以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、「基材」及び「偏光板」とは、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材も含む。
フィルムの面内レターデーションは、別に断らない限り、(nx−ny)×dで表される値である。また、フィルムの厚み方向のレターデーションは、別に断らない限り、{|nx+ny|/2−nz}×dで表される値である。ここで、nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは厚み方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。これらのレターデーションは、測定波長550nmにおいて、市販の位相差測定装置(例えば、王子計測機器社製、「KOBRA−21ADH」、フォトニックラティス社製、「WPA−micro」)あるいはセナルモン法を用いて測定しうる。
また、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、特に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。さらに、ある方向に「沿って」とは、ある方向に「平行に」との意味である。
さらに、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」を意味する。
また、製造ラインにおいて、フィルムの流れ方向は、通常は長尺のフィルムの長手方向及び縦方向と平行である。さらに、通常は長尺のフィルムの幅方向及び横方向とは、フィルム面に平行な方向であって、前記の長手方向又は縦方向に垂直な方向をいう。
[実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム100の巻回体10から、熱可塑性樹脂フィルム100の一部を引き出した様子を模式的に示す斜視図である。通常、熱可塑性樹脂フィルム100の巻回体10は、当該巻回体10の巻取り軸Xを水平方向に平行な状態で保存及び運搬される。したがって、本実施形態においても、巻回体10の巻取り軸Xは水平方向に平行になっているものとする。
図1に示すように、巻回体10は、熱可塑性樹脂フィルム100を、巻き芯110を中心としてロール状に巻き取ったものである。熱可塑性樹脂フィルム100とは、熱可塑性樹脂で形成された層を少なくとも1層備えるフィルムを意味する。熱可塑性樹脂としては、液晶表示装置用のフィルムに用いうる樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂の例を挙げると、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロースエステル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。中でも、液晶表示装置用に使用されるフィルムに求められる機械特性、耐熱性、透明度といった品質をバランス良く満たしている観点から、ポリオレフィン樹脂がより好ましく、脂環式ポリオレフィン樹脂が特に好ましい。
脂環式ポリオレフィン樹脂は、主鎖及び側鎖の片方又は両方に脂環式構造を有する脂環式ポリオレフィン重合体を含む樹脂である。脂環式構造としては、例えば飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられる。中でも、機械強度及び耐熱性の観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、シクロアルカン構造が特に好ましい。
脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。脂環式構造を構成する炭素原子数が前記の範囲に収まる場合に、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性等の特性が高度にバランスされ、好適である。
脂環式ポリオレフィン重合体における、脂環式構造を有する構造単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択してもよく、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合を前記の範囲に収めることにより、熱可塑性樹脂フィルム100の透明性及び耐熱性を良好にできる。
脂環式ポリオレフィン重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系重合体は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
ノルボルネン系重合体としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加重合体、又はそれらの水素化物;等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。ここで(共)重合体とは、重合体及び共重合体のことをいう。
ノルボルネン構造を有する単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えば、アルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
前記の極性基の種類としては、例えば、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン等の環状共役ジエン及びその誘導体;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、及び、ノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、例えば、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の炭素原子数2〜20のα−オレフィン及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエン;などが挙げられる。これらの単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、及び、ノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、例えば、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、例えば、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素添加触媒を混合して、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって、得ることができる。
ノルボルネン系重合体の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系重合体の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このようなノルボルネン系重合体を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる熱可塑性樹脂フィルム100を得ることができる。
脂環式ポリオレフィン重合体の分子量は、使用目的に応じて適宜選定されうる。脂環式ポリオレフィン重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、熱可塑性樹脂フィルム100の機械的強度及び成型加工性が高度にバランスされ、好適である。ここで、前記の重量平均分子量は、溶媒としてシクロヘキサン(試料である重合体が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定した、ポリイソプレン又はポリスチレン換算の値である。
また、脂環式ポリオレフィン重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上、特に好ましくは1.2以上であり、好ましくは10.0以下、より好ましくは4.0以下、特に好ましくは3.5以下である。分子量分布を前記範囲の下限値以上にすることにより、重合体の生産性を高めてコストを下げることができる。また、上限値以下にすることにより、低分子成分の量を抑制して緩和時間の短い成分を減らすことができるので、高温曝露時の配向緩和を低減させることが可能となる。
また、熱可塑性樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した重合体以外に任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の例を挙げると、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、強化剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填剤、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止剤、および抗菌剤などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、任意の成分の量は本発明の効果を損なわない範囲であり、重合体100重量部に対して、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下、特に好ましくは10重量部以下である。また、下限はゼロである。
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されうるものであり、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、また、好ましくは250℃以下である。ガラス転移温度がこのような範囲にある熱可塑性樹脂のフィルムは、高温下での使用における変形及び応力が生じ難く、耐久性に優れる。
