本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電動機の駆動力のみが駆動輪に伝達される状態で、制動保持手段の作動時に車両を発進させる場合、電動機による車両の駆動力と制動保持手段による車両の制動力とが釣り合うことで電動機のストール状態が長時間継続することを回避できる車両の駆動制御装置を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明は、駆動源としての電動機と、前記電動機の駆動力を車両の駆動輪に伝達可能な駆動装置と、を備え、前記電動機の駆動力のみを前記駆動輪に伝達して走行することが可能な車両において、前記車両の運転者によって操作されるブレーキ操作子及びアクセル操作子と、前記ブレーキ操作子の操作に応じて前記車両に制動力を付与する制動手段と、前記アクセル操作子の操作量に応じて運転者による要求駆動力を判断する要求駆動力判断手段と、前記ブレーキ操作子の操作によらず前記車両の制動状態を保持可能な制動保持手段と、前記要求駆動力判断手段で判断した運転者の要求駆動力に応じて前記駆動輪に伝達される駆動力を制御する駆動力制御手段と、を備え、前記駆動力制御手段は、前記電動機の駆動力のみが前記駆動輪に伝達される状態で、前記制動保持手段の作動時に車両を発進させる場合、前記要求駆動力判断手段で判断した運転者の要求駆動力が、車両の発進に必要な駆動力の閾値を越えるまでは、前記駆動輪に伝達される前記電動機の駆動力の発生を制限する駆動力制限制御を行い、前記電動機の推定実駆動力が前記閾値を越えたときに前記制動保持手段の制動力を低下させることを特徴とする。
また、上記の車両の駆動制御装置は、駆動源として内燃機関を更に備え、前記内燃機関の出力軸及び前記電動機からの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して車両の駆動輪に伝達可能な第1変速機構と、前記内燃機関の出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して車両の駆動輪に伝達可能な第2変速機構と、を備え、前記電動機の駆動力のみを前記駆動輪に伝達して走行することが可能なハイブリッド型の車両であるとしてもよい。
制動保持手段の作動時には、車両の駆動力が発進可能な駆動力になるまで制動保持手段による制動状態の保持が解除されない。そのため、車両の駆動力と制動力が釣り合うことによる電動機のストール状態が長時間継続することで、インバータなど電動機用の制御装置が過熱状態となるおそれがある。そこで、本発明にかかるハイブリッド車両の制御装置では、運転者の要求駆動力が車両の発進に必要な駆動力の閾値に達するまでは、駆動輪に伝達される電動機の駆動力を発生させないようにする駆動力制限制御を行う。
制動保持手段の作動時には、運転者がブレーキペダルなどブレーキ操作子を操作している訳ではないので、運転者の意図をアクセルペダルなどアクセル操作子の操作量の変化から判断する必要があり、駆動力制御のタイミングの確保が難しい。そこで、車両が発進(前進)可能なアクセル開度に対応する要求駆動力を越えるまでは、駆動輪に伝達される電動機の駆動力(実駆動力)を発生させないようにすることで、制動保持手段による制動状態を維持しながら電動機のストール状態を回避あるいは短時間で終了できるようにする。そして、車両の発進(前進)に必要な要求駆動力の閾値を越えたときに、駆動輪に伝達される電動機の駆動力を発生させるようにする。これにより、制動保持手段の作動時に電動機のストール状態が長時間に渡って継続することを効果的に防止できる。
また、上記の車両の駆動制御装置では、前記駆動力制御手段は、前記要求駆動力判断手段で判断した要求駆動力が、車両が発進可能な閾値を越えた場合、前記駆動輪に伝達される前記電動機の駆動力を発生させるとよい。
この構成によれば、運転者がアクセル操作子を操作することで、車両が発進(前進)可能な要求駆動力になったら、車両の実駆動力を発生させる制御を行うことで、車両が発進可能な状態となるために必要な運転者の指令を受けた場合、車両を速やかに発進させることができる。これにより、運転者の要望を適切に反映した車両の駆動制御が可能となる。
この場合、前記要求駆動力判断手段で判断した要求駆動力が前記閾値を越えた後、再度前記閾値を下回った場合には、前記駆動輪に伝達される前記電動機の駆動力の発生を再度制限するとよい。
この構成によれば、運転者の要求駆動力が閾値を越えることで、一旦、駆動力を発生させた後、要求駆動力が閾値以下に戻された場合、制動保持手段の作動が解除されないまま駆動力が維持されることで電動機のストール状態が継続することを防止できる。
また、上記の車両の駆動制御装置では、前記駆動力制御手段は、前記駆動輪に伝達される前記電動機の駆動力を徐々に増加させる制御を行うとよい。
この構成によれば、駆動輪に伝達される電動機の駆動力を徐々に増加させる制御を行うことで、車両のスムーズな発進が行えるようになる。また、制動保持手段の作動が制動状態から駆動状態に切り替わる際に、車両の挙動にショックや違和感が生じることを効果的に防止できる。
また、上記の車両の駆動制御装置では、車両が走行している路面の勾配を判断する勾配判断手段を備え、前記駆動力制御手段は、前記勾配判断手段で判断した路面の勾配に応じて、前記要求駆動力の閾値を持ち替える制御を行うようにしてよい。
この構成によれば、勾配検出手段で検出した路面の勾配に応じて、車両の実駆動力を発生させるための要求駆動力の閾値を持ち替える制御を行うので、車両が走行している路面が登坂路(上り坂)である場合に、駆動力が不足することで車両が後退することを防止できる。この場合、勾配検出手段で検出した路面の勾配大きいほど、車両の駆動力(実駆動力)を発生させるための要求駆動力の閾値を大きな値に持ち替えるとよい。これによれば、車両が登坂路を走行しているときは、車両の駆動力と制動力が釣り合うことで電動機のストール状態が発生し易いところ、登坂路では比較的遅い時期に駆動力を発生させることで、電動機のストール状態の発生及びその継続を効果的に防止できる。
