本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。本実施形態に係る自動車衝突模擬試験装置は、実際の自動車衝突時における慣性力による乗員の移動とともに車両構造物の乗員室内への侵入(イントルージョン)を模擬することができる。以下の実施形態では、車両構造物の模擬車体部品としてトーボード、ステアリングまたはドアを例示するが、模擬車体部品はこれらに限られるものではない。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る自動車衝突模擬試験装置を示す側面図である。図2は、実施形態1の自動車衝突模擬試験装置を示す平面図である。図3は、実施形態1の自動車衝突模擬試験装置におけるイントルージョン装置を示す概略図である。図4は、イントルージョン装置におけるトーボードの支持構造を示す概略図である。図5は、図4のA−A断面を示す概略図である。
実施形態1の自動車衝突模擬試験装置において、図1及び図2に示すように、スレッド15は、所定厚さを有する板材を有する骨組材であって、平面視が前後方向(図1及び図2にて、左右方向)に長い矩形状をなしている。床面12には、所定間隔を有して左右一対のレール13a、13bが前後方向に沿って付設されており、スレッド15が下面に固定されたスライダ14a、14bを介してレール13a、13bに沿って前後移動自在に支持されている。
また、スレッド15は、上面に供試体16を搭載可能となっている。この供試体16は、本実施形態では、骨格のみを有する自動車、いわゆる、ホワイトボディであって、シート16a、ステアリング16b、エアバッグ16cなどの装備品が装着されると共に、ダミー16dが装着されている。この供試体16は、スレッド15における所定の位置に載置され、図示しない固定具により固定される。
なお、ここで、供試体16は、ホワイトボディであり、シート16a、ステアリング16b、エアバッグ16c、ダミー16dを含むものであるが、ホワイトボディ、シート16a、ステアリング16b、エアバッグ16c、ダミー16dを単体で供試体と称する場合もある。以下の実施形態における自動車衝突模擬試験装置では、スレッド15上に、供試体16として、ホワイトボディ、シート16a、ステアリング16b、エアバッグ16c、ダミー16dを搭載したが、供試体16として、ホワイトボディを搭載せずに、シート16aやダミー16dだけを搭載してもよい。
また、本実施形態にて、供試体16は、スレッド15上に搭載されることから、この供試体16である自動車の前方(図1及び図2にて、左方向)をスレッド15の前方とし、供試体16である自動車の後方(図1及び図2にて、右方向)をスレッド15の後方として説明する。また、供試体16である自動車の側方、つまり、左右方向(図1及び図2にて、上方向及び下方向)をスレッド15の側方、つまり、左右方向として説明する。
本実施形態の自動車衝突模擬試験装置にて、スレッド15の前方側の床面12には、スレッド15に対して後方加速度を付与するスレッド加速装置としての第1発射装置17が設置されている。この第1発射装置17は、油圧制御(または、空圧制御、摩擦制御など)されることで、スレッド15側に打ち出されるピストン17aを有している。このため、第1発射装置17は、ピストン17aの先端がスレッド15の前端に接触した状態で、ピストン17aを打ち出すことで、このスレッド15に対して後方への衝撃力、つまり、加速度を与えることができる。そして、第1発射装置17によりスレッド15に後方加速度を付与することは、スレッド15上の供試体16が前面衝突したときに後方加速度を受けることと同様の形態となり、模擬的に自動車衝突を発生させることができる。
また、スレッド15上の前部には、供試体16の前方に位置してイントルージョン装置21が設けられている。このイントルージョン装置21は、図3、図4及び図5に示すように、第2発射装置26と、トーボード25と、イントルージョン補助機構30とを含む。
スレッド15上に取付台22が固定され、取付台22は、図5に示すブラケッド23、23の台座となっている。ブラケッド23、23により回転シャフト24が装着され、回転シャフト24は、取付台22及びブラケッド23、23を介してスレッド15に固定されている。この回転シャフト24は、スレッド15の移動方向である前後方向に直交する水平な左右方向に沿って配置されている。
図4に示すイントルージョン補助機構30は、錘31と、アーム部32と、回転部33とを含む。錘31は、アーム部32に取り付けられており、回転部33から吊り下げられた振り子構造である。アーム部32は、回転部33と剛結合しており、回転シャフト24を支点として回転自在である。
トーボード25は、エンジンルームとその後方の乗員ルームとを仕切るトーボードを模擬した模擬車体部品である。また、トーボード25は、スレッド15の前方側にある傾斜部25aと、スレッド15の後方側にある水平部25bとを含み、傾斜部25aと水平部25bが回転部33で連結される一体形状となっている。例えば、トーボード25は、傾斜部25aがエンジンルームと乗員ルームとを仕切るトーボードに対応し、水平部25bが乗員ルームのフロアを構成するフロアボードに対応する。トーボード25は、回転部33を介して所定角度で折り曲げられた板形状をなし、回転シャフト24に対して回動自在に支持されている。
