JP5977054B2 - アルミナバリア層を有する鋳造製品の製造方法 - Google Patents
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一方、これら金属酸化物としてCr酸化物(主にCr2 O 3からなる)が形成されてしまうと、緻密性が低いため、酸素や炭素の侵入防止機能が十分ではなく、高温雰囲気下で内部酸化を起こし、酸化物皮膜が肥大化する。また、これらCr酸化物は、加熱と冷却の繰り返しサイクルにおいて剥離し易く、剥離に到らない場合であっても、外部雰囲気からの酸素や炭素の侵入防止機能が十分でないから、皮膜を通過して母材に内部酸化や浸炭を生じる不都合がある。
このため、上記特許文献のオーステナイト系耐熱合金は、Al2O3によるバリア機能の向上を期待することはできても、母材の延性低下を招来する不都合がある。
高温雰囲気で使用される鋳造製品であって、質量%にて、Cr15%以上Ni18%以上を含有し、Alを2〜4%含有する耐熱合金の第1鋳造体と第2鋳造体を溶接することにより得られる鋳造製品の製造方法であって、
第1鋳造体と第2鋳造体を溶接により接合するステップ、
接合された溶接部に表面処理を施すステップ、
表面処理を施した溶接部に熱処理を施すステップと、
を含んでいる。
高温雰囲気で使用され、質量%にて、Cr15%以上Ni18%以上を含有し、Alを2〜4%含有する耐熱合金の第1鋳造体と第2鋳造体を溶接してなる鋳造製品であって、
第1鋳造体と第2鋳造体の溶接部は、Al2O3を含むアルミナバリア層で被覆されている。
このように溶接部の表面粗さの調整を行なった後に熱処理を施すことで、熱影響部や溶金部分を含む溶接部にAl2O3を含むアルミナバリア層を形成することができる。このとき、表面処理が施された第1鋳造体と第2鋳造体と溶接部を同時に熱処理できる。
従って、得られた鋳造製品は、第1鋳造体、第2鋳造体のみならず、溶接部に亘る連続した表面全体にAl2O3を含むアルミナバリア層が形成されることとなるから、高温雰囲気での使用において、鋳造体表面だけでなく溶接部も、酸素、炭素、窒素等が侵入することを効果的に防止できる。
本発明は、Cr15%以上Ni18%以上を含有し、Alを2〜4%含有する耐熱合金の第1鋳造体と第2鋳造体を溶接し、接合された第1鋳造体と第2鋳造体の溶接部に表面処理を施し、その後、溶接部に熱処理を施すことにより、溶接部がAl2O3を含む所謂「アルミナバリア層」で形成された鋳造製品を得るものである。なお、本明細書において、「%」は、特に表示がないときは、全て質量%である。
Crは、高温強度及び繰返し耐酸化性の向上への寄与の目的のため、15%以上含有させる。しかし、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は50%とする。なお、Crの含有量は23〜35%がより望ましい。
Niは、繰返し耐酸化性及び金属組織の安定性の確保に必要な元素である。また、Niの含有量が少ないと、Feの含有量が相対的に多くなる結果、鋳造体の表面にCr−Fe−Mn酸化物が生成され易くなるため、アルミナバリア層の生成が阻害される。このため、少なくとも18%以上含有させるものとする。70%を超えて含有しても増量に対応する効果が得られないので、上限は70%とする。なお、Niの含有量は28〜45%がより望ましい。
Alは耐浸炭性及び耐コーキング性の向上に有効な元素である。また、本発明では、鋳造体の表面にアルミナバリア層を生じさせるために必要不可欠の元素である。このため、少なくとも2%以上含有させる。しかし、含有量が4%を超えると、前述したように延性が劣化するため、本発明では上限を4%に規定する。なお、Alの含有量は2.5〜3.8%がより望ましい。
