以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
第1実施形態について説明すると、本実施形態では、本発明のヒートポンプサイクル10を走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得る電気自動車の車両用空調装置1に適用している。このヒートポンプサイクル10は、車両用空調装置1において、空調対象空間である車室内へ送風される室内送風空気を熱交換対象流体とし、室内送風空気を冷却あるいは加熱する機能を果たす。
本実施形態のヒートポンプサイクル10は、車室内を冷房する冷房運転モードや車室内を除湿しながら暖房する除湿暖房運転モードの冷媒回路(図1)、および車室内を暖房する暖房運転モードの冷媒回路(図2、図3)を切替可能に構成されている。
また、本実施形態のヒートポンプサイクル10では、後述するように暖房運転モードとして、外気温が極低温時(例えば、0℃以下の時)に実行される第1暖房モードの冷媒回路(図2)、通常の暖房が実行される第2暖房モード(図3)の冷媒回路を切替可能に構成されている。
本実施形態では、図2に示す第1暖房モードの冷媒回路がガスインジェクションサイクル(二段圧縮サイクル)を構成し、冷房運転モードおよび除湿暖房モードの冷媒回路や第2暖房モードの冷媒回路が通常サイクル(一段圧縮サイクル)を構成している。
従って、本実施形態のヒートポンプサイクル10は、ガスインジェクションサイクル(二段圧縮サイクル)、およびガスインジェクションサイクル以外の通常サイクル(一段圧縮サイクル)に切り替え可能なサイクルとして構成されている。なお、図1の全体構成図は、冷房運転モードおよび除湿暖房運転モードに切り替えた際の冷媒回路を示しており、図2、図3の全体構成図が暖房運転モードに切り替えた際の冷媒回路を示している。また、図1〜図3では、それぞれの運転モードにおける冷媒の流れを実線矢印で示している。
ヒートポンプサイクル10では、冷媒としてHFC系冷媒(例えば、R134a)を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルを構成している。勿論、HFO系冷媒(例えば、R1234yf)や二酸化炭素CO2等を採用してもよい。なお、冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されており、冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
ヒートポンプサイクル10の構成機器のうち、圧縮機11は、車両のボンネット内に配置され、ヒートポンプサイクル10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するものである。圧縮機11は、外殻を構成するハウジング内部に、圧縮室11a内の冷媒を圧縮する圧縮機構、および圧縮機構を回転駆動する電動モータを収容して構成された電動圧縮機で構成されている。
圧縮機11のハウジングには、圧縮室11aへ低圧冷媒を吸入させる吸入ポート11b、圧縮室11aから高圧冷媒を吐出する吐出ポート11c、サイクルの中間圧冷媒を圧縮室11aへ導くと共に、圧縮過程の冷媒に合流させる中間圧ポート11dが設けられている。
本実施形態の圧縮機11は、中間圧冷媒が圧縮室11a内に適切に噴射されるように、圧縮機構が中間圧ポート11dと圧縮室11aとの間の連通状態を周期的に閉塞するように構成されている。
具体的には、圧縮機11の圧縮機構として、例えば、従来技術(特許文献2)と同様のスクロール型圧縮機構を採用することができる。この場合、図示しない固定スクロールの端板部に設けられた中間圧ポート11bが、図示しない可動スクロールの歯先により周期的に閉塞される。なお、圧縮機11の圧縮機構としては、中間圧ポート11dと圧縮室11aとの間の連通状態が一時的に閉塞される圧縮機構であれば、スクロール型圧縮機構に限らず、ベーン型圧縮機構、ローリングピストン型圧縮機構等の各種形式のものを採用することができる。
また、圧縮機11には、中間圧ポート11dに接続される後述の中間圧冷媒通路15側から圧縮室11aへの冷媒の流入を許容し、圧縮室11aから中間圧冷媒通路15側への冷媒の流入を禁止する逆止弁11eが内蔵されている。これにより、圧縮室11aの冷媒圧力が中間圧冷媒通路15の冷媒圧力(中間圧ポート11d側の冷媒圧力)よりも高くなった際に、中間圧ポート11dを介して圧縮室11aから中間圧冷媒通路15側へ冷媒が逆流してしまうことを防止できる。
電動モータは、後述する空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動(回転数)が制御されるもので、交流モータ、直流モータのいずれの形式を採用してもよい。そして、この回転数制御によって、圧縮機11の冷媒吐出能力が変更される。従って、本実施形態では、電動モータが圧縮機11の吐出能力変更手段を構成している。
なお、圧縮機11は、中間圧ポート11dから中間圧冷媒を流入させて圧縮過程の冷媒に合流させると共に、圧縮機構により中間圧ポート11dと圧縮室11aとの間が一時的に閉塞される構成であれば、複数の圧縮機構を有する形式の圧縮機を採用してもよい。
圧縮機11の吐出ポート11cには、室内凝縮器12の冷媒入口側が接続されている。室内凝縮器12は、後述する室内空調ユニット30の空調ケース31内に配置され、圧縮機11から吐出された高圧冷媒を放熱させて、後述する室内蒸発器23を通過した室内送風空気を加熱する放熱器である。
室内凝縮器12の冷媒出口側には、室内凝縮器12から流出した高圧冷媒を中間圧冷媒となるまで減圧可能な高段側膨脹弁13の入口側が接続されている。この高段側膨脹弁13は、絞り開度を変更可能に構成された弁体と、この弁体の絞り開度を変化させるステッピングモータからなる電動アクチュエータとを有して構成される電気式の可変絞り機構である。
高段側膨脹弁13は、減圧作用を発揮する絞り状態と減圧作用を発揮しない全開状態とに設定可能に構成されている。なお、本実施形態では、高段側膨脹弁13が、室内凝縮器12から流出した冷媒を少なくとも中間圧冷媒となるまで減圧させる絞り状態に設定可能な第1減圧手段を構成している。
より具体的には、高段側膨脹弁13では、冷媒を減圧させる際に、絞り通路面積が相当直径φ0.5〜φ3mmとなる範囲で絞り開度を変化させるように構成されている。また、高段側膨脹弁13は、絞り開度を全開とする際に、絞り通路面積を相当直径φ10mm程度確保して、冷媒減圧作用を発揮させないようにすることもできる。なお、高段側膨脹弁13は、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
高段側膨脹弁13の出口側には、高段側膨脹弁13を通過した冷媒の気液を分離する気液分離器14が接続されている。この気液分離器14は、遠心力の作用によって冷媒の気液を分離する遠心分離方式の気液分離手段である。
気液分離器14は、ハウジング内に冷媒の気液を分離する分離空間14aが形成されると共に、分離空間14aにて分離された液相冷媒を流出させる液相側流出口14b、分離空間14aにて分離された気相冷媒を流出させる気相側流出口14cが設けられている。
気液分離器14の液相側流出口14bには、気液分離器14から流出した液相冷媒を減圧可能な中段側減圧手段の入口側が接続され、中段側減圧手段の出口側には、室外熱交換器20の冷媒入口側が接続されている。
この中段側減圧手段は、気液分離器14の液相側流出口14bから流出した冷媒を減圧させる絞り状態に設定可能に構成されている。本実施形態の中段側減圧手段は、冷媒を減圧させる固定絞り17、冷媒を固定絞り17を迂回させて室外熱交換器20側へ導く第1迂回通路18、第1迂回通路18を開閉する第1通路開閉弁181で構成されている。
第1通路開閉弁181は、第1迂回通路18を開閉する電磁弁であり、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その開閉作動が制御される。なお、第1通路開閉弁181は、第1迂回通路18を開閉することによって、サイクル構成(冷媒流路)を切り替える機能を果たす。従って、本実施形態の第1通路開閉弁181は、サイクルを循環する冷媒の冷媒流路を切り替える冷媒流路切替手段を構成している。
ここで、冷媒が第1通路開閉弁181を通過する際に生じる圧力損失は、固定絞り17を通過する際に生じる圧力損失に対して極めて小さい。従って、室内凝縮器12から流出した冷媒は、第1通路開閉弁181が開いている場合には第1迂回通路18側を介して室外熱交換器20へ流入し、第1通路開閉弁181が閉じている場合には固定絞り17を介して室外熱交換器20へ流入する。これにより、中段側減圧手段は、第1通路開閉弁181の開閉により、減圧作用を発揮する絞り状態と、減圧作用を発揮しない全開状態とに変更することが可能となっている。
具体的には、本実施形態の中段側減圧手段は、ガスインジェクションサイクルに切り替えられた際に減圧作用を発揮する絞り状態に設定され、ガスインジェクションサイクル以外の通常サイクルに切り替えられえた際に減圧作用を発揮しない全開状態に設定される。従って、本実施形態では、中段側減圧手段が[特許請求の範囲]に記載の第2減圧手段を構成している。
固定絞り17としては、絞り開度が固定されたノズル、オリフィス等を採用することができる。ノズル、オリフィス等の固定絞りでは、絞り通路面積が急縮小あるいは急拡大するので、上流側と下流側との圧力差(出入口間差圧)の変化に伴って、固定絞りを通過する冷媒の流量および固定絞り上流側冷媒の乾き度Xを自己調整(バランス)することができる。
