JP6073549B2 - ガスバリアーフィルム、電子機器及びガスバリアーフィルムの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ガスバリアーフィルム、電子機器及びガスバリアーフィルムの製造方法に関する。
従来、プラスチック基材やフィルム基材の表面に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素等の金属酸化物の薄膜(ガスバリアー層)を形成したガスバリアーフィルムは、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装用途、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装用途に広く用いられている。また、上記包装用途以外にも、各種ガスによる変質を防止するために、太陽電池、液晶表示素子、有機EL素子等の電子デバイスを封止する用途に使用されている。
このようなガスバリアーフィルムを形成する方法として、プラズマCVD法(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法、化学蒸着法)によりガスバリアー層を形成する技術や、ポリシラザンを主成分とする塗布液を塗布して塗膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
また、昨今では高いガスバリアー性能を持ったガスバリアーフィルムを安価に製造することが望まれている。そのため、例えば特許文献3のように、大気圧下でのロール・トゥ・ロール連続生産方式など、成膜効率がより高い塗布方式でガスバリアー層を成膜する検討がなされている。
しかしながら、現状主流の技術はCVD法を用いた蒸着方式の成膜方法であり、成膜時に減圧環境が必要であって成膜生産性が低い技術であった。また現状、塗布方式で製造するガスバリアーフィルムにおいて、ガスバリアー層を形成する基材の動的粘弾性に関する検討は報告されておらず、水蒸気透過率(WVTR)が1×10−2g/m/dayを下回るようなバリアーフィルムを実現できていない。
更に、昨今では、モバイルディスプレイの需要が急増していることから、軽量化の目的で従来ガラス基材を用いていた液晶ディスプレイ(LCD)用の基材として、プラスチック基材や厚さ100μ程度の薄板ガラス、ガラス繊維で織ったクロスを樹脂で固めて成型したガラスクロス基材、セルロースナノファイバーを成型したセルロースナノファイバー基材等のフレキシブルかつ軽量な基材を用いる試みがなされている。軽量化だけでなく、落下時の破損防止の観点からは、特にプラスチック基材や、ガラスクロス基材、セルロースナノファイバー基材が有望視されている。
これら基材をLCD用の基材に適用してバリアーフィルム材料として用いる場合、液晶セルを組む製造工程において、バリアーフィルム表面に付着したパーティクル等の異物を洗浄する工程や、バリアーフィルム上にTFT回路を形成したりカラーフィルターを作製したりする工程を経ることになり、湿熱環境や高温環境に晒される。つまり、バリアーフィルム材料にはこの様な厳しい環境の製造工程を経た後でもガスバリアー性能を維持していることが求められる。
高温環境下でも高い耐久性を有するフィルムに関する技術として、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が350℃まで100MPa以上を維持する粘土膜の技術が開示されている(例えば、特許文献4参照)。この技術では、高アスペクト比の粘土鉱物を疎水性樹脂に高濃度に分散させて配向成膜することで、高い耐熱性と高い酸素ガス遮断性を有するフィルム材料を実現している。しかしながら、本発明者らが検証した結果、このフィルム材料の水蒸気透過率は1×10−2g/m/dayが下限であり、水蒸気透過率が1×10−2g/m/dayを下回ることはできず、水蒸気透過性の観点からは電子デバイスを封止する用途には不向きであることがわかった。
また、プラスチック基材上に、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が75GPa〜140GPaの酸化ケイ素膜を形成することで、耐湿・耐熱性の高いガスバリアーフィルムを製造する技術が開示されている(例えば、特許文献5)。しかしながら、この文献では、酸素とケイ素の比(O/Si)が1.6〜2.0の範囲の酸化ケイ素膜をPET基材に蒸着法で成膜し、その蒸着条件によって所望の貯蔵弾性率を有する酸化ケイ素膜を形成するとしているが、LCD製造工程における高温環境に耐えうるガスバリアーフィルムの基材物性については何ら記述されておらず、PET基材を用いたバリアーフィルムでは耐熱性の向上に限界があることが予測される。
特開2008−56967号公報 特開2009−255040号公報 特表2009−503157公報 特開2008−274043号公報 特開2011−25510号公報
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高いバリアー性能と高耐熱性を有するガスバリアーフィルム、それを用いた電子機器及びガスバリアーフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
基材上に、少なくとも1層のガスバリアー層を備えたガスバリアーフィルムにおいて、
前記基材の動的粘弾性測定による貯蔵弾性率(E’)が100℃以上150℃以下の範囲で2GPa≦E’≦11GPaであり、且つ前記基材の動的粘弾性測定によるtanδピークが220℃未満の範囲になく、
前記ガスバリアー層は、SiO の組成を有しており、0.9≦x≦1.3且つ0.4≦y≦0.6の条件を満たし、
前記ガスバリアー層における前記基材側の面に、SiO の組成を有する厚み100nm〜10μmの下地層が設けられており、1.3≦m≦1.7且つ0.4≦n≦0.6の条件を満たすことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガスバリアーフィルムにおいて、
前記基材の動的粘弾性測定によるtanδピークが220℃以上の範囲にあるかtanδのピークがないことを特徴とする。
求項に記載の発明は、請求項1又は2に記載のガスバリアーフィルムにおいて、
前記基材の両面に、前記ガスバリアー層が設けられていることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項1〜の何れか一項に記載のガスバリアーフィルムにおいて、
前記ガスバリアー層における前記基材とは反対側の面に、SiOの組成を有する保護層が設けられており、1.3≦m≦1.7且つ0.4≦n≦0.6の条件を満たしていることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項1〜の何れか一項に記載のガスバリアーフィルムにおいて、
前記基材と前記ガスバリアー層との間に平滑層が形成されていることを特徴とする
求項に記載の発明は、請求項1〜の何れか一項に記載のガスバリアーフィルムにおいて、
前記基材が、耐熱性ポリカーボネートフィルムまたはガラス複合フィルムであることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、電子機器であって、
請求項1〜の何れか一項に記載のガスバリアーフィルムを用いたことを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項1〜の何れか一項に記載のガスバリアーフィルムを製造するガスバリアーフィルムの製造方法であって、
前記基材上に、ポリシラザンを含有する塗布液を塗布して乾燥した塗膜に真空紫外光を照射する改質処理を施して、前記ガスバリアー層を形成することを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項に記載のガスバリアーフィルムの製造方法において、
前記改質処理が施された前記ガスバリアー層に、150℃以上200℃以下の温度で、0.1min以上1000min以下の加熱処理を施すことを特徴とする。
本発明によれば、高いバリアー性能と高耐熱性を有するガスバリアーフィルム、それを用いた電子機器及びガスバリアーフィルムの製造方法を得ることができる。
本発明に係るガスバリアーフィルムの一例を示す説明図(a)(b)である。 本発明に係るガスバリアーフィルムの一例を示す説明図(a)(b)である。 本発明に係るガスバリアーフィルムの一例を示す説明図(a)(b)(c)である。 本発明に係るガスバリアーフィルムの一例を示す説明図(a)(b)(c)である。 本発明のガスバリアーフィルムに用いる基材の動的粘弾性測定結果の一例を示す説明図である。 本発明のガスバリアーフィルムに用いる基材の動的粘弾性測定結果の一例を示す説明図である。
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
本発明に係るガスバリアーフィルムは、所定の基材1上に、少なくとも1層のガスバリアー層2を備えている。
本発明者らが鋭意検討した結果、基材1の貯蔵弾性率(E’)と、その基材1上に設けられたガスバリアー層2のガスバリアー性能が密接に関係していることが見出された。この貯蔵弾性率(E’)とは、一般的に、弾性と粘性を併せ持つフィルムなど高分子材料の剛性(力学的特性)を示す値である。
本発明のガスバリアーフィルムにおける基材1は、所定条件で測定した動的粘弾性測定による貯蔵弾性率(E’)が100℃以上150℃以下の温度範囲で1GPa以上100GPa以下であり、且つ動的粘弾性測定によるtanδピークが150℃未満の範囲にないことを特徴としている。換言すれば、基材1の動的粘弾性測定によるtanδピークが150℃以上の範囲にあるかtanδのピークがないことが本発明の特徴である。
好ましくは、基材1の貯蔵弾性率(E’)が100℃以上150℃以下の温度範囲で10GPa以上50GPa以下であり、且つtanδピークが200℃以上の範囲にある。
基材の貯蔵弾性率(E’)が本発明の範囲よりも低い場合、ガスバリアー層にクラックなどの欠陥が生じ易くなることがある。
また、基材の貯蔵弾性率(E’)が本発明の範囲よりも高い場合、基材の柔軟性が低下してガスバリアーフィルム自体が硬くなり、脆弱になってしまうことがある。
