JP6085559B2 - 帯状乾式伸線用潤滑材及びその製造方法 - Google Patents

Description

本発明は、線材やロッドのような母材を引抜いて縮径して伸線する際、その母材とダイスとの直接接触による焼付きを防止し、安定した加工状態を維持するために用いられる帯状乾式伸線用潤滑材に関するものである。

鉄鋼や非鉄金属などの金属製の太径の線材やロッドのような母材を、ダイスのような型鋼の孔から引抜いて、細径の線材やロッドなどに縮径して塑性変形させる伸線加工の際に、粉粒の乾式伸線用潤滑剤が汎用されている。この乾式伸線用潤滑剤は、母材とダイスとが、直接接触して焼付くのを防止し、滑り易くなって、安定した加工状態に維持されるために、用いられるものである。

例えば、特許文献１に飽和脂肪酸の金属塩と、ホウ素非含有の水溶性無機縮合化合物及び／又はその縮合前駆化合物とが、含まれているホウ酸塩非含有の乾式伸線用潤滑剤が開示されている。このような飽和脂肪酸の金属塩、無機物及び添加剤から構成されている乾式伸線用潤滑剤は、粉末状又は顆粒状の形状をしている。この粉末状又は顆粒状の乾式伸線用潤滑剤は、高温・高圧・高速のような過酷な伸線加工条件下で使用することができ、かつ細径から太径までの線径への縮径や、低速から高速までの線速にも対応することができるため、幅広く用いられている。

粉末状又は顆粒状の乾式伸線用潤滑剤は、図４に示すように、伸線加工の際、ダイスボックス３の中に多量に投入され、その一部が線材２と共にダイス４に引き込まれることで、線材２へ潤滑被膜６を形成して、線材２とダイス４との直接接触を防止する。ダイスボックス３に投入された乾式伸線用潤滑剤１０は、そのおよそ２割程度が線材２と共にダイス４に引き込まれ消費されるが、残余は、加工熱により乾式伸線用潤滑剤１０が一部分解され炭化物となってしまう所為で、潤滑能が低下したり、線材２又はダイス４などの摩耗粉が混在したりするので、伸線の品質を確保するために、使用することができなくなる。そのため、残余全量をやむなく破棄している。

近年の社会情勢は、資源の再活用など地球環境を考慮する社会へと移行しつつあることから、この様な大量消費・大量破棄は問題視されつつある。また、粉末状又は顆粒状であるため、使用時における粉塵などによる作業環境の悪化、作業者の健康被害、環境汚染などを引き起こすという問題が生じている。さらに、加工形状によって乾式伸線用潤滑剤の粒子形状の使い分けや調整が必要であり、作業者側及び生産者側において非効率的であった。この様な問題点から加工性及び生産性を維持しつつ、作業環境の改善を図るとともに、地球環境に配慮し、粉末形状でない革新的な乾式伸線用潤滑材が求められていた。

特開２０１０−１１１７６７号公報

本発明は前記の課題を解決する為になされたもので、従来の粉末状又は顆粒状の乾式伸線用潤滑剤と同様に高温・高圧・高速のような過酷な伸線加工条件下で使用することができるだけでなく、細径から太径までの幅広い線径への縮径や、低速から高速までの幅広い線速にも対応することができ、加工形状に限定されることなく、潤滑性、追随性、展着性、付着性、耐熱性、加工性、作業性、安全性、耐久性、生産性のなど機能性に優れ、作業環境の改善及び地球環境に配慮した革新的である帯状乾式伸線用潤滑材、その製造方法、及びそれを用いた伸線方法を提供することを目的とする。

前記の目的を達成するための帯状乾式伸線用潤滑材は、飽和脂肪酸の金属塩を１０〜９０重量％と、熱可塑性樹脂を１０〜９０重量％とが含まれた膜からなることを特徴とする。
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項１に記載された被膜による繰り返し縮径用の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法は、飽和脂肪酸の金属塩を１０〜９０重量％と、熱可塑性樹脂を１０〜９０重量％とを加熱混練し、前記飽和脂肪酸の金属塩が溶融され混合されている前記熱可塑性樹脂を製膜し、帯状に形成することを特徴とする。
請求項２に記載の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法は、請求項１に記載されたものであって、前記帯状乾式伸線用潤滑材が、前記飽和脂肪酸の金属塩を１０〜９０重量％と、前記熱可塑性樹脂を１０〜９０重量％とが含まれた膜からなることを特徴とする。

