JP5986061B2 - 架線・パンタグラフ系の走行シミュレーション装置 - Google Patents
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パンタグラフや架線に生じている実現象を最も正確に評価できるのは、実車両に実架線下を走行させて測定する現車試験であるが、高圧部位であるパンタグラフについて測定したデータをリアルタイムで取得するためにテレメータを利用するなど、大がかりな試験となり安易に実施することはできない。したがって、たとえば新規に開発したパンタグラフの評価をする場合などでは、事前により簡便な試験による予備的な性能確認をした上で、最終段階に適用することが好ましい。
一方、架線・パンタグラフ系の走行シミュレーション技術として、有限差分法や三次元の有限要素法に基づく手法が確立されている。
HILSでは、評価の対象とする機械構造物や電子機器等については実機を使用し、稼働状態で作用する外乱をシミュレーションで表現するので、装置のモデル化が不要で、実機の構造変更も直ちに試験に反映させることができる。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、指定する架線に沿って走行するときのパンタグラフの性能を評価することができる、より実用的な、架線・パンタグラフ系の走行シミュレーション装置を提供することである。
また、架線の力学モデルは、有限差分法または有限要素法により構築することができる。有限差分法あるいは有限要素法を用いてモデル化した場合は、架線の延長方向に変化する伝達関数を高い精度で算定して、パンタグラフの走行を模擬することができる。
また、パンタグラフの上に当てられた加振器は架線の延長方向に垂直な枕木の方向にリアルタイムに移動するように構成してもよい。加振器の位置をパンタグラフ上で動かすことができれば、パンタグラフに接触する架線が左右に変位する場合を模擬して、架線・パンタグラフ系の評価をすることができる。
さらに、力学モデルにおける変動要素となる位置依存関数または時間関数は、関数発生器により調整することができるパラメータとして力学モデルに取り込み、コンピュータで制御するようにすることができる。なお、関数発生器も、シミュレータあるいはコンピュータに含まれる構成とすることができる。
上記のシミュレーションは、高速演算が可能なDSP(Digital Signal Processor)を用いたHILS(Hardware In the Loop Simulation)により実行することができる。
図1は、本実施形態の架線・パンタグラフ系の走行シミュレーション装置の構成を示すブロック図、図2は架線のリアルタイムシミュレーションに採用する架線の力学モデルの1例を示す図面である。
リアルタイムシミュレータ1は、架線の力学モデルにしたがって架線の運動を摸擬し、リアルタイムベースで各部の運動状態、特に、トロリ線の変位を算出し変位量の情報を出力する。なお、演算結果を実時間ベースで出力するリアルタイムシミュレータ1は、高速演算が可能なDSP(Digital Signal Processor)で構成することができる。
ホストコンピュータ9は、リアルタイムシミュレータ1から演算結果など必要な情報を受容すると共に、パンタグラフ11に設けた力測定器や変位測定器などの各種計測器3,12から運動状態を示す情報が供給されて、架線・パンタグラフ系の運動状態を把握することができる。また、適宜なGUIを用いた入出力装置10を備えて、操作員への情報提供および操作員による制御介入が行えるようになっている。
なお、関数発生器7は、リアルタイムシミュレータ1あるいはホストコンピュータ9に含まれる要素として構成することもできる。さらに、リアルタイムシミュレータ1がホストコンピュータ9の内部にソフトウエアによって構築されたものであってもよい。
現在実用化されている架線には様々なタイプがあり、力学モデルは対象とする架線ごとに構築する必要がある。たとえば、新幹線のコンパウンド架線においては、通常、約50mおきに設けられた電柱から吊架線が支持されており、吊架線から補助吊架線が約10mおきにドロッパで支持されている。さらに、補助吊架線からトロリ線が約5mおきにハンガにより支持される。
なお、有限要素法や有限差分法を用いて架線系をモデル化する方法は、線条の曲げ剛性を考慮できるという観点から、高精度なモデル化手法として活用できるが、モデルの規模と計算時間の間にトレードオフの関係があるため、リアルタイムシミュレーションに適用するときには、リアルタイムシミュレータの性能を考慮して、モデルの規模を適切に選択する必要がある。
図2に示す系の運動方程式は下の(1)式で表される。
このように、計算結果を実時間と同じタイミングで出力するリアルタイムシミュレーションを実行することにより、加振器5があたかも架線であるように振る舞うようになり、実際のパンタグラフ11とリアルタイムシミュレーションで運動を摸擬した架線との間の運動状態が的確に再現される。
本実施形態の架線・パンタグラフ系の走行シミュレーションの有効性を確認するため、パンタグラフを用いずに、架線のリアルタイムシミュレーションの動作試験を行った。図3はこの動作試験に用いた構成を示すブロック図、図4は検証に用いた架線モデルを示す図面、図5は架線モデルの物理定数を示す表1である。
