本発明のガスバリアーフィルムは、基材と、前記基材の少なくとも片方の表面上に形成された少なくとも一層のガスバリアー層とを備えるガスバリアーフィルムであって、前記ガスバリアー層のうちの少なくとも一層がケイ素、酸素及び窒素を含有しており、当該ガスバリアー層についてのX線光電子分光法による深さ方向の元素分布測定に基づく各構成元素の分布曲線のうち、当該ガスバリアー層の層厚方向における該ガスバリアー層の表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子の合計量(100at%)に対する窒素原子の量の比率(「窒素原子比率(at%)」という。)との関係を示す窒素分布曲線が、大きさが相違する二つ以上の極大値を有し、当該ガスバリアー層の表面からの距離の変化に対応して、複数の当該極大値が当該窒素分布曲線上に非周期的に出現し、かつ、前記ガスバリアー層を厚さ方向に二等分したときの二つの領域A及びBにおける前記窒素原子比率の平均値の差が、7〜17at%の範囲内であることを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項5までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記窒素分布曲線の極大値の最大値と極大値の最小値の差が、20〜30at%の範囲内であることが、共振周波数の異なるバネが複数本繋がっているようなガスバリアー層を形成し、長時間連続した振動にさらされても、ガスバリアー性の低下を十分に抑制することが可能となり、好ましい。
さらに、本発明のガスバリアーフィルムの製造方法としては、前記ガスバリアー層を、プラズマ化学気相成長法により基材上に形成する製造方法であることが好ましく、特に前記基材を一対の成膜ローラーのそれぞれに接触させながら搬送し、当該一対の成膜ローラー間に窒素ガス又はアンモニアガスと酸素ガスとを含む成膜ガスを供給しながらプラズマ放電を行って、前記基材上に前記ガスバリアー層を形成する製造方法であることが好ましい。
また、前記ガスバリアー層の形成を、前記成膜ガスに含有される酸素ガスの濃度(vol%)を変えて調製した複数種の成膜ガスを用いて、かつ複数回行う製造方法であることが、当該ガスバリアーフィルムを生産性よく効率的に製造することができ、好ましい。
なお、本発明でいう「ガスバリアー性」とは、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(温度:60±0.5℃、相対湿度(RH):90±2%)が3×10−3g/m2・24h以下であり、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/m2・24h・atm以下であることを意味する。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
<本発明のガスバリアーフィルムの概要>
本発明のガスバリアーフィルムは、基材と、前記基材の少なくとも片方の表面上に形成された少なくとも一層のガスバリアー層とを備えるガスバリアーフィルムであって、前記ガスバリアー層のうちの少なくとも一層がケイ素、酸素及び窒素を含有しており、かつ、当該ガスバリアー層についてのX線光電子分光法による深さ方向の元素分布測定に基づく各構成元素の分布曲線のうち、当該ガスバリアー層の層厚方向における該ガスバリアー層の表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子の合計量(100at%)に対する窒素原子の量の比率(「窒素原子比率(at%)」という。)との関係を示す窒素分布曲線が少なくとも一つの極値を有することを特徴とする。当該窒素分布曲線において少なくとも一つの極値を有することによって、ガスバリアー層の層厚方向での窒素原子と酸素原子とが特定の分布を有することで、均一な組成構造を有するガスバリアー層に比較して、優れた屈曲性とガスバリアー性を両立し、長時間連続した振動にさらされても、ガスバリアー性の低下を十分に抑制することが可能なガスバリアーフィルムを得ることができる。
さらに、前記該ガスバリアー層の窒素分布曲線が、大きさが相違する二つ以上の極大値を有し、かつ当該ガスバリアー層の表面からの距離の変化に対応して、複数の当該極大値が当該窒素分布曲線上に非周期的に出現することが好ましい。
なお、上記窒素分布曲線における、「ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子の合計量」とは、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子の合計数を意味し、「窒素原子の量」とは窒素原子数を意味する。同様に、ケイ素分布曲線におけるケイ素原子の量、及び酸素分布曲線における酸素原子の量についても同義であり、単位は「at%(原子%)」とする。
<ガスバリアーフィルムの構成>
本発明のガスバリアーフィルムの構成は特に限定されるものではないが、図1(a)に一例を示す。ガスバリアーフィルム1aは、基材1の上に、ガスバリアー層3が積層されてなるガスバリアーフィルムである。その際、基材1とガスバリアー層3の間に平滑層2を設けることは、基材表面の凹凸を薄層であるガスバリアー層に影響させにくくするため、好ましい。
また、本発明のガスバリアーフィルムを電子デバイスに適用する場合は、複数の機能性層を有する態様であることも好ましい。その一例としては、例えば、図1(b)に示すように、基材1の上に平滑層2を備え、その平滑層2上にガスバリアー層3が積層され、更に当該ガスバリアー層3上に、例えばポリシラザン等を含む第2のガスバリアー層4が積層されており、更に第2のガスバリアー層4上にはオーバーコート層5が積層されている態様なども好ましい例として挙げることができる。
<基材>
本発明のガスバリアーフィルムの基材としては、特に限定されるものではないが、ガスバリアー層を保持することができる有機材料で形成された樹脂基材あることが軽量化の観点から好ましい。
例えば、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリスチレン(PS)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、及びポリエーテルイミド等の各樹脂フィルム、更には前記樹脂を二層以上積層して成る樹脂フィルム等を挙げることができる。コストや入手の容易性の点では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びポリカーボネート(PC)などが好ましく用いられる。
樹脂基材の厚さは5〜500μm程度が好ましく、更に好ましくは25〜250μmの範囲である。
また、本発明に係る樹脂基材は透明であることが好ましい。樹脂基材が透明であり、樹脂基材上に形成する層も透明であることにより、透明なガスバリアーフィルムとすることが可能となるため、有機EL素子等の透明基板とすることも可能となるからである。
また、上記に挙げた樹脂等を用いた樹脂基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。強度向上、熱膨張抑制の点から延伸フィルムが好ましい。また延伸により位相差等を調整することもできる。
本発明に用いられる樹脂基材は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の樹脂基材を製造することができる。また、材料となる樹脂を溶媒に溶解し、無端の金属支持体上に流延(キャスト)して乾燥、剥離することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の樹脂基材を製造することもができる。
未延伸の樹脂基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、樹脂基材の流れ(縦軸)方向、又は樹脂基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸樹脂基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、樹脂基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2〜10倍の範囲が好ましい。
また本発明に用いられる樹脂基材は、寸法安定性の点で弛緩処理、オフライン熱処理を行ってもよい。弛緩処理は前記ポリエステルフィルムの延伸製膜工程中の熱固定した後、横延伸のテンター内、又はテンターを出た後の巻取りまでの工程で行われるのが好ましい。弛緩処理は処理温度が80〜200℃の範囲で行われることが好ましく、より好ましくは処理温度が100〜180℃の範囲である。オフライン熱処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、複数のローラー群によるローラー搬送方法、空気をフィルムに吹き付けて浮揚させるエアー搬送などにより搬送させる方法(複数のスリットから加熱空気をフィルム面の片面あるいは両面に吹き付ける方法)、赤外線ヒーターなどによる輻射熱を利用する方法、フィルムを自重で垂れ下がらせ、下方で巻き等搬送方法等を挙げることができる。熱処理の搬送張力は、できるだけ低くして熱収縮を促進することで、良好な寸法安定性の樹脂基材となる。処理温度としてはTg+50〜Tg+150℃の温度範囲が好ましい。ここでTgとは樹脂のガラス転移温度(℃)をいう。
本発明に係る樹脂基材は、製膜過程で片面又は両面にインラインで下引層塗布液を塗布することができる。本発明において、製膜工程中での下引塗布をインライン下引という。本発明に有用な下引層塗布液に使用する樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンイミンビニリデン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂及びゼラチン等を挙げることができ、いずれも好ましく用いることができる。これらの下引層には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記の下引層は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法によりコーティングすることができる。上記の下引層の塗布量としては、0.01〜2g/m2(乾燥状態)程度が好ましい。
以下、本発明に係るガスバリアー層の詳細について説明する。
<ガスバリアー層>
本発明のガスバリアーフィルムは、基材と、前記基材の少なくとも片方の表面上に形成された少なくとも一層のガスバリアー層とを備えるガスバリアーフィルムであって、前記ガスバリアー層のうちの少なくとも一層がケイ素、酸素及び窒素を含有しており、当該ガスバリアー層についてのX線光電子分光法による深さ方向の元素分布測定に基づく各構成元素の分布曲線のうち、当該ガスバリアー層の層厚方向における該ガスバリアー層の表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子の合計量(100at%)に対する窒素原子の量の比率(「窒素原子比率(at%)」という。)との関係を示す窒素分布曲線が、大きさが相違する二つ以上の極大値を有し、当該ガスバリアー層の表面からの距離の変化に対応して、複数の当該極大値が当該窒素分布曲線上に非周期的に出現し、かつ、前記ガスバリアー層を厚さ方向に二等分したときの二つの領域A及びBにおける前記窒素原子比率の平均値の差が、7〜17at%の範囲内であることを特徴とし、上記ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子含有膜構造中の窒素に特定の層内分布を持たせることによって、当該構造中の窒素の非共有電子対部分がねじれやすくなり、当該ねじれ部分が外部からの応力に対して優れた緩衝作用を発現し、長時間連続した振動にさらされてもガスバリアー性の劣化が小さい、ガスバリアーフィルムを提供するものである。
