この発明に係る車両の走行制御装置は、動力源と駆動輪との動力の伝達を遮断して惰性走行している時に変速制御が行われた場合に、変速するために制御されるアクチュエータの制御量を学習することを禁止するものである。その制御の一例を図1に示している。図1に示すフローチャートは所定時間毎に繰り返し実行されており、先ず、動力源と駆動輪との動力の伝達を遮断して惰性走行する制御(N惰行制御)を実行中か否かを判断する(ステップS1)。このN惰行制御は、係合装置によって動力源と駆動輪との動力の伝達を遮断して惰性走行していればよく、動力源がアイドル回転数で回転していてもその回転を停止していてもよい。また、図1に示すN惰行制御は、動力源と駆動輪との動力の伝達を遮断し始める時点から、再度、動力源と駆動輪との動力の伝達を係合し終わる時点までの制御を示している。すなわち、動力源と駆動輪とが完全には係合されていない状態を含むものである。以下の説明では、動力源と駆動輪との動力の伝達を遮断した状態で惰性走行している場合を例に挙げて説明する。
動力源と駆動輪とが動力を伝達して走行する通常走行時であって、上記ステップS1で否定的に判断された場合には、このルーチンを一旦終了する。一方、N惰行制御を実行中であってステップS1で肯定的に判断された場合には、変速するために制御されるアクチュエータの制御量の学習を禁止する(ステップS2)。ついで、アクチュエータの故障やロックアップクラッチの故障を判定することを禁止して(ステップS3)、このルーチンを一旦終了する。なお、図1に示す例では、アクチュエータの制御量を学習することを禁止する手段と、アクチュエータやロックアップクラッチの故障を判定することを禁止する手段とを直列的に行うように構成されているが、それら各手段を並列的に、あるいは個別に行ってもよい。
上述したようにこの発明で対象とする車両は、動力源と駆動輪との動力の伝達を遮断して惰性走行することができるものであって、その車両の構成の一例を模式的に示すと図2のとおりである。図2に示す車両は、動力源1の出力軸2にトルクコンバータ3を介して有段変速機4が連結され、その有段変速機4の出力部材5が図示しない駆動輪に連結されている。なお、図2に示す車両は、前輪に動力を伝達するように構成されたものであってもよく、後輪に動力を伝達するように構成されたものであってもよい。
その動力源1の一例としては、ガソリンエンジンあるいはディーゼルエンジンなどの内燃機関である。なお、以下の説明では、単にエンジン1と記す。そのエンジン1の出力軸2には、トルク増幅機能を有したトルクコンバータ3が連結され、トルクを増幅するいわゆるコンバータ領域以外で、エンジン1の出力トルクを直接トルクコンバータ3の出力軸6に伝達するためのロックアップクラッチ7が設けられている。具体的には、エンジン1の出力軸2と一体となって回転するポンプインペラー8と、そのポンプインペラー8が回転することにより生じた流体流によって動力が伝達されて回転し、出力軸6に動力を出力するタービンランナー9と、ケース10と連結されたワンウェイクラッチ11によって回転方向を一方に制限されポンプインペラー8からタービンランナー9に向けて流動する流体の流れ方向を定めるステータ12とによってトルクコンバータ3が形成されている。
また、ロックアップクラッチ7は、タービンランナー9と動力伝達可能に連結された円板状の部材によって構成されており、表裏両面の油圧差によって軸線方向に移動して、トルクコンバータ3の入力部材と一体となって回転することで、トルクコンバータ3を介さずに直接エンジン1の出力軸2からトルクコンバータ3の出力軸6へ動力を伝達するように構成されている。具体的には、ロックアップクラッチ7におけるエンジン1側(図2に示す左側)の油圧が、トルクコンバータ3側(図2に示す右側)の油圧より低くなり、ロックアップクラッチ7とポンプインペラー8とが一体となって回転することにより、エンジン1の出力軸2からトルクコンバータ3の出力軸6へ直接動力が伝達されるように構成されている。なお、図2に示す例では、ロックアップクラッチ7と出力軸6とは、円周方向に伸縮するようにバネを配置したトーショナルダンパ13を介して動力伝達可能に連結されている。
