以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。尚、本発明においては複数の実施例を提案しており、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略することとする。また、同一の符号は同一の構成要素、或いは類似の機能を備える構成要素を示している。
本発明の第1の実施形態に係るスクロール圧縮機1について、図1から図7を用いて説明する。
図1はスクロール圧縮機の縦断面図、図2は図1のS部における背圧弁付近の部分拡大縦断面図である。図3は旋回スクロールの上面図、図4は図3のH−H断面における旋回スクロールの縦断面図である。また、図5は固定スクロールの下面図で、そのうち図5(A)は旋回外線側圧縮室が閉込みを開始したときの旋回鏡板と旋回ラップと旋回鏡板の表面上に設けた掘込みと旋回ラップの歯先面に設けた歯先孔も描いた図である。また、図5(B)は旋回内線側圧縮室が閉込みを開始したときの旋回鏡板と旋回ラップと旋回鏡板の表面上に設けた掘込みと旋回ラップの歯先面に設けた歯先孔も描いた図である。そして、図6は図5のQ部における油集中流出口近傍の部分拡大図、図7は図6の油の存在と挙動を説明する投影図である。尚、この例におけるスクロール圧縮機1の直径は、10mmから1000mm程度とする。
図1に示すように、スクロール圧縮機1は、固定スクロール2と、旋回スクロール3と、フレーム4と、オルダムリング(図示せず)と、クランク軸6と、モータ7と、ケーシング8と、を備えている。
クランク軸6の中央には、縦に貫通する給油穴6bが形成されている。また、クランク軸6の下端には、給油パイプ6xが圧入されている。また、クランク軸6のフレーム4よりも下部には、回転バランスを取るためのシャフトバランス80およびカウンターバランス82が直接若しくは後述するロータを介して焼き嵌めまたは圧入されている。
副軸受25は、ボール25aとボールホルダ25bからなり、クランク軸6がたわんでも片当りが生じない構成となっている。副軸受25のボールホルダ25bは、下フレーム35へねじ止めまたは溶接により固定配置される。
モータ7は、クランク軸6に固定されたロータ7aと、筒ケーシング8aに焼き嵌めまたは圧入または溶接したステータ7bと、を備えて構成され、モータ7に電力を供給するモータ線でハーメチック端子220と接続されている。
ケーシング8は、筒ケーシング8aと、筒ケーシング8aの上部に溶接される上ケーシング8bと、筒ケーシング8aの下部に溶接される底ケーシング8cと、を備えて構成され、固定スクロール2、旋回スクロール3、フレーム4、クランク軸6、モータ7等を取り囲むようになっている。これにより、固定スクロール2の上部には、固定背面室120が形成される。
筒ケーシング8aには、内部にフレーム4が溶接されて固定配置され、側面に吐出パイプ55が溶接またはロウ付けされて固定配置され、下部に副軸受25を支持する下フレーム35が溶接またはロウ付けされて固定配置されている。尚、固定スクロール2の台板部2qの外周部には上下方向に延びる溝が形成されており、同様にフレーム4の外周部にも上下方向に延びる溝が形成されており、固定スクロール2がフレーム4にねじ固定されると、ケーシング8の内部の上部空間(固定背面室120)とケーシング8の内部のモータ上部空間(モータ7が配置される空間)とを連通するようになっている。
上ケーシング8bには、ハーメチック端子220と固定スクロール2に圧入してある吸込パイプ50が溶接またはロウ付けされて固定配置されている。また、ケーシング8の内部には、組立ての適当な段階で油を封入するようになっている。これにより、下フレーム35と底ケーシング8cの間に、貯油部125が形成される。また、油溜部である背圧室110から吸込部95へ給油する吸込給油手段70を備えている。尚、吸込部給油手段70については、図4、5、6、7を用いて後述する。
図3と図4に示す通り、旋回スクロール3は、旋回鏡板3aの上面である旋回上面3a1に旋回ラップ3bが立設される。そして、後述するような構成によって旋回運動を行うことができるようになっている。