具体的には、圧力差が比較的大きい場合には、サイクルを循環させる必要のある必要循環冷媒流量が減少するに伴って、固定絞り上流側冷媒の乾き度が大きくなるようにバランスする。一方、圧力差が比較的小さい場合には、必要循環冷媒流量が増加するに伴って、固定絞り上流側冷媒の乾き度が小さくなるようにバランスする。
また、気液分離器14の気相側流出口14cには、中間圧冷媒通路15が接続されている。この中間圧冷媒通路15は、気液分離器14にて分離された気相冷媒を圧縮機11の中間圧ポート11dへ導く冷媒通路である。中間圧冷媒通路15には、中間圧冷媒通路15を開閉する中間圧開閉弁16が設けられている。
中間圧開閉弁16は、中段側減圧手段の前後差圧に応じて中間圧冷媒通路15を開閉する開閉弁である。本実施形態では、中間圧開閉弁16が、中段側減圧手段の前後差圧が所定差圧となる際に中間圧冷媒通路15を開く差圧開閉手段を構成している。
本実施形態の中間圧開閉弁16は、中段側減圧手段の固定絞り17の前後差圧が所定差圧以上となっている際に中間圧冷媒通路15を開き、固定絞り17の前後差圧が所定差圧より小さくなっている際に中間圧冷媒通路15を閉じるように構成されている。
ここで、中間圧開閉弁16を開閉する際の基準となる「所定差圧」は、例えば、中段側減圧手段が絞り状態に設定された際に、固定絞り17の前後で生ずる圧力差の最小値に設定されている。なお、中間圧開閉弁16は、中間圧冷媒通路15を開閉することによって、サイクル構成(冷媒流路)を切り替える機能を果たす。従って、本実施形態の中間圧開閉弁16は、サイクルを循環する冷媒の冷媒流路を切り替える冷媒流路切替手段を構成している。
以下、本実施形態の中間圧開閉弁16の構成について図4を用いて説明する。図4に示すように、中間圧開閉弁16は、ボデー161、ボデー161の内部に形成された気相冷媒通路161aを開閉する差圧弁体162、差圧弁体162に気相冷媒通路161aを閉じる側に荷重をかけるスプリング(弾性部材)163等を有している。
ボデー161は、その外側壁面に、気液分離器14にて分離された気相冷媒を気相冷媒通路161aに導入する冷媒導入口161b、気相冷媒通路161aから圧縮機11の中間圧ポート11d側へ気相冷媒を導出する冷媒導出口161cが形成されている。
また、ボデー161の内部には、固定絞り17下流側の圧力を差圧弁体162に作用させる背圧室161d、背圧室161dへ固定絞り17下流側の圧力を導入する圧力導入通路161eが形成されている。
差圧弁体162は、互いに連結された弁部162aおよび胴体部162bで構成されている。弁部162aは、気相冷媒通路161aを閉じる際に、気相冷媒通路161aにおける冷媒導出口161c側に形成されたテーパ形状の弁座部161fに当接する部位である。弁部162aには、弁座部161fに当接した際のシール性を確保するための円環上のシール部材162cが設けられている。
また、胴体部162bは、気相冷媒通路161aと背圧室161dとの間に設けられ、長手方向の一端側の端面で、気相冷媒通路161a側から圧力を受け、他端側の端面で背圧室161d側から圧力を受ける部位である。なお、胴体部162の外径は、気相冷媒通路161aの内径よりも僅かに小さく、両者は隙間バメの関係となっている。これにより、差圧弁体162は、気相冷媒通路161a内を変位可能となっている。
スプリング163は、背圧室161dに収容されており、差圧弁体162に対して、弁部162aに設けられたシール部材162cを弁座部161fへ押し付けてシール性を高める方向に荷重をかけるものである。
なお、背圧室161dには、スプリング163に加えて、差圧弁体162の変位を規制するストッパ164が収容されている。このストッパ164は、差圧弁体162の胴体部162bが圧力導入通路161eを閉じてしまうことを防止する規制部材である。なお、ストッパ164は、差圧弁体162の胴体部162bと共に背圧室161dを区画する部材でもある。
このように構成される中間圧開閉弁16は、気相冷媒通路161aにおける冷媒導入口161b側の圧力P2と背圧室161dの圧力P3との差圧(=P2−P3)が所定差圧以上となっている際に、差圧弁体162が図5に示す位置に変位して開弁する。これにより、中間圧冷媒通路15が開放される。
具体的には、中間圧開閉弁16は、以下の数式[数1]で示す関係を満たすことで開弁する。
A2(P2−P3)>A1×(P2−P1)+Fsp・・・[数1]
但し、「P1」は、気相冷媒通路161aにおける冷媒導出口161c側の圧力を示している。また、「A1」は、差圧弁体162において圧力P1、P2が作用する部位の面積(例えば、冷媒導出口161cの開口面積)であり、「A2」は、差圧弁体162において圧力P2、P3が作用する部位の面積(例えば、胴体部162の断面積)である。
一方、中間圧開閉弁16は、気相冷媒通路161aにおける冷媒導入口161b側の圧力P2と背圧室161dの圧力P3との差圧(=P2−P3)が所定差圧を下回っている際に、差圧弁体162が図6に示す位置に変位して閉弁する。これにより、中間圧冷媒通路15が閉鎖される。
なお、気相冷媒通路161aにおける冷媒導入口161bは、固定絞り17上流側に連通していることから、圧力P2は、固定絞り17上流側の圧力となる。また、背圧室161dは、固定絞り17下流側に連通していることから、圧力P3は、固定絞り17下流側の圧力となる。このため、中間圧開閉弁16は、固定絞り17の前後差圧に応じて中間圧冷媒通路15を開閉することになる。
図1〜図3に戻り、室外熱交換器20は、ボンネット内に配置されて、内部を流通する冷媒と送風ファン21から送風された車室外空気(外気)とを熱交換させるものである。この室外熱交換器20は、第1、第2暖房モード時等には、冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる蒸発器として機能し、冷房運転モード時等には、冷媒を放熱させる放熱器として機能する熱交換器である。
室外熱交換器20の冷媒出口側には、第3減圧手段としての低段側膨脹弁22の冷媒入口側が接続されている。低段側膨脹弁22は、冷房運転モード時等に室外熱交換器20から流出し、室内蒸発器23へ流入する冷媒を減圧させるものである。この低段側膨脹弁22の基本的構成は、高段側膨脹弁13と同様であり、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
低段側膨脹弁22の出口側には、室内蒸発器23の冷媒入口側が接続されている。室内蒸発器23は、室内空調ユニット30の空調ケース31内のうち、室内凝縮器12の送風空気流れ上流側に配置され、冷房運転モード時や除湿暖房運転モード時に、冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることにより車室内への送風空気を冷却する熱交換器である。
室内蒸発器23の冷媒出口側には、アキュムレータ24の入口側が接続されている。アキュムレータ24は、その内部に流入した冷媒の気液を分離して余剰冷媒を蓄えるものである。さらに、アキュムレータ24の気相冷媒出口側には、圧縮機11の吸入ポート11bが接続されている。従って、室内蒸発器23は、圧縮機11の吸入ポート11b側へ流出させるように接続されている。
さらに、室外熱交換器20の冷媒出口側には、室外熱交換器20から流出した冷媒を低段側膨脹弁22および室内蒸発器23を迂回させてアキュムレータ24の入口側へ導く第2迂回通路25が接続されている。
この第2迂回通路25には、第2迂回通路25を開閉する第2通路開閉弁251が配置されている。なお、第2通路開閉弁251の基本的構成は、第1通路開閉弁181と同様であり、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その開閉作動が制御される電磁弁である。
本実施形態の第2通路開閉弁251は、第2迂回通路25を開閉することによって、サイクル構成(冷媒流路)を切り替える機能を果たす。従って、本実施形態の第2通路開閉弁251は、サイクルを循環する冷媒の冷媒流路を切り替える冷媒流路切替手段を構成している。なお、冷媒が第2通路開閉弁251を通過する際に生じる圧力損失は、低段側膨脹弁22を通過する際に生じる圧力損失に対して極めて小さい。従って、室外熱交換器20から流出した冷媒は、第2通路開閉弁251が開いている場合には第2迂回通路25を介してアキュムレータ24へ流入し、第2通路開閉弁251が閉じている場合には低段側膨脹弁22を介して室内蒸発器23へ流入する。
ところで、ヒートポンプサイクル10は、製品の製造時やサイクル構成機器の交換等を実施する際に、サイクル内へ冷媒を充填する冷媒充填作業が必要となる。この冷媒充填作業では、サイクル内の空気や水分を取り除く真空引き工程を実施し、真空引き完了後にサイクル内へ規定量の冷媒を充填する充填工程を実施する。
このような冷媒充填作業を実施するために、ヒートポンプサイクル10には、サイクル内の高圧側から冷媒を充填する第1充填ポート26a、サイクル内における低圧側から冷媒を充填する第2充填ポート26bが設けられている。
本実施形態では、第1充填ポート26aが室内凝縮器12から高段側膨脹弁13へ至る冷媒通路に設けられ、第2充填ポート26bがアキュムレータ24から圧縮機11の吸入ポート11bへ至る冷媒通路に設けられている。なお、本実施形態では、第1充填ポート26aが真空引きを実施するためのポートとしても機能する。
ここで、ヒートポンプサイクル10では、[発明が解決しようとする課題]で説明したように、冷媒充填作業時に中間圧冷媒通路15の真空引きを実施できない不具合が生ずることがある。
そこで、本実施形態では、ヒートポンプサイクル10に対して、高圧側連通路27を追加すると共に、当該高圧側連通路27に高圧側逆止弁271を設ける構成としている。
