ところが、特許文献1の錠装置では、クレセントを手動で回転させるときにフリクションカップリングが抵抗となるため、その分だけクレセントを回転させる際の負荷が大きくなる。特に身体障害者や高齢者などにあっては、その負荷が負担になってクレセントを手動で回転させることが困難になる。
また、例えば複数の個室を有する介護施設においては、通常は各室の住人(被介護人)や介護人などがベランダへの出入り口の引違い窓の施錠および開錠を行うが、火災などの緊急事態が発生した場合に、その火災に気付いた住人や介護人などが、全ての住人の迅速な避難のために全ての室の引違い窓を一斉に開錠したい場合がある。
本発明は、かかる不都合を解決することを目的とするものであり、クレセントを自動回転させることができるうえ、クレセントを手動で回転させる際の負担を軽減できる錠装置を提供することにある。加えて複数の室の引違い窓を一斉に開錠できる錠装置を提供することにある。
本発明は、前記不都合を解決するものである。すなわち本発明は、建物の開口部に配置されている引違い戸1を施錠する錠装置であって、引違い戸1の一方の戸3に本体12を取り付けており、その本体12には、引違い戸1の他方の戸4に取り付けている受け金具に対して着脱自在に係止されるクレセント13と、そのクレセント13を回転自在に支持しているとともに本体12に回転自在に支持されている回転体14と、クレセント13が前記受け金具から外れる開錠方向に回転体14を付勢する付勢部15と、回転体14を回転不能にロックする回転体ロック部16と、その回転体ロック部16によるロックを解除する解除部17とを有しており、回転体14は、前記開錠方向へ回転する際にクレセント13を同行回転させるようになっており、クレセント13を前記受け金具に係止している状態で、所定の操作手段によって解除部17を作動させたときには、回転体ロック部16による前記ロックが解除されて回転体14が付勢部15の付勢力によって前記開錠方向へ回転し、その回転体14にクレセント13が前記開錠方向へ同行回転することを特徴とする。
ここでの引違い戸1には、引違い窓、片引き窓および開き窓なども含まれる。操作手段には、無線式のリモコンや、本体12などに配置した操作スイッチなどが含まれる。
加えて、前記クレセント13には、回転体14に形成している係留部14cに係留可能なロッド19aを配置しており、そのロッド19aを係留部14cに係留しているときにはクレセント13と回転体14とが一体化して回転するようになっていて、その係留状態でクレセント13を前記受け金具に係止する施錠方向へ回転させると、回転体14が、クレセント13に同行回転して回転体ロック部16によってロックされるようになっており、前記係留部14cに係留しているロッド19aを当該係留部14cから外したときには、クレセント13を手動で回転させることが可能になっているものとすることができる。ここでの係留部14cには、回転体14に形成している凹部(溝など)や突起などが含まれる。回転体14にはギヤなどが含まれる。
また、ロッド19aを回転体14の係留部14cに係留している状態で当該ロッド19aを解除可能にロックする規制手段23を有しているものとすることができる。
操作手段は、赤外線信号または電波信号を選択して送信可能な無線式のリモコン35であり、本体12には、前記赤外線信号を受信する受光部36と、前記電波信号を受信するアンテナ部37とを有しており、本体12は、前記赤外線信号を受光部36で受信し、または前記電波信号をアンテナ部37で受信したときに解除部17を作動させるようになっている。
加えて、建物の外面に非常スイッチ47を配置し、非常スイッチ47での操作に応じて電波信号を送信する非常制御部49を設けて、本体12が、非常制御部49からの電波信号をアンテナ部37で受信したしたときに解除部17を作動させるようにすることができる。
また建物に、火災や地震などの非常事態を感知したときに電波信号を送信する非常感知器56を配置し、本体12は、非常感知器56からの電波信号をアンテナ部37で受信したときに解除部17を作動させるようにすることができる。ここでの非常感知器56には、煙感知器、熱感知器、ガス感知器または地震感知器などが該当する。ここでは、非常感知器56自体が電波信号を送信するものや、非常感知器56を制御盤に有線または無線で接続し、その制御盤から電波信号を送信するものなどが含まれる。
