以下に、本発明を具体化した一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、血栓を吸引するための吸引カテーテルについて具体化している。図1は、吸引カテーテルの構成を示す概略全体側面図である。
図1に示すように、吸引カテーテル10は、1m〜2mの長さ寸法とされており、カテーテル本体11と、当該カテーテル本体11の近位端部(基端部)に取り付けられたハブ12とを備えている。カテーテル本体11は、吸引チューブ14と、当該吸引チューブ14の遠位端側(先端側)に設けられたガイドワイヤチューブ15とを備え、これら各チューブ14,15が溶着により接合されることで形成されている。吸引チューブ14は、その内部に吸引ルーメン17を有しており、ガイドワイヤチューブ15は、その内部にガイドワイヤが挿通されるガイドワイヤルーメン18(図2参照)を有している。
ハブ12は、その内部に吸引チューブ14の吸引ルーメン17に通じる流体通路12aを有している。ハブ12には、吸引具としてシリンジSが接続されており、このシリンジSを用いて吸引ルーメン17に負圧を付与することで、同ルーメン17を介して血栓の吸引等を行うことが可能となっている。ちなみに、かかる吸引具としては、シリンジSの他に、電動式の真空ポンプ等が用いられる。
次に、カテーテル本体11の構成について図2を用いて詳細に説明する。図2は、カテーテル本体11の構成を示す縦断面図である。
図2に示すように、カテーテル本体11は、上述したように吸引チューブ14とガイドワイヤチューブ15とが互いに溶着されてなるものとなっている。吸引チューブ14は、近位側吸引チューブ21とそれよりも遠位側に設けられた遠位側吸引チューブ22とを備え、それら各チューブ21,22同士が互いに溶着により接合されることで形成されている。なおここで、吸引チューブ14がメインチューブに相当する。
近位側吸引チューブ21は、吸引チューブ14においてその近位端部から遠位側に向けた所定の範囲を構成している。近位側吸引チューブ21は、管状をなしており、その内部に長手方向全域に亘って連続して延びる内腔21aを有している。近位側吸引チューブ21は、合成樹脂を含む複数種類の素材が積層されてなる複層構造を有している。具体的には、近位側吸引チューブ21は、同チューブ21の内周面を形成する内層27と、同チューブ21の外周面を形成する外層28と、内層27及び外層28の間に設けられた中間層29とを有する。
内層27は、合成樹脂により形成されており、具体的にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いて形成されている。但し、内層27は必ずしもPTFEにより形成される必要はなく、ポリフッ化ビニルデンやパーフロロアルコキシ樹脂等その他の合成樹脂により形成されてもよい。
外層28は、合成樹脂により形成されている。外層28は、軸線方向に並んだ複数の外層31〜34を備え、これら各外層31〜34が互いに溶着されてなるものとなっている。なおここで、各外層31〜34がそれぞれ外層領域に相当する。各外層31〜34は近位側から遠位側に向かって外層31、外層32、外層33、外層34の順に並べられている。これら各外層31〜34は、ポリアミドやポリアミドエラストマ等のポリアミド系樹脂により形成されている。各外層31〜34は、その硬度が近位側のものから遠位側のものに向かって段階的に小さくなっており、それ故その剛性が近位側のものから遠位側のものに向かって段階的に小さくなっている。具体的には、各外層31〜34はいずれもポリアミド系樹脂を用いて形成されているものの、それぞれ硬度の異なるポリアミド系樹脂(材料)を用いて形成されている。
但し、各外層31〜34は必ずしもをポリアミド系樹脂により形成される必要はなく、ポリイミド、ポリイミドエラストマ、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリウレタン、シリコンゴム等その他の合成樹脂により形成されてもよい。
また、外層28は、必ずしも硬度が異なる4つの外層31〜34から形成される必要はなく、硬度が異なる2又は3つの外層から形成されてもよいし、5つ以上の外層から形成されてもよい。また、外層28は、単一(1つ)の外層により形成されてもよく、その場合外層28の軸線方向全域で硬度が一定となる。また、各外層31〜34の硬度を異ならせることに代えて又は加えて、各外層31〜34の厚みを異ならせることにより各外層31〜34の剛性を異ならせてもよい。
