以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において、「〜」という表現を用いた場合、その前後の数値または物理値を含む意味で用いることとする。
本発明のポリカーボネートの製造方法は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有する特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルと、重合触媒とを反応器に連続的に供給し、重縮合してポリカーボネートを製造する方法であって、前記反応器は少なくとも直列に複数器接続されるものであり、最終重合反応器の一つ前の反応器の内温が200℃以上、230℃未満であり、かつ最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応液の溶融粘度が100Pa・s以上、1000Pa・s以下であることを特徴とする。以下、本発明のポリカーボネートの製造方法を「本発明の製造方法」と称することがある。
但し、上記式(1)で表される部位が−CH2−OHの一部を構成する部位である場合を除く。
<ポリカーボネートの製造工程概要>
本発明の製造方法においては、少なくとも2器の反応器を用いる2段階以上の多段工程で、上記特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを、重合触媒の存在下で反応させる(溶融重縮合)ことによりポリカーボネートが製造される。
なお、以下において、1器目の反応器を第1反応器、2器目の反応器を第2反応器、3器目の反応器を第3反応器、……と称する。
また、本明細書において「反応器」とは、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを混合した後の工程で、後述する反応温度まで加熱する加熱装置を有し、意図的なエステル交換反応を起こすための装置をいい、原料を事前に混合したり溶解させたりすることを主な目的とする溶解槽、または反応液を移送するための配管は、たとえそこでわずかながら反応が進行していたとしても、前記の反応器には含まれない。また、第2反応器は、第1反応器の下流側に設置された反応器であり、第1反応器の反応物が次に入る反応器である。同様に第3反応器は、第2反応器の反応物がその次に入る反応器である。なお、複数の反応器の反応物が同一の反応器に入る場合においては、該複数の反応器のそれぞれに対して上流側に反応器が存在しない場合、該複数の反応器をいずれも第1反応器とみなし、第1反応器の反応物がその次に入る反応器が第2反応器である。
なお、本明細書において、「最終重合反応器」とは、最も下流に備えられた反応器であって、その反応器の出口における反応液の還元粘度が、その反応器の1つ前の反応器における反応液の還元粘度の1.5倍以上となるものをいう。ただし、還元粘度が上記の条件を満たすものであれば、押し出し機等であっても、最終重合反応器とみなされる。
重合工程は前段反応と後段反応の2段階に分けられる。前段反応は好ましくは130〜230℃、より好ましくは150〜220℃の温度で、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは0.5〜3時間実施され、副生するモノヒドロキシ化合物を留出させ、オリゴマーを生成させる。
後段反応は、反応系の圧力を前段反応から徐々に下げ、反応温度も徐々に上げていき、同時に発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力を好ましくは2kPa以下とし、好ましくは200〜260℃、より好ましくは210〜250℃の温度範囲のもとで重縮合反応を行い、ポリカーボネートを生成させる。なお、本明細書における圧力とは、真空を基準に表した、いわゆる絶対圧力を指す。
この重合工程で用いる反応器は、上記のとおり、少なくとも2器が直列に連結されたものであり、第1反応器の出口から出た反応物は第2反応器に入るものが用いられる。連結する反応器の数は特に限定されないが、2〜7器が好ましく、3〜5器がより好ましく、3〜4器が更に好ましい。反応器の種類も特に限定されないが、前段反応の反応器は竪型攪拌反応器が1器以上であることが好ましく、後段反応の反応器は横型攪拌反応器が1器以上であることが好ましい。
本発明の製造方法においては、最終段の横型攪拌反応器の反応条件が、得られる樹脂の品質だけでなく、製造の歩留まりまたは樹脂中の異物量など様々な観点から重要な影響を与え得る。また、前段と後段との関係だけでなく、前段の反応器同士、後段の反応器同士の間でも、後の反応器になるほど、段階的に温度を上昇させ、段階的に圧力を減少させた設定とすることが好ましい。
前記の反応器と次の反応器との連結は、直接配管のみで連結してもよいし、必要に応じて、予熱器等を介して行ってもよい。配管は二重管式等で反応液を冷却固化させることなく移送ができ、ポリマー側に気相がなく、かつデッドスペースを生じないものが好ましい。
前記のそれぞれの反応器を加熱する加熱媒体の温度の上限は、260℃であることが好ましく、より好ましくは250℃、特に好ましくは240℃である。加熱媒体の温度が高すぎると、反応器壁面での熱劣化が促進され、異種構造若しくは分解生成物の増加、または色調の悪化等の不具合を招くことがある。特に未反応のジヒドロキシ化合物が熱分解によって着色物を生成しやすいため、最終重合反応器より前の反応器の加熱媒体の温度は230℃未満であることが好ましい。加熱媒体の温度の下限は、上記反応温度が維持可能な温度であれば特に制限されない。
本発明で使用する反応器は公知のいかなるものでもよい。例えば、熱油またはスチームを加熱媒体とした、ジャケット形式の反応器または内部にコイル状の伝熱管を有する反応器等が挙げられる。
本発明にかかる製造方法の反応方式は、連続式であることが好ましい。反応器は、複数器の竪型攪拌反応器、及びこれに続く少なくとも1器の横型攪拌反応器が用いられる。これらの反応器は直列に設置され、連続的に処理が行われる。
重縮合工程後、ポリカーボネート中の未反応原料若しくは反応副生物であるモノヒドロキシ化合物を脱揮除去する工程、熱安定剤、離型剤若しくは色剤等を添加する工程、または得られたポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程等を適宜追加してもよい。
前記の反応器で発生するフェノール等のモノヒドロキシ化合物は、タンクに収集しておき、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行って回収した後、DPCまたはビスフェノールA等の原料として再利用することが好ましい。本発明の製造方法において、副生モノヒドロキシ化合物の精製方法に特に制限はないが、蒸留法を用いることが好ましい。
次に、本発明の製造方法にかかる製造方法の各工程について説明する。本発明の製造方法は、原料モノマーとして、イソソルビド(ISB)等の上記式(1)で表される部位を有する特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、ジフェニルカーボネート(DPC)等の炭酸ジエステルをそれぞれ溶融状態にて、原料混合溶融液を調製し(原料調製工程)、これらの化合物を、重合触媒の存在下、溶融状態で複数の反応器を用いて多段階で重縮合反応をさせる(重縮合工程)ことによって行われる。
前記反応ではモノヒドロキシ化合物が副生するため、該モノヒドロキシ化合物を反応系から除去することにより、反応を進行させ、ポリカーボネートを生成させる。炭酸ジエステルとしてDPCを用いた場合、該モノヒドロキシ化合物はフェノールとなり、減圧下で該フェノールを除去して反応を進行させる。
<原料調製工程>
ポリカーボネートの原料として使用する前記式(1)で表される部位を有する特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物、及び炭酸ジエステルは、窒素またはアルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、バッチ式、半回分式または連続式の攪拌槽型の装置を用いて、原料混合溶融液として調製するか、又は、反応槽にこれらを独立に投下する。
溶融混合の温度は、例えば、前記特定ジヒドロキシ化合物としてISBを用いると共に、後記するような脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物を用い、炭酸ジエステルとしてDPCを用いる場合は、80℃〜180℃の範囲が好ましく、より好ましくは90℃〜120℃の範囲から選択される。
また、前記原料混合溶融液に酸化防止剤を添加してもよい。通常知られるヒンダードフェノール系酸化防止剤および/またはリン系酸化防止剤を添加することで、原料調製工程での原料の保存安定性を向上するとともに、重合中での着色を抑制することにより、得られる樹脂の色相を改善することができる。
使用する重合触媒は、予め水溶液として準備することが好ましい。触媒水溶液の濃度は特に限定されず、触媒の水に対する溶解度に応じて任意の濃度に調整することができる。また、水に代えて、アセトン、アルコール、トルエンまたはフェノール等の他の溶媒を選択することもできる。
なお、重合触媒の具体例については後記する。この重合触媒の溶解に使用する水の性状は、含有される不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水または脱イオン水等が好ましく用いられる。
前記反応器での反応について説明する。
<前段反応工程>
先ず、上記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの混合物を、溶融下に、竪型反応器に供給して、好ましくは温度130℃〜230℃で重縮合反応を行う。
この反応は、好ましくは1槽以上、より好ましくは2槽〜6槽の多槽方式で連続的に行われ、副生するモノヒドロキシ化合物の理論量の40%から95%を留出させることが好ましい。反応温度は、130℃〜230℃が好ましく、より好ましくは150℃〜220℃であり、圧力は40kPa〜1kPaであることが好ましい。
多槽方式の連続反応の場合、各槽の温度を、上記範囲内で順次上げ、各槽の圧力を、上記範囲内で順次下げることが好ましい。平均滞留時間は、0.1〜10時間が好ましく、より好ましくは0.5〜5時間、更に好ましくは0.5〜3時間である。温度が高すぎると熱分解が促進され、異種構造または着色成分の生成が増加し、樹脂の品質の悪化を招くことがある。一方、温度が低すぎると反応速度が低下するために生産性が低下するおそれがある。
本発明で用いる溶融重縮合反応は平衡反応であるため、副生するモノヒドロキシ化合物を反応系外に除去することで反応が促進されるので、減圧状態にすることが好ましい。圧力は1kPa以上40kPa以下であることが好ましく、より好ましくは5kPa以上、30kPa以下である。
圧力が高すぎるとモノヒドロキシ化合物が留出しないために反応性が低下し、低すぎると未反応のジヒドロキシ化合物または炭酸ジエステルなどの原料が留出するため、原料モル比がずれて所望の分子量まで到達しないなど、反応の制御が難しくなり、また、原料原単位が悪化してしまうおそれがある。
<後段反応工程>
次に、前段の重縮合工程で得られたオリゴマーを横型攪拌反応器に供給して、反応器の内温の温度は好ましくは200℃〜260℃で重縮合反応を行い、ポリカーボネートを得る。この反応は好ましくは1器以上、より好ましくは1〜3器の横型攪拌反応器で連続的に行われる。
反応温度は、好ましくは210〜260℃、より好ましくは220〜250℃である。圧力は、13.3kPa〜10Paが好ましく、より好ましくは1kPa〜10Paである。特に最終重合反応器においては、圧力は1kPa〜10Paが好ましく、より好ましくは0.7kPa〜10Paである。平均滞留時間は、0.1〜10時間が好ましく、より好ましくは0.5〜5時間、更に好ましくは0.5〜2時間である。