また、本発明の車両の駆動制御装置において、駆動源としての電動機と、前記電動機の駆動力を車両の駆動輪に伝達可能な駆動装置と、を備え、前記電動機の駆動力のみを前記駆動輪に伝達して走行することが可能な車両において、前記車両の運転者によって操作されるブレーキ操作子及びアクセル操作子と、前記ブレーキ操作子の操作に応じて前記車両に制動力を付与する制動手段と、前記アクセル操作子の操作量に応じて運転者による要求駆動力を判断する要求駆動力判断手段と、前記ブレーキ操作子の操作によらず前記車両の制動状態を保持可能な制動保持手段と、前記要求駆動力判断手段で判断した運転者の要求駆動力に応じて前記駆動輪に伝達される駆動力を制御する駆動力制御手段と、を備え、前記駆動力制御手段は、前記電動機の駆動力のみが前記駆動輪に伝達される状態で、前記制動保持手段の作動時に車両を発進させる場合、前記要求駆動力判断手段で判断した運転者の要求駆動力が、車両の発進に必要な駆動力の閾値を越えるまでは、前記駆動輪に伝達される前記電動機の駆動力の発生を制限する駆動力制限制御を行い、前記駆動力制御手段は、前記アクセル操作子の操作量が所定量よりも多いときは、前記要求駆動力判断手段で判断した運転者の要求駆動力が前記閾値を越えているか否かに関わらず、前記駆動輪に伝達される前記電動機の駆動力を発生させる制御を行うことを特徴とする。
勾配判断手段で判断した路面の勾配に応じて、前記要求駆動力の閾値を持ち替える制御では、例えば、勾配検出用のセンサの異常などにより閾値が正常範囲外の大きな値となった場合、電動機の駆動力を適切に発生させることができないおそれがある。これに対して、上記構成によれば、アクセル操作子の操作量が所定量よりも多いときは、要求駆動力判断手段で判断した運転者の要求駆動力が閾値を越えているか否かに関わらず電動機の駆動力を発生させる制御を行うので、電動機による駆動力を確実に発生させることで、車両の発進が可能となる。
また、上記の車両の駆動制御装置では、前記駆動力制御手段は、前記勾配判断手段で判断した路面の勾配が所定の閾値勾配よりも大きいときは、前記電動機のみの駆動力で車両を発進させる制御に代えて、前記電動機の駆動力で前記内燃機関を始動し、該内燃機関の駆動力で車両を発進させる制御を行うとよい。
この構成によれば、車両の走行している路面の勾配が大きい場合に、電動機の駆動力のみで車両を発進させるとストール状態が長時間継続する場合や、電動機の駆動力のみで車両を発進させることができない場合でも、内燃機関を始動し、該内燃機関の駆動力で車両を発進させることで、車両の迅速かつ確実な発進が可能となる。
また、上記の車両の駆動制御装置では、前記電動機用の制御装置と、前記制御装置の温度を検出する温度検出手段と、を備え、前記駆動力制御手段は、前記温度検出手段で検出した前記制御装置の温度が所定温度よりも高いときは、前記電動機のみの駆動力で車両を発進させる制御に代えて、前記電動機の駆動力で前記内燃機関を始動し、該内燃機関の駆動力で車両を発進させる制御を行うとよい。
この構成によれば、電動機用の制御装置の温度が所定温度よりも上昇しているときは、制動保持手段の作動時に電動機の一時的なストール状態を伴う車両の発進を行うと、制御装置の温度が許容範囲を越える高温状態となるおそれがある。したがって、電動機のみの駆動力で車両を発進させる制御に代えて、電動機の駆動力で内燃機関を始動し、該内燃機関の駆動力で車両を発進させる制御を行う。これにより、制御装置の温度が許容範囲を越える高温状態になることを回避しながら車両の発進が可能となる。
また、上記の車両の駆動制御装置では、前記駆動力制御手段は、前記駆動輪に出力する駆動力を徐々に増加させる制御を行う場合、前記電動機用の制御装置の温度が所定温度に達する前に当該制御が終了するように設定するとよい。
この構成によれば、前記駆動輪に出力する駆動力を徐々に増加させる制御を行う際に電動機の一時的なストール状態が生じた場合でも、電動機用の制御装置の温度が許容範囲を超える高温状態になることを回避できる。
また、本発明の車両の駆動制御装置において、駆動源としての電動機と、前記電動機の駆動力を車両の駆動輪に伝達可能な駆動装置と、を備え、前記電動機の駆動力のみを前記駆動輪に伝達して走行することが可能な車両において、前記車両の運転者によって操作されるブレーキ操作子及びアクセル操作子と、前記ブレーキ操作子の操作に応じて前記車両に制動力を付与する制動手段と、前記アクセル操作子の操作量に応じて運転者による要求駆動力を判断する要求駆動力判断手段と、前記ブレーキ操作子の操作によらず前記車両の制動状態を保持可能な制動保持手段と、前記要求駆動力判断手段で判断した運転者の要求駆動力に応じて前記駆動輪に伝達される駆動力を制御する駆動力制御手段と、を備え、前記駆動力制御手段は、前記電動機の駆動力のみが前記駆動輪に伝達される状態で、前記制動保持手段の作動時に車両を発進させる場合、前記要求駆動力判断手段で判断した運転者の要求駆動力が、車両の発進に必要な駆動力の閾値を越えるまでは、前記駆動輪に伝達される前記電動機の駆動力の発生を制限する駆動力制限制御を行い、前記ブレーキ操作子と前記アクセル操作子の両方が同時に操作されたときは、前記制動保持手段の作動を解除した後に前記駆動力制限制御を行うことを特徴とする。
車両の運転者がブレーキ操作子とアクセル操作子の両方を同時に操作している場合は、まず制動保持手段の作動を解除してから、同時操作時の制御として、駆動輪に伝達される電動機の駆動力を発生させないようにする駆動力制限制御へ移行する。これにより、ブレーキ操作子とアクセル操作子の両方が同時に操作された場合に電動機のストール状態が生じることや当該ストール状態が継続することを効果的に防止できる。
