以下、本発明の好ましい実施形態について、タブレット端末などの携帯機器に搭載されるシート型ヒートパイプを例にして説明する。なお、以下に示す各実施例で、共通する箇所には共通する符号を付し、共通する部分の説明は重複を避けるため極力省略する。
図1〜図7は、本発明の第1実施例におけるシート型ヒートパイプ1を示している。これらの各図において、シート型ヒートパイプ1は、2枚の銅箔シートである第1のシート体11と第2のシート体12を拡散接合した容器15により構成される。これらのシート体11,12は、例えばアルミニウムのように、熱伝導性が良好でエッチング加工またはプレス加工が可能な他の金属シートを利用してもよい。図1に示すように、完成状態のシート型ヒートパイプ1は略矩形平板状で、スマートフォンなどの携帯情報端末の筐体内部形状に合せた外形を有し、その四隅にはR形状の面取部16が形成される。また、容器15の内部に真空状態で純水などの作動液(図示せず)を封入するために、容器15には溶接のために筒状の注液ノズル17が形成される。注液ノズル17により密閉された容器15、ひいてはシート型ヒートパイプ1の厚さt1は、0.4mmである。
容器15の四隅には、取付け部18が配設される。取付け部18は貫通孔として形成され、携帯情報端末の筐体への取付けを可能にするもので、例えば筐体に形成したねじ孔(図示せず)に取付け部18を一致させ、図示しない止着部材としてのねじを取付け部18に貫通させて、ねじ孔に螺着することで、シート型ヒートパイプ1を携帯情報端末などの筐体に対して所望の位置に容易に取付け固定することができる。なお、取付け部18は貫通孔に限定されるものではなく、同等の機能を発揮する別な構造を採用してもよい。
図2は、第2シート体12の側面図と平面図である。なお、第1シート体11は第2シート体12と同形状であるため、図示を省略する。同図において、シート体11,12の厚さt2は何れも0.2mmであり、本実施例では最終的に容器15の内面となる片側面にのみ、ハーフエッチング加工によりシート体11,12の厚みの途中までエッチングが施されて、受熱部で作動液が蒸発した蒸気を放熱部に輸送する蒸気通路20と、放熱部で凝縮した作動液を受熱部に還流するウィック22を形成している。また、シート体11,12の内面には、蒸気通路20やウィック22の他に、シート体11,12の外周に沿って、エッチング加工でエッチングされない凸状の側壁30が形成される。この凸壁たる側壁30は、シート体11,12の内面どうしを向い合せたときに重なる位置にあり、最終的に拡散接合により容器15の外周部の一部を形成する。なお、図2ではウィック22と側壁30の部位を斜線で示している。
そして本実施例では、同形状の2枚のシート体11,12を、それぞれの内面を内側にして重ね合わせ、作動液を収容する容器15が構成されるように、ウィック22の一部と側壁30を接合して、図1に示すシート型ヒートパイプ1を製造する。その際、外周部となる側壁30を接合し、次に注液ノズル17を利用して作動液の注入と脱気を行なった後、この注液ノズル17を閉塞してシート型ヒートパイプ1の内部を密閉することで、容器15としての機能が得られるようになっている。
容器15の内部には、作動液が封入される脱気状態の密閉室13が形成される。本実施例では、一つの密閉室13だけが容器15の内部に形成され、その密閉室13に全ての蒸気通路20やウィック22が配設される。また、密閉室13は前述の注液ノズル17を備え、注液ノズル17に形成した筒状の注液通路17Aが、密閉室13の内部と連通して設けられる。本実施例の注液通路17Aは単独で設けられており、図1に示す完成状態では閉塞され、それにより密閉室13を密閉状態に維持する。
ところで、断面が丸型のヒートパイプでは、製造性や熱輸送能力の点から、0.9mmの厚さが限界である。そのため、図1で示した容器15ひいてはシート型ヒートパイプ1の厚さt1を0.9mm以下とすれば、丸型ヒートパイプよりも薄型で、しかも十分な熱輸送能力を有するシート型ヒートパイプ1を提供できる。また、シート型ヒートパイプ1の厚さt1を最大の0.9mmとする場合、各々のシート体11,12の厚さt2(図7を参照)は、1枚当たり0.45mmに形成すればよい。
フォトエッチング加工でシート体11,12に蒸気通路20やウィック22を形成する場合、シート体11,12は少なくとも0.05mm以上の厚さt2を必要とする。一方、シート体11,12,…の重ね合わせる枚数は3枚以上としてもよいが、枚数が増え過ぎると、全てのシート体11,12,…を所望の位置に一致させて重ね合わせるのが困難になる。こうしたシート型ヒートパイプ1の製造性を考慮し、且つ丸型ヒートパイプよりも薄型のシート型ヒートパイプ1を得るために、シート体11,12,…の枚数を9以下とし、各シート体11,12,…の厚さt2を1枚当たり0.1mm以上にするのが好ましい。したがって、0.1mm〜0.45mmの厚さt2を有するシート体11,12,…の表面にエッチング加工を施し、完成したシート型ヒートパイプ1の厚さt1を0.9mm以下とすることで、容器15の内面に十分な熱輸送能力を有する微細な蒸気通路20とウィック22を形成でき、且つ携帯情報端末などの薄い筐体内にも、丸型ヒートパイプよりも薄型のシート型ヒートパイプ1を無理なく設置できる。
蒸気通路20は、密閉された容器15の内部において、シート体11,12の長手方向に沿って複数並んで形成された凹状の第1通路部21Aと、複数の第1通路部21Aと連通して形成された一つの凹状の第2通路部21Bと、により構成される。第1通路部21Aは平面視で何れも直線状に形成されるのに対し、第2通路部21Bは平面視で逆V字状に形成され、シート体11,12の中央部付近で第1通路部21Aと第2通路部21Bが斜めに交叉しているが、これらはどのような形状でどの位置で連通していても構わない。本実施例では、シート体11,12の片側面を向い合せて積み重ねたときに、シート体11,12の第1通路部21Aどうしが向かい合うことで、中空筒状の第1蒸気通路20Aが形成され、シート体11,12の第2通路部21Bどうしが向かい合うことで、中空筒状の第2蒸気通路20Bが形成される。このとき容器15の内部には、第1蒸気通路20Aと第2蒸気通路20Bとによる蒸気通路20が配設され、シート型ヒートパイプ1の長手方向に沿って複数形成された第1蒸気通路20Aが、一つに形成された第2蒸気通路20Bと連通する。
