しかしながら、上記従来の第1のタイプのキースイッチでは、外形を軸線方向に同径の円柱状に構成することができる点で好ましいが、その半面、軸線方向の寸法が大きくなりやすく、また、軸線方向にコンパクトに構成しようとすると内部構造が複雑になる。さらに、内筒の後方にカム体を設ける必要があるために部品点数が増加してコスト増を招く虞がある。
また、上記従来の第2のタイプのキースイッチでは、軸線方向には薄型化できるものの、軸線方向の後方部分が外周側に張り出した外形となるため、半径方向にコンパクトに構成することができない。また、後方部分が拡径した外形を有するためにキースイッチを扉その他の設備に対して背後から取り付ける必要があり、背後に障害物がある箇所には取り付けられないという問題がある。また、この第2のタイプのキースイッチには上述のようにシリンダバレルとスイッチロータ(カム体)とが一体化されたものがあるが、このような一体化は部品構造の複雑化とともに部品の半径方向寸法の増大を招くため、コスト増とコンパクト化を両立させることが難しいという問題がある。
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、キースイッチにおいて、軸線方向のコンパクト化と半径方向のコンパクト化とを両立することのできる構造を提供することにある。また、別の課題は、外形のコンパクト化とコストの低減とを両立することのできる構造を提供することにある。
斯かる実情に鑑み、本発明のキースイッチは、外筒と、該外筒内に回転可能に収容され軸線方向に伸びる鍵穴を備えた内筒と、第1の接点を備え前記内筒とともに回転する第1の導体、及び、該第1の導体の回転に応じて前記第1の接点に対して接離する第2の接点を備えた第2の導体を有する接点機構と、前記内筒の前記外周面に形成された凸部若しくは凹部よりなる嵌合部、前記外周面と対向する前記外筒の内周面に形成された凹部若しくは凸部よりなる被嵌合部、及び、前記嵌合部と前記被嵌合部の少なくとも一方を半径方向に移動可能に構成しつつ当該一方に対して他方に向けた弾性力を付与する弾性付与構造を有する節度機構と、を具備し、前記内筒は、前記外周面から後端面までが軸線方向に同径の円筒面に沿って構成され、前記接点機構の前記第1の導体は前記内筒の前記後端面上に取り付けられ、前記第2の導体は前記第1の導体の軸線方向の後方に対向配置されることを特徴とする。特に、前記内筒は、内部においてタンブラーを所定の移動する方向に移動可能に収容し、前記鍵穴に合鍵が挿入されたときには前記外筒に対する前記タンブラーの係合が解除されることにより施錠位置と解錠位置の間で回転可能とされ、前記合鍵が挿入されないときには前記外筒に対する前記タンブラーの係合が前記施錠位置で生じて回転不能とされるように構成される錠構造を備える。また、前記接点機構は、前記施錠位置と前記解錠位置の間で接点の切り替えが行われる。さらに、前記節度機構は、前記施錠位置と前記解錠位置においてそれぞれ前記嵌合部と前記被嵌合物とが前記弾性力により嵌合するとともに、この嵌合したときに前記嵌合部、前記被嵌合部及び前記弾性付与構造が前記錠構造に対して前記所定の移動する方向と直交する方向の外周側に配置されるように構成される。
本発明によれば、内筒の後端面上に接点機構を構成する第1の導体が取り付けられることにより、第1の導体が内筒とともに回転し、この回転に応じて第2の導体との間で第1の接点と第2の接点の切り替えが行われる。また、内筒の外周面上の嵌合部と外筒の内周面上の被嵌合部が弾性付与構造により与えられる弾性力によって相互に嵌合することで、前記接点機構の少なくとも一つの接離態様に対応する前記内筒の回転位置で内筒が弾性的に保持されて節度感が得られる。このとき、内筒の外周面から後端面までが軸線方向に同径の円筒面に沿って構成され、その後端面上に第1の導体が直接取り付けられるとともに第2の導体が軸線方向に対向配置されることにより、半径方向の寸法を増大させずに軸線方向のコンパクト化を図ることができる。また、節度機構は、内筒の外周面と外筒の内周面の間に設けられることで、後端面に対して軸線方向に接続される接点機構に対して、軸線方向の前方にずれた位置に配置される。このため、従来構造のように節度機構が接点機構と半径方向に重なった位置に設けられることにより後方部分が半径方向に大きく張り出すといったことを防止できるから、キースイッチの軸線方向と半径方向のコンパクト化を両立させることができる。さらに、内筒の外周面から後端面までの円柱状の外形、その後端面に対する接点機構の軸線方向の直接接続、及び、接点機構と節度機構の軸線方向における分散配置により、キースイッチの外形のコンパクト化を図りつつ、構造の複雑化を回避することが可能になる。