傾斜部25aは、回転部33(回転シャフト24)からスレッド15の前上方側に延出され、スレッド15の上面に対して所定角度θ1に設定されている。一方、水平部25bは、回転部33(回転シャフト24)からスレッド15の後方側に延出され、スレッド15の上面と略平行に設定されている。
スレッド15上の前部には、トーボード25の前方に位置して、トーボード25における傾斜部25aの後方及び水平部25bの下方に向けて加速度を付与するイントルージョン加速装置としての第2発射装置26が配置されている。この第2発射装置26は、油圧制御(または、空圧制御、摩擦制御など)されることで、トーボード25側に打ち出されるピストン26aを有している。そして、この第2発射装置26は、基端部がスレッド15上に固定された固定ブロック27に連結ピン等の連結部28により回動自在に連結され、ピストン26aの先端部がトーボード25における傾斜部25aの先端部に連結部29により回動自在に連結されている。
なお、イントルージョン装置21は、第2発射装置26のピストン26aの先端部をトーボード25に連結したが、第1発射装置17のように、ピストン26aの先端部をトーボード25に突き当てるようにしてもよい。
このため、第2発射装置26は、ピストン26aを打ち出すことで、このトーボード25に対して後方へ回動する衝撃力、つまり、加速度を与えることができる。即ち、第2発射装置26は、トーボード25に対して、傾斜部25aの先端部が後方に移動すると共に、水平部25bの先端部が下方に移動するような回転力を付与することができる。
この第2発射装置26は、第1発射装置17によりスレッド15に後方加速度を付与するときに同時に作動し、トーボード25に後方加速度を付与する。つまり、第1発射装置17によりスレッド15に加速度を付与し、スレッド15上の供試体16が前面衝突したときに後方加速度を受けたとき、第2発射装置26によりトーボード25に加速度を付与することで、スレッド15上のトーボード25が前面衝突による後方加速度(変形)を受けたことと同様の形態となり、模擬的に自動車衝突を発生させることができる。
そして、イントルージョン補助機構30は、スレッド15に固定された回転シャフト24を支点として回転可能であり、第2発射装置26に連結された連結部29と、錘31を備え、かつ連結部29と前記支点を介した位置に配置され、かつ傾斜部25aと連動して回転するアーム部32とを含む。イントルージョン補助機構30は、第1発射装置17によりスレッド15に後方加速度を付与する場合、錘31に慣性が作用し、錘31が回転シャフト24の回りに回動する。錘31の回動により生じたトルクが、第2発射装置26がピストン26aを打ち出してトーボード25に与える力を補助する。このため、イントルージョン補助機構30は、模擬車体部品であるトーボード25を供試体であるダミー16dに押し当てる力を付与することができる。
イントルージョン装置21には、スレッド15に加えられた水平方向の加速度と、トーボード25の加速度と、ダミー16dからの反力との合力が作用する。このため、イントルージョン装置21に必要とされる出力が大きくなり、第2発射装置26が大型化または重量化するおそれがある。本実施形態のイントルージョン装置21は、イントルージョン補助機構30が第2発射装置26のピストン26aに補助力を加えて、トーボード25を供試体であるダミー16dに押し当てる力を付与する。その結果、第2発射装置26のピストン26aを打ち出す力が小さくてもよいため、第2発射装置26を小型化することができる。
ここで、上述した実施形態1の自動車衝突模擬試験装置の作動について説明する。
実施形態1の自動車衝突模擬試験装置により自動車衝突試験を実施する場合、事前に、スレッド15やトーボード25の設計データ(重量や重心位置など)、実車衝突試験で得られた衝突時間に対する加速度変化の各データから、この加速度の時間的変化(波形)を再現できるように、第1発射装置17、第2発射装置26におけるピストン17a、ピストン26aの打ち出し力、スレッド15上の供試体16の位置を所定値に設定しておく。
図1、図2及び図3に示すように、第1発射装置17を油圧制御することで、ピストン17aを打ち出し、停止状態にあるスレッド15に対して目標前後加速度(スレッド15、供試体16における後方加速度)を与え、衝突時を模擬する加速度を供試体16に与える。すると、スレッド15は、与えられた目標前後加速度に伴って所定距離だけ後方に移動する。
また、第1発射装置17と同時に第2発射装置26を油圧制御することで、ピストン26aを打ち出し、停止状態にあるトーボード25に対して目標前後加速度(トーボード25における後方加速度)を与え、衝突時を模擬する加速度をトーボード25に与える。すると、トーボード25は、与えられた目標前後加速度に伴って所定角度だけ後方に回動する。即ち、図4に二点鎖線で示すように、トーボード25は、傾斜部25aが回転部33(回転シャフト24)を支点として立ち上がり、角度θ1が大きくなると共に、水平部25bが回転部33(回転シャフト24)を支点として下降し、角度θ2が発生する。
