以下、可変動弁装置の制御装置の一実施形態について、図1〜図8を参照して説明する。
図1に示すように、内燃機関に設けられるバルブタイミング可変機構30は、ベーンロータ1、ハウジング2の2つの回転体を備えている。
ベーンロータ1は、略円筒形状のロータ本体3と、ロータ本体3の外周から径方向に突出する複数(同図1のものでは3つ)のベーン4とを有して構成されている。こうしたベーンロータ1は、内燃機関の吸気バルブを開閉する吸気側カムシャフトの先端に一体回転可能に固定されている。
一方、ハウジング2は、略円環形状に形成されるとともに、その内周にベーン4を収容する、ベーン4と同数の凹部5を備えて構成されている。凹部5の内部は、ベーン4によって2つの油室に区画されている。このうち、ベーン4のカムシャフト回転方向に形成された油室は、ハウジング2に対してベーンロータ1をカムシャフト反回転方向に相対回動させるための油圧が導入される遅角室6となっている。またベーン4のカムシャフト反回転方向に形成された油室は、ハウジング2に対してベーンロータ1をカムシャフト回転方向に相対回動させるための油圧が導入される進角室7となっている。
ハウジング2は、内燃機関のクランクシャフトに同期して回転するスプロケット8と一体回転可能に固定されており、ベーンロータ1に対して同一の軸心を有して相対回動可能とされている。
こうしたバルブタイミング可変機構30では、遅角室6に作動油が供給されるとともに、進角室7から作動油が排出されると、ベーン4両側の油圧差によってハウジング2に対してベーンロータ1がカムシャフト回転方向に相対回動される。これにより、ベーンロータ1に一体回転可能に固定されたカムシャフトの回転位相が遅らされるようになり、カムシャフトに設けられたカムによって開閉駆動される吸気バルブのバルブタイミングが遅角される。
一方、進角室7に作動油を供給されるとともに、遅角室6から作動油が排出されると、ベーン4両側の油圧差により、ベーンロータ1がハウジング2に対してカムシャフト回転方向に相対回動される。これにより、ベーンロータ1に一体回転可能に固定されたカムシャフトの回転位相が進められるようになり、カムシャフトに設けられたカムによって開閉駆動される吸気バルブのバルブタイミングが進角される。
バルブタイミング可変機構30のベーン4のうちの1つには、吸気バルブのバルブタイミングを予め定められた第1位相に固定する第1固定機構200Aが設けられている。第1位相は、吸気バルブのバルブタイミングが最も遅角側になる位相(最遅角位相)に設定されている。吸気バルブのバルブタイミングがこの最遅角位相になっているときには、吸気バルブの閉弁時期は、吸気下死点よりも遅角側の時期になる。
また、第1固定機構200Aが設けられたベーン4とは異なる別のベーン4の1つには、吸気バルブのバルブタイミングを予め定められた第2位相に固定する第2固定機構200Bが設けられている。この第2固定機構200Bの構造は、第1固定機構200Aの構造と同一である。そして上記第2位相は、第1位相よりも進角側の位相であって、最遅角位相と最進角位相との中間に位置する中間位相に設定されている。この中間位相として、本実施形態では、低温時の機関始動に適した位相を設定しているが、この他の位相を設定してもよい。
ちなみに、最遅角位相とは、ハウジング2に対してベーンロータ1が最もカムシャフト反回転方向に相対回動されたときの位相のことであり、最進角位相とは、ハウジング2に対してベーンロータ1が最もカムシャフト回転方向に相対回転されたときの位相のことである。
図2は、第1固定機構200Aの側部断面構造を示している。第1固定機構200Aは、インナーピン10、アウターピン11の2つのピンを備えている。円筒形状に形成されたインナーピン10の外周には、円環形状に形成されたアウターピン11が、図中上下方向に摺動可能に挿入されている。これら2つのピンは、ベーン4に形成された収容孔12に、図中上下方向に摺動可能に収容されている。インナーピン10は、収容孔12から図中下方に突出することで、スプロケット8に形成された係止穴91Aに係合する。この係止穴91Aは、吸気バルブのバルブタイミングが最遅角位相になったとき、つまり上記第1位相になったときのインナーピン10の位置に合わせて形成されている。そしてインナーピン10が係止穴91Aに係合すると、ハウジング2に対するベーンロータ1の相対回転が規制される。係止穴91Aの側方には、ベーン4が回動したときのインナーピン10の軌跡に沿うようにして係止穴91Aよりも遅角側の所定位置にまで延びており、かつ係止穴91Aよりも底の浅い係止溝90Aが形成されている。
収容孔12の図中上方側の開口は、スプリングガイドブッシュ13により閉塞されている。また、収容孔12の図中下方側の開口には、インナーピン10の先端が通過できるだけの円孔14aが中央に形成された環状のリングブッシュ14が固定されている。
インナーピン10とスプリングガイドブッシュ13との間には、インナーピンスプリング15が配設されている。また、アウターピン11とスプリングガイドブッシュ13との間には、アウターピンスプリング16が配設されている。そして、これらスプリング(15、16)によりインナーピン10及びアウターピン11は、図中下方に向けて常時付勢されている。
