本実施形態の歯科用充填修復材料は、(A)ラジカル重合性単量体、(B)樹枝状ポリマー、(C)有機無機複合フィラー、及び(D)重合開始剤を含むことを特徴とする。このように有機無機複合フィラーと樹枝状ポリマーを併せて含むことにより、有機無機複合フィラーのみを使用した歯科用硬化性組成物と比較して、より低重合収縮率とすることができる。また、樹枝状ポリマーのみを使用した歯科用硬化性組成物と比較して、より良好な操作性を保ちつつ重合収縮率を抑制することができる。その結果、上記歯科用充填修復材料を用いれば、その硬化体において、窩洞の内壁との間に間隙が形成されることが高度に抑制でき、高い接着強さを長期間持続することが可能である。
以下、本発明の歯科用充填修復材を構成する、これら各成分について、順次に説明する。
(A)ラジカル重合性単量体
本発明の歯科用硬化性組成物に配合される(A)ラジカル重合性単量体は、種々の硬化性組成物において使用されている公知のものが特に制限なく使用できる。一般的な歯科用途には、25℃における屈折率が1.4〜1.7の範囲のものが好適に用いられる。こうしたラジカル重合性単量体としては、機械的強度や生態安全性の面から、(メタ)アクリレート系のものを使用するのが好適である。(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体の具体例としては下記(I)〜(IV)に示されるものが挙げられる。
(I) 単官能性単量体
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、プロピオニルオキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート。
(II)二官能重合性単量体
(i)芳香族化合物系のもの
2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
(ii)脂肪族化合物系のもの
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、3Gと略記する)、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクト;1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル等。
(III)三官能重合性単量体
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
(IV)四官能重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクト等。
また、酸性基含有重合性単量体を用いて歯質への接着性を持たせることも出来る。山積含有重合性単量体としては、たとえば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル) ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニル ハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル ジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル ジハイドロジェンフォスフェート、ビス(6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル)ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2−ブロモエチル ハイドロジェンフォスフェートなどの分子内にホスフィニコオキシ基またはホスホノオキシ基を有す酸性基含有重合性単量体(以下、「重合性酸性リン酸エステル」とも称す場合がある)、ならびに、これらの酸無水物および酸ハロゲン化物が挙げられる。
また、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−O−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸などの分子内に1つのカルボキシル基を有す酸性基含有重合性単量体、ならびに、これらの酸無水物および酸ハロゲン化物が挙げられる。
これらの(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体は単独で用いることもあるが、2種類以上を混合して使用することもできる。
なお、前記(メタ)アクリレート系ラジカル重合性単量体に加えて、重合の容易さ、粘度の調節、あるいはその他の物性の調節のために、上記(メタ)アクリレート系重合性単量体以外の他の重合性単量体を混合して重合することも可能である。他の重合性単量体を例示すると、フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル類;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレン等のスチレンあるいはα−メチルスチレン誘導体;ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレート、ジアリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物等を挙げることができる。
(B)樹枝状ポリマー
本実施形態の歯科用硬化性組成物に用いられる(B)樹枝状ポリマーは、従来のポリマーが一般的に紐状(または線状)の形状であるのに対し、3次元的に枝分かれ構造を繰り返し、高度に分岐している高分子である。そのため樹枝状ポリマーは、1)球形に近い形状を有すること、2)ナノメートルオーダーのサイズを有すること、3)分子間の絡み合いが少なく微粒子的挙動を示すこと、4)紐状ポリマーに比べて溶媒や液状の重合性単量体と混合した際の分散性が高く、かつ、粘度の増加を低く抑えることができること、5)機能性基を導入可能な分子鎖末端を表面に多数有すること、6)分子内に空隙を有していることなどの特徴を有している。そのため、歯科材料として一般に使用される液状またはペースト状の組成物においても、組成物の著しい粘度上昇を伴うことなく、樹枝状ポリマーを組成物中に微分散させることができる。また、樹枝状ポリマーは重合性単量体との親和性も高い。これらから樹枝状ポリマーを歯科用硬化性組成物に一定量配合させた場合、組成物全体に占める重合性単量体の量を実質的に減少させること効果により、硬化時の重合収縮を低減することができる。
樹枝状ポリマーとしては、デンドリマー、リニア−デンドリティックポリマー、デンドリグラフトポリマー、ハイパーブランチポリマー、スターハイパーブランチポリマー、ハイパーグラフトポリマー等が挙げられる。この中でも前半の3種は分岐度が1であり、欠陥の無い構造を有しているのに対し、後半の3種は欠陥を含んでいても良いランダムな分岐構造を有している。
デンドリマーの分岐構造は、多官能基を有するモノマーを一段階ずつ化学反応させることで形成される。デンドリマーの合成法には、中心から外に向かって合成するDivergent法と外から中心に向かって行うConvergent法とを挙げることが出来る。デンドリマーの例としては、アミドアミン系デンドリマー(米国特許第4,507,466号明細書ほか)、フェニルエーテル系デンドリマー(米国特許第5,041,516号明細書ほか)が挙げられる。アミドアミン系デンドリマーについては、末端アミノ基とカルボン酸メチルエステル基とを持つデンドリマーが、Aldrich社より「StarburstTM(PAMAM)」として市販されている。また、そのアミドアミン系デンドリマーの末端アミノ基を、種々のアクリル酸誘導体およびメタクリル酸誘導体と反応させることで合成された、対応する末端をもったアミドアミン系デンドリマーを使用することもできる。
また、フェニルエーテル系デンドリマーについては、Journal of American Chemistry 112巻(1990年、7638〜 7647頁))に種々のものが記載されている。フェニルエーテル系デンドリマーについても、末端ベンジルエーテル結合の代わりに、末端を種々の化学構造を持つもので置換したものを使用することができる。
