JP3678938B2 - 金属の高温塑性加工方法およびそれに使用する樹脂フィルム - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、加工に必要な荷重の低減、工具の寿命延長および加工製品の品質向上を実現できる金属の高温塑性加工方法、およびその方法に使用する潤滑剤としての樹脂フィルムに関する。ここで、高温塑性加工とは、常温で行う塑性加工(いわゆる冷間加工)を除き、通常、温間加工および熱間加工と称される加工を意味する。その加工温度は、概ね100〜1200℃程度である。
【0002】
【従来の技術】
金属の高温塑性加工には、板、管、条鋼(形鋼、棒線、線材)等の圧延、押出し、引抜き、鍛造、せん断加工などがある。これらの加工に使用される工具も、ロール、ダイス(金型)、プラグ等様々である。ここでは、これらをまとめて「工具」と記す。
【0003】
被加工材として高温塑性加工に供される金属には、炭素鋼やステンレス鋼のような鋼材、ならびにアルミニウム、銅、チタニウム及びそれらの合金もしくはそれらの複層クラッド材などが挙げられる。
【0004】
通常、高温での塑性加工における潤滑方法は、被圧延材の材質、工具材料、加工方法、加工温度、加工面圧、加工速度、被加工材の表面状態、作業性等によって使い分けられている。
【0005】
例えば、塑性加工前に工具または被加工材に潤滑剤を供給する方法や、予め工具表面に化成潤滑皮膜を形成させた後に塑性加工を行う方法などが知られている。
【0006】
潤滑剤の例としては、液体状のものから高粘度のグリースさらに高温で溶融して流体潤滑作用を発揮するガラス、あるいはそれらに黒鉛、雲母などの固体潤滑物質を含有させた潤滑剤などがある。
【0007】
しかし、これらの潤滑方法では、高温、高圧下の厳しい加工条件では摩擦界面へ潤滑剤を確実に導入することは困難である。一方、工具に予め化成潤滑皮膜を形成しておく場合でも、加工が進むにつれて皮膜が摩耗し、あるいは剥離するために、加工を一旦中止して工具を交換する作業を余儀なくされる。即ち、長時間にわたって連続的に潤滑効果を得ることは難しい。さらに、次工程として塗装工程等が有る場合には、塑性加工の終了後に被加工材表面に残った化成皮膜を除去しなければならないが、その除去は脱脂等の簡単な処理では容易にはできないため、除去のための特別な作業工程が必要となり、製品のコスト高を招いている。
【0008】
冷間加工、例えば薄鋼板のプレス成形加工では、被加工材の表面保護のために有機フィルムを貼り付けることなどが通常行われている。しかし、成形時には別途、潤滑油(プレス油、防錆抽)を使用しており、上記のフィルムにはもともと塑性加工時に必要な潤滑性は期待されていない。
【0009】
従来、樹脂を高温での塑性加工における潤滑剤として使用するという発想はなく、まして、そのような潤滑剤としてふさわしいように、樹脂を改良するという提案は皆無である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の目的は、金属の高温塑性加工において、工具と被加工材との潤滑を合理的に行って、加工に要する荷重を減らし、工具の使用寿命を延長して生産性を高めるとともに加工製品の品質を上げることが可能な加工方法を提供することにある。
【0011】
本発明の第2の目的は、上記の方法に使用するのにふさわしい潤滑材料、具体的には高温塑性加工用樹脂フィルム、を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記(1)の加工方法および(2)の樹脂フィルムを要旨とする。
【0013】
(1)工具と被加工材とが接触する界面の少なくとも一部に予め成形された樹脂フィルムを介在させ、その潤滑作用を利用して加工を行う方法であって、上記樹脂フィルムは水溶性樹脂フィルムであり、上記加工の温度は 100 〜 1200 ℃の範囲であることを特徴とする金属の高温塑性加工方法。以下、これを「本発明方法」という。
【0014】
本発明方法においては、加工に先立って工具および被加工材の少なくとも一方の表面に予め樹脂フィルムを付着させておいてもよい。また、例えば、ロールを用いる熱間圧延等では、工具(ロール)と被加工材(被圧延材)とが接触する界面の少なくとも一部に樹脂フィルムを連続的に供給しつつ加工を行ってもよい。
【0015】
(2)上記の本発明方法に使用するための高温塑性加工用樹脂フィルム。この樹脂フィルムは、その中に固体粒子を含有することが望ましい。また、フィルムを形成する樹脂の組成、フィルムの厚み、フィルムに含有される固体粒子の種類およびその含有量の少なくとも一つが、フィルムの一個体内で異なる分布を有するものであってもよい。
【0016】
【発明の実施の形態】
1.本発明方法について:
この方法の特徴は、工具と被加工材との接触界面の潤滑に樹脂フィルムを使用する点にある。これは、高温高圧状態の塑性加工面に潤滑物質を確実に介在させるには樹脂をフィルムとして供給するのが最も合理的であるという知見に基づく。このフィルムの中に固体粒子を含有させれば、特に高温での加工において、さらに潤滑性能が向上し、また、工具と被加工材とのスリップ防止の効果が得られる。
【0017】
本発明方法の対象となる被加工材は、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼等の高合金鋼、アルミニウム、銅、チタニウム、ニッケル及びそれらの合金、ならびにこれら金属、合金の2種以上からなるクラッド材など、塑性加工の対象となるあらゆる金属である。
