JP6052888B2 - リチウムイオン電池の負極シートの銅箔表面からのカーボンの剥離方法、およびこれに用いる剥離剤 - Google Patents

リチウムイオン電池の負極シートの銅箔表面からのカーボンの剥離方法、およびこれに用いる剥離剤 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン電池の負極シートの銅箔表面から活物質のカーボンを剥離し、純度の高い銅箔とカーボンとにそれぞれ分離・回収しうることを容易とする、銅リサイクル時のエネルギーコストおよび経済的コストを大幅に改善することのできる、銅箔表面からのカーボンの剥離剤および剥離方法に関する。
リチウムイオン電池の負極材である負極シートには、一般に、銅箔が用いられており、さらにこの銅箔の表面には活物質として30〜70質量パーセントのカーボングラファイト(以下「カーボン」という。)が付着されている。そこで、使用後のリチウムイオン電池の負極シートから、有価な銅を回収しようとする場合には、銅箔表面に強固に付着しているカーボンを分離する処理が必要となる。
銅箔表面からカーボンを除去するには、たとえば、表面にカーボンを付着させた銅箔は、粉砕後に、溶鉱炉で銅を溶かすことで、粗銅として回収する方法がある。もっとも、溶鉱炉で処理するにも、融点が高い銅については、高温まで加熱しなければならないのでアルミ等の融点の低い金属とは異なり、非常に大きなエネルギーが必要となる。また、溶融設備としても高温に耐える炉であることが求められ、さらに、粗銅を得る際にはスラグとなるカーボン等が大量に発生するので、これを大量に除去しなければならない。
また、もともと溶融前の銅箔は高純度な銅であったものの、溶融後に得られる粗銅はその純度が低く、これをさらに高めるためには、酸素等の不純物を取り除く精錬工程が必要となるので、溶融に引き続き高純度化のために電解精錬をしなければならない。このように、精錬後の高純度の銅と粗銅とでは、その特性もさることながら、取引価格にも精錬工程の分が加味されるため、高純度の銅は取引価格が粗銅に比べて格段に高いものとなっている。
ところが、一般的な鉄屑スクラップとは異なる事情があり、負極シートの銅箔材料を電炉で溶かすことは容易ではない。一般に電炉は、電気抵抗による発熱を主要熱源としている。ところが、電極に用いる純度の高い銅箔の電気抵抗は低く、さらに周囲に電気伝導度の極めて高いカーボンが付着していることから、大電流でも抵抗熱が生じにくく発熱量が小さいので、容易には銅が溶融していかないからである。そこで、電炉で溶融処理する場合には、予め銅箔表面からカーボンを削り取るといった前処理工程を特に加えてから、電炉に投入するといった、さらに余分な工程を経ることが強いられている状況にある。
また、先述のように溶錬により銅を回収する場合においても、リチウムイオン電池の負極シートの銅箔とカーボンとの接着に用いられるバインダーから、有毒なフッ素を含むガスが発生することも考えられる。そこで、環境負荷の観点からは、安易に融かすことは好ましいとはいえない。
そこで、溶融以外の分離方法として、たとえば、リチウムイオン電池の負極中の銅箔を、次のような工程を経て酸化させて酸化銅を得た後、これを硫酸水溶液に溶かして回収後に分離するといった方法が開示されている。(たとえば特許文献1参照。)
この従来方法では、まず銅回収の前段階として、リチウムイオン電池を電解質が含まれる水溶液中に浸漬、放電をすることで電池としての機能を破壊した後、切断し、アルミニウムおよびステンレス筐体および電極端子を除去したうえで、正極材および負極材およびセパレータを含む混合体を水浸漬により電解液および有機接合材を除去する。その後数工程を経て、分離した固形物を回転式の分離装置により、硫酸水溶液に溶解させ、さらに過酸化水素水溶液を添加しながら浸出させる。すると回転式の分離装置のアンダーサイズ側に正極材中に含まれるマンガン、コバルト、ニッケル、グラファイトが水溶液として溶出される。
また、負極材中に含まれる銅については、エアレーション酸化により酸化銅の形態にして硫酸水溶液中に浸出させる。さらにこれらを濾過後、マンガン、コバルト、ニッケル、銅を含有する水溶液とグラファイトを主成分とする浸出残渣とに分離し、回転式の分離装置のオーバーサイズ側に樹脂類を回収するといった手順により、金属を回収する方法である。