<反応器>
少なくとも2器の反応器により重縮合工程を多槽方式で行う本発明の製造方法では、竪型攪拌反応器を含む複数器の反応器を設けて、ポリカーボネートの平均分子量(還元粘度)を増大させる。
ここで、反応器としては、例えば、竪型攪拌反応器および横型撹拌反応器がる。具体例としては、攪拌槽型反応器、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、およびワイヤーに沿わせて落下させながら重合するワイヤー付き多孔板型反応器等が挙げられる。上記の通り、前段反応工程では竪型攪拌反応器を用いるのが好ましく、後段反応工程では横型攪拌反応器を用いることが好ましい。
本発明における反応器においては前段と後段とに関わらず、ポリカーボネートの色調の観点から、反応装置を構成する機器、配管などの構成部品の原料モノマーまたは重合液に接する部分(以下「接液部」と称する)の表面材料は、接液部の全表面積の少なくとも90%以上を占める割合で、ニッケル含有量10重量%以上のステンレス、ガラス、ニッケル、タンタル、クロムおよびテフロン(登録商標)のうち1種または2種以上から構成されていることが好ましい。
本発明においては、接液部の表面材料が上記物質から構成されていればよく、上記物質と他の物質とからなる張り合わせ材料、あるいは上記物質を他の物質にメッキした材料などを表面材料として用いることができる。
前記の竪型攪拌反応器とは、垂直回転軸と、該垂直回転軸に取り付けられた攪拌翼とを具備した反応器である。攪拌翼の形式としては、例えば、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、アンカー翼、フルゾーン翼[神鋼パンテック(株)製]、サンメラー翼[三菱重工業(株)製]、マックスブレンド翼[住友重機械工業(株)製]、ヘリカルリボン翼およびねじり格子翼[(株)日立製作所製]等が挙げられる。
また、前記の横型攪拌反応器とは、内部に複数本設けられた攪拌翼の回転軸が横型(水平方向)で、当該回転軸に対してほぼ垂直に延びる複数枚の攪拌翼を有しており、それぞれの水平回転軸に設けられた攪拌翼は、互いに水平方向の位置をずらして、衝突しないように配されたものである。
攪拌翼の形式としては、例えば、円板型およびパドル型等の一軸タイプの攪拌翼、並びにHVR、SCR、N−SCR[三菱重工業(株)製]、バイボラック[住友重機械工業(株)製]、メガネ翼および格子翼[(株)日立製作所製]等の二軸タイプの攪拌翼が挙げられる。その他、例えば、車輪型、櫂型、棒型および窓枠型などの攪拌翼が挙げられる。
このような攪拌翼が、回転軸あたり少なくとも2段以上設置されており、この攪拌翼により反応溶液をかき上げ、又は押し広げて反応溶液の表面更新を行う。また、横型反応器の水平回転軸の長さをLとし、攪拌翼の回転直径をDとしたときにL/Dが好ましくは1〜15、より好ましくは2〜14である。
本発明の製造方法においては、最終重合反応器の反応条件がポリカーボネートの品質だけでなく、製造の歩留まりにも影響を及ぼすため、上記の条件を踏まえた上で、品質と歩留まりとの両方を考慮した反応条件に設定することが好ましい。
本発明で製造するポリカーボネートも、通常のポリカーボネートと同様に、反応の進行とともに反応液の粘度が上昇してくるため、多槽方式の各反応器においては、重縮合反応の進行とともに副生するモノヒドロキシ化合物(DPCを用いた場合はフェノールとなる。)をより効果的に系外に除去し、また、反応液の流動性を確保するために、上記の反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定することが好ましい。
得られるポリカーボネートの色調等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、短滞留時間の設定が好ましい。しかし、反応温度を低下させると、溶融粘度が高くなって反応液の流動性が低下し、特に横型攪拌反応器の場合、攪拌軸に反応液がからみついて垂れ落ちなくなる場合がある。
反応液が反応器出口に定量的に流れなくなると、反応液中に気泡をかみこんで、ペレット化工程において、気泡を含有するストランドが切れて、ペレット化が停止する事態を招く。さらには、ペレット化を復旧するためにストランドをカッターにつなぐ作業が発生するため、衣服の繊維または砂埃などに起因する異物が製品中に混入するおそれがある。このため、単純に反応温度を下げればよいわけではない。
一方で、得られるポリカーボネートの色調の観点からは、反応温度が最も高温となる最終重合反応器での滞留時間を必要最低限とする必要があるため、最終重合反応器に投入される反応液が極力低温、かつ高分子量(高粘度)であることが好ましい。
このため、最終段となる最終重合反応器の一つ前の反応器の内温は230℃未満であり、好ましくは225℃未満、より好ましくは220℃未満であり、また、200℃以上であり、好ましくは210℃以上である。一方で、温度が低すぎると十分に反応が進行せず、溶融粘度も上がりすぎてしまう場合がある。
また、最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応液の溶融粘度は100Pa・s以上であり、好ましくは120Pa・s以上、より好ましくは140Pa・s以上、さらに好ましく180Pa・s以上である。一方、1000Pa・s以下であり、好ましくは800Pa・s以下である。
ポリマー中に残存するモノヒドロキシ化合物などの低分子成分を除去するため、最終重合反応器の真空度は極力高い方が好ましいが、反応液の溶融粘度が低すぎると、反応液が激しく発泡し、理想的なプラグフロー性が得られず、分子量の制御ができなくなってしまうおそれがある。
また、溶融粘度が高すぎると、最終重合反応器での流動性が低下してしまい、滞留時間が過剰に長くなることにつながり、得られるポリカーボネートの色調などの品質が悪化する。最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応液の溶融粘度は、前段反応の温度若しくは圧力、または触媒量などを適宜調節することで、所望の溶融粘度に制御にすることができる。
なお、本明細書において溶融粘度とは、キャピラリーレオメーター[東洋精機(株)製]を用いて反応液の温度と同じ温度で測定された、剪断速度91.2s−1における溶融粘度を示す。
最終重合反応器の加熱媒体の温度は260℃以下が好ましく、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは240℃以下である。一方で、低すぎると粘度が上がりすぎてしまうので、加熱媒体の温度は210℃以上が好ましく、220℃以上がより好ましい。
また、前記最終重合反応器において、反応液から効率的に低分子成分を除去するためには、最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応液に含有されるフェノールなどのモノヒドロキシ化合物の量は3wt%以下が好ましく、さらに2wt%以下がより好ましく、特には1.5wt%以下が好ましい。なお、含まれるモノヒドロキシ化合物の量は少ないほど好ましく、0wt%であるのが理想であるが、実際には不可能であり、通常は500ppm以上である。
モノヒドロキシ化合物の含有量を低減するには、最終重合反応器の前段の反応器において、圧力を低下させる、滞留時間を長くするなどの方法があるが、反応液の粘度が上昇しすぎないように、反応条件を調節することが好ましい。
さらに、前記最終重合反応器では得られる樹脂が十分な機械的特性を有する程度に分子量を向上させる必要があるため、前記最終重合反応器の出口における反応液の溶融粘度は1800Pa・s以上が好ましく、より好ましくは2000Pa・s以上、さらに好ましくは2200Pa・s以上である。
一方で、溶融粘度を上げすぎると、反応液の流動性が損なわれ、また、攪拌機モーターの負荷が増大することから、溶融粘度は3500Pa・s以下であることが好ましく、3200Pa・s以下であることがより好ましい。
最終重合反応器の出口における反応液の溶融粘度は、最終重合反応器の温度、圧力若しくは滞留時間などの反応条件または触媒量を調節したり、末端基バランスを調節したりすることにより制御することができる。末端基バランスは炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との仕込みモル比、または前段反応での未反応モノマーの留出量を制御することにより調節される。
上記の反応条件において、最終重合反応器における分子量の上昇の度合いを還元粘度で表すと、下記(2)式の範囲が好ましい。Q/Pは、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上であり、更に好ましくは1.7以上であり、また、2.5以下であることが好ましく、より好ましくは2.4以下であり、さらに好ましくは2.3以下である。
1.5 ≦ Q/P ≦ 2.5 (2)
(P:最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応液の還元粘度、Q:最終重合反応器出口における反応液の還元粘度)
Q/Pを前記上限値以下とすることにより、前記最終重合反応器において熱履歴が過大となるのを防ぎ、得られる樹脂の色調を向上させることができる。また、Q/Pを前記下限値以上とすることにより、前記最終重合反応器以前の熱履歴が過大となるのを防ぎ、同様に得られる樹脂の色調を向上させることができる。また、前記最終重合反応器で分子量が目標よりも上昇しすぎるのを防ぎ、反応を制御し易くなる。
QとPは前述のとおり、温度、圧力、滞留時間、触媒量または末端基バランスなどを調節することにより、それぞれ調整することが可能であり、これらの条件を適宜組み合わせることによってQ/Pを制御することができる。
例えば、最終反応器の一つ前の反応器までにおいて、温度を低下させたり、圧力を上げたり、滞留時間を短くしたりしてPを低下させ、そのままではQも同時に低下するので、最終重合反応器の圧力を低下させてQを一定に保持することで、Q/Pを大きくすることができる。
前記式(1)の構造部位を有するジヒドロキシ化合物または脂肪族ジヒドロキシ化合物をモノマーに用いたポリカーボネートは、熱分解により二重結合末端を生成する。この末端基の量は反応液の熱履歴を示す指標となり、より高温、長時間反応を行うほど、二重結合末端の量が増加する。
前記最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応液中の二重結合末端基の量と、前記最終重合反応器の出口での反応液中の二重結合末端基の量は下記式(3)を満たす範囲であることが好ましい。式(3)におけるX、Yの値は、最終重合反応器の一つ前の反応器、最終重合反応器のそれぞれについて、反応温度、反応時間を適宜設定することにより制御することができる。
Y−X ≦ 6 かつ X ≦ 5 (3)
[X:最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応液中の二重結合末端構造の量(mol/ton)、Y:最終重合反応器出口における反応液中の二重結合末端構造の量(mol/ton)]
二重結合末端の具体的な例としては、例えば、ISBからは下記構造式(7)または(7´)の末端基が生成する。また、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)からは下記構造式(8)または(8´)の末端基が生成する。一般構造式で示すと、下記構造式(9)で表されるヒドロキシ基を有するジヒドロキシ化合物からは、下記構造式(10)で表される二重結合末端が生成する。
