JP6077943B2 - アンニンコウ抽出液の低分子画分による動脈硬化症の治療剤 - Google Patents
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Description
しかしながら、アンニンコウの抽出物によるアテローム性の動脈硬化や非アテローム性である糖尿病性腎症などにおける動脈硬化の抑制効果は、これまで報告されておらず、いずれの文献にも記載されていない。
さらに本発明者は、アンニンコウの熱水抽出液の低分子画分にアンギオテンシン変換酵素の阻害作用があることを明らかにした。アンギオテンシン変換酵素は、不活性体であるアンジオテンシンIを、生理活性を有するアンジオテンシンIIに変換する。アンギオテンシンIIの動脈硬化への関与については数多くの報告があり、ApoE欠損モデルマウスにアンギオテンシンIIを投与すると動脈硬化が促進することが知られている。
本発明はこのような知見に基づくものであり、以下の〔1〕〜〔15〕を提供する。
〔1〕食用キノコの熱水抽出液の低分子画分を含む、アンギオテンシン変換酵素阻害剤。
〔2〕食用キノコがGrifola属、Pleurotus属、Lentinula属、Pholiota属、Agrocybe属、Leucopaxillus属、Agaricus属、Tricholoma属からなる群より選択される少なくとも一つのキノコである、〔1〕に記載の阻害剤。
〔3〕食用キノコが、アンニンコウ(Grifola gargal)、マイタケ(Grifola frondosa)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、エリンギ(Pleurotus eringii)、シイタケ(Lentinula edodes)、ナメコ(Pholiota nameko)、ヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea)、オオイチョウタケ(Leucopaxillus giganteus)、ヒメマツタケ(Agaricus blazei)、サウーバ(Tricholoma sp.)及びキッタリア(Cyttaria espinosae)からなる群より選択される少なくとも一つのキノコである、〔1〕又は〔2〕に記載の阻害剤。
〔4〕食用キノコがアンニンコウ(Grifola gargal)である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の阻害剤。
〔5〕食用キノコがアンニンコウ(Grifola gargal)の子実体である、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の阻害剤。
〔6〕低分子画分が以下の工程を含む方法によって得られる、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の阻害剤;
(a)食用キノコの粉末を提供する工程、
(b)工程(a)の粉末の熱水抽出液を提供する工程、及び
(c)工程(b)の熱水抽出液から分子量が6000以下の物質からなる画分を取得する工程。
〔7〕食用キノコの熱水抽出液の低分子画分を含む、動脈硬化症の治療及び予防の両方又はいずれか一方のための薬剤。
〔8〕食用キノコがGrifola属、Pleurotus属、Lentinula属、Pholiota属、Agrocybe属、Leucopaxillus属、Agaricus属、Tricholoma属からなる群より選択される少なくとも一つのキノコである、〔7〕に記載の薬剤。
〔9〕食用キノコが、アンニンコウ(Grifola gargal)、マイタケ(Grifola frondosa)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、エリンギ(Pleurotus eringii)、シイタケ(Lentinula edodes)、ナメコ(Pholiota nameko)、ヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea)、オオイチョウタケ(Leucopaxillus giganteus)、ヒメマツタケ(Agaricus blazei)、サウーバ(Tricholoma sp.)及びキッタリア(Cyttaria espinosae)からなる群より選択される少なくとも一つのキノコである、〔7〕又は〔8〕に記載の薬剤。
〔10〕食用キノコがアンニンコウ(Grifola gargal)である、〔7〕から〔9〕のいずれかに記載の薬剤。
〔11〕食用キノコがアンニンコウ(Grifola gargal)の子実体である、〔7〕から〔10〕のいずれかに記載の薬剤。
〔12〕動脈硬化症がアテローム性粥状動脈硬化症、細動脈硬化、中膜硬化からなる群より選択される、〔7〕から〔11〕のいずれかに記載の薬剤。
〔13〕低分子画分が以下の工程を含む方法によって得られる、〔7〕から〔12〕のいずれかに記載の薬剤;
(a)食用キノコの粉末を提供する工程、
(b)工程(a)の粉末の熱水抽出液を提供する工程、及び
(c)工程(b)の熱水抽出液から分子量が6000以下の物質からなる画分を取得する工程。
〔14〕以下(a)から(c)の工程を含む方法によって調製される食用キノコの熱水抽出液の低分子画分であって、アンギオテンシンII変換酵素の阻害活性を有する低分子画分;
(a)食用キノコの粉末を提供する工程、
(b)工程(a)の粉末の熱水抽出液を提供する工程、及び
(c)工程(b)の熱水抽出液から分子量が6000以下の物質からなる画分を取得する工程。
〔15〕〔1〕から〔6〕に記載の阻害剤、〔7〕から〔13〕に記載の薬剤、および〔14〕に記載の低分子画分からなる群より選択される少なくとも1つを含む飲食品組成物。
より具体的には、このような食用キノコとして、
・アンニンコウ(学名:Grifola gargal)
・マイタケ(学名:Grifola frondosa)
・ヒラタケ(学名:Pleurotus ostreatus)
・エリンギ(学名:Pleurotus eringii)
・シイタケ(学名:Lentinula edodes)
・ナメコ(学名:Pholiota nameko)
・ヤナギマツタケ(学名:Agrocybe cylindracea)
・オオイチョウタケ(学名:Leucopaxillus giganteus)
・ヒメマツタケ(学名:Agaricus blazei)
・サウーバ(学名:Tricholoma sp.)