本発明に係るガスバリアー層の前記窒素分布曲線が、大きさが相違する二つ以上の極大値を有し、かつ当該ガスバリアー層の表面からの距離の変化に対応して、複数の当該極大値が当該窒素分布曲線上に非周期的に出現する構成によって、当該ガスバリアー層内に共振周波数の異なるバネが複数本繋がっている構造に似た構造を形成し、長時間連続した振動にさらされてもガスバリアー性の劣化が小さい、ガスバリアーフィルムを提供することができ、好ましい。
更に、本発明に係るガスバリアー層は、下記条件Aを満たすことが、ガスバリアー性、耐振動性、及び屈曲性を満足する観点から好ましい態様である。
〔条件(A)〕
ケイ素原子比率、酸素原子比率及び窒素原子比率が、該ガスバリアー層の層厚の90%以上の距離領域において下記式(1)を満たす。
(窒素原子比率)<(ケイ素原子比率)<(酸素原子比率)・・・(1)
ここでケイ素原子比率とは、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子の合計量(100at%)に対するケイ素原子の量の比率(at%)をいい、酸素原子比率とは、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子の合計量(100at%)に対する酸素原子の量の比率(at%)をいう。
なお、本発明において極値とは、各元素の原子比率の極大値又は極小値のことをいう。
また、本発明に係るガスバリアー層は、前記基材を一対の成膜ローラーのそれぞれに接触させながら搬送し、当該一対の成膜ローラー間に成膜ガスを供給しながらプラズマ放電を行うプラズマ化学気相成長法によって、前記基材上に形成する薄膜層であることが好ましい。
<窒素分布曲線上の極大値の非周期的な出現>
本発明に係る窒素分布曲線は少なくとも一つの極値を有するものであるが、大きさの異なる二つ以上の極大値を有し、かつ当該ガスバリアー層の表面からの距離の変化に対応して、複数の当該極大値が当該窒素分布曲線上に非周期的に出現することが好ましい。
図2は、窒素分布曲線の極大値が周期的、又は非周期的に出現する例を示した模式図である。図は一例であり本発明はこれに限定されるものではない。
図2の窒素分布曲線Cは、ガスバリアー層の表面(0nm)から基材に接する面(厚さ約600nm)までの深さ方向において、当該ガスバリアー層の表面からの距離の変化に対応して、極大値のピーク高さ、及びピーク間隔が0〜300nm(領域A)及び300〜600nm(領域B)において、ほぼ同様なパターンで繰り返し出現している様子を示しており、本願ではこのような繰り返し状態にあることを「周期的に出現する」と定義する。また、本願では図2で示すようにガスバリアー層を厚さ方向に二等分したときの二つの領域A及びBにおいて、中心線Pを境界として、当該極大値のパターンがPを起点とする距離に対して、ミラー状に面対称形で出現することも「周期的に出現する」に含める。
一方、窒素分布曲線Dは、ガスバリアー層の表面(0nm)から基材に接する面(厚さ約600nm)までの深さ方向において、当該ガスバリアー層の表面からの距離の変化に対応して、極大値のピーク高さ、及びピーク間隔が一定の高さ及び間隔で繰り返して出現することがなく、本願ではこのような繰り返し状態にあることを「非周期的に出現する」と定義する。すなわち、「非周期的に出現する」場合、当該ガスバリアー層を厚さ方向に二等分したときの領域A及びBの中心線Pを起点に考えると、領域A及びBにおける窒素分布曲線が対称形を示さないともいえる。
また、本願発明に係る「極大値が非周期的に出現する」窒素分布曲線では、ガスバリアー層を厚さ方向に二等分したときの、領域A及びBにおける当該窒素分布曲線から求められる窒素原子比率の平均値が異なるものであり、その差の絶対値が7〜17at%の範囲内であり、さらに10〜17at%の範囲内であることが好ましい。このような前記領域A及びBにおける窒素原子比率の平均値に差を有することで、本発明に係る窒素分布曲線において、「極大値が非周期的に出現」し、前記共振周波数の異なるバネが複数本繋がっている構造に近似した構造となり、本発明の効果を発現するものである。
〈窒素原子分布及び極値〉
本発明に係るガスバリアー層は、該ガスバリアー層の層厚方向の90%以上の距離領域において、窒素原子分布が濃度勾配を有して実質的に連続的に変化するものであることが前記共振周波数の異なるバネが複数本繋がっている構造を形成しやすく、好ましい。
〈実質連続の定義〉
本願において、窒素分布曲線が実質的に連続とは、窒素分布曲線における窒素原子比率が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される前記ガスバリアー層のうちの少なくとも一層の層厚方向における該ガスバリアー層の表面からの距離(x、単位:nm)と、窒素原子比率(N、単位:at%)との関係において、下記数式(F1):
(dN/dx)≦ 0.5 ・・・(F1)
で表される条件を満たすことをいう。
このようなガスバリアー層においては、層内における窒素分布曲線が、大きさの異なる二つ以上の極大値を有するものであり、更に、大きさの異なる三つ以上の極大値を有することが好ましい。窒素分布曲線が上記極大値を有する場合には、得られるガスバリアーフィルムの柔軟性が向上し、フィルムを屈曲させた場合においてもガスバリアー性が十分となる。また、このように大きさの異なる少なくとも二つ又は三つの極大値を有する場合においては、前記窒素分布曲線が有する一つの極大値及び該極大値に隣接する極大値における前記ガスバリアー層の層厚方向における距離の差の絶対値が、いずれも200nm以下であることが屈曲性に係わる柔軟性の観点から好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
〈極大値、及び極小値の定義〉
本発明において極大値とは、ガスバリアー層の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比率の値が増加から減少に変わる点であって、かつその点の元素の原子比率の値よりも、該点からガスバリアー層の層厚方向におけるガスバリアー層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比率の値が3at%以上減少する点のことをいう。
したがって、窒素分布曲線の極大値には、最大の極大値と最小の極大値があり、本願においては、前記窒素分布曲線の極大値の最大値と最小値の差が、20〜30at%の範囲内であることが好ましい。上記範囲内に調整することで、得られるガスバリアーフィルムの柔軟性を向上して優れた耐振動性を付与することができる。
また、本発明において極小値とは、ガスバリアー層の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、かつその点の元素の原子比率の値よりも、該点からガスバリアー層の層厚方向におけるガスバリアー層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比率の値が3at%以上増加する点のことをいう。
〈窒素原子比率の層全体の平均値〉
本発明に係るガスバリアー層の窒素原子比率は、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子の合計量(100at%)に対する層全体の平均値として8〜20at%の範囲内であることが、屈曲性の観点から好ましい。より好ましくは10〜20at%の範囲内である。当該範囲内にすることにより、ガスバリアー性と屈曲性を十分に満たすガスバリアー層を形成することができる。
〈窒素原子比率の極値の最大値と最小値の関係〉
前記ガスバリアー層の窒素分布曲線において、窒素原子比率の最大の極値と最小の極値との差の値が5at%以上であることが好ましい。前記差の値が5at%以上であれば、得られるガスバリアーフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリアー性が十分となる。前記差の値は6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。
〈酸素原子比率の極値の最大値と最小値の関係〉
前記ガスバリアー層の酸素分布曲線において、酸素原子比率の最大の極値と最小の極値との差の値が5at%以上であることが好ましい。前記差の値が5at%以上であれば、得られるガスバリアーフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリアー性が十分となる。前記差の値は6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。
〈ケイ素原子比率の極値の最大値と最小値の関係〉
本発明においては、前記ガスバリアー層のケイ素分布曲線における、ケイ素原子比率の最大の極値と最小の極値との差の値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。前記差の値が上記範囲内であれば、得られるガスバリアーフィルムのガスバリアー性及びガスバリアー層の機械的強度が十分となる。
〈XPSデプスプロファイルについて〉
上記ガスバリアー層の層厚方向におけるケイ素分布曲線、酸素分布曲線、及び窒素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比率(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は層厚方向における前記ガスバリアー層の層厚方向における前記ガスバリアー層の表面からの距離におおむね相関することから、「ガスバリアー層の層厚方向におけるガスバリアー層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出されるガスバリアー層の表面からの距離を採用することができる。また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar+)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用し、そのエッチング速度(エッチングレート)を0.05nm/sec(SiO2熱酸化膜換算値)とすることが好ましい。
また、本発明においては、膜面全体において均一で且つ優れたガスバリアー性を有するガスバリアー層を形成するという観点から、前記ガスバリアー層が膜面方向(ガスバリアー層の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。本願において、ガスバリアー層が膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定によりガスバリアー層の膜面の任意の2箇所の測定箇所について前記酸素分布曲線、前記窒素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる窒素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの窒素分布曲線における窒素の原子比率の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるか若しくは5at%以内の差であることをいう。