このように実施形態1の自動車衝突模擬試験装置にあっては、供試体16を搭載可能なスレッド15を水平な前後方向に沿って移動自在に支持し、前上方に延出する傾斜部25aと後方に延出する水平部25bとを有するトーボード25の回転部33をスレッド15の前部に回転シャフト24により回動自在に支持すると共に、第2発射装置26によりトーボード25における傾斜部25aの後方及び水平部25bの下方に向けて加速度を付与可能としている。
従って、第2発射装置26によりトーボード25における傾斜部25aの後方に向けて加速度を付与可能とすると共に、水平部25bの下方に向けて加速度を付与可能とすることで、トーボード25の傾斜部25aと水平部25bを同時に動作させることとなり、自動車衝突模擬試験における再現性を向上することができる。
また、実施形態1の自動車衝突模擬試験装置では、第2発射装置26により、傾斜部25aの先端部が後方に移動すると共に、水平部25bの先端部が下方に移動するように回転力を付与可能としている。従って、実際の自動車衝突時におけるトーボード25の変形を高精度に再現することができる。
また、実施形態1の自動車衝突模擬試験装置では、トーボード25の回転部33を介して傾斜部25aと水平部25bを一体に連結して回転シャフト24により回動可能に支持している。従って、傾斜部25aと水平部25bを一体としてトーボード25を構成することで、構造の簡素化を可能とすることができる。
(実施形態1の変形例)
図6は、実施形態1に係る自動車衝突模擬試験装置におけるトーボードの支持構造の変形例を示す概略図である。以下の説明においては、上述した実施形態と同じ構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
実施形態1の変形例のトーボード25は、スレッド15の前方側にある傾斜部25aと、スレッド15の後方側にある水平部25bとを含み、傾斜部25aが回転部33で連結されている。水平部25bは、傾斜部25aと連結されておらず、取付台22またはブラケッド23に固定されている。実施形態1の変形例のトーボード25は、傾斜部25aと水平部25bを独立して構成する。
図1、図2及び図3に示すように、第1発射装置17を油圧制御することで、ピストン17aを打ち出し、停止状態にあるスレッド15に対して目標前後加速度(スレッド15、供試体16における後方加速度)を与え、衝突時を模擬する加速度を供試体16に与える。すると、スレッド15は、与えられた目標前後加速度に伴って所定距離だけ後方に移動する。
また、第1発射装置17と同時に第2発射装置26を油圧制御することで、ピストン26aを打ち出し、停止状態にあるトーボード25に対して目標前後加速度(トーボード25における後方加速度)を与え、衝突時を模擬する加速度をトーボード25に与える。すると、トーボード25は、与えられた目標前後加速度に伴って所定角度だけ後方に回動する。即ち、図6に二点鎖線で示すように、傾斜部25aが回転部33(回転シャフト24)を支点として立ち上がり、傾斜部25aが水平部25bに対して近づくように動作する。
そして、イントルージョン補助機構30が第2発射装置26のピストン26aに補助力を加えて、トーボード25を供試体であるダミー16dに押し当てる力を付与する。その結果、第2発射装置26のピストン26aを打ち出す力が小さくてもよいため、第2発射装置26を小型化することができる。
以上説明したように実施形態1に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッド15と、スレッド加速装置である第1発射装置17と、イントルージョン加速装置である第2発射装置26と、イントルージョン補助機構30とを含む。スレッド15は、水平方向に沿って移動自在に支持されて供試体16を搭載可能である。また、第1発射装置17は、スレッド15に向けて加速度を与えてスレッド15を水平方向に移動させる。第2発射装置26は、供試体16に押し当てる模擬車体部品であるトーボード25に加速度を付与する。そして、イントルージョン補助機構30は、スレッド15に固定された回転シャフト24を支点として回転可能な錘31を備え、第1発射装置17が付与したスレッド15の加速度により錘31を回転シャフト24の回りに回動させ、錘31の回動により生じたトルクを、トーボード25をダミー16dに押し当てる力として付与する。
