JP5991998B2 - セメント組成物の製造方法 - Google Patents
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Description
しかし、近年、石炭銘柄の多様化、NOx規制等の環境対策の強化、電力需要が増える夏場での発電効率の優先等により、火力発電所では微粉炭を完全に燃焼することなく石炭灰を回収するケースが増えている。そのため、現在では石炭灰中の炭素含有率やその変動幅は3〜30質量%程度に拡大している。
しかし、電力事業における石炭灰の発生量は、平成11年度の576万トンから、この10年間で約1.5倍にも増加し、今後も、原子力発電を補うために火力発電所が稼働して石炭灰が増加すると予想されるため、未燃炭素の多い石炭灰でも廃棄せずに有効活用できる方法が求められている。
例えば、特許文献1では、クーラー内にあるセメントクリンカー(以下「クリンカー」という。)の上に石炭灰を投入し、石炭灰中の未燃炭素を燃焼して除去した後、石炭灰をクリンカーとともに粉砕するセメントの製造方法が提案されている。そして、該方法では、石炭灰がクーラー内で飛散しないように、石炭灰は液体との混合や加圧成形等により重質化処理をした後に、クーラー内へ投入するのが好ましいとされている(段落0016参照)。
(i)クーラーの特定の温度領域において、特定のセメント鉱物組成を有するクリンカーに対し、特定のバインダー等を用いて成形した石炭灰の成形物を投入すると、クリンカーと石炭灰は反応せず、クリンカーと、未燃炭素が燃焼して減少した石炭灰とが混合しただけの混合物が得られること、また、
(ii)該混合物を粉砕するか、または該混合物に石膏を混合して粉砕するだけで品質が安定したセメント組成物を容易に製造できること、さらに、
(iii)該製造方法によれば、炭素含有率が高い石炭灰でも大量に使用でき、またクリンカーの製造コスト、特に燃料コストを低減できること、
を見い出し本発明を完成させた。
[1]下記(A)〜(C)工程を含むセメント組成物の製造方法。
(A)ボーグ式を用いて算出したセメント鉱物組成が、C3Sで20〜80%、C2Sで5〜60%、C3Aで1〜16%、およびC4AFで6〜16%であるセメントクリンカーを焼成するセメントクリンカー焼成工程
(B)前記セメントクリンカー100質量部に対し、石炭灰、バインダー、および水を下記(b1)または(b2)に記載の割合で含む組成物を成形してなる、圧壊強度が5〜2000Nおよび落下強度が70%以上の成形物を0.2〜100.0質量部の割合で、クーラー内の800〜1400℃の領域に投入してセメントクリンカーと混合するとともに、該成形物中に含まれる炭素および有機物を燃焼させて除去する炭素等除去工程
(b1)有機バインダーを含む組成物の場合
石炭灰を95〜99.5%および有機バインダーを0.5〜5%含み、かつ、石炭灰と有機バインダーの合計100質量部に対し水を2〜35質量部含む
(b2)無機バインダーを含む組成物の場合
石炭灰を60〜99.5%および無機バインダーを0.5〜40%含み、かつ、石炭灰と無機バインダーの合計100質量部に対し水を2〜35質量部含む
(C)前記セメントクリンカーと前記成形物の混合物(a)、または混合物(a)にさらに石膏を添加した混合物(b)を粉砕する混合物粉砕工程
[3]前記バインダーが、セメント、石膏粉末、ポゾラン粉末、シリカ粉末、石灰石粉末、セメントキルンダスト、膨張材、建設発生土粉末、焼却灰、スラグ粉末、および粘土粉末から選ばれる1種以上の無機バインダーであって、該無機バインダーのブレーン比表面積が2000〜10000cm2/gである、前記[1]に記載のセメント組成物の製造方法。
[4]前記(C)工程において、前記混合物(a)または混合物(b)に対し、さらに、高炉スラグ粒、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石炭灰、シリカ粉末、石灰石、石灰石粉末、およびセメントキルンダストから選ばれる1種以上を添加してなる混合物(c)を粉砕する、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のセメント組成物の製造方法。
[5]前記石炭灰の炭素含有率が3%以上である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のセメント組成物の製造方法。
以下に、本発明について、セメント組成物の製造方法と成形物に分けて説明する。
該製造方法について、さらに前記(A)〜(D)工程に分けて詳述する。
(A)クリンカー焼成工程