Cは、鋳造性を良好にし、高温クリープ破断強度を高める作用がある。このため、少なくとも0.05%を含有させる。しかし、含有量があまり多くなると、Cr7C3の一次炭化物が幅広く形成され易くなり、アルミナバリア層を形成するAlの移動が抑制されるため、鋳造体の表面部へのAlの供給不足が生じて、アルミナバリア層の局部的な寸断が起こり、アルミナバリア層の連続性が損なわれる。また、二次炭化物が過剰に析出するため、延性、靱性の低下を招く。このため、上限は0.7%とする。なお、Cの含有量は0.3〜0.5%がより望ましい。
Siは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯合金の流動性を高めるために含有させるが、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は2.5%とする。なお、Siの含有量は2.0%以下がより望ましい。
Mnは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯中のSを固定するために含有させるが、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は3.0%とする。なお、Mnの含有量は1.6%以下がより望ましい。
希土類元素とは、周期律表のLaからLuに至る15種類のランタン系列に、YとScを加えた17種類の元素を意味するが、本発明の耐熱合金に含有させる希土類元素は、Ce、La及びNdからなる群のうち少なくとも一種以上が含まれることが好ましい。この希土類元素は、アルミナバリア層の生成と安定化の促進に寄与する。
アルミナバリア層の生成を高温の酸化性雰囲気下での加熱処理によって行なう場合は、希土類元素を0.005%以上含有させることでアルミナバリア層生成に有効に寄与する。
一方、あまりに多く含有すると、延性、靱性が悪化するので、上限は0.4%とする。
W、Moは、基地中に固溶し、基地のオーステナイト相を強化することにより、クリープ破断強度を向上させる。この効果を発揮させるために、W及びMoの少なくとも一種を含有させるものとし、Wの場合は0.5%以上、Moの場合は0.1%以上含有させる。
しかし、W及びMoは、含有量があまり多くなると、延性の低下や、耐浸炭性の劣化を招く。また、Cが多い場合と同じように、(Cr,W,Mo)7C3の一次炭化物が幅広く形成され易くなり、アルミナバリア層を形成するAlの移動が抑制されるため、鋳造体の表面部分へのAlの供給不足が生じ、アルミナバリア層の局部的な寸断が起こり、アルミナバリア層の連続性が損なわれ易くなる。また、WやMoは原子半径が大きいため、基地中に固溶することにより、AlやCrの移動を抑制してアルミナバリア層の生成を妨げる作用がある。
このため、Wは10%以下、Moは5%以下とする。なお、両元素を含有する場合でも、合計含有量は10%以下とすることが好ましい。
Ti、Zr及びNbは、炭化物を形成し易い元素であり、WやMoほど基地中には固溶しないため、アルミナバリア層の形成には特段の作用は認められないが、クリープ破断強度を向上させる作用がある。必要に応じて、Ti、Zr及びNbの少なくとも一種を含有させることができる。含有量は、Ti及びZrが0.01%以上、Nbが0.1%以上である。
しかし、過剰に添加すると、延性の低下を招く。Nbは、さらに、アルミナバリア層の耐剥離性を低下させる。このため、上限は、Ti及びZrは0.6%、Nbは3.0%とする。
Bは、鋳造体の粒界を強化する作用があるので、必要に応じて含有させることができる。なお、含有量が多くなるとクリープ破断強度の低下を招くため、添加する場合でも0.1%以下とする。
本発明の鋳造製品を構成する第1鋳造体及び第2鋳造体は、溶湯を溶製し、遠心力鋳造、静置鋳造等により上記組成に鋳造される。
得られた第1鋳造体及び第2鋳造体は、溶接接合を行なうことで目的とする用途に応じた形状とすることができる。
なお、溶接を行なう前に、必要に応じて開先加工等を施すこともできる。
また、本発明において溶接方法や溶接時に用いられる溶接棒の組成は制約されるものではなく、本発明の鋳造体を溶接可能な方法として、TIG溶接、アーク溶接等が例示できる。