本発明において、前記弾性付与構造は、前記内筒若しくは前記外筒において、前記外周面若しくは前記内周面の一部に設けられた凹所と、該凹所外から前記凹所上へ前記凹所の表面と離間して伸びる弾性変形部とが一体に設けられた構造であり、前記嵌合部と前記被嵌合部のうちの少なくとも一方は、前記弾性変形部の外面上若しくは内面上に形成されることが好ましい。これによれば、内筒若しくは外筒において、凹所と弾性変形部とが一体に設けられることにより、節度感をもたらす弾性力を確保しつつコンパクトに構成できるため、キースイッチのさらなるコンパクト化を図ることができる。
本発明において、前記弾性変形部は前記凹所内を軸線方向に伸びることが好ましい。節度機構において好適な節度感を得るには、嵌合部と被嵌合部の少なくとも一方において充分な弾性変形量を確保する必要があり、このためには弾性変形部を或る程度長くする必要がある。一方、内筒と外筒には施錠と解錠を可能にするためのタンブラーや回転抑止溝などの必須の錠構造が必要であるため、内筒の外周面と外筒の内周面との間に節度機構を設ける場合には上記の必須の錠構造を避ける必要がある。しかし、弾性変形部を軸線周りの回転方向に伸びるように構成すると、上記の必須の錠構造を避けるためには弾性変形部が伸びる角度範囲を小さくする必要があるため、弾性変形部を或る程度長く構成しようとすると内筒の外径や外筒の内径を大幅に増大させなければならない。一方、上記のように弾性変形部を軸線方向に伸びるように構成すれば、上記必須の錠構造を回避するために特定の角度範囲内に限定して形成した場合でも、弾性変形部の長さを確保することが相対的に容易になる。すなわち、適度な弾性特性が得られるようにして節度機構の性能を確保しつつ、内筒若しくは外筒の外径を増大させずに構成することが可能になる。
この場合において、前記弾性変形部は前記凹所内を軸線方向の後方へ向けて伸びることが望ましい。軸線方向に伸びる弾性変形部の長さを確保しつつ、キースイッチ全体の軸線方向の寸法を低減するには、内筒の外周面と外筒の内周面の軸線方向の対向範囲のうちの前方側か後方側に節度機構の嵌合構造(嵌合部と被嵌合部)を配置することが必要になる。しかし、節度機構の嵌合構造を上記対向範囲の前方側に配置すると、上記の必須の錠構造に制約を受けたり構造が複雑化したりする。例えば、内筒のタンブラーの端縁が係合する回転抑止溝を外筒の内周面に形成する場合には、当該回転抑止溝の前方に上記嵌合構造を設ける必要があるため、内筒の前方からの挿入組立作業が困難になるとか、外筒の内面加工が困難になるとかといった不具合が生じ、結果として、構造が複雑になって大型化したり、製造コストの増加を招いたりする虞がある。逆に、節度機構の嵌合構造を上記対向範囲の後方側に配置すると、上記挿入組立作業や外筒の内面加工にも影響を与えにくい。したがって、弾性変形部が軸線方向の後方へ伸びるように構成すれば、軸線方向の前方側から後方側に達するように構成することで、上記対向範囲を軸線方向に長く構成しなくても弾性変形部の長さを十分に確保して好適な節度感を持たせることができるとともに、節度機構の嵌合構造を上記必須の錠構造よりも後方側に配置して両構造の干渉を回避することができるので、キースイッチ全体のコンパクト化、構造の簡易化、製造コスト等の低減を図ることができる。
本発明において、前記弾性変形部の外面若しくは内面は、前記円筒面に沿った曲面であることが好ましい。これによれば、内筒及び外筒の半径方向のさらなるコンパクト化を図ることができる。特に、弾性変形部が軸線方向に伸びる場合には、弾性変形部の断面形状の外縁若しくは内縁の輪郭が曲線状(円弧状)になることにより、弾性変形部の回転方向の剛性を高めることができるため、節度感を向上させることができるとともに、節度機構の耐久性を高めることができる。
本発明において、前記接点機構の前記第1の接点及び前記第2の接点は、前記内筒の前記後端面の半径方向の位置範囲内に配置されていることが好ましい。これによれば、接点機構を半径方向にコンパクトに構成することができるので、キースイッチの更なるコンパクト化を図ることができる。
