以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、本発明の統合弁14、および統合弁14の駆動システムを備えるヒートポンプサイクル10を、走行用の電動モータから車両走行用の駆動力を得る電気自動車の空調装置1に適用している。ヒートポンプサイクル10は、車両用空調装置1において、空調対象空間である車室内へ送風する室内送風空気を熱交換対象流体とし、当該室内送風空気の温度を調整する機能を果たす。
本実施形態のヒートポンプサイクル10は、車室内を冷房する冷房運転モードや車室内を除湿しながら暖房する除湿暖房運転モードの冷媒回路(図1)、および車室内を暖房する暖房運転モードの冷媒回路(図2、図3)を切替可能に構成されている。
また、本実施形態のヒートポンプサイクル10では、後述するように暖房運転モードとして、外気温が極低温時(例えば、0℃以下の時)に実行される第1暖房モードの冷媒回路(図2)、通常の暖房が実行される第2暖房モードの冷媒回路(図3)を切替可能に構成されている。
本実施形態では、図2に示す第1暖房モードの冷媒回路がガスインジェクションサイクル(二段圧縮サイクル)を構成し、冷房運転モードおよび除湿暖房モードの冷媒回路や第2暖房モードの冷媒回路が通常サイクル(一段圧縮サイクル)を構成している。なお、本実施形態では、第1暖房モードが、後述の中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11の中間圧ポート11c側へ気相冷媒を流入させる「インジェクションモード」に相当している。
従って、本実施形態のヒートポンプサイクル10は、ガスインジェクションサイクル(二段圧縮サイクル)、およびガスインジェクションサイクル以外の通常サイクル(一段圧縮サイクル)に切替可能なサイクルとして構成されている。なお、図1の全体構成図は、冷房運転モードおよび除湿暖房運転モードに切り替えた際の冷媒回路を示しており、図2、図3の全体構成図が暖房運転モードに切り替えた際の冷媒回路を示している。また、図1〜図3では、それぞれの運転モードにおける冷媒の流れを実線矢印で示している。
ヒートポンプサイクル10では、冷媒としてHFC系冷媒(例えば、R134a)を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルを構成している。勿論、HFO系冷媒(例えば、R1234yf)や二酸化炭素CO2等を採用してもよい。なお、冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油(潤滑油)が混入されており、冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
ヒートポンプサイクル10の構成機器のうち、圧縮機11は、車両のボンネット内に配置され、ヒートポンプサイクル10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するものである。圧縮機11は、外殻を構成するハウジング内部に、図示しない圧縮室内の冷媒を圧縮する圧縮機構、および圧縮機構を回転駆動する電動モータを収容して構成された電動圧縮機で構成されている。
圧縮機11のハウジングには、圧縮室へ低圧冷媒を吸入させる吸入ポート11a、圧縮室から高圧冷媒を吐出する吐出ポート11b、サイクル内の中間圧冷媒を圧縮室へ導くと共に、圧縮過程の冷媒に合流させる中間圧ポート(中間吸入口)11cが設けられている。なお、図示しないが、圧縮機11には、圧縮機構における摺動部位に対して潤滑油を供給するための油溜めが設けられている。
圧縮機11の圧縮機構としては、スクロール型圧縮機構を採用することができる。なお、圧縮機11の圧縮機構としては、スクロール型圧縮機構に限らず、ベーン型圧縮機構、ローリングピストン型圧縮機構等の各種形式のものを採用することができる。
また、圧縮機11には、中間圧ポート11cに接続される後述の中間圧冷媒通路15側から圧縮室への冷媒の流入を許容し、圧縮室から中間圧冷媒通路15側への冷媒の流入を禁止する逆止弁(図示略)が内蔵されている。これにより、圧縮室の冷媒圧力が中間圧冷媒通路15の冷媒圧力(中間圧ポート11c側の冷媒圧力)よりも高くなった際に、中間圧ポート11cを介して圧縮室から中間圧冷媒通路15側へ冷媒が逆流してしまうことを防止できる。
電動モータは、後述する空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動(回転数)が制御されるもので、交流モータ、直流モータのいずれの形式を採用してもよい。そして、この回転数制御によって、圧縮機11の冷媒吐出能力が変更される。従って、本実施形態では、電動モータが圧縮機11の吐出能力変更手段を構成している。
圧縮機11の吐出ポート11bには、室内凝縮器12の冷媒入口側が接続されている。室内凝縮器12は、後述する室内空調ユニット30の空調ケース31内に配置され、圧縮機11から吐出された高圧冷媒を放熱させて、後述する室内蒸発器23を通過した室内送風空気を加熱する放熱器である。
室内凝縮器12の冷媒出口側には、室内凝縮器12から流出した高圧冷媒を中間圧冷媒となるまで減圧可能な高段側膨脹弁13の入口側が接続されている。この高段側膨脹弁13は、絞り開度を変更可能に構成された弁体と、この弁体の絞り開度を変化させるステッピングモータからなる電動アクチュエータとを有して構成される電気式の可変絞り機構である。
高段側膨脹弁13は、減圧作用を発揮する絞り状態と減圧作用を発揮しない全開状態とに設定可能に構成されている。換言すれば、本実施形態の高段側膨脹弁13は、室内凝縮器12から流出した冷媒を少なくとも中間圧冷媒となるまで減圧させる絞り状態に設定可能に構成されている。
具体的には、高段側膨脹弁13では、冷媒を減圧させる際に、絞り通路面積が相当直径φ0.5〜φ3mmとなる範囲で絞り開度を変化させるように構成されている。また、高段側膨脹弁13は、絞り開度を全開とする際に、絞り通路面積を相当直径φ10mm程度確保して、冷媒減圧作用を発揮させないようにすることもできる。なお、高段側膨脹弁13は、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
高段側膨脹弁13の出口側には、統合弁14の冷媒入口側が接続されている。この統合弁14は、ヒートポンプサイクル10をガスインジェクションサイクルとして機能させるために必要な構成機器の一部を一体的に構成したものであり、サイクルを循環する冷媒の冷媒回路を切り替える冷媒回路切替手段としての機能を果たす。
具体的には、統合弁14は、冷媒の気液を分離する気液分離手段(気液分離空間141b)、気液分離手段で分離された液相冷媒を減圧させる固定絞り17、気液分離手段から流出した冷媒が流通する冷媒通路を開閉する弁手段16等を一体的に構成したものである。
統合弁14の詳細構成については、図4〜図8を用いて説明する。ここで、図4〜図6は、統合弁14の模式的な上下方向断面図であり、図4は、気相冷媒通路141fを閉じた状態で、液相冷媒通路142cを全開する第1モード時の断面図を示している。また、図5は、液相冷媒通路142cを閉じた状態で、気相冷媒通路141fを全開する第2モード時の断面図を示し、図6は、液相冷媒通路142cを閉じた状態で、気相冷媒通路141fを全閉、または微開とする第3モード時の断面図を示している。なお、図4〜図6における上下を示す矢印は、統合弁14を車両用空調装置1へ搭載した状態における方向を示している。
統合弁14は、その外殻を形成すると共に、内部に固定絞り17や弁手段16等を収容するボデー140を有している。ボデー140は、その軸方向が上下方向に延びる略角筒状の金属ブロック体(例えば、アルミニウム)で構成されている。本実施形態のボデー140は、上方側に配置されるアッパーブロック141、およびアッパーブロック141の下方側に取り付け固定されるロワーブロック142によって構成されている。
アッパーブロック141には、その内部に高段側膨脹弁13から流出した冷媒の気液を分離する気液分離空間141bが形成されている。この気液分離空間141bは、その軸線方向が上下方向に延びる円柱状に形成されている。
より詳細には、本実施形態の気液分離空間141bは、その内容積が、サイクルに封入される冷媒量を液相に換算した際の封入冷媒体積から、サイクルの最大能力を発揮するために必要な冷媒量を液相に換算した際の必要冷媒体積を減算した余剰冷媒体積よりも小さく設定されている。すなわち、本実施形態の気液分離空間141bの内容積は、サイクルに負荷変動が生じてサイクルを循環する冷媒循環流量が変動しても、実質的に余剰冷媒を溜めることができない程度の容積となっている。これによれば、統合弁14全体としての体格の小型化を図ることができる。
また、アッパーブロック141は、その外側壁面に高段側膨脹弁13からの冷媒を流入させる冷媒流入口141aが形成されている。この冷媒流入口141aは、気液分離空間141bの内側壁面に開口する冷媒導入穴141gを介して、気液分離空間141bに連通している。
ここで、冷媒流入口141aから冷媒導入穴141gへ至る冷媒通路を構成する冷媒導入通路141hは、気液分離空間141bの軸線方向から見たときに、気液分離空間141bの内側壁面の接線方向に延びるように形成されている。
これにより、冷媒流入口141aから気液分離空間141bに流入した冷媒は、気液分離空間141bの内側壁面に沿って旋回して流れる。そして、この旋回流れによって生ずる遠心力により、気液分離空間141bに流入した冷媒の気液が分離され、分離された液相冷媒が重力により気液分離空間141bの下方側へ落下する。なお、本実施形態の気液分離空間141bは、遠心分離方式の気液分離手段を構成している。
また、アッパーブロック141には、気液分離空間141bの内部であって、気液分離空間141bと同軸上に配置される丸管状のパイプ部141cが設けられている。なお、気液分離空間141bに流入した冷媒は、パイプ部141cの周囲を旋回して流れる。
このパイプ部141cは、最も下方側の下方端部が気液分離空間141bの内部に位置付けられるように延びており、当該下方端部に、気液分離空間141bにて分離された気相冷媒を流入させる円環状(ドーナツ状)の気相側流入部141dが形成されている。なお、気相側流入部141dは、下方に向かって突出しており、後述する気相側弁体161が接離する気相側弁座部としての機能を果たしている。
アッパーブロック141の気液分離空間141bの上方側には、アッパーブロック141の外側壁面に形成された気相側流出口141e、およびパイプ部141cの内部空間に連通する貫通穴が形成されている。この貫通穴は、パイプ部141cの内部空間と共に、気液分離空間141bにて分離された気相冷媒を気相側流出口141eから流出させる気相冷媒通路141fを構成している。なお、図示しないが気相側流出口141eには、圧縮機11の中間圧ポート11cへ気相冷媒を導く中間圧冷媒通路15が接続されている。
続いて、ロワーブロック142は、アッパーブロック141と一体化された際に、気相側流入部141dと対向する位置に、気液分離空間141bにて分離された液相冷媒を流入させる円環状(ドーナツ状)の液相側流入部142aが形成されている。なお、液相側流入部142aは、上方に向かって突出するように、ロワーブロック142と一体に形成されており、後述する液相側弁体162が接離する液相側弁座部としての機能を果たしている。
