JP6020680B2 - 光学部材 - Google Patents

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Description

本発明は、光学部材に関する。
ウェハ上に微細な回路パターンを転写して集積回路を製造するために、光リソグラフィが広く利用されている。
光リソグラフィ用の光学系部材の基材としては、紫外線に対する透過率および耐久性が高い材料からなるものが必要とされる。該材料としては、たとえば、フッ素を含有させた合成石英ガラスが提案されている(特許文献1)。
また近年、集積回路の高集積化および高機能化に伴い、集積回路の微細化が進み、露光光源の短波長化が進められている。そのため、EUV光(代表的には波長13nmの光)を用いたリソグラフィが注目されている。
EUV(Extreme Ultra Violet)光とは、軟X線領域または真空紫外域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2〜100nm程度の光のことである。EUV光のエネルギー領域では光を透過する材料がないため、EUVリソグラフィ用の露光装置の光学系部材は、すべて反射光学系となる。
EUVリソグラフィ用の光学系部材(フォトマスク、ミラー等)の基材としては、EUV光を照射した際に歪みが生じないように、低熱膨張係数を有する材料からなるものが必要とされる。該材料としては、たとえば、フッ素濃度が100質量ppm以上である、TiOを含有する合成石英ガラスが提案されている(特許文献2)。
合成石英ガラスにフッ素を導入する方法としては、下記の工程(a)〜(c)を有する方法が提案されている(特許文献1、2)。
(a)ガラス形成原料を火炎加水分解して得られる石英ガラス微粒子を、基材に堆積、成長させて、多孔質ガラス体を形成する工程。
(b)多孔質ガラス体を、フッ素化合物含有雰囲気下に保持して、フッ素を含有した多孔質ガラス体を得る工程。
(c)フッ素を含有した多孔質ガラス体を、透明ガラス化温度まで加熱して、フッ素を含有した透明ガラス体を得る工程。
特開2003−183034号公報 特開2005−104820号公報
特許文献1、2には、工程(b)において用いるフッ素化合物として、SiF、SF、CHF、CF、F等が挙げられている。該フッ素化合物のうち、特許文献1、2の実施例においては、SiFが用いられている。しかし、SiFを用いて多孔質ガラス体に1000質量ppm以上のフッ素を導入するためには、400℃超の高温にする必要があり、下記の問題が生ずる。
(i)反応槽の気密性確保のため、Oリングを水冷する必要があり、反応槽が複雑になる。
(ii)反応槽として電気炉を用いる必要があるが、多孔質ガラス体のサイズが大きい場合、そのサイズにあった電気炉を用意することが困難である。
(iii)温度のバラツキ、気流の乱れ等に起因する、多孔質ガラス体へのフッ素の導入量のバラツキが発生する。EUVリソグラフィ用の光学系部材として用いる場合、フッ素濃度のバラツキが熱膨張係数のバラツキとなり、結果として、露光の際の解像度が低下する。
一方、前記フッ素化合物のうち、反応性の高いフッ素単体(F)を用いることで、多孔質ガラス体に1000質量ppm以上のフッ素を400℃以下の低温で導入できることを、本発明者らは確認している。
しかし、工程(b)においてフッ素単体(F)を用いた場合、つぎの工程(c)の透明ガラス化においてガラス体からフッ素が脱離して、得られる透明ガラス体のフッ素濃度が著しく低下することも判明している。
本発明は、最終的に得られるフッ素含有合成石英ガラスのフッ素濃度を1000質量ppm以上とすることができる光学部材を提供する。
本発明の光学部材は、TiOを1〜12質量%含有し、かつフッ素を含有する合成石英ガラスからなる光学部材であって、前記光学部材中にフッ素を1000質量ppm以上7100質量ppm以下含有し、かつフッ素濃度の変動幅が、前記光学部材中の平均フッ素濃度に対して±10%以内である。

本発明の光学部材によれば、最終的に得られる合成石英ガラスのフッ素濃度を1000質量ppm以上とすることができる。
以下、本明細書において、特段の記載がない場合、ppmは質量ppmを意味し、%は質量%を意味する。
また、TiOを含有する合成石英ガラスを、TiO−SiOガラスと記す。
また、TiOを含有しない合成石英ガラスと、TiO−SiOガラスとをまとめて、合成石英ガラスと記す場合もある。
また、TiOを含有しない石英ガラス微粒子と、TiO−SiOガラス微粒子とをまとめて、石英ガラス微粒子と記す場合もある。
また、TiOを含有しない多孔質ガラス体と、多孔質TiO−SiOガラス体とをまとめて、多孔質ガラス体と記す場合もある。
また、TiOを含有しない透明ガラス体と、透明TiO−SiOガラス体とをまとめて、透明ガラス体と記す場合もある。
また、TiOを含有しない成形ガラス体と、成形TiO−SiOガラス体とをまとめて、成形ガラス体と記す場合もある。
<合成石英ガラスの製造方法>
本発明の合成石英ガラスの製造方法は、下記の工程(a)〜(e)を有する方法である。
(a)ガラス形成原料を火炎加水分解して得られる石英ガラス微粒子を、基材に堆積、成長させて、多孔質ガラス体を形成する工程。
(b)多孔質ガラス体を、反応槽内にて、圧力Pb1および温度400℃以下のフッ素単体(F)含有雰囲気下に保持し、ついで、同反応槽内にて、圧力Pb1よりも低い圧力Pb2および温度400℃以下の条件下に保持して、フッ素を含有した多孔質ガラス体を得る工程。
(c)フッ素を含有した多孔質ガラス体を、ガラス化炉内にて、透明ガラス化温度まで加熱して、フッ素を含有した透明ガラス体を得る工程。
(d)必要に応じて、工程(c)で得られたフッ素を含有した透明ガラス体を、軟化点以上の温度に加熱して所望の形状に成形し、フッ素を含有した成形ガラス体を得る工程。
(e)必要に応じて、工程(c)で得られたフッ素を含有した透明ガラス体、または工程(d)で得られた成形ガラス体に、アニール処理を施す工程。
(工程(a))
スート法によって、ガラス形成原料であるSiO2前駆体、またはSiO2前駆体およびTiO2前駆体を火炎加水分解して得られる石英ガラス微粒子(スート)を、基材に堆積、成長させて多孔質ガラス体を形成する。
SiO2前駆体としては、ガス化可能な化合物であればよく、ハロゲン化ケイ素化合物、アルコキシシラン等が挙げられる。
ハロゲン化ケイ素化合物としては、塩化物(SiCl、SiHCl、SiHCl、SiHCl等)、フッ化物(SiF、SiHF、SiH等)、臭化物(SiBr、SiHBr等)、ヨウ化物(SiI等)が挙げられる。