この場合には、前記第1の導体及び前記第2の導体が前記内筒の前記後端面の半径方向の位置範囲内に配置されていることがさらに好ましい。これによれば、接点機構をさらにコンパクトに構成できる。特に、後述する実施形態のように、接点機構を外筒の内部に収容することも可能になる。
本発明において、前記第1の導体は、前記後端面上に固定された板状の基部と、該基部から軸線方向後方へ傾斜して伸びる帯状ばね部とを有し、該帯状ばね部の先端に前記第1の接点が設けられた弾性接触片であり、前記第2の導体は、配線基板の軸線方向前方の面上に形成され、前記第1の接点が圧接される円弧状経路に沿った位置に前記第2の接点が設けられた導体パターンである場合が挙げられる。ただし、上記とは逆に、第1の導体を導体パターンとし、第2の導体を弾性接触片としてもよい。また、外部出力部には、上記配線基板を用いずに、第2の接点を内部端子部とする外部端子片をそのまま用いても構わない。
本発明において、前記内筒は、第1の半径方向に伸びるタンブラー穴と、該タンブラー穴内において前記第1の半径方向に出没自在に配置され前記鍵穴に臨む鍵係合部を備えたタンブラーと、該タンブラーを前記第1の半径方向に付勢する付勢手段とを有し、前記外筒は、前記タンブラーに係合して前記内筒の回転を抑止する回転抑止溝を有し、前記タンブラーが前記内筒の外周面から突出した時に前記回転抑止溝に係合することにより前記外筒に対する前記内筒の回転が抑止され、前記内筒には、前記第1の半径方向と直交する第2の半径方向の外周面位置に前記弾性付与構造が設けられることが好ましい。これによれば、内筒において、タンブラー孔の伸びる方向及びタンブラーが移動する方向(第1の半径方向)と直交する方向(第2の半径方向)の外周面位置に弾性付与構造が設けられることにより、内筒の外径をコンパクトに構成しつつ、節度機構の形成余裕を確保することができる。
本発明において、前記内筒が前記外筒内に収容された状態で前記外筒に対する前記内筒の軸線方向の少なくとも前方への移動を解除可能に抑止する抜け止め手段を有し、該抜け止め手段が解除されたときに前記外筒に対して前記内筒が軸線方向前方から挿入可能かつ軸線方向前方へ脱出可能に構成されることが好ましい。
この場合において、前記抜け止め手段は、前記内筒の軸線方向の後部に設けられた抜け止め穴と、該抜け止め穴内において半径方向に出没自在に配置された抜け止め片と、前記外筒に設けられ、前記係止部材の突出時において前記抜け止め片に係合して軸線方向前方への抜けを防止する抜け止め係合部とを有し、内筒交換用合鍵が前記抜け止め片の前記抜け止め係合部との係合を解除することで前記外筒から前記内筒が軸線方向前方へ取り出し可能かつ軸線方向後方へ挿入可能に構成されることが望ましい。
本発明によれば、キースイッチにおいて、軸線方向のコンパクト化と半径方向のコンパクト化とを両立することができ、また、別の課題は、外形のコンパクト化とコストの低減とを両立することができるという優れた効果を奏し得る。
次に、添付図面を参照して本発明のキースイッチの実施形態について詳細に説明する。最初に、図1及び図2を参照して、本実施形態の全体構成の概略について説明する。
本実施形態のキースイッチ10は、複数の部品が軸線10xの周りに配置され、相互に軸線10xに沿って組立てられたものである。これらの複数の部品としては、略円筒状の外筒11と、この外筒11の内部の軸線10xの方向の前方側に収容される略円柱状の内筒12と、外筒11の内部の軸線10xの方向の後方側に収容される接点機構13と、この接点機構13を後方から支持する後部キャップ14とが設けられている。
外筒11には内筒12及び接点機構13を収容する収容孔11aが設けられる。この収容孔11aの内面には、内筒12の後述する外周面12sと摺接若しくは対向する内周面11sが設けられる。この内周面11sは軸線10xを中心とする円筒面状に構成される。また、外筒11の前端には設置場所に取り付けるための拡大された取付フランジ11bが形成され、この取付フランジ11bの後方の外周面に雄ねじ11cが形成されている。このキースイッチ10は、図示例の場合、図示しない設置場所に設けられた設置穴内に前方から挿入され、この取付フランジ11bを設置穴の開口縁に係合させた状態で、例えば、後方から雄ねじ11cに螺入された図示しないナットなどで設置穴の開口縁を締め付けることにより、固定できるようになっている。