この構造により、実施形態1に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッド15に加わる加速度と逆向きの加速度が錘31に作用する。このため、錘31が回転シャフト24の回りに回動することで、錘31の回動により生じたトルクをトーボード25に伝達し、トーボード25がダミー16dに押し当てる力とすることができる。その結果、第2発射装置26の必要な出力が小さくてもすむことになる。例えば第2発射装置26が、油圧アクチュエータである場合、第2発射装置26に使用するピストン26aだけではなく、アキュームレータ、油タンク、油圧機器または関連治具も小さく、軽くまたは安価に構成することができる。そして、自動車のイントルージョン試験を行う場合、実際の自動車の衝突データに基づいて、スレッド加速装置である第1発射装置17と、イントルージョン加速装置である第2発射装置26とを制御し、トーボード25の傾動や移動を制御することができる。
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係る自動車衝突模擬試験装置におけるトーボードの支持構造を示す概略図である。以下の説明においては、上述した実施形態と同じ構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図7に示すように、スレッド15上の前部には、供試体16の前方に位置してイントルージョン装置21が設けられている。実施形態2に係るイントルージョン装置21は、スレッド15上に、ガイドレール42を上述したレール13a、13bと平行となるように敷設している。
移動台43は、スライダを備えており、ガイドレール42を滑走するスライダで前後移動自在に支持されている。移動台43は、図5に示す取付台22と同様に、ブラケッド23、23の台座となっている。そして、ブラケッド23、23により回転シャフト24が装着され、回転シャフト24は、移動台43及びブラケッド23、23を介してスレッド15に固定されている。この回転シャフト24は、スレッド15の移動方向である前後方向に直交する水平な左右方向に沿って配置されている。
トーボード25は、スレッド15の前方側にある傾斜部25aと、スレッド15の後方側にある水平部25bとを有しており、傾斜部25aと水平部25bが回転部33で連結される一体形状となっている。そして、トーボード25は、回転部33が回転シャフト24により回動自在に支持されている。
図7に示すスレッド15上の前部には、図3と同様に、トーボード25の前方に位置して、トーボード25における傾斜部25aの後方及び水平部25bの下方に向けて加速度を付与する第2発射装置26が配置されている。この第2発射装置26は、油圧制御(または、空圧制御、摩擦制御など)されることで、トーボード25側に打ち出されるピストン26aを有し、ピストン26aの先端部が傾斜部25aに連結されている。このため、第2発射装置26は、ピストン26aを打ち出すことで、このトーボード25に対して後方へ回動する衝撃力、つまり、加速度を与えることができる。
また、スレッド15上の前部には、トーボード25の前方に位置して、このトーボード25の後方に向けて加速度を付与するトーボード加速装置としての第3発射装置44が配置されている。この第3発射装置44は、油圧制御(または、空圧制御、摩擦制御など)されることで、トーボード25側に打ち出されるピストン44aを有している。そして、この第3発射装置44は、基端部がスレッド15上に回動自在に連結され、ピストン44aの先端部がブラケッド23に連結ピン等の連結部45により回動自在に連結されている。このため、第3発射装置44は、ピストン44aを打ち出すことで、このトーボード25及び錘31に対して後方へ移動する衝撃力、つまり、加速度を与えることができる。なお、ピストン44aの先端部が移動台43に連結ピン等の連結部により回動自在に連結されていてもよい。
この第3発射装置44は、第2発射装置26によりスレッド15やトーボード25に後方加速度を付与するときに同時に作動し、トーボード25に後方加速度を付与する。つまり、第1発射装置17によりスレッド15に加速度を付与し、スレッド15上の供試体16が前面衝突したときに後方加速度を受けたとき、第2発射装置26、第3発射装置44によりトーボード25に加速度を付与することで、スレッド15上のトーボード25が前面衝突による後方加速度(変形)を受けたことと同様の形態となり、模擬的に自動車衝突を発生させることができる。
即ち、第1発射装置17を油圧制御することで、ピストン17aを打ち出し、停止状態にあるスレッド15に対して目標前後加速度(スレッド15、供試体16における後方加速度)を与え、衝突時を模擬する加速度を供試体16に与える。すると、スレッド15は、与えられた目標前後加速度に伴って所定距離だけ後方に移動する。
また、第1発射装置17と同時に第2発射装置26、第3発射装置44を油圧制御することで、ピストン26a、44aを打ち出し、停止状態にあるトーボード25に対して目標前後加速度(トーボード25における後方加速度)を与え、衝突時を模擬する加速度をトーボード25に与える。すると、トーボード25は、与えられた目標前後加速度に伴って所定角度だけ後方に回動すると共に、所定距離だけ後方に移動する。即ち、トーボード25は、傾斜部25aが回転部33(回転シャフト24)を支点として立ち上がると共に、水平部25bが回転部33(回転シャフト24)を支点として下降し、同時に、トーボード25が後退する。