しかしながら、特許文献1の記載の回収方法は、負極材から銅箔を直接剥離し、剥離した銅箔を回収するといったものとは異なり、改めて精製が必要となる。また、水溶液に金属を溶出させるので、水溶液は毎回使用後に廃棄処分されなければならず、金属の溶融した廃棄量が大きく、廃液処理の負荷も大きくなってしまうものであった。
特開2010−277868号公報
本発明が解決しようとする課題は、(1)剥離剤の溶液中にリチウムイオン電池の負極シート材を浸漬することで、溶融させることなく簡便に銅箔と銅箔表面のカーボンとを剥離しうること、(2)改めて精錬等を要することなしに固体のままに純度の高い銅箔を得ることができ、銅箔とカーボンとを分離し、銅箔とカーボンのいずれも再利用可能に回収しうること、(3)剥離液を繰り返し使用しうることで、剥離、分離、回収、廃棄処理による環境負荷を低減し、コストを大幅に改善することである。そこで、本発明は負極シート材からの銅箔とカーボンとの剥離を簡易に実現する方法を提供すること、銅箔とカーボンの双方を簡易に分離、回収する方法を提供すること、およびこれらに用いる剥離剤を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するための本発明の第1の手段は、銅箔表面にカーボンが付着されているリチウムイオン電池用負極シート材を、水酸化物と界面活性成分を含む水溶液の入った剥離槽に浸漬することで、該負極シート材の銅箔表面から付着しているカーボンを剥離させ、銅箔とカーボンとを分離・回収可能としたことを特徴とする銅箔表面上のカーボンの剥離方法である。
本発明の第2の手段は、銅箔表面にカーボンが付着されているリチウムイオン電池用負極シート材を、水酸化物と界面活性成分を含む液温20℃以上90℃未満の水溶液の入った剥離槽に浸漬し、攪拌しながら該負極シート材の銅箔表面から付着しているカーボンを剥離させ、銅箔とカーボンを分離・回収可能とすることを特徴とする銅箔表面上のカーボンの剥離方法である。
本発明の第3の手段は、前記水溶液中の界面活性成分は、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性系界面活性剤のいずれかの系よ選択される少なくとも1種以上の界面活性剤を有効成分として含有することを特徴とする本発明第1または第2の手段に記載の銅箔表面上のカーボンの剥離方法である。
本発明の第4の手段は、前記水溶液中の界面活性成分が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルもしくはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであることを特徴とする本発明第1または第2の手段のいずれかに記載の銅箔表面上のカーボンの剥離方法である。
本発明の第5の手段は、前記水溶液中の水酸化物は、少なくとも水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムのいずれか1種以上の水酸化物を含有することを特徴とする、本発明第1から第4のいずれかの手段に記載の銅箔表面上のカーボンの剥離方法である。
本発明の第6の手段は、前記水溶液中の水酸化物は、さらに少なくともリン酸塩またはケイ酸塩のいずれかまたは双方を含有することを特徴とする、本発明第1から第5のいずれかの手段に記載の銅箔表面上のカーボンの剥離方法である。
本発明の第7の手段は、前記本発明第1から第6のいずれか1の手段に記載の水溶液の入った剥離槽に銅箔表面にカーボンが付着されているリチウムイオン電池用負極シート材を浸漬後、取り出した前記シート材を洗浄槽にて水洗し、乾燥させて銅箔を回収し、他方、剥離槽の水溶液中および洗浄槽の洗浄水中に分散するカーボンを濾過後に乾燥させてカーボン粉体を回収する、銅箔とカーボンとに分離・回収する銅箔とカーボンのリサイクル方法である。
本発明の第8の手段は、水酸化物と界面活性成分を含む水溶液からなる、リチウムイオン電池用負極シート材の銅箔表面に付着するカーボンの剥離剤である。
