JP6003376B2 - 硫化物固体電解質ガラス、リチウム固体電池および硫化物固体電解質ガラスの製造方法 - Google Patents

硫化物固体電解質ガラス、リチウム固体電池および硫化物固体電解質ガラスの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスに関する。
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。現在、種々の電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウム電池が注目を浴びている。
現在市販されているリチウム電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質層に変えて、電池を全固体化したリチウム電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。さらに、このような固体電解質層に用いられる固体電解質材料として、硫化物固体電解質材料が知られている。
硫化物固体電解質材料は、Liイオン伝導性が高いため、電池の高出力化を図る上で有用であり、従来から種々の研究がなされている。例えば非特許文献1においては、xLiI−(100−x)Liで表される非晶質体が開示されている。また、特許文献1においては、オルト組成を有するイオン伝導体とLiIとを有し、ガラス転移点を有するガラスである硫化物固体電解質材料が開示されている。また、特許文献2においては、Liから構成され、ガラス転移点を有する硫化物固体電解質ガラスが開示されている。
特開2012−048973号公報 国際公開第2012/017544号
池田真理子、他3名、「メカニカルミリング法によるリチウムイオン伝導性LiI−Li4P2S6系非晶質体の合成」、第31回固体イオニクス討論会講演要旨集、p.136−137、2005
例えば電池の高出力化のため、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質材料が求められている。本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスを提供することを主目的とする。
上記課題を解決するために、本発明においては、Liから構成されるイオン伝導体と、LiIとを含有する硫化物固体電解質ガラスであって、ガラス転移点を有することを特徴とする硫化物固体電解質ガラスを提供する。
本発明によれば、LiI(LiI成分)を含有し、Liから構成されるイオン伝導体を含有し、さらにガラス転移点を有する程度に非晶質性が高いため、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスとすることができる。
上記発明においては、上記LiIの割合が、45mol%以下であることが好ましい。Liイオン伝導性がより高くなるからである。
また、本発明においては、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを有するリチウム固体電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質ガラスを含有することを特徴とするリチウム固体電池を提供する。
本発明によれば、上述した硫化物固体電解質ガラスを用いることで、高出力なリチウム固体電池とすることができる。
また、本発明においては、Liから構成されるイオン伝導体と、LiIとを含有する硫化物固体電解質ガラスの製造方法であって、LiS、P−P結合を有する材料、Sを有する材料、およびLiIを含有する原料組成物に、ガラス化処理を行うことにより、ガラス転移点を有する上記硫化物固体電解質ガラスを合成する合成工程を有することを特徴とする硫化物固体電解質ガラスの製造方法を提供する。
本発明によれば、LiIとP−P結合を有する材料とを含有する原料組成物を用い、ガラス転移点が生じるようにガラス化処理を行うことにより、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスを得ることができる。
上記発明においては、上記ガラス化処理が、メカニカルミリングであることが好ましい。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
本発明においては、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスとすることができるという効果を奏する。
本発明のリチウム固体電池の一例を示す概略断面図である。 本発明の硫化物固体電解質ガラスの製造方法の一例を示すフローチャートである。 実施例1および比較例2で得られた硫化物固体電解質材料のX線回折測定の結果である。 実施例1で得られた硫化物固体電解質材料のラマン分光測定の結果である。 実施例1および比較例2で得られた硫化物固体電解質材料の示差熱分析の結果である。 実施例1および比較例1、2で得られた硫化物固体電解質材料のLiイオン伝導度測定の結果である。
以下、本発明の硫化物固体電解質ガラス、リチウム固体電池、および硫化物固体電解質ガラスの製造方法について、詳細に説明する。
A.硫化物固体電解質ガラス