第1発射装置17によりスレッド15に後方加速度を付与する場合、第3発射装置44によってもブラケッド23または移動台43に後方加速度が付加される。その結果、またイントルージョン補助機構30は、錘31に慣性が作用し、錘31が回転シャフト24の回りに回動する角加速度を高めることができる。錘31の回動により生じたトルクが、第2発射装置26がピストン26aを打ち出してトーボード25に与える力を補助する。このため、イントルージョン補助機構30は、模擬車体部品であるトーボード25を供試体であるダミー16dに押し当てる力を付与することができる。
このように実施形態2の自動車衝突模擬試験装置にあっては、第2発射装置26によりトーボード25における傾斜部25aの後方及び水平部25bの下方に向けて加速度を付与可能とすると共に、第3発射装置44により移動台43を介してトーボード25の後方に向けて加速度が付与可能としている。
従って、第3発射装置44によりトーボード25の後方に向けて加速度を付与可能とすることで、トーボード25の傾斜部25aと水平部25bを同時に移動させることとなり、自動車衝突模擬試験における再現性を向上することができる。
(実施形態2の変形例)
図8は、実施形態2に係る自動車衝突模擬試験装置におけるトーボードの支持構造の変形例を示す概略図である。以下の説明においては、上述した実施形態と同じ構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
実施形態2の変形例のトーボード25は、スレッド15の前方側にある傾斜部25aと、スレッド15の後方側にある水平部25bとを含み、傾斜部25aが回転部33で連結されている。水平部25bは、傾斜部25aと連結されておらず、取付台22またはブラケッド23に固定されている。実施形態1の変形例のトーボード25は、傾斜部25aと水平部25bを独立して構成する。
図1、図2及び図3に示すように、第1発射装置17を油圧制御することで、ピストン17aを打ち出し、停止状態にあるスレッド15に対して目標前後加速度(スレッド15、供試体16における後方加速度)を与え、衝突時を模擬する加速度を供試体16に与える。すると、スレッド15は、与えられた目標前後加速度に伴って所定距離だけ後方に移動する。
また、第1発射装置17と同時に第2発射装置26、第3発射装置44を油圧制御することで、ピストン26a、ピストン44aを打ち出し、停止状態にあるトーボード25に対して目標前後加速度(トーボード25における後方加速度)を与え、衝突時を模擬する加速度をトーボード25に与える。すると、トーボード25は、与えられた目標前後加速度に伴って所定角度だけ後方に回動する。傾斜部25aが回転部33(回転シャフト24)を支点として立ち上がり、傾斜部25aが水平部25bに対して近づくように動作する。
そして、イントルージョン補助機構30が第2発射装置26のピストン26aに補助力を加えて、トーボード25を供試体であるダミー16dに押し当てる力を付与する。その結果、第2発射装置26のピストン26aを打ち出す力が小さくてもよいため、第2発射装置26を小型化することができる。
第1発射装置17によりスレッド15に後方加速度を付与する場合、第3発射装置44によってもブラケッド23または移動台43に後方加速度が付加される。その結果、またイントルージョン補助機構30は、錘31に慣性が作用し、錘31が回転シャフト24の回りに回動する角加速度を高めることができる。錘31の回動により生じたトルクが、第2発射装置26がピストン26aを打ち出してトーボード25に与える力を補助する。このため、イントルージョン補助機構30は、模擬車体部品であるトーボード25を供試体であるダミー16dに押し当てる力を付与することができる。
また、第2発射装置26、第3発射装置44によりトーボード25の傾斜部25aと水平部25bに対して異なる加速度を付与可能とすることで、トーボード25の傾斜部25aと水平部25bを同時に、かつ、独立して移動させることとなり、自動車衝突模擬試験における再現性を向上することができる。
以上説明したように実施形態2に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッド15と、スレッド加速装置である第1発射装置17と、イントルージョン加速装置である第2発射装置26及び第3発射装置44と、イントルージョン補助機構30とを含む。スレッド15は、水平方向に沿って移動自在に支持されて供試体16を搭載可能である。また、第1発射装置17は、スレッド15に向けて加速度を与えてスレッド15を水平方向に移動させる。第2発射装置26は、供試体16に押し当てる模擬車体部品であるトーボード25に加速度を付与する。そして、イントルージョン補助機構30は、スレッド15に固定された回転シャフト24を支点として回転可能な錘31を備え、第1発射装置17が付与したスレッド15の加速度及び第3発射装置44が付与した加速度により錘31を回転シャフト24の回りに回動させ、錘31の回動により生じたトルクを、トーボード25をダミー16dに押し当てる力として付与する。