高圧側連通路27は、サイクル内における高圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15とを連通させる冷媒通路であり、本実施形態では、冷媒が流通可能な冷媒配管で構成している。なお、高圧冷媒通路は、サイクル内の冷媒通路のうち、ガスインジェクションサイクル、および通常サイクルのいずれに切り替えられたとしても、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された冷媒と同等の圧力となる冷媒が流通する冷媒通路である。本実施形態では、圧縮機11の吐出ポート11cから高段側膨脹弁13へ至る冷媒通路へ至る冷媒通路が、高圧冷媒通路を構成している。
具体的には、本実施形態の高圧側連通路27は、一端側が高圧冷媒通路における室内凝縮器12から高段側膨脹弁13へ至る冷媒通路に接続され、他端側が中間圧冷媒通路15における中間圧開閉弁16から中間圧ポート11dへ至る冷媒通路に接続されている。なお、高圧側連通路27は、一端側が高圧冷媒通路における圧縮機11の吐出ポート11cから室内凝縮器12へ至る冷媒通路に接続されていてもよい。
高圧側逆止弁271は、中間圧冷媒通路15側から高圧冷媒通路側への冷媒の流入を許容すると共に、高圧冷媒通路側から中間圧冷媒通路15側への冷媒の流入を禁止する逆止弁である。
具体的には、本実施形態の高圧側逆止弁271は、図7、図8に示すように、高圧側連通路27内に設置された弁体271aを有している。この弁体271aは、高圧側連通路27の冷媒の流れ方向が、図7の白抜き矢印の方向(高圧冷媒通路側から中間圧冷媒通路15側に向かう方向)になる際、高圧冷媒通路側からの圧力により中間圧冷媒通路15側へ変位するように構成されている。
そして、弁体271aに設けられたシール部材271bが、高圧側連通路27に設けられたテーパ形状の弁座部27aに密着し、高圧側連通路27が閉鎖されることで、高圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15との間が遮断状態に切り替わる。
また、弁体271aは、高圧側連通路27の冷媒の流れ方向が、図8の黒塗矢印の方向(中間圧冷媒通路15側から高圧冷媒通路側に向かう方向)になる際、中間圧冷媒通路15側からの圧力により高圧冷媒通路側へ変位するように構成されている。
そして、弁体271aのシール部材271bが、高圧側連通路27の弁座部27aから離間して、高圧側連通路27が開放されることで、高圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15との間が連通状態に切り替わる。
ここで、冷媒充填作業の真空引き工程では、中間圧冷媒通路15側の圧力が高圧冷媒通路側の圧力よりも高くなることから、高圧側逆止弁271が開弁状態となる。一方、サイクル作動時には、高圧冷媒通路側の圧力が中間圧冷媒通路15側の圧力よりも高くなることから、高圧側逆止弁271が閉弁状態となる。
従って、本実施形態の高圧側逆止弁271は、冷媒充填作業の真空引き工程にて高圧側連通路27を開き、熱交換対象流体(室内送風空気)を冷却あるいは加熱する機能を発揮させるサイクル作動時に高圧側連通路27を閉じるように構成されている。なお、本実施形態では、高圧側逆止弁271が、高圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15との間を連通させる連通状態、および遮断状態に切り替える高圧側切替手段を構成している。
また、ヒートポンプサイクル10では、[発明が解決しようとする課題]で説明したように、冷媒充填作業時に中間圧冷媒通路15へ冷媒の充填が実施できない不具合が生ずることがある。
そこで、本実施形態では、ヒートポンプサイクル10に対して、低圧側連通路28を追加すると共に、当該低圧側連通路28に低圧側逆止弁281を設ける構成としている。
低圧側連通路28は、サイクル内における低圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15とを連通させる冷媒通路であり、本実施形態では、冷媒が流通可能な冷媒配管で構成している。なお、低圧冷媒通路は、サイクル内の冷媒通路のうち、ガスインジェクションサイクル、および通常サイクルのいずれに切り替えられたとしても、圧縮機11の吸入ポート11bへ吸入される冷媒と同等の圧力となる冷媒が流通する冷媒通路である。本実施形態では、低段側膨脹弁22から圧縮機11の吸入ポート11bへ至る冷媒通路、および第2通路開閉弁251から圧縮機11の吸入ポート11bへ至る冷媒通路が、低圧冷媒通路を構成している。
具体的には、本実施形態の低圧側連通路28は、一端側が中間圧冷媒通路15における中間圧開閉弁16から中間圧ポート11dへ至る冷媒通路に接続され、他端側が低圧冷媒通路におけるアキュムレータ24から吸入ポート11bへ至る冷媒通路に接続されている。なお、低圧側連通路28は、他端側が低段側膨脹弁22からアキュムレータ24へ至る冷媒通路や第2通路開閉弁251からアキュムレータ24へ至る冷媒通路に接続されていてもよい。
低圧側逆止弁281は、低圧冷媒通路側から中間圧冷媒通路15側への冷媒の流入を許容すると共に、中間圧冷媒通路15側から低圧冷媒通路側への冷媒の流入を禁止する低圧側逆止弁281で構成している。
本実施形態の低圧側逆止弁281は、前述の高圧側逆止弁271と同様に構成されている。すなわち、低圧側逆止弁281は、中間圧冷媒通路15側から低圧冷媒通路側へ向かう方向に冷媒が流れる際に、弁体が低圧側連通路28の弁座部に密着して、低圧側連通路28を閉じるように構成されている。一方、低圧側逆止弁281は、低圧冷媒通路側から中間圧冷媒通路15側へ向かう方向に冷媒が流れる際に、弁体が低圧側連通路28の弁座部から離間して、低圧側連通路28を開くように構成されている。
ここで、冷媒充填作業の充填工程では、低圧冷媒通路側の圧力が中間圧冷媒通路15側の圧力よりも高くなることから、低圧側逆止弁281が開弁状態となる。一方、サイクル作動時には、中間圧冷媒通路15側の圧力が低圧冷媒通路側の圧力よりも高くなることから、低圧側逆止弁281が閉弁状態となる。
従って、本実施形態の低圧側逆止弁281は、冷媒充填作業の充填工程にて低圧側連通路28を開き、熱交換対象流体(室内送風空気)を冷却あるいは加熱する機能を発揮させるサイクル作動時に低圧側連通路28を閉じるように構成されている。なお、本実施形態では、低圧側逆止弁281が、低圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15との間を連通させる連通状態、および遮断状態に切り替える低圧側切替手段を構成している。
次に、室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されて、室内空調ユニット30の外殻を形成すると共に、その内部に車室内に送風される室内送風空気の空気通路を形成する空調ケース31を有している。そして、この空気通路に送風機32、前述の室内凝縮器12、室内蒸発器23等が収容されている。
空調ケース31の空気流れ最上流側には、車室内空気(内気)と外気とを切替導入する内外気切替装置33が配置されている。この内外気切替装置33は、空調ケース31内に内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口の開口面積を、内外気切替ドアによって連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を連続的に変化させるものである。
内外気切替装置33の空気流れ下流側には、内外気切替装置33を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する送風機32が配置されている。この送風機32は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機であって、空調制御装置40から出力される制御信号によって回転数(送風量)が制御される。
送風機32の空気流れ下流側には、前述の室内蒸発器23および室内凝縮器12が、室内送風空気の流れに対して、室内蒸発器23→室内凝縮器12の順に配置されている。換言すると、室内蒸発器23は、室内凝縮器12に対して、空気流れ上流側に配置されている。
また、空調ケース31内には、室内蒸発器23通過後の送風空気を、室内凝縮器12を迂回して流すバイパス通路35が設けられており、室内蒸発器23の空気流れ下流側であって、室内凝縮器12の空気流れ上流側には、エアミックスドア34が配置されている。
このエアミックスドア34は、室内蒸発器23通過後の送風空気のうち、室内凝縮器12を通過させる風量とバイパス通路35を通過させる風量との風量割合を調整して、室内凝縮器12の熱交換能力を調整する熱交換能力調整手段である。なお、エアミックスドア34は、空調制御装置40から出力される制御信号によって作動が制御される図示しないサーボモータによって駆動される。
また、室内凝縮器12およびバイパス通路35の空気流れ下流側には、室内凝縮器12にて冷媒と熱交換して加熱された送風空気とバイパス通路35を通過して加熱されていない送風空気が合流する合流空間36が設けられている。
空調ケース31の空気流れ最下流部には、合流空間36にて合流した送風空気を、空調対象空間である車室内へ吹き出す開口穴が形成されている。具体的には、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ開口穴37a、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス開口穴37b、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット開口穴37cが形成されている。