本発明にかかる車両の駆動制御装置によれば、電動機の駆動力のみが駆動輪に伝達される状態で、制動保持手段の作動時に車両を発進させる場合、電動機による車両の駆動力と制動保持手段による車両の制動力とが釣り合うことで電動機のストール状態が長時間継続することを回避できる。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる駆動制御装置を備えた車両の構成例を示す概略図である。本実施形態の車両1は、図1に示すように、駆動源としての内燃機関2及び電動機3を備えたハイブリッド自動車の車両であって、さらに、電動機3を制御するためのインバータ(電動機用の制御装置)20と、バッテリ30と、トランスミッション(変速機)4と、ディファレンシャル機構5と、左右のドライブシャフト6R,6Lと、左右の駆動輪WR,WLとを備える。ここで、電動機3は、モータでありモータジェネレータを含み、バッテリ30は、蓄電器でありキャパシタを含む。また、内燃機関2は、エンジンであり、ディーゼルエンジンやターボエンジンなどを含む。内燃機関(以下、「エンジン」と記す。)2と電動機(以下、「モータ」と記す。)3の回転駆動力は、変速機4、ディファレンシャル機構5およびドライブシャフト6R,6Lを介して左右の駆動輪WR,WLに伝達される。
また、車両1は、エンジン2、モータ3、変速機4、ディファレンシャル機構5、インバータ20およびバッテリ30をそれぞれ制御するための電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)10を備える。電子制御ユニット10は、1つのユニットとして構成されるだけでなく、例えばエンジン2を制御するためのエンジンECU、モータ3やインバータ20を制御するためのモータジェネレータECU、バッテリ30を制御するためのバッテリECU、変速機4を制御するためのAT−ECUなど複数のECUから構成されてもよい。本実施形態の電子制御ユニット10は、エンジン2を制御するとともに、モータ3やバッテリ30、変速機4を制御する。
インバータ20は、詳細な図示は省略するが、三相(U相、V相、W相)のアームを含む電力変換器である。インバータ20の各相アームは、バッテリ30からの電源供給用のバッテリ電源ラインに直列接続されたスイッチング素子から構成される。このスイッチング素子は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは電力用バイポーラトランジスタ等の電力用半導体スイッチング素子である。
電子制御ユニット10は、各種の運転条件に応じて、モータ3のみを動力源とするモータ単独走行(EV走行)をするように制御したり、エンジン2のみを動力源とするエンジン単独走行をするように制御したり、エンジン2とモータ3の両方を動力源として併用する協働走行(HEV走行)をするように制御する。
また、電子制御ユニット10には、制御パラメータとして、アクセルペダル(アクセル操作子)7の踏込量(開度)を検出するアクセルペダル開度センサ31からのアクセルペダル開度、ブレーキペダル(ブレーキ操作子)8の踏み込みを検出するブレーキペダルセンサ32からの情報、ギヤ段(変速段)を検出するシフトポジションセンサ33からのシフト位置、モータ3の回転数を検出するモータ回転数センサ34からのモータ回転数、内側メインシャフトIMS、外側メインシャフトOMS、カウンタシャフトCSなど各回転軸の回転数を検出する回転軸センサ35からの回転数、車両1の傾きを検知する傾斜角センサ36からの傾斜角、インバータ20の温度を検出するインバータ温度センサ37からのインバータ温度、バッテリ30の残容量(SOC)を測定する残容量検出器38からの残容量などの各種信号が入力されるようになっている。また、電子制御ユニット10には、車両に搭載されたカーナビゲーションシステム39から、車両が現在走行している道路(路面)に関する情報(例えば、平坦路、上り坂、下り坂の別など勾配に関する情報)が入力されるようになっている。また、電子制御ユニット10には、後述するブレーキホールドスイッチ11及び電動パーキングブレーキスイッチ12のオンオフが入力されるようになっている。
エンジン2は、燃料を空気と混合して燃焼することにより車両1を走行させるための駆動力を発生する内燃機関である。モータ3は、エンジン2とモータ3との協働走行やモータ3のみの単独走行の際には、バッテリ30の電気エネルギーを利用して車両1を走行させるための駆動力を発生するモータとして機能するとともに、車両1の減速時には、モータ3の回生により電力を発電する発電機として機能する。モータ3の回生時には、バッテリ30は、モータ3により発電された電力(回生エネルギー)により充電される。
ここで、本実施形態のハイブリッド車両が備える制動保持手段について説明する。渋滞時や信号待ちなどでの車両の停車時に、運転者のブレーキペダル8の操作負荷を軽減するための技術として、運転者によるブレーキペダル8の操作によらず車両の制動状態を保持できる制動保持手段がある。このような制動保持手段として、本実施形態のハイブリッド車両は、アクティブビークルホールドシステム(Active Vehicle Hold system)(以下、AVHと記す。)と電動パーキングブレーキシステム(Electric Parking Brake system)(以下、EPBと記す。)を備えている。
AVHは、従来、車両の停止状態を保持するために運転者が行っていた操作(ブレーキペダル8を踏み続ける操作、パーキングブレーキを掛ける操作、シフトレバーポジションをP(パーキング)レンジに入れる操作など)を、ECU10に搭載されたVSA(Vehicle Stability Assist)と呼ばれる車両の挙動安定化を図るための制御手段がブレーキ圧力を保持することにより代行するものである。このAVHは、運転者によって操作されるブレーキホールドスイッチ11を備える。そして、車両の運転者がブレーキホールドスイッチ11を押してスタンバイ状態にする。その後、運転者によるブレーキペダル8の踏込操作によって車両が停止する。車両の停止後、運転者がブレーキペダル8を離しても(ブレーキペダル8の踏み込みを解除しても)ブレーキ圧が保持される。ブレーキ圧の保持状態は、運転者によるアクセルペダル7の操作によって自動的に解除される。また、長時間の停車や乗員の降車などに応じて、AVHによる車両の制動状態から後述するEPBの作動による駐車状態に移行させることができる。