また、ロワーブロック142には、ロワーブロック142の外側壁面に形成された液相側流出口142b、および液相側流入部142aに連通する貫通穴が形成されている。この貫通穴は、気液分離空間141bにて分離された液相冷媒を液相側流出口142bから流出させる液相冷媒通路142cを構成している。
また、ロワーブロック142には、後述する液相側弁体162が液相冷媒通路142cを閉じた際に、気液分離空間141bから流入した冷媒を減圧させて液相側流出口142b側へ流出させる固定絞り17が形成されている。
ここで、液相冷媒通路142cを開いた状態で、冷媒が液相冷媒通路142cを通過する際に生ずる圧力損失は、冷媒が固定絞り17を通過する際に生ずる圧力損失に対して極めて小さい。
このため、液相冷媒通路142cを開いた状態では、液相側流入部142aから流入した冷媒は、固定絞り17にて減圧されることなく、液相冷媒通路142を介して液相側流出口142bから流出する。
一方、液相冷媒通路142cを閉じた状態では、液相側流入部142aから流入した冷媒は、固定絞り17にて減圧され、固定絞り17にて減圧された冷媒が液相側流出口142bから流出する。
ここで、固定絞り17としては、絞り開度が固定されたノズル、オリフィス等を採用することができる。ノズル、オリフィス等の固定絞りでは、絞り通路面積が急縮小あるいは急拡大するので、上流側と下流側との圧力差(出入口間差圧)の変化に伴って、固定絞りを通過する冷媒の流量および固定絞り上流側冷媒の乾き度を自己調整(バランス)することができる。
具体的には、圧力差が比較的大きい場合には、サイクルを循環させる必要のある冷媒の必要循環流量が減少するに伴って、固定絞り上流側冷媒の乾き度が大きくなるようにバランスする。一方、圧力差が比較的小さい場合には、冷媒循環流量が増加するに伴って、固定絞り上流側冷媒の乾き度が小さくなるようにバランスする。
続いて、気相冷媒通路141fおよび液相冷媒通路142cを開閉する弁手段16、および当該弁手段16の各弁体161、162の双方を変位させる駆動手段18について説明する。
まず、弁手段16について説明すると、本実施形態の弁手段16は、気相冷媒通路141fの通路開度を変更する気相側弁体161、および液相冷媒通路142cの通路開度を変更する液相側弁体162を有する。
各弁体161、162それぞれは、互いに対向するように形成された気相側流入部(気相側弁座部)141dと液相側流入部(液相側弁座部)142aとの間に配置されている。より具体的には、気相側弁体161が気相側流入部141dと対向するように配置され、液相側弁体162が、気相側弁体161の下方側にて液相側流入部142aと対向するように配置されている。
液相側弁体162は、液相側流入部142aに接離する円盤状の弁部162a、および後述するロッドにおける弁部162aと気相側弁体161との間に存する部位を覆うように設けられた環状の筒状部162bを一体化した部材で構成されている。
弁部162aは、液相側弁体162における液相側流入部142aと対向する部位であり、その中央に後述するロッド181が摺動可能な大きさの貫通穴が形成されている。また、図7の要部断面図に示すように、弁部162aの面積Sa2は、液相側流入部142aの開口面積Sa1よりも大きくなっている(Sa2>Sa1)。
さらに、弁部162aの下面側における液相側流入部142a、および後述するロッド181の第2突起部181bに接触する部位には、円環状に形成されたゴム製の第1のシール部材162cが配置されている。
この第1のシール部材162cは、図5に示すように、液相側弁体162が液相冷媒通路142cを閉じる位置に変位した際に、液相側弁体162と液相側流入部142aとのシール性を高める部材として機能する。
また、第1のシール部材162cは、図4に示すように、気相側弁体161が気相冷媒通路141fを閉じる位置に変位した際に、後述するロッド181の第2突起部181bと密着して、液相側弁体162とロッド181との間の隙間から冷媒が漏れることを抑制するための部材でもある。
ここで、第1のシール部材162cが設けられていない場合、気相側弁体161が気相冷媒通路141fを閉じたとしても、図9の一点鎖線矢印Aで示すように、液相側弁体162とロッド181との隙間を介して高圧冷媒や液相冷媒が気相冷媒通路141fに流入してしまう可能性がある。
このような冷媒漏れは、サイクル性能や圧縮機11の保護の観点から好ましくない。例えば、冷房運転モード時には、高圧冷媒が、気相冷媒通路141fおよび中間圧冷媒通路15を介して、圧縮機11の中間圧ポート11cへ流入すると、圧縮機11から吐出する冷媒の温度が必要以上に上昇することになり、サイクルの性能が低下してしまう。
このため、本実施形態では、気相側弁体161が気相冷媒通路141fを閉じた際に、第1のシール部材162cと第2突起部181bとを密着させる構成としている。なお、第1のシール部材162cは、気相側弁体161が気相冷媒通路141fを閉じた際に、液相側弁体162と後述するロッド181との間の隙間から冷媒が漏れることを抑制する第2漏洩抑制部を構成している。
また、筒状部162bは、気相側弁体161側の部位における内径が拡大されることで、気相側弁体161と接触する上端部位が上方に向かって突出する形状に形成されている。この筒状部162bは、後述するロッド181と弁部162aとの間の隙間からの冷媒漏れを抑制する機能を果たす。
一方、気相側弁体161は、その中央部に後述するロッド181が摺動可能な大きさの貫通穴が形成された円盤状の部材で構成されている。そして、図7の要部断面図に示すように、気相側弁体161の面積Sb2は、気相側流入部141dの開口面積Sb1よりも大きくなっている(Sb2>Sb1)。
ここで、本実施形態では、気液分離空間141bにて分離された液相冷媒は、重力により気液分離空間141bの下方側へ落下する。
ところが、気液分離空間141bの下方側に液相冷媒が溜まっていると、図8に示すように、気相側弁体161が気相側流入部141dを開いた際に、上方の気相冷媒通路141f側へ液相冷媒が飛散して、気相冷媒通路141fへ液相冷媒が流入してしまう可能性がある。
そこで、本実施形態では、気相側流入部141dの開口面積Sb1に対する気相側弁体161の面積Sb2の面積比を、液相側流入部142aの開口面積Sa1に対する液相側弁体162の面積Sa2の面積比を大きくしている(Sb2/Sb1>Sa2/Sa1)。
このように、気相側弁体161の面積Sb2を気相側流入部141dの開口面積Sb1よりも拡大することで、気相側弁体161を、気相冷媒通路141fを開いた際の気相冷媒通路141f側への液相冷媒の飛散を抑制するシャッタとして機能させることができる。
また、気相側弁体161の上面側における気相側流入部141dに接触する部位には、円環状に形成されたゴム製の第2のシール部材161aが配置されている。この第2のシール部材161aは、図4に示すように、気相側弁体161が気相冷媒通路141fを閉じた際に、気相側弁体161と気相側流入部141dとのシール性を高めるための部材である。
また、気相側弁体161の下面側における液相側弁体162の筒状部162bに接触する部位には、円環状に形成されたゴム製の第3のシール部材161bが配置されている。この第3のシール部材161bは、図4に示すように、気相側弁体161が気相冷媒通路141fを閉じた際に、筒状部162bに密着して、気相側弁体161と後述するロッド181との間の隙間から冷媒が漏れることを抑制するための部材である。
ここで、第3のシール部材161bが設けられていない場合、気相側弁体161が気相冷媒通路141fを閉じたとしても、図9の二点鎖線矢印Bで示すように、気相側弁体161とロッド181との隙間を介して高圧冷媒や液相冷媒が気相冷媒通路141fに流入してしまう可能性がある。
このような冷媒漏れは、サイクル性能や圧縮機11の保護の観点から好ましくない。例えば、冷房運転モード時には、高圧冷媒が、気相冷媒通路141fおよび中間圧冷媒通路15を介して、圧縮機11の中間圧ポート11cへ流入すると、圧縮機11から吐出する冷媒の温度が必要以上に上昇することになり、サイクルの性能が低下してしまう。
このため、本実施形態では、気相側弁体161が気相冷媒通路141fを閉じた際に、第3のシール部材161bと筒状部162bとを密着させる構成としている。なお、第3のシール部材161bは、気相側弁体161が気相冷媒通路141fを閉じた際に、気相側弁体161と後述するロッド181との間の隙間から冷媒が漏れることを抑制する第1漏洩抑制部を構成している。
なお、各弁体161とロッド181との隙間からの冷媒漏れは、各弁体161とロッド181との間の隙間にOリング等のシール部材を配置することでも対応可能である。
しかし、各弁体161とロッド181との間の隙間にOリング等のシール部材を配置する場合、当該シール部材が、各弁体161、162の変位を妨げる要素(摺動抵抗)となり、各弁体161、162を変位させる際に必要となる操作力が増大してしまう。このような操作力の増大は、後述する駆動手段18の電動アクチュエータ182の大型化を招く要因となり、好ましくない。
このため、本実施形態のように、ロッド181から離間させた状態で配置した第1、第3シール部材162c、161bにより、各弁体161とロッド181との隙間からの冷媒漏れを抑制する構成とすることが望ましい。
続いて、駆動手段18について説明する。駆動手段18は、各弁体161、162の双方を所望の位置に変位させるものである。
具体的には、本実施形態の駆動手段18は、気相冷媒通路141fを閉じる全閉位置に気相側弁体161を変位させる際に、図4に示すように、液相冷媒通路142cの通路開度が全開状態となる全開位置に液相側弁体162を変位可能に構成されている。
また、駆動手段18は、液相冷媒通路142cを閉じる全閉位置に液相側弁体162を変位させる際に、図5に示すように、気相冷媒通路141fの通路開度が全開状態となる全開位置に気相側弁体161を変位可能に構成されている。
さらに、駆動手段18は、液相冷媒通路142cを閉じる全閉位置に液相側弁体162を変位させる際に、図6に示すように、気相冷媒通路141fの通路開度が全開状態よりも小さくなる位置(全閉位置または微開位置)に気相側弁体161を変位可能に構成されている。
このように、本実施形態の統合弁14は、駆動手段18で各弁体161、162の位置を変位させることで、その作動モードを図10に示す第1〜第3モードといった3つのモードに切替可能となっている。
本実施形態の駆動手段18は、各弁体161、162の双方を貫通するように配設されたロッド181、ロッド181を軸方向(上下方向)に駆動させる電動アクチュエータ182、各弁体161、162の間に配設された弾性部材183を備えている。
ロッド181は、上方側の一端部が電動アクチュエータ182の可動部に連結されると共に、下方側の他端部がロワーブロック142に形成されたガイド穴142d内に摺動可能に収容されている。本実施形態のロッド181は、その軸がパイプ部141cの軸線と一致しており、パイプ部141cの内部空間を貫通するように配設されている。