【0018】
適用できる塑性加工は、板圧延、管圧延、条綱(形鋼、棒線、線材)圧延、押出し、引抜き、鍛造、剪断など、工具と被加工材との摩擦が生じるすべての塑性加工である。加工温度は、被加工材の材質や加工の種類によって異なるが、概ね100℃〜1200℃である。
【0019】
樹脂フィルムは、塑性加工前に工具表面もしくは被加工材、またはその両方の表面に予め付着させておくことができる。また、塑性加工の際に加工界面にフィルムを供給して介在させてもよい。ロール成形のように連続して塑性加工がおこなわれる場合には、ロールと被加工材との間に樹脂フィルムが連続的に供給されることになる。
【0020】
工具と被加工材との接触面の特定箇所において潤滑が特に必要となるような塑性加工では、その箇所に重点的にフィルムを介在させてもよい。例えば、板圧延においては、ロール通板時のエッジ部の焼付が問題になる。また、管の圧延においては、孔型ロールが管と部分的に接触する位置で焼付が生じやすい。そのような部位にだけ樹脂フィルムを介在させて加工を行ってもよい。
【0021】
継目無鋼管(シームレス鋼管)の製造における内面加工時の潤滑方法としては、穿孔工具であるプラグを樹脂フィルムで被覆した後、そのプラグを使用して塑性加工を行うことによりプラグの寿命延長と製品管の品質向上(内面疵の減少)を実現させることができる。
【0022】
鍛造作業においては、工具(金型)および被加工材の加工表面に樹脂フィルムを装着させた後に、加工を行うのがよい。熱間鍛造では、被加工材が高温に加熱されているから、金型表面のみに予め樹脂フィルムを付着させておくことになる。これは、上記の穿孔や熱間での板圧延でも同じである。
【0023】
本発明方法は、特に、熱負荷の厳しい塑性加工、例えば、鋼の連続鋳造ラインで熱間スラブを圧下する加工、および連続鋳造から熱間圧延まで一貫した連続熱延プロセスにおいて使用される、いわゆるインライン圧延機での圧延、等の高温塑性加工方法としても好適である。
【0027】
2.本発明の樹脂フィルムについて
例えば、塑性加工工程に水洗工程が含まれるような場合には、水溶牲のフィルムを使用すれば、水洗洗浄だけで除去が可能となり、特別なフィルム残査の除去工程を省くことができる。水溶性フィルムとしてはポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリジオキソラン等のフィルムが挙げられる。
【0028】
機械設備に使用される作動油やグリース等、可燃性のものが付近に存在する場合は引火の恐れがあるため燃焼性の小さい樹脂が好ましい。具体的にはポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系等、一般的にポリマー主鎖に酸素原子を多く含むものが比較的燃焼性が小さいので好ましい。ハロゲン系樹脂も難燃性であるため有効であるが、燃焼時に有毒がスが発生する可能性があるため局所排気等が必要である。
【0029】
フィルムの潤滑性の調整のために固体粒子をフィルム中に分散させるのが望ましい。この場合、固体粒子の種類にもよるが、基材樹脂としては、ポリマー中にカルボキシル基、カルボニル基、エステル基、水酸基、エーテル基、シアノ基、アミド基、アミノ基、ウレタン基等の極性基を有するポリマーが好ましい。例えばカルボキシル基であればポリアクリル酸のような樹脂が挙げられるが、このように必ずしもポリマー主鎖中に繰り返し単位として極性基が組み込まれていなくてもかまわない。
【0030】
例えば特開平8-283400号公報に記載されているように、両末端に水酸基を有するポリアルキレングリコールを二無水ピロメリット酸で高分子量化させる方法によっても、結果的にポリマー主鎖中にカルボキシル基を導入することが可能である。エステル基であれば、特開昭58-160316号公報に記載のように、ポリアルキレングリコールを多価カルボン酸で反応させることにより得られ、またウレタン基であれば、特開平6-32976号公報に記載のように、ポリアルキレングリコールを多価イソシアネートで反応させることによりウレタン基をポリマー鎖中に導入することが可能である。
【0031】
上記樹脂に混ぜる固体粒子としては、例えば、マイカ、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、ステアリン酸カルシウム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、酸素欠陥ペロブスカイト構造を持つ複合酸化物(SrXCa1-XCuOY等)のように自ら潤滑性を有し、摩擦を軽減させる作用が期待できるものや、摩擦係数を極端に低下させることなく金属間の直接接触を抑制して焼付防止作用を発揮する炭酸塩やケイ酸塩、酸化物、水酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、フッ化物、クラスターダイヤモンド等が挙げられる。
【0032】
炭酸塩の例には、Na2CO3、CaCO3、MgCO3などのアルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩がある。
【0033】