各外層31〜34のうち最も遠位側の外層34において内腔21aを囲む周壁部36には、周方向における一部がそれ以外の部位と比べて肉厚とされた肉厚部36aが形成されている。この肉厚部36aには、ガイドワイヤチューブ15の近位側部分(詳しくは後述する近位側ガイドチューブ41)が埋設されるものとなっている。周壁部36において肉厚部36aの近位端部は、外層34(肉厚部36a)の外周面と外層33の外周面との間に段差を生じさせる段差部37となっている。この段差部37には、ガイドワイヤチューブ15のガイドワイヤルーメン18を近位側に向けて開放させる開口部38が形成されており、この開口部38を通じてガイドワイヤGをガイドワイヤルーメン18から引き出すことが可能となっている。
中間層29は、金属製の編組体30により形成されており、補強層に相当するものである。編組体30は、近位側吸引チューブ21を補強するための補強体であり、ステンレス製の補強用線35(線材)がメッシュ状に編み込まれることにより形成されている(図3参照)。編組体30における複数の補強用線35の間には外層28の樹脂が入り込んでおり、その入り込んだ樹脂が内層27と接している。なお、図2では便宜上、中間層29を、編組体30の補強用線35間の隙間が埋められた状態で示している。また、中間層29が編組体30により形成されている点からすれば、中間層29を編組層ということもできる。
また、内層27と中間層29とはその一部が外層28(外層34)よりも遠位側に延出しており、その延出した部分が遠位側吸引チューブ22に対して接合される接合部39となっている。
遠位側吸引チューブ22は、ポリアミドエラストマにより管状に形成されており、単一層構造をなしている。具体的には、遠位側吸引チューブ22は、外層34の硬度と同じか又はそれよりも低い硬度を有するポリアミドエラストマにより形成されている。遠位側吸引チューブ22は、近位側吸引チューブ21とは異なり、編組体30を有しておらず、そのため近位側吸引チューブ21よりも剛性が低く形成されている。なお、吸引チューブ14において、遠位側吸引チューブ22が非補強領域に相当する。
遠位側吸引チューブ22は、その内部に長手方向全域に亘って連続して延びる内腔22aを有している。この内腔22aは、その近位端側において近位側吸引チューブ21の内腔21aと連通しており、これら各内腔21a,22aによって吸引ルーメン17が形成されている。
内腔22aの遠位端開口は、血栓等の異物を吸引ルーメン17に取り込むための吸引口45となっている。遠位側吸引チューブ22の遠位側端面は軸線方向に対して傾斜しており、その傾斜に沿って吸引口45が形成されている。この場合、吸引口45が軸線方向に直交する方向に沿って形成されている場合と比べ、吸引口45の開口面積を大きくすることができ、異物の吸引性能を高めることができる。
遠位側吸引チューブ22において内腔22aを囲む周壁部47には、周方向における一部がそれ以外の部位と比べて肉厚とされた肉厚部47aが形成されている。この肉厚部47aは近位側吸引チューブ21の外層34の肉厚部36aと周方向において同位置に設けられており、この肉厚部47aには、ガイドワイヤチューブ15の遠位側部分(詳細には後述する遠位側ガイドチューブ42)が埋設されるものとなっている。
遠位側吸引チューブ22の近位端部は、近位側吸引チューブ21の遠位端部に対して溶着されている。遠位側吸引チューブ22の近位端側には、近位側吸引チューブ21の接合部39が挿入されており、その挿入状態において接合部39と遠位側吸引チューブ22とが溶着されている。また、遠位側吸引チューブ22の近位端部と近位側吸引チューブ21の外層28(外層34)の近位端部とは互いに突き合わせされた状態で溶着されている。これにより、近位側吸引チューブ21と遠位側吸引チューブ22とが互いに接合されている。