本発明における二重結合末端構造の量とは、樹脂中に含有される下記構造式(7)、(7´)、(8)(8´)でそれぞれ表される末端構造の合計量を表す。二重結合末端の生成量はポリカーボネートの1H NMR測定によって求められる。
なお、構造式(9)および(10)において、R1,R2,R3はそれぞれ水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基である。
通常のポリカーボネートの重合においては、竪型攪拌反応器の場合は、反応液の処理量(樹脂の生産量)に応じて反応器内の液量を増減することによって、適切な滞留時間に制御する。しかし、最終重合反応器は反応液の溶融粘度が非常に高くなるために、反応器内の液量を制御することは困難であるので、最終重合反応器は反応液の処理量に対して適切な容量に設定することが好ましい。本発明で用いる特定ジヒドロキシ化合物を用いたポリカーボネートの場合は、通常のポリカーボネートに用いるビスフェノール類よりも熱分解しやすいため、この液量の調整はより厳しい条件が課せられる。
このため、本発明における前記最終重合反応器は下記式(5)を満たすことが好ましい。V/Aは2以上であることが好ましく、より好ましくは3以上であり、一方、9以下であることが好ましく、より好ましくは8以下である。
2 ≦ V/A ≦ 9 (5)
[V:横型反応器容積(L)、A:反応液処理量(kg/hr)]
V/Aを前記上限値以下とすることにより、反応液量に対して反応器の容量が過大となることがなく、滞留時間を短くした場合にも、反応器内の液量が適切な量となり、反応器の出口に反応液が安定的に流れ込み、ペレット化の歩留まりが良好となる。また、液量を適切な量を超えて増やした場合にも、滞留時間が長くなりすぎることがなく、得られる樹脂の色調が悪化するのを防ぎ、また、分子量が目標よりも上がりすぎてしまうことがなく、反応を制御し易くなる。
V/Aを前記下限値以上とすることにより、滞留時間が十分となり、所望の分子量まで向上させることができる。また、反応液の表面更新性が低下することがなく、モノヒドロキシ化合物(例えばフェノール)などの残存低分子成分の増加を防ぎ、得られる樹脂の品質を向上させることができる。
V/Aを調節するには、例えば、使用する横型反応器容器Vを決めた上では、反応液処理量Aを増やすことでV/Aは小さくなり、反応液処理量Aを減らすことでV/Aは大きくなる。
ところで、前記炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネートまたはジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用い、本発明のポリカーボネートを製造する場合は、モノヒドロキシ化合物であるフェノールまたは置換フェノールが副生し、ポリカーボネート中に残存することは避けられない。しかし、これらのフェノールまたは置換フェノールといったモノヒドロキシ化合物は成形加工時の臭気の原因となる場合がある。
本発明のような連続式ではなく、通常のバッチ反応で得られるポリカーボネート中には、1000ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有するモノヒドロキシ化合物が含まれている。なお、これらモノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
このようなモノヒドロキシ化合物をはじめとする、樹脂中の残存低分子成分を低減するには、前記最終重合反応器の圧力を極力低くして、留去することが効果的である。しかし、ISBに代表される、前記式(1)の構造部位を有するジヒドロキシ化合物をモノマーに用いたポリカーボネートは、従来のビスフェノールAをモノマーに用いた芳香族ポリカーボネートと比べて、反応の平衡定数が大きいために、後段反応における分子量上昇速度が速い。そのため、圧力を低下させると反応が促進されすぎるために反応の制御が難しくなる。
本発明の製造方法においては、通常、ヒドロキシ末端の量と、下記構造式(11)で表されるフェニルカーボネート末端の量とが等量の時に反応速度は最大となるが、あえてヒドロキシ末端の量を減らし、フェニルカーボネート末端の量を増やすことで、粘度上昇速度を緩やかにして、最終重合反応器の圧力を低下させることが可能となる。さらに、ヒドロキシ末端が少ないほど、樹脂を溶融滞留させた時の着色が低減するなど、得られるポリカーボネートの熱安定性が向上する効果もある。
このような末端基のバランスは、反応に用いられる全ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの、最初の第1反応器へ投下する際の仕込みのモル比により制御することが可能であり、全ジヒドロキシ化合物に対して、炭酸ジエステルのモル比が0.990以上1.030以下であることが好ましく、より好ましくは0.995以上であり、より好ましくは1.25以下である。
前記上限以下とすることにより、後段反応においてヒドロキシ末端が消失するのを防ぎ、所望の分子量まで到達させることができる。前記下限以上とすることにより、ヒドロキシ末端が増加するのを防ぎ、得られる樹脂の熱安定性が向上する。
このように末端バランスを制御することで、前記最終重合反応器における粘度上昇速度を制御することが可能となり、前記最終重合反応器の圧力を低下できる。前記最終重合反応器の圧力は1kPa以下が好ましく、より好ましくは0.7kPa以下、特に好ましくは0.5kPa以下である。なお、圧力は低いほど好ましいが、10Paで減圧の限界となることが多い。
このようにして、本発明で重縮合して得られるポリカーボネート樹脂のヒドロキシ末端基の量は、前記最終重合反応器の出口において50mol/ton以下であることが好ましい。さらに好ましくは45mol/ton以下、特に好ましくは40mol/ton以下である。
得られるポリカーボネート樹脂が有するヒドロキシ末端基の量は少ないほど熱安定性の観点からは好ましいが、ヒドロキシ末端が完全に消失すると、反応が頭打ちとなって所望の分子量に到達しないおそれもあるため、ヒドロキシ末端は10mol/ton以上含むことが好ましい。
ヒドロキシ末端基は、前述の全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルの仕込みのモル比により制御することができる。炭酸ジエステルの仕込み量を増やすことで、ヒドロキシ末端基の量は低下する。
また、本発明で重縮合して得られるポリカーボネート樹脂中に含まれるモノヒドロキシ化合物の量は、前記最終重合反応器の1つ前の反応器の出口における反応液中において、1000ppm以上3wt%以下であることが好ましい。また、前記最終重合反応器の出口における反応液中において、700ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは500ppm以下、特に好ましくは200ppm以下である。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1ppmである。
上記のとおり、本発明にかかる前記特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物を重縮合して得られるポリカーボネートは、従来の芳香族ポリカーボネートよりも熱安定性が低いことから、反応温度を極力低く設定する必要があるが、そのために従来のポリカーボネートよりも反応液の粘度が高くなる。
反応液の粘度が高くなると、反応液が攪拌軸に巻きついて垂れ落ちなくなる場合がある。最終重合反応器内部に複数の水平回転軸を有する横型反応器を用いた場合に、反応器から安定的に反応液を抜き出すには、反応液の溶融粘度に応じて、攪拌翼の回転数を適切に設定する必要があり、攪拌翼の回転数は、下記式(4)の範囲に設定することが好ましい。
500 ≦ ωμ ≦ 20000 (4)
[ω:攪拌翼回転数(rpm)、μ:横型反応器出口における反応液の溶融粘度(Pa・s)]
ωμは好ましくは500以上であり、一方、好ましくは20000以下である。なお、この条件は攪拌翼の軸径に依存しないため、反応スケールに関わらない。ωμを20000以下とすることにより、攪拌軸に反応液が巻きつくのを防ぎ、ペレット化工程において歩留まりを向上させるとともに、樹脂中の異物が増加するのを抑制することができる。ωμを500以上とすることにより、十分な攪拌効率が得られ、反応液中の残存低分子成分の量を低減させるとともに、反応液が反応器壁面に滞留するのを抑制し色調の悪化を防ぐことができる。
ωμを制御する方法としては、例えば、横型反応器の温度を一定のまま、圧力を低下させて、反応液の分子量を大きくする場合は、反応液の溶融粘度μが上昇し、ωμが大きくなるため、分子量の上昇に伴って攪拌翼回転数ωを低下させることで、ωμを好ましい範囲に収めることができる。
本発明で重縮合して得られるポリカーボネートは、上述の重縮合反応を行った後、溶融状態のまま、フィルターに通して異物を濾過することが好ましい。特に、樹脂中に含まれる低分子量成分の除去、または熱安定剤等の添加混練を実施するため、重縮合で得られた樹脂を押出機に導入し、次いで押出機から排出された樹脂を、フィルターを用いて濾過することが好ましい。
<重縮合反応以降の工程>
本発明の製造方法において、重縮合して得られるポリカーボネート樹脂を、フィルターを用いて濾過する方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。濾過に必要な圧力を発生させるために、前記最終重合反応器からギアポンプまたはスクリュー等を用いて溶融状態で抜き出し、フィルターで濾過する方法、前記最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出した後、フィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させて、回転式カッター等でペレット化する方法、又は、前記最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、一旦ストランドの形態で冷却固化させてペレット化し、該ペレットを再度押出機に導入してフィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させて、ペレット化する方法、および最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、押出機を通さずにストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、一軸または二軸の押出機にペレットを供給し、溶融押出しした後、フィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法等である。
中でも熱履歴を最小限に抑え、色相の悪化または分子量の低下等、熱劣化を抑制するためには、前記最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、直接フィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させて、回転式カッター等でペレット化する方法が好ましい。以下、具体的に説明する。
本発明において押出機の形態は限定されるものではないが、通常は一軸または二軸の押出機が用いられる。中でも後述の脱揮性能の向上または添加剤の均一な混練のためには二軸の押出機が好ましい。この場合、軸の回転方向は異方向であっても同方向であってもよいが、混練性能の観点からは同方向が好ましい。押出機の使用によりフィルターへのポリカーボネート樹脂の供給を安定させることができる。
