以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
なお、本明細書において、「〜」という表現を用いた場合、その前後の数値または物理値を含む意味で用いることとする。
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(A)と、炭酸ジエステルとを、液体状態で連続的に反応器に供給して溶融重縮合するポリカーボネート樹脂の製造方法であって、該ジヒドロキシ化合物を液化してから、反応器に供給するまでの滞留時間が0.1時間以上10時間以下であるポリカーボネート樹脂の製造方法である。
(但し、上記式(1)で表される部位が−CH
2−OHの一部を構成する部位である場合を除く。)
<原料と触媒>
以下、本発明のポリカーボネート樹脂に使用可能な原料、触媒について説明する。
(ジヒドロキシ化合物)
本発明のポリカーボネート樹脂の製造に用いられるジヒドロキシ化合物(A)は、下記式(1)で表される部位を有するものである。以下、該ジヒドロキシ化合物を「本発明のジヒドロキシ化合物(A)」と称する場合がある。
(但し、上記式(1)で表される部位が−CH
2−OHの一部を構成する部位である場合を除く。)
本発明のジヒドロキシ化合物(A)としては、具体的には、オキシアルキレングリコール類、芳香族基に結合したエーテル基を主鎖に有するジヒドロキシ化合物、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
前記オキシアルキレングリコール類としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
前記芳香族基に結合したエーテル基を主鎖に有するジヒドロキシ化合物としては、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等のフルオレン骨格を有する化合物;2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等が挙げられる。
前記環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物としては、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(3)や下記式(4)で表されるスピログリコール等が挙げられる。
これらの中でも、入手のし易さ、ハンドリング、重縮合時の反応性、得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、複数の環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物や下記式(3)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を2つ有するジヒドロキシ化合物がさらに好ましく、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物等の、糖由来の環状エーテル構造を2つ有するジヒドロキシ化合物である無水糖アルコールが特に好ましい。
これらのジヒドロキシ化合物のうち、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることがポリカーボネート樹脂の耐光性の観点から好ましく、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られる下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物等の無水糖アルコールが、入手及び製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性、カーボンニュートラルの面から最も好ましい。
これらは得られるポリカーボネート樹脂の要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、上記の「環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物」の「環状エーテル構造」とは、環状構造中にエーテル基を有し、環状鎖を構成する炭素が脂肪族炭素である構造からなるものを意味する。
上記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド(ISB)、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のポリカーボネート樹脂は、本発明のジヒドロキシ化合物(A)以外のジヒドロキシ化合物(B)に由来する構造単位を含んでいてもよく、該ジヒドロキシ化合物(B)としては、直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、アルキル分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、芳香族ビスフェノール類等が挙げられる。
前記の直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。
前記の直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。
前記の脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、リモネンなどのテルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
前記の芳香族ビスフェノール類としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ−2−メチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。
これらは得られるポリカーボネート樹脂の要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリカーボネート樹脂の耐光性の観点からは、分子構造内に芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物、即ち脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物や、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましく、これらを併用してもよい。
この脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の炭素数3〜6で両末端にヒドロキシ基を有する直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましく、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましく、より好ましいのは、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのシクロヘキサン構造を有するジヒドロキシ化合物であり、最も好ましいのは1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
その他のジヒドロキシ化合物(B)を用いることにより、ポリカーボネート樹脂の柔軟性の改善、耐熱性の向上、成形性の改善などの効果を得ることも可能であるが、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合が多過ぎると、機械的物性の低下や、耐熱性の低下を招くことがあるため、全てのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位のモル数に対する、前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(A)に由来する構造単位の割合は、好ましくは10mol%以上、更に好ましくは20mol%以上、特に好ましくは30mol%以上である。一方、好ましくは90mol%以下、更に好ましくは85mol%以下、特に好ましくは80mol%以下である。
本発明のジヒドロキシ化合物(A)は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよく、特に酸性下で本発明のジヒドロキシ化合物は変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。塩基性安定剤としては、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における1族または2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3−アミノ−1−プロパノール、エチレンジアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物、ジ−(tert−ブチル)アミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物が挙げられる。これらの安定剤の中でも、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、モルホリン、イミダゾール、ヒンダードアミン系化合物が好ましい。
これら塩基性安定剤の本発明のジヒドロキシ化合物(A)中の含有量に特に制限はないが、本発明のジヒドロキシ化合物(A)は酸性状態では不安定であるので、上記の安定剤を含むジヒドロキシ化合物(A)の水溶液のpHが7以上となるように安定剤を添加することが好ましい。少なすぎると本発明のジヒドロキシ化合物(A)の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎると本発明のジヒドロキシ化合物(A)の変性を招く場合があるので、通常、本発明のジヒドロキシ化合物(A)に対して、0.0001重量%〜1重量%、好ましくは0.001重量%〜0.1重量%である。
これら塩基性安定剤を含有した本発明のジヒドロキシ化合物(A)をポリカーボネート樹脂の製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重縮合触媒となり、重縮合速度や品質の制御が困難になるだけでなく、樹脂色相の悪化を招くため、ポリカーボネート樹脂の製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂や蒸留等で除去することが好ましいが、アミン系安定剤を窒素元素量として、本発明のジヒドロキシ化合物に対して10体積ppm以下含有する場合、重縮合反応性や製品品質への影響を与えないため、蒸留などの精製操作を加えることなく、反応に用いることが可能となる。蒸留の操作を省略できると、溶融状態で取り扱う工程を削減できるため、得られるポリカーボネート樹脂の品質の向上が期待できる。
本発明のジヒドロキシ化合物(A)は、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や、製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネート樹脂を製造すると、得られるポリカーボネート樹脂の着色を招いたり、物性を著しく劣化させたりするだけでなく、重縮合反応に影響を与え、高分子量の重縮合体が得られないこともあり、好ましくない。
(炭酸ジエステル)
本発明のポリカーボネート樹脂は、上述した本発明のジヒドロキシ化合物(A)を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを原料として、重縮合反応により得ることができる。
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(5)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
(式(5)において、A
1およびA
2は、それぞれ置換もしくは無置換の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基または置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、A
1とA
2とは同一であっても異なっていてもよい。)
A
1およびA
2の好ましいものは置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、より好ましいのは無置換の芳香族炭化水素基である。尚、脂肪族炭化水素基の置換基としては、エステル基、エーテル基、カルボン酸、アミド基、ハロゲンが挙げられ、芳香族炭化水素基の置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が挙げられる。