上述したように構成されたロックアップクラッチ7の係合および開放を制御する油圧回路の一例としては、まず、ロックアップクラッチ7を係合あるいは開放させるための制御を行う際に、常時、所定の油圧を出力するソレノイドバルブSLと、ロックアップクラッチ7を係合させる方向に荷重を作用させる油圧を制御するロックアップ用ソレノイドバルブSLUとを備えている。具体的には、ロックアップ用ソレノイドバルブSLUから出力される油圧を増大させることによってロックアップクラッチ7を係合させる方向に荷重を作用させるように構成されている。したがって、ロックアップ用ソレノイドバルブSLUの油圧を制御することによって、ロックアップクラッチ7を係合あるいは開放させたり、入力軸2と出力軸6との回転数に差が生じるようにスリップさせて動力を伝達するようにしたりすることができる。言い換えると、ロックアップ用ソレノイドバルブSLUによってロックアップクラッチ7の伝達トルク容量を制御することができるように構成されている。
そして、トルクコンバータ3の出力軸6には、複数の係合装置のうち2つの係合装置を選択的に係合させることによって変速段を設定する有段変速機4が連結されている。この有段変速機4は、エンジン回転数を変更したりエンジン1から出力されたトルクを増減させたりするものであって、従来知られた有段変速機と同様の構成とすることができる。
以下、図2に示す有段変速機4の構成について具体的に説明する。図2に示す有段変速機4は、シングルピニオン型の遊星歯車機構14と、ラビニョウ型の遊星歯車機構15とを有するものであって、前進6段および後進1段の変速段を設定することができるものである。図2に示すシングルピニオン型の遊星歯車機構14は、トルクコンバータ3の出力軸6に連結されたサンギヤSと、そのサンギヤSと同心円上に配置されたリングギヤRと、サンギヤSおよびリングギヤRと噛み合うピニオンギヤPと、そのピニオンギヤPを自転および公転可能に保持するキャリヤCとによって構成されている。なお、トルクコンバータ3の出力軸6は、有段変速機4の入力軸として機能するため、以下の説明では、入力軸6と記す場合もある。
つぎに、図2に示すラビニョウ型の遊星歯車機構15の構成について説明する。図2に示すラビニョウ型の遊星歯車機構15は、シングルピニオン型の遊星歯車機構16とダブルピニオン型の遊星歯車機構17とを複合させて構成した4要素の複合遊星歯車機構である。具体的には、中空状に形成され、かつ上記キャリヤCと一体となって回転するように連結されたサンギヤSfと、後述するクラッチC2を係合することによって上記入力軸6と一体となって回転するリングギヤRrと、サンギヤSfと噛み合い比較的短く形成されたショートピニオンギヤPsと、ショートピニオンギヤPsおよびリングギヤRrのそれぞれに噛み合い比較的長く形成されたロングピニオンギヤPlと、ショートピニオンギヤPsおよびロングピニオンギヤPlを自転および公転可能に保持するキャリヤCrと、後述するクラッチC1を係合することによって入力軸6と一体となって回転しかつ上記ロングピニオンギヤPlと噛み合うサンギヤSrとによって構成されている。すなわち、サンギヤSr、ロングピニオンギヤPl、キャリヤCrおよびリングギヤRrによってシングルピニオン型の遊星歯車機構16が構成され、サンギヤSf、ショートピニオンギヤPs、ロングピニオンギヤPl、キャリヤCrおよびリングギヤRrによってダブルピニオン型の遊星歯車機構17が構成されている。言い換えると、シングルピニオン型の遊星歯車機構16とダブルピニオン型の遊星歯車機構17とにおけるロングピニオンギアPlとリングギヤRrとキャリヤCrとが共用されている。このように構成されたラビニョウ型の遊星歯車機構15は、サンギヤSf,SrとキャリヤCrとリングギヤRrとが、ラビニョウ型の遊星歯車機構15を構成する部材以外に連結された回転要素として機能する、いわゆる4要素の遊星歯車機構によって構成されている。
そして、入力軸6とラビニョウ型の遊星歯車機構15を構成する回転要素とを、選択的に係合あるいは解放することができるクラッチ、および係合することにより各回転要素を回転不能にするブレーキが複数設けられている。図2に示す例では、入力軸6とサンギヤSrとを選択的に連結あるいは開放するクラッチC1と、入力軸6とリングギヤRrとを選択的に連結あるいは開放するクラッチC2と、キャリヤCとケース10とを選択的に連結してキャリヤCの回転を停止させるブレーキB1と、リングギヤRrとケース10とを選択的に連結してリングギヤRrの回転を停止させるブレーキB2と、リングギヤRとケース10とを選択的に連結してリングギヤRの回転を停止させるブレーキB3とが設けられている。また、リングギヤRrにおける回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチF1が設けられている。