アウターピン11とリングブッシュ14との間には、解除室17が区画形成されている。油路を介して解除室17に作動油が供給されると、アウターピン11がアウターピンスプリング16の付勢力に抗して図中上方に変位する。アウターピン11が上方に変位すると、インナーピン10もインナーピンスプリング15の付勢力に抗して図中上方に変位する。このようにインナーピン10が図中上方に変位することで、インナーピン10と係止穴91Aとの係合が解除されて、インナーピン10は収容孔12に収納される。これにより第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定が解除されて、バルブタイミング可変機構30によるバルブタイミングの変更が可能になる。
収容孔12には、バルブタイミング可変機構30の遅角室6、進角室7にそれぞれ連通する油室連通路19、20が接続されている。アウターピン11が図中下方に変位したときには、油室連通路19,20は互いに連通され、アウターピン11が図中上方に変位したときには、油室連通路19,20の互いの連通がアウターピン11によって遮断される。従って、解除室17の油圧が抜かれて、アウターピン11が図中下方に変位したときには、バルブタイミング可変機構30の遅角室6と進角室7とが互いに連通される。
上述したように、第1固定機構200Aと第2固定機構200Bとは、同一の構造であるため、第2固定機構200Bの説明は省略する。ただし、第1固定機構200Aのインナーピン10が係合する係止穴91A及び係止溝90Aと、第2固定機構200Bのインナーピン10が係合する係止穴91B及び係止溝90Bの形成位置は異なっている。
図3に示すように、第1固定機構200Aのインナーピン10が係合する係止穴91Aは、上述したように、吸気バルブのバルブタイミングが最遅角位相になったとき、つまり上記第1位相になったときのインナーピン10の位置に合わせて形成されている。従って、第1固定機構200Aのインナーピン10が係止穴91Aに係合すると、吸気バルブのバルブタイミングは、最遅角位相に固定される。
このようにして吸気バルブのバルブタイミングが最遅角位相に固定された状態では、バルブタイミングが最遅角位相よりも進角側で固定された場合と比較して、実圧縮比が低くなる。そのため、機関始動時の機関振動、より詳細には始動用モータなどによる内燃機関300のクランキング中における機関振動を抑えることができる。また、クランキング開始後における機関回転速度の上昇速度が速くなるため、例えば初爆(クランキング開始後の最初の混合気の爆発)発生までの時間が短くなる。
図4に示すように、第2固定機構200Bのインナーピン10が係合する係止穴91Bは、吸気バルブのバルブタイミングが上記中間位相になったとき、つまり上記第2位相になったときのインナーピン10の位置に合わせて形成されている。係止穴91Bの側方には、ベーン4が回動したときのインナーピン10の軌跡に沿うようにして係止穴91Bよりも遅角側の所定位置にまで延びており、かつ係止穴91Bよりも底の浅い係止溝90Bが形成されている。第2固定機構200Bのインナーピン10が係止穴91Bに係合すると、ハウジング2に対するベーンロータ1の相対回転が規制される。そのため、第2固定機構200Bのインナーピン10が係止穴91Bに係合すると、吸気バルブのバルブタイミングは、上記中間位相に固定される。
このようにして吸気バルブのバルブタイミングが中間位相に固定された状態では、バルブタイミングが、上記最遅角位相に固定されているときよりも進角側になっている。そのため、実圧縮が高くなって低温時の始動性が向上する。
図5は、バルブタイミング可変機構30等に作動油を供給する経路を示している。
オイルパン60に貯留されている作動油は、吸込油路71を介してオイルポンプ61に汲み上げられる。このオイルポンプ61は、内燃機関300のクランクシャフトの回転によって駆動される油圧ポンプである。そして、オイルポンプ61から吐出された作動油は、バルブタイミング可変機構30を含む各部位に供給される。
オイルパン60とオイルポンプ61とは上記吸込油路71で接続されており、オイルポンプ61とオイルコントロールバルブ63とは第1供給油路72で接続されている。また、オイルコントロールバルブ63とオイルパン60とは第1排出油路73で接続されており、オイルコントロールバルブ63と進角室7とは進角油路74で接続されている。そして、オイルコントロールバルブ63と遅角室6とは遅角油路75で接続されており、第1固定機構200A及び第2固定機構200Bの各解除室17とオイルコントロールバルブ63とは解除油路76で接続されている。
オイルポンプ61とオイルコントロールバルブ63とを繋ぐ上記第1供給油路72の途中には、オイルコントロールバルブ63からオイルポンプ61への作動油の流れを規制する逆止弁85が設けられている。