前記式(5)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(以下「DPC」と称することがある)、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重縮合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、反応器に独立に投下してもエステル交換反応をさせることは可能であるが、エステル交換反応前に均一に混合することもできる。この混合の温度は80℃以上がよく、好ましくは90℃以上であり、その上限は250℃以下がよく、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。中でも100℃以上130℃以下が好適である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足したりする可能性があり、しばしば固化等の不具合を招き、混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化する可能性がある。
本発明において、炭酸ジエステルは、反応に用いる本発明のジヒドロキシ化合物を含む全ジヒドロキシ化合物に対して、0.90〜1.20のモル比率で用いるとよく、好ましくは、0.95〜1.10、更に好ましくは0.97〜1.03、特に好ましくは0.99〜1.02である。このモル比率が小さくなると、製造されたポリカーボネート樹脂の末端水酸基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化し、成形時に着色を招いたり、エステル交換反応の速度が低下したり、所望する高分子量体が得られない可能性がある。一方、このモル比率が大きくなると、エステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネート樹脂の製造が困難となる場合がある。エステル交換反応速度の低下は、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂の色相を悪化させる可能性がある。
更には、本発明のジヒドロキシ化合物(A)を含む全ジヒドロキシ化合物に対して、炭酸ジエステルのモル比率が増大すると、得られるポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、これが成形時にガスとなり成形不良を招いたり、製品からブリードアウトしたりする場合があり、好ましくない。本発明の方法で得られるポリカーボネート樹脂ペレットまたはフィルムに残存する炭酸ジエステルの濃度は、好ましくは200重量ppm以下、更に好ましくは100重量ppm以下、特に好ましくは60重量ppm以下、中でも30重量ppm以下が好適である。
(重縮合反応触媒)
本発明のポリカーボネート樹脂は、上述のように本発明のジヒドロキシ化合物(A)を含むジヒドロキシ化合物と前記式(5)で表される炭酸ジエステルとを重縮合反応させてポリカーボネート樹脂を製造する。より詳細には、重縮合反応させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、重縮合反応触媒存在下で重縮合反応を行う。
本発明のポリカーボネート樹脂の製造時に使用し得る重縮合反応触媒(以下、単に触媒、重縮合触媒と言うことがある)は、反応速度やポリカーボネート樹脂の色調に非常に大きな影響を与え得る。
用いられる触媒としては、製造されたポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されないが、長周期型周期表における1族または2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び2族金属化合物のうち少なくとも一方が使用される。それらの中でも、2族の金属およびリチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の化合物がより好ましい。
1族金属化合物及び2族金属化合物のうち少なくとも一方と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び2族金属化合物のうち少なくとも一方のみを使用することが特に好ましい。中でも2族の金属及びリチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であることが特に好ましい。
また、1族金属化合物及び2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重縮合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられ、中でもリチウム化合物が好ましい。
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重縮合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ酸、テトラエチルホウ酸、テトラプロピルホウ酸、テトラブチルホウ酸、トリメチルエチルホウ酸、トリメチルベンジルホウ酸、トリメチルフェニルホウ酸、トリエチルメチルホウ酸、トリエチルベンジルホウ酸、トリエチルフェニルホウ酸、トリブチルベンジルホウ酸、トリブチルフェニルホウ酸、テトラフェニルホウ酸、ベンジルトリフェニルホウ酸、メチルトリフェニルホウ酸、ブチルトリフェニルホウ酸等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン、グアニジン等が挙げられる。
上記重縮合触媒の使用量は、通常、重縮合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol〜300μmol、好ましくは0.5μmol〜100μmolであり、中でもリチウム及び長周期型周期表における2族からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/またはカルシウム化合物を用いる場合は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常、0.1μmol以上、好ましくは0.3μmol以上、特に好ましくは0.5μmol以上とする。また上限としては、通常20μmol、好ましくは10μmol、さらに好ましくは3μmol、特に好ましくは1.5μmolが好適である。
触媒量が少なすぎると、重縮合速度が遅くなるため、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとすると、重縮合温度を高くせざるを得なくなり、得られたポリカーボネート樹脂の色相が悪化したり、また、未反応の原料が重縮合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重縮合触媒の使用量が多すぎると、好ましくない副反応を併発し、得られるポリカーボネート樹脂の色相の悪化や成形加工時の樹脂の着色を招く可能性がある。
また、1族金属、中でもナトリウム、カリウム、セシウムは、ポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性があり、該金属は使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合があるため、ポリカーボネート樹脂中のこれらの合計量は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常2μmol以下、好ましくは1μmol以下、より好ましくは0.5μmol以下である。
<原料調製工程>
溶融重縮合による反応は、反応速度やポリカーボネート樹脂の品質を一定に制御するために、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのモル比を厳密に制御する必要がある。要求される定量精度を得るには固体を供給する方法では難しいため、ポリカーボネート樹脂の原料として使用するジヒドロキシ化合物、および炭酸ジエステルは、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、バッチ式、半回分式または連続式の攪拌槽型の装置を用いて溶融液として扱われる。
本発明のジヒドロキシ化合物(A)は、通常知られるジヒドロキシ化合物の中でも、特に熱や酸素の影響を受けやすく、原料調製工程において溶融状態で取り扱う間に劣化し、反応速度が低下したり、得られるポリカーボネート樹脂の着色を招きやすい。さらに、本発明のジヒドロキシ化合物(A)は通常、室温で固体状態であり、溶解槽に供給する際に、空気を固体間に巻き込んでしまうおそれがある。溶解槽における酸素濃度をゼロにすることは実質的に不可能であり、酸素による劣化を最小に抑えるためには、反応器に供給されるまでの時間を最短にすることが肝要である。さらにはジヒドロキシ化合物を液化させる温度を低くすることが好ましい。溶融状態を保持するのに必要最低限の温度においても劣化が進行してしまうため、溶融させる際の温度を最低限に抑えた上で、本発明のジヒドロキシ化合物(A)を液化させてから反応器に供給されるまでの時間を最短にすることや、本発明のジヒドロキシ化合物(A)と炭酸ジエステルを混合してから反応器へ供給する間での経過時間を最短にすることが重要である。
本発明においては、いずれの事例においても、本発明のジヒドロキシ化合物(A)を液化してから反応器に供給するまでの滞留時間は、10時間以内であり、好ましくは8時間以内、さらに好ましくは6時間以内であり、特に好ましくは4.5時間以内である。一方、本発明のジヒドロキシ化合物を短時間で液化させようとすると、高温に加熱しなければならなくなるため、かえって原料の劣化を招きやすくなる。また、溶解槽で溶融した原料をある程度蓄えておかないと、何らかのトラブルが発生して原料供給が停止した場合に、反応工程まで停止しなければならない事態を招き、再度反応を立ち上げるために大幅に原料がロスされる。そのため、滞留時間の下限は、0.1時間以上であり、好ましくは0.3時間以上、さらに好ましくは0.5時間以上である。
なお、本発明における反応器は、重縮合反応によって生成するモノヒドロキシ化合物(炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを用いる場合はフェノール)が理論生成量の5%以上生成する容器と定義される。
さらに、本発明のジヒドロキシ化合物(A)は熱劣化により反応性が低下するため、後の重縮合工程を安定化させるためには、液化してから反応器に供給するまでの滞留時間が一定であることが好ましい。滞留時間を一定に保つには、溶解槽への原料の供給量と排出量と内容液の液量を一定にすることで可能となる。
さらに、本発明のジヒドロキシ化合物(A)は熱劣化により反応性が低下してしまうが、溶融状態で保存する以上、完全に劣化を抑制することは困難である。しかし、その劣化の程度を一定の状態に保つことができれば、後の重縮合工程を安定化させることが可能となる。そのために、液化してから反応器に供給するまでの滞留時間が一定であることが好ましい。後述の通り、溶解槽への原料の供給量と溶解槽からの原料の排出量とを同じにすることで内容液の液量(kg)が一定になり、加えて前記溶解槽からの原料の排出量(kg/hr)を一定とすることで、滞留時間を一定に保つことが可能となる。この時、原料の供給量本発明のジヒドロキシ化合物の滞留時間は、設定時間の±20%以内の範囲に調節することが好ましく、さらに±10%以内に調節することが好ましい。また、液化温度も設定温度の±10℃以内の範囲に調節することが好ましく、さらには±5℃以下の範囲に調節することが好ましい。
一方、溶融重縮合によるポリカーボネート樹脂の製造には、一般に、反応に用いるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは事前に所定のモル比となるように混合し、その原料調製液を溶融状態で貯蔵する方法が用いられていた。しかし、本発明のジヒドロキシ化合物(A)は親水性が高いため、炭酸ジエステルや極性の低いジヒドロキシ化合物と混合すると、溶液が相分離を起こす。例えば、イソソルビドは融点が約60℃であるが、ジフェニルカーボネートと混合すると、約120℃に相分離温度が現れる。又、スピログリコールをスピログリコールの融点より低い温度でジフェニルカーボネートと混合すると、約170℃に相分離温度が現れる。このような状況になると、均一にするには相分離温度以上の温度まで上げる必要があり、必要以上の熱負荷がかかってしまうことになる。原料溶融液が相分離した状態では、反応器に原料を供給する際に不均一な組成の液が送られて、所望の分子量まで反応が進行しなくなるおそれがある。
上記の観点から、本発明では、本発明のジヒドロキシ化合物(A)と炭酸ジエステルをそれぞれ別々に反応器に供給させるか、反応器の直前に混合して反応器に供給されることが好ましい。それぞれ個別に定量ポンプにより反応器に供給することで、原料を混合するための槽を設ける必要がなく、余計な滞留時間を削減することができる。さらに混合液の相分離によって不均一な液が反応器に投入されることもなくなるため、各成分ごとに溶融温度を最適に設定することが可能となる。
反応器に配管を複数つなげると、反応器の圧力の制御が難しくなるため、反応器に供給される前に配管内ですべての原料が混合されることが特に好ましい。前述のとおり、原料調製液が相分離を起こす可能性がある場合は、原料を混合する際にスタティックミキサーを使用して、液を均一に分散させることが好ましい。