また、クラッチやブレーキは、油圧に応じて係合力を制御することができる係合装置であって、各クラッチやブレーキには、それぞれ図示しない油圧アクチュエータが付設されている。なお、以下の説明では、油圧アクチュエータを含んで、単にクラッチあるいはブレーキと記す。各クラッチやブレーキのそれぞれには、油圧を制御するためのソレノイドバルブが連結されている。具体的には、クラッチC1の油圧を制御するための第1ソレノイドバルブSL1と、クラッチC2の油圧を制御するための第2ソレノイドバルブSL2と、ブレーキB1の油圧を制御するための第3ソレノイドバルブSL3と、ブレーキB3の油圧を制御するための第4ソレノイドバルブSL4とが設けられている。なお、以下の説明では、前進走行する時における各クラッチやブレーキの制御を説明するため、主に後進走行時に係合させられるブレーキB2の説明を省略する。
図2に示す有段変速機は、2つの係合装置を係合することによってそれぞれの変速段が設定されるように構成されている。図3は、図2に示す有段変速機で変速段を設定する際に係合させられるそれぞれの係合装置を示す作動表であり、図3に示す「○」は、係合させる係合装置を示している。また、図3には、各変速段を設定する際に制御される各ソレノイドバルブを示しており、係合装置を係合させるために油圧を出力している状態を「○」で示している。なお、図3に示す「△」は、ロックアップ用ソレノイドバルブSLUがロックアップクラッチ7の係合力を制御するために油圧を出力している状態(所定の滑り率で係合している状態を含む)を示している。
図3に示すように、クラッチC1とワンウェイクラッチF1とが係合することによって前進第1速が設定される。なお、ワンウェイクラッチF1は、リングギヤRrの逆回転(エンジン1の回転とは反対方向の回転)を阻止するように係合しているので、これとは反対方向のトルクがリングギヤRrに作用するとワンウェイクラッチF1は開放する。このような状態ではリングギヤRrに反力が作用しないことによりエンジンブレーキ力が生じないので、エンジンブレーキを可能にするためには、特に作動表に図示していないがブレーキB2が係合させられる。また、クラッチC1とブレーキB1とを係合させることによって前進第2速が設定され、クラッチC1とブレーキB3とを係合させることによって前進第3速が設定され、クラッチC1とクラッチC2とを係合させることによって直結段である前進第4速が設定され、クラッチC2とブレーキB3とを係合させることによって前進第5速が設定され、クラッチC2とブレーキB1とを係合させることによって前進第6速が設定される。また、前進第2速から前進第6速では、ソレノイドバルブSLから油圧が出力されるとともに、ロックアップ用ソレノイドバルブSLUから走行状態に応じてロックアップクラッチ7を完全に係合させたり所定の滑り率でスリップさせながら動力を伝達したりするように構成されている。
また、図2に示す車両には、車速を検出するセンサ、アクセルペダルの開度などの操作量を検出するセンサ、トルクコンバータ3の出力軸6の回転数、より具体的にはトルクコンバータ3を構成するタービン9の回転数を検出するセンサ、エンジン回転数を検出するセンサ、ロックアップクラッチ7の表裏両面の油圧を検出するセンサなどの種々のセンサが設けられており、それらのセンサで検出した信号が、図示しない電子制御装置(ECU)に入力される。そのECUは、入力された信号を一時的に保存するRAM、予め実験やシミュレーションなどによって用意されたマップや演算式が保存されたROM、入力された信号などから種々の演算を行うCPUなどを備えている。そして、その入力された信号に基づいて変速段を設定するために係合させるクラッチやブレーキなどの係合装置を選択して、その選択された係合装置を係合させる信号を出力したり、エンジン1への燃料の供給量を制御したりする。