また、建物には複数の引違い戸1を配置し、各引違い戸1に本体12をそれぞれ取り付け、本体12が、アンテナ部37で受信した電波信号を増幅してアンテナ部37から送信するものとすることができる。
本発明の錠装置では、操作手段によって解除部17を作動させたときには、回転体ロック部16によるロックが解除され、回転体14が付勢部15の付勢力によって開錠方向へ回転し、その開錠方向へクレセント13が同行回転するので、住人などは、操作手段を操作するだけの簡単な手間でクレセント13を自動的に回転させて開錠することができて、引違い戸1の開錠の際の手間を軽減することができる。また、回転体ロック部16によるロックを解除部17によって解除するだけでクレセント13が付勢部15の付勢力で回転するので、クレセント13を開錠方向へ回転させるためのモータなどが必要ではなく、その分だけ錠装置の省電力化を図ることができる。
そのうえで、クレセント13が回転体14に対して回転自在に支持されていることで、回転体14をロックさせた状態でクレセント13のみを手動で回転させて、クレセント13の係止部13cを受け金具から外し、または受け金具に係止させることができる。すなわち、前記手動での操作の際に回転体14や付勢部15の付勢力などが負荷になることがないため、住人などがクレセント13を手動で操作したい場合での住人などの負担を軽減することができる。
クレセント13のロッド19aを回転体14の係留部14cに係留している状態で、クレセント13を手動で施錠方向へ回転させると、回転体14がクレセント13に同行回転して回転体ロック部16によってロックされるようにすると、回転体14を施錠方向へ回転させるためのモータなどが必要でなく、それによっても錠装置の省電力化を図ることができる。つまり、本発明の錠装置は、解除部17を作動させるだけのモータ17aなどを備えるだけでよく、その分だけモータなどによる消費電力を低減することができる。また、ロッド19aを係留部14cに係留している状態では回転体14が回転体ロック部16によってロックされ、それに伴ってクレセント13が回転不能になるので、例えば、侵入者が外部から引き戸の一部を破壊したのち、その破壊部分から手を室内に差し込んでもクレセント13を回転させて開錠することができず、これによって防犯性が高まる。なお、住人などが前記係留部14cに係留しているロッド19aを当該係留部14cから外したときには、操作手段を操作しなくてもクレセント13を回転させて開錠・施錠することができる。
加えて、ロッド19aを係留部14cに係留している状態でロックする規制手段23を有していると、前記侵入者によるクレセント13の回転をより確実に防止することができ、防犯性がより高まる。
また、リモコン35から赤外線信号または電波信号のいずれを送信してもクレセント13が回転して、引違い窓1が開錠されると、住人などのリモコン35を操作する者は、状況に応じて送信すべき信号を使い分けることができる。例えば、介護施設などにおいて横並びの複数の室にそれぞれ錠装置11を設けている場合に、いずれかの室の住人などがリモコン35を操作して赤外線信号を送信すると、その赤外線信号は、当該室の錠装置11には受信されるが、指向性がよい分だけ周囲には広がらず、他の室へは送信されない。つまり、赤外線信号では、リモコン35を操作した室の引違い戸1しか開錠せず、他の室の引違い戸1は開錠しない。
一方、例えば火災が発生した場合には、それに気付いた住人などは前記複数の室の錠装置11を一斉に作動(開錠)させたいことになるが、電波信号は周囲に広がり易く、従って他の室の錠装置11まで同時に送信することができる。つまり、電波信号では、リモコン35を操作した室の引違い戸1のみならず、他の室(両隣の室など)の引違い戸1も同時に開錠させることが可能になる。これにより、各室の住人は、直ちに引違い戸1を開いて避難することができる。
建物の外面の非常スイッチ47が操作されて非常制御部49から電波信号が送信され、その電波信号を本体12で受信したときにクレセント13が回転して受け金具から外れるようにすると、例えば火災が発生した場合に、消防士などが非常スイッチ33を操作することで、室が複数であっても、それらの室の錠装置11を一斉に作動(開錠)させることができる。これによっても住人などは直ちに引違い戸1を開いて避難することができる。また消防士などが引違い戸1を開いて室内に入って住人などを救出することができる。
