以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態に係るレーザ加工方法では、加工対象物にレーザ光を集光させ、改質領域を切断予定ラインに沿って形成する。そこで、まず、改質領域の形成について、図1〜図6を参照して説明する。
図1に示すように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源(レーザ光源部)101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ(移動部)111と、レーザ光Lの出力やパルス幅、パルス波形等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部(制御部)102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部(制御部)115と、を備えている。
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成される。なお、ここでは、レーザ光Lを相対的に移動させるためにステージ111を移動させたが、集光用レンズ105を移動させてもよいし、或いはこれらの両方を移動させてもよい。
加工対象物1としては、半導体材料で形成された半導体基板や圧電材料で形成された圧電基板等を含む板状の部材(例えば、基板、ウェハ等)が用いられる。図2に示すように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示すように、加工対象物1の内部に集光点(集光位置)Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜図6に示すように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、これらが組み合わされた3次元状であってもよいし、座標指定されたものであってもよい。また、切断予定ライン5は、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面3、裏面21、若しくは外周面)に露出していてもよい。また、改質領域7を形成する際のレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されるものではなく、加工対象物1の裏面21であってもよい。
ちなみに、ここでのレーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域は表面3側から徐々に裏面側に進行する。
ところで、本実施形態で形成される改質領域7は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域7としては、例えば、溶融処理領域(一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくとも何れか一つを意味する)、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。さらに、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、さらに、それら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1としては、例えばシリコン(Si)、ガラス、LiTaO3又はサファイア(Al2O3)を含む、又はこれらからなるものが挙げられる。
また、本実施形態においては、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することによって、改質領域7を形成している。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分であり、改質スポットが集まることにより改質領域7となる。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも1つが混在するもの等が挙げられる。この改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することが好ましい。
次に、本実施形態について詳細に説明する。
図7は、本実施形態に係るレーザ加工方法を実施するレーザ加工装置を示す概略構成図である。図7に示すように、本実施形態のレーザ加工装置300は、レーザ光源(レーザ光源部)202、反射型空間光変調器203、4f光学系241及び集光光学系204を筐体231内に備えている。レーザ光源202は、例えば1080nm〜1200nmの波長を有するレーザ光Lを出射するものであり、例えばファイバレーザが用いられている。ここでのレーザ光源202は、水平方向にレーザ光Lを出射するように、筐体231の天板236にねじ等で固定されている。
反射型空間光変調器203は、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lを変調するものであり、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)が用いられている。ここでの反射型空間光変調器203は、水平方向から入射するレーザ光Lを変調して収差補正すると共に、水平方向に対し斜め上方に反射する。