尚、本発明のジヒドロキシ化合物(A)を液化(溶解または溶融)する方法としては、一括して溶解槽に添加して溶融する方法や、本発明のジヒドロキシ化合物(A)をあらかじめ溶融させ、その溶融液を有する溶解槽に、本発明の固体のジヒドロキシ化合物(A)を供給して液化する方法が挙げられる。
これらのなかでも、後者の方法を採用すると、液化する時間を最短にすることができる。このため、本発明のジヒドロキシ化合物(A)をあらかじめ溶融させ、その溶融液を有する溶解槽に、本発明の固体のジヒドロキシ化合物(A)を連続的に供給し、同時に該溶解槽から液化したジヒドロキシ化合物を連続的に排出する方法を採用すると、液化する時間を最短にすることができるとともに、連続的にかつ一定速度で溶融されたジヒドロキシ化合物を排出することが可能となる。
本発明のジヒドロキシ化合物(A)がスピログリコールである場合、スピログリコールは比較的融点が高いため、単独で溶融させるよりも、より融点の低い炭酸ジエステルと混合することにより、溶解温度や溶融保持温度を低くできる。従って、固体のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを連続して溶解槽に一定流量で供給し、同時に該溶解槽から混合液を連続的に排出する方法を採用すると、液化と溶融状態の保持にかかる熱履歴を最小にすることができるとともに、溶解にかかる滞留時間を一定にすることが可能となる。原料の熱劣化は完全には避けられないが、滞留時間を一定に保つことで、一定の品質の原料を反応器に供給することができ、重縮合工程の運転やポリカーボネートの品質の安定化につながる。
以下、本発明の滞留時間について説明する。
まず、本発明において、ジヒドロキシ化合物を液化してから反応器に供給するまでに該ジヒドロキシ化合物を含む液が通過する装置を、溶解槽と移送配管(スタティックミキサーやフィルターを含む)とに区別する。そして、(1)溶解槽において、ジヒドロキシ化合物を液化(溶解または溶融)する段階、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを混合する段階、及び原料溶融液を貯蔵する段階の全てに要する時間と、(2)移送配管内を移動し、スタティックミキサーやフィルターを通過する段階の全てに要する時間とを足し合わせた時間が現実の滞留時間となる。但し、移送配管内を移動する全ての段階に要する時間は、溶解槽における全ての段階に要する時間に対して、無視できるほど小さいことから、本発明においては、溶解槽における全ての段階に要する時間の合計を滞留時間Tと定義する。
本発明において、前記滞留時間Tは、溶解槽iにおける滞留時間Tiの総和として記述できる。ここで溶解槽iにおける滞留時間Tiは、以下に詳述するとおり、溶解槽iへの物質の流入及び溶解槽iからの物質の流出によって分類される4種類の要素(状態)の滞留時間Txの組み合わせに分解できる。従って、溶解槽iにおける滞留時間Tiはジヒドロキシ化合物の液化方法に従って、下記の要素の滞留時間の合計で表される。なお、本発明においては、エステル交換反応は連続式であり、反応器に供給する流量が一定であるため、少なくとも最終段の溶解槽から排出する混合液の流量は一定である。
(要素1)溶解槽から物質の流出がない状態
この場合、溶解槽iから物質の流出がない事を指し、溶解槽iの中で物質が静置されているか、攪拌されているかは問わない。溶解槽iの要素1としての滞留時間Ti 1[hr]は溶解槽iに物質が保持されている時間ti[hr]となる。
Ti 1=ti (10)
Ti 1:溶解槽iの要素1としての滞留時間[hr]
ti:溶解槽iに物質が保持されている時間[hr]
要素1の例としては、溶解槽で固体を加熱攪拌するのに要する時間、バッチ式でジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを混合する時間、原料溶融液を貯蔵する時間等が該当する。なお、溶解槽から溶液を排出する時間は後述の要素2に分類される。
(要素2)溶解槽への物質流入がなく、溶解槽からの物質流出の流量が一定の状態
溶解槽iの要素2としての滞留時間Ti 2[hr]は、溶解槽i内部に存在する物質の総量Wi[kg]と溶解槽iから該物質が流出する流量Fi[kg/hr]とから次のように求まる。
Ti 2=Wi/Fi (11)
Ti 2:溶解槽iの要素2としての滞留時間[hr]
Wi:溶解槽i内部に存在する物質の量[kg]
Fi:溶解槽iから排出する物質の流量[kg/hr]
要素2の例としては、バッチ式の溶解槽からの排出における滞留時間が該当する。
(要素3)溶解槽への物質流入の流量と溶解槽からの物質流出の流量が一定、かつ等しい状態
溶解槽i内部に存在する物質の量Wi[kg]は一定であるので、要素3としての滞留時間Ti 3[hr]は、前記Wiと、溶解槽iから該物質が流出する流量Fi[kg/hr]とから次のように求まる。
Ti 3=Wi/Fi (12)
Ti 3:溶解槽iの要素3としての滞留時間[hr]
Wi:溶解槽i内部に存在する物質の量[kg]
Fi:溶解槽iから排出する物質の流量[kg/hr]
要素3の例としては、連続式でジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを混合する時間が該当する。
(要素4)溶解槽への物質流入の流量又は該溶解槽からの物質流出の流量が一定でない、もしくは物質流入の流量と物質流出の流量が均衡しない状態
この場合、溶解槽i内部に存在する物質の量Wi[kg]の変化が一律ではないので、該物質を排出する時、滞留時間に差が生じる。そこで、溶解槽iの要素4としての滞留時間Ti 4[hr]は、溶解槽iにおける物質の最長滞留時間Ti max[hr]とする。
Ti 4=Ti max (13)
Ti 4:溶解槽iの要素4としての滞留時間[hr]
Ti max:溶解槽iにおける物質の最長滞留時間[hr]
要素4の例としては、バッチ式溶解装置や間欠式混合装置等における滞留時間等が該当する。
本発明において、ジヒドロキシ化合物を液化してから反応器に供給するまでの方法としては、下記のような方法があるが、これに限定されずいずれの方法を用いても良い。
(方法1)固体のジヒドロキシ化合物を溶融した炭酸ジエステル中に溶解して液化する方法。
(方法2)所定量のジヒドロキシ化合物の一部と炭酸ジエステルの溶融混合液に、所定量のジヒドロキシ化合物の残部を添加し溶解する方法。
(方法3)液体のジヒドロキシ化合物と液体の炭酸ジエステルを溶解槽で混合する方法。この方法においては、固体のジヒドロキシ化合物を単独で加熱融解して液化する工程を含む。
(方法4)固体のジヒドロキシ化合物と固体の炭酸ジエステルの混合物を加熱融解して液化する方法。
尚、第1溶解槽において未溶解の固体ジヒドロキシ化合物を含んでいる場合は、第1溶解槽の排出液を第2溶解槽に送液後、第2溶解槽においてジヒドロキシ化合物を完全溶解すればよい。
以下、本発明においてジヒドロキシ化合物を液化してから反応器に供給するまでの代表例について、前記定義に基づく滞留時間Tの計算式を記述する。
(代表例1)第1溶解槽において、液体の炭酸ジエステルと固体のジヒドロキシ化合物とをそれぞれ連続的に投入して混合し、該混合液を第2溶解槽へ連続的に送液し、第2溶解槽で完全溶解した後、連続的に排出する場合
この例では、ジヒドロキシ化合物が第1溶解槽に投入された時点から、液化したジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの混合溶融液を第2溶解槽から排出する時点までを溶解槽内の滞留時間Tとする。上述の通り、溶解槽同士、又は溶解槽と反応器を接続する配管の影響は考慮しない。
T=T1+T2 (14)
T:第1溶解槽に原料を投入した時点から、第2溶解槽から混合溶融液を排出する時点までのジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
T1:第1溶解槽におけるジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
T2:第2溶解槽におけるジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
ここで、第1溶解槽、第2溶解槽とも連続式であり、それぞれの溶解槽内部に存在する物質の量は一定で、かつ、それぞれの溶解槽から排出する物質の流量は一定であるから、第1溶解槽、第2溶解槽ともに前記要素3を適用する。
T=T1 3+T2 3 (14)
T1 3=W1/F1 (15)
T1 3:第1溶解槽におけるジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
W1:第1溶解槽内部に存在する物質の量[kg]
F1:第1溶解槽から排出する物質の流量[kg/hr]
T2 3=W2/F2 (16)
T2 3:第2溶解槽におけるジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
W2:第2溶解槽内部に存在する物質の量[kg]
F2:第2溶解槽から排出する物質の流量[kg/hr]
従って、式(14)は下記の通り記述される。
T=T1 3+T2 3=W1/F1+W2/F2 (17)
(代表例2)第1溶解槽でジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの混合液を調製後、第2溶解槽に一度に供給し、完全溶解する場合
この例においても、ジヒドロキシ化合物が第1溶解槽に投入された時点から、液化したジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの混合液を第2溶解槽から排出する時点までを溶解槽内の滞留時間Tとする。上述の通り、溶解槽同士、又は溶解槽と反応器を接続する配管の影響は考慮しない。
T=T1+T2 (18)
T:ジヒドロキシ化合物が第1溶解槽に投入された時点から、液化したジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの混合液が第2溶解槽から排出された時点までのジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
T1:第1溶解槽におけるジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
T2:第2溶解槽におけるジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
この例では、第1溶解槽はバッチ式に相当するので、第1溶解槽の滞留時間T1は、加熱を開始した時点から排出を開始した時点までの滞留時間(攪拌に要する時間)であり、該滞留時間は前記要素1に該当するのでT1 1と表記し、排出段階における滞留時間は上記要素2に該当するのでT1 2と表記する。第1溶解槽におけるジヒドロキシ化合物の滞留時間は次式で記述される。
T1=T1 1+T1 2=t1+W1/F1 (19)
T1:第1溶解槽におけるジヒドロキシ化合物を含む液の滞留時間[hr]
T1 1:第1溶解槽におけるジヒドロキシ化合物を含む液の攪拌に要する時間[hr]
T1 2:第1溶解槽におけるジヒドロキシ化合物を含む液の排出に要する時間[hr]
t1:第1溶解槽で攪拌に要する時間[hr]
W1:第1溶解槽内部に存在する物質の量[kg]
F1:第1溶解槽から排出する物質の流量[kg/hr]
但し、第1溶解槽の排出時間が第1溶解槽で攪拌に要する時間よりきわめて短い場合は、排出時間W1/F1を無視してもかまわない。
一方、第2溶解槽において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの混合液の量が変動し、第2溶解槽における混合液の滞留時間にばらつきが生じるため、第2溶解槽の滞留時間T2は、前記要素4に従い、最も長い滞留時間T2 maxとする。
T2 4=T2 max (20)
T2 4:第2溶解槽におけるジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
T2 max:第2溶解槽における混合液の最長の滞留時間[hr]
従って、この例における滞留時間Tは次式となる。
T=T1 1+T2 4=t1+W1/F1+T2 max (21)
(代表例3)第1溶解槽に固体のジヒドロキシ化合物を投入し、加熱融解し、該溶融液を第2溶解槽に送液し、第2溶解槽で連続的に液体の炭酸ジエステルと混合し、排出する場合
この例では、第1溶解槽はバッチ式による原料の加熱融解であり、第2溶解槽は連続式混合である。第1溶解槽において、ジヒドロキシ化合物を投入後、加熱を開始した時点から、第2溶解槽出口から原料混合液を排出した時点までを溶解槽内の滞留時間Tとする。
T=T1+T2 (22)
T:第1溶解槽において、ジヒドロキシ化合物を投入後、加熱を開始した時点から、第2溶解槽出口から原料混合液を排出した時点までのジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
T1:第1溶解槽におけるジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
