって流れるように第2フィルター144が設置されており、第2フィルター144は、第2電源142からの電流を通過しにくくし、第1電源141からの電流を通過しやすくするように設計されている。ここで、通過しにくいとは、好ましくは、電流の20%以下、より好ましくは10%以下しか通さないことをいう。逆に通過しやすいとは、好ましくは電流の80%以上、より好ましくは90%以上を通すことをいう。
本発明において、上記のような性質のあるフィルターであれば制限無く使用できる。例えば、第1フィルターとしては、第2電源の周波数に応じて数10〜数万pFのコンデンサー、若しくは数μH程度のコイルを用いることができる。第2フィルターとしては、第1電源の周波数に応じて10μH以上のコイルを用い、これらのコイル又はコンデンサーを介してアース接地することでフィルターとして使用できる。
なお、ローラー電極135と角筒型電極群136のいずれを第1電極としてもよく、第1電極には第1電源が、また第2電極には第2電源が接続される。さらに、第1電源は第2電源より大きな高周波電圧(V1>V2)を印加できる能力を有していればよい。また、周波数はω1<ω2となる能力を有していればよい。
ガス供給手段150のガス供給装置151で発生させたガスGは、流量を制御して給気口152よりプラズマ処理容器131内に導入する。放電空間132及びプラズマ処理容器131内をガスGで満たす。
セルロースエステルフィルムFは、図示されていない元巻きから巻きほぐして搬送されてくるか、前工程から搬送されてきて、ガイドローラー164を経てニップローラー165で同伴されて来る空気等が遮断され、ローラー電極135に接触したまま巻き回しながら角筒型電極群136との間で移送される。ローラー電極135と角筒型電極群136との両方から電圧をかけ、対向電極間132で放電プラズマを発生させる。セルロースエステルフィルムFはローラー電極135に接触して巻き回されながらプラズマ状態のガスに晒される。セルロースエステルフィルムFは、ニップローラー166、ガイドローラー167を経て、図示してない巻取り機で巻き取られるか、次工程に移送される。処理済みの励起放電ガスGexは排気口153より排出される。
プラズマ処理中、ローラー電極135及び角筒型電極群136を加熱又は冷却するために、電極温度調節手段160で温度を調節した媒体を、送液ポンプPで配管161を経て両電極に送り、電極内側から温度を調節する。なお、165及び166はプラズマ処理容器131と外界とを仕切る仕切板である。
本発明において、印加する高周波電圧は、断続的なパルス波であってもよいし、連続したサイン波であってもよい。どちらを採用してもよいが、少なくとも第2電極側は連続サイン波の方がより緻密で良質なプラズマ処理が行えるので好ましい。
本発明では、第1電極に印加する高周波電圧の周波数が1〜200kHzの範囲であり、かつ前記第2電極に印加する高周波電圧の周波数が800kHz以上であることが好ましい。
その時の電力密度は1〜50W/cm2(ここで、分母のcm2は放電が起こっている面積である。)が好ましく、より好ましくは1.2〜30W/cm2である。特に第2電極には、上記範囲の電力密度を供給することが好ましい。
本発明に用いられるプラズマ処理装置に有用な高周波電源としては、例えば、第1電源(高周波電源)と第2電源(高周波電源)とに周波数によって下記のように使い分けられることができる。
第1電源としては、
高周波電源記号 メーカー 周波数
A1 神鋼電機 3kHz
A2 神鋼電機 5kHz
A3 春日電機 15kHz
A4 神鋼電機 50kHz
A5 ハイデン研究所 100kHz*
A6 パール工業 200kHz
なお、*印はハイデン研究所インパルス高周波電源(連続モードで100kHz)である。
また、第2電源(高周波電源)としては、
高周波電源記号 メーカー 周波数
B1 パール工業 800kHz
B2 パール工業 2MHz
B3 パール工業 13.56MHz
B4 パール工業 27MHz
B5 パール工業 150MHz
等の市販のものを挙げることができ、いずれも好ましく使用できる。
本発明における放電条件は、対向する第1電極と第2電極との放電空間に、高周波電圧を印加し、該高周波電圧が、第1の周波数ω1の電圧成分と、前記第1の周波数ω1より高い第2の周波数ω2の電圧成分とを重ね合わせた成分を少なくとも有することが好ましい。