アルコキシシランとしては、下式で表される化合物が挙げられる。
Si(OR)4−n
ただし、Rは、炭素数1〜4のアルキル基であり、すべてのRは同一でなくてもよく、nは0〜3の整数である。
TiO2前駆体としては、ガス化可能な化合物であればよく、ハロゲン化チタン化合物、アルコキシチタン等が挙げられる。
ハロゲン化チタン化合物としては、TiCl、TiBr等が挙げられる。
アルコキシチタンとしては、下式で表される化合物が挙げられる。
Ti(OR)4−n
ただし、Rは、炭素数1〜4のアルキル基であり、すべてのRは同一でなくてもよく、nは0〜3の整数である。
また、SiO2前駆体およびTiO2前駆体として、シリコンチタンダブルアルコキシド等のSiおよびTiを含有する化合物を用いてもよい。
石英ガラス微粒子を堆積させる基材としては、石英ガラス製の種棒(たとえば、特公昭63−24937号公報に記載された種棒)が挙げられる。また、棒状に限らず、板状の基材を用いてもよい。
(工程(a’))
工程(a)と工程(b)との間に、多孔質ガラス体の嵩密度を増加させるために、多孔質ガラス体の仮焼を行うことが好ましい。
多孔質ガラス体を構成する粒子の表面には、Si−OHが存在していると考えられる。嵩密度が大きいほど、粒子の比表面積が小さくなり、相対的に多孔質ガラス体に存在するSi−OHの量が少なくなると考えられる。すなわち、多孔質ガラス体の嵩密度が大きいほど、該多孔質ガラス体に存在するSi−OHの量が少なくなり、相対的に多孔質ガラス体にフッ素を導入する際に起こる反応によって生成するHFの量が少なくなると考えられる。結果として、後述する理由により、工程(c)におけるガラス体からのフッ素の脱離を抑制できると考えられる。
仮焼温度は、1100℃以上が好ましく、1150℃以上がより好ましい。仮焼温度が低すぎると、粒子の焼結が進行せず、嵩密度が変化しないおそれがある。
仮焼温度は、1350℃以下が好ましく、1300℃以下がより好ましい。仮焼温度が高すぎると、粒子の焼結が進行しすぎて閉気孔が存在してしまうため、工程(b)で多孔質ガラス体にフッ素を導入した際にフッ素濃度にバラツキが生じる、工程(c)で透明ガラス化した後に泡が残ってしまう、Si−OHの量が極端に少なくなり、フッ素単体(F)との反応が遅くなる、等の問題が生ずるおそれがある。
仮焼後の多孔質ガラス体の嵩密度は、0.1g/cm以上が好ましく、0.2g/cm以上がより好ましく、0.25g/cm以上がさらに好ましく、0.3g/cm以上が特に好ましい。嵩密度が低すぎると、粒子の比表面積が大きくなり、Si−OHの量が増加することから、工程(c)でフッ素の脱離を抑制できず、透明ガラス体のフッ素濃度を1000ppm以上とすることが困難となるおそれがある。
仮焼後の多孔質ガラス体の嵩密度は、1.0g/cm以下が好ましく、0.9g/cm以下がより好ましく、0.8g/cm以下が特に好ましい。嵩密度が高すぎると、閉気孔が存在してしまうため、工程(b)で多孔質ガラス体にフッ素を導入した際にフッ素濃度にバラツキが生じる、工程(c)で透明ガラス化した後に泡が残ってしまう、等の問題が生ずるおそれがある。
(工程(b))
工程(a)で得られた多孔質ガラス体を、反応槽内にて、圧力Pb1および温度400℃以下のフッ素単体(F)含有雰囲気下に保持し、ついで、同反応槽内にて、圧力Pb1よりも低い圧力Pb2および温度400℃以下の条件下に保持して、フッ素を含有した多孔質ガラス体を得る。
以下、工程(b)を、下記の2つの工程に分けて、それぞれを工程(b1)および工程(b2)と記す場合もある。
(b1)多孔質ガラス体を、反応槽内にて、圧力Pb1および温度400℃以下のフッ素単体(F)含有雰囲気下に保持する工程。
(b2)工程(b1)で得られたフッ素を含有した多孔質ガラス体を、同反応槽内にて、圧力Pb1よりも低い圧力Pb2および温度400℃以下の条件下に保持する工程。
反応槽としては、公知のものを用いることができる。具体的には、フッ素単体(F)と多孔質ガラス体との接触を効率よく行える点から、反応槽内に撹拌翼を有する内部撹拌方式の槽型反応槽、連続的もしくは断続的にフッ素単体(F)を供給、排出できる連続槽型反応槽(CSTR)、ピストンフロー型反応槽(PFR)等が好適に用いられる。
反応槽としては、内壁および内部設備をフッ素単体(F)に対し耐食性を有する材料で構成したものが好ましい。また、前記材料としては、工程(b)においてガス状の不純物を発生しない、またはガス状の物質を発生させても不純物とならない材料が好ましい。合成石英ガラスに不純物が混入すると、光学特性(ヘイズ等)や物理特性(熱膨張係数等)が悪化するおそれがある。
反応槽の内壁および内部設備として好適な材料としては、金属類(ニッケル、銅、鉄等)、合金類(ステンレス(SUS316)、モネル、インコネル、ハステロイ等)、ガラス類(合成石英ガラス、ソーダライムガラス等)、ハロゲン化金属(フッ化カルシウム、フッ化ニッケル等)、ペルハロゲン化樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、PFAと記す。)、ポリクロロトリフルオロエチレン等)等が挙げられる。
また、フッ素単体(F)に対する耐食性を向上させるために、反応槽の内壁および内部設備の表面にフッ化物もしくは酸化物の不動態化被覆層を形成するのが好ましい。フッ化物の不動態化被覆層を形成するのがより好ましい。フッ素単体(F)含有雰囲気に該表面を曝露させることで、該表面を不動態化させることができる。
工程(b2)における圧力Pb2を工程(b1)における圧力Pb1よりも低くするために、反応槽には、アスピレータもしくは真空ポンプが備え付けられる。真空ポンプとしては、公知のものを用いることができる。具体的には、ロータリーポンプ、ダイヤフラムポンプ、スクロールポンプ、拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ、イオンポンプ、クライオポンプ、メカニカルブースターポンプ等が挙げられる。
(工程(b1))
多孔質ガラス体を、反応槽内にて、圧力Pb1および温度400℃以下のフッ素単体(F)含有雰囲気下に保持する。
多孔質ガラス体にフッ素を導入するためのフッ素源として反応性の高いフッ素単体(F)を用いることによって、上述したように、400℃以下の低温で1000ppm以上のフッ素を含有した多孔質ガラス体を得ることができる。
フッ素単体(F)含有雰囲気は、工程(b1)の初期の段階では、フッ素単体(F)のみ、またはフッ素単体(F)を不活性ガスで希釈した混合ガスからなる雰囲気である。工程(b1)の進行に伴い、該雰囲気には、多孔質ガラス体にフッ素を導入する際に起こる反応によって生成するHFが含まれる。