まず、本発明の硫化物固体電解質ガラスについて説明する。本発明の硫化物固体電解質ガラスは、Liから構成されるイオン伝導体と、LiIとを含有する硫化物固体電解質ガラスであって、ガラス転移点を有することを特徴とするものである。
本発明によれば、LiI(LiI成分)を含有し、Liから構成されるイオン伝導体を含有し、さらにガラス転移点を有する程度に非晶質性が高いため、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスとすることができる。後述する実施例では、実際に10−3S/cm以上という極めて高いLiイオン伝導度を有する硫化物固体電解質ガラスを得ることができた。また、本発明の硫化物固体電解質ガラスはP 4−構造を含有する。P 4−構造は、水(水分を含む)と接触しても、その構造が変化しないため、水に対する安定性が高いという利点がある。
上記の非特許文献1では、xLiI・(100−x)Liで表される非晶質体が開示されている。しかしながら、非晶質体とは、通常、X線回折測定等において結晶としての周期性が観測されないものを意味し、非晶質体が有する非晶質性には幅がある。そのため、非晶質体の中でも、非晶質性が高いものや低いものが存在する。非特許文献1では、80時間の条件でメカニカルミリングを行っているが、その条件では、非晶質性が低い(僅かな結晶性を示す)非晶質体が得られる場合がある。また、非特許文献1では、出発原料として、PのようなP−P結合を有しない材料を用いているが、このような材料を用いるとP−P結合を有するP 4−構造が完全に形成されず、非晶質性が低い(僅かな結晶性を示す)非晶質体が得られる場合がある。
これに対して、本発明においては、後述するように、例えばP−P結合を有する材料を用い、合成条件を調整することにより、ガラス転移点を有する程度に非晶質性が高い硫化物固体電解質ガラスを得ることができる。その結果、従来の非晶質体よりもLiイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスとすることができる。ここで、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、非晶質性が高く、厳密な意味のガラスである。厳密な意味のガラスとは、非晶質体であって、かつ、ガラス転移点が観測されるものをいう。なお、非特許文献1では、非晶質体という文言は使用されているが、ガラスという文言は使用されていない。また、ガラスと、ガラス以外の非晶質とを比較した場合、どちらが、よりLiイオン伝導性が高いかを判断する指標は一般的に存在しない。
本発明の硫化物固体電解質ガラスは、Liから構成されるイオン伝導体と、LiIとを含有する。イオン伝導体およびLiIは、それぞれ硫化物固体電解質ガラスの成分であり、イオン伝導体は、通常、LiI以外の成分である。イオン伝導体は、Li、PおよびSのみから構成されていても良く、さらに他の元素を有していても良い。
本発明におけるイオン伝導体は、「Liから構成される」ことを一つの特徴とする。「Liから構成される」とは、P 4−構造を主成分とすることをいう。さらに、「P 4−構造を主成分とする」とは、イオン伝導体の全アニオン構造におけるP 4−構造の割合が50mol%以上であることをいう。P 4−構造の割合は、より高いことが好ましく、55mol%以上であることが好ましく、60mol%以上であることがより好ましく、80mol%以上であることがさらに好ましく、95mol%以上であることが特に好ましい。
4−構造の割合は、例えばラマン分光法により確認することができる。ラマン分光スペクトルにおいて、P 4−構造のピークは、通常、370cm−1〜390cm−1の範囲内に現れる。そのため、ラマン分光スペクトルにおいて、例えばP 4−構造のピークのみが確認され、PS 3−構造等のピークが確認されない場合は、実質的にLiのみからなるイオン伝導体を有すると判断することができる。
さらに、P 4−構造の割合は、例えば13P MAS NMRにより確認することもできる。NMRスペクトルにおいて、P 4−構造のピークは、通常、δ=100ppm〜110ppmの範囲内に現れる。P 4−構造のピーク面積と、他の構造のピーク面積とを比較することによって、P 4−構造の割合を決定することができる。
また、本発明の硫化物固体電解質ガラスはLiIを含有する。本発明の硫化物固体電解質ガラスに対してXRD測定を行った場合、LiIのピークが観察されないことが好ましい。なお、CuKα線を使用した場合、LiIのピークは、通常、2θ=26°、30°、43°、51°に表れる。また、硫化物固体電解質ガラスに含まれるLiIの割合は、例えば45mol%以下であり、5mol%〜30mol%の範囲内であることが好ましい。Liイオン伝導性がより高くなるからである。
また、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、ガラス転移点を有することを一つの特徴とする。ガラス転移点の有無は、示差熱分析(DTA)により確認することができる。本発明の硫化物固体電解質ガラスのガラス転移温度は、ガラスの組成によっても異なるものであるが、例えば180℃〜400℃の範囲内である。