ハイパーブランチポリマーは、多段階合成反応を精密に制御し分岐構造を形成させるデンドリマーとは異なり、一般に一段階重合法により得られる合成高分子である。一段階で大きな分子を合成するため、分子量分布や分岐不十分単位が存在するが、前記デンドリマーと比べると、製造が容易であり製造コストが安価であるという大きなメリットがある。また、合成条件を適宜選択すれば分岐度も制御でき、用途に応じた分子設計も実施できる。ハイパーブランチポリマーは、1分子内に、分岐部分に相当する2つ以上の第一反応点と、接続部分に相当し、第一反応点とは異なる種類のただ1つの第二反応点とを持つモノマーを用いて、1段階の合成プロセスを経て合成される(Macromolecules、29巻(1996)、3831− 3838頁)。
このような合成プロセスとしては、例えば、1分子中に2種の官能基を持つABx型モノマーの自己縮合法、A2型モノマーとB3型モノマーとを重縮合する方法などが知られている(デンドリティック高分子−多分岐構造が拡げる高機能化の世界、株式会社エヌ・ティー・エス(2005))。そして、これら方法により一気に分岐構造を形成する。なお、上記に説明した合成方法の説明において、大文字のアルファベットで示す“A”と“B”とは、互に異なる官能基を示し、“A”および“B”に組み合わせて示されるアラビア数字は、1分子内の官能基の数を示す。
また、重合開始可能な官能基とビニル基とを1分子内に有する化合物の重合によってハイパーブランチポリマーを得る方法として、自己縮合性ビニル重合法(SCVP法)が知られている(Science、269、1080(1995))。また、多量の開始剤を用いて複数の重合性基を有する分子を重合させることにより、開始剤断片が生成重合体中に取り込まれたハイパーブランチポリマーを合成する方法として開始剤断片組込ラジカル重合法(IFIRP)が知られている(J.Polymer.Sci.:PartA:Polym.Chem.、42,3038(2003))。
ハイパーブランチポリマーの構造は、用いるABx型モノマーや得られたポリマーの表面官能基の化学修飾よって様々な構造を有する。ハイパーブランチポリマーとしては、骨格構造の分類上の観点から、ハイパーブランチポリカーボネート、ハイパーブランチポリエーテル、ハイパーブランチポリエステル、ハイパーブランチポリフェニレン、ハイパーブランチポリアミド、ハイパーブランチポリイミド、ハイパーブランチポリアミドイミド、ハイパーブランチポリシロキサン、ハイパーブランチポリカルボシラン等が挙げられる。また、それらハイパーブランチポリマーが有する末端基としては、アルキル基、フェニル基、ヘテロ環状基、(メタ)アクリル基、アリル基、スチリル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、ハロゲノ基、エポキシ基、チオール基、シリル基等が挙げられる。またこれら末端基をさらに化学修飾することにより、目的に応じた官能基をハイパーブランチポリマー表面に付与することも可能である。
本実施形態の歯科用硬化性組成物では、これら樹枝状ポリマーのうち1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上の樹枝状ポリマーを組み合わせて用いてもよい。上記に挙げた樹枝状ポリマーのうち、デンドリマーまたはハイパーブランチポリマーを特に好適に用いることができる。
樹枝状ポリマーは、分子間の絡み合いが少なく微粒子的挙動を示すので、樹枝状ポリマーが配合される歯科用硬化性組成物の粘度を高めることなく、高い親和性で微分散させることができる。このため、歯科用硬化性組成物に樹枝状ポリマーを一定量配合させると、硬化時の重合収縮が大きく低減できる。また、樹枝状ポリマーの分子量は、特に限定されるものではないが、GPC(Gel Permeation Chromatography)法による測定で、重量平均分子量が1500以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましく、15000以上であることが最も好ましい。また、重量平均分子量の上限は特に限定されるものではないが、大きすぎる場合には、樹枝状ポリマーの配合量を大きく変化させた場合に、歯科用硬化性組成物の操作性が大きく変化しやすくなる場合がある。このため、重量平均分子量は、実用上200000以下であることが好ましく、100000以下であることがより好ましく、80000以下であることが最も好ましい。また、分子量を上記範囲内とした場合、動的光散乱法にて測定したテトラヒドロフラン(THF)中での流体力学的平均直径が1nm〜40nm前後程度の球状の樹枝状ポリマーを得ることができる。なお、流体力学的平均直径は、3nm〜20nmの範囲内が好ましく、5nm〜15nmの範囲内がより好ましい。
歯科用硬化性組成物に含まれる樹枝状ポリマーの配合量は、特に限定されないが、(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対して、1〜100質量部であることが好ましく、5質量部〜40質量部の範囲内であることがより好ましく、8質量部〜30質量部の範囲内であることが最も好ましい。樹枝状ポリマーの配合量を1質量部以上とすることにより、歯科用硬化性組成物を硬化させる際の重合収縮率をより小さくすることが容易となる。また、樹枝状ポリマーの配合量を100質量部以下とすることにより、操作性の劣化を防ぐと共に、充填剤の配合割合を多くして、硬化物の機械的強度を確保することが容易となる。
本実施形態の歯科用硬化性組成物に用いられる樹枝状ポリマーとしては、上記に説明した各種の樹枝状ポリマーが利用できるが、3分岐した分岐部分および4分岐した分岐部分から選択される少なくとも1種の分岐部分と、分岐部分同士を接続する接続部分とを含む網目状構造(網目状の多分岐構造)を有していることが好ましい。このような網目状構造を有する樹枝状ポリマーとしては、代表的には、ハイパーブランチポリマーが挙げられる。なお、網目状構造中の分岐がより発達して形成されているほど、網目状構造を構成する分子鎖の動きが制限されて、分子鎖同士の絡み合いが少なくなるため、歯科用硬化性組成物に対する樹枝状ポリマーの配合割合を増やしても粘度の増加を抑制することがより容易になる。
また、網目状構造の末端部分は、不飽和結合を有する基や、アミノ基、ヒドロキシル基などの反応性官能基を有していてもよく、反応性官能基を実質的に有していなくてもよい。なお、反応性官能基を実質的に有さない場合には、網目状構造の末端部分は、アルキル基などの非反応性官能基で占められることになる。ここで、「反応性官能基を実質的に有さない」とは、網目状構造の末端部分に反応性官能基を全く有さない場合のみならず、網目状構造を有する樹枝状ポリマーの合成時の副反応あるいは反応系中の不純物等に起因して、網目状構造の末端部分に、僅かながら反応性官能基が導入される場合も意味する。
網目状構造の末端部分が反応性の不飽和結合を有する基であるときには、樹枝状ポリマー同士や樹枝状ポリマーと重合性単量体との結合の形成によって、硬化物の機械的強度をより向上させることが容易となる。一方、歯科用硬化性組成物が硬化した後の硬化物中に反応性官能基が残留している場合、硬化物が口腔内環境において飲食物に曝されたり、自然光や室内光に曝されると、硬化物中に残留する反応性官能基が飲食物や、自然光、室内光と反応して、硬化物が着色したり変色したりし易くなる。特に、反応性官能基としてアミノ基が残留していると、上記飲食物との反応による着色が激しくなり、他方、反応性官能基として不飽和結合を有する基が残留していると、自然光、室内光との反応による変色が激しくなる。しかしながら、網目状構造の末端部分が反応性官能基を実質的に有していない場合には、このような硬化物の着色や変色の発生を抑制することが極めて容易である。
なお、網目状構造の内部部分も反応性官能基を有していてもよい。しかしながら、網目状構造の内部部分に位置する反応性官能基は、末端部分に位置する反応性官能基と比べて、他の樹枝状ポリマーあるいは重合性単量体と反応し難いため、硬化物の機械的強度の向上には寄与し難い。その一方で網目状構造の内部部分に位置する反応性官能基は、末端部分に位置する反応性官能基と同様に着色や変色を招く可能性が高い。これらの点を考慮すると、網目状構造の内部部分は反応性官能基を実質的に有していないことが好ましい。