表面処理は、研磨処理を例示することができる。この表面処理は、製品使用時に高温雰囲気と接触することとなる対象部位の全体に行なうことが望ましい。ただし、対象部位全体を同時に行う必要はなく、溶接部以外は予め表面処理等を行なって表面粗さを調整し、溶接部のみ又は溶接部とその近傍のみに表面処理を施してもよい。
溶接により接合された鋳造体に表面処理を施した後、以下の条件の熱処理を行なう。
熱処理は、酸化性雰囲気下にて加熱処理を施すことで実施される。
酸化性雰囲気とは、酸素を20体積%以上含む酸化性ガス、又はスチームやCO2が混合された酸化性環境である。また、加熱処理は、900℃以上、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1050℃以上の温度で行ない、加熱時間は1時間以上である。
上記のように、溶接部に対して、溶接、表面処理及び熱処理を順に行なうことで、溶接により生ずる鋳造体の熱影響部と溶金部を含む溶接部にアルミナバリア層が安定して形成された鋳造製品を得ることができる。
本発明の鋳造製品に形成されるAl2O3を含むアルミナバリア層は、緻密性が高く、外部から酸素、炭素、窒素の母材への侵入を防ぐバリアとしての作用を有する。本発明では、上述のように、鋳造体を、目的とする用途の鋳造体どうしを溶接した後、製品使用時に高温雰囲気と接触することとなる部位に表面処理を行ない、該部位の表面粗さを調整し、その後に、前記部位を酸化性雰囲気中で加熱処理することにより、鋳造製品の溶接部を挟んで連続する前記表面に、アルミナバリア層として、連続してAl2O3が形成されるようにする。これにより、鋳造体の表面にアルミナバリア層が形成されるだけでなく、溶接により鋳造体の突合せ面に生じる熱影響部を含む溶接部にもアルミナバリア層を形成することができる。
また、鋳造体の最表面にCr2 O 3を主体とするCr酸化物スケールが分散して形成されて、前述したように剥離し易く、剥離する際にその下にあるアルミナバリア層が一緒に剥がれることもある。
なお、表1中、「REM」は希土類元素を表わす。
これら供試管に対し、管内面側の溶接部を中心として幅方向に約20mm〜40mmの範囲に粗加工であるスカイビングを行なった。
さらに、供試管No.1〜No.8、No.11及びNo.12(即ち、供試管No.13以外)については、ペーパー研磨による表面処理を行なった。
各供試管の溶接部における表面粗さ(Ra)を表1に示している。
発明例である供試管No.4と、比較例である供試管No.13について、供試管を軸方向に切断した写真を夫々図1及び図2に示す。
図1と図2を比較すると、本発明例である供試No.4は、溶接部に光沢があり、面処理により溶接部の凹凸が低減していることがわかる。
表面処理の後、すべての供試管について、大気中(酸素約21%)、1000℃、10時間の加熱を施し、加熱後、炉冷する処理を行なった。
前記処理を行なった後の各試験管について、溶接部を含む幅20mm×長さ30mmの供試片を切り出し、供試片の内側の溶接部に形成されたアルミナバリア層の皮膜厚さ(μm)とAl2O3の面積率(%)を測定した。その測定方法を以下に示し、また、これらの測定結果を表2中に「皮膜厚さ」、「面積率」として記載している。
供試片の溶接部表面に対するアルミナバリア層の層厚の測定は、SEM(走査型電子顕微鏡)により行なった。なお、アルミナバリア層が生成されなかったもの、アルミナバリア層の一部に厚さ0.05μm未満(厚さゼロを含む)の箇所が断続的に存在するものは、表2中、「N」の文字を付している。
供試片の溶接部表面に対するAl2O3の面積率は、SEM/EDX(走査型分析電子顕微鏡)測定試験機を用いた。測定は、供試片の溶接部表面の1.35mm×1mmの領域について実施し、Alの分布状況を面分析して、その分布量を面積率に換算した。
供試管から引張試験片をJIS Z2201に準拠して試験片を作製し、延性試験を行なった。