また、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、XRD測定により、ハローパターンが観測されることが好ましい。ハローパターンとは、明瞭な回折ピークのない、非晶質体に特有のパターンをいう。また、例えば、本発明の硫化物固体電解質ガラスをメカニカルミリング法で作製する場合、付与するエネルギーが多すぎると、XRD測定において、結晶性を示すピークが確認される。具体的には、後述する図3の比較例2に示すように、2θ=20.8°、25.6°、27.8°、29.6°の位置に、典型的なピークが観察される。本発明においては、これらのピークが観察されないことが好ましい。なお、これらのピークの位置は、例えば±0.5°の範囲を含むものである。また、付与するエネルギーが多すぎる場合に生じる結晶相は、LiIを含む混相であると考えられる。
本発明の硫化物固体電解質ガラスの形状としては、例えば粒子状を挙げることができる。粒子状の硫化物固体電解質ガラスの平均粒径は、0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。また、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、Liイオン伝導性が高いことが好ましく、常温(25℃)におけるLiイオン伝導度は、1×10−3S/cm以上であることが好ましい。
本発明の硫化物固体電解質ガラスは、Liイオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、リチウムイオン電池に用いられるものであることが好ましい。電池の高出力化に大きく寄与することができるからである。特に、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、リチウム固体電池に用いられるものであることが好ましい。
B.リチウム固体電池
次に、本発明のリチウム固体電池について説明する。本発明のリチウム固体電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを有するリチウム固体電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質ガラスを含有することを特徴とするものである。
本発明によれば、上述した硫化物固体電解質ガラスを用いることで、高出力なリチウム固体電池とすることができる。
図1は、本発明のリチウム固体電池の一例を示す概略断面図である。図1に示されるリチウム固体電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された固体電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有するものである。本発明においては、正極活物質層1、負極活物質層2および固体電解質層3の少なくとも一つが、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した硫化物固体電解質ガラスを含有することを大きな特徴とする。
以下、本発明のリチウム固体電池について、構成ごとに説明する。
1.固体電解質層
まず、本発明における固体電解質層について説明する。本発明における固体電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層であり、固体電解質材料から構成される層である。固体電解質層に含まれる固体電解質材料は、Liイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。
本発明においては、固体電解質層に含まれる固体電解質材料が、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した硫化物固体電解質ガラスであることが好ましい。高出力なリチウム固体電池とすることができるからである。固体電解質層における固体電解質材料の含有量は、所望の絶縁性が得られる割合であれば特に限定されるものではないが、例えば、10体積%〜100体積%の範囲内、中でも、50体積%〜100体積%の範囲内であることが好ましい。特に、本発明においては、固体電解質層が上記硫化物固体電解質ガラスのみから構成されていることが好ましい。より高出力なリチウム固体電池とすることができるからである。
また、固体電解質層は、結着材を含有していても良い。結着材を含有することにより、可撓性を有する固体電解質層を得ることができるからである。結着材としては、例えば、PTFE、PVDF等のフッ素含有結着材を挙げることができる。
固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内、中でも、0.1μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。また、固体電解質層の形成方法としては、例えば、固体電解質層を構成する材料を圧縮成形する方法等を挙げることができる。
2.正極活物質層
次に、本発明における正極活物質層について説明する。本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つをさらに含有していても良い。