また、上記の通り重縮合させて得られたポリカーボネート中には、通常、色相または熱安定性、さらにはブリードアウト等により製品に悪影響を与える可能性のある、原料モノマー、エステル交換反応で副生するモノヒドロキシ化合物、またはポリカーボネートオリゴマー等の低分子量化合物が残存しているが、ベント口を有する押出機を用い、好ましくはベント口から真空ポンプ等を用いて減圧にすることにより、これらを脱揮除去することも可能である。また、押出機内に水等の揮発性液体を導入して、脱揮を促進することもできる。ベント口は1つであっても複数であってもよいが、好ましくは2つ以上である。
さらに、前記の押出機中で、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤または難燃剤等を添加、混練することも出来る。
本発明においては、重縮合して得られたポリカーボネート樹脂中のヤケまたはゲル等の異物を除去するためフィルターで濾過するとよい。中でも、残存モノマーまたは副生フェノール等を減圧脱揮により除去し、熱安定剤または離型剤等の添加剤を混合するために、ポリカーボネート樹脂を前記の押出機で押出した後、フィルターで濾過することが好ましい。
このフィルターの形態としては、キャンドル型、プリーツ型またはリーフディスク型等公知のものが使用できるが、中でもフィルターの格納容器に対する濾過面積が大きく取れるリーフディスク型が好ましく、また、濾過面積が大きく取れるように複数組み合わせて用いるのが好ましい。
本発明において用いるフィルターは、保持部材(リテイナーとも言う)に、濾過部材(以下、メディアと言うことがある)を組合せて構成されており、それらフィルターが(場合によっては複数枚・複数個)格納容器に格納されたユニット(フィルターユニットと言うこともある)の形式で用いられる。
本発明においては、前記フィルターの差圧(圧力損失)が小さくなるように、複数の目開きのメディアを重ね合わせ、樹脂の侵入方向から順に目開きが細かくなっているタイプが好ましく、フィルター表面にゲルを破砕する目的で金属製のパウダーを焼結したタイプのものを使用することもできる。
前記のフィルターのメディアの材質としては、得られるポリカーボネート樹脂の濾過に必要な強度と耐熱性を有している限り制限はないが、中でも鉄の含有量が少ないSUS316またはSUS316L等のステンレス系が好ましい。織りの種類としては、例えば、平織、綾織、平畳織および綾畳織等、異物の捕集部分が規則正しい織り状になっているものの他、不織布タイプも挙げられる。本発明においては、ゲルの捕集能力の高い不織布タイプ、中でも不織布を構成する鋼線どうしを焼結させて固定したタイプが好ましい。
本発明において前記のフィルターの目開きは、99%の濾過精度として、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは20μm以下、異物を特に低減させたい場合には10μm以下が好ましい。
また、目開きが小さくなるとフィルターでの圧力損失が増大して、フィルターの破損を招いたり、剪断発熱によりポリカーボネート樹脂が劣化したりする可能性があるため、99%の濾過精度として、1μm以上であることが好ましい。
尚、ここで99%の濾過精度として定義される目開きとは、ISO16889(2008年)に準拠して決定された下記式(12)で表されるβχ値が1000の場合のχの値を言う。
βχ=(χμmより大きい1次側の粒子数)/(χμmより大きい2次側の粒子数) (12)
(ここで1次側とはフィルターでの濾過前、2次側とは濾過後を示す。)
なお、前記したフィルターのうち、ステンレス等の鉄製分を含むフィルターは、200℃を超える高温での濾過の際に樹脂を劣化させる傾向があるため、使用前に不動態化処理しておくことが好ましい。
不動態化処理としては、例えば、フィルターを硝酸等の酸に浸漬させたり、フィルターに酸を通液させたりして表面に不動態を形成させる方法、および水蒸気または酸素存在下で焙焼(加熱)処理する方法、並びにこれらを併用する方法等が挙げられる。中でも硝酸処理と焙焼の両方を実施することが好ましい。
この焙焼の温度は350℃〜500℃が好ましく、より好ましくは350℃〜450℃であり、焙焼時間は3時間〜200時間が好ましく、より好ましくは5時間〜100時間である。焙焼の温度が低すぎたり、時間が短すぎたりすると不動態の形成が不充分になり、濾過時にポリカーボネート樹脂を劣化させる傾向がある。一方、焙焼の温度が高すぎたり、時間が長すぎたりすると、フィルターメディアの損傷が激しくなり、必要な濾過精度が出なくなる可能性がある。
また、前記の硝酸で処理する際の硝酸の濃度は、5重量%〜50重量%が好ましく、より好ましくは10重量%〜30重量%、処理時の温度は、5℃〜100℃が好ましく、より好ましくは50℃〜90℃、処理時間は、5分〜120分が好ましく、より好ましくは10分〜60分である。
硝酸の濃度が低すぎたり、処理温度が低すぎたり、処理時間が短すぎたりすると不動態の形成が不充分になり、硝酸の濃度が高すぎたり、処理温度が高すぎたり、処理時間が長すぎたりするとフィルターメディアの損傷が激しくなり、必要な濾過精度が出なくなる可能性がある。
尚、本発明の製造方法で使用される前記フィルターの格納容器の材質は、樹脂の濾過に耐えられる強度と耐熱性を有している限り制限はないが、好ましくは鉄の含有量が少ないSUS316またはSUS316L等のステンレス系である。
また、前記のフィルターの格納容器は、ポリカーボネート樹脂の供給口と排出口が実質的に水平に配置されていても、実質的に垂直に配置されていても、斜めに配置されていてもよいが、フィルター格納容器内でのガスおよびポリカーボネートの滞留を抑制し、ポリカーボネートの劣化を防ぐためには、ポリカーボネートの供給口がフィルター格納容器の下部に設置され、排出口が上部に配置されていることが好ましい。
更には、本発明の製造方法においては、前記フィルターへのポリカーボネート樹脂の供給量を安定化させるために、前記押出機と前記フィルターの間にギアポンプを配置するのが好ましい。ギアポンプの種類についての制限はないが、中でもシール部にグランドパッキンを用いない自己循環型が異物低減の観点から好ましい。
本発明において、ポリカーボネート樹脂が直接外気と触れるストランド化、ペレット化の際には、外気からの異物混入を防止するために、好ましくはJISB 9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが好ましい。
前記フィルターで濾過されたポリカーボネート樹脂は、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化されるが、そのペレット化の際、空冷または水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、へパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが好ましい。
水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらに水用フィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが好ましい。用いる水用フィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10〜0.45μmであることが好ましい。
<重縮合反応より前の工程>
一方、本発明の製造方法においては、異物をより低減させるために、原料モノマーを、重縮合前にフィルターで濾過するのも有効である。以下、このフィルターを原料フィルターとする。
尚、その際の前記原料フィルターの形状としては、バスケットタイプ、ディスクタイプ、リーフディスクタイプ、チューブタイプ、フラット型円筒タイプまたはプリーツ型円筒タイプ等のいずれの型式であってもよい。中でもコンパクトで濾過面積が大きく取れるプリーツタイプのものが好ましい。
また、前記原料フィルターを構成する濾材としては、金属ワインド、積層金属メッシュ、金属不織布または多孔質金属板等のいずれでもよい。濾過精度の観点から、積層金属メッシュまたは金属不織布が好ましく、中でも金属不織布を焼結して固定したタイプのものが好ましい。
前記原料フィルターの材質についての制限は特になく、金属製または樹脂製セラミック製等を使用することができるが、耐熱性または着色低減の観点からは、鉄含有量80%以下である金属製フィルターが好ましく、中でもSUS304、SUS316、SUS316LまたはSUS310S等のステンレス鋼製が好ましい。
前記原料モノマーの濾過の際には、濾過性能を確保しながら前記原料フィルターの寿命を延ばすためには、複数のフィルターユニットを用いることが好ましく、中でも上流側のユニット中のフィルターの目開きをC[μm]、下流側のユニット中のフィルターの目開きをD[μm]とした場合に、少なくとも1つの組み合わせにおいて、CはDより大きい(C>D)ことが好ましい。この条件を満たした場合は、フィルターがより閉塞しにくくなり、前記原料フィルターの交換頻度の低減を図ることができる。
前記原料フィルターの目開きは特に制限はないが、少なくとも1つのフィルターにおいては、99%の濾過精度として10μm以下であることが好ましく、フィルターが複数配置されている場合には、最上流側において好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、その最下流側において好ましくは2以下、更に好ましくは1以下である。尚、ここで言う前記原料フィルターの目開きも、上述した、ISO16889(2008年)に準拠して決定されるものである。
また、本発明において、原料を前記原料フィルターに通過させる際の原料流体の温度に制限はないが、低すぎると原料が固化し、高すぎると熱分解等の不具合があるため、100℃〜200℃であることが好ましく、より好ましくは100℃〜150℃である。
さらに、本発明においては、複数種用いる原料のうち、いずれの原料を濾過してもよいし、全てを濾過してもよく、その方法は、限定されるものではなく、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの原料混合物を濾過してもよいし、別々に濾過した後に混合してもよい。また、本発明の製造法においては、重縮合反応の途中の反応液をフィルターで濾過することもできる。
<製造装置の一例>
次に、図1を用いて、本実施の形態が適用される本発明の製造方法の一例を具体的に説明する。以下に説明する製造装置、原料または触媒は本発明の実施態様の一例であり、本発明は以下に説明する例に限定されるものではない。
図1は、本発明の製造方法で用いる製造装置の一例を示す図である。図1に示す製造装置において、本発明のポリカーボネートは、原料の前記ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを調製する原料調製工程と、これらの原料を溶融状態で複数の反応器を用いて重縮合反応させる重縮合工程を経て製造される。重縮合工程で生成した留出液は凝縮器12a、12b、12c、12dにて液化して留出液回収タンク14aに回収される。
重縮合工程後、重合反応液中の未反応原料若しくは反応副生物を脱揮除去する工程、熱安定剤、離型剤若しくは色剤等を添加する工程、またはポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程を経て、ポリカーボネートのペレットが成形される。
尚、以下は、原料のジヒドロキシ化合物としてイソソルビド(ISB)と1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を、原料の炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネート(DPC)をそれぞれ用い、また、触媒として酢酸カルシウムを用いた場合を例示して説明する。ISBは前記の特定ジヒドロキシ化合物に該当する。