本発明の第9の手段は、前記界面活性成分が、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性系界面活性剤のいずれかの系よ選択される少なくとも1種以上の界面活性剤であることを特徴とする本発明第8の手段に記載のリチウムイオン電池用負極シート材の銅箔表面に付着するカーボンの剥離剤である。
本発明の第10の手段は、前記界面活性成分が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルもしくはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであることを特徴とする本発明の第8の手段に記載のリチウムイオン電池用負極シート材の銅箔表面に付着するカーボンの剥離剤である。
本発明の第11の手段は、前記水酸化物は、少なくとも水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムのいずれか1種以上の水酸化物を含有することを特徴とする、本発明の第8もしくは第9のいずれかの手段に記載のリチウムイオン電池用負極シート材の銅箔表面に付着するカーボンの剥離剤である。
本発明の第12の手段は、前記水溶液中の水酸化物は、さらに少なくともリン酸塩またはケイ酸塩のいずれかまたは双方を含有することを特徴とする、本発明の第8から第11のいずれかの手段に記載の銅箔表面上のリチウムイオン電池用負極シート材の銅箔表面に付着するカーボンの剥離剤である。
前記の水酸化物は、水溶液に可溶なものとする。たとえば、本発明においては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムのいずれかであることが好適である。
前記の界面活性成分としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性系界面活性剤が好適な成分として挙げられる。これらいずれかの系より選択される少なくとも1種の界面活性剤を含有するものとする。なお、本剥離剤は水酸化物の水溶液との混合物であることから、その溶解平衡との関係で、アニオン系界面活性剤は必ずしも好適とはいえないことがある。
前記のカチオン系界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられる。
前記のノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。
なお、ポリオキシアルキルエーテルは、ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテルであって、アルキル基の炭素数が12から15までのもの及びその混合物である。また、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、ポリ(オキシエチレン)=ノニルフェニルエーテル、ポリ(オキシエチレン)=オクチフェニルエーテルがある。
前記の両性系界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノオキサイド、オレインジメチルアミノオキサイドのアミンオキシド系、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸系 、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン系が挙げられる。
ところで、ポリ(オキシエチレン)=ノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルは、親水基のポリオキシエチレン鎖は生分解が容易であるが、疎水基(アルキルフェノール)の生分解速度が遅いことから、内分泌攪乱作用をもたらすおそれを懸念する向きもある。もっとも、本発明の剥離液は金属を溶出させることを目的としておらず、剥離液中に銅箔やカーボンを溶出させることは意図していない。本発明では、浸漬後の剥離液に懸濁した粉末状のカーボンを濾過分離すれば、また、洗浄液といっしょに回収されるカーボン粉末を濾過することで、剥離後の銅箔とカーボン粉末をそれぞれ、容易に分別回収できる。そこで、分離した剥離液は適宜消泡することで、繰り返し使用できる点に優れた特徴があり、毎回の廃棄は必要とされない。また、洗浄液も濾過後の界面活性成分を活性炭で除去するなどしてから廃棄がしうる。この点では、剥離液に金属等をすべて溶解させて処理後の廃液を廃棄処理していた従前の方法と比して、実用上の環境負荷は極めて低いものであるから、有用性の高い剥離液であり、剥離方法である。