本発明においては、正極活物質層に含まれる固体電解質材料が、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した硫化物固体電解質ガラスであることが好ましい。高出力なリチウム固体電池とすることができるからである。正極活物質層における固体電解質材料の含有量は、例えば、0.1体積%〜80体積%の範囲内、中でも、1体積%〜60体積%の範囲内、特に、10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。
正極活物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiMn、LiVO、LiCrO、LiFePO、LiCoPO、LiNiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等を挙げることができる。導電化材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。結着材としては、例えば、PTFE、PVDF等のフッ素含有結着材を挙げることができる。また、正極活物質層における正極活物質の含有量は、例えば10体積%〜99体積%の範囲内であることが好ましく、20体積%〜99体積%の範囲内であることがより好ましい。
正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。また、正極活物質層の形成方法としては、例えば、正極活物質層を構成する材料を圧縮成形する方法等を挙げることができる。
3.負極活物質層
次に、本発明における負極活物質層について説明する。本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つをさらに含有していても良い。
本発明においては、負極活物質層に含まれる固体電解質材料が、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した硫化物固体電解質ガラスであることが好ましい。高出力なリチウム固体電池とすることができるからである。負極活物質層における固体電解質材料の含有量は、例えば、0.1体積%〜80体積%の範囲内、中でも、1体積%〜60体積%の範囲内、特に、10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。
負極活物質としては、例えば、金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。なお、負極活物質層に用いられる導電化材および結着材については、上述した正極活物質層における場合と同様である。また、負極活物質層における負極活物質の含有量は、例えば10体積%〜99体積%の範囲内であることが好ましく、20体積%〜99体積%の範囲内であることがより好ましい。
負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。また、負極活物質層の形成方法としては、例えば、負極活物質層を構成する材料を圧縮成形する方法等を挙げることができる。
4.その他の構成
本発明のリチウム固体電池は、上述した正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができ、中でも、SUSが好ましい。一方、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができ、中でも、SUSが好ましい。また、正極集電体および負極集電体の厚さや形状等については、リチウム固体電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。また、本発明に用いられる電池ケースには、一般的なリチウム固体電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースとしては、例えば、SUS製電池ケース等を挙げることができる。また、本発明のリチウム固体電池は、発電要素を絶縁リングの内部に形成しても良い。
5.リチウム固体電池
本発明のリチウム固体電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば、車載用電池として有用だからである。本発明のリチウム固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。
また、本発明のリチウム固体電池の製造方法は、上述したリチウム固体電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的なリチウム固体電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。リチウム固体電池の製造方法の一例としては、正極活物質層を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、および負極活物質層を構成する材料を順次プレスすることにより、発電要素を作製し、この発電要素を電池ケースの内部に収納し、電池ケースをかしめる方法等を挙げることができる。また、本発明においては、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した硫化物固体電解質ガラスを含有することを特徴とする、正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層をそれぞれ提供することもできる。