オイルポンプ61と逆止弁85との間の第1供給油路72には、第1分岐油路80が接続されており、この第1分岐油路80は、作動油を貯留するタンク81に接続されている。タンク81と電動式の油圧ポンプ(以下、電動ポンプという)83とは、ポンプ油路82で接続されている。電動ポンプ83の吐出口には、第2分岐油路84が接続されており、この第2分岐油路84は、オイルコントロールバルブ63と逆止弁85との間の第1供給油路72に接続されている。
こうした油路を備えることにより、オイルコントロールバルブ63には、オイルポンプ61によってオイルパン60から吸い込まれた作動油が供給される。また、機関停止中や機関始動時などのように、オイルポンプ61の作動油供給能力が低下するときには、電動ポンプ83を駆動し、タンク81に貯留された作動油をオイルコントロールバルブ63に供給する。
上記オイルコントロールバルブ63は、複数のポートが設けられた単一のハウジングと、このハウジング内に設けられた単一のスプールとにより構成されている。そして、このスプールがハウジングに対して移動することにより、遅角室6及び進角室7及び解除室17に対する作動油の給排状態は、図6に示す第1モードM1〜第5モードM5に変更される。
(第1モードM1)進角室7への作動油の供給及び同進角室7からの作動油の排出をともに停止し、且つ遅角室6への作動油の供給及び同遅角室6からの作動油の排出をともに停止し、且つ解除室17から作動油を排出するモード。
この第1モードM1では、進角室7及び遅角室6での作動油の出入りが無いため、吸気バルブのバルブタイミングは現状値のまま保持される。また、第1固定機構200A及び第2固定機構200Bのインナーピン10は、収容孔12から突出する方向に付勢されており、バルブタイミングが最遅角位相となっているときには、第1固定機構200Aによってバルブタイミングは最遅角位相に固定された状態に維持される。一方、バルブタイミングが中間位相となっているときには、第2固定機構200Bによってバルブタイミングは中間位相に固定された状態に維持される。従って、第1モードM1では、進角室7や遅角室6に作動油を供給することができない場合でも、第1固定機構200Aまたは第2固定機構200Bの作動によってバルブタイミングの固定状態を保持することができる。この第1モードM1は、例えば機関停止中に選択される。
(第2モードM2)進角室7から作動油を排出し、且つ遅角室6に作動油を供給し、且つ解除室17から作動油を排出するモード。
この第2モードM2では、吸気バルブのバルブタイミングは遅角側に変化する。また、第1固定機構200A及び第2固定機構200Bのインナーピン10は、収容孔12から突出する方向に付勢されており、バルブタイミングが最遅角位相になったときには、第1固定機構200Aによってバルブタイミングは最遅角位相に固定される。一方、バルブタイミングが中間位相となったときには、第2固定機構200Bによってバルブタイミングは中間位相に固定される。この第2モードM2は、例えば機関停止に際してバルブタイミングを固定するときに選択される。
(第3モードM3)進角室7から作動油を排出し、且つ遅角室6に作動油を供給し、且つ解除室17に作動油を供給するモード。
この第3モードM3では、吸気バルブのバルブタイミングは遅角側に変化する。また、第1固定機構200A及び第2固定機構200Bのインナーピン10は、収容孔12に収容されている。従って、第1固定機構200Aや第2固定機構200Bによるバルブタイミングの固定は解除されている。この第3モードM3は、例えばバルブタイミングを遅角側に変更するときに選択される。
(第4モードM4)進角室7への作動油の供給及び同進角室7からの作動油の排出をともに停止し、且つ遅角室6への作動油の供給及び同遅角室6からの作動油の排出をともに停止し、且つ解除室17に作動油を供給するモード。
この第4モードM4では、進角室7及び遅角室6での作動油の出入りが無いため、吸気バルブのバルブタイミングは現状値のまま保持される。また、第1固定機構200A及び第2固定機構200Bのインナーピン10は、収容孔12に収容されている。従って、第1固定機構200Aや第2固定機構200Bによるバルブタイミングの固定は解除されている。つまり、第4モードM4では、第1モードM1と異なり、バルブタイミングの保持が進角室7及び遅角室6での作動油の保持によって行われる。そして、インナーピン10によるバルブタイミングの固定は解除されているため、第3モードM3や後述の第5モードM5にモードが切り替えられると、ベーン4は速やかに回動し、バルブタイミングも速やかに変更される。この第4モードM4は、例えば、機関運転中においてバルブタイミングを任意の位相に保持するときに選択される。
(第5モードM5)進角室7に作動油を供給し、且つ遅角室6から作動油を排出し、且つ解除室17に作動油を供給するモード。
この第5モードM5では、吸気バルブのバルブタイミングは進角側に変化する。また、第1固定機構200A及び第2固定機構200Bのインナーピン10は、収容孔12に収容されている。従って、第1固定機構200Aや第2固定機構200Bによるバルブタイミングの固定は解除されている。この第5モードM5は、例えばバルブタイミングを進角側に変更するときに選択される。
上記バルブタイミング可変機構30、第1及び第2固定機構200A、200B、それら各機構に作動油を供給する油圧機構や油路等によって油圧式の可変動弁装置が構成されている。