EPBは、車両のブレーキキャリパー15に実装されたモータ・減速ギヤ機構により駐車時の制動力を付与するシステムである。車両には、運転者によって操作される電動パーキングブレーキスイッチ12が設けられており、当該電動パーキングブレーキスイッチ12の操作によるパーキングブレーキの作動・解除が可能である。また、車両発進時のアクセルペダル7の踏込操作に応じてパーキングブレーキを自動解除することが可能であり、この自動解除機能による発進操作のアシストも可能である。また、運転者がブレーキペダル8の踏み込みを解除してもVSAモジュレータにより車両の停止状態を保持できる。したがって、パーキングブレーキの作動から一定時間が経過した場合や、運転者が降車した場合には、EPBで確実に車両を停車状態に保持することができる。これにより、運転者による渋滞時などのブレーキペダル8の操作負荷を軽減することができる。
次に、本実施形態の車両が備える変速機4の構成を説明する。図2は、図1に示す変速機4のスケルトン図である。図3は、図2に示す変速機4の各シャフトの係合関係を示す概念図である。変速機4は、前進7速、後進1速の平行軸式トランスミッションであり、乾式のツインクラッチ式変速機(DCT:デュアルクラッチトランスミッション)である。
変速機4には、エンジン2の機関出力軸をなすクランクシャフト2aおよびモータ3に接続される内側メインシャフト(第1入力軸)IMSと、この内側メインシャフトIMSの外筒をなす外側メインシャフト(第2入力軸)OMSと、内側メインシャフトIMSにそれぞれ平行なセカンダリシャフト(第2入力軸)SS、アイドルシャフトIDS、リバースシャフトRVSと、これらのシャフトに平行で出力軸をなすカウンタシャフトCSとが設けられる。
これらのシャフトのうち、外側メインシャフトOMSがアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSSに常時係合し、カウンタシャフトCSがさらにディファレンシャル機構5(図1参照)に常時係合するように配置される。
また、変速機4は、奇数段用の第1クラッチC1と、偶数段用の第2クラッチC2とを備える。第1および第2クラッチC1,C2は乾式のクラッチである。第1クラッチC1は内側メインシャフトIMSに結合される。第2クラッチC2は、外側メインシャフトOMS(第2入力軸の一部)に結合され、外側メインシャフトOMS上に固定されたギヤ48からアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSS(第2入力軸の一部)に連結される。
内側メインシャフトIMSのモータ3よりの所定箇所には、プラネタリギヤ機構70のサンギヤ71が固定配置される。また、内側メインシャフトIMSの外周には、図2において左側から順に、プラネタリギヤ機構70のキャリア73と、3速駆動ギヤ43と、7速駆動ギヤ47と、5速駆動ギヤ45が配置される。3速駆動ギヤ43、7速駆動ギヤ47、5速駆動ギヤ45はそれぞれ内側メインシャフトIMSに対して相対的に回転可能であり、3速駆動ギヤ43は、プラネタリギヤ機構70のキャリア73に連結しており、1速駆動ギヤとしても兼用される。更に、内側メインシャフトIMS上には、3速駆動ギヤ43と7速駆動ギヤ47との間に3−7速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)81が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、5速駆動ギヤ45に対応して5速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)82が軸方向にスライド可能に設けられる。所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段が内側メインシャフトIMSに連結される。内側メインシャフトIMSに関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、奇数段の変速を行うための第1変速機構S1が構成される。第1変速機構S1の各駆動ギヤは、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。
セカンダリシャフトSS(第2入力軸)の外周には、図2において左側から順に、2速駆動ギヤ42と、6速駆動ギヤ46と、4速駆動ギヤ44とが相対的に回転可能に配置される。更に、セカンダリシャフトSS上には、2速駆動ギヤ42と6速駆動ギヤ46との間に2−6速シンクロメッシュ機構83が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、4速駆動ギヤ44に対応して4速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)84が軸方向にスライド可能に設けられる。この場合も、所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段がセカンダリシャフトSS(第2入力軸)に連結される。セカンダリシャフトSS(第2入力軸)に関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、偶数段の変速を行うための第2変速機構S2が構成される。第2変速機構S2の各駆動ギヤも、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。なお、セカンダリシャフトSSに固定されたギヤ49はアイドルシャフトIDS上のギヤ55に結合しており、該アイドルシャフトIDSから外側メインシャフトOMSを介して第2クラッチC2に結合される。
リバースシャフトRVSの外周には、リバース駆動ギヤ58が相対的に回転可能に配置される。また、リバースシャフトRVS上には、リバース駆動ギヤ58に対応してリバースシンクロメッシュ機構85が軸方向にスライド可能に設けられ、また、アイドルシャフトIDSに係合するギヤ50が固定されている。リバース走行する場合は、シンクロメッシュ機構85のシンクロを入れて、第2クラッチC2を係合することにより、第2クラッチC2の回転が外側メインシャフトOMS及びアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSに伝達され、リバース駆動ギヤ58が回転される。リバース駆動ギヤ58は内側メインシャフトIMS上のギヤ56に噛み合っており、リバース駆動ギヤ58が回転するとき内側メインシャフトIMSは前進時とは逆方向に回転する。内側メインシャフトIMSの逆方向の回転はプラネタリギヤ機構70に連結したギヤ(3速駆動ギヤ)43を介してカウンタシャフトCSに伝達される。