図5(A)、図5(B)に示す通り、固定スクロール2には、固定鏡板2aの下面側に固定ラップ2bが立設されている。これら固定ラップ2bおよび旋回ラップ3bを噛合わせ、両者間の外辺部に吸込室90が形成される。また、図1で示すように、固定スクロール2には、吸込口2sが形成されており、スクロール圧縮機1の外部から作動流体を固定スクロール2へ導入する吸込パイプ50が圧入されている。また、スクロール圧縮機1の停止直後の作動流体の逆流を防止するために逆止弁21が吸込パイプ50の下部に設けられている。
そして、図5(A)、図5(B)に示すように、この吸込口2sと吸込室90との間に吸込部95が形成されている。前記旋回スクロール3の前記旋回運動により、前記吸込室90は閉込みを開始し、密閉空間である圧縮室100へ移行する。
また、固定スクロール2の中央付近には、圧縮した作動流体を吐出させる吐出穴2dが形成されている。また、その外周側には、複数のバイパス穴2eが形成され(図5参照)、各々にバイパス弁22が設けられている(図2参照)。バイパス弁22は、圧縮室100の圧力がケーシング8の内部の圧力よりも等しくなるかわずかに所定値以上高くなると開弁するようになっている。このような固定スクロール2は、固定ラップ2bの外辺部である台板部2qの下面(固定台板面2u)の外周部をフレーム4にねじ固定するようになっている。
一方、旋回スクロール3は、背面に旋回軸受23が形成されており、旋回軸受23にクランク軸6の偏心部であるピン部6aが挿入される。旋回スクロール3は、主軸受24で回転支持されるクランク軸6が回転することにより、旋回運動するようになっている。また、旋回スクロール3の背面(旋回スクロール3とフレーム4との間)には、背圧室110が形成されるようになっている。
また、図2に示すように、旋回スクロール3とフレーム4との間には、旋回スクロール3の自転運動を防止するためのオルダムリング5が配置されている。また、固定スクロール2には、背圧室110の油を吸込室が閉じ込んだ後の圧縮室100だけに流す圧縮給油路60を設ける。圧縮給油路60の背圧室110側の開口部を油集中流出口60a、圧縮室100側の開口部を圧縮流入口60bとし、途中に、背圧弁26が設けられている。ここで、油集中流出口60aは、背圧弁ピース26aを貫通する穴の背圧室110側の開口部で形成される。この背圧弁ピース26aは固定スクロール2に圧入され、その上面は背圧弁26の弁座を構成する。
背圧弁26は、背圧室110の圧力(背圧)が圧縮室100の圧力よりも所定値以上高くなると開弁するようになっている。このような背圧弁26の動作により、背圧室110の圧力である背圧は、吸込口2sや吸込部95における圧力である吸込圧よりも高く、吐出穴2dにおける圧力である吐出圧よりも低い、中間圧を保持するようになっている。これにより、背圧室110は、後述する吐出圧となっている旋回軸受室115とともに、旋回スクロール3を固定スクロール2へ付勢する役割を担う。
このようにして、固定スクロール2はスラスト支持部材の役割を担う。そして、旋回鏡板上面3a1は旋回スラスト面、固定台板面2uはスラスト支持面の役割を担い、背圧室110と吸込部95や吸込室90を仕切るシール領域が形成される。また、この背圧室110は後述する吸込給油手段の油溜部となっている。
次に、スクロール圧縮機1の圧縮動作の概要を図1から図5を用いて説明する。まずは、吸込パイプ50からスクロール圧縮機1に流入した作動流体が、吐出パイプ55から吐出されるまでの流れに沿って説明する。
図1に示すように、モータ7でクランク軸6を回転させ、旋回スクロール3を旋回運動させる。これによって、図3に示すように、旋回スクロール3と噛合う固定スクロール2との間の外辺部に吸込室90が形成される。吸込パイプ50を経由して吸込口2sから流入する作動流体は、吸込部95を通って吸込室90に吸い込まれる。
そして、旋回スクロール3を旋回運動させることにより、吸込室90は、閉込み開始によって圧縮室100へ移行した後、ラップ中央へ移送しつつ容積が縮小する。これによって圧縮室100内部の作動流体を圧縮し、吐出穴2dから図1に示すケーシング8の内部の上部空間である固定背面室120へ流出する。
これにより、ケーシング8の内部の圧力は吐出圧となり、いわゆる高圧チャンバ方式のスクロール圧縮機1となる。なお、過圧縮条件では、圧縮室100の内部の圧力が吐出圧よりも高くなるため、図2に示すバイパス弁22が開いて、バイパス穴2eを介して、圧縮室100の内部の作動流体を固定背面室120へ流出させる。このような構成により、過圧縮を抑制できるため、スクロール圧縮機1の性能が向上するという効果がある。