図8は、図7のレーザ加工装置の反射型空間光変調器の部分断面図である。図8に示すように、反射型空間光変調器203は、シリコン基板213、駆動回路層914、複数の画素電極214、誘電体多層膜ミラー等の反射膜215、配向膜999a、液晶層216、配向膜999b、透明導電膜217、及びガラス基板等の透明基板218を備え、これらがこの順に積層されている。
透明基板218は、XY平面に沿った表面218aを有しており、該表面218aは反射型空間光変調器203の表面を構成する。透明基板218は、例えばガラス等の光透過性材料を主に含んでおり、反射型空間光変調器203の表面218aから入射した所定波長のレーザ光Lを、反射型空間光変調器203の内部へ透過する。透明導電膜217は、透明基板218の裏面218a上に形成されており、レーザ光Lを透過する導電性材料(例えばITO)を主に含んで構成されている。
複数の画素電極214は、複数の画素の配列に従って二次元状に配列されており、透明導電膜217に沿ってシリコン基板213上に配列されている。各画素電極214は、例えばアルミニウム等の金属材料からなり、これらの表面214aは、平坦且つ滑らかに加工されている。複数の画素電極214は、駆動回路層914に設けられたアクティブ・マトリクス回路によって駆動される。
アクティブ・マトリクス回路は、複数の画素電極214とシリコン基板213との間に設けられ、反射型空間光変調器203から出力しようとする光像に応じて各画素電極214への印加電圧を制御する。このようなアクティブ・マトリクス回路は、例えば図示しないX軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第1のドライバ回路と、Y軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第2のドライバ回路とを有しており、制御部250によって双方のドライバ回路で指定された画素の画素電極214に所定電圧が印加されるよう構成されている。
なお、配向膜999a,999bは、液晶層216の両端面に配置されており、液晶分子群を一定方向に配列させる。配向膜999a,999bは、例えばポリイミドといった高分子材料からなり、液晶層216との接触面にラビング処理等が施されたものが適用される。
液晶層216は、複数の画素電極214と透明導電膜217との間に配置されており、各画素電極214と透明導電膜217とにより形成される電界に応じてレーザ光Lを変調する。すなわち、アクティブ・マトリクス回路によって或る画素電極214に電圧が印加されると、透明導電膜217と該画素電極214との間に電界が形成される。
この電界は、反射膜215及び液晶層216のそれぞれに対し、各々の厚さに応じた割合で印加される。そして、液晶層216に印加された電界の大きさに応じて液晶分子216aの配列方向が変化する。レーザ光Lが透明基板218及び透明導電膜217を透過して液晶層216に入射すると、このレーザ光Lは液晶層216を通過する間に液晶分子216aによって変調され、反射膜215において反射した後、再び液晶層216により変調されてから取り出されることとなる。
このとき、制御部250(後述)によって透明導電膜217と対向する各画素電極部214a毎に電圧が印加され、その電圧に応じて、液晶層216において透明導電膜217と対向する各画素電極部214aに挟まれた部分の屈折率が変化される(各画素に対応した位置の液晶層216の屈折率が変化する)。かかる屈折率の変化により、印加した電圧に応じて、レーザ光Lの位相を液晶層216の画素毎に変化させることができる。つまり、ホログラムパターンに応じた位相変調を画素毎に液晶層216によって与える(すなわち、変調を付与するホログラムパターンとしての変調パターンを反射型空間光変調器203に表示させる)ことができる。
その結果、変調パターンに入射し透過するレーザ光Lは、その波面が調整され、該レーザ光Lを構成する各光線において進行方向に直交する所定方向の成分の位相にずれが生じる。従って、反射型空間光変調器203に表示させる変調パターンを適宜設定することにより、レーザ光Lが変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等が変調)可能となる。ここでは、加工対象物1に照射されるレーザ光Lに対し、集光点Pで生じる球面収差を補正するための球面収差補正(収差補正)が施されることになる。
4f光学系241は、反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lの波面形状を調整するものである。この4f光学系241は、第1レンズ241a及び第2レンズ241bを有している。レンズ241a,241bは、反射型空間光変調器203と第1レンズ241aとの距離が第1レンズ241aの焦点距離f1となり、集光光学系204とレンズ241bとの距離がレンズ241bの焦点距離f2となり、第1レンズ241aと第2レンズ241bとの距離がf1+f2となり、且つ第1レンズ241aと第2レンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように、反射型空間光変調器203と集光光学系204との間に配置されている。この4f光学系241では、反射型空間光変調器203で変調されたレーザ光Lが空間伝播によって波面形状が変化し収差が増大するのを抑制することができる。