C.硫化物固体電解質ガラスの製造方法
次に、本発明の硫化物固体電解質ガラスの製造方法について説明する。本発明の硫化物固体電解質ガラスの製造方法は、Liから構成されるイオン伝導体と、LiIとを含有する硫化物固体電解質ガラスの製造方法であって、LiS、P−P結合を有する材料、Sを有する材料、およびLiIを含有する原料組成物に、ガラス化処理を行うことにより、ガラス転移点を有する上記硫化物固体電解質ガラスを合成する合成工程を有することを特徴とするものである。
本発明によれば、LiIとP−P結合を有する材料とを含有する原料組成物を用い、ガラス転移点が生じるようにガラス化処理を行うことにより、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスを得ることができる。また、LiのP 4−構造は、SP−PSというP−P結合を有する構造である。そのため、予めP−P結合を有する材料を出発原料として用いることで、P 4−構造が形成されやすくなり、非晶質性の高い硫化物固体電解質ガラスを得ることができる。
図2は、本発明の硫化物固体電解質ガラスの製造方法の一例を示すフローチャートである。まず、LiS、P(単体リン)およびS(単体硫黄)を、LiS:P:S=25:25:50のモル比で混合し、その後LiIを添加し、原料組成物を調製する。次に、原料組成物にメカニカルミリングを行い、硫化物固体電解質ガラスを得る。
本発明における合成工程は、LiS、P−P結合を有する材料、Sを有する材料、およびLiIを含有する原料組成物に、ガラス化処理を行うことにより、ガラス転移点を有する上記硫化物固体電解質ガラスを合成する工程である。
1.原料組成物
本発明における原料組成物は、LiS、P−P結合を有する材料、Sを有する材料、およびLiIを含有するものである。また、原料組成物は、LiS、P−P結合を有する材料、Sを有する材料、およびLiIのみを含有するものであっても良く、さらに他の材料を含有するものであっても良い。原料組成物に含まれるLiSは、不純物が少ないことが好ましい。副反応を抑制することができるからである。LiSの合成方法としては、例えば特開平7−330312号公報に記載された方法等を挙げることができる。さらに、LiSは、WO2005/040039に記載された方法等を用いて精製されていることが好ましい。
P−P結合を有する材料としては、所望の硫化物固体電解質ガラスを得ることができるものであれば特に限定されるものではない。P−P結合を有する材料の一例としては、単体リン(P)を挙げることができる。単体リンとしては、例えば、白リン、黒リン(β金属リン)、紫リン(α金属リン)、赤リン、黄リン等を挙げることができ、中でも赤リンが好ましい。また、P−P結合を有する材料の他の例としては、P、PS、P、P、P、P等を挙げることができる。
また、Sを有する材料としては、所望の硫化物固体電解質ガラスを得ることができるものであれば特に限定されるものではない。Sを有する材料の一例としては、単体硫黄(S)を挙げることができる。単体硫黄としては、例えば、S(斜方晶および単斜晶が混在)、α硫黄(斜方硫黄)、β硫黄(単斜硫黄)、γ硫黄(単斜硫黄)、ゴム状硫黄(S)等を挙げることができ、Sであることが好ましい。
また、本発明においては、LiS、P−P結合を有する材料、およびSを有する材料の割合を、Liから構成されるイオン伝導体が得られるように調整する。「Liから構成されるイオン伝導体」については、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した内容と同様である。例えば、原料組成物が、LiS、P(単体リン)およびS(単体硫黄)を含有する場合、25mol部のLiSに対して、Pは16.7mol部〜50mol部の範囲内であることが好ましく、20mol部〜30mol部の範囲内であることがより好ましく、22mol部〜28mol部の範囲内であることがさらに好ましい。同様に、25mol部のLiSに対して、Sは33.3mol部〜100mol部の範囲内であることが好ましく、40mol部〜70mol部の範囲内であることがより好ましく、45mol部〜55mol部の範囲内であることがさらに好ましい。また、LiIの割合については、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した内容と同様である。
2.ガラス化処理
次に、本発明におけるガラス化処理について説明する。本発明においては、上述した原料組成物にガラス化処理を行うことにより、ガラス転移点を有する硫化物固体電解質ガラスを合成する。
本発明におけるガラス化処理は、所望の硫化物固体電解質ガラスを得ることができる処理であれば特に限定されるものではないが、例えば、メカニカルミリングおよび溶融急冷法を挙げることができ、中でもメカニカルミリングが好ましい。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