各開口穴37a〜37cの空気流れ下流側は、それぞれ空気通路を形成するダクトを介して、車室内に設けられたフェイス吹出口、フット吹出口およびデフロスタ吹出口に接続されている。
また、各開口穴37a〜37cの空気流れ上流側には、デフロスタ開口穴37aを開閉するデフロスタドア38a、フェイス開口穴37bを開閉するフェイスドア38b、フット開口穴37cを開閉するフットドア38cが配置されている。各ドア38a〜38cは、車室内への空気の吹出モードを切り替える吹出モード切替手段を構成する。なお、各ドア38a〜38cは、空調制御装置40から出力される制御信号によってその作動が制御される図示しないサーボモータによって駆動される。
次に、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置40は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。空調制御装置40は、ROM等に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各制御機器(圧縮機11、高段側膨脹弁13、各通路開閉弁181、251、送風機32等)の作動を制御する。
また、空調制御装置40の入力側には、各種空調制御用のセンサ群41が接続されている。センサ群41としては、車室内温度を検出する内気センサ、外気温を検出する外気センサ、車室内の日射量を検出する日射センサ、室内蒸発器23の温度を検出する蒸発器温度センサ、圧縮機11から吐出された高圧冷媒圧力を検出する吐出圧センサ等が挙げられる。
さらに、空調制御装置40の入力側には、計器盤付近に配置された図示しない操作パネルが接続され、この操作パネルに設けられた各種空調操作スイッチからの操作信号が入力される。操作パネルに設けられた各種空調操作スイッチとしては、具体的に、車両用空調装置1の作動スイッチ、車室内温度を設定する車室内温度設定スイッチ、冷房運転モードと暖房運転モードとの選択スイッチ等が設けられている。
ここで、空調制御装置40は、その出力側に接続された各制御機器の作動を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、各制御機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が各制御機器の作動を制御する制御手段を構成している。
例えば、本実施形態では、各通路開閉弁181、251の開閉作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が流路切替制御手段を構成している。なお、空調制御装置40における流路切替制御手段を、空調制御装置40とは別の制御装置により構成してもよい。
次に、上記構成における本実施形態のヒートポンプサイクル10への冷媒充填作業、および車両用空調装置1の作動について説明する。まず、本実施形態のヒートポンプサイクル10への冷媒充填作業について説明する。
冷媒充填作業では、図9、図10に示すように、真空ポンプおよび冷媒充填ポンプを有する冷媒充填装置5を第1、第2充填ポート26a、26bに接続する。そして、各通路開閉弁181、251を開いた状態で、冷媒充填装置5によって第1充填ポート26aからサイクル内に残存する空気等を吸引する(真空引き工程)。なお、真空引き工程では、例えば、冷媒充填装置5によって第2充填ポート26bからサイクル内に残存する空気等を吸引するようにしてもよい。
ここで、従来のヒートポンプサイクルでは、真空引き工程時に圧縮機11内部で中間圧ポート11dが閉塞されていると、圧縮機11の吐出ポート11c側から中間圧冷媒通路15の真空引きを適切に実施できない。
また、従来のヒートポンプサイクルでは、真空引き工程時に各通路開閉弁181、251を開いていることで、固定絞り17の前後差圧が殆ど生じない。このため、真空引き工程時に中間圧開閉弁16が開かず、気液分離器14の気相側流出口14c側からも中間圧冷媒通路15の真空引きを実施できない。
これに対して、本実施形態のヒートポンプサイクル10は、高圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15を連通させる高圧側連通路27を備えているので、高圧側連通路27を介して中間圧冷媒通路15の真空引きを実施できる。すなわち、真空引き工程では、高圧冷媒通路側の圧力が中間圧冷媒通路15側の圧力よりも低くなり、高圧側逆止弁271が開弁することで、中間圧冷媒通路15と高圧冷媒通路との間が高圧側連通路27を介して連通する。これにより、図9の実線矢印で示すように、中間圧冷媒通路15に残存する空気や水分が冷媒充填装置5に吸引されるので、高圧側連通路27を介して中間圧冷媒通路15の真空引きを実施できる。
真空引き工程の完了後、冷媒充填装置5によって第1充填ポート26a、および第2充填ポート26bからサイクル内へ冷媒を充填する(充填工程)。なお、充填工程では、冷媒充填装置5によって第1充填ポート26aおよび第2充填ポート26bの一方のポートからサイクル内へ冷媒を充填するようにしてもよい。
ここで、真空引き工程により中間圧冷媒通路15が真空状態(P1≒0)となることで、充填工程時に、気液分離器14の気相側流出口14c側の圧力P2と中間圧冷媒通路15側の圧力P1との差圧が大きくなり、中間圧開閉弁16が閉弁状態となることがある。例えば、[数1]の右辺側が、「A1×(P2−P1)+Fsp」から「A1×P2+Fsp」となると、[数1]で示す関係が成立し難くなり、中間圧開閉弁16が閉弁状態に維持される。
このため、従来のヒートポンプサイクルでは、サイクル内へ冷媒を充填する際に、中間圧開閉弁16が閉弁し、気液分離器14の気相側流出口14c側から中間圧冷媒通路15へ冷媒を充填することができない場合がある。
これに対して、本実施形態のヒートポンプサイクル10は、低圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15を連通させる低圧側連通路28を備えているので、低圧側連通路28を介して中間圧冷媒通路15へ冷媒を適切に充填することができる。すなわち、充填工程では、低圧冷媒通路の圧力が中間圧冷媒通路15の圧力よりも高くなり、低圧側逆止弁281が開弁することで、中間圧冷媒通路15と低圧冷媒通路との間が低圧側連通路28を介して連通する。これにより、図10の実線矢印で示すように、冷媒充填装置5から供給される冷媒が、低圧側連通路28を介して中間圧冷媒通路15へ流入して充填される。
続いて、本実施形態の車両用空調装置1の作動を説明すると、車両用空調装置1は、冷房運転モード、暖房運転モード、および除湿暖房運転モードに切り替えることができる。以下、各運転モードにおける作動を説明する。
(A)冷房運転モード
冷房運転モードは、例えば、操作パネルの作動スイッチが投入(ON)された状態で、選択スイッチによって冷房運転モードが選択されると開始される。
冷房運転モードでは、空調制御装置40が、高段側膨脹弁13を全開状態(減圧作用を発揮しない状態)、低段側膨脹弁22を絞り状態(減圧作用を発揮する状態)、第2通路開閉弁251を閉弁状態とする。
さらに、第1通路開閉弁181を開弁状態として中段側減圧手段を全開状態(減圧作用を発揮しない状態)とする。この際、固定絞り17の前後の圧力が同等となるので、中間圧開閉弁16が閉弁状態となる。これにより、ヒートポンプサイクル10は、図1の実線矢印で示すように冷媒が流れる冷媒回路に切り替えられる。
この冷媒回路の構成で、空調制御装置40が空調制御用のセンサ群41の検出信号および操作パネルの操作信号を読み込み、車室内へ吹き出す空気の目標温度である目標吹出温度TAOを算出する。さらに、算出された目標吹出温度TAOおよびセンサ群の検出信号に基づいて、空調制御装置40の出力側に接続された各制御機器の作動状態を決定する。
例えば、圧縮機11の電動モータに出力される制御信号については、以下のように決定される。まず、目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置40に記憶された制御マップを参照して、室内蒸発器23の目標蒸発器吹出温度TEOを決定する。そして、蒸発器温度センサの検出値(吹出空気温度)が目標蒸発器吹出温度TEOに近づくように、圧縮機11の電動モータに出力される制御信号が決定される。
また、低段側膨脹弁22へ出力される制御信号については、低段側膨脹弁22へ流入する冷媒の過冷却度が、COPを略最大値に近づくように予め決定された目標過冷却度に近づくように決定される。
また、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、エアミックスドア34が室内凝縮器12の空気通路を閉塞し、室内蒸発器23通過後の送風空気の全流量がバイパス通路35を通過するように決定される。
そして、上記の如く決定された制御信号等を各制御機器へ出力する。その後、操作パネルによって車両用空調装置1の作動停止が要求されるまで、所定の制御周期毎に、各信号の読み込み→目標吹出温度TAOの算出→各制御機器の作動状態決定→制御信号の出力といった制御ルーチンが繰り返される。なお、このような制御ルーチンの繰り返しは、他の運転モード時にも同様に行われる。