まず、原料調製工程において、窒素ガス雰囲気下、所定の温度で調製されたDPCの溶融液が、原料供給口1aから原料混合槽2aに連続的に供給される。また、窒素ガス雰囲気下で計量されたISBの溶融液、CHDMの溶融液が、それぞれ原料供給口1b、1cから、原料混合槽2aに連続的に供給される。そして、原料混合槽2a内でこれらは混合され、原料混合溶融液が得られる。
次に、得られた原料混合溶融液は、原料供給ポンプ4a、原料フィルター5aを経由して第1竪型攪拌反応器6aに連続的に供給される。また、原料触媒として、酢酸カルシウム水溶液が、原料混合溶融液の移送配管途中の触媒供給口1dから連続的に供給される。
図1の製造装置の重縮合工程においては、第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6dが直列に設けられる。各反応器では液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われ、第1竪型攪拌反応器6aの槽底より排出された重合反応液は第2竪型攪拌反応器6bへ、続いて、第3竪型攪拌反応器6cへ、第4横型攪拌反応器6dへと順次連続供給され、重縮合反応が進行する。
各反応器における反応条件は、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低攪拌速度となるようにそれぞれ設定することが好ましい。図1の装置を用いた場合、第4横型攪拌反応器6dが本発明における最終重合反応器に相当し、第3竪型攪拌反応器6cが最終重合反応器の一つ前の反応器に相当する。
第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b及び第3竪型攪拌反応器6cには、マックスブレンド翼7a、7b、7cがそれぞれ設けられる。また、第4横型攪拌反応器6dには、2軸メガネ型攪拌翼7dが設けられる。第3竪型攪拌反応槽6cの後には移送する反応液が高粘度になるため、ギアポンプ4bが設けられる。
第1竪型攪拌反応器6aと第2竪型攪拌反応器6bは、供給熱量が特に大きくなることがあるため、加熱媒体の温度が過剰に高温にならないように、それぞれ内部熱交換器8a、8bが設けられる。
なお、これらの4器の反応器には、それぞれ、重縮合反応により生成する副生物等を排出するための留出管11a、11b、11c、11dが取り付けられる。第1竪型攪拌反応器6aと第2竪型攪拌反応器6bについては留出液の一部を反応系に戻すために、還流冷却器9a、9bと還流管10a、10bがそれぞれ設けられる。還流比は反応器の圧力と、還流冷却器の加熱媒体の温度とをそれぞれ適宜調整することにより制御可能である。
前記の留出管11a、11b、11c、11dは、それぞれ凝縮器12a、12b、12c、12dに接続し、また、各反応器は、減圧装置13a、13b、13c、13dにより、所定の減圧状態に保たれる。
尚、本実施の形態においては、各反応器にそれぞれ取り付けられた凝縮器12a、12b、12c、12dから、フェノール(モノヒドロキシ化合物)等の副生物が連続的に液化回収される。また、第3竪型攪拌反応器6cと第4横型竪型攪拌反応器6dにそれぞれ取り付けられた凝縮器12c、12dの下流側にはコールドトラップ(図示せず)が設けられ、副生物が連続的に固化回収される。
所定の分子量まで上昇させた反応液は第4横型攪拌反応器6dから抜き出され、ギアポンプ4cにより二軸押出機15aに移送される。二軸押出機には真空ベントが具備されており、ポリカーボネート中の残存低分子成分を除去する。また、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、着色剤または離型剤などが添加される。
二軸押出機15aからギアポンプ4dによりポリマーフィルター15bに樹脂が供給され、異物が濾過される。フィルターを通った樹脂はダイスヘッドからストランド状に抜き出され、ストランド冷却槽16aで水により樹脂を冷却した後、ストランドカッター16bでペレットにされる。ペレットは空送ブロワー16cにより、気力輸送されて、製品ホッパー16dに送られる。計量器16eで所定量の製品が製品袋16fに梱包される。
<連続製造装置における溶融重縮合の開始>
本実施の形態では、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応に基づく重縮合は、以下の手順に従い開始される。
先ず、図1に示す連続製造装置において、直列に接続された4器の反応器(第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6d)を、予め、所定の内温と圧力とにそれぞれ設定する。ここで、各反応器の内温、加熱媒体の温度と圧力とは、特に限定されないが、以下のように設定することが好ましい。
(第1竪型攪拌反応器6a)
内温:130℃〜230℃、圧力:40kPa〜10kPa、加熱媒体の温度140℃〜240℃ 、還流比0.01〜10
(第2竪型攪拌反応器6b)
内温:150℃〜230℃、圧力:40kPa〜8kPa、加熱媒体の温度160℃〜240℃、還流比0.01〜5
(第3竪型攪拌反応器6c)
内温:170℃〜230℃、圧力:10kPa〜1kPa、加熱媒体の温度180℃〜240℃
(第4横型攪拌反応器6d)
内温:210℃〜260℃、圧力:1kPa〜10Pa、加熱媒体の温度210〜260℃
次に、別途、原料混合槽2aにて窒素ガス雰囲気下、前記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、所定のモル比で混合し、原料混合溶融液を得る。
続いて、前述した4器の反応器の内温と圧力が、それぞれの設定値の±5%の範囲内に達した後に、別途、原料混合槽2aで調製した原料混合溶融液を、第1竪型攪拌反応器6a内に連続供給する。また、原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1竪型攪拌反応器6a内に触媒供給口1dから触媒を連続供給し、エステル交換反応を開始する。
エステル交換反応が行われる第1竪型攪拌反応器6aでは、重合反応液の液面レベルは、所定の平均滞留時間になるように一定に保たれる。第1竪型攪拌反応器6a内の液面レベルを一定に保つ方法としては、通常、液面計等で液レベルを検知しながら槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御する方法が挙げられる。
続いて、重合反応液は、第1竪型攪拌反応器6aの槽底から排出され、第2竪型攪拌反応器6bへ、続いて第2竪型攪拌反応器6bの槽底から排出され、第3竪型攪拌反応器6cへ逐次連続供給される。
前記前段反応工程において、副生するフェノールの理論量に対して50%から95%が留出され、オリゴマーが生成する。本発明では、前記第3竪型攪拌反応器6cの内温を、200℃以上230℃未満とすることが必要となる。
次に、前記前段反応工程で得られたオリゴマーをギアポンプ4bにより移送し、横型攪拌反応器6dに供給して、後述するような後段反応を行なうのに適した温度・圧力条件下で、副生するフェノールおよび一部未反応モノマーを、留出管11dを介して系外に除去してポリカーボネートを生成させる。
前記横型攪拌反応器6dは、1本または2本以上の水平な回転軸を有し、当該回転軸から垂直方向に延びる円板型、車輪型、櫂型、棒型または窓枠型などの攪拌翼を1種または2種以上を組み合わせて、回転軸あたり少なくとも水平方向に2段以上設置されている。
水平回転軸が2本以上ある場合、それぞれの水平回転軸に設けられた攪拌翼は、互いに衝突しないように、水平位置をずらして配してある。このような攪拌翼により反応溶液をかき上げ、または押し広げて反応溶液の表面更新を行なう。
その形状は、それら水平回転軸の長さをLとし、攪拌翼の回転直径をDとしたときにL/Dが1〜15である。なお、本明細書中、上記「反応溶液の表面更新」という語は、液表面の反応溶液が液表面下部の反応溶液と入れ替わることを意味する。
前記横型攪拌反応器6dとして、2軸メガネ型攪拌翼7dを有する攪拌機の例を図2及び図3に示す。図2は2軸メガネ型攪拌翼7dの斜視図であり、図3はそれを収めた横型攪拌反応器6dを上から見た模式図である。
攪拌翼21A、21Bは互いに90度の位相差の関係にあり、それぞれの軸22A、22Bは逆回転している。これにより、それぞれの攪拌翼21A、21Bの先端部分が、相手方の攪拌翼21B、21Aに密着した樹脂をこそげ落としながら回転していく。このような攪拌翼21A、21Bが、軸方向に複数枚連ねられている。
前記後段反応工程における反応温度は、200〜260℃であることが好ましく、より好ましくは210〜250℃の範囲であり、反応圧力は、13.3kPa〜10Paであることが好ましく、より好ましくは2kPa〜30Pa、さらに好ましくは1kPa〜50Paである。
本発明の製造方法において、横型攪拌反応器6dを、装置構造上、2軸ベント式押出機と比較してホールドアップが大きいものを用いることにより、反応液の滞留時間を適切に設定でき、かつ剪断発熱を抑制されることによって温度を下げることができ、より色調の改良された、機械的性質の優れたポリカーボネートを得ることが可能となる。
なお、横型攪拌反応器は、水平軸と、この水平軸にほぼ直角に取り付けられた相互に不連続な攪拌翼とを有する装置であり、押出機と異なりスクリュー部分を有していない。本発明の製造方法においては、このような横型攪拌反応器を少なくとも1器用いることが好ましい。
本実施の形態では、図1に示す連続製造装置において、4器の反応器の内温と圧力が所定の数値に達した後に、原料混合溶融液と触媒とが予熱器を介して連続供給され、エステル交換反応に基づく溶融重縮合が開始される。
これにより、各反応器における重合反応液の平均滞留時間は、溶融重縮合の開始直後から定常運転時と同等となる。その結果、重合反応液は必要以上の熱履歴を受けることがなく、得られるポリカーボネート中に生じるゲルまたはヤケ等の異物が低減する。また色調も良好となる。
このようにして重縮合して得られる本発明のポリカーボネートの分子量は、還元粘度で表すことができ、0.20dL/g以上であることが好ましく、0.30dL/g以上であることがより好ましく、一方、1.20dL/g以下であることが好ましく、1.00dL/g以下であることがより好ましく、0.80dL/g以下であることがさらに好ましい。
ポリカーボネートの還元粘度が低すぎると成形品の機械強度が低くなる可能性があり、大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性または成形性を低下する傾向がある。尚、前記の還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値である。
本発明の製造方法により、上記式(1)の構造を有するポリカーボネートでありながら、着色が少なく、異物の少ない樹脂が得られる。具体的には、本発明のポリカーボネート樹脂から成形された厚さ30μm±5μmのフィルムに含まれる最大長が20μm以上の異物が、好ましくは1000個/m2以下、より好ましくは500個/m2以下、最も好ましくは200個/m2以下とすることができる。
なお、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄く平らな製品をいい、通常はロールの形で供給されるものであり、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかしながら、「シート」と「フィルム」との間の境界は定かではなく、本発明において文言上両者を区別する必要はないので、本明細書において「フィルム」と称する場合であっても、「シート」をも含む概念として用いることとする。
本発明のポリカーボネートは、射出成形法、押出成形法または圧縮成形法等の通常知られている方法で成形物にすることができる。ポリカーボネートの成形方法は特に限定されないが、成形品形状に合わせて適切な成形法が選択される。成形品がフィルムまたはシートの形状である場合は押出成形法が好ましく、射出成形法では成形品の自由度が得られる。