集光光学系204は、4f光学系241によって変調されたレーザ光Lを加工対象物1の内部に集光するものである。この集光光学系204は、複数のレンズを含んで構成されており、圧電素子等を含んで構成された駆動ユニット232を介して筐体231の底板233に設置されている。
以上のように構成されたレーザ加工装置300では、レーザ光源202から出射されたレーザ光Lは、筐体231内にて水平方向に進行した後、ミラー205aによって下方に反射され、アッテネータ207によって光強度が調整される。そして、ミラー205bによって水平方向に反射され、ビームホモジナイザ260によって強度分布が均一化されて反射型空間光変調器203に入射する。
反射型空間光変調器203に入射したレーザ光Lは、液晶層216に表示された変調パターンを透過することにより当該変調パターンに応じて変調されて収差補正され、その後、ミラー206aによって上方に反射され、λ/2波長板228によって偏光方向が変更され、ミラー206bによって水平方向に反射されて4f光学系241に入射する。
4f光学系241に入射したレーザ光Lは、平行光で集光光学系204に入射するよう波面形状が調整される。具体的には、レーザ光Lは、第1レンズ241aを透過し収束され、ミラー219によって下方へ反射され、共焦点Oを経て発散すると共に、第2レンズ241bを透過し、平行光となるように再び収束される。そしてレーザ光Lは、ダイクロイックミラー210,218を順次透過して集光光学系204に入射し、ステージ111上に載置された加工対象物1内に集光光学系204によって集光される。
また、本実施形態のレーザ加工装置300は、加工対象物1のレーザ光入射面を観察するための表面観察ユニット211と、集光光学系204と加工対象物1との距離を微調整するためのAF(AutoFocus)ユニット212と、を筐体231内に備えている。
表面観察ユニット211は、可視光VL1を出射する観察用光源211aと、加工対象物1のレーザ光入射面で反射された可視光VL1の反射光VL2を受光して検出する検出器211bと、を有している。表面観察ユニット211では、観察用光源211aから出射された可視光VL1が、ミラー208及びダイクロイックミラー209,210,238で反射・透過され、集光光学系204で加工対象物1に向けて集光される。そして、加工対象物1のレーザ光入射面で反射された反射光VL2が、集光光学系204で集光されてダイクロイックミラー238,210で透過・反射された後、ダイクロイックミラー209を透過して検出器211bにて受光される。
AFユニット212は、AF用レーザ光LB1を出射し、レーザ光入射面で反射されたAF用レーザ光LB1の反射光LB2を受光し検出することで、切断予定ライン5に沿ったレーザ光入射面の変位データを取得する。そして、AFユニット212は、改質領域7を形成する際、取得した変位データに基づいて駆動ユニット232を駆動させ、レーザ光入射面のうねりに沿うように集光光学系204をその光軸方向に往復移動させる。
さらにまた、本実施形態のレーザ加工装置300は、当該レーザ加工装置300を制御するためのものとして、CPU、ROM、RAM等からなる制御部250を備えている。この制御部250は、レーザ光源202を制御し、レーザ光源202から出射されるレーザ光Lの出力やパルス幅等を調節する。また、制御部250は、改質領域7を形成する際、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から所定距離に位置し且つレーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように、筐体231やステージ111の位置、及び駆動ユニット232の駆動を制御する。
また、制御部250は、改質領域7を形成する際、反射型空間光変調器203における各電極部214a,217aに所定電圧を印加し、液晶層216に所定の変調パターンを表示させる。これにより、レーザ光Lが反射型空間光変調器203で所望に変調され、加工対象物1に照射されるレーザ光Lに対し所望の収差補正が施される。
なお、変調パターンは、例えば、改質領域7を形成しようとする位置、照射するレーザ光Lの波長、加工対象物1の材料、及び集光光学系204や加工対象物1の屈折率等に基づいて予め導出され、制御部250に記憶されている。この変調パターンは、レーザ加工装置300に生じる個体差(例えば、反射型空間光変調器203の液晶層216に生じる歪)を補正するための個体差補正パターン、及び球面収差を補正するための球面収差補正パターンを含んでいる。
次に、上記レーザ加工装置300を用いたレーザ加工方法について詳細に説明する。本実施形態のレーザ加工方法は、例えばCISデバイス等のイメージセンサを製造するための製造方法として用いられるものであって、加工対象物1を複数のチップに切断する。まず、レーザ加工方法の全体フローを概略説明する。
図9は本実施形態によるレーザ加工の対象となる加工対象物を示す平面図、図10,11は本実施形態におけるレーザ加工方法の各フローを示す図、図12は改質領域を形成する工程を説明するための断面図である。図9,12に示すように、加工対象物1は、シリコン基板等の半導体基板2と、当該半導体基板2の表面2a上に積層された積層部4とを具備し、板状を呈している。加工対象物1の厚さは、好ましいとして150μm〜350μmとされており、ここでは、より好ましいとして200μm又は250μmとされている。