ガイドワイヤチューブ15は、ナイロン樹脂により管状に形成されており、その内部に長手方向全域に亘って延びるガイドワイヤルーメン18を有している。ガイドワイヤチューブ15は、吸引チューブ14の軸線方向において近位側吸引チューブ21及び遠位側吸引チューブ22の双方に跨って延びるように設けられている。具体的には、ガイドワイヤチューブ15は、遠位側吸引チューブ22の肉厚部47aと近位側吸引チューブ21の外層34の肉厚部36aとにそれぞれ埋設されており、これら各肉厚部36a、47aを軸線方向に貫通するように設けられている。
ガイドワイヤチューブ15は、軸線方向に分割されてなる近位側ガイドチューブ41と遠位側ガイドチューブ42とを備え、これら各ガイドチューブ41,42が溶着により互いに接合されることで形成されている。これら各ガイドチューブ41,42は同じ横断面形状を有しており、互いの端面同士を突き合わせた状態で溶着されている。また、各ガイドチューブ41,42はそれぞれその内側に長手方向全域に亘って連続して延びる内腔41a,42aを有している。これら各内腔41a,42aは互いに連通しており、これら各内腔41a,42aによってガイドワイヤルーメン18が形成されている。
近位側ガイドチューブ41は、近位側吸引チューブ21の外層34の肉厚部36aに埋設されている。近位側ガイドチューブ41は、かかる埋設状態において外層34に溶着されており、ひいては近位側吸引チューブ21に溶着されている。具体的には、近位側ガイドチューブ41は、軸線方向の全域が肉厚部36aに埋設されており、その遠位端部が軸線方向において外層34(つまりは外層28)の遠位端部と同位置にある。したがって、上述した近位側吸引チューブ21の接合部39は、外層34に対してのみならず近位側ガイドチューブ41に対しても遠位側に延出している。
遠位側ガイドチューブ42は、遠位側吸引チューブ22の肉厚部47aに埋設されており、その埋設状態で遠位側吸引チューブ22に溶着されている。具体的には、遠位側ガイドチューブ42は、その一部が遠位側吸引チューブ22よりも遠位側に延出しており、その延出した部分については同チューブ22に埋設されない状態となっている。これにより、遠位側ガイドチューブ42の遠位端開口において内腔42a(ガイドワイヤルーメン18)が外部に開放されている。
遠位側ガイドチューブ42は、その近位端側では、軸線方向において近位側吸引チューブ21の接合部39と一部重複しており、その重複部位において接合部39の外周面と当接している。この場合、かかる重複部位では、遠位側ガイドチューブ42と近位側吸引チューブ21の接合部39とが共に遠位側吸引チューブ22の周壁部47により被覆された状態にあり、この周壁部47に対して遠位側ガイドチューブ42と接合部39とがそれぞれ溶着されている。すなわち、遠位側ガイドチューブ42と近位側吸引チューブ21とは周壁部47を介して互いに接合されている。
次に、近位側吸引チューブ21の中間層29について図3を用いて詳しく説明する。図3は、カテーテル本体11の構成を示す側面図である。
中間層29は、上述したように、編組体30を用いて形成されている。図3に示すように、編組体30は、近位側吸引チューブ21の軸線方向に沿って螺旋状に巻回された複数の補強用線35を備え、これら複数の補強用線35がメッシュ状(網目状)に編み込まれることにより形成されている。編組体30(中間層29)は、近位側吸引チューブ21において軸線方向全域に亘って延在しており、その一部がガイドワイヤチューブ15と当該軸線方向において重複している。
各補強用線35はそれぞれ編組体30が延在する延在方向(近位側吸引チューブ21の軸線方向と同方向)全域に亘って連続して延びている。補強用線35は、例えばステンレス鋼からなる平角線により構成されている。補強用線35は、軸線方向全域においてほぼ一定の線径を有して形成されており、例えばその断面積が0.0000785〜0.003mm2に設定されている。また、平角線としては、その幅が厚み以上であるものを使用することができ、例えば厚み:幅=1:1〜1:5のものを使用することができる。
なお、補強用線35は必ずしもステンレス鋼により構成する必要はなく、その他の金属材料により構成してもよい。また、補強用線35を金属材料に代え、カーボン繊維やナイロン等の非金属材料により構成してもよい。さらに、補強用線35は、必ずしも平角線により構成する必要はなく、丸線等その他の断面形状を有する線により構成してもよい。例えば丸線により構成する場合には、線径を0.01〜0.06mmに設定することが考えられる。