・キッタリア(学名:Cyttaria espinosae)
などを挙げることができるがこれらに限定されない。
食用キノコの熱水抽出液の低分子画分がアンギオテンシン変換酵素の阻害活性を有するか否かは、例えば、アンギオテンシン変換酵素を含む溶液に食用キノコの熱水抽出液の低分子画分を加え、当該酵素の活性を測定することにより行うことができる。食用キノコの熱水抽出液の低分子画分を投与しない対照と比較してアンギオテンシン変換酵素の活性が減少した場合、当該低分子化画分はアンギオテンシン変換酵素の阻害活性を有すると判定できる。当該酵素の活性は、吸光度測定など公知の酵素活性の測定手法により行うことができる。
・動脈硬化に起因する死亡率を減少させる作用
・大動脈の面積を減少させる作用
・アテロームの面積率を減少させる作用
・大動脈及び/又は心臓の重量を減少させる作用
・血しょう中の顆粒球を減少させる作用
・制御性T細胞を増加させる作用
・血しょう中のMCP−1値を減少させる作用
・血しょう中のSDF−1値を減少させる作用
・腎臓重量を減少させる作用
・腎臓組織におけるコラーゲン量を減少させる作用
・腎臓組織におけるヒドロキシプロリン量を減少させる作用
・腎臓組織における線維化を抑制する作用
ABI検査(足関節上腕血圧比)では足首と上腕の血圧を測定し、その比率(足首収縮期血圧÷上腕収縮期血圧)を計算する。ABIの測定値が0.9以下の場合、症状の有無にかかわらず動脈硬化が疑われる。
アテローム性の動脈硬化では、中型動脈および大型動脈の内側に斑点状の内膜プラーク(アテローム)が生じる。プラークは脂質、炎症細胞、平滑筋細胞、および結合組織を含む。アテローム性の動脈硬化の危険因子には異脂肪血症、糖尿病、喫煙、家族歴、座ることが多いライフスタイル、肥満、および高血圧がある。症状はプラークの成長または破裂により血流が減少または途絶するときに現れる。診断は、血管造影、超音波検査その他の画像検査などの臨床的な手法で行うことができる。
一方非アテローム性の動脈硬化では、動脈およびその主要分枝における、年齢に関連した線維症を伴う。非アテローム性の硬化は内膜肥厚を引き起こし、弾性板を脆弱化し破壊する。平滑筋(中膜)層は萎縮し、侵された動脈の内腔は拡大し、動脈瘤または解離の素因となる。高血圧が、大動脈硬化および動脈瘤の形成の主要因子である。内膜損傷、拡張症、および潰瘍形成は血栓症、塞栓症、または血管完全閉塞につながることがある。
一方中膜硬化では、巣状石灰化を伴う年齢に関連した中膜変性が生じ、さらには動脈壁内の骨形成を伴うこともある。動脈の一部が内腔の狭窄を伴うことなく、硬く石灰化した管になることがある。診断は通常、単純X線検査によって行う。
本発明における動脈硬化症としては、アテローム性粥状動脈硬化症、細動脈硬化、中膜硬化などを例示することができるがこれらに限定されない。
アンニンコウは、南アメリカのパタゴニア地方のNotofagus sp.の枯れ木や倒木に発生する担子菌類ヒダナシタケ目サルノコシカケ科マイタケ属に属する木材腐朽菌である。近年、菌床栽培も可能となった。アンニンコウの菌床栽培は、当業者であれば、例えば特開2007−20560に開示の方法にしたがって行うことができる。あるいは、例えば以下の組成からなる培地にアンニンコウ種菌(例えば、株式会社岩出菌学研究所保存のIwade−GG010株)を接種後、例えば培養温度20℃、湿度70%の恒温室内で90日間培養する。そして、培養物を以下に示す低温処理および発生処理を行うことにより、アンニンコウの子実体を得ることができる。なお、アンニンコウ種菌の培養により、菌糸が培地全体に蔓延し、ベンズアルデヒドを主成分とする強い芳香が培養室全体に広がる。この強烈な芳香はアンニンコウに特徴的なものである。
(培地組成)
基材:ナラ類、クヌギ等の広葉樹おが屑
栄養剤:米ぬか、フスマ等
基材:栄養剤=5:1(体積比)にて、混合し、含水率65%とするように、水を加える。
このように調整した培地は、培養ビンや培養袋に入れて、高圧下で滅菌し、冷却後に使用することができる。