熱可塑性樹脂の光弾性係数Cの絶対値は、10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。ここで光弾性係数Cとは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、「C=Δn/σ」で表される値である。熱可塑性樹脂の光弾性係数Cの絶対値を前記の範囲に収めることにより、熱可塑性樹脂フィルム100の面内レターデーションのバラツキを小さくできる。
熱可塑性樹脂フィルム100は、1層のみを備える単層構造のフィルムであってもよく、2層以上の層を備える複層構造のフィルムであってもよい。熱可塑性樹脂フィルム100が複層構造を有する場合、当該熱可塑性樹脂フィルム100は熱可塑性樹脂の層のみを有していてもよく、熱可塑性樹脂の層と熱可塑性樹脂以外の材料の層とを組み合わせて有していてもよい。
例えば、熱可塑性樹脂フィルム100は、基材となる熱可塑性樹脂の層の片面又は両面に、易滑性、易接着性、帯電防止性等の特性の付与を目的としたコート層を備える複層構造のフィルムとしてもよい。この場合、コート層の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂、反応型樹脂及びこれらの混合物等を用いうる。好ましい材料の具体例を挙げると、アクリル系重合体、ウレタン系重合体、エーテル系重合体、並びにこれらの各種重合体のカルボキシル基、アミノ基、メチロール基等の官能基変性重合体;ポリビニルアルコール系重合体又はその誘導体;エチレン−ビニルアルコール共重合体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;酸化でんぷん、エーテル化でんぷん、デキストリン等のでんぷん類;ポリビニルピロリドン、スルホイソフタル酸等の極性基を含有する共重合ポリエステル;ポリヒドロキシエチルメタクリレート又はその共重合体等のビニル系重合体;などが挙げられる。また、これらの材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの材料は、例えば水或いは有機溶媒に分散したコート液として基材となる熱可塑性樹脂の層の表面に塗布し、乾燥することにより製造しうる。また、コート液に必要に応じて任意の架橋剤を含ませることにより、コート層の耐久性を向上させることが可能である。
中でも、熱可塑性樹脂フィルム100は、表面にコート層として易接着層を備えることが好ましい。易接着層を備える熱可塑性樹脂フィルム100は、例えば偏光板等の光学フィルムに貼り付ける際の接着性が良好である。また、このような易接着層を備えるフィルムを巻き取って巻回体とした場合、一般にブロッキングを生じやすいが、図1に示すような本実施形態に係る巻回体10によれば、ブロッキングを抑制して保管時に欠陥を生じ難くできる。そのため、欠陥の発生の抑制という効果を有効に活用できる点でも、熱可塑性樹脂フィルム100は易接着層を備えることが好ましい。
易接着層は、例えば、水系樹脂を含む層とすることが好ましい。水系樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、およびそれぞれの樹脂のエマルジョンなどが挙げられ、好ましくは水系ウレタン樹脂が挙げられる。
水系ウレタン樹脂は、ポリウレタンと、必要に応じてその他の成分とを含む。水系ウレタン樹脂に含まれるポリウレタンとしては、例えば、(i)1分子中に平均2個以上の活性水素を含有する成分と(ii)多価イソシアネート成分とを反応させて得られるポリウレタン;または、上記(i)成分及び(ii)成分をイソシアネート基過剰の条件下で、反応に不活性で水との親和性の大きい有機溶媒中でウレタン化反応させてイソシアネート基含有プレポリマーとし、次いで、該プレポリマーを中和し、鎖延長剤を用いて鎖延長し、水を加えて分散体とすることによって製造されるポリウレタン;などが挙げられる。これらのポリウレタン中には酸構造(酸残基)を含有させてもよい。
イソシアネート基含有プレポリマーの鎖延長方法は公知の方法を採用しうる。例えば、鎖延長剤として、水、水溶性ポリアミン、グリコール類などを使用し、イソシアネート基含有プレポリマーと鎖延長剤とを、必要に応じて触媒の存在下で反応させてもよい。
前記(i)成分(すなわち、1分子中に平均2個以上の活性水素を含有する成分)としては、特に限定されるものではないが、水酸基性の活性水素を有するものが好ましい。このような化合物の具体例としては、次の(1)〜(5)のようなものが挙げられる。
(1)ポリオール化合物:
ポリオール化合物として、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、2,5−ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ジメチルプロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタメチレンジオールなどが挙げられる。
(2)ポリエーテルポリオール:
ポリエーテルポリオールとして、例えば、前記のポリオール化合物のアルキレンオキシド付加物;アルキレンオキシドと環状エーテル(例えばテトラヒドロフランなど)との開環(共)重合体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体;グリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリオクタメチレングリコールなどのグリコール類;などが挙げられる。
(3)ポリエステルポリオール:
ポリエステルポリオールとして、例えば、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等のジカルボン酸又はその無水物と、上記(1)で挙げられたようなエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタメチレンジオール、ネオペンチルグリコールなどのポリオール化合物とを、水酸基過剰の条件で重縮合させて得られたものなどが挙げられる。より具体的には、例えば、エチレングリコール−アジピン酸縮合物、ブタンジオール−アジピン縮合物、ヘキサメチレングリコール−アジピン酸縮合物、エチレングリコール−プロピレングリコール−アジピン酸縮合物、或いはグリコールを開始剤としてラクトンを開環重合させたポリラクトンジオールなどが挙げられる。
(4)ポリエーテルエステルポリオール:
ポリエーテルエステルポリオールとして、例えば、エーテル基含有ポリオール(例えば、前記(2)のポリエーテルポリオールやジエチレングリコール等)または、これと他のグリコールとの混合物を上記(3)で例示したようなジカルボン酸又はその無水物に加えてアルキレンオキシドを反応させてなるものなどが挙げられる。より具体的には、例えば、ポリテトラメチレングリコール−アジピン酸縮合物などが挙げられる。
(5)ポリカーボネートポリオール:
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、一般式HO−R−(O−C(O)−O−R)x−OH(ただし、式中、Rは炭素原子数1〜12の飽和脂肪酸ポリオール残基を示す。また、xは分子の繰り返し単位の数を示し、通常5〜50の整数である。)で示される化合物などが挙げられる。これらは、飽和脂肪族ポリオールと置換カーボネート(例えば、炭酸ジエチル、ジフェニルカーボネートなど)とを、水酸基が過剰となる条件で反応させるエステル交換法;前記飽和脂肪族ポリオールとホスゲンとを反応させるか、または必要に応じて、その後さらに飽和脂肪族ポリオールを反応させる方法;などにより得ることができる。
上記の(1)から(5)に例示したような化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
前記(i)成分と反応させる(ii)成分(即ち、多価イソシアネート成分)としては、例えば、1分子中に平均2個以上のイソシアネート基を含有する脂肪族、脂環族または芳香族の化合物を使用しうる。
脂肪族ジイソシアネート化合物としては、炭素原子数1〜12の脂肪族ジイソシアネートが好ましく、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート(HDI)などが挙げられる。脂環式ジイソシアネート化合物としては、炭素原子数4〜18の脂環式ジイソシアネートが好ましく、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)などが挙げられる。芳香族イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
また、水系ウレタン樹脂のうちでポリウレタンが酸構造を含有するものは、界面活性剤を使用せずに、若しくは界面活性剤の量が少なくても、水中に分散させることが可能となるので、易接着層の耐水性が良くなることが期待される。これを自己乳化型といい、界面活性剤を使用すること無く分子イオン性のみで、水中にポリウレタン樹脂が分散安定化しうることを意味する。このような水系ウレタン樹脂を用いた易活性層は、界面活性剤が不要であるために、例えば脂環式構造含有重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、およびポリエステル樹脂との接着性に優れ、かつ高い透明性を維持できるため、好ましい。
酸構造としては、例えば、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(−SO3H)等の酸基などを挙げることができる。また、酸構造は、ポリウレタンにおいて側鎖に存在していてもよく、末端に存在していてもよい。酸構造は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
酸構造の量としては、水系ウレタン樹脂中の酸価として、好ましくは20mgKOH/g以上、より好ましくは25mgKOH/g以上であり、好ましくは250mgKOH/g以下、より好ましくは150mgKOH/g以下である。酸価を前記範囲の下限値以上にすることにより樹脂の水分散性を良好にできる。また、上限値以下にすることにより、易接着層の耐水性を良好にできる。
ポリウレタンに酸構造を導入する方法としては、例えば、ジメチロールアルカン酸を、前記(2)から(4)に記載したグリコール成分の一部もしくは全部と置き換えることによって、予めポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール等にカルボキシル基を導入する方法が挙げられる。ここで用いられるジメチロールアルカン酸としては、例えば、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸などが挙げられる。ここで、ジメチロールアルカン酸は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