不活性ガスは、多孔質ガラス体にフッ素を導入する際に起こる反応に対して不活性なガスである。不活性ガスとしては、窒素ガス、または希ガス(ヘリウムガス、アルゴンガス等)が挙げられる。
不活性ガス中に水分が含まれると、フッ素単体(F)と反応し、HFが生成する可能性がある。よって、不活性ガスの露点は、−10℃以下が好ましく、−40℃以下がより好ましく、−60℃以下が特に好ましい。
フッ素単体(F)含有雰囲気としては、反応の制御のしやすさの点および経済的な点から、フッ素単体(F)を不活性ガスで希釈した混合ガスが好ましく、フッ素単体(F)を窒素ガスで希釈した混合ガスが特に好ましい。
フッ素単体(F)を窒素ガスで希釈した混合ガス中のフッ素単体(F)の濃度は、反応の制御のしやすさの点および経済的な点から、100molppm〜50mol%が好ましく、1000molppm〜30mol%がより好ましい。フッ素単体(F)の濃度が低すぎると、多孔質ガラス体にフッ素を導入する速度が低くなり、反応時間が長くなる。フッ素単体(F)の濃度が高すぎると、多孔質ガラス体にフッ素を導入する速度が高くなり、反応の制御が困難となるおそれがある。
工程(b1)における反応槽内の圧力Pb1は、ゲージ圧で1MPa以下が好ましく、0.6MPa以下がより好ましく、0.3MPa以下がさらに好ましい。反応槽内の圧力Pb1が低いほど、フッ素単体(F)の吸着を抑制でき、工程(b2)における多孔質ガラス体を圧力Pb2の条件下に保持する時間tb2を短縮できる。また、多孔質ガラス体の内部からのHFの除去を促進させ、HFを効率よく排出できる。
工程(b1)における反応槽内の圧力Pb1は、ゲージ圧で0MPa以上が好ましい。反応槽内の圧力Pb1が大気圧未満になると、反応槽内に外気が吸引されるおそれがある。外気中に含まれる水分、揮発性有機物等は、フッ素単体(F)と反応してHFを生成する。
工程(b1)における反応槽内の温度Tb1は、400℃以下であり、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましく、100℃以下が特に好ましい。反応槽内の温度Tb1が低いほど、反応槽の材料の選択幅が広くなり、設備コストが抑えられる。また、固体金属フッ化物を存在させる場合、反応槽内の温度は、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。反応槽内の温度が低いほど、固体金属フッ化物によるHFの吸着能は向上する。
工程(b1)における反応槽内の温度Tb1は、−50℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。反応槽内の温度Tb1が高いほど、多孔質ガラス体の内部へのフッ素単体(F)の拡散が進行しやすく、また、多孔質ガラス体へのフッ素の導入時間が短縮される。
工程(b1)において、多孔質ガラス体を圧力Pb1の条件下に保持する時間tb1は、1分〜1週間が好ましく、10分〜2日間がより好ましい。
工程(b1)において、反応槽内に固体金属フッ化物を存在させてもよい。反応槽内に固体金属フッ化物が存在することによって、多孔質ガラス体にフッ素を導入する際に起こる反応によって生成するHFを固体金属フッ化物に吸着できる。これにより、多孔質ガラス体において、Si−OHが新たに生成することを抑制でき、多孔質ガラス体の内部のプロトン源を減少できる。結果として、後述する理由により、工程(c)におけるガラス体からのフッ素の脱離を抑制できる。固体金属フッ化物は、工程(b2)においても反応槽内に存在していても構わない。
固体金属フッ化物としては、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物およびこれらの混合物からなる群より選ばれたものが好ましく、フッ化ナトリウムが特に好ましい。固体金属フッ化物の形状は、特に限定されず、反応槽内に配置するのに適した任意の形状を選択できる。
また、多孔質ガラス体に均一に短時間でフッ素を導入するために、多孔質ガラス体が配置された反応槽内を大気圧未満の条件下に保持した後、反応槽内にフッ素単体(F)を所定の圧力になるまで供給することが好ましい。
反応槽内を大気圧未満の条件下に保持する際の反応槽内の圧力は、13000Pa以下が好ましく、1300Pa以下が特に好ましい。
反応槽内を大気圧未満の条件下に保持する際の反応槽内の反応槽内の温度は、脱気処理を効率的に行うために、30〜300℃が好ましく、50〜200℃がより好ましく、60〜150℃が特に好ましい。
反応槽内を大気圧未満の条件下に保持し、反応槽内の脱気処理を行うことによって、該反応槽内に存在する水分や揮発性有機物を除去でき、水分や揮発性有機物がフッ素単体(F)と反応してHFが発生することを防止できる。
工程(b1)において、反応槽内にフッ素単体(F)を連続的または断続的に供給し、かつ前記反応槽内のガスを連続的または断続的に排出することが好ましく、反応槽内にフッ素単体(F)を連続的に供給しつつ、圧力Pb1を維持するように反応槽内のガスの一部を連続的に排出することがより好ましい。反応槽内からHFを含むガスを排出することによって、多孔質ガラス体において、Si−OHが新たに生成することを抑制でき、多孔質ガラス体の内部のプロトン源を減少できる。結果として、後述する理由により、工程(c)におけるガラス体からのフッ素の脱離を抑制できる。
(工程(b2))
工程(b1)においてフッ素源としてフッ素単体(F)を用いた場合、HFを生成する反応を伴うため、後述する理由により、多孔質ガラス体において、プロトン源であるSi−OHが新たに形成する。さらには、反応槽からガラス化炉への移動時に、反応槽の外部でフッ素を含有した多孔質ガラス体を取り扱う際、フッ素を含有した多孔質ガラス体に吸着している未反応のフッ素単体(F)は、大気中の水分と反応してHFを生成し、後述する理由により、多孔質ガラス体において、プロトン源であるSi−OHが新たに形成する。このように、工程(b1)のみでは、多孔質ガラス体の内部にはプロトン源であるSi−OHが常に存在することとなり、結果として、後述する理由により、工程(c)において多孔質ガラス体を透明ガラス化させる際に、導入されたフッ素が脱離する。
そこで、工程(b2)において、工程(b1)で得られたフッ素を含有した多孔質ガラス体を、同反応槽内にて、圧力Pb1よりも低い圧力Pb2および温度400℃以下の条件下に保持することによって、フッ素を含有した多孔質ガラス体に吸着している未反応のフッ素単体(F)を、多孔質ガラス体から除去する。