前記高周波電圧が、第1の周波数ω1の電圧成分と、前記第1の周波数ω1より高い第2の周波数ω2の電圧成分とを重ね合わせた成分となり、その波形は周波数ω1のサイン波上に、それより高い周波数ω2のサイン波が重畳されたω1のサイン波の波形となる。サイン波の重畳した波形に限られるものではなく、両方パルス波であっても、一方がサイン波でもう一方がパルス波であってもかまわない。また、さらに第3の電圧成分を有していてもよい。しかし、本発明においては、1周波数高周波電圧印加方式と同様に、少なくとも第2電極側は連続サイン波の方が、より緻密で良質な膜が得られる。
また、別の放電条件としては、対向する第1電極と第2電極との間に、高周波電圧を印加し、該高周波電圧が、第1の高周波電圧V1及び第2の高周波電圧V2を重畳したものであって、放電開始電圧をIVとしたとき、V1≧IV>V2又はV1>IV≧V2を満たす。さらに好ましくは、V1>IV>V2を満たすことである。
高い電圧をかけるような放電条件をとることにより、例え窒素ガスのように放電開始電圧が高い放電ガスでも、放電ガスを開始し、高密度で安定なプラズマ状態を維持でき、高性能な薄膜形成を行うことができるのである。
上記の測定により放電ガスを窒素ガスとした場合、その放電開始電圧IVは3.7kV/mm程度であり、従って、上記の関係において、第1の高周波電圧を、V1≧3.7kV/mmとして印加することによって窒素ガスを励起し、プラズマ状態にすることができる。
放電ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等の希ガス、空気、一酸化炭素、アンモニア、水素等が使用でき、これらを単独で放電ガスとして用いても、混合して用いてもかまわないが、窒素ガスを用いることが、ヘリウム又はアルゴン等の希ガスを用いる場合に比較し、放電ガスの高い経済性を得ることができるため、特に好ましい。放電ガスの量は、放電空間に供給する全ガス量に対し、70〜100体積%の範囲を含有することが好ましい。
〈コロナ処理〉
表面親水化処理のうち、コロナ処理(「コロナ放電処理」ともいう。)は、従来公知のいずれの方法、例えば特公昭48−5043号公報、同47−51905号公報、特開昭47−28067号公報、同49−83767号公報、同51−41770号公報、及び同51−131576号公報等に開示された方法により達成することができる。コロナ処理に使用するコロナ処理機としては、現在プラスチックフィルム等の表面改質の手段として使用されている市販の各種コロナ処理機の適用が可能であり、中でもSOFTAL(ソフタル)社のマルチナイフ電極を有するコロナ処理機は多数本の電極で構成され、さらに電極の間に空気を送る構造となっており、フィルムの加熱防止やフィルム表面に出てくる低分子の除去等が行えるので、エネルギー効率が非常に高く、高コロナ処理が可能となるので、本発明には特に好ましいコロナ処理機である。
コロナ処理の条件としては、使用するフィルムの種類、粘着剤の種類及び用いるコロナ処理機の種類等によって異なるが、1回当たりの処理に際してのエネルギー密度としては20〜400W・min/m2程度が好ましい。高エネルギーで処理するよりはできるだけ低エネルギーで処理する方が処理する保護膜の劣化、保護膜中の充填物の表面へのブリード等が抑えられ、接着力向上には有効である。一回処理で不充分な場合は、二回以上の多数回処理を行えばさらに接着力が向上する。
<偏光板>
本発明の偏光板は、二色性物質で染色された親水性高分子層からなる前記偏光膜(A)と、該偏光膜(A)の少なくとも一方の面に接着剤を介し、前記セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理された面とを積層して形成する。
前記偏光膜(A)と前記セルロースエステルフィルム(B)とを積層する場合、特に制限されるものではないが、前記偏光膜(A)を構成する前記熱可塑性樹脂層と前記親水性高分子層を剥離せずに、該親水性高分子層と前記セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理された面とを積層し、その後該熱可塑性樹脂層を剥離し、偏光膜(A)が露出した面に偏光板保護フィルムを貼合することが皺やカールの発生を防ぐ観点から好ましい。
前記偏光膜(A)のもう一方の面には、前記セルロースエステルフィルム(B)を貼合してもよく、また他の偏光板保護フィルムを貼合してもよい。