また、ポリウレタンが含む酸構造の一部又は全部は、中和することが好ましい。酸構造を中和することにより、水系ウレタン樹脂の水分散性を向上させることができる。酸構造を中和する中和剤としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基;などを挙げられる。ここで、中和剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
ポリウレタンの数平均分子量は、1,000以上が好ましく、より好ましくは20,000以上であり、1,000,000以下が好ましく、より好ましくは200,000以下である。
水系ウレタン樹脂として、市販されている水系ウレタン樹脂をそのまま使用してもよい。水系ウレタン樹脂としては、例えば、旭電化工業(株)製の「アデカボンタイター」シリーズ、三井東圧化学(株)製の「オレスター」シリーズ、大日本インキ化学工業(株)製の「ボンディック」シリーズ、「ハイドラン」シリーズ、バイエル社製の「インプラニール」シリーズ、日本ソフラン(株)製の「ソフラネート」シリーズ、花王(株)製の「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業(株)製の「サンプレン」シリーズ、保土谷化学工業(株)製の「アイゼラックス」シリーズ、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス」シリーズ、ゼネカ(株)製の「ネオレッツ」シリーズなどを用いることができる。これらの水系ウレタン樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
また、易接着層は、粒子を含んでいてもよい。したがって、易接着層が水系樹脂により形成される場合、当該水系樹脂は粒子を含んでいてもよい。易接着層に粒子を含ませることにより、易接着層の表面に凹凸が形成され、それによって熱可塑性樹脂フィルム100の表面粗さを所望の範囲にすることができる。
易接着層の機械強度を向上させる目的で、易接着層の製造に用いる水系樹脂には、更に架橋剤を含ませてもよい。架橋剤としては、水系樹脂に含まれる重合体が有する反応性基と反応する官能基を有する化合物を使用しうる。例えば、水系樹脂として水系ウレタン樹脂を用いる場合には、架橋剤として水系エポキシ化合物、水系アミノ化合物、水系イソシアネート化合物、水系カルボジイミド化合物、水系オキサゾリン化合物等を使用することが、材料の汎用性の観点から好ましい。この中でも、特に水系エポキシ化合物、水系アミノ化合物、水系オキサゾリン化合物を使用することが、接着性の観点から好ましい。
水系エポキシ化合物としては、水に溶解性があるか、又はエマルジョン化した2個以上のエポキシ基を有する化合物を用いうる。水系エポキシ化合物の例を挙げると、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類1モルと、エピクロルヒドリン2モルとのエーテル化によって得られるジエポキシ化合物;グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール類1モルと、エピクロルヒドリン2モル以上とのエーテル化によって得られるポリエポキシ化合物;フタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、アジピン酸等のジカルボン酸1モルと、エピクロルヒドリン2モルとのエステル化によって得られるジエポキシ化合物等のエポキシ化合物;などが挙げられる。
水系アミノ化合物としては、水に溶解性があるか、又はエマルジョン化した2個以上のアミノ基を有する化合物を用いうる。水系アミノ化合物の例を挙げると、カルボジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタール酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、グリコリック酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物、メラミン樹脂、ユリア樹脂、グアナミン樹脂などが挙げられる。
水系イソシアネート化合物としては、水に溶解性があるか、又はエマルジョン化した2個以上の非ブロック型のイソシアネート基若しくはブロック型のイソシアネート基を有する化合物を用いうる。非ブロック型のイソシアネート化合物としては、例えば、多官能イソシアネート化合物と一価又は多価のノニオン性ポリアルキレンエーテルアルコールとを反応させて得られる化合物が挙げられる。ブロック型イソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチルシクロヘキシルジイソシアネート(H6TDI)、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、2,4,6−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート(TIDI)、1,12−ジイソシアネートドデカン(DDI)、2,4,−ビス−(8−イソシアネートオクチル)−1,3−ジオクチルシクロブタン(OCDI)、n−ペンタン−1,4−ジイソシアネート、およびこれらのイソシアヌレート変性体、アダクト変性体、ビュレット変性体、アロファネート変性体、並びに、これらの重合体で1個以上のイソシアネート基を有するものをポリオキシアルキレン基、カルボキシル基等で変性し、水溶性およびまたは水分散性にし、イソシアネート基をブロック剤(フェノール、ε−カプロラクタムなど)でマスクすることにより得られる化合物などが挙げられる。
水系カルボジイミド化合物としては、水に溶解性があるか、又はエマルジョン化した2個以上のカルボジイミド結合(−N=C=N−)を有する化合物を用いうる。2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物は、例えば、2分子以上のポリイソシアネートとカルボジイミド化触媒とを用いて、2個のイソシアネート基を脱炭酸反応させてカルボジイミド結合を形成させる方法によって得ることができる。2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物を作製する際に使用されるポリイソシアネートおよびカルボジイミド化触媒は特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。
水系オキサゾリン化合物としては、水に溶解性があるか、又はエマルジョン化した2個以上のオキサゾリン基を有する化合物を用いうる。
これらの架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
易接着層が水系ウレタン樹脂で形成されている場合、架橋剤の量は、ポリウレタン100重量部に対して、固形分で、好ましくは1重量部以上、より好ましくは5重量部以上であり、好ましくは70重量部以下、より好ましくは65重量部以下である。このような配合にすることにより、易接着層の強度と、水系ウレタン樹脂の水分散体の安定性を両立できることが可能となる。
さらに、易接着層には、必要に応じて、例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、架橋剤などを含ませてもよい。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
易接着層の厚みは、0.01μm以上が好ましく、0.02μm以上がより好ましく、0.03μm以上が特に好ましく、また、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下が特に好ましい。前記範囲内にあると、熱可塑性樹脂の層と易接着層との十分な接着強度が得られ、かつ、熱可塑性樹脂フィルム100の反りを防止することができる。
熱可塑性樹脂フィルム100は、延伸処理を施されていない未延伸フィルムであってもよく、延伸処理を施された延伸フィルムであってもよい。中でも、熱可塑性樹脂フィルム100は、延伸フィルムであることが好ましい。図1に示すような本実施形態に係る巻回体10によれば、通常、保管時におけるフィルム内の分子の配向緩和を小さくできる。そのため、延伸により熱可塑性樹脂フィルム100に発現したレターデーションの保管時における変化を抑制して、配向緩和による欠陥を生じ難くできる。
また、図1に示すように、熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向の端部120又は130から所定の距離L以内の領域121及び131には、凸形状部140を形成することが好ましい。この凸形状部140は、通常、熱可塑性樹脂フィルム100の全長にわたって複数個形成され、その凸形状部140が集合した部分は帯状になっている。以下、この凸形状部140が集合して形成される帯状の部分を、適宜「ナーリング部」と呼ぶことがある。このようなナーリング部を形成することにより、巻回体10の巻取り軸方向端部近傍の硬度(例えば、後述する硬さHe)を上昇させて、巻回体10の巻きズレ及び経時による変形を抑制することができる。また、凸形状部140により熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向の端部付近にある領域121及び131の見かけ上の厚みを厚くできるので、熱可塑性樹脂フィルム100の取り扱い性を改善することができる。具体的には、凸形状部140により熱可塑性樹脂フィルム100の剥離性、滑り性等の特性が改善される。したがって、ゲージバンドの発生を防止できる。ここでゲージバンドとは、巻き取った熱可塑性樹脂フィルム100の一部が折れ曲がることにより形成される、巻回体10の周方向に延在する帯のことであり、このゲージバンドは、巻回体10から引き出した熱可塑性樹脂フィルム100に折れ曲がり跡が残り、品質低下の原因となる。また、凸形状部140によれば、熱可塑性樹脂フィルム100の巻き取り時における傷つきを防止して巻き取り性を向上させたり、熱可塑性樹脂フィルム100の搬送性を向上させたりできる。