T2:第2溶解槽におけるジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
この例においても、第1溶解槽において、加熱を開始した時点から排出を開始した時点までの滞留時間と、排出段階における滞留時間に分割でき、それらの和を第1溶解槽内の滞留時間T1とするので、代表例2の第1溶解槽の場合と同様、次式である。
T1=T1 1+T1 2=t1+W1/F1 (23)
T1 1:加熱を開始した時点から排出を開始した時点までの第1溶解槽内のジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
T1 2:排出段階における溶解槽内のジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
t1:第1溶解槽で攪拌に要する時間[hr]
W1:第1溶解槽内のジヒドロキシ化合物の量[kg]
F1:第1溶解槽から排出するジヒドロキシ化合物の流量[kg/hr]
一方、第2溶解槽における滞留時間T2は、上記要素3の連続混合に該当するので、滞留時間T2は次式になる。
T2=T2 3=W2/F2 (24)
T2 3:第2溶解槽内のジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
W2:第2溶解槽内のジヒドロキシ化合物の量[kg]
F2:第2溶解槽から排出するジヒドロキシ化合物の流量[kg/hr]
以上をまとめると、この例における滞留時間Tは、次式の通り記述される。
T=T1+T2=t1+W1/F1+W2/F2 (25)
(代表例4)第1溶解槽にあらかじめ所定量の一部のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの溶融混合液を蓄えておき、所定量の残部の固体のジヒドロキシ化合物を供給して完全溶解する場合
この例では、所定量の一部のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの溶融混合液をあらかじめ第1溶解槽に蓄えている貯留段階、第1溶解槽に所定量の残部の固体のジヒドロキシ化合物を供給して溶解する段階、及び第1溶解槽からジヒドロキシ化合物を抜き出す段階に分割することができる。ここで、あらかじめ第1溶解槽に蓄えられているジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの溶融混合液の貯留段階の滞留時間と、第1溶解槽に所定量の残部の固体のジヒドロキシ化合物を供給して溶解する段階における滞留時間は、溶解槽からの排出がないため、前記要素1に該当し、まとめてT1 1として扱う。
T1 1=t1 (26)
T1 1:第1溶解槽にあらかじめ蓄えられている所定量の一部のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの溶融混合液の滞留時間及び、第1溶解槽に所定量の残部の固体のジヒドロキシ化合物を供給して溶解する段階における滞留時間[hr]
t1:第1溶解槽にあらかじめ上記溶融混合液が蓄えられている時間と、第1溶解槽に所定量の残部の固体のジヒドロキシ化合物を供給して溶解する段階の所要時間[hr]
本代表例における滞留時間Tは、第1溶解槽における前記要素1の滞留時間の合計T1 1、及び、第1溶解槽からの排出段階での滞留時間T1 2の和であり、次式(27)となる。
T=T1 1+T1 2=t1+T1 2 (27)
T:第1溶解槽において、所定量の一部のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの溶融混合液を投入した時点から、所定量の残部の固体のジヒドロキシ化合物の供給を経て、第1溶解槽出口から原料混合液を排出した時点までのジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
ここで、第1溶解槽からジヒドロキシ化合物を抜き出す段階の滞留時間は前記要素2に該当する。
T1 2=W1/F1 (28)
T1 2:第1溶解槽からの抜き出し段階におけるジヒドロキシ化合物の滞留時間[hr]
W1:第1溶解槽内部に存在する混合液の全量[kg]
F1:第1溶解槽から排出する混合液の流量[kg/hr]
以上をまとめると次式(29)になる。
T=T1 1+T1 2=t1+W1/F1 (29)
本発明のジヒドロキシ化合物(A)の1種であるイソソルビドは、結晶性化合物の中でも比較的、融解熱が大きく、溶融させる際の熱量が大きくなるため、固体を加熱して溶融させようとすると、高温に加熱する必要があるため、熱劣化を招きやすい。そのため、前記した、あらかじめイソソルビドを溶融させた液の中に固体のイソソルビドを供給して液化させる方法が、過剰な熱量を与えるおそれが少なくなるため、特に好ましい。
液化状態の本発明のジヒドロキシ化合物(A)を保有する溶解槽に、固体状態の本発明のジヒドロキシ化合物(A)を添加して溶解させた後、前記溶解槽から、連続的に本発明のジヒドロキシ化合物(A)が排出される場合は、前記要素2に相当する。ここで溶解槽内部に保有している本発明のジヒドロキシ化合物(A)の重量をA[kg]、該ジヒドロキシ化合物(A)の排出流量をB[kg/hr]とした時、溶解槽における本発明のジヒドロキシ化合物(A)の滞留時間はA/B[hr]で表される。
又、本発明のジヒドロキシ化合物(A)が溶解槽に連続的に供給され、同時に連続的に排出される場合は、定常状態においては初期に本発明のジヒドロキシ化合物(A)をあらかじめ溶融させる際にかかった時間は考慮しないので、溶解槽への物質流入の流量と、該溶解槽からの物質流出の流量が等しく、かつ一定である。従って、前記要素3に相当し、溶解槽における本発明のジヒドロキシ化合物(A)の滞留時間はA/B[hr]で表される。なお、両方の場合とも溶解槽内の本発明のジヒドロキシ化合物(A)の量A[kg]には、固体状のジヒドロキシ化合物を含んでいてもよい。
この時、溶解槽における滞留時間は、5時間以内が好ましく、さらに好ましくは4時間以内であり、最も好ましくは3時間以内である。また、本発明のジヒドロキシ化合物(A)の代表例であるイソソルビドを液化させるための所要時間として、現実的には0.05時間以上、好ましくは0.1時間、更に好ましくは0.5時間が必要となる。また、固体の供給速度が速すぎると、溶融液の温度を保持することが困難となり、溶解槽や移送配管内で固化して閉塞を招くおそれがある。したがって、固体のイソソルビドを供給する溶解槽における経過時間A/Bは、下記式(I)で示される条件となるのが好ましい。
0.05 ≦ A/B ≦ 5 (I)
本発明のジヒドロキシ化合物(A)、特にイソソルビドは吸湿性の高い化合物であり、固体状態で保存しておくと、圧密により大きな塊が生成しやすい。溶解槽に大きな塊が供給されると溶融時間が余計にかかるため、できる限り細かく砕いた状態で溶解槽に供給されることが好ましい。塊を砕く操作には通常知られている解砕機が用いられる。解砕後前記溶解槽に供給される固体のジヒドロキシ化合物には、長径(最大長)が3cm以上の塊状物を1kg当たり10個以下含有することが好ましく、さらに好ましくは1kg当たり5個以下、最も好ましくは塊状物が含まれないことである。細かく砕きすぎると、潮解するおそれや、固体が空気を巻き込んで、溶解槽に空気が混入するおそれがあるため、長径が1mm以下の塊は含まれないことが好ましい。
本発明のジヒドロキシ化合物(A)を液化するために用いられる溶解槽は、ジヒドロキシ化合物を加温する必要があるため、加熱媒体が流通する熱交換器を具備していることが好ましい。また、溶融時間を短縮し、該ジヒドロキシ化合物が加熱媒体との接触面において局所過熱されることによる劣化を抑制するために、攪拌機を用いて攪拌されることが好ましい。
本発明のジヒドロキシ化合物(A)を液化する温度、あるいは溶融状態を維持する温度は、(該ジヒドロキシ化合物の融点+50℃)以下が好ましい。さらに好ましくは(該ジヒドロキシ化合物の融点+40℃)以下、特に好ましくは(該ジヒドロキシ化合物の融点+30℃)以下である。すなわち、溶解槽の内温と加熱媒体温度との差は、50℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは40℃以下、特に好ましくは30℃以下である。本発明のジヒドロキシ化合物であるイソソルビドの液化温度は、120℃以下が好ましく、さらには110℃以下が好ましく、特には100℃以下が好ましく、最も好ましくは90℃以下である。すなわち、溶解槽の内温は、120℃以下が好ましく、さらに好ましくは110℃以下、特に好ましくは100℃以下である。
本発明のジヒドロキシ化合物としてイソソルビドを使用する場合、イソソルビドの液化温度は、120℃以下が好ましく、さらには110℃以下が好ましく、特には100℃以下が好ましく、最も好ましくは90℃以下である。すなわち、溶解槽の内温は、120℃以下が好ましく、さらに好ましくは110℃以下、特に好ましくは100℃以下である。
溶解槽の内温が120℃より高いと、ジヒドロキシ化合物(A)自体の着色を招き、さらには反応性が低下するという問題点を生ずるおそれがある。なお、溶解槽の温度の下限は、70℃がよく、75℃が好ましい。70℃より低いと、結晶化して配管などが閉塞する問題点を生じるおそれがある。
又、本発明のジヒドロキシ化合物としてスピログリコールを使用する場合、スピログリコールの液化温度は通常210℃以下であるが、200℃以下であることが好ましい。スピログリコールの融点は約200℃であるが、炭酸ジエステルに固体のスピログリコールを投入して混合することにより200℃以下での溶解が可能となる。すなわち、溶解槽の内温は、200℃以下が好ましく、さらに好ましくは190℃以下、特に好ましくは185℃以下である。
溶解槽の内温が210℃より高いと、スピログリコール自体の開環反応を招き、樹脂が架橋しゲル化するおそれがある。なお、溶解槽の温度の下限は、170℃以上が好ましく、175℃以上が更に好ましい。170℃より低いと、スピログリコールが結晶化して配管などが閉塞するおそれがある
本発明のジヒドロキシ化合物(A)としてイソソルビドやスピログリコール以外のジヒドロキシ化合物を使用する場合は、該ジヒドロキシ化合物の融点や、炭酸ジエステルと混合したときの相分離温度等を考慮して適宜決定する。
さらに、溶解槽の内温と加熱媒体温度との差が50℃より大きいと、熱交換器との接触面において局所的に加熱されて、本発明のジヒドロキシ化合物(A)が劣化しやすくなる問題点を生ずるおそれがある。したがって、溶解槽の内温と加熱媒体温度との差が50℃以下であることが好ましい。なお、溶解槽の内温と加熱媒体温度との差はなくてもよく、この差の下限は、0℃でも構わない。加熱媒体温度が内温よりも低くてもよい。
溶解槽内部のジヒドロキシ化合物の容積に対して、加熱媒体の接触面積が小さいと、伝熱の効率が悪くなるため、熱媒温度を高くする必要がある。その場合、加熱媒体に接触している部分の液が局所過熱を受けて、熱劣化を起こしやすくなる。ジヒドロキシ化合物と加熱媒体との接触面積を広げるために、必要に応じて溶解槽内に内部熱交換器を設けることで、伝熱効率が向上し、より低温・短時間で溶解を完了することができる。
溶解槽内部のジヒドロキシ化合物の容積をV[m3]、ジヒドロキシ化合物と熱交換器との接触面積をS[m2]とした時に、V/Sが0.3以下となるのが好ましく、さらには0.25以下が好ましく、特には0.21以下が好ましい。なお、V/Sの下限は、0.1がよく、0.15が好ましい。0.1未満になると過度な数の内部熱交換器を溶解槽内に設置することになり、必要な容積を確保できなくなるため、現実的ではない。
本発明のジヒドロキシ化合物(A)は直列に連結された2つ以上の前記溶解槽を用いて液化されることが好ましい。1槽目の溶解槽に供給されるジヒドロキシ化合物は通常、室温程度の温度のものが供給されるために、溶融温度まで昇温するために溶融状態を維持できる温度よりも高い熱媒温度が必要となる。その場合、溶融が完了した部分も高い温度にさらされ続けるために、熱劣化が起きやすくなる。ある程度溶融させた液を2槽目に移送することで、2槽目では大きな熱量を供給する必要がないため、1槽目よりも低温で溶融を完了させることが可能となる。さらに熱劣化を抑制させるためには、下流側の溶解槽の加熱媒体温度を上流側の溶解槽の加熱媒体温度以下に設定することが好ましい。この場合の温度差は特に限定されないが、好ましくは20℃以上、更に好ましくは30℃以上である。
本発明のジヒドロキシ化合物(A)は酸化劣化を受けやすいために、原料調製工程や重縮合工程の装置内は窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気に保たれることが好ましい。通常、工業的に用いられるのは窒素である。固体の化合物を装置内に投入する場合、空気が固体に巻き込まれて混入するおそれがあるため、固体のジヒドロキシ化合物を溶解槽に投入する前に、ジヒドロキシ化合物を受け入れた容器内を減圧や加圧して、不活性ガスに置換する方法や、溶解槽に不活性ガスを吹き込む方法を用いることで、空気の混入を防ぐことができる。上記のような方法により、溶解槽内部の酸素濃度が1000体積ppm以下に保たれることが好ましく、更に500体積ppm以下が好ましい。