また、基材の貯蔵弾性率(E’)が本発明の範囲内であっても、基材の損失弾性率(E”)が大幅に増大すると、ガスバリアー層にクラックなどの欠陥が生じてしまうことがある。これは、貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E”)の比で表わされるtanδピークの温度にガスバリアーフィルムが晒されると、基材が溶融するなど変質してしまうことで、基材上のガスバリアー層が損傷しやすくなることによる。つまり、ガスバリアーフィルムで液晶表示素子や有機EL素子などの電子デバイスを封止するプロセスに、基材のtanδピークの温度以上の処理温度があると、基材上のガスバリアー層が損傷してしまい、ガスバリアーフィルムのガスバリアー性が大幅に低下してしまうおそれがある。なお、基材のtanδピークの温度は、基材のガラス転移温度に相当する。
すなわち、基材の貯蔵弾性率(E’)と基材のtanδピークが本発明の範囲内にあれば、高温環境に晒される電子デバイスの封止工程や電子機器の製造工程を経ても、ガスバリアーフィルムのガスバリアー性が低下することなく、液晶表示パネルや有機ELパネルなどの電子機器を製造することが可能になる。
なお、一般的にガスバリアー層は、酸化珪素や窒化珪素や酸窒化珪素のような、金属酸化物、金属窒化物若しくは金属酸窒化物からなる緻密な無機薄膜層である。緻密な無機薄膜層は硬くて脆弱であることが知られており、フィルム状の基材にこの様な無機薄膜層を形成した場合、基材の貯蔵弾性率の急激な変化や損失弾性率の急激な上昇により外力を受けやすくなることで、ガスバリアー層にクラックなどの欠陥が生じやすくなると推定している。
また、本発明においては、ガスバリアーフィルムのガスバリアー層2における基材1側の面と、基材1とは反対側の面の少なくとも一方に、ポリシロキサン主体層(下地層3a、保護層3b)が設けられていてもよい。
ガスバリアー層2は、例えば、ポリシラザンを含有する塗布液を塗布し乾燥してなる塗膜に対して真空紫外光を照射することで、そのポリシラザン含有塗膜を改質して形成した層である。
ポリシロキサン主体層(下地層3a、保護層3b)は、例えば、ポリシロキサンを含有する塗布液を塗布し乾燥してなる塗膜に対して真空紫外光を照射することで、そのポリシロキサン含有塗膜を改質して形成した層である。
本発明者らが鋭意検討した結果、ガスバリアー層2は、SiOの組成を有する酸窒化珪素からなり、0.9≦x≦1.3且つ0.4≦y≦0.6の条件を満たしていることが好ましいことがわかった。また、ポリシロキサン主体層(下地層3a、保護層3b)は、SiOの組成を有し、1.3≦m≦1.7且つ0.4≦n≦0.6の条件を満たしていることが好ましいことがわかった。
そして、塗布により成膜したガスバリアー層2とポリシロキサン主体層(下地層3a、保護層3b)の前駆体層(塗膜)に、波長が100nm〜300nm程度の真空紫外光を照射して改質することで、ガスバリアー層2とポリシロキサン主体層を形成することが好ましい。このような手法をとることによって、大気圧下での連続生産が可能になり、ガスバリアーフィルムの生産性が向上する好ましい製造方法を実現できる。
さらに、上述した物性を有する基材1にガスバリアー層2を形成した場合、後処理として150℃〜200℃の温度で0.1分〜1000分の加熱アニール処理を施すことで、ガスバリアー層2のガスバリアー性が安定し、ガスバリアーフィルムの性能がより一層向上する。特に、ガスバリアー層2を基材1の両面に設けた場合に、アニール処理の効果は顕著になる。
なお、本願における「ガスバリアー性」とは、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(60±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−2g/(m・24h)以下であり、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10−2ml/m・24h・atm以下であることをいう。
また、基材1の平滑性や基材1に対するガスバリアー層2の密着性を向上させるための中間層として、平滑層4やアンカーコート層を基材表面に設けてもよい。
また、基材1に傷や汚れが付くことを防止するため耐傷層や、基材1が加熱された際に内部から表面へモノマー、オリゴマー等の低分子量成分が析出する、いわゆるブリードアウトを抑制する目的でのブリードアウト防止層5を基材表面に設けてもよい。
具体的に、本発明に係るガスバリアーフィルム10aは、図1(a)に示すように、基材1と、その基材1の一方の面上に積層されたガスバリアー層2を備えている。
また、本発明に係るバリアーフィルム10bは、図1(b)に示すように、基材1と、その基材1の両面に形成されたガスバリアー層2を備えている。
また、本発明に係るガスバリアーフィルム11aは、図2(a)に示すように、基材1と、その基材1の一方の面に形成された平滑層4と、平滑層4上に積層されたガスバリアー層2を備え、さらに基材1の他方の面にブリードアウト防止層5を備えている。
また、本発明に係るガスバリアーフィルム11bは、図2(b)に示すように、基材1と、その基材1の一方の面に形成された平滑層4と、平滑層4上に積層されたガスバリアー層2を備え、さらに基材1の他方の面に形成されたブリードアウト防止層5と、ブリードアウト防止層5上に積層されたガスバリアー層2を備えている。
また、本発明に係るガスバリアーフィルム12aは、図3(a)に示すように、基材1と、その基材1の一方の面に形成された下地層3aと、下地層3a上に積層されたガスバリアー層2を備えている。
また、本発明に係るガスバリアーフィルム12bは、図3(b)に示すように、基材1と、その基材1の一方の面に形成されたガスバリアー層2と、そのガスバリアー層2を覆う保護層3bを備えている。
また、本発明に係るガスバリアーフィルム12cは、図3(c)に示すように、基材1と、その基材1の一方の面に形成された下地層3aと、下地層3a上に積層されたガスバリアー層2と、そのガスバリアー層2を覆う保護層3bを備えている。
なお、下地層3aは、平滑層の機能も兼ね備えている。
また、本発明に係るガスバリアーフィルム13aは、図4(a)に示すように、基材1と、その基材1の両面に順に積層された、下地層3aとガスバリアー層2を備えている。
また、本発明に係るガスバリアーフィルム13bは、図4(b)に示すように、基材1と、その基材1の両面に順に積層された、ガスバリアー層2と保護層3bを備えている。
また、本発明に係るガスバリアーフィルム13cは、図4(c)に示すように、基材1と、その基材1の両面に順に積層された、下地層3aとガスバリアー層2と保護層3bを備えている。
なお、下地層3aは、平滑層の機能も兼ね備えている。
以下、本発明のガスバリアーフィルムの構成について詳細に説明する。
(基材)
本発明のガスバリアーフィルムを構成し、ガスバリアーフィルムの支持体となる基材は、可撓性を有する折り曲げ可能なフィルム基材であることが好ましく、また連続使用可能温度が150℃以上である耐熱性のフィルム基材であることが好ましい。
このガスバリアーフィルムの基材に適用可能なフィルム基材は、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率(E’)が100℃以上150℃以下の温度範囲で1GPa以上100GPa以下であり、且つ動的粘弾性測定によるtanδピークが150℃未満の範囲にないものである。つまり、基材1の動的粘弾性測定によるtanδピークが150℃以上の範囲にあるものか、tanδのピークがないものが好ましい。
このような動的粘弾性を有する基材としては、ポリエチレンナフタレートフィルム、耐熱性ポリカーボネートフィルム、ガラス複合フィルム等を挙げることができる。
ポリエチレンナフタレートフィルムであれば、アニール処理されたものが好ましく、特に110℃で24hr以下のアニール処理が施されたものが好ましい。
耐熱性ポリカーボネートフィルムとしては、例えば、特開2004−099754号公報に記載の素材を用いることができる。
ガラス複合フィルムとしては、例えば、特開2011−68787号公報に記載の素材を用いることができる。
ここで、本発明のガスバリアーフィルムに基材として用いるガラス複合フィルムの動的粘弾性測定結果の一例を示す。
図5に示すガラス複合フィルムの動的粘弾性測定結果では、貯蔵弾性率(E’)が100℃以上150℃以下の温度範囲で1GPa以上100GPa以下であるとともに、tanδピークが230℃〜240℃の範囲(150℃以上)にあることがわかる。
また、図6に示すガラス複合フィルムの動的粘弾性測定結果では、貯蔵弾性率(E’)が100℃以上150℃以下の温度範囲で1GPa以上100GPa以下であり、tanδのピークはないことがわかる。
このような物性を有する基材であれば、本発明のガスバリアーフィルムに好適に用いることができる。
なお、基材の厚さは5〜500μm程度が好ましく、更に好ましくは25〜250μmである。
また、バリアーフィルムの支持体として機能する基材は、光透過性を有し、透明であることが好ましい。基材が透明であり、基材上に形成する構成層も透明であることにより、透明なバリアーフィルムとすることが可能となるため、有機EL素子等の透明基板とすることも可能となるからである。
(ガスバリアー層)
本発明におけるガスバリアー層は、公知のバリアー層を広く適用することが可能であり、CVD法に代表される蒸着方式で形成されるバリアー層や、塗布液を塗布して塗膜を成膜する手法により形成されるバリアー層であってもよい。
また、ガスバリアー層は単層であっても、複数の同様な層の積層体であってもよい。ガスバリアー層を複数層とすることで、ガスバリアー性を向上させることもできる。また、ガスバリアー層を複数層とする場合、ガスバリアー層間に他の構成層を積層してもよく、例えば、水吸着性材料または水と反応性のある材料を含むデシカント層を設置してもよい。
また、ガスバリアー層は、基材の片面に設けられていても、基材の両面に設けられていてもよい。
特に、本発明においては、基材上にポリシラザン骨格を有するシリコン化合物層(ポリシラザン層)を設けた後、そのシリコン化合物層に所定の改質処理を施して形成したガスバリアー層であることが好ましい。
シリコン化合物層は、ポリシラザン含有液を塗布して形成することができる。シリコン化合物層に施す改質処理としては、波長100nm〜200nmの真空紫外光を照射する真空紫外光照射処理が好ましい。シリコン化合物層は、真空紫外光の照射によって改質されて、酸窒化珪素を含むガスバリアー層となる。
