従来、酸素発生を伴うメッキ、金属表面処理、排水処理等の電解工程においては、鉛又は鉛合金からなる電極が使用されてきた。これらの電極の使用は、溶出した鉛によるメッキ液の汚染、陽極に析出した鉛による電極劣化等を伴うという問題があり、安定操業が出来なかった。塩素発生を伴う、食塩電解、海水電解、水電解で使用される電極に関しても同様の問題があった。
このような事情を背景とし、鉛又は鉛合金に代わる電極として、導電性帯基体上に電極活性物質層を形成した不溶性電極が開発され、種々提案されている。その一つがバルブ金属、なかでも特にチタン又はチタンを主成分とする合金(以下チタン合金という)を導電性基体に用いた電極であり、その上に白金族金属又はその酸化物を含む電極活性物質層を設けた電極は、工業用電解又は民生用電解における不溶性電極として広く使用されている。
この不溶性電極では、電極自体が溶出することがない為、従来の鉛系電極のような汚染や電極への鉛の析出と言った課題を解決することができる。しかしながら、導電性基体と電極活性物質層との密着力に起因して電極寿命が短いという本質的な問題がある。
電極の導電性基体と電極活性物質層との密着性の問題を解決する為に、導電性基材の表面を事前に粗面化することが行われている。これは、粗面化によりアンカー効果を発現させ、電極活性物質層を導電性基体の表面へ強固に密着、固定させ、これによって不溶性電極の耐久性を向上させる方法である。粗面化方法としては、研削材を吹き付けて機械的に粗面化するブラスト処理法や、シュウ酸、硝酸、硫酸、塩酸、フッ酸などの酸溶液の流動浴又は静止浴に浸漬させて、導電性基体の表面を溶解させる化学的エッチング法、導電性基体表面を電解質溶液中で電解酸化し、基体の表面を多孔質化する電解酸化処理法などがある(特許文献1)。また、これらの前処理方法を2種類以上組み合わせる方法も考えられている(特許文献2)。
粗面化の対策により導電性基体と電極活性物質層の密着性が改善され、電極寿命は延長される。しかしながら、塩化物イオンを含む溶液を電解して塩素あるいは次亜塩素酸を発生させる用途の電極や、電気メッキ電極など電極負荷が大きい用途に適用した場合、密着性が不十分であり、用途によっては実用上の課題が残されていた。
このような事情から、実用レベルでも満足のいく電極寿命を実現する為に、導電性基体と電極活性物質層の密着力をさらに向上させることが求められている。この技術課題に対し、導電性基体の表面に基体と同じ金属の粉末焼結体からなる多孔質層を形成し、より強力なアンカー効果を発現させ、電極活性物質の脱落を効果的に抑制させる方法が考えられている(特許文献3)。また、別の方法で、ある特定の条件で導電性基体表面を電解酸化処理することにより、基体の表面をnmオーダー径の微細孔とμmオーダー径の粗大孔からなる複合多孔質化し、より強力なアンカー効果を発現させ、電極活性物質の脱落を効果的に抑制させる方法が考えられている(特許文献4)。
粉末焼結体からなる多孔質層を形成する対策は、電極活性物質が奥深くまでしっかり入り込めば、アンカー効果を発揮し、密着性向上に有効であり、かつ、多孔質層が導電性基体と同じ金属である為、導電性が低下するなどの問題もない。しかし、粉末焼結体からなる多孔質層は、すべての孔が導電性基体まで通じる開気孔になっている可能性は低く、途中で閉気孔になっている可能性が高い。この場合、電極活性物質は、多孔質層の途中までしか入り込めず、十分なアンカー効果が発揮されない恐れがある。したがって、この方法で十分なアンカー効果を達成する場合には焼結体中の気孔率を制御する必要があり実現が難しい。
電極酸化処理により、基体の表面をnmオーダー径及びμmオーダー径に複合多孔質化する対策は、電極活性物質がその複合多孔質の奥までしっかり入り込めば、強力なアンカー効果が発揮され、電極寿命の延長に有効である。しかし、電解酸化処理により作製される表面は、導電性基体の表面がミクロ的に酸化、溶解を繰り返し、表面に微細な凹部が多数形成される現象の繰り返しにより多孔質化されたものであり、多数の凹部が組み合わさった複雑形状の多孔体と言える。従って、微細かつ複雑形状の孔の奥までしっかり電極活性物質を入り込ませることは難しく、入り込まなかった部分は空隙となり、脱落や破壊の起点となってしまい、アンカー効果の十分な改善には至っていない。
また、nmオーダー径及びμmオーダー径の孔内に電極活性物質を担持させるものであるため、担持できる電極活性物質の量には限界がある。そのため、所望の電極特性を得るために所定量の電極活性物質を担持させるためには、複雑多孔質化した部分の厚さよりもかなり厚く電極活性物質部を形成しなければならい。結果として実用上満足のいく密着性を確保することは困難であった。
一方、骨代替材料の分野において、チタン又はチタン合金よりなる基体をアルカリ溶液中に浸漬し、基体表面をナノファイバー状に微細化処理するとともに、該ナノファイバー部にアパタイトを担持させることが知られている(特許文献5、非特許文献1)。また、ナノファイバー構造の形成機構についてもモデルが提唱されている(非特許文献2)。
しかしながら、この手法は電解用電極での応用例はなく、骨代替材料においては有効であるものの、電気伝導性が求められる電解用電極に用いるには更なる課題を解決する必要があることを本発明者らは見出した。すなわち、チタン又はチタン合金よりなる基体をアルカリ溶液中に浸漬した処理を行った場合、ナノファイバー部が絶縁性の酸化チタンあるいは絶縁性のチタン酸塩により構成されることとなり、電極としての電気導電性が損なわれると言う新たな課題を見出した。
本発明は、基体表面に被覆された電極活性物質と基体との高い密着性を有しつつ、電気伝導度の低下を抑制可能な電解用電極及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明にかかる電解用電極は、Tiを主成分とする導電性の基体と、基体表面上に配置される白金族金属又はその酸化物を含む電極活性物質からなる電極活性物質部と、基体と電極活性物質部との密着性を向上させるための密着力発現部とを備えた電解用電極であって、密着力発現部は、基体上に形成されたTiO2あるいはチタン酸塩からなるナノファイバーからなるナノファイバー部を有しており、ナノファイバー部の少なくとも一部に、電極活性物質部が担持され、ナノファイバー部は、所定の厚さを有しており、所定の厚さは10nm以上10μm以下である。