固定背面室120へ流出した作動流体は、その後、固定スクロール2とフレーム4の外周部の溝により、モータ7の上部空間へ流入し、吐出パイプ55から外部へ吐出される。
次に、油の流れについて説明するが、以下の説明は油の流れの順序に沿って行なっている。貯油部125の油は、吐出圧(ケーシング8の内部の圧力)と背圧(背圧室110の内部の圧力)の差圧により、図1に示すように、貯油部125から給油パイプ6x、クランク軸6内の給油穴6bを通って旋回軸受23と主軸受24を潤滑した後、背圧室110へと流入する。
ここで、ピン部6aの上部の旋回軸受室115の圧力は吐出圧となるため、旋回スクロール3を固定スクロール2へ付勢する押付力付加手段の一つとなる。また、副軸受25へは給油穴6bから遠心力によって給油するようになっている。
背圧室110へ流入する油の圧力は吐出圧であるため、その油の流入によって背圧室110の圧力が昇圧する。また、油には作動流体が必ず溶け込んでいる(大概の場合、質量濃度は10%以上)ため、背圧室110へ流入したことによる減圧によって、作動流体が油中から急激にガス化(発泡)する。作動流体は、ガス化することで、体積が1桁以上増大する。このため、大概の場合、背圧室110内の油は、細かい油滴がガス化した作動流体内に浮遊するミスト状態となって、背圧室110の全域に分散する。この背圧室110への給油によって、図2に示すオルダムリング5の潤滑を行なうようになっている。
この後、背圧室110へ流入した油の大半は、途中に背圧弁26を設けた圧縮給油路60を経由して閉込み開始直後の圧縮室100へ流入する(図2参照)。ここで、圧縮給油路60の背圧室側開口部は、背圧室110の全域に分散している油が集中して背圧室110から流出する開口部であることから、以下の説明では油集中流出口60aと呼称する。背圧弁26は、前記した動作によって、背圧を吐出圧と吸込圧の中間圧に制御する。この中間圧とは中央値ではなく、吸込圧と吐出圧の間の所定の圧力を意味している。
そして、背圧室110に流入した油は後述する吸込給油手段70によって吸込部95へ供給される。この吸込給油手段70によって吸込部95に供給される油は上記した圧縮室100に供給される油に対して少量である。
ところで、図4にあるように、本実施形態では旋回ラップ3bに歯先孔3sを設け、それをリリース穴2eの一つへ間欠的に臨ませた、歯先連通路も設けている。この歯先孔3sは、閉込み開始直後の圧縮室100(旋回スクロール3の外線側に形成される圧縮室のみ)へ通じるように設置されている。これは、旋回スクロール2が固定スクロール3へ付勢できずに離脱した異常状態を解消させるために設けている。離脱状態では、閉込み開始直後の圧縮室100の圧力が吐出圧に近づくため、歯先孔3sには、圧縮室100から背圧室110へ吐出圧に近い高圧の作動流体が流れる。よって、背圧が昇圧し、離脱状態を解消する効果がある。尚、この離脱状態の頻度が極めて低い場合、歯先連通路は省略可能である。
以上により、本実施形態の場合、背圧室110の油は、圧縮給油路60と歯先連通路の2通路によって、圧縮室100へ供給される。しかしながら、歯先連通路が旋回外線側圧縮室と連通するタイミングを圧縮給油路60の連通するタイミングよりも遅らせたり、歯先連通路の流路抵抗を意図的に増大させることによって、背圧室110内の油の大半を、圧縮給油路60を経由して流出させている。よって、油集中流出口60aにおける油の集中は、歯先連通路が無い場合と同様に発生する。
このように、本実施形態では、吸込部95へごく少量だけ給油する以外は、全て圧縮室100へ給油する。これにより、圧縮室100のシール性が格段に向上するため、圧縮途中の作動流体の漏れが大幅に抑制され、圧縮機効率が向上するという効果がある。一方、吸込部95への高温の油の供給を少量としたため、吸込室のシール性を必要充分に確保しつつ吸込加熱を抑制できるため、体積効率を確実に向上させることができる。この体積効率向上によって圧縮機効率を一層向上させるという効果がある。
前記した通り、背圧室110から圧縮室100や吸込室90や吸込部95へ供給した油は、吐出穴2dとリリース穴2eを通って、作動流体とともに固定背面室120へ吐出される。