ここで、熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向の端部120又は130から所定の距離L以内の領域121及び131とは、熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向の端部120又は130と、熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向における端部120又は130からの距離が所定の距離Lとなる地点との間で挟まれた領域を意味する。この距離Lは、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上であり、好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下、特に好ましくは10mm以下である。
凸形状部140は、熱可塑性樹脂フィルム100の領域121及び131の幅方向の全体に形成してもよく、当該領域121及び131の幅方向の一部に形成してもよい。例えば、凸形状部140を、熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向の端部120及び130から離れた位置に形成してもよい。
また、前記のように、凸形状部140は、通常、熱可塑性樹脂フィルム100の全長にわたって形成される。この際、凸形状部140が形成された領域121及び131では通常は透明性が損なわれる。しかし、熱可塑性樹脂フィルム100においては、前記の領域121及び131を除いた領域150の透明性は損なわれないので、この領域150は光学機能を有効に発揮しうる部分として用いることができる。したがって、領域121及び131に凸形状部140を形成しても、通常は、使用時において熱可塑性樹脂フィルム100の光学機能は損なわれない。
さらに、凸形状部140は、熱可塑性樹脂フィルム100の2つの幅方向の端部120及び130のうち、片方の端部120又は130の付近の領域121又は131に形成してもよいが、両方の端部120及び130の付近の領域121及び131に形成することが好ましい。また、2つの領域121及び131に凸形状部140を設ける場合、これらの領域121及び131における凸形状部140の形状及び配置は、同じでもよく、異なっていてもよい。
ナーリング部1本当たりの幅は、熱可塑性樹脂フィルム100の全幅に対して、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上であり、好ましくは1.0%以下である。凸形状部140が集合したナーリング部の幅を前記範囲の下限値以上とすることにより、巻回体10の巻きずれを安定して防止できる。また、上限値以下とすることにより、熱可塑性樹脂フィルム100の有効領域の大きさを広く確保して、製造コストを安価にできる。ここで、熱可塑性樹脂フィルム100の有効領域とは、熱可塑性樹脂フィルム100の凸形状部140が形成されていない領域のことを指し、通常は図1に示すように、幅方向の端部近傍にある領域121及び131を除く領域150のことを指す。
図2は、本発明の一実施形態に係る凸形状部140を斜め上方から見た様子を拡大して模式的に示す斜視図である。また、図3は、本発明の一実施形態に係る凸形状部140を上方から見た様子を拡大して模式的に示す平面図である。さらに、図4は、本発明の一実施形態に係る凸形状部140を、熱可塑性樹脂フィルム100の厚み方向に平行な平面で切った断面を拡大して模式的に示す断面図である。凸形状部140の形状は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本実施形態に係る凸形状部140は、図2〜図4に示すように、周囲よりも突出して形成された周部141と、この周部141に囲まれて周部141よりも窪んだ央部142とを有しているものとする。
周部141は厚み方向から見て円形又は楕円形を有しており、この周部141の外縁が凸形状部140の外縁143に一致する。図4に示すように、周部141が凸形状部140の周囲のフィルム表面101よりも突出していることにより、熱可塑性樹脂フィルム100の実質的な厚みが厚くなっている。そのため、熱可塑性樹脂フィルム100をロール状に巻き取った際に、重なった熱可塑性樹脂フィルム100同士の間に空気層を積極的に取り入れることができるので、熱可塑性樹脂フィルム100同士の接触を防止して、ゲージバンドを抑制することが可能となる。
また、凸形状部140が周部141よりも窪んだ央部142を有していることにより、周部141において応力の集中を抑制できる。そのため、凸形状部140の破損及びその破損による巻回体10の外観の悪化を防止できる。
図2及び図4に示すように、凸形状部140の高さHは、熱可塑性樹脂フィルム100の平均厚みに対して、好ましくは1%以上、より好ましくは3%以上、特に好ましくは5%以上であり、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、特に好ましくは20%以下である。凸形状部140の高さHを前記範囲の下限値以上にすることにより、巻きズレを効果的に防止することができる。また、上限値以下にすることにより、巻回体の外観を良好なものとできる。
さらに、図2及び図3に示すように、凸形状部140の径Wは、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上であり、好ましくは3000μm以下、より好ましくは2000μm以下である。凸形状部140の径Wを前記範囲の下限値以上にすることにより、凸形状部140の効果を安定して発揮させることができる。また、上限値以下にすることにより、凸形状部140への局所的な応力集中を回避することができる。
図1に示す熱可塑性樹脂フィルム100の領域121及び131における凸形状部140の配置は、ランダムでもよく、規則性をもって配置されていてもよい。また、凸形状部140同士の間隔は、不均一であってもよく、均一であってもよい。
熱可塑性樹脂フィルム100における凸形状部140を形成する密度は、好ましくは5個/cm2以上、より好ましくは10個/cm2以上、特に好ましくは30個/cm2以上であり、好ましくは100個/cm2以下、より好ましくは80個/cm2以下、特に好ましくは60個/cm2以下である。凸形状部140の間隔を前記範囲の下限値以上にすることにより、巻回時に重なった熱可塑性樹脂フィルム100間に空間をつくることが容易になる。また、上限値以下にすることにより、凸形状部140への応力集中によるクラックを抑制することができる。
図1に示す熱可塑性樹脂フィルム100の中心面平均粗さSRaは、好ましくは3nm以上であり、好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下である。中心面平均粗さSRaを前記範囲の下限値以上にすることにより、ブロッキングによる欠陥の発生を抑制することができる。また、上限値以下にすることにより、熱可塑性樹脂フィルム100の透明性を高くでき、また、熱可塑性樹脂フィルム100の巻きズレを生じ難くできる。ここで、中心面平均粗さSRaは、JIS B0601−1982に規定されたものである。
また、熱可塑性樹脂フィルム100の十点平均粗さSRzは、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である。十点平均粗さSRzを前記範囲の下限値以上にすることにより、ブロッキングによる欠陥の発生を抑制することができる。また、上限値以下にすることにより、熱可塑性樹脂フィルム100の透明性を高くでき、また、熱可塑性樹脂フィルム100の巻きズレを生じ難くできる。ここで、十点平均粗さSRzは、JIS B0601−1982に規定されたものである。
したがって、熱可塑性樹脂フィルム100の中心面平均粗さSRa及び十点平均粗さSRzを前記の範囲に収めることは、熱可塑性樹脂フィルム100の透明性及び巻取り品質をバランスよく良好にできる点で、好ましい。
前記の中心面平均粗さSRa及び十点平均粗さSRzは、熱可塑性樹脂フィルム100の少なくとも片面が有していることが好ましく、両面が有していることがより好ましい。
また、図1に示すように熱可塑性樹脂フィルム100に凸形状部140が形成されている場合には、熱可塑性樹脂フィルム100の表面の凸形状部140が形成されていない領域150が、前記の中心面平均粗さSRa及び十点平均粗さSRzを有することが好ましい。本実施形態の場合、熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向の端部120又は130から所定の距離L以内の領域121及び131に凸形状部140が形成されているので、熱可塑性樹脂フィルム100の、熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向の両方の端部120及び130から距離Lより離れた領域150が、前記の中心面平均粗さSRa及び十点平均粗さSRzを有することが好ましい。具体例を挙げると、熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向の端部120又は130から20mm以内の領域121及び131に凸形状部140が形成されている場合は、熱可塑性樹脂フィルム100の、熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向の両方の端部120及び130から20mm超離れた領域150が、前記の中心面平均粗さSRa及び十点平均粗さSRzを有することが好ましい。
熱可塑性樹脂フィルム100の中心面平均粗さSRa及び十点平均粗さSRzを前記の範囲に収める手段としては、例えば、熱可塑性樹脂フィルム100を構成する層に適切な粒子を含ませることが挙げられる。粒子としては、例えば、非晶質シリカ、アルミナ、ジルコニウム、炭酸カルシウム等の無機粒子;シリコーン系、アクリル系等の有機微粒子;などが挙げられる。また、これらの粒子は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