上述した本発明にかかる電解用電極では、密着力発現部としてナノファイバー部を設けている。
従来の方法では、ミクロまたはナノの孔が電極活性物質部を担持する領域であった。そのために孔内に電極活性物質が入り込まなかったり、入り込んだとしても微少な孔内に担持できる量は限られており十分な密着力を発現させることができなかった。
一方、本発明では担持する側をナノファイバー部とし、該ファイバーの周囲全体で電極活性物質部を担持するように工夫した。そのため従来よりも多くの電極活性物質を担持させることが可能となり、電極活性物質部との接触面積が大きくなることにより強力なアンカー効果を発現して、基体と電極活性物質部とを強固に接合することを可能とした。
密着力の観点では、ナノファイバー部の厚さが厚いほど、つまりファイバーの長さが長いほど大きなアンカー効果を得ることが可能となる為に、導電性基体と電極活性物質部との密着性は良好となる。一方で、密着力発現部としてナノファイバー部を採用した場合、該ナノファイバー部はTiO2あるいはチタン酸塩からなり絶縁性を示す為に、基体と電極活性物質部との電気的な接続を妨げ、電極としての性能が低下するという新たな課題を見出した。つまり、密着力のみを考慮してナノファイバー部の厚さを厚くしすぎると、ナノファイバー部が絶縁性の酸化チタンあるいは絶縁性のチタン酸塩である為に、基体と電極活性物質部との間で電気的な接合をとることが困難となり、電極の導電率が低下して電極として機能しなくなると言う問題がある。
これに対しナノファイバー部の厚さを、基体と電極活性物質部とが電気的に接続可能な厚さとなるように工夫している。そのため、ナノファイバー部に入り込んだ電極活性物質部とTi基体との電気的な接続を確保することが可能となり、ナノファイバー部による抵抗の影響を抑制し、また電極活性物質部と基体との接続不良を解消することが可能となる。したがって、密着力と電気伝導性との両立が可能となり電極として優れた機能を長期に亘って発現させることが可能となる。
本発明におけるナノファイバー部の厚さとは、走査型電子顕微鏡(SEM)で断面を観察した場合の、基材に接触したファイバー根元から、基材から垂直方向に最も離れた点までの長さとする。
なお、Tiを主体とする基体表面は、通常数nm程度のごく薄い酸化被膜に覆われているため、厳密には基体と電極活性物質部とは該酸化被膜を介して接触している。しかしながら、酸化被膜程度のごく薄い被膜は電極活性物質部と基体との電気的な接続には影響を与えるものではない。つまり本発明においては電気的な接続に影響を与えない範囲であれば、例えば酸化被膜を介して基体と電極活性物質部とが接していてもよく、必ずしも基体と電極活性物質部とが物理的に接触していなくてもよい。
ナノファイバー部の厚さが10nm未満の場合、十分なアンカー効果を得ることが難しく基体と電極活性物質部との間で十分な密着力を発現させることができない。一方で、ナノファイバー部の厚さを大きくしすぎると、ナノファイバー部の根元への応力集中が大きくなり、ナノファイバー部が根元から剥離してしまう恐れがある。また、ナノファイバー部が剥離せずに倒れた場合、ナノファイバー部の厚さ空間におけるナノファイバー部が占める割合が多くなり、電極活性物質部の担持が可能な空間が減少してしまう。よって、電極活性物質部のナノファイバー部への担持不良が発生し、密着力が低下したり、電気的な接続を確保することが出来ない恐れがある。さらに、ナノファイバー部が倒れずに長く成長した場合でも、ナノファイバー部が絶縁性である為に導電率が低下してしまう。また、ナノファイバー部が長く伸びていると、根元まで電極活性物質部が入り込みにくくなり、電極活性物質部のナノファイバー部への担持不良が発生し、電気的な接続を確保することが出来ない恐れがある。ナノファイバー部の厚さの上限については、基体と電極活性物質部とを電気的に接続可能な範囲であれば特に限定はしないが、上記理由から、おおむね10μm以下であることが望ましい。
したがって、ナノファイバー部の厚さを10nm以上10μm以下の範囲とすることでナノファイバー部の基材からの剥離を防ぐとともに、基体と電極活性物質部との間の優れた密着性と電気伝導度の確保との両立が可能となる。
なお、例えば塩化物イオンを含む溶液を電気分解して塩素を発生させ、その塩素と水の次亜塩素酸の殺菌水を生成する用途に用いる電極の場合は、印加できる電圧条件の観点から、ナノファイバー部の厚さは10nm以上5μm以下の範囲であることが好ましい。
本発明にかかる電解用電極では、ナノファイバーは、直径が200nm以下のサイズであることも好ましい。
ナノファイバーの直径を200nm以下のサイズにすることで、基体単位面積あたりのナノファイバー部と電極活性物質部の接触面積を十分に確保することができ、強力なアンカー効果を発現して、基体と電極活性物質部とを強固に接合することが可能となる。
本発明にかかる電解用電極では、電解活性物質は、白金族金属またはその酸化物の微粒子を含み、該微粒子の粒径は該ナノファイバー部のファイバー間隔よりも小さくすることも好ましい。
電解活性物質の白金族金属またはその酸化物の微粒子の粒子径をナノファイバー部のファイバー間隔より小さくすることで、電解活性物質をより確実にファイバー間に担持させることが可能となる。そのため、十分な担持量をより確実に確保することが可能となり、基材と電極活性物質部との電気的な接合不良の発生をより抑制することが可能となる。