本発明の剥離液に浸漬することにより、リチウムイオン電池の負極シートの銅箔表面から、溶融させることなく、カーボンを容易に剥離することができる。これにより純度の高い銅箔を固体のままに回収できるので、リサイクルが非常に容易となる。また剥離したカーボンを剥離液や洗浄液から回収することができるので、再利用や再使用しやすい状態で銅箔とカーボンの双方を分離・回収することができる。
また、本発明に用いる剥離剤は、同箔から剥離したカーボンを回収して剥離剤から分離・除去すれば、溶液の補充をすることで連続的に繰り返し使用できるので、剥離剤を新規に更新する交換作業が要請されず、剥離液に金属等を溶出させて回収する場合に比して廃液の発生量が格段に少ない。また本発明にかかる剥離剤は基本的な毒性が低く環境負荷が低いので取り扱いも容易であり、使用後の廃液処理も困難性が低い。
さらに、本発明で用いることのできる界面活性成分(B)のうち、特にポリオキシアルキルフェニルエーテルは、原料として安価であり、入手容易な界面活性剤であるところ、攪拌工程を特段経ずとも、浸漬および洗浄工程のみを経るだけで、リチウムイオン電池の負極シートの銅箔表面から、活物質のカーボンを容易に剥離することができるなど、本発明によって新たな用途を導き出したものである。そして、剥離液を廃棄処理せずに繰り返し使用できることから、実用上の環境負荷が小さいものであって、有用性が高いものである。
分離回収後のカーボン粉末のSEM画像である(600倍)。 分離回収後ノカーボン粉末のSEM画像である(3000倍)。
本発明のリチウムイオン電池の負極シートの銅箔表面から活物質のカーボンを剥離する剥離剤とその剥離方法、およびその剥離剤を用いて剥離した後、純度の高い銅箔およびカーボンを分別回収する方法について、それらを実施するための形態を、順に説明する。もちろん、本発明の剥離剤はこれらの実施例の例示成分のみに限定されるものではない。
本発明に用いるリチウムイオン電池の負極シートの銅箔表面からカーボンを剥離剤について、以下の表1および表2に示すA液成分とB液成分と、さらに水で希釈混合して得られるアルカリ性の溶液を例に説明する。なお、A液、B液に分けて調整するのは、あくまで保管や使用前の取り扱いの便宜のためであるにすぎず、A液B液の両成分を一度に水と希釈混合して本発明の剥離液として用いてもよい。なお、B液の界面活性成分を希釈していくには、界面活性成分に水等を徐々に足していきながら混合するとよい。
使用時にAおよびB液の2液を混合調整することが好適なのは、2液を混合したまま長期に保存していると分離することを避けるためである。分離しても攪拌混合して用いることはできるが、消泡しながら剥離液の大容量で攪拌することは労力がいるので、使用直前に調整して作製するほうが簡便といえる。なお、剥離液は、A液B液を各10質量%ずつを徐々に水と混合してエマルジョン化させることで、剥離液としての能力を維持しつつ洗浄性に優れる濃度まで希釈され、安定的に使用しうるものとなる。もちろん、A液B液を混合して、希釈せずに濃い成分のままで用いても剥離は十分に可能であるが、洗浄時の手間が増すので、A液B液を水で希釈混合した溶液を剥離液として用いることが好ましい。
(表A)
(A液)
成分名 / 含有量(mass%)
水酸化カリウム: 1.0〜 5.0
リン酸塩: 5.0〜10.0
ケイ酸塩: 5.0〜10.0
多価アルコール: 1.0以下
水: 残部
(表B)
(B液)
成分名 / 含有量(mass%)
ポリ(オキシエチレン)=ノニルフェニルエーテル: 8.0
水:92.0
ここで、水酸化カリウムは剥離液をアルカリ溶液とするものである。リン酸塩は、溶液に剥離性を持たせ、またビルダーとしての効果がある。ケイ酸塩は、キレート効果があり、銅の腐食を防ぐ役割を果たしている。水は、希釈剤である。