ケイ酸塩の例にはMXOYSiO2(M:アルカリ金属、アルカリ土類金属)がある。酸化物の例にはA12O3、TiO2、NiO、Cr2O3、CaO、ZnO、SnO、CdO、PdO、Bi2O3、Li2O、K2O、Na2O、B2O3、SiO2、MnO2、ZrO2、Fe2O3、Fe3O4などがあり、水酸化物の例としてはCa(OH)2などがある。炭化物の例には、SiC、TiCなどが、窒化物の例には、TiN、BN、AlN、Si3N4などが、硫化物の例には、PbSなどが、フッ化物の例には、CaF2、BaF2などがある。
【0034】
上記の固体粒子は、平均粒径が0.002〜10μm程度(望ましいのは0.002〜5μm、さらに望ましいのは0.002〜2μm)のものとし、フィルムに対しておよそ0.5〜40重量%程度(望ましいのは0.5〜30重量%、さらに望ましいのは0.5〜20重量%)添加すればよい。固体粒子の粒径が大きすぎたり、その添加量が多すぎると、樹脂の高温流動性が低下して加工界面を十分に覆うことができなくなり、潤滑効果が低下する。
【0035】
固体粒子の濃度はフィルム全体で均一である必要はなく、部分的に濃淡があってもよい。例えばフィルムの面内の或部分で高濃度、ある部分で低濃度というように、濃度分布に変化があってもよい。このような樹脂中に固体粒子を含有するフィルムは、特に熱間域での加工において顕著な効果を発揮する。
【0036】
樹脂と固体粒子を混合する方法にも特に制限はなく、溶融・混練する方法や溶液状態で混合する方法等が採用できる。溶融・混練する際の温度についても特に制限はないが、通常100℃〜350℃で行うのが好ましい。使用する樹脂にもよるが、100℃未満の場合には、系の粘度が非常に高く混練に多大の動力を必要とする場合がある。一方混練温度が350℃を超える場合には、樹脂によっては劣化する場合がある。
【0037】
また混合する場合には、固体粒子以外に各種添加剤、例えば酸化防止剤、腐食防止剤、防錆添加剤等を加えても良い。
【0038】
フィルムの成形方法については特に制限はなく、既知のいかなるフィルム製造方法でも適用することができる。具体的には、インフレーション法、Tダイ法、カレンダー法、ホットプレス法等が挙げられ、一軸または二軸方向に熱間延伸あるいは冷間延伸することも可能である。
【0039】
本発明の樹脂フィルムは、2種以上のフィルムを部分的にまたは全体に重ね合わせた多層構造のものであってもよい。あるいは、1種類の樹脂フィルム、もしくは2種以上の樹脂フィルムを重ね合わせたフィルム上に、その樹脂自体ではフィルムとして強度が得られない樹脂を溶融状態で、または溶液として塗布することも可能である。これらの方法の組み合わせにより、例えば固体粒子を含んだフィルムと含まないフィルムを部分的あるいは全体的に積層することにより意図的に固体粒子の濃度分布を変えたり、あるいはフィルムの厚み分布を変えることができる。
【0040】
フィルムの厚みには特に制限はないが、柔軟で且つ強靭なフィルムを得るためにはその厚みが1〜500μmであることが好ましく、さらに好ましくは10〜200μmである。フィルムの厚みが1μmよりも薄いとフィルムとして十分な強度が得られず、また500μmよりも厚くても塑性加工時の潤滑効果はあまり向上せず不経済であり、またフィルムの柔軟性が低下するため取り扱いに不便である。後述する図1に示すような、部分的に厚みの異なるフィルムを用いることもできる。
【0041】
【実施例】
表1に示す各種のフィルムを用いて、金属の高温塑性加工を行った。フィルムの製造条件は、下記のとおりである。
【0042】
フィルムNo.1〜13:
フィルム用樹脂としてポリジオキソラン[CX−PD2000、日本触媒(株)製]と、表1に示す各種の固体粒子の所定量を100℃で5分間混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を100℃、300 kgf/cm2で5分間ホットプレスし、フィルム(No.1〜13)を得た。なお、固体粒子の平均粒径は、炭酸カルシウムが0.1μm、黒鉛とマイカが0.8μm、二硫化モリブデンが1.3μmである。
【0044】
フィルムNo.24〜30:
フィルム用樹脂として変性ポリエチレンオキシド[FX−EH1000、日本触媒(株)製]と、固体粒子の所定量を130℃で7分間混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を140℃、300kgf/cm2で2分間ホットプレスして、フィルムNo.24〜30を得た。
【0045】
このようにして準備した樹脂フィルムを用いて、下記の金属の高温塑性加工を実施した。
【0046】
[実施例1]ステンレス鋼板の熱間圧延
小型の実験用圧延機を使用し、オーステナイト系ステンレス鋼板(SUS304、幅30mm、厚み2.8mm、長さ150mm)を熱間圧延した。
【0047】
まず、幅40mm、長さ315mmの寸法に裁断した樹脂フィルムを予め圧延用ロールの表面に貼付し、圧延温度1000℃で上記の鋼板を圧延し、その時の圧延荷重を測定した。圧延速度は50mpm、圧下率は30%℃とし、通常の潤滑剤は一切使用しなかった。ロール材質は、高炭素化された高速度工具鋼(耐摩耗鋳鉄、熱延ハイスと通称されるもの)である。ロール直径は100mm、表面硬度はHs 82、表面粗度はRa 0.2μmである。
【0048】
潤滑性は次式にて定義した荷重低減率によって評価し、その結果を表1に併記した。なお、比較のために樹脂フィルムの代わりに従来の合成エステルに黒鉛を5重量%添加した液体状潤滑剤(粘度:280cSt/40℃)を使用した試験結果も「従来例」として表1に示した。
【0049】
【数1】