上記のように各変速段は、クラッチおよびブレーキの係合装置を2つ係合させることによって設定される。言い換えると、各変速段を設定するために係合される係合装置のうち少なくとも一つの係合装置を開放すると、エンジン1と駆動輪との動力伝達が遮断される。つまり、ニュートラル状態となる。したがって、各変速段を設定する係合装置のうち少なくとも一つの係合装置を開放することによって、エンジン1と駆動輪との動力伝達を遮断することができるので、エンジン1から出力された動力を駆動輪に伝達することが要求されて走行している状態から、その動力の伝達が要求されなくなった場合あるいは設定されている走行モードなどの条件に応じて、その走行時における変速段を設定する係合装置の一つを解放してニュートラル状態とし、車両の走行慣性力によって惰性走行することができる。こうすることにより、エンジン1をアイドル回転数で運転したりエンジン1の回転を停止したりすることができ、その結果、燃費を向上させることができる。なお、係合装置を開放してニュートラル状態として走行慣性力で惰性走行することを、以下の説明ではニュートラル惰性走行(N惰行)と記す場合がある。
図2に示す車両では、前進第1速から直結段である前進第4速までは、クラッチC1が共通して係合されており、直結段である前進第4速より変速比が小さい前進第5速と前進第6速とは、クラッチC2が共通して係合されている。そのため、図2に示す車両では、ニュートラル惰性走行する際に、前進第1速から前進第4速までの変速段ではクラッチC1を開放し、前進第5速と前進第6速との変速段ではクラッチC2を開放するように構成されている。そして、クラッチC1やクラッチC2を開放してニュートラル惰性走行している状態で車速が変化すると、その車速に応じて変速段へ変速するように構成されている。具体的には、前進第3速で走行している状態でニュートラル惰性走行を開始して、車速が増大した場合には、ニュートラル惰性走行状態を維持しつつ前進第4速に変速する。すなわち、前進第3速でニュートラル惰性走行を開始して、クラッチC1が開放され、その後に、車速が増大して前進第4速に変更される場合には、ブレーキB3を開放しつつ、クラッチC2を係合させる。言い換えると、ニュートラル惰性走行させるために開放される係合装置を除く他の係合装置のみを切り替えることによって、ニュートラル惰性走行させるために開放された係合装置のみを係合することで設定されるべき変速段となるように係合装置を切り替えて変速する。このようにニュートラル惰性走行しているときに、車速に応じて変速段を変更しておくことによって、アクセルやブレーキが操作されてエンジン1と駆動輪とを動力伝達可能に連結するときに、一つの係合装置を係合するのみでその走行状態に応じた変速段とすることができ、その結果、加速あるいは減速の応答性を向上させることができる。なお、変速するか否かの判断は、従来知られた変速線図に基づいて行うことができる。すなわち、変速線図におけるスロットル開度を0とすることによって車速に基づいて変速段を定めることができる。
図4は、エンジン1と駆動輪とが動力伝達可能に連結されている時にアクセルペダルが戻されて前進第3速から前進第4速へ変速する時の変速制御に基づいて、ニュートラル惰性走行時に変速した場合のタービン回転数NT 、クラッチC1の油圧(C1圧)、ブレーキB3の油圧(B3圧)、クラッチC2の油圧(C2圧)の変化を示すタイムチャートである。また、図4には、ニュートラル惰性走行時に設定されている変速段の変速比と車速とから算出される理論上のタービン回転数(NOGEAR)の変化を破線で示している。図4に示すようにニュートラル惰性走行している時には、タービン9と駆動輪との動力の伝達が遮断されているので、タービン回転数NT は特に変化することなく一定に保たれている。また、前進第3速であっても前進第4速であっても、クラッチC1は開放されているので、図4に示す例では所定の油圧に維持されている。なお、クラッチC1が所定の油圧に維持されるのは、アクセルやブレーキが操作された時にクラッチC1を係合させる場合に、そのクラッチC1の応答遅れを抑制もしくは防止するためであって、クラッチC1が動力を伝達する直前の油圧に設定されている。