さらに、前記した酸化劣化を防ぐため、溶解槽に保有されるジヒドロキシ化合物の液中に、酸素を10体積ppm以下含有する不活性ガスを吹き込むことも好ましい。不活性ガスの酸素含有量は好ましくは5体積ppm以下であるが、下限は0体積ppmが好ましい。
本発明では、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有する本発明のジヒドロキシ化合物(A)以外のジヒドロキシ化合物(B)(その他のジヒドロキシ化合物(B)と称する)を原料に用いてもよい。
複数種のジヒドロキシ化合物を混合して溶融させる場合、融点の高いジヒドロキシ化合物に合わせて溶融温度を設定しなければならないため、融点の低いモノマーは必要以上に熱負荷がかかることになる。上記の問題から、本発明のジヒドロキシ化合物(A)は、その他のジヒドロキシ化合物(B)とは別の溶解槽で液化されることが好ましい。
本発明のジヒドロキシ化合物(A)と同様、その他のジヒドロキシ化合物(B)も原料調製工程において、極力、熱劣化を抑制することが好ましい。
その他のジヒドロキシ化合物(B)の融点が炭酸ジエステルの融点よりも高い場合は、炭酸ジエステルをあらかじめ溶融させた液に、固体の該ジヒドロキシ化合物を供給することで、該ジヒドロキシ化合物の融点以下の温度で液化することが可能となり、原料に与えられる熱負荷を低減することができる。液化温度、あるいは液化状態を維持する温度は、ジヒドロキシ化合物の融点と炭酸ジエステルの間の温度に設定されるのが好ましい。
前述のとおり、溶融重縮合によるポリカーボネート樹脂の製造には、一般に、反応に用いるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは事前に所定のモル比となるように混合し、その原料調製液を溶融状態で貯蔵する方法が用いられる。しかし、本発明のジヒドロキシ化合物(A)は親水性が高いため、炭酸ジエステルや極性の低いジヒドロキシ化合物と混合すると、溶液が相分離を起こす場合がある。イソソルビドは融点が約60℃であるが、ジフェニルカーボネートと混合すると、約120℃に相分離温度が現れる。このような状況になると、均一にするには相分離温度以上の温度まで上げる必要があり、必要以上の熱負荷がかかってしまうことになる。原料溶融液が相分離した状態では、反応器に原料を供給する際に不均一な組成の液が送られて、所望の分子量まで反応が進行しなくなるおそれがある。
上記の観点から、本発明では、本発明のジヒドロキシ化合物(A)とその他のジヒドロキシ化合物(B)は別々に反応器に供給させるか、反応器の直前に配管内で混合して反応器に供給されることが好ましい。それぞれ個別に定量ポンプにより反応器に供給することで、原料を混合するための槽を設ける必要がなく、余分な滞留時間を削減することができる。反応器に配管を複数つなげると、反応器の圧力の制御が難しくなるため、反応に用いられる全てのジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとが、反応器に供給される前に配管内でスタティックミキサーにより混合されることが特に好ましい。前述のとおり、原料調製液が相分離を起こす可能性がある場合は、原料を混合する際にスタティックミキサーを使用して、液を均一に分散させることが好ましい。このようにして、原料を反応器に供給する前に、原料液を均一に分散させることが好ましい。
原料を溶融させる際に酸化防止剤を添加してもよい。通常知られるヒンダードフェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤を添加することで、原料調製工程での原料の保存安定性の向上や、重縮合中での着色を抑制することにより、得られる樹脂の色相を改善することができる。
原料由来の異物の製品への混入を防ぐため、溶融した原料はフィルターで濾過してから反応器に供給されることが好ましい。反応に用いられるすべてのジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを、反応器に投入される前にフィルターで濾過することがより好ましく、反応器に供給させる前にすべての原料が混合された後にフィルターで濾過すると、設備を簡略化できるため、更に好ましい。すなわち、複数の原料を使用するため、各原料のライン一つ一つにフィルターを設置するのではなく、すべての原料を混合してから一つのフィルターに通すことが可能となる。このため、フィルターの個数が一つで済み、また、フィルターを使用する場合、圧力上昇などを監視する必要があるが、一つのフィルターを監視すればよく、運転管理も容易となる。また、本発明の製造法においては、重縮合反応の途中の反応液をフィルターで濾過することもできる。
その際のフィルターの形状としては、バスケットタイプ、ディスクタイプ、リーフディスクタイプ、チューブタイプ、フラット型円筒タイプ、プリーツ型円筒タイプ等のいずれの型式であってもよいが、中でもコンパクトで濾過面積が大きく取れるプリーツタイプのものが好ましい。また、該フィルターを構成する濾材としては、金属ワインド、積層金属メッシュ、金属不織布、多孔質金属板等のいずれでもよいが、濾過精度の観点から積層金属メッシュまたは金属不織布が好ましく、中でも金属不織布を焼結して固定したタイプのものが好ましい。
該フィルターの材質についての制限は特になく、金属製、樹脂製セラミック製等を使用することができるが、耐熱性や着色低減の観点からは、鉄含有量80%以下である金属製フィルターが好ましく、中でもSUS304、SUS316、SUS316L、SUS310S等のステンレス鋼製が好ましい。
原料モノマーの濾過の際には、濾過性能を確保しながらフィルターの寿命を延ばすために、複数のフィルターユニットを用いることが好ましく、中でも上流側のユニット中のフィルターの目開きをCμm、下流側のユニット中のフィルターの目開きをDμmとした場合に、少なくとも1つの組み合わせにおいて、CはDより大きい(C>D)ことが好ましい。この条件を満たした場合は、フィルターがより閉塞しにくくなり、フィルターの交換頻度の低減を図ることができる。
フィルターの目開きは特に制限はないが、少なくとも1つのフィルターにおいては、99.9%の濾過精度として10μm以下であることが好ましく、フィルターが複数配置されている場合には、最上流側において好ましくは8μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、その最下流側において好ましくは2μm以下、更に好ましくは1μm以下である。
尚、ここで言うフィルターの目開きも、上述した、ISO16889に準拠して決定されるものである。
本発明において、原料をフィルターに通過させる際の原料流体の温度に制限はないが、低すぎると原料が固化し、高すぎると熱分解等の不具合があるため、好ましくは100℃〜200℃、さらに好ましくは100℃〜150℃である。
重縮合触媒は好まざる副反応を抑制するために、反応器に投入される直前に原料に供給されるのがよい。使用する重縮合触媒は、通常、予め水溶液として準備される。触媒水溶液の濃度は特に限定されず、触媒の水に対する溶解度に応じて任意の濃度に調整される。また、水に代えて、アセトン、アルコール、トルエン、フェノール等の他の溶媒を選択することもできる。なお、重縮合触媒の具体例については、後記する。触媒の溶解に使用する水の性状は、含有される不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水や脱イオン水等が好ましく用いられる。
又、複数種のジヒドロキシ化合物を用いて、共重合ポリカーボネート樹脂を製造する場合、各ジヒドロキシ化合物の組成比を変更することで、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性や機械物性、光学特性などを調節することが可能であるため、使用用途に応じて、異なる組成のポリカーボネート樹脂を作り分ける必要が生じる可能性がある。
複数種のジヒドロキシ化合物を用いて、重縮合反応を連続的に行い、ポリカーボネート樹脂を製造する場合、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを混合して、原料混合液を調製すると、ジヒドロキシ化合物の組成比が異なるポリカーボネート樹脂の製造に移行する場合に、原料調製槽の組成が切り替わるまでに時間がかかるため、得られるポリカーボネート樹脂の組成が完全に切り替わるまでに時間を要する。これに対して、ジヒドロキシ化合物を別々に溶解して反応器に供給する方法では、個別に設けた定量ポンプの流量を変更することで、反応器に供給されるジヒドロキシ化合物の組成を瞬時に切り替えるため、製品が切り替わるまでの時間を大幅に短縮することが可能となり、原料のロスや移行期間の短縮でき、製品の歩留まりや生産性を向上することが可能となる。
すなわち、本発明のジヒドロキシ化合物(A)と、その他のジヒドロキシ化合物(B)とを原料に用いて連続的に重縮合を行い、ポリカーボネート樹脂を製造する場合、これらの複数のジヒドロキシ化合物を別々に溶解して、個別に設けた定量ポンプを用いて反応器に供給することにより、反応器に供給される原料組成のうち、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物の全ジヒドロキシ化合物に対する重量分率を、異なる重量分率に変更する組成切り替え工程を有することができる。このため、個別に設けた定量ポンプを用いて反応器に供給すると、個別に設けた定量ポンプの流量を変更することにより、短時間で得られるポリカーボネート樹脂の組成を切り替えることができ、製品のロスを最小に抑えることができる。
本発明において組成を切り替えるとは、反応器に供給される原料組成のうち、いずれか1種のジヒドロキシ化合物の全ジヒドロキシ化合物に対する重量分率を、異なる重量分率に変更する工程を行い、上記組成切り替え工程前後における重量分率の差が、1wt%以上となることをいう。重量分率の差が1wt%より小さい場合は、原料仕込み比の精度の問題から十分に変動する範囲であるため、本発明においては組成切り替えとは見なさない。重量分率を2wt%以上変更する場合は上記切り替え方法が特に有効である。
<ポリカーボネート樹脂製造工程の概要>
本発明の方法においては、少なくとも2器の反応器を用いる2段階以上の多段工程で、上記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、通常、重縮合触媒の存在下で反応させる(溶融重縮合)ことによりポリカーボネート樹脂が製造される。
なお、以下において、複数器の反応器を用いる場合において、1器目の反応器を第1反応器、2器目の反応器を第2反応器、3器目の反応器を第3反応器、……と称する。
重縮合工程は前段反応と後段反応の2段階に分けられる。前段反応は通常130〜270℃、好ましくは150〜230℃の温度で0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間実施され、副生するモノヒドロキシ化合物を留出させ、オリゴマーを生成させる。後段反応は、反応系の圧力を前段反応から徐々に下げ、反応温度も徐々に上げていき、同時に発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力が2kPa以下で、通常200〜280℃、好ましくは210〜260℃の温度範囲のもとで重縮合反応を行い、ポリカーボネート樹脂を生成させる。なお、本明細書における圧力とは、真空を基準に表した、いわゆる絶対圧力を指す。
この重縮合工程で用いる反応器は、上記のとおり、少なくとも2器が連結されたものであり、第1反応器の出口から出た反応物は第2反応器に入るものが用いられる。連結する反応器の数は特に限定されないが、2器〜7器が好ましく、3〜5器がより好ましく、3〜4器が更に好ましい。反応器の種類も特に限定されないが、前段反応の反応器は竪型攪拌反応器が1器以上、後段反応の反応器は横型攪拌反応器が1器以上であることが好ましい。本発明の方法においては、最終段の横型攪拌反応器の反応条件が、得られる樹脂の品質だけでなく、製造の歩留りや樹脂中の異物量など様々な観点から重要な影響を与え得る。
反応器を複数設置する場合は、反応器毎に段階的に温度を上昇させ、段階的に圧力を減少させた設定とすることが好ましい。
前記の反応器と次の反応器との連結は、直接でも、必要に応じて、予熱器等を介して行ってもよい。配管は二重管式等で反応液を冷却固化させることなく移送ができ、ポリマー側に気相がなく、かつデッドスペースを生じないものが好ましい。
前記のそれぞれの反応器を加熱する加熱媒体の上限温度は、通常300℃、好ましくは270℃、中でも260℃が好適である。加熱媒体の温度が高すぎると、反応器壁面での熱劣化が促進され、異種構造や分解生成物の増加、色調の悪化等の不具合を招くことがある。下限温度は、上記反応温度が維持可能な温度であれば特に制限されない。
本発明で使用する反応器は公知のいかなるものでもよい。例えば、熱油あるいはスチームを加熱媒体とした、ジャケット形式の反応器あるいは内部にコイル状の伝熱管を有する反応器等が挙げられる。