中間層29は、近位側吸引チューブ21において近位側から遠位側に向けて剛性が低くなるように形成されている。中間層29は、高剛性領域51と、高剛性領域51よりも遠位側に設けられるとともに高剛性領域51よりも剛性が低く形成された低剛性領域52と、高剛性領域51と低剛性領域52との間に設けられるとともにそれら各剛性領域51,52の剛性の中間の剛性を有して形成された遷移領域53とを備える。
高剛性領域51は、近位側吸引チューブ21においてその近位端部からガイドワイヤチューブ15よりも近位側の途中位置までを構成しており、詳しくは、その遠位端部が外層31の軸線方向の途中位置に存在している。低剛性領域52は、高剛性領域51よりも遠位側から近位側吸引チューブ21の遠位端部までを構成しており、詳しくは、その近位端部が外層31の軸線方向の途中位置に存在している。この場合、低剛性領域52は、その一部がガイドワイヤチューブ15と軸線方向で重複するように配置されている。したがって、高剛性領域51と低剛性領域52との間の遷移領域53は軸線方向において外層31の途中位置に配置されている。
なお、高剛性領域51と低剛性領域52との間の遷移領域53(ひいては高剛性領域51と低剛性領域52との間の境界部)は必ずしも軸線方向において外層31の途中位置に配置する必要はなく、外層32又は外層33のうちいずれかの途中位置に配置してもよい。また、隣接する外層32,33同士の境界部又は隣接する外層33,34同士の境界部に配置してもよい。要するに、高剛性領域51と低剛性領域52との境界部は、ガイドワイヤチューブ15よりも近位側であればその位置は任意としてよい。
高剛性領域51、低剛性領域52及び遷移領域53ではそれぞれ、編組体30における近位側吸引チューブ21の軸線方向に対する補強用線35の傾きがそれぞれ相違している。具体的には、高剛性領域51、遷移領域53、低剛性領域52の順に近位側吸引チューブ21の軸線方向に対する補強用線35の傾き(すなわち傾斜角度α)が小さくなっており、換言すると、上記の順に補強用線35の巻回ピッチ(詳しくは、補強用線35の一巻きにつき補強用線35が近位側吸引チューブ21の軸線方向に変位する長さ)が大きくなっている。なお、近位側吸引チューブ21の軸線方向に対する補強用線35の傾斜角度には、鋭角側の角度と鈍角側の角度とが存在するが、本明細書における「傾斜角度α」とは鋭角側の角度を指すものとする。
このような構成においては、編組体30の網目(メッシュ)が高剛性領域51、遷移領域53、低剛性領域52の順に粗くなっており、換言すると上記の順で近位側吸引チューブ21の軸線方向の単位長さ当たり(以下、チューブ単位長さ当たりという)における編組体30の補強用線35の量(総量)が少なくなっている。また、さらに換言すると、上記の順で、チューブ単位長さ当たりにおける補強用線35の巻回数が少なくなっている。これにより、中間層29では、高剛性領域51、遷移領域53、低剛性領域52の順に剛性が小さくなるように形成されている。なおここで、補強用線35の量とは、補強用線35の体積や重量のことをいう。
また、遷移領域53では、近位側から遠位側に向かって近位側吸引チューブ21の軸線方向に対する補強用線35の傾斜角度αが徐々に小さくなっている。詳しくは、遷移領域53では、その近位端部から遠位側に向かって補強用線35の傾斜角度αが高剛性領域51における補強用線35の傾斜角度αから徐々に小さくなっており、また、その遠位端部から近位側に向かって補強用線35の傾斜角度αが低剛性領域52における補強用線35の傾斜角度αから徐々に大きくなっている。これにより、遷移領域53では、近位側から遠位側に向かって編組体30の網目(メッシュ)が密から粗へと徐々に変化している。したがって、遷移領域53では、その剛性が近位側(高剛性領域51側)から遠位側(低剛性領域52側)へ向かって滑らかに低くなっており、剛性の大きさが相違する2つの領域51,52を設けた構成において、吸引カテーテル10の挿通性の向上が図られているとともに、各領域51,52の境界部でキンクが発生してしまうことが抑制されている。
なお、遷移領域53において補強用線35の傾斜角度αを軸線方向全域に亘って一定としてもよい。この場合、同領域53における剛性が軸線方向全域に亘り一定となる。また、遷移領域53を設けない構成としてもよい。この場合、高剛性領域51と低剛性領域52とが軸線方向に連続して形成されることとなる。