そして、変速する信号が出力されて変速が開始されると、ブレーキB3の油圧を一旦所定の油圧まで低下させ、その後、一定の変化率で減少させながら油圧を0まで低下させる。一方、変速が開始されると、クラッチC2が動力を伝達することができる程度まで一旦油圧が増大させられた後に、所定の油圧に維持されてから徐々に油圧が増大させられる。そして、変速が開始されてから所定時間経過した後に、クラッチC2が完全に係合することができる油圧まで増大させられる。すなわち、ブレーキB3を開放させつつクラッチC2を係合させるクラッチツウクラッチ制御によって係合させる係合装置が切り替えられる。なお、ニュートラル惰性走行時における変速では、変速前後であっても有段変速機の入力側の回転数、すなわちタービン回転数NT が変化することがなく、クラッチやブレーキが係合あるいは開放されたことを検出することができない。そのため、変速に伴って回転数が変化する回転部材の慣性力などによって車両にショックが生じないように実験やシミュレーションなどによって用意されたマップなどに従って係合装置の油圧を変化させる。
上述したように係合装置を切り替えて変速することに伴って、理論上のタービン回転数NOGEARが図4に示すように徐々に低下し変速が終了すると、その理論上のタービン回転数NOGEARは変速後の変速段である前進第4速の変速比と車速とから算出される回転数となる。
一方、エンジン1と駆動輪とが動力伝達可能に連結された状態で走行している時にアクセルペダルの踏み込み量が減少することによって変速する場合には、センサによって検出されたタービン回転数NT と、変速後の変速段の変速比と車速とから算出される理論上の回転数NOGEARとの差や、タービン回転数NT の変化率から油圧の補正量を学習する。そのように変速時における油圧を学習して補正することによって、油圧制御性を向上させることができる。しかしながら、ニュートラル惰性走行している時には、変速を行うか否かに拘わらずタービン回転数NT が一定に維持されるため、上述したように油圧の補正量を学習してしまうと、却って油圧の制御性が悪化してしまう可能性がある。そのため、この発明に係る車両の走行制御装置では、ニュートラル惰性走行している時に変速を行った場合には、変速に伴う油圧の学習を禁止するように構成されている。
また、エンジン1と駆動輪とが動力伝達可能に連結された状態で走行している時にアクセルペダルの踏み込み量が増大することによって変速する場合には、係合側のクラッチの油圧、すなわち前進第3速から前進第4速に変速する場合であればクラッチC2の油圧は、センサによって検出されたタービン回転数NT と、理論上のタービン回転数NOGEARとの差の変化量、言い換えるとタービン回転数NT の変化率から油圧の補正量を学習する。さらに、開放側のクラッチ、すなわち前進第3速から前進第4速に変速する場合であればブレーキB3の油圧は、イナーシャ相の開始までのタービン9が吹き上がっている時間、すなわち理論上のタービン回転数NOGEARよりセンサによって検出されたタービン回転数NT が大きいときの時間に基づいて油圧の補正量を学習する。そのような変速制御に基づいてニュートラル惰性走行中に変速した場合のブレーキB3およびクラッチC2の油圧の変化を図5に示している。上述したように係合側のクラッチと開放側のクラッチとは、それぞれセンサによって検出されたタービン回転数NT に基づいて油圧の補正量を学習するように構成されている。そのため、ニュートラル惰性走行している場合では、変速の前後でタービン回転数NT が変化することがないので、上記のように学習してしまうと却って油圧の制御性が悪化してしまう可能性がある。そのため、この発明に係る車両の走行制御装置では、ニュートラル惰性走行している時に変速を行った場合には、変速に伴う油圧の学習を禁止するように構成されている。
上述したようにニュートラル状態とするためのクラッチの入力側に設けられたタービン回転数と、車速と変速比とから算出される回転数(NOGEAR)とに基づいてアクチュエータの制御量を学習する場合には、ニュートラル状態にすることに伴って、タービン回転数と理論上のタービン回転数NOGEARとが独立していることにより、アクチュエータの制御量を誤学習してしまう可能性がある。そのため、この発明に係る車両の走行制御装置では、ニュートラル惰性走行時に変速した場合には、その変速に伴うアクチュエータの制御量を学習することを禁止するように構成されている。