ウィック22は、容器15の内部において、蒸気通路20や側壁30を除く部位に形成される。より詳しくは、側壁30と共に容器15の外周部をなし、注液ノズル17の注液通路17Aに向けて延設される蒸気通路20の部位を除いて、シート体11,12ひいては容器15の外周部の略全周に形成された第1ウィック22Aと、シート体11,12ひいては容器15の長手方向に沿って、第1ウィック22Aの一側と他側から容器15の中央部に向けてそれぞれ複数並んで形成される第2ウィック22Bと、により全てのウィック22を構成している。第2ウィック22Bは何れも直線状で、第1ウィック22Aの一側から中央に向かう12本の第2ウィック22Bと、第1ウィック22Aの他側から中央に向かう12本の第2ウィック22Bが向かい合って、その間に前述の第2通路部21Bが形成される。また、並んで配置される第1ウィック22Aと第2ウィック22Bとの間、若しくは2本の第2ウィック22B,22Bの間に、第1通路部21Aが形成される。
図3は、図2における第2シート体12のウィック部Aを拡大したものであり、図4は、図2における第2シート体12のウィック部Bを拡大したものである。これらの各図において、ウィック22を構成する第2ウィック22Bは、エッチング加工でエッチングされた凹状の溝26と、エッチングされていない凸状の壁27とにより構成され、第2ウィック22Bの領域内には作動液の通路となる多数の溝26が、壁27により所望の形状に形成される。こうした微細な溝26と壁27とを組み合わせた構造は、ウィック22のどの位置にあっても共通している。
溝26は、蒸気通路20の両側部や端部に沿って位置しており、その蒸気通路20の方向と直交して一定間隔毎に配置される複数の第1溝26Aと、第1溝26Aよりも蒸気通路20から離れて配置され、第1溝26Aよりも少なく広い一定間隔毎に配置される複数の第2溝26Bと、これらの第1溝26Aや第2溝26Bを、蒸気通路20の方向に沿って互いに連通させる縦溝としての第3溝26Cとを有する。また、溝26の深さt2(図7を参照)は0.1mm〜0.13mmで、溝26の幅d1は、第1溝26A,第2溝26B,第3溝26Cの何れも0.12mmである。ここでは、溝26の幅d1が0.05mm〜0.3mmの範囲であれば、ウィック22による毛細管力を高めることができる。さらに、第1溝26Aの数は第2溝26Bの数よりも多く、第2溝26Bよりも微細な第1溝26Aが、蒸気通路20の両側部に位置して、この蒸気通路20と直接連通している。
溝26の間に形成される壁27は、第2溝26Bよりも細かな間隔で第1溝26Aを形成するための複数の第1壁27Aと、第2溝26Bを形成するために、第1壁27Aとは異なる形状の複数の第2壁27Bや第3壁27Cを少なくとも有する。そして、第1壁27Aは、蒸気通路20と直交する方向に沿った幅d2が0.1mmに形成される一方で、第3壁27Cは、蒸気通路20と直交する方向に沿った幅d3が、第1壁27Aや第2壁27Bの幅d2よりも広い0.3mmに形成される。本実施例では、蒸気通路20の方向と直交して、一列に並んだ第3壁27Cの両外側に対向して第2壁27Bを並設し、さらに第2壁27Bの外側に複数の第1壁27Aを並設している。好ましくは、第1壁27Aや第2壁27Bの幅d2を0.25mm未満とし、第3壁27Cの幅d3を0.25mm以上とすることで、シート体11,12の重ね合う第3壁27Cの表面を利用して、ウィック22の部分での拡散接合が可能になる。
また、ウィック22を構成する第1ウィック22Aも、凹状の溝26と凸状の壁27とにより構成され、第1ウィック22Aの領域内には作動液の通路となる多数の微細な溝26が、壁27により所望の形状に形成される。第1ウィック22Aの溝26は、前述した第1溝26Aと、第2溝26Bと、第3溝26Cとを有して構成されるが、第1ウィック22Aの壁27は、複数の第1壁27Aと複数の第2壁27Bだけで構成される。そして、蒸気通路20に向けて複数列に並んだ第2壁27Bの一側には側壁30を配設する一方で、他側には複数の第1壁27Aを並設することで、それらの間に複数の第3溝26Cが一定間隔で形成される。
本実施例では、第1ウィック22Aの周囲溝として12列の第3溝26Cが有り、その第3溝26Cを形成するのに、凸壁として全部で12列の第1壁27Aおよび第2壁27Bと、第1ウィック22Aの外側にある凸状の側壁30とを設けている。
容器15を構成する金属箔シートとしてのシート体11,12は、2枚のシート体11,12を重ね合わせたときに、第1ウィック22Aの外側にある外周壁として接触する側壁30の表面の幅d4が、0.2mmから1.9mmの範囲の寸法に形成される。これにより、完成したシート型ヒートパイプ1の状態で、容器15として必要な密閉度と適正な強度を得ることができる。その一方で、第1ウィック22Aの溝26を構成するだけの第1壁27Aや第2壁27Bは、その幅d5が狭いほど溝26の微細化に繋がり好ましい。実施例では前述の幅d2と同じ0.1mmにしてあり、第3溝26Cの幅d6よりも狭い。この幅d6は、前述の幅d1と同じく0.12mmである。つまり、第1ウィック22Aにおいて、第3溝26Cの幅d6と、第1壁27Aや第2壁27Bの幅d5と、第1ウィック22Aの外側に形成される側壁30の幅d4の各寸法は、d4>d6>d5の関係となる。このような寸法関係を保つことで、容器15の密閉度を確保しながらその強度を適正に保ちつつ、第1ウィック22Aの溝26に液相が触れる表面積と、蒸気通路20の気相が流れる断面積が最適となり、シート型ヒートパイプ1として熱輸送能力を向上させることができる。