このポリシラザン層(ポリシラザン骨格を有するシリコン化合物層)を改質してなるガスバリアー層が高いガスバリアー性能を発現する要因として、本発明者らは、ポリシラザンに含まれる3〜5つの環状構造が、酸化珪素や酸窒化珪素の緻密構造を形成することに有利な原子間距離をとっていることが主要因であると考えている。そして、ポリシラザン層に既にある短距離秩序に真空紫外光照射の改質処理が関与し、少ないエネルギーで層構造を秩序化でき、例えば1000℃以上での溶解・再配列・結晶化といったプロセスが不要であるためと推察している。また、真空紫外光を照射する処理においては、その真空紫外光によるSi−OHなどの化学結合の切断と、照射空間で生成されるオゾンによる酸化とが併発するため、その化学結合切断処理とオゾン酸化処理を併用する改質処理よって効率的な改質がなされることも好ましい要因であると推察している。
ガスバリアー層は、ガスバリアー性、安定性、透明性等の観点から、SiOの組成を有する酸窒化珪素からなり、0.9≦x≦1.3且つ0.4≦y≦0.6の条件を満たしていることが好ましい。
このような組成のガスバリアー層を成膜するには、CVD法に代表される蒸着方式の場合では、ガス化原料及びプラズマ空間のガス比率を制御することで実現できる。また、ポリシラザン塗膜を真空紫外光照射で改質する場合では、真空紫外光を照射する空間の雰囲気と照射エネルギーを制御することで実現できる。
本発明のガスバリアー層の厚みは1層あたり1nm〜500nmが好ましい、より好ましくは10nm〜300nmである。1nmより薄いとバリアー性能が発揮できず、500nmより厚くなると、緻密な酸窒化珪素膜にクラックが入りやすくなる。ガスバリアー性能の向上とクラック防止を両立する手法の一例として、トータル膜厚を一定にして層を細分化することが挙げられる。こうすることで酸窒化珪素膜形成時の残留応力が低減でき、ガスバリアー層の隣接層と合わせて高度に改質した場合でもクラックを抑制することが可能になる。また、ガスバリアー層の細分化層を逐次積層することにより、各細分化層の欠陥の位置をずらすことが可能になり、迂回効果により更にガスバリアー性能が向上する。
(ポリシラザン含有液、その塗布膜)
本発明において、基材上あるいは基材上に形成した中間層(例えば平滑層)上に設けるガスバリアー層となるポリシラザン層は、ポリシラザンを含んだ塗布液を塗布し、ポリシラザンを含有する塗膜として形成することができる。
ポリシラザンを含んだ塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
塗膜の厚さは、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、塗布厚さは、乾燥後の厚さが好ましくは1nm〜100μm程度、さらに好ましくは10nm〜10μm程度、最も好ましくは10nm〜1μm程度となるように設定され得る。
なお、塗布に先立って塗膜を安定に形成するために、基材の塗布面を表面処理することも可能である。表面処理の方法としては、火炎処理、コロナ放電処理、グロー放電処理、酸素プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマ光処理等、従来公知の処理方法が挙げられる。このような表面処理により、基材の塗布面と塗布液の接触角が10°〜30°になるように処理することが好ましい。30°より大きな接触角の場合、均一な塗膜形成が難しかったり、ガスバリアー層の密着強度が落ちたりすることがある。10°よりも小さな接触角の場合、基材表面が劣化・損傷し、ガスバリアー層の密着強度が落ちる場合がある。
(ポリシラザン)
本発明で用いられる「ポリシラザン」とは、珪素−窒素結合を持つポリマーで、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO、Si及び両方の中間固溶体SiO等のセラミック前駆体無機ポリマーである。
また、ポリシラザンとしては、基材の性状を損なわないように塗布するために、比較的低温でセラミック化してシリカに変性する化合物が好ましく、例えば、特開平8−112879号公報に記載の下記一般式(1)で表される単位からなる主骨格を有する化合物が好ましい。
Figure 0006073549
上記一般式(1)において、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基などを表す。
本発明では、得られるガスバリアー層としての緻密性の観点から、R、R及びRの全てが水素原子であるパーヒドロポリシラザンが特に好ましい。
また、そのSiと結合する水素原子部分の一部がアルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンは、メチル基等のアルキル基を有することにより下地である基材との接着性が改善され、かつ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より膜厚(平均膜厚)を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。そこで用途に応じて適宜、パーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンを選択してよく、混合して使用することもできる。
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と、6及び8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)で、液体または固体の物質があり、その状態は分子量により異なる。これらは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有塗布液として使用することができる。
低温でセラミック化するポリシラザンの他の例としては、上記一般式(1)で表される単位からなる主骨格を有するポリシラザンに、珪素アルコキシドを反応させて得られる珪素アルコキシド付加ポリシラザン(例えば、特開平5−238827号公報参照)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−122852号公報参照)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−240208号公報参照)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(例えば、特開平6−299118号公報参照)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(例えば、特開平6−306329号公報参照)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(例えば、特開平7−196986号公報参照)等が挙げられる。
ポリシラザンを含有する第1の塗布液を調製する有機溶媒としては、ポリシラザンと容易に反応するような特性を有するアルコール系や水分を含有するものを用いることは好ましくない。従って、具体的には、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒や、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。詳しくは、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の炭化水素、塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等がある。これらの有機溶媒は、ポリシラザンの溶解度や有機溶媒の蒸発速度等の特性にあわせて選択し、複数の有機溶媒を混合してもよい。
ポリシラザン含有の塗布液中におけるポリシラザン濃度は、目的とするポリシラザン塗膜の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、0.2〜35質量%程度であることが好ましい。
本発明においてポリシラザンを含有する組成物としては、パーヒドロポリシラザンを含有していれば特に制限はない。組成物中のパーヒドロポリシラザン以外の材料としては、パーヒドロポリシラザン及びその溶媒と塗布可能な程度の相溶性を有していれば、いかなる材料を用いてもよい。
また、組成物中には、パーヒドロポリシラザンに対し、0.1〜10質量%程度で酸化反応を促進するために添加されるアミンや金属等の触媒を含んでもよく、特にアミン触媒を0.5〜5質量%含むことが、塗布性及び反応の短時間化の点で好ましい。
組成物中の溶媒、添加剤を除いたパーヒドロポリシラザンの含有率としては、80質量%以上であることがバリアー性の観点から好ましく、100質量%、すなわち、パーヒドロポリシラザンのみからなることが、緻密で高いバリアー性を有する膜を形成できる点で最も好ましい。
本発明におけるパーヒドロポリシラザンとして入手可能な材料は、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製 アクアミカ NN120、NN110、NAX120、NAX110、NL120A、NL110A、NL150A、NP110、NP140等が挙げられる。
(ポリシロキサン主体層(下地層、保護層))
本発明のガスバリアー層における基材側の面に下地層を設け、また基材とは反対側の面に保護層を設けてもよい。下地層と保護層は、それぞれポリシロキサンを主体とし、ポリシロキサン骨格を有する層であって、ポリシロキサン含有液を塗布して成膜したシリコン化合物膜に、所定の改質処理を施して形成することができる。その改質処理としては、波長100nm〜200nmの真空紫外光を照射する真空紫外光照射処理が好ましい。この真空紫外光照射による改質によって原料のポリシロキサン由来の有機基を含むポリシロキサン主体層を形成できる。
ポリシロキサン材料は、例えば、(−SiR−O−SiR−O−SiR−)といったシリコン−酸素結合を有する重合体である。ポリシロキサン材料は、その骨格に炭素を含む官能基(C2n+1)を含んでもよいが、炭素数が大き過ぎると、無機成分からなるガスバリアー層との界面密着性が低下してしまったり、ポリシロキサン主体層自体の剛性が低下してしまったりするので、ガスバリアー層の下地層又は保護層とする材料としては好ましくない。このため無機骨格に含まれる官能基の炭素数nは0〜3が好ましく、より好ましくは0〜1である。
具体的には、ポリシロキサン材料としては、水素化シルセスキオキサン(HSQ)、メチル化シルセスキオキサン(MSQ)などが挙げられる。市販の製品としては、信越シリコーン製SR−13(MSQタイプ)、信越シリコーン製X−40−9225(メチル系高分子量タイプ)、JSR(株)製グラスカHPC7003(メチル系タイプ)等が挙げられる。