請求項３に記載の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法は、請求項１に記載されたものであって、前記飽和脂肪酸が、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、及び／又はメリシン酸であることを特徴とする。

請求項４に記載の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法は、請求項１〜３の何れかに記載されたものであって、前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、メチルペンテン、ポリカーボネイト、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、及び／又はポリアミドイミドであることを特徴とする。

請求項５に記載の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法は、請求項１〜４の何れかに記載されたものであって、前記金属塩が、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、バリウム塩、及び／又はそれらの複合金属塩であることを特徴とする。

請求項６に記載の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法は、請求項１〜５の何れかに記載されたものであって、ホウ酸、ホウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、消石灰、酸化チタン、タルク、雲母、黒鉛、二硫化モリブデン、層状複水酸化物、及び／又は硫黄が含まれていることを特徴とする。

請求項７に記載の伸線方法は、伸線処理されるべき母材に、請求項１に記載の製造方法で製造した帯状乾式伸線用潤滑材を被覆させつつ、その母材を、ダイスの孔に通しつつ引抜くことにより縮径して、伸線することを特徴とする。

請求項８に記載の伸線方法は、請求項７に記載されたものであって、前記母材に、前記帯状乾式伸線用潤滑材で、巻き付け又は挟み込んで、前記被覆することを特徴とする。

請求項９に記載の伸線方法は、請求項７〜８の何れかに記載されたものであって、前記帯状乾式伸線用潤滑材を、ローラで誘導して前記母材に巻き付け、前記被覆することを特徴とする。

請求項１０に記載の伸線方法は、請求項７〜９の何れかに記載されたものであって、前記母材が、金属製であることを特徴とする。

本発明の帯状乾式伸線用潤滑材は、加工形状に限定されることなく、伸線加工などの加工がされるべき母材と共にダイスに引き込まれ、母材へ潤滑被膜を形成し、母材とダイスとの直接接触による焼付きを防止し、安定した加工状態を維持することができる。また、伸線加工条件において、高温・高圧・高速のような過酷な条件下で使用することができると共に、細径から太径までの幅広い線径への縮径や、低速から高速までの幅広い線速にも対応することができる。

また、一回の使用量が多量であって、使い尽くさず８割近くもの多量の廃棄物を生じるような非生産的である従来の粉末状又は顆粒状の乾式伸線用潤滑剤に比べて、この帯状乾式伸線用潤滑材は、帯状であるため、一回の使用量を少量に抑えつつ、大量消費・大量破棄することなく、潤滑性、追随性、展着性、付着性、耐熱性、加工性、耐久性など優れた機能効果を発現しつつ、使い尽くすことができる。さらに、通常、母材である線材における線径の縮径を数段階必要とする際に、段階ごとに乾式伸線用潤滑剤を必要としていたが、この帯状乾式伸線用潤滑材は、初回のみに、又は間断おいて、用いるだけで線材表面に十分な潤滑被膜を形成してその効果を維持することができるため、生産効率及び費用対効果の向上を図ることができる。

本発明の帯状乾式伸線用潤滑材は、粉末状又は顆粒状によって生じる粉塵による作業環境の悪化や作業者への健康被害や環境汚染を引き起こすことなく、安全に使用することができると共に、地球環境に配慮したものである。

本発明の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法によれば、潤滑性、追随性、展着性、付着性、耐熱性、加工性、耐久性のなど優れた機能効果を発現することができる膜状の帯状乾式伸線用潤滑材を、簡便かつ効率良く製造することができる。

本発明の伸線方法によれば、帯状乾式伸線用潤滑材を用いて、縮径して伸線すべき被加工母材を、確実に塑性変形でき、再度、帯状乾式伸線用潤滑材を付さなくとも、繰り返し縮径することができるので、効率的である。

本発明を適用する帯状乾式伸線用潤滑材の使用状態の概要を示す斜視図である。 本発明を適用する伸線方法により帯状乾式伸線用潤滑材を線材に巻き付けている途中を示す斜視図である。 本発明を適用する伸線方法により帯状乾式伸線用潤滑材で線材を挟み込みつつ巻き付けている途中を示す斜視図である。 本発明を適用外の乾式伸線用潤滑剤の使用状態の概要を示す斜視図である。