該工程は、ボーグ式を用いて算出したセメント鉱物組成が、C3Sで20〜80%、C2Sで5〜60%、C3Aで1〜16%、およびC4AFで6〜16%であるクリンカーを焼成する工程である。セメント鉱物組成が該範囲のクリンカーとして、普通ポルトランドセメントクリンカー、および早強ポルトランドセメントクリンカー等のポルトランドセメントクリンカーや、エコセメントクリンカー等が挙げられる。
該工程における焼成温度は、好ましくは1000〜1450℃、より好ましくは1200〜1400℃である。該値が1000〜1450℃であれば、水硬性の高いセメント鉱物が生成する傾向がある。
また、該工程における焼成時間は、好ましくは30〜120分、より好ましくは40〜60分である。該値が30分未満では焼成が十分でなく、120分を超えると製造効率が低下する。
ここで、高温揮発法とは、混合原料を高温で焼成して混合原料に含まれる沸点の低い重金属を揮発させて除去する方法である。
塩化揮発法とは、混合原料に含まれている重金属を、沸点の低い塩化物の形で揮発させて除去する方法である。具体的には、該方法は、混合原料を調製する際に塩化カルシウム等の塩素源を混合し、該混合原料を焼成炉を用いて焼成し、生成した重金属の塩化物を揮発させて除去する方法である。なお、原料自体に重金属が揮発するのに十分な塩素が含まれている場合は塩素源を混合しなくてもよい。
還元焼成法とは、混合原料中の重金属を還元して、沸点の低い金属の形で揮発させて除去する方法である。具体的には、該方法は、重金属を含む混合原料を還元雰囲気下で、および/または還元剤を添加して、焼成炉を用いて焼成して重金属を還元し、この還元した重金属を揮発させて除去する方法である。
C3S(%)=4.07×CaO(%)−7.60×SiO2(%)−6.72×Al2O3(%)−1.43×Fe2O3(%)−2.85×SO3(%) ・・・(1)
C2S(%)=2.87×SiO2(%)−0.754×C3S(%) ・・・(2)
C3A(%)=2.65×Al2O3(%)−1.69×Fe2O3(%) ・・・(3)
C4AF(%)=3.04×Fe2O3(%) ・・・(4)
ただし、式中の化学式は、原料中またはクリンカー中における、化学式が表す化合物の含有率を表す。
該工程は、前記クリンカー100質量部に対し、石炭灰、バインダー、および水を含む組成物を成形してなる成形物を0.2〜100.0質量部の割合で、クーラー内の800〜1400℃の領域に投入してクリンカーと混合するとともに、該成形物に含まれる炭素および有機物を燃焼させて除去する工程である。なお、石炭灰中の炭素およびバインダーの有機物は該工程において熱エネルギーの供給源にもなる。
前記成形物の使用量(投入量)が0.2質量部未満では石炭灰の使用量が少なく燃料コストの低減等が不十分であり、該値が100.0質量部を超えるとセメント組成物の強度発現性が低下する場合がある。該値は、前記クリンカー100質量部に対し、好ましくは1〜80質量部、より好ましくは2〜60質量部である。
本発明において、AE剤の空気連行作用の維持等のために、炭素等除去工程を経た後の成形物中の炭素含有率は、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下である。
なお、該工程においてクリンカーと成形物との間の熱交換により、クリンカーを単にクーラーで冷却した場合よりもクリンカーの冷却速度が高いため、本発明ではクリンカーの水硬性が向上するという効果もある。
該工程は、炭素等除去工程を経た後に、クリンカーと成形物の混合物(a)、または混合物(a)にさらに石膏を添加した混合物(b)を粉砕する工程である。また、資源の有効活用の観点から、前記混合物(a)または混合物(b)に対し、さらに、高炉スラグ粒、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石炭灰、シリカ粉末、石灰石、石灰石粉末、およびセメントキルンダストから選ばれる1種以上を添加してなる混合物(c)を粉砕してもよい。ただし、前記混合物中の各成分の被粉砕性が大きく異なる場合は、粒度分布の過度の拡大を抑制するため、被粉砕性が類似する成分同士を組み合わせて混合粉砕した後に、それぞれの粉砕物を混合してセメント組成物にしてもよい。
なお、前記セメントキルンダストは、クリンカーを製造する際にセメントキルンから排出された燃焼ガス中に含まれるダストである。本発明においてセメントキルンダストには塩素バイパスダストが含まれる。塩素バイパスダストとは、セメントキルンに付設した塩素バイパス装置により前記燃焼ガス中から回収されたダストをいい、K2O、Cl、SiO2等を含む。
石膏の添加量は、前記混合物(a)100質量部に対しSO3換算で、好ましくは1.5〜4.0質量部、より好ましくは2.0〜3.5質量部、さらに好ましくは2.5〜3.0質量部である。該値が1.5〜4.0質量部の範囲にあれば、セメント組成物の強度発現性が高く流動性も良好である。