ロッド181には、気相冷媒通路141fを開く位置に気相側弁体161を変位させる際に、気相側弁体161に接触して気相側弁体161に対して気相側流入部141dから離間する方向(下方)へ荷重を付与する第1突起部181aが設けられている。この第1突起部181aは、ロッド181の軸方向に垂直な方向に突出する鍔状の部材であり、ロッド181における気相側弁体161の上方側にかしめ等により固定されている。
また、ロッド181には、液相冷媒通路142cを開く位置に液相側弁体162を変位させる際に、液相側弁体162に接触して液相側弁体162に対して液相側流入部142aから離間する方向(上方)へ荷重を付与する第2突起部181bが設けられている。この第2突起部181bは、ロッド181の軸方向に垂直な方向に突出する鍔状の部材であり、液相側弁体162の下方側にてロッド181と一体に形成されている。
本実施形態の第2突起部181bは、液相側弁体162に接触した際に第1のシール部材162cと当接するように、その上面側の部位が上方に向かって突出する形状に形成されている。
ここで、本実施形態では、第1、第2突起部181a、181bの間隔が、気相側流入部141dと液相側流入部142aとの間の間隔よりも大きくなっている。これにより、本実施形態では、ロッド181を駆動した際に、第1、第2突起部181a、181bそれぞれが、気相側流入部141dおよび液相側流入部142aに接触しない状態にすることが可能となっている。
電動アクチュエータ182は、ロッド181を上下方向に駆動することで、各弁体161、162を変位させるものである。本実施形態では、電動アクチュエータ182としてステッピングモータを採用している。
本実施形態の電動アクチュエータ182は、後述する空調制御装置40から出力される制御パルスにより、その作動が制御される。なお、電動アクチュエータ182をステッピングモータで構成する場合、空調制御装置40から出力される制御パルスが停止された際、送りねじの摩擦力や磁石の保持トルクにより、各弁体161、162の位置が保持される。
弾性部材183は、各弁体161、162に対して互いに離間するように荷重をかける部材であり、コイルバネ等のスプリングで構成されている。具体的には、弾性部材183は、気相側弁体161に対して気相側流入部141dに接触する方向へ荷重が作用すると共に、液相側弁体162に対して液相側流入部142aに接触する方向へ荷重が作用するように、各弁体161、162の間に配設されている。
電動アクチュエータ182は、液相側弁体162により液相冷媒通路142cを開く際に、ロッド181を上方側へ駆動する。これにより、図4に示すように、ロッド181の第2突起部181bと液相側弁体162とが接触して、液相側弁体162に対して液相側流入部142aから離間する方向へ荷重が付与される。この際、弾性部材183の荷重により気相側流入部141dに当接する位置に気相側弁体161が変位することで、気相冷媒通路141fが閉鎖される。
また、電動アクチュエータ182は、気相側弁体161により気相冷媒通路141fを開く際に、ロッド181を下方側へ駆動する。これにより、図5に示すように、ロッド181の第1突起部181aと気相側弁体161とが接触して、気相側弁体161に対して気相側流入部141dから離間する方向へ荷重が付与される。この際、弾性部材183の荷重により液相側流入部142aに当接する位置に液相側弁体162が変位することで、液相冷媒通路142cが閉鎖される。
ここで、各弁体161、162により液相冷媒通路142cおよび気相冷媒通路141fを閉じる際には、電動アクチュエータ182は、各突起部181a、181bそれぞれが、気相側流入部141および液相側流入部142に接触しない位置にロッド181を駆動する。
これにより、図6に示すように、各弁体161、162には、各突起部181a、181bから荷重が付与されず、弾性部材183の荷重により各流入部141d、142aに当接する位置に各弁体161、162が変位することで、各冷媒通路141f、142cの双方が閉鎖される。
なお、液相冷媒通路142cを閉じ、且つ、気相冷媒通路141fを微開とする際には、電動アクチュエータ182は、各突起部181a、181bが気相側流入部141および液相側流入部142に接触しない位置から、ロッド181を僅かに下方側へ駆動する。
これにより、ロッド181の第1突起部181aと気相側弁体161とが接触して、気相側弁体161に対して気相側流入部141dから離間する方向へ荷重が付与され、気相側弁体161が僅かに気相冷媒通路141fを開く位置に変位する。この際、弾性部材183の荷重により液相側流入部142aに当接する位置に液相側弁体162が変位することで、液相冷媒通路142cが閉鎖される。
図1〜図3に戻り、統合弁14の液相側流出口142bには、室外熱交換器20の冷媒入口側が接続されている。室外熱交換器20は、ボンネット内に配置されて、内部を流通する冷媒と送風ファン21から送風された車室外空気(外気)とを熱交換させるものである。この室外熱交換器20は、第1、第2暖房モード時等に冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる蒸発器として機能し、冷房運転モード時等に冷媒を放熱させる放熱器として機能する熱交換器である。
室外熱交換器20の冷媒出口側には、低段側膨脹弁22の冷媒入口側が接続されている。低段側膨脹弁22は、冷房運転モード時等に室外熱交換器20から流出し、室内蒸発器23へ流入する冷媒を減圧させるものである。この低段側膨脹弁22の基本的構成は、高段側膨脹弁13と同様であり、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
低段側膨脹弁22の出口側には、室内蒸発器23の冷媒入口側が接続されている。室内蒸発器23は、室内空調ユニット30の空調ケース31内のうち、室内凝縮器12の送風空気流れ上流側に配置され、冷房運転モード時や除湿暖房運転モード時に、冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることにより車室内への送風空気を冷却する熱交換器である。
室内蒸発器23の冷媒出口側には、アキュムレータ24の入口側が接続されている。アキュムレータ24は、その内部に流入した冷媒の気液を分離して余剰冷媒を蓄えるものである。さらに、アキュムレータ24の気相冷媒出口側には、圧縮機11の吸入ポート11aが接続されている。従って、室内蒸発器23は、圧縮機11の吸入ポート11a側へ流出させるように接続されている。
さらに、室外熱交換器20の冷媒出口側には、室外熱交換器20から流出した冷媒を低段側膨脹弁22および室内蒸発器23を迂回させてアキュムレータ24の入口側へ導く迂回通路25が接続されている。
この迂回通路25には、迂回用開閉弁251が配置されている。この迂回用開閉弁251は、迂回通路25を開閉する電磁弁であり、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その開閉作動が制御される。
本実施形態の迂回用開閉弁251は、迂回通路25を開閉することによって、サイクル構成(冷媒流路)を切り替える機能を果たす。従って、本実施形態の迂回用開閉弁251は、サイクルを循環する冷媒の冷媒流路を切り替える冷媒流路切替手段を構成している。なお、冷媒が迂回用開閉弁251を通過する際に生じる圧力損失は、低段側膨脹弁22を通過する際に生じる圧力損失に対して極めて小さい。
従って、室外熱交換器20から流出した冷媒は、迂回用開閉弁251が開いている場合には迂回通路25を介してアキュムレータ24へ流入し、迂回用開閉弁251が閉じている場合には低段側膨脹弁22を介して室内蒸発器23へ流入する。
次に、室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されて、室内空調ユニット30の外殻を形成すると共に、その内部に車室内に送風される室内送風空気の空気通路を形成する空調ケース31を有している。そして、この空気通路に送風機32、前述の室内凝縮器12、室内蒸発器23等が収容されている。
空調ケース31の空気流れ最上流側には、車室内空気(内気)と外気とを切替導入する内外気切替装置33が配置されている。この内外気切替装置33は、空調ケース31内に内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口の開口面積を、内外気切替ドアによって連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を連続的に変化させるものである。
内外気切替装置33の空気流れ下流側には、内外気切替装置33を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する送風機32が配置されている。この送風機32は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機であって、空調制御装置40から出力される制御信号によって回転数(送風量)が制御される。
送風機32の空気流れ下流側には、前述の室内蒸発器23および室内凝縮器12が、室内送風空気の流れに対して、室内蒸発器23→室内凝縮器12の順に配置されている。換言すると、室内蒸発器23は、室内凝縮器12に対して、空気流れ上流側に配置されている。
また、空調ケース31内には、室内蒸発器23通過後の送風空気を、室内凝縮器12を迂回して流すバイパス通路35が設けられており、室内蒸発器23の空気流れ下流側であって、室内凝縮器12の空気流れ上流側には、エアミックスドア34が配置されている。
このエアミックスドア34は、室内蒸発器23通過後の送風空気のうち、室内凝縮器12を通過させる風量とバイパス通路35を通過させる風量との風量割合を調整して、室内凝縮器12の熱交換能力を調整する熱交換能力調整手段である。なお、エアミックスドア34は、空調制御装置40から出力される制御信号によって作動が制御される図示しないサーボモータによって駆動される。
また、室内凝縮器12およびバイパス通路35の空気流れ下流側には、室内凝縮器12にて冷媒と熱交換して加熱された送風空気とバイパス通路35を通過して加熱されていない送風空気が合流する合流空間36が設けられている。
空調ケース31の空気流れ最下流部には、合流空間36にて合流した送風空気を、空調対象空間である車室内へ吹き出す開口穴が形成されている。具体的には、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ開口穴37a、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス開口穴37b、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット開口穴37cが形成されている。
各開口穴37a〜37cの空気流れ下流側は、それぞれ空気通路を形成するダクトを介して、車室内に設けられたフェイス吹出口、フット吹出口、およびデフロスタ吹出口に接続されている。
また、各開口穴37a〜37cの空気流れ上流側には、デフロスタ開口穴37aを開閉するデフロスタドア38a、フェイス開口穴37bを開閉するフェイスドア38b、フット開口穴37cを開閉するフットドア38cが配置されている。各ドア38a〜38cは、車室内への空気の吹出モードを切り替える吹出モード切替手段を構成する。なお、各ドア38a〜38cは、空調制御装置40から出力される制御信号によってその作動が制御される図示しないサーボモータによって駆動される。