この構造により、実施形態2に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッド15に加わる加速度と逆向きの加速度が錘31に作用する。このため、錘31が回転シャフト24の回りに回動することで、錘31の回動により生じたトルクをトーボード25に伝達し、トーボード25がダミー16dに押し当てる力とすることができる。その結果、実施形態1の第2発射装置26よりも実施形態2の第2発射装置26の必要な出力がより小さくてもすむことになる。例えば第2発射装置26が、油圧アクチュエータである場合、第2発射装置26に使用するピストン26aだけではなく、アキュームレータ、油タンク、油圧機器または関連治具も小さく、軽くまたは安価に構成することができる。そして、自動車のイントルージョン試験を行う場合、実際の自動車の衝突データに基づいて、スレッド加速装置である第1発射装置17と、イントルージョン加速装置である第2発射装置26及び第3発射装置44とを制御し、トーボード25の傾動や移動を制御することができる。
(実施形態3)
図9は、実施形態3の自動車衝突模擬試験装置におけるイントルージョン装置を示す概略図である。図10は、実施形態3に係る自動車衝突模擬試験装置におけるステアリングの支持構造を示す概略図である。図11は、図10に示すステアリングの支持構造の回転シャフトの回転中心を含む面の断面を示す概略図である。以下の説明においては、上述した実施形態と同じ構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
実施形態3に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッド15上の前部に、供試体であるダミー16dの前方に位置してイントルージョン装置51が設けられている。イントルージョン装置51は、模擬部品であるステアリング58をダミー16dに押し当てる状態を再現するための装置である。このイントルージョン装置51は、図9、図10及び図11に示すように、第2発射装置52と、ステアリング58と、ステアリング58を支持するステアリングシャフトを模した支持部材57と、イントルージョン補助機構60とを含む。支持部材57は、突出部であるリンク部56を備えている。
スレッド15上の前部には、スレッド15の前方に位置して、ステアリング58の後方かつ上方(斜め上方)に向けて加速度を付与するイントルージョン加速装置としての第2発射装置52が配置されている。この第2発射装置52は、油圧制御(または、空圧制御、摩擦制御など)されることで、ステアリング58側に打ち出されるピストン54を有している。そして、この第2発射装置52は、基端部がスレッド15上に固定された固定ブロック53に固定されている。また、ピストン54の端部は、ユニバーサルジョイントを模した接続部55を介して支持部材57に連結されている。なお、ピストン54の先端部を支持部材57に連結したが、第1発射装置17のように、ピストン54の先端部を支持部材57に突き当てるようにしてもよい。
また、図10に示すように、スレッド15上に取付台22が固定され、取付台22は、図11に示すブラケッド23、23の台座となっている。ブラケッド23、23により回転シャフト24が装着され、回転シャフト24は、取付台22及びブラケッド23、23を介してスレッド15に固定されている。この回転シャフト24は、スレッド15の移動方向である前後方向に直交する水平な左右方向に沿って配置されている。
図10に示すイントルージョン補助機構60は、錘61と、アーム部62と、回転部63と、連結部65とを含む。錘61は、アーム部62に取り付けられており、回転部63から吊り下げられた振り子構造である。アーム部62は、回転部63と剛結合しており、回転シャフト24を支点として回転自在である。アーム部62は、回転部63を介して連結部65と一体となっている。
図10に示すように、連結部65には、リンク部56の動きを規制するガイド孔65aが開けられている。ガイド孔65aは、回転シャフト24から離れる方向に直線的にリンク部56の規制面が延びるように開けられている。そして、リンク部56は、図11に示すように、抜け止めのために、直径を広げた拡径部56aを備えていることが好ましい。
図9に示す第2発射装置52は、第1発射装置17によりスレッド15に後方加速度を付与するときに同時に作動し、ステアリング58に後方加速度を付与する。つまり、第1発射装置17によりスレッド15に加速度を付与し、スレッド15上の供試体16が前面衝突したときに後方加速度を受けたとき、第2発射装置26によりステアリング58に加速度を付与することで、スレッド15上のステアリング58が前面衝突による後方加速度(変形)を受けたことと同様の形態となり、模擬的に自動車衝突を発生させることができる。