次に、本発明の方法について、さらに具体的に説明する。本発明の方法は、原料モノマーとして、イソソルビド(ISB)等の式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、ジフェニルカーボネート(DPC)等の炭酸ジエステルをそれぞれ溶融状態にて、原料混合溶融液を調製し(原料調製工程)、これらの化合物を、重縮合触媒の存在下、溶融状態で複数の反応器を用いて多段階で重縮合反応をさせる(重縮合工程)ことによって行われる。DPCを用いた場合、モノヒドロキシ化合物としてフェノールが副生するため、減圧下で反応を行い、このフェノールを反応系から除去することにより、反応を進行させ、ポリカーボネート樹脂を生成させる。
反応方式は、バッチ式、連続式、又はバッチ式と連続式の組合せのいずれでもよいが、生産性と得られる製品の品質の観点から連続式が好ましい。本発明の方法では、反応器は、複数器の竪型攪拌反応器、およびこれに続く少なくとも1器の横型攪拌反応器が用いられる。通常、これらの反応器は直列に設置され、連続的に処理が行われる。
重縮合工程後、樹脂中の未反応原料や反応副生物であるモノヒドロキシ化合物を脱揮除去する工程や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程、溶融状態の樹脂をフィルターにより濾過して異物を除去する工程、溶融状態の樹脂をストランド状に抜き出して、所定の粒径のペレットに形成する工程等を適宜追加してもよい。
発生したフェノール等のモノヒドロキシ化合物は、タンクに収集しておき、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行って回収した後、DPCやビスフェノールA等の原料として再利用することが好ましい。本発明の製造方法において、副生モノヒドロキシ化合物の精製方法に特に制限はないが、蒸留法を用いることが好ましい。
次に、製造方法の各工程について説明する。
<前段反応工程>
先ず、上記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの混合物を、溶融下に、竪型反応器に供給して、通常、温度130℃〜270℃で重縮合反応を行う。
この反応は、通常1槽以上、好ましくは2槽〜6槽の多槽方式で連続的に行われ、副生するモノヒドロキシ化合物の40%から95%を留出させることが好ましい。反応温度は、通常130℃〜270℃、好ましくは150℃〜240℃であり、圧力は40kPa〜1kPaである。多槽方式の連続反応の場合、各槽の温度を、上記範囲内で順次上げ、各槽の圧力を、上記範囲内で順次下げることが好ましい。平均滞留時間は、通常0.1〜10時間、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは0.5〜3時間である。
温度が高すぎると熱劣化が促進され、異種構造や着色成分の生成が増加し、樹脂の品質の悪化を招くことがある。一方、温度が低すぎると反応速度が低下するために生産性が低下するおそれがある。
溶融重縮合反応は平衡反応であるため、副生するモノヒドロキシ化合物を反応系外に除去することで反応が促進されるため、減圧状態にすることが好ましい。圧力は1kPa以上40kPa以下であることが好ましく、より好ましくは5kPa以上、30kPa以下である。圧力が高すぎるとモノヒドロキシ化合物が留出しないために反応性が低下し、低すぎると未反応のジヒドロキシ化合物や炭酸ジエステルなどの原料が留出するため、原料モル比がずれて所望の分子量まで到達しないなど、反応の制御が難しくなり、また、原料原単位が悪化してしまうおそれがある。
<後段反応工程>
次に、前段の重縮合工程で得られたオリゴマーを横型攪拌反応器に供給して、温度200℃〜280℃で重縮合反応を行い、ポリカーボネート樹脂を得る。この反応は通常1器以上、好ましくは1〜3器の横型攪拌反応器で連続的に行われる。
反応温度は、好ましくは210〜270℃、より好ましくは220〜260℃である。圧力は、通常13.3kPa〜10Pa、好ましくは1kPa〜50Paである。平均滞留時間は、通常0.1〜10時間、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは0.5〜2時間である。
<反応器>
重縮合工程を多槽方式で行う場合は、通常、竪型攪拌反応器を含む複数器の反応器を設けて、ポリカーボネート樹脂の平均分子量(還元粘度)を増大させる。
ここで、反応器としては、竪型攪拌反応器や横型撹拌反応器があげられ、具体例としては、攪拌槽型反応器、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重縮合する多孔板型反応器、ワイヤーに沿わせて落下させながら重縮合するワイヤー付き多孔板型反応器等が挙げられる。
前記の竪型攪拌反応器とは、垂直回転軸と、この垂直回転軸に取り付けられた攪拌翼とを具備しており、攪拌翼の形式としては、例えば、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、アンカー翼、フルゾーン翼(神鋼パンテック(株)製)、サンメラー翼(三菱重工業(株)製)、マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)、ヘリカルリボン翼、ねじり格子翼((株)日立製作所製)等が挙げられる。
また、前記の横型攪拌反応器とは、攪拌翼の回転軸が横型(水平方向)で、この水平回転軸にほぼ直角に取り付けられた相互に不連続な攪拌翼を有するものであり、攪拌翼の形式としては、例えば、円板型、パドル型等の一軸タイプの攪拌翼やHVR、SCR、N−SCR(三菱重工業(株)製)、バイボラック(住友重機械工業(株)製)、あるいはメガネ翼、格子翼((株)日立製作所製)等の二軸タイプの攪拌翼が挙げられる。また、横型反応器の水平回転軸の長さをLとし、攪拌翼の回転直径をDとしたときにL/Dが1〜15、好ましくは2〜10である。
本発明における反応装置においては、ポリカーボネート樹脂の色調の観点から、反応装置を構成する機器、配管などの構成部品の原料モノマーまたは重縮合液に接する部分(以下「接液部」と称する)の表面材料は、接液部の全表面積の少なくとも90%以上を占める割合で、ニッケル含有量10重量%以上のステンレス、ガラス、ニッケル、タンタル、クロム、テフロン(登録商標)のうち1種または2種以上から構成されていることが好ましい。本発明においては、接液部の表面材料が上記物質から構成されていればよく、上記物質と他の物質とからなる張り合わせ材料、あるいは上記物質を他の物質にメッキした材料などを表面材料として用いることができる。
<重縮合反応以降の工程>
本発明のポリカーボネート樹脂は、上述の重縮合反応を行った後、溶融状態のまま、フィルターに通して異物を濾過する。中でも樹脂中に含まれる低分子量成分の除去や、熱安定剤等の添加混練を実施するため、重縮合で得られた樹脂を押出機に導入し、次いで押出機から排出された樹脂を、フィルターを用いて濾過することが好ましい。
本発明の方法において、フィルターを用いてポリカーボネート樹脂を濾過する方法は、濾過に必要な圧力を発生させるために、最終重縮合反応器からギヤポンプやスクリュー等を用いて溶融状態で抜き出し、フィルターで濾過する方法、最終重縮合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出した後、フィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させて、回転式カッター等でペレット化する方法、又は、最終重縮合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、一旦ストランドの形態で冷却固化させてペレット化し、該ペレットを再度押出機に導入してフィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させて、ペレット化する方法、最終重縮合反応器から溶融状態で抜き出し、押出機を通さずにストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、一軸または二軸の押出機にペレットを供給し、溶融押出しした後、フィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。中でも熱履歴を最小限に抑え、色相の悪化や分子量の低下等、熱劣化を抑制するためには、最終重縮合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、直接フィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させて、回転式カッター等でペレット化する方法が好ましい。
本発明において押出機の形態は限定されるものではないが、通常一軸または二軸の押出機が用いられる。中でも後述の脱揮性能の向上や添加剤の均一な混練のためには二軸の押出機が好ましい。この場合、軸の回転方向は異方向であっても同方向であってもよいが、混練性能の観点からは同方向が好ましい。押出機の使用によりフィルターへのポリカーボネート樹脂の供給を安定させることができる。
また、上記の通り重縮合させて得られたポリカーボネート樹脂中には、通常、色相や熱安定性、さらにはブリードアウト等により製品に悪影響を与える可能性のある原料モノマー、重縮合反応で副生するモノヒドロキシ化合物、ポリカーボネートオリゴマー等の低分子量化合物が残存しているが、ベント口を有する押出機を用い、好ましくはベント口から真空ポンプ等を用いて減圧にすることにより、これらを脱揮除去することも可能である。また、押出機内に水等の揮発性液体を導入して、脱揮を促進することもできる。ベント口は1つであっても複数であってもよいが、好ましくは2つ以上である。
さらに、押出機中で通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することも出来る。
本発明において、ポリカーボネート樹脂が直接外気と触れるストランド化、ペレット化の際には、外気からの異物混入を防止するために、好ましくはJIS B9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが望ましい。
フィルターで濾過されたポリカーボネート樹脂は、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化されるが、そのペレット化の際、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、へパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの目開きは、99.9%除去の濾過精度として10〜0.45μmであることが好ましい。
<製造装置の一例>
次に図1を用いて、本実施の形態が適用される本発明の方法の一例を具体的に説明する。以下に説明する製造装置や原料、触媒は本発明の実施態様の一例であり、本発明は以下に説明する例に限定されるものではない。
図1と図2は、本発明の方法で用いる製造装置の一例を示す図である。図1はジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを溶融させ、重縮合触媒と混合して反応器に送る原料調製工程を示す。図2はこれらの原料を溶融状態で複数の反応器を用いて重縮合反応させる重縮合工程を示す。
以下は、原料のジヒドロキシ化合物としてISBと1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)と、原料の炭酸ジエステルとしてDPCをそれぞれ用いた場合を例示して説明する。
ISBはフレコン1aからホッパー1bへ投入され、圧密により塊が生じている場合は解砕機1cにより、最大径が2cm以下の大きさに粉砕される。続いて、ISBは溶解槽1dに供給され、溶融される。槽底部から排出されたISBは続いて溶解槽1gに供給される。溶解槽1dと溶解槽1gのISBの供給量と排出量、および各溶解槽の液面は一定に保持される。溶解槽1gの槽底部からISB定量供給ポンプ2dにより、排出されたISBは、別途溶融させたCHDMとDPCと配管中で混合され、スタティックミキサー5aと原料フィルター5bを通って反応器に供給される。
溶解槽1dは、供給熱量が特に大きくなることがあるため、熱媒温度が過剰に高温にならないように、内部熱交換器1eが設けられる。また、溶解槽1dには、撹拌をより効率的に行うため、上部パドル下部アンカー型攪拌翼1fが用いられる。
CHDMはドラム缶2aを加熱し、粘度を低下させてから、CHDM供給ポンプ2bにより、CHDM溶解槽2cに移送される。槽底部からCHDM定量供給ポンプ2dにより連続的に、別途溶融させたISBとDPCと配管中で混合され、スタティックミキサー5aと原料フィルター5bを通って反応器に供給される。
DPCは、DPC供給ライン3aからDPC定量供給ポンプ3bにより、連続的に、別途溶融させたISBとCHDMと配管中で混合され、スタティックミキサー5aと原料フィルター5bを通って反応器に供給される。
原料調製液はスタティックミキサー5aと原料フィルター5bを通して反応器に供給され、反応器の前で水溶液とした重合触媒を触媒タンク4aから触媒供給ポンプ4bにより供給され、混合される。