非常感知器56から電波信号が送信され、その電波信号を本体12で受信したときにクレセント13が回転して受け金具から外れるようにすると、火災などの非常事態が発生した場合に、各室の錠装置11を自動的に一斉に作動(開錠)させることができ、これによっても住人などが直ちに引違い戸1を開いて避難することができる。
本体12がアンテナ部37で受信した電波信号を増幅してアンテナ部37から送信すると、リモコン35を操作した室から離れている室であっても、他の室の錠装置11の本体12を介して、前記電波信号を受信することができて、各室の引違い戸1を確実に開錠させることができる。
本発明に係る錠装置の一実施例を図1ないし図9に基づいて説明する。本発明の錠装置は、例えば、マンションなどの建物の室内とベランダとを仕切る出入り口(開口部)に配置する引違い窓(引違い戸)をクレセントで施錠するものであって、そのクレセントを、リモコンなどを用いて開錠できるようになっている。
前記引違い窓1は、図2に示すように、前記出入り口に固定しているアルミニウム製の矩形状の枠2と、前記出入り口を開閉する内外二枚のガラス戸(戸)3・4とを有している。前記枠2は、左右の竪枠2a・2aと、それらの竪枠2a・2aの上端間に掛け渡した上枠2bと、竪枠2a・2aの下端間に掛け渡した下枠2cとで構成している。
各ガラス戸3・4は、ガラス5をアルミニウム製の矩形状の框6の中に取り付けている。その框6は、左右の縦框6a・6aと、その縦框6a・6aの上端間に掛け渡した上框6bと、左右の縦框6a・6aの下端間に掛け渡した下框6cとで構成している。各ガラス戸3・4は、枠2の上枠2bおよび下枠2cに配置した上下のレール(不図示)に沿って左右方向にスライド移動可能になっている。
前記ガラス戸3・4のうち、室内側(内側)となる一方のガラス戸3(図2では右側)には、左側の縦框6aの左面に本発明に係る錠装置11の本体12を取り付けており、ベランダ側(外側)となる他方のガラス戸4(図2では左側)には、右側の縦框6aであって錠装置11の本体12のクレセント13に対応する位置に、フック状の受け金具(図示せず)を取り付けている。両ガラス戸3・4において前記出入り口の左右の端部に位置する縦框6a・6aには、その内側および外側に取っ手9をそれぞれ取り付けている。
錠装置11の本体12には、図1および図3に示すように、前記受け金具に対して着脱自在に係止される前記クレセント13と、そのクレセント13を回転自在に支持しているとともに本体12のベース20に回転自在に支持されている円筒形状のギヤ(回転体)14と、クレセント13が前記受け金具から外れる開錠方向(図1では時計回り方向)にギヤ14を付勢する付勢部15と、ギヤ14を回転不能にロックする回転体ロック部16と、その回転体ロック部16によるロックを解除する解除部17とを有している。本体12のベース20は、一方のガラス戸3の左側の縦框6aにビスなどで取り付けられる。本体12のベース20および各部は、外装カバー21で覆われている。
クレセント13は、図4および図5に示すように、円筒形状の軸部13aと、その軸部13aから外方へ延びているレバー13bと、軸部13aの外周面から突出していて前記受け金具に係止される扇形状の係止部13cと、レバー13bに配置しているクレセントロック部19とを有している。ギヤ14は、クレセント13の軸部13aに内嵌する円筒形状の筒部14aと、付勢部15のラック15a(図1)が噛合するギヤ体14bとを有している。ギヤ14の筒部14aは、錠装置11の本体12のベース20に固定している円柱形状の軸32に対して回転自在に外嵌している。ギヤ体14bは、筒部14aよりもベース20側に位置している。
付勢部15は、図1および図3に示すように、上下方向に延びる角棒形状の前記ラック15aと、そのラック15aに一端(図1では上側)を接続しているコイルバネ15bとを有している。前記ラック15aは、ギヤ14のギヤ体14bに噛合する歯15cをラック15aの長さ方向(上下方向)に並べている。コイルバネ15bの他端は本体12のベース20に取り付けている。回転体ロック部16は、付勢部15のラック15aの上端部に形成している切り欠き15dに噛合する位置(図1の位置)とラック15aから離れる所定の解除位置(図1では左側)との間でスライド移動(図1では左右方向)する爪16aと、その爪16aをラック15a側へ付勢するコイルバネ16bとを有している。回転体ロック部16の爪16aの先端面は、ギヤ14側(下側)へ向かうに従って後方(図1では左方向)となるように傾斜している。