また、セメント組成物中の石膏のブレーン比表面積は、好ましくは2000〜10000cm2/g、より好ましくは3000〜8000cm2/gである。該値が2000〜10000cm2/gの範囲を外れると、強度発現性が低下したり水和熱が大きくなるおそれがある。
本発明により製造されるセメント組成物の粉末度は、強度発現性、作業性、およびコストなどの点から、ブレーン比表面積で好ましくは2000〜5000cm2/g、より好ましくは2500〜4700cm2/g、さらに好ましくは3000〜4000cm2/gである。
以上の工程を含む本発明のセメント組成物の製造方法は、炭素含有率が高い石炭灰でも大量に使用でき、後記のように、クリンカーの製造コスト、特に燃料コストを大幅に低減することができる。
また、本発明により製造されたセメント組成物は、炭素等除去工程においてクリンカーと石炭灰が反応しないため、セメント鉱物組成の変動がなく品質が安定しており、ポルトランドセメントや混合セメント等として広い用途に用いることができる。
本発明の製造方法は、任意の工程として、さらに前記(A)工程の前にクリンカー原料を調合するための原料調合工程(D)を含む。
該工程では、カルシウム原料、ケイ素原料、アルミニウム原料、および鉄原料などのクリンカー原料を、前記(1)〜(4)式のボーグ式を用いて、前記セメント鉱物組成の範囲内になるように調合して混合原料を調製する。ここで、カルシウム原料は、石灰石、生石灰、および消石灰等が、ケイ素原料は珪石や粘土等が、アルミニウム原料は粘土等が、鉄原料は鉄滓や鉄ケーキ等が挙げられる。
なお、焼成前の混合原料の化学組成は、焼成後のクリンカーの化学組成とほぼ同一となる場合が多いため、前記セメント鉱物組成を有するクリンカーを得るには、通常、ボーグ式に基づき計算して該鉱物組成を満たすように原料を調合すれば足りる。ただし、正確を期すために、混合原料の一部を電気炉等で焼成して、該原料中と焼成して得たクリンカー中の化学組成の相関を事前に把握しておき、該相関に基づき原料の混合割合を目的とするクリンカー中の鉱物組成になるように修正することが好ましい。
前記産業廃棄物は、例えば、石炭灰、スラグ類、生コンクリートスラッジ、建設汚泥、製鉄汚泥、ボーリング廃土、焼却灰、鋳物砂、ロックウール、高炉二次灰、建設廃材、およびコンクリート廃材等から選ばれる1種以上が挙げられる。
前記一般廃棄物は、例えば、浄水汚泥、下水汚泥、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻、および下水汚泥焼却灰等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、前記建設発生土は、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土などが挙げられる。
なお、混合原料の粉末度を調整する必要がある場合は、ボールミル等の粉砕機で所定の粉末度になるまで原料を粉砕して調整する。
次に、前記(B)工程において投入する成形物について説明する。
該成形物は、(a)石炭灰、(b)バインダー、および(c)水を含む組成物を成形したものである。
以下、(1)組成物の各成分、(2)組成物の配合、(3)成形物の形態と強度、(4)成形物の製造方法に分けて詳述する。なお、本発明において「成形」には「造粒」が含まれる。
(a)石炭灰
本発明で用いる石炭灰は特に限定されず、例えば、石炭火力発電所、石油精製工場、その他の化学工場等において微粉炭を燃焼させたときに発生する燃焼ガス中から、集塵器によって捕集された粉末が挙げられる。該石炭灰のブレーン比表面積は、特に限定されず、例えば、2500〜6000cm2/gである。
また、石炭灰の炭素含有率は、好ましくは3%以上、より好ましく4〜50%、さらに好ましは5〜45%、特に好ましくは6〜40%である。該値が3%未満では発熱量が小さく燃料コストの低減効果が減少する。
本発明で用いるバインダーは、下記の有機バインダーと無機バインダーが挙げられる。
(i)有機バインダー
有機バインダーは、例えば、澱粉類、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアルキレンオキサイド、ポリカルボン酸類、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、エチレン・酢酸ビニル樹脂、スチレン・ブタジエンゴム、天然ゴム、寒天、およびゼラチンから選ばれる1種以上が挙げられる。