図2の製造装置の重縮合工程においては、第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6dが直列に設けられる。各反応器では液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われ、第1竪型攪拌反応器6aの槽底より排出された重縮合反応液は第2竪型攪拌反応器6bへ、続いて、第3竪型攪拌反応器6cへ、第4横型攪拌反応器6dへと順次連続供給され、重縮合反応が進行する。各反応器における反応条件は、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低攪拌速度となるようにそれぞれ設定することが好ましい。
第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b及び第3竪型攪拌反応器6cには、マックスブレンド翼7a、7b、7cがそれぞれ設けられる。また、第4横型攪拌反応器6dには、2軸メガネ型攪拌翼7dが設けられる。第3竪型攪拌反応器6cと第4横型攪拌反応器6dの後には移送する反応液が高粘度になるため、ギヤポンプ9aと9bが設けられる。
第1竪型攪拌反応器6aと第2竪型攪拌反応器6bは、供給熱量が特に大きくなることがあるため、熱媒温度が過剰に高温にならないように、それぞれ内部熱交換器8a、8bが設けられる。
なお、これらの4器の反応器には、それぞれ、重縮合反応により生成する副生物等を排出するための留出管12a、12b、12c、12dが取り付けられる。第1竪型攪拌反応器6aと第2竪型攪拌反応器6bについては留出液の一部を反応系に戻すために、還流冷却器10a、10bと還流管11a、11bがそれぞれ設けられる。還流比は反応器の圧力と、還流冷却器の熱媒温度とをそれぞれ適宜調整することにより制御可能である。
留出管12a、12b、12c、12dは、それぞれ凝縮器13a、13b、13c、13dに接続し、また、各反応器は、減圧装置14a、14b、14c、14dにより、所定の減圧状態に保たれる。
各反応器にそれぞれ取り付けられた凝縮器13a、13b、13c、13dから、フェノール(モノヒドロキシ化合物)等の副生物が連続的に留出液回収タンク15aに送られ、液化回収される。また、第3竪型攪拌反応器6cと第4横型竪型攪拌反応器6dにそれぞれ取り付けられた凝縮器13c、13dの下流側にはコールドトラップ(図示せず)が設けられ、副生物が連続的に固化回収される。
所定の分子量まで上昇させた反応液は第4横型攪拌反応器6dから抜き出され、ギヤポンプ9bにより移送され、ペレット化されて製品となる。ペレット化の前に、押出機やポリマーフィルターを設けてもよい。押出機に移送される。押出機には真空ベントを設けることで、ポリカーボネート樹脂中の残存低分子成分が除去され、また、必要に応じて酸化防止剤や光安定剤や着色剤、離型剤などが添加される。ポリカーボネート樹脂を溶融状態のまま、ポリマーフィルターを通すことで、異物が濾過される。溶融樹脂はダイスヘッドからストランド状に抜き出され、水により樹脂を冷却した後、ストランドカッターでペレットにされる。この場合、反応液を固化させることなく、押出機やポリマーフィルターで処理することにより、ポリカーボネート樹脂に与えられる熱履歴を最小限に抑えることができる。
<連続製造装置における溶融重縮合の開始>
本実施の形態では、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの重縮合反応に基づく重縮合は、以下の手順に従い開始される。
先ず、図2に示す連続製造装置において、直列に接続された4器の反応器(第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6d)を、予め、所定の内温と圧力とにそれぞれ設定する。ここで、各反応器の内温、熱媒温度と圧力とは、特に限定されないが、以下のように設定することが好ましい。
(第1竪型攪拌反応器6a)
内温:130℃〜240℃、圧力:40kPa〜10kPa、加熱媒体の温度130℃〜260℃、還流比0.01〜10
(第2竪型攪拌反応器6b)
内温:150℃〜250℃、圧力:40kPa〜8kPa、加熱媒体の温度150℃〜260℃、還流比0.01〜5
(第3竪型攪拌反応器6c)
内温:170℃〜260℃、圧力:10kPa〜1kPa、加熱媒体の温度170℃〜260℃
(第4横型攪拌反応器6d)
内温:210℃〜260℃、圧力:1kPa〜10Pa、加熱媒体の温度210〜260℃
次に、図1の原料調製工程において、前述した工程により、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの溶融液を調製する。前述した4器の反応器の内温と圧力が、それぞれの設定値の±5%の範囲内に達した後に、前記ジヒドロキシ化合物と前記炭酸ジエステルが所定のモル比になるように、各定量供給ポンプの流量を調節し、一定流量で連続的に反応器に供給される。原料混合溶融液の供給開始と同時に、触媒定量供給ポンプ4bから触媒を連続供給し、重縮合反応を開始する。
重縮合反応が行われる第1竪型攪拌反応器6aでは、重縮合反応液の液面レベルは、所定の平均滞留時間になるように一定に保たれる。第1竪型攪拌反応器6a内の液面レベルを一定に保つ方法としては、通常、液面計等で液レベルを検知しながら槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御する方法が挙げられる。
続いて、重縮合反応液は、第1竪型攪拌反応器6aの槽底から排出され、第2竪型攪拌反応器6bへ、続いて第2竪型攪拌反応器6bの槽底から排出され、第3竪型攪拌反応器6cへ逐次連続供給される。この前段反応工程において、副生するフェノールの理論量に対して50%から95%が留出され、オリゴマーが生成する。
次に、上記前段反応工程で得られたオリゴマーをギヤポンプ9aにより移送し、水平回転軸と、この水平回転軸にほぼ直角に取り付けられた相互に不連続な攪拌翼とを有し、かつ水平回転軸の長さをLとし、攪拌翼の回転直径をDとしたときにL/Dが1〜15である横型攪拌反応器6dに供給して、後述するような後段反応を行なうのに適した温度・圧力条件下で、副生するフェノールおよび一部未反応モノマーを、留出管12dを介して系外に除去してポリカーボネート樹脂を生成させる。
この横型攪拌反応器6dは、1本または2本以上の水平な回転軸を有し、この水平回転軸に円板型、車輪型、櫂型、棒型、窓枠型などの攪拌翼を1種または2種以上組合せて、回転軸当たり少なくとも2段以上設置されており、この攪拌翼により反応液をかき上げ、または押し広げて反応液の表面更新を行なう横型高粘度液処理装置である。
なお、本明細書中、上記「反応液の表面更新」という語は、液表面の反応液が液表面下部の反応液と入れ替わることを意味する。
このように本発明で用いられる横型攪拌反応器は、水平軸と、この水平軸にほぼ直角に取り付けられた相互に不連続な攪拌翼とを有する装置であり、押出機と異なりスクリュー部分を有していない。本発明の方法においては、このような横型攪拌反応器を少なくとも1器用いることが好ましい。
上記後段反応工程における反応温度は、通常200〜280℃、好ましくは210〜260℃の範囲であり、反応圧力は、通常13.3kPa〜10Pa、好ましくは2kPa〜20Pa、より好ましくは1kPa〜50Paである。
本発明の方法において、横型攪拌反応器6dを、装置構造上、2軸ベント式押出機と比較してホールドアップが大きいものを用いることにより、反応液の滞留時間を適切に設定でき、かつ剪断発熱を抑制されることによって温度を下げることができ、より色調の改良された、機械的性質の優れたポリカーボネート樹脂を得ることが可能となる。
このように、本実施の形態では、図2に示す連続製造装置において、4器の反応器の内温と圧力が所定の数値に達した後に、原料混合溶融液と触媒とが予熱器を介して連続供給され、重縮合反応に基づく溶融重縮合が開始される。
このため、各反応器における重縮合反応液の平均滞留時間は、溶融重縮合の開始直後から定常運転時と同等となる。その結果、重縮合反応液は必要以上の熱履歴を受けることがなく、得られるポリカーボネート樹脂中に生じるゲルまたはヤケ等の異物が低減する。また色調も良好となる。
このようにして得られた本発明のポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、通常0.20dL/g以上であり、0.30dL/g以上であることが好ましく、一方、通常1.20dL/g以下であり、1.00dL/g以下であることが好ましく、0.80dL/g以下であることがより好ましい。ポリカーボネート樹脂の還元粘度が低すぎると成形品の機械強度が小さくなる可能性があり、大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性を低下する傾向がある。尚、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート樹脂濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度計を用いて測定する。
本発明のポリカーボネート樹脂は、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の通常知られている方法で成形物にすることができる。ポリカーボネート樹脂の成形方法は特に限定されないが、成形品形状に合わせて適切な成形法が選択される。成形品がフィルムやシートの形状である場合は押出成形法が好ましく、射出成形法では成形品の自由度が得られる。
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、種々の成形を行う前に、必要に応じて、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等の添加剤を、タンブラー、スーパーミキサー、フローター、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、押出機などで混合することもできる。
また、本発明のポリカーボネート樹脂は例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、アモルファスポリオレフィン樹脂、ABSやASなどの合成樹脂、ポリ乳酸やポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂、ゴムなどの1種又は2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
以下において、反応液と留出液、およびポリカーボネート樹脂の組成分析と物性の評価は次の方法により行った。
以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。
・ISB:イソソルビド (ロケットフルーレ社製、商品名:POLYSORB PS)
・CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール(新日本理化(株)製、商品名:SKY CHDM)
・SPG:スピログリコール (三菱ガス化学(株)製)
・DPC:ジフェニルカーボネート(三菱化学(株)製)
1)ISB中の蟻酸含有量
10mLメスフラスコに試料約4gを精秤し、脱塩水を加えて溶解した。液体クロマトグラフィーにて所定のピークの面積値から絶対検量線法により蟻酸の定量を行った後、含有量を算出した。
用いた装置や条件は、次のとおりである。
・装置:島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:Cadenza CD−18 4.6mmΦ×250mm
オーブン温度:40℃
・検出波長:220nm
・溶離液:0.1%リン酸水溶液
・流量:1mL/min
・試料注入量:20μL
2)ISB中のフルフラール含有量
10mLメスフラスコに試料約4gを精秤し、脱塩水を加えて溶解した。液体クロマトグラフィーにて所定のピークの面積値から絶対検量線法によりフルフラールの定量を行った後、含有量を算出した。
用いた装置や条件は、次のとおりである。
・装置:島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:Cadenza CD−18 4.6mmΦ×250mm
オーブン温度:40℃
・検出波長:273nm
・溶離液:脱塩水/アセトニトリル/リン酸=70/30/0.1
・流量:1mL/min
・試料注入量:10μL
3)ISBのpH
ビーカーに試料を15g計量し、脱塩水50gを加えて溶解した。あらかじめpH4、pH7、pH9の標準溶液により校正されたガラス電極GTPH1B(三菱化学アナリテック(株)製)を溶液に浸けて、pHを測定した。
4)ISBの色調(溶液YI)
ビーカーに試料20gを計量し、脱塩水20gを加えて溶解した。光路長2cmのガラスセルに入れて、分光測色計CM−5(コニカミノルタ(株)製)により透過モードで測定を行い、溶液のイエローインデックス(YI)値を測定した。YI値が小さい程、黄色味が少ないことを示す。