解除部17は、後述する開錠制御部38によって制御されるモータ17aと、そのモータ17aの出力軸に減速装置を介して連結しているカム17bと、そのカム17bに一端部(図1では上側)が当接して当該カム17bによって揺動駆動されるアーム17cとを有している。アーム17cは、その上下中間を揺動軸10によってベース20に揺動自在に支持されている。そのアーム17cの他端部(図1では下側)は、回転体ロック部16の爪16aに設けているピン16cに当接しており、回転体ロック部16のコイルバネ16bの付勢力によって付勢部15のラック15a側へ押されている。これによってアーム17cの一端部が解除部17のカム17bに押し付けられる。
クレセントロック部19は、図4および図5に示すように、クレセント13のレバー13b内に配置していて、レバー13bの長さ方向(図4では上下方向)へスライド移動可能なロッド19aと、レバー13b外(図5では右側)に配置していてロッド19aに連結しているつまみ22と、ロッド19aのスライド移動を規制する規制部(規制手段)23と、ロッド19aをギヤ14の筒部14a側へ付勢するコイルバネ24とを有している。クレセントロック部19のロッド19aの端部(図4では下側)は、ギヤ14の筒部14aの外周面に形成している溝状の係留部14cに係留(嵌合)可能になっている。その係留状態でクレセント13とギヤ14とが一体化して回転可能になっている。
クレセントロック部19のつまみ22は、指などでレバー13bの先端側(図5では上側)へ押すことで、ロッド19aがコイルバネ24の付勢力に抗してレバー13bの先端側へ移動してギヤ14の係留部14cから外れる。その状態でクレセント13は、手動で自由に回転させることができる。その手動での回転の際には、ギヤ14や付勢部15の付勢力などが抵抗にならず、クレセント13を軽い力で回転させることができる。つまみ22とロッド19aとは円柱形状のピン22aで連結しており、そのピン22aは、レバー13bに切り欠き形成している挿通孔13dを貫通している。
クレセントロック部19の規制部23は、クレセントロック部19のロッド19aに形成している切り欠き27内に位置しているカム25と、そのカム25に連結していてカム25を回転させるための頭部26とを有している。カム25は、クレセント13のレバー13bの内面に回転自在に支持されている。頭部26は、レバー13b外(図5では右側)に露出しており、その露出面に、例えば十円硬貨の厚み寸法より0.5mm程度大きい幅の溝26aを形成している。その溝26aに十円硬貨などを差し入れて頭部26を回転させることができる。頭部26とロッド19aとは円柱形状のピン26bで連結している。
規制部23のカム25は、その長手方向をロッド19aのスライド移動方向に沿わせると(図4の実線図の状態)、ロッド19aをスライド移動させようとしてもカム25がロッド19aの切り欠き27の縁(図4では上下の縁)に当接し、これによって当該ロッド19aがギヤ14の係留部14cから外れることが阻止される。一方、カム25の長手方向をロッド19aのスライド移動方向と直交する方向に沿わせると(図4の仮想線図の状態)、ロッド19aをスライド移動させてギヤ14の係留部14cから外すことが可能になる。なお、ロッド19aのスライド移動可能な範囲は、クレセント13のレバー13bに設けている突起29がロッド19aに形成している切り欠き28内に位置することによって規制される。
ギヤ14の筒部14aの外周の端部(図4では右側)には、図6に示すように、周方向に延びる扇形状の突起14dを形成している。その突起14dは、クレセント13の軸部13aの端面(図4では右側)からベース20側へ突出していて周方向に延びる扇形状の突起13eに当接可能になっている。クレセント13の突起13eの周方向の寸法は、ギヤ14の突起14dの周方向の寸法よりも大きくなっている。クレセント13の回転に伴ってクレセント13の突起13eがギヤ14の突起14dに当接したときには、クレセント13の回転にギヤ14が同行回転し、またギヤ14の回転に伴ってギヤ14の突起14dがクレセント13の突起13eに当接したときには、ギヤ14の回転にクレセント13が同行回転するようになっている。
錠装置11の本体12のベース20には、図7に示すように、前記軸32の外周面に沿って扇形状に延びる突起30を形成しており、その突起30は、ギヤ14のギヤ体14bの端面(図4では右端)に形成していてギヤ体14bの周方向に延びる扇形状の凹部31に入り込んでいる。そして、ギヤ14の凹部31の周方向の縁がベース20の突起30に当接することで、ギヤ14の回転範囲が規制される。ギヤ体14bの凹部31の周方向の寸法は、ベース20の突起30の周方向の寸法よりも大きくなっている。
