JP6025775B2 - 高熱膨張フィラー組成物およびその製造方法 - Google Patents
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ここに開示されるフィラー組成物は、ガラス接合材にフィラーとして添加される。かかるフィラー組成物は、次の一般式(1):AMSi2O6(ここで、AはMg,Ca,SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、MはFe,NiおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。);で示される化合物を含んでいる。そして、実質的にアルカリ金属成分を含まないことを特徴とする。
なお、本明細書において「実質的にアルカリ金属成分を含まない」とは、少なくとも積極的にはアルカリ金属成分(元素)を添加しないことをいう。換言すれば、不可避的な不純物としてアルカリ金属成分(アルカリ金属元素や該元素を含む化合物)が混入することは許容され得る。具体的には、アルカリ金属成分がフィラー組成物全体の1質量%以下(好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下)の割合で混入することは許容され得る。
なお、本明細書において「線熱膨張係数」とは、25℃から500℃までの温度領域において、一般的な熱機械分析装置(Thermomechanical Analysis:TMA)を用いて測定した平均線膨張係数であり、試料の初期長さに対する試料長さの変化量を温度差で割った値をいう。線熱膨張係数の測定は、JIS R 3102(1995)に準じて行うことができる。
ここに開示されるフィラー組成物は、典型的には熱膨張係数を向上させるために、フィラーとしてガラス接合材に添加される。かかるフィラー組成物は、次の一般式:AMSi2O6(1);で示される化合物を含んでいる。
なお、上記一般式(1)において、Aは、第2族元素、すなわち、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)のうちの少なくとも1種の元素である。また、Mは、いわゆる鉄族元素、すなわち、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)のうちの少なくとも1種の元素である。
また、ケイ素(Si)は上記一般式(1)の骨格を構成する元素である。ケイ素を含むことで、優れた高温耐久性や耐薬品性、耐熱衝撃性等を実現することができる。また、上記一般式(1)で示される化合物は、A元素を含むことで優れた物理的安定性や熱的安定性を実現し得る。また、上記一般式(1)で示される化合物はM元素を含むことで、高温域において高い耐熱性や耐久性を実現し得る。さらに、被接合部材(例えば金属部材)との物理化学的性状の整合をとることができる。
副次的な成分の例としては、酸化物の形態で、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)、酸化鉄(FeO、Fe2O3、Fe3O4)、酸化ニッケル(NiO、Ni2O3)、酸化コバルト(CoO、Co2O3、Co3O4)等が挙げられる。
あるいは、上記一般式(1)で示される化合物が、フィラー組成物全体の80質量%以上(例えば85質量%以上)であって、95質量%以下(例えば90質量%以下)を占めていてもよい。これにより、生産性や作業性を向上することができ、一層の低コスト化を実現することができる。
好適な一態様では、上記一般式(1)で示される組成物が結晶体として存在している。例えば、アルカリレスのアモルファスガラスマトリックス中に該結晶性フィラーを析出させることで、高熱膨張性であって、且つ、高温域における耐熱性や耐久性に一層優れるアルカリレスのガラス接合材を実現することができる。
なお、アルカリ金属成分(アルカリ金属元素)を含まず比較的高い熱膨張性や耐熱性を示し得るフィラーとしては、酸化マグネシウム(MgO)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LaSrFeO3)、イットリウム系超伝導体(YBCO、YBa2Cu3O7)等が既に知られている。しかしながら、これらのフィラーは熱膨張係数が最大でも15ppm/K程度とここに開示されるフィラー組成物に比べて低いため、高い熱膨張係数を実現するためにはガラス接合材中に大量に添加する必要がある。したがって、ガラス本来の機能性(例えば耐久性や化学的安定性)を低下させることがあり得る。
フィラー粒子の平均粒径は特に限定されないが、通常0.1μm〜10μm(典型的には1μm〜5μm)程度であるとよい。これにより、ガラス接合材中に均質に分散させることができ、一層高気密で高品質な接合部を実現することができる。なお、本明細書において「平均粒径」とは、一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50%に相当する粒径(D50粒径、メジアン径ともいう。)をいう。
このようなアルカリレスのフィラー組成物は、従来と同様の手法(例えば固相反応法)を用いて製造することができる。好適な一態様では、上記一般式(1)で示される化合物を作製することを含んでいる。そして、該作製には、以下のサブ工程:
(S10:混合物の調製)A元素供給源とM元素供給源とシリカとを所定の比率で混合すること、ここで、上記混合物は実質的にアルカリ金属元素を含まない;
(S20:混合物の焼成)上記アルカリ金属元素を含まない混合物を焼成すること;