本発明のガスバリアーフィルムは、上記条件満たすガスバリアー層を少なくとも一層備えることが必要であるが、そのような条件を満たす層を二層以上備えていてもよい。さらに、このようなガスバリアー層を二層以上備える場合には、複数のガスバリアー層の材質は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、このようなガスバリアー層を二層以上備える場合には、このようなガスバリアー層は前記基材の一方の表面上に形成されていてもよく、前記基材の両方の表面上に形成されていてもよい。また、このような複数のガスバリアー層としては、ガスバリアー性を必ずしも有しないガスバリアー層を含んでいてもよい。
また、前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線及び前記窒素分布曲線において、ケイ素原子比率、酸素原子比率及び窒素原子比率が、該ガスバリアー層の層厚の90%以上の距離領域において前記式(1)で表される条件を満たす場合には、前記ガスバリアー層中におけるケイ素原子、酸素原子及び窒素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率は、25〜45at%の範囲であることが好ましく、30〜40at%の範囲であることがより好ましい。
また、前記ガスバリアー層中におけるケイ素原子、酸素原子及び窒素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率は、33〜67at%の範囲であることが好ましく、45〜67at%の範囲であることがより好ましい。
さらに、前記ガスバリアー層中におけるケイ素原子、酸素原子及び窒素原子の合計量に対する窒素原子の量の比率は、3〜33at%の範囲であることが好ましく、3〜25at%の範囲であることがより好ましい。
〈ガスバリアー層の厚さ〉
前記ガスバリアー層の厚さは、5〜3000nmの範囲であることが好ましく、10〜2000nmの範囲であることより好ましく、100〜1000nmの範囲であることが更に好ましく、300〜1000nmの範囲が特に好ましい。ガスバリアー層の厚さが前記範囲内であれば、酸素ガスバリアー性、水蒸気バリアー性等のガスバリアー性に優れ、屈曲によるガスバリアー性の低下が見られない。
また、本発明のガスバリアーフィルムが複数のガスバリアー層を備える場合には、それらのガスバリアー層の厚さのトータルの値は、通常10〜10000nmの範囲であり、10〜5000nmの範囲であることが好ましく、100〜3000nmの範囲であることより好ましく、200〜2000nmの範囲であることが特に好ましい。ガスバリアー層の厚さの合計値が前記範囲内であると、酸素ガスバリアー性、水蒸気バリアー性等のガスバリアー性が十分であり、屈曲によりガスバリアー性も低下しにくい傾向にある。
〈ガスバリアー層の製造方法〉
本発明に係るガスバリアー層は、プラズマ化学気相成長法により形成される層であることが好ましい。より詳しくはこのようなプラズマ化学気相成長法により形成されるガスバリアー層として、前記基材を一対の成膜ローラーのそれぞれに接触しながら搬送し、当該一対の成膜ローラー間に成膜ガスを供給しながらプラズマ放電してプラズマ化学気相成長法により形成される薄膜層であることが好ましい。また、このようにして一対の成膜ローラー間に放電する際には、前記一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが好ましい。
このようなプラズマ化学気相成長法に用いる前記成膜ガスとしては、シランガス、アルコキシシランガス(例えば、テトラメトキシシラン[TMOS]、テトラエトキシシラン[TEOS]、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン)と窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガスと酸素ガスとを含むものが好ましく、その成膜ガス中の酸素の含有量は、前記成膜ガス中の前記シランガス及びアンモニアガスの全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。また、本発明のガスバリアーフィルムにおいては、前記ガスバリアー層が連続的な成膜プロセスにより形成された層であることが好ましい。
次に、本発明のガスバリアーフィルムを製造する方法について詳細に説明する。
本発明のガスバリアーフィルムは、前記基材の表面上に前記ガスバリアー層を形成させることにより製造することができる。このような本発明にかかるガスバリアー層を前記基材の表面上に形成させる方法としては、ガスバリアー性の観点から、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD法)を採用することが好ましく、前記プラズマ化学気相成長法はペニング放電プラズマ方式のプラズマ化学気相成長法であっても良い。
本発明に係るガスバリアー層のように、前記窒素原子比率が濃度勾配を有し、かつ層内で連続的に変化する層を形成するには、前記プラズマ化学気相成長法においてプラズマを発生させる際に、複数の成膜ローラーの間の空間にプラズマを発生させることが好ましい。本発明では一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラーのそれぞれに前記樹脂基材を接触しながら搬送して、当該一対の成膜ローラー間に磁場を印加した状態で、放電してプラズマを発生させることが好ましい。このようにして、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラー上に樹脂基材を接触しながら搬送して、かかる一対の成膜ローラー間にプラマ放電することにより、樹脂基材と成膜ローラー間のプラズマ放電位置との距離が変化することによって、前記窒素原子比率が濃度勾配を有し、かつ層内で連続的に変化するようなガスバリアー層を形成することが可能となる。
また、成膜時に一方の成膜ローラー上に存在する樹脂基材の表面部分を成膜しつつ、もう一方の成膜ローラー上に存在する樹脂基材の表面部分も同時に成膜することが可能となって効率よく薄膜を製造できるばかりか、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので前記窒素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となり、効率よくガスバリアー層を形成することが可能となる。
また、本発明のガスバリアーフィルムは、生産性の観点から、ロール・ツー・ロール方式で前記基材の表面上に前記ガスバリアー層を形成させることが好ましい。
また、このようなプラズマ化学気相成長法によりガスバリアーフィルムを製造する際に用いることが可能な装置としては、特に制限されないが、少なくとも一対の成膜ローラーと、プラズマ電源とを備え且つ前記一対の成膜ローラー間において放電することが可能な構成となっている装置であることが好ましく、例えば、図3に示す製造装置を用いた場合には、プラズマ化学気相成長法を利用しながらロール・ツー・ロール方式で製造することも可能となる。
以下、図3を参照しながら、本発明のガスバリアーフィルムを製造する方法についてより詳細に説明する。なお、図3は、本発明のガスバリアーフィルムを製造するのに好適に利用することが可能な製造装置の一例を示す模式図である。
図3に示す製造装置は、送り出しローラー11と、搬送ローラー21、22、23、24と、成膜ローラー31及び32と、ガス供給口41と、プラズマ発生用電源51と、成膜ローラー31及び32の内部に設置された磁場発生装置61及び62と、巻取りローラー71とを備えている。また、このような製造装置においては、少なくとも成膜ローラー31及び32と、ガス供給口41と、プラズマ発生用電源51と、永久磁石からなる磁場発生装置61及び62とが図示を省略した真空チャンバー内に配置されている。更に、このような製造装置において前記真空チャンバーは図示を省略した真空ポンプに接続されており、かかる真空ポンプにより真空チャンバー内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
このような製造装置においては、一対の成膜ローラー(成膜ローラー31と成膜ローラー32)を一対の対向電極として機能させることが可能となるように、各成膜ローラーがそれぞれプラズマ発生用電源51に接続されている。そのため、このような製造装置においては、プラズマ発生用電源51により電力を供給することにより、成膜ローラー31と成膜ローラー32との間の空間に放電することが可能であり、これにより成膜ローラー31と成膜ローラー32との間の空間にプラズマを発生させることができる。なお、このように、成膜ローラー31と成膜ローラー32を電極としても利用する場合には、電極としても利用可能なようにその材質や設計を適宜変更すればよい。また、このような製造装置においては、一対の成膜ローラー(成膜ローラー31及び32)は、その中心軸が同一平面上において略平行となるようにして配置することが好ましい。このようにして、一対の成膜ローラー(成膜ローラー31及び32)を配置することにより、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので前記窒素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となる。
また、成膜ローラー31及び成膜ローラー32の内部には、成膜ローラーが回転しても回転しないようにして固定された磁場発生装置61及び62がそれぞれ設けられている。
さらに、成膜ローラー31及び成膜ローラー32としては適宜公知のローラーを用いることができる。このような成膜ローラー31及び32としては、より効率よく薄膜を形成せしめるという観点から、直径が同一のものを使うことが好ましい。また、このような成膜ローラー31及び32の直径としては、放電条件、チャンバーのスペース等の観点から、直径が100〜1000mmφの範囲、特に100〜700mmφの範囲が好ましい。100mmφより大きいと、プラズマ放電空間が小さくなることがないため生産性の劣化もなく、短時間でプラズマ放電の全熱量がフィルムにかかることを回避できることから、基材へのダメージを軽減でき好ましい。一方、1000mmφより小さいと、プラズマ放電空間の均一性等も含めて装置設計上、実用性を保持することができるため好ましい。
また、このような製造装置に用いる送り出しローラー11及び搬送ローラー21、22、23、24としては適宜公知のローラーを用いることができる。また、巻取りローラー71としても、ガスバリアー層を形成した樹脂基材1を巻き取ることが可能なものであればよく、特に制限されず、適宜公知のローラーを用いることができる。