次に、吸引カテーテル10の製造手順について図4を用いながら説明する。なお、図4は、吸引カテーテル10の製造手順を説明するための説明図である。
まず、図4(a)に示すように、遠位側吸引チューブ22と遠位側ガイドチューブ42とを熱溶着により接合することで遠位側チューブ50を製造する遠位側チューブ製造工程を行う。この工程では、遠位側吸引チューブ22の内腔22aに遠位側ガイドチューブ42を、その外周面を遠位側吸引チューブ22の内周面に当接させた状態で配置し、その配置状態でそれら両チューブ22,42を熱溶着により接合する。
次に、近位側吸引チューブ21を製造する近位側吸引チューブ製造工程を行う。この工程では、まず図4(b)に示すように、内層27を構成する内管55の外周面に、複数の補強用線35を螺旋状にかつ編組させて巻き付けることで編組体30を形成する。ここで、補強用線35の巻き付けは、例えばブレーダー装置(図示略)により補強用線35を繰り出しながら、内管55を軸線方向に移動させつつ軸線を中心に回転させることで行われる。この場合、補強用線35が内管55の外周面に所定の傾斜角度α(換言すると所定の巻回ピッチ)で巻回されるように、内管55の回転速度を一定に保ちながら内管55の軸線方向への移動速度を調整する。なお、補強用線35の傾斜角度α(巻回ピッチ)は、内管55の移動速度を高くするほど小さく(大きく)なるようになっている。
なお、補強用線35を所定の傾斜角度αで巻回することは、必ずしも内管55の回転速度を一定に保ちながら内管55の移動速度を調整することにより行う必要はなく、例えば内管55の移動速度を一定に保ちながら内管55の回転速度を調整することにより行ってもよい。また、内管55の移動速度及び回転速度の双方を調整することにより行ってもよい。
次に、図4(c)に示すように、編組体30の外周側における所定の範囲を、各外層31〜33をそれぞれ構成する外管56〜58により被覆して、内管55(内層27)の外周面と外管56〜58の内周面とを熱溶着により接合する。これにより、外層31〜33が形成され、内層27と外層31〜33との間に編組体30(中間層29)が介在される。
次に、図4(d)に示すように、近位側吸引チューブ21と近位側ガイドチューブ41とが接合されてなる近位側チューブ49を製造する近位側チューブ製造工程を行う。この工程では、まず編組体30の外周側における所定位置に近位側ガイドチューブ41を配置するとともに、近位側ガイドチューブ41と編組体30(詳しくは編組体30において外層31〜33により被覆されていない部分)との双方に対して外側から外層34を構成する外管59を被せ、その外側からヒータにより熱を加える。これにより、外管59が溶け出して、それが編組体30の各補強用線35の間に入り込んで内層27に溶着されるとともに近位側ガイドチューブ41に溶着される。この溶着によって外管59が外層34となり、外層28全体が形成される。そして、近位側吸引チューブ21と近位側ガイドチューブ41とが溶着されてなる近位側チューブ49が製造される。
次に、図4(e)に示すように、遠位側チューブ50と近位側チューブ49とを接合するチューブ接合工程を行う。この工程では、まず近位側チューブ49における近位側吸引チューブ21の接合部39を遠位側チューブ50における遠位側吸引チューブ22の近位端部に挿入するとともに、近位側ガイドチューブ41と遠位側ガイドチューブ42とを互いの端面同士を突き合わせた状態で配置する。
その後、遠位側チューブ50と近位側チューブ49とを熱溶着により接合する。具体的には、近位側吸引チューブ21の接合部39と遠位側吸引チューブ22の近位端側とを熱溶着するとともに、近位側吸引チューブ21の外層28の遠位側端面と遠位側吸引チューブ22の近位側端面とを熱溶着する。これにより、吸引チューブ14が形成される。また、近位側ガイドチューブ41と遠位側ガイドチューブ42とを熱溶着する。これにより、ガイドワイヤチューブ15が形成される。よって、以上によりカテーテル本体11が形成される。
その後、後工程として、カテーテル本体11にハブ12を連結するハブ連結工程等を行うことで、一連の製造工程が終了する。
次に、吸引カテーテル10の使用手順について簡単に説明する。