ハイパーブランチポリマーを構成する網目状構造において、分岐部分の分岐数は、3分岐または4分岐が一般的である。3分岐した分岐部分(3分岐部分)は、窒素原子、3価の環状炭化水素基または3価の複素環基により形成されているのが好ましく、4分岐した分岐部分(4分岐部分)は、炭素原子、ケイ素原子、4価の環状炭化水素基または4価の複素環基により形成されているのが好ましい。なお、(3価または4価)の環状炭化水素基としては、大別すると、(3価または4価の)のベンゼン環などに例示される芳香族炭化水素基、および、(3価または4価の)シクロヘキサン環などに例示される脂環炭化水素基が挙げられる。また、(3価または4価の)複素環基としては、公知の複素環基が利用できる。なお、3価の複素環基としては、たとえば、下記構造式1に示すものを挙げることもできる。
また、分岐部分同士を接続する接続部分は、下記構造式群Xから選択されるいずれか1種の2価の基または原子であるのが好ましい。ここで、構造式群X中、R11は、芳香族炭化水素基または炭素数40以下のアルキレン基であり、nは、1〜9の範囲から選択される整数である。なお、1つの分岐部分に結合する複数の接続部分は、いずれか2つ以上が同一であってもよく、1つの分岐部分に結合する全ての接続部分が互に異なっていてもよい。
また、こうした網目状構造の末端部分の一般例としては、水素原子、ハロゲン原子(−F、−Cl、−Br、もしくは、−I)、スチリル基、エポキシ基、グリシジル基、下記構造式群Zから選択されるいずれか1種の1価の基、後述する一般式(IIA)に示す1価の基、後述する一般式(IIB)に示す1価の基、1価の環状炭化水素基、または、1価の複素環基などが挙げられる。ここで、末端部分のうち、水素原子およびハロゲン原子を除いた基については、さらに化学修飾されたものでもよい。また、1価の環状炭化水素基および1価の複素環基は、環に結合する水素原子が、ハロゲン原子、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、1価のカルボン酸エステルで置換されていてもよい。また、1価の環状炭化水素基としては、大別すると、1価のベンゼン環などに例示される芳香族炭化水素基、および、1価のシクロヘキサン環などに例示される脂環炭化水素基が挙げられる。
なお、構造式群Z中、R12は、1価の芳香族炭化水素基または炭素数40以下のアルキル基であり、R13は、2価の芳香族炭化水素基または炭素数40以下のアルキレン基である。また、構造式群Z中に示される基において、R12およびR13の双方を含む場合、価数を除いて両者の構造は同一であっても互いに異なっていてもよい。
本実施形態の歯科用硬化性組成物において、好適に使用できる樹枝状ポリマーの具体例としては、下記一般式(i)に示される単位構造が互いに結合して形成された網目状構造を有する樹枝状ポリマーが挙げられる。
ここで、一般式(i)中、Aは、CとR1とを結合する単結合(すなわち、CとR1とが単にσ結合で結合している状態)、>C=O、−O−、−COO−、または、−COO−CH2−であり、R1は、2価の飽和脂肪族炭化水素基、または、2価の芳香族炭化水素基であり、R2は、水素原子、または、メチル基であり、Yは、下記一般式(iia)で示される基、または、下記一般式(iib)で示される基である。末端部分を除いた網目状構造が、一般式(i)に示される単位構造から構成される場合、網目状構造を構成する一般式(i)に示される単位構造は、実質的に1種類のみから構成されていてもよく、2種類以上から構成されていてもよい。
なお、下記一般式(iia)で示される基、および、下記一般式(iib)で示される基において、aは0または1である。ここで、一般式(i)に示される単位構造は、Yが一般式(iia)で示される基の場合には4個の結合手を有する単位構造になり、Yが一般式(iib)で示される基の場合には3個の結合手を有する単位構造になる。ハイパーブランチポリマーの歯科用硬化性組成物に対する配合割合を増やした際に粘度の増加を抑制し易いという観点から、Yは一般式(iia)で示される基であるのが好ましい。
また、一般式(i)に示される単位構造により形成された網目状構造の末端部分としては、既述した末端部分の一般例として例示した各種の原子あるいは各種の基が挙げられる。
一般式(i)に示される単位構造を構成するR1は、2価の飽和脂肪族炭化水素基、または、2価の芳香族炭化水素基である。ここで、2価の飽和脂肪族炭化水素基は、鎖状または環状のいずれであってもよい。また、炭素数は特に限定されないが、1〜5の範囲内が好ましく、1〜2の範囲内がより好ましい。炭素数を5以下とすることにより、R1として示される分子鎖部分が短くなるため、歯科用硬化性組成物を構成するラジカル重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーとの絡みあいをより一層抑制し、液状またはペースト状の歯科用硬化性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。2価の鎖状飽和脂肪族炭化水素基としては、たとえば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。また、2価の環状飽和脂肪族炭化水素基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基などが挙げられる。
また、2価の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環を1つ含む単環状、ベンゼン環を2つ以上含みかつ縮環構造を有するもの、あるいは、ベンゼン環を2つ以上含みかつ縮環構造を有さないもの、のいずれであってもよい。2価の芳香族炭化水素基に含まれるベンゼン環の数は、特に限定されないが、1〜2の範囲内が好ましく、ベンゼン環の数は1であることが特に好ましい(言い換えれば2価の芳香族炭化水素基が、フェニレン基であることが特に好ましい)。ベンゼン環の数を2以下とすることにより歯科用硬化性組成物を構成するラジカル重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用硬化性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。2価の芳香族炭化水素基としては、たとえば、上述したフェニレン基以外にも、ナフチレン基やビフェニレン基などを例示できる。
なお、以上に例示したR1の中でも、特にフェニレン基が好ましい。フェニレン基は、歯科用硬化性組成物中に添加されるハイパーブランチポリマーの配合量を大きく変化させても、歯科用硬化性組成物を用いて歯科治療を行う際の操作性や、硬化物の機械的物性への悪影響が少ない。このため、操作性や機械的物性に縛られずに、歯科用硬化性組成物の組成設計を行い易くなる。また、R1としてフェニレン基を用いた場合、歯科用硬化性組成物を硬化させた硬化物の機械的強度を向上させることができる。
上記一般式(i)に示される単位構造により形成された網目状構造を有するハイパーブランチポリマーの中でも、特に、好適なものを示せば、下記一般式(I)に示される単位構造と、下記一般式(IIA)に示される単位構造および下記一般式(IIB)に示される単位構造から選択される少なくとも一方の単位構造と、を含むハイパーブランチポリマーが挙げられる。ここで、一般式(I)に示される単位構造は、網目状構造自体を構成する4個の結合手を有する単位構造であり、一般式(IIA)および一般式(IIB)に示す単位構造は、網目状構造の末端部分(末端基)を構成する単位構造である。以下の説明において、これらの単位構造から構成された網目状構造を有するハイパーブランチポリマーのみを指し示す場合には、「ハイパーブランチポリマーA」と称す。
ここで、一般式(I)中、A、R1およびR2は、前記した一般式(i)に示すA、R1およびR2と同様である。
また、一般式(IIA)および一般式(IIB)中、R3、R4、R5は、水素原子、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルキル基、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルコキシカルボニル基、アリール基、または、シアノ基である。また、一般式(IIB)中、R6は、主鎖を構成する炭素原子の数が4個〜10個のアルキレン基である。