メカニカルミリングは、原料組成物を、機械的エネルギーを付与しながら混合する方法であれば特に限定されるものではないが、例えばボールミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でもボールミルが好ましく、特に遊星型ボールミルが好ましい。所望の硫化物固体電解質ガラスを効率良く得ることができるからである。
また、メカニカルミリングの各種条件は、ガラス転移点を有する硫化物固体電解質ガラスを得ることができるように設定する。具体的には、回転数や処理時間を調整することが好ましい。例えば、遊星型ボールミルを用いる場合、原料組成物および粉砕用ボールを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。一般的に、回転数が大きいほど、硫化物固体電解質ガラスの生成速度は速くなり、処理時間が長いほど、原料組成物から硫化物固体電解質ガラスへの転化率は高くなる。遊星型ボールミルを行う際の台盤回転数としては、例えば100rpm〜800rpmの範囲内、中でも200rpm〜600rpmの範囲内であることが好ましい。また、遊星型ボールミルを行う際の処理時間は、例えば1時間〜80時間の範囲内、中でも1時間〜60時間の範囲内であることが好ましい。
また、本発明におけるメカニカルミリングは、乾式メカニカルミリングであっても良く、湿式メカニカルミリングであっても良いが、後者が好ましい。容器等の壁面に原料組成物が固着することを防止でき、より非晶質性の高い硫化物固体電解質ガラスを得ることができるからである。湿式メカニカルミリングに用いられる液体としては、上記原料組成物との反応で硫化水素を発生しない性質を有するものであれば特に限定されるものではない。一般的に、硫化水素は、液体の分子から解離したプロトンが、原料組成物や硫化物固体電解質ガラスと反応することによって発生する。そのため、上記液体は、硫化水素が発生しない程度の非プロトン性を有していることが好ましい。また、非プロトン性液体は、通常、極性の非プロトン性液体と、無極性の非プロトン性液体とに大別することができる。
極性の非プロトン性液体としては、特に限定されるものではないが、例えばアセトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類等を挙げることができる。
無極性の非プロトン性液体の一例としては、常温(25℃)で液体のアルカンを挙げることができる。上記アルカンは、鎖状アルカンであっても良く、環状アルカンであっても良い。上記鎖状アルカンの炭素数は、例えば5以上であることが好ましい。一方、上記鎖状アルカンの炭素数の上限は、常温で液体であれば特に限定されるものではない。上記鎖状アルカンの具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、パラフィン等を挙げることができる。なお、上記鎖状アルカンは、分岐を有するものであっても良い。一方、上記環状アルカンの具体例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロパラフィン等を挙げることができる。
また、無極性の非プロトン性液体の別の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等の鎖状エーテル類;テトロヒドロフラン等の環状エーテル類;クロロホルム、塩化メチル、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル類;酢酸エチル等のエステル類;フッ化ベンゼン、フッ化ヘプタン、2,3−ジハイドロパーフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン等のフッ素系化合物を挙げることができる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)、P−P結合を有する単体リン(P、赤リン)、単体硫黄(S、S)およびヨウ化リチウム(LiI)を用いた。これらの粉末をAr雰囲気下(露点−70℃)のグローブボックス内で、30LiI−70Liのモル比となるように、LiSを0.4047g、Pを0.2727g、Sを0.5648g、LiIを0.7577g秤量した。次に、脱水ヘプタン(水分量30ppm以下)を4g秤量した。これらの材料を、遊星型ボールミルの容器(45cc、ZrO製)に投入し、さらにZrOボール(φ5mm、53g)を投入し、容器を完全に密閉した(Ar雰囲気)。この容器を遊星型ボールミル機(フリッチュ製P7)に取り付け、台盤回転数500rpmで40時間メカニカルミリングを行った。その後、得られた試料を150℃で真空乾燥させ、硫化物固体電解質材料(30LiI−70Liガラス)を得た。
[比較例1]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)、P−P結合を有する単体リン(P、赤リン)および単体硫黄(S、S)を用いた。これらの粉末をAr雰囲気下(露点−70℃)のグローブボックス内で、Liのモル比となるように、LiSを0.6516g、Pを0.43907g、Sを0.90933g秤量した。次に、脱水ヘプタン(水分量30ppm以下)を4g秤量した。これらの材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして硫化物固体電解質材料(Liガラス)を得た。
[比較例2]