本発明にかかる電解用電極では、ナノファイバー部と電極活性物質部の間には、保護層が形成されていることも好ましい。このようにすることで、長期使用などにより電極活性物質が剥離してしまった場合でも、基体と電解液が接触することがない為、電圧印加による基体の損傷が起こらない。また、ナノファイバー部と保護層の密着力は、接触面積が大きいことから従来のものより高く、強固に接合できる。なお、保護層は電極活性物質部となじみがよく、基体と電極活性物質部の電気伝導性を阻害しないものである必要がある。
本発明にかかる電解用電極では、基体表面がブラスト処理法、酸溶液による化学的エッチング法、電解酸化処理法などによる処理により、処理前よりも比表面積が増加された粗面部を有し、ナノファイバー部を粗面部上に形成することも好ましい。
粗面部とは、Ti基体表面の構造を変化させたものであり、処理前よりも比表面積が増加されていれば良い。基材表面に粗面部を形成し、その上にナノファイバー部を形成することで、ナノファイバー部の形成量を増やすことが可能となり、より強固なアンカー効果を発現させることが可能となる。また、粗面部自体のアンカー効果も期待できるため、基体と電極活性物質部との間の密着力をより強固なものとすることが可能となる。
ナノファイバー部は絶縁性であるため、電極活性物質部と基体との間の主な電気的な接続の確保は、基体表面におけるナノファイバー部が形成されていない領域において行われる。したがって、基体表面に粗面部を形成して比表面積を増やすと、電極活性物質部と基体との間の電気的な接続箇所をも増やすことができる。そのため、電極活性物質部と基体との間の電気伝導性の低下をより効果的に抑制することが可能となる。
本発明にかかる電解用電極では、粗面部上に形成されるナノファイバー部の厚さを、表面上に粗面部を形成せずに直接ナノファイバー部を形成した際のナノファイバー部の厚さよりも小さくすることも好ましい。
基材表面に粗面部を形成することで、ナノファイバー量の増加および粗面部形成により密着力が向上する。つまり、ナノファイバー部の厚さを粗面部を形成していない場合の厚さよりも小さくしても十分な密着力を確保することが可能となる。したがって、密着力を保持しつつナノファイバー部の厚さを小さくすることができ、電極活性物質部と基体との電気伝導性の低下をより抑制することが可能となる。
本発明にかかる電解用電極では、100A/m2以上の電流密度で使用する用途の電解用電極に利用することも好ましい。
一般的に電極は、電流密度が高くなると電極活性物質の剥離・溶解が起こりやすくなり、電解用電極の寿命は短くなる。従って、電流密度が高い状況での使用は電解用電極にとって過酷な使用状況と言える。しかし、本発明による電解用電極では、100A/m2以上の電流密度を使用する用途においても、基体と電極活性物質が強固に密着していることから剥離・溶解が起こりにくく、優れた機能を長期に亘り発揮することが可能となる。
100A/m2以上の高電流密度で使用する用途の電解用電極としては、例えば、塩化物イオンを含む溶液を電気分解するための電極が挙げられ、この場合、陽極に塩素を発生させ、この塩素と水の反応により次亜塩素酸の殺菌水を生成する用途に用いることができる。また、水を電気分解するための電極が挙げられ、この場合、陽極にオゾンを発生させ、このオゾンを水に溶解してオゾン水を生成する用途に用いることができる。
本発明にかかる電解用電極では、陽極の陰極化現象を伴う電解プロセスの電解用電極や定期的に電極の正負の極性を入れ替える電解用電極に利用することも好ましい。
陽極としてのみ利用する場合は高い耐久性を有する電解用電極でも、陽極の陰極化現象を伴う電解プロセスでは、陰極化が生じる部分での消耗が急速に進むことが分かっている。鋼板の電気メッキラインを例にとり陽極の陰極化現象を説明する。
鋼板の電気メッキラインにおいて、鋼板の両面をメッキするために2枚の陽極が対向配置され、その間を陰極となる鋼帯が通過することにより鋼帯の両面にメッキ金属が析出する。ここで、対向配置された2枚の陽極の幅は、その間を通過する鋼帯の幅が多種類ある為、鋼帯の最大幅に合わせて設定されている。この為、最大幅より小さい幅の鋼帯が通過するときは、陽極の両側の側端部で電極同士が直接対向することになる。そして、鋼帯の両面に厚さの異なる金属メッキを施すような場合は、2枚の陽極の間に電位差が生じ、低電位側の陽極においては、電極同士が直接対向する側端部分が陰極と機能し、カソード電流が流れる。これが陽極の陰極化現象である。
また、電極への付着物防止などの為に定期的に電極の正負の極性を入れ替える場合、意図的に陰極化を生じさせていることになるのでより急速に消耗が進む。
本発明による電解用電極では、このような過酷な使用状況においても、高い密着性と優れた電気伝導性を有することから、優れた機能を長期にわたり発揮することが可能となる。
本発明にかかる電解用電極では、塩化物イオンを含む溶液を電解して塩素あるいは次亜塩素酸を発生させる用途の電解用電極に利用することも好ましい。
塩化物イオンを28.2×10−9mоl/L以上20mоl/L以下含む塩化物イオンを含む溶液を電解すると、塩素を発生する。塩素は非常に反応性が高く、多くの金属や有機物と反応して塩化物を形成することが知られている。また、溶液中にカルシウムイオンやマグネシウムイオンが含まれる場合には、電極へのカルシウムまたはマグネシウムの析出防止の為に、定期的に電極の正負の極性を入れ替える必要がある。
本発明による電解用電極では、発生した塩素が電極活性物質部とナノファイバー部の界面に触れたとしても、強い密着性と高い化学的安定性を有することから、優れた機能を長期にわたり発揮することが可能となる。また密着力も良好なため、陰極化現象に対しても高い耐性を示すことができる。
本発明にかかる電解用電極は、塩化物イオンを含む溶液を電解して塩素あるいは次亜塩素酸を発生させる用途の電解用電極において、高電圧条件で利用することも好ましい。