また、上記A液における水酸化カリウムに代えて、水酸化ナトリウムや水酸化リチウムなどの水酸化物を用いてもよい。リン酸塩としては、例えば、二リン酸塩等が挙げられる。ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸カリウム等が挙げられる。なお、多価アルコールとしては、例えばグリコールエーテル類等が挙げられる。A液には多価アルコールを含んだものが例示してあるが、必須成分ではない。
B液の界面活性成分は、負極の銅箔とカーボンとを接着する役割を果たしている疎水性化合物のバインダーへの浸透を容易とするので、A液成分と相俟って剥離が迅速に進んでいくこととなる。A液とB液成分を混合することで、攪拌や長時間の浸漬、高温での処理といった条件を特に必須とすることなく、簡易に剥離しうる溶液とすることができる。
B液における界面活性剤の種類としては、表2においてはポリ(オキシエチレン)=ノニルフェニルエーテルを例示しているが、特に限定されるわけではなく、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性系界面活性剤等の界面活性剤を使用することができる。本剥離剤は水酸化物の水溶液との混合物であることから、その溶解平衡との関係で、アニオン系界面活性剤は必ずしも好適とはいえない。
上記剥離液の作製(混合)および剥離作業の温度は、20℃以上であることが好ましい。本件実施例の剥離液に、負極シート材を浸漬させると、剥離液の液温が20℃以上であれば、5〜15分程度で剥離液に浸漬するだけで十分に剥離していくが、さらに、攪拌することで緩やかな流速を与えると、より剥離が促進され、処理時間を短くすることができる。
そして、実用的な観点からは、浸漬時間の短縮のうえでは、50℃以上が好適であり、望ましくは60℃〜80℃である。数分以内に特段の攪拌を要せずとも実用的な剥離状態が得られるからである。剥離時間の短縮化からは、剥離槽内での処理温度は50℃以上に高めることが望ましいが、あまり高すぎると、剥離液が蒸発しやすくなったり、剥離液の液温維持にコスト等がかかることとなる。また、80℃〜90℃以上の高温下で混合を行う場合も、B液成分が塩析してしまうことがあるので好ましくない。ただし高温下で混合を行った場合でも、混合液を冷却することでB液成分の塩折状態は解消されるので、繰り返し使用することはできる。
なお、20℃以下の低温下で上記AおよびB液の希釈混合を行うのは作業時間上あまり好ましくない。温度と2液が混合に要する時間とは比例関係にあるので、あまりに低温であると混合に長時間を要するからである。
さらに、本発明の実施の形態における、リチウムイオン電池の負極シートの銅箔表面から活物質のカーボンを剥離する方法の一連の工程を以下に説明する。大まかには、負極シートの剥離剤への浸漬、水洗・洗浄で銅箔からカーボンを剥離し、拭き取り・乾燥の工程を経て銅箔を、洗浄液から濾過した後これを乾燥させることでカーボンを得て、銅箔とカーボンそれぞれを分離回収する。
(剥離剤調整手順)
剥離剤の標準使用濃度は、A液100Kg、B液100Kgに温水を加えて1000Lとなるように5倍に希釈した濃度とする。もっとも、剥離剤の濃度は、銅箔表面に付着しているカーボンの状態、量に応じて、適宜調整することができる。剥離槽に液を投入してゆっくりと攪拌して全体が均一な液となるように調整する。その際、たとえば遊離アルカリ度を8〜12ポイント程度に調整し、処理温度を60〜80℃程度とする。
(遊離アルカリ度の測定法について)
ここで、上記カーボン剥離剤10mlを正確にピペットで三角フラスコに採取し、指示薬フェノールフタレイン数滴を加え、0.1mol/L塩酸試験液で滴定し、カーボン剥離剤が赤色から無色に変わるまでに要した0.1mol/L塩酸試験液のml数をポイントといい、カーボン剥離剤の遊離アルカリ度を表す。
剥離処理を繰り返し継続していくと、一部、各成分が費消されたり蒸発したりすることから、適宜濃度測定を行い、不足分を補給調整して、良好な濃度の剥離剤を維持するとよい。A液およびB液の補給量は下記式にて算出することができる。また、ポイント条件を満たしていても、ある程度繰り返し使用した後、適宜剥離液を交換することで、剥離能力が十分に維持される。
A液補給量(kg)=10×(Po−P)×V
Po:標準濃度
P :測定濃度
V :カーボン剥離剤量(m3
なお、B液補給量は、A液と同量とする。
(浸漬工程)