例えば、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UXW−RHA−C、KC8UXW−RHA−NC、KC4UXW−RHA−NC、以上コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。
中でも40μm以下の偏光板保護フィルムを用いることが好ましい。
また、液晶表示装置の表面側に用いられる偏光板保護フィルムには、防眩層あるいはクリアハードコート層のほか、反射防止層、帯電防止層、防汚層、バックコート層を有することが好ましい。
偏光板保護フィルムと偏光膜を貼合するのに使用される接着剤としては、十分な接着性を持ち、透明で、偏光機能を阻害しないものが好ましく用いられ、例えば、ポリエステル系接着剤、ポリアクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤などが挙げられる。本発明では、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液等の水糊が好ましい。
本発明の偏光板の実施態様として、前記偏光膜(A)の親水性高分子層の染色された面とは反対側の面と、前記セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理された面とを貼合することが、更に接着性を向上し皺やカールを防止する。
前述したように、偏光膜とセルロースエステルフィルムの接着には、偏光膜を染色、安定化する過程で加えられるホウ酸が、該偏光膜からセルロースエステルフィルム表面に拡散し、ホウ素イオンが水糊のカルボキシ基とフィルムのヒドロキシ基を架橋する効果によって接着を促進するものと考えられる。従って接着に関与するホウ素イオンの量が影響するが、本発明に係る偏光膜(A)は、親水性高分子層の表面側から二色性物質で染色するため、二色性物質であるヨウ素イオンが親水性高分子層の表面側に多く存在する反面、親水性高分子層の熱可塑性樹脂層に接する側に少ないという濃度勾配がある。そのため親水性高分子層の表面側ではヨウ素イオンの濃度が高いため、ホウ素イオンはヨウ素イオンにトラップされて表面側ではフィルム側に拡散し難いが、熱可塑性樹脂と接する側では該ヨウ素イオンの濃度が相対的に低いため、ホウ素イオンはトラップされずフィルム側に拡散しすいと考えられる。
従って、前記偏光膜(A)の親水性高分子層の染色された面とは反対側の面と、前記セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理された面とを貼合することは、拡散するホウ素イオン量が相対的に増加するため、接着性をより改善する効果がある。
その場合、以下の工程によって偏光板を製造することが好ましい。
(1)熱可塑性樹脂層に前記親水性高分子層を塗設した後、該熱可塑性樹脂層と該親水性高分子層からなる積層体を延伸する工程、
(2)二色性物質で前記親水性高分子層を染色する工程、
(3)前記親水性高分子層の染色された面に接着剤を介してセパレーターを貼合する工程、
(4)前記親水性高分子層から前記熱可塑性樹脂層を剥離する工程、及び
(5)前記親水性高分子層のセパレーターを貼合した面とは反対側の面に、前記セルロースエステルフィルム(B)の前記親水化処理を施された面を貼合する工程、を経て偏光板を製造する製造方法が好ましい。
このようにセパレーターを貼合することで、偏光膜の物理的強度を保持しながら、二色性物質で染色した面とは反対側の面に、セルロースエステルフィルム(B)を貼合することが可能となるため、皺やカールの発生を防止することができる。
上記セパレーターとはいわゆるセパレートフィルムを意味するが、特に限定されるものではないが、コストが安く、かつ扱いやすい二軸延伸されたポリエステルフィルムであることが好ましい。
<液晶表示装置>
本発明の偏光板を液晶表示装置に用いることによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することができる。
本発明本発明の偏光板はSTN、TN、OCB、HAN、VA(MVA、PVA)、IPS、OCBなどの各種駆動方式の液晶表示装置に用いることができる。
好ましくはVA(MVA、PVA)型液晶表示装置である。