塩化物イオンを含む溶液を電気分解して塩素あるいはジア塩素酸を発生させる用途において、特に、水道水又は水道水に食塩を加えた希薄食塩水など、塩化物イオンを28.2×10−9mоl/L以上14.1×10−3mоl/L以下しか含まれない希薄な溶液の場合、電気伝導性が高くない為、電気化学反応を起こす為に10V以上50V未満の高電圧を電極に掛ける必要がある。また、同量の電気化学反応量を確保しつつ電解用電極のサイズを小さくする必要のある場合、高電流密度で使用することになる。
このような高電圧、高電流密度は電極活性物質の脱離・剥離・溶解などを促進するので、電解用電極にとって過酷な使用状況であり、電解用電極にかかる電気的な負荷が大きくなるが、本発明による電解用電極では、このような過酷な使用状況においても、高い密着性により電極としての優れた機能を長期にわたり発現させることが可能となる
本発明にかかる電解用電極の製造方法は、Tiを主成分とする導電性の基体と、基体表面上に配置される白金族金属又はその酸化物を含む電極活性物質部を備えた電解用電極の製造方法であって、基体をアルカリ処理し、TiO2あるいはチタン酸塩からなる直径がナノサイズのナノファイバーからなる絶縁性のナノファイバー部を形成する工程と、ナノファイバー部に、電極活性物質部の少なくとも一部を担持する工程と、を備えており、ナノファイバー部を形成する工程において、ナノファイバー部を、基体と電極活性物質部とを電気的に接続することが可能な厚さとすることを特徴とする。
上述した本発明にかかる電解用電極の製造方法では、アルカリ処理という簡便な方法にて、基体と電極活性物質部との間に強力なアンカー効果を発現するナノファイバー部を形成することができる。
ナノファイバー部は、ファイバーの長さが長いほど、より強力なアンカー効果を期待できるが、ナノファイバー部は絶縁性のTiO2あるいはチタン酸塩からなる為に、長過ぎると、基体と電極活性物質部との電気的な接合をとることが困難となり、電極の導電率が低下して電極として機能しなくなってしまう。従って、アルカリ溶液の濃度、アルカリ溶液の温度、浸漬時間などのアルカリ処理条件を工夫してナノファイバー部が、基体と電極活性物質部が直接接触して電気的な接合をすることが可能な所定の厚さになるように工夫している。そのため、簡便な方法で密着性の確保と電気伝導性の低下の抑制とを両立させることが可能となる。
本発明にかかる電解用電極の製造方法は、担持される電極活性物質部を白金族金属の酸化物とすることも好ましい。
Tiを主成分とする基体をアルカリ処理すると、絶縁性のナノファイバー部が形成されるとともに、基体表面のうち該ナノファイバー部が形成されていない部分には電気伝導性に影響を与えない程度のごく薄い厚さの酸化被膜が形成される。この酸化被膜が形成された箇所はすなわちナノファイバー部の根元であって、電極活性物質部と基体との電気的な接続を確保するためには、該ナノファイバー部を介して該酸化被膜の形成された箇所まで十分に電極活性物質部を浸透させる必要がある。
そこで、電極活性物質部を白金族金属の酸化物とすることで、ナノファイバー部及びナノファイバー部の根元に形成された酸化被膜との親和性が向上するため、電極活性物質部をより根元まで浸透させやすくなる。そのため、より確実に電極活性物質部と基体との電気的な接続を確保することが可能となる。また酸化物同士であるため、密着性も良好となる。
本発明にかかる電解用電極の製造方法は、基体表面にブラスト処理法、酸溶液による化学的エッチング法、電解酸化処理法などの処理によって粗面部を形成させて処理前よりも比表面積を増加させる工程をさらに備え、比表面積を増加させる工程の後に、ナノファイバー部を形成する工程を備えることも好ましい。
ナノファイバー部を形成する工程の前に、ブラスト処理法、酸溶液による化学的エッチング処理法、電解酸化処理法などの処理により粗面部を形成させて処理前よりも比表面積を増加させる工程を行う事で、形成されるナノファイバーの量を多くすることが可能であり、さらに粗面部自体のアンカー効果により、基体と電極活性物質部との間により強力な密着力を発現することが可能となる。また、基体と電極活性物質部との間で電気的な接続点となる箇所も増えるため、電極活性物質部と基体との電気伝導性の低下をより効果的に抑制することが可能となる。
本発明にかかる電解用電極の製造方法は、密着力発現層の上に電極活性物質部を形成する工程において、金属イオンを含むモノマーあるいはオリゴマー溶液を出発原料として電極活性物質部を形成することも好ましい。
密着力発現部はナノファイバーの微細な構造となっている為、電極活性物質の出発原料のサイズが大きすぎるとナノファイバー部に入り込みにくく、十分なアンカー効果を得ることが出来なくなってしまう。そこで、電極活性物質の出発原料を、金属イオンを含むモノマーあるいはオリゴマー溶液とすることで微細なナノファイバー部に入り込ませ、十分なアンカー効果を発現させることができる。
本発明にかかる電解用電極の製造方法は、モノマーあるいはオリゴマー溶液を、溶媒を水とした水溶液とすることも好ましい。
本発明によるナノファイバー部は、アルカリ処理によって形成されるためナノファイバー表面の水酸基密度が高い特徴を有する。そのため、電極活性物質部を形成するためのモノマーあるいはオリゴマー溶液を水溶液とすることで、ナノファイバー部と電極活性物質部との親和性、すなわちなじみがよくなって、ナノファイバー部の奥まで電極活性物質部102をより確実に入り込ませることができる。
本発明は、基体表面に被覆された電極活性物質と基体との高い密着性を有しつつ、電気伝導度の低下を抑制可能な電解用電極及びその製造方法を提供することができる。
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にする為、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
(第1の実施形態)
本発明の電解用電極の第1の実施形態について、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明にかかる第1の実施形態の電解用電極の断面構造を示す模式図である。