内筒12は、前端外周に収容孔11aの開口縁の内側にある内面形状と嵌合する前端フランジ12pが形成されている。また、内筒12は、前端フランジ12pの後方に、上記内周面11sと摺接若しくは対向するように、軸線10xの周りの円筒面状に構成された外周面12sを備えている。また、この外周面12sは軸線10xに沿って内筒12の後端部まで同径に構成され、そのまま後端面12tに隣接している。図示例において、この後端面12tは円形の外縁形状を有する平坦面である。
この内筒12には、前面に開口し、軸線方向に伸びる鍵穴12aと、この鍵穴12aと連通して交差し、図示上下方向(上記第1の半径方向)に伸びる図示例では3つのタンブラー穴12bと、このタンブラー穴12bのさらに後方において図示上下方向に伸びる抜け止め穴12cとを備えている。また、軸穴12aは、内筒12の最後部において後端面12tの中央に形成された軸穴12x(図5(a)参照)に連通している。タンブラー穴12bには、タンブラー121が図示上下方向に移動可能に収容され、このタンブラー121を図示上方へ付勢するコイルスプリング等よりなるばね部材122も収容される。タンブラー121には、図示しない合鍵を通過させるとともに、この通過部分で合鍵と係合する鍵係合部が設けられた開口縁を有する開口部が形成される。ただし、各図では、当該鍵係合部を省略し、単なる開口部のみを図示している。また、抜け止め穴12cには、抜け止め片123が図示上下方向に移動可能に収容され、この抜け止め片123を図示上方へ付勢するコイルスプリング等よりなるばね部材124も収容される。なお、後述するように、この抜け止め片123を内筒交換用合鍵で操作して内筒12を交換可能に構成する場合には、抜け止め片123の開口部にも上記鍵係合部を形成すればよい。
内筒12の外周面12sのうちの両側方部分には、凹所12eと、前方から凹所12e上に軸線10xに沿って伸びる弾性変形部12fとが一体に設けられる。この弾性変形部12fは、凹所12eの表面から離間した状態で凹所12e上に伸びる。弾性変形部12fの外面は、上記外周面12sと共通の軸線10xを中心とする円筒面に沿った凸曲面状(円弧面状)に形成されている。この弾性変形部12fの先端側外面部には、節度用の嵌合凸部12gが形成されている。これらの内筒12の側面構造は、後述する外筒11に設けられた嵌合構造とともに節度機構を構成する。
接点機構13は、内筒12の後端面12t上に取り付けられる導電性の弾性接触片15と、この弾性接触片15に設けられたばね接点15cに当接する固定接点161a,161b,161cを備えた導体パターン161を有する配線基板16と、を備えている。図示例では、弾性接触片15は、中央に設けられた平坦な板状の基部15aと、この基部15aから斜め後方へ傾斜して延在する一対の帯状ばね部15bとを有し、これらの帯状ばね部15bの先端に上記ばね接点15cがそれぞれ突設されている。この弾性接触片15は、内筒12の後端面12tに形成されたボス12d(図2参照)に取付穴15dを嵌合させた状態でカシメ等により固定される。なお、図6(a)に示す中央の軸穴15xにねじなどを通して内筒12の軸穴12xに挿入固定することで弾性接触片15を後端面12t上に固定してもよい。
配線基板16は、上記弾性接触片15の後方位置において、前方にある基板面が内筒12の後端面12t及び弾性接触片15と対向するように配置されている。この前方の基板面(絶縁体の基材の表面)上には導体パターン161が形成されている。この導体パターン161には、上記固定接点161a,161b,161cが形成され、これらの固定接点は、上記弾性接触片15のばね接点15cが圧接された状態で内筒12の回転に応じて摺接していく円弧状経路に沿った位置に形成されている。配線基板16は、後述するように、外筒11の後方部分に形成された小穴11d、11d′に嵌合することで、外筒11の内部に固定される。
配線基板16の後方の基板面にはコネクタ17が実装される。コネクタ17は複数の外部端子片171a〜171cと、これらの外部端子片171a〜171cを保持する合成樹脂等の絶縁体からなる保持枠17bとからなる。外部端子片171a〜171cの内端は配線基板16の上記導体パターン161に導電接続され、外部端子片171a〜171cの外端は保持枠17bの接続口17c内に露出している。