特にスマートフォンやパッドと呼ばれる中小型モバイル機器の液晶表示装置であっても、環境変動が少なく、光漏れが低減された、色味ムラ、正面コントラストなど視認性に優れ液晶表示装置を得ることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
実施例1
<偏光膜(A)を有する延伸積層体1の作製>
〈積層体の作製〉
(熱可塑性樹脂層A)
下記フィルムを準備し、これを熱可塑性樹脂層Aとした。
結晶性エステル系熱可塑性樹脂として、膜厚200μm、長さ1000mのアモルファス・ポリエチレンテレフタレートフィルム(A−PET)(三菱樹脂社製ノバクリアー、ガラス転移温度80℃)を用いた。
(親水性高分子層)
親水性高分子としてポリビニルアルコール粉末(日本酢ビポバール(株)製、平均重合度2500、ケン化度99.0モル%以上、商品名:JC−25)を95℃の熱水中に溶解させ濃度8質量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られたポリビニルアルコール水溶液を、積層用の前記熱可塑性樹脂層A上に、リップコーターを用いて塗工し、80℃で20分間乾燥させ、熱可塑性樹脂層Aと親水性高分子層からなる積層体1を作製した。なお、親水性高分子層の厚さは12.0μmであった。
(延伸工程)
上記積層体を搬送方向(MD方向)に160℃で5.3倍の自由端一軸延伸を実施した。なお、延伸後の親水性高分子層の厚さは5.6μmであった。
(染色工程)
次いで、延伸積層体を60℃の温浴に60秒浸漬し、水100質量部あたりヨウ素を0.05質量部及びヨウ化カリウムを5質量部それぞれ含有する水溶液に、温度28℃で60秒間浸漬した。次いで、緊張状態に保ったまま、水100質量部あたりホウ酸を7.5質量部及びヨウ化カリウムを6質量部それぞれ含有するホウ酸水溶液に、温度73℃で300秒間浸漬した。その後、15℃の純水で10秒間洗浄した。水洗したフィルムを緊張状態に保ったまま、70℃で300秒間乾燥し、熱可塑性樹脂層Aと親水性高分子層からなる染色された延伸積層体1を得た。
<セルロースエステルフィルム(B)の作製>
<セルロースエステルフィルム101の作製>
〈微粒子分散液〉
微粒子(アエロジル R812 日本アエロジル(株)製)
11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
〈微粒子添加液〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクに、CE−1(ダイセル社ジアセチルセルロース:L20:アセチル基置換度2.41)を添加し、加熱して完全に溶解させた後、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。濾過後のセルロースエステル溶液を充分に撹拌しながら、ここに微粒子分散液をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調製した。
メチレンクロライド 99質量部
CE−1 4質量部
微粒子分散液 11質量部
CE−1を用い、下記組成の主ドープを調製した。
まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクに、CE−1を撹拌しながら投入した。これを加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、更に表1に記載の添加剤2種を添加、溶解させた。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープを調製した。
主ドープ100質量部に微粒子添加液を2質量部加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分に混合し、次いでベルト流延装置を用い、幅1.7mのステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体上で、残留溶媒量が110%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体から剥離した。剥離の際に張力をかけて縦(MD)延伸倍率が1.05倍となるように延伸し、次いで、160℃に設定されたテンターでウェブ両端部を把持し、幅手(TD)方向の延伸倍率が1.1倍となるように延伸した延伸開始時の残留溶媒は30%であった。延伸後、その幅を維持したまま数秒間保持し、幅方向の張力を緩和させた後幅保持を解放し、更に125℃に設定された乾燥ゾーンで30分間搬送させて乾燥を行った後フィルム端部を切り落とし、幅1.5m、かつ端部に幅1cm、高さ5μmのナーリングを有する膜厚40μm、長さ1000mのセルロースエステルフィルム101を作製した。