また、リバースシャフトRVS上には、オイルポンプ(補機)60が設置されている。したがって、第1クラッチC1を係合することによる内側メインシャフトIMSの回転又は第2クラッチC2を係合することによる外側メインシャフトOMSの回転がリバース駆動ギヤ58及びリバースシャフトRVSを介してオイルポンプ60に伝達されて、該オイルポンプ60が駆動する。
カウンタシャフトCS上には、図2において左側から順に、2−3速従動ギヤ51と、6−7速従動ギヤ52と、4−5速従動ギヤ53と、パーキング用ギヤ54と、ファイナル駆動ギヤ55とが固定的に配置される。ファイナル駆動ギヤ55は、ディファレンシャル機構5のディファレンシャルリングギヤ(図示せず)と噛み合うようになっており、これにより、カウンタシャフトCSの出力軸の回転がディファレンシャル機構5の入力軸(つまり車両推進軸)に伝達される。また、プラネタリギヤ機構70のリングギヤ75には、該リングギヤ75の回転を停止するためのブレーキ41が設けられる。
上記構成の変速機4では、2−6速シンクロメッシュ機構83のシンクロスリーブを左方向にスライドすると、2速駆動ギヤ42がセカンダリシャフトSSに結合され、右方向にスライドすると、6速駆動ギヤ46がセカンダリシャフトSSに結合される。また、4速シンクロメッシュ機構84のシンクロスリーブを右方向にスライドすると、4速駆動ギヤ44がセカンダリシャフトSSに結合される。このように偶数の駆動ギヤ段を選択した状態で、第2クラッチC2を係合することにより、変速機4は偶数の変速段(2速、4速、又は6速)に設定される。
3−7速シンクロメッシュ機構81のシンクロスリーブを左方向にスライドすると、3速駆動ギヤ43が内側メインシャフトIMSに結合されて3速の変速段が選択され、右方向にスライドすると、7速駆動ギヤ47が内側メインシャフトIMSに結合されて7速の変速段が選択される。また、5速シンクロメッシュ機構82のシンクロスリーブを右方向にスライドすると、5速駆動ギヤ45が内側メインシャフトIMSに結合されて5速の変速段が選択される。シンクロメッシュ機構81、82がいずれのギヤ43、47、45も選択していない状態(ニュートラル状態)では、プラネタリギヤ機構70の回転がキャリア73に連結したギヤ43を介してカウンタシャフトCSに伝達され、1速の変速段が選択されることになる。このように奇数の駆動ギヤ段を選択した状態で、第1クラッチC1を係合することにより、変速機4は奇数の変速段(1速、3速、5速、又は7速)に設定される。
変速機4で実現すべき変速段の決定及び該変速段を実現するための制御(第1変速機構S1及び第2変速機構S2における変速段の選択(シンクロの切り替え制御)と、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合及び係合解除の制御等)は、公知のように、運転状況に従って、電子制御ユニット10によって実行される。
上記構成の車両におけるモータ単独での車両の発進及び走行(EV走行)について説明する。モータ3による発進及び走行には、3−7速シンクロメッシュ機構81をギヤ43側にインギヤするとともに、第1及び第2クラッチC1,C2を切断する。第1及び第2クラッチC1,C2を切断することで、内側メインシャフトIMS又は外側メインシャフトOMSとエンジン2との動力伝達は遮断される。この状態で、モータ3に正転方向のトルクを作用させることにより、モータ3の駆動力がプラネタリギヤ機構70からギヤ43,51、カウンタシャフトCS、アイドルシャフトIDSを介して駆動輪WR,WLに伝達される。これにより、モータ3のトルクのみで車両を発進させて走行させることができる。
上記のモータ走行中にエンジン2を始動する制御について説明する。モータ走行中にエンジン2を始動するには、第1クラッチC1を接続する。これにより、ギヤ43から3−7速シンクロメッシュ機構81を介して内側メインシャフトIMSに伝達された駆動力で、エンジン2のクランク軸2aを連れまわしてクランキングし、エンジン2を始動することができる。エンジン2の始動後は、3−7速シンクロメッシュ機構81をニュートラルに戻すことにより、モータ走行を継続できる。あるいは、モータ走行中にエンジン2を始動する他の方法として、2−6速シンクロメッシュ機構83を2速駆動ギヤ42側に係合させると共に第2クラッチC2を接続してもよい。さらに他のギヤ段を係合させることでもモータ3によるエンジン2の始動は可能である。
車両の停車中にモータ3の駆動力でエンジン2を始動する制御について説明する。車両の停車中にモータ3の駆動力でエンジン2を始動するには、第1、第2変速機構のシンクロメッシュ機構81〜84をすべてニュートラル(中立位置)にし、かつ、第1クラッチC1を接続して内側メインシャフトIMSをクランク軸2aに連結する。その後、モータ3を回転させることで、内側メインシャフトIMSがエンジン2のクランク軸2aを連れまわしてクランキングし、エンジン2を始動することができる。
ところで、本実施形態のハイブリッド車両では、モータ3の駆動力のみが駆動輪Wr,WLに伝達される状態で、AVH又はEPBの作動時に車両を発進させる場合、モータ3による駆動力とAVH又はEPBによる制動力とが釣り合うことで、モータ3がストール状態となることがある。特に、登坂路で車両が発進する際にこのようなストール状態に陥るおそれが高くなる。この場合、モータ3のストール状態が長時間継続すると、モータ3用の制御装置であるインバータ20が過熱状態となるおそれがある。