また、本発明のポリカーボネートは、種々の成形を行う前に、必要に応じて、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤または難燃剤等の添加剤を、タンブラー、スーパーミキサー、フローター、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサーまたは押出機などで混合することもできる。
さらに、本発明のポリカーボネートは、例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABSおよびASなどの合成樹脂、ポリ乳酸およびポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂、並びにゴムなどの1種又は2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。
<原料と触媒>
以下、本発明のポリカーボネートに使用可能な原料、触媒について説明する。
(ジヒドロキシ化合物)
本発明のポリカーボネートの製造に用いられるジヒドロキシ化合物は、前記式(1)で表される部位を有する特定ジヒドロキシ化合物を含む。構造の一部に前記式(1)で表される部位を有する特定ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、オキシアルキレングリコール類、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
前記のオキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコール等が挙げられる。
前記の主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニルおよびビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン等が挙げられる。
前記の環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(13)および下記式(14)で表されるスピログリコール等が挙げられる。
なお、前記の「環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物」の「環状エーテル構造」とは、環状構造中にエーテル基を有し、環状鎖を構成する炭素が脂肪族炭素である構造からなるものを意味する。
ただし、前記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物としては、例えば、立体異性体の関係にある、イソソルビド(ISB)、イソマンニドおよびイソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの特定ジヒドロキシ化合物の中でも、入手のし易さ、ハンドリング、重合時の反応性および得られるポリカーボネートの色相の観点から、式(6)、(13)または(14)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、上記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物または下記式(13)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を2つ有するジヒドロキシ化合物がさらに好ましく、上記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物等の、糖由来の環状エーテル構造を2つ有するジヒドロキシ化合物である無水糖アルコールが特に好ましい。
これらの特定ジヒドロキシ化合物のうち、芳香環構造を有しない特定ジヒドロキシ化合物を用いることがポリカーボネートの耐光性の観点から好ましい。中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られる上記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物等の無水糖アルコールが、入手及び製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性およびカーボンニュートラルの面から最も好ましい。
これらの特定ジヒドロキシ化合物は、得られるポリカーボネートの要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のポリカーボネートは、上記の特定ジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(以下「その他のジヒドロキシ化合物」と称す場合がある。)に由来する構造単位を含んでいてもよい。前記その他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物および芳香族ビスフェノール類等が挙げられる。
前記の直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオールおよび1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。
前記の直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールおよびヘキシレングリコール等が挙げられる。
前記の脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノールおよびリモネンなどのテルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
前記の芳香族ビスフェノール類としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ−2−メチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。
これらの前記その他のジヒドロキシ化合物も、得られるポリカーボネートの要求性能に応じて、単独で前記特定ジヒドロキシ化合物と併用してもよく、2種以上を組み合わせた上で前記特定ジヒドロキシ化合物と併用してもよい。中でも、ポリカーボネートの耐光性の観点からは、分子構造内に芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物、即ち脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物または脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましく、これらを併用してもよい。
前記したうち、このように耐光性に適した脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオールまたは1,6−ヘキサンジオール等の炭素数3〜6で両末端にヒドロキシ基を有する直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましい。
脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたはトリシクロデカンジメタノールが好ましく、より好ましいのは1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノールまたは1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのシクロヘキサン構造を有するジヒドロキシ化合物であり、最も好ましいのは1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
これら前記その他のジヒドロキシ化合物を、前記特定ジヒドロキシ化合物と併用することにより、ポリカーボネートの柔軟性の改善、耐熱性の向上および成形性の改善などの効果を得ることも可能である。
ただし、前記その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合が多過ぎると、機械的物性の低下または耐熱性の低下を招くことがあるため、全てのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位のモル数に対する、前記その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合は、好ましくは80mol%以下、更に好ましくは70mol%以下、特に好ましくは60mol%以下である。一方、好ましくは10mol%以上、更に好ましくは15mol%以上、特に好ましくは20mol%以上である。
本発明の全てのジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤または熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよい。特に酸性下で本発明の特定ジヒドロキシ化合物は変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。
塩基性安定剤としては、例えば、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における1族または2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩および脂肪酸塩、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドおよびブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3−アミノ−1−プロパノール、エチレンジアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾールおよびアミノキノリン等のアミン系化合物、並びにジ−(tert−ブチル)アミンおよび2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物が挙げられる。安定剤の中でも安定化の効果からはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、イミダゾールまたはヒンダードアミン系化合物が好ましい。
これら塩基性安定剤の、本発明で用いる全てのジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、本発明で用いる前記の特定ジヒドロキシ化合物は酸性状態では不安定であるので、上記の安定剤を含む特定ジヒドロキシ化合物の水溶液のpHが7以上となるように安定剤を添加することが好ましい。
少なすぎると本発明の特定ジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎると本発明の特定ジヒドロキシ化合物の変性を招く場合があるので、本発明で用いるそれぞれのジヒドロキシ化合物に対して、0.0001重量%〜1重量%であることが好ましく、より好ましくは0.001重量%〜0.1重量%である。
これら塩基性安定剤を本発明で用いるジヒドロキシ化合物に含めたままポリカーボネートの製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度または品質の制御が困難になるだけでなく、樹脂色相の悪化を招いてしまう。
このため、特定ジヒドロキシ化合物または前記その他のジヒドロキシ化合物のうち塩基性安定剤を有するものについては、ポリカーボネートの製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂または蒸留等で除去することが好ましい。