上記一般式(IIA)および一般式(IIB)を構成するR3、R4、R5は、特に、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルキル基、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルコキシカルボニル基、または、シアノ基であるのがより好ましい。アルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられ、アルコキシカルボニル基としては、たとえば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基などが挙げられ、アリール基としては、たとえば、フェニル基が挙げられる。なお、アルキル基およびアルコキシカルボニル基については、主鎖を構成する炭素原子の数を5個以下、特に、メチル基またはメトキシカルボニル基とすることにより、主鎖が短くなるため、歯科用硬化性組成物を構成するラジカル重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーAとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用硬化性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。
また、アルキル基、アルコキシカルボニル基およびアリール基の水素原子の一部を置換基で置換してもよい。当該置換基としては、着色・変色を招く構造・基(反応性の不飽和結合や、アミノ基、ヒドロキシル基など)を含むものでなければ特に限定はなく、たとえば、メチル基などの炭素数1個〜3個のアルキル基、メトキシ基などの炭素数1個〜3個のアルコキシル基などを挙げることができる。なお、アルキル基およびアルコキシル基については、炭素数を3個以下、特に、メチル基またはメトキシ基とすることにより、置換基により構成される側鎖が短くなるため、歯科用硬化性組成物を構成するラジカル重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーAとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用硬化性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。
一般式(IIB)を構成するR6は、主鎖を構成する炭素原子の数が4個〜10個のアルキレン基である。アルキレン基としては、たとえば、ブチレン基、ペンチレン基、ノニレン基などが挙げられる。また、アルキレン基の水素原子の一部を置換基で置換してもよい。当該置換基としては、着色・変色を招く構造・基(反応性の不飽和結合や、アミノ基、ヒドロキシル基など)を含むものでなければ特に限定はなく、たとえば、メチル基などの炭素数1個〜3個のアルキル基、メトキシ基などの炭素数1個〜3個のアルコキシル基などを挙げることができる。なお、アルキレン基の主鎖を構成する炭素原子の数を4個以上とすることにより、R6とR6の両端と結合する炭素原子とから構成される環の歪を抑制できる。このため、環が歪んで不安定化することによって周囲の物質と反応することにより、着色を招く可能性を抑制できる。また、アルキレン基の主鎖を構成する炭素原子の数を10個以下とすることで主鎖が短くなり、あるいは、置換基として選択されるアルキル基およびアルコキシル基の炭素数を3個以下、特に、メチル基またはメトキシ基としたりすることにより、置換基により構成される側鎖が短くなるため、歯科用硬化性組成物を構成するラジカル重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーAとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用硬化性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。なお、環の歪の抑制と粘度の抑制の両立の観点からは、アルキレン基はペンチレン基が特に好ましい。
なお、一般式(I)で示される第一の単位構造の4個の結合手には、一般式(I)で示される第一の単位構造、または、一般式(IIA)および一般式(IIB)で示される2種類の単位構造から選択される第二の単位構造が結合することができる。また、ハイパーブランチポリマーAが一般式(I)、一般式(IIA)および一般式(IIB)以外のその他の単位構造(第三の単位構造)を含む場合は、4個の結合手には、第三の単位構造も結合することができる。ここで、4個の結合手の少なくともいずれか1個の結合手を介して、第一の単位構造同士が結合することにより網目状構造が形成される。また、網目状構造を分断する末端基である第二の単位構造は、第一の単位構造の4個の結合手のうち、最大で3個の結合手に結合することができる。
ここで、ハイパーブランチポリマーAに含まれる第一の単位構造と第二の単位構造との含有比(モル比)は、特に限定されないが、3:7〜7:3の範囲内とすることが好ましく、4:6〜6:4の範囲内とすることがより好ましい。モル比を上記範囲内とすることにより、適度な分岐を持つ網目状構造が形成できると共に、ハイパーブランチポリマーAを溶媒に分散させた溶液の粘度の著しい増加も抑制することができる。なお、ハイパーブランチポリマーAに、2個以上の結合手を有する第三の単位構造も含まれる場合、第一の単位構造および第二の単位構造に対する第三の単位構造の含有割合にも依存するものの、第一の単位構造と第二の単位構造との含有比(モル比)は、網目状構造が形成できる範囲で、たとえば、1:9〜7:3の範囲内から選択することが好まく、2:8〜7:3の範囲内から選択することがより好ましい。なお、この場合も、第一の単位構造と第二の単位構造との含有比(モル比)は、3:7〜7:3の範囲内とすることがさらに好ましく、4:6〜6:4の範囲内とすることが特に好ましい。
上述のような、一般式(I)に示す単位構造と、一般式(IIA)に示す単位構造および一般式(IIB)に示す単位構造から選択される少なくとも一方の単位構造と、を含むハイパーブランチポリマーAは、分子内に反応性の不飽和結合や、アミノ基、ヒドロキシル基などの反応性の官能基を含まない。また、ラジカル重合性単量体は、重合反応により反応性の官能基を消失する。このため、ハイパーブランチポリマーAを用いた本実施形態の歯科用硬化性組成物は、硬化させた後に口腔内環境において飲食物に曝されたり、自然光や室内光に曝されたりしても、着色や変色が生じ難い。
また、一般式(I)に示す単位構造と、一般式(IIA)に示す単位構造および一般式(IIB)に示す単位構造から選択される少なくとも一方の単位構造と、を含むハイパーブランチポリマーAは、一般式(IIA)および(IIB)に示す単位構造を基本とした網目状構造を有する。すなわち、枝分かれした分子鎖の両末端の動きは非常に制約されている。このため、隣接する枝部分同士が絡み合うことは非常に困難であり、歯科用硬化性組成物の粘度上昇が生じ難い。
なお、本実施形態の歯科用接着性組成物に好適に用いられるハイパーブランチポリマーAには、第三の単位構造として、下記一般式(IIIA)に示される単位構造、下記一般式(IIIB)に示される単位構造、下記一般式(IIIC)に示される単位構造、および、下記一般式(IIID)に示される単位構造から選択される少なくともいずれか1種の単位構造が含まれていてもよい。なお、下記一般式(IIIA)および下記一般式(IIID)に示される第三の単位構造は、ハイパーブランチポリマーAを合成する際の不純成分として、ハイパーブランチポリマーAに含まれることがある。
ここで、一般式(IIIA)、一般式(IIIB)、一般式(IIIC)および一般式(IIID)中、A、R1およびR2は、一般式(i)に示すA、R1およびR2と同様である。また、一般式(IIIB)中、R7は、1価の飽和脂肪族炭化水素基、または、1価の芳香族炭化水素基であり、一般式(IIIC)中、R8は、4価の飽和脂肪族炭化水素基、または、4価の芳香族炭化水素基であり、一般式(IIID)中、Bは、−COO−CH=である。
また、一般式(IIIA)および一般式(IIID)に示される第三の単位構造は、反応性の不飽和結合を含むため、硬化物の着色や変色を促進し易い。このため、ハイパーブランチポリマーが、一般式(I)に示す第一の単位構造、ならびに、一般式(IIA)に示す単位構造および一般式(IIB)に示す単位構造から選択される第二の単位構造に加えて、一般式(IIIA)および(IIID)に示す第三の単位構造も含む場合、全単位構造に占める一般式(IIIA)および(IIID)で示される第三の単位構造の割合は、20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