リチウムイオン電池から取り出された負極シート(そのままでも、予め適宜の大きさに裁断しておいてもよい。)をメッシュ籠に入れ、本発明の剥離液(たとえば液温を60℃とする。)の溶液を入れた円筒の容器に浸漬する。その際、3〜15分間静置すると、剥離液が浸透し、カーボンが銅箔表面から浮くようにめくれあがって剥がれる。もちろん、浸漬時に静置するのみならず、ゆっくりと籠を動かして攪拌するよう剥離液を流動させてもよい。攪拌しないでも、浮き上がるようにして十分に剥がせるが、さらに攪拌するとより短時間で剥離が完了する。円筒容器から籠を引き上げると、銅箔表面からカーボンがめくれた状態で銅箔が引き上がるので、一部のカーボンは剥離液中に落下するが、多くは浮き上がった状態のまま銅箔とともに引き上げられる。剥離されたカーボンの層が厚い場合は、剥離液に砕けてブロック状または粉状となって沈殿する。
(水洗工程)
銅箔を水洗槽に移し、銅箔表面に残留する剥離液成分を水に浸漬して洗浄する。一緒に引き上げられたカーボンは、表面に軽く付着しているだけなので、このとき、銅箔から容易に脱離できる。たとえば、30秒間緩やかに攪拌しながら洗浄する工程を2度繰り返す。水洗後の銅箔表面が十分に洗浄されているかは、以下のように確認することができる。剥離液と水洗液における遊離アルカリ度を測定し、それらの値から希釈率、すなわち洗浄率が求まる。剥離液における遊離アルカリ度が8.2ポイント以下であれば、アルカリ成分が十分に除去されているといえる。水洗時に、表面に軽く付着していたカーボンが砕けて剥離することで、きれいな銅箔が得られることとなる。
なお、必要に応じて、適宜、超音波によるキャビテーション等の振動による衝撃を付与せしめて、表面にカーボン残渣がある場合はそれを除去せしめるとともに、銅箔表面のアルカリ成分の除去をせしめてもよい。本発明は、超音波洗浄をせずとも十分に効果を発揮しうほどに十分なカーボン剥離能力を有しているので、銅箔の表面のアルカリ成分をより速やかに洗浄するといった目的で、適宜用いる程度である。
(4)ふき取りおよび乾燥工程
上記工程後、適宜、銅箔表面をふき取り、乾燥することで、より素早く最終的な銅箔を得ることができる。洗浄液から引き上げて放置しても、自然乾燥でも清浄な銅箔は得られる。銅箔表面は、キレート剤成分の効果もあり、清浄な金属光沢を保持しており、銅箔の固体のままに回収されるので、もともとの銅箔としての99%以上の純度はそのままに維持している。
(水洗水の濾過およびカーボンの分離)
水洗水中にスラッジとなっているカーボンを分離回収は、水洗水を濾過することで行う。なお、濾液が泡立つ場合がありえるが、泡立ちが確認された場合には、適宜活性炭を添加することで消泡し、つつ水洗水から界面活性剤の除去を行う。
具体的な手順として、漏斗(ブラナー)に濾紙をセットし、吸引ポンプを作動させて吸引ビン内を負圧状態に保ち、濾過対象の水洗水をブフナーに注ぎ込んで吸引濾過を実施する。このように吸引工程を経ることで、水洗水からカーボンを手早く除去することができる。同様に、剥離液側で脱離したカーボンも、剥離液が汚れてきた段階で適宜濾過し、乾燥させることでカーボンを分離回収する。
得られたカーボンは、濾過、乾燥に加えてさらに高温でか焼してバインダー等の残留不純物成分を除去することで、純度の高いカーボン粉末として分離回収することができる。得られたカーボンの粒度分布及び比表面積、真比重を測定し、また走査電子顕微鏡で微細な表面構造を観察した。粒度分布は、島津性レーザ回折式粒度分布測定装置SALD−2000を用いた。比妙面積は、日本ベル社性のBelsorp−miniを用いた。SEM画像は日立製のS−3000Nを用いた。
分離回収後、か焼したカーボン粉末は、平均粒度がメディアン径で12μmであった。また、比表面積は16m2/gであり、ピクノメーターによる真比重は2.30であった。図1、図2に、か焼処理後のカーボン粉末のSEM画像を示す。倍率は図1が600倍、図2が3000倍であり、いずれも加圧電圧15kVである。一般的な工業用途に用いられている微小な炭素粉末が回収で得られていることが確認された。
(実施例1)