その後、油は、ケーシング8の内壁やケーシング内の構成要素に付着して作動流体と分離される。そして、油は、付着したケーシング内壁や構成要素を伝い、スクロール圧縮機1の底部の貯油部125へ最終的に戻る。
次に、油溜部である背圧室110から吸込部95へ給油する吸込部給油手段について図4から図7を用いて説明する。
前記した通り、本実施形態では、旋回鏡板下面3a3側の背圧室110の背圧と旋回軸受室115の吐出圧によって、旋回スクロール3が固定スクロール2へ付勢される。この結果、固定台板面2uと旋回鏡板上面3a1が互いに押圧されて背圧室110(図1参照)と吸込部95(図5参照)が隔成される。即ち、スラスト支持面である固定台板面2uと旋回スラスト面である旋回鏡板上面3a1とにより、油溜部である背圧室110と吸込部95を隔成するシール領域が形成される。
図5に示す通り、吸込部95には、それと連通する吸込溝2rを設ける。すなわち、吸込溝2rは吸込連通部となる。
また、スラスト支持面である固定台板面2uには、図2に示す通り、前記油集中流出口60aの口径Dよりも浅い深さHで掘込んだ台板湾状凹部70b1を設ける。ここで、口径は、断面が円でない場合(例えば楕円等)の断面積と等しい断面積を有する円の直径として変換して定義する。この口径Dは、旋回鏡板3aの厚さよりも小さいため、台板湾状凹部70b1の深さは、旋回鏡板3aの厚さよりも浅い形状となっている。
図6に示す通り、この台板湾状凹部70b1は、台板環状凹部分70b0と台板湾状凹部分70b01からなる。台板環状凹部分70b0は、旋回鏡板3aが旋回運動するときの掃引領域よりも大きい外径を有する円環状の部分である。そして、台板湾状凹部分70b01は、台板環状凹部分70b0の内周側に湾状に食い込んだ部分である。この台板湾状凹部70b1は、常に旋回鏡板3aの外側まで広がっているため、油溜部である背圧室110と常に連通している。これより、台板湾状凹部70b1は、常時、支持面凹部となっている。
また、図3,4に示す通り、旋回スラスト面である旋回鏡板上面3a1に、油凹部として機能する旋回凹部70a1を設ける。また、この実施形態では、旋回スラスト面上には旋回凹部70a1以外の凹部となるスラスト面凹部は設置しない。よって、前記した支持面凹部とスラスト面凹部の和集合は支持面凹部と等しくなる。
図6には、この旋回凹部70a1の旋回方向および旋回運動による掃引領域を示している。これより、旋回凹部70a1は、シール領域を介して隣接する吸込連通部である吸込溝2rと支持面凹部である台板湾状凹部70b1へ臨むことがわかる。(以下では吸込連通部も2rという参照番号を用いて説明する。)ここで、旋回凹部70a1の掃引領域内のクロスハッチングした2つの円領域からわかる通り、旋回凹部70a1は、吸込連通部2rと支持面凹部へ同時に臨むことがなく、交互に臨んでいることがわかる。
つまり、旋回凹部70a1を介して支持面凹部と吸込連通部2rは常時連通せず、旋回スクロール3の旋回動作に同期して一旋回毎に、旋回スクロール3が第1の位相角にある時に旋回凹部70a1が油溜部に臨んで油溜部の油を汲み取り、その後に旋回スクロール3が旋回を継続して第2の位相角にある時にその油を旋回凹部70a1が吸込連通部2rへ臨んだ時に吸込部95へ吐き出す、ポケット給油動作を行うものである。これより、旋回凹部70a1は油凹部の役割を担っていることがわかる。そして、一旋回当りの給油量は、旋回凹部70a1の容積が上限となるため、過剰な吸込給油を抑制できるという効果がある。
ここで、第1の位相角は旋回スクロール3が位相を進めていく過程の所定角の幅を含んでおり、この間で油が汲み取られるものである。同様に、第2の位相角は旋回スクロール3が位相を進めていく過程の所定角の幅を含んでおり、この間で油が排出されるものである。これらの所定角を含めて第1の位相角及び第2の位相角と呼ぶ。
図6には、3通りの旋回位相角時での旋回スクロール3を描画してある。このうち、旋回内線側圧縮室100の閉込み開始時(通常の太さの実線)と旋回外線側圧縮室100の閉込み開始時(破線)では、旋回ラップ3bが圧縮給油路60の圧縮室側への流入部である油流入口60bを塞いでいることから、圧縮給油路が連通していないことがわかる。一方、図6に描かれた残る旋回スクロール(太い実線で表されており、旋回内線側圧縮室100の閉込み開始から50度旋回した時)では、旋回ラップ3bは油流入口60bを塞いでいないため、圧縮連通路60は連通している。