後部キャップ14は、外筒11の後縁部に嵌合する外周嵌合部14aと、外筒11の後方部分に形成された小孔11e、11e′に嵌合するフック状の係合部14b,14bと、上記配線基板16を背後から支持する略環状の支持面を備えた略円筒状の支持部14cとを備えている。また、本実施形態では、配線基板16に実装された上記コネクタ17の接続口17cを外部に露出するためのコネクタ開口14dを備えている。なお、図示例では、支持部14cは、コネクタ開口14dを挿通して配置されるコネクタ17の保持枠17との干渉を避けるために、完全な円筒状ではなく、図示下方の左右両側が欠損した形状を備えているが、このような支持部14の形状は他部材との干渉が生じない限り適宜に変更することができる。
本発明においては特に限定されるものではないが、図示例では、以下のような材質で各部品が構成される。まず、外筒11、内筒12及び後部キャップはPC(ポリカーボネート)等の合成樹脂で構成される。また、弾性接触片15やばね部材122,124は、ばね用りん青銅などの弾性金属で構成される。さらに、タンブラー121及び抜け止め片123は、黄銅などの剛性を有する金属で構成される。ここで、外筒11と内筒12の少なくとも一方は、後述する節度機構の摺動性を確保し、また、摺動時の擦過音の発生を防止するために、含油樹脂とすることが好ましい。
次に、上記の各部品の詳細構造及び上記の部品間の相互関係について、図3〜図8を参照してさらに詳しく説明する。外筒11の収容孔11aの内部前端には、図3に示すように、取付フランジ11bの前縁より一段低く構成された、内筒12の前端フランジ12pの背面を支持するためのリング状の受面部111が設けられている。一方、図5に示すように、内筒12の前端フランジ12pの背面には、図示上下位置においてそれぞれ後方に突出する段丘部12q、12rが形成されている。上記の受面部111にはこれらの段丘部12q、12rと摺接する摺動面111a、111bが形成される。また、これらの摺動面111a、111bの間には一段高く形成された停止段部111c、111dが形成される。そして、内筒12の上記段丘部12q,12rが外筒11の上記停止段部111c,111dに当接することで、外筒11に対する内筒12の回転範囲が規制されるようになっている。
上記受面部111の後方には上記内周面11sが形成される。この内周面11sには、上下二箇所において前方にある摺動面111a,111bにそれぞれ開口する回転抑止溝112a,112bが軸線10xの方向に沿って直線状に形成されている。また、この内周面11sの上下左右の四箇所には、軸線方向に伸びる節度用の被嵌合溝113a,113b,113c,113dが形成されている。ここで、節度用の被嵌合溝113a,113cは、上記回転抑止溝112a,112bと同じ角度位置に設けられることから、回転抑止溝112a,112bの軸線方向の終端位置よりも後方に配置された環状内面部114にのみ形成される。一方、被嵌合溝113b、113dは、上記内周面11sの前端位置(摺動面111a,111b)から軸線方向の後方へ伸びて上記環状内面部114に達するように形成される。
一方、内筒12の外周面12sの両側方部分には、凹所12e上に前方から後方へ向けて凹所12e上を伸びる弾性変形部12fが形成され、この弾性変形部12fの外面は、凹所12e以外の外周面と同様に、軸線10xを中心とし軸線10xの方向にみて同径の円筒面に沿った面となっている。また、弾性変形部12fの先端は軸線方向の後方側位置、詳しくは、軸線10xに沿った方向に見てタンブラー穴12bの形成領域と抜け止め穴12cの形成領域の間の軸線方向の位置範囲に達している。そして、弾性変形部12fの先端側外面部上に形成された節度用の嵌合凸部12gも、タンブラー穴12bの形成領域と抜け止め穴12cの形成領域の間の軸線方向の位置範囲内に配置されている。
外筒11の収容孔11aの内周面11sよりも軸線10x方向の後方にある領域、すなわち、上記被嵌合溝113a,113b,113c,113dの全てが設けられた環状内面部114よりもさらに後方にある領域には、当該内周面11s(環状内面部114)の内径に対して好ましくは全周にわたり拡径された内径を有する第1拡径内面部115が設けられる。そして、この第1拡径内面部115と内周面11s(環状内面部114)との間には抜け止め用段差114a(上記抜け止め係合部に相当する。)が形成される。また、第1拡径内面部115のさらに後方には第1拡径内面部115の内径に対して好ましくは全周にわたりさらに拡径された内径を有する第2拡径内面部116が設けられる。そして、第1拡径内面部115と第2拡径内面部116の間には、上記小孔11d、11d′の前方に隣接する位置決め用段差115aが形成される。