本発明のポリシロキサン主体層(下地層、保護層)に用いるポリシロキサンの分子量としては1000〜10000が好ましく、3000〜6000がより好ましい。
分子量が1000より小さいと、本発明の方法で成膜した場合に、クラック等の欠陥が発生しやすくなる。また、分子量が10000より大きいと、ゲル化が進行しやすく材料の保管が難しくなることや製造時のポットライフが短くなる問題が発生する。
また、ポリシロキサン主体層(下地層、保護層)は、膜安定性、透明性等の観点から、SiOの組成を有し、1.3≦m≦1.7且つ0.4≦n≦0.6の条件を満たしていることが好ましい。
このような組成で膜質が良好なポリシロキサン主体層を成膜するには、ポリシロキサン含有液を塗布して成膜したシリコン化合物膜に、真空紫外光を照射して改質する際に、真空紫外光照射空間の雰囲気と照射エネルギーを制御し、ポリシロキサン主体層の三次元架橋を促進することで実現できる。
本発明のポリシロキサン主体層の厚みは、100nm〜10μmが好ましい。より好ましくは300nm〜4μmである。100nmより薄いとイオントラップ効果が小さく、保護層や下地層としての機能が十分で無くなる。10μmより厚いとヒビ割れ(クラック)が生じやすくなり、フレキシビリティに問題が出てきたり、カールバランスがとりづらくなったりする。
(ポリシロキサン含有液、その塗布膜)
本発明において、ガスバリアー層に隣接させて設けるポリシロキサン主体層(下地層、保護層)となるポリシロキサン含有シリコン化合物膜は、ポリシロキサンを含んだ塗布液を塗布し、ポリシロキサンを含有する塗膜として形成することができる。
ポリシロキサンを含んだ塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
塗膜の厚さは、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、塗布厚さは、乾燥後の厚さが好ましくは1nm〜100μm程度、さらに好ましくは10nm〜10μm程度、最も好ましくは10nm〜1μm程度となるように設定され得る。
なお、ポリシラザン含有塗布膜と同様に、塗膜を安定させるため、塗布に先立って基材の塗布面を従来公知の方法で表面処理することも可能である。
〔改質処理〕
<紫外線照射による改質処理>
ポリシラザンを含有するポリシラザン層(ポリシラザン骨格を有するシリコン化合物層)と、ポリシロキサンを含有するポリシロキサン層(ポリシロキサン骨格を有するシリコン化合物膜)に対して施す改質処理は、適度な酸化性ガス雰囲気下と低湿度環境下で紫外線を照射することにより行う。
ポリシラザン層やポリシロキサン層の珪素化合物層に紫外線を照射することにより、活性酸素やオゾンが発生し、酸化反応が進行することで、所望の組成を有する珪素含有膜(無機膜)を得ることができる。
この活性酸素やオゾンは非常に反応性が高いため、塗膜中の珪素化合物は、シラノールを経由することなく直接酸化されることで、より高密度で欠陥の少ない酸化珪素膜あるいは酸窒化珪素膜が形成される。
本発明における改質処理は、加熱処理と組み合わせて行うことがより好ましい。
また、反応性オゾンの不足分を紫外線照射とは異なる部分で、放電法等の公知の方法によって酸素からオゾンを生成し、紫外線照射部位に導入してもよい。
このときに照射する紫外線の波長は特に限定されないが、紫外線の波長は100〜450nmが好ましく、100〜300nm程度の真空紫外光を照射することがより好ましい。
紫外線を出力する光源としては、低圧水銀灯、重水素ランプ、キセノンエキシマランプ、メタルハライドランプ、エキシマレーザー等を用いることができる。光源の出力としては400W〜30kW、照度としては100mW/cm〜100kW/cm、照射エネルギーとしては10〜5000mJ/cmが好ましく、100〜2000mJ/cmがより好ましい。また、紫外線照射の際の照度は1mW/cm〜10W/cmが好ましい。
上記の中でも、波長としては、100〜200nmの真空紫外光が最も好ましく、酸化反応をより低温、短時間で進めることが可能となる。また、光源としては、キセノンエキシマランプ等の希ガスエキシマランプが最も好ましく用いられる。
例えば、パーヒドロポリシラザンを含有する組成物から形成した塗膜中のポリシラザンに、酸化性ガス雰囲気下で紫外線を照射することにより、ポリシラザンが高密度のケイ素酸化物膜、すなわち高密度シリカ膜に転化するが、そのシリカ膜の膜厚や密度は紫外線の強度、照射時間、波長(光のエネルギー密度)により制御が可能であり、所望の膜構造を得るために光源の種類を使い分ける等、適宜選択することが可能である。また、連続的に照射するだけでなく複数回の照射を行ってもよく、複数回の照射が短時間であるパルス照射であってもよい。
また、紫外線照射と同時に塗膜を加熱することも、反応(酸化反応、転化処理、改質処理ともいう)を促進するために好ましく用いられる。加熱の方法は、ヒートブロック等の発熱体に基板を接触させ熱伝導により塗膜を加熱する方法、抵抗線等による外部ヒーターにより雰囲気を加熱する方法、IRヒーターの様な赤外領域の光を用いた方法等が挙げられるが、特に限定はされない。加熱処理を行い場合、塗膜の平滑性を維持できる方法を適宜選択すればよい。
加熱する温度としては、100〜250℃の範囲が好ましく、更に好ましくは150〜200℃の範囲である。加熱時間としては、0.1min〜1000minの範囲が好ましい。
<真空紫外線(VUV光)照射による改質処理>
光照射処理・紫外線照射処理の中でも特に好ましいのは、真空紫外光(VUV光)処理である。
この真空紫外光照射により、ポリシラザンやポリシロキサンの分子結合を切断し、また塗膜内若しくは雰囲気内に微量に存在する酸素でも効率的にオゾン若しくは活性酸素に変換することが可能であり、塗膜表面のセラミックス化(シリカ改質)が促進され、また得られるセラミックス膜が一層緻密になる。真空紫外光照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
本発明における真空紫外光とは、具体的には100〜200nmの真空紫外線が用いられる。真空紫外光の照射強度及び/または照射時間は、適宜設定することが可能である。真空紫外光照射装置は、市販のランプ(例えば、ウシオ電機製)を使用することが可能である。
真空紫外光照射はバッチ処理にも連続処理にも適応可能であり、被塗布基材の形状によって適宜選定することができる。
例えば、バッチ処理の場合には、塗膜を設けた基材を、真空紫外光発生源を具備した真空紫外線焼成炉内に収容して、真空紫外線焼成炉内で処理して表面をセラミックス化することができる。真空紫外線焼成炉自体は一般に知られており、例えば、ウシオ電機(株)製のものを使用することができる。
また、塗膜を設けた基材が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような真空紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に真空紫外光を照射することにより、表面をセラミックス化することができる。
真空紫外光は、ほとんどの物質の原子間結合力より大きいため、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみによる作用により、直接切断することが可能であるため好ましく用いることができる。この作用を用いることにより、加水分解を必要とせず低温でかつ効率的に改質処理が可能となる。
本発明での処理に必要な真空紫外光源としては、希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。
Xe、Kr、Ar、Ne等の希ガスの原子は化学的に結合して分子を作らないため、不活性ガスと呼ばれる。しかし、放電等によりエネルギーを得た希ガスの原子(励起原子)は他の原子と結合して分子を作ることができる。希ガスがキセノンの場合には、
e+Xe→Xe
Xe+2Xe→Xe +Xe
Xe →Xe+Xe+hν(172nm)
となり、励起されたエキシマ分子であるXe が基底状態に遷移するときに172nmのエキシマ光を発光する。エキシマランプの特徴としては、放射が一つの波長に集中し、必要な光以外がほとんど放射されないので効率が高いことが挙げられる。また、余分な光が放射されないので、対象物の温度を低く保つことができる。さらには始動・再始動に時間を要さないので、瞬時の点灯点滅が可能である。
エキシマ発光を得るには誘電体バリアー放電を用いる方法が知られている。誘電体バリアー放電とは両電極間に誘電体(エキシマランプの場合は透明石英)を介してガス空間を配し、電極に数10kHzの高周波高電圧を印加することによりガス空間に生じる、雷に似た非常に細いmicro dischargeと呼ばれる放電である。micro dischargeのストリーマが管壁(誘電体)に達すると誘電体表面に電荷が溜まるため、micro dischargeは消滅する。誘電体バリアー放電は、このmicro dischargeが管壁全体に広がり、生成・消滅を繰り返している放電である。このため肉眼でも分る光のチラツキを生じる。また、非常に温度の高いストリーマが局所的に直接管壁に達するため、管壁の劣化を早める可能性もある。
効率よくエキシマ発光を得る方法としては、誘電体バリアー放電以外に無電極電界放電でも可能である。容量性結合による無電極電界放電は、別名RF放電とも呼ばれる。ランプと電極及びその配置は基本的には誘電体バリアー放電と同じでよいが、両極間に印加される高周波は数MHzで点灯される。無電極電界放電はこのように空間的、また時間的に一様な放電が得られるため、チラツキが無い長寿命のランプが得られる。
なお、誘電体バリアー放電の場合はmicro dischargeが電極間のみで生じるため、放電空間全体で放電を行なわせるには外側の電極は外表面全体を覆い、かつ外部に光を取り出すために光を透過するものでなければならない。このため細い金属線を網状にした電極が用いられる。この電極は光を遮らないようにできるだけ細い線が用いられるため、酸素雰囲気中では真空紫外光により発生するオゾン等により損傷しやすい。これを防ぐためにはランプの周囲、すなわち照射装置内を窒素等の不活性ガスの雰囲気にし、合成石英の窓を設けて照射光を取り出す必要が生じる。合成石英の窓は高価な消耗品であるばかりでなく、光の損失も生じる。