図7は、スラスト支持面である固定台板面2uへ、旋回内線側圧縮室100の閉込み開始から50度旋回した時の旋回スクロールラップ3b及び旋回鏡板3aと旋回鏡板表面3a1上に設けた旋回凹部70a1を投影した投影図(図6の太い実線で表された旋回位相角時)である。
ここで、投影像の記号は、投影前の原像の記号にコンマを付加することとした。さらに投影像の名称は、投影原像名の最後に「部」がついている場合、それを「領域」に変更する方法に則って付けた。基本的に「部」と「領域」は同じものであり同一平面上に投影したものを「領域」と表記している(その他の名称は、適宜変更した)。
この図7を用いて、油凹部である旋回凹部70a1の設置位置の特徴を説明する。説明に先立ち、前記方法に沿って投影像の記号と呼称、または投影原像の呼称を述べる。また、説明の途中で新たに定義する呼称や記号は、その都度、記載する。
まず、油凹部とその具体的な箇所の名称である旋回凹部70a1の投影像を油凹領域或いは旋回凹領域70a1’とする。また、油集中流出口60aの投影像を油集中流出口領域60a’とする。さらに、旋回鏡板縁3a2の投影像を旋回鏡板線3a2’とする。また、台板湾状凹部70b1で形成される支持面凹部の投影像を支持面凹領域、旋回鏡板3aの投影像を旋回鏡板領域3a’とする。本実施形態では、スラスト面凹部が設置されていないことから、それらの積領域を鏡板隙間領域とする。そして、その投影原像を鏡板隙間部とする。また、鏡板隙間部の隙間は支持面凹部の深さHとなる。
図7で示す、旋回内線側圧縮室の閉込み開始から50度だけ旋回スクロール3が旋回した時(旋回スクロール3が第1の位相角にある時)は、図6で説明した通り、圧縮給油路60が連通している。一方、圧縮給油路60の両端部間には常時圧力差が生じている。このため、図7にあるように、圧縮給油路60が連通すると油集中流出口60aへ向かう油の流れが生じる。この油の流れは、大まかには油集中流出口60aに向かって油が直接的に指向して流れる油流ともいえる。
この主たる油流の投影像である油流線を図7に矢印で示している。これからわかるように、旋回凹領域70a1’には油集中流出口60aへ向かう油の流れである油流線が突き抜けて通っている。すなわち、旋回凹領域70a1’は、旋回スクロール3が第1の位相角にある時には油流線が通る領域内に位置するように設定されている。このため、旋回凹部70a1には油流が流れ込んで多くの油を積極的に捕獲することができるようになる。この油流線が存在する領域を油主流領域と呼称する。そして、油主流領域の投影原像を油主流部と呼称する。尚、図7に示した斜線やクロスハッチングは図面に記載した汎例に記載した領域名称に記載した通りである。
このように、旋回凹領域70a1’を油主流領域内に配置できた理由は、第1の位相角で旋回凹部70a1を油集中流出口60aの近傍に位置するように、旋回スクロール3が圧縮給油路60に油を流すタイミング(時刻)に合わせて旋回凹部70a1を油集中流出口60aの近傍に位置するように旋回凹部70a1の設置位置を決めたことである。油集中流出口60aは、背圧室110の全域に分布している油の大部分が背圧室110から流出する開口部であり、油集中流出口60aの近傍は、背圧室110の油が集中する場所となるからである。更に、この旋回凹領域70a1’は、前記鏡板隙間領域内に配置されている。
これより、油凹部である旋回凹部70a1の開口部は、油が確実に流れている鏡板隙間部に臨んでいることになる。ところで、鏡板隙間部の隙間は、前記した通り、支持面凹部である台板湾状凹部70b1の深さHであるため、旋回鏡板3aの厚さ以下となっている。よって、旋回凹部70a1の開口部が臨んでいる油主流部は、厚さ方向が小さい平面的な油の流れとなっている。このため、全ての運転時において、旋回凹部70a1の開口部近傍には0とは明確に異なる一定値以上の油の流量が存在することになる。よって、全ての運転時において、単位時間当たりに旋回凹部70a1が汲み取る油量は、「0」とは明確に異なった一定値以上となる。