図5は、図2における第2シート体12のウィック部Cを拡大したものであり、図6は、図2における第2シート体12のウィック部Dを拡大したものである。図5では第2ウィック22Bの先端部を拡大しており、図6では第1蒸気通路20Aと第2ウィック22Bの略中間部を拡大しているが、その構成や寸法関係は図2〜図4で説明した通りである。特に、図5に示す第2ウィック22Bの先端側には、前述した第1壁27A,第2壁27B,第3壁27Cの他に、第3壁27Cと同じ列に、この第3壁27Cと同じ幅d3を有し、第3壁27Cよりも蒸気通路20に沿った方向の長さが短い複数の第4壁27Dと、第4壁27Dの両側にあって、扇形形状の第5壁27Eがそれぞれ壁27として配設され、それにより第1溝26Aや、第2溝26Bや、第3溝26Cを形成している。
図6を参照すると、本実施例では、第2ウィック22Bの縦溝として4列の第3溝26Cが有り、その第3溝26Cを形成するのに、幅の広い凸壁として1列の第3壁27Cと、幅の狭い全部で4列の第1壁27Aおよび第2壁27Bとを設けている。
容器15を構成する金属箔シートとしてのシート体11,12は、2枚のシート体11,12を重ね合わせたときに、第2ウィック22Bの第1凸壁として接触する第3壁27Cの表面の幅d3が、0.2mmから1.9mmの範囲の寸法に形成される。これにより、完成したシート型ヒートパイプ1の状態で、容器15として必要な密閉度と適正な強度を得ることができる。その一方で、第1ウィック22Aの溝26を構成するだけの第2凸壁である第1壁27Aや第2壁27Bは、その幅d2が狭いほど溝の微細化に繋がり好ましく、実施例では0.1mmにしてあり、第3溝26Cの幅d1よりも狭い。つまり、第1ウィック22Bにおいて、第3溝26Cの幅d1と、第1壁27Aや第2壁27Bの幅d2と、第3壁27Cの幅d3の各寸法は、d3>d1>d2の関係となる。このような寸法関係を保つことで、容器15の密閉度を確保しながらその強度を適正に保ちつつ、第2ウィック22Bの溝26に液相が触れる表面積と、蒸気通路20の気相が流れる断面積が最適となり、シート型ヒートパイプ1として熱輸送能力を向上させることができる。
なお、図1に示すようなシート型ヒートパイプ1は、どの部位で熱源と熱接続されるのかによって、その受熱部と放熱部の各位置が変わってくるが、容器15の内部に複数形成された第1蒸気通路20Aが、一つに形成された第2蒸気通路20Bと連通しているので、シート型ヒートパイプ1のどの部位に受熱部と放熱部が位置したとしても、それぞれの蒸気通路20A,20Bが互いに連通することで、シート型ヒートパイプ1の全面を均熱化できる。
図7は、図6に示す第2シート体12のA−A線断面図である。同図において、隣り合う一方の第2ウィック22Bの端部と、他方の第2ウィック22Bの端部との間には、幅d7を有する蒸気通路20の領域が形成されるが、この蒸気通路20となる領域の肉厚k1は、0.03mmから0.14mmの範囲の寸法を有する。
蒸気通路20はその断面積が大きく、蒸気通路20の深さt4と幅d7の割合である縦横比が同じである程、蒸気通路20を通過する作動液の気相が触れる表面積が小さくなって、熱輸送能力が向上する。一方、シート型ヒートパイプ1を携帯情報端末などの薄い筐体内に無理なく設置するためには、図1で示した容器15ひいてはシート型ヒートパイプ1の厚さt1を0.5mm以下にする必要がある。そこで、完成したシート型ヒートパイプ1としての熱輸送能力と、容器15全体の厚さ制限を両立させるために、蒸気通路20となる領域における肉厚k1の寸法は、0.14mm以下に抑制する。一方、肉厚k1の寸法を0.03mm未満にすると、容器15内を真空にしていることから、外部の大気圧により容器15が潰れてしまう。そこで、蒸気通路20となる領域における肉厚k1の寸法は、0.03mm以上とすることが好ましい。
また、蒸気通路20の幅d7が0.5mmよりも小さな寸法になると、蒸気通路20の断面積が小さくなり、目的とする熱輸送能力が得られなくなる。一方、蒸気通路20の幅d7が2.7mmよりも大きな寸法になると、容器15内を真空にしていることから、外部の大気圧により容器15が潰れてしまう。そこで、シート体11,12の蒸気通路20となる領域の幅d7は、0.5mmから2.7mmの範囲の寸法を有するのが好ましい。
蒸気通路20に関して、上述した理由から適切な肉厚k1と幅d7の比率を求めると、1:4から1:90の範囲となる。例えば、肉厚k1が0.03mmである場合、幅d4は0.03×90=2.7mm以下であれば、外部の大気圧により容器15が潰れる虞がない。また、肉厚k1が0.14mmである場合、幅d4は0.14×4=0.56mm以上であれば、目的とする熱輸送能力を得ることができる。
シート体11,12の蒸気通路20となる領域の肉厚k1は、どの部分でも一定の寸法ではなく、蒸気通路20の中央部分よりも、ウィック22となる溝26が形成された領域に近接する両側部分が厚く、全体がなだらかな略アーチ状に変化するように形成される。これは、容器15内が作動液の飽和蒸気圧であるため、蒸気通路20の壁面には大気圧による応力が加わることから、蒸気通路20の中で、ウィック22となる溝26が形成された領域に近接する応力の大きな両側部分の肉厚k1を厚くする一方で、応力の小さな中央部分の肉厚k1を薄くすれば、外部の大気圧により容器15が潰れる虞がなく、また蒸気通路20として目的とする熱輸送能力が得られる断面積を確保できるからである。
前述したように、シート体11,12にはエッチング加工やプレス加工により、ウィック22となる溝26が多数形成される。このウィック22となる微細な溝26は、容器15の内部で作動液の液相が触れる表面積が大きい程、熱輸送能力が向上する。そこで、ある程度の断面積を維持しながら液相の触れる表面積が大きくできるように、シート体11,12の1枚あたりの溝26の幅d1と深さt3の比は、1:1から2:1の範囲とするのが好ましい。それにより、ウィック22における熱輸送能力を向上させることが可能となる。