また、本発明で用いられる特定ジヒドロキシ化合物は、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管または製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが好ましい。
イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネートを製造すると、得られるポリカーボネートの着色を招いたり、物性を著しく劣化させたりするだけでなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともあり、好ましくない。
上記の酸化による分解物を含まない特定ジヒドロキシ化合物を得るために、また、前述の塩基性安定剤を除去するためには、蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。
蒸留の条件としてはアルゴンまたは窒素などの不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、特には180℃以下の条件で行うことが好ましい。
このような蒸留精製で、前記特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物をポリカーボネートの製造原料として使用した際に、重合反応性を損なうことなく色相および熱安定性に優れたポリカーボネートの製造が可能となる。
(炭酸ジエステル)
本発明のポリカーボネートは、上述した特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(15)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
前記式(15)において、A1およびA2は、それぞれ置換もしくは無置換の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基または置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、A1とA2とは同一であっても異なっていてもよい。A1およびA2の好ましいものは置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、より好ましいのは無置換の芳香族炭化水素基である。
前記式(15)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(DPC)およびジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート並びにジ−t−ブチルカーボネート等が挙げられる。中でも好ましくはジフェニルカーボネートまたは置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。
なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネートの色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
(エステル交換反応触媒)
本発明のポリカーボネートは、上述のように特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(15)で表される炭酸ジエステルをエステル交換反応させて製造する。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。
前記エステル交換反応の際には、エステル交換反応触媒存在下で重縮合を行うが、本発明のポリカーボネートの製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に触媒、重合触媒と言うことがある)は、反応速度または重縮合して得られるポリカーボネートの色調に非常に大きな影響を与え得る。
用いられる触媒としては、製造されたポリカーボネートの透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されない。例えば、長周期型周期表における1族または2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、並びに塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物およびアミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
前記の1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩および2セシウム塩等が挙げられる。中でも重合活性と得られるポリカーボネートの色相の観点から、リチウム化合物が好ましい。
前記の2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物またはバリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネートの色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
なお、前記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
前記の塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンおよび四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
前記の塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドおよびブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
前記のアミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリンおよびグアニジン等が挙げられる。
上記重合触媒の使用量は、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol〜300μmolが好ましく、より好ましくは0.5μmol〜100μmolである。
中でも長周期型周期表における2族からなる群及びリチウムより選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/またはカルシウム化合物を用いる場合は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、0.1μmol以上が好ましく、より好ましくは0.3μmol以上、特に好ましくは0.5μmol以上とする。また上限としては、20μmol以下が好ましく、より好ましくは10μmol以下であり、さらに好ましくは3μmol以下で、特に好ましくは1.5μmol以下である。
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため、所望の分子量のポリカーボネートを得ようとするにはその分だけ重合温度を高くせざるを得なくなる。そのために、得られたポリカーボネートの色相が悪化する可能性が高くなり、また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、好ましくない副反応を併発し、得られるポリカーボネートの色相の悪化または成形加工時の樹脂の着色を招く可能性がある。
ただし、1族金属の中でもナトリウム、カリウムまたはセシウムは、ポリカーボネート中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性がある。そして、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料または反応装置から混入する場合がある。
出所にかかわらず、ポリカーボネート中のこれらの金属の化合物の合計量は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、2μmol以下が好ましく、より好ましくは1μmol以下、さらに好ましくは0.5μmol以下である。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
なお、以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。
・ISB:イソソルビド[ロケットフルーレ社製、商品名:POLYSORB]
・CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール[新日本理化(株)製、商品名:SKY CHDM]
・DPC:ジフェニルカーボネート[三菱化学(株)製]
反応液と留出液、およびポリカーボネートの組成分析と物性の評価は次の方法により行った。
1)反応液中のモノヒドロキシ化合物(フェノール)含有量
試料約0.5gを精秤し、塩化メチレン5mlに溶解した後、総量が25mlになるようにアセトンを添加した。溶液を0.2μmディスクフィルターでろ過して、液体クロマトグラフィーにてフェノールの定量を行った後、含有量を算出した。用いた装置または条件は、次のとおりである。
・装置:(株)島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:Cadenza CD−18 4.6mmΦ×250mm
オーブン温度:40℃
・検出波長:260nm
・溶離液:A液:0.1%リン酸水溶液、B液:アセトニトリル
A/B=40/60(vol%)からA/B=0/100(vol%)まで10分間でグラジエント
・流量:1mL/min
・試料注入量:10μL
2)ポリカーボネート中の全ヒドロキシ末端基量と二重結合末端基量の測定
ポリカーボネート30mgを秤取し、重クロロホルム約0.7mLに溶解し、これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、1H NMRスペクトルを測定した。ポリカーボネートを構成する各ジヒドロキシ化合物に由来するヒドロキシ末端基と二重結合末端基、および各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に基づくシグナルの強度比より全ヒドロキシ末端基、および二重結合末端基の量を定量した。用いた装置または条件は、次のとおりである。
・装置:日本電子社製JNM−AL400(共鳴周波数400MHz)
・測定温度:常温
・緩和時間:6秒
・積算回数:512回
本発明で例示するISBとCHDMの共重合ポリカーボネートの場合の1H NMRの解析は以下のとおり行う。次のピークの積分値を算出する。
(a):5.6−4.8ppm:全ISB構造単位由来(プロトン数:3、分子量:172.14)
(b):2.2−0.5ppm:全CHDM構造単位由来(プロトン数:10、分子量:170.21)
(c):4.4ppm:ISBのヒドロキシ末端基由来(プロトン数:1、分子量:173.14)
(d):3.6−3.5ppm:ISBのヒドロキシ末端基由来(プロトン数:1、分子量:173.14)とCHDMのヒドロキシ末端基由来(プロトン数:2、分子量:171.21)
(e):3.5−3.4ppm:CHDMのヒドロキシ末端基由来(プロトン数:2、分子量:171.21)とISB二重結合末端基由来(プロトン数:1、分子量:155.13)
(f):2.6ppm:ISBのヒドロキシ末端基由来(プロトン数:1、分子量:173.14)
(g):6.7−6.5ppm:ISB二重結合末端基由来(プロトン数:1、分子量:155.13)