ボールミルの処理時間を80時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして硫化物固体電解質材料(30LiI−70Li非晶質体)を得た。
[評価]
(X線回折測定)
実施例1および比較例2で得られた硫化物固体電解質材料に対して、CuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。XRD測定には、リガク製RINT UltimaIIIを使用した。その結果を図3に示す。図3に示されるように、実施例1では、結晶性を示すピークは観察されず、ハローパターンが観察された。これに対して、比較例2では、2θ=20.8°、25.6°、27.8°、29.6°の位置に、典型的なピークが観察され、ある程度の結晶性を有する非晶質体(結晶質ライクな非晶質体)であることが確認された。
(ラマン分光測定)
実施例1で得られた硫化物固体電解質材料に対して、ラマン分光測定を行った。ラマン分光測定には、東京インスツルメンツ製Nanofinder SOLAR T IIを使用した。その結果を図4に示す。図4に示されるように、実施例1で得られた硫化物固体電解質ガラスは、370cm−1〜390cm−1の範囲にP 4−構造のピークを有していた。また、PS 3−構造等の他の構造のピークは観測されなかった。そのため、実施例1で得られた硫化物固体電解質材料は、実質的にLiのみからなるイオン伝導体を有することが確認された。
(示差熱分析)
実施例1および比較例2で得られた硫化物固体電解質材料に対して、示差熱分析(DTA)を行った。DTAには、メトラー製TGA/SDTA851eを使用した。その結果を図5に示す。図5(a)に示されるように、実施例1では、ガラス転移が確認された。実施例1で得られた硫化物固体電解質材料は、図3に示すように非晶質体であり、かつ、図5(a)に示すようにガラス転移点を有することから、厳密な意味でのガラスであることが確認された。一方、比較例2で得られた硫化物固体電解質材料に対して、同様に示差熱分析を行ったところ、図5(b)に示されるように、ガラス転移点は確認されなかった。このことから、比較例2で得られた硫化物固体電解質材料は、厳密な意味でのガラスではないことが確認された。
(Liイオン伝導度測定)
実施例1および比較例1、2で得られた硫化物固体電解質材料に対して、交流インピーダンス法によるLiイオン伝導度(常温)の測定を行った。Liイオン伝導度の測定は以下のように行った。支持筒(マコール製)に添加した試料100mgを、SKD製の電極で挟んだ。その後、4.3ton/cmの圧力で試料を圧粉し、6Ncmで試料を拘束しながらインピーダンス測定を行った。測定にはソーラトロン1260を用い、測定条件は、印加電圧5mV、測定周波数域0.01MHz〜1MHzとした。その結果を図6に示す。図6に示されるように、実施例1は、比較例1、2よりもLiイオン伝導度が高かった。なお、Liイオン伝導度は、実施例1では、1.13×10−3S/cmであり、比較例1では、2.1×10−4S/cmであり、比較例2では、4.2×10−4S/cmであった。すなわち、実施例1のLiイオン伝導度は、比較例1のLiイオン伝導度より5倍以上高く、比較例2のLiイオン伝導度より2倍以上高かった。特に実施例1および比較例2を比較すると、同じ組成でありながら、Liイオン伝導度が2倍以上異なるという顕著な差が生じた。このように、Liを含有する硫化物固体電解質ガラスでは、非晶質性が高い状態(厳密な意味のガラス状態)でLiIを含むことが、Liイオン伝導度向上に大きく寄与することが確認された。
1 … 正極活物質層
2 … 負極活物質層
3 … 固体電解質層
4 … 正極集電体
5 … 負極集電体
6 … 電池ケース
10 … リチウム固体電池

Claims (5)

  1. Liから構成されるイオン伝導体と、LiIとを含有する硫化物固体電解質ガラスであって、ガラス転移点を有することを特徴とする硫化物固体電解質ガラス。
  2. 前記LiIの割合が、45mol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の硫化物固体電解質ガラス。
  3. 正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを有するリチウム固体電池であって、
    前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記固体電解質層の少なくとも一つが、請求項1または請求項2に記載の硫化物固体電解質ガラスを含有することを特徴とするリチウム固体電池。
  4. Liから構成されるイオン伝導体と、LiIとを含有する硫化物固体電解質ガラスの製造方法であって、
    LiS、P−P結合を有する材料、Sを有する材料、およびLiIを含有する原料組成物に、ガラス化処理を行うことにより、ガラス転移点を有する前記硫化物固体電解質ガラスを合成する合成工程を有することを特徴とする硫化物固体電解質ガラスの製造方法。
  5. 前記ガラス化処理が、メカニカルミリングであることを特徴とする請求項4に記載の硫化物固体電解質ガラスの製造方法。
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