次に、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置40は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。空調制御装置40は、ROM等に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各制御機器(圧縮機11、高段側膨脹弁13、統合弁14、迂回用開閉弁251、送風機32等)の作動を制御する。
また、空調制御装置40の入力側には、各種空調制御用のセンサ群41が接続されている。センサ群41としては、車室内温度を検出する内気センサ、外気温を検出する外気センサ、車室内の日射量を検出する日射センサ、室内蒸発器23の温度を検出する蒸発器温度センサ、圧縮機11から吐出された高圧冷媒圧力を検出する吐出圧センサ等が挙げられる。
さらに、空調制御装置40の入力側には、計器盤付近に配置された図示しない操作パネルが接続され、この操作パネルに設けられた各種空調操作スイッチからの操作信号が入力される。操作パネルに設けられた各種空調操作スイッチとしては、具体的に、車両用空調装置1の作動スイッチ、車室内温度を設定する温度設定スイッチ、冷房運転モードと暖房運転モードとの選択スイッチ等が設けられている。
ここで、空調制御装置40は、その出力側に接続された各制御機器の作動を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、各制御機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が各制御機器の作動を制御する制御手段を構成している。
例えば、本実施形態では、空調制御装置40における統合弁14を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が駆動制御手段40aを構成する。本実施形態では、統合弁14および駆動制御手段40aにより統合弁14の駆動システムが構成されている。なお、空調制御装置40における駆動制御手段40aを、空調制御装置40とは別の制御装置により構成してもよい。
次に、本実施形態の車両用空調装置1の作動を説明すると、車両用空調装置1は、冷房運転モード、暖房運転モード、および除湿暖房運転モードに切替可能となっている。各運転モードの切替は、空調制御装置40の制御処理により行われる。
本実施形態の空調制御装置40が実行する運転モードの切替制御処理については、図11のフローチャートを用いて説明する。なお、図11に示す制御ルーチンは、操作パネルにて車両用空調装置1の作動スイッチが投入(オン操作)されることで開始する。
図11に示すように、まず、各種空調制御用のセンサ群41、および操作パネルから各種信号を読み込み(S10)、読み込んだ各種信号に基づいて、ヒートポンプサイクル10の運転モードを決定する(S12)。
本実施形態では、操作パネルの選択スイッチ、温度設定スイッチ、および外気温センサの検出値に応じて、車両用空調装置1の運転モードを決定する。
例えば、設定スイッチの設定温度が外気温センサの検出値以下となっている場合に、操作パネルの選択スイッチが冷房に設定されると、運転モードが冷房運転モードに決定される。なお、運転モードが冷房運転モードに決定された場合には、運転モードフラグが「冷房」を示す値(例えば、0)に設定される。
そして、設定スイッチの設定温度が外気温センサの検出値より高くなっている場合に、操作パネルの選択スイッチが冷房に設定されると、運転モードが除湿暖房運転モードに決定される。なお、運転モードが除湿暖房運転モードに決定された場合には、運転モードフラグが「除湿暖房」を示す値(例えば、1)に設定される。
また、外気温が極低温(例えば、外気温センサの検出値が0℃以下)となっている場合に、操作パネルの選択スイッチが暖房に設定されると、ヒートポンプサイクル10の冷媒回路をガスインジェクションサイクル(二段圧縮サイクル)とする第1暖房モードに決定される。なお、運転モードが第1暖房モードに決定された場合には、運転モードフラグが「第1暖房」を示す値(例えば、2)に設定される。
そして、外気温が極低温となっていない場合に、操作パネルの選択スイッチが暖房に設定されると、ヒートポンプサイクル10の冷媒回路を通常の一段圧縮サイクルとする第2暖房モードに決定される。なお、運転モードが第2暖房モードに決定された場合には、運転モードフラグが「第2暖房」を示す値(例えば、3)に設定される。
続いて、ステップS12にて決定された運転モードが、冷房運転モードであるか否かを判定し(S14)、冷房運転モードであると判定された場合に、冷房制御処理を実行する(S16)。
続いて、空調を停止するか否かを判定し(S18)、空調を停止しないと判定された場合にはステップS10に戻り再び各種信号を読み込む。一方、空調を停止すると判定された場合には運転モードの切替制御を終える。なお、空調を停止するか否かは、例えば、作動スイッチのオフ操作の有無により判定すればよい。
ステップS14の判定処理の結果、冷房運転モードでないと判定された場合には、第1暖房モードであるか否かを判定する(S20)。この結果、第1暖房モードであると判定された場合には、第1暖房制御処理を実行し(S22)、その後、ステップS18へ移行する。
一方、ステップS20の判定処理の結果、第1暖房モードでないと判定された場合には、第2暖房モードであるか否かを判定する(S24)。この結果、第2暖房モードであると判定された場合に、第2暖房制御処理を実行し(S26)、その後、ステップS18へ移行する。
ステップS24の判定処理の結果、第2暖房モードでないと判定された場合には、除湿暖房制御処理を実行し(S28)、その後、ステップS18へ移行する。なお、ステップS14、S20、S24の各判定は、ステップS12にて設定された運転モードフラグの値に基づいて処理される。
続いて、図11のステップS16、S22、S26、S28にて実行される制御処理の内容、および各運転モードにおける車両用空調装置1の作動について説明する。
(A)冷房制御処理(冷房運転モード)
冷房制御処理では、空調制御装置40が、高段側膨脹弁13を全開状態(減圧作用を発揮しない状態)、低段側膨脹弁22を絞り状態(減圧作用を発揮する状態)、迂回用開閉弁251を閉弁状態とする。
さらに、空調制御装置40が、気相側弁体161が気相冷媒通路141fの全閉位置、液相側弁体162が液相冷媒通路142cの全開位置に変位するように、電動アクチュエータ182に対して制御パルスを出力する。これにより、統合弁14は、図4に示すように、気相冷媒通路141fを閉じた状態で液相冷媒通路142cの通路開度が全開状態となる第1モードに切り替わる。
従って、ヒートポンプサイクル10では、図1の実線矢印で示すように冷媒が流れる冷媒回路に切り替えられる。
この冷媒回路の構成で、空調制御装置40が空調制御用のセンサ群41の検出信号および操作パネルの操作信号を読み込み、車室内へ吹き出す空気の目標温度である目標吹出温度TAOを算出する。さらに、算出された目標吹出温度TAOおよびセンサ群の検出信号に基づいて、空調制御装置40の出力側に接続された各制御機器の作動状態を決定する。
例えば、圧縮機11の電動モータに出力される制御信号については、以下のように決定される。まず、目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置40に記憶された制御マップを参照して、室内蒸発器23の目標蒸発器吹出温度TEOを決定する。そして、蒸発器温度センサの検出値(吹出空気温度)が目標蒸発器吹出温度TEOに近づくように、圧縮機11の電動モータに出力される制御信号が決定される。
また、低段側膨脹弁22へ出力される制御信号については、低段側膨脹弁22へ流入する冷媒の過冷却度が、COPを略最大値に近づくように予め決定された目標過冷却度に近づくように決定される。
また、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、エアミックスドア34が室内凝縮器12の空気通路を閉塞し、室内蒸発器23通過後の送風空気の全流量がバイパス通路35を通過するように決定される。
そして、上記の如く決定された制御信号等を各制御機器へ出力する。その後、操作パネルによって車両用空調装置1の作動停止が要求されるまで、所定の制御周期毎に、各信号の読み込み→目標吹出温度TAOの算出→各制御機器の作動状態決定→制御信号の出力といった制御ルーチンが繰り返される。なお、このような制御ルーチンの繰り返しは、他の運転モード時にも同様に行われる。
従って、冷房運転モードのヒートポンプサイクル10では、図12のモリエル線図に示すように、圧縮機11の吐出ポート11bから吐出された高圧冷媒(図12のa11点)が室内凝縮器12へ流入する。この際、エアミックスドア34が室内凝縮器12の空気通路を閉塞しているので、室内凝縮器12へ流入した冷媒は殆ど室内送風空気へ放熱することなく、室内凝縮器12から流出する。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、高段側膨脹弁13が全開状態となっているので、高段側膨脹弁13にて殆ど減圧されることなく統合弁14内部の気液分離空間141bに流入する。
この際、気液分離空間141bへ流入する冷媒は過熱度を有する気相状態となっているものの、気相側弁体161により気相冷媒通路141fを全閉されている。このため、気液分離空間141bへ流入した冷媒は、図4に示すように、気相側流出口141eから流出することなく、液相冷媒通路142cに流入する。なお、気液分離空間141bへ流入した冷媒は、液相側弁体162により液相冷媒通路142cが全開されているので、固定絞り17にて殆ど減圧されることなく、液相冷媒通路142cを介して統合弁14の液相側流出口142bから流出する。
統合弁14の液相側流出口142bから流出した冷媒は、室外熱交換器20へ流入し、室外熱交換器20にて送風ファン21から送風された外気と熱交換して放熱する(図12のa11点→b11点)。室外熱交換器20から流出した冷媒は、迂回用開閉弁251が閉弁状態となっているので、絞り状態となっている低段側膨脹弁22へ流入して低圧冷媒となるまで、等エンタルピ的に減圧膨脹される(図12のb11点→c11点)。
そして、低段側膨脹弁22にて減圧された冷媒は、室内蒸発器23へ流入し、送風機32から送風された室内送風空気から吸熱して蒸発する(図12のc11点→d11点)。これにより、室内送風空気が冷却される。
室内蒸発器23から流出した冷媒は、アキュムレータ24へ流入して気液分離される。そして、分離された気相冷媒が圧縮機11の吸入ポート11a(図12のe11点)から吸入されて、再び圧縮される(図12のe11点→a111点→a11点)。なお、アキュムレータ24にて分離された液相冷媒は、サイクルが要求されている冷凍能力を発揮するために必要としていない余剰冷媒としてアキュムレータ24内に蓄えられる。