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、どの樹脂フィルムを使用した場合でも、従来例に勝る高い荷重低減率が得られている。これは、樹脂フィルムが圧延の際に優れた潤滑生を示したことを意味する。圧延後の鋼板およびロール表面には、フィルムの残存はほとんどなく、わずかに残存したものも簡単な水洗いで完全に除去できた。鋼板表面およびロール表面には何らの悪影響をも及ぼしていない。
【0052】
フィルムNo.1〜3の結果をみれば、フィルムの厚みが増すほど荷重低減率が高くなることがわかる。No.4,5のように炭酸カルシウムを含有させると樹脂のみの場合よりも荷重低減率が若干小さくなる。これは、炭酸カルシウム粒子のスリップ抑制効果が現れたからである。さらに、マイカ、黒鉛、二硫化モリブデンを含有させることにより樹脂単体よりも潤滑性が向上することも明らかである。また、黒鉛の含有量が、増加するにつれて潤滑性が向上しており、固体粒子の含有量が増加するほど潤滑性も増加することも明らかである。しかし、変性ポリエチレンオキシドを樹脂として使用した場合のように樹脂単体でもかなり高い潤滑性を示す。
【0056】
[実施例2]炭素鋼鋼管の外周熱間成形工程
孔型ロールにより素管外形を熱間成形する工程において表1のNo.5の樹脂フィルムを孔型ロールと鋼管とが接する部分に連続的に供給して、焼付きずの抑制効果を調査した。ロール材質は、高Cr鋳鋼、加工温度は1200℃とした。その結果、樹脂フィルムを使用しない時に必ず発生していた工具および製品の焼付きずが皆無となった。また、スリップの発生等もなく安定した成形が実現できた。成形品の品質にも全く問題は無かった。
【0057】
[実施例3]クランクシャフトの熱間型鍛造
樹脂フィルムを型鍛造用金型と被加工材(炭素鋼)との間に介在させて、金型のかじりきずの防止効果、被加工材の型離れ良さ(離型性)、および実施例1で定義した荷重低減率について調査した。金型材質は、SKD61である。樹脂フィルムは、加工直前に金型と被加工材との間に供給した。鍛造は、6500トンプレス機を用い、素材温度約1000℃で行った。フィルムの適用形態は下記のとおりである。
【0059】
(試験1)
フィルムのかじりが発生しやすい金型部位に当たる部分の黒鉛含有量を10wt%に増加させた表1のNo.11の樹脂フィルムを摩擦面全体に介在させた。
【0060】
(試験2)
図1に示すように、部分的に厚みを変えた表1のNo.24の樹脂フィルム1を金型2の摩擦面全面に介在させた。このとき、フィルム1の厚い部分(厚さ100μm)が金型2の凸部のコーナーに当たるように配置した。
【0061】
(試験3…比較例)
比較のために樹脂フィルムの代わりに前記の合成エステルに黒鉛を5重量%添加した液体状潤滑剤(表1の従来例の潤滑剤)を金型表面に噴射して加工する試験も実施した。
【0062】
以上の試験結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示すとおり、従来の潤滑剤を用いた比較例では金型にかじりきずが発生し、離型性も悪い。本発明例の試験1および2では、いずれもかじりきずの発生が無く、適切な離型性と荷重低減効果が得られている。製品の表面状態もきわめて良好であった。
【0065】
樹脂フィルムを摩擦面全体に介在させた試験1に比べ、固体粒子を含まないフィルムを介在させた試験2では、荷重低減率はやや低かった。離型性は、試験2で最も良好であった。このことは、面内で厚みの分布を変えた樹脂フィルムを巧みに用いれば、離型性の改善効果が得られることを示している。
【0066】
【発明の効果】
本発明方法によれば、摩擦面に樹脂フィルムを介在させるという簡単な方法で、塑性加工時の素材と工具の潤滑を確実に行うことができる。これによって、加工に必要な荷重の低減、工具の寿命延長および製品品質の向上を実現することができる。
【0067】
本発明方法で使用する樹脂フィルムは、通常の樹脂単体のものでもよいが、その中に固体粒子を含ませたものが一層望ましい。また、フィルムは均一材質、均一厚さのものだけでなく、組成や厚さを部分的に変えたフィルムも使用できる。
【0068】
本発明方法は、被加工材や工具の材質、および加工の種類に関係なく、あらゆる高温塑性加工に適用でき、特に、高圧、高加工度の過酷な塑性加工に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例で使用した面内の厚みの異なる樹脂フィルムの厚み方向断面と、それを当てる金型の部位との関係を示す図である。
【符号の説明】
1…樹脂フィルム、 2…金型
【発明の属する技術分野】
本発明は、加工に必要な荷重の低減、工具の寿命延長および加工製品の品質向上を実現できる金属の高温塑性加工方法、およびその方法に使用する潤滑剤としての樹脂フィルムに関する。ここで、高温塑性加工とは、常温で行う塑性加工(いわゆる冷間加工)を除き、通常、温間加工および熱間加工と称される加工を意味する。その加工温度は、概ね100〜1200℃程度である。
【0002】
【従来の技術】
金属の高温塑性加工には、板、管、条鋼(形鋼、棒線、線材)等の圧延、押出し、引抜き、鍛造、せん断加工などがある。これらの加工に使用される工具も、ロール、ダイス(金型)、プラグ等様々である。ここでは、これらをまとめて「工具」と記す。
【0003】
被加工材として高温塑性加工に供される金属には、炭素鋼やステンレス鋼のような鋼材、ならびにアルミニウム、銅、チタニウム及びそれらの合金もしくはそれらの複層クラッド材などが挙げられる。