(低温処理)
充分に蔓延した菌糸体に刺激を与える。刺激は光照射、低温であり、光刺激は、照度2000Lx 程度である。低温刺激として、室温を10℃に維持する。菌糸培養中にベンズアルデヒドを主成分とする強い芳香を放散する。この芳香が急に激減する時期に刺激を与える(例えば培養90日後)。
このような刺激を与えると、原基が発生し、原基の表面が白から、灰色、黒色へ、変化する。変化した後に、発生処理を行う。
(発生処理)
例えば相対湿度90〜100%、温度15℃の条件で、子実体を発生させることができる。上述のように原基の表面が黒色化した後、培養袋を開封し、培地の空気の循環を促して、培地中の二酸化炭素の濃度を下げ、子実体を発生させることができる。種菌の接種から約120日で、培地2kgからアンニンコウの子実体約400g(生きのこ)を収穫できる。
本発明において低分子画分とは、食用キノコの熱水抽出液を限外濾過膜などの濾過膜を使用して高分子側と低分子側に分画した際に、低分子側に得られる画分をいう。あるいは本発明の食用キノコの熱水抽出液の低分子画分は、濾過膜を使用してある分子量を境として食用キノコの熱水抽出液を分画した場合に、膜を透過する画分と言い換えることもできる。本発明の低分子画分は、アンギオテンシン変換酵素の阻害作用あるいは動脈硬化症の治療または予防効果を有する限り特に限定されるものではないが、例えば、分子量1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10000、20000、30000、40000、50000から選択される2点の分子量を下限(〜以上、又は、〜より高い)及び上限(〜以下、又は、〜より低い)とする範囲により示される分子量の範囲にある物質を分離するための分離膜によって、低分子側に分離される画分であることが好ましい。本発明においては、分子量6000を好ましい例として挙げることができるがこれに限定されない。
このような低分子画分は、食用キノコの熱水抽出液を、上述の分子量の範囲内にある分子の分離に使用可能な濾過膜を使用する限外濾過などによって取得することができる。上澄み液に含まれる成分を分離膜で分画するに際し、上澄み液は、そのまま使用してもよいし、ある程度濃縮した後に使用してもよい。あるいは、上澄み液を一旦凍結乾燥や噴霧乾燥等の方法で粉末化し、その粉末を水に溶解させて得られる水溶液の形態で使用してもよい。
(a)食用キノコの粉末を提供する工程、
(b)工程(a)の粉末の熱水抽出液を提供する工程、及び
(c)工程(b)の熱水抽出液から分子量が6000以下の物質からなる画分を取得する工程。
さらに本発明は、以下の工程を含む方法によって得られる食用キノコの熱水抽出液の低分子画分を含む、動脈硬化症の治療及び予防の両方又はいずれか一方のための薬剤に関する。
(a)食用キノコの粉末を提供する工程、
(b)工程(a)の粉末の熱水抽出液を提供する工程、及び
(c)工程(b)の熱水抽出液から分子量が6000以下の物質からなる画分を取得する工程。
食用キノコの粉末、当該粉末の熱水抽出液、熱水抽出液から分子量が6000以下の物質からなる画分の取得方法は上に述べた。食用キノコとしてはアンニンコウの子実体が好ましいがこれに限定されない。
本発明においては、「食用キノコの粉末を提供する工程」、「粉末の熱水抽出液を提供する工程」はそれぞれ、「食用キノコの粉末を調製する工程」、「粉末の熱水抽出液を調製する工程」と表現することもできる。
(a)食用キノコの粉末を提供する工程、
(b)工程(a)の粉末の熱水抽出液を提供する工程、及び
(c)工程(b)の熱水抽出液から分子量が6000以下の物質からなる画分を取得する工程。
本発明の低分子画分は、アンギオテンシン変換酵素の阻害作用、あるいは動脈硬化症の治療効果および/または予防効果を有する。
また本発明の阻害剤、薬剤又は低分子画分は、経口投与又は非経口投与(筋肉内、皮下、静脈内、坐薬、経皮、経胃管、経皮吸収等)のいずれでも投与することができる。また本発明の阻害剤、薬剤又は低分子画分は、湿布や塗布などの方法により局所投与することもできる。