前記セルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロースとその塩、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、およびヒドロキシメチルセルロース等が挙げられる。
また、前記ポリアルキレンオキサイドは、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体等が挙げられる。
前記ポリカルボン酸類は、ポリアクリル酸とその塩、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸とその塩、ポリメタクリル酸エステル等が挙げられる。ポリカルボン酸類は単独重合体および共重合体のいずれも含む。
これらの有機バインダーの中でも、澱粉類とポリビニルアルコールは、石炭灰に適度な塑性を付与し賦形性が優れ、成形し易いため好ましい。
アミロースの含有率が10%以上であれば、糊は老化(結晶化)し易く硬度が増すため、成形物の強度が向上する。また、糊の粘性を高めるアミロペクチンの含有率が90%未満であれば、糊の粘度が低下して組成物の混練が容易になる。
ここで、アミロースおよびアミロペクチンの含有率が、それぞれ10%以上および90%未満の澱粉類は、例えば、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、豆澱粉、馬鈴薯澱粉、うるち米澱粉、甘藷澱粉、およびタピオカ澱粉等の澱粉、並びにこれらの澱粉を原料にしてなる前記化工澱粉が挙げられる。
なお、前記有機バインダーのうち、水溶性のバインダーは主に水溶液(ペーストを含む。)の形態で用い、非水溶性のバインダーは主にエマルジョンの形態で用いる。
無機バインダーは、例えば、セメント、石膏粉末、ポゾラン粉末、シリカ粉末、石灰石粉末、セメントキルンダスト、膨張材、建設発生土粉末、焼却灰、スラグ粉末、および粘土粉末から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、前記セメントは特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、および低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、および普通エコセメント等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、前記石膏粉末は、二水石膏、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏、精錬石膏、半水石膏、および無水石膏等から選ばれる1種以上が挙げられる。
前記スラグ粉末は、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ、転炉スラグ、二次精錬スラグ、電気炉系スラグ、フェロニッケルスラグ、銅スラグ、電気炉酸化スラグ、および石炭ガス化溶融スラグから選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも高炉水砕スラグは潜在水硬性に優れるため好ましい。
また、前記ポゾラン粉末は、火山灰、シラス、火山岩粉末、および珪酸白土粉末等から選ばれる1種以上が挙げられる。
前記粘土粉末は、ベントナイト、カオリン、タルク、酸性白土、アタパルジャイト、セピオライト、珪藻土、セリサイト、およびゼオライト等から選ばれる1種以上が挙げられる。
前記膨張材は、カルシウムサルホアルミネート系膨張材および石灰系膨張材が挙げられ、前記建設発生土粉末は、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土等が挙げられ、前記焼却灰は、下水汚泥焼却灰、都市ゴミ焼却灰、およびRDF焼却灰等が挙げられる。
前記無機バインダーのブレーン比表面積は、コスト、入手の容易性、成形物の成形の容易性および強度、さらにはセメント組成物の強度発現性などの点から、好ましくは2000〜10000cm2/g、より好ましくは2500〜9000cm2/g、さらに好ましくは3000〜8000cm2/gである。
前記有機バインダーと無機バインダーは、それぞれを単独で用いるほかに、併用してもよい。
水は特に限定されず、例えば、水道水、再生水、下水処理水、および生コンクリートスラッジから分離した水等が挙げられる。
次に、前記組成物の配合について説明する。
有機バインダーを含む組成物は、好ましくは石炭灰を95〜99.5%および有機バインダーを0.5〜5%含み、かつ、石炭灰と有機バインダーの合計100質量部に対し水を2〜35質量部含むものである。