錠装置11の本体12には、クレセント13が過度の速度で回転しないように減速手段を有している。その減速手段は、図1に示すように、付勢部15のラック15aから横方向(図1では左方向)へ延びる延出部33と、その延出部33の下方に位置するショックアブソーバー34とを有している。そして、コイルバネ15bの引っ張り力(付勢力)によってラック15aが下方向にスライド移動する際に、ラック15aの延出部33がショックアブソーバー34に受け止められることによって、当該ラック15aの移動速度が減速される。これに伴ってギヤ14の回転が減速し、そのギヤ14に同行回転するクレセント13の回転も減速する。
錠装置11の本体12には、受け金具に係止されているクレセント13を自動的に回転させて、当該クレセント13を受け金具から外すための手段を有している。すなわち、本体12には、図8に示すように、赤外線信号または電波信号を選択して送信可能な無線式のリモコン(操作手段)35からの赤外線信号を受信(受光)する受光部36と、リモコン35からの電波信号を受信するアンテナ部37と、受光部36で赤外線信号を受信またはアンテナ部37で電波信号を受信したときに、その信号に応じて解除部17のモータ17aを作動させる開錠制御部38とを有している。
また本体12には、回転体ロック部16の爪16aが付勢部15のラック15aから離れる解除位置になる回転角度まで解除部17のカム17bが回転したことを検知するリミットスイッチ39を有している。開錠制御部38は、前記リミットスイッチ39によって前記回転角度までカム17bが回転したことを検知するとモータ17aを停止する。本体12には、一次電池または二次電池などからなる電源用の電池40(図1)を内蔵している。
錠装置11の本体12の外装カバー21の室内側およびベランダ側となる面には、図1および図3に示すように、リモコン35からの赤外線信号を本体12内に導くための受光窓53をそれぞれ形成している。このように、本体12の室内側およびベランダ側に受光窓53をそれぞれ形成したので、室内およびベランダのいずれかからリモコン35を操作しても、そのリモコン35からの赤外線信号が受光窓53を介して受光部36に受信される。各受光窓53には、赤外線のみが透過可能な樹脂材54を配置している。
リモコン35には、図8に示すように、赤外線信号を送信(発光)する発光部41と、電波信号を送信するアンテナ部42と、ギヤ14を回転させてクレセント13を受け金具から外す旨の赤外線信号を送信させるための第1押ボタン43と、ギヤ14を回転させてクレセント13を受け金具から外す旨の電波信号を送信させるための第2押ボタン44と、前記押ボタン43・44の操作に応じて前記赤外線信号または前記電波信号を送信させるリモコン制御部45とを有している。リモコン35には、電源用の電池(一次電池または二次電池)を内蔵している。
また、引違い窓1の近傍であって建物のベランダ側となる外面には、非常ボタン(非常スイッチ)47と警報装置48とを配置している(図2参照)。その非常ボタン47と警報装置48とは、非常ボタン47の近傍に配置している非常制御部49に接続しており、非常制御部49には、錠装置11の本体12のギヤ14を回転させてクレセント13を受け金具から外す旨の電波信号を送信するアンテナ部50を有している。また、非常制御部49は、警報装置48による報知を行う。例えば警報装置48がベルの場合には、そのベルを鳴らして報知する。非常制御部47および警報装置48は、商用電源(AC100Vなど)または電池(一次電池または二次電池)によって駆動される。警報装置48は、ブザーなどであってもよく、またベルやブザーでの報知とともに警報用のランプを点灯(または点滅)させてもよい。
また、建物の適所には、煙感知器や熱感知器やガス感知器や地震感知器などの一個または複数個の非常感知器56を配置している。その非常感知器56には、前記本体12のギヤ14を回転させてクレセント13を受け金具から外す旨の電波信号を送信するアンテナ部57などを有している。
錠装置11の動作を説明すると、例えばクレセント13の係止部13cが受け金具から外れているときに(図9の状態)、引違い窓1を施錠させる場合には、クレセント13のレバー13bを手で掴んで手動で施錠方向へ回転(図9では反時計方向)させて、クレセント13の係止部13cを受け金具に係止させる(施錠状態)。