また、一般式(IIIA)および一般式(IIIB)および一般式(IIID)に例示されるような結合手を2個有する第三の単位構造と、一般式(I)に示される第一の単位構造との比率は、6:4〜0:10の範囲内が好ましく、4:6〜0:10の範囲内がより好ましく、0:10が最も好ましい。結合手を2つ有する第三の単位構造と、一般式(I)に示される第一の単位構造との比率を上記範囲内とすることにより、適度な分岐を持つ網目状構造が形成できると共に、ハイパーブランチポリマーAを配合させた歯科用硬化性組成物の粘度の著しい増加も抑制することができる。
一般式(IIIB)に示す第三の単位構造を構成するR7および一般式(IIIC)に示す第三の単位構造を構成するR8は、価数が異なる以外は、R1と同様の構造を有するものが利用できる。
なお、一般式(IIA)および一般式(IIB)で示される第二の単位構造は、本実施形態の歯科用硬化性組成物に用いられるハイパーブランチポリマーAの合成過程において用いられる原料成分(たとえば、モノマー、重合開始剤、末端基の修飾剤など)に由来する構造である。当該原料成分としては特に限定されないが、たとえば、公知の重合開始剤が挙げられ、好ましくは、国際公開第2010/126140号に開示されるアゾ系重合開始剤が挙げられる。ただし、本実施形態の歯科用硬化性組成物において、上記に列挙した原料成分、重合開始剤あるいはアゾ系重合開始剤のうち、ハイパーブランチポリマーAを合成し終えた後において、一般式(IIA)および/または一般式(IIB)に示す構造を取りうるものを採用することが好ましい。このため、本実施形態の歯科用硬化性組成物は、着色や変色が生じ難い。
一般式(IIA)で示される第二の単位構造の具体例としては、たとえば、下記構造式A〜構造式Kが挙げられ、一般式(IIB)で示される第二の単位構造の具体例としては、下記構造式L〜構造式Mが挙げられる。これら構造式A〜構造式Mに示される第二の単位構造は、ハイパーブランチポリマーAの入手容易性という点で特に好適である。
以上に説明したような分子構造を有するハイパーブランチポリマーAとしては、たとえば、下記(1)〜(6)に示すものが挙げられる。
(1)T.Hirano et al.,J.Appl.Polym.Sci.,2006,100,664−670に開示されたハイパーブランチポリマー(A:CとR1とを結合する単結合、R1:フェニレン基、R2:水素原子、R3:−CH3、R4:−CH3、R5:−COOCH3)。なお、実質同一の分子構造を有する市販のハイパーブランチポリマーとして、HYPERTECH(登録商標)/HA−DVB−500(日産化学工業株式会社製、GPC法による分子量:48000、流体力学的平均直径11.7nm(in THF))が挙げられる。
(2)T.Hirano et al.,Macromol.Chem.Phys.,205,206,860−868に開示されたハイパーブランチポリマー(A:−COO−、R1:−(CH2)2−、R2:−CH3、R3:−CH3、R4:−CH3、R5:−COOCH3)。なお、実質同一の分子構造を有する市販のハイパーブランチポリマーとして、日産化学工業株式会社製のHYPERTECH(登録商標);HA−DMA−200(GPC法による分子量22000、流体力学的平均直径5.2nm(in THF))、HA−DMA−50(試供サンプル品、GPC法による分子量4000)、および、HA−DMA−700(試供サンプル品、GPC法による分子量67000)が挙げられる。
(3)T.Sato et al.,Macromolecules,2005,38,1627−1632に開示されたハイパーブランチポリマー(A:−COO−、R1:−(CH2)4−、R2:−H、R3:−CH3、R4:−CH3、R5:−COOCH3)。
(4)T.Sato et al.,Macromole.Mater.Eng.,2006,291,162−172に開示されたハイパーブランチポリマー。なお、このハイパーブランチポリマーは、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造も含む。ここで、一般式(I)に示す第一の単位構造はA:CとR1とを結合する単結合、R1:フェニレン基、R2:−Hであり、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造はA:−COO−、R7:エチル基、R2:−Hである。また、一般式(IIA)に示す第二の単位構造はR3:−CH3、R4:−CH3、R5:−COOCH3である。
(5)T.Sato et al.,Polym.Int.2004,53,1138−1144に開示されたハイパーブランチポリマー。なお、このハイパーブランチポリマーは、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造も含む。ここで、一般式(I)に示す第一の単位構造はA:−COO−、R1:−(CH2)4−、R2:−Hであり、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造はA:−O−、R7:2−メチルプロピル基、R2:−Hである。また、一般式(IIA)に示す第二の単位構造はR3:−CH3、R4:−CH3、R5:−CNである。
(6)T.Sato et al.,J.Appl.Polym.Sci.2006,102,408に開示されたハイパーブランチポリマー。なお、このハイパーブランチポリマーは、一般式(IIID)で示す第三の単位構造も含む。ここで、一般式(I)に示す第一の単位構造はA:−COO−CH2−、R1:フェニレン基(2個の結合手はオルト位)、R2:−Hであり、一般式(IIID)で示す第三の単位構造はA:−COO−CH2−、B:−COO−CH=、R1:フェニレン基(2個の結合手はオルト位)、R2:−Hである。また、一般式(IIA)に示す第二の単位構造はR3:−CH3、R4:−CH3、R5:−COOCH3である。
また、現時点において、ハイパーブランチポリマーAを含む各種の市販のハイパーブランチポリマーとしては、上述した日産化学工業株式会社の「HYPERTECH」(登録商標)シリーズの他にも、DSM社の「Hybrane」(登録商標)、Perstop社の「Boltorn」(登録商標)などが挙げられる。なお、「HYPERTECH」、「Hybrane」、「Boltorn」は分子量、粘度、末端基の異なるグレードが販売されている。ここで、HYPERTECHシリーズについては、ハイパーブランチポリマーA以外の、一般式(i)に示される単位構造により形成された網目状構造を有するハイパーブランチポリマーとして、HPS−200(Yが一般式(iib)で示される基であり、3個の結合手を有する単位構造により網目状構造が形成されている)等も存在する。
(C)有機無機複合フィラー
有機無機複合フィラーは、無機フィラーを有機樹脂中に含有する複合フィラーであり、無機フィラーにモノマーを添加してペースト状にした後に重合させ、得られた重合物を粉砕した粒状のものを利用することができ、従来の歯科用硬化性組成物に使用されているものを使用できる。
有機無機複合フィラーの原料無機フィラーは歯科用材料の充填材として用いられる公知の無機充填材が何ら制限なく用いられる。無機充填材としては、たとえば、石英、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウム等の金属酸化物、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−チタニア−ジルコニア等のシリカ系複合酸化物類が挙げられる。また、ホウ珪酸ガラス、アルミノシリケートガラス、フルオロアルミのシリケートガラス等のガラス、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の無機炭酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩等を用いることもできる。これら無機充填材は、一種または二種以上を混合して用いてもよい。
これら有機無機複合フィラーの原料無機フィラーの粒径は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている0.01μm〜20μm(特に好ましくは0.01〜5μm)の平均粒径の充填材が目的に応じて適宜使用できる。