エキシマ発光に用いる二重円筒型ランプは、外径が25mm程度であるため、ランプ軸の直下とランプ側面では照射面までの距離の差が無視できず、照度に大きな差を生じる。従って、仮にランプを密着して並べても、一様な照度分布が得られない。合成石英の窓を設けた照射装置にすれば酸素雰囲気中の距離を一様にでき、一様な照度分布が得られる。
無電極電界放電を用いた場合には外部電極を網状にする必要はない。ランプ外面の一部に外部電極を設けるだけでグロー放電は放電空間全体に広がる。外部電極には通常アルミのブロックで作られた光の反射板を兼ねた電極がランプ背面に使用される。しかし、ランプの外径は誘電体バリアー放電の場合と同様に大きいため、一様な照度分布にするためには合成石英が必要となる。
細管エキシマランプの最大の特徴は構造がシンプルなことである。石英管の両端を閉じ、内部にエキシマ発光を行なうためのガスを封入しているだけである。細管ランプの管の外径は6〜12mm程度で、あまり太いと始動に高い電圧が必要になる。
放電の形態は誘電体バリアー放電でも無電極電界放電のいずれでも使用できる。電極の形状はランプに接する面が平面であってもよいが、ランプの曲面に合わせた形状にすればランプをしっかり固定できるとともに、電極がランプに密着することにより放電がより安定する。またアルミで曲面を鏡面にすれば光の反射板にもなる。
Xeエキシマランプは波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。また、有機物の結合を解離させる波長の短い172nmの光のエネルギーは能力が高いことが知られている。こうした活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間で珪素化合物層(ポリシラザン層、ポリシロキサン層)の改質を実現できる。したがって、Xeエキシマランプは、波長185nmや254nmの光を発する低圧水銀ランプやプラズマ洗浄と比べて高スループットであり、高スループットに伴うプロセス時間の短縮や設備面積の縮小が可能であり、また熱によるダメージを受けやすい有機材料やプラスチック基板等への照射を可能としている。
エキシマランプは光の発生効率が高いため低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域で短い波長でエネルギーを照射するため、照射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を持っている。
また、真空紫外光の照射強度が高ければ、光子と珪素化合物(ポリシラザン、ポリシロキサン)内の化学結合が衝突する確率が増え、改質反応を短時間化することができる。また、内部まで侵入する光子の数も増加するため改質膜厚も増加及び/または膜質の良化(高密度化)が可能である。但し、照射時間が長すぎると平面性の悪化や塗膜中の珪素化合物以外の材料にダメージを与える場合がある。一般的には、照射強度と照射時間の積で表される積算光量で反応進行具合を考えるが、酸化シリコンのように組成は同一でも、様々な構造形態をとるこの材料においては、照射強度の絶対値が重要になる場合もある。
従って、本発明では真空紫外光照射工程において、少なくとも1回は100〜200mW/cmの最大照射強度を与える改質処理を行うことが好ましい。この強度以下であると急激に改質効率が劣化し、処理に時間を要することになる。一方、照射強度をこれより高くすると、ランプやランプユニットのその他の部材へのダメージが大きくなり、ランプ自体の劣化を早めることになってしまう。
真空紫外光の照射時間は、任意に設定可能であるが、高照度工程での照射時間は0.1秒〜3分間が好ましい。より好ましくは0.5秒〜1分である。
真空紫外光照射時の酸素濃度は500〜10000ppm(1%)とすることが好ましい。より好ましくは、1000〜5000ppmである。前記の濃度範囲より酸素濃度が高いと改質効率が低くなる。また前記の濃度範囲より低い酸素濃度の場合、大気との置換時間が長くなるのと同時に、ロール・トゥ・ロールの様な連続生産を行う場合はウエッブ搬送によって、真空紫外照射庫内に巻き込む空気量(酸素を含む)が多くなり、多大な流量のガスを流さないと酸素濃度を調整できなくなってくる。
珪素化合物(ポリシラザン、ポリシロキサン)を含有する塗膜中には、塗布時に酸素及び微量の水分が混入しており、さらには塗膜以外でも、薄膜ガラスや樹脂層等に吸着酸素や吸着水があり、照射庫内に敢えて酸素を導入しなくとも、改質反応に要する酸素を供給する酸素源は十分にあることが分かった。
また、172nmの真空紫外光が酸素により吸収され、膜面に到達する172nmの光量が減少してしまい、真空紫外光による処理の効率が低下することがある。すなわち、真空紫外光照射時には、できるだけ酸素濃度の低い状態で、真空紫外光が効率よく塗膜まで到達する状態で改質処理することが好ましい。
真空紫外光照射時にこれら酸素以外のガスとしては乾燥不活性ガスを供給することが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスを用いることが好ましい。酸素濃度の調整は照射庫内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
(その他の構成層)
次いで、本発明のガスバリアーフィルムに用いられる、ガスバリアー層及びポリシロキサン主体層(下地層、保護層)以外の構成層について説明する。
(アンカーコート層)
本発明に用いる基材の表面には、ガスバリアー層や平滑層などとの密着性を向上させるためのアンカーコート層を形成してもよい。
このアンカーコート層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、及びアルキルチタネート等を、1種または2種以上併せて使用することができる。これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により基材上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコート層を形成することができる。
このアンカーコート剤の塗布量としては、乾燥状態で0.1〜5g/m程度が好ましい。
(平滑層)
本発明のガスバリアーフィルムは、基材とガスバリアー層との間にさらに平滑層を有してもよい。平滑層は突起等が存在する基材の表面、例えばフィルム基材等の粗面を平坦化し、凹凸やピンホールを埋めるために設けられる。このような平滑層は、基本的には光重合性モノマーを光硬化させて形成される。
平滑層を形成する光重合性モノマーとしては、例えば、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物を含有する光重合性モノマー組成物、アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物を含有する光重合性モノマー組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、グリセロールメタクリレート等の多官能アクリレートモノマーを溶解させた光重合性モノマー組成物等が挙げられる。また、上記のような光重合性モノマー組成物の任意の混合物を使用することも可能であり、光重合性不飽和結合を分子内に1個以上有する反応性のモノマーを含有している組成物であれば特に制限はない。
光重合性不飽和結合を分子内に1個以上有する反応性モノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、n−デシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、アリルアクリレート、ベンジルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ブトキシエチレングリコールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、グリセロールアクリレート、グリシジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソボニルアクリレート、イソデキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−メトリキエチルアクリレート、メトキシエチレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ステアリルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサジオールジアクリレート、1,3−プロパンジオールアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、2,2−ジメチロールプロパンジアクリレート、グリセロールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリオキシエチルトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロピオンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピオンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリオキシプロピルトリメチロールプロパントリアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、1,2,4−ブタンジオールトリアクリレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールジアクリレート、ジアリルフマレート、1,10−デカンジオールジメチルアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及び、上記のアクリレートをメタクリレートに換えたもの、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、1−ビニル−2−ピロリドン等が挙げられる。上記の反応性モノマーは、1種又は2種以上の混合物として使用することができる。