従って、冷房運転モードのヒートポンプサイクル10では、図11のモリエル線図に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図11のa11点)が室内凝縮器12へ流入する。この際、エアミックスドア34が室内凝縮器12の空気通路を閉塞しているので、室内凝縮器12へ流入した冷媒は殆ど室内送風空気へ放熱することなく、室内凝縮器12から流出する。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、高段側膨脹弁13が全開状態となっているので、高段側膨脹弁13にて殆ど減圧されることなく気液分離器14へ流入する。この際、気液分離器14へ流入する冷媒は過熱度を有する気相状態となっているものの、中間圧開閉弁16が閉弁状態となっているので、気相側流出口14cから中間圧冷媒通路15へ冷媒が流出することなく、液相側流出口14bから流出する。
気液分離器14の液相側流出口14bから流出した冷媒は、中段側減圧手段の第1通路開閉弁181が全開状態となっているので、中段側減圧手段にて殆ど減圧されることなく室外熱交換器20へ流入する。
室外熱交換器20へ流入した冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して放熱する(図11のa11点→b11点)。室外熱交換器20から流出した冷媒は、第2通路開閉弁251が閉弁状態となっているので、絞り状態となっている低段側膨脹弁22へ流入して低圧冷媒となるまで、等エンタルピ的に減圧膨脹される(図11のb11点→c11点)。
そして、低段側膨脹弁22にて減圧された冷媒は、室内蒸発器23へ流入し、送風機32から送風された室内送風空気から吸熱して蒸発する(図11のc11点→d11点)。これにより、室内送風空気が冷却される。
室内蒸発器23から流出した冷媒は、アキュムレータ24へ流入して気液分離される。そして、分離された気相冷媒が圧縮機11の吸入ポート11b(図11のe11点)から吸入されて、再び圧縮される(図11のe11点→a111点→a11点)。なお、アキュムレータ24にて分離された液相冷媒は、サイクルが要求されている冷凍能力を発揮するために必要としていない余剰冷媒としてアキュムレータ24内に蓄えられる。
ここで、図11においてd11点とe11点が異なっている理由は、アキュムレータ24から圧縮機11の吸入ポート11bへ至る冷媒配管を流通する気相冷媒に生じる圧力損失と、気相冷媒が外部(外気)から吸熱する吸熱量を表したものである。従って、理想的なサイクルでは、d11点とe11点が一致していることが望ましい。このことは、以下のモリエル線図においても同様である。
以上の如く、冷房運転モードでは、エアミックスドア34にて室内凝縮器12の空気通路を閉塞しているので、室内蒸発器23にて冷却された送風空気を車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の冷房を実現することができる。
なお、冷房運転モードでは、高圧冷媒通路を流通する冷媒圧力(図11のa11点の圧力)が中間圧冷媒通路15内の冷媒圧力(図11のa111点の圧力)よりも高くなる。これにより、高圧側逆止弁271が閉弁状態となるので、高圧冷媒通路を流通する冷媒が、高圧側連通路27を介して中間圧冷媒通路15へ流入することはない。このことは、冷房運転モード以外の他の運転モードにおいても同様である。
また、冷房運転モードでは、低圧冷媒通路を流通する冷媒圧力(図11のe11点の圧力)が中間圧冷媒通路15内の冷媒圧力(図11のa111点の圧力)よりも低くなる。これにより、低圧側逆止弁281が閉弁状態となるので、低圧冷媒通路を流通する冷媒が、低圧側連通路28を介して中間圧冷媒通路15へ流入することはない。このことは、冷房運転モード以外の他の運転モードにおいても同様である。
(B)暖房運転モード
次に、暖房運転モードについて説明する。この暖房運転モードは、例えば、操作パネルの作動スイッチが投入(ON)された状態で、選択スイッチによって暖房運転モードが選択されると開始される。
そして、暖房運転モードが開始されると、空調制御装置40がセンサ群41の検出信号および操作パネルの操作信号を読み込み、圧縮機11の冷媒吐出能力(圧縮機11の回転数)を決定する。さらに、決定された回転数に応じて、第1暖房モードあるいは第2暖房モードを実行する。
(B1):第1暖房モード
まず、第1暖房モードについて説明すると、第1暖房モードでは、空調制御装置40が、高段側膨脹弁13を絞り状態、低段側膨脹弁22を全閉状態、第2通路開閉弁251を開弁状態とする。
さらに、空調制御装置40が、第1通路開閉弁181を閉弁状態として中段側減圧手段を絞り状態(減圧作用を発揮する状態)とする。この際、固定絞り17の前後差圧により、中間圧開閉弁16が開弁状態となる。これにより、ヒートポンプサイクル10は、図2の実線矢印で示すように冷媒が流れる冷媒回路(ガスインジェクションサイクルの冷媒回路)に切り替えられる。
この冷媒回路の構成で、空調制御装置40が、冷房運転モードと同様に、センサ群41の検出信号等を読み込み、目標吹出温度TAO等に基づいて、空調制御装置40の出力側に接続された各種制御機器の作動状態を決定する。
なお、第1暖房モード時に高段側膨脹弁13へ出力される制御信号については、室内凝縮器12における冷媒圧力が予め定めた目標高圧となるように、あるいは、室内凝縮器12から流出する冷媒の過冷却度が予め定めた目標過冷却度となるように決定される。また、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、エアミックスドア34がバイパス通路35を閉塞し、室内蒸発器23通過後の送風空気の全流量が室内凝縮器12を通過するように決定される。
従って、第1暖房モードのヒートポンプサイクル10では、図12に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図12のa12点)が室内凝縮器12へ流入する。室内凝縮器12へ流入した冷媒は、送風機32から送風されて室内蒸発器23を通過した室内送風空気と熱交換して放熱する(図12のa12点→b12点)。これにより、室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13にて中間圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧膨脹される(図12のb12点→c112点)。そして、高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒は、気液分離器14に流入し、気液分離器14にて気液が分離される(図12のc12点→c212点、c12点→c312点)。
気液分離器14にて分離された気相冷媒は、中間圧開閉弁16が開弁状態となっているので、気相側流出口14cから中間圧冷媒通路15へ流入して、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11の中間圧ポート11dへ流入する(図12のc212点)。そして、中間圧ポート11dへ流入した冷媒は、圧縮室11aにて圧縮過程の冷媒(図12のa112点)と合流し(図12のa212点)、圧縮室11aで圧縮される。
一方、気液分離器14にて分離された液相冷媒は、液相側流出口14bから中段側減圧手段へ流入する。この際、中段側減圧手段の第1通路開閉弁181が全閉状態となっているので、固定絞り17にて低圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧膨脹される(図12のc312点→c412点)。そして、固定絞り17にて減圧された冷媒は、室外熱交換器20へ流入して、送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図12のc412点→d12点)。
室外熱交換器20から流出した冷媒は、低段側膨脹弁22が全閉状態となり、第2通路開閉弁251が開弁状態となっているので、第2迂回通路25を介して、アキュムレータ24へ流入して気液分離される。そして、アキュムレータ24にて分離された気相冷媒が圧縮機11の吸入ポート11b(図12のe12点)から吸入されて再び圧縮される。
以上の如く、第1暖房モードでは、室内凝縮器12にて圧縮機11から吐出された冷媒の有する熱を室内送風空気に放熱させて、加熱された内送風空気を車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の暖房を実現することができる。
この第1暖房モードでは、固定絞り17にて減圧された低圧冷媒を圧縮機11へ吸入させると共に、高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒を圧縮機11の圧縮過程の冷媒と合流させるガスインジェクションサイクルを構成することができる。
これにより、圧縮機11の吸入冷媒圧力と吐出冷媒圧力との圧力差を縮小させて、圧縮機11の圧縮効率を向上させることができる。その結果、ヒートポンプサイクル10全体としてのCOPを向上させることができる。
(B2):第2暖房モード
次に、第2暖房モードについて説明すると、第2暖房モードでは、空調制御装置40が、高段側膨脹弁13を絞り状態、低段側膨脹弁22を全閉状態、第2通路開閉弁251を開弁状態とする。
さらに、空調制御装置40が、第1通路開閉弁181を開弁状態として中段側減圧手段を全開状態(減圧作用を発揮しない状態)とする。この際、固定絞り17の前後の圧力が同等となるので、中間圧開閉弁16が閉弁状態となる。これにより、ヒートポンプサイクル10は、図3の実線矢印で示すように冷媒が流れる冷媒回路に切り替えられる。