先ず予め血管内に挿入されたシースイントロデューサにガイディングカテーテルを挿通する。次いで、ガイドワイヤGをガイドワイヤチューブ15のガイドワイヤルーメン18に挿通するとともにガイディングカテーテル内に挿通し、血栓が存在する治療対象箇所を越える位置まで挿入する。続いて、ガイドワイヤGに沿って吸引カテーテル10を、押引操作を加えながら治療対象箇所まで挿入する。
ここで、吸引カテーテル10を血管内に挿入するに際しては、ガイドワイヤチューブ15にガイドワイヤGが挿通されているため、吸引カテーテル10においてガイドワイヤチューブ15が設けられている部位すなわち吸引カテーテル10の遠位端側にて剛性の高まりが懸念される。しかしながら、上記の吸引カテーテル10では、吸引チューブ14に設けられた中間層29においてガイドワイヤチューブ15と軸線方向で重複する範囲については剛性の低い低剛性領域52となっているため、吸引カテーテル10の遠位端側での剛性の高まりが抑制されている。その一方で、吸引チューブ14の近位側においては中間層29が高剛性領域51となっているため、吸引カテーテル10の近位側では剛性が高くなっている。したがって、この場合、吸引カテーテル10を体内へ挿入する際における力の伝達性や耐キンク性の低下を抑制することができ、その結果吸引カテーテル10を体内に挿入する際の操作性の低下を抑制することができる。
吸引カテーテル10を治療対象箇所まで挿入した後、ハブ12に接続されたシリンジSを用いて、吸引チューブ14の吸引ルーメン17を負圧とする。これにより、吸引ルーメン17を介して血管内の血栓が吸引除去される。ここで、上記の吸引カテーテル10では、吸引チューブ14においてガイドワイヤチューブ15と軸線方向で重複する範囲においても一部に中間層29が設けられているため、当該重複範囲に中間層29が設けられていない場合と比べて、吸引チューブ14の遠位端側の強度が高められている。これにより、吸引ルーメン17が負圧とされた場合において吸引チューブ14に潰れが生じることを抑制できるため、吸引性能の低下を抑制しながら、上述した操作性の低下を抑制することが可能となる。
なお、吸引カテーテル10は上記のように主として血管内を通されて、例えば冠状動脈、大腿動脈、肺動脈などの血管を治療するために用いられるが、血管以外の尿管や消化管などの生体内の「管」や、「体腔」にも適用可能である。
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
中間層29において、低剛性領域52ではそれよりも近位側の領域51,53と比べて補強用線35の傾斜角度αを小さくすることで、換言すると低剛性領域52ではそれよりも近位側の領域51,53と比べて補強用線35の巻回ピッチを大きくすることで、低剛性領域52における剛性をそれよりも近位側の領域51,53と比べて小さくするようにした。この場合、補強用線35の傾斜角度α(換言すると巻回ピッチ)を近位側吸引チューブ21の軸線方向の途中位置で変化させるという簡易な手法によって、低剛性領域52の剛性をそれよりも近位側の領域51,53よりも低くすることができる。そのため、吸引カテーテル10を体内に挿入する際における力の伝達性や耐キンク性の低下を抑制することで操作性の低下を抑制するという上述の効果を比較的簡単に得ることができる。
吸引チューブ14において、中間層29(編組層)を有する近位側吸引チューブ21をその遠位端部がガイドワイヤチューブ15の軸線方向の途中位置に存在するよう配置し、近位側吸引チューブ21よりも遠位側には編組層を有しない遠位側吸引チューブ22を設けた。この場合、吸引チューブ14において軸線方向でガイドワイヤチューブ15と重複する範囲に、編組層が設けられている部位と、中間層29(編組層)が設けられていない部位(非編組領域)とがそれぞれ前者が近位側、後者が遠位側となるように配置される。そのため、ガイドワイヤチューブ15が設けられている遠位端側の領域において、その剛性を近位側よりも遠位側の方を低くすることができ、その結果吸引カテーテル10の挿通性の向上を図ることができる。