またイントルージョン補助機構60は、第1発射装置17によりスレッド15に後方加速度を付与する場合、錘61に慣性が作用し、図10に示すように錘61が回転シャフト24の回りに回動する。錘61の回動により生じたトルクが、連結部65の回動により、リンク部56に伝達される。リンク部56は、ガイド孔65aを移動することで、連結部65の回転運動を支持部材57がダミー16dに近づく方向の直線運動にして、第2発射装置52がピストン54を打ち出して支持部材57に与える力を補助する。このため、イントルージョン補助機構60は、模擬車体部品であるステアリング58を供試体であるダミー16dに押し当てる力として付与することができる。
以上説明したように、実施形態3の模擬車体部品は、ステアリング58と、ステアリング58を支持する支持部材57とを含み、イントルージョン補助機構60は、連結部65の回転により支持部材57を移動させるリンク機構を備えることが好ましい。リンク機構は、例えば、リンク部56と、連結部65と、ガイド孔65aとを含む。この構成により、実施形態3に係る自動車衝突模擬試験装置は、実際の自動車衝突時におけるステアリング58の進入の動きを再現することができる。
また、実施形態3に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッド15と、スレッド加速装置である第1発射装置17と、イントルージョン加速装置である第2発射装置52と、イントルージョン補助機構60とを含む。スレッド15は、水平方向に沿って移動自在に支持されて供試体16、例えばダミー16dを搭載可能である。また、第1発射装置17は、スレッド15に向けて加速度を与えてスレッド15を水平方向に移動させる。第2発射装置52は、ダミー16dに押し当てる模擬車体部品であるステアリング58に加速度を付与する。そして、イントルージョン補助機構60は、スレッド15に固定された回転シャフト24を支点として回転可能な錘61を備え、第1発射装置17が付与したスレッド15の加速度により錘61を回転シャフト24の回りに回動させ、錘61の回動により生じたトルクを、ステアリング58をダミー16dに押し当てる力として付与する。
この構造により、実施形態3に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッド15に加わる加速度と逆向きの加速度が錘61に作用する。このため、錘61が回転シャフト24の回りに回動することで、錘61の回動により生じたトルクを支持部材57に伝達し、ステアリング58がダミー16dに押し当てる力とすることができる。その結果、第2発射装置52の必要な出力が小さくてもすむことになる。
(実施形態4)
図12は、実施形態4の自動車衝突模擬試験装置におけるイントルージョン装置を示す概略図である。以下の説明においては、上述した実施形態と同じ構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
実施形態4に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッド15A上の前部に、供試体であるダミー16dの右方または左方の側方に位置したイントルージョン装置71が設けられている。イントルージョン装置71は、模擬部品であるドア75をダミー16dに押し当てる状態を再現するためのドアイントルージョンの試験装置である。
実施形態4の自動車衝突模擬試験装置において、床面12には、所定間隔を有して左右一対のレール13c、13dが左右方向に沿って付設されており、スレッド15Aが下面に固定されたスライダ14c、14dを介してレール13c、13dに沿って左右移動自在に支持されている。また、スレッド15Aは、上面に供試体であるダミー16dを搭載可能となっている。なお、上述したように、スレッド15A上に、供試体16として、ホワイトボディ、シート16a、ステアリング16b、エアバッグ16c、ダミー16dを搭載してもよい。
実施形態4に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッド15Aの一方の側方側の床面12には、スレッド15Aに対して側方加速度を付与するスレッド加速装置としての第1発射装置17Aが設置されている。この第1発射装置17Aは、油圧制御(または、空圧制御、摩擦制御など)されることで、スレッド15A側に打ち出されるピストン17bを有している。このため、第1発射装置17Aは、ピストン17bの先端がスレッド15Aの前端に接触した状態で、ピストン17bを打ち出すことで、このスレッド15Aに対して他方の側方への衝撃力、つまり、加速度を与えることができる。そして、第1発射装置17Aによりスレッド15Aに側方加速度を付与することは、スレッド15A上の供試体であるダミー16dが側面衝突したときに加速度を受けることと同様の形態となり、模擬的に自動車衝突を発生させることができる。
イントルージョン装置71は、図12に示すように、第2発射装置72と、ドア75と、ドアを支持する支持部材57と、イントルージョン補助機構60とを含む。支持部材57は、突出部であるリンク部56を備えている。