１は帯状乾式伸線用潤滑材、２は線材、３はダイスボックス、４はダイス、５はダイス孔、６は潤滑被膜、７ａ・７ｂ・７ｃは対のローラ、１０は乾式伸線用潤滑剤である。

以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。

本発明の帯状乾式伸線用潤滑材は、飽和脂肪酸の金属塩１０〜９０重量％と、熱可塑性樹脂１０〜９０重量％とが、均一に混練されて含有された膜からなり、帯形状に、形成されたものである。

飽和脂肪酸の金属塩を構成する飽和脂肪酸は、炭素数３〜２９で、直鎖状、分岐鎖状、又は環状の飽和脂肪酸である。具体的に、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸が挙げられる。なかでも、工業的に入手容易な、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましい。

飽和脂肪酸の金属塩を構成する金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、バリウム塩、及び／又はそれらの複合金属塩が挙げられる。なかでも、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、バリウム塩が好ましい。ナトリウム塩は水溶性であり、母材の表面処理において水で洗浄をする工程を必要とするようなめっき用の母材の加工条件にて好適に用いることができる。一方、カルシウム塩は非水溶性であり、めっき処理や水洗工程を必要としない母材の加工条件にて好適に用いることができる。また、帯状乾式伸線用潤滑材の耐熱性を向上させる観点から、リチウム塩やカリウム塩が好ましく、ダイスに引き込まれる際に線材表面に均一な被膜を形成し易くする線材に対する付着性を向上させる観点から、マグネシウム塩やアルミニウム塩が好ましい。さらに、バリウム塩は、カルシウム塩と共に用いられることで、カルシウム塩に対する耐熱性向上を図ることができる。

これらの飽和脂肪酸の金属塩は、１種単独で用いてもよく、２種以上を併用して用いてもよい。飽和脂肪酸の金属塩は、帯状乾式伸線用潤滑材中に１０〜９０重量％含有されており、５０重量％であると好ましく、３０重量％であるとより好ましい。飽和脂肪酸の金属塩の含有量が１０重量％未満又は９０重量％を超えると、耐熱性や潤滑性などの効果が低下する場合がある。

熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、メチルペンテン、ポリカーボネイト、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミドが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、１種単独で用いてもよく、２種以上を併用して用いてもよい。なかでも、熱安定性に優れたポリエーテルサルフォンが好ましく、耐熱性に優れた帯状乾式伸線用潤滑材を提供することができる。

熱可塑性樹脂は、帯状乾式伸線用潤滑材中に１０〜９０重量％含有されており、３０重量％であると好ましく、５０重量％であるとより好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が１０重量％未満又は９０重量％を超えると、耐熱性や潤滑性及び帯状に形成し難くなるなどの効果が低下する場合がある。

本発明の帯状乾式伸線用潤滑材は、飽和脂肪酸の金属塩及び熱可塑性樹脂の他に、必要に応じて、無機物及び／又は添加剤を含んでいてもよい。無機物及び／又は添加剤の含有量は、帯状乾式伸線用潤滑材の効果を損なわない範囲であって、帯状乾式伸線用潤滑材中において１０〜４０重量％である。

無機物としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、消石灰、酸化チタン、タルク、雲母、黒鉛、二硫化モリブデン、層状複水酸化物、硫黄が挙げられる。これらの無機物は１種単独で用いてもよく、２種以上を併用して用いてもよい。

これらの無機物は、必須成分として含有される飽和脂肪酸の金属塩や熱可塑性樹脂との組み合わせにより、帯状乾式伸線用潤滑材の機能性を向上させることができる。飽和脂肪酸の金属塩と無機物との好ましい組合せとして、例えば、飽和脂肪酸の金属塩が飽和脂肪酸のナトリウム塩であるとき、水溶性無機物であるホウ酸を含有することが好ましく、飽和脂肪酸の金属塩が飽和脂肪酸のカルシウム塩であるとき、非水溶性無機物である消石灰を含有することが好ましい。

添加剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、消石灰、酸化チタン、タルク、雲母、黒鉛、二硫化モリブデン、層状複水酸化物、硫黄が挙げられる。これらの添加剤は１種単独で用いてもよく、２種以上を併用して用いてもよい。