【0004】
通常、高温での塑性加工における潤滑方法は、被圧延材の材質、工具材料、加工方法、加工温度、加工面圧、加工速度、被加工材の表面状態、作業性等によって使い分けられている。
【0005】
例えば、塑性加工前に工具または被加工材に潤滑剤を供給する方法や、予め工具表面に化成潤滑皮膜を形成させた後に塑性加工を行う方法などが知られている。
【0006】
潤滑剤の例としては、液体状のものから高粘度のグリースさらに高温で溶融して流体潤滑作用を発揮するガラス、あるいはそれらに黒鉛、雲母などの固体潤滑物質を含有させた潤滑剤などがある。
【0007】
しかし、これらの潤滑方法では、高温、高圧下の厳しい加工条件では摩擦界面へ潤滑剤を確実に導入することは困難である。一方、工具に予め化成潤滑皮膜を形成しておく場合でも、加工が進むにつれて皮膜が摩耗し、あるいは剥離するために、加工を一旦中止して工具を交換する作業を余儀なくされる。即ち、長時間にわたって連続的に潤滑効果を得ることは難しい。さらに、次工程として塗装工程等が有る場合には、塑性加工の終了後に被加工材表面に残った化成皮膜を除去しなければならないが、その除去は脱脂等の簡単な処理では容易にはできないため、除去のための特別な作業工程が必要となり、製品のコスト高を招いている。
【0008】
冷間加工、例えば薄鋼板のプレス成形加工では、被加工材の表面保護のために有機フィルムを貼り付けることなどが通常行われている。しかし、成形時には別途、潤滑油(プレス油、防錆抽)を使用しており、上記のフィルムにはもともと塑性加工時に必要な潤滑性は期待されていない。
【0009】
従来、樹脂を高温での塑性加工における潤滑剤として使用するという発想はなく、まして、そのような潤滑剤としてふさわしいように、樹脂を改良するという提案は皆無である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の目的は、金属の高温塑性加工において、工具と被加工材との潤滑を合理的に行って、加工に要する荷重を減らし、工具の使用寿命を延長して生産性を高めるとともに加工製品の品質を上げることが可能な加工方法を提供することにある。
【0011】
本発明の第2の目的は、上記の方法に使用するのにふさわしい潤滑材料、具体的には高温塑性加工用樹脂フィルム、を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記(1)の加工方法および(2)の樹脂フィルムを要旨とする。
【0013】
(1)工具と被加工材とが接触する界面の少なくとも一部に予め成形された樹脂フィルムを介在させ、その潤滑作用を利用して加工を行う方法であって、上記樹脂フィルムは水溶性樹脂フィルムであり、上記加工の温度は 100 〜 1200 ℃の範囲であることを特徴とする金属の高温塑性加工方法。以下、これを「本発明方法」という。
【0014】
本発明方法においては、加工に先立って工具および被加工材の少なくとも一方の表面に予め樹脂フィルムを付着させておいてもよい。また、例えば、ロールを用いる熱間圧延等では、工具(ロール)と被加工材(被圧延材)とが接触する界面の少なくとも一部に樹脂フィルムを連続的に供給しつつ加工を行ってもよい。
【0015】
(2)上記の本発明方法に使用するための高温塑性加工用樹脂フィルム。この樹脂フィルムは、その中に固体粒子を含有することが望ましい。また、フィルムを形成する樹脂の組成、フィルムの厚み、フィルムに含有される固体粒子の種類およびその含有量の少なくとも一つが、フィルムの一個体内で異なる分布を有するものであってもよい。
【0016】
【発明の実施の形態】
1.本発明方法について:
この方法の特徴は、工具と被加工材との接触界面の潤滑に樹脂フィルムを使用する点にある。これは、高温高圧状態の塑性加工面に潤滑物質を確実に介在させるには樹脂をフィルムとして供給するのが最も合理的であるという知見に基づく。このフィルムの中に固体粒子を含有させれば、特に高温での加工において、さらに潤滑性能が向上し、また、工具と被加工材とのスリップ防止の効果が得られる。
【0017】
本発明方法の対象となる被加工材は、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼等の高合金鋼、アルミニウム、銅、チタニウム、ニッケル及びそれらの合金、ならびにこれら金属、合金の2種以上からなるクラッド材など、塑性加工の対象となるあらゆる金属である。
【0018】
適用できる塑性加工は、板圧延、管圧延、条綱(形鋼、棒線、線材)圧延、押出し、引抜き、鍛造、剪断など、工具と被加工材との摩擦が生じるすべての塑性加工である。加工温度は、被加工材の材質や加工の種類によって異なるが、概ね100℃〜1200℃である。
【0019】
樹脂フィルムは、塑性加工前に工具表面もしくは被加工材、またはその両方の表面に予め付着させておくことができる。また、塑性加工の際に加工界面にフィルムを供給して介在させてもよい。ロール成形のように連続して塑性加工がおこなわれる場合には、ロールと被加工材との間に樹脂フィルムが連続的に供給されることになる。
【0020】
工具と被加工材との接触面の特定箇所において潤滑が特に必要となるような塑性加工では、その箇所に重点的にフィルムを介在させてもよい。例えば、板圧延においては、ロール通板時のエッジ部の焼付が問題になる。また、管の圧延においては、孔型ロールが管と部分的に接触する位置で焼付が生じやすい。そのような部位にだけ樹脂フィルムを介在させて加工を行ってもよい。