スレッド15A上の側部には、スレッド15Aの側方に位置して、ダミー16dに向けてドア75に加速度を付与するイントルージョン加速装置としての第2発射装置72が配置されている。第2発射装置72は、油圧制御(または、空圧制御、摩擦制御など)されることで、ドア側に打ち出されるピストン74を有している。そして、この第2発射装置72は、基端部がスレッド15A上に固定された固定ブロック73に固定されている。また、ピストン74の端部は、接続部55を介して支持部材57に連結されている。なお、ピストン54の先端部を支持部材57に連結したが、第1発射装置17Aのように、ピストン54の先端部を支持部材57に突き当てるようにしてもよい。
また、スレッド15A上に取付台22が固定され、取付台22は、図11と同様に、ブラケッド23、23の台座となっている。ブラケッド23、23により回転シャフト24が装着され、回転シャフト24は、取付台22及びブラケッド23、23を介してスレッド15Aに固定されている。この回転シャフト24は、スレッド15Aの移動方向である左右方向に直交する水平な前後方向に沿って配置されている。
イントルージョン補助機構60は、錘61と、アーム部62と、回転部63と、連結部65とを含む。錘61は、アーム部62に取り付けられており、回転部63から吊り下げられた振り子構造である。アーム部62は、回転部63と剛結合しており、回転シャフト24を支点として回転自在である。アーム部62は、回転部63を介して連結部65と一体となっている。
図12に示すように、連結部65には、リンク部56の動きを規制するガイド孔65aが開けられている。ガイド孔65aは、回転シャフト24から離れる方向に直線的にリンク部56の規制面が延びるように開けられている。
図12に示す第2発射装置72は、第1発射装置17Aによりスレッド15Aに側方加速度を付与するときに同時に作動し、ドア75に加速度を付与する。つまり、第1発射装置17Aによりスレッド15Aに加速度を付与し、スレッド15A上のダミー16dが加速度を受けたとき、第2発射装置72によりドア75に加速度を付与することで、スレッド15A上のドア75が側方衝突による加速度(変形)を受けたことと同様の形態となり、模擬的に自動車衝突を発生させることができる。
またイントルージョン補助機構60は、第1発射装置17Aによりスレッド15Aに側方加速度を付与する場合、錘61に慣性が作用し、図12に示すように錘61が回転シャフト24の回りに回動する。錘61の回動により生じたトルクが、連結部65の回動により、リンク部56に伝達される。リンク部56は、ガイド孔65aを移動することで、連結部65の回転運動を支持部材57がダミー16dに近づく方向の直線運動にして、第2発射装置72がピストン74を打ち出して支持部材57に与える力を補助する。このため、イントルージョン補助機構60は、模擬車体部品であるドア75を供試体であるダミー16dに押し当てる力として付与することができる。
以上説明したように、実施形態4の模擬車体部品は、ドア75と、ドア75を支持する支持部材57とを含み、イントルージョン補助機構60は、連結部65の回転により支持部材57を移動させるリンク機構を備える。リンク機構は、例えば、リンク部56と、連結部65と、ガイド孔65aとを含む。この構成により、実施形態4に係る自動車衝突模擬試験装置は、実際の自動車衝突時におけるステアリングの進入の動きを再現することができる。
また、実施形態4に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッド15Aと、スレッド加速装置である第1発射装置17Aと、イントルージョン加速装置である第2発射装置72と、イントルージョン補助機構60とを含む。スレッド15Aは、水平方向に沿って移動自在に支持されて供試体16、例えばダミー16dを搭載可能である。また、第1発射装置17Aは、スレッド15Aに向けて加速度を与えてスレッド15Aを水平方向に移動させる。第2発射装置72は、ダミー16dに押し当てる模擬車体部品であるドア75に加速度を付与する。そして、イントルージョン補助機構60は、スレッド15Aに固定された回転シャフト24を支点として回転可能な錘61を備え、第1発射装置17Aが付与したスレッド15Aの加速度により錘61を回転シャフト24の回りに回動させ、錘61の回動により生じたトルクを、ドア75をダミー16dに押し当てる力として付与する。
この構造により、実施形態4に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッド15Aに加わる加速度と逆向きの加速度が錘61に作用する。このため、錘61が回転シャフト24の回りに回動することで、錘61の回動により生じたトルクを支持部材57に伝達し、ドア75がダミー16dに押し当てる力とすることができる。その結果、第2発射装置72の必要な出力が小さくてもすむことになる。
以上説明した実施形態に係る自動車衝突模擬試験装置は、スレッドが一方向に加減速する通常の衝突用のスレッドだけでなく、回転運動を伴うピッチング用スレッドやヨーイング用スレッドなどいずれの自動車衝突模擬試験装置にも適用することができる。