また、シート体11,12の1枚あたりの溝26の幅d1と、前述した蒸気通路20の深さt4の比は、1:0.8から1:1.6の範囲とするのが好ましい。この範囲内であれば、容器15の内部において、作動液の液相がウィック22の溝26に触れる表面積を大きくし、且つ気相が流れる蒸気通路20の断面積を大きくすることができ、シート型ヒートパイプ1として熱輸送能力を向上させることができる。
次に、上述したシート型ヒートパイプ1を、薄型の携帯情報端末に実装した場合の作用効果について説明する。
本実施例のシート型ヒートパイプ1は、携帯情報端末の筐体内部形状に合せた外形を有しており、そのまま単体で携帯情報端末の筐体内部に設置される。このとき、シート型ヒートパイプ1の一側面は、その一部が受熱部として、筐体内部に設置したCPUを含むマザーボード(何れも図示せず)と接触して熱接続され、熱源となるCPUから離れた部位(シート型ヒートパイプ1の一側面の別な一部や、他側面)で、放熱部が形成される。そして、筐体の内部でCPUなどが発熱して温度が上昇すると、そのCPUからの熱がシート型ヒートパイプ1の受熱部に伝わり、受熱部では作動液が蒸発して、蒸気通路20を通して受熱部から温度の低い放熱部に向かって蒸気が流れ、シート型ヒートパイプ1の内部で熱輸送が行われる。この放熱部に輸送された熱はシート型ヒートパイプ1の広い平面状の領域に熱拡散され、シート型ヒートパイプ1の裏表すなわち一側と他側の両面からそれぞれ放熱される。これにより携帯情報端末は、CPUなどに発生する熱を広い領域に熱拡散することができるため、携帯情報端末の外郭表面に生ずるヒートスポットが緩和され、CPUの温度上昇も抑制することができる。
一方、シート型ヒートパイプ1の放熱部では、蒸気が凝縮して作動液が溜まるが、シート型ヒートパイプ1の内部で、蒸気通路20の両側に形成されたウィック22の強い毛細管力により、作動液が蒸気通路20に直交する第1溝26Aや第2溝26Bによる液流路から、蒸気通路20に沿った第3溝26Cによる液流路を伝わって放熱部から受熱部へと戻される。したがって、受熱部で作動液が無くなることはなく、ここで作動液が蒸発して蒸気通路20を伝わり毛細管力で放熱部に導かれることで熱輸送が継続し、シート型ヒートパイプ1としての本来の性能が発揮される。
また、シート型ヒートパイプ1そのものの厚さt1は、丸型ヒートパイプよりも薄型になる0.9mm以下で、より好ましくは0.5mm以下であり、特にスマートフォンなどの携帯情報端末で、使いやすさを追求した筐体の厚さ制限に対応でき、グラファイトシートに比べて熱伝導率が極めて良好なシート型ヒートパイプ1の特徴を活かしつつ、CPU54などの熱を広い領域に速やかに熱拡散することが可能になる。
以上のように本実施例では、金属箔シートとしてのシート体11,12を2枚以上積み重ねて、接合により密閉された容器15を形成したシート型ヒートパイプ1であって、特にここでのシート体11,12は、ハーフエッチング加工により蒸気通路20とウィック22となる溝26が形成され、シート体11,12を積み重ねて接合することにより、厚さt1が0.9mm以下の密閉された容器15を形成している。
この場合、シート体11,12の表面にハーフエッチング加工を施すことで、容器15の内面に十分な熱輸送能力を有する微細な蒸気通路20とウィック22の溝26を形成できる。また、シート体11,12を積み重ねた容器の厚さを0.9mm以下に形成することで、断面が丸型のヒートパイプよりも薄型で、しかも十分な熱輸送能力を有するヒート型ヒートパイプ1を提供できる。そのため、携帯情報端末などのより厚さが薄い筐体内にも、シート型ヒートパイプ1を無理なく容易に設置できる。
なお、ここでいうハーフエッチング加工とは、加工素材であるシート体11,12の両面から同一パターン形状を化学腐食させエッチングするのではなく、意図的にそれぞれの面のエッチングバランスを制御することによって、シート体11,12の片面にのみ、パターン形状を形成したり、シート体11,12の両面に異なる任意のパターン形状を形成したりするエッチング加工をいう。
また本実施例では、各々のシート体11,12の材厚である厚さt2が、0.1mmから0.45mmの範囲に形成される。
金属箔シートとして2枚のシート体11,12を積み重ねる場合に、各々のシート体11,12の厚さt2を0.45mm以下に形成すれば、容器15の厚さt1を所望の0.9mm以下に形成することができる。また、シート型ヒートパイプ1の製造上の制約から、各々のシート体11,12の厚さt2を0.1mm以上とすれば、フォトエッチング加工でシート体11,12に蒸気通路20やウィック22を無理なく形成でき、シート体11,12の積み重ね数を9枚とした場合でも、容器15の厚さt1を所望の0.9mm以下に形成することができる。
図8〜図10は、本発明の第2実施例におけるシート型ヒートパイプ2を示している。これらの各図において、図8に示す完成状態のシート型ヒートパイプ2は、略矩形平板状に形成された容器15の一端から注液ノズル17が突出して設けられ、また取付け部18は存在しない。但し、第1実施例と同様に、容器15から突出しない注液ノズル17や、取付け部18を設けてもよい。なお、Hは容器15の表面に熱接続される熱源であり、これは前述のように、携帯情報端末の筐体内部に配置されるCPUなどで構成される。したがって、第2実施例のシート型ヒートパイプ2は、熱源Hを熱接続した容器15の一側部位が受熱部35となり、熱源Hから離れた容器15の他側部位が放熱部36となる。それ以外の外観構成は、第1実施例のシート型ヒートパイプ1と共通している。
図9は、第2シート体12の平面図であり、図10は、図8に示すシート型ヒートパイプ2のB−B線断面図である。なお、ここでも第1シート体11は第2シート体12と同形状である。