そこで、本実施形態のハイブリッド車両では、モータ3の駆動力のみが駆動輪WR,WLに伝達される状態で、AVH又はEPBの作動時に車両を発進させる場合、アクセルペダル開度センサ31で検出したアクセルペダル開度に応じた運転者の要求駆動力が、車両が発進(前進)可能な駆動力に対応する閾値を越えるまでは、駆動輪WR,WLに伝達されるモータ3の駆動力(実駆動力)を発生させないようにする制御(以下、この制御を「駆動力制限制御」という。)を行うようにしている。以下、この駆動力制限制御について説明する。なお、以下の説明では、本発明にかかる制動保持手段として、AVHを例に挙げているが、以下の図及び説明でAVHというときは、EPBも含まれているものとする。
図4は、AVHが作動している場合の車両の停止から発進までの制御について説明するためのタイミングチャートである。同図のタイミングチャートでは、車輪速VP、AVH制御モード(停止、保持、減圧)、ブレーキ圧P(ドライバー要求圧P1、AVH指示圧P0)、ブレーキペダル8のオン/オフ、アクセルペダル7のオン/オフそれぞれの変化を示している。同図のグラフに示すように、AVHが作動している場合、時刻t11に運転者による踏込操作でブレーキペダル8がオンになると、ブレーキ圧P(ドライバー要求圧P1)が上昇を開始し、車輪速VPが低下を開始する。その後、時刻t12に車輪速VPが実質的に0となることで車両の停止判定がなされ、その時点でAVH制御が開始される。これにより、AVH制御モードが停止状態から保持状態に移行し、ブレーキ圧P(AVH指示圧P0)が上昇してその状態が維持される。時刻t13に運転者による踏込操作が解除されてブレーキペダル8がオフになると、ブレーキ圧(ドライバー要求圧P1)が0になる。その後、時刻t14に運転者による踏込操作でアクセルペダル7がオンになり、時刻t15に車両の発進判定がなされる。車両の発進判定は、アクセルペダル7がオンであり、かつ、駆動輪WR,WLに伝達される駆動トルクが必要トルク以上であることを条件としてなされる。必要トルクは、車両が走行している路面の勾配(傾斜)から算出されたトルクで、発進時に車両が後退(下降)しないために必要な駆動トルクである。車両の発進判定により、AVH制御モードが保持から減圧に移行する。これにより、ブレーキ圧(AVH指示圧P0)が低下を開始し、車輪速VPが上昇を開始する。その後、時刻t16にAVH制御モードが減圧から停止に移行し、ブレーキ圧(AVH指示圧P0)が0になることで、AVH制御が終了する。
ここで、車両が下り坂(降坂路)や平坦路を走行している場合は、アクセルペダル7がオンになった時点でAVH指示圧P0が解除される。その一方で、車両が上り坂(登坂路)を走行している場合には、車両の不用意な後退(下降)を防止するため、駆動輪WR,WL側に伝達される駆動力が車両の走行(発進)に必要な駆動力になるまでは、AVH指示圧P0が解除されない。したがって、車両の駆動力と制動力が釣り合うことでモータ3のストール状態に陥るおそれがある。なお、ここでの駆動輪WR,WLに伝達される駆動力(トルク)としては、要求駆動力ではなく、実際に出力されている駆動力を参照する。
このように、車両が登坂路を走行しているときには、車両の駆動力が発進可能な駆動力になったと判断するまではAVHによる制動力の保持を解除しないため、モータ3のストール状態が継続する。そこで、本実施形態のハイブリッド車両では、運転者の要求駆動力がAVHによる制動力解除を判断するための閾値(以下、「AVH解除閾値」と称す。)を越えるまでは、駆動輪WR,WLに伝達される実際の駆動力(実駆動力)を発生させない制御(以下、「駆動力制限制御」と称す。)を行うようにしている。これにより、AVHによる制動力が解除されるまでの一時的なストール状態によって、モータ3及びインバータ20の温度が限界温度を越える高温状態とならないことを保証できるようにしている。
図5は、上記の駆動力制限制御を行う場合のタイミングチャートを示す図で、ブレーキスイッチBKのオン/オフ、アクセルペダル開度AP、車両の駆動力F(運転者の要求駆動力Fx1、目標駆動力Fx2、推定実駆動力Fy)、AVHによるブレーキ制動力Wそれぞれの変化を示している。なお、運転者の要求駆動力Fx1は、アクセルペダル開度センサ31で検出したアクセルペダル開度APに基づいて判断される。そのため、要求駆動力Fx1の変化はアクセルペダル開度APの変化に対応している。ここでは、時刻t21にブレーキスイッチBKがオンからオフに切り替わる。その後、時刻t22にアクセルペダル開度APが増加を開始した時点で、運転者の要求駆動力Fx1が上昇を開始する。その後、時刻t23に運転者の要求駆動力Fx1がAVH解除閾値Fthを超えると、目標駆動力Fx2及び推定実駆動力Fyが上昇を開始する。ここでは、目標駆動力Fx2及び推定実駆動力Fyは、急激に上昇(増加)させるのではなく、徐々に増加させるようにしている。
その後、時刻t24に推定実駆動力FyがAVH解除閾値Fthを超えると、AVHによるブレーキ制動力Wが下降を開始し、時刻t25にブレーキ制動力Wが0になる。この場合、時刻t23に運転者の要求駆動力Fx1がAVH解除閾値Fthを超えて目標駆動力Fx2が上昇を開始してから、車両の制動力と駆動力が釣り合うことで一時的なモータ3のストール状態となるが、時刻t25にブレーキ制動力Wが0になるので、以降、モータ3のストール状態が解消する。したがって、図4のグラフに示す場合と比較して、モータ3のストール状態の継続時間TS2をより短時間に抑えることができる(TS2<TS1)。すなわち、モータ3のストール状態が長時間に渡って継続することを防止できる。
また、車両が上り坂(登坂路)を走行している場合、上記のAVH解除閾値Fthは、登坂路の勾配に応じた値に設定される。すなわち、車両が走行している登坂路の勾配に応じて、車両の実駆動力を発生させるための要求駆動力の閾値を持ち替える制御を行う。これにより、車両が走行している路面が登坂路(上り坂)である場合に、駆動力が不足することで車両が後退(下降)することを防止できる。この場合、路面の勾配大きいほど、AVH解除閾値Fthを大きな値に持ち替えるとよい。これによれば、車両が登坂路を走行しているときは、車両の駆動力と制動力が釣り合うことでモータ3のストール状態が発生し易いところ、勾配の大きな登坂路では比較的遅い時期に駆動力を発生させることで、モータ3のストール状態の発生及びその継続を効果的に防止できる。