吸引チューブ14(近位側吸引チューブ21)の周壁部において中間層29の外側に設けられる外層28を軸線方向に並んだ複数の外層31〜34から構成し、それら各外層31〜34についてその剛性を近位側のものから遠位側のものに向かって小さくなるように形成した。この場合、中間層29に加え、外層28についても剛性が近位側から遠位側に向かって低くなるように形成されているため、吸引カテーテル10の剛性を近位側から遠位側に向かって低くするにあたってより好ましい構成となる。
また、低剛性領域52の近位端部については外層34の軸線方向の途中位置に配置したため、中間層29の剛性が大小切り替わる箇所と、外層28の剛性が大小切り替わる箇所とが軸線方向でずれている。この場合、中間層29と外層28とによって吸引カテーテル10の剛性を近位側から遠位側に向かって多段階で低くすることができるため、吸引カテーテル10の挿通性についてより一層の向上を図ることができる。
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
(1)上記実施形態では、中間層29において低剛性領域52では高剛性領域51と比べて補強用線35の巻回ピッチを大きくすることにより(換言すると低剛性領域52では高剛性領域51と比べて吸引チューブ14の軸線方向に対する補強用線35の傾きを小さくすることにより)、低剛性領域52の剛性を高剛性領域51の剛性よりも小さくしたが、低剛性領域52を高剛性領域51よりも低剛性とするための構成は必ずしもこれに限定されない。例えば、低剛性領域52では高剛性領域51と比べて補強用線35の本数を少なくすることで、低剛性領域52を高剛性領域51よりも低剛性に形成してもよい。その具体例を図5に示す。
図5では、中間層29において高剛性領域61と低剛性領域62とが隣接して設けられており、それら各領域61,62の間に遷移領域53が設けられていない構成となっている。高剛性領域61と低剛性領域62とはそれぞれ異なる編組体64,65により構成されており、第1編組体64を構成する補強用線66と第2編組体65を構成する補強用線67とは互いに不連続となっている。各編組体64,65はそれぞれ同じ材質でかつ同じ線径を有して形成されている。各編組体64,65はそれぞれ近位側吸引チューブ21の軸線方向に対する補強用線66,67の傾き(傾斜角度α)が同じとされており、そのため補強用線66,67の巻回ピッチも同じとされている。しかしながら、各編組体64,65は補強用線66,67の本数が互いに相違しており、具体的には第1編組体64よりも第2編組体65の方が補強用線の本数が少なくなっている。この場合、近位側吸引チューブ21の軸線方向の単位長さ当たりにおける補強用線66,67の量が、高剛性領域61よりも低剛性領域62の方が少なくなるため、かかる構成においても、低剛性領域62の剛性を高剛性領域61の剛性よりも低くすることができる。
(2)低剛性領域52では中間層29を一層だけ設けるのに対し、高剛性領域51では編組層を径方向に複数層設けることで、低剛性領域52を高剛性領域51よりも剛性が低くなるようにしてもよい。例えば、上記実施形態の構成において、高剛性領域51においては中間層29の外周側にもう一つ編組体を設け、内外二重の編組層を形成することが考えられる。この場合においても、低剛性領域の剛性を高剛性領域の剛性よりも低くすることが可能となる。
(3)上記実施形態では、補強用線35の傾斜角度αが小さくなるほど中間層29(編組体30)の剛性が高くなるという特性を利用して、低剛性領域52ではそれよりも近位側と比べて補強用線35の傾斜角度αを小さくしたが、例えば補強用線35の強度(剛性)が大きい場合には、補強用線35の傾斜角度αと中間層29の剛性との関係が逆転することがある。すなわち、補強用線35の傾斜角度αが小さくなるほど中間層29の剛性が高くなることがある。その場合の例を図6に示す。
図6では、上記実施形態とは異なり、中間層29において、低剛性領域72では高剛性領域71と比べて、補強用線75の傾斜角度αが大きくなっている。具体的には、高剛性領域71、遷移領域73,低剛性領域72の順に、補強用線75の傾斜角度αが大きくなっている。この場合、上記の順に、編組体70の網目(メッシュ)が細かくなっているものの、中間層29の剛性は上記の順に低くなっている。なぜなら、本例では、補強用線75自体が有する強度(剛性)が上記実施形態の補強用線35と比べて大きいものとなっているからである。具体的には、補強用線75は、その断面積が上記実施形態における補強用線35の断面積よりも大きくなっており、例えば断面積が0.003〜0.00785mm2に設定されている。また、平角線としては、その幅が厚み以上であるものを使用することができ、例えば厚み:幅=1:1〜1:5のものを使用することができる。なお、補強用線75を、丸線により構成する場合には、その線径を例えば0.06〜0.1mmに設定することが考えられる。