ガス供給口41としては原料ガス等を所定の速度で供給又は排出することが可能なものを適宜用いることができる。さらに、プラズマ発生用電源51としては、適宜公知のプラズマ発生装置の電源を用いることができる。このようなプラズマ発生用電源51は、これに接続された成膜ローラー31と成膜ローラー32に電力を供給して、これらを放電のための対向電極として利用することを可能とする。このようなプラズマ発生用電源51としては、より効率よくプラズマCVD法を実施することが可能となることから、前記一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが可能なもの(交流電源など)を利用することが好ましい。また、このようなプラズマ発生用電源51としては、より効率よくプラズマCVD法を実施することが可能となることから、印加電力を100W〜10kWの範囲とすることができ且つ交流の周波数を50Hz〜500kHzの範囲とすることが可能なものであることがより好ましい。また、磁場発生装置61及び62としては適宜公知の磁場発生装置を用いることができる。
このような図3に示す製造装置を用いて、例えば、原料ガスの種類、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力、真空チャンバー内の圧力、成膜ローラーの直径、並びに、樹脂基材の搬送速度を適宜調整することにより、本発明のガスバリアーフィルムを製造することができる。すなわち、図3に示す製造装置を用いて、成膜ガス(原料ガス等)を真空チャンバー内に供給しつつ、一対の成膜ローラー(成膜ローラー31及び32)間にプラズマ放電を発生させることにより、前記成膜ガス(原料ガス等)がプラズマによって分解され、成膜ローラー31上の樹脂基材1の表面上並びに成膜ローラー32上の樹脂基材1の表面上に、前記ガスバリアー層がプラズマCVD法により形成される。なお、このような成膜に際しては、樹脂基材1が送り出しローラー11や成膜ローラー31等により、それぞれ搬送されることにより、ロール・ツー・ロール方式の連続的な成膜プロセスにより樹脂基材1の表面上に前記ガスバリアー層が形成される。
本発明に係るガスバリアー層は、当該ガスバリアー層の層厚方向における窒素原子の比率を示す窒素分布曲線が、好ましくは大きさが相違する二つ以上の極大値を有し、かつ当該ガスバリアー層の表面からの距離の変化に対応して、複数の当該極大値が当該窒素分布曲線上に非周期的に出現するためには、前記プラズマ化学気相成長法による前記ガスバリアー層の形成を、前記成膜ガスに含有される酸素ガスの濃度(vol%)を変えて調製した複数種の成膜ガスを用いて、かつ複数回行うことで形成することが好ましい。
前記酸素ガスの濃度変化や、プラズマ化学気相成長法による前記ガスバリアー層の形成の回数については、特に限定されるものではない。本発明に係るガスバリアー層の窒素原子分布の状態を前記XPSデプスプロファイルによって測定し、好ましくはシランガス、アルコキシシランガスと窒素ガス、又はアンモニアガス、亜酸化窒素ガスの濃度(vol%)の混合比率を1:20〜1:0.1の範囲で決定し、さらにシランガスと酸素ガスの濃度(vol%)の混合比率を1:10〜1:0.01の範囲で決定することが好ましい。参考として実施例で作製したガスバリアー層において、上記シランガス、アルコキシシランガスとアンモニアガス、及び窒素ガスの濃度(vol%)と酸素ガスの濃度(vol%)の混合比率を変化させたときの、窒素極大値(at%)を下記表1及び表2に示す。
原料ガスを成膜ガスとして真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、前記成膜ガスとしては、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
〈真空度〉
真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、0.1〜100Paの範囲とすることが好ましい。
〈ローラー成膜〉
また、このようなプラズマCVD法において、成膜ローラー31及び32間に放電するために、プラズマ発生用電源51に接続された電極ドラム(本実施形態においては成膜ローラー31及び32に設置されている。)に印加する電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるものであり一概に言えるものでないが、0.1〜10kWの範囲とすることが好ましい。このような範囲の印加電力であれば、パーティクルの発生も見られず、膜時に発生する熱量も制御内であるため、成膜時の基材表面の温度上昇による、樹脂基材の熱負けや成膜時の皺の発生もない。また、熱で樹脂基材が溶けて、裸の成膜ローラー間に大電流の放電が発生して成膜ローラー自体を傷めてしまう可能性も小さい。
樹脂基材1の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.25〜100m/minの範囲とすることが好ましく、0.5〜20m/minの範囲とすることがより好ましい。ライン速度が前記範囲内であれば、樹脂基材の熱に起因する皺の発生もし難く、形成されるガスバリアー層の厚さも十分に制御可能である。
<平滑層>
本発明に用いられる平滑層2は、基材とガスバリアー層の間に、好ましくは窒素を含むポリマーを含有する層であり、基材1の表面を平坦化し、基材1表面の微少な突起等によって基材1上に成膜するガスバリアー層3などに凹凸やピンホールが生じないようにする機能を有するとともに、各層間の密着性を向上させる機能、柔軟性を向上して屈曲性向上に寄与する層である。
この平滑層2は、窒素原子を含むポリマーを含有する層であり、リン酸エステル基を有する(メタ)アクリレートと、多官能(メタ)アクリレートを主成分とする樹脂組成物からなる層であることが好ましい。
特に、リン酸エステル基を有する(メタ)アクリレート(A)と、多官能(メタ)アクリレート(B)の質量混合比をA/Bとしたとき、比率A/Bは3/100〜30/100の範囲であることが好ましい。
〈多官能(メタ)アクリレート〉
本発明に用いる多官能(メタ)アクリレートとしては、主として多官能(おおむね2官能以上)のアクリレート及びメタクリレート(以下(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレートと記載する場合、アクリル酸及び/又はメタクリル酸、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。)が使用できるが、二種以上の多官能(メタ)アクリレートや低官能基数の不飽和基を持つ樹脂を併用することもできる。
多官能のアクリレートとしては、例えば1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジアクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジアクリレート、アリル化シクロヘキシルジアクリレート、イソシアヌレートジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、また市販されているウレタンアクリレートやメラミンアクリレートなどが挙げられ、官能基数の多いアクリレートほど表面硬度が高くなり、好ましい。これらは単独あるいは二種以上を混合して使用してもよい。これらアクリレートは、モノマーでもプレポリマーであってもよい。
多官能のメタクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1.4−ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1.6−ヘキサンジオールジメタクレート、1.9−ノナンジオールジメタクリレート、1.10−デカンジオールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートやエトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレートなどが挙げられ、これらを単独あるいは二種以上を混合して使用してもよい。
また、本発明に用いる多官能メタクリレートとしては、2又は3個のメタクリロイル基を有するメタクリレート化合物が好ましく、3個のメタクリロイル基を有するメタクリレート化合物が、層間密着性に優れる点でより好ましい。
また、本発明に用いる多官能(メタ)アクリレートとして、ベンジル基を含有する(メタ)アクリレートオリゴマーを好ましく用いることができる。
ベンジル基含有(メタ)アクリレートオリゴマーとは、ベンジル基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。その製造方法の一例として、ベンジル基含有ポリオール、イソシアネート化合物、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート化合物を無溶媒下又は有機溶媒下で反応させて合成する方法が挙げられる。
ベンジル基含有ポリオールとしては、ベンジル基を含有したアクリルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類などが挙げられる。市販品としては、三井化学社製Q182(商品名)などが挙げられる。なお、二種以上のベンジル基含有ポリオールを組み合わせて用いてもよい。
イソシアネート化合物は、イソシアネート基を2以上有する化合物である。イソシアネートモノマーとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。有機ポリイソシアネートはイソシアネートモノマーから合成されるアダクトタイプ、イソシアヌレートタイプ、ビュレットタイプのポリイソシアネートなどが挙げられる。なお、二種以上のイソシアネート化合物を組み合わせて用いてもよい。
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート化合物は、ヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。具体的には、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどが挙げられる。なお、二種以上のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート化合物を組み合わせて用いてもよい。
上記したベンジル基含有ポリオール、イソシアネート化合物、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート化合物からベンジル基含有(メタ)アクリレートオリゴマーを合成する方法の具体例としては、イソシアネート化合物及びヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート化合物を無溶媒下又は有機溶媒下において、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが半分になるまで反応させ、次いでベンジル基含有ポリオールを添加してイソシアネート基のピークが消失するまで反応させる方法が挙げられる。
また、本発明に用いる多官能(メタ)アクリレートとしては、2又は3個のメタクリロイル基を有するメタクリレート化合物と、ベンジル基含有アクリレートオリゴマーの両者を含有するものがより好ましく用いられる。
2又は3個のメタクリロイル基を有するメタクリレート化合物の配合量は固形分を基準として、ベンジル基含有(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、0.5〜50質量部配合されることが好ましく、特に1〜30質量部配合されることが好ましい。
〈リン酸エステル基を有する(メタ)アクリレート〉