図1に示すように、電解用電極10は基体101と電極活性物質部102と密着力発現部103を備えており、基体101と電極活性物質102とは電気的に接続されている。
基体101は、チタン又はチタン合金からなる導電性を有する材料であり、形状は用いられる電解用電極に対応する形状に加工されている。
なお、チタンまたはチタン合金からなる基体101の最表面は、通常酸化被膜で覆われているが、その厚さはごく薄いため基体101と電極活性物質部102との電気的な接続を阻害するものではない。
電極活性物質部102は、白金族金属またはその酸化物を含む電極活性物質からなるものであり、電極の用途が酸素発生の場合、白金族金属又はその酸化物とバルブ金属(チタン、タンタル、ニオブ、タングステン、ジルコニウム)及び錫からなる群より選ばれた1種類以上の金属の酸化物との混合酸化物が好適である。代表的な例としては、イリジウム―タンタル混合酸化物、イリジウム―タンタル―チタン混合酸化物等を挙げることができる。
電極の用途が塩素発生の場合、イリジウム、ルテニウム、白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属又はその酸化物とバルブ金属(チタン、タンタル、ニオブ、タングステン、ジルコニウム)及び錫からなる群より選ばれた1種類以上の金属の酸化物との混合酸化物が好適である。代表的な例としては、イリジウム―白金―タンタル混合酸化物、イリジウム―白金―ロジウム―タンタル混合酸化物などが挙げることができる。白金及びイリジウム酸化物も用いることができる。
電極活性物質の結晶の状態としては、アモルファスでも結晶性を有してもよい。
基体101の最表面は通常電気伝導可能な程度に十分に薄い酸化皮膜で覆われているため、電極活性物質が白金族金属の酸化物を含んでいる場合、酸化物同士のなじみがよく、基体101の表面に沿う形で電極活性物質部102が形成されやすい。また、酸化物同士なので化学的密着力も強固となる。
また、ナノファイバー部103aを構成する材料も酸化物である為、電極活性物質部102が白金族金属の酸化物を含む場合、酸化物同士なのでなじみがよく、ナノファイバー部103aに沿う形で電極活性物質部102が形成されやすい。そのため、ナノファイバー部が絶縁性であっても、基体101からナノファイバー部103aに沿って電気の通り道を確保することができる。また、酸化物同士なので電極活性物質部102とナノファイバー部103aとの化学的密着力を強固なものとすることができる。
次に密着力発現部103について述べる。
密着力発現部103は絶縁性のナノファイバー部103aを有している。
本発明においてナノファイバー部103aとは、TiO2あるいはチタン酸塩からなるナノファイバーからなる。ここで、ナノファイバーは、直径が5nm以上200nm以下が好ましい。また、電極活性物質との接触面積及びナノファイバー部作製時の熱処理条件を考えると、直径5nm以上15nm以下とすることがより好ましい。なお、ここで言う直径の値は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した場合の値とする。
なお、ナノファイバー部103aは熱処理温度やアルカリ濃度等の作製条件により中空構造を備えたチューブ形状または、中実構造を備えたワイヤー形状のいずれの構造とすることも可能である。一般にチューブ形状のほうがワイヤー形状よりもファイバー径が小さくなる傾向にあること、およびチューブ内にも電極活性物質部を担持することが可能であることから中空構造を備えたチューブ形状をより好適に利用することが可能である。
ナノファイバー部103aの厚さd1は、走査型電子顕微鏡(SEM)で断面を観察した場合の、基材に接触したファイバー根元から、基材から垂直方向に最も離れた点までの長さであり、10nm以上10μm以下が好ましい。厚さが厚いほど、電極活性物質部102との接触面積が大きくなる為、強いアンカー効果を発現し、基体101と電極活性物質部102を強力に密着させることが可能となる。一方、厚さが厚すぎるとナノファイバー部103aが絶縁性である為に、基体101と電極活性物質部102との電気的な接合をとることが困難となり、電気エネルギーを電極活性物質部102に十分伝えることが出来ず、電極活性が低下してしまう。従って、ナノファイバー部103aの厚さd1は、アンカー効果が働き、かつ、電気エネルギーを電極活性物質に届けることができる所定の厚さにすることが好ましい。
また、ファイバーの長さが長くなりすぎるとファイバーの根元に応力が集中し、ファイバーの根元から剥離してしまう恐れもある。したがって、10nm以上10μm以下の範囲が好ましい。
なお、この所定の厚さとは、ファイバーが剥離しない範囲内で電解用電極の用途に応じた電圧条件を考慮して適宜選択することができる。
電解用電極として用いられる際のチタンまたはチタン合金からなる基体101の表面は、電極活性物質部102によって完全に被覆されていることが好ましく、この場合、基体101の表面が直接電解液と接触することはない。しかしながら、長期に亘って使用するなどして電極活性物質部102の一部がナノファイバー部103aから剥離して基体101の一部が露出して直接電解液と接触する状態が発生する場合がある。この基体101の表面が一部露出した状態で電圧を印加すると基体が激しく損傷してしまう。
この状態を防ぐために、基体101表面に形成されたナノファイバー部103aの表面に保護層を形成し、たその上に電極活性物質を担持させ電極活性物質部102を形成する態様をとる場合もある。保護層は基体101とも電極活性物質部102ともなじみやすい材料で構成することで、基体101と電極活性物質部102との密着力を向上させる機能をも発現させることが可能となり好ましい。保護層としては、金属タンタルや金属タンタル合金を含む金属、又はタンタル酸化物やタンタル酸化物の複合酸化物が考えられる。