図7によるこれまでの説明は、旋回内線側圧縮室100の閉込み開始から旋回スクロール3が50度旋回した時に限ったものではない。その時刻の前後にある、圧縮給油路60が連通して前記油主流部が生じるとともに、旋回凹領域70a1’の少なくとも一部が隙間油流領域(油主流領域と前記鏡板隙間領域の積領域)内に含まれる時間にも当てはまる。それらの時間を汲み取り時間と定義する。この時間が上述した所定幅を有した第1の位相角に対応するようになる。
また、汲み取り時間における旋回凹領域70a1’(油凹領域)の掃引領域と前記隙間油流領域の積領域を油汲み取り領域と定義する。これより、汲み取り時間内に旋回凹部70a1が油溜部である背圧室110から汲み取る油量(油の体積)が、一旋回当りに油凹部が油溜部から汲み取る油の体積となる。
これより、従来技術に比べて本実施形態では、汲み取り油量速度は、汲み取り時間全域で「0」とは明確に異なった一定値以上となる。よって、一旋回当りの油凹部が油溜部から汲み取る油の体積は、前記従来技術に比べ、「0」とは明確に異なった量となる。この量は、ポケット捕獲率の分子である。よって、前記従来技術のポケット捕獲率が「0」に極めて近くなるような運転条件があるのに対し、本実施形態では、全ての運転条件時において、「0」とは明確に異なった値となる。
以上より、油流が旋回凹部70a1に流れ込むことによって全運転条件でポケット捕獲率が向上するとともに、ポケット捕獲率の最小値側が「0」とは明確に異なる値まで大幅な倍率で向上する。この結果、最小値に対する最大値の比率が、前記従来技術時と比較して格段に低減する。
この結果、吸込給油手段を、ミスト状に油が分散する背圧室110を油溜部とすることで単純な構成となるポケット給油で実現しても、全ての運転条件下で高いポケット捕獲率を実現できる。このため、低コスト化できるとともに、体積の小さな油凹部によって必要な給油量が確保可能となる。大概の場合、油凹部の体積は、ポケット捕獲率が低い運転条件時の必要給油量を確保することから決定される。このように油凹部体積を決定した場合、前記した通り、ポケット捕獲率が高い運転条件時での過剰給油が問題となる。
しかしながら、前記した通り、ポケット捕獲率の最小値に対する最大値の比率が格段に低減するため過剰給油は大幅に低減され、吸込加熱による体積効率低下の危険性を大幅に低減する効果を奏する。
また、油凹部が小型化できるため、設置スペースの制約によって適正な大きさの油凹部を設置できずに吸込室のシール性不足による圧縮機効率の低下の危険性を回避できるという効果を奏する。さらにまた、油凹部の小型化により油凹部を設置する旋回スクロール3の強度低下は無視できるレベルとなるため、油凹部設置部材の信頼性を確保できるという効果も奏する。
ところで、図7に太い閉曲線で囲む油主流領域は、太線矢印で示す油流出口領域60a’へ向かう油流線が存在する領域という定義に則ったものである。しかし、この定義には若干不明確さがある。そこで、この油主流領域とほぼ同じ領域であるが、厳密な定義により、確実に油の主たる流れが生じるとみなしうる、油溜直視領域(その投影原像を油流直視部とする)を以下のように定義し、その結果を図7に示している。
油集中流出口から直視できる場所は、逆に油集中流出口が見える場所であるから、油の供給源が油集中流出口60aと反対側にあれば、その場所は、油集中流出口へ向かう油の流れがあると考えられる。油の供給源は油溜部であるから、油集中流出口から直視できる場所で油集中流出口と反対側に油溜部が配置されている場所には、油集中流出口へ向かう油の流れがあるとみなすことができる。
つまり、油集中出口領域から油溜領域を直視できる油集中出口領域と油溜領域の間の領域(油溜直視領域)には油集中流出口へ向かう油の流れがあるとみなすことができる。
また、この油溜直視領域は、言い換えれば、油集中流出口60aを中心として両側に、固定台板面2uと台板湾状凹部70b1とで形成される段差の最外縁を接線で結び、これらの接線同士で囲まれた領域ということができる。
以上をまとめ、油主流領域に代わって客観的に定義できる油溜直視領域を以下のように定義する。
油集中流出口から直視可能であり、かつ、その視線の先に前記油溜部の投影像である油溜領域を見通しうる領域を油溜直視領域とする。上述したように、直視可能であるということは接線で結べるということである。