本発明に用いるリン酸エステル基を有する(メタ)アクリレートとしては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)−ジヒドロホスフェート、ジ−(2−(メタ)アクリロイルオキシ)ヒドロゲンホスフェート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリロイルオキシジヒドロゲンホスフェート等が挙げられる。該成分中、リン酸基由来の反応性によって、平滑層の基材への密着性が向上する。
リン酸エステル基を有する(メタ)アクリレートは、前述した多官能(メタ)アクリレート100質量部に対し、1〜30質量部配合されることが好ましく、特に3〜20質量部配合されることが好ましい。1質量部未満では密着性向上効果に寄与せず、30質量部を超えるとエステル基が加水分解しやすくなり、耐水性が低下してしまう。
〈溶媒〉
平滑層2を形成するための塗布液であり、リン酸エステル基を有する(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートを主成分とする樹脂組成物を含む塗布液に用いる溶媒としては、特に制限されないが、水、アルコール系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒等が挙げられる。
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレンモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶媒としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。
エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
エステル系溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸エトキシエチル等が挙げられる。
これらの他、ジクロロエタン、酢酸等の溶媒を用いてもよい。これらの溶媒は、単独で、又は二種以上を混合して用いられうる。
平滑層形成用の塗布液には、無機微粒子を含有させることが好ましい。無機微粒子は塗膜の硬化収縮を抑制し、平滑層の基材への密着性を向上させることができる。
平滑層の透明性を低下させないために、無機微粒子の一次粒子径が100nm未満であることが好ましく、特に50nm未満であることが好ましい。粒子径が100nmを越えると光の散乱が発生し、透過率の低下による透明性の低下が発生するため好ましくない。
無機微粒子としては、乾式シリカ、湿式シリカなどのシリカ微粒子、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化セリウム、酸化アンチモン、インジウム錫混合酸化物及びアンチモン錫混合酸化物などの金属酸化物微粒子、アクリル、スチレンなどの有機微粒子などが挙げられ、とりわけ、透明性、硬度の観点から10〜50nmのシリカ微粒子を有機溶媒に分散させたナノ分散シリカ微粒子であることが好ましい。
また、無機微粒子は、リン酸エステル基を有する(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの総質量部100部に対し、5〜50質量部配合されることが好ましく、特に10〜40質量部配合されることが好ましい。5質量部未満では塗膜の硬化収縮抑制効果が低く、密着性向上に寄与しない。50質量部を超えると、塗膜中におけるリン酸エステル基を有する(メタ)アクリレート及び多官能(メタ)アクリレートの総量が減少し、基材への密着性や平滑層の硬度が低下してしまう。
また、平滑層形成用の塗布液には、樹脂組成物を紫外線にて硬化させるため光重合開始剤を配合する。
光重合開始剤は、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のカルボニル化合物、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物などを用いることができる。
これらの光重合開始剤の市販品としては、Irgacure184、369、651、500(BASFジャパン社製 商品名)、LucirinLR8728(BASFジャパン社製 商品名)、Darocure1116、1173(メルク社製 商品名)、ユベクリルP36(UCB社製 商品名)などが挙げられる。
平滑層形成用の塗布液を基材1上に塗布する方法には、特に制限はなく、公知のスプレーコート、ディッピングコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、ワイヤーバーなどの塗工法、又はグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法により形成できる。
平滑層2の厚さは、1〜20μmの範囲が好ましい。平滑層2の厚さが前記範囲であると、硬度が十分あり、クラックなどの発生も見られず好ましい。
また、平滑層2には、必要に応じて、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂を配合して柔軟性を付与してもよい。また、平滑層2に、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸鉛、珪砂、クレー、タルク、シリカ化合物、二酸化チタン等の無機充填剤の他、シラン系やチタネート系などのカップリング剤、殺菌剤、防腐剤、可塑剤、流動調整剤、帯電防止剤、増粘剤、pH調整剤、界面活性剤、レベリング調整剤、消泡剤、着色顔料、防錆顔料等の配合材料を添加してもよい。また、耐光性向上を目的に酸化防止剤や紫外線吸収剤を添加してもよい。
<第2のガスバリアー層>
本発明において、本発明に係るガスバリアー層の上に、塗布方式のポリシラザン含有液の塗膜を設け、波長200nm以下の真空紫外光(VUV光)を照射して改質処理することにより形成された第2のガスバリアー層を設けることが好ましい。上記第2のガスバリアー層をCVD法で設けたガスバリアー層の上に設けることにより、ガスバリアー層に残存する微小な欠陥を、上部からポリシラザンのガスバリアー成分で埋めることができ、更なるガスバリアー性と屈曲性を向上できるので、好ましい。
第2のガスバリアー層の厚さは、1〜500nmの範囲が好ましい、より好ましくは10〜300nmの範囲である。1nmより薄いとガスバリアー性能が発揮できず、500nmより厚くなると、緻密な酸窒化ケイ素膜にクラックが入りやすくなる。
〈ポリシラザン〉
本発明に係る「ポリシラザン」とは、構造内にケイ素−窒素結合を持つポリマーで、酸窒化ケイ素の前駆体となるポリマーであり、下記の構造を有するものが好ましく用いられる。
式中、R1、R2、R3は、各々水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、又はアルコキシ基を表す。
本発明では、得られるガスバリアー層の膜としての緻密性の観点からは、R1、R2及びR3の全てが水素原子であるパーヒドロポリシラザンが特に好ましい。
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6員環及び8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されており、その分子量は、数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算)であり、液体又は固体の物質である。
ポリシラザンは、有機溶媒に溶解した溶液の状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有塗布液として使用することができる。ポリシラザン溶液の市販品としては、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のNN120−20、NAX120−20、NL120−20などが挙げられる。
第2のガスバリアー層は、CVD法でのガスバリアー層上にポリシラザンを含む塗布液を塗布し乾燥した後、真空紫外線を照射することにより形成することができる。
ポリシラザンを含有する塗布液を調製する有機溶媒としては、ポリシラザンと容易に反応してしまうようなアルコール系や水分を含有するものを用いることは避けることが好ましい。例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用でき、具体的には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の炭化水素、塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等がある。これらの有機溶媒は、ポリシラザンの溶解度や溶媒の蒸発速度等の目的にあわせて選択し、複数の有機溶媒を混合しても良い。
ポリシラザンを含有する塗布液中のポリシラザンの濃度は、ガスバリアー層の層厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、好ましくは0.2〜35質量%程度である。
酸窒化ケイ素への変性を促進するために、該塗布液にアミン触媒や、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒を添加することもできる。本発明においては、アミン触媒を用いることが特に好ましい。具体的なアミン触媒としては、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、3−モルホリノプロピルアミン、N,N,N′,N′−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N′,N′−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン等が挙げられる。
ポリシラザンに対するこれら触媒の添加量は、塗布液全体に対して0.1〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.2〜5質量%の範囲であることがより好ましく、0.5〜2質量%の範囲であることがさらに好ましい。触媒添加量をこの範囲とすることで、反応の急激な進行よる過剰なシラノール形成、及び膜密度の低下、膜欠陥の増大のなどを避けることができる。
ポリシラザンを含有する塗布液を塗布する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、例えば、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
塗膜の厚さは、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、塗膜の厚さは、乾燥後の厚さとして50nm〜2μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは70nm〜1.5μmの範囲にあることがより好ましく、100nm〜1μmの範囲にあることがさらに好ましい。
〈エキシマ処理〉
本発明に用いられる第2のガスバリアー層は、ポリシラザンを含む層に真空紫外線を照射する工程で、ポリシラザンの少なくとも一部が酸窒化ケイ素へと改質される。
ここで、真空紫外線照射工程でポリシラザンを含む塗膜が改質され、SiOxNyの特定組成となる推定メカニズムを、パーヒドロポリシラザンを例にとって説明する。