5)原料混合液の色調(溶液YI)
ビーカーに試料20gを計量し、アセトン20を加えて溶解した。光路長2cmのガラスセルに入れて、分光測色計CM−5(コニカミノルタ(株)製)により透過モードで測定を行い、溶液のイエローインデックス(YI)値を測定した。YI値が小さい程、黄色味が少ないことを示す。
6)還元粘度
溶媒として塩化メチレンを用い、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート樹脂溶液を調製した。森友理化工業(株)製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間t0と溶液の通過時間tから次式より相対粘度ηrelを求め、
ηrel=t/t0
相対粘度から次式より比粘度ηspを求めた。
ηsp=(η−η0)/η0=ηrel−1
比粘度を濃度c(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
7)ポリカーボネート樹脂のペレットYI値
ポリカーボネート樹脂の色相は、ASTM D1925に準拠して、ペレットの反射光におけるYI値(イエローインデックス値)を測定して評価した。装置はコニカミノルタ(株)製分光測色計CM−5を用い、測定条件は測定径30mm、SCEを選択した。シャーレ測定用校正ガラスCM−A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM−A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。白色校正板CM−A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が−0.43±0.01、YIが−0.58±0.01となることを確認した。ペレットの測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さまで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。YI値が小さいほど樹脂の黄色味が少なく、色調に優れることを意味する。
なお、実施例で使用したISBの溶解前の各種分析値を表1に示す。
[実施例1]
前述した図1に示した原料調製工程により、ISBとCHDMとDPCの混合溶液を調製した。
フレコンに包装されたISBをホッパー1bから投入した。解砕機1cを使用して圧密により生成した塊を最大径が2cm以下の大きさに砕き、攪拌翼1fと加熱媒体が流通する熱交換器1eを具備する溶解槽1d(第一溶解槽)に移送した。解砕機1cと、解砕機1cから溶解槽1dを繋ぐ配管内には窒素を流通させた。溶解槽1dは内温が80℃となるように熱媒温度を調整し、槽底部の排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御しつつ液量を調節することにより、滞留時間を1.5時間とした。溶解槽1dの内部には窒素導入管を取り付け(図示せず)、溶解槽1dの液中に、酸素濃度が5体積ppm以下である窒素を吹き込んでバブリングさせた。溶解槽1内部の酸素濃度は定常状態で500体積ppm未満であった。溶解槽1dの底部から排出されたISBは溶解槽1g(第二溶解槽)に供給された。溶解槽1gの内温は70℃、滞留時間は1.5時間に調節した。溶解槽1gの底部から定量供給ポンプ1hにより、溶融したISBを連続的に排出し、別途、溶融させたCHDMとDPCおよび重縮合触媒として酢酸カルシウム1水和物とを一定のモル比(ISB/CHDM/DPC/Ca=0.700/0.300/1.000/1.5×10−6)となるように混合して、反応器に供給した。溶解槽1gから反応器までの移送配管における原料の滞留時間は3分以内であった。従って、ISBとDPCとを混合してから反応器へ供給するまでの時間は3分以内である。
CHDMはドラム缶を加熱し、CHDMの粘度を低下させてから、CHDM供給ポンプ2bにより、CHDM溶解槽2cに受け入れた。溶解槽2cは内温を70℃に保持し、底部からCHDM定量供給ポンプ2dにより連続的に排出し、ISBとDPCに混合した。DPCは蒸留精製(図示せず)により塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたものを使用した。DPC定量供給ポンプ3bにより溶融したDPCを供給した。
原料調製液はスタティックミキサー5aと原料フィルター5bを通して反応器に供給した。反応器の前で重縮合触媒として酢酸カルシウム1水和物を全ジヒドロキシ化合物1molに対して1.5μmolとなるように触媒供給ポンプ4bから供給した。
ISB定量供給ポンプ1hの後に取り付けられたバルブからISB溶融液を、原料フィルター5bの前に取り付けられたバルブから原料調製液をそれぞれサンプリングし、前述の各種分析を行った。
続いて、原料調製液は図2に示した重縮合工程に送られ、竪型攪拌反応器3器及び横型攪拌反応器1器を有する連続製造装置により、以下の条件でポリカーボネート樹脂を製造した。
先ず、各反応器を表2のとおり、予め反応条件に応じた内温・圧力に設定した。
次に原料調製工程にて一定のモル比で混合されたISBとCHDMとDPC、および重縮合触媒とを、前述した所定温度・圧力の±5%の範囲内に制御した第1竪型攪拌反応器6a内に連続供給し、平均滞留時間が80分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。
第1竪型攪拌反応器6aの槽底から排出された重縮合反応液は、引き続き、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6d(2軸メガネ翼、L/D=4)に、逐次、連続供給された。重縮合反応の間、表2に示した平均滞留時間となるように各反応器の液面レベルを制御した。第4横型攪拌反応器6dから抜き出された反応液はギヤポンプ9bにより移送され、ペレット化工程によりストランド状に抜き出され、カッターによりペレット化した(図示せず)。
その後の運転では、第4横型攪拌反応器6dの圧力を調節することにより、第4横型攪拌反応器出口の還元粘度が0.44ηから0.47の範囲となるように合わせ込んだ。24時間運転を行った際の圧力の調整範囲は0.4kPaから0.5kPaであり、ペレットYIは8.5から9.1の範囲で変動した。ほぼ一定の反応条件での運転で、分子量や色調の変動の少ないポリカーボネート樹脂が得られた。
この結果を表3に示した。
[実施例2]
ISBの溶解時に溶解槽1d内の窒素バブリングを停止した以外は実施例1と同様に行った。溶解槽1内部の酸素濃度は定常状態で1500体積ppmであった。実施例1と比較して、サンプリングしたISBの分析値は蟻酸とフルフラールの含有量が増加し、pHの低下や着色の程度も大きくなっており、また、原料調製液の色調も若干悪化していることから、溶解工程中に劣化が進行していることが示唆された。
上記のとおり調製された原料を用いて、重縮合工程は実施例1と同様に実施した。得られたポリカーボネート樹脂は実施例1と比較して若干色調が悪化した。この結果を表3に示した。
[実施例3]
ISBの溶解時に溶解槽1dの1槽のみを用いて溶解させた。溶解槽1dの滞留時間を1.5時間に設定し、未溶解のISBが残らないように溶解槽内温を調節したところ、100℃まで昇温する必要があった。実施例1と比較して、ISB分析値は蟻酸とフルフラールの含有量が増加し、pHの低下や着色の程度も大きくなっており、また、原料調製液の色調も若干悪化していることから、溶解工程中に劣化が進行していることが示唆された。
上記のとおり調製された原料を用いて、重縮合工程は実施例1と同様に実施したところ、得られたポリカーボネート樹脂は実施例1と比較して若干色調が悪化した。この結果を表3に示した。
[比較例1]
溶解槽1fと同様の第一溶解槽(図示せず)に溶融したDPCを仕込み、続いて、CHDMとISBを一定のモル比(ISB/CHDM/DPC=0.700/0.300/1.000)となるように供給した。内温を110℃に設定し、1時間攪拌した。槽底部から第二溶解槽(図示せず)に全量移送し、内温110℃で2時間保持した。槽底部から定量供給ポンプ(図示せず)により原料フィルター5bを通した後、重縮合触媒として酢酸カルシウム1水和物を全ジヒドロキシ化合物1molに対して、1.5μmolとなるように供給した。上記のように調製された原料調製液は重縮合工程に送られ、実施例1と同様にしてポリカーボネート樹脂を製造した。
運転中は第二溶解槽の原料がなくなる前に、新たに第一溶解槽で原料を混合して、第二溶解槽に供給した。第二溶解槽では新たな原料が供給されるまで滞留時間が延び続けることになり、本比較例における第二溶解槽での最長の滞留時間は12時間であった。また、ISBとDPCを混合してから反応器へ供給するまでの時間は720分であった。
上記のようにして得られたポリカーボネート樹脂は実施例1と比較して色調が悪化しただけでなく、分子量を一定範囲に収めるために第4横型反応器6dの圧力を調節したところ、実施例1よりも変動幅が広くなった。さらに、得られたポリカーボネート樹脂の色調の振れ幅も広くなった。この結果を表3に示した。
[比較例2]
溶解槽1dの滞留時間を6時間、溶解槽1gの滞留時間を5時間とした以外は実施例1と同様に行った。実施例1と比較して、ISB分析値は蟻酸とフルフラールの含有量が増加し、pHの低下や着色の程度も大きくなっており、また、原料調製液の色調も若干悪化していることから、溶解工程中に劣化が進行していることが示唆された。
上記のとおり調製された原料を用いて、重縮合工程は実施例1と同様に実施したところ、得られたポリカーボネート樹脂は実施例1と比較して色調が悪化した。この結果を表3に示した。
[実施例4]
前述した図1に示した原料調製工程により、SPGとCHDMとDPCの混合溶液を調製した。溶解槽1dにあらかじめ溶融させたDPCを投入し(溶解槽1dへのDPC供給ラインは図示せず)、内温を180℃に保持させた。内温が170℃より低い場合はSPGがDPCと分離して結晶が析出して溶解が困難であった。フレコンに包装されたSPGをホッパー1bから投入し、ホッパー内を窒素で置換した後、SPGとDPCが所定のモル比となるように計量フィーダーにより計量し(図示せず)、溶解槽1dに投入した。溶解槽1dの内部には窒素導入管を取り付け(図示せず)、溶解槽1dの液中に、酸素濃度が5体積ppm以下である窒素を吹き込んでバブリングさせた。1時間攪拌してSPGをDPCに溶解させた後、槽底部の排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御しつつ液量を調節し、同時に溶融DPCと固体のSPGとを所定流量で連続的に供給することで、滞留時間が1.5時間となるように液面を調節した。溶解槽1dの底部から排出されたSPGとDPCの混合液は溶解槽1g(第二溶解槽)に供給された。溶解槽1gの内温は175℃、滞留時間は1.5時間に調節した。溶解槽1gの底部から定量供給ポンプ1hにより、溶融したSPGとDPCを連続的に排出し、別途、溶融させたCHDMと一定のモル比(SPG/CHDM/DPC=0.700/0.300/1.005)となるように混合して、反応器に供給した。
原料調製液はスタティックミキサー5aと原料フィルター5bを通して反応器に供給した。反応器の前で重縮合触媒として酢酸カルシウム1水和物を全ジヒドロキシ化合物1molに対して30μmolとなるように触媒供給ポンプ4bから供給した。
続いて、原料調製液は図2に示した重縮合工程に送られ、竪型攪拌反応器3器及び横型攪拌反応器1器を有する連続製造装置により、以下の条件でポリカーボネートを製造した。
先ず、各反応器を表4のとおり、予め反応条件に応じた内温・圧力に設定した。次に原料調製工程にて一定のモル比で混合されたSPGとCHDMとDPC、および重縮合触媒とを、前述した所定温度・圧力の±5%の範囲内に制御した第1竪型攪拌反応器6a内に連続供給し、平均滞留時間が80分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。重縮合触媒として酢酸カルシウム1水和物を全ジヒドロキシ化合物1molに対して、30μmolとなるように供給した。
第4横型攪拌反応器6dの圧力を調節することにより、第4横型攪拌反応器出口の還元粘度が0.60から0.63の範囲となるように合わせ込んだ。24時間運転を行った際の圧力の調整範囲は70から0.73の範囲となるように合わせ込んだ。24時間運転を行った際の圧力の調整範囲は0.3kPaから0.4kPaであり、ペレットYIは3から5の範囲で変動した。ほぼ一定の反応条件での運転で、分子量や色調の変動の少ないポリカーボネート樹脂が得られた。
この結果を表5に示した。
[比較例3]
溶解槽1dと溶解槽1gの液量をそれぞれ表5のように設定することにより、溶解槽1dと溶解槽1gの滞留時間をそれぞれ6時間とした以外は、実施例4と同様に行ったが、第4横型反応器にて溶融樹脂が攪拌翼に絡みつき、樹脂の抜き出しが困難となり、ペレット化はできなかった。得られた樹脂は塩化メチレンに不溶であり、還元粘度の測定も不可能であった。溶融状態で長時間保存していたSPGが開環反応を起こしたために、樹脂が架橋し、ゲルとなってしまったことが考えられる。