ここで、上記原料フィラーの平均粒径は、走査型や透過型の電子顕微鏡の有機無機複合フィラー撮影像から、無機一次粒子の円相当径(対象粒子と同じ面積を持つ円の直径)を画像解析により測定する。測定に用いる電子顕微鏡撮影像としては、明暗が明瞭で粒子の輪郭を判別できるものを使用し、画像解析の方法としては、少なくとも粒子の面積、粒子の最大長、最小幅の計測が可能な画像解析ソフトを用いて行う。そして、これら原料フィラーの平均粒子径は、無作為に選択した100個の無機一次粒子について上記の方法で一次粒子径(円相当径)を下記式によって計算する。
また、該充填材の屈折率も特に制限されず、一般的な歯科用の無機充填材が有する1.4〜1.7の範囲のものが制限なく使用でき、目的に合わせて適宜設定すればよい。粒径範囲や、屈折率の異なる複数の無機充填材を併用しても良い。
上記有機無機複合フィラーの原料フィラーは、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することが好ましい。この場合、原料フィラーと有機樹脂相との親和性が良くなり、有機無機複合フィラーの機械的強度や耐水性を向上させることができる。これにより、該有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物の硬化体の機械的強度および耐水性が向上する。さらに、斯様に原料フィラーがシランカップリング剤等で表面処理されていれば、該有機無機複合フィラーの表面に露出する原料フィラー部分とラジカル重合性単量体および樹枝状ポリマーとの親和性も向上するため、これら有機無機複合フィラーの分散性や、樹枝状ポリマーの微分散性も高まる。その結果、上記機械的強度および耐水性は一層に向上し、且つ重合収縮もより均質に生じ、歯牙への接着やその耐久性が一層に向上する。
原料フィラーの表面処理は公知の方法で行うことができる。また、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。原料フィラーに対する表面処理量は、原料フィラー100質量部に対して表面処理剤1〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部が適当である。
有機無機複合フィラーの原料として使用される重合性単量体(原料モノマー)は、公知のものが何ら制限無く利用できる。しかしながら、歯科用硬化性組成物において、(A)ラジカル重合性単量体成分は、前記したように機械的強度や生態安全性の面から、(メタ)アクリレート系のものが好適である。しかして、有機無機複合フィラーの有機樹脂相と歯科用硬化性組成物の(A)ラジカル重合性単量体とが異質の材料である場合には、有機無機複合フィラーの分散性が低下し、機械的強度の低下や重合収縮の偏在化による歯牙への接着およびその耐久性に問題が生じることがある。
このため、有機無機複合フィラーの有機樹脂相も(メタ)アクリレート系重合性単量体の重合体とすることが望ましい。このような有機無機複合フィラーの原料として使用する(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、前記歯科用硬化性組成物における(A)成分として示したものと同じものが良好に使用できる。
有機無機複合フィラーにおいて、有機樹脂相の含有率は、無機フィラー100質量部に対して、通常1〜40質量部であり、5〜25質量部が好ましい。なお、有機樹脂相の含有量は、有機無機複合フィラーを示差熱−熱重量同時測定を行った際の重量減少量より求めることができる。
本発明において有機無機複合フィラーの粒径は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されているものが利用できるが、操作性を良好にする観点から1μm〜100μmの平均粒径が好ましく、15μm〜100μmの平均粒径がさらに好ましく、15μm〜50μmが最も好ましい。平均粒径が15μm〜50μmとすることで、硬化前ペーストの操作性を最適なものに保つことができる。また、有機無機複合フィラーは、硬化前ペーストの操作性を最適なものとすることが容易であるとの理由から、15〜100μmの範囲にある粒子の含有割合が40%以上、更に好ましくは60%以上のものであるのが好ましい。
ここで、有機無機複合フィラーの平均粒径は、有機無機複合フィラー原料フィラーの粒径と同様の手法によって、走査型や透過型の電子顕微鏡の有機無機複合フィラー撮影像から求めた値を意味する。また、その中に占める15〜100μmの範囲にある粒子の含有割合は、無作為に選択した100個以上の有機無機複合フィラーの粒径を走査型や透過型の電子顕微鏡の有機無機複合フィラー撮影像から求め、そのうちの該粒子径の有機無機複合フィラーが占める割合を計算することにより求めた値を意味する。
また、有機無機複合フィラーの屈折率も特に制限されず、前記樹枝状ポリマーの場合と同じ理由から1.4〜1.7の範囲のものが好適に使用できる。粒径範囲や、屈折率の異なる複数の有機無機複合フィラーを併用しても良い。
歯科用硬化性組成物中に含まれる(C)有機無機複合フィラーの配合量は、特に限定されないが、(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対して30〜1500質量部であることが好ましく60〜1300質量部の範囲内であることがより好ましく、100〜600質量部の範囲内であることが最も好ましい。有機無機複合フィラーの配合量を30質量部以上とすることにより、歯科用硬化性組成物を硬化させる際の重合収縮率をより小さくすることが容易となる。また、有機無機複合フィラーの配合量が1500質量部を超えると、操作性への影響が著しく大きくなるため1500質量部以下が望ましい。
(D)重合開始剤
本発明の歯科用充填修復材において(D)重合開始剤は、公知のものが制限無く使用可能である。充填修復材の重合方法には、紫外線、可視光線等の光エネルギーによる反応(以下、光重合という)、過酸化物と促進剤との化学反応によるもの、加熱によるもの等があり、採用する重合方法に応じて下記に示す各種重合開始剤を適宜選択して使用すればよい。
光重合に用いる重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール類、ベンゾフェノン、4,4'−ジメチルベンゾフェノン、4−メタクリロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、ジアセチル、2,3−ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナントラキノン、9,10−アントラキノンなどのα-ジケトン類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類等を使用することができる。
なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加されるが、その例としては、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N−メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン類、ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド類、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物などを挙げることができる。
また、熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p−フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。
これらの重合開始剤の中でも、使用時の操作の簡便さの観点からは光重合開始剤の使用
が好ましく、特に好適なものは、カンファーキノン、ビス(2,4,6−トリメチルベン
ゾイル)―フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニ
ルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)―2,4,4−トリメ
チルフェニルホスフィンオキサイドなどである。