この冷媒回路の構成で、空調制御装置40が、センサ群41の検出信号等を読み込み、目標吹出温度TAO等に基づいて、空調制御装置40の出力側に接続された各制御機器の作動状態を決定する。なお、第2暖房モード時に高段側膨脹弁13へ出力される制御信号等については、第1暖房モードと同様に決定される。
従って、第2暖房モード時のヒートポンプサイクル10では、図13に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図13のa13点)が室内凝縮器12へ流入し、室内送風空気と熱交換して放熱する(図13のa13点→b13点)。これにより、室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13にて低圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧膨脹され(図13のb13点→c13点)、気液分離器14に流入する。そして、気液分離器14へ流入した冷媒は、冷房運転モードと同様に、気相側流出口14cから流出することなく、液相側流出口14bから室外熱交換器20へ流入する。
室外熱交換器20へ流入した冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図13のc13点→d13点)。以降の作動は第1暖房モードと同様であるため説明を省略する。
以上の如く、第2暖房モードでは、室内凝縮器12にて圧縮機11から吐出された冷媒の有する熱を室内送風空気に放熱させて、加熱された室内送風空気を車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の暖房を実現することができる。
ここで、第2暖房モード時を、第1暖房モードに対して、外気温が高い場合等のように暖房負荷が比較的低い場合に実行することの効果を説明する。第1暖房モードでは、上述の如く、ガスインジェクションサイクルを構成することができるので、ヒートポンプサイクル10全体としてのCOPを向上させることができる。
つまり、理論的には、圧縮機11の回転数が同一であれば、第1暖房モードは、第2暖房モード時よりも高い暖房性能を発揮することができる。換言すると、同一の暖房性能を発揮させるために必要な圧縮機11の回転数(冷媒吐出能力)は、第2暖房モードよりも第1暖房モード時の方が低くなる。
ところが、圧縮機11には、圧縮効率が最大(ピーク)となる最大効率回転数があり、最大効率回転数よりも回転数が低くなると、圧縮効率が大きく低下してしまうという特性がある。このため、暖房負荷が比較的低い場合に圧縮機11を最大効率回転数よりも低い回転数で作動させると、第1暖房モードでは、却ってCOPが低下してしまうことがある。
そこで、本実施形態では、上述の最大効率回転数を基準回転数として、第1暖房モードの実行中に、圧縮機11の回転数が基準回転数以下となってしまう場合に第2暖房モードへ切り替えるようにしている。なお、第2暖房モードから第1暖房モードへの切替は、第2暖房モードの実行中に基準回転数に対して予め定めた所定量を加えた回転数以上となった際に行うようにすればよい。
これにより、第1暖房モードおよび第2暖房モードのうち高いCOPを発揮できる運転モードを選択することができる。従って、第1暖房モードの実行中に、圧縮機11の回転数が基準回転数以下となってしまう場合であっても、第2暖房モードへ切り替えることにより、ヒートポンプサイクル10全体としてのCOPを向上させることができる。
(C)除湿暖房運転モード
次に、除湿暖房運転モードについて説明する。除湿暖房運転モードは、例えば、冷房運転モード時に車室内温度設定スイッチによって設定された設定温度が外気温よりも高い温度に設定された際に実行される。
除湿暖房運転モードでは、空調制御装置40が、高段側膨脹弁13および低段側膨脹弁22を全開状態あるいは絞り状態とし、第2通路開閉弁251を閉弁状態とする。
さらに、空調制御装置40が、第1通路開閉弁181を開弁状態として中段側減圧手段を全開状態(減圧作用を発揮しない状態)とする。この際、固定絞り17の前後の圧力が同等となるので、中間圧開閉弁16が閉弁状態となる。これにより、ヒートポンプサイクル10は、冷房運転モードと同様に、図1の実線矢印で示すように冷媒が流れる冷媒回路に切り替えられる。
この冷媒回路の構成で、空調制御装置40が、冷房運転モードと同様に、センサ群41の検出信号等を読み込み、目標吹出温度TAO等に基づいて、空調制御装置40の出力側に接続された各制御機器の作動状態を決定する。
例えば、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、エアミックスドア34がバイパス通路35を閉塞し、室内蒸発器23通過後の送風空気の全流量が室内凝縮器12を通過するように決定される。
さらに、本実施形態の除湿暖房運転モードでは、設定温度と外気温との温度差に応じて、高段側膨脹弁13および低段側膨脹弁22の絞り開度を変化させている。具体的には、前述した目標吹出温度TAOの上昇に伴って、第1除湿暖房モードから第4除湿暖房モードの4段階の除湿暖房モードを実行する。
(C1):第1除湿暖房モード
第1除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13を全開状態とし、低段側膨脹弁22を絞り状態とする。従って、サイクル構成(冷媒流路)については、冷房運転モードと全く同様となるものの、エアミックスドア34が室内凝縮器12の空気通路を全開しているので、サイクルを循環する冷媒の状態については図14のモリエル線図に示すように変化する。
すなわち、図14に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図14のa14点)は、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された室内送風空気と熱交換して放熱する(図14のa14点→b114点)。これにより、室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、冷房運転モードと同様に、気液分離器14および中段側減圧手段を介して室外熱交換器20へ流入し、室外熱交換器20にて送風ファン21から送風された外気と熱交換して放熱する(図14のb114点→b214点)。以降の作動は冷房運転モードと同様であるため説明を省略する。
以上の如く、第1除湿暖房モード時には、室内蒸発器23にて冷却され除湿された室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
(C2):第2除湿暖房モード
次に、第1除湿暖房モードの実行中に、目標吹出温度TAOが予め定めた第1基準温度よりも高くなった際には、第2除湿暖房モードが実行される。第2除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13を絞り状態とし、低段側膨脹弁22の絞り開度を第1除湿暖房モードよりも増加させた絞り状態とする。従って、第2除湿暖房モードでは、サイクルを循環する冷媒の状態については図15のモリエル線図に示すように変化する。
すなわち、図15に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図15のa15点)は、第1除湿暖房モードと同様に、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された室内送風空気と熱交換して放熱する(図15のa15点→b115点)。これにより、室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13によって外気温よりも温度の高い中間圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧される(図15のb115点→b215点)。
高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒は、冷房運転モードと同様に、気液分離器14および中段側減圧手段を介して室外熱交換器20へ流入し、室外熱交換器20にて送風ファン21から送風された外気と熱交換して放熱する(図15のb215点→b315点)。
さらに、室外熱交換器20から流出した冷媒は、低段側膨脹弁22にて等エンタルピ的に減圧されて(図15のb315点→c15点)、室内蒸発器23へ流入する。以降の作動は冷房運転モードと同様であるため説明を省略する。
以上の如く、第2除湿暖房モードでは、第1除湿暖房モードと同様に、室内蒸発器23にて冷却され除湿された室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
この際、第2除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13を絞り状態としているので、第1除湿暖房モードに対して、室外熱交換器20へ流入する冷媒の温度を低下させることができる。従って、室外熱交換器20における冷媒の温度と外気温との温度差を縮小して、室外熱交換器20における冷媒の放熱量を低減できる。
その結果、第1除湿暖房モード時に対してサイクルを循環する冷媒循環流量を増加させることなく、室内凝縮器12における冷媒圧力を上昇させることができ、第1除湿暖房モードよりも室内凝縮器12から吹き出される温度を上昇させることができる。
(C3):第3除湿暖房モード