該組成物の配合割合を前記範囲に特定した理由と、より好ましい配合割合の範囲は以下の(i)〜(iii)のとおりである。
(i)石炭灰の配合割合が95%未満ではクーラーへの石炭灰の投入量が相対的に少なくなり、99.5%を超えると有機バインダー量が相対的に少なく成形物の強度が低下する場合がある。石炭灰の配合割合は、より好ましくは96〜99%である。したがって、
(ii)有機バインダーの配合割合が0.5%未満では、成形物の強度が低下する場合がある。また、5%を超えるとクーラーへの石炭灰の投入量が減少するほか、成形物の強度が過大となって、後工程である(C)混合物粉砕工程において粉砕が困難になる場合があり、その分、セメント組成物の製造コスト(粉砕コスト)が増大する。有機バインダーの配合割合は、より好ましくは1〜4%である。
(iii)水の配合割合が2質量部未満では成形が困難な場合があり、35質量部を超えると成形時に組成物(混練物)が成形装置等に付着するなどの問題が生じやすい。水の配合割合は、石炭灰と有機バインダーの合計100質量部に対し、より好ましくは3〜30質量部、さらに好ましくは5〜25質量部、特に好ましくは10〜20質量部である。
(a)石炭灰の配合割合が60%未満ではクーラーへの石炭灰の投入量が相対的に少なくなり、99.5%を超えると無機バインダー量が相対的に少なく、成形物の強度が低下する場合がある。石炭灰の配合割合はより好ましくは70〜96%、さらに好ましくは78〜94%である。したがって、
(b)無機バインダーの配合割合が0.5%未満では、成形物の強度が低下する場合がある。また、40%を超えると、石炭灰の投入量が減少するほか、成形物の強度が過大となって、後工程である(C)混合物粉砕工程において粉砕が困難になる場合があり、その分、セメント組成物の製造コスト(粉砕コスト)が増大する。無機バインダーの配合量は、より好ましくは3〜15%、さらに好ましくは4〜12%である。
(c)水の配合割合が2質量部未満では粉体の混練が困難な場合があり、35質量部を超えると、成形時に組成物(混練物)が造粒装置等に付着するなどの問題が生じやすい。水の含有量は、粉体の合計量100質量部に対し3〜30質量部がより好ましく、5〜25質量部がさらに好ましく、10〜20質量部が特に好ましい。
成形物の形状は特に限定されないが、球状、楕円体状、円柱状、板状、直方体、立方体等が挙げられる。
前記成形物の大きさは、好ましくは1〜60mm、より好ましくは3〜50mm、さらに好ましくは5〜40mmである。該値が1〜60mmの範囲で、成形物のクーラーへの投入が容易になる。なお、前記「成形物の大きさ」とは、成形物の最大寸法(例えば、断面が楕円形である場合には長軸の長さ)をいう。
クリンカーとの反応を防止するため、成形物はクーラーへの投入時の衝撃により崩壊しないものが好ましく、かかる成形物の特性値は圧壊強度および落下強度を用いて示すことができる。
(i)該成形物と同じ配合の球状の造粒物をパンペレタイザーで調製した後、該造粒物中から粒径が4.75〜9.5mm(篩いの目開きの寸法)の造粒物を10個選ぶ。
(ii)図1に示すように、該造粒物の両側から点接触により加圧して圧壊強度を測定し、これらを平均して圧壊強度の平均値を求める。
前記圧壊強度は、好ましくは4N以上、より好ましくは5N以上、さらに好ましくは6N以上、特に好ましくは7N以上である。該値が4N以上である成形物は、クーラーへの投入時の衝撃では崩壊しにくい。一方、圧壊強度が高過ぎると粉砕が困難になるため、該強度の上限値は、好ましくは2000N、より好ましくは1500N、さらに好ましくは1000N、特に好ましくは800N、最も好ましくは500Nである。
(i)該成形物と同じ配合の球状の造粒物をパンペレタイザーで調製した後、該造粒物中から粒径が4.75〜9.5mm(篩いの目開きの寸法)の造粒物を1kg程度採取し、この質量(a)を測定する。
(ii)鉄板面に対し、前記造粒物を1mの高さから自由落下させた後、鉄板上にある造粒物(落下物)の全量を回収し、再度、この全量を落下させ、該操作を合計で4回繰り返す。
(iii)全4回の自由落下が終了した後、造粒物(落下物)の全量を2.5mmの篩いでふるい分け、ふるいに残った残分の質量(b)を測定する。
(iv)落下強度は、下記式に前記質量(a)および(b)代入して算出する。
落下強度(%)=b/a×100
前記落下強度は、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。該値が70%以上の成形物は、クーラーへの投入時の衝撃では崩壊しにくい。
該方法は、前記組成物を混練した後に該混練物を成形するものである。