先の図5に示すように、可変動弁装置を備える内燃機関300の各種制御は、制御装置100によって行われる。制御装置100は、演算処理を実行するCPU、制御に必要なプログラムやデータが記憶されたROM、CPUの演算結果が一時的に記憶されるRAM、外部との間で信号を入力したり出力したりするためのポート等を備えている。
内燃機関300には、機関運転状態等を検出する各種のセンサ等が設けられている。例えば、吸気カムポジションセンサ101は、吸気カムシャフトの回転位相を検出する。クランク角センサ102は、機関回転速度NEの算出に必要なクランクシャフトの回転角を検出する。水温センサ103は、内燃機関300の冷却水の温度(冷却水温THW)を検出する。アクセル操作量センサ104は、アクセルペダルの操作量(アクセル操作量ACCP)を検出する。車速センサ105は、内燃機関300が搭載された車両の車速SPを検出する。イグニッションスイッチ(以下、IGスイッチという)106は、その操作状態が制御装置100に入力されることにより、車両運転者による機関始動要求や機関停止要求の有無が検出される。つまりIGスイッチ106がオン操作されると、制御装置100は、機関始動要求があると判断し、IGスイッチ106がオフ操作されると、制御装置100は、機関停止要求があると判断する。
制御装置100は、上記各種センサ等からの検出信号に基づいて機関運転状態を把握し、その把握した機関運転状態に応じた各種制御を行う。例えば制御装置100は、燃料噴射制御、点火時期制御、オイルコントロールバルブ63の駆動制御を通じた吸気バルブのバルブタイミング制御、電動ポンプ83の駆動制御等を行う。
また、制御装置100は、予め定められた自動停止条件が成立したときに内燃機関300を自動停止させる自動停止制御と、予め定められた自動始動条件が成立したときに内燃機関300を自動始動させる自動始動制御も行う。
(自動停止時の位相処理)
次に、内燃機関300が自動停止されるときの吸気バルブのバルブタイミングを設定する位相処理について説明する。なお、この自動停止時の位相処理は、制御装置100によって実行される。
図7に示すように、本処理が開始されるとまず、自動停止条件が成立しているか否かが判定される(S100)。この自動停止条件としては、例えば次の条件SP1〜SP3などが設定されている。
SP1:アクセル操作量ACCPが「0」であり、内燃機関300の運転状態がアイドル運転状態であること。
SP2:内燃機関1が冷間状態ではないこと。なお、冷間状態か否かの判定は、冷却水温THW等に基づいて行うことができる。
SP3:車速SPが所定値以下であること。
これら条件SP1〜SP3などが全て満たされる場合には、自動停止条件が成立したと判定される。
ステップS100にて、自動停止条件が成立していないときには(S100:NO)、本処理は、一旦終了される。
一方、ステップS100にて、自動停止条件が成立しているときには(S100:YES)、内燃機関300の温度(機関温度)が判定温度以上に高いか否かが判定される(S110)。この判定温度としては、吸気バルブのバルブタイミングを最遅角位相に固定した状態で機関を始動させた場合に、内燃機関300が良好な状態で始動することができる最低温度が設定されている。なお、機関温度は、冷却水温THWや作動油の油温と相関する。そこで、本実施形態では、冷却水温THWに対して上記判定温度を設定しているが、その他のパラメータ、例えば油温に対して上記判定温度を設定してもよい。
ステップS110にて、機関温度が判定温度以上であると判定されるときには(S110:YES)、吸気バルブのバルブタイミングが最遅角位相で固定されるように、バルブタイミング可変機構30の駆動制御と第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定とが行われる(S120)。
一方、ステップS110にて、機関温度が判定温度よりも低いと判定されるときには(S110:NO)、吸気バルブのバルブタイミングが中間位相で固定されるように、バルブタイミング可変機構30の駆動制御と第2固定機構200Bによるバルブタイミングの固定とが行われる(S140)。
ステップS120の処理、またはステップS140の処理によって吸気バルブのバルブタイミングが固定されると、燃料噴射及び燃料点火が中止されることにより機関停止が実行され(S130)、本処理は、一旦終了される。
この自動停止時の位相処理が実行されることにより、自動停止時には、吸気バルブのバルブタイミングが最遅角位相、または中間位相のいずれかに固定された後に、機関停止が行われる。従って、機関停止中や次回の機関始動直前における吸気バルブのバルブタイミングは、自動停止時に固定されたバルブタイミングになっている。