本実施例では、密閉された容器15の内部において、シート体11,12の長手方向に沿って複数並んで形成された凹状の第1通路部21Aと、それぞれの第1通路部21Aを横切って、複数の第1通路部21Aと連通して形成された一つの凹状の第2通路部21Bが、蒸気通路20として構成される。第1通路部21Aと第2通路部21Bは平面視で何れも直線状に形成され、第2通路部21Bはシート体11,12の中央部にではなく、注液ノズル17の近傍側に第1通路部21Aと直交して配置される。そしてここでも、シート体11,12の片側面を向い合せて積み重ねたときに、シート体11,12の第1通路部21Aどうしが向かい合うことで、中空筒状の第1蒸気通路20Aが形成され、シート体11,12の第2通路部21Bどうしが向かい合うことで、中空筒状の第2蒸気通路20Bが形成される。このとき容器15の内部には、第1蒸気通路20Aと第2蒸気通路20Bとによる蒸気通路20が配設され、シート型ヒートパイプ2の長手方向に沿って複数形成された第1蒸気通路20Aが、シート型ヒートパイプ2の短手方向に沿って一つに形成された第2蒸気通路20Bと連通する。
容器15の内部には、蒸気通路20や側壁30を除く部位にウィック22が形成される。ウィック22は、前述した第1ウィック22Aと、第1ウィック22Aの他側から第2通路部21Bに向けてそれぞれ複数並んで形成される第2ウィック22Bと、によりその全てが構成される。第1蒸気通路20Aの両側には、受熱部35から放熱部36にかけて途中で途切れることなく、毛細管力が働くウィック22(第1ウィック22Aや第2ウィック22B)が形成される。
本実施例では特に、放熱部36に並設される複数の第1蒸気通路20Aと、複数のウィック22を、一つの第1蒸気通路20Aの両側にウィック22が配置されるように各々分離する隔壁38が、シート体11,12に設けられる。この隔壁38は、エッチング加工でエッチングされない凸状の側壁30と一体的に形成され、放熱部36にのみ設けられている点が注目される。つまり隔壁38は、容器15の内部における蒸気や作動液の流通を遮断する一方で、隔壁38を介しての熱接続を可能にするもので、放熱部36側では、蒸気通路20の各第1蒸気通路20Aを通して運ばれてきた蒸気が、作動液として凝縮するときに、その作動液が隔壁38によりそれぞれ分散して、複数個所に均等に配置される構成となっている。
そして本実施例では、同形状の2枚のシート体11,12を、それぞれの内面を内側にして重ね合わせ、作動液を収容する容器15が構成されるように、ウィック22の一部と側壁30を接合して、図8に示すシート型ヒートパイプ2を製造する。その際、その際、外周部となる側壁30を接合し、次に注液ノズル17を利用して作動液の注入と脱気を行なった後、この注液ノズル17を閉塞してシート型ヒートパイプ2の内部を密閉することで、容器15としての機能が得られるようになっている。
容器15の内部には、作動液が封入される脱気状態の密閉室13が形成される。本実施例でも、一つの密閉室13だけが容器15の内部に形成され、その密閉室13に全ての蒸気通路20やウィック22が配設される。また、密閉室13は前述の注液ノズル17を備え、注液ノズル17に形成した筒状の注液通路17A,17Bが、密閉室13の内部と連通して設けられる。本実施例では注液ノズル17に複数の注液通路17A,17Bが設けられており、図8に示す完成状態では何れも閉塞され、それにより密閉室13を密閉状態に維持する。
蒸気通路20やウィック22の細部の構成は、第1実施例で説明したものと概ね共通しているので、図示を省略するが、隔壁38を設けた個所では、第2ウィック22Bの壁27が第1壁27Aと第2壁27Bだけで構成され、第1実施例で示した第3壁27Cの代わりに隔壁38が配置される。その他の構成は、第1実施例のシート型ヒートパイプ1と共通している。
前述のように、本実施例では2枚のシート体11,12を重ね合わせて容器15を形成し、その容器15に備えた注液ノズル17を利用して作動液の注入と脱気を行なった後、注液ノズル17を閉塞して、容器15内部の密閉室13に作動液を真空状態で密封したシート型ヒートパイプ2を製造する。この一連の製造工程で、注液ノズル17には複数の注液通路17A,17Bが容器15の内部に連通して設けられているので、仮に一つの例えば注液通路17Aが塞がったとしても、残りの注液通路17Bを通して注液や脱気を滞りなく行なうことができる。また、各注液通路17A,17Bの幅d8は少なくとも溝26の幅d1と同じに形成され、少なくとも蒸気通路20の幅d7よりも狭く形成される。これにより、注液通路17A,17Bとして必要な幅を確保し、注液ノズル17を通して良好な脱気や注液を行なうことが可能になる。
完成後のシート型ヒートパイプ2は、図8に示すような熱源Hが容器15の外表面に設置されることで、自ずと受熱部35と放熱部36が形成される。容器15内部における蒸気通路20やウィック22による作用は、第1実施例で説明した通りであるが、放熱部36において、受熱部35側から各々の第1蒸気通路20Aを通して運ばれた蒸気が、作動液として凝縮するときに、その作動液が隔壁38により分散して、複数の第1蒸気通路20A毎に均等に配置される。したがって、例えば携帯情報端末の内部に設置されるシート型ヒートパイプ2が、どのような向きの姿勢で用いられたとしても、放熱部36に溜まった作動液を、一か所に集中させることなく円滑に受熱部35に輸送できる。したがって、受熱部35で作動液が無くなることはなく、ここで作動液が熱源Hからの熱を奪って蒸気となり、その蒸気が蒸気通路20を伝わり毛細管力で再び放熱部36に導かれることで、シート型ヒートパイプ2としての本来の性能が発揮される。
以上のように、本実施例のシート型ヒートパイプ2は、第1実施例で説明した特徴に加えて、放熱部36に配置される複数の蒸気通路20と複数のウィック22を、容器15の長手方向に沿って並設された第1蒸気通路20A毎に各々分離するために、各シート11,12に、側壁30から延びる隔壁38を設けている。
この場合、容器15の内部において、放熱部36側で蒸気通路20の第1蒸気通路20Aを通して運ばれた蒸気が、作動液として凝縮するときに、その作動液が隔壁38により第1蒸気通路20A毎に分散して、複数個所に均等に配置されるので、シート型ヒートパイプ2を使用する姿勢がどの向きであっても、放熱部36に溜まった作動液が一か所に集中することなく円滑に受熱部35へ輸送される。したがって、シート型ヒートパイプ2として、6方向の全ての姿勢で良好な熱拡散が発揮できる。