前記組成物の混練には、例えば、ペーストを調製するための汎用の混練機を用いる。この場合、組成物の各成分は、一括して混練機に投入するか、別々に投入する。別々に投入する場合、各成分の投入順序は特に限定されず、例えば、粉体成分を混合した後に、これに水を加えて混練することが挙げられる。また、組成物の混練は、成形装置内で成形と同時に行なってもよい。
成形装置は特に限定されず、例えば、パンペレタイザー、ブリケットマシン、ロールプレス、押出成形機、パグミル等が挙げられる。また、成形後に、成形物を回転ドラム、ミキサ、篩等を用いて整粒してもよい。成形時に生じた微粉はふるい分けして回収した後、再度、成形物の原料として用いることができる。
養生の方法は、特に限定されず、封乾養生、風乾養生(気乾養生)、湿空養生、蒸気養生、加熱乾燥養生、および炭酸ガス養生等から選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、強度促進の点から、封乾養生、相対湿度80%以上での湿空養生、炭酸ガス養生等が好ましく、また、早期に強度を発現したい場合は、蒸気養生や加熱養生が好ましい。ここで、封乾養生や風乾養生等の温度は、例えば5〜40℃であり、蒸気養生や加熱乾燥養生の温度は、例えば30〜400℃である。
また、炭酸ガス養生における炭酸化の程度は、好ましくは、成形物の表面の一部において、フェノールフタレイン溶液が無色に退色すれば足りる。フェノールフタレイン溶液はpHが8.3以下の中性域で赤紫色から無色に退色するため、該溶液を成形物に噴霧するという簡易な操作により、表面の炭酸化(中性化)の進行度が容易に判定できる。
炭酸ガス養生の方法は、成形物を、空気にさらす方法、炭酸ガスにさらす方法、炭酸水、炭酸水素アンモニウムまたは炭酸アンモニウム等の炭酸(塩)の水溶液に浸漬する方法、該水溶液を成形物に散布する方法等が挙げられる。炭酸ガス養生に用いる炭酸ガスは工業用炭酸ガスや空気中の炭酸ガスのほかに、セメント製造設備から回収した炭酸ガスを含む排ガスでもよい。
また、炭酸ガス養生は単独で行うほかに、前記の他の養生と併用してもよい。
なお、成形物の養生は必要に応じて行なえばよく、目標とする強度が早期に得られる場合は不要である。
次に、本発明における燃料コスト(燃料費)の低減効果について説明する。
本発明の製造方法を用いて、例えば、後記の実施例に示すように、セメントクリンカー100質量部に対し、炭素含有率が10%の石炭灰を含む成形物を石炭灰換算で、それぞれ、2質量部、12質量部、および49質量部使用した場合、セメントクリンカー1トンあたりの燃料コストの低減額は、それぞれ、52円、288〜354円、および864円となる。
ちなみに、前記低減額(864円/セメントクリンカー1トン)を2009年度の高炉セメントB種の生産量である1243万トンに当てはめれば、燃料費の低減額は年間で110億円程度になり、その分、燃料として使われる石炭資源を節約できる。
1.使用材料
(1)石炭灰
石炭灰(a):炭素含有率10%、CaO含有率9.0%
石炭灰(b):炭素含有率2.3%、CaO含有率9.0%
(2)澱粉
三和コーンアルファY(商品名、三和澱粉工業社製)、アミロースの含有率:25%、アミロぺクチンの含有率:75%
(3)ポリビニルアルコール(PVA)
ポバール洗濯糊サンノール(登録商標、三和油脂工業社製)
(4)セメント
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(5)セメントキルンダスト
化学組成:K2O;6.5%、Cl;4.0%、SO3;10.0%、CaO;51.0%
ブレーン比表面積:5000cm2/g
(6)砂
JIS R 5201に規定する標準砂
(7)減水剤
ポリカルボン酸系高性能AE減水剤 レオビルドSP8N(登録商標、BASFポゾリス社製)
(8)石膏
二水石膏:試薬1級、関東化学社製
半水石膏:試薬1級、関東化学社製
(9)高炉スラグ粉末
スラグ(a):ブレーン比表面積:4000cm2/g(エスメント関東社製)
スラグ(b):ブレーン比表面積:12000cm2/g(スラグ(a)の粉砕品)
(10)シリカ粉末
ブレーン比表面積:7000cm2/g
(11)シリカフューム
BET比表面積:20m2/g
石炭灰(a)を用いて、表1に示す組成物の配合に従い、各種成分を混合して組成物を調製した後、該組成物をホバートミキサーを用いて混練して各種混練物を得た。次に、該混練物をパンペレタイザーに投入し粒径が2〜25mmの湿潤状態の成形物(実施例1〜14、比較例1〜4)を作製した。さらに、これらのうち、バインダーとしてセメントを含む成形物(実施例6〜8)は、20℃で1日間、封緘養生した後、続けて20℃で3日間、風乾養生した。