工程(b2)において用いられる反応槽は、フッ素を含有した多孔質ガラス体と大気中の水分との接触を防止するために、工程(b1)において用いられた反応槽をそのまま用いる。
工程(b2)における反応槽内の圧力Pb2は、工程(b1)における反応槽内の圧力Pb1よりも低くする。反応槽からHFを含むガスを効率よく排出させる点、および多孔質ガラス体の内部からのフッ素単体(F)の除去を促進させる点から、反応槽内の圧力Pb2は、大気圧未満が好ましく、絶対圧で13000Pa以下がより好ましく、1300Pa以下がさらに好ましい。
工程(b2)における反応槽内の圧力Pb2は、絶対圧で0.01Pa以上が好ましく、0.1Pa以上がより好ましく、1Pa以上がさらに好ましい。反応槽内の圧力Pb2が低くすぎると、高真空設備が必要となり設備コストが増加する。
工程(b2)におけるガス雰囲気は、多孔質ガラス体に吸着している未反応のフッ素単体(F)に対して不活性であれば制限はない。コストの観点から、工程(b1)に使用したガス雰囲気をそのまま使用する、もしくは、工程(b1)に次いで、反応槽内を不活性ガスで置換するのが好ましい。不活性ガスとしては、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの希ガスおよび窒素ガスが使用できる。
工程(b2)において、圧力Pb2が維持できる範囲内で、反応槽内に前述の不活性ガスを連続的に供給しても問題ない。圧力Pb2が維持できる範囲では、反応槽内に供給、排出するガスの流れによって、反応槽内からHFを含むガスをより効率よく排出することが可能となり、多孔質ガラス体を圧力Pb2の条件下に保持する時間tb2を短縮できる。
工程(b2)における反応槽内の温度Tb2は、400℃以下であり、320℃以下が好ましく、270℃以下がより好ましく、250℃以下がさらに好ましい。反応槽内の温度Tb2が低いほど、反応槽の材料の選択幅が広くなり、設備コストが抑えられる。
工程(b2)における反応槽内の温度Tb2は、20℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。反応槽内の温度Tb2が高いほど、多孔質ガラス体に吸着するフッ素単体(F)の除去が進行しやすく、多孔質ガラス体を圧力Pb2の条件下に保持する時間tb2を短縮できる。
工程(b2)における反応槽内の温度Tb2は、工程(b1)における反応槽内の温度Tb1以上であることが好ましい。Tb1≦Tb2とすることによって、工程(b2)におけるフッ素単体(F)の拡散速度を、工程(b1)におけるフッ素単体(F)の拡散速度よりも高くすることができ、効果的に未反応のフッ素単体(F)を排出できる。
工程(b2)において、多孔質ガラス体を圧力Pb2の条件下に保持する時間tb2は、30分以上1日間以下が好ましく、1時間以上16時間以下がより好ましく、2時間以上10時間以下がさらに好ましい。時間tb2が短すぎると、フッ素を含有した多孔質ガラス体に吸着している未反応のフッ素単体(F)を除去する効果が小さくなる。時間tb2が長すぎると、フッ素単体(F)を除去する速度が遅く、生産性やコストの点で不利になる。
フッ素を含有した多孔質ガラス体に吸着している未反応のフッ素単体(F)は、たとえば、下記の方法によって測定できる。
フッ素を含有した多孔質ガラス体の100gを、窒素ガスで置換した1Lの容器に入れ、25℃で10時間保持した後、容器内のガス中に含まれるフッ素単体(F)濃度を定電位電解式のガス検知器により測定する。
(工程(c))
工程(b)で得られたフッ素を含有した多孔質ガラス体を、ガラス化炉内にて、透明ガラス化温度まで加熱して、フッ素を含有した透明ガラス体を得る。
ガラス化炉は、下記の透明ガラス化温度で使用するため、ガラス化炉としては、耐熱性の観点から、工程(b)で使用した反応槽をそのまま使うことはできない。そのため、工程(b)で得られたフッ素を含有した多孔質ガラス体は、反応槽からガラス化炉へと移動されることになる。移動の際、たとえば移動式密閉容器を使用し、大気に触れないように移動させる手法もあるが、操作が煩雑となる欠点がある。さらには、10kgを超える大きなサンプルを取り扱うためには、設備が大型化され、コストが増加する問題がある。すなわち、より簡便な手法で移動する際には必ず、フッ素を含有した多孔質ガラス体が大気と接触することとなる。
透明ガラス化温度は、通常は1350〜1800℃であり、1400〜1750℃が好ましい。
ガラス化炉内の雰囲気としては、不活性ガス(ヘリウムガス、アルゴンガス等)のみからなる雰囲気、または不活性ガス(ヘリウムガス、アルゴンガス等)を主成分とする雰囲気が好ましい。
ガラス化炉内の圧力は、大気圧でもよく、大気圧未満でもよい。大気圧未満の場合は、13000Pa以下が好ましい。
工程(c)のガラス化を大気圧未満で行っても、工程(b2)を行っていない場合は、フッ素を含有した多孔質ガラス体のフッ素が工程(c)中に脱離することを確認している。これは、反応槽からガラス化炉へと移動させる際、フッ素を含有した多孔質ガラス体に吸着している未反応のフッ素単体(F)が大気中の水分と反応してHFを生成し、多孔質ガラス体において、プロトン源であるSi−OHが新たに形成しているためと考えられる。
(工程(d))
工程(c)で得られたフッ素を含有した透明ガラス体を、軟化点以上の温度に加熱して所望の形状に成形し、フッ素を含有した成形ガラス体を得る。
成形温度は、1500〜1800℃が好ましい。成形温度が1500℃以上であれば、フッ素を含有した透明ガラス体が実質的に自重変形する位に十分粘性が下がる。また、SiOの結晶相であるクリストバライトの成長(TiO−SiOガラス体の場合はさらにTiOの結晶相であるルチルもしくはアナターゼの成長)が起こりにくく、いわゆる失透の発生を防止できる。成形温度が1800℃以下であれば、SiOの昇華が抑えられる。
工程(d)を行う場合、工程(c)と工程(d)を連続的に行ってもよく、工程(c)と工程(d)を同時に行ってもよい。
(工程(e))
工程(c)で得られた透明ガラス体を、600〜1200℃の温度にて1時間以上保持した後、10℃/hr以下の平均降温速度で500℃以下まで降温するアニール処理を行い、ガラスの仮想温度を制御する。
または、工程(d)で得られた1200℃以上の成形ガラス体を、60℃/hr以下の平均降温速度で500℃以下まで降温するアニール処理を行い、ガラスの仮想温度を制御する。
ガラス体を500℃以下まで降温した後は放冷できる。