(h)2.3ppm:CHDM二重結合末端基由来(プロトン数:2、分子量:153.20)
各構造のモル数に相当する値
・全ISB構造単位:(a)積分値/3=(a´)
・全CHDM構造単位:(b)積分値/10=(b´)
・ISBのヒドロキシ末端基:(c)積分値+(f)積分値=(c´)
・CHDMのヒドロキシ末端基:{(d)積分値−(f)積分値}/2+{(e)積分値−(g)積分値)/2=(d´)
・ISB二重結合末端基:(g)積分値=(e´)
・CHDM二重結合末端基:(h)積分値/2=(f´)
各末端基の量(単位:mol/ton)
・ISBのヒドロキシ末端基量:(c´)/(g´)×1000000
・CHDMのヒドロキシ末端基量:(δ´)/(g´)×1000000
・ISB二重結合末端基量:(e´)/(g´)×1000000
・CHDM二重結合末端基量:(f´)/(g´)×1000000
ただし、(g´)=(a´)×172.14+(b´)×170.21とする。
3)還元粘度
溶媒として塩化メチレンを用い、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間t0と溶液の通過時間tから次式より相対粘度ηrelを求め、
ηrel=t/t0
相対粘度から次式より比粘度ηspを求めた。
ηsp=(η−η0)/η0=ηrel−1
比粘度を濃度C(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/Cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
4)ポリカーボネートのペレットYI値
ポリカーボネートの色相は、ASTM D1925に準拠して、ペレットの反射光におけるYI値(イエローインデックス値)を測定して評価した。装置はコニカミノルタ社製分光測色計CM−5を用い、測定条件は測定径30mm、SCEを選択した。シャーレ測定用校正ガラスCM−A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM−A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。
白色校正板CM−A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が−0.43±0.01、YIが−0.58±0.01となることを確認した。ペレットの測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さまで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。YI値が小さいほど樹脂の黄色味が少なく、色調に優れることを意味する。
5)ポリカーボネート樹脂中の異物の定量
Tダイを具備した20mm径の一軸押出機のバレル設定温度を、ペレットの供給側から210℃、220℃、230℃、230℃、220℃とし、冷却ロールを用いて厚さ30μm±5μmのフィルムを成形し、Optical Control System社製、Film Quality Testing System(型式FSA100)を使用し、1m2当たりの25μm以上の異物数を測定した。24時間運転中に3時間おきにポリカーボネートペレットをサンプリングし、8回測定した平均値を用いた。
6)溶融粘度の測定
80℃で5時間、真空乾燥した試料を用いて、キャピラリーレオメーター[東洋精機(株)製]で測定を行った。反応温度と同じ温度に加熱して、剪断速度9.12〜1824sec−1間で溶融粘度を測定し、91.2sec−1における溶融粘度の値を用いた。第3竪型攪拌反応器出口の試料はダイス径1mmφ×40mmLのオリフィスを使用し、第4横型攪拌反応器出口の試料はダイス径1mmφ×10mmLのオリフィスを使用した。
[実施例1]
前述した図1に示すように、竪型攪拌反応器3器及び横型攪拌反応器1器を有する連続製造装置により、以下の条件でポリカーボネートを製造した。先ず、各反応器を表−1のとおり、予め反応条件に応じた内温・圧力に設定した。次に別途、原料調製工程にて窒素ガス雰囲気下、ISBとCHDMとDPCとを一定のモル比(ISB/CHDM/DPC=0.500/0.500/1.010)で混合し、120℃に加熱して、原料混合溶融液を得た。
続いて、この原料混合溶融液を、140℃に加熱した原料導入管を介して、前述した所定温度・圧力の±5%の範囲内に制御した第1竪型攪拌反応器6a内に連続供給し、平均滞留時間が80分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。また、上記原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1竪型攪拌反応器6a内に触媒供給口1dから触媒として酢酸カルシウム水溶液を、全ジヒドロキシ成分1molに対し、1.5μmolの割合で連続供給した。
第1竪型攪拌反応器6aの槽底から排出された重合反応液は、引き続き、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6d(2軸メガネ翼、L/D=4)に、逐次、連続供給された。重合反応の間、表−1に示した平均滞留時間となるように各反応器の液面レベルを制御した。第4横型攪拌反応器6dの容量は250L、加熱熱媒の温度は230℃であり、50kg/hrの処理量で反応液を供給した。
第3竪型攪拌反応器が最終重合反応器の一つ前の反応器に対応する。すなわち、最終重合反応器の一つ前の反応器の内温は215℃である。第4横型攪拌反応器6dの出口の還元粘度が0.68から0.70の範囲となるように反応条件を合わせ込んだところ、圧力は0.3kPa、平均滞留時間は90分となった。攪拌軸の回転数は3rpmとなるように設定した。
第4横型攪拌反応器6dから抜き出された反応液は、ギアポンプ4cにより押出機15aに移送された。該押出機[(株)日本製鋼所製:2軸押出機LABOTEX30HSS−32:L/D=32]は2つのベント口を有し、真空ポンプを用いてベント口より脱揮を行った。この時のベント部の圧力は絶対圧力で1kPa以下であった。
押出機16dの樹脂の排出側にギアポンプ4cを配置し、さらにその下流に、格納容器内部に外径112mm、内径38mm、99%の濾過精度として20μmであるリーフディスクフィルター[日本ポール(株)製]を10枚装着したポリマーフィルター15bを配置した。ポリマーフィルターの排出側には、ストランド化するためのダイを装着した。
排出される樹脂はストランドの形態で水冷、固化させた後、回転式カッターでペレット化した。ストランド化からペレット化までの工程はクリーンルーム内で実施された。続いて、ペレットは気力移送によって、製品ホッパー16dに送られた。
ポリカーボネートの製造中に、ギアポンプ4bの後に取り付けられたバルブから最終重合反応器の1つ前の反応器の出口に該当する反応液を、ギアポンプ4cの後に取り付けられたバルブから最終重合反応器の出口に該当する反応液を、ストランドカッター16bの後でポリカーボネートペレットをそれぞれサンプリングし、前述の分析方法により各種分析を実施した。
上記の反応条件にて、24時間運転を実施したところ、24時間中にストランドが切断し、ペレット化が停止した回数は1回であった。これらの結果をまとめて表−2に示した。
[実施例2]
第3竪型攪拌反応器6cの内温を210℃、平均滞留時間を15分とし、実施例1よりも第3竪型攪拌反応器6cの出口の分子量および溶融粘度を低下させた。実施例1と同様に第4横型攪拌反応器6dの出口の還元粘度が0.68から0.70の範囲となるように第4横型攪拌反応器の条件を調節したところ、圧力は0.2kPa、平均滞留時間は120分となった。言及していない項目については実施例1と同様に行った。
反応器の中で最も高温となる第4横型攪拌反応器の反応時間が長くなったために、得られたポリカーボネートの色調は実施例1よりはやや悪化したものの、モノヒドロキシ化合物含有量が少なく、異物量は非常に少なかった。
[実施例3]
原料の仕込みモル比をISB/CHDM/DPC=0.500/0.500/0.995とした。実施例1と同様に第4横型攪拌反応器6dの条件を調節したところ、圧力は1.0kPa、平均滞留時間は90分となった。言及していない項目については実施例1と同様に行った。
ヒドロキシ末端とフェニルカーボネート末端の量がバランスしたために、第4横型反応器内の分子量上昇速度が速くなり、圧力が高くなったためにポリカーボネート中のモノヒドロキシ化合物含有量が増加したが、ペレットYIは低く、色調は良好であった。
[実施例4]
第4横型反応器6dの攪拌回転数を7rpmとした以外は実施例1と同様に実施した。攪拌軸に反応液がからみついて反応器出口に垂れ落ちにくい状況となり、24時間運転中にペレット化工程が12回停止し、得られたポリカーボネートペレットの異物量は増大したものの、ペレットYIは低く、色調は良好であった。
[実施例5]
第4横型攪拌反応器6dの攪拌回転数を1rpmとした以外は実施例1と同様に実施した。
安定して運転が継続可能であったが、実施例1と比較して、攪拌効率が低下したために、得られたポリカーボネート中のモノヒドロキシ化合物含有量が増加したものの、ペレットYIは低く、色調は良好であり、異物量が非常に少なかった。
[実施例6]
第3竪型攪拌反応器6cの温度を210℃とし、圧力を3kPaまで下げることで反応を促進され、実施例1と同程度の分子量まで反応を進行させた。さらに第4横型攪拌反応器6dの攪拌回転数を1.5rpmとした。上記以外は実施例1と同様に行った。
ポリカーボネート中のモノヒドロキシ化合物含有量および異物量は実施例1と同等でありながら、ペレットYIをさらに向上させることができた。
[実施例7]
原料の仕込みモル比をISB/CHDM/DPC=0.700/0.300/1.01とした。
反応温度、圧力および滞留時間は実施例1と同様に設定し、第4横型攪拌反応器6dの出口の還元粘度が0.41から0.44の範囲となるように反応条件を合わせ込んだ。
ポリカーボネート中のモノヒドロキシ化合物含有量および異物量、並びにポリカーボネートの色調とともに品質が良好なポリカーボネートが得られた。
[実施例8]
第3竪型攪拌反応器6cの温度を210℃とし、圧力を5kPaまで下げることで反応を促進され、実施例7と同程度の分子量まで反応を進行させた。さらに第4横型攪拌反応器6dの攪拌回転数を1.5rpmとした。上記以外は実施例1と同様に行った。ポリカーボネート中のモノヒドロキシ化合物含有量および異物量は実施例7と同等でありながら、ペレットYIをさらに向上させることができた。
[比較例1]
第3竪型攪拌反応器6cの内温を230℃まで上昇させた。実施例1と同様に第4横型攪拌反応器の条件を調節したところ、圧力は1.1kPa、平均滞留時間は80分となった。また、ここで言及していない項目については実施例1と同様に行った。
実施例1〜6と比較して、得られたポリカーボネートは色調が悪化した。また、実施例1と比較すると、モノヒドロキシ化合物含有量が増加した。
[比較例2]
第3竪型攪拌反応器6cの内温を230℃まで上昇させた。実施例6と同様に第4横型攪拌反応器の条件を調節したところ、圧力は0.8kPa、平均滞留時間は80分となった。また、ここで言及していない項目については実施例7と同様に行った。
実施例7および実施例8と比較して、得られたポリカーボネートは色調が悪化した。また、実施例7と比較すると、モノヒドロキシ化合物含有量が増加した。
[まとめ]
表−2に示すように、本発明のポリカーボネートの製造方法に規定するように、最終重合反応器の1つ前の反応器の反応条件を適切に設定することで、ポリカーボネートの品質を向上できるとともに、運転が安定し、歩留まりが向上する利点も得られることがわかった。特に、実施例1〜8はいずれも比較例1および2と比べてペレットYIが低く、色調が良好であった。