これら(C)重合開始剤は、単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。(C)重合開始剤の配合量は、有効量であれば特に制限は無いが、(A)重合性単量体100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、0.1〜3質量部であるのがより好ましい。
(その他の任意配合成分)
本発明の歯科用硬化性組成物には、前記(B)樹枝状ポリマーおよび(C)有機無機複合フィラーの他に、他のフィラーを配合することもできる。こうした他のフィラーとしては、有機フィラーおよび無機フィラーのいずれも使用可能であるが、硬化体の強度を向上させる観点から無機フィラーが好ましい。その場合、適切な無機フィラーの例としては、有機無機複合フィラーの原料フィラーとして例示した無機充填材を好適に用いることができる。これら無機フィラーも、有機無機複合フィラーの原料フィラーと同様に表面処理を行うことが好ましい。
本発明において、(B)樹枝状ポリマーおよび(C)有機無機複合フィラー、さらに斯様に他のフィラーを配合する場合はこれも含めて、これらの合計量は、あまり多くなり過ぎると、得られる歯科用硬化性組成物の過度の増粘や、硬化物の機械的物性の過度の低下を引き起こすことがあるため、一定量以下に抑えるのが好ましい。具体的には、(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対して1800質量部以下が好ましく、1500質量部以下がより好ましい。
さらに、本発明の歯科用硬化性組成物には、必要に応じてその他の任意配合成分を含有させることができる。たとえば、硬化物の色調を、歯牙の色調に合わせるために、顔料、蛍光顔料、染料等の色材を添加することができる。また、硬化体の紫外線に対する変色防止のために紫外線吸収剤を添加することができる。また、重合禁止剤、酸化防止剤、有機溶媒、増粘剤等の公知の添加剤を必要に応じて用いることができる。
本実施形態の歯科用硬化性組成物を製造する方法は特に限定されず、公知の光重合型組成物の製造方法を利用できる。一般的には、重合開始剤が光重合開始剤の場合には遮光下にて、配合する各成分を所定量秤とり、均一になるまで混練することで、本実施形態の歯科用硬化性組成物を得ることができる。
歯科用硬化性組成物は、その重合収縮が極めて小さい性状を利用して、歯科材料において使用されている種々の硬化性材料として有用に使用できる。具体的には、歯科用充填修復材料、歯科用セメント、歯科用接着材、歯科用支台築造材料等が挙げられるが、特に、歯牙の窩洞に対して充填して硬化させた際に、硬化体と窩洞の内壁との間に間隙が形成され難く、二次的な齲蝕の発生が大きく低減できることから、歯科用充填修復材料として最も有用である。
以下に本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施例のみに限定されるものではない。
実施例および比較例で使用した化合物の略称は以下の通りである。
[ラジカル重合性単量体]
・Bis−GMA:
2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
・D−2.6E:
2,2−ビス(4−(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル)プロパン
・3G:
トリエチレングリコールジメタクリレート
・UDMA:
1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサン
・EPI:エピコート828(商品名、油化シェルエポキシ)ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
[重合開始剤]
(α−ジケトン)
・CQ:
カンファーキノン
(アミン化合物)
・DMBE:
p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
[樹枝状ポリマー]
・HA−DMA−200:
日産化学工業株式会社、GPC法による質量平均分子量:22000、流体力学的平均直径:5.2nm(in THF)
・HA−DVB−500:
日産化学工業株式会社、GPC法による質量平均分子量:48000、流体力学的平均直径:11.7nm(in THF)
・HPS−200:
日産化学工業株式会社、GPC法による質量平均分子量:23000、流体力学的平均直径7.5nm(in THF)
・PB:
末端基に水酸基を有するハイパーブランチポリマーであるPerstop社のBoltornH20(トリメチロールプロパンを核とするジメチロールプロパンの重縮合物、GPC法による重量平均分子量:1750)
・PEI:
Poly(ethylenimide)、Polysciences社製、GPC法による質量平均分子量:10000
[有機無機複合フィラー]
・30CF:
有機無機複合フィラー(bis−GMAを15質量部、3Gを10質量部、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理(粒子100質量部に対して4質量部)した球状シリカ−ジルコニア(平均粒径0.2μm)75質量部を含む複合フィラー、平均粒径:30μm)、15μm〜100μmの粒径の占める割合:80%
・10CF
有機無機複合フィラー(bis−GMAを15質量部、3Gを10質量部、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理(粒子100質量部に対して4質量部)した球状シリカ−ジルコニア(平均粒径0.2μm)75質量部を含む複合フィラー、平均粒径:10μm)、15μm〜100μmの粒径の占める割合:10%
・10EPCF
有機無機複合フィラー(EPI25質量部とγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理(粒子100質量部に対して4質量部)した球状シリカ−ジルコニア(平均粒径0.2μm75質量部とを含む複合フィラー、平均粒径10μm))、15μm〜100μmの粒径の占める割合:10%
[無機フィラー]
・0.15Si−Zr:
球状シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物(平均粒径:0.15μm)
・0.4Si−Zr:
球状シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物(平均粒径:0.4μm)
・0.08Si−Zr
球状シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物(平均粒径:0.08μm)
[微粒子フィラー]
・QS30
シリカ微粒子、レオロシールQS−30(株式会社トクヤマ製)γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物(平均一次粒径7nm)
・PMMA(根上工業株式会社製)
ポリメタクリル酸メチル、分子量Mw=37000
表1及び表2に各実施例および各比較例の歯科用硬化性組成物の組成を示す。
なお、表1、2中に示すマトリックス組成物A、マトリックス組成物Bは以下に示す組成物である。
<マトリックス組成物A>
・D−2.6E:70質量部
・3G:20質量部
・UDMA:10質量部
・CQ:0.2質量部
・DMBE:0.35質量部
<マトリックス組成物B>
・bis−GMA:60質量部
・3G:40質量部
・CQ:0.2質量部
・DMBE:0.28質量部
各実施例および比較例の歯科用硬化性組成物について、重合収縮率、ペーストの硬さを測定し、ペーストのベタつきを官能試験にて評価した。実施例1〜6、11、12については、接着強さ(初期および3000回サーマルサイクル後)の評価を行った。実施例1〜5については耐着色性試験および耐光性試験を行った。結果を表3〜表5に示す。
評価結果について、同一のマトリックス組成物および同一のフィラー組成物を、実質的に同量用いた実施例および比較例の間で比較した場合、以下のことが判った。まず、樹枝状ポリマーを用いた実施例1〜5は、樹枝状ポリマーを添加していない比較例1と比べて重合収縮率が小さく、樹枝状ポリマーを用いずに有機無機複合フィラーを増量した比較例2や他の微粒子を同量添加した比較例3および4に比べて、重合収縮率は同一であったが、ペースト硬さが小さく、使用しやすいものであった。本試験において、ペースト硬さが1.0kg〜5.0kg程度の場合に特に良好な操作性を有しており、これは、樹枝状ポリマーは他の微粒子と比較して、良好な操作性を維持したまま添加できる量が多く、より重合収縮の抑制に効果を発揮することが可能であることを示している。