図7に示す通り、油溜直視領域では、油主流領域よりもわずかに狭く油主流領域へ含まれるけれども、ほぼ同一といってよい領域を定義できることがわかった。つまり、油凹領域である旋回凹領域70a1’の一部が油溜直視領域に含まれるならば、油主流領域にも含まれることになる。
以上より、今後は、客観的に定義できる油溜直視領域を油主流領域の代わりに用いることとする。これにより、油主流領域を用いる判定よりも厳しい判定を行うことになる。図7から、本実施形態では旋回凹領域70a1’の一部が油溜直視領域に含まれていることがわかる。つまり、厳しいチェックにおいても、旋回凹部70aは油を汲み取ることが可能と判断できることから、本実施形態のポケット捕獲率が高いことが確認できる。これにより、油凹部を小型化でき、前記した内容と同様の効果を奏することがわかる。
ところで、本実施形態では、支持面凹部である台板湾状凹部70b1の深さHを、油集中流出口60aの口径Dよりも小さくなるように設定している。油集中流出口60aへ流れ込む時の最終的な油流の太さは、油集中流出口60aの口径となる。このため、前記隙間油流領域(鏡板隙間領域と油主流領域の積領域)では、油流が平面的に広がらざるをえなくなる。よってこの隙間油流領域全域で油流が生じることになるため、隙間油流領域のどの部分に旋回凹部を配置しても、高いポケット捕獲率を実現できるという効果を奏する。
さらに、この深さHは、旋回鏡板3aの厚さよりも小さいため、旋回凹部70a1の開口部が臨んでいる油主流部は、厚さ方向が旋回鏡板厚さよりも格段に小さい膜状の油の流れとなっている。このため、全ての運転時において、旋回凹部70a1の開口部近傍には非常に強い油の流れが存在することになる。よって、一旋回当りの油凹部が油溜部から汲み取る油の体積は格段に増加し、それにともなって、ポケット捕獲率も格段に向上する。
この結果、油凹部、或いは旋回凹部70a1を大幅に小型化できるため、過剰給油は格段に低減され、吸込加熱による体積効率低下の危険性を格段に低減する効果を奏する。また、設置スペースの制約から必要な大きさの油凹部を設置できないこともほぼ無くなり、吸込室のシール性不足による圧縮機効率はほぼ回避できるという効果を奏する。さらにまた、油凹部設置部材である旋回スクロール3の信頼性を確保できるという効果も奏する。
ところで、本実施形態は、油集中流出口領域60a’が常に前記鏡板隙間領域に含まれている。この結果、油集中流出口領域60a’周囲の油主流領域の厚さ寸法に一旋回毎に周期的な変化を起こさないため、油集中流出口60a周囲の油流線は安定化する。旋回凹部70a1は油集中流出口60a近傍に配置されているため、この旋回凹部70a1によって汲み取る油量が安定化し、吸込給油量のばらつきが一層低減する。よって、一層旋回凹部70a1を小型化できるため、これまでと同様の性能及び信頼性において一層の向上効果を奏する。
更に、本実施形態は、油集中流出口60aが、固定配置されるスラスト支持面である固定台板面2uに設けられている。この結果、旋回運動する旋回スクロール3に設けた場合と異なって、油集中流出口60aは静止しているため、油集中流出口60a周囲の油流線は油に働く慣性力で乱れが生じることが無くなるため安定化する。
旋回凹部70a1は油集中流出口60a近傍に配置されているため、この旋回凹部70a1によって汲み取る油量が安定化し、吸込給油量のばらつきがさらに一層低減する。よって、さらに一層旋回凹部70a1を小型化できるため、これまでと同様の性能及び信頼性においてさらに一層の向上効果を奏する。
更に、本実施形態は、前記スラスト面凹部を設定せず、前記鏡板隙間領域は支持面凹領域である台板湾状凹領域70b1と前記鏡板領域の積領域で構成されるとともに、前記油凹部である旋回凹部70a1が旋回スラスト面である旋回鏡板上面3a1に設けられる。
この結果、鏡板隙間部の厚さ分布は全域で不変となるため、鏡板隙間部全域における油流線が一段と安定化する(但し、鏡板隙間部の外周縁である旋回鏡板縁3a2で鏡板隙間部の範囲は変化する。)。このため、旋回凹部70a1によって汲み取る油量が一段と安定化し、吸込給油量のばらつきが一段と低減する。よって、さらに一段と旋回凹部70a1を小型化できるため、これまでと同様の性能及び信頼性においてさらに一段の向上効果を奏する。