なお、上記の登坂路の勾配の判断は、傾斜角センサ36や他の検出手段で検出した傾斜角に基づいて行ってもよいし、カーナビゲーションシステム39から得た路面の情報(車両が走行している路面の情報)に基づいて行ってもよい。
この場合さらに、アクセルペダル開度センサ31で検出したアクセルペダル開度AP(アクセルペダル7の踏込量)が所定量よりも多いときは、運転者の要求駆動力Fx1がAVH解除閾値Fthを越えているか否かに関わらず、駆動輪WR,WLに伝達されるモータ3の駆動力を発生させる制御を行うようにしている。
傾斜角センサ36などで判断した路面の勾配に応じてAVH解除閾値Fthを持ち替える制御では、例えば、勾配検出用の傾斜角センサ36の異常などによりAVH解除閾値Fthが正常範囲外の大きな値となった場合、モータ3の駆動力を適切に発生させることができないおそれがある。これに対して、上記のような制御を行えば、アクセルペダル7の踏込量が所定量よりも多いときは、運転者の要求駆動力Fx1がAVH解除閾値Fthを越えているか否かに関わらず、モータ3の駆動力を発生させる制御を行うので、モータ3による駆動力を確実に発生させることができ、車両の発進が可能となる。
このように、本実施形態では、登坂路の勾配に応じてAVH解除閾値Fthを持ち替えるようにしている。また、AVHの作動が解除されるまでのモータ3のストール状態の許容継続時間を設定している。さらに、これらAVH解除閾値Fthとモータ3のストール状態の許容継続時間とに基づいて、モータ3のみの駆動力で車両を発進させることが可能な勾配限界を設定している。すなわち、AVHの解除前にモータ3のストール状態の継続時間が許容範囲を超えないための勾配限界を設定し、それ以上の勾配では、モータ3の駆動力による車両の発進に代えて、エンジンの駆動力による車両の発進を選択するようにしている。
図6は、AVHの解除前にモータ3のストール状態の継続時間が許容範囲を超えないための勾配限界について説明するための図である。同図に示すように、車両が登坂路を走行している場合、AVH作動時モータ発進限界勾配Gr1以下の勾配では、車両がモータ3の駆動力のみで発進可能であり、かつ、AVHの解除前にモータ3のストール状態の継続時間が許容範囲を超えずに済む。その一方で、AVH作動時モータ発進限界勾配Gr1以上の勾配では、モータ3の駆動力のみで発進可能であるが、AVHの解除前にモータ3のストール状態の継続時間が許容範囲を超える場合がある。そのため、モータ3のストール状態の継続時間が許容範囲を超える場合には、エンジンを始動して該エンジンの駆動力による車両の発進に切り替える。さらに、モータ発進限界勾配Gr2以上では、モータ3の駆動力のみでは発進が不可能となるため、常時エンジンを始動して該エンジンの駆動力による車両の発進を行う。
このように、車両が走行している登坂路の勾配GrがGr1未満の領域(Gr<Gr1)では、AVHの作動時にモータ3の駆動力で車両を発進させ、勾配GrがGr1以上Gr2未満の領域(Gr1≦Gr<Gr2)では、モータ3のストール状態の継続時間が許容範囲内であるか否かに応じてモータ3の駆動力とエンジンの駆動力のいずれかで車両を発進させ、勾配GrがGr2以上の領域(Gr≦Gr2)では、エンジンを始動して該エンジンの駆動力で車両を発進させる。
また、目標駆動力Fx2がAVH解除閾値Fthを超えた後、推定実駆動力Fyが閾値に到達する前に運転者がアクセルペダル7の踏み込みを緩めた場合、モータ3のストール状態が継続してしまうおそれがある。図7は、この場合のタイミングチャートを示す図で、ブレーキスイッチBKのオン/オフ、アクセルペダル開度AP、車両の駆動力F(運転者の要求駆動力Fx1、目標駆動力Fx2、推定実駆動力Fy)、AVHによるブレーキ制動力Wそれぞれの変化を示している。この場合、時刻t31にブレーキスイッチBKがオンからオフに切り替わる。その後、時刻t32にアクセルペダル開度APが上昇を開始し、運転者の要求駆動力Fx1が上昇を開始する。その後、時刻t33に運転者の要求駆動力Fx1がAVH解除閾値Fthを超えると、目標駆動力Fx2及び推定駆動力Fyが上昇を開始する。その後、推定実駆動力FyがAVH解除閾値Fthを超えるよりも前の時刻t34に、運転者がアクセルペダル7の踏み込みを緩めることでアクセルペダル開度APが低下する。以降、推定実駆動力FyがAVH解除閾値Fthを超えることなく低下する。これにより、AVHによるブレーキ制動力Wが低下せず一定に維持されることで、車両の制動力と駆動力が釣り合うことによるモータ3のストール状態が継続してしまう(継続時間TS3)。
そこで、本実施形態では、上記のようなモータ3のストール状態の継続を回避するための制御として、AVHの解除前に運転者の要求駆動力がAVH解除閾値を下回ったときは、目標駆動力を再度制限する制御(以下、「駆動力再制限制御」と称す。)を行うようにしている。図8は、この駆動力再制限制御を行う場合のタイミングチャートを示す図である。同図のタイミングチャートでは、ブレーキスイッチBKのオン/オフ、アクセルペダル開度AP、車両の駆動力F(要求駆動力Fx1、目標駆動力Fx2、推定実駆動力Fy)、AVHによるブレーキ制動力Wそれぞれの変化を示している。この場合、時刻t41に運転者によるブレーキペダル8の踏み込みでブレーキスイッチBKがオンからオフに切り替わる。その後、時刻t42に運転者によるアクセルペダル7の踏み込みでアクセルペダル開度APが上昇を開始し、要求駆動力Fx1が上昇を開始する。その後、時刻t43に要求駆動力Fx1がAVH解除閾値Fthを超えると、目標駆動力Fx2及び推定実駆動力Fyが上昇を開始する。そして、推定実駆動力FyがAVH解除閾値Fthを超える前の時刻t44に、運転者がアクセルペダル7の踏み込みを緩めることでアクセルペダル開度APが低下する。以降、推定実駆動力FyがAVH解除閾値Fthを超えることなく低下する。この場合、時刻t44以降、目標駆動力Fx2を低下させる制御を行うことで、推定実駆動力Fyをより低い値にすることができる。これにより、駆動力再制限制御を行わない場合(図7に示す場合)と比較して、車両の制動力と駆動力が釣り合うことによるモータ3のストール状態の継続時間TS4をより短時間に抑えることができる(TS4<TS3)。