そのクレセント13の回転に伴ってギヤ14がクレセント13と同方向(施錠方向)へ回転(同行回転)し、そのギヤ14の回転によって付勢部15のラック15aが上方へスライド移動し、それに伴ってコイルバネ15bが上方へ引っ張られる。そして、レバー13bが上下方向に沿う姿勢(図3の姿勢)までクレセント13を回転させることで、ラック15aの切り欠き15dに回転体ロック部16の爪16aが係合する(図1の状態)。これによってラック15aが移動不能になって、そのラック15aに噛合するギヤ14がロックされる(回転不能になる)。なお、このときにはクレセントロック部19のロッド19aが、ギヤ14の筒部14aの係留部14cに係留している(図4および図5の状態)。
前記施錠状態で、例えばクレセント13のつまみ22を指などでレバー13bの先端側(図5では上側)へ押すことで、ロッド19aがギヤ14の係留部14cから外れ、これによってクレセント13を手動で回転させて、クレセント13の係止部13cを受け金具から外すことができる。
また、前記施錠状態で、例えばリモコン35の第1押ボタン43が押されて、リモコン35から赤外線信号が送信され、その赤外線信号を錠装置11の本体12の受光部36が受信(受光)すると、解除部17のモータ17aが駆動されてカム17bが回転する。そのカム17bの回転によってアーム17cの一端部が時計方向(図1では右方向)へ押され、アーム17cの他端部が、回転体ロック部16の爪16aのピン16cをコイルバネ16bの付勢力に抗して付勢部15のラック15aから離れる方向(図1では左方向)へ押す。
これにより、回転体ロック部16の爪16aが、付勢部15のラック15aから離れる解除位置にスライド移動してラック15aの切り欠き15dから外れる。その結果、回転体ロック部16によるギヤ14のロックが解除され、コイルバネ15bの付勢力によってラック15aが下方へ引っ張られる。すると、ギヤ14がクレセント13を受け金具から外れる開錠方向(図1の時計方向)へ回転し、そのギヤ14にクレセント13が同行回転する(開錠方向への回転)。その結果、クレセント13の係止部13cが受け金具から外れて(図9の状態)、引違い窓1が開錠される。
前記施錠状態で、例えばリモコン35の第2押ボタン44が押されて、リモコン35から電波信号が送信され、その電波信号を錠装置11の本体12のアンテナ部37が受信した場合にも、解除部17のモータ17aが駆動されて回転体ロック部16の爪16aが付勢部15のラック15aの切り欠き15dから外れ、ギヤ14が前記開錠方向へ回転するとともに、クレセント13がギヤ14と同行回転する。その場合にも、クレセント13の係止部13cが受け金具から外れて、引違い窓1が開錠される。
また、前記施錠状態で、前記非常ボタン47が押されて、非常制御部49のアンテナ部50から電波信号が送信され、その電波信号を錠装置11の本体12のアンテナ部37が受信した場合にも、解除部17のモータ17aが駆動されて、ギヤ14が前記開錠方向へ回転し、クレセント13の係止部13cが受け金具から外れて引違い窓1が開錠される。その際、警報装置48による報知も同時に行われる。
さらに、火災などが発生した場合には非常感知器56から電波信号が送信され、その電波信号を錠装置11の本体12のアンテナ部37が受信した場合にも、解除部17のモータ17aが駆動されて、ギヤ14が前記開錠方向へ回転し、クレセント13の係止部13cが受け金具から外れて引違い窓1が開錠される。
このように、リモコン35を操作して解除部17のモータ17aを駆動(作動)させたときには、回転体ロック部16の爪16aによるロックが解除され、ギヤ14が付勢部15の付勢力によって開錠方向へ回転し、その開錠方向へクレセント13が同行回転するので、住人などは、リモコン35を操作するだけの簡単な手間でクレセント13を自動的に回転させて開錠することができ、引違い戸1の開錠の際の手間を軽減することができる。そのうえで、ギヤ14をロックさせた状態でクレセント13のみを手動で回転させてクレセント13の係止部13cを受け金具から外し、また受け金具に係止させることができるので、その手動操作の際にギヤ14や付勢部15の付勢力などが負荷になることがなく、その分だけ住人などがクレセント13を手動操作する際の負担を軽減できる。