また、比較のため、特許文献1において好ましいとされている石炭灰と液体の混合による重質化処理にならい、石炭灰a100質量部に対し水を20質量部添加して混練し、前記実施例と同様に成形して、石炭灰と水のみを含む成形物(比較例5)を作製した。
C3Sを59.1%、C2Sを16.9%、C3Aを9.9%、およびC4AFを10.2%含む普通ポルトランドセメントクリンカーを、ロータリーキルン5を用いて1400℃で焼成するとともに、クリンカー100質量部に対し表1に示す量(石炭灰換算)の成形物(実施例1〜14、比較例1〜4)を、窯前8からクリンカーの落下地点10(温度は1400℃)に投入して、クリンカーと成形物の混合物を得た。これらの混合物中の成形物を目視にて観察したところ、実施例1〜14の成形物は崩壊することなく原形をとどめていた。
次に、前記クリンカーと成形物の混合物100質量部に対し、二水石膏をSO3換算で1.3質量部、および半水石膏をSO3換算で1.3質量部添加した後、小型ミルで粉砕して、ブレーン比表面積が3300cm2/gのセメント組成物(実施例1〜14、比較例1〜4)を製造した。
除去工程における炭素の除去効果を確認するため、石炭灰(a)を800℃で熱処理して炭素含有率が1%以下になった熱処理石炭灰(ブレーン比表面積が3000cm2/g)を、前記普通ポルトランドセメントクリンカー100質量部に対し49質量部(ただし、加熱処理前の石炭灰換算)混合した後、前記実施例と同様に石膏を混合して、前記熱処理石炭灰を含むセメント組成物(比較例7)を製造した。
前記圧壊強度の測定方法に従い、実施例1〜14および比較例5の成形物(造粒物)を用いて圧壊強度を測定した。
その結果、実施例1〜14の成形物については、それぞれにおいて得られた10個の圧壊強度の値を平均して圧壊強度の平均値を求めたが、比較例5の成形物は、10個の成形物のうち4個が圧壊強度が低すぎて測定できなかったため、残りの6個の値について平均して圧壊強度の平均値を求めた。その圧壊強度の測定結果を表1に示す。なお、前記圧壊強度は、造粒物をクーラーに投入する段階で測定した。
前記落下強度の測定方法に従い、実施例1〜14および比較例1〜5の成形物(造粒物)を用いて落下強度を測定した。その結果を表1に示す。
なお、前記落下強度も、造粒物をクーラーに投入する段階で測定した。
実施例1、6、9、10、13および参考例のセメント組成物の流動性は、下記(i)と(ii)に従いフロー値を測定して求めた。
(i)前記セメント組成物を用いて、質量比で、細骨材/セメント=2、水/セメント=0.35、および、減水剤(固形分)/セメント=0.007のモルタルを、ホバートミキサーを用いて低速で2.5分間、さらに続けて高速で3分間混練してモルタルを調製した。
(ii)混練直後と混練後30分経過時の前記モルタルを、ミニスランプコーン(JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に規定する鋼製スランプコーン)の中に投入し、該コーンを上方へ取り去った時のモルタルの広がり(フロー値)を測定して流動性を求めた。
また、セメント組成物の凝結時間とモルタルの圧縮強さは、JIS R 5201に準じて測定した。その結果を表1に示す。
表1に示すように、成形物の投入量が43質量部と多い実施例10のセメント組成物のモルタルのフロー値は、混練直後で320mm、30分後で180mmであり、これらは普通ポルトランドセメントのモルタルのフロー値(混練直後で270mm、30分後で160mm)と比べて高い。
また、実施例10の凝結は、始発が2時間55分、終結が5時間であり、普通ポルトランドセメントの凝結(始発が2時間20分、終結が3時間30分)と始発において同等であり、また、終結は実用上問題が生じない範囲内である。
同じバインダーを含み、かつ同じ量(33質量部)の石炭灰を含む実施例8と比較例6の圧縮強さを比較すると、それぞれ、材齢7日で33.2N/mm2と33.5N/mm2、材齢28日で51.5N/mm2と52.8N/mm2、材齢6月で76.0N/mm2と69.5N/mm2、材齢1年で78.7N/mm2と71.5N/mm2である。したがって、本発明に係るセメント組成物は、比較例6の粉体組成物と比べ、材齢7日および28日の初期および中期の材齢における強度発現性は同等であり、材齢6月以降の長期の材齢における強度発現性はより高い。
また、同じ量(49質量部)の石炭灰を含む実施例3と比較例7の圧縮強さを比較すると、それぞれ、材齢7日で33.4N/mm2と31.8N/mm2、材齢28日で52.0N/mm2と50.1N/mm2、材齢6月で75.4N/mm2と69.8N/mm2、材齢1年で79.2N/mm2と70.5N/mm2である。したがって、本発明に係るセメント組成物は、熱処理した石炭灰を含むセメント組成物(粉体組成物)と比べ、すべての材齢において強度発現性が優れている。