また、本実施形態では、AVHの実行中に、運転者がブレーキペダル8を踏み込んだままアクセルペダル7を踏み込んだ場合、要求駆動力に応じてAVH又はEPBを一旦解除し、その後、駆動力制限制御を実行する制御(以下、「同時踏込制限制御」と称す。)を行うようにしている。図9は、この同時踏込制限制御を行う場合のタイミングチャートを示す図で、車輪速VP、同時踏込制限制御のオン/オフ、AVH制御のオン/オフ、ブレーキペダル8のオンオフ、アクセルペダル開度AP、車両の駆動力F(要求駆動力Fx1、目標駆動力Fx2、推定実駆動力Fy)それぞれの変化を示している。この場合、時刻t51に運転者によるブレーキペダル8の踏み込みによりブレーキペダル8がオンになり、時刻t52にAVH制御が開始されると共に車輪速VPが0になる。その後、時刻t53にアクセルペダル7の踏み込みが開始されて、ブレーキペダル8とアクセルペダル7の両方が踏み込まれた状態となる。時刻t54に運転者の要求駆動力Fx1がAVH解除閾値Fthを超えると、目標駆動力Fx2及び推定実駆動力Fyが上昇を開始する。時刻t55に推定実駆動力FyがAVH解除閾値Fthを超えると、AVH制御が終了する。その後、時刻t56にアクセルペダル7とブレーキペダル8の同時踏込制限制御が開始されることで、目標駆動力Fx2が低下を開始する。時刻t57に目標駆動力Fx2の低下が終了し、以降、目標駆動力Fx2が一定に維持される。時刻t57以降の駆動力は、通常の駆動力よりも低い駆動力であるため、駆動力と制動力が釣り合うことによるモータ3のストール状態の発生を抑制することができる。なお、モータ3のストール判定がなされた場合は、時刻t58において目標駆動力Fx2をさらに低下させる制御を行う。これにより、モータ3のストール状態が発生した場合でも当該ストール状態を短時間で終了させることができる。
また、インバータ20の温度が所定温度よりも上昇しているときは、AVH又はEPBの作動時にモータ3の一時的なストール状態を伴う車両の発進を行うと、インバータ20の温度が許容範囲を越える高温状態となるおそれがある。そこで本実施形態では、上記の駆動力制限制御を行う場合、インバータ温度センサ(温度検出手段)37で検出したインバータ20の温度が所定温度よりも高いときは、モータ3のみの駆動力で車両を発進させる制御に代えて、モータ3の駆動力でエンジンを始動し、該エンジンの駆動力で車両を発進させる制御を行うようにしている。これにより、インバータ20の温度が許容範囲を越える高温状態になることを回避しながら車両の発進が可能となる。
また、上記の駆動力制限制御において、駆動輪WR,WLに出力する駆動力(実駆動力)を徐々に増加させる場合、インバータ20の温度が所定温度に達する前に駆動力の増加が終了するように設定するとよい。これによれば、駆動輪WR,WLに出力する駆動力を徐々に増加させる制御を行う際にモータ3の一時的なストール状態が生じた場合でも、インバータ20の温度が許容範囲を超える高温状態になることを回避できる。
以上説明したように、本実施形態車両の駆動制御装置では、AVH(又はEPB、以下同じ。)の作動時に車両を発進させる場合、アクセルペダル開度センサ31で検出したアクセルペダル開度に応じた運転者の要求駆動力が、車両の発進に必要な駆動力の閾値を越えるまでは、駆動輪WR,WLに伝達されるモータ3の駆動力(実駆動力)を発生させないようにする駆動力制限制御を行うようにしている。
AVHの作動時には、運転者がブレーキペダル8を踏み込んでいる訳ではないので、運転者の意図をアクセルペダル7の踏み込みに応じたアクセルペダル開度の変化から判断する必要があり、駆動力制御のタイミングの確保が難しい。そこで、車両が発進(前進)可能なアクセルペダル開度になるまでは、駆動輪WR,WLに伝達されるモータ3の駆動力を発生させないようにすることで、AVHによる制動状態を維持しながらモータ3のストール状態を回避できるようにする。そして、車両が発進(前進)可能な要求駆動力の閾値を越えたときに、駆動輪WR,WLに伝達されるモータ3の駆動力を発生させるようにする。これにより、AVHの作動時にモータ3のストール状態が長時間継続することを効果的に防止できる。
さらに、アクセルペダル開度に応じた要求駆動力が上記の閾値を越えた後、再度当該閾値を下回った場合には、駆動輪WR,WLに伝達されるモータ3の駆動力の発生を再度制限するようにしている。これにより、運転者の要求駆動力が閾値を越えることで、一旦、実駆動力を発生させた後、要求駆動力が閾値以下に低下した場合、AVHの作動が解除されないまま駆動力が維持されることでモータ3のストール状態が継続することを防止できる。
また、本実施形態では、駆動輪WR,WLに伝達されるモータ3の駆動力(実駆動力Fy)を徐々に増加させるようにしている。これにより、車両のスムーズな発進が行えるようになる。また、AVHの制御状態が制動状態から駆動状態に切り替わる際に、車両の挙動にショックや違和感が生じることを効果的に防止できる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、本発明にかかるハイブリッド車両が備える最低限の構成としては、駆動源としてのエンジン及びモータと、エンジンとモータの少なくともいずれかの駆動力を車両の駆動輪に伝達可能な駆動装置とを備え、モータの駆動力のみを駆動輪に伝達して走行することが可能なハイブリッド車両であればよい。
また、上記実施形態では、本発明にかかる駆動制御装置を備えた車両の一例として、駆動源としてのエンジン2及びモータ3を備えたハイブリッド自動車の車両を示したが、本発明にかかる駆動制御装置を備えた車両は、電動機の駆動力のみを駆動輪に伝達して走行することが可能な車両であれば、ハイブリッド自動車の車両には限らず、駆動源として電動機のみを備えた車両(電動車両)や、電動機と内燃機関以外の駆動源とを備えた車両などであってもよい。