ちなみに、IGスイッチ106のオフ操作による機関の手動停止時には、次回、機関始動が行われるまでの経過時間が、自動停止時と比較して長くなりやすい。従って、手動停止が行われたときには、自動停止時と比較して、次回の機関始動時の機関温度が低くなっている可能性が高い。そのため、内燃機関300の手動停止時には、吸気バルブのバルブタイミングを中間位相で固定する、つまり第2固定機構200Bでバルブタイミングを固定して低温時の始動性を向上させることが望ましい。なお、内燃機関300が手動停止されてから、直ちにIGスイッチ106がオン操作されて機関始動が開始される可能性もある。この場合には、手動停止されてから再始動されるまでの間において機関温度はほとんど変化しておらず、再始動時の始動性は十分に確保されている。そのため、手動停止時には吸気バルブのバルブタイミングを最遅角位相で固定する、つまり第1固定機構200Aでバルブタイミングを固定して、機関始動時の振動低減に備えておく。そして、手動停止してから所定の時間が経過した後は、電動ポンプ83を駆動して吸気バルブのバルブタイミングを最遅角位相から中間位相に変更し、第2固定機構200Bでバルブタイミングを固定することにより、低温時の始動性を確保しておくことも可能である。
(自動始動時の位相処理)
次に、内燃機関300が自動始動されるときの吸気バルブのバルブタイミングを設定する位相処理について説明する。なお、この自動始動時の位相処理も、制御装置100によって実行される。
図8に示すように、本処理が開始されるとまず、自動始動条件が成立しているか否かが判定される(S200)。この自動始動条件としては、例えば次の条件ST1〜ST3などが設定されている。
ST1:アクセル操作量ACCPが「0」よりも大きく、運転者がアクセル操作をしている。
ST2:車室内の冷房能力または暖房能力が不足している。
ST3:バッテリの充電量が不足している。
これら条件ST1〜ST3などのうち、いずれかが満たされる場合には、自動始動条件が成立したと判定される。
ステップS200にて、自動始動条件が成立していないときには(S200:NO)、本処理は、一旦終了される。
一方、ステップS200にて、自動始動条件が成立しているときには(S200:YES)、吸気バルブのバルブタイミングが最遅角位相で固定されているか、すなわちバルブタイミングが第1固定機構200Aによって固定されているか否かが判定される(S210)。
そして、吸気バルブのバルブタイミングが最遅角位相で固定されているときには(S210:YES)、アクセルペダルが操作されているか否かが判定される(S220)。このステップS220では、アクセル操作量ACCPが「0」よりも大きい場合に、アクセルペダルが操作されていると判定される。また、ステップS220では、ステップS200での自動始動条件の成立が、少なくとも運転者のアクセル操作によるものなのか、アクセル操作以外によるものなのかを判定している。
そして、アクセルペダルが操作されているときには(S220:YES)、電動ポンプ83が駆動される(S230)。
次に、クランキング及び燃料噴射及び燃料点火が開始されることにより機関始動が実行される(S240)。
次に、遅角室6への作動油の供給及び第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定解除が実行される(S250)。このようにして遅角室6に作動油が供給されると、ベーン4は、進角室7側のハウジング2に押し付けられるため、第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定解除を実行しても、バルブタイミング可変機構30の駆動制御を通じてバルブタイミングは最遅角位相に保持される。なお、このステップS250では、オイルコントロールバルブ63のモードが、上述した第3モードM3にされる。
次に、内燃機関300が完爆したか否かが判定される(S260)。完爆とは、クランキングされていた内燃機関300がスタータモータ等の駆動力無しでも自立運転することが可能になった状態をいう。また、完爆が完了したか否かは適宜の方法で行うことができる。例えば機関始動時において機関回転速度NEが所定の回転速度以上になったことをもって内燃機関300の完爆が完了したと判断することができる。
そして、内燃機関300が完爆していないときには(S260:NO)、完爆が完了するまでステップS260での判定処理が繰り返し行われる。
一方、内燃機関300が完爆したときには(S260:YES)、吸気バルブのバルブタイミングを、現在の最遅角位相から進角側に変更する進角処理が実行される(S270)。このステップS270では、オイルコントロールバルブ63のモードが、上述した第5モードM5にされることにより、バルブタイミングは進角側に変更される。なお、このステップS270での進角処理における目標位相として、本実施形態では、上記中間位相を設定するようにしているが、その他の位相を設定してもよい。こうした進角処理が完了すると、本処理は、一旦終了される。
他方、上記ステップS210の判定処理において、吸気バルブのバルブタイミングが最遅角位相で固定されていないと判定される場合、つまり吸気バルブのバルブタイミングが中間位相で固定されていると判定される場合には(S210:NO)、電動ポンプ83を駆動することなく、現在のバルブタイミングの固定状態が保持される(S280)。このようにしてステップS210で否定判定される場合には、吸気バルブのバルブタイミングは中間位相に固定されているため、バルブタイミングは中間位相に保持されたままとなる。