また本実施例では、蒸気通路20の例えば第1蒸気通路20Aの両側に、毛細管力が働くウィック22としての第1ウィック22Aや第2ウィック22Bを形成している。
この場合、第1蒸気通路20Aの一側に作動液を集中させることなく、第1蒸気通路20Aの両側で作動液を輸送することができ、シート型ヒートパイプ2として、6方向の全ての姿勢で良好な熱拡散が発揮できる。
また本実施例のシート型ヒートパイプ2は、注液と脱気を行なうために、容器15の内部と連通する通路として、注液通路17A,17Bを備えた注液ノズル17をノズルとして設けているが、特に図9に示す注液通路17A,17Bの幅d8が、溝26の幅d1と同じに形成され、若しくは蒸気通路20の幅d7よりも狭く形成される。
この場合、容器15の内部に連通する注液通路17A,17Bの幅d8を、溝の幅や蒸気通路の幅に対して規定することで、注液通路として必要な幅を確保して、良好な脱気や注液を行なうことが可能になる。
さらに、注液通路17A,17Bを一つの密閉室13に対して複数設けているので、一つの例えば注液通路17Aが塞がるなどして不都合を生じた場合でも、残りの注液通路17Bを利用して、シート型ヒートパイプ2の製造時に注液と脱気を支障なく良好に行なうことが可能になる。
図10〜図12は、本発明の第3実施例におけるシート型ヒートパイプ3を示している。これらの各図において、図11に示す完成状態のシート型ヒートパイプ3は、略矩形平板状に形成された容器15の一端と他端から注液ノズル17がそれぞれ突出して設けられる。但し、第1実施例と同様に、容器15から突出しない注液ノズル17や、取付け部18を設けてもよい。Hは第2実施例でも説明した熱源であり、本実施例では容器15の略中央部に配置される。したがって、第3実施例のシート型ヒートパイプ3は、熱源Hを熱接続した容器15の中央部位が受熱部35となり、熱源Hから離れた容器15の両側部位が放熱部36となる。それ以外の外観構成は、第1実施例のシート型ヒートパイプ1と共通している。
図12は、第2シート体12の平面図であり、図10は、図11に示すシート型ヒートパイプ3のB−B線断面図である。なお、ここでも第1シート体11は第2シート体12と同形状である。
本実施例では、容器15の内部を2つの密閉室13A,13Bに区画するために、容器15の略中央部を横切る隔壁39が設けられ、それぞれの密閉室13A,13Bに注液ノズル17が一つずつ配設される。隔壁39は、容器15の内部における蒸気や作動液の流通を遮断する一方で、隔壁39を介しての熱接続を可能にするもので、エッチング加工でエッチングされない凸状の側壁30と一体的に形成される。熱源Hは、隔壁39と重なり合うように、容器15の凹凸のない外表面に配置される。
各密閉室13A,13B内には、蒸気通路20とウィック22がそれぞれ設けられる。蒸気通路20は第2実施例と同様に、シート体11,12の長手方向に沿って複数並んで形成された凹状の第1通路部21Aと、複数の第1通路部21Aと連通して形成された一つの凹状の第2通路部21Bと、により構成される。そしてここでも、シート体11,12の片側面を向い合せて積み重ねたときに、シート体11,12の第1通路部21Aどうしが向かい合うことで、中空筒状の第1蒸気通路20Aが形成され、シート体11,12の第2通路部21Bどうしが向かい合うことで、中空筒状の第2蒸気通路20Bが形成される。このとき容器15の内部の各密閉室13A,13Bには、第1蒸気通路20Aと第2蒸気通路20Bとによる蒸気通路20が配設され、シート型ヒートパイプ3の長手方向に沿って複数形成された第1蒸気通路20Aが、シート型ヒートパイプ3の短手方向に沿って一つに形成された第2蒸気通路20Bと連通する。
またウィック22は、各密閉室13A,13Bの内部において、蒸気通路20や側壁30を除く部位に形成される。ここでは注液ノズル17との連結部を除いて、各々の密閉室13A,13Bの略全周に形成された第1ウィック22Aと、容器15の中央部に位置する第1ウィック22Aの部位から、容器15の両端部に向けてそれぞれ複数並んで形成される第2ウィック22Bと、により全てのウィック22を構成している。本実施例でも、第1蒸気通路20Aの両側には、受熱部35から放熱部36にかけて途中で途切れることなく、毛細管力が働くウィック22(第1ウィック22Aや第2ウィック22B)が形成される。
図11に示すシート型ヒートパイプ3の製造方法は、第2実施例と同じであるため説明を省略するが、各注液ノズル17には複数の注液通路17A,17Bが設けられているので、仮に一つの例えば注液通路17Aが塞がったとしても、残りの注液通路17Bを通して注液や脱気を滞りなく行なうことができる。また、各注液通路17A,17Bの幅d8は少なくとも溝26の幅d1と同じに形成され、少なくとも蒸気通路20の幅d7よりも狭く形成される。これにより、注液通路17A,17Bとして必要な幅を確保し、注液ノズル17を通して良好な脱気や注液を行なうことが可能になる。その他、蒸気通路20やウィック22の細部を含めたシート型ヒートパイプ3の構成は、第1実施例のシート型ヒートパイプ1と概ね共通している。
図11に示すように、各密閉室13A,13Bに作動液を真空状態で密封した完成後のシート型ヒートパイプ3は、熱源Hが容器15の外表面に設置されることで、自ずと受熱部35と放熱部36が形成される。容器15内部における蒸気通路20やウィック22による作用は、第1実施例で説明した通りであるが、本実施例では蒸気通路20を通して運ばれる蒸気の経路や、ウィック22を通して運ばれる作動液の経路が隔壁39で遮断され、密閉室13A,13B毎に蒸気や作動液が短い距離で還流するので、放熱部36よりも受熱部35が高い位置にあるトップヒート姿勢にシート型ヒートパイプ3を向けた場合でも、隔壁39で分離された複数の密閉室13A,13Bによって、容器15の内部で蒸気や作動液を円滑に輸送できる。したがって、受熱部35で作動液が無くなることはなく、ここで作動液が熱源Hからの熱を奪って蒸気となり、その蒸気が蒸気通路20を伝わり毛細管力で再び放熱部36に導かれることで、シート型ヒートパイプ3としての本来の性能が発揮される。また、隔壁39を介して密閉室13A,13Bどうしが一つの容器15として熱接続されるので、隔壁39があってもシート型ヒートパイプ3全体として、熱的な損失を生じないようにすることができる。