上記A液およびB液(界面活性成分としてポリ(オキシエチレン)=ノニルフェニルエーテルを含有)を5倍希釈で水に溶解させ、遊離アルカリ度を8〜12ポイント、温度を60℃に調整した剥離液とし、剥離槽に投入する。リチウムイオン電池を分解して負極シート材を取り出し、これをメッシュ籠に入れ、後約5分間、剥離槽に浸漬させた。その後引き上げて水洗槽に移動して、適宜攪拌しながら、銅箔からカーボンを十分に剥離した。
剥離性評価は、A+であった。上記の剥離液に浸漬したのみで、負極シート材を5分間浸漬しただけで、剥離槽のなかで90%以上の負極シート材の銅箔表面からカーボンが浮き上がるようにして容易に脱離可能なように剥離していることが確認できた。
なお、実施例1の銅箔およびカーボンの剥離工程の後、水洗水を濾過してカーボンの回収を行った。なお、濾過フィルターは、濾過面積0.0038m2のNo.5Cを使用した。濾過の結果、フィルターの閉塞はなく、濾過は良好にできた。なお、濾液の泡立ちがみられたので、活性炭で消泡した。濾紙表面から、数mm厚の堆積物(脱水ケーク)が容易に分離回収できた。
表1に、成分や組成比を変更しつつ剥離性を評価した結果を、本発明の実施例として示す。実施例1と同様な手順で約5分間、銅箔を浸漬させ、その後水洗しながら銅箔およびカーボンを剥離を試みたものである。
なお、各界面活性剤における銅箔の剥離状態について、以下のようにA+からCで評価した。
A+:優(浸漬のみで90%以上剥離されており、攪拌を要せずとも、水洗で十分に剥離できたもの)
A :良(浸漬のみで80%剥離され、洗浄工程で十分に残留カーボンを剥離できたもの)
A−:やや良(浸漬のみでは十分な剥離は得られなかったが、洗浄工程で手でめくるなどして残留カーボンが剥離できたもの)
B :可 (浸漬、攪拌では剥離は十分に進まず、洗浄後も一部剥離しきらないもの)
C :不可(実用上の剥離状態しか得られなかったもの)
(実施例2)
表1に示すように、多価アルコールを含まないものであるが、剥離性評価はA+であり、優れていた。
(実施例3)
界面活性成分として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(非イオン系界面活性剤)を用いたものである。剥離性評価はAであった。
(実施例4)
界面化成成分として、オクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート(カチオン系界面活性剤)を用いたものである。剥離性評価はAであった。
(実施例5)
界面活性成分として、ラウリルジメチルアミノオキサイド(両性系界面活性剤)を用いたものである。剥離性評価はAであった。
(実施例6)
リン酸塩とケイ酸塩を含まないものである。リン酸塩には剥離効果があるので、実施例1と比較して、やや剥離性が劣り、評価はAであった。
以上の結果、本発明の界面活性成分による剥離液を用いた場合、良好に銅箔表面からカーボンが剥離する様子がいずれも確認された。
(実施例7)
A液の水酸化物、ケイ酸塩、リン酸塩の成分を増やしたものである。剥離性評価はA+であった。
(実施例8)
A液の水酸化物の量を減らしたものである。剥離性評価はA−であり、他の実施例よりもやや劣るが、実用性は得られている。
(比較例1)
上記A液成分を水で10倍に希釈し、実施例1と同じ方法で約5分間、負極シートを浸漬させ、その後水洗しなが銅箔およびカーボンの剥離の様子を観察した。しかし、比較例1の評価はCであり、リチウムイオン電池の負極から銅箔およびカーボンを剥離することはできなかった。
(比較例2)
界面活性成分のポリ(オキシエチレン)=ノニルフェニルエーテルのみの水溶液に約5分間、負極シートを浸漬させ、その後水洗しながら剥離を試みた。しかしながら、比較例2の評価はCであり、リチウムイオン電池の負極から銅箔およびカーボンを十分に剥離することはできず、剥離液としての実用性が得られたなかった。
以上のとおり、本発明の剥離液によれば、安定的に浸漬だけでも剥離ができることから、余計な手間を多くかけることなく銅箔が固体のままに純度を保って回収可能であり、他方、カーボンも分離回収できるなど、両方ともに有効にリユースできる形で分別回収できる。

Claims (12)

  1. 銅箔表面にカーボンが付着されているリチウムイオン電池用負極シート材を、水酸化物と界面活性成分を含む水溶液の入った剥離槽に浸漬することで、該負極シート材の銅箔表面から付着しているカーボンを剥離させ、銅箔とカーボンとを分離・回収可能としたことを特徴とする銅箔表面上のカーボンの剥離方法。