ここで、図12においてd11点とe11点が異なっている理由は、アキュムレータ24から圧縮機11の吸入ポート11aへ至る冷媒配管を流通する気相冷媒に生じる圧力損失と、気相冷媒が外部(外気)から吸熱する吸熱量を表したものである。従って、理想的なサイクルでは、d11点とe11点が一致していることが望ましい。このことは、以下のモリエル線図においても同様である。
以上の如く、冷房運転モードでは、エアミックスドア34にて室内凝縮器12の空気通路を閉塞しているので、室内蒸発器23にて冷却された送風空気を車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の冷房を実現することができる。
(B)第1暖房制御処理(第1暖房モード)
第1暖房制御処理では、空調制御装置40が、高段側膨脹弁13を絞り状態(減圧作用を発揮する状態)、低段側膨脹弁22を全閉状態、迂回用開閉弁251を開弁状態とする。
また、第1暖房制御処理では、基本的には、空調制御装置40が、気相側弁体161が気相冷媒通路141fの全開位置、液相側弁体162が液相冷媒通路142cの全閉位置に変位するように、電動アクチュエータ182に対して制御パルスを出力する。これにより、統合弁14は、図5に示すように、気相冷媒通路141fを開いた状態で液相冷媒通路142cの通路開度が全閉状態となる第2モードに切り替わる。
従って、ヒートポンプサイクル10では、図2の実線矢印で示すように冷媒が流れる冷媒回路、すなわち、ガスインジェクションサイクルの冷媒回路に切り替えられる。
この冷媒回路の構成で、空調制御装置40が目標吹出温度TAOおよびセンサ群41の検出信号に基づいて、空調制御装置40の出力側に接続された各制御機器の作動状態を決定する。なお、第1暖房モードでは、高段側膨脹弁13へ出力される制御信号については、室内凝縮器12における冷媒圧力が予め定めた目標高圧となるように、あるいは、室内凝縮器12から流出する冷媒の過冷却度が予め定めた目標過冷却度となるように決定される。また、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、エアミックスドア34がバイパス通路35を閉塞し、室内蒸発器23通過後の送風空気の全流量が室内凝縮器12を通過するように決定される。
従って、第1暖房モードのヒートポンプサイクル10では、図13のモリエル線図に示すように、圧縮機11の吐出ポート11bから吐出された高圧冷媒(図13のa12点)が室内凝縮器12へ流入する。室内凝縮器12へ流入した冷媒は、送風機32から送風されて室内蒸発器23を通過した車室内送風空気と熱交換して放熱する(図13のa12点→b12点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13にて中間圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧膨脹される(図13のb12点→c112点)。そして、高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒は、統合弁14の冷媒流入口141aから気液分離空間141b内へ流入して気液分離される(図13のc12点→c212点、c12点→c312点)。
気液分離空間141bにて分離された液相冷媒は、図5に示すように、液相側弁体162により液相冷媒通路142cが全閉されているので、固定絞り17にて低圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧膨脹されて(図13のc312点→c412点)、液相側流出口142bから流出する。
また、気液分離空間141bにて分離された気相冷媒は、気相側弁体161により気相冷媒通路141fが全開されているので、統合弁14の気相側流出口141eから流出して圧縮機11の中間圧ポート11c側へ流入する(図13のc212点)。
中間圧ポート11cへ流入した冷媒は、圧縮機11の圧縮過程の冷媒(図13のa112点)と合流して圧縮される(図13のa212点)。
続いて、統合弁14の液相側流出口142bから流出した冷媒は、室外熱交換器20へ流入して、送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図13のc412点→d12点)。
室外熱交換器20から流出した冷媒は、迂回用開閉弁251が開弁状態となっているので、迂回通路25を介して、アキュムレータ24へ流入して気液分離される。そして、分離された気相冷媒が圧縮機11の吸入ポート11a(図13のe12点)から吸入されて再び圧縮される。一方、分離された液相冷媒はサイクルが要求されている冷凍能力を発揮するために必要としていない余剰冷媒としてアキュムレータ24内に蓄えられる。
以上の如く、第1暖房モードでは、室内凝縮器12にて圧縮機11から吐出された冷媒の有する熱を車室内送風空気に放熱させて、加熱された室内送風空気を車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の暖房を実現することができる。
さらに、第1暖房モードでは、固定絞り17にて減圧された低圧冷媒を圧縮機11の吸入ポート11aから吸入させ、高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒を中間圧ポート11cへ流入させて昇圧過程の冷媒と合流させる、ガスインジェクションサイクル(エコノマイザ式冷凍サイクル)を構成することができる。
これにより、圧縮機11に温度の低い混合冷媒を吸入させることができ、圧縮機11における圧縮効率を向上させることができる。この結果、ヒートポンプサイクル10全体としてのCOPを向上させることができる。
ここで、第1暖房モードにおいて、常時、気相冷媒通路141fが全開状態となっていると、気相冷媒通路141fに液相冷媒が流入して、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11へ液相冷媒が吸引されてしまうことがある。
本発明者らの調査によれば、このような不具合は、他の運転モードから第1暖房モードへの切り替えの初期段階、および第1暖房モード時に圧縮機11の負荷状態が所定の高負荷状態に移行する過渡期に生じ易いことが判っている。以下、第1暖房モードにおいて、気相冷媒通路141fに液相冷媒が流入する不具合の発生要因について図14〜図16を用いて説明する。
ここで、図15は、他の運転モード(本実施形態では第2暖房モードを想定)から第1暖房モードへ切り替えた際の高段側膨脹弁13、サイクル内の冷媒圧力、圧縮機11の回転数の変化を示すタイミングチャートである。なお、図15中に示す時刻Ta1が、他の運転モードから第1暖房モードへの切り替えタイミングを示している。また、図15中の冷媒圧力のうち、実線P1が圧縮機11から吐出された高圧冷媒の圧力変化、点線P2が圧縮機11に吸入される低圧冷媒の圧力変化、一点鎖線P3が固定絞り17通過前の冷媒の圧力変化、二点鎖線P4が固定絞り17通過後の冷媒の圧力変化を示している。この点は、図16中に示す冷媒の圧力変化についても同様である。
図15に示すように、他の運転モードを実行している状態から、第1暖房モードへの切り替わると(時間Ta1)、液相側弁体162により液相冷媒通路104dが全閉され、気液分離空間141bにて分離された液相冷媒の全てが固定絞り17に流入する。これにより、固定絞り17を通過する冷媒の流量が急激に増加する。
冷媒流量Grは、図14に示すように、固定絞り17の前後の圧力差ΔP(=Pin−Pout)に比例する特性がある。このため、固定絞り17を通過する冷媒の流量が増加(Gr1→Gr2:Gr1<Gr2)すると、サイクル内の低圧冷媒の圧力が急激に低下するようにサイクルがバランスする(図15の点線P2参照)。
そして、サイクル内の低圧冷媒の急激な圧力低下により、固定絞り17下流側のアキュムレータ24にてフォーミング(沸騰、突沸)が生じ、アキュムレータ24内に蓄えられた余剰冷媒が圧縮機11の吸入ポート11aへ吸入される。これにより、サイクル内を循環する冷媒の流量が増加する。
ここで、サイクル内を循環する冷媒の流量が増加するまでの時間は、固定絞り17前後の圧力差ΔP(=P3−P4)が固定絞り17で液相冷媒を全て流しきるレベルに拡大するまでの時間(図14の時間Ta1〜時間Ta2までの時間)よりも短い。
このため、固定絞り17では、サイクル内を循環する冷媒の流量が増加した際に、液相冷媒を全て流しきることができず、固定絞り17にて流しきれない液相冷媒が、気相冷媒と共に気相冷媒通路141fを介して、中間圧冷媒通路15へ流入する。
このように、他の運転モードを実行している状態や空調の停止状態等から第1暖房モードへの切り替える際には、気相冷媒通路141fに液相冷媒が流入し、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11へ液相冷媒が吸引されてしまうことがある。
また、図16は、圧縮機11の負荷状態が高負荷状態となった際の高段側膨脹弁13、サイクル内の冷媒圧力、圧縮機11の回転数の変化を示すタイミングチャートである。なお、図16中に示す時刻Tb1が、圧縮機11の負荷状態が高負荷状態となったタイミングを示している。
図16に示すように、圧縮機11の負荷状態が低い定常期間(時間Tb1までの期間)では、冷媒流量に対して、固定絞り17前後の圧力差ΔP(=P3−P4)が大きく、固定絞り17で液相冷媒を充分に流すことが可能となっている。
この状態から、車室内の設定温度の変更等により圧縮機11の回転数が急激に増加して、圧縮機11の負荷状態が高負荷状態へ移行する過渡期には(時間Tb1)、固定絞り17を通過する冷媒の流量が急激に増加する。
これにより、サイクル内の低圧冷媒の圧力が急激に低下するようにサイクルがバランスする(図16の点線P2参照)。そして、サイクル内の低圧冷媒の急激な圧力低下により、固定絞り17下流側のアキュムレータ24にてフォーミングが生じ、アキュムレータ24内に蓄えられた余剰冷媒が圧縮機11の吸入ポート11aへ吸入されることで、サイクル内を循環する冷媒の流量が増加する。この結果、固定絞り17では、液相冷媒を全て流しきることができず、固定絞り17にて流しきれない液相冷媒が、気相冷媒と共に気相冷媒通路141fを介して、中間圧冷媒通路15へ流入する。
このように、第1暖房モードの実行中であっても、圧縮機11の負荷状態が高負荷状態に移行する過渡期には、気相冷媒通路141fに液相冷媒が流入し、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11へ液相冷媒が吸引されてしまうことがある。
本実施形態では、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11へ液相冷媒が吸引されてしまう不具合の対策として、中間圧冷媒通路15へ液相冷媒が流入する液流入条件が成立した際に、統合弁14の作動モードを第3モードへ切り替えるようにしている。
本実施形態の統合弁14のモード切替処理については、図17のフローチャートを用いて説明する。なお、図17の制御ルーチンは、第1暖房モード時に実行される処理である。