有機無機複合フィラーと樹枝状ポリマーの双方を添加した実施例1〜5は、樹枝状ポリマーは添加したが有機無機複合フィラーに代えて、一般的な充填無機フィラーを同量用いた比較例5に比べて、重合収縮率は同程度であったが、ベタつきが少なく、良好な操作性を示した。
有機無機複合フィラーの粒径が異なる実施例1、10および13を比較すると、粒径が大きい有機無機複合フィラーが多いほどペースト硬さが小さい。これは、粒径が大きな有機無機複合フィラーを用いた場合のほうが、良好な操作性を維持したままより高充填率とすることが可能であり、より重合収縮の抑制に効果を発揮することが可能であることを示している。
有機無機複合フィラーの有機樹脂相ポリマーの種類のみが異なる実施例1と実施例10、および実施例5と実施例11の接着強さを比較すると、初期の接着強さは同等であるものの、サーマルサイクル3000回後の接着強さは、有機樹脂相ポリマーが(メタ)アクリレートである実施例1および5は初期とほぼ同等であったのに対して、有機樹脂相ポリマーがポリエポキシドである実施例10および11は接着強さが低下していた。これは、ポリエポキシドを用いた場合には重合収縮応力の偏在化により一部の接着界面に重合収縮応力が集中した結果、初期では接着強さに影響を及ぼさなかったひずみが、耐久試験時には破壊の起点となり、耐久後の接着強さに影響を及ぼした結果であると推定される。
ハイパーブランチポリマーAに該当する樹枝状ポリマーを添加した実施例1および2は、ハイパーブランチポリマーAに該当しない樹枝状ポリマーを添加した実施例3および4に比べて、耐着色性および耐光性の点で優れていた。これは、実施例3および4にて添加した樹枝状ポリマーは、反応性不飽和結合やアミノ基、ヒドロキシル基を有しており、これらの構造・基が着色・変色の原因となったのに対して、ハイパーブランチポリマーAにはこれらの構造・基が実質的に含まれていないため、良好な耐着色性、耐光性を示したものと推定される。
なお、表3〜表5に示す、重合収縮率の測定方法、ペースト硬さ、ペーストのベタつきおよび試験方法および評価基準、接着強さ、耐着色性試験、耐光性試験の測定方法は以下の通りである。
[重合収縮率]
直径3mm、高さ7mmの孔を有するSUS製割型に、直径3mm、高さ4mmのSUS製プランジャーを填入して孔の高さを3mmに調整した。次に、この孔内に歯科用硬化性組成物を充填した後、孔の上端をポリプロピレンフィルムで圧接した。その後、SUS製割型のポリプロピレンフィルムが貼り付けられた面を下に向けた状態で、歯科用照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマデンタル製;光出力密度700mW/cm2)の備え付けてあるガラス製台の上に載せた。そして、更にSUS製プランジャーの上から微小な針の動きを計測できる短針を接触させた。この状態で、歯科用照射器によって歯科用硬化性組成物を重合硬化させ、照射開始より3分後の収縮率[%]を、短針の上下方向の移動距離から算出した。
[ペースト硬さ]
SUS型ナット状型にペーストを填入して表面を平らにならし、2分間放置して温度を25℃一定にした。サンレオメーター(株式会社サン科学製)を感圧軸としてΦ5mmSUS製棒を取り付け、2mmの深さまで圧縮進入したときの最大荷重[kg]をへースト硬さとした。
[ペーストベタつき]
ペーストの性状について、充填操作のしやすさの観点から以下の基準に基づいて評価を行った。評価基準は、ベタつきが少なく充填操作がしやすいものついては○、ベタつきが強く充填操作が困難のものについては×とした。
[接着強さ]
a)接着試験のサンプルの作製
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、注水下、#600のエメリーペーパーで唇面に行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次に、これらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質および象牙質のいずれかの平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に歯科用接着材を塗布し、10秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、歯科用照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマデンタル製;光出力密度700mW/cm2)にて10秒間光照射した。更にその上に歯科用コンポジットレジンを充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片を作製した。その後、歯科用レジンセメントを用いて、コンポジットレジン上に金属製アタッチメントを接着した。
b)接着試験方法
接着試験片を37℃の水に24時間浸漬後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、エナメル質または象牙質とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を初期の接着強さとして測定した。
c)接着強さ耐久試験
a)と同様の方法で作製した接着試験サンプルを、熱衝撃試験機にて4℃と60℃の水中に1分間ずつ交互に浸漬し、10000回行った後で上記b)の方法にて接着強さを測定し、その平均値を10000回サーマルサイクル後の接着強さとして測定した。
[耐着色性試験]
直径8mmの貫通孔を有する厚さ3mmのポリアセタール製型に歯科用硬化性組成物を填入した後、貫通孔の両端をポリプロピレンフィルムで圧接した。次に、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマデンタル製;光出力密度700mW/cm2)にて10秒間光照射を行い、硬化体(試験片)を作製した。得られた試験片についてはその表面のバフ研磨を行った。その後、表面が研磨処理された試験片を、濃度が7.4質量%のコーヒー水溶液100ml中に、80℃で24時間浸漬した。浸漬後、水洗、乾燥した試験片の着色度合を、目視にて観察した。この際、同一のマトリックス組成物および同一のフィラー組成物を用いて作製されたサンプル間において、ハイパーブランチポリマーを含まない歯科用硬化性組成物を基準サンプルとして、着色度合を5段階で相対評価した。評価基準は以下の通りである。
A:評価したサンプルの着色度合が、基準サンプルの着色度合とほぼ同程度である。
B:評価したサンプルの着色度合が、基準サンプルの着色度合と比べて、極僅かに悪い。
C:評価したサンプルの着色度合が、基準サンプルの着色度合と比べて、少し悪い。
D:評価したサンプルの着色度合が、基準サンプルの着色度合と比べて、非常に悪い(C評価より悪いがE評価よりは良好である)。
E:評価したサンプルの着色度合が、基準サンプルの着色度合と比べて、著しく悪い。
[耐光性試験]
直径15mmの貫通孔を有する厚さ1mmのポリアセタール製型に歯科用硬化性組成物を填入した後、貫通孔の両端をポリプロピレンフィルムで圧接した。次に、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマデンタル製;光出力密度700mW/cm2)にて、貫通孔内に充填された円形状の歯科用硬化性組成物全体に光が照射されるように、円内5箇所(円の中央部および円周近傍を円周方向に90度毎の位置)を各10秒ずつ光照射した。これにより、円板状の硬化体(試験片)を得た。次に、得られた試験片の半分をアルミ箔で覆い、キセノンウェザーメーター(スガ試験機社製、光強度40W/m2)にて擬似太陽光に延べ4時間曝露した。その後、アルミ箔で覆った部分(未露光部)および擬似太陽光に曝露した部分(露光部)の色調を目視にて観察した。評価基準は以下の通りである。
○:未露光部の色調と露光部の色調とはほぼ同等か僅かな違いしか認められない程度である。
×:未露光部に対して露光部が有意に変色し、両者の色調に明確な違いが認められる。