以上のように、本実施例のシート型ヒートパイプ3は、第1実施例で説明した特徴に加えて、複数の蒸気通路20と複数のウィック22を分離する隔壁39を、各シート体11,12に設けており、隔壁39によって容器15の内部に複数の隔離した密閉室13A,13Bが形成され、作動液が真空状態で封入される各密閉室13A,13Bに、分離した蒸気通路20とウィック22がそれぞれ配設される構成となっている。
この場合、容器15の内部において、蒸気通路20を通して運ばれる蒸気の経路や、ウィック22を通して運ばれる作動液の経路を、隔壁39で遮断して短くすることで、例えば放熱部36よりも受熱部35が高い位置にあるトップヒート姿勢にシート型ヒートパイプ3を向けた場合でも、隔壁39で分離された複数の密閉室13A,13Bで蒸気や作動液を円滑に輸送できる。また、隔壁39を介して密閉室13A,13Bどうしが一つの容器15として熱接続されるので、隔壁39を設けていながら熱的な損失は生じない。したがって、シート型ヒートパイプ3として、6方向の全ての姿勢で良好な熱拡散が発揮できる。
また本実施例では、隔壁39により分離され、蒸気通路20およびウィック22が配置された密閉室13A,13Bのそれぞれに、注液と脱気を行なうための注液ノズル17を設けている。
この場合、隔壁39で分離された密閉室13A,13B毎に、それぞれの注液ノズル17を利用して作動液の注入と脱気を簡単に行なうことができる。
図13〜図15は、本発明の第4実施例におけるシート型ヒートパイプ4を示している。これらの各図において、図13や図14に示す完成状態のシート型ヒートパイプ4は、ハーフエッチング加工により、シート体11,12の内表面に、上記各実施例で示したような蒸気通路20とウィック22を形成する一方で、こうした蒸気通路20やウィック22とは異なるパターン形状で、シート体11,12の外表面に凸状のフィン41,42をそれぞれ形成している。フィン41,42は、外気に触れるシート体11,12の外表面形状を増やすためのもので、熱源Hが設置される領域を除いて、シート体11,12の外表面のほぼ全域に形成される。
図15は、図13に示すシート型ヒートパイプ4のC−C線断面図である。本実施例では、蒸気通路20やウィック22を設けた容器15内部の密閉室13と重なり合うように、フィン41,42が配置される。つまり、容器15の外表面に形成されるフィン41,42は、密閉室13と外気との間に介在する構成となっている。その他の構成は、上記各実施例で説明した通りである。
図13に示す完成後のシート型ヒートパイプ4は、熱源Hが容器15の外表面に設置されることで、自ずと受熱部35と放熱部36が形成される。容器15内部における蒸気通路20やウィック22による作用は、第1実施例で説明した通りであるが、容器15の外表面のフィン41,42を設けていない平坦な領域に、熱源Hを密着させることで、熱源Hから容器15への良好な熱伝達を実現できる。また、容器15の外表面には放熱用のフィン41,42が設けられているので、熱源Hからシート型ヒートパイプ4の受熱部36に伝達した熱を放熱部35に輸送する際に、フィン41,42と外気との熱交換が効果的に行われる。そのため、シート型ヒートパイプ4としての冷却性能をさらに高めることができる。
このように、本実施例のシート型ヒートパイプ4では、シート体11,12の外表面にフィン41、42をそれぞれ形成する一方で、シート体11,12の内表面に蒸気通路20とウィック22をそれぞれ形成している。
この場合、蒸気通路20やウィック22の他に、放熱のためのフィン41,42をシート体11,12に形成することで、外気に触れるシート体11,12の外表面形状を大きく確保して、冷却性能を最大限に高めることができる。
また本実施例のシート型ヒートパイプ4は、熱源Hが設置される領域を除いて、シート体11,12の外表面のほぼ全域にフィン41,42を形成している。
この場合、熱源Hが設置される領域にはフィン41,42を形成しないようにして、熱源Hとシート体11,12の外表面との密着性を確保しつつ、それ以外の領域ではフィン41,42を利用して外気との熱交換を効果的に行なうことで、シート型ヒートパイプ4の冷却性能をさらに高めることができる。
なお本実施例では、シート体11,12のそれぞれにフィン41,42を形成しているが、どちらか一方のフィン41,42だけを形成してもよい。また、フィン41,42の形状やパターンは、本実施例で図示したものに限らず、上述のような作用効果が得られれば、種々変更が可能である。
図16〜図18は、本発明の第4実施例におけるシート型ヒートパイプ5を示している。これらの各図において、図16や図17に示す完成状態のシート型ヒートパイプ5は、ハーフエッチング加工により、シート体11,12の内表面に、上記各実施例で示したような蒸気通路20とウィック22を形成する一方で、こうした蒸気通路20やウィック22とは異なるパターン形状で、シート体11,12の外表面に凸状のフィン43,44をそれぞれ形成している。フィン43,44は、外気に触れるシート体11,12の外表面形状を増やすためのもので、熱源Hが設置される領域と、容器15内部の密閉室13が形成される領域を除いて、シート体11,12の外表面の長手方向に沿って形成される。
図18は、図16に示すシート型ヒートパイプ5のD−D線断面図である。本実施例では、蒸気通路20やウィック22を設けた容器15内部の密閉室13と重ならずに並設させるように、フィン43,44が配置される。したがって本実施例では、蒸気通路20やウィック22とフィン43,44を別々の位置に並べて形成しており、その分、シート型ヒートパイプ5の厚さを薄くできる。その他の構成は、上記各実施例で説明した通りである。