〈主ドープの組成〉
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 30質量部
CE−1 100質量部
TPP 7質量部
BDP 7質量部
<セルロースエステルフィルム102〜107の作製>
添加剤及び膜厚を表1記載のように変更した以外はセルロースエステルフィルム101と同様にして、セルロースエステルフィルム102〜107を作製した。
添加剤はいずれもセルロースエステル100質量部に対して7質量部ずつ添加した。
なお、表中の下記略称の化合物は以下のとおりである。
TPP:トリフェニルホスフェート
BDP:ビフェニルジフェニルフォスフェート
PETB:ペンタエリスリトールテトラベンゾエート
EPEG:エチルフタリルエチルグリコレート
B−4:多価アルコールエステル系可塑剤
X−1、X−15:一般式(X)で表されるエステル
Y−11:一般式(Y)で表される糖エステル
<セルロースエステルフィルム108の作製>
使用したセルロースエステルをCE−2(イーストマンケミカル社のCa394−60S:アセチル基置換度2.43)及び膜厚を表1のように変更した以外はセルロースエステルフィルム101と同様にして、セルロースエステルフィルム108を作製した。
<セルロースエステルフィルム109の作製>
使用したセルロースエステルをCE−3(イーストマンケミカル社のCa398−30:アセチル基置換度2.48)及び膜厚を表1のように変更した以外はセルロースエステルフィルム101と同様にして、セルロースエステルフィルム109を作製した。
<セルロースエステルフィルム110の作製>
使用したセルロースエステルをCE−4(イーストマンケミカル社のCa394−60SとCa398−6の50対50混合物:アセチル基置換度2.28)及び膜厚を表1のように変更した以外はセルロースエステルフィルム101と同様にして、セルロースエステルフィルム110を作製した。
<セルロースエステルフィルム111の作製>
使用したセルロースエステルをCE−5(ダイセル社のLM80:アセチル基置換度2.15)及び膜厚を表1のように変更した以外はセルロースエステルフィルム101と同様にして、セルロースエステルフィルム111を作製した。
<セルロースエステルフィルム112の作製>
使用したセルロースエステルをCE−6(ダイセル社のLT35:アセチル基置換度2.88)及び膜厚を表1のように変更した以外はセルロースエステルフィルム101と同様にして、セルロースエステルフィルム112を作製した。
<セルロースエステルフィルム113の作製>
使用したセルロースエステルをCE−7(イーストマンケミカル社のCAP141−20:アセチル基置換度1.92、プロピオニル基置換度0.74、総置換度2.66であるセルロースアセテートプロピオネート)及び膜厚を表1のように変更した以外はセルロースエステルフィルム101と同様にして、セルロースエステルフィルム113を作製した。
<セルロースエステルフィルム114の作製>
使用したセルロースエステルをCE−8(アセチル基置換度1.56、プロピオニル基置換度0.90、総置換度2.46であるセルロースアセテートプロピオネート)及び膜厚を表1のように変更した以外は同様にして、セルロースエステルフィルム114を作製した。
<偏光板の作製>
〈親水化処理〉
(アルカリケン化処理)
上記作製したセルロースエステルフィルム101及び105を、下記の各工程に浸漬処理することでアルカリケン化処理を実施した。
アルカリ処理工程 2.5mol/L−KOH 50℃ 120秒
水洗工程 水 30℃ 60秒
中和工程 10質量%HCl水溶液 30℃ 10秒
水洗工程 水 30℃ 60秒
アルカリ処理後、水洗、中和、水洗の順に行い、次いで100℃で乾燥した。
(プラズマ処理)
上記作製したセルロースエステルフィルム101〜114を、図2に記載の装置を用いて表2〜表4に示す条件でプラズマ処理を行った。