パーヒドロポリシラザンは「−(SiH2−NH)n−」の組成で示すことができる。SiOxNyで示す場合、x=0、y=1である。x>0となるためには外部の酸素源が必要であるが、これは、(i)ポリシラザン塗布液に含まれる酸素や水分、(ii)塗布乾燥過程の雰囲気中から塗膜に取り込まれる酸素や水分、(iii)真空紫外線照射工程での雰囲気中から塗膜に取り込まれる酸素や水分、オゾン、一重項酸素、(iv)真空紫外線照射工程で印加される熱等により基材側からアウトガスとして塗膜中に移動してくる酸素や水分、(v)真空紫外線照射工程が非酸化性雰囲気で行われる場合には、その非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気へと移動した際に、その雰囲気から塗膜に取り込まれる酸素や水分、などが酸素源となる。
一方、yについては、Siの酸化よりも窒化が進行する条件は非常に特殊であると考えられるため、基本的には1が上限である。
また、Si、O、Nの結合手の関係から、基本的にはx、yは2x+3y≦4の範囲にある。酸化が完全に進んだy=0の状態においては、塗膜中にシラノール基を含有するようになり、2<x<2.5の範囲となる場合もある。
真空紫外線照射工程でパーヒドロポリシラザンから酸窒化ケイ素、さらには酸化ケイ素が生じると推定される反応機構について、以下に説明する。
(1)脱水素、それに伴うSi−N結合の形成
パーヒドロポリシラザン中のSi−H結合やN−H結合は真空紫外線照射による励起等で比較的容易に切断され、不活性雰囲気下ではSi−Nとして再結合すると考えられる(Siの未結合手が形成される場合もある)。すなわち、酸化することなくSiNy組成として硬化する。この場合はポリマー主鎖の切断は生じない。Si−H結合やN−H結合の切断は触媒の存在や、加熱によって促進される。切断されたHはH2として膜外に放出される。
(2)加水分解・脱水縮合によるSi−O−Si結合の形成
パーヒドロポリシラザン中のSi−N結合は水により加水分解され、ポリマー主鎖が切断されてSi−OHを形成する。二つのSi−OHが脱水縮合してSi−O−Si結合を形成して硬化する。これは大気中でも生じる反応であるが、不活性雰囲気下での真空紫外線照射中では、照射の熱によって基材からアウトガスとして生じる水蒸気が主な水分源となると考えられる。水分が過剰となると脱水縮合しきれないSi−OHが残存し、SiO2.1〜2.3の組成で示されるガスバリアー性の低い硬化膜となる。
(3)一重項酸素による直接酸化、Si−O−Si結合の形成
真空紫外線照射中、雰囲気下に適当量の酸素が存在すると、酸化力の非常に強い一重項酸素が形成される。パーヒドロポリシラザン中のHやNはOと置き換わってSi−O−Si結合を形成して硬化する。ポリマー主鎖の切断により結合の組み換えを生じる場合もあると考えられる。
(4)真空紫外線照射・励起によるSi−N結合切断を伴う酸化
真空紫外線のエネルギーはパーヒドロポリシラザン中のSi−Nの結合エネルギーよりも高いため、Si−N結合は切断され、周囲に酸素、オゾン、水等の酸素源が存在すると酸化されてSi−O−Si結合やSi−O−N結合が生じると考えられる。ポリマー主鎖の切断により結合の組み換えを生じる場合もあると考えられる。
ポリシラザンを含有する層に真空紫外線照射を施した層の酸窒化ケイ素の組成の調整は、上述の(1)〜(4)の酸化機構を適宜組み合わせて酸化状態を制御することで行うことができる。
本発明における真空紫外線照射工程において、ポリシラザン層塗膜が受ける塗膜面での該真空紫外線の照度は30〜200mW/cm2の範囲であることが好ましく、50〜160mW/cm2の範囲であることがより好ましい。30mW/cm2以上では、改質効率が低下する懸念がなく、200mW/cm2以下では、塗膜にアブレーションを生じず、基材にダメージを与えないため好ましい。
ポリシラザン層塗膜面における真空紫外線の照射エネルギー量は、200〜10000mJ/cm2の範囲であることが好ましく、500〜5000mJ/cm2の範囲であることがより好ましい。200mJ/cm2以上では、改質が十分行え、10000mJ/cm2以下では過剰改質にならずクラック発生や、基材の熱変形がない。
真空紫外光源としては、希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。Xe、Kr、Ar、Neなどの希ガスの原子は、化学的に結合して分子を作らないため、不活性ガスと呼ばれる。
しかし、放電などによりエネルギーを得た希ガスの励起原子は他の原子と結合して分子を作ることができる。希ガスがキセノンの場合には、
e+Xe→Xe*
Xe*+2Xe→Xe2 *+Xe
Xe2 *→Xe+Xe+hν(172nm)
となり、励起されたエキシマ分子であるXe2 *が基底状態に遷移するときに172nmのエキシマ光を発光する。
エキシマランプの特徴としては、放射が一つの波長に集中し、必要な光以外がほとんど放射されないので効率が高いことが挙げられる。また、余分な光が放射されないので、対象物の温度を低く保つことができる。さらには始動及び再始動に時間を要さないので、瞬時の点灯点滅が可能である。
エキシマ発光を得るには、誘電体バリアー放電を用いる方法が知られている。誘電体バリアー放電とは、両電極間に透明石英などの誘電体を介してガス空間を配し、電極に数10kHzの高周波高電圧を印加することによりガス空間に生じ、雷に似た非常に細いmicro dischargeと呼ばれる放電であり、micro dischargeのストリーマが管壁(誘導体)に達すると誘電体表面に電荷が溜まるため、micro dischargeは消滅する。
このmicro dischargeが管壁全体に広がり、生成・消滅を繰り返している放電である。このため、肉眼でも確認できる光のチラツキを生じる。また、非常に温度の高いストリーマが局所的に直接管壁に達するため、管壁の劣化を早める可能性もある。
効率よくエキシマ発光を得る方法としては、誘電体バリアー放電以外に、無電極電界放電でも可能である。容量性結合による無電極電界放電で、別名RF放電とも呼ばれる。ランプと電極及びその配置は基本的には誘電体バリアー放電と同じで良いが、両極間に印加される高周波は数MHzで点灯される。無電極電界放電はこのように空間的にまた時間的に一様な放電が得られるため、チラツキが無い長寿命のランプが得られる。
誘電体バリアー放電の場合は、micro dischargeが電極間のみで生じるため、放電空間全体で放電を行わせるには外側の電極は外表面全体を覆い、かつ外部に光を取り出すために光を透過するものでなければならない。
このため、細い金属線を網状にした電極が用いられる。この電極は、光を遮らないようにできるだけ細い線が用いられるため、酸素雰囲気中では真空紫外光により発生するオゾンなどにより損傷しやすい。これを防ぐためには、ランプの周囲、すなわち照射装置内を窒素などの不活性ガスの雰囲気にし、合成石英の窓を設けて照射光を取り出す必要が生じる。合成石英の窓は高価な消耗品であるばかりでなく、光の損失も生じる。
二重円筒型ランプは外径が25mm程度であるため、ランプ軸の直下とランプ側面では照射面までの距離の差が無視できず、照度に大きな差を生じる。したがって、仮にランプを密着して並べても、一様な照度分布が得られない。合成石英の窓を設けた照射装置にすれば、酸素雰囲気中の距離を一様にでき、一様な照度分布が得られる。
無電極電界放電を用いた場合には、外部電極を網状にする必要は無い。ランプ外面の一部に外部電極を設けるだけでグロー放電は放電空間全体に広がる。外部電極には通常アルミのブロックで作られた光の反射板を兼ねた電極がランプ背面に使用される。しかし、ランプの外径は誘電体バリアー放電の場合と同様に大きいため一様な照度分布にするためには合成石英が必要となる。
細管エキシマランプの最大の特徴は、構造がシンプルなことである。石英管の両端を閉じ、内部にエキシマ発光を行うためのガスを封入しているだけである。
細管ランプの管の外径は6nm〜12mm程度で、余り太いと始動に高い電圧が必要になる。
放電の形態は、誘電体バリアー放電及び無電極電界放電のいずれも使用できる。電極の形状はランプに接する面が平面であっても良いが、ランプの曲面に合わせた形状にすればランプをしっかり固定できるとともに、電極がランプに密着することにより放電がより安定する。また、アルミで曲面を鏡面にすれば光の反射板にもなる。
Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから、発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。
また、波長の短い172nmの光のエネルギーは、有機物の結合を解離させる能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン層の改質を実現できる。
したがって、波長185nm、254nmの発する低圧水銀ランプやプラズマ洗浄と比べて高スループットに伴うプロセス時間の短縮や設備面積の縮小、熱によるダメージを受けやすい有機材料やプラスチック基板などへの照射を可能としている。
エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域で、すなわち短い波長でエネルギーを照射するため、解射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を持っている。このため、熱の影響を受けやすいとされるPETなどのフレシキブルフィルム材料に適している。
紫外線照射時の反応には、酸素が必要であるが、真空紫外線は、酸素による吸収があるため紫外線照射工程での効率が低下しやすいことから、真空紫外線の照射は、可能な限り酸素濃度の低い状態で行うことが好ましい。すなわち、真空紫外線照射時の酸素濃度は、10〜10000ppmの範囲とすることが好ましく、より好ましくは50〜5000ppmの範囲、更に好ましく1000〜4500ppmの範囲である。
真空紫外線照射時に用いられる、照射雰囲気を満たすガスとしては乾燥不活性ガスとすることが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスにすることが好ましい。酸素濃度の調整は照射庫内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
<オーバーコート層>
本発明に用いられる第2のガスバリアー層の上には屈曲性を更に改善するのに、オーバーコート層を形成しても良い。オーバーコート層に用いられる有機物としては、有機モノマー、オリゴマー、ポリマー等の有機樹脂、有機基を有するシロキサンやシルセスキオキサンのモノマー、オリゴマー、ポリマー等を用いた有機無機複合樹脂層を好ましく用いることができる。これらの有機樹脂若しくは有機無機複合樹脂は重合性基や架橋性基を有することが好ましく、これらの有機樹脂若しくは有機無機複合樹脂を含有し、必要に応じて重合開始剤や架橋剤等を含有する有機樹脂組成物塗布液から塗布形成した層に、光照射処理や熱処理を加えて硬化させることが好ましい。
<電子デバイス>
本発明のガスバリアーフィルムは、有機素子デバイス用フィルムとして使用することが好ましく、特に車載用の有機素子デバイスに使用することが好ましい。有機素子デバイスとしては、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略記する)、有機光電変換素子、液晶素子等が挙げられる。