積層部4は、絶縁層4a、金属配線4b及び表層膜4cを含んでいる。絶縁層4aは、半導体基板2の表面2a上に形成されている。この絶縁層4aは、例えばSiO2で形成され、絶縁性を有している。金属配線4bは、半導体基板2の表面2a上においてマトリックス状に並ぶ機能素子形成領域15内に、絶縁層4aで覆われるよう設けられている。この金属配線4bは、例えばアルミニウム等の金属で形成されている。表層膜4cは、絶縁層4aの外表面を覆うように設けられ、例えば金属で形成されている。
この加工対象物1の積層部4側の表面3には、隣り合う機能素子形成領域15間を通るように延びる切断予定ライン5が複数設定されている。複数の切断予定ライン5は、格子状に延在しており、加工対象物1のオリエンテーションフラット6に対して略平行な方向に沿う切断予定ライン5a、及び略垂直な方向に沿う切断予定ライン5bを含んでいる。表面3に沿う方向(厚さ方向に直交する方向)において切断予定ライン5と金属配線4bとの距離Dは、例えば25μm以内とされている。
この加工対象物1に対してレーザ加工を施す場合、図10(a)に示すように、まず、加工対象物1の表面3にBGテープ31を貼り付ける。続いて、図10(b)に示すように、表面3と反対側の裏面21がレーザ光入射面となるようにステージ111の支持台107上に加工対象物1を載置する。その後、図10(c)及び図12に示すように、制御部250によりレーザ加工装置300を制御し、複数の切断予定ライン5に沿って、収差補正したレーザ光Lを加工対象物1の裏面21から照射しつつ当該レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って移動させるスキャンを、厚さ方向における集光点位置を変えて複数回(ここでは、3回)実施する。これにより、厚さ方向の位置が互いに異なる複数列の改質領域7を、加工対象物1の内部に形成する。
具体的には、加工対象物1の内部において表面3側の位置にレーザ光Lの集光点を合わせると共に、レーザ光Lの球面収差が補正されるように反射型空間光変調器203の液晶層216に所定変調パターンを表示させる。そして、出力15μJでレーザ光Lを加工対象物1に照射しつつ、当該レーザ光Lの集光点を切断予定ライン5に沿って相対移動させる。これにより、加工対象物1内の表面3側の位置に、切断予定ライン5に沿って第1改質領域7aを一列形成する(第1改質領域形成工程)。
続いて、加工対象物1の内部において第1改質領域7aよりも裏面21側の位置にレーザ光Lの集光点を合わせると共に、レーザ光Lの球面収差が補正されるように反射型空間光変調器203の液晶層216に所定変調パターンを表示させる。そして、出力15μJでレーザ光Lを加工対象物1に照射しつつ、当該レーザ光Lの集光点を切断予定ライン5に沿って相対移動させる。これにより、加工対象物1内の第1改質領域7aよりも裏面21側の位置に、切断予定ライン5に沿って第2改質領域7bを一列形成する(第2改質領域形成工程)。
続いて、加工対象物1の内部において第2改質領域7bよりも裏面21側の位置にレーザ光Lの集光点を合わせると共に、レーザ光Lの球面収差が補正されるように反射型空間光変調器203の液晶層216に所定変調パターンを表示させる。そして、出力10μJでレーザ光Lを加工対象物1に照射しつつ、当該レーザ光Lの集光点を切断予定ライン5に沿って相対移動させる。これにより、加工対象物1内の第2改質領域7bよりも裏面21側の位置に、切断予定ライン5に沿って第3改質領域7cを一列形成する(第3改質領域形成工程)。
続いて、図10(c)及び図11(a)に示すように、加工対象物1の裏面21にダイシングテープ32を貼り付けた後、加工対象物1を上下反転して表面3が上方に位置するよう載置し、BGテープ31を取り外す。続いて、図11(b)に示すように、加工対象物1に対し裏面21側から、ダイシングテープ32を介して切断予定ライン5に沿うようにナイフエッジ33を押し当て、切断予定ライン5に沿って外部から加工対象物1に力を印加する。これにより、改質領域7を切断の起点として、加工対象物1を複数のチップ10に切断する。続いて、図11(c)に示すように、複数のチップを容易にピックアップするため、UV光(紫外線)をダイシングテープ32に照射し、ダイシングテープ32の粘着層を硬化させて粘着力を低下させる。そして、複数のチップ10がピックアップされる。
ところで、例えば加工対象物1のストリート幅を狭くした場合、従来のレーザ加工方法により切断されたチップ10では、図13に示すように、金属配線4bが絶縁層4aを突き破って外部へ溶出(流出)し、配線不良が発生するという金属配線4bの損傷(特性不良)が生じるおそれがある。
ここで、従来のレーザ加工方法により加工対象物1を切断した基本条件加工と、基本条件加工に対しレーザ光Lの出射を停止した条件で加工対象物1を切断したダミーラン加工と、基本条件加工に対し帯電防止テープやイオナイザを用いて除電処理を行って加工対象物1を切断した除電条件加工と、において金属配線4bの損傷を比較した。その結果を図14に示す。