また、上記ステップS220の判定処理において、アクセルペダルが操作されていないと判定される場合にも(S220:NO)、電動ポンプ83を駆動することなく、現在のバルブタイミングの固定状態が保持される(S280)。このようにしてステップS220で否定判定される場合には、吸気バルブのバルブタイミングは最遅角位相に固定されているため、バルブタイミングは最遅角位相に保持されたままとなる。
なお、上記ステップS280では、オイルコントロールバルブ63のモードは、機関停止中のモード、つまり上述した第1モードM1のままにされる。
そして、機関停止時に固定されたバルブタイミングが保持された状態で、クランキング及び燃料噴射及び燃料点火が開始されることにより機関始動が実行され(S290)、本処理は一旦終了される。
次に、上述の各位相処理による作用を説明する。
まず、内燃機関300の操作者(車両の運転者)がアクセルペダルを操作しているときには、ある程度高い機関出力を望んでいる場合が多い。従って、内燃機関300の自動始動が実行されるときにアクセル操作が行われているのであれば、操作者が自動始動後においてある程度高い機関出力を要求していると考えることができる。
そこで、先の図8に示した自動始動時の位相処理では、ステップS200において自動始動の実行条件が成立しており、これにより自動始動が実行されるときにおいて、吸気バルブのバルブタイミングが最遅角位相に固定されており(S210:YES)、アクセル操作が行われている場合には(ステップS220:YES)、吸気バルブのバルブタイミングを最遅角位相よりも進角側の位相に変更する進角処理を行うようにしている(S270)。この進角処理により、自動始動時のバルブタイミングは自動停止時のバルブタイミング、つまり最遅角位相にされたバルブタイミングよりも進角されるため、自動始動時のバルブタイミングを最遅角位相のままにしておく場合と比較して実圧縮比は高くなり、自動始動後において機関出力が高まるようになる。
また、この進角処理を実行するときには、その実行に先立って、作動油供給用の電動ポンプ83を駆動するようにしており(ステップS230)、これによりバルブタイミング可変機構30によるバルブタイミングの進角や、第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定解除を行うことができる。ここで、クランクシャフトの回転によって駆動されるオイルポンプ61から作動油を供給する場合には、自動始動の開始後、機関回転速度がある程度上昇するまではバルブタイミングの進角や、バルブタイミングの固定解除を行うことが困難である。この点、本実施形態では、上記進角処理を行うに際して電動ポンプ83から作動油を供給するようにしているため、機関回転速度の影響を受けることなく、速やかにバルブタイミングが進角されるようになり、速やかに機関出力が高められる。
このようにして、内燃機関300の操作者が自動始動後においてある程度高い機関出力を要求しているか否かを的確に把握し、ある程度高い機関出力が要求されているときには、自動始動後の機関出力を速やかに高めることができる。
一方、自動始動が実行されるときにアクセル操作が行われていないのであれば、内燃機関300の操作者が自動始動後においてある程度高い機関出力を要求していないと考えることができる。なお、アクセル操作を伴わない自動始動としては、例えばバッテリを充電するための自動始動や、車室内の冷房能力または暖房能力を高めるための自動始動などがある。
そこで、ステップS200において自動始動の実行条件が成立しており、これにより自動始動が実行されるときにおいて、吸気バルブのバルブタイミングが最遅角位相に固定されており(S210:YES)、アクセル操作が行われていない場合には(ステップS220:NO)、電動ポンプ83を非駆動状態にしたまま、バルブタイミングも自動停止時に固定された最遅角位相のままで維持するようにしている(ステップS280)。従って、自動始動時において常に電動ポンプ83を駆動させる場合と比較して、電動ポンプ83の駆動頻度は低く抑えられる。そのため、例えば電動ポンプ83の駆動に伴う消費電力の増大を抑えることも可能になる。
また、内燃機関300が完爆した後に(S260:YES)、上述した進角処理を行うようにしている(ステップS270)。従って、ステップS240にて機関始動が開始されてから完爆に至るまでの間は、吸気バルブのバルブタイミングが最遅角位相に維持される。そのため、クランキング開始後直ちに上記進角処理を行う場合と比較して、クランキング中の機関振動を抑えたり、クランキング開始後における機関回転速度の上昇速度を速めたりすることができる。
また、電動ポンプ83の駆動を開始してから(ステップS230)、進角処理を開始するまでの間において(ステップS270)、第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定を解除するとともにバルブタイミングを最遅角位相に保持するようにバルブタイミング可変機構30の駆動制御を行うようにしている(ステップS250)。