工程(e)における雰囲気は、不活性ガス(ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等)のみからなる雰囲気であってもよく、不活性ガスを主成分とする雰囲気であってもよく、空気からなる雰囲気であってもよい。
工程(e)における圧力は、大気圧未満または大気圧が好ましい。
より低い仮想温度を達成するためには、ガラスの徐冷点や歪点付近の温度域をより低い冷却速度で冷却することが有効である。具体的には、工程(e)の冷却プロファイルにおいて、最も低い冷却速度が10℃/hr以下であることが好ましく、より好ましくは5℃/hr、さらに好ましくは3℃/hr、特に好ましくは2℃/hrである。
(作用効果)
以上説明した本発明の合成石英ガラスの製造方法にあっては、フッ素源として反応性の高いフッ素単体(F)を用いているため、多孔質ガラス体へのフッ素の導入を400℃以下の低温で実施ができる。また、下記の理由から、フッ素源としてフッ素単体(F)を用いているにもかかわらず、安定して、最終的に得られる合成石英ガラスのフッ素濃度を1000ppm以上とすることができる。
理由:
多孔質ガラス体には、該多孔質ガラス体を構成するSiO骨格中のSi−O結合のうち、構造的に不安定な部位があり、また、Si−OH等の不安定な官能基を有する部位がある。工程(b)においてこれら不安定な部位に、SiFよりも反応性が高いフッ素単体(F)を反応させることによって、Si−F結合の形成が促進されるため、400℃以下の低温で、多孔質ガラス体に1000ppm以上のフッ素を導入できる。
一方で、工程(c)における反応場に、たとえばSi−OH等のプロトン源が存在した場合、該プロトン源を起点として、下式の反応によってHFが生じ、ガラス体から脱離する。
Si−OH+Si−F→Si−O−Si+HF
加えて、工程(c)において、HFは比較的安定なSi−O−Si骨格と反応し、たとえば、Si−O−SiFのO−Si骨格を切断し、SiF、SiFOH等の低分子量の化合物を形成させる。低分子量の化合物は、透明ガラス化の際、ガス化するため、反応場より脱離する。以上の作用によって、工程(c)においてフッ素を含有した多孔質ガラス体に導入したフッ素が減少すると考えられる。したがって、工程(c)の前に、多孔質ガラス体の内部に存在するプロトン源を減少させる、および/または多孔質ガラス体の内部のプロトン源の生成を抑制することによって、透明ガラス化させる際にフッ素を含有した多孔質ガラス体から脱離するフッ素の量を低減することができると考えられる。
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、工程(b)で得られるフッ素を含有した多孔質ガラス体に吸着している未反応のフッ素単体(F)が、多孔質ガラス体の内部に存在するプロトン源を増加させ、結果として、工程(c)において透明ガラス化させる際に脱離するフッ素の量に寄与していることを確認した。
すなわち、工程(b)で得られるフッ素を含有した多孔質ガラス体に吸着している未反応のフッ素単体(F)を反応槽の外部で取り扱う際(たとえば、反応槽からガラス化炉に移動させる際)、大気中の水分と反応してHFを生成する。
2HO+2F→2HF+2HOF→4HF+O
このHFは、多孔質ガラス体の安定なSi−O−Si骨格と反応して、Si−OHを形成するため、多孔質ガラス体の内部のプロトン源が増加する。
よって、本発明においては、工程(b)において、フッ素を含有した多孔質ガラス体の内部に吸着している未反応のフッ素単体(F)を積極的に除去することによって、工程(c)において透明ガラス化させる際に脱離するフッ素の量を低減でき、安定して、最終的に得られる合成石英ガラスのフッ素濃度を1000ppm以上とすることができる。
<合成石英ガラス>
(フッ素濃度)
本発明の製造方法によれば、フッ素濃度が1000ppm以上である合成石英ガラスを製造できる。合成石英ガラスのフッ素濃度は、3000ppm以上が好ましく、5000ppm以上がより好ましく、7000ppm以上がより好ましい。
フッ素濃度は、蛍光X線にて、既知のフッ素濃度のサンプルを用い、FP法(ファンダメンタルパラメータ法)を用いて求められる。
本発明の製造方法によれば、フッ素濃度のバラツキ、すなわちフッ素濃度の変動幅ΔFがきわめて小さい合成石英ガラスを製造できる。合成石英ガラスのフッ素濃度の変動幅ΔFは、フッ素濃度の平均値に対して±10%以内が好ましく、±8%以内より好ましく、±5%以内がさらに好ましく、±3%以内が特に好ましい。たとえば、フッ素濃度の平均値が1000ppmであるTiO−SiOガラスの場合、900ppm〜1100ppmの範囲が好ましく、970ppm〜1030ppmの範囲が特に好ましい。
工程(d)または工程(e)を経て得られた成形ガラス体のフッ素濃度の変動幅ΔFは、たとえば、下記の手順で測定できる。
外周部分を研削して直径:約85mm、厚さ:50mmに成形した円柱状の成形ガラス体において、円柱底面の任意の直径と円周との2つの交点から約6mm中心に移動した2点をそれぞれ点A、点Bとする。点A、点Bを通り、直径方向に直交する面(それぞれ面A、面Bとする。)でスライスし、外周部を除去する。面Aから面Bに向かって12mmの間隔で直径方向に直行する面でスライスし、厚さ:12mmのガラス片を6つ得る。得られた6つのガラス片に対し、それぞれのガラス片の面Aと同じ側にある面のフッ素濃度を6点、および面Bのフッ素濃度1点の計7点のフッ素濃度を、蛍光X線にて、既知のフッ素濃度のサンプルを用い、FP法(ファンダメンタルパラメータ法)を用いて求める。得られた7点のフッ素濃度の平均値と、最大値と最小値の差から、成形ガラス体全体におけるフッ素濃度の変動幅(ΔF=[最大値と最小値の差]/2)を求める。
(仮想温度)
本発明の製造方法によれば、仮想温度の変動幅(ΔTf)がきわめて小さい合成石英ガラスを製造できる。合成石英ガラスの仮想温度の変動幅ΔTfは、50℃以内が好ましく、30℃以内がより好ましく、15℃以内がさらに好ましく、5℃以内が特に好ましい。
工程(d)および工程(e)を経て得られた成形ガラス体の仮想温度の変化幅ΔTfは、たとえば、下記の手順で測定できる。