本発明の帯状乾式伸線用潤滑材は、以下のようにして製造される。

加熱溶融させた飽和脂肪酸に飽和脂肪酸の金属塩を構成する金属を有する化合物を反応させて得られた飽和脂肪酸の金属塩１０〜９０重量部と、熱可塑性樹脂１０〜９０重量部とを加熱混練機を用いて、混合して加熱混練する。均一に混練した後に得られた固体を、ロールプレス又は加熱式プレス機を用いて加圧しシート状、フィルム状、又は膜状に形成し、シートカッターに通し帯状に仕上げることで帯状乾式伸線用潤滑材を得る。

飽和脂肪酸の金属塩は、必要に応じて予め無機物や添加剤が混合されていてもよい。飽和脂肪酸の金属塩は、粉末状、顆粒状、塊粒状、又は固形状を用いることができる。

得られた帯状乾式伸線用潤滑材は、その幅、厚さ、及び長さにおいて、特に限定されず、母材及び伸線加工条件により適宜選択されるものである。数１０ｃｍ〜１ｍ程度のシートのままシートロール状に巻き取ってそのまま帯状として用いてもよいが、適宜裁断して巻き取ったテープロール状にして帯状として用いてもよい。

帯状乾式伸線用潤滑材の幅は、伸線加工において、母材の形状や径や長さや材質に応じて適宜調整され、特に限定されないが、その母材の表面に潤滑被膜を形成できる幅であって、母材の径と同等程度であると好ましい。

帯状乾式伸線用潤滑材の厚さは、伸線加工において、母材の形状や径や長さや材質に応じて適宜調整され、特に限定されないが、ダイス半角によって最適な厚みが異なるものである。帯状乾式伸線用潤滑材の膜厚が厚すぎると、母材と共にダイスに引き込まれない場合がある。

得られた帯状乾式伸線用潤滑材は、図１に示すように、例えば、ダイスボックス３内のダイス４を用いて伸線加工をする際に、金属製の被加工母材である線材２と共にダイス４に引き込まれて使用される。その伸線加工の方法は、例えば以下のようなものである。帯状乾式伸線用潤滑材１は、線材２と共にダイス孔５に合わせ設置され、線材２が引き込まれると同時に線材２に巻き付きながらダイス４に引き込まれる。ダイス４から引き抜かれることで、線材２は塑性変形され伸線加工された所望の線材２となり、線材２と共にダイス４に引き込まれた帯状乾式伸線用潤滑材１は圧着・熱着により線材２の表面に潤滑被膜６を形成する。

帯状乾式伸線用潤滑材１は、予め線材２に螺旋状に巻き付けて用いてもよく、線材２を上下又は左右で挟み込むようにして用いてもよい。そのため、帯状乾式伸線用潤滑材１の形状は、帯状の膜であれば平面的や平滑的であることに限られず、うねり、よれ、ねじれ、ソリを有していてもよい。

また、線材２に帯状乾式伸線用潤滑材１を巻き付ける際に、巻き付け用のローラを用いてもよい。例えば、図２に示すように、線材２に帯状乾式伸線用潤滑材１を沿わせてそれらを左右一対のローラ７ａで挟み込み、帯状乾式伸線用潤滑材１を捩じらせ、上下一対のローラ７ｂで線材２に帯状乾式伸線用潤滑材１が巻き付くように挟み込んで回転させてもよい。この場合、線材２を帯状乾式伸線用潤滑材１で包み込むように巻き付け被覆することができ、その状態を保持したままダイス４のダイス孔５に引き込ませてもよい。左右一対のローラ７ａ及び上下一対のローラ７ｂは、それぞれ、ダイス孔５から引き抜かれるのに応じ、自動的に回転するものであってもよく、駆動源（不図示）の動力により自ら回転するものであってもよい。

線材２にやや広めの帯状乾式伸線用潤滑材１を巻き付ける際に、図３に示すように、線材２とその形状に沿わせて包むように覆った帯状乾式伸線用潤滑材１とを、胴の中程で窪んだ左右一対のローラ７ｃで挟み込むことで、帯状乾式伸線用潤滑材１で線材２を包み込ませて巻き付け、その状態を保持したままダイス４のダイス孔５に引き込ませてもよい。