なお、該保護層を形成する際には基体101と電極活性物質部102との電気伝導性を阻害しないものとする必要がある。例えば電気伝導性を備えている材料により構成するか、または電気的に絶縁な材料で構成する場合には、基体101と電極活性物質部102との電気伝導性を損なわない程度に十分薄く形成すればよい。
ナノファイバー部103aは、直径が200nm以下のサイズのナノファイバーからなる為、ナノファイバー間に隙間が多く、電解酸化処理法などにより形成された従来の多孔質体構造よりも、電極活性物質が入り込みやすく、また担持可能な電極活性物質の量が多いために、ナノファイバー部103aの電気的な絶縁性の影響を希釈化することが可能である。
さらに電極活性物質部102を白金族金属またはその酸化物の微粒子を含む電極活性物質からなるようにして、該微粒子の粒径をナノファイバー間隔よりも小さくすれば、電極活性物質部102がナノファイバー間に容易に入り込むことが可能となり、ナノファイバー部103aの根元、すなわち基体101側まで確実に担持させることが可能となる。したがって、より確実に基材101と電極活性物質部102とを電気的に接続させることが可能となる。
また、電極活性物質部102の前駆体の粘度もファイバー間に入り込みやすく、かつ液垂れしない範囲で適宜調整することが好ましい。
また、本発明によるナノファイバー部103aは、ナノファイバー表面の水酸基密度が高い特徴を有する。そのため、電極活性物質部102を形成するための溶液を水溶液とすることで、ナノファイバー部103aと電極活性物質部102とのなじみがよくなって、ナノファイバー部103aの奥まで電極活性物質部102をより容易に入り込みやすくすることができる。
(第2の実施形態)
本発明の電解用電極の第2の実施形態について、図2を参照しながら説明する。図2は、本発明にかかる第2の実施形態の電解用電極の断面構造を示す模式図である。
図2に示すように第2の実施形態において、密着力発現部103はナノファイバー部103aと粗面部103bとを備えており、粗面部103bを備えている以外は第1の実施形態と同様である。
粗面部103bは、基体101の表面をブラスト処理法、酸溶液による化学的エッチング法、電解酸化処理法などにより処理して基体表面の構造を変化させたものであり、粗面化することで、基体101の表面の比表面積を増加させたしたものである。ナノファイバー部103aは、粗面部103b上に形成されている。
粗面部103bを形成することで基体101表面の比表面積が大きくなるので、粗面部103b上に形成されるナノファイバー部103aの形成量をより多くすることが可能となる。そのため、より大きなアンカー効果を得ることが可能となる。
また、粗面部103bとナノファイバー部103aが組み合わさった構造とすることにより、ナノファイバー部103aによるアンカー効果だけでなく、粗面部103b自体のアンカー効果も加わってより強力なアンカー効果を発現させることができ、基体101と電極活性物質部102とをより強固に接合することが可能となる。
また、基体101表面の比表面積が増えることで、基体101と電極活性物質部102との間の電気伝導性の確保に寄与している基体101表面上のナノファイバー部103aが形成されていない領域も増加するため、基体101とナノファイバー部103aとの間の電気伝導性をより確実に確保することが可能となる。
密着力発現部103の構造をナノファイバー部103aおよび粗面部103bを備えるように工夫すると、粗面部103bを備えない場合のナノファイバー部の厚さd1で得られる密着力と同等の密着力を発現させるためのナノファイバー部103aの厚さd2は、d1より小さい値にすることが可能となる。絶縁性のナノファイバー部103aの厚さd2が小さくなれば、基体101と電極活性物質部102とが電気的に接続しやすくなり、電気エネルギーを効率的に電解化学反応に利用することが可能となり、より確実に密着性の確保と電気伝導性の確保との両立を図ることが可能となる。
(電解用電極の製造方法)
本発明による電解用電極10の製造方法について、以下に詳細を説明する。
本発明による電解用電極10の製造方法は、まず、チタン又はチタン合金からなる導電性基体101を用意する。導電性基体101の形状は、製造すべき電解用電極10に対応する形状に加工されたものでもよいし、加工される前の板状でもよい。
次いで、この基体101を脱脂後、アルカリ溶液に浸漬させるアルカリ処理を行う。アルカリ処理の前に、研削材を吹き付けて機械的に粗面化するブラスト処理法や、シュウ酸、硝酸、硫酸、塩酸、フッ酸などの酸溶液の流動浴又は静止浴に浸漬させて、基体101の表面を溶解させる化学的エッチング法、基体101表面を電解質溶液中で電解酸化し、基体101の表面を多孔質化する電解酸化処理法などで粗面化して粗面部103bを形成し、基体101の比表面積を増加させてもよい。
アルカリ処理に用いるアルカリ溶液は、塩基性を有するものであればよいが、入手のしやすさ、水溶性で扱いやすいことから、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの強塩基化合物の単独溶液又は混合溶液を用いることが好ましい。濃度は0.01mоl/L以上であればよく、好ましくは5mоl/L以上であると、ナノファイバー部103の形成を好適に行うことができる。
アルカリ処理時のアルカリ溶液温度は、20℃〜250℃の範囲であればよい。温度が高くなると、ナノファイバー部103aは、径が小さく中空構造のチューブ形状ではなく、より径が大きく中実状構造のワイヤー形状となることが知られている。したがって電極活性物質部102との接触面積及び生成における熱処理条件を考えると、好ましくはチューブ形状を形成可能な40℃〜180℃の範囲が好適に利用できる。
アルカリ処理の浸漬時間は、溶液のアルカリ濃度や温度によって変化するものの、一般的には1分以上であれば良く、好ましくは1時間以上100時間未満の範囲である。この浸漬時間により、ナノファイバー部103aの厚さが決まるので、用いられる電解用電極10の用途ごとの要求寿命、電圧条件、あるいは電極活性物質部102の性状などに応じて、基体101と電極活性物質部102との導電性を確保できる範囲で時間を調整することができる。