  2. 銅箔表面にカーボンが付着されているリチウムイオン電池用負極シート材を、水酸化物と界面活性成分を含む液温20℃以上90℃未満の水溶液の入った剥離槽に浸漬し、攪拌しながら該負極シート材の銅箔表面から付着しているカーボンを剥離させ、銅箔とカーボンを分離・回収可能とすることを特徴とする銅箔表面上のカーボンの剥離方法。
  3. 前記水溶液中の界面活性成分は、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性系界面活性剤のいずれかの系よ選択される少なくとも1種以上の界面活性剤を有効成分として含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅箔表面上のカーボンの剥離方法。
  4. 前記水溶液中の界面活性成分が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルもしくはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであることを特徴とする請求項1から請求項2のいずれか1項に記載の銅箔表面上のカーボンの剥離方法。
  5. 前記水溶液中の水酸化物は、少なくとも水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムのいずれか1種以上の水酸化物を含有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の銅箔表面上のカーボンの剥離方法。
  6. 前記水溶液中の水酸化物は、さらに少なくともリン酸塩またはケイ酸塩のいずれかまたは双方を含有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の銅箔表面上のカーボンの剥離方法。
  7. 前記請求項1から6のいずれか1項に記載の水溶液の入った剥離槽に銅箔表面にカーボンが付着されているリチウムイオン電池用負極シート材を浸漬後、取り出した前記シート材を洗浄槽にて水洗し、乾燥させて銅箔を回収し、他方、剥離槽の水溶液中および洗浄槽の洗浄水中に分散するカーボンを濾過後に乾燥させてカーボン粉体を回収する、銅箔とカーボンとに分離・回収する銅箔とカーボンのリサイクル方法。
  8. 水酸化物と界面活性成分を含む水溶液からなる、リチウムイオン電池用負極シート材の銅箔表面に付着するカーボンの剥離剤。
  9. 前記界面活性成分が、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性系界面活性剤のいずれかの系よ選択される少なくとも1種以上の界面活性剤であることを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン電池用負極シート材の銅箔表面に付着するカーボンの剥離剤。
  10. 前記界面活性成分が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルもしくはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであることを特徴とする請求項8記載のリチウムイオン電池用負極シート材の銅箔表面に付着するカーボンの剥離剤。
  11. 前記水酸化物は、少なくとも水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムのいずれか1種以上の水酸化物を含有することを特徴とする、請求項8から9のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極シート材の銅箔表面に付着するカーボンの剥離剤。
  12. 前記水溶液中の水酸化物は、さらに少なくともリン酸塩またはケイ酸塩のいずれかまたは双方を含有することを特徴とする、請求項8から11のいずれか1項に記載の銅箔表面上のリチウムイオン電池用負極シート材の銅箔表面に付着するカーボンの剥離剤。
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