伸線加工条件としては、特に限定されず、従来の乾式伸線用潤滑剤と同様の条件下において用いることができる。

母材は、鉄鋼のような金属製であれば特に限定されず、具体的に、線材、ワイヤ、管、棒、ロッドなどが挙げられる。

母材は、必要に応じて前処理を施されていてもよい。前処理として、具体的に、酸処理、ベンディング、ショットブラスト、エアブラストなどの表面処理が挙げられる。

以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。

本発明を適用する帯状乾式伸線用潤滑材を試作した例を実施例１、本発明を適用外である粉末状の乾式伸線用潤滑剤を比較例１、本発明を適用外である帯状ポリエチレンを比較例２にそれぞれ示す。

（実施例１）
攪拌装置を備えた反応容器内に、工業用ステアリン酸７５重量部を撹拌しながら加熱融解させた後、消石灰２５重量部を加えた。この混合物に粘性が生じるまで加熱攪拌を続けた。混合物が硬くなったら加熱攪拌を止め、取り出して冷却し、５００メッシュ篩で通過率が６０％程度になるように粉砕し、飽和脂肪酸の金属塩であるカルシウム系潤滑剤を得た。得られた飽和脂肪酸の金属塩７０重量部と、熱可塑性樹脂としてポリエチレン２０重量部とを加熱混練機（商品名：ラボプラストミル）を用いて１８０℃で加熱混練を行った。得られた固体を加熱式プレス機にて膜厚０．５ｍｍ以下になるようにシート状に形成した後に、シートカッターを用いて幅が８ｍｍの帯状に切断し、帯状乾式伸線用潤滑材を得た。

（比較例１）
攪拌装置を備えた反応容器内に、工業用ステアリン酸７５重量部を撹拌しながら加熱融解させた後、消石灰２５重量部を加えた。この混合物に粘性が生じるまで加熱攪拌を続けた。混合物が硬くなったら加熱攪拌を止め、取り出して冷却し、５００メッシュ篩で通過率が６０％程度になるように粉砕し、カルシウム系乾式伸線用潤滑剤を得た。

（比較例２）
加熱混練機（商品名：ラボプラストミル）を用いてポリエチレンを１８０℃で加熱混練した。得られた固体を加熱式プレス機にて膜厚０．５ｍｍ以下になるようにシート状に形成した後に、帯状に切断し、帯状ポリエチレンを得た。

（伸線加工の性能評価）
線材の潤滑剤として、実施例１の帯状乾式伸線用潤滑材、比較例１のカルシウム系乾式伸線用潤滑剤、及び比較例２の帯状ポリエチレンをそれぞれ用いて、伸線機により伸線加工した際における性能評価を行った。

母材である線材（炭素鋼７２Ａ材）を、１２重量％塩酸水溶液により、被加工線材表面の酸化スケールを酸洗除去した後、水洗を数回施し、酸処理の中和及び防錆の為、８０℃程度に熱した１重量％ボラックス水溶液中に浸漬した。被加工線材をボラックス水溶液から引き上げ乾燥させることで被加工線材上にボラックス被膜を形成させ、前処理加工を行った。続いてダイスボックス内に実施例１で得られた帯状乾式伸線用潤滑材を１ｇ投入して、線速：４０ｍ／分、線径の縮径：２．８ｍｍφ→２．５ｍｍφ→２．２５ｍｍφ→２．００ｍｍφの３段階、伸線量：２ｋｇの条件に従い、前処理を施した被加工線材の伸線を行った。３段階の伸線加工において、１パスのみに潤滑材を使用、２，３パスでは潤滑材を未使用とした。

同様に、潤滑材に代えて比較例１のカルシウム系乾式伸線用潤滑剤を３００ｇ、比較例２の帯状ポリエチレンを１ｇ使用してそれぞれ被加工線材の伸線を行った。

各潤滑剤を用いて伸線加工した線材の表面を目視で観察した結果を表１に示す。

表１から明らかな通り、いずれの線径においても、実施例１の帯状乾式伸線用潤滑材は伸線後の線材表面に帯状乾式伸線用潤滑材が均一なフィルム状に展着していたのに対し、比較例１の従来品である粉末状のカルシウム系乾式伸線用潤滑剤は２パス目以降、乾式伸線用潤滑剤の膜切れにより一部金属光沢が生じた。また、比較例２の熱可塑性樹脂単独である帯状ポリエチレンは１パス目より線材へ均一に潤滑被膜が形成されずに金属光沢が生じた。２パス目は中止した。