図16に示す完成後のシート型ヒートパイプ5は、熱源Hが容器15の外表面に設置されることで、自ずと受熱部35と放熱部36が形成される。容器15内部における蒸気通路20やウィック22による作用は、第1実施例で説明した通りであるが、ここでも容器15の外表面のフィン43,44を設けていない平坦な領域に、熱源Hを密着させることで、熱源Hから容器15への良好な熱伝達を実現できる。また、熱源Hからシート型ヒートパイプ4の受熱部36に伝達した熱を放熱部35に輸送する際に、フィン43,44と外気との熱交換が効果的に行われ、シート型ヒートパイプ5としての冷却性能をさらに高めることができる。
このように、本実施例のシート型ヒートパイプ5も、シート体11,12の外表面にフィン43、44をそれぞれ形成する一方で、シート体11,12の内表面に蒸気通路20とウィック22をそれぞれ形成しているので、外気に触れるシート体11,12の外表面形状を大きく確保して、冷却性能を最大限に高めることができる。
しかも、本実施例のシート型ヒートパイプ5では、蒸気通路20やウィック22を形成した密閉室13の領域を除く部分で、シート体11,12の外表面にフィン43,44を形成している。
この場合、蒸気通路20やウィック22を形成した密閉室13と、放熱のためのフィン43,44とを別々の位置に形成できるので、シート体11,12の外表面に凸状のフィン43,44を形成しつつも、シート型ヒートパイプ5としての厚みを極力薄くできる。
なお本実施例では、シート体11,12のそれぞれにフィン43,44を形成しているが、どちらか一方のフィン43,44だけを形成してもよい。また、フィン43,44の形状やパターンは、本実施例で図示したものに限らず、上述のような作用効果が得られれば、種々変更が可能である。
図8,図10および図19は、本発明の第6実施例におけるシート型ヒートパイプ6を示している。図8に示す完成状態のシート型ヒートパイプ6は、第2実施例のシート型ヒートパイプ2と全く同一形状であるため、ここでは容器15の内部構成について、シート型ヒートパイプ2との相違点を説明する。なお、第1シート体11は第2シート体12と同形状である。
本実施例では、密閉された容器15の内部において、シート体11,12の長手方向に沿って複数並んで形成された凹状の第1通路部21Aと、それぞれの第1通路部21Aを横切って、複数の第1通路部21Aと連通して形成された二つの凹状の第2通路部21Bが、蒸気通路20として構成される。つまり第2通路部21Bは、注液ノズル17の近傍側だけでなく、注液ノズル17から最も離れた側にも設けられている。またここでは、第2実施例のような隔壁38は存在しないが、隔壁38を設けた構成としてもよい。その他の構成は、第2実施例のシート型ヒートパイプ2と共通している。
本実施例でも、シート体11,12の片側面を向い合せて積み重ねることで、中空筒状の第1蒸気通路20Aと第2蒸気通路20Bが形成される。このとき容器15の内部には、第1蒸気通路20Aと第2蒸気通路20Bとによる蒸気通路20が配設され、シート型ヒートパイプ1の長手方向に沿って複数形成された第1蒸気通路20Aの両端が、容器15の外周部側に位置する第2蒸気通路20Bとそれぞれ連通する。
前述のように、本実施例では2枚のシート体11,12を重ね合わせて容器15を形成し、その容器15に備えた注液ノズル17を利用して作動液の注入と脱気を行なった後、注液ノズル17を閉塞して、容器15内部の密閉室13に作動液を真空状態で密封したシート型ヒートパイプ6を製造する。
完成後のシート型ヒートパイプ6は、図8に示すような熱源Hが容器15の外表面に設置されることで、自ずと受熱部35と放熱部36が形成される。容器15内部における蒸気通路20やウィック22による作用は、第1実施例で説明した通りであるが、容器15の長手方向に沿って、第1蒸気通路20Aを通して蒸気がどの方向に運ばれたとしても、それらの蒸気は容器15の外周側において、第1蒸気通路20Aと連通する第2蒸気通路20Bによって、互いに往来できるようになっている。また、特に本実施例の蒸気通路20は、容器15の外周部に沿って周回して連通するように設けられているので、蒸気通路20を通過する蒸気が、容器15の外周部に沿って途中で留まることなく往来できるように工夫されている。その結果、容器15の内部で凝縮した作動液が局部的に集まることはなく、作動液が広く分散して、容器15が膨れるなどの問題を一掃できる。
以上のように、本実施例のシート型ヒートパイプ6は、上述した各実施例の特徴に加えて、複数の並設された第1蒸気通路20Aと、容器15の外周部側に位置して、複数の第1蒸気通路20Aに連通する第2蒸気通路20Bとにより、容器15の内部で蒸気通路20を構成している。
この場合、各々の第1蒸気通路20Aを通過する蒸気が、容器15の外周部側で第2蒸気通路20Bを通して互いに往来できるようになるため、容器15の内部で凝縮した作動液が局部的に集まるような弊害を回避して、容器15が膨れるなどの問題を一掃できる。
また、本実施例のシート型ヒートパイプ6は、容器15の外周部に沿って周回して連通するように、蒸気通路20が設けられている。そのため、蒸気通路20を通過する蒸気が、容器15の外周部に沿って途中で留まることなく往来できるようになるため、凝縮した作動液が局部的に集まる弊害を回避して、容器15が膨れるなどの問題を一掃できる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。例えば、上記実施例ではシート体11,12を拡散接合しているが、例えば超音波接合などの別な接合方式を採用してもよく、シート体11,12を3枚以上重ね合わせて接合してもよい。また、上述した各部の形状や寸法はあくまでも一例で、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、またシート体11,12をあえて同形状にする必要もない。さらに、上記各実施例で説明した各部の特徴を適宜組み合わせたシート型ヒートパイプとしてもよい。