が包含される。具体的には、下記の手順で行うことができる。
先ず、原料としてのA元素供給源とM元素供給源とシリカ(SiO2)とを準備する。
A元素供給源としては、A元素を含む塩または錯体を好ましく使用し得る。A元素を含む塩としては、A元素の硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫化物等を用いることができる。また、A元素を含む錯体としては、A元素含有のアンミン錯体、ヒドロキシ錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体等を用いることができる。
M元素供給源としては、M元素を含む塩を好ましく使用し得る。M元素を含む塩としては、M元素の硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、蓚酸塩、過塩素酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫化物等を用いることができる。好適な一態様では、水和物の形態のものを用いる。
そして、得られた原料混合物を乾燥した後、溶融炉等で適切な温度(例えば1400℃〜1600℃)にまで加熱した後、冷却する。これによって、上記一般式(1)で表される化合物(フィラー組成物)を得ることができる。なお、焼成は1回であってもよく、例えば冷却(降温)を挟んで2回以上繰り返し行うこともできる。
好適な一態様では、上記得られた組成物を粉砕や篩いがけ(分級)によって、カレット状またはパウダー状等の形態に調製する。これにより、一層高気密で高品質な接合部を実現することができる。
上記のようにして製造されたフィラー組成物は、従来のフィラーと同様に使用することができる。例えば従来公知の各種アモルファスガラスに上記フィラー組成物を添加して調製し、ガラス接合材として用いることができる。
アモルファスガラスとしては、アルカリレスのものの中から適宜選択して使用することができる。具体例としては、各種の酸化物を主体として構成されるガラス粉末、例えば、RO−SiO2−Al2O3−TiO2系ガラス(ここで、ROは第2族元素の酸化物を指す。以下同様。)、RO−SiO2−Al2O3−B2O3系ガラス、RO−SiO2−Al2O3−Bi2O3系ガラス、RO−SiO2−Al2O3−TiO2−B2O3系ガラス、RO−SiO2−Al2O3−ZnO−SnO系ガラス、RO−SiO2−Al2O3−PbO系ガラス、SnO−P2O5−SiO2−Al2O3系ガラス、B2O3−SiO2−ZnO系ガラス、B2O3−SiO2−Bi2O3系ガラス、Bi2O3−B2O3−ZnO系ガラス、PbO−SiO2−B2O3系ガラス、SiO2−B2O3−PbO−Li2O系ガラス等が挙げられる。なかでも、アルカリ成分、ホウ素成分、砒素成分、鉛成分をいずれも含まないガラス(例えば、上記RO−SiO2−Al2O3−TiO2系ガラスやSnO−P2O5−SiO2−Al2O3系ガラス)を好適に用いることができる。
MgO、CaO、BaOのうちの少なくとも1種 60〜80質量%(例えば70〜75質量%)
SiO2 10〜25質量%(例えば15〜20質量%)
Al2O3 1〜15質量%(例えば5〜10質量%)
TiO2 1〜5質量%(例えば1〜3質量%)
上記RO−SiO2−Al2O3−TiO2系ガラスは上記の主要構成成分から構成されていてもよく、あるいは、上記以外の任意の成分を含むものであってもよい。そのような添加成分としては、酸化物の形態で、例えば、ZnO、ZrO2、V2O5、Nb2O5、FeO、Fe2O3、Fe3O4、CuO、Cu2O、SnO、SnO2、P2O5、La2O3、CeO2等が挙げられる。これら構成成分の割合は、酸化物換算の質量比で、ガラス粉末全体の凡そ5質量%以下(典型的には3質量%以下、例えば2質量%以下)とすることが好ましい。このことは、他の系のガラスについても同様である。
被接合部材(接合対象)としては、上記ガラス接合材と熱膨張係数が比較的近いものを用いることができる。例えば、上記ガラス接合材と熱膨張係数が同程度か、それよりも若干高い金属材料やセラミック材料からなる部材を好適に用いることができる。かかる部材の熱膨張係数としては、おおよその目安として、25℃から500℃までの線熱膨張係数が10ppm/K〜25ppm/K程度であることが例示される。このような性状の金属材料としては、ステンレス(SUS)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。また、セラミック材料としては、アルミナ(酸化アルミニウム:Al2O3)を主体とするアルミナ系セラミックが挙げられる。
かかるガラス接合材は、例えば一の金属部材と一の他部材との接合(例えば、金属部材同士の接合や金属部材とセラミック部材との接合)に広く使用することができる。あるいは、一のセラミック部材と一の他部材との接合(例えば、セラミック部材同士の接合やセラミック部材と金属部材との接合)に広く使用することができる。
先ず、上記フィラー組成物を含むガラス接合材を調製する。また、熱膨張係数の大きな被接合部材を用意する。次に、被接合部材同士(例えば金属部材とセラミック部材)が相互に接触・接続するよう配置し、接続部位に上記ガラス接合材を付与(配置または塗布)する。そして、この複合体を乾燥後、該ガラス接合材の軟化点以上の温度域(典型的には600℃以上、例えば1000℃〜1200℃)で焼成する。これによって、気密性に優れ且つ高温域においても耐熱性や耐久性に優れた接合部を、熱膨張係数の大きな被接合部材間に形成することができる。