伸線加工した線材を伸線線材用洗浄剤（共栄社化学株式会社製；ライトクリンＡ−１）で洗浄し洗浄前後の重量差より各潤滑剤の付着量を算出し、洗浄後線材の表面をレーザー顕微鏡で４００倍に拡大して観察した。その結果を表２に示す。

表２から明らかな通り、実施例１の帯状乾式伸線用潤滑材を用いた場合は、いずれの線径においても、帯状乾式伸線用潤滑材の付着量が多い傾向にあり、ダイスと線材との直接接触によって生じる平坦な部分の面積割合（平坦率）が比較例に比べて低い傾向であることが認められる。即ち伸線状態が良好であると確認された。それに対し、比較例１は２パス目以降より平坦率が実施例１よりも大きい傾向が認められ３パス目伸線後では一部焼付きが認められた。即ち、３パス目以降は伸線状態が不良であると確認された。比較例２に至っては、１パス目より焼付きが多数認められた。即ち伸線状態が不良であると確認された。

実施例１の帯状乾式伸線用潤滑材は、従来の乾式伸線用潤滑剤と熱可塑性樹脂とが相互作用する事で潤滑被膜性、展着性が向上し、尚且つ帯状であることから効率良くダイスに引き込まれ均一な潤滑被膜を形成することができる。その効果により従来の乾式伸線用潤滑剤よりも少ない使用量で効率の良い伸線加工が期待でき、また、帯状である為に従来の粉粒の乾式伸線用潤滑剤に比べて粉塵による作業環境の悪化などが生じ難いと判断される。

本発明の帯状乾式伸線用潤滑材は、鉄鋼のような金属製で太径の線材、ワイヤ、管、棒、ロッドなどの母材を、ダイスなどの型鋼から引抜いて、縮径した線材やロッドなどに塑性変形させて縮径する伸線加工の際に用いられる。

Claims (10)

1. 飽和脂肪酸の金属塩を１０〜９０重量％と、熱可塑性樹脂を１０〜９０重量％とを加熱混練し、前記飽和脂肪酸の金属塩が溶融され混合されている前記熱可塑性樹脂を製膜し、帯状に形成することを特徴とする被膜による繰り返し縮径用の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法。
2. 前記帯状乾式伸線用潤滑材が、前記飽和脂肪酸の金属塩を１０〜９０重量％と、前記熱可塑性樹脂を１０〜９０重量％とが含まれた膜からなることを特徴とする請求項１に記載の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法。
3. 前記飽和脂肪酸が、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、及び／又はメリシン酸であることを特徴とする請求項１〜２の何れかに記載の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法。
4. 前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、メチルペンテン、ポリカーボネイト、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、及び／又はポリアミドイミドであることを特徴とする請求項１〜３の何れかに記載の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法。
5. 前記金属塩が、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、バリウム塩、及び／又はそれらの複合金属塩であることを特徴とする請求項１〜４の何れかに記載の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法。
6. ホウ酸、ホウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、消石灰、酸化チタン、タルク、雲母、黒鉛、二硫化モリブデン、層状複水酸化物、及び／又は硫黄が含まれていることを特徴とする請求項１〜５の何れかに記載の帯状乾式伸線用潤滑材の製造方法。
7. 伸線処理されるべき母材に、請求項１に記載の製造方法で製造した帯状乾式伸線用潤滑材を被覆させつつ、その母材を、ダイスの孔に通しつつ引抜くことにより縮径して、伸線することを特徴とする伸線方法。
8. 前記母材に、前記帯状乾式伸線用潤滑材で、巻き付け又は挟み込んで、前記被覆することを特徴とする請求項７に記載の伸線方法。
9. 前記帯状乾式伸線用潤滑材を、ローラで誘導して前記母材に巻き付け、前記被覆することを特徴とする請求項７〜８の何れかに記載の伸線方法。
10. 前記母材が、金属製であることを特徴とする請求項７〜９の何れかに記載の伸線方法。

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