前記の粒子の平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.03μm以上、特に好ましくは0.05μm以上であり、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下、特に好ましくは0.2μm以下である。ここで、粒子の平均粒子径としては、レーザー回折法によって粒径分布を測定し、測定された粒径分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(累積体積50%径D50)を採用する。
粒子の量は、所望の表面粗さが得られる範囲で任意に設定しうる。例えば、熱可塑性樹脂の層が粒子を含む場合、当該熱可塑性樹脂の層における粒子の量は、重量基準で、好ましくは0.001ppm以上、より好ましくは0.003ppm以上、特に好ましくは0.005ppm以上であり、好ましくは0.1ppm以下、より好ましくは0.05ppm以下、特に好ましくは0.03ppm以下である。また、例えばコート層が粒子を含む場合、当該コート層における粒子の量は、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、特に好ましくは15体積%以上であり、好ましくは60体積%以下、より好ましくは50体積%以下、特に好ましくは40体積%以下である。粒子の量を前記範囲の下限値以上にすることにより、ブロッキングによる欠陥の発生を抑制できる。また、上限値以下にすることにより、熱可塑性樹脂フィルム100の透明性を高くでき、また、熱可塑性樹脂フィルム100の巻きズレを生じ難くできる。したがって、粒子の量を前記範囲に収めることにより、熱可塑性樹脂フィルム100の透明性及び巻取り品質をバランスよく良好にできる。
図1に示す熱可塑性樹脂フィルム100は、通常、光学フィルムとして用いられる。具体例を挙げると、液晶表示装置に用いられる位相差板、視野角補償フィルム、及びそれらのフィルムの原反フィルムとしての延伸前フィルム、並びに、偏光板保護用フィルム等として用いうる。このような光沢フィルムとして用いる観点から、熱可塑性樹脂フィルム100は、1mm厚換算での全光線透過率が、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、同様の観点から、熱可塑性樹脂フィルム100は、1mm厚でのヘイズが、0.3%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましい。また、図1に示すように熱可塑性樹脂フィルム100に凸形状部140が形成されている場合には、熱可塑性樹脂フィルム100の表面の凸形状部140が形成されていない領域150が、前記の全光線透過率及びヘイズを有することが好ましい。
熱可塑性樹脂フィルム100の面内レターデーションRe及び厚さ方向のレターデーションRthの値は、熱可塑性樹脂フィルム100の用途によって異なる。それらの具体的な値は、例えば、面内レターデーションReで10nm〜500nm、厚さ方向のレターデーションRthで−500nm〜500nmの範囲から、用途に応じて選択されうる。
熱可塑性樹脂フィルム100の残留揮発性成分の含有量は、特に制約されず、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。残留揮発性成分の含有量が前記範囲の上限値以下になることにより、熱可塑性樹脂フィルム100の光学特性(例えば、レターデーション等)の経時的な変化を抑制することができる。また、熱可塑性樹脂フィルム100の寸法安定性を向上させることができる。さらに、熱可塑性樹脂フィルム100を備える偏光板又は液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。
ここで、揮発性成分とは、熱可塑性樹脂フィルム100に含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体及び溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、熱可塑性樹脂フィルム100をガスクロマトグラフィーにより分析することにより、熱可塑性樹脂フィルム100に含まれる分子量200以下の物質の合計として測定することができる。
熱可塑性樹脂フィルム100の飽和吸水率は、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthの経時変化を小さくすることができる。また、熱可塑性樹脂フィルム100を備える偏光板又は液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。
飽和吸水率は、熱可塑性樹脂フィルム100の試験片を一定温度の水中に一定時間、浸漬し、増加した質量の、浸漬前の試験片質量に対する百分率で表される値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。
熱可塑性樹脂フィルム100の飽和吸水率は、例えば、熱可塑性樹脂中の極性基の量を減少させることにより、前記値に調節することができる。中でも好ましくは、熱可塑性樹脂に含まれる重合体として、極性基を持たないものを用いることが好ましい。
熱可塑性樹脂フィルム100の平均厚みは、機械的強度を高くする観点から、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、特に好ましくは40μm以上であり、好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下、特に好ましくは80μm以下である。
熱可塑性樹脂フィルム100の厚みのバラつきは、熱可塑性樹脂フィルム100の長手方向及び幅方向にわたって、前記厚さの±3%以内に収まっていることが好ましい。ここで、熱可塑性樹脂フィルム100の厚みのバラつきとは、熱可塑性樹脂フィルム100の厚みの最大値又は最小値と熱可塑性樹脂フィルム100の平均厚みとの差のうち大きい値をいう。また、巻回体10の状態で所望の硬度を達成する観点から、熱可塑性樹脂フィルム100の端部120又は130からの距離が30mmの位置における厚みは、熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向中央部の厚みに対して厚くすることが好ましい。この際、熱可塑性樹脂フィルム100の端部120又は130からの距離が30mmの位置における厚みと、熱可塑性樹脂フィルム100の幅方向中央部の厚みとの差は、当該熱可塑性樹脂フィルム100の平均厚みの0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。これにより、欠陥の発生を更に抑制することができる。
熱可塑性樹脂フィルム100の幅に制限は無いが、巻回体10としたときの経時的な欠陥を生じ難くできるという効果を顕著に発揮させる観点では、好ましくは700mm以上、より好ましくは1000mm以上、特に好ましくは1200mm以上であり、好ましくは2500mm以下、より好ましくは2200mm以下、特に好ましくは2000mm以下である。
熱可塑性樹脂フィルム100は、長尺状であることが好ましい。長尺状とは、フィルムの幅方向に対し少なくとも5倍程度以上の長さを有するものを言い、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。
上述した熱可塑性樹脂フィルム100をロール状に巻き取ったものが、巻回体10である。この巻回体10は、デュロメータによって測定した硬度Hc及びHeが、下記の式(I)及び(II)を満たす。これにより、巻回体10は、保管時に欠陥が生じ難くなっている。
Hc+3<He (I)
90<He (II)
ここで、硬度Hcは、巻回体10の巻取り軸方向中央部10cのデュロメータ硬さを表す。また、巻回体10の巻取り軸方向中央部10cは、巻回体10の巻取り軸方向において、巻回体10の両端部11及び12からの距離が等しい部分を指す。
また、硬度Heは、巻回体10の巻取り軸方向端部11又は12から30mm以内の少なくとも一部分10eのデュロメータ硬さを表す。
巻回体10の巻取り軸方向中央部10cの硬さHcを柔らかくすることにより、熱可塑性樹脂フィルム100同士のブロッキングを防止できる。また、巻回体10の巻取り軸方向端部11又は12から30mm以内の少なくとも一部分10eの硬さHeを硬くすることにより、巻きズレ及び巻回体10の経時での変形を抑制できる。
硬度Hcと硬度Heの差に関しては、好ましくはHc+4<Heであり、さらに好ましくはHc+5<Heである。硬度Hcと硬度Heとの差を大きくすることにより、巻き重ねられた熱可塑性樹脂フィルム100同士の貼り付きによる欠陥が時間が経過しても生じ難くできる。また、巻回体10の巻取り軸方向端部11又は12から30mm以内の少なくとも一部分10eの硬度Heは、好ましくは92以上、さらに好ましくは94以上である。硬度Heを大きくすることにより、巻きズレを効果的に防止できる。
巻回体10の巻回数に制限は無いが、通常40回以上、好ましくは60回以上であり、通常27000回以下、好ましくは13000回以下である。
また、巻回体10の外径に制限はないが、通常160mm以上、好ましくは190mm以上であり、通常2300mm以下、好ましくは1200mm以下である。
上述した本実施形態の熱可塑性樹脂フィルム100の巻回体10は、例えば、熱可塑性樹脂フィルム100を用意する工程と、この熱可塑性樹脂フィルム100をロール状に巻き取って、巻回体10を得る工程とを含む製造方法により、製造できる。また、熱可塑性樹脂フィルム100を用意する工程は、通常、熱可塑性樹脂をフィルム状に成形する工程を含む。さらに、熱可塑性樹脂フィルム100を用意する工程では、必要に応じて、例えば、フィルム状に成形された熱可塑性樹脂の層上にコート層を形成する工程、熱可塑性樹脂フィルムを延伸する工程、熱可塑性樹脂フィルムに凸形状部を形成する工程、などの任意の工程を含んでいてもよい。
熱可塑性樹脂を成形する工程では、任意の成形方法を用いうる。例えば、押出し法及び流延法を挙げることができ、押出し法が好ましい。押出し法は、溶融状態にした熱可塑性樹脂をTダイ等のダイから押し出して成形する方法である。
また、2層以上の層を有する複層構造の熱可塑性樹脂フィルムを製造する場合には、例えば、共押出し法、共流延法などにより成形を行ってもよく、中でも共押出し法が好ましい。共押出し法は、溶融状態にした複数の熱可塑性樹脂を押し出して成形する方法である。共押出し法は、製造効率の点、並びに、熱可塑性樹脂フィルム中に溶剤などの揮発性成分を残留させないという点で、優れている。