あるいは本発明は、食用キノコの熱水抽出液の低分子画分を動物に経口投与する工程を含む、動脈硬化症又は高血圧症の治療及び予防の両方又はいずれか一方のための方法に関する。食用キノコの熱水抽出液の低分子画分が投与される対象としては、哺乳動物が挙げられる。哺乳動物としてはヒト及びヒト以外の動脈硬化の治療や予防を必要とする哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトやサルが挙げられ、より好ましくはヒトが挙げられる。
また本発明は、アンギオテンシン変換酵素の阻害のために使用するための食用キノコの熱水抽出液の低分子画分や、動脈硬化症又は高血圧症の治療及び予防の両方又はいずれか一方のために使用するための食用キノコの熱水抽出液の低分子画分に関する。あるいは本発明は、動脈硬化症又は高血圧症の治療及び予防の両方又はいずれか一方のための薬剤の製造における、又はアンギオテンシン変換酵素阻害剤の製造における、食用キノコの熱水抽出液の低分子画分の使用に関する。
また本発明は、食用キノコの熱水抽出液の低分子画分と薬学的に許容される担体を配合する工程を含む、動脈硬化症又は高血圧症の治療及び予防の両方又はいずれか一方のための薬剤又はアンギオテンシン変換酵素阻害剤の製造方法に関する。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
〔実施例1〕アンニンコウからの有効成分の熱水抽出
(1)キノコの乾燥粉末の調整
アンニンコウ(株式会社岩出菌学研究所にて人工栽培したもの)の子実体(川出光生, 原田栄津子,西岡宏樹,目黒貞利:チリ産食用担子菌Grifola gargalの菌床栽培―栽培に適した菌株のスクリーニング―日本きのこ学会誌, 17, 75-79.(2009))に45℃の温風を一昼夜あて、その後、70℃の温風を1時間あてた。得られたアンニンコウ子実体乾燥品を粉砕機にて粉砕し、粉末とした。
アンニンコウ子実体乾燥粉末200kgを200メッシュで篩、水21キロリットルを混合し、90〜95℃で6時間熱水抽出した。得られたキノコ/熱水抽出物(GF)を、熱水抽出液と残渣に分けた。得られた熱水抽出液を、旭化成ケミカルズ株式会社製の限外濾過膜(旭化成UFモジュールマイクロ―ザRACP;分子量:6000)でろ過し、高分子画分(GHF)と低分子画分(GLF)を得た。これを減圧条件下で濃縮し、ついで、真空凍結乾燥を行った(図1)。
[モデルマウス]
実験には、ApoE欠損マウス(ApoE-/-マウス)12週齢の雄を使用し、温度湿度管理された動物舎にて、自由給餌、給水、12時間光照射12時間暗黒下の環境条件にて、飼育を行った(図2)。
アンギオテンシンII(AngII:2μg/kg/day)と生理食塩水は、マウスの皮下に移植したマイクロ浸透圧ミニポンプ(Alzet, model 2004,Palo Alto, CA, USA)を通して投与された。このマイクロ浸透圧ミニポンプを移植することによって、28日間一定の速度で連続的にAngIIと生理食塩水を投与することができる。
このマウスをアテローム粥状動脈硬化症のモデルマウスとし、GLF投与実験に用いた。
また、GLF群と同様に生理食塩水200μlを腹腔内投与したアテローム粥状動脈硬化症モデルマウス(Ang群)を、ネガティブコントロールとした(アンギオテンシンII(ポンプ)/ 生理食塩水(腹腔内注射)群(AngII(pump)/ SAL(i.p.)、以下「Ang/SAL群」))。
生理食塩水をミニポンプにて投与し、生理食塩水200μlを腹腔内投与したApoE-/-マウスを、ポジティブコントロールとした(生理食塩水(ポンプ)/ 生理食塩水(腹腔内注射)群(Sal(pump)/ SAL(i.p.)、以下「SAL/SAL群」))。
アンギオテンシンII(ポンプ)/ 生理食塩水(腹腔内注射)群:AngII(pump)/ SAL(i.p.)