図14中の「改質領域の表面からの距離」は、表面3から第1改質領域7aまでの距離(つまり、第1改質領域7aの下端距離)を示している。「金属配線の損傷の判定」は、所定数のチップ(例えば30チップ)中で金属配線4bの損傷が生じていない場合に“○(適)”とし、当該損傷が生じた場合に“×(不適)”とし、括弧内に損傷発生箇所数を示している。これらについては、以下の説明において同様である。
図14に示すように、金属配線4bの損傷は、レーザ光Lを照射することにより初めて発生することが見出され、静電気対策を施しても生じることがわかる。これにより、金属配線4bの損傷は、加工対象物1に対するレーザ光Lの照射に起因して生じることが見出される。特に、レーザ光Lの照射後で加工対象物1にレーザ光Lの吸収が始まる(つまり、改質領域7の形成が始まる)までの間にて加工対象物1を透過するレーザ光(いわゆる、「抜け光」)が、金属配線4bの損傷の要因であると推測される。なお、加工対象物1に改質領域7を1列のみ形成した場合にも金属配線4bの損傷が生じており、1スキャンのレーザ加工のみで特性不良が発生することも確認される。
図15は、各パラメータについて金属配線の損傷との相関を例示するグラフである。図15(a)中では、レーザ光Lの波長を1080nmとし、パルス幅を500nsとし、出力を15μJとし、収差補正有りとしている。図15(b)では、レーザ光Lの波長を1080nmとし、出力を15μJとし、収差補正有りとし、表面3から第1改質領域7aまでの距離を0μmとしている。図15(c)中では、レーザ光Lの波長を1080nmとし、収差補正有りとし、表面3から第1改質領域7aまでの距離を20μmとしている。なお、「パルス幅」とは、通常、パルス波形においてピーク値の1/2以上の値となるときの時間幅である半値幅(FWHM(Full Width at Half Maximum))を意味している。
図15(a)に示すように、金属配線4bの損傷は、表面3から第1改質領域7aまでの距離を大きくするほど発生し難い傾向を有することがわかる。これは、次のメカニズムによると考察される。すなわち、レーザ光Lの抜け光が金属配線4bの損傷に影響する場合、レーザ光Lの抜け光の影響範囲Ar及び抜け光のエネルギー密度ρEは、第1改質領域7aの形成深さによって異なる。例えば図16(a),(b)に示すように、表面3と集光点Pまでの距離を1/2にした際、レーザ光Lの抜け光の影響範囲Arは1/2(半径)に狭まるが、エネルギー密度ρEは4倍に増加する。金属配線4bの損傷は、影響範囲Arではなくエネルギー密度ρEに起因していると考えられ、よって、第1改質領域7aの形成位置(第1改質領域7aを形成する際のレーザ光Lの集光点P位置)を表面3から離す方が、金属配線4bの損傷が発生し難くなるのである。
また、図15(b)に示すように、金属配線4bの損傷は、レーザ光Lのパルス幅が小さいほど発生し難い傾向を有することがわかる。パルス幅が大きい方が金属配線4bの損傷が発生し易い要因は、例えば次の2点であると推測する。すなわち、まず第1として、例えば図17に示すように、パルス幅150nsよりもパルス幅500nsのレーザ光Lの方が、2倍のエネルギー量の抜け光が発生することが確認される。そのため、抜け光のエネルギー量が大きい長パルス幅のレーザ光Lの方が、金属配線4bの損傷が発生し易いと推測される。
なお、厚さ300μmの加工対象物1において、改質領域7を形成に必要なエネルギー量とレーザ光Lのパルス幅とは、下記の関係を有している。これによっても、改質領域7の形成するために必要なエネルギー量は、長パルス幅のレーザ光Lの方が大きいことがわかる。
パルス幅:150ns 必要エネルギー量:1.25μJ 比率:1
パルス幅:250ns 必要エネルギー量:1.5μJ 比率:1.2
パルス幅:350ns 必要エネルギー量:2μJ 比率:1.6
パルス幅:500ns 必要エネルギー量:2.5μJ 比率:2
第2として、レーザ光Lの抜け光の状態は、そのパルス幅の違いによって異なっており、パルス幅150nsではピーク出力は高いが時間的には短い抜け光が発生する一方、パルス幅500nsではピーク出力は低いが時間的に長い抜け光が発生している。金属配線4bの損傷は、ピーク出力ではなく時間的に長い抜け光に起因して発生すると推測される。
また、図15(c)に示すように、金属配線4bの損傷は、レーザ加工として通常用いられるレーザ光Lの出力域では、出力を変化させても影響がみられないことがわかる。なお、レーザ光Lの出力が6μJ以下では、金属配線4bの損傷が未発生ではあるもののレーザ加工として実用的ではない。
図18は、レーザ光のパルス波形と金属配線4bの損傷との関係を示す図である。図18(a)〜図18(d)に示す各パルス波形では、横軸が時間とされ、縦軸が出力値とされており、各パルス幅(半値幅)は互いに等しいものとされている。図18に示すように、パルス幅が互いに等しい複数のパルス波形では、立上がりの早い波形の方が金属配線4bの損傷に影響は少ないと推測される。よって、本実施形態においてレーザ光Lのパルス波形は、急峻な立上がりを有することが好ましい。