図2に示すように、抜け止め穴12cに収容された抜け止め片123の上端縁が、ばね部材124の弾性力により突出し、上記抜け止め用段差114aに係合することにより、内筒12が外筒11に対して軸線方向の前方に抜け止めされる。なお、この抜け止め片123は、本実施形態の場合、キースイッチ10の組み立て後においては、上記弾性力により、抜け止め用段差114aに係合した抜け止め状態が維持されるようになっている。なお、この抜け止め片123の代わりに、Cリングなどの止め輪によって外筒11に対する内筒12の抜け止め手段を構成してもよい。ただし、本実施形態とは異なり、外筒11に対して内筒12を着脱可能となるように構成してもよい。例えば、通常の合鍵より先端の長い内筒交換用合鍵を挿入すると、当該内筒交換用合鍵が鍵係合部に係合することにより抜け止め片123がばね部材124の弾性力に抗して下方へ引き戻され、これによって抜け止め状態が解除されて、内筒12を外筒11から引き出すことができるように構成することができる。
配線基板16は、外筒11の後部開口から上記収容孔11a内に挿入され、その前方の基板面の外周縁が上記位置決め用段差115aに当接して位置決めされた状態で固定される。この配線基板16は、図6(b)に示すように、他の外周縁部分と同様の円弧状に構成された上側外縁部16aと、中央に凹部16bが設けられるとともにその両側に凸部16c,16cが設けられた下側外縁部とを備えている。
一方、外筒11の位置決め用段差115aに対して軸線10xの方向の後方に隣接する上側外筒壁には上記小孔11dが形成され、この小孔11dの後方に隣接する内面上に保持突起116aが形成されている。また、位置決め用段差115aに対して軸線10xの方向の後方に隣接する下側外筒壁には一対の上記小孔11d′が形成され、これらの小孔11d′の間にある位置から後方に隣接する位置までの内面上には軸線10xに沿って伸びる係合突起116bが形成されている。
配線基板16は、外筒11の上記小孔11d及び一対の小孔11d′、保持突起116a及び係合突起116bに対して、上側外縁部16a及び下側外縁部の凹部16b及び凸部16cが嵌合することで、図2に示す位置に固定される。この固定位置では、配線基板16は、内筒12の後端面12t及び弾性接触片15に対して軸線10xの方向の後方に配置され、その前方の基板面及び導体パターン161は内筒12の後端面12t及び弾性接触片15に対して既定の間隔で対向配置された状態となる。このとき、弾性接触片15のばね接点15cは、適度なばね圧で上記基板面及び導体パターン16に押し付けられる。
外筒11の後端縁には上記後部キャップ14が装着される。ここで、外筒11の上側外筒壁及び下側外筒壁に形成された小孔11e,11e′に後部キャップ14の上記係合部14bがそれぞれ内側から係合することにより、後部キャップ14の装着状態が保持される。このとき、外筒11の上記第2拡径内面部116内には、後部キャップ14の支持部14cが配置され、この支持部14cの先端が配線基板16の後方の基板面を後方から支持する。また、配線基板16に実装されたコネクタ17は、後部キャップ14のコネクタ開口14dを通してその接続口17cが後方へ露出した状態とされる。
図6(b)に示すように、配線基板16の前方の基板面上の導体パターン161には、弾性接触片15のばね接点15cが摺接する円弧状経路に沿って、固定接点116a、116b及び116cが形成されている。これらの固定接点116a、116b及び116cは、コネクタ17の外部端子171a、171b、171cの前端がそれぞれ導電接続された端子接続部162a、162b及び162cと導電接続されている。この例では、弾性接触片15において一対のばね端子15cが相互に導電接続されているため、内筒12の回転位置に応じて、外部端子171aと171bが導通した状態と、外部端子171aと171cが導通した状態とを切り替えることが可能になっている。