アンギオテンシンII(ポンプ)/ GLF(腹腔内注射)群:AngII(pump)/ GAR(i.p.)
解剖した後、心臓と大動脈と取り出し、重量を測定し、アテロームの形成等を観察した。
取り出した大動脈を開いてSudanIIIによりアテローム部分を染色した。
PLASMA中の免疫応答反応として、顆粒球、制御性T細胞の数を、製造社の指示に従い特異的マウスELISAキットで測定した。また、PLASMA中の炎症の指標であるMCP-1や血管内皮細胞、筋繊維芽細胞、繊維芽細胞などの数を増殖させる因子であるSDF-1の値を測定した。
マウス死亡率(図4)
ネガティブコントロール群(SAL/SAL群)は死亡率が0%であったのに対して、アンジオテンシンIIを投与したアテローム粥状動脈硬化症モデルマウス(Ang/SAL群)では死亡率は33.3%であった。一方GLF投与群(Ang/GAR群)では死亡率は20%であり、GLFの投与は動脈硬化症に起因する死亡率を減少させた。
SAL/SAL群と比較してAng/SAL群とAng/GAR群は体重の減少が著しかった。しかし、Ang/SAL群とAng/GAR群には差が見られなかった。
SAL/SAL群と比較してAng/SAL群は、大動脈の面積が大きく、アテローム性の動脈硬化が進んでいることが確認された。それと比較して、Ang/GAR群では大動脈の面積が減少しており、アテロームの形成が抑制されていた。
染色されたアテロームの面積を測定した。SAL/SAL群と比較してAng/SAL群では、アテロームの面積率も増加していた。一方Ang/GAR群ではAng/SAL群と比較して、アテロームの面積率が減少した。
大動脈と心臓の重量を測定した。SAL/SAL群と比較してAng/SAL群では、アテローム形成に比例して重量が増えた。一方Ang/GAR群では、Ang/SAL群と比較して、大動脈と心臓の重量が減少した。
顆粒球の増加は血管などに損傷を引き起こし、動脈硬化に関わることが確認されている。SAL/SAL群に対してAng/SAL群では著しく顆粒球が増加した。したがって、Ang/SAL群では血管に障害を持つと推測される。しかしAng/GAR群では、顆粒球数がSAL/SAL群とほぼ同程度に減少した。そのため、Ang/GAR群では血管の異常が減少したと推測される。
制御性T細胞は、アテローム性動脈硬化の発症を抑制することが知られている(Nature Medicine 12, 178-180 (2006) Natural regulatory T cells control the development of atherosclerosis in mice)。SAL/SAL群に対してAng/SAL群は、制御性T細胞の値が減少した。一方Ang/GAR群では、制御性T細胞の値は増加していた。このことから、Ang/SAL群ではアテローム性動脈硬化の発症が抑制されたと推察される。
炎症性マーカーであるMCP-1の値を測定した。Ang/GAR群において、MCP-1の値が増加しており、動脈硬化による血管の炎症が引き起こされていると考えられた。一方Ang/GAR群ではMCP-1の値は減少した。このことからAng/GAR群では血管の損傷が抑えられていることが推測できる。
SDF-1の刺激により、血管内皮細胞、筋繊維芽細胞、繊維芽細胞などの数が増加する。これにより血管の修復、保護が促進され、動脈硬化症の症状を改善する。SDF-1の値がAng/GAR群において増加することが確認された。したがって、Ang/GAR群ではSDF-1によりアテロームの形成が抑制されたと推測できる。
なおSDF-1は、骨髄由来血管内皮前駆細胞(endorhelial progenitor cells: EPCs)や間葉系前駆細胞(mesenchymal progenitor cell)、中間葉系前駆細胞(Fibrocytes)の動員に関わるケモカインであり、アテローム粥状動脈硬化症の血管損傷からの回復に関与することが知られている(P. Gil-Bernabe et al., Circulation Journal, Vol.75, 2269-2279, 2013)。