このように進角処理の開始に先立って、第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定解除を行うようにしているため、進角処理を開始したときには速やかにバルブタイミングを変更することができる。また、第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定解除に併せて、バルブタイミング可変機構30の駆動制御を通じてバルブタイミングを最遅角位相に保持するようにしている。従って、自動始動に際して進角処理が開始されるまでは、バルブタイミングが最遅角位相に保持される。そのため、ステップS240にてクランキングが開始されてから、ステップS270にて進角処理が開始されるまでの間において、第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定解除を行ったとしても、機関振動を抑えることができる。
また、上述の第1位相、つまり機関始動時の実圧縮比を低くすることで始動時の機関振動を抑えることのできる位相として、吸気バルブのバルブタイミングの最遅角位相を設定するようにしている。そのためバルブタイミングの遅角化による機関振動の低減効果を最大限に得ることができる。
また、第1固定機構200Aの他に、最遅角位相(第1位相)よりも進角側の中間位相(第2位相)に吸気バルブのバルブタイミングを固定する第2固定機構200Bも備えるようにしており、この第2固定機構200Bにも電動ポンプ83から作動油を供給するようにしている。機関始動時の吸気バルブのバルブタイミングがこの中間位相に固定されているときには、最遅角位相に固定されているときよりもバルブタイミングが進角側の位相になっているため、機関始動時の実圧縮が高くなる。そのため低温時の始動性は向上するようになる。
ここで、自動停止が実行されたときには、その後、比較的短い時間が経過した後に再始動されることが多い。そのため、自動停止時の機関温度と、その自動停止後の再始動時における機関温度とは比較的近い温度になっている。そこで、先の図7に示した自動停止時の位相処理では、自動停止を実行するときの機関温度(冷却水温THW)が所定の判定温度以上に高く(S110:YES)、自動停止後の再始動時における機関温度が比較的高い状態に維持されている可能性が高いときには、第1固定機構200Aによってバルブタイミングを最遅角位相に固定するようにしている。そのため再始動時の機関振動を抑えることができる。
一方、自動停止を実行するときの機関温度(冷却水温THW)が上記判定温度よりも低く(S110:NO)、自動停止後の再始動時における機関温度が比較的低い状態に維持されている可能性が高いときには、第2固定機構200Bによってバルブタイミングを中間位相に固定するようにしている。そのため低温時の始動性が向上するようになる。このように自動停止時におけるバルブタイミングの固定位相が、自動停止時の機関温度に応じて変更されるため、次回の機関始動時におけるバルブタイミングが、機関温度に応じた適切な状態に設定される。
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)自動始動が実行されるときにアクセル操作が行われているときには、バルブタイミングを最遅角位相よりも進角側の位相に変更する進角処理を行うようにしている。従って、自動始動時のバルブタイミングを最遅角位相のままにしておく場合と比較して実圧縮比は高くなり、自動始動後の機関出力を高めることができる。
また、上記進角処理を実行するときには、電動ポンプ83が駆動されているようにしている。これにより機関回転速度の影響を受けることなく、速やかにバルブタイミングを進角させることが可能になり、速やかに機関出力を高めることができるようになる。
このように、本実施形態によれば、内燃機関300の操作者が自動始動後においてある程度高い機関出力を要求しているか否かを的確に把握することができ、ある程度高い機関出力が要求されているときには、自動始動後の機関出力を速やかに高めることができるようになる。
(2)一方、自動始動が実行されるときにアクセル操作が行われていないときには、電動ポンプ83を駆動することなく、バルブタイミングを最遅角位相に固定した状態で保持するようにしている。従って、自動始動時において、常に電動ポンプ83を駆動する場合と比較して、電動ポンプ83の駆動頻度を低く抑えることができる。そのため、例えば電動ポンプ83の駆動に伴う消費電力の増大を抑えることも可能になる。
(3)機関の完爆後に上述した進角処理を行うようにしている。そのため、クランキング開始後直ちに上記進角処理を行う場合と比較して、クランキング中の機関振動を抑えたり、クランキング開始後における機関回転速度の上昇速度を速めたりすることができるようになる。
(4)電動ポンプ83の駆動を開始してから進角処理を開始するまでの間において、第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定を解除するとともに、バルブタイミングを最遅角位相に保持するようにバルブタイミング可変機構30の駆動制御を行うようにしている。従って、進角処理を開始したときには速やかにバルブタイミングを変更することができるようになる。また、クランキングが開始されてから進角処理が開始されるまでの間において、第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定解除を行ったとしても、機関振動を抑えることができるようになる。