次に、図9を参照して、以上のように構成されたキースイッチ10の動作態様或いは使用態様と、その作用効果について説明する。なお、図9では、外筒11の上記環状内面部114が形成されている位置で軸線10xと直交する平面に沿った断面を実線で示し、当該位置よりも前方にある構造を二点鎖線で示し、当該位置よりも後方にある構造を点線で示してある。
本実施形態では、図9に示す内筒12の角度位置が施錠位置Xであり、この施錠位置Xでは、図示しない合鍵を鍵穴12aに挿入しない限り、内筒12は回転しない。すなわち、タンブラー121の上端縁はいずれもばね部材122によって外周面12sから突出し、回転抑止溝112a内に挿入された状態にあるため、タンブラー121と回転抑止溝112aとの係合により内筒12の回転は規制される。なお、この錠構造においては、ばね部材122の付勢方向を上下逆に構成し、タンブラー121の下端縁を突出させて回転抑止溝112bに係合するようにしてもよいことは勿論である。また、このとき、内筒12の上記節度用の嵌合凸部12gは、外筒11の上記節度用の被嵌合溝113b、113dに嵌合し、上記弾性変形部12fの弾性力により内筒12が施錠位置Xに保持された状態にある。さらに、このとき、図6(b)に示すように、一対のばね接点15cは固定接点161aと161bに弾圧されているため、外部端子171aと171bが導通した状態となっている。
ここで、鍵穴12aに図示しない合鍵を挿入すると、タンブラー121の上端縁は下降して外周面12s内に没するので、内筒12は図示の回転の向きR1に向けて回転可能となる。したがって、合鍵を回転操作すると、上記弾性変形部12fの弾性力による僅かな抵抗を受けながら上記嵌合凸部12gが被嵌合溝113b、113dから脱して、内筒12が回転する。このとき、上記嵌合凸部12gは環状内面部114上を摺動し、やがて内筒12が解錠位置Yに達すると、上記弾性力により別の被嵌合溝113a,113cに嵌合した状態となる。このとき、一対のばね接点15cは固定接点161aと161cに弾圧されているため、外部端子171aと171cが導通した状態になる。なお、この解錠位置Yでは、通常、図示しない合鍵は鍵穴12aから引き抜くことができない状態とされている。その後、合鍵を回転操作し、内筒12を回転の向きR2に回転させて施錠位置Xに戻すと、再び、接点機構と節度機構は当初の状態に復帰する。以上のように、本実施形態では、弾性変形部12f、嵌合凸部12g、被嵌合溝113a,113b,113c,113dよりなる節度機構により、内筒12は、それぞれ所定の節度感を持って施錠位置Xと解錠位置Yにそれぞれ弾性的に保持される。
本実施形態では、内筒12の後端面12tに対して、弾性接触片15及び配線基板16よりなる接点機構が直接接続されていることにより、キースイッチ10の軸線10xに沿った方向の寸法を短縮することができる。このとき、弾性接触片15と配線基板16が軸線10xに沿った方向に対向配置されていることにより、接点機構の外径の増加が抑制されるため、キースイッチ10の軸線方向の後方部分の半径方向の寸法の増大も回避できる。また、本実施形態の場合には、内筒12の後端面12tに対して接点機構の第1の導体である弾性接触片15が直接取り付けられているため、従来のようにスイッチ機構を別途設けて、このスイッチ機構のボタン等の操作部材を内筒やカムを介して駆動する構造に比べて、内部構造を大幅に簡易化できるとともに部品点数も削減できるため、更にコンパクト化が容易になる。
特に、本実施形態の場合、弾性接触片15は内筒12の後端面12tの外径(図示例では外周面12sの外径と等しい。)以下の領域に限定して配置されている。また、この弾性接触片15のばね接点15cと接離する(接触したり離間したりする)固定接点161a〜161cも上記外周面12sの外径以下の領域に限定して配置されている。すなわち、本実施形態では、少なくともばね接点15c及び固定接点161a〜161cが内筒12の外周面12sの外径の範囲内に配置されている。これにより、接点機構を実質的に後端面12tの半径方向の範囲内に構成することが可能になるため、キースイッチ10の後方部分が拡径するような外形とする必要がなくなる。