[モデルマウス]
C57/Bl6 マウス(雄、8週齢: 20-25g)を使用した。マウスは、温度湿度管理された動物舎で行い、自由給餌、給水、12時間光照射12時間暗黒下の環境条件にて、飼育を行った。腎臓病の症状を早めるために、用いた全てのマウスから片側の腎臓を摘出した(P. GIL-BERNABE etc. (2012) Exogenous activated protein C inhibits the progression of diabetic nephropathy. Journal of Thrombosis and Haemostasis, 10: 337-346)。腎臓の摘出手術後、状態の回復を確認した後(1か月後)、ストレプトゾトシ(40mg/kg)を連続5日間、腹腔内注射した。コントロールマウスは、生理食塩水(200μl)を腹腔内注射した。4週間後、STZ処理したマウスは、非空腹時血糖値が300 mg /dLに達しており、糖尿病を発症していた。これらの高血糖値を示したマウスは、糖尿病性腎症モデルマウス群とした。一方、正常マウス群として、ストレプトゾトシンに代えて生理食塩水を腹腔内注射した(正常マウス群:生理食塩水 / 生理食塩水(腹腔内注射)群、以下「SAL/SAL群」)。糖尿病性腎症モデルマウス群の血糖値を確認後、3日後から1週間に2回、(月曜日および木曜日:8週目まで)GLF(100mg/kg)を腹腔内注射し(STZ / GLF(腹腔内注射)群、以下「STZ/GAR群」)、GLF投与の影響を検討した(図13)。コントロールとして、GLF腹腔内投与と同様に、生理食塩水200μlを腹腔内投与した(STZ / 生理食塩水(腹腔内注射)群、以下「STZ/SAL群」)。
STZ / 生理食塩水(腹腔内注射)群:STZ/SAL群
STZ / GLF(腹腔内注射)群:STZ/GAR群
なお、糖尿病で血糖の高い状態が10年以上も続くと、全身の動脈硬化が進行し始め、腎臓に障害が及ぶと蛋白尿、ネフローゼ症候群等を経て慢性腎不全に至る。このことから、糖尿病性腎症も動脈硬化が原因であると考えられて、糖尿病性腎症モデルマウスは、動脈硬化が進行したマウスといえる。
マウス体重変化(図14)
SAL/SAL群と比較してSTZ/SAL群とSTZ/GAR群は体重が著しく減少した。一方STZ/SAL群とSTZ/GAR群の間には、体重の差は見られなかった。
SAL/SAL群と比較してSTZ/SAL群は腎臓の重量が増加しており、腎臓が肥大した。一方STZ/GAR群では腎臓の重量が有意に減少しており、肥大化が抑制された。
染色されたアテロームの面積を測定した。SAL/SAL群と比較してSTZ/SAL群ではコレステロール値が高く、コラーゲンの沈着がみられた。一方STZ/GAR群では、コラーゲンの沈着がSAL/SAL群と同程度にまで減少していた。コラーゲンは線維化を構成する細胞外基質であり、動脈硬化はコラーゲンの異常沈着が原因である。このため、STZ/GAR群ではコラーゲンの沈着が抑制され、動脈硬化の症状が改善されていると考えられる。
コラーゲンの主要な成分であるヒドロキシプロリン量を測定した。上述のコラーゲン値と同じように、STZ/GAR群では、ヒドロキシプロリン量も減少していた。このことから、コラーゲン量が減少し、血管の動脈硬化が抑制されていることが示唆される。
慢性腎臓病の進行過程で認められる腎臓の線維化をマッソン染色法により評価した。マッソン染色を行うことにより、腎臓組織の線維化を定量した。STZ/GAR群では、SAL/SAL群と比較して、線維化が進行しており、動脈硬化が進行していると考えられる。しかし、STZ/GAR群では、線維化が抑えられ、動脈硬化が改善していることが示唆される。