また、レーザ光Lを全て吸収する感光性樹脂(例えば融点230℃)を塗布した積層部4では、金属配線4bの損傷が発生しない場合があるという結果を得た。また、金属配線4bに使用されているアルミニウムを全面塗布した積層部4でも、金属配線4bの損傷が発生しない場合があるという結果を得た。よって、特に、本実施形態のように積層部4が絶縁層4aと金属配線4bとを含んで構成されている場合、レーザ光Lの抜け光が絶縁層4a及び金属配線4bにて干渉または反射し、光が強め合った箇所で損傷が発生している可能性がある。
図19は、改質領域の表面からの距離及びパルス幅について金属配線の損傷及び切断性能との相関を例示する表である。図19中では、レーザ光Lの波長を1080nmとし、周波数を95kHzとし、加工速度を360mm/secとし、収差補正を有りとしている。図中のグラフの各セル内には、「金属配線の損傷の判定」、「直進性の判定」及び「分断率の判定」を上から順に示している。「直進性」は、加工対象物1の切断時の直進性を示し、3μm以内の場合に“○(適)”とし、当該3μmよりも大きい場合に“×(不適)”とし、括弧内にその長さを示している。
図19中の「分断率」は、所定数のチップ(例えば30チップ)中で精度よく切断されたチップの割合を示し、100%以内の場合に“○(適)”とし、それ以外の場合に“×(不適)”とし、括弧内に分断率を示している。ちなみに、図19に示す相関は厚さ200μmの加工対象物1を対象にした結果を例示するものであるが、厚さ250μmの加工対象物1も同様の相関を有し、さらには、厚さ150μm〜350μmの加工対象物1も同様の相関を有している。
図19に示すように、レーザ光Lのパルス幅が450ns及び500nsのとき、金属配線4bに損傷が生じていることがわかる。また、レーザ光Lのパルス幅が200ns及び150nsのとき、切断能力が低下しており、直進性や分断率が不適となっていることがわかる。一方、レーザ光Lのパルス幅が250ns〜400nsのとき、切断能力を低下させることなく金属配線4bの損傷を抑制可能なことがわかる。よって、本実施形態においてレーザ光Lのパルス幅は、250ns〜400nsが好ましい。
また、第1改質領域7aの表面3からの距離が16μm以下のとき、金属配線4bの損傷及び切断能力の低下が生じていることがわかる。一方、次の場合、切断能力を低下させることなく金属配線4bの損傷を抑制できることがわかる。
パルス幅:250ns、第1改質領域7aの表面3からの距離:20μm〜40μm
パルス幅:300ns、第1改質領域7aの表面3からの距離:28μm〜40μm
パルス幅:350ns、第1改質領域7aの表面3からの距離:28μm〜48μm
パルス幅:400ns、第1改質領域7aの表面3からの距離:36μm〜48μm
よって、本実施形態において第1改質領域7aの形成位置としての表面3からの距離は、パルス幅が250nsの場合に20μm〜40μmとされ、パルス幅が300nsの場合に28μm〜40μmとされ、パルス幅が350nsの場合に28μm〜48μmとされ、パルス幅が400nsの場合に36μm〜48μmとされるのが好ましい。
なお、ここでのレーザ光Lのパルス幅の各数値は、加工上、製造上及び設計上等の誤差を有するものである。そのため、例えば図19に示す例では、第1改質領域7aの表面3からの距離は、好ましいとして、パルス幅が225ns〜275nsの場合に20μm〜40μmとされ、パルス幅が275ns〜325nsの場合に28μm〜40μmとされ、パルス幅が325ns〜375nsの場合に28μm〜48μmとされ、パルス幅が375ns〜425nsの場合に36μm〜48μmとされてもよい。
また、次に示すように、レーザ光Lのパルスピッチについては、金属配線4bの損傷に対し影響はみられないことがわかる。
パルスピッチ:2.25μm、金属配線4bの損傷箇所:14箇所
パルスピッチ:3.75μm、金属配線4bの損傷箇所:17箇所
パルスピッチ:5.25μm、金属配線4bの損傷箇所:15箇所
但し、パルス幅500ns、出力15μJ、表面3から第1改質領域7aまでの距離20μm
また、次に示すように、レーザ光Lの収差補正の有無についても、金属配線4bの損傷に対し影響はみられないことがわかる。
パルス幅:500ns、収差補正:有り、金属配線4bの損傷箇所:17箇所
パルス幅:500ns、収差補正:無し、金属配線4bの損傷箇所:12箇所
パルス幅:150ns、収差補正:有り、金属配線4bの損傷箇所:0箇所
パルス幅:150ns、収差補正:無し、金属配線4bの損傷箇所:0箇所
また、レーザ光Lの波長を1080nmよりも小さくすると、加工対象物1に対するレーザ光Lの透過性が不十分となり、改質領域7を精度よく形成するのが困難となる。また、例えばレーザ光Lの波長を1080nmよりも小さい1064nmとすると、加工対象物1の材質や厚さ等に起因して、分断率を維持するためにスキャン本数(厚さ方向における改質領域7の列数)を増やす必要がある。つまり、切断能力が低下する場合があり好ましくない。他方、レーザ光Lの波長を1200nmよりも大きく(例えば1300nm)すると、加工対象物1に対するレーザ光Lの透過率が高まることから、レーザ光Lが金属配線4bに悪影響を及ぼすおそれが高まるため、所定数のチップ(例えば30チップ)中で金属配線4bの損傷が100箇所以上発生する場合があり、好ましくない。よって、本実施形態においてレーザ光Lの波長は、1080nm〜1200nmであることが好ましい。