本実施形態では、外筒11の後方部分は実質的に内筒12を収容する部分と同等の外径を有する円筒状に構成されるとともに、この外筒11の後方部分内に上記接点機構が完全に収容されるように構成される。したがって、接点機構が外筒11そのものによって被覆されることにより、上記弾性接触片15と配線基板16が対向する接点構造の被覆や絶縁を果たす部材を別途設ける必要がなくなるため、部品点数の削減やさらなるコンパクト化を図ることが容易になる。
また、本実施形態では、凹所12e、弾性変形部12f、嵌合凸部12g、被嵌合溝113a〜113dよりなる節度機構が、外筒11の内周面11sと内筒12の外周面12sの間に構成されることにより、接点機構と節度機構が軸線方向の前後のずれた位置に配置されるため、従来構造のようにキースイッチの軸線方向の後方部分が軸線方向又は半径方向に大きく張り出すということを回避できる。したがって、軸線方向と半径方向のコンパクト化を容易に両立させることができる。特に、本実施形態の弾性付与構造は、内筒12の外周面12sのうち、タンブラー121が移動する方向(第1の半径方向)と直交する方向(第2の半径方向)の外周面部分(すなわち、外周面12sの側方部分)に形成されているため、内筒12の必須構造部分を避けて弾性付与構造を効率的に配置することにより、内筒12の半径方向の寸法の増加を抑制することができるという利点を備えている。
また、本実施形態の節度機構を構成する弾性付与構造は、内筒12の外周面12sに形成された凹所12eと、この凹所12eの外から凹所12e上へ伸びる弾性変形部12fとが一体に構成されたものであることにより、節度機構として充分な弾性力を確保しても、内筒12の外径を拡大せずに構成でき、或いは、多少内筒12の外径が増大したとしてもその増加量を抑制できる。特に、本実施形態では、弾性変形部12fの外面は、内筒12の外周面12sの軸線10xを中心とする円筒面に沿った(実際には当該円筒面に一致する)凸曲面状に形成されていることにより、内筒12のコンパクト化に加えて、外筒11の内周面11sの内径を増大させる必要がないために、錠構造全体の外形をコンパクトに構成できる。
尚、本発明のキースイッチは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を容易に構成することができる。
本実施形態の接点構造は、内筒12の後端面12tに取り付けられたばね接点15cを備えた弾性接触片15と、この後方に対向配置される固定接点161a〜161cを備えた配線基板16とを有する構成としているが、本発明においては、内筒12とともに回転する第1の導体の第1の接点がその回転に応じて第2の導体の第2の接点に対して接触したり離間したりする構成となっていればよく、例えば、上記構成とは逆に、内筒12の後端面12tに接点を備えた導体パターンを有する部材が取り付けられ、この導体の後方にばね接点を備えた導体が対向配置されていてもよい。
また、本実施形態では、内筒12の嵌合凸部12gと外筒11の被嵌合溝113a〜113dとが嵌合するように構成されているが、本発明においては、嵌合部と被嵌合部が相互に弾性力により嵌合するように構成されていればよいので、例えば、内筒12に嵌合凸部12gの代わりに嵌合凹部や嵌合溝を形成し、外筒11に被嵌合溝113a〜113dの代わりに被嵌合凸部や被嵌合リブを形成してもよい。
また、本実施形態の弾性付与構造は、内筒12の本体と一体に構成された弾性変形部12fによって構成しているが、本発明においては、外筒11の内周面11sと内筒12の外周面12sの間に構成されるものであればよく、例えば、内筒12の外周面12sに穴を形成し、この穴内にコイルスプリング等のばね部材と球体などの節度部材を順次収容し、当該節度部材が、ばね部材の弾性力により、外筒11の内周面11sに形成された凹部(溝)に嵌合可能となるように構成してもよい。
さらに、上記弾性付与構造を外筒11に形成してもよい。例えば、凹所12e及び弾性変形部12fに代わる構造を外筒11の内周面11sに沿って形成するとともに、この弾性変形部の内面上に被嵌合部を形成すればよい。ここで、当該弾性変形部の内面を、軸線10xを中心とする円筒面に沿った(好ましくは当該円筒面と一致する)凹曲面状に構成することが望ましい。また、外筒11の内周面11sに形成した穴内に上記のコイルスプリングなどのばね部材と球体などの節度部材を順次収容し、当該節度部材が、ばね部材の弾性力により、内筒12の外周面12sに形成された凹部(溝)に嵌合可能となるようにしてもよい。