次に、第2除湿暖房モードの実行中に、目標吹出温度TAOが予め定めた第2基準温度(第2基準温度>第1基準温度)よりも高くなった際には、第3除湿暖房モードが実行される。第3除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13の絞り開度を第2除湿暖房モードよりも縮小させた絞り状態とし、低段側膨脹弁22の絞り開度を第2除湿暖房モードよりも増加させる。従って、第3除湿暖房モードでは、サイクルを循環する冷媒の状態については図16のモリエル線図に示すように変化する。
すなわち、図16に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図16のa16点)は、第1除湿暖房モードと同様に、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された室内送風空気と熱交換して放熱する(図16のa16点→b16点)。これにより、室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13によって外気温よりも温度の低い中間圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧される(図16のb16点→c116点)。
高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒は、冷房運転モードと同様に、気液分離器14および中段側減圧手段を介して室外熱交換器20へ流入し、室外熱交換器20にて送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図16のc116点→c216点)。
さらに、室外熱交換器20から流出した冷媒は、低段側膨脹弁22にて等エンタルピ的に減圧されて(図16のc216点→c316点)、室内蒸発器23へ流入する。以降の作動は冷房運転モードと同様であるため説明を省略する。
以上の如く、第3除湿暖房モードでは、第1除湿暖房モードと同様に、室内蒸発器23にて冷却され除湿された室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
この際、第3除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13の絞り開度を縮小させることによって、室外熱交換器20を蒸発器として作用させているので、第2除湿暖房モードに対して、室外熱交換器20における冷媒の吸熱量を増加させることができる。
その結果、第2除湿暖房モード時に対して、圧縮機11の吸入冷媒密度を上昇させることができ、圧縮機11の回転数を増加させることなく、室内凝縮器12における冷媒圧力を上昇させることができる。従って、第3除湿暖房モードでは、第2除湿暖房モードよりも室内凝縮器12から吹き出される温度を上昇させることができる。
(C4):第4除湿暖房モード
次に、第3除湿暖房モードの実行中に、目標吹出温度TAOが予め定めた第3基準温度(第3基準温度>第2基準温度)よりも高くなった際には、第4除湿暖房モードが実行される。第4除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13の絞り開度を第3除湿暖房モードよりも縮小させた絞り状態とし、低段側膨脹弁22を全開状態とする。従って、第4除湿暖房モードでは、サイクルを循環する冷媒の状態については図17のモリエル線図に示すように変化する。
すなわち、図17に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図17のa17点)は、第1除湿暖房モードと同様に、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された室内送風空気と熱交換して放熱する(図17のa17点→b17点)。これにより、室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13によって外気温よりも温度の低い低圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧される(図17のb17点→c117点)。
高段側膨脹弁13にて減圧された冷媒は、冷房運転モードと同様に、気液分離器14および中段側減圧手段を介して室外熱交換器20へ流入し、室外熱交換器20にて送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図17のc117点→c217点)。
さらに、室外熱交換器20から流出した冷媒は、低段側膨脹弁22が全開状態となっているので、減圧されることなく室内蒸発器23へ流入する。以降の作動は冷房運転モードと同様であるため説明を省略する。
以上の如く、第4除湿暖房モードでは、第1〜第3除湿暖房モード時と同様に、室内蒸発器23にて冷却され除湿された室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
この際、第4除湿暖房モードでは、第3除湿暖房モードと同様に室外熱交換器20を蒸発器として作用させると共に、第3除湿暖房モードよりも高段側膨脹弁13の絞り開度を縮小させているので、室外熱交換器20における冷媒蒸発温度を低下させることができる。従って、第3除湿暖房モードよりも室外熱交換器20における冷媒の温度と外気温との温度差を拡大させて、室外熱交換器20における冷媒の吸熱量を増加させることができる。
その結果、第3除湿暖房モード時に対して、圧縮機11の吸入冷媒密度を上昇させることができ、圧縮機11の回転数を増加させることなく、室内凝縮器12における冷媒圧力を上昇させることができる。従って、第4除湿暖房モードでは、第3除湿暖房モードよりも室内凝縮器12から吹き出される温度を上昇させることができる。
以上説明した本実施形態の車両用空調装置1では、上記の如く、ヒートポンプサイクル10の冷媒回路を切り替えることによって、種々のサイクル構成を実現して、車室内の適切な冷房、暖房および除湿暖房を実現できる。
本実施形態のように電気自動車に適用される車両用空調装置1では、内燃機関(エンジン)を搭載する車両のようにエンジンの廃熱を車室内の暖房のために利用できない。従って、本実施形態のヒートポンプサイクル10のように、暖房運転モード時にガスインジェクションサイクル、および通常サイクルに切り替えることで、暖房負荷によらず高いCOPを発揮させることできることは、極めて有効である。
また、本実施形態では、ヒートポンプサイクル10をガスインジェクションサイクルとして機能させるために必要な中間圧開閉弁16を差圧開閉弁により構成しているので、ヒートポンプサイクル10を簡素なサイクル構成で実現することができる。
特に、本実施形態のヒートポンプサイクル10は、高圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15を連通させる高圧側連通路27、および高圧側逆止弁271を備えている。これによれば、冷媒充填作業時に高圧側連通路27を介して中間圧冷媒通路15の真空引きを実施することができる。つまり、本実施形態によれば、冷媒充填作業時に中間圧冷媒通路15の真空引きを実施できない不具合(1)を解消することができる。
ここで、サイクル作動時には、高圧冷媒通路の圧力が中間圧冷媒通路15の圧力よりも必ず大きくなり、高圧側逆止弁271が閉弁状態に維持されるので、高圧側連通路27を介して中間圧冷媒通路15と高圧冷媒通路とが連通することはない。なお、「サイクル作動時」とは、熱交換対象流体(室内送風空気)を冷却あるいは加熱する機能を発揮するヒートポンプサイクル10の作動時を意味する。
また、本実施形態のヒートポンプサイクル10は、低圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15を連通させる低圧側連通路28、および低圧側逆止弁281を備えている。これによれば、冷媒充填作業時に低圧側連通路28を介して中間圧冷媒通路15へ冷媒を充填することができる。つまり、本実施形態によれば、冷媒充填作業時に中間圧冷媒通路15へ冷媒の充填を実施できない不具合(2)を解消することができる。
ここで、サイクル作動時には、中間圧冷媒通路15の圧力が高圧冷媒通路の圧力よりも必ず大きくなり、低圧側逆止弁281が閉弁状態に維持されるので、低圧側連通路28を介して中間圧冷媒通路15と低圧冷媒通路とが連通することはない。
従って、本実施形態のヒートポンプサイクル10によれば、冷媒充填作業時に生ずる各種不具合を適切に解消することができる。
なお、本実施形態の如く、ヒートポンプサイクル10を、冷媒充填作業時に生ずる不具合(1)、(2)の双方を解消可能な構成とすることが望ましいが、これに限定されない。
例えば、ヒートポンプサイクル10において、冷媒充填作業時に前述の不具合(1)が生じ難い場合等には、高圧側連通路27および高圧側逆止弁271を廃止して、低圧側連通路28および低圧側逆止弁281だけを備える構成としてもよい。これによれば、冷媒充填作業時に生ずる不具合(2)を解消することができる。
また、ヒートポンプサイクル10において、冷媒充填作業時に前述の不具合(2)が生じ難い場合等には、低圧側連通路28および低圧側逆止弁281を廃止して、高圧側連通路27および高圧側逆止弁271だけを備える構成としてもよい。これによれば、冷媒充填作業時に生ずる不具合(1)を解消することができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。なお、本実施形態では、第1実施形態と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
本実施形態では、第1実施形態にて冷媒配管で構成していた高圧側連通路27および低圧側連通路28それぞれを、図18に示すように、圧縮機11の内部に形成している。