更に、本実施形態は、前記油汲み取り領域(前記油凹領域である旋回凹領域70a1’の前記隙間油流領域内での掃引領域)において、旋回凹領域70a1’の旋回運動による移動方向と油流線の方向がほぼ対向している。この結果、旋回凹部70a1の開口部近傍における旋回凹部70a1に対する油の相対流速は、油の流速に旋回凹部の旋回運動速度が上乗せされる。よって、一旋回当りで旋回凹部70a1が汲み取る油量は増大し、ポケット捕獲率はさらに一段と向上する。よって、さらに一段と旋回凹部70a1を小型化できるため、これまでと同様の性能及び信頼性において一層の向上効果を奏する。
更に、本実施形態は、スラスト支持部材を前記固定スクロール2としている。この方法と異なる唯一の方法(今後、旋回背面支持方式と呼称する)が、スラスト支持部材を旋回スクロール3の背面の背面部材(本実施形態ではフレーム4)とするものである。次に、その場合の問題点を示しながら、スラスト支持部材を前記固定スクロール2とする利点を説明する。
旋回背面支持方式は、シール領域を旋回鏡板背面3a3上に形成するため、旋回スクロール3は固定スクロール2に付勢できない。この結果、ラップ歯先の隙間が拡大して、内部漏れが発生し、性能低下が起こる。この性能低下は本実施形態では生じない。
また、圧縮給油路60は、旋回鏡板3a内に設けるか、フレーム4を通って固定スクロール2に繋がる形態としなければならない。
後者の場合、圧縮給油路60の形状が非常に複雑になるため、加工コストが極端に増大するという問題がある。さらに固定スクロール2とフレーム4間の接続部におけるシール性の問題があり、信頼性上の問題も発生する。この加工コスト増大と信頼性の問題はともに本実施形態では生じない。
一方、前者の場合、旋回鏡板3aの厚みが小さいため、圧縮給油路60の加工が困難となり、加工コストの増大という問題がある。この加工コスト増大の問題は本実施形態では生じない。
さらに、旋回鏡板3aの厚みが小さいために圧縮給油路60の途中に背圧弁26を設けるスペースが確保できず、背圧弁26の設置が困難となる問題が発生する。この問題は本実施形態では生じない。
また、図3のような通常の旋回ラップ2bの形態では、後述する理由により、圧縮給油路60は、旋回内線側に形成される圧縮室(旋回内線側圧縮室)か旋回外線側に形成される圧縮室(旋回外線側圧縮室)のいずれか一方のみに連通させる形態とせざるを得ない。このため、給油しない圧縮室側のシール性低下という問題があった。固定スクロール2に設ける本実施形態では、圧縮流入口60bを固定スクロール2の歯底中央付近に設ける方法で解決している。
次に、旋回外線側圧縮室か旋回内線側圧縮室のいずれか一つに連通する位置に圧縮流入口60bを設けざるを得ない理由を図3によって説明する。旋回スクロール3において、前記した2系統の圧縮室が形成される領域は、旋回ラップ3bが両側に立設するクロスハッチングした領域である。
しかしながら、この領域で形成される、旋回外線側圧縮室と旋回内線側圧縮室の圧縮開始からの旋回角度が大きく異なる。つまり、クロスハッチング領域に旋回外線側圧縮室全域が入る場合、旋回スクロール3が360度旋回運動した後の圧縮室であるのに対し、旋回内線側圧縮室は、閉込み開始直後の圧縮室となる。よって、両圧縮室に無理やり連通させようとした場合、歯底中央に圧縮連通口60bを設ける手段しかない。
そして、その場合には、連通する2系統の圧縮室の圧力は極端に異なることになる。このため、旋回外線側圧縮室の圧力の方が油溜部の圧力よりも高くなる場合が発生する。その場合には、旋回外線側圧縮室へは給油されず、旋回外線側圧縮室から作動流体が油溜部へ逆流し、性能が大幅に低下するという問題が発生する。これより、図3のような通常の旋回ラップ2bを設けた旋回スクロール3の場合には、旋回外線側圧縮室かもしくは旋回内線側圧縮室のいずれか一方だけに連通させる形態とせざるを得ない。
本実施形態では、圧縮給油路60に背圧弁26を設けていたが、それに限らず、背圧弁を設置しなくてもよい。この場合には、圧縮流入口60bが開口する圧縮室100の圧縮比で背圧が決まる。また、圧縮給油路60は、吸込室90に連通しないとしてきたが、わずかに吸込室90と連通する時間があっても問題ない。なぜならば、吸込室90に流入する油量はごくわずかであるため、それに伴う吸込加熱は無視できるためである。よって、圧縮給油路60は、吸込室90とわずかに連通する仕様としても良い。