腎疾患の発症・進展は、腎局所への炎症細胞の浸潤・活性化が原因であることから、腎疾患に関わる炎症性マーカーであるMCP-1の値を測定した。その結果、STZ/SAL群において、MCP-1の値が増加した。腎疾患による炎症が引き起こされていると考えられる。一方STZ/GAR群では、血液中のMCP-1の値は減少した。動脈硬化は、免疫異常によって炎症反応が血管壁で惹起されて発生する機序の存在も示唆されている。したがって、MCP-1の減少から腎臓の血管における動脈硬化の改善が推測される。
〔方法〕
各サンプル(表1)を段階的に蒸留水で希釈した。マイクロプレートの各ウェルに希釈した各試料液50μlを入れた。希釈は蒸留水で行い、Blankには蒸留水をいれた。
各サンプルに10mU/mLのACE溶液、または蒸留水100μlを添加した。プレートミキサーで混合した後、37℃にて10分間インキュベートし、反応させた。
1N NaOH溶液を50μlずつ加え反応を停止させ、プレートミキサーで撹拌した後、0.2% O-フタルアルデヒド溶液を10μl添加した。プレートミキサーで撹拌した後、室温にて15分間反応させた。その後、3.6Mリン酸を15μl添加した。再度、プレートミキサーで撹拌した後、360nm 励起波長、460nm蛍光波長で蛍光強度を測定した。
阻害活性=100−{(S-Sb)/(C-Cb) }×100
試料液の蛍光強度をS、試料液の代わりに超純水を使用した場合の蛍光光度をCとした。また、S及びCに対し、酵素液の代わりに超純水を添加した場合の蛍光強度をSb及びCbとした。
結果として、各サンプルのACE阻害活性(%)は、GLF、GF、GHF、シイタケ、マイタケの順で強いことが判明した(表1)。
このことからACE阻害活性はGLFが最も高く、この結果から、このACE阻害活性が動脈硬化の抑制にも関わることが示唆された。また、他のきのこと比較しても、GLFのACE阻害活性は高い傾向にあることが推測できる。
Claims (7)
- アンニンコウ(Grifola gargal)の熱水抽出液の低分子画分であって、分子量が6000以下の物質からなる低分子画分を含む、アンギオテンシン変換酵素阻害剤。
- アンニンコウ(Grifola gargal)の子実体の熱水抽出液の低分子画分であって、分子量が6000以下の物質からなる低分子画分を含む、アンギオテンシン変換酵素阻害剤。
- 以下の工程を含む方法によって得られる画分を含むアンギオテンシン変換酵素阻害剤の製造方法;
(a)アンニンコウ(Grifola gargal)またはアンニンコウ(Grifola gargal)の子実体の粉末を提供する工程、
(b)工程(a)の粉末の熱水抽出液を提供する工程、及び
(c)工程(b)の熱水抽出液から分子量が6000以下の物質からなる画分を取得する工程。 - 請求項1または2に記載の阻害剤を含む、飲食品組成物。
- アンニンコウ(Grifola gargal)の熱水抽出液の低分子画分であって、分子量が6000以下の物質からなる低分子画分を含む、アンギオテンシン変換酵素阻害用飲食品組成物。
- アンニンコウ(Grifola gargal)の子実体の熱水抽出液の低分子画分であって、分子量が6000以下の物質からなる低分子画分を含む、アンギオテンシン変換酵素阻害用飲食品組成物。
- 以下の工程を含む方法によって得られる画分を含む、アンギオテンシン変換酵素阻害用飲食品組成物の製造方法;
(a)アンニンコウ(Grifola gargal)またはアンニンコウ(Grifola gargal)の子実体の粉末を提供する工程、
(b)工程(a)の粉末の熱水抽出液を提供する工程、及び
(c)工程(b)の熱水抽出液から分子量が6000以下の物質からなる画分を取得する工程。
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