図17に示すように、まず、前回のヒートポンプサイクル10の運転モードが、第1暖房モードではなく、他の運転モードであるか否かを判定する(S241)。すなわち、ヒートポンプサイクル10の運転モードが、第1暖房モード以外の他の運転モードから第1暖房モードへ切り替わった初期段階であるか否かを判定する。なお、ステップS241の判定処理では、前回の運転モードフラグと今回の運転モードフラグが一致するか否かを判定し、一致しない場合に、前回の運転モードが他の運転モードであると判定する。
ステップS241の判定処理の結果、前回の運転モードが第1暖房モード以外の他の運転モードであると判定された場合には、液流入条件が成立して、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11へ液相冷媒が吸引されてしまう可能性がある。
このため、空調制御装置40は、統合弁14の作動モードを第3モードに切り替えて、インジェクション抑制運転を実行する(S242)。具体的には、空調制御装置40は、液相側弁体162が液相冷媒通路142cの全閉位置、気相側弁体161が気相冷媒通路141fの全閉位置(または微開位置)に変位するように、電動アクチュエータ182に対して制御パルスを出力する。これにより、統合弁14は、液相冷媒通路142cを閉じた状態で気相冷媒通路141fの通路開度が全開状態よりも小さい通路開度となる第3モードに切り替わる。この第3モードでは、図6に示すように、気液分離空間141bにて分離された液相冷媒が、固定絞り17にて低圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧膨脹されて、液相側流出口142bから流出する。
この際、気相側弁体161により気相冷媒通路141fが全閉または微開となっているので、液相冷媒は、気相冷媒通路141fへ殆ど流入することなく、固定絞り17を介して液相側流出口142bから流出する。なお、気液分離空間141bにて分離された気相冷媒は、気相側弁体161により気相冷媒通路141fが全閉または微開となっているので、気相冷媒通路141fへの流入量が制限される。
図17に戻り、統合弁14の作動モードを第3モードに切り替えた後、所定の復帰条件が成立したか否かを判定する(S243)。
本実施形態では、ステップS243の復帰条件を、第3モードへ切り替えてから予め定めた基準時間が経過した際に成立する条件に設定している。なお、基準時間は、ヒートポンプサイクル10の運転モードを第1暖房モードへ切り替えてから固定絞り17前後の圧力差が固定絞り17で液相冷媒を全て流しきるレベルに拡大するまでに要する時間に設定されている。なお、基準時間は、例えば、図15に示す時間Ta1〜時間Ta2までの時間、および図16に示す時間Tb1〜時間Tb2までの時間のうち、時間が長い方を基準に設定すればよい。
図17に示すステップS243の判定処理の結果、復帰条件が不成立と判定された場合には、ステップS242へ戻る。つまり、復帰条件が成立するまでは、統合弁14の作動モードが第3モードに維持される。
また、ステップS243の判定処理の結果、復帰条件が成立したと判定された場合には、固定絞り17前後の圧力差が固定絞り17で液相冷媒を全て流しきるレベルに拡大していると考えられる。
このため、空調制御装置40は、統合弁14の作動モードを第2モードに切り替えて、インジェクション運転を実行する(S244)。具体的には、空調制御装置40は、液相側弁体162が液相冷媒通路142cの全閉位置、気相側弁体161が気相冷媒通路141fの全開位置に変位するように、電動アクチュエータ182に対して制御パルスを出力する。これにより、統合弁14は、図5に示すように、液相冷媒通路142cを閉じた状態で気相冷媒通路141fの通路開度が全開状態となる第2モードに切り替わる。
一方、ステップS241の判定処理の結果、前回の運転モードが第1暖房モード以外の他の運転モードでないと判定された場合には、圧縮機11の負荷状態が所定の高負荷状態に移行する過渡期であるか否かを判定する(S245)。
本実施形態では、圧縮機11の電動モータに出力される目標回転数と、現在の電動モータの回転数との差(=目標回転数−現在の回転数)が、予め定めた基準値以上となった際に、圧縮機11の負荷状態が高負荷状態に移行する過渡期であると判定する。
一方、圧縮機11の電動モータに出力される目標回転数と、現在の電動モータの回転数との差が、基準値より小さい場合に、圧縮機11の負荷状態が高負荷状態に移行する過渡期でないと判定する。
この結果、圧縮機11の負荷状態が所定の高負荷状態に移行する過渡期であると判定された場合には、液流入条件が成立して、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11へ液相冷媒が吸引されてしまう可能性がある。
このため、空調制御装置40は、統合弁14の作動モードを第3モードに切り替えて、所定の復帰条件が成立するまでインジェクション抑制運転を実行する(S242、S243)。
一方、圧縮機11の負荷状態が所定の高負荷状態に移行する過渡期でないと判定された場合には、固定絞り17前後の圧力差が固定絞り17で液相冷媒を全て流しきるレベルに拡大していると考えられる。このため、空調制御装置40は、統合弁14の作動モードを第2モードに切り替えて、インジェクション運転を実行する(S244)。
続いて、第1暖房制御処理を終了する処理終了条件が成立したか否かを判定し(S246)、処理終了条件が成立したと判定された場合に第1暖房制御処理を終え、処理終了条件が成立していないと判定された場合にステップS241に戻る。なお、処理終了条件は、運転モードの切り替え時、車両用空調装置1の作動スイッチがオフされた際に成立する条件である。
このように、本実施形態の第1暖房モードでは、固定絞り17にて液相冷媒を流し切れない可能性が高い場合、統合弁14の作動モードを気相冷媒通路141fの通路開度が全開状態よりも小さい通路開度となる第3モードへ切り替えるようにしている。
これによれば、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11の中間圧ポート11c側へ液相冷媒が流入してしまうことを抑制可能となる。この結果、液相冷媒が流入することによる圧縮機11の不具合の発生を抑制することができる。なお、本実施形態では、図17におけるステップS241、およびステップS245の判定処理が、液流入条件が成立したか否かを判定する成否判定手段を構成している。
(C)第2暖房制御処理(第2暖房モード)
第2暖房制御処理では、空調制御装置40が、高段側膨脹弁13を絞り状態(減圧作用を発揮する状態)、低段側膨脹弁22を全閉状態、迂回用開閉弁251を開弁状態とする。
さらに、空調制御装置40が、気相側弁体161が気相冷媒通路141fの全閉位置、液相側弁体162が液相冷媒通路142cの全開位置に変位するように、電動アクチュエータ182に対して制御パルスを出力する。これにより、統合弁14は、図4に示すように、気相冷媒通路141fを閉じた状態で液相冷媒通路142cの通路開度が全開状態となる第1モードに切り替わる。
従って、ヒートポンプサイクル10では、図3の実線矢印で示すように冷媒が流れる冷媒回路に切り替えられる。
この冷媒回路の構成で、空調制御装置40が目標吹出温度TAOおよびセンサ群41の検出信号に基づいて、空調制御装置40の出力側に接続された各制御機器の作動状態を決定する。なお、第2暖房モードでは、高段側膨脹弁13へ出力される制御信号については、室内凝縮器12における冷媒圧力が予め定めた目標高圧となるように、あるいは、室内凝縮器12から流出する冷媒の過冷却度が予め定めた目標過冷却度となるように決定される。また、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、エアミックスドア34がバイパス通路35を閉塞し、室内蒸発器23通過後の送風空気の全流量が室内凝縮器12を通過するように決定される。
従って、第2暖房モードのヒートポンプサイクル10では、図18のモリエル線図に示すように、圧縮機11の吐出ポート11bから吐出された高圧冷媒(図18のa13点)が室内凝縮器12へ流入する。室内凝縮器12へ流入した冷媒は、送風機32から送風されて室内蒸発器23を通過した車室内送風空気と熱交換して放熱する(図18のa13点→b13点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13にて低圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧膨脹されて(図18のb13点→c13点)、統合弁14の気液分離空間141b内へ流入する。気液分離空間141bへ流入した冷媒は、冷房運転モードと同様に、気相側流出口141eから流出することなく、液相冷媒通路142cを介して液相側流出口142bから流出する。
液相側流出口142bから流出した低圧冷媒は、室外熱交換器20へ流入し、送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図18のc13点→d13点)。室外熱交換器20から流出した冷媒は、迂回用開閉弁251が開弁状態となっているので、迂回通路25を介して、アキュムレータ24へ流入して気液分離される。そして、分離された気相冷媒が圧縮機11の吸入ポート11a(図18のe13点)から吸入される。
以上の如く、第2暖房モードでは、室内凝縮器12にて圧縮機11から吐出された冷媒の有する熱を車室内送風空気に放熱させて、加熱された室内送風空気を車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の暖房を実現することができる。
ここで、第2暖房モード時を、第1暖房モードに対して、外気温が高い場合等のように暖房負荷が比較的低い場合に実行することの効果を説明する。第1暖房モードでは、上述の如く、ガスインジェクションサイクルを構成することができるので、ヒートポンプサイクル10全体としてのCOPを向上させることができる。
つまり、理論的には、圧縮機11の回転数が同一であれば、第1暖房モードは、第2暖房モード時よりも高い暖房性能を発揮することができる。換言すると、同一の暖房性能を発揮させるために必要な圧縮機11の回転数(冷媒吐出能力)は、第2暖房モードよりも第1暖房モード時の方が低くなる。
ところが、圧縮機構には、圧縮効率が最大(ピーク)となる最大効率回転数があり、最大効率回転数よりも回転数が低くなると、圧縮効率が大きく低下してしまうという特性がある。このため、暖房負荷が比較的低い場合に圧縮機11を最大効率回転数よりも低い回転数で作動させると、第1暖房モードでは、却ってCOPが低下してしまうことがある。
そこで、本実施形態では、第1暖房モードの実行中に、外気温が高く暖房負荷が低くなった際に、第2暖房モードへ切り替え、第2暖房モードの実行中に外気温が低くなり暖房負荷が高くなった際に、第1暖房モードへ切り替えるようにしている。
これにより、第1暖房モードおよび第2暖房モードのうち高いCOPを発揮できる運転モードを選択することができる。従って、第1暖房モードの実行中に、圧縮機11の回転数が基準回転数以下となってしまう場合であっても、第2暖房モードへ切り替えることにより、ヒートポンプサイクル10全体としてのCOPを向上させることができる。
(D)除湿暖房制御処理(除湿暖房運転モード)
除湿暖房制御処理では、空調制御装置40が、各膨脹弁13、22を全開状態あるいは絞り状態とすると共に、迂回用開閉弁251を閉弁状態とする。