円柱状の成形ガラス体の中心部分から2箇所、外周部分から2箇所、中心部分と外周部分との中間部分から2箇所、それぞれガラス片を採取し、鏡面研磨を実施する。鏡面研磨されたガラス片について、赤外吸収スペクトルを、赤外分光計(Nicolet社製、Magna760)を用いて取得する。この際、データ間隔は約1.0cm−1にし、吸収スペクトルは、64回スキャンさせた平均値とする。得られた赤外吸収スペクトルにおいて、約2260cm−1付近に観察されるピークが合成石英ガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動の倍音に起因する。該ピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスによって検量線を作成し、仮想温度を求める。それぞれのガラス片について仮想温度を2点測定し、2点の仮想温度を平均して、中心部分、中間部分、外周部分それぞれの平均仮想温度を算出し、それらの平均仮想温度の最大値と最小値の差から、成形ガラス体全体における仮想温度の変動幅(ΔTf=[平均仮想温度の最大値と最小値の差])を求める。
(TiO−SiOガラス)
TiO−SiOガラスのTiO含有量は、1〜12%が好ましく、3〜10%がより好ましく、5〜8%が特に好ましい。TiO含有量が少なすぎると、ゼロ膨張にならないおそれがある。TiO含有量が多すぎると、熱膨張係数が負となるおそれがある。
TiO−SiOガラスの仮想温度は、1200℃以下が好ましく、1100℃以下がより好ましく、1000℃以下が特に好ましい。仮想温度が1200℃を超えると、ゼロ膨張の温度範囲が狭く、EUVリソグラフィ用の光学系部材として用いる材料としては不充分になるおそれがある。ゼロ膨張の温度範囲を広げるためには、仮想温度は950℃以下が好ましく、900℃以下がより好ましい。
本発明の製造方法によりTiO−SiOガラスを製造し、熱膨張係数を評価し、該結果をフッ素濃度、TiO含有量、仮想温度にフィードバックすることで、TiO−SiOガラスの熱膨張係数を調整できる。たとえば、本発明の製造方法で得られたTiO−SiOガラスであって、熱膨張係数0±5ppb/℃の温度範囲が18〜26℃であったものに対して、温度範囲を18〜40℃にする場合、フッ素濃度を増やす、仮想温度を下げる、TiO含有量を上げる、ことによって達成できる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
例1〜5は比較例であり、例6〜10は実施例である。
(フッ素濃度)
得られた成形TiO−SiOガラス体のフッ素濃度は、蛍光X線にて、既知のフッ素濃度のサンプルを用い、FP法(ファンダメンタルパラメータ法)を用いて求めた。
〔例1〕
(工程(a))
TiO−SiOガラスのガラス形成原料であるTiClおよびSiClを、それぞれガス化させた後に混合し、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積、成長させて、多孔質TiO−SiOガラス体を形成した。
(工程(a’))
得られた多孔質TiO−SiOガラス体は、そのままではハンドリングしにくいため、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持した後、基材から外し、直径:約80mm、長さ:約100mm、嵩密度:0.3g/cmの多孔質TiO−SiOガラス体を得た。
(工程(b))
多孔質TiO−SiOガラス体をPFA製の具に担持させ、具とともにニッケル製反応槽に入れた。
(工程(b1−α))
オイルバスを用いて反応槽の外部から加熱し、反応槽内の温度を昇温速度0.5〜2℃/minの範囲で常温から80℃まで加熱した。
反応槽内を80℃に保ったまま、反応槽内の圧力が絶対圧で2660Pa以下となるまで真空脱気し、1時間保持した。
フッ素単体(F)を露点が−60℃以下の窒素ガスで20mol%に希釈した混合ガスを、反応槽内に導入し、圧力Pb1:ゲージ圧で0.21MPa、温度Tb1:140℃の条件下で24時間保持し、フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体を得た。
(工程(c))
フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体を、大気に接触する状態でガラス化炉に移した。ガラス化炉にて減圧条件下で1360℃まで加熱し、3時間保持した後、ヘリウムガス100%の雰囲気下で透明ガラス化温度(1450℃)まで加熱し、4時間保持し、フッ素を含有した透明TiO−SiOガラス体を得た。
(工程(d))
フッ素を含有した透明TiO−SiOガラス体を、カーボン炉に移し、アルゴンガス雰囲気下で軟化点以上の温度(1700℃)に加熱して円柱状に成形して、フッ素を含有した成形TiO−SiOガラス体を得た。成形TiO−SiOガラス体のフッ素濃度を測定した。結果を表1に示す。
〔例2〕
工程(b)にて、反応槽内に多孔質TiO−SiOガラス体を入れた後、さらにフッ化ナトリウムのペレット(ステラケミファ製)を、多孔質TiO−SiOガラス体と接しないように反応槽内に挿入した以外は、例1と同様にしてフッ素を含有した成形TiO−SiOガラス体を得た。成形TiO−SiOガラス体のフッ素濃度を測定した。結果を表1に示す。
〔例3〕
工程(b1−α)における圧力Pb1をゲージ圧で0.18MPaに変更し、温度Tb1を80℃に変更した以外は、例2と同様にしてフッ素を含有した成形TiO−SiOガラス体を得た。成形TiO−SiOガラス体のフッ素濃度を測定した。結果を表1に示す。
〔例4〕
工程(c)においてフッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体を反応槽からガラス化炉に移す際に例3に比べて大気に長時間接触させた以外は、例3と同様にしてフッ素を含有した成形TiO−SiOガラス体を得た。成形TiO−SiOガラス体のフッ素濃度を測定した。結果を表1に示す。
〔例5〕
例3と同様にして、工程(b1−α)で得られたフッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体の100gを、窒素ガスで置換した1Lの容器に入れ、25℃で10時間保持した後の容器内のガス中に含まれるフッ素濃度を定電位電解式のガス検知器により測定した。
〔例6〕
工程(b1−α)における圧力Pb1をゲージ圧で0.18MPaに変更し、温度Tb1を80℃に変更し、工程(b1−α)と工程(c)との間に下記の工程(b2)を行った以外は、例1と同様にしてフッ素を含有した成形TiO−SiOガラス体を得た。成形TiO−SiOガラス体のフッ素濃度を測定した。結果を表1に示す。
(工程(b2))
同じ反応槽内にて、フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体を、圧力Pb2:絶対圧で266Pa、温度Tb2:140℃の条件下で3時間保持し、フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体を得た。