光重合性モノマー組成物は光重合開始剤を含有する。光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミン)ベンゾフェノン、α−アミノ・アセトフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンジルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニル−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシ−プロパントリオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モノフォリノ−1−プロパン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モノフォリノフェニル)−ブタノン−1、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、n−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、カンファーキノン、四臭素化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルー等の光還元性物質とアスコルビン酸、トリエタノールアミン等の還元剤の組み合わせ等が挙げられ、これらの光重合開始剤を1種又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
平滑層の形成方法には、特に制限はないが、スピンコート法、スプレーコート法、ブレードコート法、バーコート法、ディップ法等のウエットコーティング法、あるいは、蒸着法等のドライコーティング法により上記光重合性モノマー組成物を塗布し乾燥した塗膜を形成した後、紫外線を照射することにより形成することが好ましい。尚、紫外線を照射する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどから発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を利用することができる。照射エネルギーは、0.1〜100J/cmが好ましい。
また、平滑層の形成では、上述の光重合性モノマー組成物に、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を加えることができる。また、平滑層の積層位置に関係なく、いずれの平滑層においても、成膜性向上および膜のピンホール発生防止等のために適切な樹脂や添加剤を使用してもよい。
光重合性モノマー組成物を含む塗布液に使用する溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、α−もしくはβ−テルピネオール等のテルペン類等、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、ジエチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン等のケトン類、トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2−メトキシエチルアセテート、シクロヘキシルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等の酢酸エステル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル、3−エトキシプロピオン酸エチル、安息香酸メチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
平滑層の平滑性は、JIS B 0601(2001年)で規定される表面粗さで表現される値で、最大断面高さRt(p)が、10nm以上、30nm以下であることが好ましい。この範囲よりも値が小さい場合には、光重合性モノマー組成物を含む塗布液を塗布する段階であって、ワイヤーバーやワイヤレスバーなどの塗布方式で平滑層表面に塗工手段が接触する場合に、塗布性が損なわれる場合がある。また、この範囲よりも大きい場合には、塗布液を塗布してなる塗膜の凹凸を平滑化することが難しくなる場合がある。
表面粗さは、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて、極小の先端半径の触針を持つ検出器で連続測定した凹凸の断面曲線から算出され、極小の先端半径の触針により測定方向が数十μmの区間内を多数回測定された、微細な凹凸の振幅に関する粗さである。
平滑層としての好ましい態様のひとつに、平滑層を構成する樹脂中に、その樹脂と光重合反応性を有する重合性基が導入された反応性シリカ粒子(以下、単に「反応性シリカ粒子」ともいう)を含むものがある。例えば、光重合性を有する重合性基(感光性基)としては、(メタ)アクリロイルオキシ基に代表される重合性不飽和基などを挙げることができる。また、光重合性モノマー組成物は、この反応性シリカ粒子の表面に導入された光重合反応性を有する感光性基と光重合反応可能な化合物、例えば、重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物を含むものであってもよい。また、光重合性モノマー組成物としては、このような反応性シリカ粒子や重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物に適宜汎用の希釈溶剤を混合することによって固形分を調整したものを用いることができる。
ここで、反応性シリカ粒子の平均粒子径としては、0.001〜0.1μmの平均粒子径であることが好ましい。平均粒子径の測定方法としては、特に限定するものではないが、測定精度や簡便性から動的光散乱法若しくはレーザー散乱法を用いることが好ましい。平均粒子径をこのような範囲にすることにより、後述する平均粒子径1〜10μmの無機粒子からなるマット剤と組み合せて用いることによって、防眩性と解像性とをバランスよく満たす光学特性とハードコート性とを兼ね備えた平滑層を形成し易くなる。尚、このような効果をより得易くする観点からは、更に平均粒子径として0.001〜0.01μmのものを用いることがより好ましい。
本発明に用いられる平滑層中には、上述の様な無機粒子を質量比として20%以上60%以下含有することが好ましい。20%以上添加することで、ガスバリアー層やポリシロキサン主体層との密着性が向上する。また60%以下であれば、フィルムを湾曲させたり、加熱処理を行った場合にクラックが生じたりすることがなく、バリアーフィルムの透明性や屈折率などの光学的物性に影響を及ぼすことがない。
本発明では、重合性不飽和基修飾加水分解性シランが、加水分解性シリル基の加水分解反応によって、シリカ粒子との間に、シリルオキシ基を生成して化学的に結合しているようなものを、反応性シリカ粒子として用いることができる。
加水分解性シリル基としては、例えば、アルコキシリル基、アセトキシリル基等のカルボキシリレートシリル基、クロシリル基等のハロゲン化シリル基、アミノシリル基、オキシムシリル基、ヒドリドシリル基等が挙げられる。
重合性不飽和基としては、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、プロペニル基、ブタジエニル基、スチリル基、エチニイル基、シンナモイル基、マレート基、アクリルアミド基等が挙げられる。
本発明での平滑層の厚さとしては、好ましはく1〜10μm、より好ましくは2〜7μmである。1μm以上にすることにより、平滑層を有するフィルムとしての平滑性を十分なものにし易くなり、10μm以下にすることにより、フィルムの光学特性のバランスを調整し易くなるとともに、平滑層を透明高分子フィルムの一方の面にのみ設けた場合におけるバリアーフィルムのカールを抑え易くすることができるようになる。
平滑層に用いる添加剤として、マット剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、前記電離放射線樹脂を形成するために用いられる光重合開始剤等を含有させてもよい。
マット剤としては、平均粒子径が0.1〜5μm程度の無機粒子が好ましい。このような無機粒子としては、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム等の1種又は2種以上を併せて使用することができる。
ここで、無機粒子からなるマット剤は、ハードコート剤(平滑層を構成する樹脂)の固形分100質量部に対して好ましくは2質量部以上、より好ましくは4質量部以上、さらに好ましくは6質量部以上であって、かつ好ましくは20質量部以下、より好ましくは18質量部以下、さらに好ましくは16質量部以下の割合で混合されていることが望ましい。
また、熱可塑性樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリ酢酸ビニル及びその共重合体、ポリ塩化ビニル及びその共重合体、ポリ塩化ビニリデン及びその共重合体等のビニル系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリアセタール系樹脂、ポリアクリル酸樹脂及びその共重合体、ポリメタクリル酸樹脂及びその共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、線状ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
また、熱硬化性樹脂としては、アクリルポリオールとイソシアネートプレポリマーとからなる熱硬化性ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
また、電離放射線硬化性樹脂としては、光重合性プレポリマー若しくは光重合性モノマーなどの1種又は2種以上を混合した電離放射線硬化塗料に電離放射線(紫外線又は電子線)を照射することで硬化するものを使用することができる。ここで光重合性プレポリマーとしては、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、架橋硬化することにより3次元網目構造となるアクリル系プレポリマーが特に好ましく使用される。このアクリル系プレポリマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート等が使用できる。また光重合性モノマーとしては、上記に記載した多価不飽和有機化合物等が使用できる。
また、光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾインベンゾエート、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−(4−モルフォリニル)−1−プロパン、α−アシロキシムエステル、チオキサンソン類等が挙げられる。
(ブリードアウト防止層)