図20は、加工条件毎の判定結果の一例を示す表である。図20中の記載の意味は、上記図19と同様であり、「深さ位置」は厚さ方向における加工対象物1の形成位置を意味している。ちなみに、図20に示す相関は厚さ250μmの加工対象物1を対象にした結果を例示するものであるが、厚さ200μmの加工対象物1も同様の相関を有し、さらには、厚さ150μm〜350μmの加工対象物1も同様の相関を有している。
図20に示すように、第1加工条件のとき、分断率が不適となっており、また、第3加工条件のとき、金属配線4bに損傷が生じていることがわかる。一方、第2加工条件のとき、切断能力を低下させることなく金属配線4bの損傷を抑制可能なことがわかる。よって、本実施形態において加工条件の一例は、パルス幅が350ns、パルスピッチが3.75μm、改質領域7の表面3からの距離が35μm、レーザ光Lの出力が15μJ、第1改質領域7aの深さ位置がレーザ光入射面から41μm、第2改質領域7bの深さ位置がレーザ光入射面から29μm、及び、第3改質領域7cの深さ位置がレーザ光入射面から9μm、の一部又は全部を含むことが好ましい。
以上、本実施形態のレーザ加工方法では、切断の起点となる改質領域7を切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成する際、レーザ光Lのパルス幅を250ns〜400nsとしている。これにより、切断能力を維持した状態において、レーザ光Lのパルス幅と金属配線4bの損傷との上記傾向を利用し当該損傷の発生を防ぐことができる。すなわち、本実施形態によれば、切断能力を低下させることなく金属配線4bの損傷を抑制することが可能となる。その結果、例えば、金属配線4bの特性不良を生じさせることなく、入射裏面である表面3に至る亀裂(いわゆるBHC:Bottom side Half-Cut)を切断予定ライン5に対し蛇行しないよう綺麗に発生させ、加工対象物1を複数のチップ10へと精度よく割断可能となる。
また、本実施形態では、上述したように、レーザ光Lが1080nm〜1200nmの波長を有している。これにより、切断能力を低下させることなく金属配線4bの損傷を抑制する上記作用効果が好適に奏される。これは、上述したように、レーザ光Lの波長を1080nmよりも小さくすると、加工対象物1に対するレーザ光Lの透過性が不十分となり、改質領域7を精度よく形成するのが困難となる一方、レーザ光Lの波長を1200nmよりも大きくすると、加工対象物1に対するレーザ光Lの透過率が高まり過ぎ、レーザ光L及びその抜け光が金属配線4bに悪影響を及ぼすおそれが高まるためである。
また、本実施形態では、上述したように、第1改質領域7aの形成位置は次の位置が好ましい。すなわち、パルス幅が250nsの場合、表面3からの距離が20μm〜40μmの位置とし、パルス幅が300nsの場合、表面3からの距離が28μm〜40μmの位置とし、パルス幅が350nsの場合、表面からの距離が28μm〜48μmの位置とし、パルス幅が400nsの場合、表面からの距離が36μm〜48μmの位置とすることが好ましい。これにより、第1改質領域7aを形成する際のレーザ光Lのパルス幅と金属配線4bの損傷との間の上記傾向だけでなく、第1改質領域7aの位置と金属配線4bの損傷との間の上記傾向(つまり、第1改質領域7aの位置を表面3から遠ざけると、金属配線4bの損傷が低減するという傾向)をも、切断能力との関係で好適に利用することができる。その結果、切断能力を低下させることなく金属配線4bの損傷を抑制するという上記作用効果を、効果的に発揮させることが可能となる。
図21は、本実施形態によるレーザ加工後の加工対象物の切断面を例示する写真図である。図21に示すように、本実施形態では、加工対象物1を精度よく切断できることを確認することができる。さらに、第1改質領域7aから表面3に到達するツイストハックルの発生が抑制され、加工対象物1の切断時における直進性の悪化が抑制可能であることがわかる。
図22は、本実施形態によるレーザ加工後の加工対象物の切断面を例示する他の写真図である。図22に示す例では、改質領域7bを挟んで表面3側(レーザ光入射面側とは反対側)に、切断予定ライン5に沿って相互に離隔するように複数の微小空洞Vが形成されている。つまり、本実施形態の上記第2改質領域形成工程では、当該微小空洞Vが生じるように第2改質領域7bを形成している。これにより、切断予定ライン5から外れた不必要な割れが生じ難くなり、割断制御が容易となると共に、改質領域7と微小空洞Vとの間における応力分布によって加工対象物1を容易に切断することができる。
なお、微小空洞Vは、加工対象物1の内部のみにおいて形成されており、その周囲の結晶構造が実質的に変化していないものである。加工対象物1がシリコン単結晶構造の場合には、微小空洞Vの周囲はシリコン単結晶構造のままの部分が多い。この微小空洞Vは、改質領域7と連続して形成される場合もある。
ちなみに、切断予定ライン5が金属配線4bに近いほど金属配線4bの損傷が生じ易いことが見出されるため、切断予定ライン5と金属配線4bとの距離D(図12参照)が25μm以内である本実施形態の場合、金属配線4bの損傷が特に生じ易い。よって、本実施形態では、金属配線4bの損傷を抑制するという上記作用効果は顕著となる。