【0021】
継目無鋼管(シームレス鋼管)の製造における内面加工時の潤滑方法としては、穿孔工具であるプラグを樹脂フィルムで被覆した後、そのプラグを使用して塑性加工を行うことによりプラグの寿命延長と製品管の品質向上(内面疵の減少)を実現させることができる。
【0022】
鍛造作業においては、工具(金型)および被加工材の加工表面に樹脂フィルムを装着させた後に、加工を行うのがよい。熱間鍛造では、被加工材が高温に加熱されているから、金型表面のみに予め樹脂フィルムを付着させておくことになる。これは、上記の穿孔や熱間での板圧延でも同じである。
【0023】
本発明方法は、特に、熱負荷の厳しい塑性加工、例えば、鋼の連続鋳造ラインで熱間スラブを圧下する加工、および連続鋳造から熱間圧延まで一貫した連続熱延プロセスにおいて使用される、いわゆるインライン圧延機での圧延、等の高温塑性加工方法としても好適である。
【0027】
2.本発明の樹脂フィルムについて
例えば、塑性加工工程に水洗工程が含まれるような場合には、水溶牲のフィルムを使用すれば、水洗洗浄だけで除去が可能となり、特別なフィルム残査の除去工程を省くことができる。水溶性フィルムとしてはポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリジオキソラン等のフィルムが挙げられる。
【0028】
機械設備に使用される作動油やグリース等、可燃性のものが付近に存在する場合は引火の恐れがあるため燃焼性の小さい樹脂が好ましい。具体的にはポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系等、一般的にポリマー主鎖に酸素原子を多く含むものが比較的燃焼性が小さいので好ましい。ハロゲン系樹脂も難燃性であるため有効であるが、燃焼時に有毒がスが発生する可能性があるため局所排気等が必要である。
【0029】
フィルムの潤滑性の調整のために固体粒子をフィルム中に分散させるのが望ましい。この場合、固体粒子の種類にもよるが、基材樹脂としては、ポリマー中にカルボキシル基、カルボニル基、エステル基、水酸基、エーテル基、シアノ基、アミド基、アミノ基、ウレタン基等の極性基を有するポリマーが好ましい。例えばカルボキシル基であればポリアクリル酸のような樹脂が挙げられるが、このように必ずしもポリマー主鎖中に繰り返し単位として極性基が組み込まれていなくてもかまわない。
【0030】
例えば特開平8-283400号公報に記載されているように、両末端に水酸基を有するポリアルキレングリコールを二無水ピロメリット酸で高分子量化させる方法によっても、結果的にポリマー主鎖中にカルボキシル基を導入することが可能である。エステル基であれば、特開昭58-160316号公報に記載のように、ポリアルキレングリコールを多価カルボン酸で反応させることにより得られ、またウレタン基であれば、特開平6-32976号公報に記載のように、ポリアルキレングリコールを多価イソシアネートで反応させることによりウレタン基をポリマー鎖中に導入することが可能である。
【0031】
上記樹脂に混ぜる固体粒子としては、例えば、マイカ、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、ステアリン酸カルシウム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、酸素欠陥ペロブスカイト構造を持つ複合酸化物(SrXCa1-XCuOY等)のように自ら潤滑性を有し、摩擦を軽減させる作用が期待できるものや、摩擦係数を極端に低下させることなく金属間の直接接触を抑制して焼付防止作用を発揮する炭酸塩やケイ酸塩、酸化物、水酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、フッ化物、クラスターダイヤモンド等が挙げられる。
【0032】
炭酸塩の例には、Na2CO3、CaCO3、MgCO3などのアルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩がある。
【0033】
ケイ酸塩の例にはMXOYSiO2(M:アルカリ金属、アルカリ土類金属)がある。酸化物の例にはA12O3、TiO2、NiO、Cr2O3、CaO、ZnO、SnO、CdO、PdO、Bi2O3、Li2O、K2O、Na2O、B2O3、SiO2、MnO2、ZrO2、Fe2O3、Fe3O4などがあり、水酸化物の例としてはCa(OH)2などがある。炭化物の例には、SiC、TiCなどが、窒化物の例には、TiN、BN、AlN、Si3N4などが、硫化物の例には、PbSなどが、フッ化物の例には、CaF2、BaF2などがある。
【0034】
上記の固体粒子は、平均粒径が0.002〜10μm程度(望ましいのは0.002〜5μm、さらに望ましいのは0.002〜2μm)のものとし、フィルムに対しておよそ0.5〜40重量%程度(望ましいのは0.5〜30重量%、さらに望ましいのは0.5〜20重量%)添加すればよい。固体粒子の粒径が大きすぎたり、その添加量が多すぎると、樹脂の高温流動性が低下して加工界面を十分に覆うことができなくなり、潤滑効果が低下する。
【0035】
固体粒子の濃度はフィルム全体で均一である必要はなく、部分的に濃淡があってもよい。例えばフィルムの面内の或部分で高濃度、ある部分で低濃度というように、濃度分布に変化があってもよい。このような樹脂中に固体粒子を含有するフィルムは、特に熱間域での加工において顕著な効果を発揮する。