まず、下表1に示す計5種類のフィラー(S1〜S5)を作製した。具体的には、表1に示す原料を合成結晶の欄に示す組成となるよう混合し、それぞれ1500℃で溶融した後、冷却した。これを粉砕して、平均粒径が凡そ1μm〜5μmのフィラー(S1〜S5)を作製した。また、比較例として市販のフィラー(S6〜S8)を準備した。
上記作製したフィラー(S1〜S5)および市販のフィラー(S6〜S8)を、それぞれ7mm×7mm×50mmの角柱状にプレス成形し、1000℃で仮焼きした。仮焼き後の焼成物を、ダイヤモンドカッターでΦ5mm×10〜20mm程度の円柱状に切り出して、測定用の試験片とした。そして、熱機械分析装置(株式会社リガク製、TMA8310)を用いてこの試験片の線膨張係数を評価した。具体的には、室温(25℃)から500℃まで10℃/分の一定速度で昇温し、試験片と標準試料の熱膨張量の差から線熱膨張係数を算出した。得られた線熱膨張係数を表1に示す。
本試験においては、上記フィラー(S1〜S8)を用いて、対応するガラス接合材(例1〜例8)を作製した。具体的には、先ず、アルカリレスのアモルファスガラスとして、酸化物換算で以下の組成:
BaO 75質量%
SiO2 17質量%
Al2O3 7質量%
TiO2 3質量%
からなるガラス原料粉末(平均粒径:1μm〜3μm)を準備した。
次に、上記ガラス組成物とフィラーとが、それぞれ、質量比で90:10となるよう配合して、混合した。これを1500℃で溶融した後、冷却した。得られたガラス組成物を粉砕して、平均粒径が凡そ1μm〜5μmのガラス接合材(例1〜例8)を作製した。
上記作製したガラス接合材(例1〜例8)について、上記フィラーの場合と同様にして熱膨張係数を測定した。得られた線熱膨張係数を表2に示す。
これに対して、例1〜例6のガラス接合材では、線熱膨張係数が10ppm/K〜20ppm/Kと相対的に高い値を示した。なかでもここに開示される発明に係る例1〜例5のガラス接合材では、アルカリ金属成分を含まずに(アルカリレスで)高い熱膨張性(例えば線熱膨張係数が11ppm/K〜12ppm/K)を実現することができた。
上記作製したガラス接合材(例1〜例8)を、それぞれΦ15mm×2.5mmの円盤状にプレス成形し、ペレット状のサンプルを作製した。これを、ステンレス(線熱膨張係数:10ppm/K〜15ppm/K)製の基板の上に載せ、大気中、1300℃で凡そ5分間焼成することで、ペレットと基板との接合を試みた。
その後、それぞれの積層体について、接合が実現されているか否か、接合が実現されている場合には気密な接合部となっているか否かを確認した。具体的には、先ず、ピンセットを用いてペレットが基板から剥がせるかどうかを確認し、機械的に接合されているか否かを評価した。接合が確認できた接合体については、さらに浸透探傷検査を行い、クラックの有無を確認した。
結果を、表2に示す。なお、表2において「○」は両者が機械的に接合され、且つ、クラックが確認されなかったことを、「×」は両者が機械的に接合されていなかったこと、または、浸透探傷検査において接合部にクラックが認められたことを表している。
以上のことから、ここに開示されるフィラー組成物を用いることによって、アルカリ金属成分を含まずに、金属部材(ここではステンレス)と同程度の熱膨張係数を有し、且つ、金属部材との接合性に優れたガラス接合材を実現できるとわかった。
Claims (6)
- ガラス接合材にフィラーとして添加されるフィラー組成物であって、
以下の一般式(1):
AMSi2O6 (1)
(ここで、AはMg,Ca,SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、MはFe,NiおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。);
で示される化合物を含み、
実質的にアルカリ金属成分を含まないことを特徴とする、フィラー組成物。 - 25℃から500℃の線熱膨張係数が20ppm/K〜30ppm/Kである、請求項1に記載のフィラー組成物。
- 前記一般式(1)で示される化合物が、前記フィラー組成物全体の80質量%以上を占める、請求項1または2に記載のフィラー組成物。
- 前記一般式(1)で示される化合物が結晶体として存在している、請求項1から3のいずれか1項に記載のフィラー組成物。
- 前記ガラス接合材が、一の金属部材と一の他部材とを封止接合するためのガラス接合材である、請求項1から4のいずれか1項に記載のフィラー組成物。
- ガラス接合材にフィラーとして添加されるフィラー組成物の製造方法であって、
以下の一般式(1):
AMSi2O6 (1)
(ここで、AはMg,Ca,SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、MはFe,NiおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種である。);
で示される化合物を作製することを含み、該作製は、以下のサブ工程:
A元素供給源とM元素供給源とシリカとを所定の比率で混合して混合物を調製すること、ここで、前記混合物は実質的にアルカリ金属成分を含まない;および、
前記アルカリ金属成分を含まない混合物を焼成すること;
を包含するアルカリレスのフィラー組成物の製造方法。
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