また、本実施形態では、上記第1改質領域形成工程において、表面3に至る亀裂(いわゆるBHC)が生じないように第1改質領域7aを形成することができる一方、上記第2改質領域形成工程では、表面3に至る亀裂が生じるように第2改質領域7bを形成することができる。これにより、金属配線4bの損傷を抑制しつつ当該表面3に至る亀裂を利用して加工対象物1を確実に切断することができ、高い切断能力を確保することが可能となる。
図23は本実施形態のレーザ加工による改質領域の形成工程を詳説する図であり、図24は図23の続きを示す図であり、図25は従来のレーザ加工による改質領域形成工程を詳説する図である。図23,24に示すように、本実施形態では、例えば以下に説明するように、表面3に至る亀裂が生じないよう第1改質領域7aを形成し、その直後のスキャンにより表面3に至る亀裂が生じるよう第2改質領域7bを形成することができる。
すなわち、上記第1改質領域形成工程により、図23(a),(b)に示すように、加工対象物1内の表面3側に切断予定ライン5に沿って第1改質領域7aを一列形成し、厚さ方向に沿って延びる第1亀裂C1を第1改質領域7aを起点に生じさせる。この第1亀裂C1は、表面3に至らない(露出しない)、つまり、その表面3の先端が表面3よりも内側で加工対象物1内に留まっている内部亀裂状態とされる。
続いて、上記第2改質領域形成工程により、図24(a),(b)に示すように、加工対象物1内の第1改質領域7aよりも裏面21側の位置に切断予定ライン5に沿って第2改質領域7bを一列形成し、厚さ方向に沿って延びる第2亀裂C2を、第1亀裂C1と繋がる(連続する)ように第2改質領域7bを起点に生じさせる。このように第2亀裂C2が第1亀裂C1に繋がることにより、第2亀裂C2の裏面21側が厚さ方向に沿って伸展されると共に、第1亀裂C1の表面3側が厚さ方向に沿って伸展され、当該第1亀裂C1が表面3に至る。その結果、図24(c)に示すように、表面3に到達するツイストハックルを生じさせることなく、切断予定ライン5に沿って真っ直ぐ延びるように表面3に至る亀裂CBHCが発生されることとなる。
一方、図25(a),(b)に示すように、加工対象物1内の表面3側の位置に切断予定ライン5に沿って改質領域7を一列形成する際に、表面3に至る亀裂CBHCを発生させると、例えば当該亀裂CBHCは直接的に改質領域7を起点に形成されることから、その発生メカニズムが改質領域7の形成のみに強く依存するため、ツイストハックルTwが発生して当該ツイストハックルTwが表面3に到達し易い。この場合、図25(c)に示すように、切断予定ライン5に対してCBHCが例えば4μm以上蛇行してしまい、加工対象物1を切断する際に切断予定ライン5に沿って真っ直ぐ綺麗に割断される特性である直進性が、悪化してしまう懸念がある。
この点、本実施形態によれば、上記のように第2改質領域7aの形成の際に初めて表面3に至る亀裂CBHCを生じさせており、よって、表面3に到達するツイストハックルTwの発生を抑制でき、表面3に至る亀裂CBHCの蛇行を抑制できる。その結果、加工対象物1の直進性の悪化を抑制することが可能となる。
また、第2改質領域7aの形成時における第1亀裂C1の伸展は、結晶の劈開方向に沿う伸展が支配的なものになることから、表面3に至る亀裂CBHCは真っ直ぐ延び易い。このことからも、表面3に至る亀裂CBHCの蛇行を抑制して当該亀裂CBHCを綺麗に延在させ、加工対象物1の直進性の悪化を抑制できる。
また、加工対象物1(半導体基板2)が厚さ方向に劈開方向を有する場合、第1亀裂C1の伸展は劈開方向である厚さ方向に沿って真っ直ぐ延在し易いものとなり、よって、加工対象物1の直進性の悪化を一層抑制することができる。
また、本実施形態では、表面3に至る亀裂が生じないよう第1改質領域7aを形成することから、加工対象物1において第1改質領域7aを表面3から遠ざけることができる。その結果、第1改質領域7aの形成位置と金属配線4bの損傷との上記傾向から、金属配線4bの損傷を抑制することが可能となる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
例えば、上記実施形態では、第1〜第3改質領域7a〜7cをこの順に形成したが、これに限定されず、加工対象物1に形成される複数の改質領域7の形成順序は順不同である。また、上記実施形態では、加工対象物1の内部において厚さ方向の位置が互いに異なる改質領域7を4列以上形成する場合もあるし、第2及び第3改質領域7b,7cの少なくとも一方を形成しない場合もある。また、上記積層部4においては、金属配線4bとは別の1つ又は複数の金属配線がさらに積層配置されていてもよい。
また、上記実施形態では、反射型空間光変調器203を設けず、反射型空間光変調器203によるレーザ光Lの収差補正を行わない場合もある。なお、本発明は、上記レーザ加工方法によりチップを製造するレーザ加工装置として捉えることもでき、また、上記レーザ加工方法により製造されたチップとして捉えることもできる。
また、上記実施形態では、加工の対象となる加工対象物1は積層部4を具備しないものであってもよい。また、上記実施形態では、「レーザ光入射面」を裏面21とし、「レーザ光入射面とは反対の表面」を表面3としたが、表面3が「レーザ光入射面」とされる場合、裏面21が「レーザ光入射面とは反対の表面」とされる。また、上記実施形態では、表面3に至る亀裂CBHCが発生させたが、表面3及び裏面21に至る亀裂を発生させてもよい。