【0036】
樹脂と固体粒子を混合する方法にも特に制限はなく、溶融・混練する方法や溶液状態で混合する方法等が採用できる。溶融・混練する際の温度についても特に制限はないが、通常100℃〜350℃で行うのが好ましい。使用する樹脂にもよるが、100℃未満の場合には、系の粘度が非常に高く混練に多大の動力を必要とする場合がある。一方混練温度が350℃を超える場合には、樹脂によっては劣化する場合がある。
【0037】
また混合する場合には、固体粒子以外に各種添加剤、例えば酸化防止剤、腐食防止剤、防錆添加剤等を加えても良い。
【0038】
フィルムの成形方法については特に制限はなく、既知のいかなるフィルム製造方法でも適用することができる。具体的には、インフレーション法、Tダイ法、カレンダー法、ホットプレス法等が挙げられ、一軸または二軸方向に熱間延伸あるいは冷間延伸することも可能である。
【0039】
本発明の樹脂フィルムは、2種以上のフィルムを部分的にまたは全体に重ね合わせた多層構造のものであってもよい。あるいは、1種類の樹脂フィルム、もしくは2種以上の樹脂フィルムを重ね合わせたフィルム上に、その樹脂自体ではフィルムとして強度が得られない樹脂を溶融状態で、または溶液として塗布することも可能である。これらの方法の組み合わせにより、例えば固体粒子を含んだフィルムと含まないフィルムを部分的あるいは全体的に積層することにより意図的に固体粒子の濃度分布を変えたり、あるいはフィルムの厚み分布を変えることができる。
【0040】
フィルムの厚みには特に制限はないが、柔軟で且つ強靭なフィルムを得るためにはその厚みが1〜500μmであることが好ましく、さらに好ましくは10〜200μmである。フィルムの厚みが1μmよりも薄いとフィルムとして十分な強度が得られず、また500μmよりも厚くても塑性加工時の潤滑効果はあまり向上せず不経済であり、またフィルムの柔軟性が低下するため取り扱いに不便である。後述する図1に示すような、部分的に厚みの異なるフィルムを用いることもできる。
【0041】
【実施例】
表1に示す各種のフィルムを用いて、金属の高温塑性加工を行った。フィルムの製造条件は、下記のとおりである。
【0042】
フィルムNo.1〜13:
フィルム用樹脂としてポリジオキソラン[CX−PD2000、日本触媒(株)製]と、表1に示す各種の固体粒子の所定量を100℃で5分間混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を100℃、300 kgf/cm2で5分間ホットプレスし、フィルム(No.1〜13)を得た。なお、固体粒子の平均粒径は、炭酸カルシウムが0.1μm、黒鉛とマイカが0.8μm、二硫化モリブデンが1.3μmである。
【0044】
フィルムNo.24〜30:
フィルム用樹脂として変性ポリエチレンオキシド[FX−EH1000、日本触媒(株)製]と、固体粒子の所定量を130℃で7分間混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を140℃、300kgf/cm2で2分間ホットプレスして、フィルムNo.24〜30を得た。
【0045】
このようにして準備した樹脂フィルムを用いて、下記の金属の高温塑性加工を実施した。
【0046】
[実施例1]ステンレス鋼板の熱間圧延
小型の実験用圧延機を使用し、オーステナイト系ステンレス鋼板(SUS304、幅30mm、厚み2.8mm、長さ150mm)を熱間圧延した。
【0047】
まず、幅40mm、長さ315mmの寸法に裁断した樹脂フィルムを予め圧延用ロールの表面に貼付し、圧延温度1000℃で上記の鋼板を圧延し、その時の圧延荷重を測定した。圧延速度は50mpm、圧下率は30%℃とし、通常の潤滑剤は一切使用しなかった。ロール材質は、高炭素化された高速度工具鋼(耐摩耗鋳鉄、熱延ハイスと通称されるもの)である。ロール直径は100mm、表面硬度はHs 82、表面粗度はRa 0.2μmである。
【0048】
潤滑性は次式にて定義した荷重低減率によって評価し、その結果を表1に併記した。なお、比較のために樹脂フィルムの代わりに従来の合成エステルに黒鉛を5重量%添加した液体状潤滑剤(粘度:280cSt/40℃)を使用した試験結果も「従来例」として表1に示した。
【0049】
【数1】
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、どの樹脂フィルムを使用した場合でも、従来例に勝る高い荷重低減率が得られている。これは、樹脂フィルムが圧延の際に優れた潤滑生を示したことを意味する。圧延後の鋼板およびロール表面には、フィルムの残存はほとんどなく、わずかに残存したものも簡単な水洗いで完全に除去できた。鋼板表面およびロール表面には何らの悪影響をも及ぼしていない。
【0052】
フィルムNo.1〜3の結果をみれば、フィルムの厚みが増すほど荷重低減率が高くなることがわかる。No.4,5のように炭酸カルシウムを含有させると樹脂のみの場合よりも荷重低減率が若干小さくなる。これは、炭酸カルシウム粒子のスリップ抑制効果が現れたからである。さらに、マイカ、黒鉛、二硫化モリブデンを含有させることにより樹脂単体よりも潤滑性が向上することも明らかである。また、黒鉛の含有量が、増加するにつれて潤滑性が向上しており、固体粒子の含有量が増加するほど潤滑性も増加することも明らかである。しかし、変性ポリエチレンオキシドを樹脂として使用した場合のように樹脂単体でもかなり高い潤滑性を示す。