共押出し方法としては、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等が挙げられる。これらの中でも、共押出Tダイ法が好ましい。共押出Tダイ法にはフィードブロック方式およびマルチマニホールド方式がある。その中でも層の厚みのばらつきを少なくできる点で、マルチマニホールド方式が特に好ましい。
前記のようにしてフィルム状に成形された熱可塑性樹脂の層は、そのまま熱可塑性樹脂フィルムとして用いてもよい。また、熱可塑性樹脂の層に加えてコート層を備える熱可塑性樹脂フィルムを製造する場合には、熱可塑性樹脂を形成して得られた熱可塑性樹脂の層の表面に、コート層を形成する工程を行ってもよい。コート層を形成する工程は、熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻き取る工程の前の任意の時点で行いうる。
コート層を形成する場合、例えば、コート層の材料を溶媒に溶解又は分散させたコート液を用意し、このコート液を熱可塑性樹脂の層の表面に塗布し、乾燥させる。この際、溶媒としては、水を用いてもよく、有機溶媒を用いてもよい。また、コート液は必要に応じて架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤により、コート層の耐久性を向上させることができる。
例えば、水系樹脂により易接着層を形成する場合、熱可塑性樹脂の層の表面に、コート液として水系樹脂を含む塗布液を塗布し、得られたコート液の膜を乾燥させることにより、易接着層を得る。例えば、易接着層をウレタン樹脂により形成する場合は、熱可塑性樹脂の層の表面に、水系ウレタン樹脂の水分散体を塗布し、乾燥させることにより、易接着層としてのウレタン樹脂層を形成してもよい。水系ウレタン樹脂の水分散体は、水系ウレタン樹脂が水に分散された液状の組成物であり、例えば、エマルション、コロイド分散系、水溶液などの形態としてもよい。
コート液の塗布方法は、特に限定されず、例えば、グラビアコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、スプレーコーター等のコーターを用いて塗布しうる。
また、コーターの下流側には、通常、熱可塑性樹脂の層上に塗布されたコート液を乾燥するためのオーブンが設置される。ただし、テンター或いはフロート方式の延伸装置を用いた製造方法では、コーターを延伸装置の直前に設置することによって、延伸装置が乾燥用オーブンを兼ねることが可能となる。
また、必要に応じて、熱可塑性樹脂フィルムを延伸する工程を行ってもよい。熱可塑性樹脂フィルムを延伸する工程は、熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻き取る工程の前の任意の時点で行いうる。したがって、熱可塑性樹脂フィルムを延伸する工程は、前記のコート層を形成する工程の前に行ってもよく、後に行ってもよい。
延伸方法は特に限定はされず、例えば一軸延伸法、二軸延伸法のいずれを採用してもよい。延伸方法の例を挙げると、一軸延伸法の例としては、フィルム搬送用のロールの周速の差を利用して縦方向に一軸延伸する方法;テンター延伸機を用いて横方向に一軸延伸する方法;等が挙げられる。また、二軸延伸法の例としては、固定するクリップの間隔を開いて、縦方向の延伸と同時に、ガイドレールの広がり角度により横方向に延伸する同時二軸延伸法;フィルム搬送用のロール間の周速の差を利用して縦方向に延伸した後、その両端部をクリップで把持してテンター延伸機を用いて横方向に延伸する逐次二軸延伸法;などが挙げられる。さらに、例えば、縦方向又は横方向に左右異なる速度の送り力若しくは引張り力又は引取り力を付加できるようにしたテンター延伸機を用いて、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向に対して任意の角度θ(0°<θ<90°)をなす方向に連続的に斜め延伸する斜め延伸法を用いてもよい。
延伸温度は、例えば、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgを基準として、Tg〜Tg+20℃の範囲が好ましい。
フィルムの加熱方法に特に制限は無く、例えば、ロール間でのIR加熱方式、フロート方式等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂フィルムを光学フィルムとして用いる場合の光学的な均一性を得る観点では、フロート方式の加熱方法が好ましい。特に、縦方向に延伸する場合にフロート方式を採用することが好ましい。
延伸倍率は、所望の光学特性が得られる適切な範囲に設定しうる。例えば、縦方向の延伸では、延伸倍率を1.1倍〜3.0倍の範囲に設定してもよい。また、横方向の延伸では、延伸倍率を1.3倍〜3.0倍の範囲に設定してもよい。
また、必要に応じて、熱可塑性樹脂フィルムに凸形状部を形成する工程を行ってもよい。熱可塑性樹脂フィルムに凸形状部を形成する工程は、熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻き取る工程の前の任意の時点で行いうる。したがって、熱可塑性樹脂フィルムに凸形状部を形成する工程は、前記のコート層を形成する工程の前に行ってもよく、後に行ってもよい。また、熱可塑性樹脂フィルムに凸形状部を形成する工程は、前記の熱可塑性樹脂フィルムを延伸する工程の前に行ってもよく、後に行ってもよい。
凸形状部の形成方法に制限は無い。例えば、エンボス加工処理によって形成してもよい。エンボス加工処理により凸形状部を形成する場合、例えば、ナーリング部の形状に対応した凹凸パターンを側面に有するロール状又はリング状の型(例えば、ローレット等)を用意し、必要に応じて熱可塑性樹脂フィルム又は前記の型を加熱しながら、熱可塑性樹脂フィルムを前記の型で押圧する。この際、単一の型により押圧を行うようにしてもよいが、対向する2個の型の間に熱可塑性樹脂フィルムを挟みこんで押圧を行うようにしてもよい。これにより、型の凹凸パターンが熱可塑性樹脂フィルムに転写され、凸形状部が形成される。
また、例えば、レーザー光の照射により凸形状部を形成してもよい。熱可塑性樹脂フィルムにレーザー光を照射すると、レーザー光が照射された地点において熱可塑性樹脂フィルムが局所的に熱溶融又はアブレーションを生じる。このため、レーザー光が照射された地点では窪みが形成され、この窪みは凸形状部の央部となる。また、レーザー光の照射により熱溶融した熱可塑性樹脂フィルムの材料の一部又は全部が流動化することにより、レーザー光を照射した地点の周囲には突出部が形成され、この突出部は凸形状部の周部となる。このようにレーザー光により凸形状部を形成するようにすれば、厚みの薄い熱可塑性樹脂フィルムにおいても、凸形状部の形成時の熱可塑性樹脂フィルムの破断を防止することができる。また、熱可塑性樹脂フィルムを屈曲させても、凸形状部で破断が生じ難い。これは、例えばエンボス加工処理と比べ、レーザー光で凸形状部を形成する場合には、熱可塑性樹脂フィルムに対し不要な押圧が加わらず、熱可塑性樹脂フィルムに残留応力が残りにくいことに起因すると推察される。
また、熱可塑性樹脂フィルムがコート層として易接着層を備える場合、レーザー光の照射は、熱可塑性樹脂フィルムの易接着層側の面へ行うことが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻き取る際に、熱可塑性樹脂フィルム同士の密着を抑制することができる。
熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻き取って巻回体を得る工程において、熱可塑性樹脂フィルムの巻取り方法は、特に限定は無い。巻き取りに際しては、必要に応じて、適切な巻き芯を用いてもよい。この場合、巻き芯の駆動方式としては、例えばセンタードライブ方式を用いることが好ましい。
熱可塑性樹脂フィルムの巻き取りの際には、必要に応じて、熱可塑性樹脂フィルムに張力(巻取張力)を与える。巻取張力の大きさは、好ましくは50N/m以上であり、好ましくは200N/m以下、より好ましくは150N/m以下、特に好ましくは100N/m以下である。巻取張力を前記範囲の下限値以上にすることにより、巻きズレを防止することができる。また、上限値以下にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムのブロッキング及び巻回体の変形を防止できる。
さらに、前記の巻取張力は、巻き取り開始時点の張力に対して巻き取り完了時点の張力が小さくなるように、張力を線形的に次第に小さくなるように調整してもよい。このように巻取張力を次第に小さくすることを、張力テーパーを設けるという。また、巻き取り開始時点の張力に対する、巻き取り開始時点の張力と巻き取り完了時点の張力との差の比率を、テーパー比率という。テーパー比率は、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、特に好ましくは10%以上であり、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、特に好ましくは30%以下である。このように張力テーパーを設けることにより、巻回体内における径方向の応力を低く抑えることができる。
また、熱可塑性樹脂フィルムの巻き取りの際には、必要に応じて、熱可塑性樹脂フィルムに対して接圧ロールによって接圧を付与しながら巻き取りを行ってもよい。この際、接圧の大きさは、好ましくは20N/m以上、より好ましくは30N/m以上、特に好ましくは40N/m以上であり、好ましくは200N/m以下、より好ましくは150N/m以下である。接圧を前記範囲の下限値以上にすることにより、巻きズレを防止することができる。また、上限値以下にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムのブロッキング及び巻回体の変形を防止できる。
熱可塑性樹脂フィルムの巻取り速度に制限はないが、好ましくは5m/分以上、より好ましくは10m/分以上であり、好ましくは150m/分以下、より好ましくは100m/分以下、特に好ましくは80m/分以下である。巻取り速度を前記範囲の下限値以上にすることにより、製造効率を良好にできる。また、上限値以下にすることにより、空気の巻き込みを防止して巻回体の経時的な変形を防止できる。