さらに、空調制御装置40が、気相側弁体161が気相冷媒通路141fの全閉位置、液相側弁体162が液相冷媒通路142cの全開位置に変位するように、電動アクチュエータ182に対して制御パルスを出力する。これにより、統合弁14は、図4に示すように、気相冷媒通路141fを閉じた状態で液相冷媒通路142cの通路開度が全開状態となる第1モードに切り替わる。
従って、ヒートポンプサイクル10では、冷房運転モードと同様の冷媒回路、すなわち、図1の実線矢印で示すように冷媒が流れる冷媒回路に切り替えられる。
この冷媒回路の構成で、空調制御装置40が目標吹出温度TAOおよびセンサ群41の検出信号に基づいて、空調制御装置40の出力側に接続された各制御機器の作動状態を決定する。
例えば、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、エアミックスドア34がバイパス通路35を閉塞し、室内蒸発器23通過後の送風空気の全流量が室内凝縮器12を通過するように決定される。さらに、本実施形態の除湿暖房モードでは、設定温度と外気温との温度差に応じて、高段側膨脹弁13および低段側膨脹弁22の絞り開度を変化させている。具体的には、前述した目標吹出温度TAOの上昇に伴って、第1〜第4除湿暖房モードの4段階の除湿暖房運転モードを実行する。
(D−1)第1除湿暖房モード
第1除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13を全開状態とし、低段側膨脹弁22を絞り状態とする。従って、サイクル構成については、冷房運転モードと全く同様となるものの、エアミックスドア34が室内凝縮器12の空気通路を全開しているので、サイクルを循環する冷媒の状態については図19のモリエル線図に示すように変化する。
すなわち、図19に示すように、圧縮機11の吐出ポート11bから吐出された高圧冷媒(図19のa14点)は、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された車室内送風空気と熱交換して放熱する(図19のa14点→b114点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、冷房運転モードと同様に、高段側膨脹弁13→統合弁14の順に流れて室外熱交換器20へ流入する。そして、室外熱交換器20へ流入した高圧冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して放熱する(図19のb114点→b214点)。以降の作動は冷房運転モードと同様である。
以上の如く、第1除湿暖房モード時には、室内蒸発器23にて冷却され除湿された車室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
(D−2)第2除湿暖房モード
次に、第1除湿暖房モードの実行中に、目標吹出温度TAOが予め定めた第1基準温度よりも高くなった際には、第2除湿暖房モードが実行される。第2除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13を絞り状態とし、低段側膨脹弁22の絞り開度を第1除湿暖房モードよりも増加させた絞り状態とする。従って、第2除湿暖房モードでは、サイクルを循環する冷媒の状態については図20のモリエル線図に示すように変化する。
すなわち、図20に示すように、圧縮機11の吐出ポート11bから吐出された高圧冷媒(図20のa15点)は、第1除湿暖房モードと同様に、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された車室内送風空気と熱交換して放熱する(図20のa15点→b115点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13によって外気温よりも温度の高い中間圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧される(図20のb115点→b215点)。高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒は、冷房運転モードと同様に、統合弁14を介して室外熱交換器20へ流入する。
そして、室外熱交換器20へ流入した中間圧冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して放熱する(図20のb215点→b315点)。以降の作動は冷房運転モードと同様である。
以上の如く、第2除湿暖房モードでは、第1除湿暖房モード時と同様に、室内蒸発器23にて冷却され除湿された車室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
この際、第2除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13を絞り状態としているので、第1除湿暖房モードに対して、室外熱交換器20へ流入する冷媒の温度を低下させることができる。従って、室外熱交換器20における冷媒の温度と外気温との温度差を縮小して、室外熱交換器20における冷媒の放熱量を低減できる。
その結果、第1除湿暖房モード時に対してサイクルを循環する冷媒循環流量を増加させることなく、室内凝縮器12における冷媒圧力を上昇させることができ、第1除湿暖房モードよりも室内凝縮器12から吹き出される温度を上昇させることができる。
(D−3)第3除湿暖房モード
次に、第2除湿暖房モードの実行中に、目標吹出温度TAOが予め定めた第2基準温度(第2基準温度>第1基準温度)よりも高くなった際には、第3除湿暖房モードが実行される。第3除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13の絞り開度を第2除湿暖房モードよりも縮小させた絞り状態とし、低段側膨脹弁22の絞り開度を第2除湿暖房モードよりも増加させる。従って、第3除湿暖房モードでは、サイクルを循環する冷媒の状態については図21のモリエル線図に示すように変化する。
すなわち、図21に示すように、圧縮機11の吐出ポート11bから吐出された高圧冷媒(図21のa16点)は、第1、第2除湿暖房モードと同様に、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された車室内送風空気と熱交換して放熱する(図21のa16点→b16点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13によって外気温よりも温度の低い中間圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧される(図21のb16点→c116点)。高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒は、冷房運転モードと同様に、統合弁14を介して室外熱交換器20へ流入する。
そして、室外熱交換器20へ流入した中間圧冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図21のc116点→c216点)。さらに、室外熱交換器20から流出した冷媒は、低段側膨脹弁22にて等エンタルピ的に減圧されて(図21のc216点→c316点)、室内蒸発器23へ流入する。以降の作動は冷房運転モードと同様である。
以上の如く、第3除湿暖房モードでは、第1、第2除湿暖房モード時と同様に、室内蒸発器23にて冷却され除湿された車室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
この際、第3除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13の絞り開度を縮小させることによって、室外熱交換器20を蒸発器として作用させているので、第2除湿暖房モードに対して、室外熱交換器20における冷媒の吸熱量を増加させることができる。
その結果、第2除湿暖房モード時に対して、圧縮機11の吸入冷媒密度を上昇させることができ、コンプレッサ回転数を増加させることなく、室内凝縮器12における冷媒圧力を上昇させることができ、第2除湿暖房モードよりも室内凝縮器12から吹き出される温度を上昇させることができる。
(D−4)第4除湿暖房モード
次に、第3除湿暖房モードの実行中に、目標吹出温度TAOが予め定めた第3基準温度(第3基準温度>第2基準温度)よりも高くなった際には、第4除湿暖房モードが実行される。第4除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13の絞り開度を第3除湿暖房モードよりも縮小させた絞り状態とし、低段側膨脹弁22を全開状態とする。従って、第4除湿暖房モードでは、サイクルを循環する冷媒の状態については図22のモリエル線図に示すように変化する。
すなわち、図22に示すように、圧縮機11の吐出ポート11bから吐出された高圧冷媒(図22のa17点)は、第1、第2除湿暖房モードと同様に、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された車室内送風空気と熱交換して放熱する(図22のa17点→b17点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13によって外気温よりも温度の低い低圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧される(図22のb17点→c117点)。高段側膨脹弁13にて減圧された低圧冷媒は、冷房運転モードと同様に、統合弁14を介して室外熱交換器20へ流入する。
そして、室外熱交換器20へ流入した低圧冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図22のc117点→c217点)。さらに、室外熱交換器20から流出した冷媒は、低段側膨脹弁22が全開状態となっているので、減圧されることなく室内蒸発器23へ流入する。以降の作動は冷房運転モードと同様である。
以上の如く、第4除湿暖房モードでは、第1〜第3除湿暖房モード時と同様に、室内蒸発器23にて冷却され除湿された車室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
この際、第4除湿暖房モードでは、第3除湿暖房モードと同様に、室外熱交換器20を蒸発器として作用させるとともに、第3除湿暖房モードよりも高段側膨脹弁13の絞り開度を縮小させているので、室外熱交換器20における冷媒蒸発温度を低下させることができる。従って、第3除湿暖房モードよりも室外熱交換器20における冷媒の温度と外気温との温度差を拡大させて、室内凝縮器12における冷媒の吸熱量を増加させることができる。
その結果、第3除湿暖房モード時に対して、圧縮機11の吸入冷媒密度を上昇させることができ、回転数を増加させることなく、室内凝縮器12における冷媒圧力を上昇させることができ、第3除湿暖房モードよりも室内凝縮器12から吹き出される温度を上昇させることができる。
以上説明した本実施形態の車両用空調装置1では、上記の如く、ヒートポンプサイクル10の冷媒回路を切り替えることによって、種々のサイクル構成を実現して、車室内の適切な冷房、暖房および除湿暖房を実現できる。