さらに、こうしして得られた周波数応答関数に基づいて系のモード特性を同定し、解析的に求めたモード特性と比較した。
図6のグラフは、質点1の駆動点アクセレランス(加速度/加振力)について比較するものである。図6の上段はコヒーレンス、中段は位相、下段は振幅幅を示す。
さらに、表2に示した固有振動数と減衰比について比較すると、各質点において、シミュレーションによる同定値が理論値とほぼ一致している。
このように、本実施形態の架線のリアルタイムシミュレータは、対象とする動的システムの特性を的確に表現できることが確認できた。
次に、本実施形態の架線・パンタグラフ系の走行シミュレータにより実際のパンタグラフを組み込んで行った試験結果と、パンタグラフを含む系の力学モデルを使ったリアルタイムシミュレーションにより得られたシミュレーション結果とを対比して、有効性の検証を行った結果を示す。
対比試験は、図1に示した本実施形態の架線・パンタグラフ系の走行シミュレーション装置により、実機パンタグラフと架線モデルを使用して行った。架線のモデルは、図2に示した時変剛性を有する1自由度系を用いて、支持点やハンガ点の吊架間隔に起因する剛性の変動を表現した。図2に示す系の運動方程式は、前出の(1)式に示すとおりである。
また、試験には新幹線用シングルアームパンタグラフを使用し、100km/hで走行する状態を摸擬した。時間積分にはオイラー法を用い、1ms間隔で計算を実行した。
このシミュレーションでは、図8に示すように、架線モデルとパンタグラフの力学モデルを接触を表現するばね・ダンパで結合した架線・パンタグラフ系モデルを用いて、トロリ線押上量と接触力を計算した。
ここで、架線のモデルは本実施形態の走行シミュレーション装置で用いたものと同じもので、パンタグラフのモデルは本実施形態の走行シミュレーション装置で用いたパンタグラフの2自由度モデルである。
また、架線に係る質量mt、減衰ct、時変剛性kt(t)は、本実施形態の走行シミュレーション装置で用いたものと同じ値とした。
さらに、質点2に掛かる静押上力P0も、本実施形態の走行シミュレーション装置で用いたものと同じ54Nとした。
図9では、横軸に時間を表し、上段に架線モデルの等価剛性kt(t)、中段に接触力、下段にトロリ線押上量を表しており、縦に引かれた一点鎖線は支持点が到来した時刻を意味する。また、グラフの実線は本実施形態の走行シミュレーション装置による演算結果、点線はリアルタイムシミュレーションにより架線・パンタグラフ系の力学モデルを使って得られたシミュレーション結果を示す。
なお、上記発明の詳細な説明では、主に、時変剛性を有する1自由度振動系を架線の力学モデルとして用いる場合に基づいて記載したが、さらに、線条の曲げ剛性,金具類の重量、ハンガの浮き、架線の波動などを含めて解析したい場合には、有限要素法や有限差分法などを用いてさらに詳細な物理モデルを構築して利用することが好ましい。ただし、詳細な物理モデルを処理するためには高性能のシミュレータあるいはコンピュータを使用する必要があることにも注意する必要がある。
21:リアルタイムシミュレータ、23:ロードセル、25加振器、26:加振器アンプ、29:ホストコンピュータ。
Claims (5)
- パンタグラフに作用する加振器と、該パンタグラフに備えたもので前記パンタグラフと前記加振器の間の接触力値を実測して出力する接触力測定器と、トロリ線を支持する架線の力学モデルを用いたシミュレータとを含む走行シミュレーション装置であって、
前記シミュレータは、前記架線について位置により変化する応答特性を示す変動関数を発生する関数発生器を備えて、該関数発生器で発生する前記応答特性を取り込んだ前記架線の力学モデルを収納していて、
該シミュレータが前記接触力測定器から出力される前記接触力値をリアルタイムで入力し、該入力された接触力値に対応する前記トロリ線の変位を前記架線の力学モデルに基づいて前記パンタグラフの仮想的な走行距離に応じてリアルタイムで算定し、該算定したトロリ線の変位に応じて前記加振器をリアルタイムで駆動することを特徴とする架線・パンタグラフ系の走行シミュレーション装置。 - 前記架線の力学モデルは、ばね・質点系モデルとして力学モデル化されたもので、前記変動関数はばね定数に反映されることを特徴とする請求項1記載の架線・パンタグラフ系の走行シミュレーション装置。
- 前記架線の力学モデルは、有限差分法または有限要素法により構築された力学モデルで、前記変動関数は伝達関数に反映されることを特徴とする請求項1記載の架線・パンタグラフ系の走行シミュレーション装置。
- 前記変動関数は、架線の位置または演算上の時間に依存する関数である請求項1から3のいずれか1項に記載の架線・パンタグラフ系の走行シミュレーション装置。
- 前記加振器は、架線の延長方向に垂直な枕木の方向に移動するように構成される請求項1から4のいずれか1項に記載の架線・パンタグラフ系の走行シミュレーション装置。
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