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの巻回体は、上述した構成を有し、例えば上述した製造方法によって製造できる。この熱可塑性樹脂フィルムは、ブロッキングを防止できるので、保管時に欠陥が生じがたい。
[変形例]
以上、本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの巻回体について詳細に説明したが、本発明は上述した実施形態を更に変更して実施しうる。
例えば、上述した巻回体の製造方法において、熱可塑性樹脂フィルムの表面に、必要に応じて、表面処理を施してもよい。表面処理としては、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、紫外線処理、火炎処理などが挙げられる。これらの表面処理は、熱可塑性樹脂フィルムを巻き取る前の任意の時点で行いうる。
また、例えば、上述した巻回体の製造方法において、熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻き取る前に、熱可塑性樹脂フィルムの流れ方向の搬送張力を所定の範囲に保持した状態で、熱可塑性樹脂フィルムを加熱する工程を行ってもよい。
熱可塑性樹脂フィルムを加熱する温度は、好ましくはTg−30℃以上、より好ましくはTg−25℃以上、特に好ましくはTg−20℃以上であり、好ましくはTg以下、より好ましくはTg−5℃以下である。加熱する温度を前記範囲の下限値以上にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの寸法安定性を更に向上させることができる。また、上限値以下にすることにより、搬送中における熱可塑性樹脂フィルムの貼り付きによる表面欠陥を防止できる。ここで、Tgは、熱可塑性樹脂フィルムを形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度である。また、熱可塑性樹脂フィルムがガラス転移温度の異なる2層以上の層を備える場合には、面内レターデーションを有する層のうち、最もガラス転移温度が高い熱可塑性樹脂で形成された層のガラス転移温度を、前記のTgとして採用する。また、面内レターデーションを有するとは、通常、面内レターデーションが3nm以上であることをいう。
この際、搬送張力の大きさは、好ましくは100N/m未満、より好ましくは80N/m未満、特に好ましくは60N/m未満である。搬送張力を前記範囲にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの寸法安定性を更に向上させることができる。また、搬送張力の下限に特に制限は無いが、通常は40N/m以上である。
また、熱可塑性樹脂フィルムを加熱する時間は、効率的な加熱処理を行う観点から、好ましくは10秒以上、より好ましくは20秒以上である。
このような加熱処理を行うことにより、熱可塑性樹脂フィルムの寸法安定性を良好にできる。そのため、熱可塑性樹脂フィルムを加熱した後で、その熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻き取って巻回体を得る工程を行うことにより、巻回体が経時で変形することを更に抑えることができる。
前記の熱可塑性樹脂フィルムを加熱する工程は、押出し法で熱可塑性樹脂を成形した後であって熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻き取る前の任意の時点で行いうる。中でも、熱可塑性樹脂フィルムを延伸した後に加熱を行うと、配向緩和による欠陥の発生を効果的に抑制できるため、特に好ましい。
また、例えば、上述した巻回体の製造方法において、熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻き取って巻回体を得る工程の後に、熱可塑性樹脂フィルムの巻き取りが完了した直後から所定時間以上、巻回体の巻取り軸を水平方向に垂直な状態に保つ工程を行ってもよい。この際、巻回体の巻取り軸を水平方向に垂直な状態に保つ時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、特に好ましくは5時間以上であり、好ましくは24時間以下、より好ましくは18時間以下、特に好ましくは12時間以下である。また、この際の温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、特に好ましくは20℃以上であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、特に好ましくは30℃以下である。このように巻回体の巻取り軸を水平方向に垂直な状態として巻回体を保管することにより、巻取り直後のエアー抜け、並びに、フィルムの物性変化を原因とする層間圧力の増加、などによって生じる巻回体内部の熱可塑性樹脂フィルムのブロッキング、シワ、折れ等の欠陥の発生頻度を低減させることができる。中でも、凸形状部によるナーリング部を設けた熱可塑性樹脂フィルムの巻回体は、巻回体の巻取り軸方向中央部付近において熱可塑性樹脂フィルム間に多くの空気を含むため変形を生じやすいが、前記の工程を行うと、そのような変形を効果的に抑制できるため、特に好ましい。
また、例えば、上述した巻回体の製造方法において、熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻き取って巻回体を得る工程の後に、熱可塑性樹脂フィルムの巻き取りが完了した直後から所定時間以上、巻回体の巻取り軸を水平方向に平行に保持した状態で巻回体を周方向に回転させる工程を行ってもよい。この際、巻回体の回転状態を保持する時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、特に好ましくは6時間以上であり、上限は生産性の観点から好ましくは24時間以下である。また、周方向への回転速度は、好ましくは0.5rpm以上、より好ましくは1rpm以上であり、好ましくは100rpm以下、より好ましくは50rpm以下、特に好ましくは20rpm以下である。さらに、この際の温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、特に好ましくは20℃以上であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、特に好ましくは30℃以下である。このように巻回体の巻取り軸を水平方向に平行な状態として回転を状態を保持することにより、巻取り直後のエアー抜け、並びに、フィルムの物性変化を原因とする層間圧力の増加、などによって生じる巻回体内部の熱可塑性樹脂フィルムのブロッキング、シワ、折れ等の欠陥の発生頻度を低減させることができる。特に、この工程によれば、通常、配向緩和による欠陥及び巻回体の巻取り軸方向中央部付近の空気による変形を効果的に抑制できる。
[用途]
上述した熱可塑性樹脂フィルムは、例えば液晶表示装置用の光学フィルムとして用いうる。この光学フィルムの具体例を挙げると、位相差フィルム、偏光板の保護フィルム、偏光フィルム、輝度向上フィルム、光拡散フィルム、集光フィルム、反射フィルム等が挙げられる。
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
[評価方法]
(フィルムの厚みの測定方法)
フィルムの幅方向における中央部分の厚み、並びに、フィルムの幅方向端部から30mmの位置の厚みを、スナップゲージを用いて流れ方向にそれぞれ10点測定し、その平均値を計算した。フィルムの幅方向における中央部分の厚みの平均値を、当該フィルムの幅方向中央部の厚みとした。また、フィルムの幅方向端部から30mmの位置の厚みの平均値を、当該フィルムの幅方向縁部の厚みとした。
(巻回体の硬度の測定方法)
巻回体を、当該巻回体の巻取り軸が水平方向に平行となるように静置した。その状態で、巻回体の巻取り軸方向中央部において、頂点部(鉛直方向で最も上の部分)及び当該頂点部の180°反対側の部分(鉛直方向で最も下の部分)の2点でデュロメーター(アスカー硬度計C型)を用いて硬さを測定し、その平均値をデュロメータ硬さHcとした。
また、同様の巻回体について、巻回体の片方の端部から30mm以内の部分において、頂点部(鉛直方向で最も上の部分)及び当該頂点部の180°反対側の部分(鉛直方向で最も下の部分)でデュロメーター(アスカー硬度計C型)を用いて硬さを測定した。測定は、頂点部及び当該頂点部の180°反対側の部分のいずれも、幅方向に5mm間隔で行った。さらに、巻回体のもう片方の端部から30mm以内の部分においても、同様に硬さを測定した。こうして得られた各点での測定値のうちで最も大きい値を、デュロメータ硬さHeとした。
(ナーリング形状の評価方法)
フィルムのナーリング部分に形成された凸形状部のうち、任意に抽出した100個の凸形状部の径W及び高さHを、干渉型表面形状測定装置(ZYGO社製「NewView7200」)を用いてを測定し、大きさと高さの平均値を算出した。
(レターデーションの測定方法)
ミュラーマトリクス・ポラリメータ(AXOMETRIX社製「AXOSCAN」)を用い、面内の任意の10箇所でサンプリングした延伸後のフィルムについて、面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthを測定した。この際、厚み方向のレターデーションRthは、フィルムの主面の法線方向から40°傾けた方向での測定値を元に算出した。
(フィルムの表面粗さの測定方法)
表面粗さ測定装置(小坂研究所製「SE3500K」)を用い、カットオフ0.25mm、測定範囲1mm×1mmで、表面粗さSRa及びSRzの値を測定した。測定は、フィルムの幅方向中央部、フィルムの幅方向の片方の端部から100mmの位置、並びに、フィルムの幅方向のもう片方の端部から100mmの位置の合計3点で行い、その平均値を当該フィルムの表面粗さとした。
(経時での欠陥評価方法)
巻回体を温度25℃、湿度55%RHの条件下において1ヶ月保管した。その後、巻回体からフィルムを引き出し、巻芯部から1000mの位置でフィルムから10m2の面積でサンプルを切り取った。得られたサンプルの外観検査を行って、光学欠陥の個数、並びにシワ及び折れの発生の有無で、評価を行った。