さらに、本実施形態のように電気自動車に適用される車両用空調装置1では、内燃機関(エンジン)を搭載する車両のようにエンジンの廃熱を車室内の暖房のために利用できない。従って、本実施形態のヒートポンプサイクル10のように、暖房運転モード時に暖房負荷によらず高いCOPを発揮できることは、極めて有効である。
また、本実施形態では、ヒートポンプサイクル10をガスインジェクションサイクルとして機能させるために必要な構成機器の一部を一体的に構成した統合弁14を採用しているので、ガスインジェクションサイクルを構成するヒートポンプサイクル10のサイクル構成を簡素化できる。延いては、ヒートポンプサイクル10の搭載対象物への搭載性の向上を図ることができる。
また、本実施形態の統合弁14では、単一の駆動手段18にて、冷媒の気液分離、液相冷媒通路142cおよび気相冷媒通路141fの開閉、並びに、液相冷媒の減圧を行うことができる。これによれば、ガスインジェクションサイクルに切替可能なヒートポンプサイクル10を簡素なサイクル構成で実現できる。
具体的には、気相冷媒通路141fを閉じた状態で液相冷媒通路142cの通路開度を全開状態に設定することで、気液分離空間141bから流出した冷媒の全てを、液相側流出口142bから流出させる冷媒回路に切り替えることができる。
また、液相冷媒通路142cを閉じた状態で気相冷媒通路141fの通路開度を全開状態に設定することで、気液分離空間141bにて分離された液相冷媒を固定絞り17で減圧すると共に、気相冷媒を圧縮機11の中間圧ポート11c側へ流出させる冷媒回路に切り替えることができる。
特に、本実施形態の統合弁14は、液相冷媒通路142cを閉じた状態で気相冷媒通路141fの通路開度を全開状態よりも小さい通路開度に設定可能となっている。
これによれば、固定絞り17にて液相冷媒が流しきれない場合に、気相冷媒通路141fの通路開度を全開状態よりも小さい通路開度に設定することで、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11の中間圧ポート11c側へ液相冷媒が流入してしまうことを抑制可能となる。この結果、液相冷媒が流入することによる圧縮機11の不具合の発生を抑制することができる。
従って、本実施形態の統合弁14によれば、ガスインジェクションサイクルに切替可能なヒートポンプサイクル10のサイクル構成の簡素化を図りつつ、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11へ液相冷媒が流入してしまうことを抑制することができる。
また、本実施形態の統合弁14の駆動システムでは、圧縮機11の中間圧ポート11cへの液相冷媒の流入が想定される条件で、液相冷媒通路142cを閉じた状態で気相冷媒通路141fの通路開度を全開状態よりも小さい通路開度に切り替えるようにしている。
これによれば、気相冷媒通路141fへの液相冷媒の流入を抑制して、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11へ液相冷媒が流入してしまうことを効果的に抑制することができる。
また、本実施形態の統合弁14は、ロッド181、電動アクチュエータ182、弾性部材183を備える簡素な駆動手段18により、各弁体161、162の位置に変位させることで、統合弁14の作動モードを第1〜第3モードといった3つのモードに切り替え可能となっている。これによれば、中間圧冷媒通路15を介して圧縮機11の中間圧ポート11c側へ液相冷媒が流入してしまうことを抑制可能な統合弁14の簡素化を図ることができる。
また、本実施形態の統合弁14は、液相側弁体162の筒状部162bによりロッド181の一部を覆うと共に、各弁体161、162に第1、第3のシール部材162c、161bを設ける構成としている。
これによれば、気相側弁体161により気相冷媒通路141fを閉じた際に、ロッド181と各弁体161、162との間の隙間を介して液相冷媒が気相冷媒通路141fへ流入することを抑制可能となる。
さらに、ロッド181と各弁体161、162との間の隙間ではなく、気相側弁体161における筒状部162bと接触する部位に第3のシール部材161bを設け、液相側弁体162における第2突起部181bと接触する部位に第1のシール部材162cを設けている。
これによれば、各シール部材162c、161bがロッド181に接触しないので、各弁体161、162が変位する際の摺動抵抗を増加させることなく、ロッド181と各弁体161、162との間の隙間を介して冷媒が漏れることを抑制できる。
また、本実施形態では、気相側流入部141dの開口面積Sb1に対する気相側弁体161の面積Sb2の面積比を、液相側流入部142aの開口面積Sa1に対する液相側弁体162の面積Sa2の面積比を大きくしている(Sb2/Sb1>Sa2/Sa1)。
このように、気相側弁体161の面積Sb2を気相側流入部141dの開口面積Sb1よりも拡大することで、気相側弁体161を、気相冷媒通路141fを開いた際の気相冷媒通路141f側への液相冷媒の飛散を抑制するシャッタとして機能させることができる。これにより、専用の部材を設けることなく、気液分離空間141bにて分離された液相冷媒が気相冷媒通路141fへ流入することを抑制できる。
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。例えば、以下のように種々変形可能である。
(1)上述の実施形態では、ヒートポンプサイクル10を電気自動車用の車両用空調装置1に適用した例を説明したが、ヒートポンプサイクル10は、例えば、エンジン(内燃機関)および走行用電動モータから走行用の駆動力を得るハイブリッド車両のように、エンジン廃熱が暖房用熱源として不充分となることのある車両に適用して有効である。
さらに、ヒートポンプサイクル10は、例えば、据置型空調装置、冷温保存庫、液体加熱装置等に適用してもよい。さらに、液体加熱装置に適用する場合は、利用側熱交換器として液体−冷媒熱交換器を採用し、流量調整手段として液体−冷媒熱交換器へ流入する液体流量を調整する液体ポンプあるいは流量調整弁を採用してもよい。
(2)上述の実施形態では、各膨脹弁13、22、統合弁14、迂回用開閉弁251等にてヒートポンプサイクル10の冷媒回路の切り替えることで、種々の運転モードを実現する例について説明したが、これに限定されない。
ヒートポンプサイクル10は、ガスインジェクションサイクルとガスインジェクションサイクル以外の通常サイクルとを切替可能な構成であればよい。例えば、ヒートポンプサイクル10は、第1暖房モードおよび第2暖房モードからなる暖房運転モードだけが実現可能な構成となっていてもよいし、第1暖房モードおよび冷房運転モードだけが実現可能な構成となっていてもよい。勿論、種々の運転モードを設ける方が、熱交換対象流体(送風空気)の温度を適切に温度調整できる点で有効である。
(3)上述の実施形態では、外気温に基づいて第1暖房モードと第2暖房モードとを切り替える例について説明したが、これに限定されず、例えば、圧縮機11の回転数に基づいて、第1暖房モードと第2暖房モードとを切り替えるようにしてもよい。具体的には、第1暖房モードの実行中に、圧縮機11の回転数が基準回転数(最大効率回転数)以下となってしまう場合に第2暖房モードへ切り替え、第2暖房モードの実行中に基準回転数に対して予め定めた所定量を加えた回転数以上となった際に第1暖房モードへ切り替えればよい。これによっても、第1暖房モードおよび第2暖房モードのうち高いCOPを発揮できる運転モードを選択することができる。
(4)上述の実施形態では、ボデー140の形状として外観略角筒状のものを採用した例を説明したが、ボデー140の形状はこれに限定されず、搭載対象物に搭載される際の搭載スペースに適合する形状のものを採用してもよい。これによれば、ヒートポンプサイクル10全体としての搭載対象物への搭載性をより一層向上させることができる。
(5)上述の実施形態の如く、統合弁14全体としての体格の小型化を図る観点では、気液分離空間141bの内容積を、実質的に余剰冷媒を溜めることができない程度の容積とすることが望ましいが、これに限定されない。すなわち、気液分離空間141bの内容積は、余剰冷媒を溜めることができる程度の容積に設定されていてもよい。
(6)上述の実施形態では、気液分離空間141bが遠心分離方式の気液分離手段を構成する例について説明したが、これに限定されず、要求される気液分離性能に応じて、重力の作用や表面張力の作用等によって気液分離する構成を採用してもよい。
(7)上述の実施形態の如く、気相側弁体161を、気相冷媒通路141fを開いた際の気相冷媒通路141f側への液相冷媒の飛散を抑制するシャッタとして機能させることが望ましいが、これに限定されない。例えば、気相側流入部141dと液相側流入部142aとの間に、気相冷媒通路141fを開いた際の気相冷媒通路141f側への液相冷媒の飛散を抑制するシャッタ部材を追加してもよい。
(8)上述の実施形態では、駆動手段18をロッド181、電動アクチュエータ182、弾性部材183により構成する例について説明したが、これに限定されない。駆動手段18は、統合弁14の作動モードを図10に示す第1〜第3モードといった3つのモードに切替可能であれば、その他の機構により構成されていてもよい。
(9)上述の実施形態の如く、ロッド181から離間させた状態で配置した第1、第3シール部材162c、161bにより、各弁体161とロッド181との隙間からの冷媒漏れを抑制することが望ましいが、これに限定されない。各弁体161とロッド181との隙間が小さく、冷媒漏れが殆ど問題とならない場合には、各シール部材162c、161bを省略してもよい。
(10)上述の実施形態では、弁手段16を変位させる駆動手段18の電動アクチュエータ182としてステッピングモータを採用する例について説明したが、これに限らず、例えば、電動アクチュエータ182としてサーボモータを採用してもよい。
(11)上述の実施形態の如く、車両用空調装置1の運転モードが第1暖房モードへ切り替わった初期段階、および圧縮機11の負荷状態が高負荷状態に移行する過渡期に、統合弁14の作動モードを第3モードへ切り替えることが望ましいが、これに限定されない。例えば、車両用空調装置1の運転モードが第1暖房モードへ切り替わった初期段階にだけ統合弁14の作動モードを第3モードへ切り替えたり、圧縮機11の負荷状態が高負荷状態に移行する過渡期にだけ、統合弁14の作動モードを第3モードへ切り替えたりしてもよい。
(12)上述の実施形態では、車両用空調装置1の運転モードの切替制御処理や統合弁14のモード切替処理について図11、図17のフローチャートを用いて説明したが、図11、図17のフローチャートは一例にすぎず、当該フローチャートに示す処理内容を他の処理にて実現してもよい。
(13)上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
(14)上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
(15)上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。