(コロナ処理)
上記作製したセルロースエステルフィルム105及び114を、表2及び表3に示す条件でコロナ処理を行った。
〈偏光板201〜227の作製〉
次いで、親水化処理されたセルロースエステルフィルムを用いて下記の工程1〜6の条件で偏光膜(A)と貼合し、偏光板201〜227を作製した。
前記作製した偏光膜(A)を有する延伸積層体1の親水性高分子層側に、上記セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理された面をロールtoロールで貼合し、次いで延伸積層体1の熱可塑性樹脂層Aを剥離し、その面に同じ種類同士の組み合わせで上記セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理された面を貼り合わせて長尺状の偏光板を作製し巻き取った。
工程1:セルロースエステルフィルム101〜114を表2〜表4の条件で親水化処理を行った。
工程2:前記偏光膜(A)を有する延伸積層体1を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
工程3:工程2で延伸積層体1に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で親水化処理したセルロースエステルフィルム(B)の親水化処理された面に配置した。
工程4:工程3で積層したフィルムを圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した試料を2分間乾燥し、次いで延伸積層体1の熱可塑性樹脂層Aを剥離した。熱可塑性樹脂層Aは容易に剥離できた。
工程6:上記剥離した面に、同じ種類同士の組み合わせで、上記セルロースエステルフィルム(B)の親水化処理された面をポリビニルアルコール接着剤を介して貼り合わせて、偏光板201〜227を作製した。
<液晶表示装置の作製>
正面コントラスト測定を行う液晶パネルを以下のようにして作製し、液晶表示装置の特性を評価した。
SONY製40型ディスプレイKLV−40V2500のあらかじめ貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板201〜227をそれぞれ液晶セルのガラス面の両面に貼合した。
その際、その偏光板の貼合の向きは、あらかじめ貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように行い、液晶表示装置を各々作製した。
《評価項目、評価方法》
得られたセルロースエステルフィルム(B)を用い、以下の評価を行った。
(表面自由エネルギー)
親水化処理前後のフィルムの表面自由エネルギーを、先に述べた方法で測定した。
(内部ヘイズ値)
作製したセルロースエステルフィルム(B)について、前記した方法により内部ヘイズ値を評価した。
(皺/カールの評価)
長尺状の偏光板の巻き姿を目視観察し、皺の発生の有無を評価した。
また、得られた偏光板201〜227のそれぞれについて、ほぼ中央部で幅手方向30cm×長手方向20cmの長方形になるよう切り出し、23℃、相対湿度80%の環境下で、水平基盤上に24時間放置した後、偏光板のカール形状を目視観察し、下記の基準に従って皺/カールの評価を行った。
◎:ほぼフラットな状態で、皺/カールの発生は認められない
○:皺の発生はなく、僅かに4隅の浮き上がり、弱いカールの発生が認められるが、実用上問題のない品質である
△:皺の発生、明らかなカールの発生が認められ、取扱いが難しいカール特性である
×:皺の発生が明らかであり、カールの状態がきつく、取扱いが極めて困難となる品質である。
(偏光膜との接着性)
得られた偏光板を、23℃で相対湿度55%の環境下24時間放置後、接着面を手で引き剥がし、材料破壊及び剥離性の程度を目視観察して、以下の基準で接着性を評価した。
○:材料(基材)破壊が起こる
△:一部材料(基材)破壊が起こるが、偏光板保護フィルムと偏光膜との界面で剥がれる面積が存在する
×:偏光板保護フィルムと偏光膜との界面で剥がれる
界面で剥がれない場合は接着性が良好である。
(気泡)
上記作製した偏光板を、エアー吸着型偏光板貼合装置を用いて液晶セルのガラス面に貼合した。その際の気泡の入りやすさについて下記基準で評価した。貼合後、45℃、0.45MPa、15分という条件でオートクレーブ(加圧脱泡)処理を行った。気泡について下記基準で評価した。