〔例7〕
工程(b)にて、反応槽内に多孔質TiO−SiOガラス体を入れた後、さらにフッ化ナトリウムのペレット(ステラケミファ製)を、多孔質TiO−SiOガラス体と接しないように反応槽内に挿入し、さらに、工程(b1−α)を下記の工程(b1−β)に変更した以外は、例6と同様にしてフッ素を含有した成形TiO−SiOガラス体を得た。成形TiO−SiOガラス体のフッ素濃度を測定した。結果を表1に示す。
(工程(b1−β))
(1)オイルバスを用いて反応槽の外部から加熱し、反応槽内の温度を昇温速度0.5〜2℃/minの範囲で常温から80℃まで加熱した。
(2)反応槽内を80℃に保ったまま、反応槽内の圧力が絶対圧で2660Pa以下となるまで真空脱気し、1時間保持した。
(3)フッ素単体(F)を露点が−60℃以下の窒素ガスで20mol%に希釈した混合ガスを、反応槽内に導入し、圧力Pb1:ゲージ圧で0.18MPa、温度Tb1:80℃の条件下で6時間保持した。
(4)反応槽内のガスをパージして大気圧まで降圧し、窒素ガスを100ml/minで1時間流通させて反応槽内のフッ素単体(F)を置換した。
その後、(2)〜(4)の操作をさらに3回繰り返し、多孔質TiO−SiOガラス体を圧力Pb1の条件下に保持する時間tb1を合計で24時間とし、フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体を得た。
〔例8〕
工程(b)にて、反応槽内に多孔質TiO−SiOガラス体を入れた後、さらにフッ化ナトリウムのペレット(ステラケミファ製)を、多孔質TiO−SiOガラス体と接しないように反応槽内に挿入した以外は、例6と同様にしてフッ素を含有した成形TiO−SiOガラス体を得た。成形TiO−SiOガラス体のフッ素濃度を測定した。結果を表1に示す。
〔例9〕
工程(b1−β)を下記の工程(b1−γ)に変更した以外は、例7と同様にしてフッ素を含有した成形TiO−SiOガラス体を得た。成形TiO−SiOガラス体のフッ素濃度を測定した。結果を表1に示す。
(工程(b1−γ))
オイルバスを用いて反応槽の外部から加熱し、反応槽内の温度を昇温速度0.5〜2℃/minの範囲で常温から80℃まで加熱した。
反応槽内を80℃に保ったまま、反応槽内の圧力が絶対圧で2660Pa以下となるまで真空脱気し、1時間保持した。
フッ素単体(F)を露点が−60℃以下の窒素ガスで20mol%に希釈した混合ガスを、反応槽内の圧力が大気圧となるまで導入した。
フッ素単体(F)を露点が−60℃以下の窒素ガスで20mol%に希釈した混合ガスを、25ml/minの流量で連続的に供給しつつ、反応槽内の圧力が大気圧で一定となるように、反応槽内のガスを連続的に排出しながら、圧力Pb1:ゲージ圧で0.0MPa、温度Tb1:80℃の条件下で6時間保持し、フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体を得た。
Figure 0006020680
工程(b2)を行わなかった例1〜4においては、最終的に得られた成形TiO−SiOガラス体のフッ素濃度が3000ppmに達していなかった。特に、例4は、例3と同様の条件で工程(b1−α)を行っているにもかかわらず、フッ素濃度が150ppmと非常に小さくなる事象を確認した。フッ素濃度が大きく減少した原因としては、反応槽内からフッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体を搬出する際、フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体に吸着している未反応のフッ素単体(F)が大気中の水分と反応してHFを生成し、該HFが、フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体の安定なSi−O−Si骨格と反応して、Si−OHを形成し、多孔質TiO−SiOガラス体の内部のプロトン源が増加したためであるといえる。
そこで、例5において、工程(b1−α)直後のフッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体のフッ素単体(F)濃度を測定したところ、測定上限(15ppm)を超えるフッ素単体(F)が放出されることが確認され、フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体中に未反応のフッ素単体(F)が吸着していることを確認した。
一方、工程(b2)を行った例6〜9においては、最終的に得られた成形TiO−SiOガラス体のフッ素濃度が3000ppmを超えていた。また、同様の条件で繰り返し製造を実施したところ、すべての製造で3000ppmを超えることを確認し、工程(b2)の効果が確認された。
また、例6〜9において、工程(b2)直後のフッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体のフッ素単体(F)濃度を、例5と同様に測定したところ、0ppm(測定下限=0.02ppm)であり、フッ素単体(F)の放出が確認されなかった。
また、例7と例8とを比較すると、工程(b1−β)の断続的なフッ素単体(F)の供給、排気を行うことによって、工程(b1−α)の密閉系の処理よりも高いフッ素濃度を達成できることが確認された。これは、断続的なフッ素単体(F)の供給、排気によって、フッ化ナトリウムで吸着しきれないHFが、反応槽の外部へと排出されたためと考えられる。
また、例8と例9とを比較すると、工程(b1−γ)の連続的なフッ素単体(F)の供給、排気を行うことによって、工程(b1−α)の密閉系の処理とほぼ同等のフッ素濃度を達成できることが確認された。工程(b1−γ)の連続的なフッ素単体(F)の供給、排気によって、保持時間tb1の短縮化が見込める結果となった。
〔例10〕
(工程(a))
TiO−SiOガラスのガラス形成原料であるTiClおよびSiClを、それぞれガス化させた後に混合し、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積、成長させて、多孔質TiO−SiOガラス体を形成した。
(工程(a’))
得られた多孔質TiO−SiOガラス体は、そのままではハンドリングしにくいため、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持した後、基材から外し、直径:約200mm、長さ:約300mm、嵩密度:0.45g/cmの多孔質TiO−SiOガラス体を得た。