このアルカリ処理により、チタン又はチタン合金からなる導電性基体101の表面に、アンカー効果を発揮するのに極めて効果的なナノファイバー部103aを形成することが出来る。
次に、ナノファイバー部103aの形成メカニズムを説明する。なお、ナノファイバー部の形成メカニズムは定かではないが、以下のように考えられる。しかし、以下の説明はあくまで仮説であり、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
まず、アルカリ溶液により基体101の表面のチタンが溶解するが、表面近傍でチタンイオンの濃度が高い為に、再度析出する。この再析出は成長方向に異方性を持っており、溶解―再析出を繰り返すことにより、一つの方向へ伸びたナノファイバーが形成される。このナノファイバーは基体表面の様々な場所で形成されることから、複雑に絡み合ったナノファイバー部103aとなることも考えられる。
ナノファイバー部103aは溶解―再析出メカニズムにより形成される為、基体101の表面近傍でのチタンイオンの濃度バランスが重要である。そのためアルカリ溶液濃度、アルカリ処理温度などの因子を制御して、基体101の表面近傍でのチタンイオン濃度を変えると、ナノファイバー部103aが形成されなかったり、形成に要する時間が異なったりする。
アルカリ処理の後、基体101を取出し、水で洗浄する。ナトリウム等の陽イオンを除去する為に酸性溶液で洗浄してもよい。さらに、アルカリ処理後の基体101の表面は、プロトン、ナトリウム等を含むチタン酸になっている為、熱処理を行い、TiO2あるいはチタン酸塩にすることもできる。
次に、基体101の表面に形成されたナノファイバー部103aに電極活性物質部102を担持する工程について説明する。
基体101の表面への電極活性物質部102の形成方法としては、熱分解焼結法や電気メッキ方等を適用できるが、技術的難易度及びコストの理由から熱分解焼結法が好ましい。
電極活性物質は金属イオンを含むモノマーあるいはオリゴマー溶液を出発原料とすることが好ましい。これは、密着力発現部103であるナノファイバー部103aがナノファイバーの微細な構造となっている為、電極活性物質の出発原料のサイズが大きすぎるとナノファイバー部に入り込みにくく、十分なアンカー効果を得ることが出来なくなってしまう為である。コロイドを出発原料とする際は、同様の理由からコロイド粒子をナノファイバー部の間隔よりも小さくすることが好ましい。なお、ナノファイバー部の間隔とは、1本のナノファイバーと、そのファイバーのいちばん近い位置にある別のナノファイバーとの距離であり、数nm〜200nm程度である。
また、金属イオンを含むモノマーあるいはオリゴマー溶液を水溶液とすることで、水酸基を多く含むナノファイバー部103aとのなじみをよくして、ナノファイバー間への電極活性物質の入り込みをより容易にすることも好ましい。
基体101の表面に電極活性物質を含む溶液を塗布する方法は、基体101と電極活性物質部102との電気的な接続が取れる範囲内で既存の各種手法、例えばフローコート、スピンコート、テープ成型、スクリーン印刷、ハケ塗り等を用いることができる。
また、ナノファイバー部103aの表面には、タンタルなどの保護層を形成した上に電極活性物質を担持させ電極活性物質部102を形成させてもよい。
溶液塗布後は乾燥させて電極活性物質部102を基体101に固定化させるとともに、電極活性物質部102を結晶化させる為に、300℃〜800℃の温度で加熱処理を行う。加熱処理の温度については、目的の電極活性物質部102が形成される温度にする必要があるが、あまりに高温だと基体101の表面に形成される酸化物被膜の厚さが厚くなって、基体101と電極活性物質部102との間の電気伝導性を阻害する恐れがある。したがって、基体101と電極活性物質部102との電気伝導性が阻害されない範囲内で適宜選択することが好ましい。
塗布、乾燥、焼成の工程は、数回から数十回繰り返し、目標とする電極活性物質量を基体101の表面に担持させる。
上述のように、本願発明によれば基体101と電極活性物質部102との間の電気的な接続を損なうことなくナノファイバー部103aによる強固な密着力を確保可能な電解用電極10及びその製造方法を提供することができる。そのため、特に基体101と電極活性物質部102とのより強固な密着性が必要となる用途に特に好適に利用することができる。
例えば、100A/m2以上の電流密度下での使用、鋼板の電気めっきラインのように陽極の陰極化現象を伴う電解プロセスでの使用、塩素または次亜塩素酸を発生させる用途への使用においても、電極としての機能を低下させることなく電極活性物質部102が基体101から脱離することを効果的に防止でき、従来と比較して電極寿命を長寿命化することができる。
本発明を以下の例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
(実施例)
導電性基体として、JIS1種チタン板(厚さ:0.5mm)を20mm×40mmの形状にプレス加工したものを用意した。これをアセトンに浸漬させ10分間超音波洗浄し、脱脂した後、表1に示す基体処理方法の温度及び時間の条件にて、5mоl/L水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、基体のアルカリ処理を行った。参考例のサンプル1〜6については、電極活性物質を塗布せず、この時点で完成とした。
次に、イリジウム濃度100g/Lに調整した塩化イリジウム酸のブタノール溶液と、タンタル濃度100g/Lに調整したタンタルエトキシドのブタノール溶液と、白金濃度200g/Lに調整した塩化白金酸のブタノール溶液と、ロジウム濃度100g/Lに調整した塩化ロジウムのブタノール溶液を、Ir-Ta-Pt-Rhの金属換算の組成比が表1に示すモル%になるようにそれぞれ秤量し、金属換算の合計濃度が表1に示すようになるようにブタノールにて希釈し、塗布溶液を作製した。