光学欠陥の個数は、以下の要領で測定した。
2枚の直線偏光板を用意し、用意した直線偏光板でフィルムから切り取ったサンプルを挟んだ。これにより、直線偏光板、サンプル及び直線偏光板をこの順に備える積層体を得た。この際、2枚の直線偏光板はクロスニコルとして、厚み方向から見て偏光透過軸が互いに垂直になるようにした。この状態で厚み方向から積層体を観察して、光抜けが生じた部分を光学欠陥とし、その数を数えた。測定に用いるフィルムサンプルの面積は、100m2とした。
フィルムは、次の基準により評価を行った。
合格:欠陥が1個/m2未満であり、シワ及び折れが無いもの。
不合格:欠陥が1個/m2以上、または、シワ若しくは折れが発生しているもの。
[製造例1:コート液Aの製造]
温度計、攪拌機、窒素導入管及び冷却管を備えた反応器に、ポリエステルポリオールであるマキシモールFSK−2000(川崎化成工業社製;水酸基価56mgKOH/g)840部、トリレンジイソシアネート119部、及びメチルエチルケトン200部を入れ、窒素を導入しながら75℃で1時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却し、ジメチロールプロピオン酸35.6部を加え、75℃で反応させて、酸構造を含有するポリウレタンの溶液を得た。前記のポリウレタンのイソシアネート基(−NCO基)の含有量は0.5%であった。
次いで、このポリウレタンの溶液を40℃にまで冷却し、水1,500部、イソフタル酸ジヒドラジド(沸点224℃以上)120部(ポリウレタン100部に対し7部)を加え、ホモミキサーで高速撹拌することにより乳化を行った。この乳化液から加熱減圧下でメチルエチルケトンを留去し、中和されたポリウレタンの水分散体を得た。この水分散体の固形分濃度は40%であった。
さらに、この水分散体を、含まれるポリウレタンが100部となる量だけ取り分けた。取り分けた前記の水分散体に、エポキシ化合物であるグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX−313」;エポキシ当量141g/eq)15部と、平均粒子径80nmのシリカ微粒子(日産化学工業社製「スノーテックスZL」)10部と、非イオン系界面活性剤として4,7−ジヒドロキシ−2,4,7,9−テトラメチル−5−デシンのエチレンオキサイド付加物(日信化学工業社製「サーフィノール465」)と、水とを配合して、未硬化状態のウレタン樹脂として固形分濃度5%の液状の水系樹脂をコート液Aとして得た。ここで、非イオン系界面活性剤の添加量は、得られる水系樹脂に対し100ppmとなる量とした。
[実施例1]
ノルボルネン系重合体を含む熱可塑性樹脂としてZEONOR1430(日本ゼオン社製)のペレットを100℃で5時間乾燥した後、押出し機とTダイを用いて常法によりフィルム状に成形し、厚み100μmの延伸前フィルムを得た。この際、後述する延伸後の位相差フィルムの膜厚プロファイルにおいて、両方の幅方向縁部の厚みが幅方向中央部の厚みよりも2μm厚くなるように、Tダイのリップ温度及び間隙を調整しておいた。
この延伸前フィルムは、そのまま流れ方向へ連続して送られ、調整ロール間でのフロート方式を用いた縦延伸機に供給された。この縦延伸機では、140℃の温度で前記の延伸前フィルムを縦方向に1.2倍に延伸して、縦延伸フィルムを得た。
この縦延伸フィルムは、さらに流れ方向へ連続して送られ、2本のロールを備えたリバースコーターに供給された。このリバースコーターでは、縦延伸フィルムの片面にコート液Aを塗布した。この際、コート液Aの塗布量は、コート液を乾燥させた後で得られるコート層の厚みが、横延伸後において90nmとなるように、リバースコーターのロール回転数を調整した。
その後、コート液Aを塗布した縦延伸フィルムは、さらに流れ方向に連続して送られ、テンター法を用いた横延伸機に供給された。横延伸機で延伸が開始される前に縦延伸フィルムが加熱されたことにより、縦延伸フィルムに塗布されたコート液Aが乾燥して、縦延伸フィルムの表面にコート層が形成された。その後、この横延伸機で、150℃の温度で前記の縦延伸フィルムを横方向に1.4倍に延伸し、位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムは、面内レターデーションが50nm、厚み方向のレターデーションが130nmであった。
得られた位相差フィルムを、ライン速度25m/分、巻取り張力100N/m、テーパー比率5%の条件でロール状に巻き取った。巻き取った位相差フィルムは、幅1330mm、長さ3900mであった。
こうして得られた巻回体について、上述した方法により評価を行った。得られた巻回体は1ヶ月の経時後においてもブロッキング及びロール変形による表面欠陥が少なく、良好な状態であった。
[実施例2]
横延伸後に得られた位相差フィルムに対し、ロール状に巻き取る前に、当該位相差フィルムの幅方向の両方の端部から10mm以内の領域にレーザーマーカーを用いてナーリング処理を施した。このナーリング処理を施された領域には、図2及び図3に示すように、径Wが150μm、高さHが8μmの円形の凸形状部が、50個/cm2の密度で長手方向の全長に渡って形成された。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムの巻回体を製造し、評価した。得られた巻回体は1ヶ月の経時後においてもブロッキング及びロール変形による表面欠陥が少なく、良好な状態であった。
[実施例3]
位相差フィルムの幅が1490mmとなるようにした。
以上の事項以外は実施例2と同様にして、位相差フィルムの巻回体を製造し、評価した。得られた巻回体は1ヶ月の経時後においてもブロッキング及びロール変形による表面欠陥が少なく良好な状態であった。
[実施例4]
位相差フィルムの幅が1960mmとなるようにした。
以上の事項以外は実施例2と同様にして、位相差フィルムの巻回体を製造し、評価した。得られた巻回体は、1ヶ月の経時後においてもブロッキング及びロール変形による表面欠陥が少なく、良好な状態であった。
[実施例5]
横延伸後に得られた位相差フィルムに対し、ロール状に巻き取る前に、横延伸機の直後に連続して形成された緩和用オーブンを用いて、125℃で30秒間の加熱処理を行った。加熱処理を施している間、位相差フィルムにかかる搬送張力の大きさを70N/mにした。前記の搬送張力の調製は、緩和用オーブンの前後に設けられたニップロールの回転速度の比率を調整することにより行った。
以上の事項以外は実施例2と同様にして、位相差フィルムの巻回体を製造し、評価した。得られた巻回体は、1ヶ月の経時後においてもブロッキング及びロール変形による表面欠陥が少なく、良好な状態であった。
[実施例6]
加熱処理を施す時間を15秒間に変更した。
以上の事項以外は実施例5と同様にして、位相差フィルムの巻回体を製造し、評価した。得られた巻回体は、1ヶ月の経時後においてもブロッキング及びロール変形による表面欠陥が少なく、良好な状態であった。
[実施例7]
実施例2と同様にして、位相差フィルムの巻回体を得た。巻き取り完了直後に、得られた巻回体を立てて、巻回体の巻取り軸を水平方向に垂直にした。この状態で、巻回体を12時間保管した。その後、巻回体を横にして、巻回体の巻取り軸を水平方向に平行にし、巻回体の評価を行った。この巻回体は、1ヶ月の経時後においてもブロッキング及びロール変形による欠陥が少なく、良好な状態であった。
[実施例8]
実施例2と同様にして、位相差フィルムの巻回体を得た。巻き取り完了直後に、得られた巻回体を立てて、巻回体の巻取り軸を水平方向に垂直にした。この状態で、巻回体を6時間保管した。その後、巻回体を横にして、巻回体の巻取り軸を水平方向に平行にし、巻回体の評価を行った。この巻回体は、1ヶ月の経時後においてもブロッキング及びロール変形による欠陥が少なく、良好な状態であった。
[実施例9]
実施例2と同様にして、位相差フィルムの巻回体を得た。巻き取り完了直後から6時間の間、3rpmの回転速度で巻回体を周方向に回転させ続けた。この際、巻回体の巻取り軸は水平方向に平行に保った。その後、巻回体の評価を行った。この巻回体は、1ヶ月の経時後においてもブロッキング及びロール変形による欠陥が少なく、良好な状態であった。
[実施例10]
実施例2と同様にして、位相差フィルムの巻回体を得た。巻き取り完了直後から3時間の間、3rpmの回転速度で巻回体を周方向に回転させ続けた。この際、巻回体の巻取り軸は水平方向に平行に保った。その後、巻回体の評価を行った。この巻回体は、1ヶ月の経時後においてもブロッキング及びロール変形による欠陥が少なく、良好な状態であった。
[比較例1]
延伸後の位相差フィルムの膜厚プロファイルにおいて、幅方向中央部の厚みと両方の幅方向縁部の厚みとの差がゼロになるように、Tダイのリップ温度及び間隙を調整した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムの巻回体を製造し、評価した。得られた巻回体を温度25℃、湿度55%RHで1ヶ月保管した後で評価したところ、ブロッキングに起因した光学欠陥が実施例に比較して明らかに増加していることが観察された。
[比較例2]
位相差フィルムを巻き取る際のテーパー比率を30%に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムの巻回体を製造し、評価した。得られた巻回体を温度25℃、湿度55%RHで1ヶ月保管した後で評価したところ、ロールの変形に起因したシワの発生が多数確認された。
[比較例3]
延伸後の位相差フィルムの膜厚プロファイルにおいて、両方の幅方向縁部の厚みが幅方向中央部の厚みに対して2μm薄くなるように、Tダイのリップ温度及び間隙を調整した。これにより、位相差フィルムを長手方向に垂直な平面で切った断面の形状は、両端よりも中央部が厚い凸形状となった。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムの巻回体を製造し、評価した。得られた巻回体を温度25℃、湿度55%RHで1ヶ月保管した後で評価したところ、ブロッキングに起因した光学欠陥が多数確認された。
[結果]
下記の表1及び表2に、実施例及び比較例の結果を示す。表1及び表2において、「厚み」の項の値は、フィルムの幅方向中央部での厚みを示す。