(工程(b))
多孔質TiO−SiOガラス体の3.8kgをSUS316L製の治具に担持させ、治具とともにSUS316L製反応槽(容積50L)に入れた。ついで、フッ化ナトリウムのペレット(ステラケミファ製)の300gを、多孔質TiO−SiOガラス体と接しないように反応槽内に挿入した。
(工程(b1−δ))
(1)マントルヒーターを用いて反応槽の外部から加熱し、反応槽内の温度を昇温速度0.5〜2℃/minの範囲で常温から80℃まで加熱した。
(2)反応槽内を80℃に保ったまま、反応槽内の圧力が絶対圧で13000Pa以下となるまで真空脱気し、1時間保持した。
(3)フッ素単体(F)を露点が−60℃以下の窒素ガスで20mol%に希釈した混合ガスを、反応槽内の圧力がゲージ圧で0.05MPaとなるまで導入し、圧力Pb1:ゲージ圧で0.05MPa、温度Tb1:80℃の条件下で6時間保持した。
(4)反応槽内のガスをパージして大気圧まで減圧し、フッ素単体(F)を窒素ガスで20mol%に希釈した混合ガスを400ml/minで2時間流通させて反応槽内のフッ素単体(F)を更新した。
その後、(3)〜(4)の操作をさらに3回繰り返し、多孔質TiO−SiOガラス体を圧力Pb1の条件下に保持する時間tb1を合計で24時間とし、フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体を得た。
(工程(b2))
反応槽内を140℃まで加熱した後、反応槽内の圧力が絶対圧で13000Pa以下となるまで真空脱気した状態で3時間保持し、フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体を得た。
(工程(c))
フッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体を、ガラス化炉に移し、減圧条件下で1360℃まで加熱し、3時間保持した後、ヘリウムガス100%の雰囲気下で透明ガラス化温度(1450℃)まで加熱し、4時間保持し、フッ素を含有した透明TiO−SiOガラス体を得た。
(工程(d))
フッ素を含有した透明TiO−SiOガラス体を、カーボン炉に移し、アルゴンガス雰囲気下で軟化点以上の温度(1700℃)に加熱して円柱状に成形して、フッ素を含有した成形TiO−SiOガラス体を得た。
(フッ素濃度の変動幅ΔF)
直径:140mmの円柱状の成形TiO−SiOガラス体の外周部分を研削して、直径:85mm、厚さ:50mmの円柱状とし、上述の方法によって得られる厚さ:12mmの6つのガラス片に対し、それぞれのガラス片の面Aと同じ側にある面のフッ素濃度を6点、および面Bのフッ素濃度1点の計7点のフッ素濃度を、蛍光X線にて、既知のフッ素濃度のサンプルを用い、FP法(ファンダメンタルパラメータ法)を用いて求めた。7点のフッ素濃度の最大値と最小値から成形TiO−SiOガラス体全体におけるフッ素濃度の変動幅(ΔF)を求めた。平均フッ素濃度が6600ppm、最大値が7100ppm、最小値が6200ppmとなり、フッ素濃度の変動幅ΔFがフッ素濃度の平均値に対して±7%であった。
また、得られた7点のフッ素濃度の測定結果のうち、面Aおよび面Bを除く5点でのフッ素濃度から、フッ素濃度の変動幅(ΔF)を求めた。平均フッ素濃度が6900ppm、最大値が7100ppm、最小値が6800ppmとなり、フッ素濃度の変動幅ΔFがフッ素濃度の平均値に対して±2%であり、フッ素濃度のバラツキがきわめて小さい成形TiO−SiOガラス体を製造できることが確認された。
フッ素濃度のバラツキがきわめて小さい成形TiO−SiOガラス体が得られたのは、多孔質TiO−SiOガラス体の外周部と内部でのフッ素の脱離の程度が同等となるほど充分にフッ素の脱離が抑制されたためであり、(1)添加しているフッ化ナトリウムのHF吸着能による効果、(2)断続的にフッ素単体(F)を供給、排気した効果、(3)工程(b2)でフッ素を含有した多孔質TiO−SiOガラス体中に吸着している未反応のフッ素単体(F)を除去した効果、が複合的に寄与することによって、達成できたものと考えられる。
〔例11〕
(工程(d’))
例10の工程(d)で得られた直径:140mmの円柱状の成形TiO−SiOガラス体を、カーボン炉に入れ、アルゴンガス雰囲気下で1700℃にて4時間保持することにより再度成形を行い、ブロック状の成形TiO−SiOガラス体とした。
(工程(e))
そのまま炉内で10℃/hrで1000℃まで冷却した後、1000℃で3時間保持した。ついで、950℃まで10℃/hrで冷却した後、950℃で72時間保持した。ついで、900℃まで5℃/hrで冷却した後、900℃で72時間保持した。ついで、室温まで冷却して成形TiO−SiOガラス体を得た。
(仮想温度の変化幅ΔTf)
得られた成形TiO−SiOガラスの中心部分から2箇所、外周部分から2箇所、中心部分と外周部分との中間部分から2箇所、それぞれガラス片を採取し、鏡面研磨を実施した。鏡面研磨されたガラス片の仮想温度を、上述の方法によって測定した結果、中心部分の2点の平均仮想温度は896℃、中間部分の2点の平均仮想温度は899℃、外周部分の2点の平均仮想温度は901℃であり、仮想温度の変動幅ΔTfが5℃の成形TiO−SiOガラス体を製造できることが確認された。
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本発明の製造方法によって製造される合成石英ガラスは、紫外線を扱う光学素子や光学部材、屈折率が制御された光学素子や光学部材として好適である。また、本発明の製造方法によって製造されるTiO−SiOガラスは、超低熱膨張特性が要求される光学部材、特にEUVリソグラフィ用の露光装置の光学系部材として好適である。

Claims (3)

  1. TiOを1〜12質量%含有し、かつフッ素を含有する合成石英ガラスからなる光学部材であって、
    前記光学部材中にフッ素を1000質量ppm以上7100質量ppm以下含有し、かつフッ素濃度の変動幅が、前記光学部材中の平均フッ素濃度に対して±10%以内であることを特徴とする光学部材。
  2. 18〜40℃の温度範囲での熱膨張係数が0±5ppb/℃である請求項1記載の光学部材。
  3. 仮想温度が1200℃以下であり、前記仮想温度の変動幅が平均仮想温度に対して50℃以内である請求項1または2に記載の光学部材。
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