〈電子デバイスとしての有機ELパネル〉
本発明のガスバリアーフィルム1a(1b)は、太陽電池、液晶表示素子、有機EL素子等を封止する封止フィルムとして用いることができる。
このガスバリアーフィルム1aを封止フィルムとして用いた電子デバイスである有機ELパネル(EL)の一例を図4に示す。
有機ELパネル(EL)は、図4に示すように、ガスバリアーフィルム1aと、ガスバリアーフィルム1a上に形成されたITOなどの透明電極6と、透明電極6を介してガスバリアーフィルム1a上に形成された電子デバイス本体である有機EL素子7と、その有機EL素子7を覆うように接着剤層8を介して配設された対向フィルム9等を備えている。なお、透明電極6は、有機EL素子7の一部を成すこともある。
このガスバリアーフィルム1aにおけるガスバリアー層3側の表面に、透明電極6と有機EL素子7が形成されるようになっている。
そして、有機ELパネル(EL)において、有機EL素子7は水蒸気に晒されないように好適に封止されており、有機EL素子7は劣化し難くなっているので、有機ELパネル(EL)を長く使用することが可能になり、有機ELパネルPの寿命が延びる。
なお、対向フィルム9は、アルミ箔などの金属フィルムのほか、本発明に係るガスバリアーフィルムを用いてもよい。対向フィルム9としてガスバリアーフィルムを用いる場合、ガスバリアー層3が形成された面を有機EL素子7に向けて、接着剤層8によって貼付するようにすればよい。
〈有機EL素子〉
有機ELパネルPにおいてガスバリアーフィルム1aで封止される有機EL素子7について説明する。
以下に有機EL素子7の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(3)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/陽極バッファー層(正孔注入層)/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極バッファー層(電子注入層)/陰極
(陽極)
有機EL素子7における陽極(透明電極6)としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜として形成し、その薄膜をフォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましい。また、陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。また、陽極の膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nmの範囲、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
(陰極)
有機EL素子7における陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が陰極として好適である。
陰極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。また、陰極の膜厚は通常10nm〜5μmの範囲、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子7の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば、発光輝度が向上し好都合である。
また、陰極の説明で挙げた上記金属を1〜20nmの範囲の膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
(注入層:電子注入層、正孔注入層)
注入層には電子注入層と正孔注入層があり、電子注入層と正孔注入層を必要に応じて設け、陽極と発光層又は正孔輸送層の間、及び陰極と発光層又は電子輸送層との間に存在させる。
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、特開平9−260062号公報、特開平8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、特開平9−17574号公報、特開平10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的には、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるが、その膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
(発光層)
有機EL素子7における発光層は、電極(陰極、陽極)又は電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
有機EL素子7の発光層には、以下に示すドーパント化合物(発光ドーパント)とホスト化合物(発光ホスト)が含有されることが好ましい。これにより、より一層発光効率を高くすることができる。
(発光ドーパント)
発光ドーパントは、大きく分けて蛍光を発光する蛍光性ドーパントとリン光を発光するリン光性ドーパントの二種類がある。
蛍光性ドーパントの代表例としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、又は希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。
リン光性ドーパントの代表例としては、好ましくは元素の周期表で8属、9属、10属の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
発光ドーパントは複数種の化合物を混合して用いてもよい。
(発光ホスト)
発光ホスト(単にホストともいう)とは、二種以上の化合物で構成される発光層中にて混合比(質量)の最も多い化合物のことを意味し、それ以外の化合物については「ドーパント化合物(単に、ドーパントともいう)」という。例えば、発光層を化合物A、化合物Bという二種で構成し、その混合比がA:B=10:90であれば化合物Aがドーパント化合物であり、化合物Bがホスト化合物である。更に発光層を化合物A、化合物B、化合物Cの三種から構成し、その混合比がA:B:C=5:10:85であれば、化合物A、化合物Bがドーパント化合物であり、化合物Cがホスト化合物である。
発光ホストとしては構造的には特に制限はないが、代表的にはカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族ボラン誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するもの、又はカルボリン誘導体やジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の少なくとも一つの窒素原子が窒素原子で置換されているものを表す。)等が挙げられる。中でも、カルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体等が好ましく用いられる。
そして、発光層は上記化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により成膜して形成することができる。発光層としての膜厚は特に制限はないが、通常は5nm〜5μmの範囲、好ましくは5〜200nmの範囲で選ばれる。この発光層はドーパント化合物やホスト化合物が一種又は二種以上からなる一層構造であってもよいし、あるいは同一組成又は異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは、 正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層又は複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入又は輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmの範囲である。この正孔輸送層は上記材料の一種又は二種以上からなる一層構造であってもよい。
(電子輸送層)
電子輸送層とは、 電子を輸送する機能を有する電子輸送材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層又は複数層設けることができる。
電子輸送材料としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmの範囲である。電子輸送層は上記材料の一種又は二種以上からなる一層構造であってもよい。
有機EL素子7の作製方法について説明する。
ここでは有機EL素子7の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の作製方法について説明する。
まず、ガスバリアーフィルム1a上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング、プラズマCVD法等の方法により形成させ、陽極を作製する。
次に、その上に有機EL素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の有機化合物薄膜を形成させる。この有機化合物薄膜の成膜方法としては、蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法)等があるが、均質な膜が得られやすく、且つピンホールが生成しにくい等の点から、真空蒸着法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法が特に好ましい。更に層毎に異なる成膜法を適用してもよい。成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃の範囲、真空度10−6〜10−2Paの範囲、蒸着速度0.01〜50nm/秒の範囲、基板温度−50〜300℃の範囲、膜厚0.1nm〜5μmの範囲、好ましくは5〜200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
これらの層を形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより所望の有機EL素子が得られる。
この有機EL素子7の作製は、一回の真空引きで一貫して陽極、正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。また、作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
このようにして得られた有機EL素子7を備える多色の表示装置(有機ELパネルEL)に、直流電圧を印加する場合には、陽極をプラス、陰極をマイナスの極性として電圧2〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また、交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
<比較例1>
基材として所定のサイズの二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚さ:100μm、幅:350mm、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テオネックスQ65FA」)をプラズマCVD装置の真空チャンバーにいれて放電電力を印加して下記条件にてガスバリアー層の厚さが600nmになるようにプラズマCVD法によるガスバリアー層を形成した。