本発明のバリアーフィルムは、さらにブリードアウト防止層を有していてもよい。ブリードアウト防止層は、平滑層を有する基材(フィルム)を加熱した際に、基材(フィルム)中から未反応のオリゴマーなどが表面へ移行して、接触する面を汚染してしまう現象を抑制する目的で、平滑層を有する基材の面とは反対側の面に設けられることが好ましい。ブリードアウト防止層は、この機能を有していれば、基本的に平滑層と同じ構成をとっても構わない。
ブリードアウト防止層を形成するための、重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物としては、分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する多価不飽和有機化合物、あるいは分子中に1個の重合性不飽和基を有する単価不飽和有機化合物等を挙げることができる。これらは単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ここで、多価不飽和有機化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、単価不飽和有機化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
その他、ブリードアウト防止層には添加剤として、マット剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、光重合開始剤等を含有させてもよい。マット剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、光重合開始剤としては、前述の平滑層の添加剤と同様のものを使用することができる。これら添加剤の詳細は前述と同様であるので説明は省略する。
上記したようなブリードアウト防止層は、ハードコート剤やマット剤及び必要に応じて他の成分を配合し、適宜用いる希釈溶剤によって調製した塗布液を、フィルム表面に従来公知の塗布方法によって塗布した後、電離放射線を照射して硬化させることにより形成することができる。
なお、電離放射線を照射する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどから発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射することや、走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射することにより行うことができる。照射量としては、0.1〜100J/cmが好ましい。
本発明におけるブリードアウト防止層の厚さとしては、1〜10μmが好ましく、より好ましくは2〜7μmである。1μm以上にすることにより、フィルムとしての耐熱性を十分なものにし易くなり、10μm以下にすることにより、フィルムの光学特性のバランスを調整し易くなるとともに、バリアーフィルムのカールを抑え易くすることができるようになる。
(粘着性保護フィルム)
本発明のガスバリアーフィルムは、さらにその最表層に粘着性保護フィルムを有していてもよい。
ガスバリアーフィルムが粘着性保護フィルムを備えることにより、バリアーフィルム表面を損傷から保護することができ、かつ、ガスバリアーフィルムで封止する対象物(例えば液晶表示素子など電子デバイス)に設置し易くなる。
粘着性保護フィルムとしては、ガスバリアーフィルムに適用できれば特に制限はなく、従来公知のものを使用でき、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ケトン樹脂、ビニル樹脂、炭化水素樹脂等で形成されたものを使用できる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
なお、以下の実施例にて作製したガスバリアーフィルムの性能評価は、下記の方法・基準に従って行った。
<動的粘弾性測定(貯蔵弾性率、tanδ)>
TA instruments社製RSA―IIIを用い、引張モードにて25℃〜280℃の温度範囲で、昇温速度3℃/分、周波数1Hzにて測定した。
<水蒸気透過率(WVTR)の評価>
以下の測定方法により評価した。
〈使用装置〉
蒸着装置:日本電子(株)製真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
レーザー顕微鏡:KEYENCE VK−8500
〈評価材料〉
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3〜5mm、粒状)
〈水蒸気バリアー性評価用セルの作製〉
真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置 JEE−400)を使用し、各バリアーフィルム試料のガスバリアー層面(保護層面)に、マスクを用いて1cm×1cmの面積に金属カルシウムを蒸着させた。その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムをもう一つの金属蒸着源から蒸着させた。アルミニウム封止後、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下に移して、アルミニウム蒸着面に封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス社製)を介して厚さ0.2mmの石英ガラスを張り合わせ、紫外線を照射して樹脂を硬化接着させて本封止することで、水蒸気バリアー性評価用セルを作製した。
そして、恒温恒湿度オーブンを用い、得られた評価用セルを60℃、90%RHの高温高湿下で保存し、特開2005−283561号公報に記載の方法に基づき、金属カルシウムの腐食量からセル内に透過した水分量を計算した。
なお、バリアーフィルム面以外からの水蒸気の透過が無いことを確認するために、比較試料としてバリアーフィルム試料の代わりに、厚さ0.2mmの石英ガラス板に金属カルシウムを蒸着した試料を用いたセルで、同様に60℃、90%RHの高温高湿下保存を行い、1000時間経過後でも金属カルシウムの腐食が発生しないことを確認した。
上記のような方法でカルシウムが全て腐食する時間(100%腐食時間)から、平均WVTR(水蒸気透過率)を算出し、以下の基準でガスバリアー性を評価した。
本実施例では、上述のカルシウム腐食法による水蒸気透過率の測定を、未処理のもの、超音波水洗後に大気中120℃で1hr乾燥したもの(大気圧乾燥)、超音波水洗後に減圧環境(1×10−3Torr以下)で200℃×1hr乾燥したもの(減圧乾燥)の各々で行い、下記の基準で評価した。なお、実用上はCレベル以上のレベルランクが必要である。
A:1×10−3未満
B:1×10−3以上5×10−3未満
C:5×10−3以上1×10−2未満
D:1×10−2以上5×10−2未満
E:5×10−2以上
<性能維持レベルの評価>
上述のカルシウム腐食法による水蒸気透過率の測定に関し、未処理のものの評価結果、大気圧乾燥したものの評価結果、減圧乾燥したものの評価結果に基づき、下記の基準でガスバリアーフィルムの性能維持レベルを評価した。
◎:ガスバリアー性能が全てCレベル以上かつ未処理品と処理品(洗浄・乾燥処理)の差が無い若しくは1処理のみ1ランク以内の差異で収まるレベル。
○:ガスバリアー性能が全てCレベル以上かつ未処理品と処理品(洗浄・乾燥処理)の差が1ランク又は2ランク以内の差異で収まるレベル。
△:未処理品と処理品(洗浄・乾燥処理)の差は無いが、未処理品のレベルが実用可能な下限レベル。
×:2ランク以上のバリアー性能劣化が認められる。
<全光線透過率の測定及び評価(光学性能)>
日本電色社製NDH−500を用いて全光線透過率を測定した。そして、未処理品と処理品(洗浄・乾燥処理したもの)の全光線透過率の差(ΔT;劣化)に応じて以下の基準で評価した。
◎:ΔT<2%
○:2%≦ΔT<3%
△:3%≦ΔT<5%
×:5%≦ΔT
<イオン溶出性の評価>
以下の方法により評価した。
〈評価用簡易セルの作製〉
基材上にガスバリアー層を形成したガスバリアーフィルムにおける、そのガスバリアー層上(もしくは保護層上)にITOによる画素電極を形成し、その上に垂直ポリイミド配向層を形成した。他方、同一構成の別の(第2の)ガスバリアーフィルムのガスバリアー層上(もしくは保護層上)に共通電極を形成し、その上に垂直ポリイミド配向層を形成した。こうして準備された2つのガスバリアーフィルムを電極層同士(ポリイミド配向層同士)が対面するよう対向させ、スペーサビーズを用いて両基板の間隔を一定に保ちながら位置合わせし、液晶注入用の開口部を残すように周囲を封止剤で封止した。次に、開口部からVA用液晶MLC−6610(メルク社製)を互いのポリイミド配向層間に注入し、開口部を封止することにより簡易液晶セルの作製を行った。
得られた簡易液晶セルを、60℃の恒温恒湿槽に250hr投入し、液晶セルイオン密度測定装置(東陽テクニカ社製)を用いて電流−電圧のリサージュ波形から溶出イオンの密度を評価した。この時、液晶のダイレクタピークの高さと溶出イオンによるピークの高さを比較して、以下の様に評価した。
○:液晶の駆動にほとんど影響ない。
△:使用可能であるが、液晶の駆動に影響が出る可能性がある。
×:液晶の駆動に影響がある。
[実施例1]
〈基材〉
ガスバリアーフィルムの支持体となる基材として、
「1−1」110℃で24hrアニール処理したポリエチレンナフタレートフィルム(膜厚125μm)、
「1−2」耐熱性ポリカーボネート(帝人社製SS120;膜厚120μm)、
「1−3」積水化学社製ガラス複合材料(膜厚100μm)、
「1−4」低熱収縮処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚125μm)、
を準備した。
〈ブリードアウト防止層の形成〉
上記基材の片面に、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7501を、乾燥後の膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布した後、80℃で3分間の乾燥処理と、空気雰囲気下で高圧水銀ランプを使用した照射エネルギー量1.0J/cmの光照射による硬化処理を行って、ブリードアウト防止層を形成した。なお、実施例、比較例の全てのブリードアウト防止層は共通とした。
〈平滑層の形成〉