この溶液をそれぞれ表1に示す量だけピペットで秤量し、それをチタン基体に形成したナノファイバー部に塗布した後、室温で乾燥し、さらに550℃の大気中で10分間焼成した。この塗布・乾燥・焼成を表1に示す回数だけ繰り返し、電解用電極の実施例サンプル1〜10を作製した。
(比較例)
比較例として、表1に示すように、上記実施例の基体処理を、行わずに、もしくは、90℃の10wt%シュウ酸溶液に1時間浸漬させる処理を行い、それ以外の処理は実施例と同じにして比較例のサンプル1〜5を作製した。
(評価)
作製された電解用電極の実施例サンプル1〜10、比較例サンプル1に対し、ポテンシオスタット(Hz−5000、北斗電工(株)製)を用いて電位を掛け、電流値を測定し、抵抗値を求めた。測定は、電解液に1Mの硫酸ナトリウム溶液(液温27℃、pH6.5)、参照極にAg−AgCl電極、対極にPt電極を用い、電極間距離0.5mm、自然電位から5mV/sのスピードで2Vまで電位を上昇させ、電流値を測定した。抵抗値は、電流が0.4A流れる地点での電位の値から求めた。
作製された電解用電極の実施例サンプル7〜10、比較例サンプル2〜5に対し、次亜塩素酸発生電極としての耐久試験を実施した。耐久試験は、電解液に流量0.45L/minの水道水を用い、電極間距離0.5mm、電流密度1470A/m2(電流1A、電極面積680mm2)の定電流制御、電解時間5秒ごとにアノードとカソードを逆転し、5秒電解で1秒無電解の電解サイクルを繰り返す条件で行った。電解電圧値および遊離塩素濃度の経時変化を記録し、電解用電極により発生した遊離塩素濃度が0.3ppmを下回った時点を寿命とした。なお、遊離塩素濃度は、ポケット残留塩素系(型番:HACH2470、使用試薬:DPD(ジエチル―p―フェニレンジアミン)10ml用)を用いて測定した。
図3にアルカリ処理を行った後のサンプル1のTi基体表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。また、図4には比較例として、シュウ酸溶液による処理後のSEM写真を示す。図3よりTi基体表面がナノワイヤーの絡み合ったナノファイバー構造となっていることが確認できる。これに対し、図4よりシュウ酸溶液による処理では、基体表面がマイクロオーダーのレベルの凹凸が形成されている。
図5に参考例サンプル1〜6のTi基体のナノファイバー部の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。(a)〜(c)から、浸漬時間が長くなるほど、ナノファイバー部の厚さが厚くなっていることが確認できる。また、(a)〜(c)と(d)〜(f)の比較から、浸漬時間が同じ場合、溶液温度が高温である方が、ナノファイバー部の厚さが厚くなっていることが確認できる。
表1にポテンシオスタットによる抵抗値の結果を示す。基体処理においてアルカリ溶液の温度が同じ場合、浸漬時間が長くなるほど、抵抗値が高くなっている。また、浸漬時間が同じ場合、アルカリ溶液の温度が60℃のものより100℃のものの方がいずれも抵抗値が高くなっている。また、図6に、実施例サンプル1〜16,比較例サンプル1のファイバー部の厚さと抵抗値の関係を示す。横軸が同基材処理条件のものを走査型電子顕微鏡(SEM)で確認したファイバー部の厚さ、縦軸が抵抗値である。これより、ファイバー部の厚さが厚くなるほど抵抗値が高くなることが分かる。
表1に耐久試験の結果を示す。同等の電極活性物質部の担持量間で比較すると、実施例サンプル7の寿命は3.7時間であるのに対し比較例サンプル2は1.2時間、実施例サンプル8が52時間であるのに対し比較例サンプル3は39.5時間、実施例サンプル9が372時間であるのに対し比較例サンプル4は182時間、実施例サンプル10が732時間であるのに対し比較例サンプル5は267時間となっている。これらより、電極活性物質の組成、電極活性物質の担持量が同じ場合でも、Ti基体の処理方法によって寿命が大きく異なり、いずれの場合もアルカリ処理によってTi基体の表面をナノファイバー層としたサンプルの方が長寿命となっていることが分かる。これは、実施例において密着力発現部、すなわちナノファイバー部に担持された電極活性物質部の量が、比較例において密着力発現部、すなわち粗面化された凹凸部に担持された量よりもはるかに多くなっており、より強固な密着力を発現していたためと考えられる。
図7に耐久試験において電解時間1.7時間後のサンプルの表面写真を示す。図7(a)が実施例サンプル7、図7(b)が比較例サンプル2の電極表面写真であり、実施例サンプル7と比較例サンプル2では密着力発現部の構造が異なるのみで、電極活性物質部の組成、及び担持させた量は同じである。
写真状、黒く見える部分が電極活性物質部であり、白く見える部分は電極活性物質がなくなり、Ti基体が見えている部分である。シュウ酸処理によって密着力発現部を形成した比較例サンプル2の大部分で電極活性物質部が剥離・消耗し、基体のチタンが剥き出しになっているのに対し、アルカリ処理によってナノファイバー部を備えた密着力発現部を形成した実施例であるサンプル13では大部分で電極活性物質部を保持したままである。従来のシュウ酸処理による粗面化表面と、本発明のアルカリ処理によるナノファイバー部の密着力の違いを顕著に示していると言える。
図8に横軸をメインの電極活性物質であるIrの担持量、縦軸を耐久電解時間としたグラフを示す。基本的に、電極はIrの担持量の増加に伴い長寿命となることがわかる。ここで注目すべきは、Ti基体の前処理方法の違いにより、その傾きが異なること事である。このことは、本発明によるTi基体表面のナノファイバー部が強力なアンカー効果を発揮することから、Ti基体と電極活性物質の密着性が高くなっており、10V〜50Vの高電圧でかつ、極性が定期的に入れ替えられるような電解用電極にとって過酷な条件下においても非常に高い耐性を有することを示している。