また、エンジン1と駆動輪とが動力伝達可能に連結されて走行している通常走行時において前進第5速や前進第6速に変速する信号を出力したときに、第1ソレノイドバルブSL1が故障してクラッチC1が開放することができない場合には、クラッチC1とクラッチC2とが共に係合させられることとなるため、実際の変速段が前進第4速となる。なお、実際の変速段は、所定の車速未満で走行している時には、タービン回転数NT と車速との比から有段変速機における変速比を算出して、その変速比から変速段を判断することができ、所定車速以上で走行している場合には、センサによって検出されたタービン回転数NT と理論上のタービン回転数NOGEARとの差が所定の回転数の範囲となるように理論上のタービン回転数NOGEARを求めるための変速段から判断することができる。そのため、通常走行時においては、前進第5速や前進第6速に変速する信号を出力したものの、実際の変速段が前進第4速となるときに、第1ソレノイドバルブSL1が油圧の供給を停止することができないような故障が生じていると判定するように構成されている。
一方、ニュートラル惰性走行時には、前進第5速や前進第6速では、クラッチC2を開放するように構成されている。したがって、ニュートラル惰性走行中に、第1ソレノイドバルブSL1がクラッチC1を開放させることができないような故障が生じている場合であっても、前進第5速や前進第6速に変速するように信号を出力したとしても、実際の変速段が前進第4速となることがなく、第1ソレノイドバルブSL1の故障を判定することができない。
さらに、通常走行時において、第1ソレノイドバルブSL1への指示圧が最大であり、タービン吹きを検出しており、かつ現在出力されている変速段の信号と実際の変速段とが一致していない状態が連続して繰り返し判断された場合に、第1ソレノイドバルブSL1がクラッチC1を開放させることができないような故障が生じていると判断する。なお、タービン吹きは、センサによって検出されたタービン回転数NT が、理論上のタービン回転数NOGEARに誤差あるいは許容される回転数である所定値を加えた回転数以上か否かによって判断することができる。
一方、ニュートラル惰性走行時には、エンジン1と駆動輪との動力の伝達が遮断されており、そのため、センサによって検出されるタービン回転数NT は、エンジン回転数に基づいて定められる。したがって、低速で走行している場合などにおいては、特に第1ソレノイドバルブSL1が故障していない場合であっても、センサによって検出されるタービン回転数NT が、理論上のタービン回転数NOGEARと所定値とを加えた回転数以上となる可能性がある。その結果、第1ソレノイドバルブSL1が故障していると誤判定してしまう可能性がある。
上述したようにニュートラル惰性走行時には、エンジン1と駆動輪との動力の伝達を遮断しているため、エンジン回転数に起因して変化するタービン回転数に基づいてソレノイドバルブの故障の有無を判定してしまうと、故障の有無を誤判定してしまう可能性がある。そのため、図1に示す制御例では、ニュートラル惰性走行している間は、アクチュエータの故障を判定することを禁止するように構成されている。
また、通常走行時には、設定されるべき変速段が前進第1速でなく、設定されるべき変速段と実際の変速段とが一致しており、走行中である場合に、ロックアップクラッチ7の故障を判定することを許可するフラグがONされる。なお、ロックアップクラッチ7は、図3に示すように前進第1速では係合されることがないので、前進第1速出ないことを、ロックアップクラッチ7の故障を判定することを許可するフラグをONする要件の一つとしている。また、設定されるべき変速段と実際の変速段とが一致していない場合には、変速制御中であるため、ロックアップクラッチ7の故障を判定することを許可するフラグをONしないように構成されている。
そして、ロックアップクラッチ7の故障を判定することを許可するフラグがONされると、ソレノイドSLから油圧を出力させるための信号が出力され、ロックアップ用ソレノイドSLUから所定の油圧以上の油圧が出力されてから所定時間が経過しており、エンジン回転数とタービン回転数NT との差回転が所定値以上となっており、上記3つの条件が所定時間継続している場合には、ソレノイドSLとロックアップ用ソレノイドSLUとの双方が油圧を出力しない状態に変更できないような故障が生じていると判定する。すなわち、ソレノイドSLおよびロックアップ用ソレノイドSLUに対してロックアップクラッチ7を係合させる信号を出力しているにも拘わらず、エンジン回転数とタービン回転数NT とに差がある場合には、ロックアップクラッチ7が係合していないことを意味する。そのため、ソレノイドSLとロックアップ用ソレノイドSLUとのいずれか一方あるいは双方が故障していると判定する。