〈成膜条件〉
原料ガス(SiH4:シラン)の供給量:50sccm
(sccmとは、零度、1atmに換算したStandard Cubic Centimeter per Minuteの略である。以下同じ。)
窒素ガスの供給量:900sccm
酸素ガスの供給量:50sccm
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
<比較例2>
図3に示す装置を用いてガスバリアーフィルムを作製した。すなわち、基材として二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚さ:100μm、幅:350mm、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テオネックスQ65FA」)を用い、これを送り出しローラー11に装着した。次に、成膜ローラー31及び32との間に磁場を印加するとともに、成膜ローラー31及び32にそれぞれ電力を供給して、成膜ローラー間に放電して、成膜ガスを供給してプラズマを発生させ、下記条件にてプラズマCVD法によるガスバリアー層を形成した。
〈成膜条件〉
原料ガス(HMDSO:ヘキサメチルジシロキサン)の供給量:50sccm
酸素ガスの供給量:500sccm
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度;0.5m/min
成膜ローラー31及び32直径:300mmφ
得られたフィルムにおけるガスバリアー層の厚さは300nmであった。上記工程を繰り返してガスバリアー層の厚さ600nmの比較のガスバリアーフィルムを作製した。
<参考例1>
図3に示す装置を用いてガスバリアーフィルムを作製した。すなわち、基材として二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚さ:100μm、幅:350mm、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テオネックスQ65FA」)を用い、これを送り出しローラー11に装着した。次に、成膜ローラー31及び32との間に磁場を印加するとともに、成膜ローラー31及び32にそれぞれ電力を供給して、成膜ローラー間に放電して、成膜ローラー31及び32上で成膜する際に下記成膜ガスを供給してプラズマを発生させ、下記条件にてプラズマCVD法によるガスバリアー層を形成した。
〈成膜条件1〉
原料ガス(SiH4:シラン)の供給量:50sccm
窒素ガスの供給量:900sccm
酸素ガスの供給量:50sccm
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度;0.5m/min
得られたフィルムにおけるガスバリアー層の厚さは300nmであった。上記工程を繰り返してガスバリアー層の厚さ600nmの比較のガスバリアーフィルムを作製した。
<実施例2>
実施例1において、2回目のガスバリアー層の形成の中で、成膜ローラー31上で成膜する時と成膜ローラー32上で成膜する時の酸素ガス供給量を以下に示すように変更して行う以外は、実施例1と同様にして実施例2のガスバリアーフィルムを作製した。
〈成膜条件2〉
(成膜ローラー31での条件)
原料ガス(SiH4:シラン)の供給量:50sccm
窒素ガスの供給量:900sccm
酸素ガスの供給量:17sccm
(成膜ローラー32での条件)
原料ガス(SiH4:シラン)の供給量:50sccm
窒素ガスの供給量:900sccm
酸素ガスの供給量:50sccm
<実施例3>
実施例1において、2回目のガスバリアー層の形成の中で、成膜ローラー31上で成膜する時の酸素ガス供給量を以下に示すように変更して行う以外は同様にして、実施例3のガスバリアーフィルムを作製した。
〈成膜条件3〉
(成膜ローラー31での条件)
原料ガス(SiH4:シラン)の供給量:50sccm
窒素ガスの供給量:900sccm
酸素ガスの供給量:13sccm
<実施例4>
実施例1において、1回目のガスバリアー層の形成を〈成膜条件2〉、2回目のガスバリアー層の形成を〈成膜条件4〉でそれぞれ行った以外は同様にして、実施例4のガスバリアーフィルムを作製した。
〈成膜条件4〉
(成膜ローラー31及び32での条件)
原料ガス(SiH4:シラン)の供給量:50sccm
窒素ガスの供給量:900sccm
酸素ガスの供給量:17sccm
<実施例5>
1回目のガスバリアー層の形成を〈成膜条件4〉、2回目のガスバリアー層の形成を〈成膜条件1〉で行い、実施例5のガスバリアーフィルムを作製した。
<参考例6>
実施例1において、1回目のガスバリアー層の形成、及び2回目のガスバリアー層の形成を〈成膜条件5〉でそれぞれ行った以外は同様にして、参考例6のガスバリアーフィルムを作製した。
〈成膜条件5〉
原料ガス(TEOS:テトラエトキシシラン)の供給量:40sccm
アンモニアガスの供給量:60sccm
窒素ガスの供給量:500sccm
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度;0.5m/min
得られたフィルムにおけるガスバリアー層の厚みは300nmであった。上記工程を繰り返してガスバリアー層の厚み600nmのガスバリアーフィルムを作製した。
<実施例7>
実施例6において、2回目のガスバリアー層の形成の中で、成膜ローラー31上で成膜する時と成膜ローラー32上で成膜する時のアンモニアガスと窒素ガス供給量を以下に示すように変更した以外は同様にして、実施例7のガスバリアーフィルムを作製した。
〈成膜条件6〉
(成膜ローラー31での条件)
原料ガス(TEOS:テトラエトキシシラン)の供給量:40sccm
アンモニアガスの供給量:150sccm
窒素ガスの供給量:600sccm
(成膜ローラー32での条件)
原料ガス(TEOS:テトラエトキシシラン)の供給量:40sccm
アンモニアガスの供給量:60sccm
窒素ガスの供給量:500sccm
<参考例8>
成膜条件を以下に変更する以外は、参考例6と同様にして参考例8のガスバリアーフィルムを作製した。
〈成膜条件7〉
原料ガス(TEOS:テトラエトキシシラン)の供給量:40sccm
アンモニアガスの供給量:90sccm
窒素ガスの供給量:500sccm
(XPSデプスファイル)
比較も含め上記で得られたガスバリアー性積層フィルムを、下記条件にてXPSデプスプロファイル測定を行い、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線、及び窒素分布曲線を得た。
エッチングイオン種:アルゴン(Ar+)
エッチングレート(SiO2熱酸化膜換算値):0.05nm/sec
エッチング間隔(SiO2換算値):10nm
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名「VG Theta Probe」
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポット及びそのサイズ:800×400μmの楕円形。
得られたケイ素分布曲線、酸素分布曲線、及び窒素分布曲線に関して、原子比率とエッチング時間の関係とともに、原子比率(at%)とガスバリアー層の表面からの距離(nm)との関係を併せて示すグラフをそれぞれ比較例2、及び実施例1〜実施例5の順に図4〜9に示す。なお、図4〜9に記載のグラフの横軸に記載の「距離(nm)」はエッチング時間とエッチング速度とから計算して求められた値である。
<性能評価>
〈耐振バリアー性〉
上記で得られたガスバリアーフィルム比較例1〜2、及びガスバリアーフィルム実施例1〜実施例8を振動試験機(アイデックス株式会社製“BF−50UD”)に固定し、室温で、振幅0.75mm(縦方向)、10Hz→55Hz→10Hzを60秒で掃引し、これを1サイクルとして24時間行った前後のガスバリアー性を評価した。
なおガスバリアー性の評価は、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件における水蒸気透過度測定を行い、測定結果を表2に示した。
水蒸気透過度を以下の方法により測定した。
(1)水蒸気透過度の測定
温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件において、水蒸気透過度測定機(GTRテック社製、機種名「GTRテック−30XASC」)を用いて、ガスバリアーフィルムの水蒸気透過度を測定した。
(2)(1)の評価方法で検出限界以下の時は、以下の方法で測定を行った。
《水蒸気バリアー性の評価(Ca評価方法)》
(水蒸気バリアー性評価試料の作製装置)
蒸着装置:日本電子(株)製真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
(原材料)
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3〜5mm、粒状)
(水蒸気バリアー性評価試料の作製)
真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置 JEE−400)を用い、作製したガスバリアーフィルムのガスバリアー層表面に、マスクを通して12mm×12mmのサイズで金属カルシウムを蒸着させた。この際、蒸着膜厚は80nmとなるようにした。
その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムを蒸着させて仮封止をした。次いで、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下に移して、アルミニウム蒸着面に封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス社製)を介して厚さ0.2mmの石英ガラスを張り合わせ、紫外線を照射して樹脂を硬化接着させて本封止することで、水蒸気バリアー性評価試料を作製した。
得られた試料を60℃、90%RHの高温高湿下で保存し、保存時間に対して金属カルシウムが腐食して行く様子を観察した。観察は、保存時間6時間までは1時間ごとに、それ以降24時間までは3時間ごとに、それ以降48時間までは6時間ごとに、それ以降は12時間ごとに行い、12mm×12mmの金属カルシウム蒸着面積に対する金属カルシウムが腐食した面積を%表示で算出した。金属カルシウムが腐食した面積が1%となった時間を観察結果から直線で内挿して求め、金属カルシウム蒸着面積と、面積1%分の金属カルシウムを腐食させる水蒸気量と、それに要した時間との関係からそれぞれのガスバリアーフィルムの水蒸気透過度を算出した。
この結果から、本発明に係る実施例1〜8のガスバリアーフィルムは、長時間に渡って連続した振動にさらした場合においても、比較例1及び2に対して、ガスバリアー性の低下を十分に抑制することができることが確認された。
特に、窒素分布曲線の領域A及び領域Bにおいて、当該窒素原子比率の平均値の差が、5〜20at%の範囲内にあり、かつ当該窒素分布曲線が大きさが相違する二つ以上の極大値を有し、かつ当該ガスバリアー層の表面からの距離の変化に対応して、複数の当該極大値が窒素分布曲線上に非周期的に出現する実施例2〜実施例5、及び実施例7のガスバリアー層は、耐振バリアー性がより優れていることが分かった。