クレセント13のクレセントロック部19のロッド19aがギヤ14の係留部14cに係留したときには、クレセント13がロックされて回転不能になる。これにより、例えば侵入者が外部からガラス戸の一部を破壊したのち、その破壊部分から手を室内に差し込んでもクレセント13を回転させることができず、その分だけ防犯性が高まる。加えて、クレセントロック部19の規制部23によってロッド19aの移動を阻止することができるので、侵入者によるクレセント13の回転をより確実に防止することができる。
また、リモコン35から赤外線信号または電波信号のいずれを送信してもクレセント13が回転して、引違い窓1が開錠されるので、住人などのリモコン35を操作する者は、状況に応じて送信すべき信号を使い分けることができる。例えば、介護施設などにおいて横並びの複数の室にそれぞれ錠装置11を設けている場合に、いずれかの室の住人などが、例えば起床し、または室に戻ってきてリモコン35の第1押ボタン43を押すと、赤外線信号は、当該室の錠装置11には送信されて引違い窓1が開錠されるが、指向性がよい分だけ周囲には広がらず、他の室へは送信されない。つまり、赤外線信号では、リモコン35を操作した室の引違い窓1しか開錠せず、他の室の引違い窓1は開錠しない。
一方、例えば火災が発生した場合には、それに気付いた住人などは前記複数の室の錠装置11を一斉に作動(開錠)させたいことになるが、電波信号は周囲に広がり易く、従って他の室の錠装置11まで同時に送信することができる。つまり、電波信号では、リモコン35を操作した室の引違い窓1のみならず、他の室(両隣の室など)の引違い窓1も同時に開錠させることが可能になる。これにより、各室の住人は、直ちに引違い窓1を開いてベランダへ避難することができる。
なお、各錠装置11の本体12は、アンテナ部37で受信した電波信号を増幅して、そのアンテナ部37から送信するようにしてもよい。これによれば、リモコン35を操作した室から離れている室であっても、他の室の錠装置11の本体12を介して、前記電波信号を受信することができ、各室の引違い窓1を確実に開錠させることができる。
また、火災などが発生した場合に、消防士などが非常ボタン47を押すことで各室のクレセント13を一斉に受け金具から外して、各室の引違い窓1をそれぞれ開錠することができる。これにより、各室の住人などは、直ちに引違い窓1を開いてベランダへ避難することができる。その際には前記消防士などが引違い窓1を開いて室内に入って住人などを救出することができる。加えて警報装置48による報知が行われることで、当該建物の住人や周辺の建物の住人などに、火災などの非常事態であることを知らせることができる。その場合にも、各錠装置11の本体12は、アンテナ部37で受信した電波信号を増幅してそのアンテナ部37から送信するようにしてもよい。
また、火災や地震などが発生した場合には非常感知器56から電波信号が送信され、その電波信号によって各室のクレセント13を一斉に受け金具から外して、各室の引違い窓1をそれぞれ自動的に開錠することができる。これによっても各室の住人などは、直ちに引違い窓1を開いてベランダへ避難することができる。
なお、非常ボタン47および警報装置48は、全ての引違い窓1に対応させて配置する必要はなく、室数よりも少なく配置してもよい。その場合、非常ボタン47および警報装置48は、任意の位置に配置することになる。また、非常感知器56自体が電波信号を送信するものであってもよく、例えば一個または複数個の非常感知器56を制御盤に有線または無線で接続し、その制御盤から錠装置11の本体12に電波信号を送信するようにしてもよい。
錠装置11の本体12には、モータ17aの作動時に点灯するLED51(図8)と、内蔵ブザー52(図8)とを配置している。錠装置11の本体12の開錠制御部38は、例えば電池が容量不足になったときに前記LED51の点滅や内蔵ブザー52の作動などによってその旨を報知することができる。開錠制御部38は、所定時間(例えば数秒)ごとにしか作動しないようになっており、リモコン35、非常制御部49および非常感知器56は、開錠制御部38の作動停止時間よりも長い時間、前記赤外線信号または電波信号を送信するようになっている。開錠制御部38を所定時間ごとにしか作動しないようにしたことで、本体12での消費電力が抑えられる。
前記説明では、モータ17aや電池40などをクレセント13の上側に配置したが、モータ17aや電池40などをクレセント13の下側に配置してもよい。