(5)第1固定機構200Aによって固定される上述の第1位相として、吸気バルブのバルブタイミングの最遅角位相を設定するようにしているため、バルブタイミングの遅角化による機関振動の低減効果を最大限に得ることができるようになる。
(6)吸気バルブのバルブタイミングを最遅角位相よりも進角側の中間位相に固定する第2固定機構200Bをさらに備えるとともに、この第2固定機構200Bにも電動ポンプ83から作動油を供給するようにしている。そして、自動停止を実行するときの機関温度(冷却水温THW)が所定の判定温度以上のときには、第1固定機構200Aによってバルブタイミングを固定し、機関温度(冷却水温THW)が上記判定温度よりも低いときには、第2固定機構200Bによってバルブタイミングを固定するようにしている。
このように自動停止時におけるバルブタイミングの固定値が、自動停止時の機関温度(冷却水温THW)に応じて変更されるため、次回の機関始動時におけるバルブタイミングを、機関温度に応じた適切な状態にしておくことができるようになる。
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上述した自動始動時の位相処理では、ステップS220において、自動始動条件の成立が、少なくとも運転者のアクセル操作によるものなのか、アクセル操作以外によるものなのかを判定するようにした。この他、アクセル操作以外の条件が成立したことにより自動始動条件が成立した場合(例えば上記条件ST2やST3が成立した場合、あるいは自動始動の条件として、「ブレーキペダルのオフ操作」が設定されており、実際にブレーキペダルがオフ操作された場合など)において、その自動始動条件の成立後から実際に機関始動が開始されるまでの間にアクセル操作が行われた場合にも、上述したステップS230からステップS270までの処理を行うようにしてもよい。この場合でも、上記実施形態に準じた作用効果が得られる。
・内燃機関300が完爆してから進角処理を行うようにした。この他、内燃機関300のクランキングが開始されてから完爆が完了する前までの間において、進角処理を行うようにしてもよい。この場合でも、クランキングが開始されてから進角処理が行われるまでの間においては、機関振動の発生を抑えることができる。
・図8に示したステップS250の処理、つまり遅角室6への作動油の供給及び第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定解除を行う処理を省略する。そして、ステップS270での進角処理を行うときに、最初に第1固定機構200Aによるバルブタイミングの固定解除を行うようにしてもよい。この場合でも、上記(4)以外の効果を得ることができる。
・第2固定機構200Bを備えていない可変動弁装置であって、自動停止時の吸気バルブのバルブタイミングが、第1固定機構200Aによって常に最遅角位相に固定される可変動弁装置に対しても、上記自動始動時の位相処理を行うことができる。なお、この変形例の場合には、図8に示したステップS220の処理を省略して、ステップS210にて肯定判定されるときには、次の処理としてステップS230の処理を実行する。この場合であっても、自動始動が実行されるときにアクセル操作が行われているときには、電動ポンプ83が駆動されるとともに(S230)、吸気バルブのバルブタイミングを最遅角位相よりも進角側に変更する進角処理が行われる(S270)。従って、内燃機関300の操作者が自動始動後においてある程度高い機関出力を要求しているか否かを的確に把握することができ、ある程度高い機関出力が要求されているときには、自動始動後の機関出力を速やかに高めることができるようになり、上記(6)以外の効果を得ることができる。
・第1固定機構200A及び第2固定機構200Bの他に、バルブタイミングを予め定められた位相に固定する固定機構を備えている可変動弁装置に対しても、上記自動始動時の位相処理を行うことができる。この場合であっても、自動始動が実行されるときにアクセル操作が行われているときには、電動ポンプ83が駆動されるとともに(S230)、吸気バルブのバルブタイミングを最遅角位相よりも進角側に変更する進角処理が行われる(S270)。従って、内燃機関300の操作者が自動始動後においてある程度高い機関出力を要求しているか否かを的確に把握することができ、ある程度高い機関出力が要求されているときには、自動始動後の機関出力を速やかに高めることができるようになる。
・上記第1位相として、最遅角位相を設定するようにした。この他、始動時の機関振動を抑えることができるのであれば、最遅角位相よりも進角側の位相にしてもよい。
・上述したバルブタイミング可変機構30、第1固定機構200A、及び第2固定機構200Bの構造は一例であり、その他の構造を有する機構であってもよい。