一方、ニュートラル惰性走行している場合には、有段変速機4の変速比に関係なくタービン回転数NT が一定であるため、有段変速機4が設定するべき変速段と、実際の変速段とが一致しているか否かを判断することができず、その結果、ロックアップクラッチ7の故障を判定することを許可するフラグがONとなることがない。また、ニュートラル惰性走行時では、タービン9の出力側の回転部材に作用する負荷が小さく、その結果、ロックアップクラッチ7が開放している時であっても、エンジン回転数とタービン回転数NT とが一致する可能性がある。そのため、エンジン回転数とタービン回転数NT との差からロックアップクラッチ7が係合しているか否かを判断することはできない。言い換えると、エンジン回転数とタービン回転数NT との差からソレノイドSLやロックアップ用ソレノイドSLUの故障を判定することができない。そのため、図1に示す制御例は、ニュートラル惰性走行時には、ロックアップクラッチ7の故障を判定することを禁止するように構成されている。
上述したようにニュートラル状態とするためのクラッチの入力側に設けられたタービン回転数と、車速と変速比とから算出される回転数(NOGEAR)とに基づいてソレノイドバルブの故障を判定する場合には、ニュートラル状態にすることに伴って、タービン回転数と理論上のタービン回転数NOGEARとが独立していることにより、ソレノイドバルブの故障を誤って判定してしまう可能性がある。そのため、図1に示す制御例では、ニュートラル惰性走行時には、タービン回転数と理論上のタービン回転数NOGEARとに基づいてソレノイドバルブなどの制御装置の故障を判定することを禁止するように構成されている。
上述したように図1に示す制御例は、ニュートラル惰性走行時に変速が行われた場合には、変速するためのアクチュエータの制御量を学習することを禁止し、また、変速するために係合させられる係合装置の係合力を制御するソレノイドバルブやロックアップクラッチなどの制御装置の故障を判定することを禁止するように構成されている。具体的には、ニュートラル状態とするためのクラッチの入力側の回転数と車速に基づく回転数との差あるいは比に基づいてアクチュエータの制御量を学習したり、ソレノイドバルブの故障を判定したりすることを禁止するように構成されている。そのため、動力源と駆動輪との動力の伝達を遮断していることに伴って誤学習や誤判定が生じてしまうことを防止することができる。その結果、通常走行時に変速する際における油圧制御の安定性が誤学習によって低下してしまうことを抑制もしくは防止することができるので、変速に伴うショックが生じてしまうことを抑制もしくは防止することができる。また、故障を誤判定してしまうことによって動力伝達装置の機能を低下させてしまうことを抑制もしくは防止することができる。
なお、この発明に係る車両の走行制御装置は、動力源と駆動輪との動力の伝達を遮断することができればよく、したがって、ニュートラル惰性走行させる際に、変速機の変速段を変更するための係合装置を開放する構成に限定されず、変速機の入力側あるいは出力側のいずれかに係合装置を設け、その係合装置を開放することによって動力源と駆動輪との動力の伝達を遮断するように構成していてもよい。また、上述したように変速段を変更して変速する有段変速機に限らず、ベルトやトロイダルを用いて変速比を連続的に変化させる無段変速機であってもよい。そのように無段変速機を備えた車両の場合には、無段変速機の入力側あるいは出力側に発進クラッチを設け、発進クラッチを開放してニュートラル惰性走行させ、かつニュートラル惰性走行時に変速する時に変速させるためのアクチュエータの制御量の学習やそのアクチュエータに油圧を供給するソレノイドバルブの故障判定を禁止するように構成することができる。さらに、係合装置は油圧によって伝達トルク容量が変化させられる構成のものに限らず、電気的に伝達トルク容量が制御されるクラッチであってもよい。