【0056】
[実施例2]炭素鋼鋼管の外周熱間成形工程
孔型ロールにより素管外形を熱間成形する工程において表1のNo.5の樹脂フィルムを孔型ロールと鋼管とが接する部分に連続的に供給して、焼付きずの抑制効果を調査した。ロール材質は、高Cr鋳鋼、加工温度は1200℃とした。その結果、樹脂フィルムを使用しない時に必ず発生していた工具および製品の焼付きずが皆無となった。また、スリップの発生等もなく安定した成形が実現できた。成形品の品質にも全く問題は無かった。
【0057】
[実施例3]クランクシャフトの熱間型鍛造
樹脂フィルムを型鍛造用金型と被加工材(炭素鋼)との間に介在させて、金型のかじりきずの防止効果、被加工材の型離れ良さ(離型性)、および実施例1で定義した荷重低減率について調査した。金型材質は、SKD61である。樹脂フィルムは、加工直前に金型と被加工材との間に供給した。鍛造は、6500トンプレス機を用い、素材温度約1000℃で行った。フィルムの適用形態は下記のとおりである。
【0059】
(試験1)
フィルムのかじりが発生しやすい金型部位に当たる部分の黒鉛含有量を10wt%に増加させた表1のNo.11の樹脂フィルムを摩擦面全体に介在させた。
【0060】
(試験2)
図1に示すように、部分的に厚みを変えた表1のNo.24の樹脂フィルム1を金型2の摩擦面全面に介在させた。このとき、フィルム1の厚い部分(厚さ100μm)が金型2の凸部のコーナーに当たるように配置した。
【0061】
(試験3…比較例)
比較のために樹脂フィルムの代わりに前記の合成エステルに黒鉛を5重量%添加した液体状潤滑剤(表1の従来例の潤滑剤)を金型表面に噴射して加工する試験も実施した。
【0062】
以上の試験結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示すとおり、従来の潤滑剤を用いた比較例では金型にかじりきずが発生し、離型性も悪い。本発明例の試験1および2では、いずれもかじりきずの発生が無く、適切な離型性と荷重低減効果が得られている。製品の表面状態もきわめて良好であった。
【0065】
樹脂フィルムを摩擦面全体に介在させた試験1に比べ、固体粒子を含まないフィルムを介在させた試験2では、荷重低減率はやや低かった。離型性は、試験2で最も良好であった。このことは、面内で厚みの分布を変えた樹脂フィルムを巧みに用いれば、離型性の改善効果が得られることを示している。
【0066】
【発明の効果】
本発明方法によれば、摩擦面に樹脂フィルムを介在させるという簡単な方法で、塑性加工時の素材と工具の潤滑を確実に行うことができる。これによって、加工に必要な荷重の低減、工具の寿命延長および製品品質の向上を実現することができる。
【0067】
本発明方法で使用する樹脂フィルムは、通常の樹脂単体のものでもよいが、その中に固体粒子を含ませたものが一層望ましい。また、フィルムは均一材質、均一厚さのものだけでなく、組成や厚さを部分的に変えたフィルムも使用できる。
【0068】
本発明方法は、被加工材や工具の材質、および加工の種類に関係なく、あらゆる高温塑性加工に適用でき、特に、高圧、高加工度の過酷な塑性加工に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例で使用した面内の厚みの異なる樹脂フィルムの厚み方向断面と、それを当てる金型の部位との関係を示す図である。
【符号の説明】
1…樹脂フィルム、 2…金型
Claims (7)
- 工具と被加工材とが接触する界面の少なくとも一部に予め成形された樹脂フィルムを介在させ、その潤滑作用を利用して加工を行う方法であって、上記樹脂フィルムは水溶性樹脂フィルムであり、上記加工の温度は 100 〜 1200 ℃の範囲であることを特徴とする金属の高温塑性加工方法。
- 水溶性樹脂フィルムがポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコールおよびポリジオキソランのうちの1種であること、または2種以上を重ね合わせて多層構造としたものであることを特徴とする請求項1に記載の金属の高温塑性加工方法。
- 加工に先立って工具および被加工材の少なくとも一方の表面の少なくとも一部に予め成形された樹脂フィルムを予め付着させておくことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属の高温塑性加工方法。
- 工具と被加工材とが接触する界面の少なくとも一部に予め成形された樹脂フィルムを連続的に供給しつつ加工を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属の高温塑性加工方法。
- 請求項1から請求項4までのいずれかに記載の金属の高温塑性加工方法に使用するための高温塑性加工用樹脂フィルム。
- 固体粒子を含有することを特徴とする請求項5に記載の金属の高温塑性加工用樹脂フィルム。
- フィルムを形成する樹脂の組成、フィルムの厚み、フィルムに含有される個体粒子の種類およびその含有量の少なくとも一つが、フィルムの一個体内で異なる分布を有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の金属の高温塑性加工用樹脂フィルム。
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