◎:気泡が認められない
○:端部に気泡があるがオートクレーブ処理後目立たなくなる
△:1〜3個気泡があり、オートクレーブ処理後も気泡が認められる
×:4個以上気泡があり、オートクレーブ処理後も気泡が認められる
気泡は○以上の評価であれば、実用上問題ない。
(液晶表示装置の正面コントラスト比)
液晶表示装置について、それぞれの正面コントラストを測定した。正面コントラストの測定は、ELDIM社製の正面コントラスト測定装置(EZ−contrast)により行い、白表示時と黒表示時の光量を測定した。測定結果を、正面コントラストの値によって、下記のように優劣を付けてランク付けを行った。
○:正面コントラスト比=3000:1以上
△:正面コントラスト比=2999:1〜2000:1
×:正面コントラスト比=1999:1以下
以上の各種評価結果を、表1及び表2にまとめて示す。
表2に示した結果から明らかなように、本発明の偏光板は、比較例に対して、内部ヘイズ値、皺/カールの発生、偏光膜との接着性、パネル貼合時の気泡の発生、及び正面コントラストにおいて優れていることが分かる。すなわち、この結果に基づき、本発明の上記手段により、偏光膜との接着性に優れ、偏光板製造時の皺やカールの発生や、偏光膜パネル貼合時のカールや変形による気泡の発生がなく、ヘイズ上昇、それに伴う液晶表示装置における正面コントラストの低下のない薄膜化された偏光板の製造方法を提供することができることが分かる。
実施例2
<偏光板301及び302の作製>
下記工程により偏光板301及び302を作製した。
工程1:前記作製した偏光膜(A)を有する延伸積層体1の親水性高分子層側に、膜厚100μmのPETフィルムをセパレーターとして粘着剤を介して貼合した。
工程2:次いで延伸積層体1から熱可塑性樹脂層Aを剥離した。
工程3:セパレーター付きの偏光膜(A)を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
工程4:工程3でセパレーター付きの偏光膜(A)に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これに実施例1で作製した親水化処理されたセルロースエステルフィルム105−3及び107の親水化処理された面を偏光膜(A)に配置した。
工程5:工程4で積層したフィルムを圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
工程6:80℃の乾燥機中に工程5で作製した試料を2分間乾燥し、次いで偏光膜(A)とセルロースエステルフィルムが貼合された偏光板からセパレーターを剥離した。
工程7:上記剥離した面に、同じ種類同士の組み合わせで、セルロースエステルフィルム105−3及び107の親水化処理された面をポリビニルアルコール接着剤を介して貼り合わせて、偏光板301及び302を作製した。
《評価項目、評価方法》
(偏光膜との接着性(サイクルテスト))
得られた偏光板を、23℃で相対湿度10%の環境、及び40℃相対湿度80%の環境で、各々24時間ずつ放置するサイクルテストを10回繰り返した。その後接着面を手で引き剥がし、材料破壊及び剥離性の程度を目視観察して、以下の基準で接着性を評価した。
○:セルロースエステルフィルムと偏光膜との界面で剥がれがなく、材料(基材)破壊が起こる
△:一部材料(基材)破壊が起こるが、セルロースエステルフィルムと偏光膜との界面で剥がれる面積が存在する
×:セルロースエステルフィルムと偏光膜との界面で剥がれる
界面で剥がれない場合は接着性が良好である。
結果を表6に示す。
表6の結果から、本発明の構成を満たす親水化処理されたセルロースエステルフィルム105−3及び107を、偏光膜(A)の染色処理された面とは反対側の面に貼合して作製した偏光板301及び302は、実施例1で作製した本発明の偏光板208に比較し、更に偏光膜との接着性(サイクルテスト)の結果が向上していることが分かる。
産業上の利用の可能性
本発明の偏光板の製造方法によって、偏光膜との接着性に優れ、偏光板製造時の皺やカールの発生や、偏光膜パネル貼合時のカールや変形による気泡の発生がなく、ヘイズ上昇、それに伴う液晶表示装置における正面コントラストの低下のない薄膜化された偏光板を提供でき、当該偏光板は、液晶表示装置に好適に具備される。