かかる点についてより詳しく説明すると、補強用線75の傾斜角度αが大きい場合には、吸引カテーテル10を軸線方向に対して直交する方向に曲げる際に補強用線75が曲げの抵抗になりにくいのに対して、補強用線75の傾斜角度αが小さい場合には、補強用線75が曲げの抵抗となり易い。したがって、この点からすると、補強用線75の傾斜角度αが小さくなるほど、中間層29(編組体70)の剛性が高くなる場合も考えられる。そこで、補強用線75として強度の大きいものを用いた本例では、この傾向が強く現れて、その結果、高剛性領域71、遷移領域73,低剛性領域72の順に補強用線75の傾斜角度αが大きくされることで、かかる順に中間層29の剛性が低くされている。
このような構成においても、上記実施形態と同様に、補強用線75の傾斜角度α(換言すると巻回ピッチ)を軸線方向の途中で変化させるという簡易な手法で、高剛性領域71、遷移領域73、低剛性領域72の順に剛性を低くすることができる。そのため、ガイドワイヤチューブ15を有する吸引カテーテル10において、その操作性を高めるという効果を比較的簡単に得ることができる。
(4)上記実施形態の構成において、近位側吸引チューブ21に加え、遠位側吸引チューブ22にも編組層を設けるようにしてもよい。例えば、遠位側吸引チューブ22の軸線方向全域に編組層を設けることが考えられる。この場合、吸引チューブ14においてガイドワイヤチューブ15と軸線方向で重複する重複範囲(以下、ガイドワイヤチューブ重複範囲ともいう)全域に亘って編組層が設けられることとなり、吸引チューブ14の遠位端部に亘るまで吸引チューブ14を補強することが可能となる。
また、この場合、遠位側吸引チューブ22に設ける編組層についてはその剛性が近位側吸引チューブ21の中間層29よりも低くなるように形成することが望ましい。そうすれば、吸引チューブ14においてガイドワイヤチューブ15が設けられている領域における剛性を近位側から遠位側に向けて低くすることができるため、同領域において耐キンク性の向上を図ることができる。また、吸引チューブ14の遠位端部まで補強しつつも、同チューブ14の遠位端部における柔軟性の低下を抑制できるという利点もある。
(5)上記実施形態の吸引カテーテル10を、下行大動脈、大動脈弓及び上行大動脈を経て冠動脈に導入し、当該冠動脈の吸引除去を行う場合には、吸引カテーテル10において剛性の高い部分が大動脈弓に配置されることになると、操作性の低下を招くおそれがある。そこで、この点に鑑みて、吸引カテーテル10において大動脈弓に配置される部位よりも近位側に、中間層29における高剛性領域51と低剛性領域52との境界部を設定することが考えられる。そうすれば、吸引カテーテル10を冠動脈に導入した際には当該部位の全域に低剛性領域52が配置されることとなるため、操作性の低下を防止することができる。
(6)上記実施形態では、複数の補強用線35が編組されてなる編組体30を補強体として吸引チューブ14に埋設したが、これを変更し、1本の補強用線が軸線方向に螺旋状に巻回されてなるコイル状の補強体を吸引チューブ14に埋設してもよい。この場合、吸引チューブ14において補強体の埋設に伴う可撓性の低下を抑制できるため、吸引チューブ14を屈曲血管へ挿入する際の追従性の低下を抑制できる。
(7)上記実施形態では、中間層29を補強層に相当するものとして説明したが、外層28(外層樹脂)と編組体30(補強体に相当)とを合わせたものや、内層27(内層樹脂)と編組体30とを合わせたものを補強層とみなすこともできる。あるいは、その他の樹脂と編組体30とを合わせたものを補強層とみなしてもよい。要するに、近位側吸引チューブ21において編組体30(補強体)が埋設されてなる部分を補強層とみなすことができる。
(8)上記実施形態では、本発明を吸引カテーテルに適用した場合について説明したが、本発明をガイドワイヤチューブを有するその他のカテーテルに適用してもよい。