具体的には、試験片は、溶接部を含む平行部径10mm、平行部長さ50mmを加工し、JIS Z2241の金属材料引張試験方法に従って延性試験を行なった。なお、試験は室温で行なったが、その理由は、高温で行なうよりも差が明確に現れるためである。
表2を参照すると、発明例である供試管No.1〜No.8は、比較例である供試管No.11〜No.13に比して、アルミナバリア層の皮膜厚さ及び面積率は何れも良好であることが判る。
発明例どうしを比較したときに、供試管No.7及びNo.8は、皮膜厚さ及び面積率の点で他の発明例に比べて劣るが、これは、供試管No.7の表面処理による表面粗さが粗く、供試管No.8の表面処理における表面粗さが細かすぎるためである。従って、溶接部のアルミナバリア層が80面積%以上となるには、溶接部に施す表面処理は、表面粗さ(Ra)を0.05〜2.5μmとすることが好適であることが判る。
また、本発明の実施例である供試管No.4と、比較例である供試管No.13から得られた供試片について、溶接部に対して垂直な断面写真を撮影すると共に、断面SEM分析を行なった。断面SEM分析に際し、供試片にNiメッキを施して、ステンレス鋼シートで覆い、さらにその上から樹脂被覆を施した。
得られた発明例と比較例の断面写真を夫々図3及び図4に、発明例と比較例の断面SEM分析による拡大写真を夫々図5及び図6に示す。
図を参照すると、発明例は、皮膜厚さ0.5μmのアルミナバリア層が基材の表面に均一に形成されていることがわかる。一方、比較例は、表面の凹凸が大きく、アルミナバリア層が上手く形成されていないことが判る。
これら断面写真からも本発明の優位性が理解されるであろう。
Claims (10)
- 質量%にて、Cr15%以上Ni18%以上を含有し、Alを2〜4%含有する耐熱合金の第1鋳造体と第2鋳造体を溶接することにより得られる鋳造製品の製造方法であって、
第1鋳造体と第2鋳造体を溶接により接合するステップ、
接合された溶接部に表面処理を施すステップ、
表面処理を施した溶接部に熱処理を施すことで、溶接部にAl 2 O 3 を含むアルミナバリア層を形成するステップと、
を含んでいることを特徴とする鋳造製品の製造方法。 - 表面処理は、研磨処理である請求項1に記載の鋳造製品の製造方法。
- 表面処理は、酸処理である請求項1に記載の鋳造製品の製造方法。
- 熱処理により、鋳造体の表面に、厚み0.05μm以上のAl2O3を含むアルミナバリア層が形成される請求項1乃至請求項3に記載の鋳造製品の製造方法。
- 第1鋳造体及び第2鋳造体は、質量%にて、C:0.05〜0.7%、Si:0%を越えて2.5%以下、Mn:0%を越えて3.0%未満、Cr:15〜50%、Ni:18〜70%、Al:2〜4%、希土類元素:0.005〜0.4%、並びに、W:0.5〜10%及び/又はMo:0.1〜5%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項1乃至請求項4の何れかに記載の鋳造製品の製造方法。
- 第1鋳造体及び第2鋳造体は、さらに、質量%にて、Ti:0.01〜0.6%、Zr:0.01%〜0.6%及びNb:0.1〜3.0%の少なくとも一種を含有する請求項5に記載の鋳造製品の製造方法。
- 第1鋳造体及び第2鋳造体は、さらに、質量%にて、B:0.01%を越えて0.1%以下を含有する請求項5又は請求項6に記載の鋳造製品の製造方法。
- 第1鋳造体と第2鋳造体は、夫々管体であって、接合は、突合せ溶接により行なわれる請求項1乃至請求項7の何れかに記載の鋳造製品の製造方法。
- 表面処理は、溶接部の表面粗さ(Ra)が0.05〜2.5μmとなるように実施される、
請求項1乃至請求項8の何れかに記載の鋳造製品の製造方法。 - 鋳造製品は、エチレン製造用反応管又は分解管である、
請求項1乃至請求項9の何れかに記載の鋳造製品の製造方法。
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