続けて上記基材の反対面に、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7501を、乾燥後の膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布した後、80℃で3分間の乾燥処理と、空気雰囲気下で高圧水銀ランプを使用した照射エネルギー量1.0J/cmの光照射による硬化処理を行って、平滑層を形成した。この平滑層の最大断面高さRt(p)は16nmであった。なお、実施例、比較例の全ての平滑層は共通とした。
このように、各基材にブリードアウト防止層と平滑層を形成し、両面ハードコート付の各種フィルム基材である支持基材を作製した。
〈バリアー性フィルムの作製〉
前述の支持基材の平滑層上に、下記の条件の大気圧プラズマCVD法で厚さ30nmのSiOからなるガスバリアー層を成膜しガスバリアーフィルム1−1〜1−4を得た。
《ガスバリアー層の成膜条件》
放電ガス:窒素ガス 94.9体積%
薄膜形成ガス:テトラエトキシシラン 0.1体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
・第1電極側
電源種類 ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 100kHz
出力密度 10W/cm
電極温度 120℃
・第2電極側
電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 10W/cm
電極温度 90℃
作製したガスバリアーフィルム1−1〜1−4の動的粘弾性測定を行った。
また、作製したガスバリアーフィルム1−1〜1−4を、それぞれ超純水に浸漬した状態で超音波を30秒間かけて超音波洗浄を行った。そして、未処理(超音波洗浄なし)、超音波洗浄後に大気圧乾燥したもの、超音波洗浄後に減圧乾燥したものの3種類の水蒸気透過率を測定し、ガスバリアー性能の変化を評価した。ここでの洗浄及び乾燥処理はデバイス作製(電子機器作製)におけるプロセスを簡易化した条件としてみなすことができる。
その評価結果を表1に示す。
Figure 0006073549
表1に示した評価結果から明らかなように、基材の貯蔵弾性率(E’)と基材のtanδピークが本発明の範囲内にあれば、ガスバリアーフィルムに洗浄・乾燥処理を施しても水蒸気透過率の変化が小さいことが分かる。
[実施例2]
実施例1で用いたガラスクロス基材(「1−3」;積水化学社製ガラス複合材料)上に、アミン触媒を1wt%含んだポリシラザン溶液(NAX120とNN120(いずれもAZエレクトロニック社製)を1:4で混合したもの)を改質後の膜厚が150nmになるように塗布し、80℃で5分間乾燥した後、下記に示す条件で波長172nmのエキシマ光を表2に示す積算光量(mJ/cm)となるように照射して、ガスバリアーフィルム2−1〜2−8を得た。
《エキシマ光照射条件》
照射装置:エム・ディ・エキシマ製MRIRH−M−1−200H
基材温度:100℃
積算光量:表2に記載の光量
最大照度:100mW/cm
そして、得られたガスバリアーフィルム2−1〜2−8のガスバリアー層を表面から30nmまでArスパッタで削って蛍光X線分析(XPS)を行い、改質後のガスバリアー層の厚み方向の膜組成(Si/O/N比)を測定したところ、表2に示すような結果が得られた。
作製したガスバリアーフィルム2−1〜2−8を、それぞれ超純水に浸漬した状態で超音波を30秒間かけて超音波洗浄を行った。そして、未処理(超音波洗浄なし)、超音波洗浄後に大気圧乾燥したもの、超音波洗浄後に減圧乾燥したものの3種類の水蒸気透過率を測定し、ガスバリアー性能の変化を評価した。ここでの洗浄及び乾燥処理はデバイス作製(電子機器作製)におけるプロセスを簡易化した条件としてみなすことができる。
その評価結果を表2に示す。
Figure 0006073549
表2に示した評価結果から明らかなように、ガスバリアー層の組成が本発明の範囲(SiO;0.9≦x≦1.3且つ0.4≦y≦0.6の条件を満たす)であれば、ガスバリアーフィルムの水蒸気透過率は良好であり、ガスバリアーフィルムに洗浄・乾燥処理を施しても水蒸気透過率の変化が小さいことが分かる。
また、ガスバリアー層を基材の両面に設けることで、ガスバリアーフィルムの水蒸気透過率が向上することが分かる。
[実施例3]
上記実施例2におけるガスバリアーフィルム2−7と同様のガスバリアー層を形成するとともに、そのガスバリアー層における基材側の面、或いはそのガスバリアー層における基材とは反対側の面、或いはそのガスバリアー層における両面に、それぞれ表3に示すポリシロキサン材料を用いた塗膜を形成した後、表3に示す条件のエキシマ改質処理を施すことで下地層や保護層を形成して、ガスバリアーフィルム3−1〜3−9を得た。
《エキシマ光照射条件》
照射装置:エム・ディ・エキシマ製MRIRH−M−1−200H
基材温度:100℃
積算光量:表3に記載の光量
最大照度:100mW/cm
作製したガスバリアーフィルム3−1〜3−9を、それぞれ超純水に浸漬した状態で超音波を30秒間かけて超音波洗浄を行った。そして、未処理(超音波洗浄なし)、超音波洗浄後に大気圧乾燥したもの、超音波洗浄後に減圧乾燥したものの3種類の水蒸気透過率を測定し、ガスバリアー性能の変化を評価した。ここでの洗浄及び乾燥処理はデバイス作製(電子機器作製)におけるプロセスを簡易化した条件としてみなすことができる。
また、作製したガスバリアーフィルム3−1〜3−9とガスバリアーフィルム2−7の全光線透過率の測定を行い、光学性能を評価した。
その評価結果を表3に示す。
Figure 0006073549
表3に示した評価結果から明らかなように、下地層や保護層の組成が本発明の範囲(SiO;1.3≦m≦1.7且つ0.4≦n≦0.6の条件を満たす)であれば、ガスバリアーフィルムの水蒸気透過率は良好であり、ガスバリアーフィルムに洗浄・乾燥処理を施しても水蒸気透過率の変化が小さいことが分かる。
また、下地層と保護層の一方を備えたガスバリアーフィルム3−1〜3−6は、ガスバリアーフィルム2−7よりも全光線透過率が良好であり、下地層と保護層の両方を備えたガスバリアーフィルム3−7〜3−9は、より一層全光線透過率が良好であった。なお、前述の方法で未処理と処理後(洗浄・乾燥処理後)の全光線透過率を測定し、全光線透過率の変化を評価しところ、処理後のガスバリアーフィルム2−7に全光線透過率の若干の劣化があった。
[実施例4]
上記実施例3におけるガスバリアーフィルム3−7に対し、それぞれ表4に示す加熱温度(100℃〜220℃)で1hrの加熱処理を施して、ガスバリアーフィルム4−1〜4−5を得た。
作製したガスバリアーフィルム4−1〜4−5を基板として用いて簡易の液晶セルを作製し、60℃90%RHに250hr投入後の溶出イオンの量を測定し、前述の基準で評価した。
その評価結果を表4に示す。
Figure 0006073549
表4に示した評価結果から明らかなように、本発明の好ましい範囲である150℃〜200℃で加熱処理を施したものでは、イオン溶出が非常に少なく良好であった。
以上のように、本発明によれば、高いガスバリアー性能と高耐熱性を有するガスバリアーフィルムの製造方法を実現でき、そのように優れた性能を有するガスバリアーフィルムを得ることができる。さらに、そのガスバリアーフィルムを用いることでガスバリアー性に優れた電子機器(例えば、液晶パネル、有機ELパネル)を得ることができる。
なお、本発明の適用は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
1 基材
2 ガスバリアー層
3a 下地層(ポリシロキサン主体層)
3b 保護層(ポリシロキサン主体層)
4 平滑層
5 ブリードアウト防止層
10a、10b ガスバリアーフィルム
11a、11b ガスバリアーフィルム
12a、12b、12c ガスバリアーフィルム
13a、13b、13c ガスバリアーフィルム

Claims (9)

  1. 基材上に、少なくとも1層のガスバリアー層を備えたガスバリアーフィルムにおいて、
    前記基材の動的粘弾性測定による貯蔵弾性率(E’)が100℃以上150℃以下の範囲で2GPa≦E’≦11GPaであり、且つ前記基材の動的粘弾性測定によるtanδピークが220℃未満の範囲になく、
    前記ガスバリアー層は、SiO の組成を有しており、0.9≦x≦1.3且つ0.4≦y≦0.6の条件を満たし、
    前記ガスバリアー層における前記基材側の面に、SiO の組成を有する厚み100nm〜10μmの下地層が設けられており、1.3≦m≦1.7且つ0.4≦n≦0.6の条件を満たすことを特徴とするガスバリアーフィルム。
  2. 前記基材の動的粘弾性測定によるtanδピークが220℃以上の範囲にあるかtanδのピークがないことを特徴とする請求項1に記載のガスバリアーフィルム。
  3. 前記基材の両面に、前記ガスバリアー層が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスバリアーフィルム。
  4. 前記ガスバリアー層における前記基材とは反対側の面に、SiOの組成を有する保護層が設けられており、1.3≦m≦1.7且つ0.4≦n≦0.6の条件を満たしていることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のガスバリアーフィルム。
  5. 前記基材と前記ガスバリアー層との間に平滑層が形成されていることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のガスバリアーフィルム。
  6. 前記基材が、耐熱性ポリカーボネートフィルムまたはガラス複合フィルムであることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載のガスバリアーフィルム。
  7. 請求項1〜の何れか一項に記載のガスバリアーフィルムを用いたことを特徴とする電子機器。
  8. 請求項1〜の何れか一項に記載のガスバリアーフィルムを製造するガスバリアーフィルムの製造方法であって、
    前記基材上に、ポリシラザンを含有する塗布液を塗布して乾燥した塗膜に真空紫外光を照射する改質処理を施して、前記ガスバリアー層を形成することを特徴とするガスバリアーフィルムの製造方法。
  9. 前記改質処理が施された前記ガスバリアー層に、150℃以上200℃以下の温度で、0.1min以上1000min以下の加熱処理を施すことを特徴とする請求項に記載のガスバリアーフィルムの製造方法。
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