具体的には、本実施形態の高圧側連通路27は、高圧冷媒通路に連通する圧縮機11の吐出ポート11c上流側と、中間圧冷媒通路15に連通する逆止弁11e上流側とを連通させるように、圧縮機11のハウジングに形成されている。
そして、本実施形態の高圧側逆止弁271は、圧縮機11の逆止弁11e上流側から吐出ポート11c上流側への冷媒の流入を許容すると共に、圧縮機11の吐出ポート11c上流側から逆止弁11e上流側への冷媒の流入を禁止するように構成されている。
また、本実施形態の低圧側連通路28は、低圧冷媒通路に連通する圧縮機11の吸入ポート11b上流側と、中間圧冷媒通路15に連通する逆止弁11e上流側とを連通させるように、圧縮機11のハウジングに形成されている。
そして、本実施形態の低圧側逆止弁281は、圧縮機11の吸入ポート11b上流側から逆止弁11e上流側への冷媒の流入を許容すると共に、圧縮機11の逆止弁11e上流側から吸入ポート11b上流側への冷媒の流入を禁止するように構成されている。
その他の構成および作動は、第1実施形態と同様である。本実施形態の構成によれば、第1実施形態の構成に加えて、以下の効果を奏する。すなわち、本実施形態では、圧縮機11の内部に高圧側連通路27および低圧側連通路28を形成している。このため、高圧側連通路27および低圧側連通路28を冷媒配管にて構成する場合に比べて、配管の取り回しなどが必要なくなり、ヒートポンプサイクル10の簡素化および小型化を図ることができる。
ここで、本実施形態では、高圧側連通路27および低圧側連通路28の双方を圧縮機11の内部に形成する例について説明したが、これに限定されない。高圧側連通路27および低圧側連通路28のうち、一方を圧縮機11の内部に形成し、他方を冷媒配管にて構成してもよい。なお、第1実施形態と同様に、ヒートポンプサイクル10は、高圧側連通路27および低圧側連通路28のうち、一方の連通路だけ備える構成としてもよい。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。なお、本実施形態では、第1、第2実施形態と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
本実施形態では、第1実施形態のヒートポンプサイクル10に対して、図19に示すように、低圧側連通路28および低圧側逆止弁281を廃止し、高圧側逆止弁271を第1連通路開閉弁272に変更している。
第1連通路開閉弁272は、高圧側連通路27を開閉する電磁弁で構成されており、冷媒充填作業時に開弁し、サイクル作動時に閉弁するように、空調制御装置40により開閉動作が制御されるようになっている。なお、本実施形態では、第1連通路開閉弁272が高圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15との間を連通状態および遮断状態に切替可能な高圧側切替手段を構成している。
本実施形態のヒートポンプサイクル10は、冷媒充填作業時に第1連通路開閉弁272が開弁し、高圧側連通路27を介して高圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15とが連通する。従って、本実施形態のヒートポンプサイクル10によれば、高圧側連通路27を介して中間圧冷媒通路15の真空引きを実施できると共に、高圧側連通路27を介して中間圧冷媒通路15へ冷媒を適切に充填可能となる。
なお、サイクル作動時は、第1連通路開閉弁272が閉弁し、高圧側連通路27を介した高圧冷媒通路および中間圧冷媒通路15の連通が遮断されるので、高圧側連通路27を介して高圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15とが連通することはない。
ここで、本実施形態では、第1連通路開閉弁272を電磁弁で構成する例について説明したが、これに限定されない。例えば、第1連通路開閉弁272の開閉作動を作業員等が手動で行うことが可能な機械式の開閉弁により構成してもよい。
これによれば、冷媒充填作業時に、作業員等が第1連通路開閉弁272を開くことで、高圧側連通路27を介して中間圧冷媒通路15の真空引きを実施できると共に、高圧側連通路27を介して中間圧冷媒通路15へ冷媒を適切に充填可能となる。この場合、第1連通路開閉弁272を構成する機械式の開閉弁が、高圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15との間を連通状態および遮断状態に切替可能な高圧側切替手段を構成する。
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。なお、本実施形態では、第1〜第3実施形態と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
本実施形態では、第1実施形態のヒートポンプサイクル10に対して、図20に示すように、高圧側連通路27および高圧側逆止弁271を廃止し、低圧側逆止弁281を第2連通路開閉弁282に変更している。
第2連通路開閉弁282は、低圧側連通路28を開閉する電磁弁で構成されており、冷媒充填作業時に開弁し、サイクル作動時に閉弁するように、空調制御装置40により開閉動作が制御されるようになっている。なお、本実施形態では、第2連通路開閉弁282が低圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15との間を連通状態および遮断状態に切替可能な低圧側切替手段を構成している。
本実施形態のヒートポンプサイクル10は、冷媒充填作業時に第2連通路開閉弁282が開弁し、低圧側連通路28を介して低圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15とが連通する。従って、本実施形態のヒートポンプサイクル10によれば、低圧側連通路28を介して中間圧冷媒通路15の真空引きを実施できると共に、低圧側連通路28を介して中間圧冷媒通路15へ冷媒を適切に充填可能となる。
なお、サイクル作動時は、第2連通路開閉弁282が閉弁し、低圧側連通路28を介した低圧冷媒通路および中間圧冷媒通路15の連通が遮断されるので、低圧側連通路28を介して低圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15とが連通することはない。
ここで、本実施形態では、第2連通路開閉弁282を電磁弁で構成する例について説明したが、これに限定されない。例えば、第2連通路開閉弁282の開閉作動を作業員等が手動で行うことが可能な機械式の開閉弁により構成してもよい。
これによれば、冷媒充填作業時に、作業員等が第2連通路開閉弁282を開くことで、低圧側連通路28を介して中間圧冷媒通路15の真空引きを実施できると共に、低圧側連通路28を介して中間圧冷媒通路15へ冷媒を適切に充填可能となる。この場合、第2連通路開閉弁282を構成する機械式の開閉弁が、低圧冷媒通路と中間圧冷媒通路15との間を連通状態および遮断状態に切替可能な低圧側切替手段を構成する。
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。例えば、以下のように種々変形可能である。
(1)上述の各実施形態では、本発明のヒートポンプサイクル10を電気自動車の車両用空調装置1に適用する例について説明したが、これに限らず、ハイブリッド自動車の如く、エンジン廃熱が不充分なり得る車両の空調装置に適用してもよい。
(2)上述の各実施形態では、本発明のヒートポンプサイクル10を車両用空調装置1に適用した例を説明したが、本発明の適用はこれに限定されず、例えば、据置型空調装置や液体加熱装置(例えば、給湯機)等に適用してもよい。
(3)上述の各実施形態では、各膨脹弁13、22や各通路開閉弁181、251等にてヒートポンプサイクル10の冷媒回路の切り替えることで、種々の運転モードを実現する例について説明したが、これに限定されない。
ヒートポンプサイクル10は、ガスインジェクションサイクルとガスインジェクションサイクル以外の通常サイクルとを切替可能な構成であればよい。例えば、ヒートポンプサイクル10は、第1暖房モードおよび第2暖房モードからなる暖房運転モードだけが実現可能な構成となっていてもよいし、第1暖房モードおよび冷房運転モードだけが実現可能な構成となっていてもよい。勿論、種々の運転モードを設ける方が、熱交換対象流体(送風空気)の温度を適切に温度調整できる点で有効である。
(4)上述の各実施形態では、第1減圧手段を構成する高段側膨脹弁13を電気式の可変絞り機構で構成する例について説明したが、これに限定されない。例えば、高段側膨脹弁13を、中段側減圧手段の如く、固定絞り、固定絞りを迂回する迂回通路、当該迂回通路を開閉する通路開閉弁で構成してもよい。
(5)上述の各実施形態では、上述の各実施形態では、第2減圧手段を構成する中段側減圧手段を固定絞り17、第1迂回通路18、および第1通路開閉弁181で構成する例について説明したが、これに限定されない。例えば、中段側減圧手段を、高段側膨脹弁13の如く、電気式の可変絞り機構で構成してもよい。
(6)上述の各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。
(7)上述の各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
(8)上述の各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
(9)上述の各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。