以上の結果から、本発明の製造方法に係るセメント組成物は、炭素等除去工程においてクリンカーと成形物との間の熱交換により、クリンカーを単にクーラーで冷却した場合よりもクリンカーの冷却速度が高いため、クリンカーの水硬性が向上したものと推定する。
また、ブレーン比表面積が4000cm2/gの高炉スラグ(無機バインダー)を用いた実施例13の圧縮強さは、12000cm2/gの高炉スラグを用いた比較例3と比べ、特に、材齢3日および材齢7日において高い。
前記のとおり、クリンカー100質量部に対し、炭素含有率が10%の石炭灰を用いた成形物を石炭灰換算で、それぞれ、2質量部(実施例1)、12質量部(実施例2、4)、および43質量部(実施例12)使用した場合、セメントクリンカー1トンあたりの燃料コストの低減額は、それぞれ、52円、288〜354円、および965円となる。
なお、実施例2と4において、成形物を同量(12質量部)投入しているにもかかわらず、燃料コストの低減額が288円および354円と異なるのは、燃料でもある有機バインダーの含有率の相違(2%と5%)に基づくものである。
実施例1〜14のセメント組成物のモルタルの空気量は、普通ポルトランドセメントのモルタルの空気量と同等であった。また、比較例5のモルタルの表面には黒ずみ(炭素)が観察されたが、実施例1〜14のセメント組成物のモルタルの表面には黒ずみは観察されなかった。
2 圧縮試験機(オートグラフ)
3 上側の部材
4 下側の部材
5 ロータリーキルン
6 プレヒーター
7 クーラー
8 窯前
9 メインバーナー
10 クリンカーの落下地点
Claims (5)
- 下記(A)〜(C)工程を含むセメント組成物の製造方法。
(A)ボーグ式を用いて算出したセメント鉱物組成が、C3Sで20〜80%、C2Sで5〜60%、C3Aで1〜16%、およびC4AFで6〜16%であるセメントクリンカーを焼成するセメントクリンカー焼成工程
(B)前記セメントクリンカー100質量部に対し、石炭灰、バインダー、および水を下記(b1)または(b2)に記載の割合で含む組成物を成形してなる、圧壊強度が5〜2000Nおよび落下強度が70%以上の成形物を0.2〜100.0質量部の割合で、クーラー内の800〜1400℃の領域に投入してセメントクリンカーと混合するとともに、該成形物中に含まれる炭素および有機物を燃焼させて除去する炭素等除去工程
(b1)有機バインダーを含む組成物の場合
石炭灰を95〜99.5%および有機バインダーを0.5〜5%含み、かつ、石炭灰と有機バインダーの合計100質量部に対し水を2〜35質量部含む
(b2)無機バインダーを含む組成物の場合
石炭灰を60〜99.5%および無機バインダーを0.5〜40%含み、かつ、石炭灰と無機バインダーの合計100質量部に対し水を2〜35質量部含む
(C)前記セメントクリンカーと前記成形物の混合物(a)、または混合物(a)にさらに石膏を添加した混合物(b)を粉砕する混合物粉砕工程 - 前記バインダーが、澱粉類、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアルキレンオキサイド、ポリカルボン酸類、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、エチレン・酢酸ビニル樹脂、スチレン・ブタジエンゴム、天然ゴム、寒天、およびゼラチンから選ばれる1種以上の有機バインダーである、請求項1に記載のセメント組成物の製造方法。
- 前記バインダーが、セメント、石膏粉末、ポゾラン粉末、シリカ粉末、石灰石粉末、セメントキルンダスト、膨張材、建設発生土粉末、焼却灰、スラグ粉末、および粘土粉末から選ばれる1種以上の無機バインダーであって、該無機バインダーのブレーン比表面積が2000〜10000cm2/gである、請求項1に記載のセメント組成物の製造方法。
- 前記(C)工程において、前記混合物(a)または混合物(b)に対し、さらに、高炉スラグ粒、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石炭灰、シリカ粉末、石灰石、石灰石粉末、およびセメントキルンダストから選ばれる1種以上を添加してなる混合物(c)を粉砕する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
- 前記石炭灰の炭素含有率が3質量%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
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